特許第6203931号(P6203931)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6203931
(24)【登録日】2017年9月8日
(45)【発行日】2017年9月27日
(54)【発明の名称】電気化学素子
(51)【国際特許分類】
   H01G 9/12 20060101AFI20170914BHJP
   H01M 2/12 20060101ALI20170914BHJP
   H01M 2/16 20060101ALI20170914BHJP
   H01G 9/02 20060101ALI20170914BHJP
【FI】
   H01G9/12 A
   H01M2/12 101
   H01M2/16 N
   H01G9/02 301
【請求項の数】5
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2016-238675(P2016-238675)
(22)【出願日】2016年12月8日
(65)【公開番号】特開2017-112370(P2017-112370A)
(43)【公開日】2017年6月22日
【審査請求日】2016年12月12日
(31)【優先権主張番号】特願2015-243653(P2015-243653)
(32)【優先日】2015年12月14日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000003964
【氏名又は名称】日東電工株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000729
【氏名又は名称】特許業務法人 ユニアス国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】福岡 孝博
(72)【発明者】
【氏名】正木 俊輔
(72)【発明者】
【氏名】村岡 拓也
【審査官】 田中 晃洋
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2015/019906(WO,A1)
【文献】 特表2011−512664(JP,A)
【文献】 特開2004−228019(JP,A)
【文献】 国際公開第2014/098038(WO,A1)
【文献】 特開2014−212034(JP,A)
【文献】 特開平11−008169(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01G 9/12
H01G 9/02
H01M 2/12
H01M 2/16
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
水素排出膜を備えており、かつセパレータを介して陽極と陰極が積層された積層体を有する電気化学素子であって、
前記水素排出膜は、金属層を含み、
前記金属層は、Pd合金を含む合金層であり、
前記セパレータは、パルプを含み、石英管燃焼ガス吸収イオンクロマトグラフィ法による全硫黄成分の含有量が400ppm以下であることを特徴とする電気化学素子。
【請求項2】
前記Pd合金は、第11族元素を20〜65mol%含む請求項記載の電気化学素子。
【請求項3】
前記第11族元素は、Au、Ag、及びCuからなる群より選択される少なくとも1種である請求項記載の電気化学素子。
【請求項4】
前記水素排出膜は、金属層の片面又は両面に支持体を有する請求項1〜のいずれかに記載の電気化学素子。
【請求項5】
前記電気化学素子が、アルミ電解コンデンサ又はリチウムイオン電池である請求項1〜のいずれかに記載の電気化学素子。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電池、コンデンサ、及びキャパシタなどの電気化学素子に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、風力発電及び太陽光発電などのインバータ、蓄電池などの大型電源などの用途にアルミ電解コンデンサが使用されている。アルミ電解コンデンサは、逆電圧、過電圧、及び過電流によって内部に水素ガスが発生する場合があり、水素ガスが大量に発生すると内部圧力の上昇によって外装ケースが破裂する恐れがある。
【0003】
そのため、一般のアルミ電解コンデンサには、特殊膜を備えた安全弁が設けられている。安全弁は、コンデンサ内部の水素ガスを外部に排出する機能に加え、コンデンサの内部圧力が急激に上昇した場合には自壊して内部圧力を低下させ、コンデンサ自体の破裂を防止する機能を有するものである。このような安全弁の構成部材である特殊膜としては、例えば、以下のものが提案されている。
【0004】
特許文献1では、パラジュームに20wt%(19.8mol%)Agを含有させたパラジューム銀(Pd−Ag)の合金で構成された箔帯を備えた圧力調整膜が提案されている。
【0005】
しかし、特許文献1の箔帯は、50〜60℃程度以下の環境下で脆化しやすく、圧力調整膜としての機能を長期間維持することができないという問題があり、実用化には至っていない。
【0006】
一方、携帯電話、ノートパソコン、及び自動車等のバッテリーとして、リチウムイオン電池が幅広く使用されている。また近年、リチウムイオン電池は高容量化やサイクル特性向上に加えて、安全性への関心が高まっている。特に、リチウムイオン電池はセル内でガスが発生することが知られており、内圧上昇に伴う電池パックの膨張や破裂が懸念されている。
【0007】
特許文献2には、電池内で発生した水素ガスを選択的に透過する水素選択透過性合金膜として、ジルコニウム(Zr)とニッケル(Ni)の合金からなるアモルファス合金(例えば、36Zr−64Ni合金)膜を用いることが開示されている。
【0008】
しかし、前記アモルファス合金は、低温域(例えば、50℃)で水素に触れると水素化物(ZrH)を形成して脆化するため、圧力調整膜としての機能を長時間維持することができないという問題があった。
【0009】
特許文献3では、上記問題を解決するために、Pd−Ag合金を含む水素排出膜であって、Pd−Ag合金中のAgの含有量が20mol%以上である水素排出膜が提案されている。
【0010】
特許文献4では、上記問題を解決するために、Pd−Cu合金を含む水素排出膜であって、Pd−Cu合金中のCuの含有量が30mol%以上である水素排出膜が提案されている。
【0011】
しかし、特許文献3及び4の水素排出膜は、電気化学素子の使用温度で脆化しにくく、使用初期は十分な水素排出性を有するが、使用環境によっては次第に水素排出性が低下するという問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】特許第4280014号明細書
【特許文献2】特開2003−297325号公報
【特許文献3】国際公開第2014/098038号
【特許文献4】国際公開第2015/019906号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
本発明は、上記問題点に鑑みてなされたものであり、長期間使用した場合でも発生した水素ガスの圧力による破損、及び劣化が少なく、長期間の使用に耐え得る電気化学素子を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明は、水素排出膜を備えており、かつセパレータを介して陽極と陰極が積層された積層体を有する電気化学素子であって、
前記水素排出膜は、金属層を含み、
前記セパレータは、パルプを含み、石英管燃焼ガス吸収イオンクロマトグラフィ法による全硫黄成分の含有量が400ppm以下であることを特徴とする電気化学素子、に関する。
【0015】
本発明者は、金属層を含む水素排出膜の水素排出性が次第に低下する原因を鋭意検討したところ、水素によって金属層が脆化するためではなく、電気化学素子の構成部材として使用されるパルプからなるセパレータから硫黄成分が発生し、金属層を腐食(酸化又は硫化など)することにより金属層が劣化し、その結果、水素排出性が次第に低下することを見出した。すなわち、セパレータの原料であるクラフトパルプの製法において、薬液を使用して木材チップから繊維を取り出す脱リグニン工程の際に、硫化ナトリウムが使用されるが、この硫化ナトリウムがセルロース中の炭化水素と結合し、種々の硫黄系の成分が発生すると考えられる。
【0016】
本発明者は、上記知見に基づいて解決策を鋭意検討したところ、石英管燃焼ガス吸収イオンクロマトグラフィ法による全硫黄成分の含有量が400ppm以下であるセパレータを用いることにより、金属層が腐食によって劣化しにくくなり、その結果、長期間使用した場合でも水素排出膜の水素排出性が低下しにくくなることを見出した。
【0017】
前記金属層は、水素透過性、耐酸化性、及び水素吸蔵時の耐脆化に優れるという観点から、Pd合金を含む合金層であることが好ましい。
【0018】
前記Pd合金は、水素透過性、耐酸化性、及び水素吸蔵時の耐脆化に優れるという観点から、第11族元素を20〜65mol%含むことが好ましい。また、前記第11族元素は、Au、Ag、及びCuからなる群より選択される少なくとも1種であることが好ましい。
【0019】
Pd−第11族元素合金を含むPd合金層は、膜表面で水素分子を水素原子に解離して水素原子を膜内に固溶し、固溶した水素原子を高圧側から低圧側に拡散させ、低圧側の膜表面で再び水素原子を水素分子に変換して排出する機能を有する。第11族元素の含有量が20mol%未満の場合には、Pd合金の強度が不十分になったり、前記機能が発現し難くなる傾向にあり、65mol%を超える場合には水素透過速度が低下する傾向にある。
【0020】
前記水素排出膜は、金属層の片面又は両面に支持体を有することが好ましい。支持体は、金属層が安全弁又は水素排出弁から脱落した場合に、電気化学素子内に落下することを防止するために設けられる。また、金属層が、電気化学素子の内部圧力が所定値以上になった時に自壊する安全弁としての機能を有する場合において、金属層が薄膜である場合には、金属層の機械的強度が低いため、電気化学素子の内部圧力が所定値になる前に自壊するおそれがあり、安全弁としての機能を果たせない。そのため、金属層が薄膜である場合には、機械的強度を向上させるために金属層の片面又は両面に支持体を積層することが好ましい。
【0021】
電気化学素子としては、例えば、アルミ電解コンデンサ及びリチウムイオン電池などが挙げられる。
【発明の効果】
【0022】
本発明の電気化学素子は、長期間使用した場合でも水素排出膜の水素排出性が低下しにくく、電気化学素子内部で発生した水素ガスのみを速やかに外部に排出することができる。それにより、電気化学素子内部で発生した水素ガスの圧力によって電気化学素子が破損することを効果的に防止できる。また、前記水素排出膜は、外部から電気化学素子内部への不純物の侵入を防止することができる。また、前記水素排出膜は、電気化学素子の内部圧力が急激に上昇した場合には自壊して内部圧力を低下させ、電気化学素子自体の破裂を防止する機能を有していてもよい。これら効果により、電気化学素子の初期性能を長期間維持することができ、電気化学素子の長寿命化を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
図1】本発明の水素排出膜の構造を示す概略断面図である。
図2】本発明の水素排出膜の他の構造を示す概略断面図である。
図3】本発明のアルミ電解コンデンサの構造の一例を示す斜視図である。
図4】水素排出膜を設けた封口体の構造の一例を示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本発明の実施の形態について説明する。
【0025】
本発明の電気化学素子は、電気化学素子内部で発生した水素ガスを外部に排出する水素排出膜を備えており、かつセパレータを介して陽極と陰極が積層された積層体を有するものである。当該電気化学素子としては、例えば、電池、コンデンサ、及びキャパシタなどが挙げられるが、特にアルミ電解コンデンサ又はリチウムイオン電池であることが好ましい。水素排出膜及びセパレータ以外の構成部材は、従来のものを特に制限なく使用できる。また、本発明の電気化学素子は、下記の水素排出膜及びセパレータを用いる以外は従来の方法により製造することができる。以下、水素排出膜及びセパレータについて詳しく述べる。
【0026】
前記水素排出膜は、金属層を含むものである。金属層は、電気化学素子内部で発生した水素ガスのみを外部に排出でき、かつ外部から電気化学素子内部に物質が侵入することを防止できるものであることが必要であり、例えば、微細な貫通孔が実質的に無い無孔体である。
【0027】
金属層を形成する金属は、単体、又は合金化することで水素透過機能を有する金属であれば特に制限されず、例えば、Pd、Nb、V、Ta、Ni、Fe、Al、Cu、Ru、Re、Rh、Au、Pt、Ag、Cr、Co、Sn、Zr、Y、Ce、Ti、Ir、Mo及びこれらの金属を2種以上含む合金などが挙げられる。
【0028】
前記金属層は、Pd合金を含む合金層であることが好ましい。Pd合金を形成する他の金属は特に制限されないが、第11族元素を用いることが好ましく、より好ましくはAu、Ag、及びCuからなる群より選択される少なくとも1種である。特に、Pd−Au合金は、電気化学素子内部の電解液又は構成部材から発生するガス成分に対する耐腐食性が優れるため好ましい。Pd合金は、第11族元素を20〜65mol%含むことが好ましく、より好ましくは30〜65mol%であり、さらに好ましくは30〜60mol%である。また、Ag含有量が20mol%以上であるPd−Ag合金、Cu含有量が30mol%以上であるPd−Cu合金、又はAu含有量が20mol%以上であるPd−Au合金を含むPd合金層は、50〜60℃程度以下の低温域であっても水素によって脆化しにくいので好ましい。また、Pd合金は、本発明の効果を損なわない範囲でIB族及び/又はIIIA族の金属を含んでいてもよい。
【0029】
Pd合金は、Pdを含む2成分の合金だけでなく、例えばPd−Au−Agの3成分の合金であってもよく、Pd−Au−Cuの3成分の合金であってもよい。さらに、Pd−Au−Ag−Cuの4成分の合金であってもよい。例えば、PdとAuと他の金属を含む多成分系合金の場合、Pd−Au合金中のAuと他の金属との合計含有量は、55mol%以下であることが好ましく、より好ましくは50mol%以下であり、さらに好ましくは45mol%以下であり、特に好ましくは40mol%以下である。
【0030】
金属層は、例えば、圧延法、スパッタリング法、真空蒸着法、イオンプレーティング法、及びメッキ法などにより製造することができるが、膜厚の厚い金属層を製造する場合には、圧延法を用いることが好ましく、膜厚の薄い金属層を製造する場合には、スパッタリング法を用いることが好ましい。
【0031】
圧延法は、熱間圧延であってもよく、冷間圧延のいずれの方法でもよい。圧延法は、一対又は複数対のロール(ローラー)を回転させ、ロール間に原料である金属を、圧力をかけながら通過させることにより膜状に加工する方法である。
【0032】
圧延法により得られる金属層の膜厚は、5〜50μmであることが好ましく、より好ましくは10〜30μmである。膜厚が5μm未満の場合には、製造時にピンホール又はクラックが生じやすくなったり、水素を吸蔵すると変形しやすくなる。一方、膜厚が50μmを超えると、水素を透過させるのに時間を要するため水素透過性が低下したり、コスト面で劣るため好ましくない。
【0033】
スパッタリング法は特に限定されず、平行平板型、枚葉型、通過型、DCスパッタ、及びRFスパッタなどのスパッタリング装置を用いて行うことができる。例えば、金属ターゲットを設置したスパッタリング装置に基板を取り付けた後、スパッタリング装置内を真空排気し、Arガス圧を所定値に調整し、金属ターゲットに所定のスパッタ電流を投入して、基板上に金属膜を形成する。その後、基板から金属膜を剥離して金属層を得る。なお、ターゲットとしては、製造する金属層に応じて、単一又は複数のターゲットを用いることができる。
【0034】
基板としては、例えば、ガラス板、セラミックス板、シリコンウエハー、アルミニウム及びステンレスなどの金属板が挙げられる。
【0035】
スパッタリング法により得られる金属層の膜厚は、0.01〜5μmであることが好ましく、より好ましくは0.05〜2μmである。膜厚が0.01μm未満の場合には、ピンホールが形成される可能性があるだけでなく、要求される機械的強度を得難い。また、基板から剥離する際に破損しやすく、剥離後の取り扱いも困難になる。一方、膜厚が5μmを超えると、金属層を製造するのに時間を要し、コスト面で劣るため好ましくない。
【0036】
金属層の膜面積は、水素透過量と膜厚を考慮して適宜調整することができるが、安全弁の構成部材として用いる場合には、0.01〜100mm程度である。なお、本発明において膜面積は、金属層において実際に水素を排出する部分の面積であって、後述するリング状の接着剤を塗布した部分は含まない。
【0037】
金属層の表面には、金属層以外のコート層を設けてもよい。コート層を設けることで、セパレータから発生する硫黄成分以外の汚染物(例えば、電解液)が水素排出膜の金属層の表面に付着し、腐食することを防止できる。
【0038】
コート層の原料は、水との接触角が85°以上である表面を形成できるものが好ましく、例えば、フッ素系化合物、ゴム系ポリマー、シリコーン系ポリマー、ウレタン系ポリマー、及びポリエステル系ポリマーなどが挙げられる。これらのうち、水との接触角が大きく、かつ水素排出膜の水素透過性を阻害しにくいという観点から、フッ素系化合物、ゴム系ポリマー、及びシリコーン系ポリマーからなる群より選択される少なくとも1種の化合物を用いることが好ましい。
【0039】
フッ素系化合物としては、例えば、フルオロアルキルカルボン酸塩、フルオロアルキル第四級アンモニウム塩、及びフルオロアルキルエチレンオキシド付加物などのフルオロアルキル基含有化合物;ペルフルオロアルキルカルボン酸塩、ペルフルオロアルキル第四級アンモニウム塩、及びペルフルオロアルキルエチレンオキシド付加物などのペルフルオロアルキル基含有化合物;テトラフルオロエチレン/ヘキサフルオロプロピレン共重合体、及びテトラフルオロエチレン/パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体などのフルオロカーボン基含有化合物;テトラフルオロエチレン重合体;フッ化ビニリデンとテトラフルオロエチレンの共重合体;フッ化ビニリデンとヘキサフルオロプロピレンの共重合体;含フッ素(メタ)アクリル酸エステル;含フッ素(メタ)アクリル酸エステル重合体;含フッ素(メタ)アクリル酸アルキルエステル重合体;含フッ素(メタ)アクリル酸エステルと他モノマーの共重合体、などが挙げられる。
【0040】
また、コート層の原料であるフッ素系化合物として、ハーベス社製の「デュラサーフ」シリーズ、ダイキン工業社製の「オプツール」シリーズ、及び信越化学工業社製の「KY−100」シリーズなどを使用してもよい。
【0041】
ゴム系ポリマーとしては、例えば、天然ゴム、スチレンブタジエンゴム、アクリロニトリルブタジエンゴム、クロロプレンゴム、ポリイソプレンゴム、ポリブタジエンゴム、エチレンプロピレンゴム、エチレン−プロピレン−ジエン三元重合体ゴム、クロロスルフォン化ポリエチレンゴム、及びエチレン−酢酸ビニル共重合体ゴムなどが挙げられる。
【0042】
また、コート層の原料であるゴム系ポリマーとして、日東シンコー社製の「エレップコート」シリーズなどを使用してもよい。
【0043】
シリコーン系ポリマーとしては、例えば、ポリジメチルシロキサン、アルキル変性ポリジメチルシロキサン、カルボキシル変性ポリジメチルシロキサン、アミノ変性ポリジメチルシロキサン、エポキシ変性ポリジメチルシロキサン、フッ素変性ポリジメチルシロキサン、及び(メタ)アクリレート変性ポリジメチルシロキサンなどが挙げられる。
【0044】
コート層は、例えば、金属層上、又は金属層上に設けた他の層上にコート層原料組成物を塗布し、硬化させることにより形成することができる。
【0045】
塗布方法は特に制限されず、例えば、ロールコート法、スピンコート法、ディップコート法、スプレーコート法、バーコート法、ナイフコート法、ダイコート法、インクジェット法、及びグラビアコート法などが挙げられる。
【0046】
溶剤は、コート層の原料に応じて適宜選択すればよい。コート層の原料としてフッ素系化合物を用いる場合、例えば、フッ素系溶剤、アルコール系溶剤、エーテル系溶剤、エステル系溶剤、及び炭化水素系溶剤などの溶剤を単独又は混合して使用することができる。これらのうち、引火性がなく、速やかに揮発するフッ素系溶剤を単独又は他の溶剤と混合して使用することが好ましい。
【0047】
フッ素系溶剤としては、例えば、ハイドロフルオロエーテル、パーフルオロポリエーテル、パーフルオロアルカン、ハイドロフルオロポリエーテル、ハイドロフルオロカーボン、パーフルオロシクロエーテル、パーフルオロシクロアルカン、ハイドロフルオロシクロアルカン、キシレンヘキサフルオライド、ハイドロフルオロクロロカーボン、及びパーフルオロカーボンなどが挙げられる。
【0048】
コート層の厚さは特に制限されないが、0.1〜20μmであることが好ましく、より好ましくは0.2〜10μmであり、さらに好ましくは0.3〜5μmである。
【0049】
金属層の片面又は両面に支持体を設けてもよい。特に、スパッタリング法により得られる金属層は、膜厚が薄いため、機械的強度を向上させるために金属層の片面又は両面に支持体を積層することが好ましい。
【0050】
図1及び2は、水素排出膜1の構造を示す概略断面図である。図1(a)又は(b)に示すように、金属層2の片面又は両面にリング状の接着剤3を用いて支持体4を積層してもよく、図2(a)又は(b)に示すように、治具5を用いて金属層2の片面又は両面に支持体4を積層してもよい。
【0051】
支持体4は、水素透過性であり、金属層2を支持しうるものであれば特に限定されず、無孔質体であってもよく、多孔質体であってもよい。また、支持体4は、織布、不織布であってもよい。支持体4の形成材料としては、例えば、ポリエチレン及びポリプロピレンなどのポリオレフィン、ポリエチレンテレフタレート及びポリエチレンナフタレートなどのポリエステル、ポリスルホン及びポリエーテルスルホンなどのポリアリールエーテルスルホン、ポリテトラフルオロエチレン及びポリフッ化ビニリデンなどのフッ素樹脂、エポキシ樹脂、ポリアミド、ポリイミド、ポリアミドイミドなどが挙げられる。これらのうち、化学的及び熱的に安定であるポリスルホン、ポリテトラフルオロエチレン、ポリアミド、ポリイミド、及びポリアミドイミドが好ましく用いられる。
【0052】
支持体4は、平均孔径100μm以下の多孔質体であることが好ましい。平均孔径が100μmを超えると、多孔質体の表面平滑性が低下するため、スパッタリング法等で金属層を製造する場合に、多孔質体上に膜厚の均一な金属層を形成し難くなったり、金属層にピンホール又はクラックが生じやすくなる。
【0053】
支持体4の厚さは特に限定されないが、通常5〜1000μm程度、好ましくは10〜300μmである。
【0054】
金属層2をスパッタリング法で製造する場合、基板として支持体4を用いると、支持体4上に金属層2を直接形成することができ、接着剤3又は治具5を用いることなく水素排出膜1を製造できるため、水素排出膜1の物性及び製造効率の観点から好ましい。その場合、支持体4としては、平均孔径100μm以下の多孔質体を用いることが好ましく、より好ましくは平均孔径5μm以下の多孔質体であり、特に限外ろ過膜(UF膜)を用いることが好ましい。
【0055】
前記水素排出膜の形状は、略円形状であってもよく、三角形、四角形、五角形等の多角形であってもよい。後述する用途に応じた任意の形状にすることができる。
【0056】
前記水素排出膜は、電気化学素子の安全弁の構成部材として有用である。また、水素排出膜は、安全弁とは別に水素排出弁として電気化学素子に設けることも可能である。
【0057】
前記水素排出膜は、低温で脆化しないため、例えば150℃以下の温度、さらには110℃以下の温度で使用できるという利点がある。すなわち、高温(例えば400〜500℃)で使用されないアルミ電解コンデンサ又はリチウムイオン電池の安全弁又は水素排出弁として好適に用いられる。
【0058】
前記セパレータとしては、パルプを含み、石英管燃焼法イオンクロマトグラフィ法による全硫黄成分の含有量が400ppm以下であるものを用いる。なお、ここでの石英管燃焼法イオンクロマトグラフィ法とは、試料を石英管内で完全燃焼させ、その際に発生したガスを水に吸収させたものを試験液として用いるイオンクロマトグラフィのことを指す。
【0059】
石英管燃焼法イオンクロマトグラフィ法により測定される硫黄成分は、セパレータ中では種々の形態をとる。
すなわち硫黄成分は、硫化水素、メチルメルカプタン、硫化メチル、二硫化メチルなどの形態や、セルロース等と直接的に結合した有機硫黄化合物として存在している。セパレータに残留しているこれらの硫黄成分は、チップや原麻等の原料から樹脂(リグニン)を除去してパルプを作製する際の薬剤や、それら薬剤と原料が反応した結果生じたものである。チップや原麻からパルプを作製する方法(蒸解方法)は複数知られており、クラフト法やサルファイト法、ソーダ法などが良く用いられている。前記方法においては、蒸解工程、過酸化水素や酵素などによる脱リグニン工程、及びパルプ中の異物や残留成分を除去するため精選・洗浄工程が行われるが、これらの工程をより厳密に行うことで、セパレータ中の硫黄成分の含有量を低減することができる。
【0060】
前記セパレータは、石英管燃焼法イオンクロマトグラフィ法による全硫黄成分の含有量が400ppm以下であり、好ましくは250ppm以下であり、より好ましくは200ppm以下であり、さらに好ましくは100ppm以下である。全硫黄成分の含有量が400ppmを超えるセパレータを用いると、水素排出膜の金属層が硫黄成分により腐食されやすくなり、金属層が劣化しやすくなる。それにより、水素排出膜の水素排出性が低下しやすくなる。なお全硫黄成分の含有量は、後述する実施例に記載の方法により測定することができる。
【0061】
セパレータは、木材パルプ単独からなるものであっても良く、その他の繊維種と組み合わせて使用されていても良い。その他の繊維種としては例えば、非木材パルプ、再生セルロース繊維などが好適に用いられる。
これらのパルプや繊維は、漂白処理されていても良く、また、溶解パルプのように精製されたものや、マーセル化パルプであっても良い。
木材パルプとしては、トウヒ、モミ、マツ、ツガなどの針葉樹、ブナ、ナラ、カバ、ユーカリなどの広葉樹が利用できる。非木材パルプとしては、マニラ麻、サイザル麻、バナナ、パイナップルなどの葉脈繊維、コウゾ、三椏、ガンピ、ジュート、ケナフ、大麻、フラックスなどのジンピ繊維、エスパルト、竹、バガス、稲ワラ、麦ワラ、アシなどの禾本科植物繊維、綿、リンター、カポックなどの種毛繊維、椰子などの果実繊維、その他の植物としてイグサやサバイ草など種々の植物が利用できる。再生セルロース繊維としては、溶剤紡糸再生セルロース繊維が好適に使用できる。これらは単独で使用しても良く、複数種選択して使用しても良い。
【0062】
上記の全硫黄成分の含有量を満足するパルプの製造方法として、前後の処理も含めると、例えば以下のものが挙げられる。
無漂白ソーダパルプ、無漂白溶解クラフトパルプ、無漂白溶解サルファイトパルプ、無漂白溶解ソーダパルプ、TCF漂白クラフトパルプ、TCF漂白サルファイトパルプ、TCF漂白ソーダパルプ、TCF漂白溶解クラフトパルプ、TCF漂白溶解サルファイトパルプ、TCF漂白溶解ソーダパルプである。そして、これらのパルプにマーセル化処理が施されていてもよい。
【0063】
なお、本実施の形態のパルプ名称は、繊維種、漂白有無或いは漂白方法、溶解パルプ或いはマーセル化パルプであるか、製造方法の順で表記している。溶解ともマーセル化とも記載のない場合は、そのどちらでもないパルプである。
【0064】
セパレータに使用する繊維は、叩解処理されていても良い。この叩解処理には、ディスクリファイナ、コニカルリファイナ、高圧ホモジナイザ、及びビーター等、一般に製紙原料の調製に用いられる叩解機が特に限定なく使用できる。叩解の程度を示すCSF(Canadian Standard Freeness)値は、0〜800mlの間で任意の値に設定できる。なお、ここでのCSF値は、「JIS P8121−2パルプ−ろ水度試験方法−第2部:カナダ標準ろ水度法」による値である。
【0065】
そしてセパレータは、抄紙法によって構成される。抄紙形式は、長網抄紙、短網抄紙、円網抄紙から選択できる。そして、これらを複数合わせた複層紙であっても良い。また、抄紙に際しては、通常使用される分散剤や消泡剤、紙力増強剤などの添加剤を加えても良い。更に、紙層形成後に紙力増強加工、キャレンダ加工、エンボス加工等の後加工を施しても良い。
【0066】
前記セパレータは、密度が0.25〜1.00g/cmであり、厚さが20〜100μmであることが好ましい。セパレータの密度が0.25g/cm未満の場合には引張り強さが不足し、コンデンサ製作時に必要な強度が確保できなくなる。また、セパレータの遮蔽性が低下し、コンデンサのショート不良が増加する。一方、1.00g/cmを超えるとイオン透過性が悪化してコンデンサの特性が低下する。また、セパレータの厚さが20μm未満の場合には緻密性の確保が困難となり、コンデンサのショート不良が増加する。一方、100μmを超えるとイオン透過性が悪化し、コンデンサ特性が低下する。
【0067】
図3は、本発明のアルミ電解コンデンサの構造の一例を示す斜視図である。コンデンサ素子6は、アルミニウム箔よりなる陽極箔7と陰極箔8の間に電解紙(セパレータ)9を介在させて巻回して構成されており、各電極7、8には棒状の接合部と半田付け可能な外部引出部とからなるリード線10が接合されている。コンデンサ素子6は、駆動用電解液(図示せず)が含浸されており、有底筒状のアルミニウムからなるケース12に収納されており、ケース12の開口部は封口体11で封止されている。図4に示すように、水素排出膜1は、通常、封口体11に設けられる。ケース12の外周は外装部材(図示せず)で被覆されている。
【実施例】
【0068】
以下に実施例をあげて本発明を説明するが、本発明はこれら実施例によりなんら限定されるものではない。
【0069】
製造例1
〔圧延法によるPd−Au合金層(Au含有量30mol%)の作製〕
インゴット中のAu含有量が30mol%となるようにPd及びAu原料をそれぞれ秤量し、水冷銅坩堝を備えたアーク溶解炉に投入し、大気圧のArガス雰囲気中でアーク溶解した。得られたボタンインゴットをロール径100mmの2段圧延機を用いて厚さ5mmになるまで冷間圧延して板材を得た。その後、ガラス管の中に圧延した板材を入れ、ガラス管の両端を封止した。ガラス管内部を室温で5×10−4Paまで減圧し、その後700℃まで昇温して24時間放置し、その後室温まで冷却した。この熱処理により、合金中のPd及びAuの偏析を解消した。次に、ロール径100mmの2段圧延機を用いて板材を厚さ100μmになるまで冷間圧延し、さらにロール径20mmの2段圧延機を用いて板材を厚さ20μmになるまで冷間圧延した。その後、ガラス管の中に圧延した板材を入れ、ガラス管の両端を封止した。ガラス管内部を室温で5×10−4Paまで減圧し、その後500℃まで昇温して1時間放置し、その後室温まで冷却した。この熱処理により、圧延によって生じたPd−Au合金内部のひずみを除去し、厚さ20μm、Au含有量30mol%のPd−Au合金層からなる水素排出膜を作製した。
【0070】
実施例1
製造例1で作製した水素排出膜、及び全硫黄成分の含有量が34ppmであるクラフト紙をセパレータとして使用してアルミ電解コンデンサを作製した。
【0071】
実施例2
製造例1で作製した水素排出膜、及び全硫黄成分の含有量が69ppmであるクラフト紙をセパレータとして使用してアルミ電解コンデンサを作製した。
【0072】
実施例3
製造例1で作製した水素排出膜、及び全硫黄成分の含有量が57ppmであるクラフト紙をセパレータとして使用してアルミ電解コンデンサを作製した。
【0073】
実施例4
製造例1で作製した水素排出膜、及び全硫黄成分の含有量が110ppmであるクラフト紙をセパレータとして使用してアルミ電解コンデンサを作製した。
【0074】
実施例5
製造例1で作製した水素排出膜、及び全硫黄成分の含有量が250ppmであるクラフト紙をセパレータとして使用してアルミ電解コンデンサを作製した。
【0075】
実施例6
製造例1で作製した水素排出膜、及び全硫黄成分の含有量が380ppmであるクラフト紙をセパレータとして使用してアルミ電解コンデンサを作製した。
【0076】
比較例1
製造例1で作製した水素排出膜、及び全硫黄成分の含有量が480ppmであるクラフト紙をセパレータとして使用してアルミ電解コンデンサを作製した。
【0077】
比較例2
製造例1で作製した水素排出膜、及び全硫黄成分の含有量が570ppmであるクラフト紙をセパレータとして使用してアルミ電解コンデンサを作製した。
【0078】
〔測定及び評価方法〕
(石英管燃焼法イオンクロマトグラフィによる全硫黄成分の含有量の測定)
「JIS K0127 『イオンクロマトグラフィー通則』」に従って測定した。なお、試料は「同JIS K0127 6.3.5 有機化合物の燃焼前処理」に記載された、石英管燃焼法よる前処理を行い、発生ガスを吸収液に吸収させて測定に使用した。分析装置は、以下を使用した。
(1)自動試料燃焼装置
装置:三菱化学アナリテック社製「AQF−2100H」
温度:Inlet 1000℃,Outlet 1100℃
ガス流量:O2 400mL/min,Ar/O2200mL/min,Ar(送水ユニット:目盛2) 100mL/min
(2)イオンクロマトグラフ(アニオン)
装置:Thermo Fisher Scientific社製「DX−320」
分離カラム:Dionex IonPac AS15 (4mm×250mm)
ガードカラム:Dionex IonPac AG15 (4mm×50mm)
除去システム:Dionex AERS-500(リサイクルモード)
検出器:電気伝導度検出器
溶離液:KOH水溶液
溶離液流量:1.2mL/min
試料注入量:250μL
【0079】
(水素透過性の評価)
製造例1で作製した水素排出膜をスウェージロック社製のVCRコネクターに取り付け、片側にSUSチューブを取り付け、密封された空間(63.5ml)を作製した。チューブ内を真空ポンプで減圧後、水素ガスの圧力が0.15MPaになるように調整し、105℃の環境下での圧力変化をモニターした。圧力変化により水素排出膜を透過した水素モル数(体積)がわかるため、これを1日当たりの透過量に換算して水素透過量を算出した。例えば、2時間で圧力が0.15MPaから0.05MPaに変化した場合(変化量0.10MPa)、水素排出膜を透過した水素体積は63.5mlになる。よって、1日当たりの水素透過量は63.5×24/2=762ml/dayとなる。水素排出膜の水素透過量は、10ml/day以上であることが好ましく、100ml/day以上であることがより好ましい。
【0080】
(耐腐食性の評価)
密閉されたSUS缶内に、実施例及び比較例で用いたセパレータ50gにエチレングリコールを含浸した試料をそれぞれ入れ、製造例1で作製した水素排出膜(15mm×15mm)をSUS缶の蓋から吊り下げた。105℃で12時間熱処理を行い、試料から発生したガスを水素排出膜の表面に曝露させた。その後、前記と同様の方法で水素透過性の評価を行った。
【0081】
(アルミ電解コンデンサの評価)
実施例及び比較例で作製したアルミ電解コンデンサに、雰囲気温度105℃で400Vの電圧印加を500時間行った。その後、アルミ電解コンデンサのアルミケースの変形を目視で確認した。
〇:アルミケースの形状変化なし
×:アルミケースの膨れあり
【0082】
【表1】
【0083】
表1から分かるように、全硫黄成分の含有量が400ppmを超えるセパレータを使用した比較例1、2では、腐食によって水素排出膜の水素透過性が失われており、外部へ水素ガスを排出することができないためアルミケースの膨れが見られた。一方で、実施例1〜6では、全硫黄成分の含有量が400ppm以下であるセパレータを用いているため、セパレータ共存下でも水素排出膜の水素透過性が良好であり、アルミ電解コンデンサの内圧上昇を防ぐことができるためアルミケースの変形は起きなかった。
【産業上の利用可能性】
【0084】
本発明の電気化学素子は、各種の電源などに好適に用いられる。
【符号の説明】
【0085】
1:水素排出膜
2:金属層
3:接着剤
4:支持体
5:治具
6:コンデンサ素子
7:陽極箔
8:陰極箔
9:電解紙(セパレータ)
10:リード線
11:封口体
12:ケース
図1
図2
図3
図4