(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6203939
(24)【登録日】2017年9月8日
(45)【発行日】2017年9月27日
(54)【発明の名称】グラフェンを含む膜
(51)【国際特許分類】
B01D 71/02 20060101AFI20170914BHJP
B01D 71/56 20060101ALI20170914BHJP
B01D 71/38 20060101ALI20170914BHJP
B01D 71/68 20060101ALI20170914BHJP
B01D 69/10 20060101ALI20170914BHJP
B01D 69/12 20060101ALI20170914BHJP
B01D 71/44 20060101ALI20170914BHJP
B01D 71/08 20060101ALI20170914BHJP
B01D 71/40 20060101ALI20170914BHJP
C08K 3/04 20060101ALI20170914BHJP
C08L 77/00 20060101ALI20170914BHJP
C08L 29/04 20060101ALI20170914BHJP
C01B 32/182 20170101ALI20170914BHJP
【FI】
B01D71/02
B01D71/56
B01D71/38
B01D71/68
B01D69/10
B01D69/12
B01D71/44
B01D71/08
B01D71/40
C08K3/04
C08L77/00
C08L29/04 A
C01B32/182
【請求項の数】23
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2016-507527(P2016-507527)
(86)(22)【出願日】2013年4月12日
(65)【公表番号】特表2016-522737(P2016-522737A)
(43)【公表日】2016年8月4日
(86)【国際出願番号】US2013036348
(87)【国際公開番号】WO2014168629
(87)【国際公開日】20141016
【審査請求日】2016年4月8日
(73)【特許権者】
【識別番号】390041542
【氏名又は名称】ゼネラル・エレクトリック・カンパニイ
(74)【代理人】
【識別番号】100137545
【弁理士】
【氏名又は名称】荒川 聡志
(74)【代理人】
【識別番号】100105588
【弁理士】
【氏名又は名称】小倉 博
(74)【代理人】
【識別番号】100129779
【弁理士】
【氏名又は名称】黒川 俊久
(74)【代理人】
【識別番号】100113974
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 拓人
(72)【発明者】
【氏名】クリシュナ,カラガ・ムラーリ
(72)【発明者】
【氏名】バタチャリヤ,アルジュン
(72)【発明者】
【氏名】デヴィ,レビカ・マヤングラムバム
(72)【発明者】
【氏名】パドケ,マードゥリー
【審査官】
富永 正史
(56)【参考文献】
【文献】
国際公開第2012/177033(WO,A1)
【文献】
国際公開第2012/102678(WO,A1)
【文献】
国際公開第2011/066332(WO,A1)
【文献】
国際公開第2012/047359(WO,A1)
【文献】
欧州特許出願公開第02511002(EP,A1)
【文献】
米国特許出願公開第2012/0048804(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01D 61/00 − 71/82
B01D 53/22
C01B 32/182
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
a)セラミック基質を含む多孔質マトリックス層と、
b)有機金属によってセラミック基質上に堆積された1種以上のグラフェン化合物と
を含む、膜。
【請求項2】
1種以上のグラフェン化合物が、多孔質マトリックス層の上の層に存在する、請求項1記載の膜。
【請求項3】
1種以上のグラフェン化合物が、多孔質マトリックス層に存在する、請求項1又は請求項2記載の膜。
【請求項4】
1種以上のグラフェン化合物が、グラフェン、官能化グラフェン、グラフェン酸化物、官能化グラフェン酸化物、還元グラフェン酸化物、官能化還元グラフェン酸化物及びそれらの組合せからなる群から選択される、請求項1乃至請求項3のいずれか1項記載の膜。
【請求項5】
1種以上のグラフェン化合物が、多孔質マトリックス層の上の層内のポリマーに分散されている、請求項2記載の膜。
【請求項6】
ポリマーがポリアミドを含む、請求項5記載の膜。
【請求項7】
ポリマーが、不溶化ポリビニルアルコール、ポリ酢酸ビニル、ポリ(ビニルメチルエーテル)、キトサン、及びポリビニル硫酸(いずれも架橋剤有り又は無し)、並びにN−イソプロピルアクリルアミド(アクリル酸又はアクリルアミド有り又は無し)からなる群から選択される、請求項5記載の膜。
【請求項8】
ポリマーが、不溶化ポリビニルアルコールである、請求項5記載の膜。
【請求項9】
1種以上のグラフェン化合物が、アミン又は塩化カルボニル基で官能化されたグラフェン化合物を含む、請求項1乃至請求項8のいずれか1項記載の膜。
【請求項10】
1種以上のグラフェン化合物が、ポリエチレングリコールで官能化されたグラフェン化合物を含む、請求項1乃至請求項8のいずれか1項記載の膜。
【請求項11】
1種以上のグラフェン化合物が、塩化アシル又は塩化スルホニル基で官能化されたグラフェン化合物を含む、請求項1乃至請求項8のいずれか1項記載の膜。
【請求項12】
1種以上のグラフェン化合物が、アミン、塩化カルボニル、塩化アシル及び塩化スルホニルからなる群から選択される1種以上の官能基で官能化されたグラフェン化合物を含む、請求項1乃至請求項8のいずれか1項記載の膜。
【請求項13】
トップコート層をさらに含む、請求項2記載の膜。
【請求項14】
多孔質マトリックス層と、1種以上のグラフェン化合物を含む層との間に、中間緻密層をさらに含む、請求項2記載の膜。
【請求項15】
中間緻密層が、ポリアミドを含む、請求項14記載の膜。
【請求項16】
多孔質マトリックス層の上の層内の1種以上のグラフェン化合物が、グラフェン又は官能化グラフェンを、実質的にマトリックス材料無しで含む、請求項2記載の膜。
【請求項17】
多孔質マトリックス層の上の層内の1種以上のグラフェン化合物が、(a)グラフェン又は官能化グラフェン、及び(b)グラフェン酸化物、還元グラフェン酸化物、官能化グラフェン酸化物又は官能化還元グラフェン酸化物を、実質的にマトリックス材料無しで含む、請求項2記載の膜。
【請求項18】
1種以上のグラフェン化合物が、多孔質マトリックス層の上の層内及び多孔質マトリックス層に存在する、請求項1記載の膜。
【請求項19】
多孔質マトリックス層内の1種以上のグラフェン化合物が、多孔質マトリックス層の脱塩率を増大させる、請求項3記載の膜。
【請求項20】
a)セラミックを含む基質をポリマー膜溶液でコーティングするステップと、
b)1種以上のグラフェン化合物を含む薄片を、ポリマー膜溶液上に又は中に分散させるステップと、
c)ポリマー膜溶液を硬化させて、多孔質支持体を形成するステップと、
d)多孔質支持体を、1種以上のグラフェン化合物を含む支持された層でコーティングするステップと
を含んでおり、1種以上のグラフェン化合物が有機金属によってセラミック基質上に堆積される、膜の製造方法。
【請求項21】
ステップd)が、多孔質支持体を介して薄片の分散液を濾過することを含む、請求項20記載の方法。
【請求項22】
ステップd)が、薄片を、1種以上のポリマー反応体の上又は中に分散させることを含む、請求項20記載の方法。
【請求項23】
a)膜における多孔質基質をポリマーでコーティングし、1種以上のグラフェン化合物を含む薄片を、1種以上のポリマー反応体上又は中に分散させるステップ
を含んでおり、基質がセラミックを含んでおり、1種以上のグラフェン化合物が有機金属によってセラミック基質上に堆積される、膜の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本明細書は、例えば、逆浸透、ナノ濾過又は限外濾過に有用な濾過膜、及び該膜の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
グラファイトは、鉱物であり、炭素の同素体である。グラフェンは、sp2結合炭素原子の平坦な単分子層である。グラフェンは、グラファイトを剥離することによって形成することができ、時に、グラファイトの単一の単離層として比喩的に記述される。グラフェンは、構造的に不安定である傾向がある。しかしながら、いくつかの縁結合官能基を持つ炭素の平坦な単分子層はより安定であり、いくつかの文脈においては依然としてグラフェンと称され得る。
【0003】
黒鉛酸化物とも呼ばれる酸化グラファイトは、グラファイトを酸化剤に曝露することによって得られる炭素と酸素と水素との様々な比率の結晶化合物である。グラフェン酸化物(GO)は、黒鉛酸化物を剥離することによって形成し得る黒鉛酸化物の平坦な単分子層形態である。グラフェンは、グラフェン酸化物を還元することによって形成できる。そこで、グラファイトを剥離させる方法の代替法として、グラフェンは、グラファイト→黒鉛酸化物→グラフェン酸化物→グラフェンへの変換によって形成し得る。この経路によって生成されたグラフェンは、多くの残留非炭素原子を有する傾向があり、かかるグラフェンを、より純粋に近いグラフェンすなわちいわゆるプリスティングラフェンと区別するために、還元グラフェン酸化物(rGO)と呼ばれることもある。
【0004】
米国特許第3457171号明細書は、脱塩膜の製造のための、黒鉛酸化物粒子の希薄懸濁液の使用について記述している。懸濁液は、多孔質基質上に堆積し、厚さ25ミクロン未満、例えば厚さ約0.25ミクロンのフィルムを形成する。より厚いフィルムでは、超高圧でも水がフィルムを通って流れない。黒鉛酸化物フィルムは、結合剤を添加することによって強化され得る。ある例において、ポリビニル樹脂及び架橋剤を含む混合物を、吸引フィルタ内に支持された濾紙ディスクの表面上に予め堆積させた湿った黒鉛酸化物のベッド上に注いだ。得られた構造物を乾燥させ、焼き固め、真水に浸漬し、次いで、逆浸透圧セルにおいて使用した。
【0005】
米国特許出願公開第2010/0105834号明細書は、カーボンナノチューブからグラフェンナノリボンを生成する方法について記述している。該方法は、ナノチューブを縦方向に開いてグラフェンの平坦なリボンを形成するように、ナノチューブを酸化剤と反応させることを含む。該公報は、少なくとも1つの溶媒中のグラフェンナノリボンの分散液が、多孔質膜を通して濾過されて、多孔質選択マットを形成し得ることを述べている。
【0006】
米国特許出願公開第2012/0048804号明細書は、レーザー掘削又は選択的酸化によってグラフェンシートを穿孔することについて記述している。単層グラフェンシートは、水分子を通過させるが塩イオンを除外するように寸法決定された穿孔を有し得る。穿孔されたグラフェンシートを裏打ち構造物に塗布して、脱塩膜を作成する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】米国特許出願公開第2013/284665号明細書
【発明の概要】
【0008】
本明細書において、グラフェン化合物という語は、グラフェン、グラフェン酸化物(GO)及び還元グラフェン酸化物(rGO)、並びにそれらの官能化物を包含する。本明細書は、1種以上のグラフェン化合物の配列を含む固液分離膜について記述する。膜は、例えば、逆浸透、ナノ濾過、限外濾過又は精密濾過膜であってよい。
【0009】
グラフェン化合物は、層内の薄片(代替として、晶子又は粉末又は粒子又は層板と呼ばれる)の堆積物の形態で使用される。薄片は、実質的にそれだけで層を形成していてもよく、又は、薄片は、別の化合物の層の表面に埋め込まれていてもよく、又は、薄片は、別の化合物の層内に堆積していてもよい。いくつかの場合において、薄片は、選択膜として機能する。他の場合において、薄片は、例えば膜をより親水性にすることによって、膜の特性を修正する。また他の場合において、薄片は、膜の層間の結合剤として機能する。
【0010】
層内に薄片を堆積させる一方法において、薄片は、水、水溶液又は溶媒中に分散される。分散液を、例えば、スプレーコーティング、ロッドコーティング又は濾過堆積によって、基質に塗布してよい。薄片を堆積させる別の方法において、薄片を、化合物が完全に固化する前に、別の化合物の表面に塗布する。薄片を堆積させる別の方法において、薄片を化合物中に分散させ、これを後に固化して、層を形成する。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】支持膜層及びバリア膜層を有し、該バリア膜層は、埋め込まれたグラフェン化合物を有する、膜の概略断面図である。
【
図2】支持膜層及びバリア膜層を有し、該支持膜層及び該バリア膜層の表面は、いずれも埋め込まれたグラフェン化合物を有する、膜の概略断面図である。
【
図3】支持膜層、バリア膜層、及びポリマー中に埋め込まれたグラフェン化合物を有する層を有する、膜の概略断面図である。
【
図4】支持膜層、及び主として1種以上のグラフェン化合物で構成されているバリア層を有する、膜の概略断面図である。
【
図5】支持膜層、及び主として1種以上のグラフェン化合物で構成されているバリア層を有し、該支持層の表面は、埋め込まれたグラフェン化合物を有する、膜の概略断面図である。
【
図6】埋め込まれたグラフェン化合物を有する内在性膜の概略断面図である。
【
図7】膜の表面に埋め込まれたグラフェン化合物を有する内在性膜の概略断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
プリスティングラフェンは、sp2結合炭素原子の平坦な単層である。しかしながら、グラフェンは、いくつかの縁結合官能基を有さない限り、不安定な傾向がある。グラフェンという語は、本明細書において、縁結合官能基を本質的に作成する、又は別個の官能基化ステップで縁結合基を提供する様式で生成された構造物を包含するために使用される。グラフェン化合物という語は、グラフェン並びに底面内に官能基を有していてもよいグラフェン酸化物(GO)及び還元グラフェン酸化物(rGO)等の同様の構造物、並びに、グラフェン、GO及びrGOのさらに官能化物を包含するために使用される。グラフェン化合物は、単分子層構造に厳密に限定されるのではなく、1以上、例えば、1〜10又は1〜4つの、炭素原子の層を有していてもよい。しかしながら、グラフェン化合物のさらなる多分子層薄片は、典型的には、該薄片の厚さよりも大きい長さ及び幅寸法を有する。薄片は小さい、好ましくは微細粒子である。
【0013】
グラフェン化合物の薄片は、グラファイトから直接的に、又は酸化グラファイトを最初に形成することによって、合成され得る。直接的方法において、グラファイト粒子を液体に添加する。この混合物を超音波処理して、薄片を生成する。薄片は、好ましくは単分子層グラフェンであるが、膜の製造目的のために、最大4つの層をグラフェンとして包含してよい。液体は、薄片の再凝集を防止するために、高表面張力を持つ有機溶媒であってよい。代替として、液体は、水−界面活性剤溶液であってよい。界面活性剤は、水とグラフェンとの間の反発作用を補償する。
【0014】
代替的な合成方法において、グラファイト粒子を最初に酸化して、酸化グラファイト粒子を生成する。酸化グラファイトは、グラファイトを、濃酸及び強酸化剤に曝露することによって作製することができる。酸化は、グラファイト粒子を、硫酸(H
2SO
4)、過マンガン酸カリウム(KMnO
4)及び過酸化水素(H
2O
2)に曝露することによって実施され得る。代替的な酸化方法は、スタウデンマイヤー法(硫酸を発煙硝酸及びKClO
3とともに使用する)、ホフマン法(硫酸、濃硝酸及びKClO
3を使用する)並びにハマース及びオフマン法(硫酸、硝酸ナトリウム及び過マンガン酸カリウムを使用する)を包含する。
【0015】
次いで、酸化グラファイト粒子を剥離して、グラフェン酸化物(GO)を生成する。好ましくは、酸化グラファイト粒子は、酸化グラファイト粒子の懸濁液を音波処理することによって剥離される。熱的又はマイクロ波剥離を使用してもよい。代替として、酸化グラファイトは塩基中で剥離することができるが、得られるGOは、音波処理したGOよりも構造的又は化学的欠陥を有しやすい。GOは、好ましくは単分子層であるが、音波処理した酸化グラファイトは、2つ、又は最大4つの層を有し得、依然として膜において使用するためのGOとみなされ得る。各GO層は、厚さ約0.9〜1.3nmである。GOは親水性であり、剥離すると、水中で容易に分散する。
【0016】
一例において、GOは、2gのグラファイトを、1Lの丸底フラスコに入れることによって作製した。フラスコを氷浴中に保ちながら、50mLの濃硫酸をフラスコに添加した。7gのKMnO
4を、温度が10℃を超えないように、この混合物にゆっくり添加した。得られた溶液を4時間撹拌し、続いて、35℃で2時間加熱した。100mLの脱イオン(DI)水をこの混合物に添加した。フラスコを氷浴中に保って溶液の温度を50℃未満に保ちながら、水をゆっくり添加した。結果として得られた溶液を200mLのDI水でさらに希釈し、もう2時間撹拌した。その後、4〜5mLの30%H
2O
2を、泡立ちが止まるまで、溶液に滴下添加した。結果として得られた混合物は、帯淡褐色であった。この混合物をおよそ1Lの5%HClで徹底的に洗浄し、遠心分離した。固体部分をDI水で洗浄し、再度遠心分離した。次いで、固体部分を、洗浄水のpHが6付近になるまで、焼結フィルタを使用してDI水で再度洗浄した。得られた帯褐色固体を、オーブン内、60℃で12時間乾燥させた。
【0017】
GO薄片は、さらに修飾することなく、膜の製造に使用することができる。代替として、GO薄片を還元して、rGO又はグラフェンを形成してよい。還元は、GOを、水酸化カリウム(KOH)及びヒドラジン(NH
2NH
2)に曝露することによって実施され得る。還元は、主として、摂氏100度付近で最大24時間にわたるヒドラジン水和物への曝露によって遂行される。ヒドラジン還元の前にGOを水酸化カリウムに曝露することは、縁結合カルボキシル基を安定させるのを支援する。代替的な還元方法は、水素プラズマへの曝露、熱衝撃、及び強い閃光又はレーザーへの曝露を包含する。
【0018】
GOは、安定させたグラフェンと同様の縁上に、官能基、典型的には、エポキシド、ヒドロキシル、カルボキシル及びカルボニル基を有する。しかしながら、GOは、その表面上にエポキシド基の形態で酸素分子も有する。ヒドラジンへの曝露は、酸素分子を分解してOH及びNH−NH
2とする。N
2H
2及びH
2Oが除去された後、縁上の官能基のみが残る。これらの基の少なくともいくつかは、適所に残され、さらなる官能基化のために使用され得る。GO及びrGOは、官能基、親水性、GO及びrGOの比較的容易な合成、並びに水への安定な分散により、膜の製造のにグラフェン薄片よりも好ましい。
【0019】
グラフェン化合物薄片は、フィルタ堆積によって多孔質基質に付着され得る。実験室規模のコーティングにおいて、rGO分散液を、アルミナ膜フィルタの上部表面上の漏斗に入れた。膜を、真空に接続された濾過フラスコの頂面に密閉した。これにより、アルミナ膜に付着したrGO薄片のフィルムを有する膜試験クーポンが生成された。別の実験室規模のコーティングにおいて、rGO薄片の分散液を試験クーポンにスプレーコーティングした。鋳造、ロッドコーティング又はディップコーティング等の他のコーティング方法を使用してもよい。
【0020】
グラフェン化合物は、該化合物のカルボキシル、ヒドロキシル、カルボニル又はエポキシ基を使用することにより、官能基化され得る。例えば、グラフェン化合物上のカルボキシル基を、ポリエチレングリコール(PEG)分子上のヒドロキシル末端基と反応させて、PEG官能化グラフェン化合物、例えばGO−PEGを提供することができる。PEG又は別の親水性部分で官能化されたグラフェン化合物は、膜のフラックス及び防汚特性を増大させることができる。
【0021】
他の例において、グラフェン化合物を、塩化アシル基、塩化スルホニル又はアミン基で官能基化してよい。グラフェン化合物上のカルボキシル基、例えばGO−COOHを、塩化チオニル(SOCl
2)と反応させることにより、塩化アシル基を添加して、例えばGO−COClを生成することができる。別の例において、GO−COOH及び(HO−PEG−OH)/PEG−OCH
3を、パラトルエンスルホン酸(PTSA)と反応させて、GO−COO−PEG−OHを生成する。
【0022】
別の例において、GOをアミン基で官能基化する。200mLの水中の3gのGOの水溶液を30分間音波処理し、次いで、丸底フラスコ中で撹拌する。10mLの1N KOH溶液をフラスコに添加し、混合物をもう15分間音波処理する。次いで、7mLの水で希釈した3gのジエチレントリアミンをフラスコに滴下添加する。次いで、反応混合物を撹拌し、90℃で2日間加熱する。
【0023】
GO、rGO及びいくつかの他のグラフェン化合物が親水性であることは膜フラックスに有益であるが、この特性は、該フラックスを洗浄又は膜からの浸出の影響を受けやすくもする。この問題は、a)薄片を、互いに、隣接層内の化合物に、又はマトリックス化合物に架橋する又は別様に結合すること、b)薄片の上にコーティングを塗布すること、或いは、c)薄片をマトリックス化合物に埋め込むことの1以上によって対処することができる。選択肢a)及びc)において、マトリックス化合物は膜であってよい。
【0024】
一方法によれば、グラフェン化合物を、塩化カルボニル(−COCl)基で官能基化し、薄フィルム複合体(TFC)ポリアミド膜に使用する。TFC膜は、支持膜層、例えば限外濾過又は精密濾過膜上での界面重合によって作製され得る。グラフェン化合物は、さらに上述した通りに調製されたGO−COClであってよい。官能化グラフェン化合物の薄片を、TFCバリア膜の製造に使用される反応体の少なくとも1つとともに溶液中で混合するか、又は重合が完了する前に反応体上に塗布する。グラフェン化合物は、塩化カルボニル基とポリアミドとの間の共有結合によって膜と架橋し、薄片が使用中に浸出するのを阻害する。場合により、グラフェン薄片を、ポリアミドのマトリックスに埋め込んでよい。
【0025】
ある例において、TFC膜は、ポリアミン、例えばm−フェニレンジアミン(MPD)と、ポリ酸ハロゲン化物、例えば塩化トリメソイル(TMC)との界面重合によって作製することができる。MPDは、2wt%水溶液中で提供される。TMCは、有機溶媒、例えばエステル又は炭化水素溶媒中0.2wt%溶液中で提供される。グラフェン化合物、例えばGO−COClの薄片を、有機溶液中に分散させる。TFC膜は、ポリスルホン限外濾過膜支持体を、MPD溶液に、約2時間浸すことによって形成される。飽和した支持体を除去し、垂直に保持して、3分間排出し、次いで、TFC溶液に約2分間浸漬する。薄フィルムポリアミド膜が支持体上に形成される。得られた複合膜を、90℃で約3分間加熱硬化させる。硬化した膜を周囲温度で約24時間貯蔵し、次いで、蒸留水で洗浄し、新鮮な蒸留水中、周囲温度で貯蔵する。グラフェン化合物をインサイチュで架橋しながら、ポリアミド層に埋め込む。架橋構造は以下に示す通りである:
【0026】
【化1】
上記の例において、GO−COCl又はGOもしくはrGOの別の形態を、代替として又は追加で、水溶液中に分散させてよい。限外濾過膜で覆われた可動繊維に反応体が鋳造される生産環境において、反応体が完全に反応する前、又は少なくともポリアミンが硬化する前に、薄片を反応体上にコーティングできることが期待される。グラフェン化合物が反応体溶液の一方又は両方に分散されるか、或いはコーティング上に塗布されるかにかかわらず、GO又はrGOは、追加で官能基化されていてもいなくても好ましく、何故なら、これらのグラフェン化合物の疎水性の性質によって、得られたポリアミド中に、より広くかつ均一に分散することが可能になるからである。GO−COClの代替として、アミン官能化GOを使用し、ポリアミドTFC形成中に架橋ネットワークを形成することもできる。アミン又は塩化カルボニル基で官能化他のグラフェン化合物を使用してもよい。
【0027】
別の方法によれば、グラフェン化合物は、TFCポリマー以外のポリマーに埋め込まれ、場合により該ポリマーと架橋している。例えば、ポリマーは熱硬化性ポリマーであってよい。このポリマーは、ナノ濾過又は逆浸透膜においてTFC膜層の上で使用され得る。代替として、十分な密度の1種以上のグラフェン化合物をポリマーに埋め込んで、ナノ濾過又は逆浸透膜におけるバリア層として機能させてもよい。
【0028】
好適なマトリックスポリマーは、例えば、架橋ポリビニルアルコール(PVA)、ポリビニル硫酸(PVS)、キトサン、N−イソプロピルアクリルアミド(NIPAAm)及びアクリル酸(AA)のコポリマー、NIPAAm及びアクリルアミドのコポリマー、ポリ酢酸ビニル(PVAc)、フロサイズ(Flosize)189(コロイド溶液−ヴィコール(Vicol)1200)並びにポリ(ビニルメチルエーテル)(PVME)を、いずれも架橋剤有り又は無しで包含する。グラフェン化合物を、例えばエチレンジアミンテトラプロポキシレート(EDTP)又はポリアミドエピクロロヒドリン(PAE)を用いて、ポリマーと架橋してよい。
【0029】
ある例において、グラフェン化合物薄片の層を、ポリビニルアルコール(PVA)中に分散させる。溶液は、1000mLの脱イオン(DI)水中、5gのPVA(例えば、分子量2,005,000;加水分解86%以上)及び0.25gのエチレンジアミンテトラプロポキシレート(EDTP)等の架橋剤で作製される。水を、好ましくは、常に撹拌しながら15〜30分間、例えば90℃に加熱する。pHは、7.5〜7.8であってよい。別個に、1種以上のグラフェン化合物の薄片の1000mLの1wt%分散液を調製する。この分散液をPVA溶液と混合する。得られた混合物を8LのDI水に添加して、コーティング溶液を提供する。コーティング溶液は、濾過堆積によって、精密濾過又は限外濾過支持膜に塗布することができる。例えば、コーティング溶液を、支持膜を通して、30psi及び25℃で30分間循環させることができる。次いで、コーティング溶液を除去し、DI水を、支持膜を通して30分間再循環させ、次いで、2〜3分間フラッシュする。次いで、コーティングされた膜を、硬化のために、例えば24時間、密閉容器に入れる。グラフェン化合物が埋め込まれたPVAの得られた層を、逆浸透又はナノ濾過に使用してよい。
【0030】
TFC又は上述した通りの他のポリマーマトリックスを使用して、逆浸透又はナノ濾過バリア層を提供し得る。このバリア層は、支持膜上に形成されてよく、該膜は織物上に形成されてよい。得られた層を渦巻き型膜要素にし、例えば、脱塩に使用してよい。他の膜配置及び使用も可能である。
【0031】
別の方法において、グラフェン化合物を、多孔質ポリマーマトリックス又はセラミックマトリックスに埋め込んでよい。ポリマーマトリックスは、例えば、熱誘起相分離(TIPS)又は非溶媒誘起相分離(NIPS)プロセスによって、多孔質にされ得る。多孔質マトリックスは、限外濾過又は精密濾過膜を提供し得る。この膜は、単独で、又は逆浸透もしくはナノ濾過膜用の支持体として、使用され得る。例えば、ポリスルホン限外濾過膜支持体は、該支持体に埋め込まれた1種以上のグラフェン化合物を有してよく、単独で、又はTFCもしくはグラフェン化合物が埋め込まれた他のポリマー層用の支持体として、使用され得る。
【0032】
1種以上のグラフェン化合物は、マトリックス化合物層全体に概して均一に分散していてよい。代替として、1種以上のグラフェン化合物を、マトリックス化合物が完全に硬化する前に、マトリックス化合物の表面に塗布してよい。この場合において、グラフェン化合物を、マトリックスの表面に埋め込み、ポリマーの表面付近であるが届かない程度まで分散させてもよい。グラフェン化合物は、さらなる分離層を提供することができるか、マトリックスの表面を官能基化することができるか、静電脱塩を増大させることができるか、又はマトリックス表面をより親水性にすることができる。十分な密度の1種以上のグラフェン化合物を、マトリックスの表面全体又は付近に埋め込んで、例えば、精密濾過膜を限外濾過膜に、又は限外濾過膜をナノ濾過膜に変換することができる。
【0033】
別の膜層上のコーティングとして使用されるか、又は膜層に埋め込まれる場合、薄片は、膜の親水性を、使用される薄片の量に関係する程度まで増大させるか、又は化学的官能基化を提供することができる。薄片を含む表面はまた、表面の清浄化に耐性があり、酸及びアルカリ抵抗性であり、高圧及び高温に耐えることができ、塩化物安定である。表面は、汚染に対してより抵抗性であることが期待される。
【0034】
別の方法において、1種以上のグラフェン化合物を、マトリックス化合物無しに膜又は支持層上に塗布することができる。1種以上のグラフェン化合物は、逆浸透又はナノ濾過層として機能し、ポリマーバリア膜層に取って代わることができる。この場合において、薄片の浸出を阻害するために、(a)薄片を支持膜層の少なくとも表面に埋め込む、(b)薄片を、互いもしくは支持層又は両方と架橋させる、(c)薄片をポリマーで覆う、及び(d)より疎水性のグラフェン化合物、例えばプリスティンに近いグラフェンを、単独で又はGOもしくはrGOとの混合物で使用する、のうち1以上を行うことが好ましい。
【0035】
マトリックス化合物無しで1種以上のグラフェン化合物の層を形成する場合、1種以上のグラフェン化合物を、場合により、SiO
2等の簡単にエッチング可能な無機又は有機ナノ粒子と混合してよい。ナノ粒子は、グラフェン化合物の薄片間の細孔面積を保存することができる。これらのナノ粒子を、層が形成された後に選択的化学エッチングによって、例えば、水、溶媒又は酸によって除去して、薄片間の細孔を開く。好適な粒子は、SiO
2、PMMA、ポリスチレン、スクロース、ポリビニルピロリドン(PVP)、及び化学エッチングに好適な他の材料を包含する。これにより、所望の多孔性の膜をもたらす。層は、支持体上に、又は独立膜の形態で実現され得る。他の粒子、例えば、TiO
2又は銀粒子を添加して、抗菌特性を提供してもよい。
【0036】
別の方法において、トップコートを、1種以上のグラフェン化合物を含む層の上に塗布してよい。トップコートは、グラフェン化合物がマトリックス化合物に埋め込まれているか否か、及びグラフェン化合物が架橋されているか、又は別様に結合されているか否かにかかわらず、使用され得る。トップコートは、グラフェン化合物を、洗浄又は膜から浸出することから防止するのを支援する。例えば、トップコートは、ポリマー、例えばエチレンジアミンテトラプロポキシレート(EDTP)又はポリアミドエピクロロヒドリン(PAE)と架橋されたPVAからできていてよい。トップコートは、例えば、厚さ1〜5nmであってよい。
【0037】
従来の逆浸透(RO)膜は、グラフェン、GO又はrGO薄片の約100倍の厚さである、厚さ最大数百nmのポリアミドバリア層を有し得る。バリア層(代替として分離層と呼ばれる)を形成している1種以上のグラフェン化合物の堆積物が厚さ最大10nmであるか、又はトップコートで覆われていたとしても、従来のRO膜と比べて低減した厚さは、より低い動作圧力及びエネルギー消費により、選択されたフラックスを実現しやすくする。単位面積当たりの塗布される薄片の重量によって細孔径が制御された薄親水性分離層も、低圧で脱塩の改善を提供しやすい。
【0038】
マトリックス材料又は支持膜は、無機多孔質セラミック基質、例えば、アルミナ、ジルコニア又はチタニア基質で作製されていてもよい。セラミック材料及び1種以上のグラフェン化合物で作製されている膜は、高温、例えば100℃以上に耐えることができ、但し、膜は、他の成分を有さないか、又は、高温使用のために選択されるポリマー等の他の成分のみを使用する。セラミック材料は、強酸性又は塩基性溶液への曝露等の苛酷な環境にも耐える。
【0039】
有用なセラミック材料は、TiO
2、ZrO
2、Al
2O
3及びSiO
2を包含する。好ましくは官能化、1種以上のグラフェン化合物は、セラミック材料(Ti、Zr、Al、Si)のイソプロポキシド、ブトキシド又はエトキシド等の有機金属(OM)を利用して、セラミック基質上に堆積することができる。OM中の金属は、セラミック支持体中の対応する金属と結合しながら、グラフェン化合物にも固定している。
【0040】
種々の例示的な代替的膜8を、
図1〜7の断面図に示す。膜8は、渦巻き型、平板型又は管状配置で作製され得る。各膜8は、多孔質繊維基質、例えば不織ポリエステル織物上で鋳造され得る。代替として、膜8は、自立型であってよい。膜8は、例えば、濾過又は脱塩に使用され得る。
【0041】
図において、多孔質マトリックス10は、例えば、限外濾過又は精密濾過膜を形成する、ポリマーマトリックス又はセラミックマトリックスである。渦巻き型脱塩膜において、多孔質マトリックス10は、例えば、ポリスルホンからできていてよい。多孔質マトリックス10は、例えば、厚さ20〜60ミクロン、典型的には厚さ約40umであってよい。
【0042】
緻密マトリックス12は、逆浸透又はナノ濾過膜を形成するポリマーマトリックス、場合によりTFC膜である。緻密マトリックス12は、厚さ10〜250nm、好ましくは厚さ10〜100nmの範囲内であってよい。
【0043】
薄片16は、1種以上のグラフェン化合物の薄片である。単一の膜8において、薄片16は、単一種類のグラフェン化合物又はグラフェン化合物の混合物を含み得る。
図1、2、3、6及び7において、グラフェン酸化物(GO)、還元グラフェン酸化物(rGO)並びにGO及びrGOのさらに官能化形態が好ましい。
図4及び5において、薄片16は、実質的にマトリックス材料無しで層を形成する。これらの場合において、薄片16は、好ましくは、グラフェン、グラフェンとGOもしくはrGOとの混合物、官能化グラフェン、又は、少なくとも一方が官能化グラフェンとGOもしくはrGOとの混合物である。しかしながら、特定の膜の記述は、好ましい物質を指している場合がある。マトリックスの無い薄片16の層は、厚さ1〜20、好ましくは1〜10nmであってよい。
【0044】
トップコートマトリックス18は、逆浸透又はナノ濾過膜の上に塗布されるポリマーマトリックスである。トップコートマトリックス18は、例えば、厚さ1〜10nm、好ましくは厚さ1〜5nmの範囲内であってよい。トップコートマトリックス18が
図3に示されており、ここで、該マトリックスは、膜中に薄片16のみを含有する。場合により、図示されていないが、薄片16有り又は無しのトップコートマトリックス18を、
図1、2、4及び5中の膜8の上に追加してもよい。
【0045】
下記の項において、いくつかのより特定の例を、図を参照して記述する。しかしながら、膜8は、これらの例に限定されない。
【0046】
図1において、緻密マトリックス12はポリアミドTFCであってよく、多孔質マトリックス10はポリスルホン膜であってよい。薄片16を除き、この構造は、平板型又は渦巻き型TFC脱塩膜と同様である。代替として、平板型又は渦巻き型膜は、ポリスルホン多孔質マトリックス10の上の別のポリマーの緻密マトリックス12に取って代わったポリアミド層で作製されていてよい。ポリマーは、例えば、架橋によって不溶化ポリビニルアルコール(PVA)であってよい。薄片16及びPVAは、防汚特性を持つより親水性の(ポリアミドと比べて)厚い支持層12をもたらす。GO又はrGO中のカルボキシル基は、NF膜において特にイオン排除による脱塩を増大させることもできる。膜は、従来のポリアミド薄フィルム複合膜と比べて、透過性を増大させたもの、又はエネルギー消費を低減させたものであってよい。緻密マトリックスは、好ましくは、厚さ100nm未満であるため、薄片16は、該薄片が反応体の1つ中に提供されているか反応体の上に塗布されているかにかかわらず、緻密マトリックス12全体に分散し得る。
【0047】
上記の例において、EDTPは、PVAのための、及びグラフェン化合物とPVAとの間の架橋剤として作用することができる。PVAは、望ましい低接触角を有する。しかしながら、PVAの代わりに、ポリ酢酸ビニル(PVAc)、ポリ(ビニルメチルエーテル)(PVME)及びポリビニル硫酸(PVS)等の他の熱硬化性ポリマーを使用してよい。グラフェン化合物の薄片16を、キトサン又はN−イソプロピルアクリルアミド(NIPAAm)等の他の化合物と複合してもよい。これらの場合において、薄片16は、官能基を通して、互いに又は緻密マトリックス12ポリマーと結合される。これにより、極細シートにおいて使用される場合であっても、グラフェン化合物は洗浄されることに対して抵抗性になる。対照的に、グラフェン酸化物の単純なマットは、マットの表面全体にわたる水の流れによって除去することができる。十分な架橋又は他の化学結合により、1種以上のグラフェン化合物の層は、細孔を充填するよりも限外濾過膜中の細孔に広がることができる。
【0048】
図2において、膜8は、
図1と同じ層で作製されている。しかしながら、この例において、好ましくはGOもしくはrGO又は官能化誘導体の薄片16は、緻密マトリックス12が追加される前に、多孔質マトリックス10上に分散される。薄片16は、多孔質マトリックス10が基質上にコーティングされたか又は別様に鋳造された後であるが多孔質マトリックス10が硬化する前に、追加される。薄片16は、例えば、スプレーコーティング又はロッドコーティングによって追加され得る。薄片16は、多孔質マトリックス10の溶媒又は別の相溶性液体中で運ばれる。好ましくはないが、薄片16は、多孔質マトリックス10の製造に使用されるドープ塗料中に分散されてもよく、この場合、薄片16は、多孔質マトリックス10全体に分散されることになる。多孔質マトリックス10の形成中に、特に多孔質マトリックス10の表面に薄片16を追加することは、厚い支持層12を多孔質支持体10に接着するのを支援する。
【0049】
図3において、膜は、従来の薄フィルム複合体RO又はNF膜のような、ポリアミドの多孔質マトリックス10及び緻密マトリックス12を有する。例えば、多孔質マトリックス10はポリスルホンであってよく、緻密マトリックス12はポリアミドからできていてよい。トップコートマトリックス18は、緻密マトリックス12の上に追加される。トップコートマトリックス18薄フィルム又は層は、不溶化PVA等のポリマー中に分散した薄片16を含む。薄片16を持つトップコートマトリックス18は、追加のバリア層として機能するか、又は膜8をより親水性にする、もしくは防汚特性を提供することができる。薄片16の親水性の性質は、膜8の厚さ増大に対抗して、該膜の透過性を維持する。
【0050】
図4において、多孔質マトリックス10、例えばポリスルホン限外濾過膜は、薄片16の層でコーティングされている。薄片16は、単一の化合物、例えばグラフェン又は官能化グラフェンであってよい。液体中の薄片16の分散液を、例えば濾過堆積によって、又はスプレーコーティングもしくはロッドコーティングによって、多孔質マトリックス10に塗布する。液体は、例えば、水、水溶液、例えば水中界面活性剤、又は有機溶媒であってよい。単位表面積当たりの薄片16の重量は、例えば、層間に細孔が形成された薄片16の1〜10の層を提供するのに十分なものである。薄片16は、膜のバリア層として、例えばナノ濾過又は逆浸透層として作用する。従来のポリアミド薄フィルム複合膜と比較して、薄片16は、透過性及び防汚特性が増大している場合がある。薄片16は、好ましくは、薄片16間に、又は多孔質マトリックス10との間に結合を提供するように官能基化されている。
【0051】
代替として、薄片16は、2つ以上の化合物、好ましくは、グラフェン又は官能化グラフェンを、GO、rGO、官能化GO又は官能化rGOとともに含み得る。GO又はrGOの追加により、グラフェン粒子間の接着を増強することができる。しかしながら、GO及びr−GOは高度に水分散性であるため、渦巻き型要素のような水の洗い流し流(scouring stream)に曝露される活性最上層において単独で使用されるのは好ましくない。
【0052】
図4について上述した例のいずれかにおいて、多孔質マトリックス10は、セラミック限外濾過又は精密濾過膜であってよい。チタニア、アルミナ、ジルコニア又はシリカのセラミック膜は、最大1000℃の温度で安定であり得る。薄片16、及び総じて膜8は、最大約400℃で安定した温度であってよい。
【0053】
図5において、膜8は、
図4の膜8と同様である。しかしながら、
図5では、好ましくはGO又はrGOの薄片16が、
図2について記述した通り、多孔質マトリックス10に組み込まれている。多孔質支持体10中の薄片16は、多孔質支持体10の上に堆積した薄片16を接着するのを支援する。
【0054】
図6において、薄片16は、多孔質マトリックス10が固化する前に、該マトリックス中に分散される。多孔質マトリックス10は、ポリマー又はセラミックであってよい。多孔質マトリックス10は、限外濾過膜又は精密濾過膜であってよい。薄片16は、膜8をより親水性にし、フラックスを増強し、膜圧縮を低減させる。
【0055】
図7において、膜8は、
図6の膜と同様である。しかしながら、薄片16は、多孔質マトリックス10の表面が硬化する前に、該表面に塗布される。薄片16は、多孔質マトリックスの溶媒中に分散させて塗布してよい。薄片16は、多孔質マトリックスの表面をより親水性にすることができる。代替として、薄片16は、精密濾過膜がより緊密になるか又は限外濾過膜に変換されるような量で提供され得る。限外濾過膜は、より緊密になるか、又はナノ濾過膜に変換され得る。
【0056】
この書面による明細は、本発明を開示するために、また、任意のデバイス又はシステムを作製し使用すること及び任意の組み込まれた方法を実施することを包含し、本発明を当業者が実践できるようにするために、例を使用する。具体的なパラメータは、例を提供するのみであって必須ではないことが意図されている。本発明の特許性のある範囲は、請求項によって定義され、当業者が想到する他の例を包含し得る。