【実施例】
【0053】
以下、本発明について実施例及び比較例を用いて更に説明する。但し、本発明は、以下に説明する実施例及び比較例に限定されるものではない。
【0054】
[実施例1]
本実施例では、熱可塑性樹脂としてミネラル強化ポリアミド6(PA6)を用い、物理発泡剤として窒素を利用して発泡成形体を製造した。
【0055】
(1)製造装置
本実施例では、上述した実施形態で用いた
図2に示す製造装置1000を用いた。製造装置1000の詳細について説明する。上述のように、製造装置1000は射出成形装置であり、可塑化シリンダ210と、物理発泡剤を可塑化シリンダ210に供給する物理発泡剤供給機構であるボンベ100と、金型251が設けられた型締めユニット250と、可塑化シリンダ210及び型締めユニット250を動作制御するための制御装置(不図示)を備える。
【0056】
可塑化シリンダ210のノズル先端29には、エアシリンダの駆動により開閉するシャットオフバルブ28が設けられ、可塑化シリンダ210の内部を高圧に保持できる。ノズル先端29には金型251が密着し、金型251が形成するキャビティ253内にノズル先端29から溶融樹脂が射出充填される。可塑化シリンダ210の上部側面には、上流側から順に、熱可塑性樹脂を可塑化シリンダ210に供給するための樹脂供給口201及び物理発泡剤を可塑化シリンダ210内に導入するための導入口202が形成される。これらの樹脂供給口201及び導入口202にはそれぞれ、樹脂供給用ホッパ211、導入速度調整容器300が配設される。導入速度調整容器300には、ボンベ100が、バッファータンク153、減圧弁151及び圧力計152を介して、配管154により接続する。また、可塑化シリンダ210の導入口202に対向する位置には、圧力をモニターするセンサ(不図示)が設けられている。
【0057】
スクリュ20は、熱可塑性樹脂の可塑化溶融を促進し、溶融樹脂の計量及び射出を行うため、可塑化シリンダ210内において回転及び進退自在に配設されている。スクリュ20には、上述したように、溶融樹脂の流動抵抗を高める機構として、半割り形状のリング26及びスクリュ20の大径部分20Aが設けられている。
【0058】
可塑化シリンダ210では、樹脂供給口201から可塑化シリンダ210内に熱可塑性樹脂が供給され、熱可塑性樹脂がバンドヒータ(不図示)によって可塑化されて溶融樹脂となり、スクリュ20が正回転することにより下流に送られる。スクリュ20に設けられたリング26及び大径部分20Aの存在により、リング26の上流側では、溶融樹脂が圧縮されて圧力が高まり、リング26の下流側では、溶融樹脂が未充満(飢餓状態)となる。更に下流に送られた溶融樹脂は、射出前に可塑化シリンダ210の先端付近において再圧縮されて計量される。
【0059】
これにより、可塑化シリンダ210内では、上流側から順に、熱可塑性樹脂が可塑化溶融される可塑化ゾーン21、溶融樹脂が圧縮されて圧力が高まる圧縮ゾーン22、溶融樹脂が未充満となる飢餓ゾーン23、飢餓ゾーンにおいて減圧された溶融樹脂が再度圧縮される再圧縮ゾーン24が形成される。スクリュ20に設けられたリング26は、圧縮ゾーン22の飢餓ゾーン23との境界に位置する。また、物理発泡剤が導入される導入口202は、飢餓ゾーン23に設けられる。
【0060】
製造装置1000において、可塑化シリンダ210の内径は35mmであり、導入口202の内径は8mmであった。したがって、導入口202の内径は、可塑化シリンダ210の内径の約23%であった。導入速度調整容器300の容積は、約80mLであった。また、本実施例では、キャビティ253の大きさが100mm×200mm×3mmである金型を用いた。
【0061】
(2)発泡成形体の製造
本実施例では、ボンベ100として、窒素が14.5MPaで充填された容積47Lの窒素ボンベを用いた。まず、減圧弁151の値を4MPaに設定し、ボンベ100を開放し、容積0.99Lのバッファー容器153、減圧弁151、圧力計152、更に導入速度調整容器300を介して、可塑化シリンダ210の導入口202から、飢餓ゾーン23へ4MPaの窒素を供給した。成形体の製造中、ボンベ100は常時、開放した状態とした。
【0062】
可塑化シリンダ210において、バンドヒータ(不図示)により、可塑化ゾーン21を220℃、圧縮ゾーン22を240℃、飢餓ゾーン23を220℃、再圧縮ゾーン24を240℃に調整した。そして、樹脂供給用ホッパ211から熱可塑性樹脂の樹脂ペレット(東洋紡製、グラマイドT777−02)を供給し、スクリュ20を正回転させた。これにより、可塑化ゾーン21において、熱可塑性樹脂を加熱、混練し、溶融樹脂とした。スクリュ20を背圧6MPa、回転数100rpmにて正回転することにより、溶融樹脂を可塑化ゾーン21から圧縮ゾーン22に流動させ、更に、飢餓ゾーン23に流動させた。
【0063】
溶融樹脂は、スクリュ大径部分20A及びリング26と、可塑化シリンダ210の内壁との隙間から飢餓ゾーン23へ流動するため、飢餓ゾーン23への溶融樹脂の供給量が制限された。これにより、リング26の上流側の圧縮ゾーン22においては溶融樹脂が圧縮されて圧力が高まり、下流側の飢餓ゾーン23においては、溶融樹脂が未充満(飢餓状態)となった。飢餓ゾーン23では、溶融樹脂が未充満(飢餓状態)であるため、溶融樹脂が存在しない空間に導入口202から導入された物理発泡剤(窒素)が存在し、その物理発泡剤により溶融樹脂は加圧された。
【0064】
更に、溶融樹脂は再圧縮ゾーン24に送られて再圧縮され、可塑化シリンダ210の先端部において1ショット分の溶融樹脂が計量された。その後、シャットオブバルブ28を開放して、キャビティ253内に、キャビティ253の容積の90%の充填率となる様に溶融樹脂を射出充填して平板形状の発泡成形体を成形した(ショートショット法)。成形後、発泡成形体が冷却するのを待って、金型内から発泡成形体を取り出した。冷却時間は、10秒とした。成形サイクルは18秒であり、ソリッド成形体(無発泡の成形体)の成形サイクルと同等の値であった。
【0065】
以上説明した成形体の射出成形を連続して100ショット行い、100個の発泡成形体を得た。100個の発泡成形体の製造中、常時、圧力センサ(不図示)により可塑化シリンダ210内の飢餓ゾーン23の圧力を計測した。その結果、飢餓ゾーン23の圧力は、常に4MPaで一定であった。また、飢餓ゾーン23へ供給される窒素の圧力を示す圧力計152の値も、発泡成形体の製造中、常時、4MPaであった。以上から、可塑化計量工程、射出工程、成形体の冷却工程、取り出し工程等を含む射出成形の1サイクルを通して、飢餓ゾーン23において、4MPaの窒素により溶融樹脂が、常時、加圧されていたこと、及び100個の成形体の連続成形の間、飢餓ゾーン23において、窒素により溶融樹脂が、常時、加圧されていたことが確認できた。また、100個の発泡成形体の製造中、膨出検出機構310は溶融樹脂の膨出を検出せず、飢餓ゾーン23の状態が安定であったことが確認された。
【0066】
得られた100個の発泡成形体の重量ばらつきを標準偏差(σ)を重量平均値(ave.)で割った値(σ/ave.(%))で評価した。その結果、(σ/ave.)=0.21%であった。同様の評価をソリッド成形体(無発泡の成形体)で行ったところ、(σ/ave.)=0.22%で、本実施例と同等の値であった。この結果から、本実施例の発泡成形体の重量安定性は、ソリッド成形体と同等であることがわかった。
【0067】
本実施例では、ソリッド成形体と比較して比重が約10%程度軽く、ソリが矯正された発泡成形体を連続的に安定して製造できた。比重低減率は、物理発泡剤の溶解量(浸透量)に影響を受けると考えられる。この結果から、物理発泡剤の溶融樹脂に対する溶解量(浸透量)が安定化していたことがわかった。また、分離したガスが成形体表面にて転写して表面性を悪化させるスワールマークは、僅かな発生にとどまっていた。更に、得られた発泡成形体断面の発泡セル状態を観察した。この結果、発泡セルの平均セル径は20μmと微細であることがわかった。
【0068】
[実施例2]
本実施例では、物理発泡剤として二酸化炭素用いた。したがって、物理発泡剤供給装置であるボンベ100として、圧力6MPa液体二酸化炭素ボンベを用いた。そして、減圧弁151の値を4.5MPaに設定した。それ以外は、実施例1と同様の方法により、連続して100個の発泡成形体を製造した。
【0069】
発泡成形体の製造中、常時、圧力センサ(不図示)により可塑化シリンダ210内の飢餓ゾーン23の圧力を計測した。その結果、飢餓ゾーン23の圧力は、常に4.5MPaで一定であった。また、飢餓ゾーン23へ供給される二酸化炭素の圧力を示す圧力計152の値も、発泡成形体の製造中、常時、4.5MPaであった。以上から、可塑化計量工程、射出工程、成形体の冷却工程、取り出し工程等を含む射出成形の1サイクルを通して、飢餓ゾーン23において、4.5MPaの二酸化炭素により溶融樹脂が、常時、加圧されていたこと、及び100個の成形体の連続成形の間、飢餓ゾーン23において、二酸化炭素により溶融樹脂が、常時、加圧されていたことが確認できた。また、100個の発泡成形体の製造中、膨出検出機構310は溶融樹脂の膨出を検出せず、飢餓ゾーン23の状態が安定であったことが確認された。
【0070】
得られた100個の発泡成形体の重量ばらつきを標準偏差(σ)を重量平均値(ave.)で割った値(σ/ave.(%))で評価した。その結果、(σ/ave.)=0.24%であった。同様の評価をソリッド成形体(無発泡の成形体)で行ったところ、実施例1の場合と同様に、(σ/ave.)=0.22%であり、本実施例と同等の値であった。この結果から、本実施例の発泡成形体の重量安定性は、ソリッド成形体と同等であることがわかった。
【0071】
本実施例では、ソリッド成形体と比較して、比重が約10%程度軽く、ソリが矯正された発泡成形体を連続的に安定して製造できた。この結果から、物理発泡剤の溶融樹脂に対する溶解量(浸透量)が安定化していたことがわかった。更に、得られた発泡成形体断面の発泡セル状態を観察した。この結果、発泡セルの平均セル径は80μmと実施例1と比較して大きかった。本実施例と実施例1との発泡セルの大きさの相違は、物理発泡剤の種類の相違に起因すると推測される。
【0072】
本実施例の結果から、物理発泡剤として二酸化炭素を用いた場合も、飢餓ゾーン23の圧力保持を簡便な方法で行うことができ、物理発泡剤として窒素を用いた実施例1と同様の効果を得られることが分かった。
【0073】
[実施例3]
本実施例では、熱可塑性樹脂として、無機フィラーを含むポリプロピレン(PP)樹脂を用いた。また、減圧弁151の値を8MPaに設定し、発泡体成形方法としてコアバック法を用いた。それ以外は、実施例1と同様の方法により、発泡成形体を製造した。
【0074】
無機フィラーなどの強化材を含まないPP樹脂ペレット(プライムポリマー製、プライムポリプロ J105G)と、無機フィラーとしてタルクを80重量%含むマスターバッチペレット(出光ライオンコンポジット製、MP480)とを重量比率が80:20となるように混合した。実施例1と同様に、樹脂供給用ホッパ211から混合した樹脂材料を樹可塑化シリンダ210内へ供給し、可塑化シリンダ210内で樹脂材料の可塑化計量を行った。シャットオブバルブ36を開放して、キャビティ253内にキャビティ253の容積の100%の充填率となる様に溶融樹脂を射出充填し、その3秒後に、型締めユニット250を後退駆動させてキャビティ容積が100%から200%に拡大するように金型を開いて発泡成形体を成形した(コアバック法)。成形後、発泡成形体が冷却するのを待って、金型内から発泡成形体を取り出した。冷却時間は、30秒とした。尚、本実施例ではコアバック法を用いたため、ショートショット法を用いた実施例1と比較して、成形体の肉厚が増え断熱効果が高くなるため、冷却時間を実施例1より長くした。
【0075】
以上説明した成形体の射出成形を連続して30ショット行い、30個の発泡成形体を得た。発泡成形体の製造中、常時、圧力センサ(不図示)により可塑化シリンダ210内の飢餓ゾーン23の圧力を計測した。その結果、飢餓ゾーン23の圧力は、常に8MPaで一定であった。また、飢餓ゾーン23へ供給される窒素の圧力を示す圧力計152の値も、発泡成形体の製造中、常時、8MPaであった。以上から、可塑化計量工程、射出工程、成形体の冷却工程、取り出し工程等を含む射出成形の1サイクルを通して、飢餓ゾーン23において、8MPaの窒素により溶融樹脂が、常時、加圧されていたこと、及び30個の成形体の連続成形の間、飢餓ゾーン23において、窒素により溶融樹脂が、常時、加圧されていたことが確認できた。
【0076】
本実施例では、ソリッド成形体と比較して、比重が約48%程度軽く、ソリが矯正された発泡成形体を連続的に安定して製造できた。この結果から、物理発泡剤の溶融樹脂に対する溶解量(浸透量)が安定化していたことがわかった。また、得られた発泡成形体の表面状態を観察した。分離したガスが成形体表面に転写して表面性を悪化させるスワールマークは、僅かな発生にとどまっていた。更に、得られた発泡成形体断面の発泡セル状態を観察した。発泡セルの平均セル径は35μmと微細であった。
【0077】
[実施例4]
本実施例では、
図3に示す製造装置2000を用いて、連続的にシート状の発泡成形体を押出成形により製造した。本実施例では、熱可塑性樹脂として、非強化ポリアミド6(PA6)(東レ製、アミランCM1021FS)を用いた。また、物理発泡剤としては、空気中の窒素を精製、圧縮して用いた。
【0078】
(1)製造装置
製造装置2000は押出成形装置であり、スクリュ40が内設された可塑化シリンダ410と、物理発泡剤を可塑化シリンダ410に供給する物理発泡剤を可塑化シリンダ410に供給する物理発泡剤供給機構500と、可塑化シリンダ410を動作制御するための制御装置(不図示)を備える。実施例1で用いた
図2に示す可塑化シリンダ210と同様に、可塑化シリンダ410内において可塑化溶融された溶融樹脂は、
図3における右手から左手に向かって流動する。したがって本実施例の可塑化シリンダ410内部においては
図3における右手を「上流」または「後方」、左手を「下流」または「前方」と定義する。
【0079】
可塑化シリンダ410の先端には、ダイス420が設けられており、ダイス420から溶融樹脂が大気中に押し出されることにより溶融樹脂が押出成形される。可塑化シリンダ410の上部側面には、上流側から順に、熱可塑性樹脂を可塑化シリンダ410に供給するための樹脂供給口401及び物理発泡剤を可塑化シリンダ410内に導入するための2個の導入口402A,402Bが形成される。樹脂供給口401には、樹脂供給用ホッパ411及びフィードスクリュ412が配設され、導入口402A,402Bには、それぞれ導入速度調整容器300A,300Bが配設される。導入速度調整容器300A,300Bは、実施例1で用いた
図4に示す導入速度調整容器300と同様の構造を有する。導入速度調整容器300A,300Bには、物理発泡剤供給機構500が、バッファータンク153、減圧弁151及び圧力計152を介して接続する。また、可塑化シリンダ410の導入口402A,402Bに対向する位置には、圧力をモニターするセンサ(不図示)がそれぞれ設けられている。
【0080】
スクリュ40は、熱可塑性樹脂の可塑化溶融を促進するため、可塑化シリンダ410内において回転自在に配設されている。スクリュ40には、溶融樹脂の流動抵抗を高める機構として、半割り形状のリング46、スクリュ40の大径部分40A,40Bが設けられている。
【0081】
可塑化シリンダ410では、樹脂供給口401から可塑化シリンダ410内に熱可塑性樹脂が供給され、熱可塑性樹脂がバンドヒータ(不図示)によって可塑化されて溶融樹脂となり、スクリュ40が正回転することにより下流に送られる。溶融樹脂は、スクリュ40の大径部分40A及びリング46の存在により、リング46の上流側では、溶融樹脂が圧縮されて圧力が高まり、リング46の下流側では、溶融樹脂が未充満(飢餓状態)となる。更に下流に送られた溶融樹脂は、スクリュ40の大径部分40Bの存在により、圧縮されて圧力が高まり、大径部分40Bの下流側では、再度、溶融樹脂が未充満(飢餓状態)となる。更に下流に送られた樹脂は、押出前に、可塑化シリンダ410の先端付近において再圧縮された後、ダイス420から押出される。
【0082】
これにより、可塑化シリンダ410内では、上流側から順に、熱可塑性樹脂が可塑化溶融される可塑化ゾーン41、溶融樹脂が圧縮されて圧力が高まる第1圧縮ゾーン42A、溶融樹脂が未充満となる第1飢餓ゾーン43A、溶融樹脂が、再度、圧出される第2圧縮ゾーン42B、溶融樹脂が、再度、未充満となる第2飢餓ゾーン43B、飢餓ゾーンにおいて減圧された溶融樹脂が再度圧縮される再圧縮ゾーン44が形成される。スクリュ40に設けられたリング46は、第1圧縮ゾーン42Aの第1飢餓ゾーン43Aとの境界に位置し、スクリュ40の大径部分40A,40Bは、それぞれ、第1圧縮ゾーン42A、第2圧縮ゾーン42Bに配置される。また、物理発泡剤が導入される導入口402A,402Bは、それぞれ、第1飢餓ゾーン43A、第2飢餓ゾーン43Bに設けられる。このように、可塑化シリンダ410では、飢餓ゾーン及び導入口を2個有し、2個の導入口から物理発泡剤を可塑化シリンダに導入する。
【0083】
物理発泡剤供給機構500は、大気中の空気をコンプレッサーで圧縮しながら窒素分離膜を通して窒素を精製する窒素発生装置51と、精製した窒素を所定圧力まで昇圧する、エアー駆動のブースターポンプ52とを有する。
【0084】
製造装置2000において、可塑化シリンダ410の内径は、35mmであり、第1及び第2導入口402A,402Bの内径は、共に8mmであった。したがって、第1及び第2導入口402の内径は、共に可塑化シリンダ410の内径の23%であった。導入速度調整容器300A,300Bの容積は、共に約80mLであった。また、本実施例では、シート状の成形物が得られるよう、押出口が直線(フラット)状のダイス420を用いた。シートの厚みに相当する押出口の隙間の大きさは、0.2mmであった。
【0085】
(2)発泡成形体の製造
まず、物理発泡剤供給機構500の窒素発生装置51において、大気中の空気をコンプレッサーで圧縮しながら窒素分離膜を通して、圧力0.8MPaの窒素を精製した。次に、ブースターポンプ52により精製した窒素を10MPaまで昇圧し、バッファータンク153に蓄圧した。減圧弁151の値を6MPaに設定し、バッファータンク153から、減圧弁151、圧力計152を介して2つの導入速度調整容器300A,300Bに窒素を分配し、更に、導入速度調整容器300A,300Bから、可塑化シリンダ410の第1及び第2飢餓ゾーン43A,43Bへ6MPaの窒素をそれぞれ供給した。
【0086】
可塑化シリンダ410において、バンドヒータ(不図示)により、可塑化ゾーン41を240℃、第1及び第2圧縮ゾーン42A,42Bを250℃、第1及び第2飢餓ゾーン43A,43Bを220℃、再圧縮ゾーン44を240℃に調整した。そして、樹脂供給用ホッパ411から熱可塑性樹脂の樹脂ペレットを供給し、スクリュ40を正回転させた。これにより、可塑化ゾーン41において、熱可塑性樹脂を加熱、混練し、溶融樹脂とした。本実施例では、第1及び第2飢餓ゾーン43A,43Bの飢餓状態を安定に維持するため、フィードスクリュ412を用いて、ホッパ411から可塑化シリンダ410への樹脂ペレットの供給量を制限した。樹脂ペレットの送り量を少なくすることで、可塑化溶融ゾーン41の溶融樹脂を少なくできる。これにより、下流の第1及び第2飢餓ゾーン43A,43Bでの飢餓状態が安定化した。スクリュ40を回転数150rpmで正回転し続けることにより、溶融樹脂を可塑化ゾーン41から第1圧縮ゾーン42Aに流動させ、更に、第1飢餓ゾーン43Aに流動させた。
【0087】
溶融樹脂は、スクリュの大径部分40A及びリング46と、可塑化シリンダ410の内壁との隙間から第1飢餓ゾーン43へ流動するため、第1飢餓ゾーン43への溶融樹脂の供給量が制限された。これにより、リング46の上流側の第1圧縮ゾーン42Aにおいては溶融樹脂が圧縮されて圧力が高まり、下流側の第1飢餓ゾーン43Aにおいては、溶融樹脂が未充満(飢餓状態)となった。第1飢餓ゾーン43Aでは、溶融樹脂が未充満(飢餓状態)であるため、溶融樹脂が存在しない空間に導入口402Aから導入された窒素が存在し、その窒素により溶融樹脂は加圧された。更に、溶融樹脂は下流に送られ、同様に、第2圧縮ゾーン42Bにおいて圧縮され、第2飢餓ゾーン43Bにおいて、再び飢餓状態となり、窒素により加圧された。このように本実施例では、第1及び第2飢餓ゾーン43A,43Bにおいて、物理発泡剤である窒素により溶融樹脂を2回加圧する。これにより、溶融樹脂に浸透する物理発泡剤の量が増加した。
【0088】
更に、溶融樹脂を再圧縮ゾーン44に送り再圧縮した後、ダイス420から大気中に連続的に押出し、長さ10mのシート状の発泡成形体を得た。本実施例では、溶融樹脂をダイス420の押出口の隙間の大きさの5倍に発泡させ、厚み1.0mmのシートを得た。
【0089】
発泡成形体の製造中、常時、圧力センサ(不図示)により可塑化シリンダ410内の第1及び第2飢餓ゾーン43A,43Bの圧力を計測した。その結果、第1及び第2飢餓ゾーン43A,43Bの圧力は、常に6MPaで一定であった。また、第1及び第2飢餓ゾーン43A,43B供給される窒素の圧力を示す圧力計152の値も、発泡成形体の製造中、常時、6MPaであった。以上から、第1及び第2飢餓ゾーン43A,43Bにおいて、押出成形中、常時、6MPaの窒素により溶融樹脂が加圧されていたことが確認できた。また、発泡成形体の製造中、膨出検出機構310は溶融樹脂の膨出を検出せず、第1及び第2飢餓ゾーン43A,43Bの状態が安定であったことが確認された。
【0090】
本実施例では、発泡成形体を連続的に安定して製造できた。この結果から、物理発泡剤の溶融樹脂に対する溶解量(浸透量)が安定化していたことがわかった。また、得られた発泡成形体断面の発泡セル状態を観察した。発泡セルの平均セル径は20μmと微細であった。
【0091】
[実施例5]
本実施例では、実施例1で用いた製造装置1000において、物理発泡剤の導入口202の内径を1mmとした以外は実施例1と同様の射出成形を連続して100ショット行った。したがって、本実施例における導入口202の内径は、可塑化シリンダ210の内径(35mm)の約2.9%であった。
【0092】
本実施例では、50ショットまでは、実施例1と同様の特性を有する発泡成形体を製造することができた。50個の発泡成形体の製造中、実施例1と同様に、可塑化計量工程、射出工程、成形体の冷却工程、取り出し工程等を含む射出成形の1サイクルを通して、飢餓ゾーン23において、4MPaの窒素により溶融樹脂が、常時、加圧されていたこと、及び50個の成形体の連続成形の間、飢餓ゾーン23において、窒素により溶融樹脂が、常時、加圧されていたことが確認できた。
【0093】
しかし、50ショットを越えてから徐々に成形体の発泡性が低下し、80ショット以降は発泡セルを有する成形体を製造することができなかった。100ショットの射出成形後、導入速度調整容器300を取り外して導入口202を確認したところ、導入口202は樹脂が詰まり塞がっていた。導入口202が塞がったため、物理発泡剤の可塑化シリンダ内への導入が阻害され、50ショットを越えて以降、成形体の発泡性が低下したと推測される。本実施例の結果から、連続して発泡成形体を製造する場合には、導入口202の内径が大きい方が好ましいことがわかった。
【0094】
[比較例1]
本比較例では、実施例1で用いた製造装置1000において、導入速度調整容器300に金属の詰め物をして、その容積を1mlとした以外は実施例1と同様の射出成形を連続して100ショット行った。
【0095】
100個の発泡成形体の製造中、常時、圧力センサ(不図示)により可塑化シリンダ210内の飢餓ゾーン23の圧力を計測した。その結果、飢餓ゾーン23の圧力は、4MPa±1MPaの範囲で変動した。物理発泡剤の導入圧力(4MPa)に対する、飢餓ゾーン23の圧力の変動幅(2MPa)は50%であり、本比較例では、飢餓ゾーン23を物理発泡剤の一定圧力に保持することができなかった。この原因は、導入速度調整容器300の容積が小さかったためと推測される。
【0096】
得られた100個の発泡成形体の重量ばらつきを標準偏差(σ)を重量平均値(ave.)で割った値(σ/ave.(%))で評価した。その結果、(σ/ave.)=0.82%であり、実施例1と比較して重量のばらつきが大きかった。また、得られた発泡成形体の表面状態を観察した。その結果、成形体の外観から、成形体の発泡状態が不安定であったことがわかった。
【0097】
[実施例6]
本実施例では、実施例1で用いた製造装置1000において、物理発泡剤の導入口202の内径を33mmとした以外は実施例1と同様の射出成形を連続して2100ショット行った。したがって、本実施例における導入口202の内径は、可塑化シリンダ210の内径(35mm)の約94%であった。
【0098】
最初の100ショット、即ち、始めの100個の発泡成形体の製造中、常時、圧力センサ(不図示)により可塑化シリンダ210内の飢餓ゾーン23の圧力を計測した。その結果、飢餓ゾーン23の圧力は、常に4MPaで一定であった。また、飢餓ゾーン23へ供給される窒素の圧力を示す圧力計152の値も、発泡成形体の製造中、常時、4MPaであった。以上から、可塑化計量工程、射出工程、成形体の冷却工程、取り出し工程等を含む射出成形の1サイクルを通して、飢餓ゾーン23において、4MPaの窒素により溶融樹脂が、常時、加圧されていたこと、及び100個の成形体の連続成形の間、飢餓ゾーン23において、窒素により溶融樹脂が、常時、加圧されていたことが確認できた。また、100個の発泡成形体の製造中、膨出検出機構310は溶融樹脂の膨出を検出せず、飢餓ゾーン23の状態が安定であったことが確認された。
【0099】
得られた100個の発泡成形体の重量ばらつきを標準偏差(σ)を重量平均値(ave.)で割った値(σ/ave.(%))で評価した。その結果、(σ/ave.)=0.21%であった。同様の評価をソリッド成形体(無発泡の成形体)で行ったところ、(σ/ave.)=0.18%で、本実施例と同等の値であった。この結果から、本実施例の発泡成形体の重量安定性は、ソリッド成形体と同等であることがわかった。
【0100】
本実施例では、ソリッド成形体と比較して比重が約10%程度軽く、ソリが矯正された発泡成形体を連続的に安定して製造できた。比重低減率は、物理発泡剤の溶解量(浸透量)に影響を受けると考えられる。この結果から、物理発泡剤の溶融樹脂に対する溶解量(浸透量)が安定化していたことがわかった。また、分離したガスが成形体表面にて転写して表面性を悪化させるスワールマークは、僅かな発生にとどまっていた。更に、得られた発泡成形体断面の発泡セル状態を観察した。この結果、発泡セルの平均セル径は20μmと微細であることがわかった。
【0101】
更に、本実施例では、2000ショットを越えても、先に評価した100個の成形体と同等の特性を有する成形体を安定に成形できることが確認できた。
【0102】
[実施例7]
本実施例では、実施例1で用いた製造装置1000において、物理発泡剤の導入口202の内径を37mmとした以外は実施例1と同様の射出成形を連続して1100ショット行った。したがって、本実施例における導入口202の内径は、可塑化シリンダ210の内径(35mm)の約106%であった。
【0103】
最初の50ショット、即ち、始めの50個の発泡成形体の製造中、常時、圧力センサ(不図示)により可塑化シリンダ210内の飢餓ゾーン23の圧力を計測した。その結果、50個の発泡成形体の製造中、実施例1と同様に、可塑化計量工程、射出工程、成形体の冷却工程、取り出し工程等を含む射出成形の1サイクルを通して、飢餓ゾーン23において、4MPaの窒素により溶融樹脂が、常時、加圧されていたこと、及び50個の成形体の連続成形の間、飢餓ゾーン23において、窒素により溶融樹脂が、常時、加圧されていたことが確認できた。
【0104】
本実施例では、50ショットを越えても安定に成形体を成形できていた。しかし、1000ショット程度において成形体にヤケ(焼け)が発生し始めた。「ヤケ(焼け)」とは、成形体の表面に黒い燃焼物が発生する現象である。1100ショットの射出成形後、導入速度調整容器300を取り外して導入口202を確認したところ、導入口202の周囲に変色した樹脂が付着していた。本実施例では、導入口202が可塑化シリンダ210の内径の約106%と、やや大きい。このため、導入口202近傍で溶融樹脂の滞留が発生し、これが成形体のヤケの原因になったと推測される。
【0105】
[実施例8]
本実施例では、実施例1で用いた製造装置1000において、物理発泡剤の導入口202の内径を5mmとした以外は実施例1と同様の射出成形を連続して400ショット行った。したがって、本実施例における導入口202の内径は、可塑化シリンダ210の内径(35mm)の約14%であった。
【0106】
最初の50ショット、即ち、始めの50個の発泡成形体の製造中、常時、圧力センサ(不図示)により可塑化シリンダ210内の飢餓ゾーン23の圧力を計測した。その結果、50個の発泡成形体の製造中、実施例1と同様に、可塑化計量工程、射出工程、成形体の冷却工程、取り出し工程等を含む射出成形の1サイクルを通して、飢餓ゾーン23において、4MPaの窒素により溶融樹脂が、常時、加圧されていたこと、及び50個の成形体の連続成形の間、飢餓ゾーン23において、窒素により溶融樹脂が、常時、加圧されていたことが確認できた。
【0107】
本実施例では、50ショットを越えても、安定に成形体を成形できていた。しかし、200ショットを越えてから徐々に成形体の発泡性が低下し、300ショット以降は発泡セルを有する成形体を製造することができなかった。400ショットの射出成形後、導入速度調整容器300を取り外して導入口202を確認したところ、導入口202は樹脂が詰まり塞がっていた。導入口202が塞がったため、物理発泡剤の可塑化シリンダ内への導入が阻害され、200ショットを越えて以降、成形体の発泡性が低下したと推測される。本実施例の結果から、連続して発泡成形体を製造する場合には、導入口202の内径がある程度大きい方が好ましいことがわかった。