特許第6204006号(P6204006)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6204006無機粒子凝集体の製造方法、無機粒子凝集体及び紙の製造方法
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  • 特許6204006-無機粒子凝集体の製造方法、無機粒子凝集体及び紙の製造方法 図000003
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6204006
(24)【登録日】2017年9月8日
(45)【発行日】2017年9月27日
(54)【発明の名称】無機粒子凝集体の製造方法、無機粒子凝集体及び紙の製造方法
(51)【国際特許分類】
   D21H 17/69 20060101AFI20170914BHJP
   D21H 17/29 20060101ALI20170914BHJP
   D21H 17/67 20060101ALI20170914BHJP
【FI】
   D21H17/69
   D21H17/29
   D21H17/67
【請求項の数】5
【全頁数】18
(21)【出願番号】特願2012-193602(P2012-193602)
(22)【出願日】2012年9月3日
(65)【公開番号】特開2014-47451(P2014-47451A)
(43)【公開日】2014年3月17日
【審査請求日】2015年8月27日
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】390029148
【氏名又は名称】大王製紙株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100120329
【弁理士】
【氏名又は名称】天野 一規
(72)【発明者】
【氏名】村瀬 裕紀
【審査官】 長谷川 大輔
(56)【参考文献】
【文献】 特開2012−057258(JP,A)
【文献】 特開2008−031593(JP,A)
【文献】 特開昭60−119299(JP,A)
【文献】 特開2005−133239(JP,A)
【文献】 特開2009−263798(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
D21B1/00−1/38
D21C1/00−11/14
D21D1/00−99/00
D21F1/00−13/12
D21G1/00−9/00
D21H11/00−27/42
D21J1/00−7/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
無機粒子を水中に分散する工程と、
上記分散工程後のスラリー中に、0.25質量%以上の窒素を含有するカチオン化澱粉を添加し、上記無機粒子を凝集させる工程と
上記凝集工程の前に、珪酸アルカリ塩及び鉱酸により無機粒子にシリカを複合する工程と
を有するパルプスラリー添加用の無機粒子凝集体の製造方法。
【請求項2】
上記無機粒子が製紙スラッジを主原料とし、脱水、熱処理及び粉砕工程を経て得られた再生粒子である請求項1に記載の無機粒子凝集体の製造方法。
【請求項3】
上記カチオン化澱粉の使用量が、無機粒子100質量部に対して0.5質量部以上5質量部以下である請求項1又は請求項2に記載の無機粒子凝集体の製造方法。
【請求項4】
上記無機粒子凝集体の体積平均粒子径D50が6μm以上16μm以下であり、かつ体積70%粒子径D70に対する体積30%粒子径D30の比D30/D70が0.4以上である請求項1、請求項2又は請求項3に記載の無機粒子凝集体の製造方法。
【請求項5】
請求項1から請求項のいずれか1項に記載の製造方法により製造された無機粒子凝集体をパルプスラリーに添加する工程を有する紙の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、無機粒子凝集体の製造方法、無機粒子凝集体及び紙の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
紙の白色度、不透明度、印刷適性などを改善するために、紙には様々な填料が内添される。このような填料の紙への内添は、パルプスラリーに填料スラリーを添加することによって行うのが一般的である。この際、不透明度等の紙の品質向上を意図して填料添加量を増加させても、填料添加における機能向上効果が頭打ちになり、更に引っ張り強度や引裂き強度等の紙力低下問題を引き起こすと共に、過剰な填料は、紙中に残留しにくくなり、填料の歩留まりが低下する。
【0003】
そこで、抄紙の際に填料を紙中に留まらせる各種方法が提案されている。例えば、歩留向上剤として、パルプスラリーに高分子物質を添加する方法がある。この高分子物質としては、カチオン化澱粉等の天然高分子誘導体や、ポリエチレンイミン等の合成高分子物質が挙げられる。また、填料の水分散液(スラリー)中において、填料をカチオン性澱粉等の凝集剤で予め凝集させ、この水分散液をパルプスラリーに添加し、抄紙する方法が提案されている(特開2005−194656号公報参照)。
【0004】
しかしながら、上記公報に示されるカチオン性澱粉で凝集された填料は、粒度分布がブロードになりやすく、パルプスラリーに添加した際にパルプ中での分散性が低い。そのため、紙質改善効果が十分得られない場合がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2005−194656号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、上述した実情に鑑みてなされたもので、紙へ添加した際の歩留りがよく、高い紙質改善効果を奏する無機粒子凝集体の製造方法の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは填料凝集体における上述した粒度分布の不都合を解消すべく鋭意検討した結果、0.25質量%以上の窒素を含有するカチオン性高分子を用いて無機粒子を凝集することでシャープな粒度分布の無機粒子凝集体が得られることを見出し、本発明に至った。従来の凝集剤を用いた場合、凝集前の粒径が大きい無機粒子は凝集し易い一方で粒径の小さい無機粒子は凝集され難いなど、粒径によって凝集効果に差異が発生し、凝集後に粒径分布のピークが複数形成される場合がある。これに対し、窒素を多く含むカチオン性高分子で凝集を行うと、粒径に関わらず一定量の粒子が凝集して凝集体を形成するため、平均粒径が大きくかつ粒度分布がシャープな無機粒子凝集体を得ることができる。窒素を多く含むカチオン性高分子がこのような凝集特性を奏する理由は定かではないが、原子半径が小さく配位結合力の高い窒素の作用により、粒径の小さい無機粒子に対しても一定の凝集効果を発揮することが一因として考えられる。また特に、無機粒子としてシリカ複合粒子を用いた場合には、シリカのアニオン性と相まって、安定した凝集体を形成できるものと考えられる。
【0008】
上記課題を解決するためになされた発明は、
0.25質量%以上の窒素を含有するカチオン性高分子により無機粒子を凝集させる工程を有する無機粒子凝集体の製造方法である。
【0009】
当該製造方法によれば、0.25質量%以上の窒素を含有するカチオン性高分子によって無機粒子を凝集させるため、平均粒径が大きくかつ粒度分布がシャープな無機粒子凝集体を得ることができる。また、得られる無機粒子凝集体は、表面がカチオン化されるため、アニオン性であるパルプ繊維に対する定着性が高い。そのため、当該製造方法によって、紙へ添加した際の歩留り及び分散性が高く、白色度、不透明度、印刷適性等の紙質を効果的に改善できる無機粒子凝集体を得ることができる。
【0010】
上記凝集工程の前に、珪酸アルカリ塩及び鉱酸により無機粒子にシリカを複合する工程をさらに有するとよい。このように無機粒子にシリカを複合し、このシリカ複合粒子を凝集させることで、高い白色度、不透明度、吸油度を有する無機粒子を得られると同時に、シリカのアニオン性によって無機粒子が安定して凝集するため、当該製造方法は、さらに高い歩留り及び分散性を発揮する無機粒子凝集体を製造することができる。
【0011】
上記無機粒子が製紙スラッジを主原料とし、脱水、熱処理及び粉砕工程を経て得られた再生粒子であるとよい。このような再生粒子を無機粒子として用いることによって、当該製造方法によって、さらに高い不透明度、吸油度等を発揮する無機粒子凝集体を得ることができる。また、製紙スラッジの再利用により環境負荷を低減することができる。
【0012】
上記カチオン性高分子の使用量が、無機粒子100質量部に対して0.5質量部以上5質量部以下であるとよい。当該製造方法において、このようにカチオン性高分子の使用量を上記範囲とすることで、平均粒径が大きく粒度分布がよりシャープな無機粒子凝集体を得ることができる。
【0013】
上記無機粒子凝集体の体積平均粒子径D50が6μm以上16μm以下であり、かつ体積70%粒子径D70に対する体積30%粒子径D30の比D30/D70が0.4以上であるとよい。このD70に対するD30の比は粒子径分布のシャープ性の度合いを示し、この比を上記上限以上とすることで、無機粒子凝集体の体積分布がパルプスラリーに添加するのに好適なシャープ性を有するため、当該製造方法によって紙層中でさらに高い分散性を発揮する無機粒子凝集体を得ることができる。
【0014】
また、本発明の製造方法により得られる無機粒子凝集体は、パルプ原料に添加した際に高い歩留り及び分散性を有する。
【0015】
また、本発明の紙の製造方法は、当該製造方法によって得られた無機粒子凝集体をパルプスラリーに添加するため、白色度、不透明度、印刷適性等の紙質が向上した紙を得ることができる。
【0016】
ここで、「体積平均粒子径」、「体積70%粒子径」及び「体積30%粒子径」とは、レーザー回析散乱法により測定された粒度分布が累積体積分布の小径側からそれぞれ累積50%、70%及び30%に相当する粒子径を意味する。
【発明の効果】
【0017】
以上説明したとおり、本発明の無機粒子凝集体の製造方法によれば、紙へ添加した際の歩留りがよく、高い紙質改善効果を奏する無機粒子凝集体を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】本発明の無機粒子凝集体の製造方法に用いられる装置を示す模式的概要図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、適宜図面を参照しつつ本発明の無機粒子凝集体の製造方法について詳説する。
【0020】
<無機粒子凝集体の製造方法>
当該無機粒子凝集体の製造方法は、0.25質量%以上の窒素を含有するカチオン性高分子により無機粒子を凝集させる凝集工程を有する。
【0021】
当該無機粒子凝集体の製造方法で用いる無機粒子としては、特に限定されるものではなく、例えば炭酸カルシウム、タルク、二酸化チタン、クレー、焼成クレー、合成ゼオライト、再生粒子等を用いることができる。これらの中でも高い白色度及び不透明度を発揮し、環境負荷の低減にも寄与する再生粒子が好ましい。当該製造方法においては、この再生粒子として製紙スラッジを主原料とし、脱水、熱処理及び粉砕工程を経ることによって過燃焼が抑えられたものを用いることで、スラリー化の際の増粘を抑制することができる。なお、この再生粒子の好ましい製造方法については、後に詳述する。
【0022】
当該無機粒子凝集体の製造方法は、上記凝集工程前に、珪酸アルカリ塩及び鉱酸により無機粒子にシリカを複合するシリカ複合工程をさらに有することが好ましい。無機粒子にシリカを複合することで、粗大粒子の発生を抑えながらシャープな粒度分布の粒子を得ることができる。
【0023】
当該無機粒子凝集体の製造方法は、例えば、
(1)無機粒子及び珪酸アルカリ塩を含有するスラリーを得るスラリー調製工程、
(2)上記スラリーに鉱酸を添加する反応工程、
(3)上記スラリーにカチオン性高分子を添加する凝集工程
を有する。
【0024】
当該無機粒子凝集体の製造方法に用いられる図1の装置は、第一シリカ複合反応槽1、第二シリカ複合反応槽2、凝集反応槽3及び貯槽4をこの順に備える。
【0025】
無機粒子X1は、第一シリカ複合反応槽1でスラリー調整工程が行われた後、第一シリカ複合反応槽1及び第二シリカ複合反応槽2で反応工程が行われて、シリカが複合されたシリカ複合粒子X2となる。その後、このシリカ複合粒子X2は、凝集反応槽3で凝集され、無機粒子凝集体X3となって貯槽4に貯留される。
【0026】
<(1)スラリー調製工程>
(1)スラリー調製工程においては、複合粒子の原料となる無機粒子と珪酸アルカリ塩とを含有するスラリーを調製する。このスラリーは、例えば、無機粒子X1を珪酸アルカリ溶液Lに添加して分散させることによって調製してもよく、また、無機粒子X1を水に分散させた後に珪酸アルカリ溶液Lを添加して調製してもよい。この無機粒子X1の好ましい製造方法については、後に詳述する。
【0027】
<粒径調節工程>
当該製造方法においては、無機粒子X1の体積平均粒子径をシリカ複合等に好適な範囲とするための粒径調節工程を行うことが好ましい。この粒径調節工程においては、無機粒子X1の体積平均粒子径が好適な範囲となるように粉砕、分級等を行う。無機粒子X1の粉砕手段として用いられる粉砕機としては、例えば、ジェットミル、高速回転式ミル等の乾式粉砕機、又はアトライター、サンドグラインダー、ボールミル等の湿式粉砕機等を用いることができる。
【0028】
上記無機粒子X1の体積平均粒子径は、特に限定されるものではないが、その下限としては、0.05μmが好ましく、0.1μmがさらに好ましい。一方、無機粒子X1の体積平均粒子径の上限としては、3.0μmが好ましく、2.8μmがさらに好ましい。無機粒子X1の体積平均粒子径が上記下限未満の場合、十分な粒子径の無機粒子凝集体を得るのに多数の粒子による凝集が必要となって凝集体が脆くなるため、抄紙工程において凝集体が崩れて無機粒子凝集体の歩留りが十分に得られないおそれがある。逆に、無機粒子X1の体積平均粒子径が上記上限を超える場合、無機粒子X1の粒度分布がブロードになって、凝集を行ってもシャープな粒度分布が得られず、結果としてシリカ複合効果が不十分となるおそれがあるほか、粗大な粒径の粒子の存在により当該製造方法で得られる無機粒子凝集体を添加した紙の品質が劣化するおそれがある。なお、この無機粒子X1の体積平均粒子径は、レーザー回折方式の粒度分布計(日機装株式会社製、型番:マイクロトラックMTII−3000)を使用して試料(無機粒子粒子X1)の粒度分布を測定し、全粒子の体積に対する累積体積が50%になるときの粒子径(D50)を求め、この粒子径を体積平均粒子径とするものである。
【0029】
当該製造方法において用いる珪酸アルカリ溶液Lは、特に限定されるものではないが、珪酸ナトリウム溶液(3号水ガラス)を用いることが入手性の点で好ましい。
【0030】
珪酸アルカリ溶液L中の珪酸濃度の下限としては、6g/Lが好ましく、8g/Lがさらに好ましく、10g/L以下が特に好ましい。一方、珪酸濃度の上限としては、18g/Lが好ましく、16g/Lがさらに好ましく、14g/Lが特に好ましい。珪酸濃度が上記範囲未満の場合は、シリカゾルが十分に生成されないため、シリカが複合されない無機粒子X1が生じるおそれがある。逆に、珪酸濃度が上記範囲を超える場合は、シリカゾルではなくホワイトカーボンが生成され、無機粒子X1がホワイトカーボンで被覆されることによって、無機粒子X1の多孔性が失われ、当該製造方法によって得られる無機粒子凝集体の白色度、不透明度及び吸油度が低下するおそれがある。
【0031】
本工程において無機粒子X1と珪酸アルカリ塩とを含有するスラリーにおける無機粒子X1の濃度の下限としては、95g/Lが好ましく、100g/Lがさらに好ましく、105g/Lが特に好ましい。一方、無機粒子X1の濃度の上限としては、125g/Lが好ましく、120g/Lがさらに好ましく、115g/Lが特に好ましい。無機粒子X1の濃度が上記範囲未満の場合は、シリカ生成反応が鈍くなり複合粒子の生産性が悪化するおそれがある。逆に、無機粒子X1の濃度が上記範囲を超える場合は、スラリーの粘度が上昇して無機粒子X1の分散性が低下するおそれがある。
【0032】
また、上記スラリー中の珪酸濃度(SiO2換算)としては、5質量%以上15質量%以下が好ましい。上記珪酸濃度が上記範囲未満の場合は、シリカ複合効果が弱化し、得られる複合粒子の白色度、不透明度及び吸油度が低下するおそれがある。逆に、上記珪酸濃度が上記範囲を超える場合は、当該製造方法で得られる無機粒子凝集体が添加された紙の塗工液の吸収能力が大きくなるため、塗工層を設ける場合に塗工層表面の平坦性が低下するおそれがある。
【0033】
珪酸アルカリ溶液Lを無機粒子X1含有スラリーに添加する際、又は無機粒子X1を珪酸アルカリ溶液Lに添加する際の珪酸アルカリ溶液Lの温度としては、特に限定されないが、50℃以上が好ましい。珪酸アルカリ溶液Lを50℃以上に加温した状態で無機粒子X1と混合した場合、流動性の向上によってスラリーを容易に均質化することができる。
【0034】
<(2)反応工程>
(2)反応工程においては、上記スラリーに鉱酸Nを添加し、スラリーのpHを低下させて、無機粒子X1の表面にシリカを析出させたシリカ複合粒子X2を得る。
【0035】
本工程は具体的には、上記スラリーの液温が70〜100℃となるように加熱攪拌しながら、密閉容器内で所定の圧力に保持し、スラリーに含まれる珪酸アルカリ溶液Lが20〜50%中和される量の鉱酸Nを添加する。これによって、シリカの原料となる珪酸アルカリが、硫酸、塩酸、硝酸などの鉱酸Nの希釈液と高温下で反応し、加水分解反応と珪酸の重合化によってシリカゾル微粒子が生成し、無機粒子X1の表面に析出する。なお、シリカゾル微粒子の粒子径は、反応時の攪拌条件、鉱酸Nの添加条件等によって調節することができる。
【0036】
当該製造方法において用いる鉱酸Nとしては、特に限定されるものではなく、例えば、硫酸、塩酸、硝酸等を用いることができる。これらの中でも、コスト及びハンドリングの観点から硫酸が特に好ましい。
【0037】
当該製造方法において用いる鉱酸Nの濃度としては、0.1mol/L以上5.0mol/L以下が好ましい。鉱酸Nの濃度が上記範囲未満の場合、シリカの生成速度が遅くなってシリカが十分形成されないおそれがある。逆に、鉱酸Nの濃度が上記範囲を超える場合、局部的な反応が生じて、シリカが偏在して形成され、得られる複合粒子の歩留り向上効果等が低下するおそれがある。また、本工程における鉱酸Nの添加量は、珪酸アルカリの中和率が50%以上75%以下となる量が好ましい。
【0038】
本工程における攪拌時の上記スラリーの温度としては70℃以上100℃以下が好ましい。スラリーの温度はシリカゾルの生成及び成長に影響を及ぼすため、スラリーの温度が上記範囲未満の場合、シリカが生成されないおそれや、シリカゾルの生成及び成長の速度が遅くなってシリカが十分な強度で無機粒子X1と複合されないため、抄紙時にシリカが剥離するおそれがある。逆に、スラリーの温度が上記範囲を超える場合、製造が困難になるほか、無機粒子X1の表面に緻密にシリカが形成されるため、得られる複合粒子の吸油度が低下するおそれがある。
【0039】
本工程におけるスラリーのpHとしては8以上11以下が好ましく、8.5以上10.5以下がさらに好ましい。pHが上記範囲未満の場合、鉱酸の過剰添加によって、無機粒子に含まれるカルシウム成分が水酸化カルシウムに変化しやすくなり、スラリーの粘度が増大するおそれがある。まt、シリカゾルではなくホワイトカーボンが生成され、当該製造方法によって得られる無機粒子凝集体の白色度、不透明度及び吸油度が低下するおそれがある。逆に、pHが上記範囲を超える場合、珪酸アルカリ塩と鉱酸との反応が鈍って無機粒子X1の表面にシリカが析出されにくくなるため、得られる複合粒子の不透明度が低下するおそれがある。
【0040】
本工程においては、ホワイトカーボンの析出を抑えて、シリカをより均質に無機粒子X1の表面に析出させるために、上記スラリーに鉱酸Nを2段階で添加することが好ましい。この場合、第一段階でスラリーに含まれる珪酸アルカリ溶液Lが20〜50%中和される量の鉱酸Nを添加し、その後第一段階よりも液温を10℃以上上昇させて、最終反応液のpHが8以上11以下となるように鉱酸Nを添加することによって、均質なシリカ複合粒子X2を得ることができる。
【0041】
本工程を得て得られるシリカ複合粒子X2の体積平均粒子径の下限としては、3.5μmが好ましく、5.5μmがさらに好ましい。一方、シリカ複合粒子X2の体積平均粒子径の上限としては、9.0μmが好ましく、6.5μmがさらに好ましい。シリカ複合粒子X2の体積平均粒子径が上記下限未満の場合、当該製造方法で得られる無機粒子凝集体の歩留まり向上効果が十分得られないおそれがある。逆に、シリカ複合粒子X2の体積平均粒子径が上記上限を超える場合、粗大な粒径の粒子の存在により当該製造方法で得られる無機粒子凝集体を添加した紙の品質が劣化するおそれがある。
【0042】
<(3)凝集工程>
(3)凝集工程においては、シリカ複合粒子X2を0.25質量%以上の窒素を含有するカチオン性高分子により凝集させて、無機粒子凝集体X3を得る。
【0043】
この凝集工程においては、凝集反応槽3内のシリカ複合粒子X2を水中へ分散させた複合粒子スラリーへ、上記カチオン性高分子Pを添加する。複合粒子スラリーにおけるシリカ複合粒子X2の固形分濃度としては、10質量%以上40%質量以下が好ましく、12質量%以上35質量%以下がさらに好ましい。複合粒子スラリーの濃度を上記範囲とすることで、複合粒子の凝集性の効率化とスラリー粘度の上昇の抑制との両立を図ることができる。複合粒子スラリーの濃度が上記範囲未満の場合、カチオン性高分子の添加によっても、複合粒子が好適なサイズにまで凝集しないおそれがある。一方、複合粒子スラリーの濃度が上記範囲を超える場合、粘度が高くなりすぎて作業性が低下するおそれや、無機粒子凝集体の粒度分布が広がりすぎて歩留りが低下するおそれがある。
【0044】
シリカ複合粒子スラリーへ添加するカチオン性高分子Pとしては、0.25質量%以上の窒素を含有し、複数の粒子をシャープな粒度分布で凝集させることができるものであれば特に限定されず、例えば公知のカチオン化澱粉を用いることができる。このカチオン化澱粉としては、具体的にはトウモロコシ、馬鈴薯、タピオカ、甘薯、小麦、米などから得られる澱粉に第一級、第二級、第三級アミン及び第四級アンモニウム基のいずれか一種以上を導入した窒素原子を有するカチオン化澱粉を用いることができる。これらの中でもpHに左右されずに凝集効果を発揮する第四級アンモニウム基を有するカチオン化澱粉が好ましい。
【0045】
本工程で用いるカチオン性高分子Pの窒素含有量としては、0.25質量%以上であるが、0.28質量%以上1質量%以下がさらに好ましく、0.30質量%以上1質量%以下が特に好ましい。カチオン性高分子の窒素含有量が上記範囲未満の場合、平均粒径が大きくかつ粒度分布がシャープな無機粒子凝集体が得られないおそれがある。逆に、カチオン性高分子の窒素含有量が上記範囲を超える場合、カチオン性高分子の製造が困難になるおそれがある。
【0046】
本工程で用いるカチオン性高分子Pのアニオンデマンドとしては、260μeq/l以上500μeq/l以下が好ましく、285μeq/l以上μeq/500l以下がより好ましい。アニオンデマンドが上記範囲未満の場合、凝集効果が低下して平均粒径が大きくかつ粒度分布がシャープな無機粒子凝集体が得られないおそれがある。逆に、アニオンデマンドが上記範囲を超える場合、窒素含有量を顕著に増加させる必要があるため、カチオン性高分子の製造が困難になるおそれがある。なお、アニオンデマンドとは、カチオン性高分子の電荷の総量であり、カチオンデマンド測定装置で計測される。
【0047】
カチオン性高分子Pの添加量としては、無機粒子(複合粒子)100質量部に対して0.5質量部以上5質量部以下が好ましく、1質量部以上3質量部以下がより好ましい。カチオン性高分子Pの添加量が上記範囲未満の場合、十分な凝集効果が得られないおそれがある。逆に、カチオン性高分子Pの添加量が上記範囲を超える場合、無機粒子凝集体の吸油度等の諸特性が低下するおそれがある。
【0048】
なお、本工程において、無機粒子(複合粒子)を含有するスラリーに微細な振動を加えながらカチオン性高分子Pを添加するとよい。微細な振動を加えながら無機粒子を凝集させると、無機粒子が分散しながら凝集するため、無機粒子凝集体の均質性を向上させることができる。この微細な振動を加える方法としては、物理的な振動を無機粒子に加えられるものであれば限定されず、例えば、超音波照射、攪拌等を挙げることができる。
【0049】
上記スラリー調製工程、反応工程及び凝集工程は、所定の処理量毎にこれらの工程を繰り返すバッチ式、又は連続して各工程を実行する連続式で行うことができるが、生産効率の観点からは、連続式を採用することが好ましい。
【0050】
上記スラリー調製工程、反応工程及び凝集工程を連続式で行う場合は、例えば次のような手順で図1に従って無機粒子凝集体を製造することができる。この手順では、反応工程で鉱酸Nを2段階で添加する。まず、第一シリカ複合反応槽1に連続的に無機粒子X1、珪酸アルカリ溶液L及び鉱酸Nを供給し、所定の温度及び圧力下でこれらを撹拌し、スラリー調整工程及び反応工程の一部を同時に行う。この第一シリカ複合反応槽1で得られたスラリーは、第二シリカ複合反応槽2に連続的に移送される。第二シリカ複合反応槽2に移送された上記スラリーはさらに鉱酸Nが添加され、連続的に凝集反応槽3に移送される。第二シリカ複合反応槽2は一定の容積を有するため、上記スラリーが凝集反応槽3に移送されるまでの間にシリカの生成及び成長が進行し、無機粒子X1はシリカ複合粒子X2となって凝集反応槽3に連続的に供給される。このシリカ複合粒子X2を含有するスラリーに凝集反応槽3でカチオン性高分子Pが添加され、無機粒子凝集体X3が形成される。その後、この無機粒子凝集体X3を含むスラリーは貯槽4に移送及び貯留され、填料、顔料等として抄紙製造ラインに供給される。
【0051】
<複合粒子>
当該製造方法によって得られる無機粒子凝集体の体積平均粒子径の下限としては、6μmが好ましく、7μmがさらに好ましく、8μmがより好ましい。一方、無機粒子凝集体の体積平均粒子径の上限としては、16μmが好ましく、13μmがさらに好ましく、12μmがより好ましい。無機粒子凝集体の体積平均粒子径が上記範囲未満の場合、歩留り向上効果が十分得られないおそれがある。逆に、無機粒子凝集体の体積平均粒子径が上記範囲を超える場合、無機粒子凝集体の分散性が低下するおそれがある。
【0052】
当該製造方法によって得られる無機粒子凝集体の体積70%粒子径D70に対する体積30%粒子径D30の比D30/D70としては、0.4以上が好ましく、0.45以上がより好ましく、0.5以上がさらに好ましい。D30/D70が上記下限未満の場合、無機粒子凝集体の粒度分布がシャープとならないため、紙へ添加した際の歩留りの改善効果が十分得られないおそれや、無機粒子凝集体の分散性が低下するおそれがある。
【0053】
当該製造方法によって得られる無機粒子凝集体における酸化物換算でのシリカの比率としては、1質量%以上20質量%以下が好ましい。シリカの比率が上記範囲未満の場合、無機粒子凝集体の表面が十分に被覆されていないため、無機粒子凝集体の歩留り向上効果が低下するおそれがある。逆に、シリカの比率が上記範囲を超える場合、シリカの析出量が過度となり、無機粒子凝集体の白色度、不透明度及び吸油度が低下するおそれがある。
【0054】
本工程を経て得られる無機粒子凝集体の吸油度の下限としては、50ml/100gが好ましく、70ml/100gがさらに好ましい。一方、無機粒子凝集体の吸油度の上限としては、150ml/100gが好ましく、100ml/100gがさらに好ましい。無機粒子凝集体の吸油度を上記範囲とすることで、無機粒子凝集体が添加された紙のインク乾燥性等を向上させることができる。吸油度が上記範囲未満の場合、無機粒子凝集体が添加された紙のインク乾燥性向上の効果が得られないおそれがある。逆に、吸油度が上記範囲を超える場合、無機粒子凝集体が添加された紙のインクの吸収性が高くなりすぎて、インクの沈み込みによる発色性の劣化が生じるおそれがある。
【0055】
上記製造方法で得られる無機粒子凝集体は、適度な粒子径及び粒度分布を有するため、填料として紙へ添加した際の歩留りが高い。また、高い白色度、不透明度、吸油度を有するため、添加された紙の白色度、不透明度、インク乾燥性等を向上させることができる。
【0056】
<紙の製造方法>
本発明の紙の製造方法は、上記製造方法で得られる無機粒子凝集体をパルプスラリーに添加する添加工程を有する。具体的な形態としては、例えば上記添加工程と、上記無機粒子凝集体含有スラリーが添加されたパルプスラリーを抄紙する抄紙工程とを有する製造方法を挙げることができる。
【0057】
上記添加工程においては、あらかじめ上記製造方法において無機粒子をカチオン性高分子により凝集した無機粒子凝集体を、紙の原料パルプを含有するパルプスラリーに添加する。
【0058】
この原料パルプとしては、紙の製造原料として公知のものを用いることができる。また、上記パルプスラリーには、助剤として、サイズ剤、紙力剤等を適宜配合することができる。さらには、上記パルプスラリーには、上記無機粒子凝集体以外の他の填料を配合してもよい。この他の填料としては、例えば、軽質又は重質炭酸カルシウム、クレー、焼成カオリン、タルク、二酸化チタン、ホワイトカーボン等の公知のものを一種又は二種以上組み合わせて用いることができる。なお、不透明度、白色度、価格等の面から、軽質炭酸カルシウムを併用することが好適である。
【0059】
上記抄紙工程においては、上記添加工程にて無機粒子凝集体が添加されたパルプスラリーを抄紙することによって、紙を得ることができる。この抄紙方法としては、特に限定されず、公知の抄紙機によって抄紙することができる。また、必要に応じ、抄紙後に紙表裏面へのサイズ剤の塗布、カレンダー装置への通紙による加圧、平滑化処理等を施してもよい。
【0060】
当該紙の製造方法で得られる紙は、当該無機粒子凝集体の製造方法で得られる無機粒子凝集体が内添されているため、高い紙質を有する。
【0061】
<再生粒子の製造方法>
本発明の製造方法に好適に用いることができる再生粒子は、公知の製造方法で製造することができる。以下、再生粒子の原料並びに脱水、熱処理及び粉砕について説明する。なお、熱処理工程と粉砕工程との間に、配合・スラリー調製工程を有することが好ましく、さらに必要に応じてその他の工程を設けることができる。
【0062】
(原料)
再生粒子の原料としては、主原料として製紙スラッジが用いられ、製紙スラッジの中でも、脱墨フロスが好適に用いられる。脱墨フロスとは、古紙パルプを製造する古紙処理工程において、主に、古紙に付着したインクを取り除く脱墨工程でパルプ繊維から分離されるものをいう。
【0063】
(脱水工程)
脱水工程は、脱墨フロス等の原料の水分を所定割合まで除去する工程である。例えば、古紙パルプを製造する脱墨工程においてパルプ繊維から分離された脱墨フロスは、種々の操作を経て、公知の脱水設備により脱水される。
【0064】
脱水後の原料(脱墨フロス)は、40%以上、好ましくは40%以上90%未満、より好ましくは45%以上70%以下、特に好ましくは50%超60%以下の高含水状態とするとよい。また、脱水後の原料は、熱処理工程に供給する前に、粉砕機(又は解砕機)等により、平均粒子径40mm以下、好ましくは平均粒子径3mm〜30mm、より好ましくは平均粒子径5mm〜20mmに粒子径を揃えると好適であり、また、粒子径50mm以下の割合が70質量%以上となるように粒子径を揃えると好適である。上記脱水工程及び後述する各熱処理工程における平均粒子径は、JIS−Z−8801−2(2000)に基づき、金属製の板ふるいにて測定したものであり、粒子径の割合は、ふるいわけた後に粒子径ごとの重量を測定して算出した値である。
【0065】
(熱処理工程)
熱処理工程は、脱水された原料の更なる水分除去のための乾燥と、比較的低温の第1の燃焼とを一連で行う第1熱処理工程、及び第1熱処理工程で得られた熱処理物を再度、第1熱処理工程より高温で熱処理(燃焼)する第2熱処理工程を含む。このように順に温度を上げていく2段階の熱処理工程を経ることで、原料の過燃焼を抑え、得られる再生粒子をスラリー化した際の増粘を抑制することができる。また、熱処理温度としては、比較的低温で行うことで、同様に原料の過燃焼を抑え、得られる再生粒子をスラリー化した際の増粘を抑制することができる。
【0066】
(第1熱処理工程)
脱水工程を経た原料は、第1熱処理工程として、例えば本体が横置きで中心軸周りに回転する内熱キルン炉を用いて、熱処理される。
【0067】
第1熱処理工程における熱処理温度(例えば、内熱キルン炉の炉内温度)は、300℃以上500℃未満、好ましくは400℃以上500℃未満、より好ましくは400℃以上450℃以下が好適である。過度に温度が低いと、有機物の燃焼が不十分であり、他方、過度に温度が高いと過燃焼が生じ、炭酸カルシウムの分解によって酸化カルシウムが生成し易くなる。
【0068】
第1熱処理工程は、原料に含有される燃焼容易な有機物を緩慢に燃焼させ、残カーボンの生成を抑制するため、上記条件下で、30分〜90分の滞留(熱処理)時間で熱処理させるのが好ましい。熱処理時間が30分未満では、十分な燃焼が行われず残カーボンの割合が多くなる。他方、熱処理時間が90分を超えると、脱水物の過燃焼による炭酸カルシウムの熱分解が生じ、また、得られる再生粒子が極めて硬くなる。
【0069】
(第2熱処理工程)
第1熱処理工程を経た原料は、第2熱処理工程として、例えば本体が横置きで中心軸周りに回転する外熱ジャケットを有する外熱キルン炉を用いて、熱処理される。このように、第1及び第2熱処理工程を経ることで、原料中の有機分が燃焼除去され、無機物を熱処理物として排出することができる。
【0070】
第2熱処理工程においては、第1熱処理工程で燃焼しきれなかった残留有機物、例えば残カーボンを燃焼させるため、第1熱処理工程において供給される原料の粒子径よりも小さい粒子径に調整された熱処理物を用いることが好ましい。第1熱処理工程後の熱処理物の粒揃えは、平均粒子径10mm以下となるように調整するのが好ましく、平均粒子径1〜8mmとなるように調整するのがより好ましく、平均粒子径1〜5mmとなるように調整するのが特に好ましい。
【0071】
第2熱処理工程における熱処理温度は、好ましくは550℃〜780℃、より好ましくは600℃〜750℃である。また、第2熱処理工程としての外熱キルン炉における滞留(熱処理)時間としては、好ましくは60分以上、より好ましくは60分〜240分、特に好ましくは90分〜150分、最適には120分〜150分が、残カーボンを完全に燃焼させるに望ましい。特に残カーボンの燃焼は炭酸カルシウムの分解をできる限り生じさせない高温で、緩慢に燃焼させる必要があり、滞留時間が60分未満では、残カーボンの燃焼には短時間で不十分であり、他方、滞留時間が240分を超えると、炭酸カルシウムが分解するおそれがある。
【0072】
第2熱処理工程としての外熱キルン炉から排出される熱処理物の平均粒子径は、10mm以下、好ましくは1mm〜8mm、より好ましくは1mm〜5mmに調整すると好適である。この調整は、例えば、熱処理物を一定のクリアランスを持った回転する2本ロールの間を通過させること等により行うことができる。
【0073】
第2熱処理工程を経た熱処理物は、好適には凝集体であり、例えば冷却機により冷却された後、振動篩機などの粒径選別機により選別され、燃焼品サイロに一時貯留される。この後、配合・スラリー調製工程及び粉砕工程で目的の粒子径に調整された後、再生粒子として填料等の用途先に仕向けられる。
【0074】
なお、以上では、脱墨フロスを原料として用いた場合を例示したが、脱墨フロスを主原料に、抄紙工程における製紙スラッジ等の他の製紙スラッジを適宜混入させたものを原料とすることなどもできる。
【0075】
(配合・スラリー調製工程)
配合・スラリー調製工程は、上記第2熱処理工程から排出される熱処理物に酸及び/又は塩を配合し、その熱処理物を水中に懸濁させてスラリー化させる工程である。
【0076】
このような酸及び/又は塩としては、カルシウム塩の状態における20℃での水100gに対する溶解度が1g以下であるものが好ましい。この酸としては、具体的には、硫酸(硫酸カルシウム二水和物の溶解度0.21g/100g)、フッ化水素酸(フッ化カルシウムの溶解度0.0016g/100g)、クエン酸(クエン酸カルシウムの溶解度0.025g/100g)、リン酸(リン酸三カルシウムの溶解度0.0025g/100g)、炭酸(炭酸カルシウムの溶解度0.0014g/100g)、ホスホン酸等を挙げることができる。また、その塩としては、上記各酸のカルシウム塩、カリウム塩、アルミニウム塩、ナトリウム塩等を挙げることができる。上記酸又はその塩の中でも、作業性、経済性及び得られる再生粒子の均質性の点から、製紙工場で一般的に利用されている、硫酸カルシウム、炭酸カリウム、リン酸、硫酸、硫酸バンド(Al(SO)及びホスホン酸が好ましく、リン酸又は希硫酸が特に好ましく、リン酸がさらに特に好ましい。
【0077】
この酸及び/又は塩の配合量の下限としては、熱処理物100質量部に対して、0.01質量部が好ましく、0.1質量部がさらに好ましい。一方、この配合量の上限としては、10質量部が好ましく、7質量部がさらに好ましい。酸及び/又は塩の配合量が0.01質量部未満の場合には、酸化カルシウム又は水酸化カルシウムを含む粒子及び/又はこの粒子から発生するカルシウムイオンとの接触確率が低く、硬化反応抑制効果が得られないおそれがある。逆に、10質量部を超えても、硬化反応抑制効果が頭打ちとなってしまうおそれがある。
【0078】
(粉砕工程)
粉砕工程は、上記工程にて得られたスラリーを粉砕し、微粒子化することで再生粒子を得る工程である。この粉砕工程においては、公知の粉砕装置等を用いることができる。この粉砕工程を経て、スラリーを適宜必要な粒子径に微細粒化することで、得られる再生粒子を塗工用の顔料、内添用の填料等として好適に使用することができる。
【0079】
(その他の工程)
再生粒子の製造方法においては、原料の凝集工程、造粒工程や、各工程間における分級工程、スラリーを炭酸化する炭酸化工程等を設けてもよい。
【0080】
得られた再生粒子のスラリーは、そのままではpHが12以上とアルカリ性を呈し、例えば、塗工用顔料用途における塗工液調整工程で他の薬品と反応して品質低下を招くおそれがある。従って、熱処理物又は再生粒子中の酸化カルシウムを炭酸カルシウムに戻してpHを低減させるために、第1熱処理燃焼工程や第2熱処理工程において排出された排ガス中の二酸化炭素を利用して、例えばpHを7〜9に調整すると好適である。
【0081】
また、乾燥工程の前段階において、脱水処理を行った脱墨フロス(脱水物)を造粒することが好ましく、更には造粒物の粒子径を均一に揃えるための分級を行うことがより好ましい。造粒においては、公知の造粒設備を使用できるが、回転式、攪拌式、押し出し式等の設備が好適である。
【実施例】
【0082】
以下、実施例によって本発明をさらに具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0083】
なお、本実施例における各測定値は以下の方法にて測定した値である。
【0084】
(ア)無機粒子及び無機粒子凝集体の体積平均粒子径(単位:μm)
無機粒子(カチオン性高分子による凝集前のもの)又は無機粒子凝集体(カチオン性高分子による凝集後のもの)のサンプル10mgを超音波分散機(出力:80W)で3分間分散させた。この溶液を用いて、レーザー粒径分布測定装置(日機装株式会社製、型番:マイクロトラックMTII−3000)により、無機粒子の体積平均粒子径(D50)、並びに無機粒子凝集体の体積平均粒子径(D50)、体積30%粒子径(D30)及び体積70%粒子径(D70)を測定した。
【0085】
(イ)酸化物換算シリカ比率及びカルシウム比率(単位:%)
堀場製作所製のX線マイクロアナライザー(型番:E−MAX・S−2150)を用い、加速電圧(15KV)にて元素分析を行い、含有する構成成分から無機粒子、二酸化チタン、シリカ等の含有割合を推定し、シリカ被覆後のシリカ成分の含有率から酸化物換算シリカ比率及びカルシウム比率を算出した。
【0086】
(ウ)灰分(再生粒子)歩留(単位:%)
1.0%濃度に希釈したLBKPからなるパルプスラリーに30%の灰分(JIS−P8251(2003)準拠)となるように無機粒子凝集体スラリーを添加した後、パルプ濃度が0.75%となるよう希釈した。このパルプスラリーを歩留試験機(BTG社製、型番:DFR−05)へ700cc投入し、50秒攪拌した後に、60meshのワイヤーで濾過し、濾液を100cc採取した。このパルプスラリー及び濾液についてそれぞれ灰分濃度を測定し、下記式(1)により灰分(填料)歩留りを算出した。
灰分歩留り=100×(A−B)/A ・・・ (1)
A:パルプスラリーの灰分濃度(g/l)
B:濾液の灰分濃度(g/l)
【0087】
(エ)吸油度(単位:ml/100g)
JIS−K5101−13−1に記載の「顔料試験方法−第13部:吸油度−第1節:精製あまに油法」に準拠し、以下の方法で測定した。105〜110℃で2時間乾燥した無機粒子凝集体のサンプル2〜5gをガラス板にとり、精製あまに油(酸価4以下のもの)をビュレットから少量ずつ無機粒子凝集体サンプルの中央に滴下するとともに都度ヘラで練り合わせ、この作業を繰り返してサンプル全体が滑らかな硬さを有する1本の棒状体に成形された時点の精製あまに油の滴下量を求め、下記式(2)によって吸油度を算出した。
吸油度=(あまに油滴下量(ml)×100)/無機粒子凝集体質量(g) (2)
【0088】
(オ)分散性(単位:mPa・s)
雰囲気温度20℃、ローター回転数60rpmの条件下において、B型粘度計(東機産業(株)製、TVM−10M)を用いて測定した。なお、粘度(mPa・s)が低いほど分散性が良好であると判断される。
【0089】
(カ)白紙不透明度(単位:%)
無機粒子又は無機粒子凝集体をパルプスラリーに30%の灰分(JIS−P8251(2003)準拠)となるように添加したパルプスラリー(パルプ配合:LBKP100%)を抄紙して得た紙(坪量:40g/m)を用いて、JIS−P8149(2000)「紙及び板紙−不透明度試験方法(紙の裏当て)−拡散照明法」に準拠して測定した。
【0090】
〔再生粒子の製造〕
原料として脱墨フロスを用い、水分率が55質量%、平均粒径が10mm、また、50mm以下の粒子の割合が90質量%となるように脱水工程を行った。この脱水物にシャワー水による洗浄を経て、第1熱処理工程、その後、第2熱処理工程を以下の条件で行い熱処理物を得た。
【0091】
第1熱処理工程条件
燃焼形式:内熱キルン
燃焼温度:420℃
酸素濃度:12%
滞留時間:50分
第1熱処理工程後の未燃率:3%
第2熱処理工程条件
燃焼形式:外熱キルンと内熱キルンの併用
入口の平均粒子径:5mm
燃焼温度:700℃
酸素濃度:8%
滞留時間:140分
出口の平均粒子径:5mm
【0092】
得られた熱処理物100質量部に対して、配合・スラリー調製工程として、硫酸カルシウム二水和物0.3質量部を添加し、この添加物を水中に懸濁させて、濃度(スラリーの全質量に対する熱処理物の質量比)35質量%のスラリーを得て、粉砕装置にて粉砕した。なお未燃率とは、電気マッフル炉を予め600℃に昇温後、ルツボに試料を入れ約3時間で完全燃焼させて、燃焼前後の質量変化から未燃分を算出することによって求めた値である。
【0093】
(実施例1)
上記方法にて得られた再生粒子を水に分散させ、固形分濃度が20質量%の再生粒子スラリーを得た。この再生粒子スラリーに、珪酸ナトリウム溶液を再生粒子スラリー中の珪酸濃度(SiO2換算)で8質量%になるように添加して、スラリーを調製した。このスラリーに濃度が0.1〜5mol/Lで反応後のpHが9となる量の希硫酸を2段階にわけて添加し、ミキサーを用いてスラリーを攪拌しシリカ複合を行って複合粒子を得た。スラリーの液温は、希硫酸添加の第一段階では60℃、第二段階では70℃とした。この複合粒子の体積平均粒子径は4μmであった。この複合粒子を含むスラリーに、カチオン化澱粉(商品名:アミロファクスT2600、松谷化学株式会社製、窒素含有量0.33質量%、アニオンデマンド297μeq/l、表中記号:A)を複合粒子100質量部に対して2.5質量部添加した。その後、実際の抄紙時のスラリー条件に近づけるため、スラリーに超音波ホモジナイザー(株式会社日本精機製作所製)により超音波をOUTPUT ADJを10段階中3、TUNINGを10段階中5として照射した。
【0094】
なお、上記カチオン化澱粉のアニオンデマンドは、カチオンデマンド測定装置(型番:PCT15、mutek社製)を用いて測定した。このカチオンデマンド測定装置は、試料を試験機のセル中に導入し、上下ピストンの稼動にてセルシリンダーとピストンとの間に試料液の流れを生じさせることによってコロイド粒子の表面電荷に歪みを発生させ、生じる試料のチャージ要求量を高分子電解質測定によって測定する。
【0095】
(実施例2)
上記再生粒子にシリカを複合しなかったほかは、カチオン化澱粉の添加及び超音波照射の条件を実施例1と同様にして無機粒子凝集体を得た。
【0096】
(実施例3及び4)
複合粒子の体積平均粒子径がそれぞれ表1に示す数値となるようにシリカ複合の条件を調整したほかは、カチオン化澱粉の種類及び添加量、並びに超音波照射の条件を実施例1と同様にして無機粒子凝集体を得た。
【0097】
(実施例5)
カチオン性高分子(カチオン化澱粉)として、商品名:パールガムHMS(星光PMC株式会社製、窒素含有量0.23質量%、アニオンデマンド207μeq/l、表中記号:B)を複合粒子100質量部に対して2.5質量部添加したほかは、実施例1と同様の複合粒子及び超音波照射条件を用いて無機粒子凝集体を得た。
【0098】
(実施例6)
カチオン性高分子(カチオン化澱粉)として、商品名:アミロファクスPW(松谷化学株式会社製、窒素含有量0.35量%、アニオンデマンド315μeq/l、表中記号:C)を複合粒子100質量部に対して2.5質量部添加したほかは、実施例1と同様の複合粒子及び超音波照射条件を用いて無機粒子凝集体を得た。
【0099】
(実施例7)
カチオン性高分子(カチオン化澱粉)として、商品名:アミロファクスHS(松谷化学株式会社製、窒素含有量0.45量%、アニオンデマンド405μeq/l、表中記号:D)を複合粒子100質量部に対して2.5質量部添加したほかは、実施例1と同様の複合粒子及び超音波照射条件を用いて無機粒子凝集体を得た。
【0100】
(実施例8〜11)
実施例1と同様のカチオン化澱粉(アミロファクスT2600)をそれぞれ表1に示す添加量としたほかは、実施例1と同様の複合粒子及び超音波照射条件を用いて無機粒子凝集体を得た。
【0101】
(実施例12)
実施例1と同様の複合粒子並びにカチオン化澱粉の種類及び添加量を用いて無機粒子凝集体を得た。ただし、超音波照射は行っていない。
【0102】
(実施例13)
再生粒子の代わりに炭酸カルシウム粒子を用いてシリカを複合した複合粒子を用い、カチオン化澱粉の種類及び添加量、並びに超音波照射の条件を実施例1と同様にして無機粒子凝集体を得た。なお、炭酸カルシウム粒子は、シリカを複合する前に凝結剤(商品名:ハイマックスSC100、ハイモ株式会社製)を炭酸カルシウム粒子の固形分に対して200ppm添加して凝結させた。
【0103】
(実施例14)
無機粒子としてタルクを用い、カチオン化澱粉の種類及び添加量、並びに超音波照射の条件を実施例1と同様にして無機粒子凝集体を得た。なお、タルクは実施例13と同様の凝結剤をタルク固形分に対して200ppm添加して凝結させた。
【0104】
(実施例15)
無機粒子として二酸化チタンを用い、カチオン化澱粉の種類及び添加量、並びに超音波照射の条件を実施例1と同様にして無機粒子凝集体を得た。なお、二酸化チタンは実施例13と同様の凝結剤を二酸化チタン固形分に対して200ppm添加して凝結させた。
【0105】
(比較例1及び2)
実施例1と同様の複合粒子を用い、カチオン化澱粉を添加せずに、実施例1と同様の条件で無機粒子凝集体を得た。ただし、比較例1は超音波の照射を行なわず、比較例2は実施例1と同様の超音波照射を行った。
【0106】
(比較例3)
カチオン性高分子(カチオン化澱粉)として、商品名:アミロファクスT1100(松谷化学株式会社製、窒素含有量0.12量%、アニオンデマンド108μeq/l、表中記号:E)を複合粒子100質量部に対して2.5質量部添加したほかは、実施例1と同様の複合粒子及び超音波照射条件を用いて無機粒子凝集体を得た。
【0107】
実施例1〜15並びに比較例1〜3の無機粒子凝集体について、上述した方法で体積平均粒子径D50、体積30%粒子径D30、体積70%粒子径D70、酸化物換算シリカ比率、酸化物換算カルシウム比率、灰分歩留、吸油度及び分散性を測定した。また、それぞれの無機粒子凝集体を内添して抄紙した紙の白紙不透明度を測定した。測定結果を表1に示す。
【表1】
【0108】
表1に示すように、本発明の製造方法によれば、紙へ添加した際の歩留り及び分散性が高く、高い紙質改善効果を有する無機粒子凝集体を得ることができる。
【産業上の利用可能性】
【0109】
本発明の無機粒子凝集体の製造方法によれば、紙へ添加した際の歩留りがよく、高い紙質改善効果を奏する無機粒子凝集体を得ることができる。この無機粒子凝集体は、紙への填料や顔料として好適に用いることができる。
【符号の説明】
【0110】
1 第一シリカ複合反応槽
2 第二シリカ複合反応槽
3 凝集反応槽
4 貯槽
X1 無機粒子
X2 シリカ複合粒子
X3 無機粒子凝集体
L 珪酸アルカリ溶液
N 鉱酸
P カチオン性高分子
図1