【文献】
太田敏孝他,高熱膨張性NaAlSiO4セラミックスの作製,Journal of the Ceramics Society of Japan,日本,1992年,Vol.100, No.11,p.1361-1365
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明はかかる従来の課題を解決すべく創出されたものであり、低温域にある排ガスの浄化性能に優れる従来にはない構造の排ガス浄化用触媒を新たに提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を実現するべく、本発明に係る排ガス浄化用触媒は、自動車エンジン等の内燃機関の排気管に配置されて該内燃機関から排出される排ガスの浄化を行う排ガス浄化用触媒であって、基材と、該基材上に形成された触媒層であって酸化及び/又は還元触媒として機能する貴金属と該貴金属を担持する担体とを含む触媒層とを備える。
そして、前記触媒層の少なくとも一部分であって、前記排気管に配置された際に該排気管内の排ガス流動方向の上流側に位置する部分である先端部又は該先端部を包含する部分には、線熱膨張係数(25℃〜600℃)が15×10
−6/℃〜30×10
−6/℃の範囲にある高熱膨張性セラミックスであって、少なくとも400℃の状態で多孔質であり、その気孔率は400℃よりも低温の状態で低くなり且つ400℃よりも高温の状態で高くなることを特徴とする高熱膨張性セラミックスが含まれている。
【0007】
ここで開示される排ガス浄化用触媒は、上記の特性を具備することにより規定される「高熱膨張性セラミックス」が、触媒層のうちの少なくとも排気管内の排ガス流動方向における上流側に配置される上記先端部に含まれていることを特徴とする。ここで「先端部」は、排ガス浄化用触媒を排気管(排ガス流路)の所定の位置に配置した状態で、排気管の最も上流側に位置してほぼ最初に排ガスが接触する部位をいう。従って、当該先端部を包含する触媒層に上記高熱膨張性セラミックスが存在することによって排ガス浄化触媒の暖機性(即ち排ガス浄化触媒を昇温する性能)を向上させることができるとともに、保温性(即ち排ガス浄化触媒の温度を保持する性能)をも向上させることができる。具体的には以下のとおりである。
【0008】
本発明で採用される高熱膨張性セラミックス(無機化合物)は、温度400℃において少なくとも多孔質であるが、それよりも低温状態(例えば200〜300℃)にある場合の気孔率は低く、高温時と比較して相対的に緻密な状態を維持し得る。このため、低温時における熱伝導性が高く、高熱膨張性セラミックス自体ならびにその周辺の触媒層の迅速な昇温を実現することができる。このため、例えばエンジン始動時のような排ガス浄化用触媒が冷えている段階から上記先端部を中心にして特に触媒層の上流部分が速やかに昇温され、それに伴って当該部分に存在する排ガス成分の酸化及び/又は還元触媒として機能する貴金属(以下「触媒貴金属」という。典型的には白金族に属する貴金属をいう。)の温度を速やかに上昇させ排ガス浄化能を向上させることができる。従って、ここで開示される排ガス浄化触媒は、良好な暖機性を有する。
【0009】
一方、高熱膨張性セラミックスは昇温されると、上記のような高い熱膨張率(熱膨張係数)によって気孔率が増大し、例えば600〜800℃であるような高温状態にある場合の気孔率は400℃以下の場合よりも高く、低温時と比較して相対的に多孔化した状態を維持し得る。そして、気孔率の上昇に伴い高熱膨張性セラミックスの熱伝導性が低下し、結果、高熱膨張性セラミックス自体とその周辺の保温性(蓄熱性)が増大し、例えばアイドリングストップ後のような比較的低温の排ガスが触媒層に導入された際にも特に触媒層の上流部分における温度の低下を抑制し、触媒貴金属の急激な触媒能の低下を防ぐことができる。従って、ここで開示される排ガス浄化触媒は、良好な保温性を有する。
【0010】
ここで開示される排ガス浄化用触媒に用いられる高熱膨張性セラミックスの好適例はNa及び/又はKと、Alとを構成元素として含むケイ酸塩系セラミックスである。このような組成の高熱膨張性セラミックスは熱膨張率が高いとともに温度変動に応じて気孔率が変動しやすいので本発明の実施に好ましい素材である。
特に、高熱膨張性セラミックスとして、ネフェリン(NaAlSiO
4)、カーネギアイト(NaAlSiO
4)、若しくはリューサイト(KAlSi
2O
6)の使用が好ましい。若しくは、これらケイ酸塩のうちの2種以上を含むものの使用が好ましい。
【0011】
また、ここで開示される排ガス浄化用触媒の好ましい他の一態様では、高熱膨張性セラミックスが、少なくとも1種の前記貴金属を担持する担体として触媒層の少なくとも前記先端部に含まれていることを特徴とする。
高熱膨張性セラミックスを担体として特に先端部に使用することによって当該部分に存在する触媒貴金属の暖機性、保温性の向上をより好適に実現することができる。
【0012】
また、ここで開示される排ガス浄化用触媒の好ましい他の一態様では、前記触媒層は、排気管に配置された際に該排気管内の排ガス流動方向の上流側に位置する前記先端部を包含するフロント部であって高熱膨張性セラミックスが含まれるフロント部と、該フロント部に隣接し、排気管に配置された際に該排気管内の排ガス流動方向の下流側に位置するリア部であって高熱膨張性セラミックスが含まれていないリア部とを備えている。そして、
前記触媒
層の排ガス流動方向における
全長を100%として
、そのうちの
上流側20〜30%
に前記フロント部が配置されていることを特徴とする。
かかる構成の排ガス浄化用触媒によると、排気管(即ち排ガス流路)に沿う方向に配置された触媒層のうちの上流側20〜30%の部位に高熱膨張性セラミックスが備えられており、特に上記暖機性と保温性とを高いレベルで両立させることができる。
【0013】
また、特に好ましい一態様では、前記フロント部にはアルミナ(Al
2O
3)、セリア(CeO
2)、若しくはジルコニア(ZrO
2)、若しくはこれら酸化物のうちの2種以上からなる複合酸化物が更に含まれていることを特徴とする。
かかる熱膨張率の低い酸化物若しくは複合酸化物を共存させることにより、熱膨張率の大きな高熱膨張性セラミックスが存在するフロント部の機械的強度や熱耐久性を向上させることができる。好ましくは、アルミナ、セリア、若しくはジルコニア、若しくはこれら酸化物のうちの2種以上からなる複合酸化物の前記フロント部における含有率は、該酸化物及び複合酸化物と高熱膨張性セラミックスとの合計を100質量%としてそのうちの10〜50質量%である。
このような質量比で熱膨張率の低い酸化物若しくは複合酸化物を高熱膨張性セラミックスと共存させることにより、触媒層フロント部における機械的強度や熱耐久性の保持と、暖機性及び保温性の向上とをともに好適に実現することができる
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、図面を参照しつつ本発明の好適ないくつかの実施形態を説明する。なお、本明細書において特に言及している事項以外の事柄であって本発明の実施に必要な事柄は、当該分野における従来技術に基づく当業者の設計事項として把握され得る。本発明は、本明細書に開示されている内容と当該分野における技術知識とに基づいて実施することができる。
【0016】
ここで開示される排ガス浄化用触媒は、上述した特性の高熱膨張性セラミックスを触媒層のうちの少なくとも排気管に配置された際に該排気管の上流側に位置する先端部に含まれることで特徴付けられる排ガス浄化用触媒であり、その他の構成は特に限定されない。本発明の排ガス浄化用触媒は、後述する触媒貴金属、担体、基材の種類を適宜選択し、用途に応じて所望する形状に成形することによって種々の内燃機関、特に自動車のガソリンエンジンやディーゼルエンジンの排気系(排気管)に配置することができる。以下の説明では、主として本発明の排ガス浄化用触媒をガソリンエンジンの排気管に設けられる三元触媒に適用する場合を説明しているが、ここで開示される排ガス浄化用触媒をかかる用途に限定することを意図したものではない。
【0017】
<基材>
ここで開示される排ガス浄化用触媒の骨格を構成する基材としては、従来この種の用途に用いられる種々の素材及び形態のものを採用することができる。例えば、高耐熱性を有するコージェライト、炭化ケイ素(SiC)等のセラミックス、或いは合金(ステンレス鋼等)製の基材を使用することができる。
形状についても従来の排ガス浄化用触媒と同様でよい。一例として
図1に示す排ガス浄化用触媒10のように、外形が円筒形状であるハニカム基材1であって、その筒軸方向に排ガス流路としての貫通孔(セル)2が設けられ、各セル2を仕切る隔壁(リブ壁)4に排ガスが接触可能となっているものが挙げられる。基材1の形状はハニカム形状の他にフォーム形状、ペレット形状などとすることができる。また基材全体の外形については、円筒形に代えて、楕円筒形、多角筒形を採用してもよい。
【0018】
<触媒層>
触媒層は、排ガスを浄化する場として、排ガス浄化用触媒の主体をなすものであり、典型的には触媒貴金属粒子と、該貴金属粒子を担持する担体とから構成される。例えば上述した
図1に示すハニカム基材1を採用した場合には、当該基材1のリブ壁4上に所定の厚み、気孔率の触媒層が形成される。
図2は排ガス浄化用触媒100を構成する基材30と触媒層20との関係を模式的に示す断面図である。図示されるように、触媒層20は、基材30の表面に形成される。この図では図示しない排気管を排ガスが図中の矢印方向に流れる向きで描かれている。即ち、図中の左側が排ガス流路(排気管)の上流側であり、右側が排ガス流路の下流側である。
【0019】
排ガス浄化触媒100に供給された排ガスは、基材30の流路内(例えば
図1のセル2内)を流動している間に、触媒層20に接触することによって有害成分が浄化される。例えば、排ガスに含まれるCOやHCは触媒層20の触媒機能によって酸化されて水(H
2O)や二酸化炭素(CO
2)などに変換(浄化)され、NO
xは触媒層20の触媒機能によって還元されて窒素(N
2)に変換(浄化)される。
なお、
図2に示す触媒層20は、排ガス流動方向の上流側に配置される先端部24aを包含するフロント部24と、排ガス流動方向の下流側に配置されるリア部26とから構成されており、それぞれ構成成分が異なっているがこのことについては後述する。
【0020】
<触媒貴金属>
ここで開示される排ガス浄化用触媒に備えられる触媒貴金属は、種々の酸化触媒や還元触媒として機能し得る金属種が採用され得るが、典型的には、白金族であるロジウム(Rh)、白金(Pt)、パラジウム(Pd)等が挙げられる。ルテニウム(Ru)、オスミウム(Os)、イリジウム(Ir)、銀(Ag)等を使用してもよい。これらの金属は合金化したものを用いてもよい。この中で、還元活性が高いロジウムと、酸化活性が高いパラジウムや白金とを組み合わせて用いることが特に好ましい。或いは他の金属種を含むもの(典型的には合金)であってもよい
かかる触媒貴金属は、排ガスとの接触面積を高める観点から十分に小さい粒径の微粒子として使用されることが好ましい。典型的には上記金属粒子の平均粒径(TEM観察により求められる粒径の平均値。以下同じ。)は1〜15nm程度であり、10nm以下、7nm以下、更には5nm以下であることが特に好ましい。
かかる貴金属の担持率(担体を100質量%としたときの貴金属含有率)は、1.5質量%以下、例えば0.05質量%以上1.5質量%以下であることが好ましく、0.2質量%以上1質量%以下であることがより好ましい。担持率が上記範囲より少なすぎると、金属による触媒効果が得られにくい。また上記金属の担持率が上記範囲より多すぎると、金属の粒成長が進行する虞があり、さらにコスト面でも不利である。
【0021】
<担体>
触媒層を構成し、上述した触媒貴金属を担持する担体としては、従来の排ガス浄化用触媒と同様の無機化合物が使用され得る。比表面積(BET法により測定される比表面積。以下同じ。)がある程度大きい多孔質担体が好適に用いられる。好適な担体としては、例えば、アルミナ(Al
2O
3)、セリア(CeO
2)、ジルコニア(ZrO
2)、シリカ(SiO
2)、チタニア(TiO
2)、及びそれらの固溶体(例えばセリア−ジルコニア複合酸化物(CZ複合酸化物)、或いはそれらの組み合わせが挙げられる。担体粒子(例えばアルミナ粉末やCZ粉末)としては、比表面積が50〜500m
2/g(例えば200〜400m
2/g)であることが耐熱性、構造安定性の観点から好ましい。また、担体粒子の平均粒径は1nm以上500nm以下(より好ましくは10nm以上200nm以下)程度であることが好ましい。
また、後述する高熱膨張性セラミックスは、特に触媒層のフロント部において担体として用いられることが好ましい。
【0022】
<高熱膨張性セラミックス>
本発明を特徴付ける高熱膨張性セラミックスは、線熱膨張係数(25℃〜600℃)が15×10
−6/℃〜30×10
−6/℃の範囲にあり、少なくとも400℃の状態で多孔質であり、400℃よりも低温域(例えば200〜300℃)では気孔率が減少傾向になり、他方、400℃よりも高温域(例えば600〜800℃)では気孔率が増大傾向にあるセラミックス(無機化合物)である。
かかる性状のセラミックスとしては、例えば、Na及び/又はKと、Alとを構成金属元素として含むケイ酸塩からなるセラミックスが挙げられる。このような組成のケイ酸塩系セラミックスは熱膨張率が高く、温度変動に応じて気孔率が変動しやすいので本発明の実施に好ましい素材である。例えば、室温条件(25℃)における嵩密度が1〜2g/cm
3(例えば1.5〜1.8g/cm
3)であるような緻密な(若しくは低気孔率の)高熱膨張性セラミックスを採用することができる。特に限定するものではないが、室温から600℃までの平均線熱膨張係数が16〜17×10
−6/℃であるネフェリン(NaAlSiO
4)、15〜16×10
−6/℃であるカーネギアイト(NaAlSiO
4)、15〜28×10
−6/℃(典型的には23〜25×10
−6/℃)であるリューサイト(KAlSi
2O
6)、等が好適なケイ酸塩系セラミックスとして挙げられる。
これらケイ酸塩系セラミックスは、触媒貴金属が担持している担体として触媒層に含ませてもよく、或いは触媒貴金属が担持していない無機成分(以下「非担持体」という。)として触媒層に含ませてもよい。触媒層に含まれる高熱膨張性セラミックス粒子の平均粒径は、1nm以上500nm以下(より好ましくは10nm以上200nm以下)程度であることが好ましい。
【0023】
このような高熱膨張性セラミックスは、触媒層のうちの少なくとも排気管内の排ガス流動方向における上流側に配置されることが好ましい。加えて下流側にも配置してよいが、上流側に配置した場合と同等以上の効果は認められない。
例えば、上述した
図2に示す形態では、先端部24aを含むフロント部24にネフェリン等の高熱膨張性セラミックス粒子を担体若しくは非担持体として含有させることが好ましい。この場合、リア部26には高熱膨張性セラミックスは含有させてもさせなくてもよいが、高い熱膨張率に起因する触媒層の熱耐久性の低下を抑制するという観点からはリア部26には高熱膨張性セラミックスは含有されていないことの方が好ましい。例えば、排気管内の排ガス流動方向におけるフロント部24の比率は、該方向における触媒層20の全長(フロント部24とリア部26の合計)の10〜40%、さらには20〜30%が好適である。このような比率で高熱膨張性セラミックス含有フロント部24を設けることによって、暖機性と保温性との両立が図れる。
【0024】
また、高い熱膨張率に起因する触媒層の機械的強度や熱耐久性の低下を抑制するという観点からは、触媒層における高熱膨張性セラミックスを含む部位(典型的には
図2に示すようなフロント部)に機械的強度や熱耐久性を向上させるために、耐熱性の高いアルミナ等のセラミックスを担体若しくは非担持体として高熱膨張性セラミックスと混在させることが好ましい。例えば、熱膨張係数が7〜12×10
−6/℃程度であるアルミナ、セリア、若しくはジルコニア、若しくはこれらの複合酸化物の添加が好ましい。例えば、
図2に示す形態では、フロント部24にネフェリン等の高熱膨張性セラミックスに加え、担体若しくは非担持体としてアルミナ等を含むものが好ましい。
特に限定することを意図したものではないが。該フロント部24におけるこれら無機成分の含有率は、該酸化物及び複合酸化物と高熱膨張性セラミックスとの合計を100質量%としてそのうちの10〜50質量%が適当である。好ましくは20〜50質量%であり、特に好ましくは20〜40質量%である。
また、触媒層には、上述した担体または非担持体として、酸素吸放出能(OSC能)を有するセリア−ジルコニア(CZ)複合酸化物等の酸素吸放出材を添加してもよい。特に三元触媒においては、かかる酸素吸放出材の添加が好ましい。
【0025】
上述したような構成の排ガス浄化用触媒は、従来と同様の製造方法によって製造することができる。
例えば、
図2に示すようなフロント部24とリア部26とで触媒層20の構成が異なる排ガス浄化用触媒100を製造するには、先ず、パラジウム、白金等の触媒貴金属粒子を担持した高熱膨張性セラミックス粒子、所望によりその他の触媒担体或いは非担持体(例えばアルミナやジルコニア)粒子、酸素吸放出材等を含むフロント部形成用スラリーを公知のウォッシュコート法等によってハニカム基材30のフロント部24に相当する部分に先端部24a側からコートする。次いで、ロジウム等の触媒貴金属粒子を担持した触媒担体、所望により非担持体(例えばアルミナやジルコニア)粒子、酸素吸放出材等を含むリア部形成用スラリーを公知のウォッシュコート法等によってハニカム基材30のリア部26に相当する部分に後端部26a側からコートする。その後、所定の温度及び時間で焼成することにより、基材30上にフロント部24とリア部26とからなる触媒層20を形成することができる。
なお、ウォッシュコート法を用いて触媒層を形成する場合、上記の手順に代えて高熱膨張性セラミックスやその他の触媒担体(この段階では非担持体)をウォッシュコート法によって予め基材上に形成しておき、その後に従来公知の含浸法等によって所望の触媒貴金属を担持させてもよい。
ウォッシュコートされたスラリーの焼成条件は基材または担体の形状及びサイズによって変動するので、特に限定しないが、典型的には400〜1000℃程度で約1〜4時間程度の焼成を行うことによって、目的の触媒層を形成することができる。
【0026】
以下、本発明に関するいくつかの実施例につき説明するが、本発明をかかる具体例に示すものに限定することを意図したものではない。
【0027】
<試験例1:高熱膨張性セラミックスの製造>
無水炭酸ナトリウム(Na
2CO
3)、活性アルミナ(Al
2O
3)、二酸化ケイ素(SiO
2)をモル比1:1:2の割合で混合し、800〜850℃で脱炭酸を行い、次いで900〜1100℃付近で4時間の仮焼を行い、次いで1100〜1200℃で本焼成し、粉砕することによって六方晶系のトリジマイト型ネフェリン(NaAlSiO
4)粉末を調製した。熱機械分析装置(TMA:Thermo Mechanical Analysis)を用いて、室温(25℃)から600℃まで10℃/分の昇温速度で測定した線熱膨張係数は、約17×10
−6/℃であった。また、得られた粉末の25℃における嵩密度は1.5〜1.8g/mLであった。
【0028】
<試験例2:排ガス浄化用触媒の製造と暖機性及び保温性の評価(1)>
容積(セル通路の容積も含めた全体の嵩容積をいう)が約2Lである円筒状のハニカム基材(コージェライト製)を使用した。
フロント部形成用スラリーとして、上記ネフェリン粉末にパラジウムを担持させた粉末(以下「Pd/ネフェリン担体」という。)と、アルミナ粉末を含むスラリーを調製した。具体的には、ネフェリン粉末に適量の硝酸パラジウム水溶液と純水を加えて混合し、120℃付近で乾燥させ、500℃付近で1時間程度の焼成を行うことによって、Pd担持率が約1質量%であるPd/ネフェリン担体(粉末)を調製した。かかるPd/ネフェリン担体と非担持体としてのアルミナ粉末とを質量比2:1で混合し、適量の純水を加えてフロント部形成用スラリーを調製した。
一方、リア部形成用スラリーとして、正方晶CeO
2−ZrO
2複合酸化物(CeとZrのモル比Ce/Zr=0.35)粉末にロジウムを担持させた粉末(以下「Rh/CZ担体」という。)と、アルミナ粉末を含むスラリーを調製した。具体的には、CeO
2−ZrO
2複合酸化物粉末に適量の硝酸ロジウム水溶液と純水を加えて混合し、120℃付近で乾燥させ、600℃付近で2時間程度の焼成を行うことによって、Rh担持率が約0.25質量%であるRh/CZ担体(粉末)を調製した。
かかるRh/CZ担体と非担持体としてのアルミナ粉末とを質量比1:1で混合し、適量の純水を加えてリア部形成用スラリーを調製した。
【0029】
これら調製したフロント部形成用スラリーとリア部形成用スラリーとを用いて上記ハニカム基材上に触媒層を形成した。具体的には、基材の全長のうち上流側の20%に相当する部分にフロント部形成用スラリーを用いてウォッシュコートを施し、乾燥することにより、基材表面にPd/ネフェリン担体20gとアルミナ10gとからなるフロント部を形成した。次いで、基材の全長のうち下流側の80%に相当する部分(一部フロント部と重複する。)にリア部形成用スラリーを用いてウォッシュコートを施し、乾燥することにより、基材表面にRh/CZ担体75gとアルミナ75gとからなるリア部を形成した。
【0030】
その後、500℃、1時間の焼成を行うことにより、基材上に上記フロント部とリア部とからなる触媒層を備えたサンプル1の排ガス浄化用触媒を作製した。
比較対象として、フロント部の担体をPd/ネフェリン担体から、アルミナ担体あるいはCZ担体に変更したサンプルを作製した。即ち、比較のためのサンプル2〜4は、それぞれ、基材の全長のうち上流側の20%に相当するフロント部に、Pd/アルミナ担体20gとアルミナ10g(サンプル2)、Pd/CZ担体20gとアルミナ10g(サンプル3)、Pd/CZ担体10gとアルミナ10g(サンプル4)を備えている。なお、これらサンプル2〜4についても触媒層のリア部の構成は本試験例に係るサンプル1と同じである。
【0031】
上記得られたサンプル1〜4の排ガス浄化用触媒の暖機性と保温性を以下のようにして評価した。
先ず、各サンプルに対して以下の耐久試験を行った。即ち、内燃機関の排気系の典型例として排気量2400ccのガソリンエンジンの排気管にサンプル触媒を配置し、触媒温度(触媒床温)1000℃で50時間、リッチ、ストイキ及びリーンの状態の各排ガスを一定時間ずつ繰り返して供給した。かかる耐久試験後の各サンプルについて暖機性と保温性の評価を次のようにして行った。
【0032】
<暖機性の評価試験>
上記耐久試験終了後、熱交換機を利用して触媒温度50℃の状態のサンプルに450℃の排ガスを導入し、排ガス浄化率50%に到達するまでの時間を測定した。
かかる評価結果を、サンプル3における排ガス浄化率50%到達時間を基準値:1としたときの相対値として
図3に示す。
<保温性の評価試験>
上記暖機性評価試験終了後、排ガス浄化率が最高値に達するまで450℃の排ガスを導入し続ける。排ガス浄化率が最高値に達した後、熱交換機を利用してサンプルに導入する排ガスの温度を450℃から徐々に低下させていき、排ガス浄化率が50%にまで低下したときの排ガス温度を測定した。
かかる評価結果を、サンプル3における排ガス浄化率50%時温度を基準値:1としたときの相対値として
図4に示す。
【0033】
図3及び
図4に示すように、フロント部の触媒担体としてネフェリン(高熱膨張性セラミックス)を採用することによって排ガス浄化率50%到達時間を短縮することができる。また、排ガス浄化率50%時温度もCZ担体を採用したものよりも低い。このように、ネフェリン等の高熱膨張性セラミックスを担体(或いは非担持体)として触媒層のフロント部に備えることにより、暖機性の向上と良好な保温性の維持とを両立することができる。なお、保温性のみをみればアルミナ担体を採用したサンプル2も良好であるが、暖機性は悪化しており、この二つの性能を両立できない。
【0034】
<試験例3:排ガス浄化用触媒の製造と暖機性及び保温性の評価(2)>
フロント部に含まれるアルミナ(非担持体)の含有量が暖機性、保温性に及ぼす影響を調べた。即ち、上記サンプル1を作製するのに用いたフロント部形成用スラリーとは、Pd/ネフェリン担体(粉末)と、アルミナ非担持体(粉末)との配合比が異なる計4種類のスラリーを調製し、サンプル1と同様に触媒層(フロント部は触媒層の全長の20%)を形成した。リア部の構成は同一である。具体的には、
Pd/ネフェリン担体27gとアルミナ3gとから構成されているフロント部(アルミナ比率:10%)を備えた排ガス浄化用触媒(サンプル11)、
Pd/ネフェリン担体21gとアルミナ9gとから構成されているフロント部(アルミナ比率:30%)を備えた排ガス浄化用触媒(サンプル12)、
Pd/ネフェリン担体15gとアルミナ15gとから構成されているフロント部(アルミナ比率:50%)を備えた排ガス浄化用触媒(サンプル13)、
Pd/ネフェリン担体6gとアルミナ24gとから構成されているフロント部(アルミナ比率:80%)を備えた排ガス浄化用触媒(サンプル14)、を作製した。
なお、本試験例における4つのサンプルのいずれもフロント部におけるPd含有量が等しくなるように、予めPd担持量を調節したPd/ネフェリン担体をそれぞれ使用した。
【0035】
得られたサンプル11〜14について上記試験例2と同様の暖機性評価試験ならびに保温性評価試験を行った。
評価結果は、暖機性評価についてはサンプル11(アルミナ比率:10%)における排ガス浄化率50%到達時間を基準値:1としたときの相対値として
図5に示す。また、保温性評価についてはサンプル11(アルミナ比率:10%)における排ガス浄化率50%時温度を基準値:1としたときの相対値として
図6に示す。
図5及び
図6に示すように、暖機性の向上と良好な保温性の維持とを高レベルに両立させることを考えれば、フロント部における高熱膨張性セラミックス(ここではネフェリン)とアルミナとの合計を100質量%としてそのうちのアルミナ含有率は10〜50質量%程度が適当であり、特に20〜50質量%、さらには20〜40質量%程度が好ましい。
【0036】
<試験例4:排ガス浄化用触媒の製造と暖機性及び保温性の評価(3)>
基材の排ガス流動方向の全長におけるフロント部の割合(コート幅、換言すれば高熱膨張性セラミックスが含まれている領域の割合)が暖機性、保温性に及ぼす影響を調べた。
即ち、上記サンプル1を作製するのに用いたものと同じフロント部形成用スラリーを同量使用し、
Pd/ネフェリン担体20gとアルミナ10gとが触媒層の全長の上流側15%(コート幅)に配置されて成るフロント部を備える排ガス浄化用触媒(サンプル1A)、
Pd/ネフェリン担体20gとアルミナ10gとが触媒層の全長の上流側20%に配置されて成るフロント部を備える排ガス浄化用触媒(サンプル1と同じ)、
Pd/ネフェリン担体20gとアルミナ10gとが触媒層の全長の上流側35%に配置されて成るフロント部を備える排ガス浄化用触媒(サンプル1B)、
Pd/ネフェリン担体20gとアルミナ10gとが触媒層の全長の上流側50%に配置されて成るフロント部を備える排ガス浄化用触媒(サンプル1C)、を作製した。これらサンプルではフロント部の長さにかかわらず、リア部の構成、形成部位はサンプル1と同一である。
【0037】
得られたサンプル1、1A、1B、1Cについて上記試験例2、3と同様の暖機性評価試験ならびに保温性評価試験を行った。
評価結果は、暖機性評価についてはサンプル1(フロント部の割合:上流側20%)における排ガス浄化率50%到達時間を基準値:1としたときの相対値として
図7に示す。保温性評価についてもサンプル1における排ガス浄化率50%時温度を基準値:1としたときの相対値として同じく
図7に示す。
図7に示す二つの評価試験の結果から、暖機性の向上と良好な保温性の維持とを高レベルに両立させることを考えれば、フロント部の割合(即ち高熱膨張性セラミックスの配置領域)は、排ガス流動方向における触媒層の全長の10〜40%、さらには20〜30%程度が好適である。
【0038】
<試験例5(参考例):排ガス浄化用触媒の製造と暖機性及び保温性の評価(4)>
高熱膨張性セラミックスの配置位置をフロント部からリア部に変更したサンプル5を作製した。即ち、フロント部形成用スラリーとして、上記サンプル3を製造するのに使用したスラリーを用いた。
一方、リア部形成用スラリーとして、上記ネフェリン粉末にロジウムを担持させた粉末(以下「Rh/ネフェリン担体」という。)と、アルミナ粉末を含むスラリーを調製した。具体的には、試験例1で調製したネフェリン粉末に適量の硝酸ロジウム水溶液と純水を加えて混合し、120℃付近で乾燥させ、600℃付近で2時間程度の焼成を行うことによって、Rh担持率が約0.25質量%であるRh/ネフェリン担体(粉末)を調製した。
かかるRh/ネフェリン担体と非担持体としてのアルミナ粉末とを質量比1:1で混合し、適量の純水を加えてサンプル5のリア部形成用のスラリーを調製した。
【0039】
これらフロント部形成用スラリーとリア部形成用スラリーとを用いて上記各試験例と同様のウォッシュコート〜焼成プロセスを行い、基材の全長のうち上流側の20%に相当する部分表面にPd/CZ担体20gとアルミナ10gとからなるフロント部を形成し、基材の全長のうち下流側の80%に相当する部分(一部フロント部と重複する。)にRh/ネフェリン担体75gとアルミナ75gとからなるリア部を形成した(サンプル5)。
【0040】
得られたサンプル5の排ガス浄化用触媒について上記試験例2〜4と同様の暖機性評価試験ならびに保温性評価試験を行った。比較としてサンプル1(即ちフロント部に高熱膨張性セラミックスたるネフェリンを含む)及びサンプル3(即ちフロント部及びリア部のいずれにもネフェリンを含まない)の排ガス浄化用触媒も同様に試験した。
評価結果は、暖機性評価についてはサンプル3における排ガス浄化率50%到達時間を基準値:1としたときの相対値として
図8に示す。保温性評価についてもサンプル3における排ガス浄化率50%時温度を基準値:1としたときの相対値として
図9に示す。
これら図面に示すように、暖機性の向上と良好な保温性の維持とを両立させるべくネフェリン等の高熱膨張性セラミックスを使用する場合、排ガス流動方向の上流側に高熱膨張性セラミックスを配置することが効果的である一方で、排ガス流動方向の下流側に高熱膨張性セラミックスを配置しても効果が殆ど無いことが認められる。