(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
基体樹脂と、熱解離型ブロックイソシアネート基を一分子中に少なくとも2個有するポリイソシアネート化合物を含有する硬化剤と、シリケート化合物を含有する親水化剤とを含み、
前記ポリイソシアネート化合物の解離温度が100℃以上140℃以下であり、
前記ポリイソシアネート化合物と前記基体樹脂との反応を促進させる硬化触媒が含まれておらず、
骨材として、ガラス繊維、ガラスビーズ、マイカ、樹脂ビースの群れから選ばれる少なくとも1つを基体樹脂100質量部に対して、5〜30質量部の範囲で配合している
ことを特徴とする塗装金属板用塗料。
前記硬化剤にはさらにメラミン樹脂が含有され、このメラミン樹脂が前記基体樹脂100質量部あたり18質量部以下含まれていることを特徴とする請求項1又は2に記載の塗装金属板用塗料。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、上記のような親水化剤として適用されるシリケート化合物は自己縮合が生じたり、顔料、骨材などの他の配合化合物の影響を受けたりして親水化作用が低下、失活し易いという問題がある。また、硬化剤と基体樹脂との反応を促進させるために、塗料中に錫化合物等の硬化触媒を併用して表面塗膜を形成させることが通常であるが、硬化触媒は親水化剤の反応性を高める作用もあるため、自己縮合や他の配合材料との反応をより引き起こしやすくなってしまうことがある。その結果、表面塗膜自体の親水化が起こりにくくなり(すなわち、表面塗膜に親水化剤が濃化しにくくなり)、シリケート化合物等の親水化剤の親水化機能を十分に発揮できなくおそれがあった。また、硬化触媒の影響による親水化剤の上記反応は、塗装金属板用塗料の粘度上昇も引き起こすため、親水化剤の表面への濃化がさらに起こりにくくなり、親水機能を十分に発揮できなくなる上、塗装金属板用塗料の安定性やハンドリング性も悪くなるという問題もあった。
【0007】
特に、硬化剤として一般的に使用されているイソシアネート樹脂を使用した場合、このイソシアネート樹脂用の硬化触媒として広く利用される錫化合物と、シリケート化合物とは、その反応性が非常に高いものである。このため、イソシアネート化合物が含まれる塗装金属板用塗料を使用する場合では、表面塗膜系へのシリケート化合物による親水化がさらに困難になりやすいものであった。一方、反応性の低いシリケート化合物を使用すれば上記硬化触媒との反応は抑制されるものの、この場合は表面塗膜の親水化の機能も発現しにくくなることが多く、充分な対汚染性を得ることは困難であった。
【0008】
本発明は上記の点に鑑みてなされたものであり、金属板に形成させる表面塗膜に高い硬化性を付与しつつ、高い親水性を付与することができ、塗料の安定性も高い塗装金属板用塗料及び塗装金属板を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明に係る塗装金属板用塗料は、基体樹脂と、熱解離型ブロックイソシアネート基を一分子中に少なくとも2個有するポリイソシアネート化合物を含有する硬化剤と、シリケート化合物を含有する親水化剤とを含み、前記ポリイソシアネート化合物の解離温度が100℃以上140℃以下であり、前記ポリイソシアネート化合物と前記基体樹脂との反応を促進させる硬化触媒が含まれて
おらず、骨材として、ガラス繊維、ガラスビーズ、マイカ、樹脂ビースの群れから選ばれる少なくとも1つを基体樹脂100質量部に対して、5〜30質量部の範囲で配合していることを特徴とする。
【0010】
また、前記シリケート化合物はオルガノアルコキシシランであることが好ましい。
【0011】
また、前記硬化剤にはさらにメラミン樹脂が含有され、このメラミン樹脂が前記基体樹脂100質量部あたり18質量部以下含まれていることが好ましい。
【0012】
また、前記基体樹脂がポリエステル樹脂であることが好ましい。
【0013】
本発明に係る塗装金属板は、上記塗装金属板用塗料が硬化されてなる表面塗膜が金属板に形成されていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
本発明の塗装金属板用塗料によれば、解離温度が140℃以下であるポリイソシアネート化合物を使用することで基体樹脂との反応性が促進されるので、ポリイソシアネート化合物用の硬化触媒を不使用とすることができる。そのため、上記塗装金属板用塗料では、親水化剤と硬化触媒との反応が起こり得ないため、親水化剤による表面塗膜への親水化が効率的に作用し、高い親水性を有する表面塗膜を形成させることができる。また、上記塗装金属板用塗料は、硬化触媒を使用しなくても、基体樹脂とポリイソシアネート化合物との反応性にも優れることで、表面塗膜の硬化度も高めることができる。
【0015】
また、本発明の塗装金属板によれば、上記塗装金属板用塗料から形成されることから、高い親水性が付与されるので、耐汚染性に優れると共に、金属板表面の表面塗膜の硬化度も高いので、加工性にも優れるものである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明を実施するための形態を説明する。
【0017】
本発明の塗装金属板用塗料は、少なくとも基体樹脂と、硬化剤と、親水化剤とを含む。硬化剤は、熱解離型ブロックイソシアネート基を一分子中に少なくとも2個有するポリイソシアネート化合物を含有し、親水化剤は、シリケート化合物を含有する。そして、本発明の塗装金属板用塗料は、金属板に塗布することで金属板の表面に表面塗膜を形成することができ、それにより塗装金属板が得られるものである。
【0018】
基体樹脂は、表面塗膜を膜状に形成するための樹脂成分である。このような樹脂として、例えば、ポリエステル樹脂、アクリル樹脂、エポキシ樹脂、ウレタン樹脂、フッ素系樹脂、ケイ素系樹脂など、一般的に塗料に用いられる樹脂を使用することができる。これらの樹脂の中でも水酸基を有する樹脂が好ましく、特にポリエステル樹脂は、柔軟性を確保しながら硬度の良好な表面塗膜を形成することができ、塗装金属板の加工性を向上させるのでより好ましい。
【0019】
上記ポリエステル樹脂としては、数平均分子量が2500〜20000であり、水酸基の含有量を示すOH価が1〜60であるのが好ましい。また、OH価は小さい方が、後述する硬化剤としてのメラミン樹脂が表面濃化しやすいという点で好ましい。尚、OH価とは、試料1g中に含まれる水酸基と当量の水酸化カリウムのmg数を言う。
【0020】
硬化剤は、加熱により基体樹脂と架橋構造を形成し、表面塗膜を形成する、いわゆる架橋剤に相当するものである。本発明では、硬化剤は、熱解離型ブロックイソシアネート基を一分子中に少なくとも2個有するポリイソシアネート化合物(以下、単に「ポリイソシアネート化合物」ということがある)を含有するものである。ここで、ポリイソシアネート化合物について詳述する。
【0021】
上記ポリイソシアネート化合物における熱解離型ブロックイソシアネート基とは、ポリイソシアネート分子中のイソシアネート基をブロック剤でマスク(封止)させることで形成される基のことをいう。ポリイソシアネート化合物の一分子中における熱解離型ブロックイソシアネート基の個数は、2個未満であると架橋構造を形成せず、塗膜形成能が発現しなくなるおそれがあるので、少なくとも2個以上とする。一分子中の熱解離型ブロックイソシアネート基の個数の上限は特に限定はされないが、実用上の上限は6個となると考えられ、この範囲において、架橋構造を形成して充分な塗膜形成能を発現できるものである。
【0022】
さらに、本発明においては、上記ポリイソシアネート化合物の解離温度が140℃以下であるものを使用する。上記ポリイソシアネート化合物の解離温度が140℃以下であれば、硬化反応性に優れるため、硬化触媒の非存在下でも充分に硬化反応が起こり得る。ここでいう解離温度とは、上記ブロック剤がイソシアネート基から脱離する温度のことをいう。この解離温度に達すると、ポリイソシアネート化合物と、基体樹脂との架橋反応が始まる。上記ポリイソシアネート化合物の解離温度は、140℃以下であることが好ましく、120℃以下であることが特に好ましい。上記ポリイソシアネート化合物の解離温度の下限値は100℃であることが好ましく、この場合、反応の制御を行ないやすく、また、ポリイソシアネート化合物の保存性が低下してしまうこともない。
【0023】
上記ポリイソシアネート化合物の例としては、ヘキサメチレンジイソシアネート(HDI)又はその誘導体などのイソシアネート系樹脂を原料とし、この原料のイソシアネート基の一部又は全部をブロック剤でブロック化して製造されたものが挙げられる。ブロック剤の例としては、例えば、メチルエチルケトオキシム(MEKオキシム)、ジメチルケトオキシム、メチルイソブチルケトオキシム、メチルアミルケトオキシム、シクロヘキサノンオキシム等のオキシム類、ε‐カプロラクタム、γ‐ブチロラクタムに代表されるラクタム類、n‐ブタノール、n‐ヘキシルアルコール等の一価のアルキル(または芳香族)アルコール類、その他、セロソルブ類、ジオール類、フェノール類などが挙げられる。上記熱解離型ポリイソシアネート化合物は、1種単独で用いてもよいし、異なる2種以上を組合せて用いてもよい。
【0024】
上記ポリイソシアネート化合物は、基体樹脂との架橋反応性に優れるものであるので、この架橋反応を促進させるための硬化触媒を使用しなくても充分な架橋構造を付与することができる。解離温度が高いポリイソシアネート化合物(すなわち、140℃を超える解離温度のポリイソシアネート化合物)を使用する場合、架橋反応性を促進させるために、硬化触媒が必須であったが、本発明の場合では、そのような硬化触媒を不使用とすることができる。硬化触媒を不使用とすることによって、硬化触媒が引き起こす親水化剤の副反応(自己縮合や添加剤との反応)がなくなるので、親水化剤の安定性がより向上し、その結果として、表面塗膜に充分な親水性を付与しやすくなる。尚、ここでいう硬化触媒とは、スズ化合物や亜鉛化合物など、ポリイソシアネート化合物と硬化剤と反応を促進させる材料のことをいい、本発明ではこのような硬化触媒を不使用とするものである。
【0025】
硬化剤には、上記ポリイソシアネート化合物の他、メラミン樹脂が含まれていてもよい。このメラミン樹脂としては、メチル化メラミン、ブチル化メラミンなどを用いることができる。本発明の塗装金属板用塗料では、上記ポリイソシアネート化合物の架橋反応性が優れるものであるので、ポリイソシアネート化合物のみでも充分な架橋構造を付与することができるが、上記メラミン樹脂を併用すれば、さらに架橋構造を付与しやすいものとなる。そのため、表面塗膜の硬化性を高めることができ、また、耐色落ち性にも優れるものとなる。
【0026】
上記メラミン樹脂を併用する場合、その含有量の上限は、基体樹脂100質量部に対して18質量部以下とすることが好ましく、この場合、表面塗膜の硬化度が高くなりすぎて、塗装金属板の加工性が損なわれるおそれが小さくなる。上記メラミン樹脂の含有量の上限は、基体樹脂100質量部に対して18質量部であることが好ましく、特に10質量部であることが好ましい。
【0027】
上記のように硬化剤にメラミン樹脂が含まれる場合、必要に応じて揮発性のアミン等で中和した酸触媒を用いることが好ましい。それにより、メラミン樹脂による架橋反応の速度を促進することができる。酸触媒としては、例えば、DBSA(ドデシルベンゼンスルホン酸)、パラトルエンスルフォン酸などを用いることができる。特に、メラミン樹脂と上記のような酸触媒との組み合わせによって、メラミン樹脂が表面塗膜の表層に分布し易くなり、メラミン樹脂が表面濃化し易くなる。この場合、表面塗膜の表層は硬く、内部は柔軟性を有するものとなるので、加工性が損なわれにくく、また、表面塗膜が顔料等の着色剤を含む場合には、その顔料の脱落を防止でき、耐色落ち性を向上させることが可能となる。また、塗装金属板が屋外に曝された場合でも、長期に亘って表面塗膜の性質が維持され、塗装金属板の白亜化やチョーキングなどが抑制されるので、耐候性の優れた塗装金属板を得ることができる。
【0028】
尚、硬化剤には、本発明の効果を阻害しない範囲であれば、その他の架橋剤が含まれるものであってもよい。
【0029】
本発明の塗装金属板用塗料では、親水化剤として、シリケート化合物が含まれるものを使用する。このシリケート化合物としては、加水分解性シラン化合物を使用することができる。具体的に、加水分解性シラン化合物としては、酸触媒またはアルカリ触媒等によって加水分解および縮合するアルコキシシラン化合物が使用可能であり、特に、オルガノアルコキシランが好ましい。オルガノアルコキシランは、(R1)
nSi(R2)
4-n(R1は、水素原子、炭素数1〜16の脂肪族炭化水素基、アリール基またはシクロアルキル基を示し、R2は炭素数1〜8のアルコキシ基、アセトキシ基または水酸基を示し、nは1又は2である。)で表されるものである。尚、nが2の場合、Siに直結する2個のR1は互いに同一であってもよいし、異なっていてもよい。
【0030】
上記オルガノアルコキシシランとしては特に制限されるものではないが、具体例としては、メチルトリメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、エチルトリメトキシシラン、エチルトリエトキシシラン、プロピルトリメトキシシラン、プロピルトリエトキシシラン、イソプロピルトリメトキシシラン、イソプロピルトリエトキシシラン、n−ブチルトリメトキシシラン、n−ブチルトリエトキシシラン、イソブチルトリメトキシシラン、イソブチルトリエトキシシラン、t−ブチルトリメトキシシラン、t−ブチルトリエトキシシラン、フェニルトリメトキシシラン、フェニルトリエトキシシラン等の3官能性オルガノアルコキシシラン類、ジメチルジメトキシシラン、ジメチルジエトキシシラン、ジエチルジメトキシシラン、ジエチルジエトキシシラン、ジプロピルジメトキシシラン、ジプロピルジエトキシシラン、ジイソプロピルジメトキシシラン、ジイソプロピルジエトキシシラン、ジ−n−ブチルジメトキシシラン、ジ−n−ブチルジエトキシシラン、ジイソブチルジメトキシシラン、ジイソブチルジエトキシシラン、ジ−t−ブチルジメトキシシラン、ジ−t−ブチルジエトキシシラン、ジフェニルジメトキシシラン、ジフェニルジエトキシシラン等の2官能性オルガノアルコキシシラン類等が挙げられる。これらオルガノアルコキシシランは、1種単独で用いてもよいし、2種以上を組合せて用いてもよく、また他のオルガノアルコキシシランと併用してもよい。
【0031】
親水化剤として好ましいオルガノアルコキシシランは、メチルトリメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、ジメチルジメトキシシラン、ジメチルジエトキシシラン等であり、この場合、加水分解・縮合反応が早いため、基体樹脂への反応性が高く、表面塗膜に高い親水性を付与しやすくなる。そのため、表面塗膜を安定して親水化することができ、また、表面塗膜の架橋度を低下させるおそれも小さい。
【0032】
上記オルガノアルコキシシランを使用する場合、オルガノアルコキシシランの使用量は、基体樹脂100質量部あたり5〜30質量部とすることができる。この場合、表面塗膜に充分な親水性を付与することができ、また、表面塗膜の硬化性の低下も抑制することができる。オルガノアルコキシシランの使用量は、基体樹脂100質量部あたり10〜20質量部であることが好ましく、15〜20質量部であることが特に好ましい。
【0033】
シリケート化合物による親水化において、酸又はアルカリの加水分解触媒を併用することが好ましく、この場合、親水化をより速やかに行うことができる。上記加水分解触媒の中でも、特に反応性に優れるという点で酸であることが好ましく、このような酸としては、例えば、有機カルボン酸等を例示することができる。上記加水分解触媒は、シリケート化合物100質量部に対して、5〜25質量部であることが好ましい。
【0034】
尚、本発明では、上記オルガノアルコキシシランは、その部分加水分解・縮合物の状態(すなわち、オリゴマー)で使用することも可能である。そのほか、親水化剤には、上記オルガノアルコキシシラン以外の親水化剤、例えば、4官能性アルコキシシラン化合物、チタネート系化合物やコロイダルシリカ、水溶性高分子化合物等が添加されていてもよい。4官能性アルコキシシラン化合物としては、例えば、テトラメトキシシランやテトラエトキシシラン等である。このようなオルガノアルコキシシラン以外の親水化剤と、オルガノアルコキシシランとを併用して使用することも可能である。
【0035】
塗装金属板用塗料には、骨材が含まれるものであってもよい。骨材としてはガラス繊維、ガラスビーズ、マイカの他、アクリル樹脂等で構成される樹脂ビーズなどを例示することができるが、これらに限定されるものではない。このような骨材が塗装金属板用塗料に含まれることで、表面塗膜の艶消し効果や傷付き防止効果を付与することができる。上記骨材は、例えば、基体樹脂100質量部に対して、5〜30質量部の範囲で配合させることができる。
【0036】
本発明の塗装金属板用塗料には、その他の添加物が含有されていてもよく、例えば、顔料、分散安定剤、光安定剤、紫外線吸収剤、可塑剤、シランカップリング剤等が挙げられる。
【0037】
塗装金属板用塗料は、上記説明した原料を、所定量配合させることで調製するようにすればよい。この調製にあたっては必要に応じて、例えば、イソブタノール等のアルコール類や、水、シンナー、キシレン、シクロヘキサノン等の溶剤を添加して、塗装金属板用塗料を希釈するようにしてもよい。
【0038】
本発明の塗装金属板用塗料により、金属板の表面に表面塗膜を被覆させることができる。具体的には、塗装金属板用塗料を、金属板の表面に塗布した後、乾燥・硬化させることにより表面塗膜を被覆形成させることができる。
【0039】
上記金属板としては、その材質は特に制限されないが、ステンレス鋼などの適宜の鋼材からなる鋼板、アルミニウム板等が挙げられる。また、金属板は、溶融亜鉛めっき鋼板、溶融アルミニウム−亜鉛めっき鋼板などの、めっき処理が施された金属板であることも好ましい。この場合、赤外線の吸収による金属板の加熱を防止することができ、また、塗装金属板の遮熱性が向上し、さらに、アルミニウムと亜鉛との合金により耐食性の高い金属板を形成することができるので、塗装金属板の耐食性を向上させることができる。上記溶融アルミニウム−亜鉛めっき鋼板において、めっき層中のアルミニウムの含有割合は、特に制限されないが、例えば、1〜75質量%の範囲にすることができる。また、めっき処理が施された金属板にあっては、耐食性を向上させるために、めっき層にMg等の金属元素が含まれていてもよいし、その他、Cr、Fe、Ca、Sr、Si、Ni、Ce等から選ばれる少なくとも1種以上の希土類等を含有してもよい。もちろん、めっき層中には、前記以外の不可避に混入する元素が含有されてもよい。
【0040】
金属板の表面、又はめっき層が形成された金属板の表面には化成処理層が形成されることも好ましい。化成処理層は公知の化成処理剤、例えば、クロメート処理剤等によって形成させることが可能である。化成処理層は、化成処理剤を用い、ロールコート法、スプレー法、浸漬法、電解処理法、エアーナイフ法など公知の方法で形成され得る。化成処理剤の塗布後、必要に応じ、更に常温放置や、熱風炉や電気炉、誘導加熱炉などの加熱装置による乾燥や焼付けなどの工程が追加されてもよい。赤外線類、紫外線類や電子線類などエネルギー線による硬化方法が適用されてもよい。乾燥時の温度や乾燥時間は、使用した化成処理剤の種類や、求められる生産性などに応じて適宜決定される。このようにして形成される化成処理層は、めっき層上で、連続状もしくは非連続状の皮膜となる。化成処理層の厚みは、処理の種類、求められる性能などに応じて、適宜決定される。
【0041】
塗装金属板用塗料の上記金属板への塗布方法は特に限定されるものではなく、公知の方法を用いることができ、例えば、ロールコート法、スプレー法、浸漬法、シャワーリンガー法、エアーナイフ法などが挙げられる。
【0042】
塗装金属板用塗料を塗布させるにあたっては、上記金属板(めっき層が形成された金属板や化成処理層が形成された金属板も含む)の表面に直接塗布してもよいが、あらかじめ金属板表面に下塗り塗装して下塗り塗膜が形成された表面に、塗装金属板用塗料を塗布させてもよい。すなわち、塗装金属板用塗料は、下塗り塗膜層が形成された金属板の表面に上塗り塗装することで、上塗り塗膜層として表面塗膜を形成させてもよい。これにより、表面塗膜の金属板への密着性が向上する。また、下塗り塗膜と表面塗膜(上塗り塗膜層)との間に、中塗り塗膜を設けてもよい。下塗り塗膜及び中塗り塗膜としては、エポキシ系の樹脂やポリエステル系、ウレタン系の樹脂などにより形成することができるが、これに限定されるものではない。この下塗り塗膜と中塗り塗膜の厚みは、合わせて3〜30μmとするのが好ましく、この場合、塗装金属板の耐食性や表面塗膜の密着性が低下することを抑制することができ、また、塗装金属板の加工性や遮熱性が損なわれるおそれも小さくなる。このようにして、直接、又は、下塗り塗膜や中塗り塗膜を介して、金属板に表面塗膜が設けられる。尚、下塗り塗膜及び中塗り塗膜は、ロールコータ、スプレーなどによる塗布など、適宜の方法により形成させればよい。
【0043】
塗装金属板用塗料により金属板に表面塗膜を形成させるには、塗装金属板用塗料の塗布後、例えば、自然乾燥により溶剤を揮発させながら硬化させることで表面塗膜を形成させてもよいし、電気炉、熱風炉、誘導加熱炉などの加熱装置を用いてもよく、その方法は特に限定されない。加熱乾燥して複合皮膜を形成する場合、金属板の温度(到達板温)が200〜250℃となるように加熱させることが好ましく、この温度範囲では、例えば、20〜60秒間加熱するようにすればよい。この場合、表面塗膜の硬化反応が充分進行し、また、硬化触媒と、親水化剤との反応が起こってしまうのを抑制し易くなり、得られる表面塗膜の硬化度、親水化度が損なわれにくくなる。より好ましい到達板温は、210〜240℃、特に好ましくは210〜230℃である。
【0044】
表面塗膜の厚みは、加工性や着色性などの性能が所望のものとなるように設定されるものであるが、好ましくは、10〜30μmになるようにすればよい。この場合、塗装金属板に十分な耐汚染性や、加工性等の性能を付与しうるものとなる。
【0045】
上記のように塗装金属板用塗料を金属板に塗布させることで表面塗膜が形成され、塗装金属板を得ることができる。特に本発明の塗装金属板用塗料では、解離温度が140℃以下であるポリイソシアネート化合物を使用するものであるので、速やかに基体樹脂との硬化反応(架橋反応)が進行し、高い硬化性を有する表面塗膜を得ることができる。このように速やかに硬化反応が起こるものであるので、硬化触媒(例えば、スズ化合物)を使用しなくても充分な硬化反応が起こり得るものである。さらに、塗装金属板用塗料は、従来のように硬化触媒を含まないので、硬化触媒によるシリケート化合物の阻害反応が起こることはない。すなわち、硬化触媒が含まれていた場合には、この硬化触媒が親水化剤に反応することにより、親水化剤の塗膜を親水化させるという本来の作用が低減されてしまうが、硬化触媒を含まない塗装金属板用塗料では、上記のような副反応が起こらないのである。そのため、親水化剤と基体樹脂との反応が充分に起こることで、表面塗膜の親水化をより高めることができ、親水化度の高い塗装金属板を得ることができるものとなる。よって、表面塗膜が親水化剤であるシリケート化合物で表面濃化された(表面塗膜において表層のシリケート化合物の濃度が内部よりも高い)塗装金属板が得られることになる。
【0046】
また、塗装金属板用塗料中に硬化触媒を含まないので、親水化剤中のシリケート化合物との反応が抑制され、塗装金属板用塗料自体の粘度の上昇も抑えることができるので、結果として、塗装金属板用塗料の安定性にも優れる。そのため、金属板の表面に均一に表面塗膜が成膜され易く、塗膜の密着性を向上させることができると共に、塗装金属板の加工性や耐久性も向上させ易いものである。
【0047】
以上のように、本発明の塗装金属板は、表面の親水化度が非常に高く形成されているので、例えば、塗装金属板表面に汚染物質等が付着したとしても、降雨時の雨水が表面塗膜の表面全体に広がる作用によって、その汚染物質を剥離させて洗い流すことができる。そして、表面塗膜全体が均一に高い親水化度で親水化されていることによって、雨水による筋状の跡(雨筋汚染)が生じにくくなり、意匠性の低下を抑制することも可能である。このように、本発明の塗装金属板は耐汚染性に優れることに加えて、表面塗膜の硬化度も高いものであり、加工性も悪化しにくいものである。そのため、本発明の塗装金属板は、建材製品、家電製品、自動車部材等、各種分野で使用でき、特に屋外で使用する建材製品に適している。
【実施例】
【0048】
以下、本発明を実施例によって具体的に説明する。
【0049】
<
参考例1、2、実施例3、4、比較例1、2>
(塗装金属板の作製)
各実施例及び比較例
並びに参考例において、塗装金属板用塗料は、表1に示す原料及び配合量で調製した。表1に示す各原料の詳細は以下のとおりである。
・基体樹脂:ポリエステル樹脂(三井化学株式会社製「アルマテックスP645」)
・硬化剤1:ポリイソシアネート化合物(住化バイエルウレタン株式会社製「デスモジュール BL3370 MPA」、解離温度110℃)
・硬化剤2:ポリイソシアネート化合物(住化バイエルウレタン株式会社製「デスモジュール BL3272 MPA」、解離温度150℃)
・硬化剤3:メラミン樹脂(三井サイテック株式会社製「サイメル303」、表面濃化能あり)
・硬化触媒:ジブチル錫ラウレート
・酸触媒1(メラミン樹脂硬化用):アルキルベンゼンスルホン酸(三井化学株式会社製「キャタリスト6000」)
・親水化剤:メチルトリメトキシシラン(コルコート株式会社製「メチルシリケート53A」)
・酸触媒2(親水化剤用):有機カルボン酸
・骨材1:ガラス繊維(OCV株式会社製「サーフェストランドREV−1」)
・骨材2:アクリルビーズ(積水化成品工業株式会社製「テクポリマー」)
・顔料:酸化チタン(主成分)
また、上記原料の他、溶剤としてシクロヘキサノン(主成分)を適宜の量で添加した。
【0050】
尚、表1記載の各原料の配合量は、基体樹脂を100質量部とし、硬化剤3、親水化剤、骨材1、骨材2及び顔料は、基体樹脂を100質量部あたりの配合量を示している。また、硬化剤1、2は、基体樹脂の水酸基に対するイソシアネート基のモル比(NCO/OH)が0.5となるように配合している。また、表1では、硬化触媒はポリイソシアネート化合物の配合量に対する比(比較例1、2において、硬化触媒はポリイソシアネート化合物の配合量の1/6の量を配合している)、酸触媒1はメラミン樹脂に対する配合量(質量%)、酸触媒2は親水化剤に対する配合量(質量%)で表している。
【0051】
各実施例及び比較例
並びに参考例において、金属板として、55%アルミニウム−亜鉛合金めっき鋼板(目付:AZ150、板厚:0.3mm、以下、GL板という)を用意した。このGL板に、塗布型クロメート(日本ペイント株式会社製:NRC300、クロム換算で30mg/m
2)で下地処理を施し、その後、下塗り塗膜用の塗料として、エポキシ樹脂(日本ファインコーティングス株式会社製「P667Sプライマー」)を用い、乾燥時の塗膜の厚みが4μmとなるように、この塗料をバーコーターで金属板に塗装した。その後、GL板の最高到達温度200℃で約25秒間焼き付けて、下塗り塗膜を形成した。
【0052】
上記のように下塗り塗膜を形成した後、表1のように配合させた塗装金属板用塗料を、上塗り塗装用として用意し、これを塗布した。塗装金属板用塗料の塗布は、バーコーターにより、下塗りされた金属板の上に、乾燥時の塗膜の厚みが15μmとなるように塗装した。その後、最高到達温度220℃で約30秒間焼き付けて、表面塗膜を形成した。このようにして製造された各実施例及び比較例
並びに参考例の塗装金属板について以下の評価を行った。
【0053】
<評価方法>
[耐汚染性試験]
各実施例及び比較例
並びに参考例の塗装金属板を、日鉄住金鋼板株式会社尼崎製造所内にて屋外にて垂直に立てて曝露し、その上方に波形に成形した板を配置して、雨水が板から塗装金属板表面に3本流れ落ちるようにし、この状態で3か月間放置した。そして、この塗装金属板表面に生じた雨筋汚染を水拭きして、雨筋汚染の除去性を、目視にて観察した。そして観察結果を下記評価基準にて評価した結果を表1に示す。
◎:雨筋汚染が完全に除去。
○:雨筋汚染の除去性が比較例1よりも良好。
△:雨筋汚染の除去性が比較例1と同等。
×:雨筋汚染の除去性が比較例1よりも劣る。
【0054】
[加工性試験]
曲げ性加工方法(JIS3321.8.2)に準拠し、内側間隔(表示厚さの板の枚数)0枚で塗装金属板の加工を行った。加工後、テープによる剥離試験を行い、テープに塗膜が付着している面積率で評価した。なお、試験は温度20℃で実施した。面積率の値により、次の4段階の評価基準で評価した。
◎:剥離がない。
○:面積率0〜10%未満(面積率0%は含まない)の剥離。
△:面積率10〜35%の剥離。
×:面積率35%を超える剥離。
【0055】
[耐侯性試験(エロージョン)]
太陽光線、空気、湿気などに晒される大阪府堺市の野外に、1年間塗装金属板を放置した。目視により外観(表面の白亜化、表面の凹凸形成、チョーキング、色落ち、金属板の腐食)を観察し、外観から次の2段階の評価基準で評価した。
○:変化が小さい
×:変化が大きい。
【0056】
[塗料安定性(増粘度)]
各実施例及び比較例
並びに参考例で使用した塗装金属板用塗料の約500gについて、No4フォードカップ粘度計を用いて液温25℃で秒数粘度を測定して初期値とした。この塗料について23℃で1ヶ月間貯蔵保管をおこない、初期値測定時と同様の手法で秒数粘度を測定、1ヶ月経時後の粘度とした。初期粘度に対して両者の差異分を増粘度とした。
【0057】
[親水化度(水接触角)]
得られた塗装金属板に対して、水接触角計による水接触角を測定した。水接触角の測定は、表面塗膜形成直後の塗装金属板(表1では、「親水化度(水接触角、初期)」と表記)及び親水化剤(メチルトリメトキシシラン)の硬化後(親水化処理後)の塗装金属板(表1では、「親水化度(水接触角、親水化後)と表記)で行った。親水化処理(湿潤試験)は、表面塗膜が形成された塗装金属板を、湿度98%、温度50℃の環境下に24時間置くことにより行った。
【0058】
【表1】
【0059】
参考例1、2、実施例3、4の塗装金属板は、親水化度が高く(すなわち、水接触角が小さく)、耐汚染性、加工性及び耐侯性に優れるものであった。また、
参考例1、2、実施例3、4で使用した塗装金属板用塗料は、増粘度が低く、塗料安定性に優れる塗料であった。
【0060】
これに対し、比較例1及び2の塗装金属板では、親水化処理後の親水化度が
参考例1、2、実施例3、4よりも悪く、そのため、耐汚染性も劣るものであった。これは、比較例1、2では硬化触媒を含む塗装金属板用塗料で表面塗膜を形成しているため、硬化触媒と親水化剤との不要な副反応が起こり、これにより、親水化剤による親水化作用が充分に起こらなかったからである。また、そのような副反応が起こることで、塗料の粘度の増大も認められ、塗料安定性も劣るものであった。
【0061】
以上より、本発明の塗装金属板用塗料で金属板に表面塗膜を形成させると、表面塗膜は高い硬化性を有するので、塗装金属板の加工性が良好であり、かつ、高い親水性を有するので、塗装金属板の耐汚染性にも優れるものであることが明らかである。