【文献】
岸智弥 他,酸化物半導体の電気的、光学的特性評価(I),第59回 応用物理学関係連合会講演会 講演予稿集,日本,2013年 3月,p.21-078,(17p-E4-11)
【文献】
Myungkwan Ryu et al.,High mobility zinc oxynitride-TFT with operation stability under light-illuminated bias-stress conditions for large area and high resolution display applications,Tech.Dig.Int.Electron Devices Meet,米国,IEEE,2012年,pp.112-114
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
酸化物半導体薄膜から励起されたルミネッセンス光の、複数のエネルギー準位間で生じる各ルミネッセンス光に対応するエネルギーの強度比に基づき、前記酸化物半導体薄膜のストレス耐性を評価する請求項1または2に記載の酸化物半導体薄膜の評価方法。
前記強度比として、1.6〜1.9eVの範囲に観察される発光強度(L1)と、バンド間遷移に対応する3.0〜3.2eVの範囲に観察される発光強度(L2)との発光強度比(L1/L2)を用いる請求項3に記載の酸化物半導体薄膜の評価方法。
前記強度比として、1.6〜1.9eVの範囲に観察されるピーク強度(P1)と、バンド間遷移に対応する3.0〜3.2eVの範囲に観察されるピーク強度(P2)とのピーク強度比(P1/P2)を用いる請求項4に記載の酸化物半導体薄膜の評価方法。
【発明を実施するための形態】
【0036】
本発明の第1の特徴部分は、酸化物半導体薄膜のストレス耐性を非破壊的且つ非接触で、簡便に評価(予測・推定)する指標として、酸化物半導体薄膜が形成された試料に励起光または電子線を照射して励起されたルミネッセンス光の発光強度を用いる点にある。好ましくは、上記ルミネッセンス光のうち、1.6〜1.9eVの範囲に観察される発光強度L1(より好ましくはピーク強度P1)を、ストレス耐性評価の指標として用いる。これにより、酸化物半導体薄膜のストレス耐性の優劣(例えば合否の判定など)を、ほぼ把握することができる。すなわち、後記する実施例1に示すように、上記範囲で観察されるピーク強度P1と、酸化物半導体薄膜のストレス耐性(ΔVth)とは、おおむね良好な相関関係を有しており、P1が大きくなるとΔVthも大きくなる(すなわち、ストレス耐性が低下する)傾向にある。よって、P1は、酸化物半導体薄膜のストレス耐性を、簡便且つ定性的に評価し得る指標として有用である。
【0037】
本発明の第2の特徴部分は、酸化物半導体薄膜のストレス耐性を、より精度良く評価する指標として、酸化物半導体薄膜から励起されたルミネッセンス光の、複数のエネルギー準位間で生じる各ルミネッセンス光に対応するエネルギーの強度比を用いる点にある。好ましくは、上記強度比として、1.6〜1.9eVの範囲に観察される発光強度L1と、バンド間遷移に対応する3.0〜3.2eVの範囲に観察される発光強度L2との発光強度比(L1/L2)を、ストレス耐性評価の指標として用いる。より好ましくは、上記発光強度L1のピーク強度P1と、上記発光強度L2のピーク強度P2とのピーク強度比(P1/P2)を、ストレス耐性評価の指標として用いる。これにより、酸化物半導体薄膜のストレス耐性を、より精度良く評価することが可能になる。
【0038】
以下、本発明に到達した経緯を簡単に説明する。
【0039】
本発明者らは、上記目的を達成するため、検討を重ねてきた。その結果、酸化物半導体薄膜のストレス耐性(ΔVth)を評価する指標として、酸化物半導体薄膜が形成された試料に励起光または電子線を照射して励起されたルミネッセンス光の発光強度(好ましくはピーク強度)の使用が有効であることを突き止めた。具体的には、酸化物半導体薄膜から励起されたルミネッセンス光のうち、特に1.6〜1.9eVの範囲に観察される発光強度L1(好ましくはピーク強度P1)と、ΔVthとが、おおむね、良好な相関関係を有することが判明した。すなわち、ΔVthが小さいほどストレス耐性に優れるが、ΔVthが小さくなるにつれ、上記L1(またはP1)も小さくなる傾向を示すことが分かった。
【0040】
一方、実際には、上記のようにルミネッセンス光の発光強度[特に1.6〜1.9eVの範囲に観察される発光強度L1(またはピーク強度P1)]を用いただけでは、必ずしもストレス耐性を正しく評価できない場合があることが判明した。これは、本発明の評価対象であるルミネッセンス光が、ストレス耐性の原因となる発光準位以外の因子(例えば、半導体薄膜の非発光準位など)の影響を受け易いという属性を有するためと考えられる。そこで更に検討を進めた結果、複数のエネルギー準位間で生じる各ルミネッセンス光に対応するエネルギーの強度比をストレス耐性評価の指標として用いれば、より精度良くストレス耐性を評価できることが判明した。
【0041】
具体的には、上記強度比として、上述したL1(またはP1)と;上記L1(またはP1)以外の分析地点であって、当該分析地点での範囲内のスペクトル形状が上記L1(またはP1)と一致する(スペクトルが重なる)分析地点に観察される発光強度Q2(またはピーク強度Q3)との強度比[Q2/L1(またはQ3/P1)]が挙げられる。
【0042】
好ましくは、上記強度比として、上述したL1と、バンド間遷移に対応する3.0〜3.2eVの範囲に観察される発光強度L2との発光強度比L1/L2を用いる。より好ましくは、上述したP1と、上記発光強度L2のピーク強度P2とのピーク強度比(P1/P2)を用いる。後記する実施例に示すように、上記強度比は、実際のストレス耐性(ΔVth)と極めて良好な相関関係を有しており、上記強度比をストレス耐性評価の指標として用いれば、酸化物半導体薄膜のストレス耐性を、より精度良く評価できることが分かった。
【0043】
ここで、バンド間遷移に対応する3.0〜3.2eVの範囲に観察される発光強度L2またはピーク強度P2を基準とした理由は以下の理由による。すなわち、上記範囲の発光はバンド構造に基づくため、当該範囲の発光強度は半導体の膜質そのものと相関を有する。そのため、前述した発光強度L1やピーク強度P1が低く算出される場合、その原因が、酸化物半導体薄薄膜の膜質が悪いためなのか、それとも酸化物半導体薄薄膜の膜質に依存せず実際に発光強度やピーク強度が低いのかを、上記L2またはP2で規格化された上記強度比を用いることによって判別でき、表示装置の信頼性を正しく評価できるからである。
【0044】
本発明の評価方法は、上記試料に励起光を照射するときは、当該励起光により励起されたフォトルミネッセンス光を測定し、その発光強度に基づき、酸化物半導体薄膜のストレス耐性を評価する方法(第1の態様)と、上記試料に電子線を照射するときは、当該電子線により励起されたカソードルミネッセンス光を測定し、その発光強度に基づき、酸化物半導体薄膜のストレス耐性を評価する方法(第2の態様)を含む。第1の態様では励起光を用い、第2の態様では電子線を用いる点で相違するが、いずれも、励起されたルミネッセンス光の発光強度に基づいて酸化物半導体薄膜のストレス耐性を評価するものであり、発光メカニズムは同じである。
【0045】
繰り返し述べるように本発明では、特に所定エネルギーの範囲に観察される発光強度(またはピーク強度)をストレス耐性の指標として用いるものである。例えば本明細書において「1.6〜1.9eVの範囲に観察される発光強度(L1)」は、上記のエネルギー範囲内に観察される発光強度を意味し、上記範囲内における発光強度の平均値やスペクトル形状(ピークの形)を推定して算出された面積などが含まれる。一方、本明細書において「1.6〜1.9eVの範囲に観察されるピーク強度(P1)」とは、上記のエネルギー範囲内に観察される発光強度の最大値(極大値)を意味する。なお、発光スペクトルの形状によっては明瞭なピークが得られないことがあるが、その場合は、エネルギー準位などによりその位置を特定することができる。
【0046】
上記のうち、以下の観点からは、発光強度の平均値やスペクトル形状を推定して算出された面積などの発光強度を指標として用いることが推奨される。本発明の場合、発光スペクトルに観察されるピークはブロードな形状をしていることが多いが、これは、同じ原因に由来する欠陥が構造の揺らぎを受けて広がっていることを一般に意味する。その揺らぎ具合が異なると、同じピーク強度であっても発光スペクトルの幅(半値幅)が異なり得るため、ピーク強度を指標として用いると、トータルの欠陥の量を間違って見積もる虞がある。よって、この点を考慮すると、物理的には、上記のようにスペクトル形状(ピークの形)を推定して算出された面積などを求めるのが正しい。一方、測定の簡便さという意味では、ピーク強度を指標として用いることが推奨される。本発明者らによるこれまでの調査によれば、対象となる酸化物半導体では、スペクトル形状が殆ど変わらないことを知見把握しているからである。
【0047】
同様のことは、本明細書における「3.0〜3.2eVの範囲に観察される発光強度(L2)」および「3.0〜3.2eVの範囲に観察されるピーク強度(P2)」にも言える。
【0048】
また、強度比の算出に用いられる「バンド間遷移に対応する3.0〜3.2eVの範囲に観察される発光強度L2」とは、基本的にバンド間遷移に対応する範囲に観察される全ての発光強度を意味する。例えば、上記要件を満足する限り、3.1eV付近に観察されるスペクトルの発光強度をL2として用いることができる。また、上記要件を満足する限り「3.0〜3.2eV」の範囲から若干逸脱するもの(例えば、2.5〜3.5eV程度)も本発明の範囲に含む趣旨である。
【0049】
以下、上記指標を用い、酸化物半導体薄膜のストレス耐性を評価する方法について、詳しく説明する。
【0050】
まず、酸化物半導体薄膜が形成された試料を用意する。
【0051】
上記酸化物半導体薄膜として、In、Ga、Zn、およびSnよりなる群から選択される少なくとも1種以上の元素を含む非晶質の酸化物半導体薄膜が好ましく用いられる。これらの元素は単独で含有しても良く、二種以上を併用しても良い。具体的には例えば、In酸化物、In−Sn酸化物、In−Zn酸化物、In−Sn−Zn酸化物、In−Ga酸化物、Zn−Ga酸化物、In−Ga−Zn酸化物、Zn酸化物などが挙げられる。この酸化物薄膜は、上記各元素及び酸素以外の他の元素を含有していてもよい。他の元素としては、例えば、Mn等を挙げることができる。
【0052】
上記酸化物半導体薄膜の厚さは、例えば、数十nm〜100nm程度であることが好ましい。
【0053】
本発明に用いられる上記試料は、基板の上に、上記酸化物半導体薄膜が形成されたものである。上記基板は、本発明の技術分野に通常用いられる各種基板を用いることができるが、例えば、厚み0.7mm程度、大きさ(広さ)が第1世代〜第10世代と呼ばれる数十cm
2から数m
2を超える液晶表示装置用のガラス基板などを用いることができる。
【0054】
上記試料は、基板の上に直接、上記酸化物半導体薄膜が形成されていても良いが、基板上に金属膜などを形成し、その上に、上記酸化物半導体薄膜が形成されていても良い。後者の試料によれば、上記試料に対して励起光または電子線を照射した際、ガラス基板からの蛍光を避けることができるため、精度が一層高められる。
【0055】
このような試料に対し、励起光または電子線を照射する。酸化物半導体薄膜中に、ストレス耐性の低下をもたらす欠陥が存在する場合、当該欠陥に起因する発光強度が得られる。照射条件は、酸化物半導体薄膜の組成や膜厚などに適した励起光または電子線の照射条件を設定することが好ましく、具体的には、以下のとおりである。例えば電子線を用いる場合、加速電圧を好ましくは5kV、より好ましくは2kV程度とする。2kV程度の加速電圧で加速された電子は半導体中を約40nm進入するが、一般に用いられる半導体膜厚は30〜50nm程度であることから、半導体膜中全体の評価が可能である。一方、励起光としてはバンドギャップ(3.2eV)より大きな光を使用することが推奨され、他の方式の半導体UVレーザ、UV−LED、Hg−Cdレーザなどが好ましく用いられる。
【0056】
次に、励起されたルミネッセンス光を測定し、その発光強度を測定する。具体的には、上記試料に励起光を照射するときは、当該励起光により励起されたフォトルミネッセンス光を測定し、一方、上記試料に電子線を照射するときは、当該電子線により励起されたカソードルミネッセンス光を測定する。各ルミネッセンス光の測定条件としては、例えば、加速電圧2kVにて室温で測定することが好ましい。
【0057】
本発明の評価方法を実行するに当たっては、上記試料の測定部位に励起光または電子線を照射する照射装置と、励起光または電子線の照射により発生した、酸化物半導体薄膜中の欠陥に起因する発光を測定する発光装置と、を具備する測定装置を用いることが推奨される。上記測定装置は、可視光領域に亘って全スペクトルを測定することができ、そのなかから、1.6〜1.9eVの範囲に観察されるピーク強度を抽出する処理装置を具備していることが好ましい。また、上記測定装置は、CCD(Charge Coupled Device、電荷結合素子 )、光電子増倍管、光受光素子などの光検知手段と、1.6〜1.9eVのみの光を選択的に透過するフィルターとを組み合わせて用いることもできる。
【0058】
上記処理装置(ピーク強度などを抽出する装置)は、コンピュータと、ステージコントローラとを有していることが好ましい。このうちコンピュータは、CPU(Central Processing Unit、中央処理装置)、記憶部、入出力信号のインターフェース等を備え、CP
Uが所定のプログラムを実行することによって各種の処理を実行する機能を有する。例えば、コンピュータは、パルスレーザおよび上記処理装置に対して励起光の出力タイミングを表すタイミング信号を出力すると共に、検出手段によって出力されたスペクトルの強度値を当該コンピュータが備える記憶部に記録すると共に、1.6〜1.9eVの範囲に存在するブロードなピークからピーク強度を算出する。またステージコントローラは、コンピュータからの指令に従ってX−Yステージを制御することにより、酸化物半導体薄膜試料における測定部位の位置決め制御を行う機能を有する。
【0059】
具体的には、上記第1の態様のように励起光を励起手段として用い、フォトルミネッセンスを利用した評価方法では、励起用のレーザ光源と、励起光の照射により発生した酸化物半導体薄膜中の欠陥に起因する発光を測定する装置と、を具備する測定装置を用いることが好ましい。上記測定装置には、分光器が備え付けられていると共に、可視光領域に亘って全スペクトルを測定することができ、そのなかから、1.6〜1.9eVの範囲に観察されるピーク強度を抽出する機能を具備していることが好ましい。また、上記測定装置は、CCD、光電子増倍管、光受光素子などの光検知手段と、1.6〜1.9eVのみの光を選択的に透過するフィルターとを組み合わせて用いることもできる。光路には、ミラーおよび集光レンズを備えているこが好ましく、これにより、発光したルミネッセンス光を効率よく収集することができる。
【0060】
上記第1の態様に用いられる励起用のレーザ光源としては、励起光を出力する光源であり、例えば波長349nm、パワー(パルスエネルギー)1μJ/pulse、パルス幅15ns程度、ビーム径1.5mm程度のパルス状の紫外光(YLFレーザ第三高調波等)を励起光として出射する半導体レーザ等などのパルスレーザ光を使用することが好ましい。上記波長(紫外光の波長)における浸透長は約200nmであり、実施例の酸化物半導体薄膜試料の膜厚(100nm)と比較して同程度である。
【0061】
なお、上記パルスレーザの出力光(励起光)は、酸化物半導体薄膜試料のバンドキャップ程度以上のエネルギーを有するものであれば良く、上述したYLFレーザ第三高調波パルスレーザのほか、He−Cdレーザ、アルゴンイオンレーザなどを、連続光を照射可能なレーザ光源として利用することもできる。ここで励起光が酸化物半導体薄膜試料のバンドキャップ以上のエネルギーを有することは、当該試料でルミネッセンス光を発生させるための電子−正孔対の形成のために必要である。
【0062】
上記試料から発光したルミネッセンス光(第1の態様では、フォトルミネッセンス光)は、ミラーで反射・集光され、検地部に到達する。その際、楕円面を有するミラーを用いると、焦点にルミネッセンス光を集光することができるため、好ましい。焦点には、光ファイバの入射口が設置されており、発光したルミネッセンス光は分光器に導かれて波長分解し、各スペクトルごとの発光強度が記録される。
【0063】
一方、上記第2の態様のように電子線を励起手段として用い、カソードルミネッセンスを利用した評価方法では、真空中に設置された電子銃から発せられた電子がフォーカスされ、試料に照射される。電子線を用いる場合は、通常の走査型電子顕微鏡を利用できるため、空間分解能が高いため、励起光を用いる上記第1の態様に比べて、高い評価性能が期待される。
【0064】
以上、本発明に係る酸化物半導体薄膜の評価方法について詳述した。
【0065】
本発明には、上記評価方法を、酸化物半導体薄膜を基板上に形成した後の製造工程のいずれかの工程に適用して酸化物半導体薄膜の品質管理を行なう方法も含まれる。このように上記の評価方法を、上記製造工程のいずれかの工程に適用することによって、酸化物半導体薄膜の電気的特性(ストレス耐性)を評価した結果をフィードバックし、製造条件を調整するなどして膜質の管理を行うことができるため、酸化物半導体の品質管理を適切に行うことができる。
【0066】
ここで、上記「いずれかの工程」は、基板上に酸化物半導体薄膜を形成した後の任意の工程を意味する。具体的には、例えば基板上へ酸化物半導体薄膜を形成した直後に、上記の評価方法を行っても良いし、或いは、基板上へ形成した酸化物半導体薄膜に対して、例えば酸素や水蒸気による熱処理(プレアニール処理)を行った後に上記の評価方法を行っても良いし、或いは、パッシベーション絶縁膜の形成前に行っても良い。更に上記の評価方法は、上記製造工程の一工程(ワンポイント)で行なっても良いし、二以上の工程(複数のポイント)で行っても良い。また、酸化物半導体薄膜が形成された基板をスキャンして当該基板全面を測定することで、酸化物半導体薄膜の面内分布(同一基板面内の場所の違いによるVthのばらつき)を測定することができる。
【0067】
ここで上記プレアニール処理は、酸化物半導体薄膜の膜質を向上するために用いられる熱処理方法である。好ましいプレアニール条件は、酸化物半導体薄膜の組成や製造条件などによっても相違し得、適宜適切に設定すれば良いが、例えば、圧力:大気圧、雰囲気:大気、水蒸気含有雰囲気、100%酸素雰囲気;温度:約250℃以上400℃以下;時間:約10分〜3時間などが挙げられる。本発明の評価方法を用いれば、上記の好ましいプレアニール条件の中からストレス耐性を最も高められるプレアニール条件を提示することができる。
【0068】
以下、本発明の酸化物薄膜の品質管理方法の実施の形態を、適宜図面を参照にしつつ、更に詳説する。
【0069】
当該酸化物薄膜の品質管理方法は、
(A)上記酸化物薄膜に電子線を照射し、この照射により生じる蛍光スペクトルを測定する工程、及び
(B)上記蛍光スペクトルに基づいて薄膜の評価をする工程
を有する。
【0070】
上記酸化物薄膜の厚みとしては、特に限定されないが、例えば10nm以上500nm以下のものを用いることができる。
【0071】
上記酸化物薄膜は、ガラス等の基板の表面に成膜されたものを用いることができる。また、後に詳述するように、TFTの製造プロセス毎に測定するため、TFTが有する各層が成膜された状態のものを用いることができる。
【0072】
上記電子線の照射及びこの照射により生じる蛍光スペクトルの測定は、公知のカソードルミネッセンス測定機を用いて行うことができる。具体的には、電子線は電子銃等により照射することができる。蛍光スペクトルはCCD(電荷結合素子)やPMT(光電子倍増管)等で検出(測定)することができる。
【0073】
当該品質管理方法によれば、このようにカソードルミネッセンス測定機を用いることで、微小領域での測定が可能となる。また、照射する電子線のエネルギーが大きいため、直接光励起が困難なワイドギャップ半導体(酸化物)薄膜にも適用が可能となる。
【0074】
(B)工程
(B)工程では、上記カソードルミネッセンス測定により得られる蛍光スペクトルに基づいて薄膜の評価をする。上記評価の基準としては、複数のエネルギー準位間で生じる各蛍光に対応するエネルギーX(波長)の強度Iの比を用いる。
【0075】
なお、この強度Iは、好ましくは
図1に示す横軸をエネルギーX(波長)、縦軸を強度Iとした蛍光スペクトルにおける極大値(ピーク)で表される。このように極大値を用いると強度の特定が容易となることなどにより、効率的な評価や管理を行うことができる。但し、極大値(ピーク)が明瞭に表れない場合も、エネルギー準位等によりその位置を特定すればよい。
【0076】
当該品質管理方法は、酸化物薄膜に対してカソードルミネッセンス測定を行い((A)工程)、この蛍光スペクトルの強度比を用いて酸化物薄膜の評価を行う((B)工程)ため、トランジスタが完成していなくとも、その製造工程毎に測定及び評価を行うことができる。
【0077】
上記エネルギーの強度において、
伝導帯と価電子帯との間で生じる蛍光に対応するエネルギーX
1の強度をI
1、
その他のエネルギー準位間で生じる蛍光に対応する一又は複数のエネルギーX
2、X
3、・・・X
mの強度をそれぞれI
2、I
3、・・・I
m(mは2以上の整数)とし、
上記強度比として、I
m/I
1を用いることが好ましい。
【0078】
ここで、この理論を説明するため、まず、カソードルミネッセンス測定の原理を
図2を参照に説明する。試料(酸化物薄膜)に入射した電子の一部は、価電子帯(VB)やアクセプター準位等に存在する電子を、伝導帯(CB)やドナー準位に励起するのに使われ、この結果、電子(e
-)−ホール(h)対が生成される。電位−ホール対は
図2に示すようにバンド間(BG)やドナー準位、アクセプター準位、欠陥準位などを通じて再結合し、蛍光が生じる。
【0079】
電子線の試料への入射深さ(Re)は、下記式で求めることができる。
【0081】
ここで、Zは原子数、Aは原子量、Eは入射電子のエネルギー、ρmは試料の密度である。すなわち、入射する加速電圧の大きさによって電子の進入深さを変えることができる。例えば、酸化物薄膜がIGZO薄膜の場合は、密度6.3g/cm
3とすると、加速電圧8kVで442nm、5kVで202nm、3kVで86nmとなる。
【0082】
ここで、「固体物理、VOL44、P621(2009)」(以下、非特許文献1と呼ぶ。)には、IGZO薄膜のバンドギャップ(BG)及び伝導帯(CB)近傍及び価電子帯(VB)近傍の欠陥準位等及びそれぞれの欠陥密度が記載されている。この欠陥密度を定量的に測定することは困難であるとされている。そこで、本発明においては、蛍光スペクトルの強度を用いてバンド間に形成される欠陥準位等の存在状態すなわち半導体としての品質を評価する。
【0083】
なお、上記非特許文献1の記載に基づけば、IGZOにおける各蛍光のエネルギーは、
伝導帯と価電子帯との間(バンドギャップ:BG)で生じる蛍光に対応するエネルギーX
1が3.3eV±0.2eV程度、
その他のエネルギー準位間で生じる蛍光に対応するエネルギーX
2が2.5eV±0.3eV程度、エネルギーX
3が1.9eV±0.3eVとなる。
【0084】
そこで、これらのエネルギーの強度の比を用いることで、IGZO等酸化物被膜のストレス耐性等の品質を容易に管理・評価することができる。この理由としては、上記強度比は、欠陥準位等の発生(存在)状態やその密度を表していると考えられ、この欠陥準位等の発生等が、ストレス耐性等のTFTの品質の低下に繋がる。一方、欠陥準位等の密度に応じ対応する蛍光の強度が定まる。従って、例えばバンドギャップに対応する蛍光の強度(I
1)を基準として、他のエネルギー準位間で生じる蛍光の強度を観測することで、酸化物薄膜に発生する欠陥準位等の発生状態等が確認でき、この値をモニタリングすることで品質を管理することができる。
【0085】
特に、伝導帯と価電子帯との間のバンドギャップに対応するエネルギーの強度を基準とするこの強度比I
m/I
1は、酸化物薄膜に形成される各準位の状態等との関連が高いと考えられる。従って、この強度比を用いることで、より正確な評価を行うことができる。
【0086】
強度比I
m/I
1としては、例えばI
2/I
1のみの一組の比のみを用いてもよいし、I
2/I
1及びI
3/I
1といった複数組みの比を用いてもよい。また、評価の基準としては、上記強度比が所定範囲内であること、上限値又は下限値のみを定めること等とすることができる。上記下限値又は上限値は、対象となる酸化物薄膜の物性(バンドギャップ、アクセプター準位、ドナー準位等の値等)に応じて適宜設定すればよい。
【0087】
なお、上記強度比としては、I
1を分母としたI
m/I
1以外の比、例えばI
3/I
2等を採用することもできる。
【0088】
当該品質管理方法は、TFTの製造プロセス毎の適当なタイミングで行うことが好ましい。具体的には、
(X)酸化物薄膜を成膜する工程、
(Y)この酸化物薄膜をアニーリングする工程、及び
(Z)アニーリングされた上記酸化物薄膜の表面に保護膜を成膜する工程
を有するTFTの製造プロセスにおいて、
上記(A)工程及び(B)工程を、(X)工程、(Y)工程及び(Z)工程の後にそれぞれ行うとよい。
【0089】
TFTの製造においては、酸化物薄膜の成膜及び熱処理条件並びにこの酸化物薄膜表面に形成される保護膜の成膜条件が、酸化物薄膜の品質に与える影響が大きい。そこで、このように上記(X)〜(Z)の各工程の後にそれぞれ測定及び評価を行うことで、製造プロセスに沿った効率的な管理が可能となる。
【0090】
なお、このように(X)〜(Z)の各工程の後毎に(A)工程及び(B)工程を行い、上記酸化物薄膜がIn、Ga、Zn及びOを含む(IGZO)である場合、
上記エネルギーX
1を3.3eV±0.2eV、
上記エネルギーX
2を2.5eV±0.3eV、及び
上記エネルギーX
3を1.9eV±0.3eV
とし、
上記基準を
上記(X)工程後の強度比I
2/I
1が2.0以上15.0以下、及び/又はI
3/I
1が3.0以上30.0以下、
上記(Y)工程後の強度比I
2/I
1が5.0以上30.0以下、及び/又はI
3/I
1が15.0以上80.0以下、
上記(Z)工程後の強度比I
2/I
1が6.0以上20.0以下、及び/又はI
3/I
1が25.0以上70.0以下
とすることが好ましい。また、I
2/I
1及びI
3/I
1の両方が各範囲を満たしていることが好ましい。
【0091】
上記基準としては、さらに
上記(X)工程後の強度比I
2/I
1が2.0以上8.0以下、及びI
3/I
1が3.0以上20.0以下、
上記(Y)工程後の強度比I
2/I
1が5.0以上15.0以下、及びI
3/I
1が15.0以上50.0以下、
上記(Z)工程後の強度比I
2/I
1が6.0以上10.0以下、及びI
3/I
1が25.0以上40.0以下
とすることが好ましい。
【0092】
IGZO薄膜の製造において、具体的に各工程毎に上記基準を採用することで、より良好な品質管理を行うことができる。
【0093】
なお、(X)〜(Z)工程のそれぞれの後に(A)工程を行う場合、通常、上記酸化物薄膜がゲート絶縁膜の表面に成膜されている。さらに、(Z)工程後に(A)工程を行う場合は上記酸化物薄膜の表面に保護膜が成膜されている。このような成膜状態の薄膜に対して測定及び評価を行うことで、製造プロセス毎の品質管理が容易になる。
【0094】
上記TFTの製造は、公知の方法で行うことができる。具体的には、
図3に示すTFT1は、例えば
基板2表面にゲート電極3となる膜を成膜する工程、
上記膜をパターニングし、ゲート電極3を得る工程、
上記ゲート電極3を被覆するゲート絶縁膜4を成膜する工程、
ゲート絶縁膜4の表面に酸化物薄膜5を成膜する工程((X)工程)、
この酸化物薄膜5をアニーリングする工程((Y)工程)、
アニーリングされた酸化物薄膜5の表面に保護膜6を成膜する工程((Z)工程)、
この保護膜6をパターニングする工程、
ソース電極7又はドレイン電極8となる膜を成膜する工程、
上記膜をパターニングし、ソース電極7及びドレイン電極8を得る工程、
最表面に位置する保護膜9を成膜する工程、
コンタクトホール10を形成する工程、及び
全体を再度アニーリングする工程
により得ることができる。
【0095】
各電極となる膜、保護膜及び絶縁膜は、公知の方法、例えばスパッタリング法、蒸着法等で成膜することができる。また、パターニングやコンタクトホールの形成も、公知の方法、例えばフォトリソグラフィ及びウエット又はドライエッチングにより行うことができる。
【0096】
(X)工程となる上記酸化物薄膜5の成膜も、例えばスパッタリング法により行うことができる。スパッタリングターゲットを用いてスパッタリングするに当たっては、基板温度を室温とし、酸素添加量を適切に制御して行なうことが好ましい。酸素添加量は、スパッタリング装置の構成やターゲット組成などに応じて適切に制御すれば良いが、酸化物薄膜(半導体)のキャリア濃度が10
15〜10
16cm
-3となるように酸素量を添加することが好ましい。
【0097】
(Y)工程である酸化物薄膜5に対するアニーリング(プレアニール処理)は、酸化物薄膜の膜質を向上させることができる。このアニール処理は、例えば100%酸素雰囲気の大気圧下にて行うことができる。この処理時間としては、例えば10分以上3時間以下であり、処理温度としては例えば300℃以上400℃以下である。
【0098】
以上説明したように、本発明の酸化物薄膜の品質管理方法によれば、薄膜トランジスタの製造プロセス毎に直接の測定により行うことができる。従って、当該品質管理方法によれば、製造工程毎のモニタリングを可能とし、その結果、TFTの歩留まりを高め、効率的な生産を行うことができる。
【実施例】
【0099】
以下、実施例によって本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0100】
[製造例1〜4]
TFTを以下の手順で作成し、工程の途中で、本発明の品質管理方法による測定及び評価を行った。
【0101】
まず、ガラス基板(コーニング社製イーグル2000、直径100mm×厚さ0.7mm)上に、ゲート電極としてTi薄膜(膜厚100nm)を成膜し、公知の方法でパターニングしてゲート電極を得た。Ti薄膜は、純Tiのスパッタリングターゲットを使用してDCスパッタ法により形成した。
【0102】
次に、ゲート絶縁膜SiO
2(膜厚200nm)を成膜した。ゲート絶縁膜はプラズマCVD法を用い、キャリアガス:SiH
4とN
2Oとの混合ガス、成膜パワー:100W、成膜温度:300℃にて成膜した。
【0103】
次に、酸化物薄膜をスパッタリング法によって成膜した((X)工程)。酸化物薄膜としては、IGZO(In:Ga:Zn組成比=1:1:1)を用いた。スパッタリングに使用した装置はアルバック社製「CS−200」であり、スパッタリング条件は以下のとおりである。
基板温度:室温
ガス圧:1〜5mTorr
酸素分圧:O
2/(Ar+O
2)=4%
膜厚:50〜150nm
【0104】
上記のようにして酸化物薄膜を成膜した後、フォトリソグラフィ及びウェットエッチングによりパターニングを行った。ウェットエッチャント液としては、関東科学製「ITO−07N」を使用した。なお、本実施例では、実験を行ったすべての酸化物薄膜について、ウェットエッチングによる残渣はなく、適切にエッチングできたことを確認している。
【0105】
酸化物半導体膜をパターニングした後、膜質を向上させるためプレアニール処理を行った((Y)工程)。プレアニールは、100%酸素雰囲気、大気圧下にて、350℃で1時間行なった。
【0106】
次に、保護膜(エッチストップ層)をプラズマCVD法により成膜した((Z)工程)。次いで、この保護膜を公知の方法でパターニングした。
【0107】
次いで、純Moを使用し、DCスパッタリング法によりソース・ドレイン電極用Ti薄膜を成膜(膜厚100nm)し、パターニングした。このソース・ドレイン電極用Ti薄膜の成膜及びパターニング方法は、上述したゲート電極の場合と同じである。次いで、アセトン液中で超音波洗浄器にかけて不要なフォトレジストを除去し、TFTのチャネル長を10μm、チャネル幅を200μmとした。
【0108】
このようにしてソース・ドレイン電極を形成した後、酸化物薄膜を保護するための保護膜を形成した。保護膜として、SiO
2(膜厚200nm)とSiN(膜厚200nm)との成膜膜(合計膜厚400nm)を用いた。上記SiO
2及びSiNの形成は、サムコ製「PD−220NL」を用いたプラズマCVD法により行なった。具体的には、N
2Oガスによってプラズマ処理を行った後、SiO
2及びSiN膜を順次形成した。SiO
2膜の形成にはN
2O及びSiH
4の混合ガスを用い、SiN膜の形成にはSiH
4、N
2及びNH
3の混合ガスを用いた。いずれの場合も成膜パワーを100W、成膜温度を150℃とした。
【0109】
次に、フォトリソグラフィ及びドライエッチングにより、保護膜にトランジスタ特性評価用プロービングのためのコンタクトホールを形成した。
【0110】
最後にポストアニール処理を行った。ポストアニールは、100%窒素雰囲気、大気圧下にて、250℃で1時間行った。このようにして各TFTを完成させた。
【0111】
なお、製造例1〜4として、表1に示すように酸化物半導体成膜ガス圧、並びにプレアニール及び保護膜(エッチストップ層)の有無のみを変化させて、4パターンの製造を行った。なお、表中の「×」は、それぞれの処理を行っていないことを示す。
【0112】
このようにして得られた各TFTについて、以下のようにして、ストレス印加前後における(1)トランジスタ特性(ドレイン電流(Id)−ゲート電圧(Vg)特性、並びに(2)しきい値電圧(Vth)、SS値及びキャリア移動度の変化を調べた。
【0113】
(1)トランジスタ特性の測定
トランジスタ特性の測定は、National Instruments社製「4156C」の半導体パラメータアナライザーを使用した。詳細な測定条件は以下のとおりである。
ソース電圧 :0V
ドレイン電圧:10V
ゲート電圧 :−30〜30V(測定間隔:1V)
【0114】
(2)ストレス耐性の評価(ストレスとして光照射+負バイアスを印加)
本実施例では、実際のパネル駆動時の環境(ストレス)を模擬して、ゲート電極に負バイアスをかけながら光を照射するストレス印加試験を行った。ストレス印加条件は以下のとおりである。光源としては、ディスプレイのバックライトに用いられる白色光を選択した。
ゲート電圧:−20V
基板温度:60℃
光ストレス
光源:白色LED(PHILIPS製「LXHL−PW01」)
照度(TFTに照射される光の強度):25,000NIT
光照射装置:Yang電子製YSM−1410
ストレス印加時間:2時間
【0115】
ここで、しきい値電圧とは、トランジスタがオフ状態(ドレイン電流(Id)の低い状態)からオン状態(ドレイン電流の高い状態)に移行する際のゲート電圧(Vg)の値と言える。本実施例では、ドレイン電流が、オン電流とオフ電流の間の1nA付近であるときの電圧をしきい値(Vth)電圧と定義し、ストレス印加前後のしきい値電圧の変化量(シフト量)を測定した。
【0116】
また、ドレイン電流を一桁増加させるのに必要なゲート電圧の最小値をSS値とした。また、キャリア移動度(電界効果移動度)は、Id∝(Vg−Vth)(Vth=しきい値電圧)の関係が成り立つ領域(線形領域)についてId∝(Vg−Vth)の傾きから算出した。
【0117】
表1に各トランジスタ(試料1〜4)のしきい値シフトの表を示す。
【表1】
【0118】
[実施例1〜4]
以上の各TFT製造プロセスにおいて、(X)工程、(Y)工程及び(Z)工程の後にそれぞれカソードルミネッセンス測定を行った。
【0119】
測定装置は堀場製作所製「MP−Micro−M−IRP」を用い、電子銃からの照射される電子の加速電圧が5kVの電子線によって生じる蛍光をCCDで検出し、露光時間30秒とした。
【0120】
表1記載の試料1〜試料4の測定結果(スペクトル図)をそれぞれ
図4〜
図7に示す。
図4(試料1)及び
図5(試料2)は、(X)工程後に測定したスペクトル、
図6(試料3)は、(Y)工程後に測定したスペクトル、
図7(試料4)は、(Z)工程後に測定したスペクトルである。
【0121】
各酸化物(IGZO)薄膜においては、3箇所のピーク(I
1〜I
3)が3箇所現れ、それぞれの値を表2に示す。
【0122】
【表2】
【0123】
強度比I
2/I
1及びI
3/I
1から以下の表3の基準で評価した。
【0124】
【表3】
【0125】
試料1ではI
2/I
1=1.3、I
3/I
1=0.6であり、酸化物半導体成膜後の判定において不良判定となり、トランジスタのしきい値シフトも大きい。同様に、試料2は、プレアニール後の判定にて、試料3はエッチストップ層成膜後の判定にて不良判定となった。一方、試料4は全ての判定で良判定となり、しきい値シフトも小さい。
【0126】
このように、カソードルミネッセンス測定による蛍光スペクトルの強度比と、しきい値シフトとは相関があり、品質管理に好適に用いることができることがわかる。
【0127】
実施例5
以下の実施例では、電子線を用いて励起するカソードルミネッセンスを用いた評価方法(第2の態様)を行なったが、上述したとおり、光を用いて励起するフォトルミネッセンスを用いた評価方法(第1の態様)でも発光メカニズムは同じであり、本実施例と同等の評価結果を得ることが可能である。
【0128】
(1)試料の作製
まず、アモルファスの酸化物半導体薄膜(InGaZnO)の試料を作製した。具体的には、ガラス基板(コーニング社製EAGLE XG:直径4インチ)の上に、基板からの発光を防ぐため、Mo膜を下記のDCスパッタリング条件で成膜した後、上記酸化物半導体薄膜をスパッタリング法で成膜した。詳細な条件は以下のとおりである。
【0129】
(Mo膜の成膜条件)
成膜は室温で行い、投入パワーはDC300W(純Moのスパッタリングターゲットのサイズ:4インチ)、成膜時のガス圧は2mTorrとした。成膜後のMo膜厚は100nmである。
【0130】
(酸化物半導体薄膜の成膜条件)
スパッタリングターゲットの組成:InGaZnO
4[In:Ga:Zn=1:1:1
(原子比)]
基板温度:室温
酸化物半導体層の膜厚:100nm
酸素添加量:O
2/(Ar+O
2)=4%(体積比)
【0131】
次に、下記の条件でプレアニール処理を行い、酸化物半導体薄膜試料を得た。
プレアニール条件:大気圧、大気中、温度350℃、時間60分
【0132】
(2)各試料のカソードルミネッセンス光の測定
このようにして得られた試料について、同一基板面内におけるプラズマダメージの相違によるストレス耐性の影響を調べるため、同一基板面内で異なる場所から切り出した3つの試料[試料1(試料中心部)、試料2(試料1の上方)、試料3(試料1の下方)、大きさは各2cm]を用意し、以下のようにしてカソードルミネッセンススペクトルを測定した。
【0133】
測定に当たっては、下記の堀場製作所製のカソードルミネッセンス測定装置を用い、電子銃からの照射される電子の加速電圧が2kVの電子線によって生じる蛍光を、下記のCCDで検出し、可視光領域の発光スペクトルを測定した。露光時間は60秒である。
【0134】
詳細な測定条件は以下のとおりである。
・観察装置:日立製作所製の電界放射形走査電子顕微鏡(FE−SEM)S−4000を使用
・加速電圧:2kV
・分析装置:堀場製作所製のMP−Micro−IRP
回折格子:300本/mm、Blaze 600nm、
波長分解能0.8nm以上、
350〜950nm
検出器:CCD[Andor Technology Ltd.製
型式DU420A−OE、1024ch、200〜1100nm]
・測定温度:RT
【0135】
上記の各試料について、上記装置に基づいて測定したカソードルミネッセンススペクトルの変化を
図8に示す。
図8に示すように、各試料は、約1.8eV付近にブロードなピーク強度を有しており、試料1のピーク強度P1は41CPS、試料2のピーク強度P1は125CPS、試料3のピーク強度P1は72CPSであり、ピーク強度の高い順に試料2>試料3>試料1であった。
【0136】
(3)ストレス耐性(ΔVth)の評価
(3−1)TFT試料の作製
上記試料のストレス耐性を調べるため、以下のようにしてTFT試料を作製した。
【0137】
まず、上記試料の作製に用いたガラス基板上にMoゲート電極(厚さ100nm)、ゲート絶縁膜(SiO
2:厚さ250nm)を形成した。これらの形成条件は以下のとおりである。
(Moゲート電極の形成条件)
DCスパッタリング法を用いてMo膜を成膜した。成膜は室温で行い、投入パワーはDC300W(純Moスパッタリングターゲットのサイズ:4インチ)、成膜時のガス圧は2mTorrとした。
(ゲート絶縁膜の形成条件)
プラズマCVD法を用いてSiO
2膜を成膜した。詳細には、キャリアガス:SiH
4とN
2Oの混合ガス(N
2O=100sccm、SiH
4/N
2=40sccm)、成膜パワー:300W、成膜温度:320℃にて成膜した。
【0138】
次に、上記ゲート絶縁膜の上に、上記「(1)試料の作製」と同じ条件で酸化物半導体薄膜(40nm)を形成した。その後、酸化物半導薄膜をウェットエッチング(エッチャントは関東化学製ITO−07N)にてパターニングした。パターニングの直後に、酸化物半導体薄膜の膜質改善のために熱処理(プレアニール処理)を行った。プレアニール処理条件は、上記「(1)試料の作製」と同じである。
【0139】
次いで、酸化物半導体膜表面に、それ以降のプロセスダメージを避けるためにエッチストップ層(ESL)を、CVD法にて形成した(成膜温度230℃)後、パターニングを行なった。ESL層はSiO
2単層構造であり、膜厚は100nmとした。また、ESL層のパターニングは、リソグラフィー・ドライエッチング法で行った。ドライエッチングはReactive Ion Etching(RIE)法を用いた。エッチングに用いたガスはCHF
3とArの混合ガスである。
【0140】
次に、ソース・ドレイン(S/D)電極としてMo膜を形成した後、パターニングを行なった。Mo膜の成膜条件は、前述したMoゲート電極と同じであり、Mo膜の厚さのみ200nmとした。
【0141】
次に、TFT全体を保護するためにパッシベーション層としてSiO
2とSiNの積層膜をPE−CVD(プラズマCVD)法にて形成した。成膜温度は150℃とした。膜厚はSiO
2が100nm、SiNが150nmである。その後、コンタクトホールをリソグラフィー・ドライエッチング法(ドライエッチングはRIE)によって形成した。具体的には、SiO
2はCHF
3とArの混合ガスで、また、SiNはSF
6とArの混合ガスで、それぞれ、エッチングしてTFT試料を得た。
【0142】
(3−2)ストレス耐性の測定(ストレスとして光照射+負バイアスを印加)
このようにして得られたTFT試料について、以下のストレス試験を実施し、ストレス印加前後のドレイン電流−ゲート電圧特性(Id−Vg特性)を調べた。本実施例では、実際の液晶パネル駆動時の環境(ストレス)を模擬して、試料に光(白色光)を照射しながら、ゲート電極に負バイアスをかけ続けるストレス印加試験を行った。ストレス印加条件は以下のとおりである。光源は、液晶ディスプレイのバックライトを模擬して白色LEDを使用し、試料裏面から光を照射した。ストレス印加条件は以下のとおりである。
・ソース電圧:0V
・ドレイン電圧:10V
・ゲート電圧:−20V
・基板温度:60℃
・ストレス印加時間:
図9のとおり
・光源:白色LED(PHILIPTS社製LED LXHL−PW01)
25000nit
【0143】
各試料について、ストレス耐性の指標であるΔVth[しきい値電圧(ドレイン電流が、オン電流とオフ電流の間の1nA付近であるときの電圧)のシフト量]をそれぞれ算出した。その結果、試料1のΔVthは0.5V、試料2のΔVthは2V、試料3のΔVthは3.5Vであり、ΔVthの高い順に、試料3>試料2>試料1であった。
【0144】
上述したようにΔVthが小さいほどストレス耐性に優れている。表示装置の分野では、一般的にΔVthがおおむね0.5V近傍を基準にストレス耐性の合否を判定しており、ΔVthが約0.5V以下のものはストレス耐性が良好であり、一方、ΔVthが約0.5Vを超えるとストレス耐性が悪いと判定されることが多い。
【0145】
上記の一般的な判定基準に基づき、各試料のΔVthを、前述した
図8の結果(各試料のピーク強度P1)と対比すると、両者は、おおむね良好な相関関係を有していることが分かる。すなわち、ΔVthが最も小さく上記判定基準を満足する試料1のピーク強度P1は、試料1〜3のなかでも最も小さかったのに対し、ΔVthが上記判定基準の上限を超える試料2、3のピーク強度P1はいずれも、上記試料1のピーク強度P1に比べて大きくなった。よって、ピーク強度P1は、ストレス耐性の合否を判定し得る指標として適用可能であることが分かる。
【0146】
以上の結果より、本発明の評価方法を用いれば、同一基板面内でプラズマダメージの異なる試料間の面内ΔVthの分布を精度良く評価できることが実証された。
【0147】
(実施例6)
本実施例では、上記実施例5において、プレアニール時間を変化させたときのストレス耐性の評価を行った。
【0148】
まず、上記実施例5の(1)TFT試料の作製において、以下に示す種々の条件でプレアニール処理を行い、以下の試料1〜5を得た。
試料1:プレアニール条件1(大気圧、大気中、温度:350℃、5分)
試料2:プレアニール条件2(大気圧、大気中、温度:350℃、30分)
試料3:プレアニール条件3(大気圧、大気中、温度:350℃、60分)
試料4:プレアニール条件4(大気圧、大気中、温度:350℃、120分)
【0149】
このようにして得られた各試料について、上記実施例5と同様にしてカソードルミミネッセンススペクトル(約1.8eV付近のピーク強度P1)を測定した。各試料の測定部位は、いずれも基板の中心部である。
【0150】
これらの結果を
図9に示す。
【0151】
また、上記の各試料1〜5について、上述した約1.8eV付近のピーク強度P1と、約3.1eV付近のピーク強度P2との強度比(P1/P2)をそれぞれ算出した結果、試料1の強度比は12、試料2の強度比は11、試料3の強度比は8、試料4の強度比は10であり、強度比の高い順に、試料1(プレアニール時間5分)>試料2(プレアニール時間30分)>試料4(プレアニール時間120分)>試料3(プレアニール時間60分)であった。
【0152】
一方、上記実施例5と同様にしてTFT試料を作製し、上記実施例5と同様にしてΔVthをそれぞれ算出すると、試料1のΔVthは3.75V(プレアニール時間5分)、試料2(プレアニール時間30分)のΔVthは3.00V、試料3(プレアニール時間60分)のΔVthは1.25V、試料4(プレアニール時間120分)のΔVthは3.00Vであり、ΔVthの高い順に、試料1(プレアニール時間5分)>試料2(プレアニール時間30分)=試料4(プレアニール時間120分)>試料3(プレアニール時間60分)であった。
【0153】
図10に、各試料1〜5について、各プレアニール時間における、ピーク強度比(P1/P2)(図中、■)と、ストレス耐性(ΔVth)(図中、●)との関係を示す。
【0154】
図10より、上記強度比(図中、■)とΔVth(図中、●)とは、極めて良好な相関関係を有していることが分かる。すなわち、プレアニール時間が長くなるほど[試料1(5分)→試料2(30分)→試料3(60分)]、ピーク強度比も小さくなり、ΔVthも小さくなったが、試料4のようにプレアニール時間が120分になると、逆にピーク強度比は上昇し、ΔVthも大きくなった。
【0155】
よって、本実施例における酸化物半導体薄膜の場合、プレアニール時間を上記5〜120分のうち60分に制御すれば、最も高いストレス耐性が得られることを、実際にTFTを作製しなくても上記ピーク強度比(P1/P2)を用いるだけで精度良く評価できることが分かった。
【0156】
なお、試料4(プレアニール時間120分)について、
図9(ピーク強度P1)と
図10(ピーク強度比P1/P2)の結果から、以下のことが分かる。すなわち、上記試料4のように長時間の熱処理を行なうと、その影響により薄膜全体の構造に乱れが生じ、そのために、結果的にピーク強度P1が著しく低下する(
図9を参照)。よって、ピーク強度に基づく判定のみによれば、試料4が最もストレス耐性に優れることになってしまうが、このP1を、ピーク強度P2で補正した上記ピーク強度比(P1/P2)を用いて判定することにより、ストレス耐性を正確に評価できることが確認された。
【0157】
以上の結果より、ピーク強度比(P1/P2)を指標として用いることにより、プレアニール時間の相違による酸化物半導体薄膜のストレス耐性を、より精度良く評価できることが実証された。