特許第6204038号(P6204038)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6204038
(24)【登録日】2017年9月8日
(45)【発行日】2017年9月27日
(54)【発明の名称】車両用電子制御装置の検証装置
(51)【国際特許分類】
   F02D 45/00 20060101AFI20170914BHJP
【FI】
   F02D45/00 362S
   F02D45/00 362G
【請求項の数】1
【全頁数】15
(21)【出願番号】特願2013-57253(P2013-57253)
(22)【出願日】2013年3月19日
(65)【公開番号】特開2014-181637(P2014-181637A)
(43)【公開日】2014年9月29日
【審査請求日】2015年8月10日
(73)【特許権者】
【識別番号】509186579
【氏名又は名称】日立オートモティブシステムズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100129425
【弁理士】
【氏名又は名称】小川 護晃
(74)【代理人】
【識別番号】100087505
【弁理士】
【氏名又は名称】西山 春之
(74)【代理人】
【識別番号】100168642
【弁理士】
【氏名又は名称】関谷 充司
(74)【代理人】
【識別番号】100078330
【弁理士】
【氏名又は名称】笹島 富二雄
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼▲柳▼ 恵一
【審査官】 戸田 耕太郎
(56)【参考文献】
【文献】 特開2008−170240(JP,A)
【文献】 特開2006−316689(JP,A)
【文献】 特開2006−188963(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F02D 45/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両に搭載される内燃機関のクランクシャフトの回転に応じた回転信号を模擬する模擬回転信号を、前記内燃機関を制御する電子制御装置に出力する車両用電子制御装置の検証装置であって、
前記クランクシャフトの逆転を伴う前記内燃機関の停止過程における前記回転信号を模擬するときに、下り勾配路面を模擬する場合は、平坦路を模擬する場合よりも正転側の回転速度の振れ幅を大きくし、上り勾配路面を模擬する場合は、平坦路を模擬する場合よりも逆転側の回転速度の振れ幅を大きくする、車両用電子制御装置の検証装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両用電子制御装置に模擬回転信号を出力する検証装置に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、内燃機関が正転方向に所定クランク角回転する毎に正転信号を出力して逆転方向に所定クランク角回転する毎に逆転信号を出力するクランク角センサと、所定カム角でカム角信号を出力するカム角センサとを備え、内燃機関の停止時に前記クランク角センサの出力信号に基づいて内燃機関の回転が停止した停止クランク角を検出する、内燃機関の制御装置が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2009−156219号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、車両の回転体が停止する過程での回転信号の変化特性は種々の条件に応じて変化し、例えば、車両を駆動する内燃機関が停止する過程では、路面勾配などに影響されて回転信号の変化特性が変化し、停止位置の検出精度が低下する可能性がある。
そこで、条件によって停止位置の検出がどのように変化するかを検証することが望まれるが、実際に車両を異なる条件下で走行させ、そのときの停止位置の検出結果を検証するようにすると、検証を効率よく行えず、また、条件変化のパターンが限られるため、実車での制御性を十分に確認できないという問題が生じる。
【0005】
本発明は上記問題点に鑑みなされたものであり、車両用電子制御装置の機能検証を、回転体の停止状態の違いに応じて効率良く行える、検証装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
そのため、本願発明に係る車両用電子制御装置の検証装置は、車両に搭載される内燃機関のクランクシャフトの回転に応じた回転信号を模擬する模擬回転信号を、前記内燃機関を制御する電子制御装置に出力する車両用電子制御装置の検証装置であって、前記クランクシャフトの逆転を伴う前記内燃機関の停止過程における前記回転信号を模擬するときに、下り勾配路面を模擬する場合は、平坦路を模擬する場合よりも正転側の回転速度の振れ幅を大きくし、上り勾配路面を模擬する場合は、平坦路を模擬する場合よりも逆転側の回転速度の振れ幅を大きくする
【発明の効果】
【0007】
上記発明によると、停止状態が異なる条件下での回転信号を模擬する信号を出力するので、停止状態の違いによる電子制御装置における制御性の検証を効率良く行える。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】本発明の実施形態における電子制御装置を含む内燃機関のシステム構成を示す図である。
図2】本発明の実施形態におけるクランク回転信号POS及びカム信号PHASEの出力特性を示すタイムチャートである。
図3】本発明の実施形態におけるクランク回転信号POSの正転/逆転による出力特性の違いを示す図である。
図4】本発明の実施形態における検証システムを示すブロック図である。
図5】本発明の実施形態における内燃機関の停止過程におけるクランク回転信号POS及び機関回転速度の変化の一例を示すタイムチャートである。
図6】本発明の実施形態における疑似信号の出力処理の一例を示すフローチャートである。
図7】本発明の実施形態における疑似信号の出力処理の一例を示すフローチャートである。
図8】本発明の実施形態における疑似信号の出力処理の一例を示すフローチャートである。
図9】本発明の実施形態における疑似信号の出力処理の一例を示すフローチャートである。
図10】本発明の実施形態における疑似信号の出力処理の一例を示すフローチャートである。
図11】本発明の実施形態における疑似信号の出力及び検証の流れの一例を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下に本発明の実施の形態を説明する。
図1は、車両用電子制御装置の一例として、車両の駆動力を発生する内燃機関10の制御を行う電子制御装置20を示すものであって、実車において内燃機関10の制御を行う場合の全体構成を示す。
【0010】
電子制御装置20は、マイクロコンピュータを内蔵し、予めメモリに記憶したプログラムに従って演算を行って燃料噴射装置30などの操作信号を出力するユニットであり、内燃機関10の停止状態におけるクランク角位置を検出する機能を備えている。
電子制御装置20には、内燃機関10の運転状態を検出する各種センサからの信号が入力される。
【0011】
前記各種センサとしては、内燃機関10の吸入空気量Qを検出するエアフローセンサ41、内燃機関10の回転体であるクランクシャフト11の回転に応じてパルス状のクランク回転信号POSを出力するクランク角センサ42、吸気カムシャフト12の回転に応じてパルス状のカム信号PHASEを出力するカムセンサ43などを設けてある。
クランク角センサ42が出力するクランク回転信号POSは、一定クランク角周期(例えば、10deg)毎のパルス信号であって、パルス周期の時間がクランクシャフト11の回転速度に応じて変化する回転信号である。図2は、機関回転速度が略一定である状態で、時間に対するクランク回転信号POSの出力特性を示し、クランク角180deg毎の所定クランク角位置でクランク回転信号POSが欠落し(基準レベルを維持し)、クランク回転信号POSの周期がクランク角180deg毎に延びる設定としてある。
【0012】
本実施形態の内燃機関10は直列4気筒機関であって、気筒間における行程位相差(点火間隔)はクランク角180degであるから、クランク回転信号POSの周期が延びる角度位置(クランク回転信号POSの欠落位置)は、各気筒の上死点から一定角度(0degを含む)の位置となる。
なお、図2に示した例では、クランク回転信号POSは、各気筒の上死点TDC位置を基点としてクランク角10deg周期で出力され、かつ、各気筒の上死点TDC前60deg及び70degの位置でクランク回転信号POSが欠落する(基準レベルを維持する)。
【0013】
一方、カムセンサ43が出力するカム信号PHASEは、所定のカム角位置で出力されるパルス信号であり、例えば、図2に示す例では、第1気筒の圧縮上死点TDCと第3気筒の圧縮上死点TDCとの間では、カム信号PHASEが一定角度周期で3パルス連続に出力され、第3気筒の圧縮上死点TDCと第4気筒の圧縮上死点TDCとの間では、カム信号PHASEが一定角度周期で4パルス連続に出力され、第4気筒の圧縮上死点TDCと第2気筒の圧縮上死点TDCとの間では、カム信号PHASEが一定角度周期で2パルス連続に出力され、第2気筒の圧縮上死点TDCと第1気筒の圧縮上死点TDCとの間では、カム信号PHASEが1パルス単独で出力される。
【0014】
すなわち、各気筒の上死点TDCの間で出力されるカム信号PHASEのパルス数は、次に圧縮上死点となる気筒番号を示し、例えば、今回の上死点TDCと前回の上死点TDCとの間で、カム信号PHASEが3パルスだけ検出された場合には、今回の上死点TDCは、第3気筒の圧縮上死点TDCであることを示す。
なお、本実施形態の4気筒機関10では、点火を第1気筒→第3気筒→第4気筒→第2気筒の順で行うので、上死点TDC間で出力されるカム信号PHASEの出力パターンは、前述したように、1個単独、3個連続、4個連続、2個連続の順に設定してある。
【0015】
電子制御装置20は、例えば、クランク回転信号POSの欠落領域をクランク回転信号POSの周期変化などから判断し、この欠落領域後の最初のクランク回転信号POSを基準にクランク回転信号POSの発生数を計数することで、上死点TDC(基準クランク角位置REF)を検出する。
更に、電子制御装置20は、上死点TDC間でのカム信号PHASEの出力数を計数することで、次にピストンの位置が圧縮上死点TDCとなる気筒を判別し、上死点TDCからのクランク回転信号POSの発生数を計数し、該計数値に基づいてそのときのクランク角を検出する。
【0016】
例えば、今回の上死点TDCから前回の上死点TDCまでの間にカム信号PHASEが3パルスだけ出力されていた場合(PHASE出力数=3であった場合)、今回の上死点TDCは第3気筒の圧縮上死点TDCであり、係る第3気筒の圧縮上死点TDCからの回転角度は、クランク回転信号POSの発生数に基づき検出することができる。
そして、電子制御装置20は、圧縮上死点TDCの気筒及びクランク角の検出結果に基づき、燃料噴射を行う気筒及び噴射タイミングを決定して、燃料噴射装置30に操作信号を出力する。
なお、圧縮上死点TDCなどの所定ピストン位置である気筒の判別方法や、基準クランク角位置(上死点TDC)の検出方法を前述のものに限定するものではなく、種々の変形態様を採り得ることは明らかである。
【0017】
ところで、内燃機関10が停止したときのクランク角及び各気筒のピストン位置を検出して記憶しておけば、内燃機関10の再始動時に、停止状態でのクランク角を初期位置としてクランクシャフト11が回転するものとして、クランク角及び各気筒のピストン位置を特定でき、燃料噴射制御などを早期に開始させて内燃機関10の始動応答性を改善できる。
しかし、内燃機関10の停止直前には、筒内の圧縮圧などによって内燃機関10(クランクシャフト11)が逆転する場合があり、内燃機関10が逆転したことを検知できないと、内燃機関10が停止したときのクランク角を誤検出することになる。
【0018】
そこで、電子制御装置20が、内燃機関10(クランクシャフト11)の正転状態であるか逆転状態であるかをクランク回転信号POSに基づき判別できるように、クランク角センサ42は、図3に例示するように、クランクシャフト11の正転状態と逆転状態とでパルス幅又は振幅(信号レベル)が異なるクランク回転信号POSを出力する。
図3(A)に示す例では、正転状態でのクランク回転信号POSのパルス幅WIPOSを45μsに設定し、逆転状態でのクランク回転信号POSのパルス幅WIPOSを90μsに設定してある。また、図3(B)に示す例では、正転状態でのクランク回転信号POSの振幅を5.0Vに設定し、逆転状態でのクランク回転信号POSの振幅を2.5Vに設定してある。
【0019】
電子制御装置20は、クランク回転信号POSの周期又は振幅(信号レベル)を計測し、計測値が設定値よりも高いか低いかを判別することで、そのときの内燃機関10の回転方向が正転方向であるか逆転方向であるかを判別する。
そして、電子制御装置20は、内燃機関10(クランクシャフト11)が正転状態であれば、クランク回転信号POSの発生毎にクランクシャフト11がクランク回転信号POSの発生周期角度だけ正転方向に回転したものとしてクランク角の検出値を更新し、内燃機関10(クランクシャフト11)が逆転状態であれば、クランク回転信号POSの発生毎にクランクシャフト11がクランク回転信号POSの発生周期角度だけ逆転方向に回転したものとしてクランク角の検出値を更新する。
【0020】
電子制御装置20は、上記のような正転、逆転判別を伴うクランク角の検出を、内燃機関10が停止するまで継続することで、内燃機関10が停止したときのクランク角、つまり、クランクシャフト11の停止位置を検出し、この検出結果を記憶しておき、内燃機関10が再始動されるときには、記憶している停止位置からクランクシャフト11の回転が開始されるものとして、クランク角度の検出を再開する。
【0021】
上記の電子制御装置20の機能検証を行うシステムを、以下で説明する。
図4は、電子制御装置20の機能検証を行う検証システムの構成図である。
図4において、検証対象である電子制御装置20に、電子制御装置20の検証を行う検証装置51を接続し、更に、検証装置51を操作するための汎用コンピュータ(パソコン)52を検証装置51に接続してある。
【0022】
検証装置51は、内燃機関10のメカニズムや電気信号の果たす役割をモデル化しコンピュータでリアルタイムの演算を行い、実際の内燃機関10と同等の動きをさせて電子制御装置20の検査を行うシミュレータ、つまり、実時間テスト装置(Hardware In the Loop Simulator:HILS)であり、電子制御装置20単体での検証を行える。
ここで、検証装置51は、クランク角センサ42が出力するクランク回転信号POSを模擬する信号(以下、模擬クランク回転信号POSfという)、及び、カムセンサ43が出力するカム信号PHASEを模擬する信号(以下、模擬カム信号PHASEfという)を出力する。
【0023】
検証装置51は、模擬クランク回転信号POSf、模擬カム信号PHASEfとして、内燃機関10の停止過程でのクランク回転信号POS、カム信号PHASEを停止位置の指定などの停止状態に応じて模擬する信号、及び、内燃機関10の再始動過程でのクランンク回転信号POS、カム信号PHASEを再始動位置の指定などの停止状態に応じて模擬する信号を出力する機能を有している。
模擬クランク回転信号POSf及び模擬カム信号PHASEfを入力する電子制御装置20では、クランク角センサ42及びカムセンサ43からの信号を入力する場合と同様にして、模擬クランク回転信号POSf及び模擬カム信号PHASEfに基づき、各気筒におけるピストン位置の検出及びクランクシャフト11の角度位置の検出を行う。
【0024】
そして、電子制御装置20は、内燃機関10の停止過程では、停止したときの各気筒におけるピストン位置及びクランクシャフト11の角度位置を検出し、当該検出結果を初期値として、内燃機関10の再始動時にピストン位置及びクランクシャフト11の角度位置の検出を再開する。
なお、電子制御装置20は、実車に搭載された状態では、他の電子制御装置とコントローラ・エリア・ネットワーク(Controller Area Network:CAN)を介して接続され、相互に演算結果などの送受信が行われるようになっており、検証システムでは、このCAN通信機能を利用して、電子制御装置20が演算したクランクシャフト停止位置のデータなどを、検証装置51が受信できるようになっている。
電子制御装置20と他の電子制御装置との間の通信は、CANの他、AUD通信、LIN通信、FlexRay通信などの通信で行わせることができる。
【0025】
ここで、例えば、検証装置51における模擬クランク回転信号POSf及び模擬カム信号PHASEfの演算において指定された停止位置(再始動位置)と、電子制御装置20が模擬クランク回転信号POSf及び模擬カム信号PHASEfに基づき検出した停止位置(再始動位置)とを、停止位置の指定などの条件を変更しつつ逐次比較することで、電子制御装置20が、内燃機関10の停止位置を正しく認識できるか否かを検証することができる。
なお、内燃機関10の停止直前には逆転が生じる場合があり、更に、走行途中で内燃機関10が停止する場合には、そのときの路面勾配に影響されて、逆転正転を繰り返すときの回転速度の変動特性が変化する。
【0026】
図5は、内燃機関10の停止過程におけるクランク回転信号POSの変化の一例を示す。
図5に示す例では、時刻t1までの間で機関回転速度が漸減し、時刻t1で一旦0rpmになるが、時刻t1からクランクシャフト11が逆方向に回転し始め、時刻t2で再度0rpmに戻る。そして、時刻t2から時刻t3の間で再度正転方向に回転した後、時刻t3から時刻t4の間で逆転し、更に、時刻t4から時刻t5の間で正転し、時刻t5から時刻t6の間で逆転し、時刻t6で0rpmに収束している。
また、時刻t6から時刻t7は、内燃機関10の停止期間であり、時刻t7から内燃機関10の始動が開始されることに対応して、正転方向の回転を示すクランク回転信号POSが発生している。
【0027】
ここで、上り勾配を走行しているときに内燃機関10が停止する場合には、停止直前での逆転方向への回転速度が平地である場合よりも速くなり、逆に、下り勾配を走行しているときに内燃機関10が停止する場合には、停止直前で逆転から正転に切り替わったときの正転側の回転速度が平地である場合よりも速くなる。
そこで、検証装置51に対し、停止直前に逆転が発生する状態を模擬するか否かを指定でき、更に、停止直前に逆転が発生する状態を模擬する場合には、路面勾配(つまり、停止直前で正転,逆転を繰り返すときの回転変動の振幅)を指定でき、検証装置51は、逆転が発生する場合の路面勾配による回転速度変動の違いを模擬することができるように、模擬クランク回転信号POSf及び模擬カム信号PHASEfの停止過程での変動特性を変更する機能を有している。
【0028】
これにより、車両が勾配を有する路面を走行している途中で、内燃機関10が逆転を伴いながら停止する場合を模擬して、電子制御装置20が、内燃機関10の停止位置を正しく認識できるか否かを検証することができる。
なお、図5では、簡易的にクランク回転信号POSの周期を一定として記載しているが、実際には、機関回転速度の低下に応じてクランク回転信号POSの周期は延びることになる。
【0029】
以下では、検証装置51における模擬クランク回転信号POSf及び模擬カム信号PHASEfの出力処理を例示する。
図6のフローチャートは、検証装置51が行う制御のプロセスを示し、この図6のフローチャートに示す制御では、検証装置51は、内燃機関10の停止過程を模擬するか否か、及び、停止過程において逆転を発生させるか否かの指示に応じて、模擬クランク回転信号POSf及び模擬カム信号PHASEfを出力する。
【0030】
図6のフローチャートにおいて、まず、ステップS101では、内燃機関10の停止過程を模擬する要求があるか否かを判定し、停止過程の模擬が要求されていない場合には、ステップS103へ進み、所定回転速度で正転する状態に対応する模擬クランク回転信号POSf及び模擬カム信号PHASEfを電子制御装置20に出力する。
一方、停止過程の模擬が要求されている場合には、ステップS102へ進み、内燃機関10が停止直前に逆転するパターンでの停止を模擬するか否かを判定する。
【0031】
逆転を伴う停止の模擬が要求されていない場合、つまり、正転状態を維持したまま機関回転速度が徐々に低下して停止に至るパターンでの模擬を行う場合には、ステップS103へ進む。
ステップS102からステップS103へ進んだ場合には、正転状態を保ったまま機関回転速度が徐々に低下して停止する状態に対応する、模擬クランク回転信号POSf及び模擬カム信号PHASEfを算出して出力する。
【0032】
また、ステップS102で、逆転を伴う停止の模擬が要求されていると判定すると、ステップS104へ進む。
ステップS104では、機関回転速度が徐々に低下し、正転/逆転を繰り返しながら、指定されたクランク角停止位置で停止する状態に対応する、模擬クランク回転信号POSf及び模擬カム信号PHASEfを算出して出力する。
【0033】
ステップS104で出力される模擬クランク回転信号POSfは、機関回転速度が、0rpmよりも高い値から0rpmを超えてマイナス側(逆転側)に振れた後、再び0rpmを超えてプラス側(正転側)に振れ、0rpmを挟んだ回転速度の振れ幅が徐々に減衰しながら、最終的に0rpmに収束する状態をトレースするように、パルス信号の周期及びパルス幅(又は信号レベル)が設定される。図5は、ステップS104での出力特性を例示する。
なお、逆転を伴う停止過程に対応する模擬クランク回転信号POSf及び模擬カム信号PHASEfを出力させるか否かは、汎用コンピュータ(パソコン)52を介して任意に指定することができる他、電子制御装置20からの信号に応じて選択させることができる。
【0034】
すなわち、内燃機関10が停止過程において逆転するか否かは、内燃機関の重さ、減速度、路面勾配などに応じて変化する。このため、例えば、検証装置51から電子制御装置20に向けて、加速度センサの模擬信号や路面勾配センサの模擬信号を出力させ、電子制御装置20が逆転の発生が見込まれる停止状態を示す信号を出力したときに、逆転を伴う停止過程に対応する模擬クランク回転信号POSf及び模擬カム信号PHASEfを出力させることができる。
また、内燃機関10が停止直前に逆転する場合に、逆転したときの回転速度、及び、逆転から正転に戻ったときの回転速度は、走行中の路面勾配の影響を受けるので、模擬する路面勾配の指定に応じて、停止に向けて減衰させるときの回転速度の振幅を変更して、路面勾配が異なっても停止位置を正確に検出できるか否かを検証させることができる。
【0035】
図7のフローチャートは、検証装置51が行う制御のプロセスを示し、この図7のフローチャートに示す制御では、検証装置51は、路面勾配の指定に応じて逆転を伴う停止過程における回転速度変化の特性を変更し、係る回転速度変化に見合う模擬クランク回転信号POSf及び模擬カム信号PHASEfを出力する。
図7のフローチャートにおいて、ステップS201で、逆転を伴う停止過程を模擬する設定を行うと、ステップS202では、平坦路を走行中に内燃機関10が停止するパターンが指定されているか否かを判定する。
【0036】
そして、平坦路の模擬が指定されている場合には、ステップS203へ進み、機関回転速度が0prmを挟んで正転側と逆転側とに振れながら停止に至る回転速度の変化パターンとして標準の振れ幅での変化パターンに対応する、模擬クランク回転信号POSf及び模擬カム信号PHASEfを出力する。
一方、平坦路の模擬が指定されていない場合には、ステップS202からステップS204へ進み、上り勾配と下り勾配とのいずれの模擬が指定されているか否かを判定する。
【0037】
ここで、下り勾配での停止位置の検出機能を検証する要求があり、下り勾配の模擬が指定されていれば、ステップS205へ進む。
ステップS205では、下り勾配での停止過程における機関回転速度の挙動に対応する、模擬クランク回転信号POSf及び模擬カム信号PHASEfを出力する。
下り勾配では、逆転後の正転状態での機関回転速度が、平坦路の場合に比べて高くなる傾向を示すので、係る特性に対応する模擬クランク回転信号POSf及び模擬カム信号PHASEfを出力する(図5参照)。
【0038】
一方、上り勾配での停止位置の検出機能を検証する要求があり、上り勾配の模擬が指定されていれば、ステップS206へ進む。
ステップS206では、上り勾配での停止過程における機関回転速度の挙動に対応する、模擬クランク回転信号POSf及び模擬カム信号PHASEfを出力する。
上り勾配では、逆転状態での機関回転速度が、平坦路の場合に比べて高くなる傾向を示すので、係る特性に対応する模擬クランク回転信号POSf及び模擬カム信号PHASEfを出力する(図5参照)。
【0039】
図8のフローチャートは、検証装置51が行う制御のプロセスを示し、この図8のフローチャートに示す制御では、検証装置51は、停止位置の指定に応じて内燃機関10の停止過程における模擬クランク回転信号POSf及び模擬カム信号PHASEfを出力する。
図8のフローチャートにおいて、ステップS301では、内燃機関10(クランクシャフト11)の停止位置の設定を行う。停止位置は、例えば、第1気筒の圧縮上死点を基準に0〜720degの範囲で指定させることで、任意の停止位置の指定が可能であり、例えば、汎用コンピュータ(パソコン)52に、0〜720degの範囲の角度データを入力することで、検証装置51への指定が行えるようにする。
【0040】
クランク角停止位置の設定を行うと、次のステップS302では、内燃機関10の停止過程を模擬するか否かを判定する。
そして、内燃機関10の停止過程を模擬しない場合には、ステップS303へ進んで、所定回転速度での正転状態に応じた模擬クランク回転信号POSf及び模擬カム信号PHASEfを出力する。
【0041】
一方、内燃機関10の停止過程を模擬する場合には、ステップS304へ進んで、指定された停止位置で停止する停止過程に応じた模擬クランク回転信号POSf及び模擬カム信号PHASEfを出力する。
ここで、電子制御装置20が模擬クランク回転信号POSf及び模擬カム信号PHASEfに基づいて検出した停止位置と、模擬クランク回転信号POSf及び模擬カム信号PHASEfにおける指定の停止位置とを検証装置51で比較することで、電子制御装置20における停止位置の検出機能を検証できる。
【0042】
図9のフローチャートは、検証装置51が行う制御のプロセスを示し、この図9のフローチャートに示す制御では、検証装置51は、停止位置の指定に応じて内燃機関10の再始動状態(回転上昇過程)での模擬クランク回転信号POSf及び模擬カム信号PHASEfを出力する。
図9のフローチャートにおいて、ステップS401では、ステップS301と同様にして、内燃機関10(クランクシャフト11)の停止位置の設定を行う。
【0043】
ステップS402では、内燃機関10の再始動状態を模擬するか否かを判定する。
再始動状態を模擬しない場合には、ステップS403へ進み、模擬クランク回転信号POSf及び模擬カム信号PHASEfの出力を停止させた状態に保持させ、電子制御装置20において、内燃機関10の停止状態が認識されるようにする。
【0044】
一方、再始動状態の模擬要求が発生すると、ステップS404へ進み、指定された停止位置から始動に伴って機関回転速度が上昇する状態を模擬する模擬クランク回転信号POSf及び模擬カム信号PHASEfを出力する(図5の時刻t7以降参照)。
上記の再始動状態での模擬クランク回転信号POSf及び模擬カム信号PHASEfを入力する電子制御装置20において、最初に燃料噴射、点火が行われた気筒のデータを、CAN通信を介して検証装置51側に出力させることで、電子制御装置20の始動制御性を検証することができる。
【0045】
図10のフローチャートは、検証装置51が行う制御のプロセスを示し、この図10のフローチャートに示す制御では、検証装置51は、停止位置、逆転の有無、路面勾配を含む停止状態に応じて、停止過程を模擬する模擬クランク回転信号POSf及び模擬カム信号PHASEfを変更して出力する。
ステップS501では、内燃機関10(クランクシャフト11)の停止位置の設定を行う。
【0046】
次いで、ステップS502では、内燃機関10の停止過程を模擬するか否かを判定し、停止過程を模擬しない場合には、ステップS503へ進んで、所定回転速度で正転する状態を模擬する模擬クランク回転信号POSf及び模擬カム信号PHASEfを出力する。
一方、停止過程を模擬する場合には、ステップS504へ進み、停止過程で逆転する状態を模擬するか否かを判定する。
【0047】
停止過程で逆転することなく、正転状態のまま停止する状態を模擬する場合には、ステップS505へ進み、正転状態を維持したまま機関回転速度が徐々に低下して停止に至る状態に応じた模擬クランク回転信号POSf及び模擬カム信号PHASEfを出力する。
一方、停止過程で逆転する状態を模擬する場合には、ステップS506へ進み、平坦路での停止状態を模擬するか否かを判定する。
【0048】
平坦路での停止状態を模擬する場合には、ステップS507へ進み、逆転状態での回転速度、及び、逆転状態後の正転状態での回転速度を標準速度とする回転速度変化パターンに対応する模擬クランク回転信号POSf及び模擬カム信号PHASEfを出力する。
また、平坦路でない状態での停止過程を模擬する場合には、ステップS508で、上り勾配と下り勾配とのいずれを模擬させるかを判定する。
【0049】
下り勾配での停止過程を模擬させる場合には、ステップS509へ進み、逆転後の正転状態における回転速度(正転側への回転速度の振れ幅)を平坦路よりも高くした回転速度変化パターンに対応する模擬クランク回転信号POSf及び模擬カム信号PHASEfを出力する。
また、上り勾配での停止過程を模擬させる場合には、ステップS510へ進み、逆転状態における回転速度(逆転側への回転速度の振れ幅)を平坦路よりも高くした回転速度変化パターンに対応する模擬クランク回転信号POSf及び模擬カム信号PHASEfを出力する。
【0050】
そして、ステップS505、ステップS507、ステップS509、ステップS510へ進んだ場合、つまり、停止過程を模擬する場合には、ステップS511へ進み、ステップS501で設定した停止位置で停止する状態に対応させて、模擬クランク回転信号POSf及び模擬カム信号PHASEfの出力が途絶えるようにする。
【0051】
図11のフローチャートは、検証装置51が行う制御のプロセスを示し、この図11のフローチャートに示す制御では、検証装置51は、模擬クランク回転信号POSf及び模擬カム信号PHASEfの出力処理、更に、検証処理を行う。
図11のフローチャートにおいて、ステップS601では、内燃機関10の停止過程を模擬する場合での模擬クランク回転信号POSf及び模擬カム信号PHASEfのパターン設定を行う。
【0052】
上記のパターン設定には、次に圧縮上死点となる気筒の検出結果が同じになる範囲内で停止位置を複数に変更したパターンや、逆転期間や逆転後の正転期間の長短や逆転と正転との切り替わり回数などを変更したパターンなどの複数のパターンの設定を行うことができる。
そして、ステップS602では、ステップS601で設定した模擬クランク回転信号POSf及び模擬カム信号PHASEfのパターンにおいて、内燃機関10が停止したときに次に圧縮上死点となる気筒(所定ピストン位置の気筒)として検出されるべき気筒の設定(気筒判別値の設定)を行う。
【0053】
ステップS603では、ステップS601で設定したパターンに従って停止過程を模擬する模擬クランク回転信号POSf及び模擬カム信号PHASEfを出力する。
ステップS604では、電子制御装置20において模擬クランク回転信号POSf及び模擬カム信号PHASEfに基づく演算処理で取得した、停止状態での気筒判別値、停止状態でのクランクシャフト角度、停止過程での燃料噴射時期や点火時期などのデータを、CAN通信を介して入手する。
【0054】
次いで、ステップS605で試験パターンが終了したか否か、つまり、ステップS601で設定した複数種の模擬パターンの全てを実施したか否かを判定する。
そして、試験パターンが終了していない場合には、ステップS606へ進み、電子制御装置20において模擬クランク回転信号POSf及び模擬カム信号PHASEfに基づき検出した停止位置情報(最終的な気筒判別値やクランクシャフト停止角度など)と、模擬クランク回転信号POSf及び模擬カム信号PHASEfの設定における停止位置情報とを比較する。
【0055】
ここで、電子制御装置20の停止位置情報の検出が正しく行われず、電子制御装置20での演算結果が、模擬クランク回転信号POSf及び模擬カム信号PHASEfの設定に合致しない場合には、ステップS607へ進み、不一致の判定を行ったこと、つまり、電子制御装置20における停止位置の検出に誤りが生じたことを示す情報をメモリに記憶させる。
不一致(誤検出)の情報を記憶させる場合には、どの角度位置での停止について誤検出したかを、不一致(誤検出)の結果に対応させて記憶させることができ、また、照合結果が一致した、つまり、電子制御装置20が正しく認識した停止位置の情報の記憶させることができる。
【0056】
ステップS606で、電子制御装置20での演算結果が、模擬クランク回転信号POSf及び模擬カム信号PHASEfの設定に合致していると判定した場合には、ステップS603へ戻り、別のパターンに従って停止過程を模擬する模擬クランク回転信号POSf及び模擬カム信号PHASEfを出力させる。
そして、ステップS605で、試験パターンが終了したと判定すると、本ルーチンを終了させることで、模擬クランク回転信号POSf及び模擬カム信号PHASEfの出力を停止させる。
【0057】
上記実施形態で説明した各技術的思想は、矛盾が生じない限りにおいて、適宜組み合わせて使用することができる。
また、好ましい実施形態を参照して本発明の内容を具体的に説明したが、本発明の基本的技術思想及び教示に基づいて、当業者であれば、種々の変形態様を採り得ることは自明である。
例えば、車両の回転体の回転速度及び回転方向に応じた回転信号は、クランクシャフト11や吸気カムシャフト12の回転信号に限定されず、例えば、自動変速機を構成するトルクコンバータのタービンの回転信号とすることができる。トルクコンバータのタービンにおいても停止過程において逆転が生じる場合があり、逆転を伴う停止過程での回転信号を模擬させることができる。
【0058】
また、上記実施形態では、検証装置51を操作するための汎用コンピュータ(パソコン)52を検証装置51に接続して検証システムを構成したが、検証装置51が、各種の条件設定などを行うためのマンマシンインターフェイス、及び、検証結果や設定条件などを表示するための表示部を備えることができる。
【0059】
また、汎用コンピュータ52の表示部(又は、検証装置51が備える表示部)に、試験パターンの項目(停止位置、逆転の有無、路面勾配、内燃機関の重量など)を一覧に表示し、項目毎に設定変更を行えるようにすることができる。更に、検証結果は、模擬信号が示す回転速度とクランク角との相関と、電子制御装置20が検出した回転速度とクランク角との相関を、グラフとして対比表示させることができる。
【0060】
また、電子制御装置20が模擬クランク回転信号POSf及び模擬カム信号PHASEfに基づき所定ピストン位置の気筒を検出する処理(気筒判別処理)において、所定ピストン位置の気筒が更新されるタイミングが所定角度領域内であるか否かを検証させることができる。
【0061】
また、電子制御装置20が、回転方向によって位相のずれが異なる2つの回転信号を入力して回転速度、回転方向の検出を行う構成において、前記2つの回転信号を模擬する信号を検証装置51から出力させることができる。
また、クランクシャフト11の正転/逆転は、一定角度周期で出力されるクランク回転信号POSの周期変化から検出することができる。
【0062】
ここで、上記実施形態から把握し得る請求項以外の技術的思想について、以下に効果と共に記載する。
(イ)
車両に搭載された内燃機関のクランクシャフトとカムシャフトとの少なくとも一方の回転に応じて出力される回転信号を模擬する信号であって、前記回転体の停止状態に応じて異なる信号を車両用の電子制御装置に出力する、車両用電子制御装置の検証装置。
上記発明によると、クランクシャフトとカムシャフトとの少なくとも一方の回転信号を模擬して、電子制御装置においてクランクシャフトの回転やカムシャフトの回転に応じた演算処理を行わせることで、内燃機関の制御性の検証を行える。
【0063】
(ロ)
車両に搭載された内燃機関のクランクシャフトの回転に応じて出力される回転信号を模擬する信号であって、前記クランクシャフトの停止状態に応じて異なる信号を車両用の電子制御装置に出力する、車両用電子制御装置の検証装置において、
前記回転信号を模擬する信号が、前記クランクシャフトの逆転を伴う停止過程における回転速度の変化を模擬する信号であって、前記回転速度の正転側及び逆転側への振れ幅が変更可能であり、
前記クランクシャフトの逆転を伴う停止過程における正転側の振れ幅を、下り勾配を模擬する場合は平坦路を模擬する場合よりも大きくし、逆転側の振れ幅を、上り勾配を模擬する場合は平坦路を模擬する場合よりも大きくする、車両用電子制御装置の検証装置。
上記発明によると、車両が登坂路を走行中に停止する場合を模擬して、電子制御装置の制御性を検証することができる。
【符号の説明】
【0064】
10…内燃機関、11…クランクシャフト、12…吸気カムシャフト、20…電子制御装置、30…燃料噴射装置、42…クランク角センサ、43…カムセンサ
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11