(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、本発明を詳細に説明する。
なお、本発明における部や%は、特に規定しない限り質量基準で示す。
また、本発明のセメントモルタルやコンクリートを総称してセメントコンクリートという。
【0009】
本発明に使用するカルシウムアルミネートは、初期にセメントコンクリートの凝結を起こさせる急結成分である。
カルシウムアルミネートは、カルシアを含む原料、アルミナを含む原料、シリカを含む原料を混合して、キルンでの焼成や、電気炉での溶融等の熱処理をして得られる、CaOとAl
2O
3とを主たる成分とし、1〜5%程度のSiO
2を含有するカルシウムアルミネートである。
他に、前記カルシウムアルミネートのCaOやAl
2O
3の一部が、アルカリ金属酸化物、アルカリ土類金属酸化物、酸化チタン、酸化鉄、アルカリ金属ハロゲン化合物、アルカリ土類金属ハロゲン化合物、アルカリ金属硫酸塩、又はアルカリ土類金属硫酸塩等と置換した化合物、あるいは、CaOとAl
2O
3とを主たる成分とするものに、これらが少量固溶した物質である。鉱物形態としては、結晶質、非晶質いずれであってもよい。
これらの中では、反応活性と急結剤圧送性の点で、非晶質のカルシウムアルミネートが好ましく、12CaO・7Al
2O
3(C
12A
7)組成に酸化ケイ素が一部固溶した熱処理物を急冷した非晶質のカルシウムアルミネートがより好ましい。
カルシウムアルミネートに含有するSiO
2は、酸化物換算で1〜5%が好ましく、2〜4%がより好ましい。1%未満であると、凝結特性損なう場合があり、5%を超えると初期強度を損なう場合がある。
カルシウムアルミネートの粒度は、ブレーン比表面積で5,000cm
2/g以上が好ましい。5,000cm
2/g未満だと急結性や初期強度が低下する場合がある。
【0010】
本発明に使用するアルカリ土類金属硫酸塩は、吹付け後2時間程度からカルシウムアルミネートと反応し、強度発現を促す成分である。
アルカリ金属土類硫酸塩としては、無水石膏、半水石膏、及び二水石膏等が挙げられ、これらのうち一種又は二種以上の使用が可能である。
アルカリ土類金属硫酸塩の結晶の形態は特に限定されるものではなく、α型半水石膏、β型半水石膏、I型無水石膏、II型無水石膏、及びIII型無水石膏等がある。
また、これらの石膏には、天然で産出するものや、産業副産物として得られる排脱石膏や弗酸副生無水石膏が含まれる。
アルカリ土類金属硫酸塩の粒度は、ブレーン値で、2,000cm
2/g以上が好ましく、3,000cm
2/g以上が強度発現性の観点からより好ましい。
アルカリ土類金属硫酸塩の使用量は、カルシウムアルミネート100部に対して80〜120部が好ましく、90〜110部がより好ましい。80部未満であると1日強度が低下する恐れがあり、120部を超すと圧縮強度低下が生じる可能性がある。
【0011】
本発明に使用するアルカリ金属アルミン酸塩は、例えば、初期凝結を促す目的で使用する。アルカリ金属アルミン酸塩としては、アルミン酸リチウム、アルミン酸ナトリウム、及びアルミン酸カリウム等が挙げられ、これら1種又は2種以上が使用可能である。
アルミン酸塩のアルカリ金属(R)とアルミ(Al)の酸化物換算でのモル比(R
2O/Al
2O
3)は、0.8〜2.0の範囲が好ましい。0.8未満では凝結特性が小さくなり、2.0を超えると凝結特性が頭打ちとなる。
アルカリ金属アルミン酸塩の使用量は、カルシウムアルミネート100部に対して4〜15部が好ましく、6〜12部がより好ましい。4部未満では、凝結特性を損なう場合があり、15部を超えると凝結特性が強く実用的ではない。
【0012】
本発明で使用する微粉セメントとは、凝結性状の向上及び長期強度を促す目的で使用するものであり、特に限定されるものではないが、例えば、普通、早強、超早強等の各種ポルトランドセメントを、ブレーン比表面積が8000〜15000cm
2/gで12μmを超える粒径の粒子の含有量が5体積%%以下となるように分級したセメントである。
微粉セメントのブレーン比表面積は、より好ましくは9000〜12000cm
2/gである。微粉セメントのブレーン比表面積が8000cm
2/g未満であると、凝結性状を損なう場合があり、15000cm
2/g超えると物性の改善が頭打ちになり製造効率も悪く不経済である。
本発明で使用する微粉セメントの使用量は、カルシウムアルミネートに対して4〜15部が好ましく、6〜10部がより好ましい。4部未満では、長期強度が低下し、15部を超えると、凝結性状を損なう場合がある。
【0013】
本発明の急結剤の使用量は、作業性、初期強度発現性、及び耐久性の点で、セメントコンクリートのセメント100部に対して、5〜15部が好ましく、6〜10部がより好ましい。5部未満だと凝結力や強度発現性が低下する場合があり、15部を超えると吹付け中に閉塞する場合がある。
【0014】
本発明で使用するセメントコンクリートのセメント単位量は、360kg/m
3〜550kg/m
3が好ましく、400〜500kg/m
3がより好ましい。360kg/m
3であると、初期強度が発現しない場合があり、550kg/m
3であると吹付け中に閉塞する場合がある。
【0015】
本発明では、必要に応じて、さらに減水剤、空気連行剤、ポリマーエマルジョン、増粘剤、収縮低減剤、防錆剤、防凍剤、粘土鉱物、シリカフュームなどの一般に市販されているセメント混和剤(材)を性能に支障のない範囲で使用してもよい。
本発明で使用される細骨材や粗骨材等の骨材は、吸水率が低く、骨材自体の強度が高いものが好ましいが、特に限定されるものではない。
細骨材は、最大寸法5mm以下のものが好ましく、川砂、山砂、及び砕石等が挙げられる。粗骨材としては、最大寸法15mm以下のものが好ましい。
【0016】
セメントコンクリートの混合装置としては、既存の如何なる装置も使用可能であり、例えば、傾動ミキサ、オムニミキサ、ヘンシェルミキサ、V型ミキサ、及びナウタミキサ等の使用が可能である。
【0017】
本発明の吹付け方法は、一般に適応される湿式吹付け工法等により施工でき、所定の材料で混練り製造したコンクリートをコンクリート圧送機で吹付けコンクリート圧送管を介して圧送し、吹付けコンクリート圧送の途中の吹付けノズル手前に、Y字管等の混合管を設置して、別途圧送した粉体急結剤と合流して急結性吹付けコンクリートとして、地山に吹付ける方法である。
【0018】
吹付けコンクリート圧送管としては、耐圧性の金属メッシュ入りホース(耐圧ホース)や金属製の配管が使用可能である。通常は、耐圧ホースが使用され、その前後は金属管を使用することが好ましい。
耐圧ホースの長さは特に限定されるものではなく、施工状況により使用される長さは変わってくるが、通常、5〜30mのものが使用される。
耐圧ホースの直径は、圧送性や、耐圧ホースの取り扱いなどの作業性の面から。2.5〜3.5インチのものが通常使用される。
本発明で使用するノズルとしては、連続的に縮径しているものや、縮径後に急結性吹付けコンクリートを整流する直管をつけたものが使用可能である。
ノズルの長さは、吹付けコンクリートと急結剤との混合性、付着性、及び圧送性の面から、200cm程度が好ましく、150〜100cmがより好ましい。
ノズルは、金属製のものやセラミック製のものが使用可能であり、ゴム素材でできたノズルの配管内面にセラミックスや金属でライニングされたものやこれらをチップ状のものを埋め込んだものが使用可能である。
【0019】
本発明においては、従来使用の吹付け方法が使用可能であり、吹付け圧力は特に限定されるものではなく、吹付けコンクリートの吐出量は、通常、1.5〜20m
3/hであり、吹付け空気量は特に限定されるものではない。
吹付け設備は、吹付けが十分に行われれば特に限定されるものではなく、例えば、吹付けコンクリートの圧送にはアリバ社商品名「アリバ280」、シンテック社「MKW−25SMT」、PET社「G4ポンプ」、及びスクイズポンプ、プランジャーポンプ、ダイヤフラムポンプ、スクリューポンプ、及びギヤポンプなどが使用可能である。
【実施例】
【0020】
以下、実験例に基づいて、本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0021】
「実験例1」
凝結特性と長期強度を評価するため、急結剤組成に着目してモルタル試験を行った。
カルシウムアルミネート、アルカリ土類金属硫酸塩、アルカリ金属アルミン酸塩、及び微粉セメントを混合して急結剤とした。
用いたモルタルは、セメント100部に対し、細骨材を250部、水を45部、各々を計量後に練混ぜ、練上がったモルタルに急結剤をセメント100部に対し10部添加し、添加した10秒後に型詰めを行い、材齢1日まで気中養生を行い、その後脱型し、所定の材齢まで水中養生を行った。
また、微粉セメントの粒度測定は、(株)堀場製作所製LA−920レーザー回折装置を用いて測定を行った。エタノールを分散液として用い、凝集した粉体を分散させるため超音波を用いた分散を5分間行った。相対屈折率は130a000iとし、粒子径基準は体積基準とした。また、ブレーン比表面積は、JISR 5201 「セメントの物理試験方法」に基づき測定した。
【0022】
<使用材料>
セメント:普通ポルトランドセメント、市販品
カルシウムアルミネート:C
12A
7組成に対応する熱処理物を急冷した非晶質でブレーン比表面積5,900cm
2/g、酸化物換算でSiO
2が3%、試作品
アルカリ金属アルミン酸塩A:アルミン酸ナトリウム、R
2O/Al
2O
2モル比1.1、強熱減量3%、試作品
アルカリ土類金属硫酸塩:II型無水石膏、ブレーン比表面積5,000cm
2/g
微粉セメントA:普通ポルトランドセメントを分級したもの。ブレーン比表面積10000cm
2/g 12μmを超える粒径の粒子の含有量1.5体積%
細骨材:新潟県糸魚川市姫川水系砂、最大寸法5mm、密度2.62
【0023】
<試験方法>
凝結試験:JIS R 5201−1997「セメントの物理試験方法」に準拠し、モルタルに急結剤を添加混合した材料の凝結時間を測定した。
圧縮強度:JIS R 5201−1997「セメントの物理試験方法」に準拠し、モルタルに急結剤を添加混合したモルタルの圧縮強度を、急結剤を添加してから1日、7日、28日をそれぞれ測定した。
【0024】
【表1】
【0025】
表1の結果より、本発明の急結剤を用いることで優れた凝結特性と長期圧縮強度発現性を得ることが確認された。また、比較例として実施した実験No.1-1では長期強度の向上が図れず、実験No.1-2は凝結特性が劣る結果であった。
【0026】
「実験例2」
凝結特性と長期強度を評価するため、アルカリ金属アルミン酸塩に着目してモルタル試験を行った。急結剤組成は表1の実験No.1-16を用い、実験例1と同様に行った。
【0027】
<使用材料>
アルカリ金属アルミン酸塩B:R
2O/Al
2O
3モル比 0.7、試作品
アルカリ金属アルミン酸塩C:R
2O/Al
2O
3モル比 0.8、試作品
アルカリ金属アルミン酸塩D:R
2O/Al
2O
3モル比 1.5、試作品
アルカリ金属アルミン酸塩E:R
2O/Al
2O
3モル比 2.0、試作品
アルカリ金属アルミン酸塩F:R
2O/Al
2O
3モル比 2.1、試作品
【0028】
【表2】
【0029】
表2の結果より、本発明のアルカリ金属アルミン酸塩と微粉セメントを組合わせることで、優れた凝結特性と長期圧縮強度特性を有することが確認された。
【0030】
「実験例3」
微粉セメントに着目してモルタル試験を行った。急結剤組成は表1の実験No.1-16を用い、実験例1と同様に行った。
【0031】
<使用材料>
微粉セメントB:普通ポルトランドセメントを分級したもの。ブレーン比表面積7000cm
2/g、12μmを超える粒径の粒子の含有量58.0体積%、試作品
微粉セメントC:普通ポルトランドセメントを分級したもの。ブレーン比表面積8000cm
2/g、12μmを超える粒径の粒子の含有量6.0体積%、試作品
微粉セメントD:普通ポルトランドセメントを分級したもの。ブレーン比表面積8500cm
2/g、12μmを超える粒径の粒子の含有量5.0体積%、試作品
微粉セメントE:普通ポルトランドセメントを分級したもの。ブレーン比表面積8500cm
2/g、12μmを超える粒径の粒子の含有量1.5体積%、試作品
微粉セメントF:普通ポルトランドセメントを分級したもの。ブレーン比表面積9000cm
2/g、12μmを超える粒径の粒子の含有量1.5体積% 、試作品
微粉セメントG:普通ポルトランドセメントを分級したもの。ブレーン比表面積12000cm
2/g、12μmを超える粒径の粒子の含有量1.5体積%、試作品
微粉セメントH:普通ポルトランドセメントを分級したもの。ブレーン比表面積15000cm
2/g、12μmを超える粒径の粒子の含有量0体積%、試作品
【0032】
【表3】
【0033】
表3の結果より、本発明の微粉セメントを用いることで優れた凝結特性と長期強度発現性を有することが確認された。また、比較として用いた実験No.3-1の結果から、12μmを超える粒径の粒子の含有量が増加すると、凝結特性と長期強度発現性が劣る傾向を示すことが分かる。
【0034】
「実験例4」
吹付けコンクリートの長期強度を評価するため、吹付試験を行った。用いたコンクリートは、セメント450kg/m
3、水203kg/m
3、細骨材比率が60%である吹付材料を用い、高性能減水剤を4.5kg/m
3を加えて練混ぜを行い、スランプを18.0cmとし吹付け試験用のコンクリートとして調製し、コンクリートポンプ「シンテックMKW−25MT」を使用して圧送した。
圧送配管途中にY字管を設け、混合区間を100cmとした。粉体急結剤添加装置「デンカナトムクリートPAC250V」で空気圧送した実験No.1-16の急結剤をセメント100部に対し、表4に示す量を添加して吹付けコンクリートとし、配管の閉塞の有無、短時間強度である材齢3時間、1日、長期強度である7日、28日強度を測定した。
また、比較として実験例1で用いた急結剤成分が実験No.1-1の試験も行った。
【0035】
<使用材料>
粗骨材:新潟県糸魚川6号砕石 最大寸法15mm、密度2.64
高性能減水剤:ポリエチレングリコール系、市販品
【0036】
<測定方法>
配管の閉塞の有無:圧送配管のコンクリートによる閉塞の有無を確認した。
短時間強度:プルアウト試験により材齢3時間、1日強度を求めた。プルアウト型枠表面からピンまで急結性吹付けセメントコンクリートで被覆し、型枠の裏側からピンを引抜き、そのときの引抜き強度を求め、圧縮強度=引抜き強度×4/(供試体の接触面積)の式で換算圧縮強度を算出。
長期強度試験:コア箱吹付けたコンクリートをφ55×110mmの寸法に調整したものを圧縮強度試験した。
【0037】
【表4】
【0038】
表4の結果より、比較例で用いた実験No.4-6、No.4-7、No.4-8に比べ、本発明では、初期強度発現性に優れ、閉塞もない結果が得られた。
【0039】
「実験例5」
吹付けコンクリート中の単位セメント量が圧縮強度に及ぼす影響を評価した。用いた単位量は表5に示す通りであり、高性能減水剤を適宜用いることでスランプを18.0cmに調整し、吹付け試験用のコンクリートとして調製した。その後、実験例4と同様に吹付け試験を行った。実験例4の実験No.4-3と同様に、セメント100部に対し急結剤10部とした。
また、比較として実験例1で用いた急結剤成分が実験No.1-1の試験も同様に行った。
【0040】
【表5】
【0041】
表5の結果より、比較例で用いた実験No.5-8、No.5-9に比べ、本発明では、短時間強度と長期強度に優れ、吹付け作業中に圧送ホースの閉塞のない吹付材料が得られることが分かった。