(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
図1に、従来の一般的な自動車におけるオイル及び電気の制御系システムを例示する。
【0008】
電気制御系には、エンジンの駆動力で電気を発生させるオルタネータ(発電機)、バッテリーなどが備えられていて、エアコンやライト等の各種電装品や、エンジン等を駆動制御する制御装置などの電気供給先へ、所定の電圧及び電流で電気を供給するように構成されている。電気の発生源として、回生ブレーキなど、運動エネルギーから電気を回収する回生システムを備える場合もある。
【0009】
オイル制御系には、エンジンの駆動力で油圧を発生させるメカポンプ、オイルを一時貯留するオイルパン、所定の油圧に調整する調圧機構など、オイルを循環供給するオイルポンプシステムが備えられていて、クラッチやトルクコンバータなどを含む変速機、冷却機構、潤滑機構などのオイル供給先へ、所定の油圧及び流量でオイルを供給するように構成されている。
【0010】
図2に、そのオイル供給先と油圧及び流量との関係を例示する。
【0011】
変速の用途には、高圧のオイルを小流量で供給することが求められるが、冷却や潤滑の用途には、低圧のオイルを大流量で供給することが求められる。例えば、変速には、2MPaで4L/分のオイルの供給が求められるのに対し、冷却や循環には、800KPaで10L/分のオイルの供給が求められる。
【0012】
それに対し、従来のオイルポンプシステムでは、高圧のオイル供給先に合わせて、オイル全体が供給されるため、オイルポンプシステムの作動に基づく燃費に改善の余地がある。
【0013】
図3に、従来のオイルポンプシステムの構成を例示する。
【0014】
そこには、調圧機構として高圧レギュレータ及び低圧レギュレータが備えられており、まず最初に、高圧レギュレータに設定された所定の高圧値まで、メカポンプでオイルが加圧される。そうして、変速等の高圧オイル供給先に必要量のオイルが供給される。
【0015】
それに引き続き、残った高圧のオイルを、低圧レギュレータで所定の低圧値に調圧し、低圧オイル供給先に供給している。
【0016】
メカポンプの場合、油圧が高いとそれだけ高いトルクが必要になるため、高圧のオイル供給先を基準にして油圧を発生させていると、メカポンプが消費するエンジンの動力もそれだけ多くなってしまう。
【0017】
しかも、走行中は、エンジンに連動してメカポンプが常時駆動されるため、メカポンプの動力消費の抑制により、効果的な燃費低減が期待できる。
【0018】
そこで、本発明の目的は、メカポンプの動力消費の抑制によって燃費を効果的に低減できるオイルポンプシステムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0019】
開示するオイルポンプシステムは、自動車の運転中にオイルを加圧して2つの異なる油圧に調整して送り出すオイルポンプシステムである。本オイルポンプシステムは、複数の機器と、これらを接続する複数の流路とで構成されたシステム本体部と、前記システム本体部を制御するシステム制御部と、を備える。
【0020】
前記システム本体部は、エンジンによって機械的に駆動されるメカポンプと、電気で駆動される電動ポンプと、前記メカポンプ及び前記電動ポンプにオイルを供給するオイルパンと、オイルを設定された高圧値に調整する高圧レギュレータと、オイルを設定された低圧値に調整する低圧レギュレータと、を有している。
【0021】
そして、前記システム制御部は、前記メカポンプのみでオイルを加圧し、当該メカポンプで加圧したオイルを、前記高圧レギュレータ及び前記低圧レギュレータの双方で前記高圧値及び低圧値に調整して送り出す第1制御と、前記メカポンプ及び前記電動ポンプの双方でオイルを加圧し、当該メカポンプで加圧したオイルを、前記低圧レギュレータで前記低圧値に調整して送り出すとともに、当該電動ポンプで加圧したオイルを、前記高圧レギュレータで前記高圧値に調整して送り出す第2制御と、に切り替える。
【0022】
すなわち、このオイルポンプシステムは、メカポンプと電動ポンプとを併用して、自動車の運転中に、オイルを高圧及び低圧の2つの油圧に調整して送り出すものであり、メカポンプ単独でオイルを加圧し、高圧及び低圧に調整して送り出す第1制御と、低圧側はメカポンプで加圧し、高圧側は電動ポンプで加圧して、それぞれ高圧及び低圧に調整して送り出す第2制御と、に切り替わるようになっている。
【0023】
従って、このオイルポンプシステムによれば、供給する油圧を高低2つに分けたうえで、メカポンプと電動ポンプとで加圧先を分担し、メカポンプは、主に低圧側を加圧するようになっているので、メカポンプの動力消費が効果的に抑制できる。
【0024】
具体的には、バッテリーの充電量に応じて前記第1及び第2の制御の切り替えが行われ、前記充電量が、設定された基準値以上の場合に前記第2制御が用いられ、前記基準値未満の場合に前記第1制御が用いられるようにすればよい。
【0025】
そうすれば、夏場の長距離クルージングなど、エアコン等による電力消費が高まる時には、メカポンプを単独で使用する第1制御に切り替わるため、油圧制御系を安定して保持でき、本来的な電気制御系への負担増加を招かずに済む。
【0026】
より具体的には、前記第1制御から前記第2制御への切り替え時に、前記システム制御部に、一定期間、前記メカポンプに前記電動ポンプを補助させるようにするとよい。
【0027】
そうすれば、切り替えの際に、電動ポンプの始動時に油圧が不安定になるのを防ぐことができる。センサ等を用いず時間制御だけで行えるため、簡単にできる。
【0028】
更には、前記第2制御から前記第1制御への切り替え時に、前記システム制御部に、一定期間、前記電動ポンプに前記メカポンプを補助させるようにしてもよい。
【0029】
そうすれば、切り替えの際に、メカポンプの吐出圧の差によって油圧が不安定になるのを防ぐことができる。
【0030】
例えば、前記システム本体部は、前記低圧値に調整されたオイルを供給先に送り出す低圧オイル送出路と、前記高圧値に調整されたオイルを供給先に送り出す高圧オイル送出路と、前記低圧オイル送出路と、前記メカポンプの吐出口とに連通するとともに、下流側で前記低圧レギュレータの上流側と連通する第1流路と、前記高圧オイル送出路と、前記電動ポンプの吐出口とに連通するとともに、下流側で前記高圧レギュレータの上流側と連通する第2流路と、前記オイルパンと、前記メカポンプ及び前記電動ポンプの各吸込口とに連通する第3流路と、前記低圧レギュレータの下流側と、前記第3流路とに連通する第4流路と、前記高圧レギュレータの下流側と、前記第3流路とに連通する第5流路と、前記第5流路の中間部位と、前記第1流路の下流側とに連通する第6流路と、前記第1流路及び前記第2流路の各中間部位に連通する第7流路と、前記第1流路の上流側から続く流路を、当該第1流路の下流側及び前記第7流路のいずれか一方に切替可能な第1切替機構と、前記第5流路の上流側から続く流路を、当該第5流路の下流側及び前記第6流路のいずれか一方に切替可能な第2切替機構と、を有し、前記第1及び第2の制御の切り替えが、前記第1切替機構及び前記第2切替機構の切り替えによって行われるようにすることができる。
【0031】
そうすれば、比較的少数の部材と、比較的簡単な回路でオイルポンプシステムを構成することができるので、製造コストや作業性等、生産性に優れる。
【0032】
この場合、前記第1流路の下流側と、前記第2流路とに連通する第8流路を更に有し、前記第8流路に、第1流路側から当該第2流路側への流入のみを許容する逆止弁が設置されているようにするとよい。
【0033】
そうすれば、電動ポンプや第1切替機構が破損しても、第8流路を通じて高圧側の流路に低圧側のオイルが供給されるので、高圧側の油圧が完全に無くなるのを防止できる。
【発明の効果】
【0034】
本発明のオイルポンプシステムによれば、走行中のメカポンプによる動力消費が抑制できるので、効果的な燃費の低減が図れる。
【発明を実施するための形態】
【0036】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。ただし、以下の説明は、本質的に例示に過ぎず、本発明、その適用物あるいはその用途を制限するものではない。
【0037】
<自動車の構成>
図4に、本発明を適用した自動車1のオイル及び電気の各制御系の主な構成を示す。なお、本発明が適用できる自動車は、ハイブリッド車やアイドリングストップ車に限らず、従来からある一般の自動車であってもよい。
【0038】
自動車1には、エンジン2、オルタネータ3、バッテリー4、メカポンプ5(MOP)、電動ポンプ6(EOP)、回生システム8などが備えられている。
【0039】
オルタネータ3は、エンジン2の動力を用いて電気を発生させる発電機であり、発電した電気はバッテリー4に蓄えられる。この自動車1には、自動車1の運動エネルギーから電気を回収する回生システム8も装備されており、回生システム8で回収した電気もバッテリー4に蓄えられるようになっている。
【0040】
電動ポンプ6は、電気で駆動するオイルポンプである。詳細は後述するが、本オイルポンプシステム10では、電動ポンプ6が主体的役割を果たしており、メカポンプ5は、電動ポンプ6に対して補助的に使用される。
【0041】
バッテリー4に蓄えられる電気は、エアコンやライト等の各種電装品や、エンジン2等を駆動制御する制御装置など、自動車1に装備された各種電気装置(電気供給先)に分配供給される。更に、この自動車1の場合、電動ポンプ6が搭載されているため、電動ポンプ6へもバッテリー4から電気が供給されるように構成されている。
【0042】
メカポンプ5は、エンジン2によって機械的に駆動されるオイルポンプであり、エンジン2に連動して作動する。すなわち、エンジン2が停止すればメカポンプ5も停止し、エンジン2が作動すればメカポンプ5も作動する。メカポンプ5の回転数もエンジン2の回転数に応じて増減する。
【0043】
この自動車1では、オイルの供給先が、油圧別に、高圧オイル供給先と低圧オイル供給先の2つに分けられている。
【0044】
高圧オイル供給先は、例えば、高圧で少量のオイルの供給が求められるクラッチやトルクコンバータなどを含む変速機であり、低圧オイル供給先は、例えば、低圧で多量のオイルの供給が求められる冷却機構や潤滑機構などである。
【0045】
走行中やアイドリング中など、運転時に、これら2つのオイル供給先に、燃費を抑制しながらオイルを循環供給するため、この自動車1には、オイルポンプシステム10が搭載されている。
【0046】
<オイルポンプシステムの構成>
図5に、そのオイルポンプシステム10の構成を示す。
【0047】
オイルポンプシステム10には、複数の機器と、これらを接続する複数の流路とで構成されたシステム本体部11と、システム本体部11を制御するシステム制御部12とが備えられている。具体的には、システム本体部11の各機器は、メカポンプ5や電動ポンプ6、オイルパン7、高圧レギュレータ13、低圧レギュレータ14などで構成されている。
【0048】
オイルパン7は、オイルの循環経路に設置され、オイルを一時的に貯留する。オイルパン7は、常圧下にあり、循環経路の最も油圧の低い領域に位置している。メカポンプ5及び電動ポンプ6には、このオイルパン7からオイルが供給される。オイルパン7には、オイルの温度を測定する油温センサ7aが設置されている。
【0049】
高圧レギュレータ13及び低圧レギュレータ14は、接続された上流側の流路の油圧を一定に保持する機能を有している。例えば、これらレギュレータ13,14は、流入口13a,14aを上流側に向け、流出口13b,14bを下流側に向けた状態で、オイルの流路の途中に設置される。そして、流入口13a,14aと流出口13b,14bとの間には、自動調圧弁(図示せず)が設けられている。
【0050】
これらレギュレータ13,14では、上流側の流路の油圧が予め設定された圧力値以上になると、自動調圧弁が開いて下流側の流路にオイルが流出し、上流側の油圧が自動的に調整される。高圧レギュレータ13は、低圧レギュレータ14よりも高い油圧値が設定されている。
【0051】
システム本体部11の各流路は、低圧オイル送出路15、高圧オイル送出路16、第1〜8の流路21〜28などで構成されている。これら流路15,16,21〜28は、いずれも耐圧性、耐油性に優れた配管からなる。そして、これら流路15,16,21〜28には、第1〜第4の電磁弁31〜34や第1〜第3の逆止弁41〜43が設置されている。第1〜第4の電磁弁31〜34は、ノーマルクローズタイプの電磁弁であり、システム制御部12が行う電気制御に従って流路を開閉する。
【0052】
低圧オイル送出路15は、低圧のオイルを、システム本体部11から低圧オイル供給先に送り出す導出配管であり、その下流側は低圧オイル供給先に接続されている。高圧オイル送出路16は、高圧のオイルを、システム本体部11から高圧オイル供給先に送り出す導出配管であり、その下流側は高圧オイル供給先に接続されている。
【0053】
第1流路21は、その上流側の端部がメカポンプ5の吐出口5aに接続され、その下流側の端部が低圧オイル送出路15に接続されている。第1流路21の下流側からは、第1分岐流路21aが分岐しており、第1分岐流路21aの下流側の端部は、低圧レギュレータ14の流入口14aに接続されている。
【0054】
第1流路21における第1分岐流路21aの分岐位置より上流側の部位に、第1電磁弁31が配置されている。
【0055】
第2流路22は、その上流側の端部が電動ポンプ6の吐出口6aに接続され、その下流側の端部が高圧オイル送出路16に接続されている。第2流路22の下流側からは、第2分岐流路22aが分岐しており、第2分岐流路22aの下流側の端部は、高圧レギュレータ13の流入口13aに接続されている。
【0056】
第2流路22の上流側には、電動ポンプ6へのオイルの逆流を防ぐために、第1逆止弁41が配置されている。
【0057】
第3流路23は、その下流側の端部がオイルパン7に接続され、その上流側の端部が、2つに分岐してメカポンプ5及び電動ポンプ6の各吸込口5b,6bに接続されている。
【0058】
第4流路24は、その上流側の端部が低圧レギュレータ14の流出口14bに接続され、その下流側の端部が第3流路23に接続されている。第5流路25は、その上流側の端部が高圧レギュレータ13の流出口13bに接続され、その下流側の端部が第3流路23に接続されている。第5流路25の下流側には、第3電磁弁33が配置されている。
【0059】
第6流路26は、その上流側の端部が、第5流路25における第3電磁弁33よりも上流側の中間部位に接続され、その下流側の端部が、第1分岐流路21aに接続されている。第6流路26の上流側には、第4電磁弁34が配置されている。
【0060】
第7流路27は、その上流側の端部が、第1流路21における第1電磁弁31より上流側の部位に接続され、その下流側の端部が、第2流路22における第1逆止弁41より下流側の部位に接続されている。第7流路27の中間部位には、第2電磁弁32が配置されている。
【0061】
第8流路28は、第1流路21における第1電磁弁31よりも下流側の部位と、第2流路22における第7流路27との接続点よりも下流側の部位とに接続されている。第8流路28の中間部位には、第2逆止弁42が配置されている。第2逆止弁42は、予め設定された油圧以上になった場合に、第1流路21側から第2流路22側への流入のみを許容する。
【0062】
第1電磁弁31及び第2電磁弁32は、いずれか一方が開くように、システム制御部12によって制御される。それにより、第1流路21の上流側から続く流路は、第1流路21の下流側に向かう流路か第7流路27に向かう流路のいずれか一方に切り替わる(第1切替機構)。
【0063】
第3電磁弁33及び第4電磁弁34もまた、いずれか一方が開くように、システム制御部12によって制御される。それにより、第5流路25の上流側から続く流路は、第5流路25の下流側に向かう流路か第6流路26に向かう流路のいずれか一方に切り替わる(第2切替機構)。
【0064】
システム制御部12は、CPUやメモリなどで構成されたハードウエアと、各種制御プログラムなどのソフトウエアとで構成されている。システム制御部12には、油温センサ7aが測定する油温のデータや、バッテリー4に設けられた充電量センサ4aが測定する充電量のデータが連続的に入力される。システム制御部12は、これら入力データや予め入力されている設定値等に基づいて、電動ポンプ6や第1〜第4の電磁弁31〜34を駆動制御する。
【0065】
電動ポンプ6とメカポンプ5とを効率よく作動させ、メカポンプ5の動力消費を抑制するために、システム制御部12は、切替手段を有し、使用するポンプ及び油圧調整の回路が異なる第1制御と第2制御とに、状況に応じて切り替える。
【0066】
具体的には、システム制御部12は、メカポンプ5のみでオイルを加圧する第1制御と、メカポンプ5及び電動ポンプ6の双方でオイルを加圧する第2制御とに、バッテリー4の充電量に応じて切り替える。
【0067】
システム制御部12には、その切り替えを行う判断基準として、バッテリー4の充電量に関する基準値Cxが、予め設定されている。
【0068】
図6に、基準値Cxと各制御との関係を例示する。図示のように、バッテリー4の充電量がその基準値Cx以上の場合には、メカポンプ5と電動ポンプ6を併用する第2制御が用いられ、その基準値Cx未満の場合にメカポンプ5を単独使用する第1制御が用いられる。
【0069】
基準値Cxは、電気供給先への電気の供給に影響を与えない範囲で設定される。なお、第1制御よりも第2制御の方が燃費効率がよいため、基準値Cxは小さい方が好ましい。
【0070】
第1制御は、従来と同様に、メカポンプ5で加圧されたオイルを、高圧レギュレータ13及び低圧レギュレータ14の双方で、各々所定の高圧値及び低圧値の油圧に調整して送り出す。
【0071】
第2制御は、メカポンプ5で加圧されたオイルを、低圧レギュレータ14で低圧値に調整して送り出し、電動ポンプ6で加圧されたオイルを、高圧レギュレータ13で高圧値に調整して送り出す。従って、メカポンプ5の吐出圧は、第1制御よりも第2制御の方が小さくなる。
【0072】
<オイルポンプシステムの動き>
図7のフローチャート及び
図8,
図9を参照しながら、オイルポンプシステム10の基本的な動きについて説明する。
【0073】
オイルポンプシステム10は、自動車1の運転と連動しており、自動車1の運転が開始されると、それに伴って作動し(ステップS1)、自動車1の運転が停止すれば(ステップS2でYES)、それに伴って作動も停止する(ステップS3)。従って、自動車1の運転中は、オイルポンプシステム10が常時作動している。
【0074】
システム制御部12は、油温センサ7aから入力される油温に基づいて、オイルの温度が20℃以上か否かを絶えず判断する。オイルは、温度によって粘度が大きく変化し、温度が下がるほど高粘度になる。オイルが高粘度になると、ポンプの負荷が増加するため、電動ポンプ6では加圧できなくなるおそれがある。
【0075】
そこで、このオイルポンプシステム10では、オイルの粘度に関して、電動ポンプ6が安定して作動する下限温度として20℃が設定されており、20℃を下回る場合には(ステップS4でNO)、メカポンプ5を単独で使用する第1制御が行われる(ステップS6)。ただし、自動車1の運転が開始され、いったん油温が上がってしまえば20℃を下回ることはほとんど無い。
【0076】
油温が20℃以上であれば(ステップS4でYES)、バッテリー4の充電量が基準値Cx以上であるか否かが判断される。そして、バッテリー4の充電量が基準値Cxを下回った場合には(ステップS5でNO)、メカポンプ5を単独で使用する第1制御が行われる(ステップS6)。すなわち、バッテリー4の充電量が十分になるまで本来的な電気の供給を優先し、電動ポンプ6を止めて、バッテリー4の電力消費を抑制する。
【0077】
図8に、第1制御での作動状態を示す。
【0078】
第1制御では、第1電磁弁31が閉じられて第2電磁弁32が開かれており、第1流路21の上流側から続く流路は、第7流路27に向かう流路に切り替えられている。それにより、高圧レギュレータ13の上流側の流路は、メカポンプ5によって加圧され、高圧値に調整されている。
【0079】
高圧値に調整されたオイルの一部は、高圧オイル供給先に供給され、その他のオイルは高圧レギュレータ13の下流側に流出する。第1制御では、第3電磁弁33が閉じられて第4電磁弁34が開かれており、第5流路25の上流側から続く流路は、第6流路26に向かう流路に切り替えられている。
【0080】
それにより、高圧レギュレータ13の下流側に流出するオイルは、第6流路26を通じて低圧レギュレータ14の上流側の流路に流入し、低圧レギュレータ14によって低圧値に調整される。低圧値に調整されたオイルの一部は、低圧オイル供給先に供給され、その他のオイルは低圧レギュレータ14の下流側に流出し、第4流路24を通じて第3流路23に流入する。
【0081】
バッテリー4の充電量が基準値Cx以上の場合には(ステップS5でYES)、メカポンプ5と電動ポンプ6を併用する第2制御が行われる(ステップS7)。
【0082】
図9に、第2制御での作動状態を示す。
【0083】
第2制御では、第2電磁弁32が閉じられて第1電磁弁31が開かれており、第1流路21の上流側から続く流路は、第1流路21の下流側に向かう流路に切り替えられている。それにより、低圧レギュレータ14の上流側の流路は、メカポンプ5によって加圧され、低圧値に調整されている。低圧値に調整されたオイルは、低圧オイル供給先に供給され、余剰のオイルは低圧レギュレータ14の下流側に流出し、第3流路23に流入する。
【0084】
第2制御では、電動ポンプ6も使用され、電動ポンプ6によって加圧されたオイルは、高圧レギュレータ13の上流側の流路に流入し、高圧値に調整されている。高圧値に調整されたオイルは、高圧オイル供給先に供給され、余剰のオイルは高圧レギュレータ13の下流側に流出する。
【0085】
第2制御では、第4電磁弁34が閉じられて第3電磁弁33が開かれており、第5流路25の上流側から続く流路は、第5流路25の下流側に向かう流路に切り替えられている。従って、高圧レギュレータ13の下流側に流出するオイルは、第3流路23に流入する。
【0086】
すなわち、第2制御では、高圧で流量の少ないオイルは電動ポンプ6で加圧され、低圧で流量の多いオイルはメカポンプ5で加圧される。それにより、電動ポンプ6は、吐出量を少なくできるため、小型化が図れる。そして、メカポンプ5は、高圧に加圧しなくてよいため、その分だけ必要なトルクも小さくなる。従って、メカポンプ5が消費するエンジン2の動力も低減され、燃費の向上が図れる。
【0087】
自動車1の運転中は、常時、システム制御部12が、油温及びバッテリー4の充電量を監視しており、必要に応じて、第1制御と第2制御とを切り替える。
【0088】
更に、このオイルポンプシステム10では、第1制御と第2制御との切り替えを円滑に行う第1及び第2のアシスト制御が行われる。
【0089】
第1アシスト制御は、第1制御から第2制御への切り替え時に行われる。具体的には、システム制御部12が、切り替え初期の一定期間、電動ポンプ6によるオイルの加圧をメカポンプ5に補助させる。
【0090】
図10に、第1アシスト制御のフローチャートを示す。第1制御が行われている状態で(ステップS10)、第2制御への切り替えが開始すると、システム制御部12によって電動ポンプ6の作動が指示され(ステップS11)、電動ポンプ6が作動する(ステップS12)。
【0091】
詳しくは、バッテリー4からの電気の供給によって電動ポンプ6の回転が始まる。回転する電動ポンプ6から吐出されるオイルにより、第2流路22の上流側が次第に加圧される。そうして、第1逆止弁41が開いて第2流路22の上流側と下流側とが連通し、最後には、第2流路22の全域で油圧が高圧値になる。
【0092】
従って、電動ポンプ6は、立ち上がりにある程度の時間を要するため、電動ポンプ6の作動と同時に第1〜第4の電磁弁31〜34の切り替えを行うと、そのタイムラグによって高圧側の油圧が一時的に低下するおそれがある。
【0093】
そこで、このオイルポンプシステム10では、予め、システム制御部12に、切り替えの開始から電動ポンプ6の吐出圧が高圧値に達する時間以上の所定の基準時間t
1(set)が設定されており、システム制御部12は、その基準時間t
1(set)に達するまでは、第1〜第4の電磁弁31〜34の切り替えは行わず(ステップS13)、
図11に示すように、電動ポンプ6及びメカポンプ5の双方で高圧側の流路を加圧する。
【0094】
そうして、基準時間t
1(set)が経過すると、システム制御部12が第1〜第4の電磁弁31〜34を切り替え、第2制御に移行する(ステップS14)。
【0095】
第1アシスト制御により、電動ポンプ6の立ち上がりに伴うタイムラグの影響が高圧側の油圧に及ぶのを防げるので、円滑な切り替えが実現できる。
【0096】
第2アシスト制御は、第2制御から第1制御への切り替え時に行われる。具体的には、システム制御部12が、切り替え初期の一定期間、メカポンプ5によるオイルの加圧を電動ポンプ6に補助させる。
【0097】
図12に、第2アシスト制御のフローチャートを示す。第2制御が行われている状態で(ステップS20)、第1制御への切り替えが開始し、電動ポンプ6の停止が指示されると(ステップS21)、システム制御部12は、電動ポンプ6の停止に先立って、電磁弁31〜34の切り替えを行う(ステップS22)。その状態を
図13に示す。
【0098】
第2制御でのメカポンプ5の吐出圧は低圧であるため、高圧になるまでに僅かなタイムラグが発生する。従って、第1〜第4の電磁弁31〜34の切り替えと同時に電動ポンプ6を停止すると、そのタイムラグによって高圧側の油圧が一時的に低下するおそれがある。
【0099】
そこで、このオイルポンプシステム10では、予め、システム制御部12に、切り替えの開始からメカポンプ5の吐出圧が高圧値に達する時間以上の所定の基準時間t
2(set)が設定されており、システム制御部12は、その基準時間t
2(set)に達するまでは(ステップS23)、電動ポンプ6を停止せず、電動ポンプ6及びメカポンプ5の双方で高圧側の流路を加圧する。
【0100】
そうして、基準時間t
2(set)が経過すると、システム制御部12が電動ポンプ6を停止し、第1制御に完全移行する(ステップS24)。
【0101】
第2アシスト制御により、メカポンプ5の立ち上がりに伴うタイムラグの影響が高圧側の油圧に及ぶのを防げるので、円滑な切り替えが実現できる。
【0102】
仮に、第1制御中に電動ポンプ6が破損して作動しなくなった場合や、第2制御中に第2電磁弁32が破損して開かなくなった場合には、低圧ではあるが、第8流路28を通じて高圧側にオイルが供給される。従って、このオイルポンプシステム10では、高圧側の油圧が完全に無くなるおそれはほとんど無い。
【0103】
なお、本発明にかかるオイルポンプシステムは、上述した実施形態に限定されず、それ以外の種々の構成をも包含する。
【0104】
配管等の回路構成や構成部材は一例であり、例えば、
図14に示すように、第1切替機構や第2切替機構は、開閉式の電磁弁の組み合わせで構成するのではなく、切替弁(三方弁)50で構成してもよい。
【0105】
本発明のオイルポンプシステム10は、ハイブリット車やアイドリングストップ車にも好適に適用できる。その際、一時停止時の油圧保持に用いる電動ポンプを、電動ポンプ6で兼用すれば、部材数の削減が図れ、効率的である。