特許第6204069号(P6204069)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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  • 特許6204069-電解液及びレドックスフロー電池 図000003
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6204069
(24)【登録日】2017年9月8日
(45)【発行日】2017年9月27日
(54)【発明の名称】電解液及びレドックスフロー電池
(51)【国際特許分類】
   H01M 8/18 20060101AFI20170914BHJP
   C01G 31/00 20060101ALI20170914BHJP
【FI】
   H01M8/18
   C01G31/00
【請求項の数】7
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2013-109191(P2013-109191)
(22)【出願日】2013年5月23日
(65)【公開番号】特開2014-229520(P2014-229520A)
(43)【公開日】2014年12月8日
【審査請求日】2016年4月25日
(73)【特許権者】
【識別番号】000000033
【氏名又は名称】旭化成株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100079108
【弁理士】
【氏名又は名称】稲葉 良幸
(74)【代理人】
【識別番号】100109346
【弁理士】
【氏名又は名称】大貫 敏史
(74)【代理人】
【識別番号】100117189
【弁理士】
【氏名又は名称】江口 昭彦
(74)【代理人】
【識別番号】100134120
【弁理士】
【氏名又は名称】内藤 和彦
(72)【発明者】
【氏名】牧野 崇史
(72)【発明者】
【氏名】飯塚 裕人
【審査官】 守安 太郎
(56)【参考文献】
【文献】 特表平09−507950(JP,A)
【文献】 特開2014−157793(JP,A)
【文献】 特開2014−235946(JP,A)
【文献】 特開平11−339835(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 8/18
C01G 31/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
水と、バナジウムイオンと、繰り返し単位にスルホン酸基及び/又はホスホン酸基を有する高分子と、を含む、電解液。
【請求項2】
前記高分子が、パーフルオロカーボンスルホン酸ポリマー、ポリビニルスルホン酸、及びポリスチレンスルホン酸からなる群より選択される少なくとも1種を含む、請求項1に記載の電解液。
【請求項3】
前記バナジウムイオンのモル濃度が、2.0mol/Lを超える、請求項1又は2に記載の電解液。
【請求項4】
前記高分子のスルホン酸基及び/又はホスホン酸基のアニオン当量濃度が、前記バナジウムイオンのモル濃度の0.0001倍以上1倍以下である、請求項1〜3のいずれか一項に記載の電解液。
【請求項5】
前記高分子の他に、アニオン性物質を少なくとも1種類含む、請求項1〜4のいずれか一項に記載の電解液。
【請求項6】
前記アニオン性物質のモル濃度が、前記バナジウムイオンのモル濃度の10倍以下である、請求項5に記載の電解液。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれか一項に記載の電解液を含む、レドックスフロー電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電解液及びそれを用いたレドックスフロー電池に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、世界的に自然由来のエネルギー源への転換が進んでいる。同時に自然由来のエネルギーを一時貯蔵するための大容量蓄電池の必要性が高まっている。大容量蓄電池として必要な安全性と耐久性を兼ね備えた蓄電池として、近年最も有望視されているものがレドックスフロー電池である。
【0003】
レドックスフロー電池は、隔膜と、隔膜を介して対向する正極電極及び負極電極からなるセルに正極電解液及び負極電解液をそれぞれ供給して充放電を行う。電解液には、酸化還元により価数が変化する金属イオンを活物質として、これを含有する水溶液が一般的に使用されている。例えば、正極電解液に鉄イオン水溶液、負極電解液にクロムイオン水溶液を用いた鉄−クロム系レドックスフロー電池の他、正負極の電解液にバナジウムイオン水溶液を用いたバナジウム系レドックスフロー電池がよく知られている。
【0004】
ここでレドックスフロー電池の正極電解液と負極電解液の金属イオンは、隔膜を介して微量ながら相互に透過することから、例えば鉄−クロム系レドックスフロー電池など、正極電解液と負極電解液の金属イオンが異なる場合は、電池の容量が低下してしまう。一方、バナジウム系レドックスフロー電池は、正極電解液と負極電解液の金属イオンが等しい為、電池の容量が低下しないという利点があり、レドックスフロー電池の中でも最も重要視されている。
【0005】
レドックスフロー電池の課題は、エネルギー密度が低いことである。例えば、バナジウム系レドックスフロー電池のエネルギー密度は、リチウムイオン二次電池と比較すると約1/10、亜鉛−臭素電池と比較すると約1/4である。
【0006】
レドックスフロー電池のエネルギー密度を向上させる為、例えば特許文献1に挙げるように、正極電解液及び負極電解液中に溶存している金属イオンの濃度を向上させる方法が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平08−064223号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、電解液中のバナジウムイオン濃度を高めると、電解液中のバナジウムイオンが化合物となって析出するという課題がある。具体的には、5価のバナジウムイオンを含む電解液においては、例えば温度が50℃程度に上昇した際にバナジウム化合物が電解液中に析出する。また、2価、3価、又は4価のバナジウムイオンを含む電解液においては、温度が−5℃程度に低下した際にバナジウム化合物が電解液中に析出する。
【0009】
上記のバナジウムイオンの析出を防止するため、例えば特許文献1では、保護コロイド剤やリン酸などを電解液に添加し、析出発生の速度を遅らせている。しかし、特許文献1に記載の手法を用いても、高温状態や、バナジウムイオンの濃度が高い時など、厳しい条件では、バナジウム化合物を析出させずに電解液の安定化を実現することは困難である。
【0010】
本発明は、上記の問題点に鑑みてなされたものであり、エネルギー密度が高く、かつ高温及び低温で長期間安定な電解液、及びそれを用いたレドックスフロー電池を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、上記目的を達成するために鋭意検討した結果、電解液に特定の高分子を加えることで、上記目的を達成することができることを見出し、本発明を完成した。
【0012】
すなわち、本発明は、下記のとおりである。
〔1〕
水と、バナジウムイオンと、繰り返し単位にスルホン酸基及び/又はホスホン酸基を有する高分子と、
を含む、電解液。
〔2〕
前記高分子が、パーフルオロカーボンスルホン酸ポリマー、ポリビニルスルホン酸、及
びポリスチレンスルホン酸からなる群より選択される少なくとも1種を含む、前項〔1〕
に記載の電解液。
〔3〕
前記バナジウムイオンのモル濃度が、2.0mol/Lを超える、前項〔1〕又は〔2
〕に記載の電解液。
〔4〕
前記高分子のスルホン酸基及び/又はホスホン酸基のアニオン当量濃度が、前記バナジ
ウムイオンのモル濃度の0.0001倍以上1倍以下である、前項〔1〕〜〔3〕のいず
れか一項に記載の電解液。
〔5〕
前記高分子の他に、アニオン性物質を少なくとも1種類含む、前項〔1〕〜〔4〕のい
ずれか一項に記載の電解液。
〔6〕
前記アニオン性物質のモル濃度が、前記バナジウムイオンのモル濃度の10倍以下であ
る、前項〔5〕に記載の電解液。
〔7〕
前項〔1〕〜〔6〕のいずれか一項に記載の電解液を含む、レドックスフロー電池。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、エネルギー密度が高く、かつ高温及び低温で長期間安定な電解液、及びそれを用いたレドックスフロー電池を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】実施例で用いた電解装置の一例を示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明を実施するための形態(以下「本実施の形態」ともいう。)について詳細に説明する。なお、本発明は、以下の実施の形態に限定されるものではなく、その要旨の範囲内で種々変形して実施することができる。
【0016】
〔電解液〕
本実施の形態に係る電解液は、
水と、バナジウムイオンと、スルホン酸基及び/又はホスホン酸基を有する高分子(以下、「アニオン性高分子」ともいう。)と、を含む。
【0017】
〔水〕
本実施の形態において用いられる水としては、特に限定されないが、例えば、蒸留水、イオン交換水を好適に用いることができる。さらに、溶存酸素による酸化の可能性を回避するため、窒素ガスによるバブリングや、真空にて脱気するなどの手段を用い、溶存酸素を減少させた水を用いることが好ましい。
【0018】
〔バナジウムイオン〕
本実施の形態において用いられるバナジウムイオンのモル濃度は、エネルギー密度を高くする観点から、1.0mol/L以上であることが好ましく、2.0mol/Lを超えることがより好ましく、3.0mol/L以上であることがさらに好ましい。なお、バナジウムイオンのモル濃度の上限は特に限定されないが、10.0mol/L以下が好ましい。なお、本明細書において、バナジウムイオンはバナジルイオンを含む。
【0019】
本実施の形態に係る電解液中に溶解させるバナジウムイオンの供給源、すなわちバナジウムの原料は、特に限定されないが、水への溶解度が高いという観点から、酸化硫酸バナジウムが好ましい。
【0020】
〔アニオン性高分子〕
本実施の形態において用いられるアニオン性高分子は、スルホン酸基及び/又はホスホン酸基(以下、まとめて「アニオン性官能基」ともいう。)を有する高分子である。このなかでも、スルホン酸基を有する高分子が好ましい。上記アニオン性高分子は、1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0021】
本実施の形態において、アニオン性高分子のスルホン酸基及び/又はホスホン酸基にバナジウムイオンが引き寄せられていること、又は結合していることが好ましい。
【0022】
(安定化のメカニズム)
5価のバナジウムイオンはその強い酸化力により、高温では配位水を酸化する。それが反応の中間生成体となり、最終的に五酸化バナジウムの析出物を発生させる。ここでアニオンが溶液中に存在すると、アニオンの負電荷がバナジウムイオンの正電荷を打ち消す事で酸化力が弱まり、配位水の酸化が起こりにくくなるため、高温でも析出物が発生しにくくなる。同様に、アニオン性高分子が溶液中に存在しても、析出物が発生しにくくなる。
【0023】
一方で2価及び3価及び4価のバナジウムイオンは、バナジウムイオンにアニオンが配位した錯体を溶液中で形成し、低温では錯体同士が凝集して析出物を発生させる。よって、5価のバナジウムを安定化するアニオンは、2価及び3価及び4価のバナジウムイオンの析出物発生防止対策としては不適当である。ここで、アニオン性官能基を有する高分子が溶液中に存在すると、バナジウムイオンがアニオン性官能基と結合し、嵩高い高分子の一部に固定されるという立体的な障害効果により、バナジウムイオン同士の接触が起こらず、凝集が起こりにくくなるため、低温でも析出物が発生しにくくなる。
【0024】
このように、アニオン性高分子を用いることにより、バナジウムイオン濃度が高い場合でも高温及び低温で長期間安定な電解液を得ることができ、ひいてはエネルギー密度をより向上することができる。
【0025】
本実施の形態において用いられるアニオン性高分子としては、特に限定されないが、例えば、パーフルオロカーボンスルホン酸ポリマー(以下、「PFSA」ともいう。)、ポリビニルスルホン酸(以下、「PVS」ともいう。)、及びポリスチレンスルホン酸からなる群より選択される少なくとも1種が好ましい。このなかでも、主鎖がポリテトラフルオロエチレン(PTFE)骨格を有する高分子化合物であるPFSAを用いることにより、電解液の耐久性により優れる傾向にある。また、重量当たりのアニオン性官能基数が最も多いポリビニルスルホン酸を用いることにより、少量のアニオン性高分子で多くのアニオン性官能基を添加することができ、アニオン性高分子の使用量をより削減できる傾向にある。さらに、ポリスチレンスルホン酸を用いることにより、ベンゼン環の立体障害効果が得られ、アニオン性官能基同士の凝集を防止できる傾向にある。
【0026】
本実施の形態において用いられるアニオン性高分子としては、特に限定されないが、例えば、金属イオンを含まないものと、金属イオンを含むものとが挙げられる。なお、金属イオンを含まないもの若しくは金属イオンを含むものの片方を単独で、又は、両者を組み合わせて用いることができる。アニオン性高分子に含まれる金属イオンとしては、特に限定されないが、例えば、ナトリウム、カリウムが挙げられる。
【0027】
本実施の形態において用いられるアニオン性高分子は、100cP以下の粘度を有する水分散体であることが好ましく、10cP以下の粘度を有する水分散体であることがより好ましく、1cP以下の粘度を有する水分散体であることがさらに好ましい。このようなアニオン性高分子を用いることにより、電解液の粘度が低下し、送液ポンプの圧力損失が低減できるため、送液ポンプの消費電力を低減できるという観点より優れる傾向にある。なお、粘度は、回転型粘度計により測定することができる。
【0028】
本実施の形態において用いるアニオン性高分子の数平均分子量は、200〜1000,000が好ましく、200〜100,000がより好ましく、200〜10,000がさらに好ましい。このようなアニオン性高分子を用いることにより、電解液の流動性がより向上する傾向にある。なお、数平均分子量は、GPCを用いた公知の方法により測定することができる。
【0029】
本実施の形態において用いるアニオン性官能基について説明する。なお。本明細書内では、電解液単位体積当たりに含まれるアニオン性高分子のスルホン酸基及び/又はホスホン酸基のアニオン当量を、「アニオン当量濃度」と呼ぶ。アニオン当量濃度の単位は「Eq/L」であり、モル濃度のmol/Lと同じ次元で表される。なお、アニオン当量濃度は実施例に記載の方法により測定することができる。
【0030】
本実施の形態において用いられるアニオン性高分子のアニオン当量濃度は、バナジウムイオンのモル濃度の1倍以下であることが好ましく、0.1倍以下であることがより好ましく、0.01倍以下であることがさらに好ましい。また、アニオン当量濃度は、バナジウムイオンのモル濃度の0.0001倍以上であることが好ましく、0.0005倍以上であることがより好ましく、0.001倍以上であることがさらに好ましく、0.03倍以上であることがよりさらに好ましい。アニオン当量濃度が上記範囲内であることにより、溶液の粘度を適切な範囲とすることができ、送液ポンプによる消費電力をより削減できる傾向にある。
【0031】
〔アニオン性物質〕
本実施の形態に係る電解液は、アニオン性高分子の他に、アニオン性物質を少なくとも1種類含有することが好ましい。アニオン性物質と、アニオン性高分子と併用することで、さらに溶液中アニオン濃度を高めることができるため、5価のバナジウムイオンの高温安定性を向上することができるという観点より、優れる傾向にある。
【0032】
本実施の形態において用いられるアニオン性物質としては、特に限定されないが、例えば、硫酸イオン、リン酸イオン、フッ化物イオン、塩化物イオン、臭化物イオン、ヨウ素イオンのような無機酸イオン;ギ酸イオン、酢酸イオン、クエン酸イオン、シュウ酸イオン、アミノ酸イオン、メタンスルホン酸イオン、安息香酸イオン、サリチル酸イオン、マンデル酸イオンなどの有機酸イオンが挙げられる。このなかでも、硫酸イオンを含むことが好ましい。これらアニオン性物質は、1種を単独で用いても、又は2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0033】
本実施の形態において用いられるアニオン性物質のモル濃度は、バナジウムイオンのモル濃度の10倍以下であることが好ましく、5倍以下であることがより好ましく、3倍以下であることがさらに好ましく、2.5倍以下であることがよりさらに好ましく、2倍以下であることがさらにより好ましい。アニオン性物質のモル濃度がバナジウムイオンのモル濃度の10倍以下であることにより、低温においても2価、3価、及び4価バナジウムイオンがより安定する傾向にある。また、アニオン性物質のモル濃度の下限は、特に限定されないが、バナジウムイオンの0倍以上が好ましく、0.5倍以上であることがより好ましく、0.8倍以上であることがさらに好ましい。
【0034】
上記のアニオン性物質には、電解液のバナジウムの原料として、バナジウムの塩を用いた場合に、水に溶解した際に発生するアニオンも含めるものとする。このようなケースとして、例えば酸化硫酸バナジウムを用いた場合の硫酸イオンが挙げられる。
【0035】
〔電解液の調製方法〕
本実施の形態に係る電解液の調製方法としては、特に限定されないが、例えば、上記各成分を所定の温度下、撹拌することで調製することができる。
【0036】
〔レドックスフロー電池〕
本実施の形態に係るレドックスフロー電池は、上記電解液を含む。本実施形態に係るレドックスフロー電池は、炭素電極からなる正極を含む正極セル室と、炭素電極からなる負極を含む負極セル室と、正極セル室と、負極セル室とを隔離分離させる、隔膜としての電解質膜と、を含む電解槽を有することができる。正極セル室は活物質を含む正極電解液を、負極セル室は活物質を含む負極電解液を含むものである。活物質を含む正極電解液及び負極電解液は、例えば、正極電解液タンク及び負極電解液タンクによって貯蔵され、ポンプ等によって各セル室に供給される。また、レドックスフロー電池によって生じた電流は、交直変換装置を介して、直流から交流に変換されてもよい。
【0037】
本実施の形態に係るレドックスフロー電池は、正極電解液中に4価若しくは5価のバナジウムイオン、又はその双方の価数のバナジウムイオンが溶存しており、負極電解液に2価若しくは3価のバナジウムイオン、又はその双方の価数のバナジウムイオンが溶存していることが好ましい。電池の充電及び放電が行われるとき、充電時には、正極セル室においては、バナジウムイオンが電子を放出するため4価のバナジウムイオンが5価のバナジウムイオンに酸化され、負極セル室では外路を通じて戻って来た電子により3価のバナジウムイオンが2価のバナジウムイオンに還元される。この酸化還元反応では、正極セル室ではプロトン(H)が過剰になり、一方負極セル室では、プロトン(H)が不足する。隔膜は正極セル室の過剰なプロトンを選択的に負極室に移動させ電気的中性が保たれる。放電時には、この逆の反応が進む。
【0038】
また、本実施の形態に係るレドックスフロー電池において、バナジウムイオンの価数を除いた溶液の組成が、正極電解液と負極電解液で等しいことが好ましい。これにより、浸透圧により隔膜を透過するイオン量を最小限に抑えることができる。また、電池の充放電や継時変化に伴い、電解液の組成が変化したとしても、元々の正極電解液と負極電解液の組成が等しいため、定期的に正極と負極の液を混合することで、液の組成を元に戻し、充放電や継時変化の影響をリセットすることができる。
【実施例】
【0039】
以下、本実施の形態を実施例に基づいて具体的に説明するが、本実施の形態は下記実施例に制限されるものではない。
【0040】
〔アニオン当量濃度の測定方法〕
アニオン性高分子の水分散液を、25℃、飽和NaCl水溶液30mlと混和し、攪拌しながら30分間放置した。次いで、飽和NaCl水溶液中のプロトンを、フェノールフタレインを指示薬として0.01N水酸化ナトリウム水溶液を用いて中和滴定した。中和後の溶液を真空乾燥して残った固形物を秤量した。中和に要した水酸化ナトリウムの物質量をM(mmol)、真空乾燥後に残った固形物の質量をW(mg)とし、下記式より当量質量EW(g/eq)を求めた。
EW=(W/M)−22
さらに、得られたEW値の逆数をとることにより、アニオン性高分子のアニオン当量(eq/g)を算出した。
そしてアニオン性高分子の水分散液1Lを真空乾燥して残った固形物を秤量して求めた固形分(g/L)とアニオン当量(Eq/g)の積をとり、アニオン当量濃度(Eq/L)を求めた。
【0041】
〔実施例1〕
(4価のバナジウムイオンを含む電解液の調製)
50mLポリプロピレン製容器に、酸化硫酸バナジウム6.9gと純水1.6mLとを仕込み、ウォーターバスにて50〜60℃程度に加温し、スターラーチップにて30分撹拌し、溶解させた。その後、パーフルオロカーボンスルホン酸水分散液(以下、「PFSA」ともいう。)(固形分10%)4.7mLを添加し、ウォーターバスにて50〜60℃程度に加温し、スターラーチップにて30分撹拌した。さらに硫酸1.6mLを添加し、ウォーターバスにて50〜60℃程度に加温し、スターラーチップにて30分撹拌した。以上の手順により、バナジウムイオン濃度が3mol/L、硫酸イオン濃度が6mol/Lでバナジウムイオン濃度の2倍であり、アニオン性高分子のアニオン当量濃度が0.1Eq/Lでバナジウムイオン濃度の0.033倍である4価のバナジウムイオンを含む電解液10mLを得た。
【0042】
(5価のバナジウムイオンを含む電解液の調製)
上記の手順のスケールを10倍にし、同様の作業を行うことで、4価のバナジウムイオンを含む電解液100mLを得た。それを下記の方法で電解を行い、3価のバナジウムイオンを含む電解液50mLと5価のバナジウムイオンを含む電解液50mLを得た。
【0043】
(電解方法)
電解条件に詳細に説明する。図1に電解装置の概略図を示す。電解装置は炭素電極からなる正極を含む正極セル室と、炭素電極からなる負極を含む負極セル室と、正極セル室と、負極セル室とを隔離分離させる、隔膜としての電解質膜と、を含むセル1を有する。以下、正極セル室に含まれる電解液を正極電解液、負極セル室に含まれる電解液を負極電解液とする。正極電解液及び負極電解液は、正極電解液タンク2及び負極電解液タンク3によって貯蔵され、送液チューブポンプ4等によって送液チューブ5を介して各セル室に供給される。
【0044】
電解装置の正極電解液タンク2と、負極電解液タンク3に、4価のバナジウムイオンを含む電解液を50mLずつ供給した。セル1の正極と負極間の電位差をモニタしながら、セル1に定電流50mA/cmを通電し、負極電解液中のバナジウムイオンの4価から3価への還元と、正極電解液中のバナジウムイオンの4価から5価への酸化を行った。電解中、正極及び負極の電解液は送液チューブポンプ4にて50mL/minにて送液チューブ5を介して送液し、正極電解液タンク2及び負極電解液タンク3中には窒素を10mL/minでフローさせた。セル1の正極と負極間の電位差が約1.7V程度になった時点で、液の色を目視で確認すると、負極は濃緑色、正極は赤茶色であった。その時点で正極液を採取し、正極側の電解液から5価のバナジウムイオンを含む電解液を得た。
【0045】
(析出試験)
(4価のバナジウムイオンを含む電解液)
50mLポリプロピレン製容器内に4価のバナジウムイオンを含む電解液を10mL入れ、−5℃に保持した冷却槽内に60分間静置し、液中に青色の粉もしくは結晶状の析出物発生の有無を調べた。析出物は発生しなかった。その結果を表1に示す。
【0046】
(5価のバナジウムイオンを含む電解液)
50mLポリプロピレン製容器内に5価のバナジウムイオンを含む電解液を10mL入れ、ウォーターバスにて50℃で60分間加温し、赤茶色の粉状の析出物発生の有無を調べた。析出物は発生しなかった。その結果を表1に示す。
【0047】
〔実施例2〕
(4価のバナジウムイオンを含む電解液の調製)
50mLポリプロピレン製容器に、酸化硫酸バナジウム6.9gと純水0.9mLとを仕込み、ウォーターバスにて50〜60℃程度に加温し、スターラーチップにて30分撹拌し、溶解させた。その後、ポリビニルスルホン酸水分散液(以下「PVS」ともいう。)(固形分10%)5.4mLを添加し、ウォーターバスにて50〜60℃程度に加温し、スターラーチップにて30分撹拌した。さらに硫酸1.6mLを添加し、ウォーターバスにて50〜60℃程度に加温し、スターラーチップにて30分撹拌した。以上の手順により、バナジウムイオン濃度が3mol/L、硫酸イオン濃度が6mol/Lでバナジウムイオン濃度の2.0倍であり、アニオン性高分子のアニオン当量濃度が0.5Eq/Lでバナジウムイオン濃度の0.17倍である、4価のバナジウムイオンを含む電解液10mLを得た。
【0048】
(5価のバナジウムイオンを含む電解液の調製)
実施例1と同様の方法により5価のバナジウムイオンを含む電解液を10mL調製した。
【0049】
(析出試験)
4価のバナジウムイオンを含む電解液及び5価のバナジウムイオンを含む電解液の析出試験を、実施例1と同様に実施した。4価のバナジウムイオンを含む電解液に析出物は発生せず、5価のバナジウムイオンを含む電解液にも析出物は発生しなかった。その結果を表1に示す。
【0050】
〔比較例1〕
(4価のバナジウムイオンを含む電解液の調製)
50mLポリプロピレン製容器に、酸化硫酸バナジウム6.9gと純水6.3mLとを仕込み、ウォーターバスにて50〜60℃程度に加温し、スターラーチップにて30分撹拌し、溶解させた。その後、硫酸1.6mLを添加し、ウォーターバスにて50〜60℃程度に加温し、スターラーチップにて30分撹拌した。以上の手順により、バナジウムイオン濃度が3mol/L、硫酸イオン濃度が6mol/Lでバナジウムイオン濃度の2.0倍である、4価のバナジウムイオンを含む電解液10mLを得た。
【0051】
(5価のバナジウムイオンを含む電解液の調製)
実施例1と同様の方法により5価のバナジウムイオンを含む電解液を10mL調製した。
【0052】
(析出試験)
4価のバナジウムイオンを含む電解液及び5価のバナジウムイオンを含む電解液の析出試験を、実施例1と同様に実施した。4価のバナジウムイオンを含む電解液に析出物が発生した。5価のバナジウムイオンを含む電解液には析出物は発生しなかった。その結果を表1に示す。
【0053】
〔比較例2〕
(4価のバナジウムイオンを含む電解液の調製)
50mLポリプロピレン製容器に、酸化硫酸バナジウム6.9gと純水7.1mLとを仕込み、ウォーターバスにて50〜60℃程度に加温し、スターラーチップにて30分撹拌し、溶解させた。その後、硫酸0.8mLを添加し、ウォーターバスにて50〜60℃程度に加温し、スターラーチップにて30分撹拌した。以上の手順により、バナジウムイオン濃度が3mol/L、硫酸イオン濃度が4.5mol/Lでバナジウムイオン濃度の1.5倍である、4価のバナジウムイオンを含む電解液10mLを得た。
【0054】
(5価のバナジウムイオンを含む電解液の調製)
実施例1と同様の方法により5価のバナジウムイオンを含む電解液を10mL調製した。
【0055】
(析出試験)
4価のバナジウムイオンを含む電解液及び5価のバナジウムイオンを含む電解液の析出試験を、実施例1と同様に実施した。4価のバナジウムイオンを含む電解液に析出物は発生しなかった。5価のバナジウムイオンを含む電解液に析出物が発生した。その結果を表1に示す。
【0056】
実施例1、2及び比較例1、2の結果から明らかなように、アニオン性高分子としてPFSA,もしくはPVS等のスルホン酸基及び/又はホスホン酸基を有する高分子を用いることで、4価と5価のバナジウム析出物の発生を抑制することができることが確認された。
【0057】
〔比較例3〕
(4価のバナジウムイオンを含む電解液の調製)
50mLポリプロピレン製容器に、酸化硫酸バナジウム6.9gと純水5.6mLとを仕込み、ウォーターバスにて50〜60℃程度に加温し、スターラーチップにて30分撹拌し、溶解させた。その後無水リン酸0.7gを添加し、ウォーターバスにて50〜60℃程度に加温し、スターラーチップにて30分撹拌した。さらに硫酸1.6mLを添加し、ウォーターバスにて50〜60℃程度に加温し、スターラーチップにて30分撹拌した。以上の手順により、バナジウムイオン濃度が3mol/L、硫酸イオン濃度が6mol/Lでバナジウムイオン濃度の2倍であり、リン酸濃度が0.5mol/Lでバナジウムイオン濃度の0.17倍である、4価のバナジウムイオンを含む電解液10mLを得た。
【0058】
(5価のバナジウムイオンを含む電解液の調製)
実施例1と同様の方法により5価のバナジウムイオンを含む電解液を10mL調製した。
【0059】
(析出試験)
4価のバナジウムイオンを含む電解液及び5価のバナジウムイオンを含む電解液の析出試験を、実施例1と同様に実施した。4価のバナジウムイオンを含む電解液に析出物が発生した。5価のバナジウムイオンを含む電解液には析出物は発生しなかった。その結果を表1に示す。
【0060】
〔比較例4〕
(4価のバナジウムイオンを含む電解液の調製)
50mLポリプロピレン製容器に、酸化硫酸バナジウム6.9gと純水6.0mLとを仕込み、ウォーターバスにて50〜60℃程度に加温し、スターラーチップにて30分撹拌し、溶解させた。その後メタンスルホン酸0.3mLを添加し、ウォーターバスにて50〜60℃程度に加温し、スターラーチップにて30分撹拌した。さらに硫酸1.6mLを添加し、ウォーターバスにて50〜60℃程度に加温し、スターラーチップにて30分撹拌した。以上の手順により、バナジウムイオン濃度が3mol/L、硫酸イオン濃度が6mol/Lでバナジウムイオン濃度の2倍であり、メタンスルホン酸濃度が0.5mol/Lでバナジウムイオン濃度の0.17倍である、4価のバナジウムイオンを含む電解液10mLを得た。
【0061】
(5価のバナジウムイオンを含む電解液の調製)
実施例1と同様の方法により5価のバナジウムイオンを含む電解液を10mL調製した。
【0062】
(析出試験)
4価のバナジウムイオンを含む電解液及び5価のバナジウムイオンを含む電解液の析出試験を、実施例1と同様に実施した。4価のバナジウムイオンを含む電解液に析出物が発生した。5価のバナジウムイオンを含む電解液には析出物は発生しなかった。その結果を表1に示す。
【0063】
実施例1、2及び比較例3、4の結果の比較から明らかなように、アニオン性高分子としてPVS等のスルホン酸基及び/又はホスホン酸基を有する高分子を添加することで、バナジウムイオン濃度が3mol/Lである電解液の析出物の発生を抑制することができることが確認された。また、リン酸や、スルホン酸を有する有機酸であるメタンスルホン酸を使用した比較例3〜4と、実施例1〜2との比較により、高分子であるPFSA、PVS等のスルホン酸基及び/又はホスホン酸基を有する高分子は析出物発生を抑制する効果が高いことが確認された。
【0064】
バナジウム系レドックスフロー電池のエネルギー容量は、バナジウムイオンのモル数に比例する。電解液中のバナジウムイオン濃度が高ければ、体積当たりのバナジウムイオンのモル数が増加するため、エネルギー密度が高いといえる。これにより、本発明に係るアニオン性高分子を用いることにより、高いエネルギー密度のバナジウム系レドックスフロー電池が得られることが示された。
【0065】
【表1】
【産業上の利用可能性】
【0066】
本発明に係る電解液は、バナジウム系レドックスフロー電池の電解液として産業上の利用可能性を有する。
【符号の説明】
【0067】
1:セル
2:正極電解液タンク
3:負極電解液タンク
4:送液チューブポンプ
5:送液チューブ
図1