(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0018】
<1>概要
無線タグは、例えば商品や人などの識別対象に装着され、物流管理や駅や会社等の入退場管理などに利用されている。無線タグは、パッシブ型とアクティブ型とに大別される。
【0019】
パッシブ型無線タグは、電池を内蔵せずに、外部のリーダ/ライタからの電波によって内部に必要な電力を生成し、リーダ/ライタの呼びかけに応答する形でリーダ/ライタと交信する。交信範囲は大きくとることができず最大で1m程度となるが、小型化及び動作の恒久化が可能であることから、今後の普及が大いに期待されている。
【0020】
一方、アクティブ型無線タグは、内部に電池を内蔵し、自ら外部の受信機に対して電波を発信する。電池を内蔵しているため、交信範囲は10〜20mと広いが、電池内蔵のため小型化できないこと、電池の寿命があるという点で難点がある。しかし、自発的に情報を発信できることから、その機能をうまく利用することで様々な応用が考えられる。例えば、不特定の場所に存在する識別対象を探索する場合等においては、パッシブ型無線タグよりもアクティブ型無線タグの方が適している。
【0021】
このようなアクティブ型の無線タグとしては、Bluetooth(登録商標)等の近距離無線通信規格を利用した小型の無線タグ等が知られている。例えば、Bluetooth Low Energy Wireless Technologyを利用した小型タグが提供されている。また、別の例として、無線タグに無線モジュールの他にGPSモジュールを搭載し、GPSモジュールの位置によりタグの場所を推定する方法がある。
【0022】
本実施の形態に係るシステムは、アクティブ型無線タグが位置する方向を推定するシステムである。具体的には、当該システムにおいては、無線捜索装置を手に持ったユーザが周囲360度の全方位にわたって一回転した間に、無線捜索装置がアクティブ型無線タグからの受信信号の強度レベルを測定し、この測定結果を無線捜索装置の向きの変化と共に記録しておくことで、無線タグが位置する方向を推定する。この際、無線捜索装置は、自身に内蔵されたジャイロ・センサや地磁気センサ等の動態センサを使用して無線捜索装置の向きの変化を検知する。本実施の形態は、上述したシステムにおいて、360度方向にわたって一回転した間に測定されたアクティブ型無線タグからの受信信号の強度レベルに基づいて、アクティブ型無線タグが位置する方向を推定する場合、推定誤差により正確な方向推定が困難となる問題を克服するための技術を開示する。具体的には、本実施の形態は、周囲の電磁的影響(無線捜索装置を手に持った人体による影響を含む)、散乱もしくは障害物などにより、アクティブ型無線タグが実際に位置する方向と無線信号の受信強度が最大となる方向との間に誤差が生じる問題点を克服するための技術を開示する。
【0023】
<2>本実施の形態に係る無線通信システムの構成
(2−1)無線通信システムの全体構成
以下、
図1を使用して、無線通信システムの全体構成の一実施例について説明する。
【0024】
無線通信システムの一実施例は、無線タグ捜索用の可搬型ユーザ端末装置としてユーザに使用されるタグ捜索装置100と、アクティブ型無線タグである無線タグ200n(nは、n>0の整数)とを有する。
図1には、一例として、n=4の場合について示す。nの値は、1〜3でもよいし、5以上であってもよい。
【0025】
無線タグ200nは、子機と呼ばれてもよい。無線タグ200nは、近距離無線通信モジュールを有する。例えば、無線タグ200nは、近距離無線通信をBluetooth Low Energy Wireless Technologyに従って行う小型無線タグであっても良い。無線タグ200nは、様々なものに貼付される。例えば、無くしたくないものに、無線タグ200nが貼付されてもよい。無線通信システムの一実施例では、鍵、リモコン、傘、財布等に、無線タグ200nが貼付される。
【0026】
無線タグ200nは、アクティブ型の無線タグであるので、内蔵されたバッテリによって駆動され、他の無線機に対して自発的に無線信号を送信することが可能である。無線タグ200nは、自身の現在位置を知らせるために一定の周期でAdvertising信号を間歇的に送信することが可能であり、Advertising信号の送信周期は、後述する親機からの設定コマンドによって設定されることが可能である。また、無線タグ200nは、Advertising信号の現在の送信周期と送信出力を親機に通知することも可能である。
【0027】
タグ捜索装置100は、親機と呼ばれてもよい。タグ捜索装置100の近距離無線通信モジュールは、無線タグ200nの近距離無線通信モジュールと無線通信を行う。タグ捜索装置100は、無線タグ200nからの電波の電界強度を測定する。タグ捜索装置100に内蔵されたセンサは、タグ捜索装置100の動態を検出する。タグ捜索装置100は、無線タグ200nからの電波の電界強度と、センサにより検出された動態とに基づいて、無線タグ200nの位置を推定する。タグ捜索装置100は、GUI(Graphical User Interface)のようなユーザにとって直感的に操作可能なユーザ・インターフェースを備えた表示画面を有し、当該表示画面は無線タグ200nの位置を表示する。なお、タグ捜索装置100は、複数個の無線タグ200nの位置を同時に推定することにより、同時に複数個の無線タグを識別し、識別した全ての無線タグを表示画面上に一覧表示することが可能である。
【0028】
(2−2)無線タグ200n
図2Aは、無線タグ200nの一実施例を示す。
【0029】
無線通信システムの一実施例では、無線タグ200
1は鍵に貼付され、無線タグ200
2はリモコンに貼付され、無線タグ200
3は傘に貼付され、無線タグ200
4は財布に貼付される。
【0030】
無線タグ200nは、制御部201と、報知情報送信部202と、無線通信部203と、計時部204と、記憶部205と、バッテリ206と、送受信アンテナ207と、制御信号受信部210と、を具備する。
【0031】
制御部201は、汎用マイクロプロセッサやデジタル信号処理プロセッサ等により実装することが可能であり、無線タグ200nの全体の動作を制御する。
【0032】
報知情報送信部202は、制御部201と無線通信部203との間に介在する形でこれらと接続され、親機であるタグ捜索装置100によって設定された送信周期でAdvertising信号を送信するように無線通信部203を制御する。具体的には、報知情報送信部202は、制御部201によって設定されたクロック・パルスの個数だけ内部のカウンター値をカウントダウンし、カウンター値が0になった時にAdvertising信号の無線送信の実行を無線送信部203に対して指示する。
【0033】
無線通信部203は、報知情報送信部202と送受信アンテナ207との間に介在する形でこれらと接続され、Bluetooth、zigbee、Wi−Fi、ANT+等の近距離無線通信規格に従って無線通信を行う。Bluetooth、zigbee、Wi−Fi、ANT+に限られず、近距離無線通信モジュールは、これら以外の近距離無線通信規格に従って無線通信を行うものであってもよい。無線タグ200nの一実施例においては、無線通信部203がBluetooth Low Energy Wireless Technologyに従って近距離無線通信をする場合について説明する。
【0034】
計時部204は、親機によってAdvertising信号の送信周期が新たに設定されるたびに、当該新たに設定された送信周期に等しい時間長を計測し、当該計測した時間長に対応するクロック・パルス数を報知情報送信部202に設定する。この際、計時部204によって設定されるクロック・パルス数は、計時部204から制御部201を経由して報知情報送信部202に出力される。
【0035】
記憶部205は、無線タグ200nに関する各種の設定パラメータを記憶している。このような設定パラメータには、無線タグ200nが捜索の対象となっていない待機状態におけるAdvertising信号送信周期の設定値や現在のAdvertising信号送信周期を自動的に待機状態における送信周期の設定値に戻すまでの待ち時間などが含まれる。
【0036】
バッテリ206は制御部201を介して、報知情報送信部202、無線送受信部203、計時部204、記憶部205および送受信アンテナ207に給電する。
【0037】
制御信号受信部210は、制御部201と無線通信部203との間に介在する形でこれらと接続され、親機であるタグ捜索装置100が無線タグ200nの動作を制御するために送信した制御信号を無線通信部203を介して受信し、当該制御信号に含まれる制御コマンドを復号化して制御部201に出力する。
【0038】
(2−3)タグ捜索装置100
図2Bは、タグ捜索装置100の一実施例を示す。
【0039】
タグ捜索装置100は、ユーザが通信することができる適切な如何なる端末でもよく、例えば、携帯電話、情報端末、パーソナルディジタルアシスタント、携帯用パーソナルコンピュータ、スマートフォン等のユーザ端末が含まれるが、これらに限定されない。
【0040】
タグ捜索装置100は、制御部101と、報知情報受信部202と、無線通信部103と、表示部104と、記憶部105と、ユーザ入出力部106と、センサ107と、送受信アンテナ108と、制御信号送信部110と、を具備する。
【0041】
制御部101は、汎用マイクロプロセッサやデジタル信号処理プロセッサ等により実装することが可能であり、報知情報受信部102、表示部104、記憶部105、ユーザ入出力部106およびセンサ107と信号をやり取りしながらタグ捜索装置100全体の制御を実行する。制御部101は、記憶部105に記憶されたプログラムに従って機能し、所定の処理を行う。具体的には、制御部101は、無線タグ200nからの電波の電界強度と、タグ捜索装置100の動態(タグ捜索装置100の向きや姿勢およびそれらの変化)を表す情報とに基づいて、無線タグ200nの位置を推定する。制御部101により推定される無線タグ200nの位置は、タグ捜索装置100との間の相対的な位置であってもよい。制御部101は、表示部104へ、無線タグ200nの位置を表す情報を出力する。
【0042】
報知情報受信部102は、制御部101と無線通信部103との間に介在する形でこれらと接続される。報知情報受信部102は、無線タグ200nからの無線信号を受信し、受信した無線信号がAdvertising信号であった場合、受信信号の情報内容を復号化することにより、無線タグ200nの無線タグ識別情報(タグID情報)およびタグ装着物品の属性情報を抽出し、制御部101に通知する。これにより、タグ捜索装置100は、受信信号の送信元である無線タグを一意に特定することが出来ると共に、当該無線タグが装着されている物品の属性情報を識別することが出来る。
【0043】
無線通信部103は、Bluetooth、zigbee、Wi−Fi、ANT+等の近距離無線通信規格に従って無線通信を行う。Bluetooth、zigbee、Wi−Fi、ANT+に限られず、無線通信部103は、これら以外の近距離無線通信規格に従って無線通信を行うものであってもよい。タグ捜索装置100の一実施例では、無線通信部103が、Bluetooth Low Energy Wireless Technologyに従って近距離無線通信をする場合について説明する。また、無線通信部103は、無線タグ200nからの電波に基づいて、電界強度を測定する。例えば、無線通信部103は、無線タグ200nからの電波に基づいて、受信信号強度(RSSI: Received Signal Strength Indication、 Received Signal Strength Indicator)を測定するようにしてもよい。
【0044】
表示部104は、例えば、ディスプレイにより構成され、タグ捜索装置100による処理状態や処理結果を表示する。処理状態や処理結果には、OSやアプリケーションによるものが含まれる。ディスプレイには、液晶ディスプレイ(LCD: Liquid Crystal Display)、CRT(Cathod Ray Tube)ディスプレイ、プラズマディスプレイ(PDP: Plasma Display Panel)、有機EL(Electro−Luminescence)ディスプレイ等が含まれる。表示部104は、タグ捜索装置100が上述した無線タグ捜索アプリケーションを実行している場合に、タグ捜索装置100の周囲に存在する全ての無線タグの位置をまとめて一覧表示する、あるいは、ユーザによる捜索の対象とされた特定の無線タグを捜索している最中に捜索画面を表示する。
【0045】
記憶部105は、無線タグ200nに関する各種の設定パラメータを記憶している。このような設定パラメータには、無線タグ200nが捜索の対象となっていない待機状態におけるAdvertising信号送信周期の設定値、タグ捜索装置100の周囲に存在する全ての無線タグの位置をまとめて一覧表示する際のAdvertising信号送信周期の設定値、およびユーザによる捜索の対象とされた特定の無線タグを捜索している最中におけるAdvertising信号送信周期の設定値などが含まれる。
【0046】
さらに記憶部105は、センサ107が計測した計測値や無線タグ200nからの受信電波の強度を無線通信部103が測定したデータを記憶する。センサ107が計測した計測値や無線タグ200nからの受信電波の強度を無線通信部103が測定したデータを制御部101が記憶部105内に記憶させる際、制御部101は、センサ107からのセンサ計測値の変化と受信電波強度の変化とを関連付けて受信電波強度変化データとして記憶部105内に記憶させる。
【0047】
さらに記憶部105は、アプリケーションと、オペレーティングシステム(OS: Operating System)とを記憶する。アプリケーションは、ユーザ入力部106からユーザによって入力された指示コマンドにより起動され、制御部101により実行されるプログラムを含み、タグ捜索装置100上でユーザが実行する作業を実施する機能を有するソフトウェアである。OSは、タグ捜索装置100の電源投入時に自動的に起動され、制御部101により実行されるシステム制御プログラムを含み、タグ捜索装置100において、ハードウェアを抽象化したインターフェースをアプリケーションソフトウェアに提供する基本ソフトウェアである。このようなOSの具体例には、Android OS(登録商標)が含まれる。なお、本実施の形態におけるアプリケーションには、ユーザが無線タグ200nの現在位置を捜索し、無線タグ200nの現在位置を表示部104上にGUIを使用して表示させる無線タグ捜索アプリケーションが含まれる。
【0048】
ユーザ入出力部106は、例えば、キーボードやマウスにより構成され、ユーザがタグ捜索装置100へ指示を与えたり、データの入力を行ったりするための装置である。また、ユーザ入力部106は、タッチパネルにより構成されてもよい。また、ユーザ入出力部106は、例えば、マイクにより構成され、ユーザにより発せられた音声を入力する。音声には、着信者へのメッセージや、タグ捜索装置100への指示が含まれてもよい。指示には、OSに対するものや、アプリケーションに対するものが含まれる。また、ユーザ入出力部106は、例えば、スピーカにより構成され、タグ捜索装置100による処理状態や処理結果に応じて、ユーザに対して、音を出力するようにしてもよい。
【0049】
センサ107には、動態センサが含まれ、動態センサは、ユーザが把持するタグ捜索装置100の向きや姿勢の変化などを含む装置の動きを検出する。動態センサの一実施例としては、地磁気センサ107A、ジャイロ・センサ107B、加速度センサ107C(
図4参照)等を含む動態センサが考えられる。地磁気センサ107A、ジャイロ・センサ107B、加速度センサ107Cに限らず、これら以外のセンサが含まれてもよい。加速度センサ107Cは、タグ捜索装置100の向きや姿勢が変化した際の角加速度(回転加速度)や加速度(直進加速度)を計測するセンサである。ジャイロ・センサ107Bは、タグ捜索装置100の現在の向きを検出するセンサである。地磁気センサ107Aは、地磁気に基づいてタグ捜索装置100から見た東西南北などの絶対方位を検出するセンサである。
【0050】
制御信号送信部110は、制御部101と無線通信部103との間に介在する形で、これらと接続されている。制御信号送信部110は、親機であるタグ捜索装置100が無線タグ200nの動作を制御するための制御コマンドを制御部101から受け取り、これを制御信号として符号化した上で、無線通信部103を介して無線タグ200nに送信する。
【0051】
(2−4)タグ捜索装置100がユーザに提供する機能とタグ捜索装置100の利用態様
以下、
図3を使用して、無線タグ捜索アプリケーションを実行中のタグ捜索装置100がユーザに対して提供する機能について説明する。タグ捜索装置100上で実行される無線タグ捜索アプリケーションは、Android OS(登録商標)のAPIを呼び出すことにより実行されるAndroidアプリケーションとして実装することも可能である。この場合、無線タグ捜索アプリケーションは、Android OS(登録商標)のデスクトップを表示するタッチパネル画面上で対応するアイコンをユーザが指でタップすることにより起動される。
【0052】
タグ捜索装置100は、捜索可能エリア内に在圏している全ての無線タグの位置を捜索して、在圏している全ての無線タグの現在位置を表示画面上に2次元マップのように一覧表示することが可能である。なお、上述した捜索可能エリアとは、タグ捜索装置100が離れた場所の無線タグから発信された信号を所定の品質以上の受信品質で受信することが出来る最大の範囲であり、タグ捜索装置100が無線通信可能なカバレージ・エリアに対応する。この場合の所定の品質とは、無線タグからの受信信号を一定以上の確率で正しく復号化して、タグID情報を取り出すことが出来る受信品質であっても良い。
【0053】
ユーザはまず、手に持ったタグ捜索装置100を任意の方向に向けて左右に振る、もしくは、その場で一回転する。この時、タグ捜索装置100が実行する無線タグ捜索アプリケーションは、個々の無線タグからの受信したAdvertising信号の強度と当該信号受信の際の方位とを記憶部105内に記憶する。続いて、無線タグ捜索アプリケーションは、タグ捜索装置100の表示画面上に表示されるレーダーチャートの上に、ユーザの現在位置を中心として、捜索された全ての無線タグがそれぞれ位置する方向と距離を一覧表示する(
図3)。各無線タグの方向と距離をレーダーチャート上に表示する際には、各無線タグのタグID情報に対応するアイコン画像を当該方向と距離に対応するレーダーチャート内の位置に一覧表示する(
図3)。
【0054】
タグ捜索装置100が、捜索可能エリア内に在圏している全ての無線タグの位置を表示画面上にレーダーチャートとして一覧表示している様子を
図3に示す。
図3において、レーダーチャートの中心に位置するアイコン画像500は、タグ捜索装置100を手に持っているユーザの現在位置を表す。レーダーチャート内に表示されている複数の同心円の各々は、アイコン画像500で表されるユーザ位置を中心として段階的に大きくなる円形の距離範囲を表し、各同心円に付記されている数字は対応する距離範囲の半径を表す。
図3において、レーダーチャート内のアイコン画像400
1、400
2、400
3および400
4は、それぞれ捜索可能エリア内に在圏している4つの無線タグの現在位置を表す。アイコン画像400
1は、鍵に貼付された無線タグ200
1の現在位置を表示し、アイコン画像400
2は、リモコンに貼付された無線タグ200
2の現在位置を表示し、アイコン画像400
3は、傘に貼付された無線タグ200
3の現在位置を表示し、アイコン画像400
4は、財布に貼付された無線タグ200
4の現在位置を表示する。
(2−5)タグ捜索装置100内部の機能ブロック構成
図4は、タグ捜索装置100の機能の一実施例を示す機能ブロック図である。この機能ブロック図により表される機能は、主に、制御部101により実行される。つまり、
図4の機能ブロック図により表される機能は、記憶部105に記憶されたアプリケーションに従って制御部101により実行される。記憶部105に記憶されたアプリケーションに従って、
図4の機能ブロック図により表される機能を実行するCPUは、A−CPU(アプリケーション−CPU)300と呼ばれてもよい。
【0055】
制御部101は、動態判定部302として機能する。動態判定部302には、加速度センサ107Cから、加速度を表す情報が入力される。動態判定部302は、加速度センサ107Cからの加速度を表す情報に基づいて、タグ捜索装置100が動いたか否かを判定する。動態判定部302は、位置推定部304へ、タグ捜索装置100が動いたか否かを表す情報を入力する。
【0056】
制御部101は、位置推定部304として機能する。位置推定部304には、動態判定部302からタグ捜索装置100が動いたか否かを表す情報が入力される。位置推定部304は、動態判定部302からの情報に基づいて、タグ捜索装置100の動き始めのタイミングと、動きが終了するタイミングとを検出する。位置推定部304は、タグ捜索装置100の動き始めのタイミングと、動きが終了するタイミングとを検出した後、動き始めのタイミングと動きが終了するタイミングとの間に、無線通信部103により検出された電界強度、地磁気センサ107Aにより検出された地磁気の向きを表す情報、ジャイロ・センサ107Bにより検出された角加速度を表す情報に基づいて、無線タグ200nの位置を推定する。
【0057】
位置推定部304は、無線通信部103からの電界強度を表す情報に基づいて、タグ捜索装置100と無線タグ200nとの間の距離を推定する。具体的には、位置推定部304は、電界強度と距離との間の関係が含まれるデータベースを有するようにしてもよい。
【0058】
図5は、電界強度と距離との間の関係の一実施例を示す。
図5によれば、電界強度が高くなるに従ってタグ捜索装置100と無線タグ200nとの間の距離が短い(近い)ことが示され、電界強度が低くなるに従ってタグ捜索装置100と無線タグ200nとの間の距離が長い(遠い)ことが示される。
図5に基づいて、電界強度と、距離とを対応付けたテーブルが用意されてもよい。
【0059】
位置推定部304は、データベースに含まれる電界強度と距離との間の関係に基づいて、タグ捜索装置100と無線タグ200nとの間の距離を推定する。
【0060】
位置推定部304は、地磁気センサ107Aからの地磁気の向きを表す情報に基づいて、タグ捜索装置100の方位を算出する。位置推定部304は、ジャイロ・センサ107Bからの角速度を表す情報に基づいて、タグ捜索装置100の角度や回転速度を算出する。
【0061】
位置推定部304は、距離の推定値、方位を表す情報、角度や回転速度を表す情報に基づいて、無線タグ200nの位置を推定する。位置推定部304は、ユーザ入出力部106へ、推定した無線タグ200nの位置を表す情報を入力する。
【0062】
ユーザ入出力部106は、位置推定部304からの無線タグ200nの位置を表す情報に基づいて、無線タグ200nの位置を表示する。
【0063】
<3>無線タグの位置の推定方法
以下、
図6〜
図8を使用して、タグ捜索装置100が不特定の無線タグ200nが位置する距離と方向を推定する方法を説明するが、説明を簡単にするためにまず、推定した方向に含まれる誤差を考慮しない場合から説明する。無線タグ200nが位置する方向を当該方法によって推定した結果に含まれる誤差を考慮した方向推定の仕組みに関しては、
図9以降に関する実施例の記載において後述する。概略的に言うならば、以下に述べる方法は、タグ捜索装置100が内蔵する動態センサにより、タグ捜索装置100の向きの変化を検出すると同時に、当該向きの変化と関係付けてタグ捜索装置100が無線タグ200nから受信した電波強度の変化を記録し、電波強度が最大となる時のタグ捜索装置100の向きを検出するものである。
【0064】
タグ捜索装置100は、無線タグ200nの位置を推定する無線タグ捜索アプリケーションを起動する。無線タグ200nの位置を推定する無線タグ捜索アプリケーションが起動されると、タグ捜索装置100自体を動かすことを促すメッセージが出力される。タグ捜索装置100自体を振ることを促すメッセージが出力されてもよいし、傾けることを促すメッセージが出力されてもよい。
例えば、「体を中心に円を描くように、5秒間程度かけて、無線通信装置を動かしてください」等のメッセージが出力される。音声により、ユーザに通知されてもよいし、表示することにより、ユーザに通知されてもよい。
【0065】
ユーザは、メッセージに従って、タグ捜索装置100自体を動かす。
【0066】
図6は、ユーザがメッセージに従って、タグ捜索装置100自体を動かす例を示す。ユーザは、手の平にタグ捜索装置100をのせて、ユーザ自身を中心にして一回転する。
【0067】
タグ捜索装置100の位置を推定する処理は、ユーザ自身を中心にして、タグ捜索装置100を一回転させた後に開始されてもよいし、一回転させる際にリアルタイムで実行されてもよい。タグ捜索装置100の一実施例では、ユーザ自身を中心にして、タグ捜索装置100を一回転させた後に開始される場合について説明する。
【0068】
位置推定部304は、動態判定部302からのタグ捜索装置100が動いたか否かを表す情報により、タグ捜索装置100の動き始めのタイミングと、動きが終了するタイミングとを検出する。位置推定部304は、動き始めのタイミングと、動きが終了するタイミングとが検出できた場合、該動き始めのタイミングから、動きが終了するタイミングの間に、無線通信部103により検出された電界強度、地磁気センサ107Aにより検出された地磁気の向きを表す情報、ジャイロ・センサ107Bにより検出された角加速度を表す情報を取得する。
【0069】
位置推定部304は、地磁気の向きを表す情報に基づいて、タグ捜索装置100の方位を推定する。位置推定部304は、角加速度を表す情報から角度や回転速度を求め、該角度や回転速度により、タグ捜索装置100の移動の状態を推定する。位置推定部304は、電界強度を表す情報に基づいて、タグ捜索装置100と無線タグ200nとの間の距離を推定する。地磁気の向きを表す情報に基づいてタグ捜索装置100の方位を推定する代わりに、位置推定部304は、角加速度を表す情報から角度や回転速度を求め、該角度や回転速度により、タグ捜索装置100の移動の状態を推定する。このようにすることにより、動き始めからの相対位置を推定することができる。
【0070】
図7は、タグ捜索装置100自体を動かした際に、各センサにより検出される値の変化の一例を示す。
図7には、下から、加速度センサ107Cにより検出される加速度、ジャイロ・センサ107B及び地磁気センサ107Aにより検出される方位、無線通信部103により検出される電界強度が示される。
【0071】
図8A〜
図8Cは、ユーザが、ユーザ自身を中心として、タグ捜索装置100自体を回転させる動きを示す。
図8(A)〜
図8(C)には、動き始めた際に、ユーザが向いている方向と反対の方向に、無線タグ200nがある場合について示す。
【0072】
ユーザがタグ捜索装置100自体を動かすことを開始すると、加速度センサ107Cにより検出される水平方向の加速度が大きく変化する。これは、
図7及び
図8(A)の「動き始め」に対応する。位置推定部304には、動態判定部302から動いたことを表す情報が入力される。
【0073】
ユーザがタグ捜索装置100自体を動かすことを継続すると、加速度センサ107Cにより検出される加速度の変化が小さくなる。これは、
図7及び
図8(A)の「動き始め」後から、
図7及び
図8(B)の「180度回転時」を経て、
図7及び
図8(C)の「回転終了時」まで継続する。
【0074】
ユーザがタグ捜索装置100自体を動かすことをさらに継続し、一回転すると、加速度センサ107Cにより検出される加速度の変化は大きくなる。これは、
図7の「回転終了時」に対応する。位置推定部304には、動態判定部302から動いていないことを表す情報が入力される。
【0075】
位置推定部304は、動態判定部302からのタグ捜索装置100が動いたか否かを表す情報により、タグ捜索装置100の動き始めのタイミングと、動きが終了するタイミングとを検出する。
【0076】
動き始めのタイミングと、動きが終了するタイミングとが検出された場合、位置推定部304は、無線タグ200nの位置推定を開始する。また、この場合、上述した動き始めのタイミングから、タグ捜索装置100を手に持ったユーザが周囲360度にわたって一回転するのを待たずに、ユーザが回転している途中で無線タグ200nの位置推定結果を位置推定部304が随時更新してゆくことも可能である。例えば、ユーザが回転している途中で、無線タグ200nから受信した電界強度を表す計測データとセンサー107A〜107Cにより計測された計測データをタグ捜索装置100が一定量以上得ることが出来たとする。その際、位置推定部304は、一定量以上の新たな計測データが得られる毎に、それまでに得られたデータを基にした無線タグ200nの位置推定演算を実行し、無線タグ200nの位置推定結果を更新することが可能である。
【0077】
「動き始め」の際、地磁気センサ107Aにより検出される方位に基づいて、位置推定部304は、例えば、ユーザが西側を向いていることを推定する。また、「動き始め」の際、無線通信部103により検出される電界強度は、無線タグ200nと無線通信端末100との間にユーザが存在するため低い値となる。位置推定部304は、無線通信部103からの電界強度に基づいて、無線タグ200nと、タグ捜索装置100との間の距離を推定する。
【0078】
また、位置推定部304は、「動き始め」の後から、回転終了時まで、ジャイロ・センサ107Bからの角速度を表す情報に基づいて、タグ捜索装置100の角度や回転速度を推定する。ジャイロ・センサ107Bからの角速度を表す情報に基づいて、タグ捜索装置100の角度や回転速度を推定することにより、「動き始め」からの相対的な動きを推定できる。
【0079】
また、位置推定部304は、地磁気センサ107Aにより検出される方位に基づいて、無線通信端末100の向いている方位を推定するようにしてもよい。
図7に示される例では、タグ捜索装置100は、例えば、ユーザが西から北、北から東を向いていることが推定される。
【0080】
また、無線通信部103により検出される電界強度は、無線タグ200nと無線通信端末100との間の距離が近くなるため、徐々に高くなる。無線通信部103により検出される電界強度は、無線タグ200nと無線通信端末100との間に障害物がない場合に高くなる。位置推定部304は、無線通信部103からの電界強度に基づいて、無線タグ200nと、タグ捜索装置100との間の距離を推定する。また、位置推定部304は、無線通信部103からの電界強度と、ジャイロ・センサ107Bからの角速度を表す情報に基づいて、タグ捜索装置100が向いている方向を検出する。また、位置推定部304は、無線通信部103からの電界強度と、ジャイロ・センサ107Bからの角速度を表す情報と、地磁気センサ107Aからの方位を表す情報に基づいて、タグ捜索装置100が向いている方角を検出するようにしてもよい。具体的には、「180度回転時」に、無線通信部103により検出される電界強度は、無線タグ200nと無線通信端末100との間に障害物がなく、且つ距離が最も近くなるため、最大となる。位置推定部304は、無線通信部103からの電界強度に基づいて、無線タグ200nと、タグ捜索装置100との間の距離を推定する。さらに、位置推定部304は、無線通信部103により検出される電界強度が最大である場合に、ジャイロ・センサ107Bにより検出される角速度と、地磁気センサ107Aにより検出される方位により求められる方角を、タグ捜索装置100の向いている方角とする。
【0081】
以上のように、本実施の形態に係るタグ捜索装置100は、内部に電池を内蔵し、自ら外部の受信機に対して電波を発信するアクティブ型の無線タグから発信された信号を受信する。加えて、本実施の形態に係るタグ捜索装置100は、自装置を手に持ったユーザがその場で一回転した際に、内蔵された動態センサ(ジャイロ・センサや地磁気センサなど)を使用して自装置の向きや姿勢の変化を検知し、無線タグからの受信信号の強度の変化と関係付ける。従って、特許文献1〜特許文献4記載の発明とは異なり、本実施の形態に係るタグ捜索装置100は、送信ビームの指向性を制御して周囲に散在する一つ以上の無線タグに信号を送信したり、受信ビームの指向性を周囲360度の全方位に渡って回転させたりしなくても良いので、送受信アンテナのビーム指向性を制御するための複雑で高価なアンテナ機構を備える必要が無い。
【0082】
<4>無線タグが位置する方向の推定結果に含まれる誤差を考慮した方向推定方法
(4−1)方向推定誤差について
まず、無線タグが位置する方向を、
図6〜
図8を使用して上述したとおりの方法で推定した場合の推定誤差について
図9を使用して説明する。
【0083】
タグ捜索装置100を手に持つ人体やタグ捜索装置100の周囲に存在する遮蔽物等により、無線タグ200nからの電波が反射されたり吸収されたりすると、当該電波を受信するタグ捜索装置100の受信アンテナの指向性パターンは理想的には
図9(A)の上図に示すようになる。
図9(A)の上図は、タグ捜索装置100の受信アンテナの位置を中心として、その周囲360度の全方位にわたって当該受信アンテナの指向性が偏り無く楕円形に分布している様子を示す。その場合、タグ捜索装置100を手に持ったユーザがその場で一回転した間に無線タグ200nから受信した電波の受信強度の変化は
図9(A)の下図の曲線グラフのようになる。
図9(A)の下図に示す曲線グラフにおいて、横軸はユーザが手に持ったタグ捜索装置100が向いている方位角に対応し、縦軸は、方位角に応じた電波の受信強度を表す。説明の便宜上、
図9(A)の下図に示す曲線グラフは、電波受信強度が最大となる方向を横軸上の原点位置とし、横軸の値がとり得る方位角の値の範囲は、この原点位置を基準方向として−180°から+180°までの間としている。すなわち、
図9(A)の下図に示す横軸は、タグ捜索装置100の周囲360度にわたる方位角(−180°〜+180°)に対応する。以上から、
図6〜
図8を使用して上述したとおり、無線タグからの電波の受信強度が最も強い方向を、無線タグが存在する方向であると推定することができる。
【0084】
しかしながら、タグ捜索装置100の受信アンテナの実際の指向性パターンは
図9(A)に示すような理想的なパターンではなく、例えば
図9(B)の上図に示すように特定の方向にだけ偏っている。そのため、当該受信アンテナの指向性は全方位に満遍なくは分布しておらず、一部の方向に対応する指向性が強くなっていたり弱くなっていたりすることがある。その場合、タグ捜索装置100を手に持ったユーザが一回転した時の電波受信強度の変化は
図9(B)の下図に示す曲線グラフのようになるので、無線タグから受信した電波の受信強度が最も強い方向に無線タグ200nが存在するとは限らなくなる。その結果、無線タグ200nが位置する方向に関し、タグ捜索装置100は正確な方向推定を実行することが困難となる。しかも、タグ捜索装置100の受信アンテナに関する指向性パターンの歪み方は、個々のタグ捜索装置毎に異なるため、
図9(B)に示したアンテナ指向性パターンの歪みによって生じる上記のような方向推定誤差も、個々のタグ捜索装置毎に異なるものである。
【0085】
以下、
図10〜
図13を使用して、タグ捜索装置100が無線タグ200nの現在位置に対応する方向を推定する際に、当該推定に含まれる
図9(B)の誤差を考慮した方向推定方法の具体例を第1実施例〜第4実施例として説明する。以下に述べる第1実施例〜第4実施例に係る方向推定方法は、タグ捜索装置100内の制御部101が、報知情報受信部102および制御信号送信部110と通信しながら記憶部105内に記憶されたソフトウェア・プログラムを実行することにより、実施される。
【0086】
(4−2)無線タグの方向推定方法に関する第1実施例
まず、
図10(A)を使用して第1実施例について説明する。第1実施例に係る方向推定方法は、タグ捜索装置100が無線タグ200nから受信した電波の強度が最小となる方位角を最小強度方位角として測定し、この最小強度方位角から見て180°正反対の方向を、無線タグ200nの現在位置に対応する方向として推定する。具体的には、以下のとおりである。第1実施例に係るタグ捜索装置100は、タグ捜索装置100を手に持ったユーザがその場で一回転した際に、タグ捜索装置100の方位角の変化と無線タグ200nから受信した電波強度の変化との間の関係を
図10(A)に示す曲線グラフの形で計測する。
図9の(A)および(B)の下図に示した曲線グラフと同様に、
図10(A)に示す曲線グラフにおいて、横軸は、ユーザが手に持ったタグ捜索装置100が向いている方位角に対応し、縦軸は、方位角に応じた電波の受信強度を表す。すなわち、
図10(A)に示す横軸は、タグ捜索装置100の周囲360度にわたる方位角(−180°〜+180°)に対応する。第1実施例に係る方向推定方法は、電波の受信強度が最小となる方位角(
図10(A)の横軸上の点1001に対応する)から180°を加算もしくは減算した方位角(
図10(A)の横軸上の点1002に対応する)を方向推定結果として出力する。
【0087】
第1実施例に係る方向推定方法を上記のような構成とする理由は以下のように説明することが出来る。
図9に関して上述したように、無線タグ200nからの電波受信強度が最大となる方向に対応する最大強度方位角が、無線タグの実際の方向とずれてしまう場合がある。その一方で、電波受信強度が最大となる方位角と比較して、無線タグ200nからの電波受信強度が最小となる方向に対応する最小強度方位角は、上述した(1)〜(3)の要因によってそれほど影響を受けず、受信アンテナ指向性に歪みによる変動は少ないと考えられる。
【0088】
以上より、第1実施例に係る方向推定方法は、タグ捜索装置100の受信アンテナ指向性の歪みによる影響をそれほど受けない方向として、無線タグ200nからの電波受信強度が最小となる方位角を測定し、当該方位角の正反対の方向を無線タグ200nが位置する方向として推定する。これにより、第1実施例に係る方向推定方法は、上述した(1)〜(3)の要因によってタグ捜索装置100の受信アンテナ指向性が歪められることによる影響をそれほど受けずに、無線タグ200nが位置する方向を推定することが出来る。
【0089】
(4−3)無線タグの方向推定方法に関する第2実施例
次に、
図10(B)を使用して第2実施例について説明する。第2実施例に係る方向推定方法は、まず最初に、タグ捜索装置100が無線タグ200nから受信した電波の強度が最小となる方位角を最小強度方位角として測定し、この最小強度方位角から見て180°正反対の方位角を第1方位角とする。続いて、第2実施例に係る方向推定方法は、第1方位角を、無線タグ200nから受信した電波の強度が最大となる方位角である第2方位角と平均し、当該平均した方位角に対応する方向を無線タグの現在位置に対応する方向として推定する。具体的には、以下のとおりである。第2実施例に係るタグ捜索装置100は、タグ捜索装置100を手に持ったユーザがその場で一回転した際に、タグ捜索装置100の方位角の変化と無線タグ200nから受信した電波強度の変化との間の関係を
図10(B)に示す曲線グラフの形で計測する。
図9の(A)および(B)の下図に示した曲線グラフと同様に、
図10(B)に示す曲線グラフにおいて、横軸は、ユーザが手に持ったタグ捜索装置100が向いている方位角に対応し、縦軸は、方位角に応じた電波の受信強度を表す。第2実施例に係る方向推定方法は、まず最初に、電波の受信強度が最小となる方位角(
図10(B)の横軸上の点1003に対応する)を最小強度方位角として測定し、この最小強度方位角から180°を加算もしくは減算した方位角(
図10(B)の横軸上の点1004に対応する)を決定し、これを第1の方位角とする。続いて、第2実施例に係る方向推定方法は、電波の受信強度が最大となる方位角(
図10(B)の横軸上の点1005に対応する)を最大郷土方位角として決定し、これを第2の方位角とする。最後に、第2実施例に係る方向推定方法は、第1の方位角と第2の方位角の平均値に対応する方位角(
図10(B)の横軸上の点1006に対応する)を、無線タグ200nが位置する方向として推定する。
【0090】
以上より、第2実施例に係る方向推定方法は、受信アンテナ指向性が歪められることによる影響をそれほど受けない最小強度方位角に関する情報と最大強度方位角に関する情報の両者を合成することにより、第1実施例に係る方法よりも精度の高い方向推定結果を得ることが出来る。
【0091】
(4−4)無線タグの方向推定方法に関する第3実施例
次に、
図11を使用して第3実施例について説明する。第3実施例に係る方向推定方法は、まず最初に、タグ捜索装置100から見て無線タグ200nが実際に位置する方向とタグ捜索装置100が推定した無線タグ200nの方向との間の角度差を、較正オフセット角度(キャリブレーション・オフセット角度)として推定する。続いて、第3実施例に係る方向推定方法は、第1実施例または第2実施例に係る方向推定方法を使用して無線タグ200nの方位角を推定し、これを較正前方位角とし、この較正前方位角に上述した較正オフセット角度を加算または減算して無線タグ200nの方向に関する最終的な推定結果として出力する。
【0092】
上述した較正オフセット角度Dは、以下のようにして経験的に実測される。まず、タグ捜索装置100から見て無線タグ200nを既知の方向に設置し、第1実施例または第2実施例に係る方向推定方法により推定した無線タグ200nの方位角と無線タグ200nが実際に設置されている既知の方向との間の角度差を一つの標本値として実測する。また、別の実施態様として、
図9に関して上述した最大強度方位角(即ち、無線タグ200nからの電波受信強度が最大となる方位角)と無線タグ200nが実際に設置されている既知の方向との間の角度差を一つの標本値として実測することも可能である。このような標本値を実測するための具体例を説明すると以下のとおりである。
図11(A)は、タグ捜索装置100から見て方位角=0°(横軸上の原点位置)となる既知の方向に無線タグ200nを設置し、方位角の変化に応じた無線タグ200nからの電波受信強度の変化を記録した曲線グラフである。
図11(A)に示した曲線グラフは、較正オフセット角度Dを経験的に求めるために測定されるリファレンス・データと呼ばれるものである。このリファレンス・データは、タグ捜索装置100を使用した無線タグ200nの捜索時において、無線タグ200nが位置する方向をタグ捜索装置100が推定する際に測定する電波受信強度変化の曲線グラフとは区別される。なお、
図9において上述した受信アンテナの指向性の歪みが個々のタグ捜索装置毎に異なるので、
図11(A)に関して上述したリファレンス・データもタグ捜索装置毎に異なる点に留意されたい。すなわち、個々のタグ捜索装置毎に、当該タグ捜索装置に固有のリファレンス・データが得られる。
【0093】
図11(A)に示した曲線グラフの横軸上において最大強度方位角に対応する点1101と横軸上の0°(原点位置)との間の角度差が標本値となる。以後、同様の状況下で上述した標本値の実測を繰り返し行い、これらの実測で得られた多数の標本値から統計値を計算し、当該統計値を較正オフセット角度Dとする。このような統計値は、例えば、多数の実測により得られた多数の標本値から成る集合に関して平均値や中央値を計算することにより得ることが出来る。
【0094】
図11(B)は、較正前方位角に上述した較正オフセット角度を加算または減算して無線タグ200nの方向に関する最終的な推定結果として出力する例を示す。
図11(B)は、タグ捜索装置100が、第3実施例に係る方法に基づいて、無線タグ200nが位置する方向を推定する際に測定する電波受信強度変化の曲線グラフである。
図11(B)においては、較正前方位角を
図9に関して上述した最大強度方位角としており、当該較正前方位角は
図11(B)の横軸上の点1102に対応する。そして、
図11(B)においては、横軸上の点1102に対応する較正前方位角から上述した方法により経験的に実測された較正オフセット角度Dを減算することにより、無線タグ200nの方向に関する最終的な推定結果が出力されている。
【0095】
さらに、第3実施例に係る方向推定方法の変形実施例として、以下のような方向推定方法を構成することも可能である。
図11の(A)に示した例においては、
図9に関して上述した最大強度方位角と無線タグ200nが実際に設置されている既知の方向との間の角度差に基づいて単一の較正オフセット角度Dを求めていたが、この変形実施例は、他の方法で求めた較正オフセット角度を併用する。具体的には、本変形実施例は、
図11の(A)に示した例に従って較正オフセット角度D1を求めるのと同時に、第1実施例に係る方法を使用して決定される最小強度方位角度の正反対方向と無線タグ200nが実際に設置されている既知の方向との間の角度差に基づいて較正オフセット角度D2をも求める。その上で、本変形実施例は、2つの較正オフセット角度D1およびD2を併用して無線タグ200nの方向を推定する。
【0096】
以下、この変形実施例が2つの較正オフセット角度D1およびD2の両者に基づいて、無線タグ200nが位置する方向の推定を行う方法の動作手順を、
図12のフローチャートに沿って説明する。
図12のフローチャートに示す動作手順は、タグ捜索装置100内の制御部101が、報知情報受信部102および制御信号送信部110と通信しながら記憶部105内に記憶されたソフトウェア・プログラムを実行することにより、実施される。まず、本変形実施例は、
図12のステップSA1において、タグ捜索装置100を手に持ったユーザがその場で一回転した際に測定した無線タグ200nからの電波受信強度変化の曲線グラフから、
図9に関して上述した最大強度方位角を決定する。続いて、本変形実施例は、
図12のステップSA2において、当該決定された最大強度方位角に較正オフセット角度D1を加算または減算して第1推定方向とする。
図12のフローチャートにおいては、上述したステップSA1およびステップSA2の処理ステップの実行と並行して、以下のステップSB1およびステップSB2の処理ステップが実行される。ステップSB1においては、第1実施例に係る方向推定方法と同様の方法に従って最小強度方位角度の正反対方向が決定される。ステップSB2において、上述のとおり決定された最小強度方位角の正反対方向に較正オフセット角度D2を加算または減算して第2推定方向とする。最後に、本変形実施例は、
図12のステップS3において、第1推定方向に対応する方位角と第2推定方向に対応する方位角を平均することにより、無線タグ200nの方向に関する最終的な推定結果を出力する。
【0097】
以上より、第3実施例に係る方向推定方法は、無線タグ200nが位置する方向に関して、第1実施例または第2実施例に従って推定された推定方向を、リファレンス・データの実測結果に基づいて得られた較正オフセット角度Dによって補正することにより、第1実施例や第2実施例よりもさらに正確な方向推定結果を出力することが出来る。
【0098】
さらに、第3実施例に係る方向推定方法は、タグ捜索装置100に固有のリファレンス・データを実測し、当該固有のリファレンス・データ実測結果に応じて得られた較正オフセット角度Dによって無線タグ200nが位置する方向の推定結果を補正する。これにより、第3実施例に係る方向推定方法は、受信アンテナの指向性の歪み方がタグ捜索装置毎に異なっていても、当該指向性の歪み方に応じたリファレンス・データ実測結果に基づいて、方向推定結果を適切に補正することができる。何故なら、
図9において上述した受信アンテナの指向性の歪みが個々のタグ捜索装置毎に異なるので、上述したリファレンス・データもタグ捜索装置毎に異なるからである。
【0099】
(4−5)無線タグの方向推定方法に関する第4実施例
次に、
図13〜
図16を使用して、第4実施例について説明する。第4実施例に係る方向推定方法は、以下の手順を実施する。まず、タグ捜索装置100による無線タグ200nの捜索に先立って、リファレンス・データの実測が行われる。具体的には、タグ捜索装置100によって予め既知の方向に無線タグ200nが設置されている状況下において、当該既知の方向を方位角0°とし、方位角の変化に応じた無線タグ200nからの受信電波強度の変化がリファレンス・データとして実測される。続いて、タグ捜索装置100を使用した無線タグ200nの捜索時において、タグ捜索装置100を手に持ったユーザがその場で一回転した間に、ユーザの周囲360度にわたって方位角の変化に応じた無線タグ200nからの受信電波強度の変化が捜索時測定結果として測定される。
図13において実線で示した曲線1301は、タグ捜索装置100を使用した無線タグ200nの捜索時において上述のように測定された捜索時測定結果に対応する受信電波強度変化を表す曲線グラフである。
図9〜
図11に示す曲線グラフと同様に
図13の横軸はタグ捜索装置100の周囲360度にわたる方位角(−180°〜+180°)であり、他方、
図13に示す曲線1302は、上述のように実測されたリファレンス・データに対応する受信電波強度変化を表す曲線グラフである。続いて、第4実施例に係る方法は、
図13においてリファレンス・データとして示す受信電波強度変化曲線1302と
図13において捜索時測定結果として実線で示す受信電波強度変化曲線1301との間の相関強度を計算する。以後、第4実施例に係る方法は、リファレンス・データとして示される受信電波強度変化曲線1302を
図13の横軸に沿って右方向に徐々にシフトさせながら、実線で示す受信電波強度変化曲線1301との間の相関強度を繰り返し計算する。その結果、
図13において、リファレンス・データを表す受信電波強度変化曲線が、曲線1303で表される位置までシフトされた時に、リファレンス・データを表す受信電波強度変化曲線と実線で示される受信電波強度変化曲線1301との相関強度が最大となったとする。第4実施例に係る方法は、リファレンス・データを表す曲線のこの時点におけるシフト量を最大相関シフト量として記録し、曲線1302で表される初期状態から方位角が最大相関シフト量だけシフトされたリファレンス・データを基準として、無線タグ200nが位置する方向に関する最終的な推定結果を求める。なお、
図9において上述した受信アンテナの指向性の歪みが個々のタグ捜索装置毎に異なるので、
図13に関して上述したリファレンス・データもタグ捜索装置毎に異なる点に留意されたい。すなわち、個々のタグ捜索装置毎に、当該タグ捜索装置に固有のリファレンス・データが得られる。
【0100】
次に、
図13において、リファレンス・データを表す曲線と捜索時測定結果を表す曲線との間の相関強度を計算する方法について以下のとおりに説明する。まず最初に、
図13において、横軸上の各点に対応する方位角毎に、リファレンス・データを表す曲線と捜索時測定結果を表す曲線との間で受信電波強度の差(
図13の縦軸の値の差)を計算し、その差を2乗する。続いて、このようにして横軸上の各点に対応する方位角毎に計算された2乗差を全方位に渡って(横軸全体に渡って)合計することにより、相関強度を計算する。この際、リファレンス・データを表す曲線と捜索時測定結果を表す曲線とが、
図13の平面内において上下に離間している場合、下に位置する方の曲線に当該離間幅に相当するオフセット値を加算し、その後に、方位角毎に上述した2乗差を計算することも可能である。このようにして相関強度を求めることによって、上述した2つの曲線が
図13の平面内において上下に離間している場合であっても、上述した2つの曲線の相関強度を適切に評価することが出来る。また、
図13の平面内において、リファレンス・データを表す曲線と捜索時測定結果を表す曲線のそれぞれの最大振幅に顕著な相違がある場合、最大振幅が小さい方の曲線が表す受信電波強度変化に対して、2つの曲線の間の最大振幅比率を乗算し、その後に、方位角毎に上述した2乗差を計算することも可能である。このようにして相関強度を求めることによって、
図13の平面内において上述した2つの曲線それぞれの最大振幅が大きく異なっている場合であっても、上述した2つの曲線の相関強度を適切に評価することが出来る。
【0101】
以下、第4実施例において使用されるリファレンス・データを算出する方法の具体例を、
図14および
図15を使用して説明する。
図14は、第4実施例において使用されるリファレンス・データの実測方位を示す図であり、
図15は、リファレンス・データの算出方法を示すフローチャートである。
【0102】
リファレンス・データは、タグ捜索装置100によって以下の手順で実測される。まず、無線タグ200nをタグ捜索装置100から見て既知の方向に設置し、この既知の方向をタグ捜索装置100から見て方位角=0°の方向とする(
図15のステップS1)。これは、無線タグ200nが実際に位置する正しい方向を基準として、方位角毎の受信電波強度を実測する必要が有るからである。次に、タグ捜索装置100を手に持ったユーザがその場で一回転している間に、タグ捜索装置100は、周囲360度の全方位にわたって、無線タグ200nから受信した電波の強度変化を測定し、方位角毎の受信電波強度を記録する(
図15のステップS2)。続いて、タグ捜索装置100は、タグ捜索装置100の周囲360度にわたる全方位を、
図14に示すように、サンプリング・ステップ角度Δだけ離れたサンプリング点に分割する。続いて、
図14に示すように、タグ捜索装置100は、各サンプリング点を中心として算出範囲角度δで表される角度幅にわたって左右に広がる角度範囲内において方位角毎に測定した受信電波の強度を平均した平均値を算出する(
図15のステップS3)。この時、サンプリング・ステップ角度Δは例えばΔ=10°とし、平均値はサンプリング点を中心に算出範囲角度δ(例えばδ=30°)の範囲で算出する。なお、算出範囲内において測定された受信電波強度の測定値の数が一定値(例えば2個)未満の場合はそのサンプリング点は受信強度データなしとして扱っても良い。以上のようにして、無線タグ200nが実際に位置する正しい方向を基準として、
図14の各サンプリング点にそれぞれ対応する方位角毎の受信電波強度を実測することにより、タグ捜索装置100のアンテナ指向性に固有のリファレンス・データが得られる。
【0103】
なお、リファレンス・データの具体的な算出例を
図16の数値表に示す。
【0104】
以上より、第4実施例に係る方向推定方法は、最大強度方位角や最小強度方位角を基準とするのではなく、リファレンス・データを表す曲線と無線タグ捜索時の受信電波強度変化を表す曲線とが最適に合致する最大相関シフト量を基準として、無線タグ200nの方向を推定する。すなわち、第4実施例に係る方法は、電波受信強度が最大となったり最小となったりする特定の方位角だけに着目するのではなく、全方位にわたる受信電波強度の変動パターンを総合的に考慮して、無線タグ200nが位置する方向を推定する。従って、第4実施例に係る方法は、
図9(B)に示すようなタグ捜索装置100のアンテナ指向性の歪みにより、最大強度方位角および最小強度方位角の両者が無線タグ200nの所在方向から大きくずれた場合でも、無線タグ200nが位置する方向を高い精度で推定することが出来る。
【0105】
さらに、第4実施例に係る方向推定方法は、タグ捜索装置100に固有のリファレンス・データを実測し、当該固有のリファレンス・データ実測結果に応じて得られた最大相関シフト量を基準として無線タグ200nが位置する方向を推定する。これにより、第4実施例に係る方向推定方法は、受信アンテナの指向性の歪み方がタグ捜索装置毎に異なっていても、当該指向性の歪み方に応じたリファレンス・データ実測結果に基づいて、無線タグ200nの方向を適切に推定することができる。何故なら、
図9において上述した受信アンテナの指向性の歪みが個々のタグ捜索装置毎に異なるので、上述したリファレンス・データもタグ捜索装置毎に異なるからである。
【0106】
<5>本実施の形態の効果
以上より、本実施の形態に関して第1実施例〜第4実施例として説明した方向推定方法は、捜索対象となる無線タグからの受信信号の強度レベルに基づいて、当該無線タグが実際に位置する方向と無線タグからの信号受信強度が最大となる方向との間に生じた誤差を考慮して方向推定を行うことができる。さらに本実施の形態に関して第1実施例〜第4実施例として説明した方向推定方法は、上記の誤差が個々の無線捜索装置毎のアンテナ指向性に応じて異なるものであっても、上記の誤差の影響を考慮して、無線タグの方向を正しく推定する仕組みを実現することができる。さらに本実施の形態に関して第1実施例〜第4実施例として説明した方向推定方法は、仮説モデルや複雑な統計処理に依存せずに、簡単で計算量の少ない計算手順によって上述した誤差を考慮した方向推定を実現することが出来る。その結果、本実施の形態に係る方向推定方法は、当該無線タグが実際に位置する方向と信号受信強度が最大となる方向との間に生じた誤差を考慮した方向推定に関し、特許文献5に開示された発明とは異なり、仮説モデルの正しさおよび多くの情報量とそれに応じた多くの計算量を必要とする誤差推定計算を実装せずに、高精度な方向推定の仕組みを実現することができる。