(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明の実施の形態について図面を参照しながら以下に説明する。
【0017】
本実施の形態に係る建物外壁におけるタイル支持方法は、
図1及び
図2に示すように、タイル1を使用した仕上げ面を構成する納まりにおいて、タイル1をタイル保持枠2に保持させてタイルカセット3とし、複数のタイルカセット3を下地枠4の前面部に下から上に向かって連なるように順次取り付ける(積層する)というものである。
【0018】
ここで、タイルカセット3は、
図1中の囲み線内に示すように、タイル1とタイル保持枠2とを弾性接着剤5によって接着し、タイル保持枠2がタイル1を保持する状態となるように構成したものである。
【0019】
詳述すると、
図1、
図3(A)及び(B)に示すように、タイル1は横長板状を呈し、その上端面、下端面に各々溝6,7が形成されている。これに対して、タイル保持枠2は、アルミニウム押出形材からなり、タイル1の上側の溝6に嵌め込まれる下向きの爪8と、タイル1の裏面(背面)に当接する本体部9と、タイル1の下端面において下側の溝7よりも後側のヒール部分10に当接する受け部11と、下向きの爪8と本体部9とを繋ぐブリッジ部12とを有している。
【0020】
そして、
図1中の囲み線内に示すように、タイル1の外面における上側の溝6内から背面を経てヒール部分10に至るまでの領域(同図における破線部参照)に弾性接着剤5を塗布し、タイル1の上側の溝6内にタイル保持枠2の下向きの爪8を嵌め込み、タイル1の背面をタイル保持枠2の本体部9の前面に当接させ、かつ、タイル1のヒール部分10をタイル保持枠2の受け部11に当接させて、タイル1とタイル保持枠2とを接着すれば、タイルカセット3を得ることができる。タイル保持枠2にタイル1の嵌め込みは、タイル保持枠2の左右端からタイル1をスライドさせて行う必要はなく、タイル保持枠2の正面から行うことができる。
【0021】
また、
図1に示すように、タイル保持枠2において、下向きの爪8の上端部あるいはブリッジ部12の前端部に、上方に向けて延びる上向きの爪13が連設されており、この上向きの爪13は、複数のタイルカセット3を上下方向に積層した際、タイル1の下側の溝7に挿入可能となるように構成されている。
【0022】
一方、下地枠4は、
図2及び
図3(A)に示すように、例えばアルミニウム製の中空形材からなり、図外の建物躯体に取り付けられており、複数のタイルカセット3とでカーテンウォールユニット(外壁ユニット)を形成するように構成したものである。
【0023】
次に、タイルカセット3及び下地枠4の各々の構成のより詳細な説明を兼ねて、下地枠4に対する複数のタイルカセット3の取付手順について説明する。
【0024】
最初に、下地枠4の最下部にタイルカセット3を取り付ける。具体的には、まず、
図2の下部に示すように、下地枠4の最下部に設けられた上向きの爪13を、タイルカセット3中のタイル1の下側の溝7に嵌め込むと共に、下地枠4の最下部に設けられた上向き係合片14の背後側に、タイルカセット3中のタイル保持枠2の本体部9の背面側に設けられた下向き係合片15を係合させる。そして、この状態で、タイル保持枠2の本体部9の上端に後向きブリッジ部16を介して連設された上向き延長部17(
図1参照)を、ボルト接合(例えばボルト18と緩み止め機能を有するUナット(商品名)19とを用いた接合)によって下地枠4の前面部に固定する。
【0025】
ここで、タイル保持枠2の上向き延長部17に対するボルト締め作業を行う際、タイル保持枠2の上向きの爪13がボルト締め作業の邪魔にならないようにするのが好ましく、そのためには、上向き延長部17を上向きの爪13よりも上方にまで延ばし、上向き延長部17において上向きの爪13よりも上方に位置する部分に対してボルト締め作業を行えるようにすればよい。
【0026】
続いて、下地枠4に取り付けられたタイルカセット3の上側に、別のタイルカセット3を取り付ける。すなわち、
図2の下部に示すように、下地枠4の最下部に取り付けられたタイルカセット3中のタイル保持枠2に設けられた上向きの爪13を、取付対象とする(新たに取り付けようとする)タイルカセット3中のタイル1の下側の溝7に嵌め込むと共に、下地枠4の最下部に取り付けられたタイルカセット3中のタイル保持枠2の上向き延長部17の上方に連設された上向き係合片14の背後側に、取付対象とするタイルカセット3を構成するタイル保持枠2の本体部9の背面側に設けられた下向き係合片15を係合させる。そして、この状態で、取付対象とするタイルカセット3を構成するタイル保持枠2の上向き延長部17を、ボルト接合によって下地枠4の前面部に固定する。
【0027】
その後は、下地枠4に直近に取り付けられたタイルカセット3の上側に、別のタイルカセット3を取り付けるという作業を繰り返し、順次タイルカセット3を積層すればよい。各々の取付け作業は、上述した最下部のタイルカセット3の上側に別のタイルカセット3を取り付ける場合と同様に行うことができる。尚、
図2の上部に示すように、下地枠4の最上部に取り付けるタイルカセット3を構成するタイル保持枠2には、上向きの爪13及び上向き係合片14を設ける必要は無く、また、その上向き延長部17は、下地枠4の最上部に対してボルト接合を行える形状としてあればよい。
【0028】
以上説明した本実施形態では、以下の効果を奏することができる。
【0029】
上述したように、タイル1は、タイル保持枠2に保持された状態で、下地枠4を介して建物躯体に取り付けられ、タイル保持枠2と下地枠4とはボルト接合されるので、風・地震等の衝撃・変形(歪み)への追従性が極めて高くなり、タイル1の剥離・落下が効果的に抑止される。
【0030】
また、タイルカセット3は、下地枠4に対するボルト接合のみで固定されるのではなく、上下のタイルカセット3に対する嵌め合い(下側の溝7及び上向きの爪13の嵌め込み、上向き係合片14及び下向き係合片15の係合)によっても固定され、これらの機械固定に弾性接着剤5を併用するので、タイル1の脱落防止効果及び安全性は一際優れたものとなる。
【0031】
その上、下地枠4が撓んでも、上下のタイルカセット3どうしの嵌め合い(下側の溝7及び上向きの爪13の嵌め込み、上向き係合片14及び下向き係合片15の係合)角度の微小変化によってその撓みに変形追従可能であり、また、上向きの爪13を台形状としたり傾斜をつけたりする等、嵌め合い形状を相応に変形させれば嵌め合い角度を大きく変化させることもできる。すなわち、
図1、
図2には、主として下地枠4の前面部が鉛直面である場合を記載しているが、これに限らず、下地枠4の前面部が、傾斜面、水平面、R面等であってもよく、タイルカセット3の左右で嵌め合い量を異ならせれば、円筒形面や球形面等にも対応可能である。また、各タイルカセット3において、下側の溝7と上向きの爪13を設ける位置を一定とはせずタイルカセット3の前後方向にずらし、フラットではない下地枠4の前面部に対してタイルカセット3をフラットに設けるようにしたり、逆にフラットな下地枠4の前面部に対して敢えて凹凸の段差を有する状態となるように複数のタイルカセット3を設けたりすることもできる。もちろん、下側の溝7と上向きの爪13の位置を合わせてタイル1上下の面違いが発生しないようにすることもできる。
【0032】
本実施形態のタイル支持方法を高層建物にも利用することができる。そして、従来、高層建物においてタイル仕上げを行う場合はPCに打ち込むのが一般的であるが、本実施形態では、下地枠4(アルミカーテンウォール)にタイル1を取り付けるので、特にタイル打ち込みRCと比べれば、外装の大幅な軽量化を達成することができる。
【0033】
本実施形態では、
図1に示すように、タイルカセット3において、タイル保持枠2がタイル1の下端面の一部(ヒール部分10)のみを覆うようにしてあるので、タイル1とタイル保持枠2との接着を行う際、タイル1に弾性接着剤5が余分に塗布されていても、その余分な弾性接着剤5は無駄に溜まることなくスムーズにタイル保持枠2の下方へと排出されることになる。故に、弾性接着剤5を用いたタイル1とタイル保持枠2との接着作業をそれだけ容易に行うことができる。
【0034】
本実施形態では、タイル1のヒール部分10はタイル保持枠2の受け部11に載り、従って、タイル1の自重(長期荷重)はタイル保持枠2の受け部11によって面支持されるので、タイル1とタイル保持枠2とを接着する弾性接着剤5に長期せん断力が殆ど掛からず、ひいてはタイル1の重量化にも対応可能となる。
【0035】
また、本実施形態では、タイル1の背面全体をタイル保持枠2に接着するようにしているので、タイル1とタイル保持枠2の一体化によって施工性の向上を図れるのみならず、タイル1の割れが発生した際の飛散を防止し、タイル1の剛性を補強することもできる。
【0036】
しかも、本実施形態では、
図1に示すように、タイル1の内側(背面側)出角部をRに面取りしてあるので、タイル1をタイル保持枠2に嵌め込みし易い上、弾性接着剤5の空気溜まり防止を図ることができ、また、変形時の局部集中荷重がR型面取りによって面への偏分布荷重へ馴染むように遷移する為、タイル割れが発生し難くなる。
【0037】
本実施形態では、タイルカセット3を下地枠4に取り付ける際、
図1に示すように、タイル保持枠2の上向き延長部17をボルト18で下地枠4に接合するようにし、ボルト18は、そのボルト18の接合対象であるタイルカセット3の上側に積層する別のタイルカセット3中のタイル保持枠2の本体部9によって前側が覆われるようにしてある。その上で、ボルト18を上向き延長部17に締め付けた際、ボルト18の余長が、ボルト18とその前側を覆う本体部9とのクリアランスよりも長くなるように設定してあるので、仮にボルト18が緩んでもその脱落を確実に防止することができる。
【0038】
本実施形態では、
図1に示すように、タイル保持枠2の平面状の上向き延長部17の上部にボルト18を取り付けるようにし、上向き延長部17の上端には、下向き係合片15との係合に用いる上向き係合片14を連設してある。すなわち、タイル保持枠2においてボルト18の取付け箇所の近傍にリブ効果を発揮する上向き係合片14を設けてあるので、上向き延長部17への強度負担を軽くし、経済的な断面設計が可能となっている。
【0039】
本実施形態では、タイルカセット3を下地枠4に取り付ける際、
図3(A)及び(B)に示すように、タイル保持枠2の上向き延長部17の左右の二か所をボルト18で下地枠4に接合するようにしている。そして、上向き延長部17においてボルト18が貫通する穴の一方を左右方向に長いルーズ穴とすれば、精度誤差を吸収し、各種荷重(繰り返し震動、一時的な衝撃等)を受けても位置ずれが発生し難く、変形追従がし易いものとなる。もちろん、厚さにバリエーションを持たせた座金を複数用意し、任意の厚みの座金をボルト18にセットして精度誤差を吸収するための微調整を行うようにしてもよい。
【0040】
また、本実施形態では、上下に連なる二つのタイルカセット3において、上側のタイルカセット3のタイル1の下端面に形成された溝7が、下側のタイルカセット3のタイル保持枠2が有する上向きの爪13に嵌め込まれるようにし、下地枠4に対してタイルカセット3を下から順次積層して取り付けるようにしている。そのため、各タイルカセット3が蛇腹式に順次角度を持つことになり、上向き延長部17においてボルト18が貫通する穴の一方をルーズ穴としてあれば、下地枠4の弾性と相俟って、タイルカセット3間の層間変位を穏やかに吸収することができ(1/100までの吸収を実大試験にて確認している)、耐風圧時の撓み・反りに極めて強いものとなる。尚、タイル保持枠2を剛性の高い躯体等に直付けした下地枠4へ連結した場合は、タイルカセット3間の目地における層間変位吸収を期待することができる。
【0041】
なお、本発明は、上記の実施の形態に何ら限定されず、本発明の要旨を逸脱しない範囲において種々に変形して実施し得ることは勿論である。例えば、以下のような変形例を挙げることができる。
【0042】
上記実施の形態では、タイル1とタイル保持枠2とを別体としてあるが、これに限らず、例えばタイル保持枠2をタイル1に埋め込み、両者1,2を一体で焼成するようにしてもよい。
【0043】
上記実施の形態では、一つのタイル保持枠2が一つのタイル1を保持するようにしてあるが、これに限らず、例えば、一つのタイル保持枠2に複数のタイル1を保持させるようにしてもよく、一つのタイル1を複数のタイル保持枠2によって保持するようにしてもよい。
【0044】
また、
図4に示すように、一つの下地枠4に対して、複数のタイルカセット3を上下に一列に取り付けるようにしてもよいが、これに限らず、例えば、一つの下地枠4に対してタイルカセット3を2列以上取り付けるようにしてもよく、タイルカセット3を下地枠4に対して千鳥状に取り付けるようにしてもよい。
【0045】
上記実施の形態ではタイル保持枠2はアルミニウム押出形材であるが、これに限らず、例えば、タイル保持枠2がスチール、ステンレス等の他の金属や、樹脂、ゴム等で形成されていてもよい。
【0046】
下地枠4に上下に並ぶ状態で取り付けられたタイルカセット3間の隙間に目地材を設けてもよいし、目地材を設けずにその隙間からタイル保持枠2の一部(上向きの爪13、下向きの爪8)が外部に見える仕様としてもよい。
【0047】
図3(A)及び(B)に示す例では、タイル1の上下の溝6,7を、タイル1の左右端部まで通していないが、これに限らず、上下の溝6,7をタイル1の左右端部にまで一様に通してもよいし、タイル1の小口を加工し、上下の溝6,7が設けられているタイル1の中央部の断面と異なるようにしてもよい。
【0048】
下地枠4に取り付けられたタイルカセット3の上向きの爪13を、これから取り付けようとするタイルカセット3の下側の溝7内に嵌め込んでタイルカセット3を積層する際、下側の溝7内に弾性接着剤5を塗布しておいてもよいし、塗布せずに単に嵌め込むようにしてもよい。
【0049】
ここで、下側の溝7内に弾性接着剤5を塗布した場合、タイルカセット3の交換は
図5に示すように行うことができる。すなわち、
図5には、上から3番目のタイルカセット3を交換対象とする場合を示してあるが、この場合に限らず、交換対象とするタイルカセット3が最上部のタイルカセット3でない限り、最上部のタイルカセット3から交換対象とするタイルカセット3までを順次下地枠4から取り外す必要がある。そして、各タイルカセット3は、そのタイルカセット3を下地枠4に固定しているボルト18を緩めて取り除くと共に、そのタイルカセット3の下側の溝7内に嵌まり込んでいる直下のタイルカセット3の上向きの爪13を根元で切断することにより、下地枠4から取り外すことができる。
【0050】
このようにして最上部のタイルカセット3から交換対象とするタイルカセット3までを下地枠4から取り外した後は、交換対象とするタイルカセット3の直下のタイルカセット3(上から4番目のタイルカセット3)のタイル保持枠2の上向きの爪13も根元で切断された状態となっている。そこで、タイルカセット3の直下のタイルカセット3のタイル保持枠2のブリッジ部12の上面から上向き延長部17の前面に沿わせて、上向きの爪13が設けられた曲げ板状のアタッチメント20を下地枠4に取り付ける。この取付けは、
図6(A)及び(B)にも示すように、例えばタッピングねじ等の連結部材21を用いて行うことができる。そして、アタッチメント20を取り付けた後は、その上方にタイルカセット3を順次積層しながら下地枠4に取り付ければよい。
【0051】
上記実施の形態では、タイル保持枠2においてボルト18によって下地枠4に接合される部分を本体部9よりも上方に延びる上向き延長部17とし、下地枠4に取り付けるタイルカセット3を下から上に向かって積層するようにしているが、これに限らず、例えば、タイル保持枠2に本体部9よりも下方に延びる部分を設け、この部分をボルト18によって下地枠4に接合するようにし、下地枠4に取り付けるタイルカセット3を上から下に向かって積層するようにしてもよい。この場合、タイル保持枠2において上向き係合片14及び下向き係合片15を設ける位置も適宜に変更すればよく、また、両係合片14,15を設けないようにしてもよい。
【0052】
なお、本明細書中に挙げた変形例どうしを適宜組み合わせてもよいことはいうまでもない。