(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
操舵軸を支持するヘッドパイプ部分と、該ヘッドパイプ部分から車体後方へ延びるメインフレーム部分と、前記ヘッドパイプ部分から車体下方へ延びるダウンフレーム部分とを備え、
前記ダウンフレーム部分は、少なくとも前部を形成する前部ダウンフレーム部材と、少なくとも後部の一部を形成する後部ダウンフレーム部材とを、含みそれらが接合されて、構成されており、
前記後部ダウンフレーム部材には、前記メインフレーム部分を支持するアーム部と、前記メインフレーム部分の前記ヘッドパイプ部分への接合部を補強するガセット部とが、一体に形成されており、
前記ヘッドパイプ部分は、上部を形成するヘッドパイプ本体部材と、下部を形成する前記前部ダウンフレーム部材とを、含みそれらが接合されて構成されており、
前記ヘッドパイプ本体部材には、操舵軸を軸支する上部ベアリングを支持するベアリング支持部を、備えた、第1環状部が、形成されており、
前記前部ダウンフレーム部材には、操舵軸を軸支する下部ベアリングを支持するベアリング支持部を、備えた、第2環状部が、形成されており、
前記ヘッドパイプ本体部材の前記第1環状部より下方部で後方に開放される凹部と、前記後部ダウンフレーム部材の上部で前方に開放される凹部とが、接合されて、操舵軸の一部が貫通する挿入孔が構成されていることを特徴とする自動二輪車の車体フレーム。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1の車体フレームには、メインフレームのヘッドパイプへの接合部を補強するガセットと、メインフレームを支持する支持バーとが、別個部材として備えられており、溶接により接合されている。
【0005】
このように、車体フレームのヘッドパイプ周りは、路面からの入力や加減速による入力による高応力が発生しやすいので、高強度に構成される必要がある。さらに、これらの部材を接合する溶接部は応力集中し易い。このため、ヘッドパイプ周りの溶接部には、より慎重な品質管理が求められ、生産性が低くなってしまう。
【0006】
本発明の目的は、強度を確保しながら、生産性を向上できる、車体フレームを得ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するため、本願の第1の発明に係る車体フレームは、操舵軸を支持するヘッドパイプ部分と、該ヘッドパイプ部分から車体後方へ延びるメインフレーム部分と、前記ヘッドパイプ部分から車体下方へ延びるダウンフレーム部分とを備え、前記ダウンフレーム部分は、少なくとも前部を形成する前部ダウンフレーム部材と、少なくとも後部の一部を形成する後部ダウンフレーム部材とを、含みそれらが接合されて、構成されており、前記後部ダウンフレーム部材には、前記メインフレーム部分を支持するアーム部と、前記メインフレーム部分の前記ヘッドパイプ部分への接合部を補強するガセット部とが、一体に形成されていることを特徴とする。
【0008】
上記第1の発明によると、(1)後部ダウンフレーム部材に、メインフレーム部分を支持するアーム部と、メインフレーム部分のヘッドパイプ部分への接合部を補強するガセット部とが、一体に形成されている。これにより、アーム部とガセット部とを、後部ダウンフレーム部材と別部材により形成する場合に比して、部品点数を削減できる。
【0009】
(2)しかも、アーム部とガセット部とが1つの部材として一体に形成されているので、アーム部、ガセット部及び後部ダウンフレームを接合する手間及び接合部の接合品質を管理する手間を省略できるので、車体フレームの生産性を向上できる。
【0010】
(3)さらに、アーム部とガセット部とが1つの部材として一体に形成されているので、アーム部、ガセット部及び後部ダウンフレームを接合するための溶接ビードが削減されると共に、溶接ビードの溶け落ちを防止するために互いに重複させる必要がなくなる。これにより、車体フレームを軽量化できる。
【0011】
(4)車体フレームの部品点数を削減し、生産性が向上され、且つ、軽量化することにより、車体フレームのコストを低減できる。
【0012】
本願の第1の発明は、前記車体フレームに加え、次の構成を備えることができる。
【0013】
(a)前記ヘッドパイプ部分は、上部を形成するヘッドパイプ本体部材と、下部を形成する前記前部ダウンフレーム部材とを、含みそれらが接合されて構成されており、前記ヘッドパイプ本体部材には、操舵軸を軸支する上部ベアリングを支持するベアリング支持部を、備えた、第1環状部が、形成されており、前記前部ダウンフレーム部材には、操舵軸を軸支する下部ベアリングを支持するベアリング支持部を、備えた、第2環状部が、形成されており、前記ヘッドパイプ本体部材の前記第1環状部より下方部で後方に開放される凹部と、前記後部ダウンフレーム部材の上部で前方に開放される凹部とが、接合されて、操舵軸の一部が貫通する挿入孔が構成されている。
【0014】
上記構成(a)によると、ヘッドパイプ本体部材に第1環状部を形成し、前部ダウンフレーム部材に第2環状部を形成し、ヘッドパイプ本体部材と前部ダウンフレーム部材と後部ダウンフレーム部材とを接合することにより、ヘッドパイプ部分の上下2箇所に操舵軸を回動可能に軸支できる。
【0015】
また、ヘッドパイプ部分を3つの部材を接合して構成することにより、単一の部材によりヘッドパイプ部分を形成する場合に比して、操舵軸を挿入可能な挿入孔を容易に形成できる。すなわち、ヘッドパイプ部分を3つの部材(上部及び上下方向中間前部、下部、上下方向中間後部)に分割することにより、操舵軸の挿入孔を各部材の素材形状に形成でき、各部材を接合した後に、挿入孔を機械加工で形成するときの加工取代を削減できる。これにより、加工性が向上すると共に、歩留まりを向上して加工コストを低減できる。
【0016】
(b)上記構成(a)を有し、前記メインフレーム部分は、左右一対のメインフレーム部材を含み、前記ヘッドパイプ本体部材は、前記左右一対のメインフレーム部材の間を後方へ延びる延長部分を有し、前記ガセット部は、延長部分接合部と左右一対のメインフレーム接合部とを有し、前記延長部分は、前記延長部分接合部に接合されており、前記左右一対のメインフレームは、前記左右一対のメインフレーム接合部にそれぞれ接合されている。
【0017】
上記構成(b)によると、ヘッドパイプ本体部材の後方へ延びる延長部分にガセット部の延長部分接合部を接合することにより、ガセット部をヘッドパイプ本体部材に強固に接合できる。また、ガセット部のメインフレーム接合部に左右一対のメインフレーム部材を接合することにより、メインフレーム部材をガセット部に強固に接合できる。すなわち、メインフレーム部材のヘッドパイプ部分への接合をガセット部により補強できるので、メインフレーム部材のヘッドパイプ部分への接合強度を向上できる。
【0018】
(c)前記前部ダウンフレーム部材は、鍛造成形品であり、前記後部ダウンフレーム部材は、鋳造成形品である。
【0019】
上記構成(c)によると、ダウンフレーム部分を前部ダウンフレーム部材と、後部ダウンフレーム部材とに、分けて構成し、高応力の掛かる車体フレームの外周側の前部ダウンフレーム部材は高強度の鍛造により形成され、アーム部及びガセット部が一体化された車体フレームの内周側の後部ダウンフレーム部材は形状自由度の高い鋳造により形成されている。すなわち、ダウンフレーム部分を、高強度が必要な車体フレームの外側部分と、形状自由度が必要な車体フレームの内側部分とに、分けて構成することにより、車体フレームの強度を確保しながら、車体フレームの形状自由度を高めることができる。
【0020】
(d)上記構成(c)を有し、前記前部ダウンフレーム部材及び前記後部ダウンフレーム部材に、前記車体フレームに接続される部品を固定するための取り付け部が、一体に形成されている。
【0021】
上記構成(d)によると、前部ダウンフレーム部材及び後部ダウンフレーム部材に、車体フレームに接続される部品を固定するための取り付け部が一体に形成されている。これにより、これらの取り付け部を別部材で形成し、該別部材を前部ダウンフレーム部材及び後部ダウンフレーム部材に溶接により接合する場合に比して、溶接箇所を低減できる。すなわち、車体フレームの生産性を向上できる。
【0022】
(e)上記構成(c)又は(d)を有し、前記後部ダウンフレーム部材の下端部が、前記前部ダウンフレームの下側部分によって下方から支持されており、前記前部ダウンフレームの下側部分には、エンジンを支持するエンジン支持部が一体に形成されている。
【0023】
上記構成(e)によると、鍛造により形成される形状自由度の大きな、前部ダウンフレーム部材の下側部分に、エンジンマウント支持部を一体に形成することにより、エンジンマウント支持部の形成位置の自由度を向上できる。例えば、車体フレームの内方側の空間を拡大するように、前部ダウンフレーム部材及びエンジンマウント支持部を形成することにより、車体フレームへのエンジン搭載性を向上できる。
【0024】
また、本願の第2の発明は、操舵軸を支持するヘッドパイプ部分と、該ヘッドパイプ部分から車体後方へ延びるメインフレーム部分と、前記ヘッドパイプ部分から車体下方へ延びるダウンフレーム部分とを備えた自動二輪車の車体フレームを製造する方法であって、前記ヘッドパイプ部分は、上部を形成するヘッドパイプ本体部材と、下部を形成する前部ダウンフレーム部材とを、含みそれらが接合されて構成されており、前記ダウンフレーム部分は、少なくとも前部を形成する前記前部ダウンフレーム部材と、後部の少なくとも一部を形成する後部ダウンフレーム部材とを、含みそれらが接合されて構成されており、前記後部ダウンフレーム部材には、前記メインフレーム部分を支持するアーム部と、前記メインフレーム部分の前記ヘッドパイプ部分への接合部を補強するガセット部とが、一体に形成されており、前記ヘッドパイプ本体部材を鍛造成形品として準備する工程と、前記前部ダウンフレーム部材を鍛造成形品として準備する工程と、前記後部ダウンフレーム部材を鋳造成形品として準備する工程と、前記ヘッドパイプ本体部材と、前記前部ダウンフレーム部材と、前記後部ダウンフレーム部材と、を溶接により接合する工程と、前記メインフレーム部分を、前記ヘッドパイプ本体部材と、前記ガセット部及び前記アーム部に、溶接により接合する工程と、を含むことを特徴とする。
【0025】
上記第2の発明によると、自動二輪車の車体フレームを、強度を確保しながら、生産性を向上できる。
【発明を実施するための形態】
【0027】
図1〜
図8に基づいて、本発明の実施の形態を説明する。なお、説明の都合上、車輌の進行方向を車輌及び各部品の「前方」とし、乗車したライダーから見た左右方向を、車輌及び各部品の「左右方向」として、説明する。
【0028】
[車輌全体構成]
図1はモトクロッサータイプの自動二輪車の左側面図である。
図1に示すように、自動二輪車は、車体フレーム1を備えている。車体フレーム1は、ヘッドパイプ部分2と、該ヘッドパイプ部分2から略後下方に延びるメインフレーム部分3と、ヘッドパイプ部分2から略下方に延びるダウンフレーム部分5と、該ダウンフレーム部分5の下部とメインフレーム部分3の下部とを連結するロアフレーム部分6と、を有している。ダウンフレーム部分5は、メインフレーム部分3に対して、ヘッドパイプ部分2からメインフレーム部分3よりも下方を延びており、換言すると、ヘッドパイプ部分2から後方に進むにつれてメインフレーム部分3よりも下方に延びている。
【0029】
図2は
図1の車体フレーム1の斜視図である。
図2に示すように、メインフレーム部分3は、左右一対のメインフレーム3L、3Rを備えており、それぞれ、メインフレーム部材31と、スイングアームブラケット33と、を有している。ロアフレーム部分6は、左右一対のロアフレーム6L、6Rと、ロアフレーム6L、6Rを連結する連結ブラケット90と、を備えている。
【0030】
図1に示すように、スイングアームブラケット33の前部には、略後方に延びるシートレール10が接続され、スイングアームブラケット33の上下方向の略中間部には、後上方に延びるリヤフレーム11が接続され、該リヤフレーム11の後端部はシートレール10の後端部に接続されている。
【0031】
ヘッドパイプ部分2には、操舵軸(図示せず)及び上下のブラケット13を介して左右一対のフロントフォーク15が支持されており、フロントフォーク15の下端部に、前車軸16を介して前車輪17が回転自在に支持されている。
【0032】
左右一対のメインフレーム部材31、31及びシートレール10の上には、燃料タンク18及びシート19が設けられ、リヤフレーム11の下側には排気マフラ20が設けられ、フロントフォーク15には前フェンダー21が設けられている。
【0033】
エンジン22は車体フレーム1内に搭載されており、
図2に示す、ロアフレーム部分6の連結ブラケット90に設けられた左右一対の下側取付部91、91と、左右一対のスイングアームブラケット33、33に設けられた左右一対の上側取付部331、331と、左右一対のスイングアームブラケット33、33のピボット軸部332、332と、ダウンフレーム部分5の下部に設けられた左右一対の前側取付部731、731とに、より車体フレーム1に支持されている。
図1を参照して、ダウンフレーム部分5にはラジエータ23やイグニッションコイル24等の部品が取り付けられ、左右一対のメインフレーム3L、3Rの間から後上方には、吸気用エアクリーナボックス25が配置されている。
【0034】
後車輪支持用のスイングアーム40は、左右一対のスイングアームブラケット33、33のピボット軸部332、332に回動可能に支持され、後方に延びており、スイングアーム40の後端部に、後車軸41を介して後車輪42が回転自在に支持されている。後車輪42に設けられた被駆動スプロケット43と、エンジン22のクランクケース26の左側面に配置された出力スプロケット44との間に、駆動チェーン45が巻き掛けられており、この駆動チェーン45を介して後車輪42を駆動する。スイングアーム40はリヤサスペンション装置(図示しない)により車体フレーム1に弾性的に支持されている。
【0035】
(ヘッドパイプ部分2の構成)
図3は車体フレーム1の左側面図である。
図3に示すように、ヘッドパイプ部分2は、少なくとも上下に間隔をあけて配置されるベアリング(図示しない)を支持可能な第1、第2環状部611、712を有しており、ベアリングを介して、操舵軸(図示しない)を回動可能に支持している。ヘッドパイプ部分2は、上部ベアリング(図示しない)を支持する上部2Aと、下部ベアリング(図示しない)を支持する下部2Bと、上部2Aと下部2Bとの間の中間部2Cとを含む。中間部2Cは、内部に操舵軸を挿通可能に、中空状に形成されている。
【0036】
ヘッドパイプ部分2の上部2A及び下部2Bは、ベアリング嵌合可能に環状に形成されている。ヘッドパイプ部分2の中間部2Cは、操舵軸の軸芯Lに対して、前方に位置する中間部前部2Caと、後方に位置する中間部後部2Cbとを、含む。
【0037】
図5は
図3のV−V線における断面図であり、
図6は
図3のVI−VI線における断面図である。
図5、
図6に示すように、中間部前部2Caは後方に開放する開口を有する凹部を有する形状に形成され、中間部後部2Cbは前方に開放する開口を有する凹部を有する形状に形成されている。ヘッドパイプ部分2の中間部2Cは、中間部前部2Caと中間部後部2Cbとが互いに突き合わされることで、操舵軸が貫通する筒状に形成されている。
【0038】
図3に示すように、ヘッドパイプ部分2は、上部2A及び中間部前部2Caを構成するヘッドパイプ本体部材60と、下部2Bを構成する前部ダウンフレーム部材70と、中間部後部2Cbを形成する後部ダウンフレーム部材80と、を備え、これらの部材60、70、80が溶接により接合されて、構成されている。
【0039】
(ダウンフレーム部分5の構成)
ダウンフレーム部分5には、ダウンフレーム部分5の延在方向に延びて、ダウンフレーム部分5の前後方向中間部を通過し、ダウンフレーム部分5の上下方向中間部で後方に折れる分割線Sが設定されている。ダウンフレーム部分5は、分割線Sに対して、前方に位置する前部5Aと、下部に位置する下部5Bと、後方上部に位置する後方上部5Cとを含む。分割線Sのうち、ダウンフレーム部分5の延在方向に延びる部分は、ダウンフレーム部分5の前後方向中間部よりも前方部分を通過している。
【0040】
図8は
図3のVIII−VIII線における断面図である。
図8に示すように、ダウンフレーム部分5は、延在方向に垂直な断面形状が矩形状に形成されており、車体の前面、左右側面、後面に沿った外平面を備えている。また、ダウンフレーム部分5の後方上部5Cは、前後方向の寸法が、前部5Aの前後方向寸法よりも大きく形成されている。
【0041】
図3に示すように、ダウンフレーム部分5は、前部5A及び下部5Bを構成する前部ダウンフレーム部材70と、後方上部5Cを構成する後部ダウンフレーム部材80と、を備え、これらの部材70、80が溶接により接合されて、構成されている。
【0042】
すなわち、
図2に示すように、車体フレーム1は、ヘッドパイプ本体部材60と、前部ダウンフレーム部材70と、後部ダウンフレーム部材80と、左右一対のメインフレーム部材31、31と、左右一対のスイングアームブラケット33、33と、左右一対のロアフレーム6L、6Rと、連結ブラケット90とが、溶接により接合され構成されている。以下、各部材の構成について、
図2〜
図8を参照しながら具体的に説明する。
【0043】
(ヘッドパイプ本体部材60)
図4はヘッドパイプ本体部材60の斜視図である。
図4に示すように、ヘッドパイプ本体部材60は、円筒部61と、該円筒部61から下方へ延びる断面円筒状の部分円筒部63と、円筒部61から後方へ延びる延長部65とが、一体に形成された、アルミニウム合金製の鍛造成形品である。円筒部61の内周面には第一環状部611が形成されている。第一環状部611は、操舵軸を挿通する操舵軸挿通孔611aと、操舵軸を軸支するベアリング(図示しない)を支持する第1ベアリング支持部611bと、を含んでいる。
【0044】
図5、
図6に示すように、部分円筒部63は、円弧部631と、該円弧部631の後部から後方へ向けて突出する左右一対の第1突出部632、632(
図5参照)と、左右一対の第2突出部633、633(
図6参照)と、を備えている。第1突出部632は、メインフレーム部材31の前部との接合部に対応して、操舵軸に沿って設けられている。第2突出部633は、後部ダウンフレーム部材80の上部との接合部に対応して、操舵軸に沿って設けられている。
図4に示すように、円弧部631の内周面631aは、円筒部61の操舵軸挿通孔611aと、略同じ大きさに形成されている。
【0045】
図2に示すように、延長部65は、左右一対のメインフレーム3L、3Rの間に渡って左右方向に延びる上壁部651を有し、該上壁部651の後端が、後部ダウンフレーム部材80のガセット部83の上部後端に接続されている。
図4に示すように、延長部65は、さらに、上壁部651の左右両端部と円筒部61及び部分円筒部63とを接続し且つメインフレーム部材31(
図2参照)の上部の車幅方向の外方側に当接するように形成された左右一対の側壁部652、652を備えている。上壁部651には、燃料タンク18(
図1参照)を固定する燃料タンク固定孔651aが略上下方向に貫通形成されている。
【0046】
(前部ダウンフレーム部材70)
図3に示すように、前部ダウンフレーム部材70は、ヘッドパイプ部分2の下部2Bと、ダウンフレーム部分5の前部5A及び下部5Bとが、一体に形成された、アルミニウム合金製の鍛造成形品であって、ヘッドパイプ本体部材60の下部に溶接により接合されている。前部ダウンフレーム部材70は、ヘッドパイプ本体部材60の下部及び後部ダウンフレーム部材80に接合される、前部ダウンフレーム上側部71と、後部ダウンフレーム部材80の下部を下方から支持すると共に、下方の左右一対のロアフレーム6L、6Rに接合される下端二股部を含んだ、前部ダウンフレーム下側部73と、を備えている。
【0047】
図7は前部ダウンフレーム部材70の斜視図である。
図7に示すように、前部ダウンフレーム上側部71の上部には、ヘッドパイプ本体部材60の内周面631a(
図4参照)に連通する第2環状部712が形成されている。第2環状部712は、操舵軸を挿通する操舵軸挿通孔712aと、操舵軸を軸支するベアリング(図示しない)を支持する第2ベアリング支持部712bと、を含んでいる。
【0048】
また、前部ダウンフレーム部材70は、後部ダウンフレーム部材80を下方から支持する支持面Mを備えている。支持面Mは車体の前後面、左右側面に沿った略矩形状に形成されており、これにより、前部ダウンフレーム部材70と後部ダウンフレーム部材80とを溶接し易くなっている。
【0049】
図8に示すように、前部ダウンフレーム上側部71の後部には、後方に向けて突出する左右一対の第3突出部711、711が、後部ダウンフレーム部材80(
図3参照)との接合部に対応して、設けられている。
【0050】
図7に示すように、前部ダウンフレーム下側部73は、後方へ向けて開口する略コの字状の断面形状を有しており、前部ダウンフレーム下側部73の側面部には、エンジン22(
図1参照)及びラジエータ23(
図1参照)を車体フレーム1(
図1参照)に支持するための、左右一対の前側取付部731、731と、左右一対のラジエータ取付部732、732とが、一体に形成されている。また、前部ダウンフレーム部材70は、支持面Mよりも下方で二股に分かれるので、後部ダウンフレーム部材80の支持を強固にできる。同様に支持面よりも下方でエンジン支持部731が形成されているので、後部ダウンフレーム部材80の支持を強固にできる。
図3に示すように、前部ダウンフレーム下側部73は、車体フレーム1の内方側の空間部が拡大するように、前方に向けて湾曲している。
【0051】
前部ダウンフレーム部材70は、後部ダウンフレーム部材80よりも剛性が高く形成される。たとえば、前部ダウンフレーム部材70は、後部ダウンフレーム部材80に対して、材料または形状(例えば肉厚)が異なることで、剛性が高く形成される。本実施例では、鍛造部品が用いられることで、後述するように鋳造部品が用いられる後部ダウンフレーム部材80よりも剛性が高くなるように構成されている。
【0052】
(後部ダウンフレーム部材80)
図2、
図3に示すように、後部ダウンフレーム部材80は、ヘッドパイプ部分2の中間部後部2Cbと、ダウンフレーム部分5の後方上部5Cとが、一体に形成されたアルミニウム合金製の鋳造成形品であって、本体部81とガセット部83と左右一対のアーム部85、85とを備えている。本体部81は、ヘッドパイプ本体部材60の延長部65の上壁部651(
図2参照)の下部から前部ダウンフレーム部材70の支持面Mに至るまで、前部ダウンフレーム上側部71の後部に沿うように延設されている。
【0053】
図2に示すように、ガセット部83は、ヘッドパイプ本体部材60の上壁部651の下部に当接して接合される第1接合部831と、該第1接合部831の後下方に延設された左右一対の第2接合部832、832(
図5参照)と、を有している。
図5に示すように、第2接合部832、832は、左右一対のメインフレーム部材31、31の互いに対向する対面に沿って、それぞれ左右方向に離間しながら、略後方へ延びるように形成され、メインフレーム部材31に接合されている。
【0054】
図2、
図3に示すように、左右一対のアーム部85、85は、本体部81の上下方向の中央より少し下側位置から略後方に向けて延びるように形成されている。左右一対のアーム部85、85は、それぞれ、本体部81から左右に離間するように後方に延びると共に、後方に向けて湾曲している。すなわち、左右一対のアーム部85、85は全体として後方へ向けて開口する略U字状の形態を有している。また、アーム部85は、断面が矩形形状に形成されることで、剛性を高められている。しかも、アーム部85は中空形状に形成されているので、剛性低下を防ぎつつ、軽量化されている。
【0055】
図5、
図6、
図8に示すように、本体部81は、全体として前方に向けて開口する略コの字状の断面を有している。本体部81の略コの字状断面の左右方向の内幅は、ヘッドパイプ本体部材60との接合部(
図6参照)においては左右一対の第2突出部633、633の外幅に略一致する寸法に形成され、前部ダウンフレーム部材70との接合部(
図8参照)においては左右一対の第3突出部711、711の外幅に略一致する寸法に形成されている。また、
図6、
図8に示すように、本体部81の略コの字状断面の前端部は、対応する突出部633、711と、重複するように位置している。
【0056】
図5、
図6に示すように、ヘッドパイプ本体部材60の後部に、後部ダウンフレーム部材80と左右一対のメインフレーム部材31、31とを接合することによって、ヘッドパイプ部分2には、操舵を挿入可能な空間が外部から隔てて形成されており、前記空間に水滴、泥、埃などの侵入が防止されている。また、
図8に示すように、後部ダウンフレーム部材80と前部ダウンフレーム部材70とがそれぞれ接合されることで、ダウンフレーム部分5は中空に構成されており、軽量化されている。略コの字状断面と突出部633又は711とにより構成される各接合部は、部材が重複するように形成されているので、各接合部を溶接したときに生じる溶接ビードの前記中空部への溶け落ちが防止される。これにより、溶接箇所の溶接品質が向上する。
【0057】
図2に示すように、本体部81の側面には左右一対のラジエータ取付部811、811が形成され、後部にはイグニッションコイル取付部812が形成されている。イグニッションコイル取付部812は、アーム部85が延びる方向と同じ方向に本体部81から突出することが好ましい。これによってアーム部85とイグニッションコイル取付部812との、型抜き方向をそろえることができ、成形型が大型化したり、成形工程が複雑化することを防ぐことができる。イグニッションコイル24の他、他の装備品が後部ダウンフレーム部材80に固定されてもよい。
【0058】
(メインフレーム部材31)
図2に示すように、左右一対のメインフレーム部材31、31は、平面部311、311を備えた略D字状断面を有する、アルミニウム合金製の押し出し成形パイプであって、ヘッドパイプ部分2から後方へ互いに離間するように延びると共に湾曲し、略平行状態で後方へ延びている。左右一対のメインフレーム部材31、31は、前後方向の中央位置より後方位置において、下部がそれぞれ、左右一対のアーム部85、85の後部に溶接により接合されている。
【0059】
図5に示すように、メインフレーム部材31は、軸線に対して傾斜した前端部312がヘッドパイプ本体部材60の第1突出部632の側面と後部ダウンフレーム部材80の側面とに接合されていると共に、平面部311が後部ダウンフレーム部材80の第2接合部832に接合されて後方に伸びている。また、
図2に示すように、左右一対のメインフレーム部材31、31の前端部の車体フレーム1の外方側の上部313、313は、ヘッドパイプ本体部材60の左右一対の側壁部652、652に接合されている。
【0060】
(ロアフレーム6及びブラケット90)
図2に示すように、左右一対のロアフレーム6L、6Rは、矩形状の断面を有するアルミニウム合金製の押し出しパイプであって、後部に溶接により接合されたブラケット90によって、互いに連結されている。ブラケット90は、アルミニウム製の鍛造成形品であって、エンジン22(
図1参照)を支持するための左右一対の前記下側取付部91、91が、一体に形成されている。
【0061】
(スイングアームブラケット33)
図2に示すように、左右一対のスイングアームブラケット33、33は、左右一対のメインフレーム部材31、31の後部に接合されて、略後下方へ延びると共に下方へ湾曲し、左右一対のロアフレーム6L、6Rの後部に接合されている。スイングアームブラケット33はアルミニウム合金製の鍛造成形品であって、エンジン22(
図1参照)を支持するための上側取付部331と、スイングアーム40(
図1参照)の前部を軸支するピボット軸部332とが、一体に形成されている。
【0062】
(エンジン22の車体フレーム1への組み付け)
図1に示すように、エンジン22は、上部が左右一対の上部取付ブラケット29、29を介して左右一対のスイングアームブラケット33、33の上側取付部331、331に連結され、前部が左右一対の前部取付ブラケット30、30を介して前部ダウンフレーム部材70の左右一対の前部取付部731、731により連結され、下部が連結ブラケット90の左右一対の下側取付部91、91に直接に連結され、後部がスイングアーム40の左右一対のスイングアームブラケット33、33のピボット軸部332、332への連結に共締めされることによって、車体フレーム1に支持されている。
【0063】
すなわち、エンジン22は、上下前後を左右両側から車体フレーム1に連結されているので、エンジン22を車体フレーム1に強固に搭載できると共に、エンジン22を介して、車体フレーム1の左右方向の剛性を高めることができる。
【0064】
(他部品の車体フレーム1への組み付け)
図1に示すように、ラジエータ23は、後部ダウンフレーム部材80(
図2参照)に設けられたラジエータ取付部811(
図2参照)と、前部ダウンフレーム部材70に設けられたラジエータ取付部732(
図2参照)と、により車体フレーム1に装着されている。イグニッションコイル24は、後部ダウンフレーム部材80(
図2参照)に設けられたイグニッションコイル取付部812(
図2参照)により車体フレーム1に装着されている。
【0065】
以上説明したように、本発明に係る車体フレーム1によれば、次の効果を発揮できる。
【0066】
(1)後部ダウンフレーム部材80に、左右一対のメインフレーム部材31、31のヘッドパイプ部分2への接合部を補強するガセット部83と、左右一対のメインフレーム部材31、31を支持する左右一対のアーム部85、85とが、一体に設けられている。これにより、ガセット部83と左右一対のアーム部85、85とを、後部ダウンフレーム部材80と別部材として設ける場合に比して、部品点数を削減できる。
【0067】
(2)ガセット部83とアーム部85とが1つの部材として後部ダウンフレーム部材80に一体に設けられているので、ガセット部83、アーム部85及び後部ダウンフレーム部材80を溶接により接合する手間と、これらの部材間の溶接状態を検査する手間と、を省略でき、車体フレーム1の生産性を向上できる。
【0068】
(3)ガセット部83とアーム部85とが1つの部材として後部ダウンフレーム部材80に一体に設けられているので、ガセット部83、アーム部85及び後部ダウンフレーム部材80を溶接により接合する場合に生じる溶接ビードが削減されると共に、溶接ビードの溶け落ちを防止するために各部材を互いに重複させる必要がなくなる。これにより、車体フレーム1を軽量化できる。
【0069】
(4)ヘッドパイプ部分2を、ヘッドパイプ本体部材60と、前部ダウンフレーム部材70と、後部ダウンフレーム部材80と、から構成することにより、単一の部材によりヘッドパイプ部分2を構成する場合に比して、操舵軸を挿通可能な挿入孔を容易に形成できる。すなわち、ヘッドパイプ部分2を3つの部材により上部2A及び中間部前部2Ca、下部2B、中間部後部2Cbに分割することによって、操舵軸の挿通孔を各部材の素材形状に予め形成できる。これにより、各部材を接合した後に挿通孔を機械加工で形成するときの加工取代を低減できるので、加工性が向上すると共に、歩留まりを向上して、加工コストを低減できる。
【0070】
(5)ダウンフレーム部分5は、鍛造により成形される前部ダウンフレーム部材70と、鋳造により成形される後部ダウンフレーム部材80とに、分割して構成されている。また、ヘッドパイプ本体部材60及びスイングアームブラケット33は鍛造により形成され、メインフレーム部材31及びロアフレーム6は押し出し成形により形成されている。
【0071】
すなわち、車体フレーム1の外周部を構成する部材は、鍛造もしくは押し出し成形により形成されており、鋳造により成形する場合に比して強度が高くなるので、車体フレーム1の外周側は高応力に耐え得る。一方、車体フレーム1の内方側を構成する部材は、鋳造により形成され形状自由度が高い。ところで、自動二輪車の走行時における入力によって車体フレーム1に生じる応力は主として外周側に高応力が発生する。上述したように車体フレーム1は外周側が高応力に耐えうるように構成されているので、車体フレーム1は路面からの入力に十分耐え得る。
【0072】
また、車体フレーム1の内方側、すなわち、後部ダウンフレーム部材80は、ガセット部83と左右一対のアーム部85、85とが一体に形成された複雑な形態を有しているが、本部材は形状自由度の高い鋳造により形成されているため、ガセット部83と左右一対のアーム部85、85との一体化を実現できる。
【0073】
したがって、車体フレーム1を、高応力への耐力が必要な車体外周部と、高い形状自由度が必要な車体内方側とに、分けて、それぞれ最適な成形法により形成することにより、車体フレーム1の強度を保ちながら、複数の部品を一体化させて部品点数の削減でき、これにより、車体フレーム1の生産性を向上できると共に、車体フレーム1の軽量化を実現できる。
【0074】
(6)前部ダウンフレーム部材70に前側取付部731とラジエータ取付部732とを一体に形成すると共に、後部ダウンフレーム部材80にラジエータ取付部811とイグニッションコイル取付部812とを一体に形成することにより、これらの取付部を別部材で構成する場合に比して、溶接部品点数をさらに削減できる。
【0075】
(7)ダウンフレーム部分5の下部を構成する前部ダウンフレーム部材70を鍛造により形成して、車体フレーム1の内方側の空間を拡大するように、前方へ湾曲させて構成しているので、車体フレーム1内のエンジン搭載スペースを拡大できる。これにより、車体フレーム1へのエンジン22の搭載性が向上する。
【0076】
なお、本発明は、本実施形態において説明したようなモトクロッサータイプの自動二輪車に限らず、アメリカンタイプ、ロードレーサータイプの自動二輪車においても適用可能である。また、本実施形態において説明したような、ヘッドパイプ部分から左右に離間するように後方に延びる、左右一対のメインフレームを備えた車体フレームに限らず、メインフレームが車幅方向中心に沿って、ヘッドパイプ部分から後方に延びる場合も本発明に含まれる。