特許第6204090号(P6204090)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6204090
(24)【登録日】2017年9月8日
(45)【発行日】2017年9月27日
(54)【発明の名称】レールの境界部分における段差解消方法
(51)【国際特許分類】
   E01B 31/17 20060101AFI20170914BHJP
【FI】
   E01B31/17
【請求項の数】4
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2013-140118(P2013-140118)
(22)【出願日】2013年7月3日
(65)【公開番号】特開2015-14103(P2015-14103A)
(43)【公開日】2015年1月22日
【審査請求日】2016年6月8日
(73)【特許権者】
【識別番号】000221616
【氏名又は名称】東日本旅客鉄道株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】390041379
【氏名又は名称】株式会社山崎歯車製作所
(74)【代理人】
【識別番号】110001254
【氏名又は名称】特許業務法人光陽国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】渡辺 弘
(72)【発明者】
【氏名】佐々木 雅彦
(72)【発明者】
【氏名】渡邉 正明
(72)【発明者】
【氏名】菅原 政嘉
(72)【発明者】
【氏名】南 琢磨
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼瀬 力男
(72)【発明者】
【氏名】山崎 清水
【審査官】 荒井 良子
(56)【参考文献】
【文献】 特許第4233468(JP,B2)
【文献】 特開2006−233602(JP,A)
【文献】 特開昭58−026102(JP,A)
【文献】 欧州特許出願公開第02620546(EP,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E01B 1/00−37/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
延在方向に連続して敷設された2本のレールの境界部分における段差解消方法であって、
前記2本のレールの形状差に応じた段差を伴って当該2本のレールを連結する異形継ぎ目板を、段差のない継ぎ目板に交換する交換ステップと、
前記段差のない継ぎ目板に連結された状態における前記2本のレールの形状をそれぞれ計測する計測ステップと、
計測された形状の差を算出する算出ステップと、
前記2本のレールのうち、前記算出された形状の差により同定される大きい方のレールに対し、当該レールの敷設現場で、当該レールの連結される端部から前記形状の差に応じた切削を行う切削ステップと
を含むことを特徴とするレールの境界部分における段差解消方法。
【請求項2】
前記計測ステップは、前記レールの形状として、当該レール頭部において前記レールと当該レール上の車輪との接触範囲に基づいて定められる所定の位置を基準とした高さを計測することを特徴とする請求項1記載のレールの境界部分における段差解消方法。
【請求項3】
前記計測ステップは、前記2本のレールが前記交換ステップにおいて前記段差のない継ぎ目板により連結された後に行われることを特徴とする請求項1又は2記載のレールの境界部分における段差解消方法。
【請求項4】
前記切削ステップは、ミーリング方式で行われることを特徴とする請求項1〜3の何れか一項に記載のレールの境界部分における段差解消方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、レールの境界部分における段差解消方法に関する。
【背景技術】
【0002】
鉄道車両などの車輪を支持し、移動方向を案内するレールは、車輪との接触により徐々に磨耗していく。従って、このレールは、定期的に交換されている。しかしながら、全てのレールを一度に交換するのは困難であり、その結果、交換されるレールと交換されずに残るレールとの境界部分では、段差が生じるという問題がある。
【0003】
そこで、従来、レール同士を繋ぐ際に両レールに対してボルトを用いて固定される継ぎ目板には、交換されるレールと交換されないレールのそれぞれの高さに従った段差を有する異形継ぎ目板が用いられ、交換されないレールにおける磨り減った分の高さを嵩上げして段差を解消している。
【0004】
図7は、異形継ぎ目板によるレールの連結の例を示す図である。
図7(a)に示すように、レールの延在方向に配置された2本のレールR1、R2は、当該レールR1、R2の腹部に嵌め込まれ、ボルトで固定された継ぎ目板Jにより連結されている。このとき、図7(b)の拡大図に示すように、レールR2の頭部の高さ方向の幅は、レールR1の頭部の高さ方向の幅より大きい。そこで、継ぎ目板JとレールR1、R2の接触面の高さがレールR1、R2の頭部の高さ幅に応じて異なり、レールR1、R2頭部の上面の高さが等しくなるように継ぎ目板J(異形継ぎ目板)を形成してレールR1、R2を連結することで、レールR1とレールR2との間の段差を解消している。
【0005】
一方で、以前より、交換される新しいレールの上面や側面を削って、交換されないレールと滑らかに連結させる技術がある。しかしながら、従来、レールの敷設現場で行われるレールの切削には、グラインダやサンダーベルト(ベルトサンダ)が用いられていた。これらを用いた切削作業には、時間と熟練技術とを要するので、交換が必要なレールの本数と比較して、夜間などの鉄道車両が走行しない時間に短時間で交換を行うには限界があるという問題がある。
【0006】
そこで、特許文献1には、予め交換位置のレール形状を計測し、工場設備を用いて切削をした交換レールや中継レールを敷設現場に持ち込んで交換されないレールと連結させることで、短時間で一連の区間のレール交換作業を行う技術が開示されている。また、特許文献2には、ミーリングユニットを用いてレール同士の連結面付近に残った肉盛部を平滑化する技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特許第4233468号公報
【特許文献2】特許第2837628号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、異形継ぎ目板には、通常の継ぎ目板と比較して、より大きな負荷がかかり、損耗しやすい。従って、より頻繁にレールや継ぎ目板を交換する必要が生じて非効率になるという課題がある。また、継ぎ目板を交換する際に、既に使用されているレールを一度工場に持ち帰って段差解消のための切削作業を行うことは、手間と時間がかかり、やはり効率が悪いという課題がある。
【0009】
この発明の目的は、効率良くレール同士の連結部分の高さを揃えることが出来るレールの境界部分における段差解消方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、上記目的を達成するため、延在方向に連続して敷設された2本のレールの境界部分における段差解消方法であって、前記2本のレールの形状差に応じた段差を伴って当該2本のレールを連結する異形継ぎ目板を、段差のない継ぎ目板に交換する交換ステップと、前記段差のない継ぎ目板に連結された状態における前記2本のレールの形状をそれぞれ計測する計測ステップと、計測された形状の差を算出する算出ステップと、前記2本のレールのうち、前記算出された形状の差により同定される大きい方のレールに対し、当該レールの敷設現場で、当該レールの連結される端部から前記形状の差に応じた切削を行う切削ステップと、を含むこととした。
これにより、異形継ぎ目板から段差のない継ぎ目板への交換に際して、手間を増大させずに容易にレールの境界部分における段差を解消することが出来る。また、このように、段差のない継ぎ目板への交換することで、従来負担になっていた異形継ぎ目板の交換頻度を通常の頻度に落とすことも出来る。
【0011】
また、望ましくは、前記計測ステップは、前記レールの形状として、当該レール頭部において前記レールと当該レール上の車輪との接触範囲に基づいて定められる所定の位置を基準とした高さを計測することとした。
従って、レールの腹部やレール全体の形状を計測する必要が無く、一部分の計測だけで足りる。
【0012】
また、望ましくは、前記計測ステップは、前記2本のレールが前記交換ステップにおいて前記段差のない継ぎ目板により連結された後に行われることとした。
従って、連結されるレールを大きく移動させたり、これに伴ってレールボンドを外したりするといった面倒な手間を省略することが出来る。
【0013】
また、望ましくは、前記切削ステップは、ミーリング方式で行われることとした。
従って、従来、レールの敷設現場におけるレール表面の切削に用いられるグラインダやサンダーベルトなどと比較して遥かに高速で切削を行うことが出来、大幅な作業時間の短縮を図ることが出来る。
【発明の効果】
【0015】
本発明に従うと、効率良くレール同士の連結部分の高さを揃えることが出来るという効果がある。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】本発明のレール切削装置の実施形態を示す外観図である。
図2】レール切削装置の正面図である。
図3】レール切削装置の側面図である。
図4】継ぎ目板交換処理の手順を示すフローチャートである。
図5】レールの切削範囲を説明する図である。
図6】レール切削装置における切削制御処理の制御手順を示すフローチャートである。
図7】異形継ぎ目板を用いたレールの連結を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて説明する。
図1は、レール切削装置100の本実施形態を示す全体斜視図である。また、図2図3は、それぞれ、レール切削装置100の正面図及び側面図である。
【0018】
このレール切削装置100は、継ぎ目板の交換現場へ持ち込み可能な可搬式のものである。レール切削装置100は、線路を覆うフレーム11と、フレーム11の一端部付近に設けられた架台上の制御部12と、メニューなどを表示すると共にユーザの操作を受け付ける表示操作部13と、フレーム上を移動可能な台座11c上に設けられ、切削動作を行う主軸モータ14及びこの主軸モータ14により動作してレールRを切削する切削刃部15と、台座を移動させる送りモータ16と、主軸モータ14及び送りモータ16に電力及び制御信号を送るケーブルCを収納するケーブル収容部17などを備える。
【0019】
フレーム11は、側壁11a、11bを有する。側壁11a、11bは、レールRの延在方向に所定の長さに亘り、当該レールRを挟んで両側に設けられ、これらの上部に設けられた台座11cを移動させるためのガイドレールとして用いられる。台座11cには、主軸モータ14及び切削刃部15が配置され、送りモータ16により側壁11a、11bに沿って前後に移動可能となっている。また、フレーム11には、当該フレーム11をレールに対して固定する固定部11dが設けられている。固定部11dは、例えば、ネジ11d1を用いて固定具11d2、11d3によりレールRを側面から挟持することで、フレーム11(即ち、レール切削装置100)をレールRに固定する。ここで、固定具11d2、11d3は、レールRにおいて車輪と接触する頭部と、枕木と接触する底部との間で狭幅となるレール腹部にはめ込まれる形でレールRを挟持している。
【0020】
制御部12は、例えば、表示操作部13からの入力操作などに基づく命令に応じて主軸モータ14を動作させて切削動作を行う。制御部12は、例えば、CPU(Central Processing Unit)、RAM(Random Access Memory)、ROM(Read Only Memory)及び通信部などがチップ上に配列形成されたマイコンを有し、主軸モータ14及び送りモータ16の動作制御に係る各種演算処理や信号及びデータの入出力処理を行う。或いは、この制御部12としては、専用のマイコンに代えて、汎用ノート型パーソナルコンピュータ(PC)やタブレット端末を用いても良い。
【0021】
表示操作部13は、各種メニューやステータスの表示を行うと共に、ユーザの入力操作を受け付ける。この表示操作部13としては、例えば、タッチセンサを備え、タッチパネルとしての機能を有する液晶表示画面(LCD)が用いられる。或いは、表示操作部13には、一又は複数の押しボタンスイッチ及びキーボード並びに表示ランプを備えていても良い。また、上述のノート型PCやタブレット端末を用いる場合には、モータ駆動電源といったノート型PCやタブレット端末に含まれない構成要素を除き、この表示操作部13を制御部12と一体的に構成したものとすることが出来る。
【0022】
主軸モータ14は、制御部12からの制御信号に基づいて切削刃部15を動作させて設定位置でレール頭部表面を所定の深さに切削させる。この主軸モータ14は、切削刃部15の形式に応じたモータであり、ここでは、切削刃部15のフライスの高さ位置を調節しながら回転動作させる回転モータである。また、主軸モータ14は、上述の台座11cに取り付けられている。
【0023】
切削刃部15は、レール頭部の表面を切削するための刃を備える。ここでは、切削刃部15としては、フライス(ミーリングカッター)が用いられ、主軸モータ14における主軸の回転動作に応じて回転してレール頭部の表面を所定の深さで切削する。切削刃部15は、上述の台座11cの移動による主軸モータ14の移動に従って移動する。従って、フレーム11が一度レールRに固定されると、レールRが延在する方向への当該フレーム11の長さに応じた所定の範囲の切削を行うことが可能になる。
これら主軸モータ14及び切削刃部15により切削部が構成される。
【0024】
送りモータ16は、主軸モータ14及び切削刃部15が取り付けられた台座11cを側壁11a、11b上部のガイドレールに沿って移動させる。この送りモータ16の動作方式は、特には限られないが、切削刃部15による切削時に位置ずれを起こさない安定性が求められる。
送りモータ16及び台座11cにより移動部が構成される。
【0025】
ケーブル収容部17は、制御部12から主軸モータ14に送られる制御信号や電力を供給するケーブルCをまとめて収容する中空の筒状カバー部材である。本実施形態では、このケーブル収容部17は、フレーム11の側壁11a、11bの外側に沿って上下方向に折り曲げ可能に設けられており、主軸モータ14及び切削刃部15が取り付けられた台座11cの移動に従って台座11cや切削刃部15にケーブルCを絡ませたりするといったトラブルを生じさせずに当該ケーブルCを移動させる。
【0026】
ここで、このレール切削装置100、特に、主軸モータ14及び送りモータ16は、切削動作の安定性及び正確性を必要な精度から外れるほど損ねない範囲で軽量小型とされて、敷設現場に持ち込み、及び、移動が可能なものである必要がある。
【0027】
次に、本実施形態のレール切削装置100を用いた異形継ぎ目板の交換動作について説明する。
図4は、異形継ぎ目板の交換の手順を示すフローチャートである。
【0028】
この継ぎ目板交換処理では、先ず、古い異形継ぎ目板を固定された両側のレールから取り外す(ステップS501)。次いで、新しい段差の無い継ぎ目板をこれら両側のレールに取り付ける(ステップS502)。
これら、ステップS501、S502の処理により交換ステップが構成される。
【0029】
次に、新しい継ぎ目板に取り付けられた両側のレールの高さを計測し(ステップS503、計測ステップ)、これらの高さの差を算出する(ステップS504、算出ステップ)。そして、レール切削装置100を用い、算出された高さの差に基づいて、両レールの連結面で高さが等しくなるように高い方のレールの切削処理を行い(ステップS505、切削ステップ)、継ぎ目板交換処理を終了する。
【0030】
異形継ぎ目板の取り外し及び段差のない継ぎ目板の取り付けに係る処理(ステップS501、S502)は、従来行われているものと同一であり、詳しい説明を省略する。このとき、継ぎ目板により連結されるレールは交換されないので、レール自体を大きく動かす必要は無く、従って、電化路線では、レール同士を電気的に接続するためのレールボンドを取り外す必要が無い。また、交換対象の継ぎ目板に連結された端部とは反対側のレール端部における継ぎ目板は、連結された状態のままで良い。
【0031】
ステップS503の処理において、レールの高さの計測方法としては、各種周知の方法を用いることが出来る。例えば、レーザ測位装置を用いてレールの断面形状を計測することで、レールの敷設現場で容易且つ速やかに算出される。このとき、レーザ測位装置のレーザ射出位置を適切に設定して固定するためのガイド部材が設けられていても良い。
【0032】
ステップS504の処理において、連結される2本のレールR1、R2の高さの差Hは、レール頭部の頭頂部(上端)から下端までの距離h1、h2を用いて求めることが出来る(図5参照)。レールR1、R2は、車輪との接触により、主にレール頭部上面及び内側面で大きく磨耗する。一方、レール頭部下端及びその下部は、車輪と接触せず、磨耗が生じない。また、レール頭部は、レールが敷設された状態でも容易に測定可能な位置にある。従って、このレール下端からの高さを計測することで、容易且つ正確にレールの磨耗に係る高さの差を算出することが出来る。
なお、レール頭部における下端は、必ずしも明確に水平面や角部形状などで定められるものではない。従って、レールの規格形状に応じてレール頭部の下部における所定の形状部分が下端位置として規定される。このとき、車輪と接触しない位置にこの下端位置に対応する形状部分を定めることで、磨耗により当該位置が正確に定まらない事態を避けることが出来る。
【0033】
また、ステップS503の処理において、レールの断面形状は、レール頭部のみについて計測が行われれば良い。このようにすることで、計測は、レールが継ぎ目板により連結されていても測定可能となるので、ステップS502の後に行うことが出来る。或いは、ステップS501の処理の前に予め計測しておくことも可能である。
【0034】
次に、本実施形態のレール切削装置100を用いたステップS505の処理に係る切削動作について詳しく説明する。
この切削動作では、計測された連結対象のレールの高さの差に応じ、より高いレールの連結端付近(連結された後の境界部分)を所定の勾配で低いレールの高さと同じ高さになるように切削を行う。
【0035】
図5は、新レールの切削範囲を説明する図である。
図5において左側の低いレールR1と右側の高いレールR2との高さの差がHである場合には、高いレールR2に対し、連結端で深さH、当該連結端から勾配rで、長さW=H/rに亘り切削が行われる(斜線ハッチ部分)。この勾配rは、予め定められた値、例えば、1/1000〜1/400(1.0〜2.5‰)であり、当該連結端の列車通過速度や頻度、連結されるレールの種別などに応じて複数種類設定可能である。
【0036】
本実施形態のレール切削装置100では、一度に切削される単位深さdが定められている。連結端での切削の深さHが単位深さdよりも大きい場合には、回数N=H/d繰り返して切削動作が行われることで、全体として深さHの切削がなされる。単位深さdとしては、例えば、0.2mm程度に設定され、深さHは、通常、最大でも数mm程度であるので、10〜20回程度の繰り返しの切削動作により速やかに終了することが出来る。
【0037】
図6は、レール切削装置100の制御部12による切削制御処理の制御手順を示すフローチャートである。
この切削動作では、ユーザの表示操作部13への入力操作に応じて開始される。
【0038】
切削制御処理が開始されると、先ず、制御部12(CPU)は、切削量(深さ)Hの値を取得する(ステップS101)。制御部12は、ユーザによる表示操作部13への入力操作に基づいて設定されたこの切削深さHの値を取得する。
【0039】
制御部12は、単位切削量d及び勾配rを設定する(ステップS102)。上述のように、単位切削量dは、レール切削装置100について予め定められた値であり、制御部12は、制御部12内のROMやその他の不揮発性メモリといった記憶部に記憶された値を参照してこの単位切削量dを設定する。また、制御部12は、勾配rとして、同様にROMや不揮発性メモリを参照して一の定数を取得するか、又は、ユーザにより表示操作部13に入力された当該レールの利用形態や種別などに応じて適切な値を取得する。
【0040】
制御部12は、切削深さH及び単位切削量dから切削動作の繰り返し回数Nを算出する。また、制御部12は、切削動作の実行回数を示す変数iの初期値として「0」を設定する(ステップS103)。
【0041】
制御部12は、変数i回目の切削動作における切削長wiを算出する(ステップS104)。変数i回目の切削動作におけるレール端部での合計切削深さは、d×(i+1)になるので、このときの切削長wiは、この合計切削深さを勾配rで除した値となる。
【0042】
制御部12は、主軸モータ14及び送りモータ16に制御信号を送り、ステップS104の処理で設定された切削長wiに亘り、勾配r、深さdの切削動作を行わせる(ステップS105)。切削動作がなされると、制御部12は、切削刃部15をレール面から離して送りモータ16を動作させ、台座11cを移動させて当該切削刃部15をレールの連結端の位置に戻す。
【0043】
制御部12は、変数iに1を加算し(ステップS106)、この加算後の変数iの値が回数Nと等しいか否かを判別する(ステップS107)。等しくないと判別された場合には(ステップS107で“NO”)、制御部12の処理は、ステップS104に戻り、制御部12は、次回の切削に係る設定と動作を行う。等しいと判別された場合には(ステップS107で“YES”)、制御部12は、切削制御処理を終了する。
【0044】
以上のように、本実施形態のレール切削装置100を用いたレールの境界部分における段差解消法によれば、延在方向に連続して配置された2本のレールの形状差に応じた段差を伴って当該2本のレールを連結する異形継ぎ目板を段差のない継ぎ目板に交換し、また、これら2本のレールの形状をそれぞれ計測して、当該計測された形状の差を算出する。そして、この算出結果に基づいて、2本のレールのうち大きい方のレールを、その場で、当該レールの連結される端部から形状の差に応じて所定の勾配で切削する。従って、異形継ぎ目板から段差のない継ぎ目板への交換に際して、手間を増大させずに容易にレールの境界部分における段差を解消することが出来る。また、このように、段差のない継ぎ目板への交換することで、従来負担になっていた異形継ぎ目板の交換頻度を通常の頻度に落とすことも出来るので、全体として継ぎ目板やレール交換に係る効率を改善することが出来る。
【0045】
また、レールの形状として、レール頭部において前記レールと当該レール上の車輪との接触範囲に基づいて定められる所定の下端位置を基準とした高さを計測するので、レールの腹部やレール全体の形状を計測する必要が無く、計測時間の短縮を図ることが出来る。
【0046】
また、2本のレールの断面形状の計測は、継ぎ目板が交換された後、継ぎ目板により連結された状態で行われるので、連結されるレールを大きく移動させたり、これに伴ってレールボンドを外したりする手間を省略して素早く計測を行うことが出来る。
【0047】
また、ミーリング方式で切削が行われるので、従来のグラインダやサンダーベルトなどと比較して遥かに高速で切削を行うことが出来、大幅な作業時間の短縮を図ることが出来る。従って、夜間や一時的な運休期間といった短時間の間に多くの継ぎ目板の交換作業を完了することが出来る。
【0048】
また、レール切削装置100は、ミーリング方式でレール表面の切削を行う切削刃部15及び主軸モータ14と、これらをレールの延在方向に移動させる送りモータ16と、レールの端部における切削深さH及び予め設定された切削深さの勾配rとに基づいて主軸モータ14及び送りモータ16の動作を制御して、レール表面の切削を行わせる制御部12と、を備え、レール切削装置100全体は、固定部11dによりレールの両側面に固定される。従って、安定且つ高速にレールの境界部分における段差を解消する作業を行うことが出来る。これにより、枕木やバラストなどで地面が安定せず、且つ、鉄道車両の走行ダイヤとの関係上作業時間が限られる継ぎ目板の交換現場での作業に対して好適に用いることが出来る。
【0049】
なお、本発明は、上記実施の形態に限られるものではなく、様々な変更が可能である。
例えば、上記実施の形態では、ミーリング方式を用いてレール面の切削を行うこととしたが、切削の量などによっては、この方式だけに限定するものではない。従来の他の方式と併用することでも切削時間の削減を図ることが出来る。
【0050】
また、上記実施の形態では、レールの切削面が一様な勾配となるように設定したが、その他の勾配形状、例えば、両端で勾配が0となる曲線形状であっても良い。
【0051】
また、上記実施の形態に係るレール切削装置100では、別途計測されたレールの境界部分における段差がユーザの入力操作で取得されて、この取得値に基づいて切削動作が行われたが、計測された2本のレールのデータをレール切削装置100が備える通信機能を用いて直接取得して、制御部12が段差を計算しても良い。
【0052】
また、上記実施の形態では、レール頭部の下端位置として定められた位置を基準として形状の計測を行ったが、その他の位置を基準としても良い。この場合、継ぎ目板がレールに取り付けられている場合には、腹部の形状を計測することが出来ないので、ステップS503における計測処理は、ステップS501の処理とステップS502の処理との間で継ぎ目板が取り外されている期間に行っても良い。或いは、継ぎ目板がレールに取り付けられていても、腹部の形状の計測を省略して、レール全体の高さのみを計測しても良い。
【0053】
また、上記実施の形態では、段差として高さの差だけを求め、レール頭部の上面のみを切削することとしたが、幅の差を合わせて求めて、レール頭部の内側面を切削可能としても良い。この場合には、切削刃部15及び主軸モータ14の回転軸を移動させるか、又は、上面用と内側面用とで別個に切削刃部15を設けるかが想定される。
【0054】
また、上記実施の形態では、切削対象のレールが平坦であることを前提として、レール端部での高さの差H及び勾配rのみに基づく切削動作を説明したが、既にレールの頭部が切削されている場合や、磨耗によりレール断面形状が不均一となっている場合には、当該形状に従って切削長の設定ごとに各レール位置でのレール断面形状も考慮して、各々切削範囲を定めれば良い。
【0055】
また、上記実施の形態では、敷設現場でレールが敷設され、継ぎ目板で連結された状態で切削を行うこととしたが、予め段差の大きさが求められる場合には、レール同士を再度連結する前に、当該端部同士をずらした状態で一方のレールの切削を行っても良い。
【0056】
また、上記実施の形態では、異形継ぎ目板から段差の無い継ぎ目板への交換の際にレール断面の段差を切削することとしたが、段差の無い継ぎ目板により連結されていたレールの一方を交換することにより生じる段差に対しても、同様に切削を行うことが出来る。
【0057】
また、上記実施の形態に係るレール切削装置は、工場など現場以外で利用することも可能である。
その他、上記実施の形態で示した具体的な構造や処理動作の内容といった細部は、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において適宜変更可能である。
【符号の説明】
【0058】
11 フレーム
11a、11b 側壁
11c 台座
11d 固定部
11d1 ネジ
11d2、11d3 固定具
12 制御部
13 表示操作部
14 主軸モータ
15 切削刃部
16 送りモータ
17 ケーブル収容部
100 レール切削装置
C ケーブル
J 継ぎ目板
R レール
R1 レール
R2 レール
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7