【実施例】
【0034】
(実施例1)
表1に示す各種金属繊維について、伸び、最大引張強度、破断エネルギー、表面粗さRa及び最大高さRzを評価した。また、これらの金属繊維を添加した金属繊維複合体(不定形耐火物)について金属繊維の引き抜き試験を行うとともに破壊エネルギー及び耐熱衝撃性を評価した。これらの評価結果を併せて表1に示す。
【0035】
【表1】
【0036】
まず、表1に示した評価項目の評価方法を説明する。
【0037】
1.金属繊維の伸び、最大引張強度及び破断エネルギー
金属繊維の伸び、最大引張強度及び破断エネルギーは一軸引張試験により評価した。一軸引張試験には、島津製作所製マイクロオートグラフを用いた。試験有効長は10mmとし、両端の保持はチャック治具にて金属繊維を挟み付けて保持した。引張速度は1mm/minとし、100msecでデータを採取し、荷重が最大となった点を最大荷重とした。金属繊維の伸びは、最大荷重時の伸び(以下、単に「伸び」ともいう。)として評価した。この伸びは、次式により%換算した。
伸び=計測中のクロスヘッド移動量(mm)/試験有効長(10mm)×100%
【0038】
また、最大荷重を試験前繊維断面積で割ることで最大引張強度(MPa)を求めた。試験前繊維断面積は、繊維重量と長さ、及び密度の理論値より計算により求めた。金属繊維の破断エネルギーは、一軸引張試験で得られる応力(MPa)−伸び(mm)曲線で囲まれる面積から求めた。すなわち、当該面積(N・mm)を試験前繊維断面積(mm
2)で割ったものが破断エネルギーであり、単位はN/mmである。
【0039】
なお、一軸引張試験において、チャック部根元で破断したものは異常と見なして除外し、試験有効長の範囲内で破断したものを正常と見なし、正常に測定できた9回の平均値を表1に示した。
【0040】
2.金属繊維の表面粗さRa及び最大高さRz
金属繊維の表面粗さRa及び最大高さRzは、「JIS B 0601:2001」に準拠して評価した。
【0041】
3.破壊エネルギー
金属繊維複合体(不定形耐火物)の破壊エネルギーは、三点曲げ試験により評価した。三点曲げ試験では、取鍋用湯当たりブロックを想定した表2に示すアルミナ−マグネシア不定形耐火物に、表1の各金属繊維を2.4質量%外掛けで添加し、水分を外掛けで4.85質量%添加し混練した後、40×40×160mmの型に鋳込み、110℃一昼夜乾燥後、所定の温度及び時間で加熱したものを、一度常温に戻した後、三点曲げ試験に供した。所定の温度及び時間は、表1中の加熱温度(℃)×保持時間(h)に示す。試験条件は、下部の支点間距離を140mm、載荷速度を1mm/minとし、クロスヘッド変位を変位量とし、荷重と変位量を計測した。得られた荷重−変位曲線で囲まれた面積を、破壊に要したエネルギーと見なし、この値を試料断面積×2(40×40mm×2)で割った値を破壊エネルギーと定義した。なお、荷重−変位曲線で囲まれた面積の計算は変位7mmまでとし、7mmを超える変位の領域は計算に含めなかった。変位が7mmを超えると、曲げ試験治具がサンプルと干渉し正確なデータがとれなかったためである。
【0042】
【表2】
【0043】
4.耐熱衝撃性
金属繊維複合体(不定形耐火物)の耐熱衝撃性(耐スポーリング性)は、浸漬スポーリング試験により評価した。浸漬スポーリング試験では、高周波炉で銑鉄を溶解し1650℃に保持した溶銑の中に、40×40×160mmのサンプルを浸漬し5分間保持後取り出し、冷風を吹きかけ空冷急冷した。放置時間は、60分以上とした。これを耐火物が折損するまで繰り返した。
【0044】
5.金属繊維の引き抜き試験
表2に示すアルミナ−マグネシア不定形耐火物に、表1中のNo.26〜No.33の各金属繊維を2.4質量%外掛けで添加し、水分を外掛けで4.85質量%添加し混練した後、40mm立方の型枠を用い、型枠の底に厚さ10mmの発泡スチロールを敷き、その中心に金属繊維を20mmにカットしたものを1本、直角に差し込み、その状態で鋳込み成形し金属繊維の引き抜き試験サンプルを得た。したがって金属繊維は10mm鋳込み体の中に埋め込まれた状態となる。これらのサンプルを1000℃で3時間加熱し、常温に戻ったものについて引き抜き試験を実施した。具体的には、40mm立方の型枠に金属繊維を埋め込んだサンプルから飛び出している金属繊維を、金属繊維の一軸引張試験で用いたチャック治具と同一のものを使用し、鋳込み面から1〜1.2mm上部をチャックした。上部をチャックした状態で、繊維垂直方向と一軸引張試験の荷重方向を一致させた後、40mm角の鋳込み体をチャックし、金属繊維の一軸引張試験で使用したものと同一のマイクロオートグラフを用いて、引張速度1mm/minで引張試験を実施した。
【0045】
なお、表1中の断面(mm)×長さ(mm)における0.5mm角は、1辺当りが0.5mmの正四角形あるいは平行四辺形を示すが、角が少し丸みを帯びた正四角形でない形状や、各々の辺が直線でないものも含むものとする。また、φ0.5mmは、断面が丸形状のものを示す。
【0046】
以下、表1に示す評価結果について説明する。
【0047】
まず、「金属繊維の伸び及び最大引張強度」と「金属繊維複合体(不定形耐火物)の破壊エネルギー及び耐熱衝撃性」との関係について説明する。
【0048】
表1より、金属繊維の伸び及び最大引張強度について本発明の要件(伸び:10%以上、最大引張強度:350MPa以上)を満たす実施例はいずれも、比較例に比べ破壊エネルギーが大きく、耐熱衝撃性も良好であった。
【0049】
金属繊維の伸びについては、SUS304系では、伸びが5.5%(最大引張強度:806MPa)であるNo.1(典型的な従来品)に比べ、伸びが10.1%(最大引張強度:823MPa)であるNo.2は破壊エネルギーが約28%増大し、伸びが13.2%(最大引張強度:844MPa)であるNo.3は破壊エネルギーが約43%増大し、伸びが35.1%(最大引張強度:752MPa)であるNo.4はさらに破壊エネルギーが増大した。また、SUS430系では、伸びが7%(最大引張強度:480MPa)であるNo.10に比べ、伸びが10%(最大引張強度:480MPa)であるNo.11及び伸びが14.5%(最大引張強度:470MPa)であるNo.12は、破壊エネルギーが約28%増大した。
【0050】
このように、同一形状で最大引張強度が近似する金属繊維について伸びを変えたときの破壊エネルギーの評価結果、及び耐熱衝撃性の評価結果を総合的に考慮すると、上述した本発明の破壊エネルギー増大メカニズムを有効に発現させるには、金属繊維の伸びは10%以上とする必要があり、30%以上とすることが好ましいと判断された。
【0051】
金属繊維の最大引張強度については、No.25のように最大引張強度が低いと、本発明の破壊エネルギー増大メカニズムによる破壊エネルギー増大効果は得られない。最大引張強度が360MPaのNo.24では本発明による破壊エネルギー増大効果が得られていることを勘案すると、本発明の破壊エネルギー増大メカニズムを有効に発現させるには、金属繊維の最大引張強度は350MPa以上とする必要があると判断された。
【0052】
また、表1より、「金属繊維の伸び及び最大引張強度」が増大すると、「金属繊維の破断エネルギー」及び「金属繊維複合体(不定形耐火物)の破壊エネルギー」が比例的に増大することがわかる。これを視覚的に示すと
図1及び
図2のとおりである。
【0053】
すなわち、
図1は金属繊維の一軸引張試験で得られた応力−伸び曲線の一例を示し、
図2は三点曲げ試験で得られた荷重−変位曲線の一例を示す。
図1及び
図2中の「No.」は、表1の「No.」に対応する。また、上述のとおり
図1の曲線に囲まれた面積が破断エネルギーを表し、
図2の曲線に囲まれた面積が破壊エネルギーを表す。
【0054】
図1及び
図2からも、「金属繊維の伸び及び最大引張強度」が増大すると、「金属繊維の破断エネルギー」及び「金属繊維複合体(不定形耐火物)の破壊エネルギー」が比例的に増大することがわかる。これは、本発明による破壊エネルギー増大効果、すなわち金属繊維の延性及び加工硬化のメカニズムによる破壊エネルギー増大効果を示すものである。
【0055】
次に、「金属繊維の表面粗さRa,Rz」と「金属繊維複合体(不定形耐火物)の破壊エネルギー及び耐熱衝撃性」との関係について説明する。
【0056】
上述のとおり、本発明は、金属繊維の延性と加工硬化のメカニズムにより破壊エネルギーを増大させるものであることから、金属繊維の表面が滑らかで引き抜けやすいと、その延性、加工硬化による効果が十分に得られないことがある。この点から表1の評価結果を見ると、No.14は、No.1に比べ金属繊維の最大引張強度が大きく破断エネルギーも大きいが、表面粗さが小さいこともあり、耐火物としての破壊エネルギーの増大は見られなかった。また、No.18等の評価結果も考慮すると、金属繊維の表面粗さRaは0.1μm以上、最大高さRzは1.3μm以上であることが好ましいと判断された。
【0057】
続いて金属繊維の引き抜き試験結果を説明する。
図3は、表1のNo.27、29、31〜33の引き抜き試験により得られた応力−変位曲線を示す。また、
図4は、これらのサンプルの三点曲げ試験により得られた荷重−変位曲線を示す。また、引き抜き試験により得られた応力−変位曲線に囲まれた面積を「引き抜きエネルギー」と定義し、表1で用いた繊維の繊維破断エネルギー及び三点曲げの破壊エネルギーを再掲し、引き抜き試験で得られた引き抜きエネルギーをあわせて表3に示す。
【0058】
【表3】
【0059】
図3より、金属繊維の表面粗さが大きいNo.27(Ra:4μm、Rz:15.6μm)については、金属繊維は引き抜けることなく破断していることがわかる。一方、金属繊維の表面粗さが小さいNo.33(Ra:0.14μm,Rz:1.2μm)は、金属繊維が引き抜けやすいことがわかる。そして、金属繊維の表面粗さが中間レベルであるNo.29,31,32については、金属繊維が引き抜けながら伸びていることがわかる。
【0060】
すなわち、
図3、
図4及び表3より、金属繊維の表面粗さを適正な範囲に制御することで、上述した延性及び加工硬化による金属繊維自体の破断エネルギーのみならず、金属繊維の引き抜き効果(引き抜きエネルギー)も加算され、トータルとしての破壊エネルギーを増大できることが新たにわかった。具体的な表面粗さの適正な範囲については、表面粗さRaが0.2μm以上3μm以下、最大高さRzが1.5μm以上14μm以下であると判断された。
【0061】
以上のとおり、本発明によれば、従来にない新たなメカニズムにより金属繊維複合体の破壊エネルギーを増大させることができる。このことは言い換えれば、従来より少量の金属繊維の添加により、十分な破壊エネルギーを実現できるということである。すなわち、従来は破壊エネルギーを増大させるために金属繊維を多量添加するとファイバーボールが形成され、金属繊維が均一に分散されないという問題を生じていたが、本発明によればこのような問題を回避しつつ破壊エネルギーを増大させることができる。
【0062】
(実施例2)
本発明の効果を確認するため、ランス用を想定した表4に示すムライト質不定形耐火物において実施例1と同様に耐火物の破壊エネルギーを評価した。その結果を表5に示す。同様に、RH浸漬管用を想定した表6に示すアルミナ−スピネル質不定形耐火物において耐火物の破壊エネルギーを評価した。その結果を表7に示す。なお、表5及び表7に示す金属繊維の「No.」は、表1の金属繊維の「No.」に対応する。
【0063】
破壊エネルギーの評価においては、表4に示すムライト質不定形耐火物では、同表に示す配合に各金属繊維を5質量%外掛けで添加し、水分を外掛けで4.85質量%添加し混練した後、350℃、12時間で熱処理し、常温に戻したサンプルを三点曲げ試験に供した。また、表6に示すムライト質不定形耐火物においては、同表に示す配合に各金属繊維を5.2質量%外掛けで添加し、水分を外掛けで4質量%添加し混練した後、350℃で熱処理し、常温に戻したサンプルを三点曲げ試験に供した。
【0064】
表5及び表7より、本発明の実施例では、上記実施例1と同様に破壊エネルギー増大効果が得られていることがわかる。
【0065】
【表4】
【0066】
【表5】
【0067】
【表6】
【0068】
【表7】