特許第6204091号(P6204091)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6204091
(24)【登録日】2017年9月8日
(45)【発行日】2017年9月27日
(54)【発明の名称】金属繊維複合体
(51)【国際特許分類】
   C04B 35/76 20060101AFI20170914BHJP
   C04B 28/02 20060101ALI20170914BHJP
   C04B 14/48 20060101ALI20170914BHJP
   C04B 35/66 20060101ALI20170914BHJP
【FI】
   C04B35/76
   C04B28/02
   C04B14/48 A
   C04B35/66
【請求項の数】3
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2013-143768(P2013-143768)
(22)【出願日】2013年7月9日
(65)【公開番号】特開2015-17001(P2015-17001A)
(43)【公開日】2015年1月29日
【審査請求日】2016年1月22日
(73)【特許権者】
【識別番号】000170716
【氏名又は名称】黒崎播磨株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001601
【氏名又は名称】特許業務法人英和特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】菅原 光男
(72)【発明者】
【氏名】上村 浩一
(72)【発明者】
【氏名】神尾 英俊
【審査官】 吉川 潤
(56)【参考文献】
【文献】 特開平11−079805(JP,A)
【文献】 特開昭62−241861(JP,A)
【文献】 特開平01−222030(JP,A)
【文献】 特開平05−085801(JP,A)
【文献】 特開2001−270756(JP,A)
【文献】 特開2002−154852(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C04B 14/38 − 14/48
C04B 35/66 − 35/84
C04B 28/02
C04B 32/02
E04C 5/00 − 5/20
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属繊維を含む耐火物又はコンクリートである金属繊維複合体であって、
前記金属繊維として、一軸引張試験による評価において、最大荷重時の金属繊維の伸びが10%以上、「最大荷重/繊維断面積」である最大引張強度が350MPa以上のステンレス鋼製のものを添加してなり、前記金属繊維の表面粗さRaが0.1μm以上であり、かつ、最大高さRzが1.3μm以上である金属繊維複合体。
【請求項2】
前記金属繊維の伸びが30%以上である請求項1に記載の金属繊維複合体。
【請求項3】
前記金属繊維の表面粗さRaが0.2μm以上3μm以下であり、かつ、最大高さRzが1.5μm以上14μm以下である請求項1又は2に記載の金属繊維複合体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、耐火物及びコンクリートに好適に適用される金属繊維複合体に関する。
【背景技術】
【0002】
建築構造物、土木構造物のコンクリートや、溶融金属容器のライニング、構造部材、あるいは工業用窯炉の壁材などの耐火物特に不定形耐火物などに共通する脆性を改善し、その破壊エネルギーを向上させるため、有機繊維や金属繊維を単体あるいは組み合わせて混合してなる材料が、広く用いられており、繊維強化コンクリート、繊維強化耐火物として知られている。
【0003】
従来、繊維をコンクリートや耐火物に添加することによって破壊エネルギーが向上する機構は、一般的には、繊維の引き抜き効果によって説明されている。
【0004】
すなわち、コンクリートや耐火物等の脆性体が、材料強度以上の引張力を受けるとクラックが発生し、そのクラック面に存在する繊維が引張力を負担する。そして、繊維に載荷される引張荷重が繊維最大強度に達し、繊維が破断してさらにクラックが進行するか、あるいは繊維が破断する前にある限界値を超えると、繊維とマトリックスとの剥離が生じ、この剥離が埋め込み繊維全長に及ぶと繊維は引き抜きが開始され、マトリックスとの摩擦付着により引張力に抵抗し、繊維が引き抜かれながら引張荷重が低下してゆくというメカニズムである。
【0005】
耐火物において例えば非特許文献1でも、繊維が引き抜けつつ外力に抵抗し、これを破断するのに大きい仕事量を必要とし、メカニズムとしては繊維の引き抜き効果とされている。
【0006】
さらにコンクリート分野では、金属繊維に加えて繊維径が100μm以下の高強度有機繊維を添加してなる高靱性セメント複合材料が1990年代に開発されている。これは有機繊維を高強度化し、かつ、その引き抜き抵抗を最適化することで、破壊エネルギーを最大化し、無数の微細ひび割れが分散するマルチプルクラック特性を有するよう設計されたものであり、その理論において、考慮すべき最も重要な要因は、繊維の引張強度と付着強度であるとされている。例えば非特許文献2に詳細に記載されており、繊維強度と付着強度が高いほど架橋性能が向上する。しかし強度が高い繊維であっても、付着強度が弱い場合、強度を発揮する前に引き抜け、架橋性能への繊維強度の寄与は重要なものとはならない。一方、付着強度が強くても繊維強度が弱い場合には、架橋性能は低く、繊維強度と付着強度のバランスが重要であるとされている。
【0007】
以上の理論を背景に、従来の繊維強化耐火物及び繊維強化コンクリートの開発においては、主として引き抜き効果を最大化するために、繊維の種類、形状、及びその組み合わせに焦点があてられてきた(例えば特許文献1〜6、非特許文献3)。その中でも耐火物は耐火性が要求されるため、金属繊維としては耐熱性金属繊維が主として用いられてきた。また繊維強度が必要なため、硬質化したステンレス系金属繊維が用いられてきた。
【0008】
しかし、繊維の種類、形状、及びその組み合わせだけでは、破壊エネルギーの向上には限界がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開昭49−120907号公報
【特許文献2】特開昭62−143880号公報
【特許文献3】特開平8−268767号公報
【特許文献4】特開平11−157948号公報
【特許文献5】特開2005−179150号公報
【特許文献6】特開2008−222510号公報
【非特許文献】
【0010】
【非特許文献1】林武志、浜崎佳久、「キャスタブル耐火物の特性に及ぼすスチールファイバーの効果」、耐火物 30、1978年、p.334−337
【非特許文献2】三橋博三、六郷恵哲、国枝稔、「コンクリートのひび割れと破壊の力学」、技報堂出版、2010年、p.192−204
【非特許文献3】国枝稔、「土木構造物への適用例一短繊維の変遷を踏まえて」、 コンクリート工学、2012年、第50巻、第5号、p.451−456
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明が解決しようとする課題は、上述の破壊エネルギー増大メカニズムとは異なるメカニズムに基づいて破壊エネルギーを増大させ、引き抜き効果以上の大きな破壊エネルギーを有するコンクリートあるいは耐火物等の金属繊維複合体を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明の一観点によれば、金属繊維を含む耐火物又はコンクリートである金属繊維複合体であって、前記金属繊維として、一軸引張試験による評価において、最大荷重時の金属繊維の伸びが10%以上、「最大荷重/繊維断面積」である最大引張強度が350MPa以上のステンレス鋼製のものを添加してなり、前記金属繊維の表面粗さRaが0.1μm以上であり、かつ、最大高さRzが1.3μm以上である金属繊維複合体が提供される。
【0013】
このように本発明は、金属繊維複合体に原料として添加する金属繊維の伸び及び最大引張強度を特定値以上とすることを特徴とするもので、これにより、その金属繊維が保有する延性(伸び)と加工硬化(歪み硬化)を最大限に利用し、高い破壊エネルギーを有するコンクリートあるいは耐火物等の金属繊維複合体を提供するものである。
【0014】
すなわち、本発明による破壊エネルギー増大メカニズムは、以下のとおりである。
【0015】
金属繊維を含む金属繊維複合体にクラックが生じると、上述のとおりクラック面に存在する金属繊維が引張力を負担し、そのクラック面を架橋する状態となる。従来技術では、この繊維の架橋効果は、繊維強度と引き抜き力であり、繊維強度に達するまでは、金属繊維が弾性的な伸びとその後延性により伸び、クラック進展に伴う生成クラック面間の広がりに追従可能であるが、その伸びが10%未満であると、追従可能な生成クラック面間隔の変位は小さい。金属繊維の伸びの限界を超えた変位が生じると繊維が破断するか、あるいは繊維の引き抜きが開始され、架橋効果は小さい。
【0016】
一方、本発明では、クラックが発生し、上述同様にそのクラック面にある金属繊維に荷重が載荷され、架橋効果が生じる。荷重が繊維に載荷されるとともに、クラックが進展するとともに生成クラック面間の変位が広がるにしたがって、伸びが10%以上ある金属繊維は、破断せずに延性による伸びが発生しつづけ載荷に耐え、クラック面間の広がりに追従する。クラック面間がさらに広がっても、伸びがあるため破断せずに伸び続けることができる。この効果は伸びが高い金属繊維程高い。さらに伸びが発生している間は、単に外力を架橋するのみならず、延性による加工硬化メカニズムが作用して繊維自体の強度が上昇し、繊維架橋応力が増大しクラックの進展を防止する。この加工硬化による応力上昇が材料の初期ひび割れ強度よりも高くなると、母材(マトリックス)の他のクラックが発生していない部分で強度が弱い部位にクラックが発生し、そのクラック近傍の金属繊維がひび割れを架橋する状態になり、マルチプルクラックを生じる場合もある。
【0017】
このようなメカニズムにより、単に金属繊維が破断するまでの引張力の架橋効果、あるいは金属繊維が破断せずに金属繊維の付着剥離力と引き抜き力の合計による繊維の引き抜き破壊エネルギーによる従来のメカニズムよりも、さらに大きな破壊エネルギーを得ることができる。
【0018】
本発明において金属繊維の伸びは30%以上であることが好ましい。伸びが30%以上の金属繊維は、伸びが10%以下のものに比べて最大引張強度はやや低くなる場合もあるが、金属繊維が破断するまでの破断エネルギーは、非常に大きくなる。金属繊維が引き抜けず強固に付着している状態であれば、金属繊維が破断するまでの破断エネルギーが、繊維添加量にも依存するが、ほぼ金属繊維複合体の破壊エネルギーに寄与する。したがって伸びが30%以上の金属繊維を添加することで、上述の加工硬化メカニズムを十分に発揮させることができ、従来のメカニズムでは達成できない大きな破壊エネルギーを有する金属繊維複合体を得ることができる。
【0019】
なお、従来用いられていた、あらかじめ伸びと最大引張強度が制御されていない金属繊維であっても、例えば耐火物内に複合された金属繊維が、使用中に熱履歴を受けることにより焼鈍され、本発明で規定する伸びと最大引張強度を有するようになることもある。しかし、金属繊維が所望の特性になるような熱履歴は、当然制御できるものではなく、その熱履歴は耐火物が使用される環境、部位によって異なり、かつ温度履歴も様々であり、理想的な焼鈍条件となる熱履歴が必ずしも得られる訳ではない。金属繊維が使用中の熱履歴によりたまたま焼鈍効果が得られる状態に至るまでは、従来の引き抜き効果による破壊エネルギーが主体となる。よってそのような場合は、本発明によるメカニズムが常に発現される訳ではないことは自明である。
【0020】
これに対して本発明では、金属繊維の添加時に既にその伸びと最大引張強度が制御されているため、上述した延性及び加工硬化のメカニズムによる破壊エネルギー増大効果が、金属繊維が耐熱性において有効な全温度領域にわたって安定して得られる。特に不焼成耐火物やセメントをバインダーとする不定形耐火物では、その強度が低下する110℃〜800℃での強度維持あるいは破壊エネルギー増大が重要な課題となるが、本発明によれば、その温度領域でも、延性と加工硬化による破壊エネルギー増大が確保され、従来品と比べて大幅に耐熱衝撃性を向上させることができる。
【0021】
以上のとおり、金属繊維の延性及び加工硬化のメカニズムによる破壊エネルギー増大効果を最大限に発揮するためには、あらかじめ金属繊維の伸びと最大引張強度を特定値以上に制御しておくことが重要である。そして、その具体的な数値としては、後述する実施例による検証等により、伸びは10%以上、好ましくは30%以上、最大引張強度は350MPa以上が必要であることが判明した。
【0022】
このようにあらかじめ伸びと最大引張強度を制御した金属繊維を添加することで、その金属繊維が有する延性と加工硬化のメカニズムにより、金属繊維が耐えられる1100℃〜1200℃の最大温度まで、特に耐火物内の金属繊維に焼鈍効果が得られにくい800℃以下の温度領域にて、破壊エネルギー増大効果を確実に発揮できる。
【0023】
ここで、本発明は、金属繊維の延性と加工硬化のメカニズムにより破壊エネルギーを増大させるものであることから、金属繊維の表面が滑らかで引き抜けやすいと、その延性、加工硬化による効果が十分に得られないことがある。この点から金属繊維は、その表面粗さRaが0.1μm以上、かつ最大高さRzが1.3μm以上であることが好ましい。金属繊維の表面粗さRaは0.2μm以上であることがより好ましく、表面粗さRaが3μmあれば付着は強固となり、金属繊維が破断するまでの破断エネルギーを金属繊維複合体の破壊エネルギーに転嫁できる。このように本発明では、金属繊維を引き抜けにくくするために、金属繊維の表面粗さRa及び最大高さRzを特定することが好ましいが、例えば金属繊維の形状の変更によっても金属繊維を引き抜けにくくすることはできるので、本発明において金属繊維の表面粗さRa及び最大高さRzの特定は、必須の要件ではない。
【0024】
また発明者は、後述する金属繊維の引き抜き試験を通じて新たな知見を得た。すなわち、金属繊維の表面粗さRaを0.2〜3μm、好ましくは0.5〜3μm、かつ最大高さRzを1.5μm以上14μm以下とすることで、上述した延性及び加工硬化による金属繊維自体の破断エネルギーのみならず、金属繊維の引き抜き効果も加算できることを見いだした。
【0025】
ここで、伸びと最大引張強度があらかじめ制御された本発明による金属繊維では、従来の単なる引き抜き効果とは異なり、発生したクラック面内に存在する金属繊維に荷重が載荷され、延性による伸びが発生する。伸びにより加工硬化現象が発生し、クラック面間の金属繊維の強度上昇及び伸びによる繊維径(断面積)の減少が生じる。また同時にクラック面近傍の金属繊維が埋め込まれた微小領域では、クラック面間に存在する金属繊維の加工硬化が伝搬し、同様に強度上昇及び繊維径の減少が生じる。この時、繊維が埋め込まれている全長にわたって剥離が生じて引き抜けるという従来のメカニズムとは異なり、このクラック面近傍の埋め込まれた繊維径が減少した微小領域では、マトリックスと繊維の剥離が生じやすくなり、かつ剥離した部位が摩擦による抵抗に置き換わるとともに、加工硬化による強度上昇と、断面積低減が同時に進行する。この作用は、さらにこのクラック発生面近傍の微小領域から、クラック発生面に対してさらに奥深く、まだマトリックスと繊維が付着している微小領域に伝搬・作用し、同様に加工硬化による強度向上と断面積減少、そしてそれに伴う剥離発生し、摩擦力の抵抗が発生し、順次クラック発生面から金属繊維が埋設された奥方向へ作用が伝搬してゆき、最終的には引き抜けるが、単純な引き抜きとは異なる以上説明したような現象が発生し、延性及び加工硬化に加え、付着後の摩擦力も加わって、従来のメカニズム以上の効果が得られると考えられる。
【発明の効果】
【0026】
以上のとおり本発明によれば、従来にない大きな破壊エネルギーを有するコンクリートあるいは耐火物等の金属繊維複合体を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
図1】金属繊維の一軸引張試験で得られた応力(MPa)−伸び(%)線図の一例を示す。
図2】三点曲げ試験で得られた荷重−変位曲線の一例を示す。
図3】表1のNo.27,29,31〜33の引き抜き試験により得られた応力(MPa)−変位曲線を示す。
図4図3に示したサンプルの三点曲げ試験により得られた荷重−変位曲線を示す。
【発明を実施するための形態】
【0028】
本発明の金属繊維複合体は、あらかじめ、伸び、最大引張強度、表面粗さ等を制御した金属繊維を耐火物やコンクリート等の原料に添加し混合することにより得られる。
【0029】
金属繊維の伸びと最大引張強度は、適切な材質を選択し、必要に応じて適切な熱処理を施すことにより制御できる。また、金属繊維の表面粗さは、薄板せん断法による金属繊維においては、繊維素材となる薄板の事前の表面粗さとせん断治具の表面粗さ、形状、また線材切断法においては、伸線処理する際のダイス等による表面粗さの制御、又はコイル状線材、切断後の線材を電融アルミナ微粉などの研磨粉体の流動層内に投入するなどの表面粗さ制御法により制御できる。
【0030】
本発明において金属繊維の材質は、伸びが10%以上、最大引張強度が350MPa以上という本発明の要件及び特に耐火物用の場合は耐熱性を考慮すると、ステンレス鋼が好適であり、ステンレス鋼の中でも延性と加工硬化に富むSUS304等のオーステナイト系ステンレス鋼が最適である。
【0031】
金属繊維の添加及び混合方法自体は従来と同じである。金属繊維の添加量も従来と同等であり、一般的にはその添加量は0.2〜10質量%程度が適正である。金属繊維の添加量が10質量%を超えるとファイバーボールが形成されやすくなり、金属繊維が均一に分散されず、破壊エネルギーが低下し強度も低下する傾向となる。
【0032】
金属繊維の長さや形状及びその組み合わせについても従来技術を適用することができる。これらの従来技術を適用することにより従来技術と同様の効果が得られるにとどまらず、本発明の特徴と相まってより大きな効果が得られる。
【0033】
本発明の金属繊維複合体は、耐火物又はコンクリートに好適に適用され、特に不定形耐火物や不焼成定形耐火物に好適に適用される。
【実施例】
【0034】
(実施例1)
表1に示す各種金属繊維について、伸び、最大引張強度、破断エネルギー、表面粗さRa及び最大高さRzを評価した。また、これらの金属繊維を添加した金属繊維複合体(不定形耐火物)について金属繊維の引き抜き試験を行うとともに破壊エネルギー及び耐熱衝撃性を評価した。これらの評価結果を併せて表1に示す。
【0035】
【表1】
【0036】
まず、表1に示した評価項目の評価方法を説明する。
【0037】
1.金属繊維の伸び、最大引張強度及び破断エネルギー
金属繊維の伸び、最大引張強度及び破断エネルギーは一軸引張試験により評価した。一軸引張試験には、島津製作所製マイクロオートグラフを用いた。試験有効長は10mmとし、両端の保持はチャック治具にて金属繊維を挟み付けて保持した。引張速度は1mm/minとし、100msecでデータを採取し、荷重が最大となった点を最大荷重とした。金属繊維の伸びは、最大荷重時の伸び(以下、単に「伸び」ともいう。)として評価した。この伸びは、次式により%換算した。
伸び=計測中のクロスヘッド移動量(mm)/試験有効長(10mm)×100%
【0038】
また、最大荷重を試験前繊維断面積で割ることで最大引張強度(MPa)を求めた。試験前繊維断面積は、繊維重量と長さ、及び密度の理論値より計算により求めた。金属繊維の破断エネルギーは、一軸引張試験で得られる応力(MPa)−伸び(mm)曲線で囲まれる面積から求めた。すなわち、当該面積(N・mm)を試験前繊維断面積(mm)で割ったものが破断エネルギーであり、単位はN/mmである。
【0039】
なお、一軸引張試験において、チャック部根元で破断したものは異常と見なして除外し、試験有効長の範囲内で破断したものを正常と見なし、正常に測定できた9回の平均値を表1に示した。
【0040】
2.金属繊維の表面粗さRa及び最大高さRz
金属繊維の表面粗さRa及び最大高さRzは、「JIS B 0601:2001」に準拠して評価した。
【0041】
3.破壊エネルギー
金属繊維複合体(不定形耐火物)の破壊エネルギーは、三点曲げ試験により評価した。三点曲げ試験では、取鍋用湯当たりブロックを想定した表2に示すアルミナ−マグネシア不定形耐火物に、表1の各金属繊維を2.4質量%外掛けで添加し、水分を外掛けで4.85質量%添加し混練した後、40×40×160mmの型に鋳込み、110℃一昼夜乾燥後、所定の温度及び時間で加熱したものを、一度常温に戻した後、三点曲げ試験に供した。所定の温度及び時間は、表1中の加熱温度(℃)×保持時間(h)に示す。試験条件は、下部の支点間距離を140mm、載荷速度を1mm/minとし、クロスヘッド変位を変位量とし、荷重と変位量を計測した。得られた荷重−変位曲線で囲まれた面積を、破壊に要したエネルギーと見なし、この値を試料断面積×2(40×40mm×2)で割った値を破壊エネルギーと定義した。なお、荷重−変位曲線で囲まれた面積の計算は変位7mmまでとし、7mmを超える変位の領域は計算に含めなかった。変位が7mmを超えると、曲げ試験治具がサンプルと干渉し正確なデータがとれなかったためである。
【0042】
【表2】
【0043】
4.耐熱衝撃性
金属繊維複合体(不定形耐火物)の耐熱衝撃性(耐スポーリング性)は、浸漬スポーリング試験により評価した。浸漬スポーリング試験では、高周波炉で銑鉄を溶解し1650℃に保持した溶銑の中に、40×40×160mmのサンプルを浸漬し5分間保持後取り出し、冷風を吹きかけ空冷急冷した。放置時間は、60分以上とした。これを耐火物が折損するまで繰り返した。
【0044】
5.金属繊維の引き抜き試験
表2に示すアルミナ−マグネシア不定形耐火物に、表1中のNo.26〜No.33の各金属繊維を2.4質量%外掛けで添加し、水分を外掛けで4.85質量%添加し混練した後、40mm立方の型枠を用い、型枠の底に厚さ10mmの発泡スチロールを敷き、その中心に金属繊維を20mmにカットしたものを1本、直角に差し込み、その状態で鋳込み成形し金属繊維の引き抜き試験サンプルを得た。したがって金属繊維は10mm鋳込み体の中に埋め込まれた状態となる。これらのサンプルを1000℃で3時間加熱し、常温に戻ったものについて引き抜き試験を実施した。具体的には、40mm立方の型枠に金属繊維を埋め込んだサンプルから飛び出している金属繊維を、金属繊維の一軸引張試験で用いたチャック治具と同一のものを使用し、鋳込み面から1〜1.2mm上部をチャックした。上部をチャックした状態で、繊維垂直方向と一軸引張試験の荷重方向を一致させた後、40mm角の鋳込み体をチャックし、金属繊維の一軸引張試験で使用したものと同一のマイクロオートグラフを用いて、引張速度1mm/minで引張試験を実施した。
【0045】
なお、表1中の断面(mm)×長さ(mm)における0.5mm角は、1辺当りが0.5mmの正四角形あるいは平行四辺形を示すが、角が少し丸みを帯びた正四角形でない形状や、各々の辺が直線でないものも含むものとする。また、φ0.5mmは、断面が丸形状のものを示す。
【0046】
以下、表1に示す評価結果について説明する。
【0047】
まず、「金属繊維の伸び及び最大引張強度」と「金属繊維複合体(不定形耐火物)の破壊エネルギー及び耐熱衝撃性」との関係について説明する。
【0048】
表1より、金属繊維の伸び及び最大引張強度について本発明の要件(伸び:10%以上、最大引張強度:350MPa以上)を満たす実施例はいずれも、比較例に比べ破壊エネルギーが大きく、耐熱衝撃性も良好であった。
【0049】
金属繊維の伸びについては、SUS304系では、伸びが5.5%(最大引張強度:806MPa)であるNo.1(典型的な従来品)に比べ、伸びが10.1%(最大引張強度:823MPa)であるNo.2は破壊エネルギーが約28%増大し、伸びが13.2%(最大引張強度:844MPa)であるNo.3は破壊エネルギーが約43%増大し、伸びが35.1%(最大引張強度:752MPa)であるNo.4はさらに破壊エネルギーが増大した。また、SUS430系では、伸びが7%(最大引張強度:480MPa)であるNo.10に比べ、伸びが10%(最大引張強度:480MPa)であるNo.11及び伸びが14.5%(最大引張強度:470MPa)であるNo.12は、破壊エネルギーが約28%増大した。
【0050】
このように、同一形状で最大引張強度が近似する金属繊維について伸びを変えたときの破壊エネルギーの評価結果、及び耐熱衝撃性の評価結果を総合的に考慮すると、上述した本発明の破壊エネルギー増大メカニズムを有効に発現させるには、金属繊維の伸びは10%以上とする必要があり、30%以上とすることが好ましいと判断された。
【0051】
金属繊維の最大引張強度については、No.25のように最大引張強度が低いと、本発明の破壊エネルギー増大メカニズムによる破壊エネルギー増大効果は得られない。最大引張強度が360MPaのNo.24では本発明による破壊エネルギー増大効果が得られていることを勘案すると、本発明の破壊エネルギー増大メカニズムを有効に発現させるには、金属繊維の最大引張強度は350MPa以上とする必要があると判断された。
【0052】
また、表1より、「金属繊維の伸び及び最大引張強度」が増大すると、「金属繊維の破断エネルギー」及び「金属繊維複合体(不定形耐火物)の破壊エネルギー」が比例的に増大することがわかる。これを視覚的に示すと図1及び図2のとおりである。
【0053】
すなわち、図1は金属繊維の一軸引張試験で得られた応力−伸び曲線の一例を示し、図2は三点曲げ試験で得られた荷重−変位曲線の一例を示す。図1及び図2中の「No.」は、表1の「No.」に対応する。また、上述のとおり図1の曲線に囲まれた面積が破断エネルギーを表し、図2の曲線に囲まれた面積が破壊エネルギーを表す。
【0054】
図1及び図2からも、「金属繊維の伸び及び最大引張強度」が増大すると、「金属繊維の破断エネルギー」及び「金属繊維複合体(不定形耐火物)の破壊エネルギー」が比例的に増大することがわかる。これは、本発明による破壊エネルギー増大効果、すなわち金属繊維の延性及び加工硬化のメカニズムによる破壊エネルギー増大効果を示すものである。
【0055】
次に、「金属繊維の表面粗さRa,Rz」と「金属繊維複合体(不定形耐火物)の破壊エネルギー及び耐熱衝撃性」との関係について説明する。
【0056】
上述のとおり、本発明は、金属繊維の延性と加工硬化のメカニズムにより破壊エネルギーを増大させるものであることから、金属繊維の表面が滑らかで引き抜けやすいと、その延性、加工硬化による効果が十分に得られないことがある。この点から表1の評価結果を見ると、No.14は、No.1に比べ金属繊維の最大引張強度が大きく破断エネルギーも大きいが、表面粗さが小さいこともあり、耐火物としての破壊エネルギーの増大は見られなかった。また、No.18等の評価結果も考慮すると、金属繊維の表面粗さRaは0.1μm以上、最大高さRzは1.3μm以上であることが好ましいと判断された。
【0057】
続いて金属繊維の引き抜き試験結果を説明する。図3は、表1のNo.27、29、31〜33の引き抜き試験により得られた応力−変位曲線を示す。また、図4は、これらのサンプルの三点曲げ試験により得られた荷重−変位曲線を示す。また、引き抜き試験により得られた応力−変位曲線に囲まれた面積を「引き抜きエネルギー」と定義し、表1で用いた繊維の繊維破断エネルギー及び三点曲げの破壊エネルギーを再掲し、引き抜き試験で得られた引き抜きエネルギーをあわせて表3に示す。
【0058】
【表3】
【0059】
図3より、金属繊維の表面粗さが大きいNo.27(Ra:4μm、Rz:15.6μm)については、金属繊維は引き抜けることなく破断していることがわかる。一方、金属繊維の表面粗さが小さいNo.33(Ra:0.14μm,Rz:1.2μm)は、金属繊維が引き抜けやすいことがわかる。そして、金属繊維の表面粗さが中間レベルであるNo.29,31,32については、金属繊維が引き抜けながら伸びていることがわかる。
【0060】
すなわち、図3図4及び表3より、金属繊維の表面粗さを適正な範囲に制御することで、上述した延性及び加工硬化による金属繊維自体の破断エネルギーのみならず、金属繊維の引き抜き効果(引き抜きエネルギー)も加算され、トータルとしての破壊エネルギーを増大できることが新たにわかった。具体的な表面粗さの適正な範囲については、表面粗さRaが0.2μm以上3μm以下、最大高さRzが1.5μm以上14μm以下であると判断された。
【0061】
以上のとおり、本発明によれば、従来にない新たなメカニズムにより金属繊維複合体の破壊エネルギーを増大させることができる。このことは言い換えれば、従来より少量の金属繊維の添加により、十分な破壊エネルギーを実現できるということである。すなわち、従来は破壊エネルギーを増大させるために金属繊維を多量添加するとファイバーボールが形成され、金属繊維が均一に分散されないという問題を生じていたが、本発明によればこのような問題を回避しつつ破壊エネルギーを増大させることができる。
【0062】
(実施例2)
本発明の効果を確認するため、ランス用を想定した表4に示すムライト質不定形耐火物において実施例1と同様に耐火物の破壊エネルギーを評価した。その結果を表5に示す。同様に、RH浸漬管用を想定した表6に示すアルミナ−スピネル質不定形耐火物において耐火物の破壊エネルギーを評価した。その結果を表7に示す。なお、表5及び表7に示す金属繊維の「No.」は、表1の金属繊維の「No.」に対応する。
【0063】
破壊エネルギーの評価においては、表4に示すムライト質不定形耐火物では、同表に示す配合に各金属繊維を5質量%外掛けで添加し、水分を外掛けで4.85質量%添加し混練した後、350℃、12時間で熱処理し、常温に戻したサンプルを三点曲げ試験に供した。また、表6に示すムライト質不定形耐火物においては、同表に示す配合に各金属繊維を5.2質量%外掛けで添加し、水分を外掛けで4質量%添加し混練した後、350℃で熱処理し、常温に戻したサンプルを三点曲げ試験に供した。
【0064】
表5及び表7より、本発明の実施例では、上記実施例1と同様に破壊エネルギー増大効果が得られていることがわかる。
【0065】
【表4】
【0066】
【表5】
【0067】
【表6】
【0068】
【表7】
図1
図2
図3
図4