(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6204092
(24)【登録日】2017年9月8日
(45)【発行日】2017年9月27日
(54)【発明の名称】補強構造体の製造方法
(51)【国際特許分類】
B29C 70/88 20060101AFI20170914BHJP
B29C 70/06 20060101ALI20170914BHJP
B64C 1/00 20060101ALI20170914BHJP
B64F 5/10 20170101ALI20170914BHJP
B64C 3/26 20060101ALI20170914BHJP
B64D 45/02 20060101ALI20170914BHJP
B29K 105/08 20060101ALN20170914BHJP
B29L 31/30 20060101ALN20170914BHJP
【FI】
B29C70/88
B29C70/06
B64C1/00 B
B64F5/10
B64C3/26
B64D45/02
B29K105:08
B29L31:30
【請求項の数】5
【全頁数】9
(21)【出願番号】特願2013-146641(P2013-146641)
(22)【出願日】2013年7月12日
(65)【公開番号】特開2015-16660(P2015-16660A)
(43)【公開日】2015年1月29日
【審査請求日】2016年7月8日
(73)【特許権者】
【識別番号】000006208
【氏名又は名称】三菱重工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100102864
【弁理士】
【氏名又は名称】工藤 実
(74)【代理人】
【識別番号】100117617
【弁理士】
【氏名又は名称】中尾 圭策
(72)【発明者】
【氏名】山森 卓
【審査官】
長谷部 智寿
(56)【参考文献】
【文献】
特表2010−523357(JP,A)
【文献】
米国特許出願公開第2008/0128430(US,A1)
【文献】
特開2012−162147(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B29C 70/00−70/88
B64C 1/00
B64C 3/26
B64D 45/02
B64F 5/10
B29K 105/08
B29L 31/30
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
板部分を有し、複合材で形成された硬化されたストリンガーを準備する工程と、ここで、前記板部分は、スキンに接着される接着面と、前記ストリンガーの長手方向に沿って延びる側端面としての繊維露出面とを有し、前記繊維露出面は、前記接着面と交差する面を持つように形成され、
前記接着面から離れた側の前記繊維露出面の一部を覆うように、導電性保護材を配置する工程と、前記導電性保護材は、樹脂成分と導電性繊維成分を有する複合材を備え、
前記導電性保護材から離れるように、前記ストリンガーの前記板部分の前記接着面に接着剤を塗布する工程と、
未硬化の樹脂成分を有する前記スキン上に、前記ストリンガーを前記接着剤で接着する工程と、
前記ストリンガーが接着された前記スキンと、前記導電性保護材と、前記接着剤とを同時に硬化させて前記導電性保護材と前記接着剤で前記繊維露出面を覆う工程と
を具備する
補強構造体の製造方法。
【請求項2】
請求項1に記載された補強構造体の製造方法であって、
前記繊維成分は、炭素繊維を含んでいる
補強構造体の製造方法。
【請求項3】
請求項1又は2に記載された補強構造体の製造方法であって、
前記ストリンガーを準備する工程は、
硬化済みの炭素繊維強化プラスチック材を準備する工程と、
前記硬化済みの炭素繊維強化プラスチック材の一部を加工することにより、前記ストリンガーを得る工程と
を含んでいる
補強構造体の製造方法。
【請求項4】
請求項1乃至3のいずれか一項に記載された補強構造体の製造方法であって、
前記スキンは、炭素繊維強化プラスチック材を含んでいる
補強構造体の製造方法。
【請求項5】
請求項1乃至4のいずれか一項に記載された補強構造体の製造方法であって、
前記スキンを硬化させる工程は、熱及び圧力により、前記スキン及び前記導電性保護材を硬化させる工程を含んでいる
補強構造体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、補強構造体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
航空機の主翼部材などには、スキン(外板)として、繊維成分と樹脂成分とが組み合わされた繊維強化複合材料(例えば、炭素繊維強化プラスチック;CFRP)が用いられる場合がある。スキンには、強度を高める為、ストリンガー(縦貫材)が取り付けられる場合がある。ストリンガーが取り付けられたスキンは、以下、補強構造体と称される。ストリンガーとしても、スキンと同様に、繊維強化複合材料が用いられる場合がある。
【0003】
補強構造体の製造時には、硬化済みのストリンガーが、未硬化のスキン上に接着剤を介して配置させられる。次いで、熱及び圧力などにより、スキンが硬化させられ、ストリンガーがスキンに一体に接合させられる。
【0004】
ここで、硬化済みのストリンガーは、寸法の調整などのため、スキン上に配置される前に加工される場合がある。加工が行われた場合、加工面において、繊維成分が露出する。すなわち、ストリンガーの一部に、繊維露出面が形成される。補強構造体には、運用時に、電流又は電圧が加えられる場合がある。例えば、航空機の主翼部材として用いられる場合、雷などにより、雷電流又は高電圧が付加される場合がある。これにより、繊維露出面においてエッジグローが生じる場合がある。
【0005】
エッジグローを防止するための技術が、特許文献1(米国特許公開公報US2008/0128430)に開示されている。特許文献1には、繊維露出面に熱硬化性樹脂を有するエッジシールを適用する点、適用したエッジシールを硬化させる点、及びエッジシールが炭素繊維を含む点などが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】米国特許公開公報US2008/0128430
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1に記載されるように、繊維露出面をエッジシールによりシールする場合、熱硬化性樹脂層を硬化させる工程が必要となる。そのため、製造工程が増加してしまう。
【0008】
一方、ストリンガーをスキンに接着し、スキンを硬化させた後に、繊維露出面にゴム材などのシール材を適用することも考えられる。しかし、この場合においても、シール材を適用するために製造工程が増加する。また、部品点数も増加してしまう。
【0009】
そこで、本発明の課題は、製造工程を増加させることなく、エッジグローを防止することができる、補強構造体の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の一実施形態に係る補強構造体の製造方法は、繊維露出面を有するストリンガーを準備する工程と、繊維露出面の少なくとも一部を覆うように、導電性保護材を配置する工程と、未硬化の樹脂成分を有するスキン上に、ストリンガーを配置する工程と、ストリンガーを配置する工程の後に、前記スキンを硬化させる工程とを備える。導電性保護材は、樹脂成分と導電性の繊維成分とが組み合わされた複合材料を有している。スキンを硬化させる工程は、スキンと導電性保護材とを同時に硬化させる工程を含んでいる。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、製造工程を増加させることなく、エッジグローを防止することができる、補強構造体の製造方法が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】
図1は、第1の実施形態に係る補強構造体が適用された主翼部材を示す概略断面図である。
【
図2】
図2は、補強構造体を示す概略断面図である。
【
図3】
図3は、補強構造体の製造方法を示すフローチャートである。
【
図4】
図4は、製造過程における補強構造体を示す概略断面図である。
【
図5】
図5は、製造過程における補強構造体を示す概略断面図である。
【
図6】
図6は、製造過程における補強構造体を示す概略断面図である。
【
図7】
図7は、製造過程における補強構造体を示す概略断面図である。
【
図8】
図8は、製造過程における補強構造体を示す概略断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
(第1の実施形態)
以下、図面を参照しつつ、実施形態について説明する。
【0014】
図1は、本実施形態に係る補強構造体1が適用された主翼部材20を示す概略断面図である。
図1に示されるように、主翼部材20は、一対のスキン2(2−1、2−2)、及びスパー16を有している。スパー16は、スキン2−1とスキン2−2との間に配置されている。スキン2−1、スキン2−2、及びスパー16により囲まれた領域により、燃料タンク15が形成されている。また、スキン2には、ストリンガー3が接合されており、これによって補強構造体1が構成されている。すなわち、補強構造体1は、スキン2及びストリンガー3を含んでいる。
【0015】
スキン2及びストリンガー3としては、それぞれ、繊維強化複合材が用いられる。本実施形態では、繊維強化複合材として、繊維成分と熱硬化性の樹脂成分とが組み合わされた材料が用いられる。例えば、繊維強化複合材としては、炭素繊維強化プラスチック材が用いられる。
【0016】
ここで、ストリンガー3に繊維露出面が存在していると、既述のようにエッジグローが生じる場合がある。繊維露出面が燃料タンク15内に存在する場合、エッジグローにより、燃料に着火する可能性がある。従って、燃料タンク15内に配置されるストリンガー3に対しては、エッジグローの防止が特に求められる。
【0017】
図2は、補強構造体1を示す概略断面図である。上述のように、補強構造体1は、スキン2、及びストリンガー3を有している。
【0018】
ストリンガー3は、板部分4を有している。板部分4は、接着面5及び端面6を有しており、接着面5においてスキン2に接合されている。端面6は、ストリンガー3の硬化後に加工された部分であり、繊維露出面となっている。
【0019】
ストリンガー3には、端面6を覆うように、保護層8が設けられている。保護層8が設けられていることにより、繊維露出面において露出した繊維成分が保護される。これにより、エッジグロー放電が防止される。
【0020】
続いて、本実施形態に係る補強構造体1の製造方法を説明する。
図3は、補強構造体1の製造方法を示すフローチャートである。
【0021】
ステップS1:ストリンガーの準備
まず、硬化済みのストリンガー3が準備される。ストリンガー3は、既述のように、繊維成分と樹脂成分とを含んでおり、繊維成分は樹脂成分に含浸されている。ストリンガー3の表面は樹脂成分に覆われている。硬化済みのストリンガー3は、寸法の調整などを目的として、加工される。本実施形態では、端面6が加工される。これにより、端面6が繊維露出面になる。
【0022】
ステップS2;導電性保護材の配置
次いで、
図4に示されるように、ストリンガー3に、導電性保護材9が適用(配置)される。導電性保護材9は、端面6の少なくとも一部を覆うように、貼り付けられる。
【0023】
導電性保護材9としては、未硬化の熱硬化性樹脂成分13と導電性の繊維成分14とが組み合わされた複合材料が好適に用いられる。具体的には、本実施形態では、繊維成分14として、炭素繊維成分が用いられる。すなわち、導電性保護材9として、未硬化の炭素繊維強化プラスチック材が用いられる。
【0024】
図5は、端面6の構成を示す概略断面図である。本ステップでは、導電性保護材9は、導電性保護材9と接着面5とが離隔するように、端面6の一部にのみ貼り付けられる。言い換えれば、導電性保護材9は、端面6に被覆領域12−1と露出領域12−2とが形成されるように、貼り付けられる。被覆領域12−1は、導電性保護材9によって被覆された領域である。一方、露出領域12−2は、端面6が露出した領域である。露出領域12−2は、被覆領域12−1と接着面5との間に設けられる。
【0025】
尚、露出領域12−2は、後述する流れ出した接着剤10により覆われるような領域に、設定される。
【0026】
ステップS3;スキン上にストリンガーを配置
続いて、
図6に示されるように、ストリンガー3が未硬化のスキン2上に配置される。具体的には、まず、接着面5に接着剤10が適用される。その後、接着面5がスキン2に接着するように、ストリンガー3がスキン2上に配置させられる。
【0027】
尚、接着剤10としては、熱硬化性樹脂シートが好適に用いられる。
【0028】
ステップS4;硬化
次いで、スキン2及び導電性保護材9が同時に硬化させられる。すなわち、スキン2及び導電性保護材9のそれぞれの樹脂成分が、同時に硬化させられる。スキン2及び導電性保護材9は、例えば、熱及び圧力により、硬化させられる。この際、接着剤10も硬化させられる。これにより、ストリンガー3がスキン2に一体に結合し、補強構造体1が得られる。
【0029】
硬化時には、接着剤10が、板部分4の端部から流れ出す。その結果、
図7に示されるように、流れ出た接着剤10により、端面6における露出領域12−2が覆われる。すなわち、導電性保護材9及び接着剤10により端面6が覆われ、保護層8が形成される。接着剤10の流れ出しは、通常であれば、後工程における作業の障害となりうるが、本実施形態では、その流れ出しが逆に利用される。
【0030】
以上説明した方法により、本実施形態に係る補強構造体1が得られる。この補強構造体1では、繊維露出面(端面6)における被覆領域12−1が、導電性保護材9により、保護されている。そのため、補強構造体1に電気エネルギーが付与された場合であっても、スパークする前に、電気エネルギーが導電性保護材9に逃がされる。また、露出領域12−2は、接着剤10により絶縁されている。従って、エッジグローが防止される。
【0031】
また、本実施形態によれば、導電性保護材9の硬化と、スキン2の硬化とが、同一工程で行われる。導電性保護材9を硬化させる為の工程を新たに追加することなく、繊維露出面(端面6)をシールすることが可能となる。すなわち、製造工程を増加させることなく、エッジグローを防止することができる補強構造体が得られる。
【0032】
また、本実施形態によれば、ステップS2において、導電性保護材9と接着面5とが離隔するように、端面6の一部にのみ導電性保護材9が貼り付けられる。これにより、導電性保護材9に含まれる繊維成分が、接着面5とスキン2との間に混入することが防止される。導電性保護材9の種類によっては、繊維成分の混入により、補強構造体1の強度が低下することがある。これに対し、本実施形態によれば、繊維成分の混入が防止されるので、補強構造体1の強度の低下が防止される。
【0033】
尚、本実施形態では、導電性保護材9として、炭素繊維強化プラスチック材が用いられる場合について説明した。炭素繊維強化プラスチック材は、高い強度を有している。従って、仮に繊維成分である炭素繊維が接着面5とスキン2との間に混入した場合であっても、補強構造体1の強度は低下しない。この観点から、導電性保護材9としては、炭素繊維強化プラスチック材が好ましく用いられる。
【0034】
但し、導電性保護材9としては、必ずしも炭素繊維強化プラスチック材が用いられる必要はなく、熱硬化性の樹脂成分13と導電性の繊維成分14とが組み合わされた複合材料であれば、他の材料を用いることも可能である。特に、繊維露出面を絶縁性の材料で被覆する場合と比較すると、本実施形態では、導電性保護材9が用いられるため、材料の選択肢を広げることが可能である。
【0035】
また、本実施形態において、「導電性の繊維成分14」には、半導体も含まれる。例えば、導電性保護材9に含まれる繊維成分14としては、炭素繊維の他に、半導体であるSiC繊維などを用いることも可能である。
【0036】
尚、本実施形態では、主翼部材20の燃料タンク15に適用される補強構造体1について説明した。但し、補強構造体1は、必ずしも燃料タンク15に用いられるものである必要はなく、エッジグローを防止する必要があれば、他の用途にも好適に用いることができる。
【0037】
また、スキン2に含まれる樹脂成分、ストリンガー3に含まれる樹脂成分、導電性保護材9に含まれる樹脂成分13、及び接着剤10は、同一成分であることが好ましい。これらの成分が同一であることにより、各部分の物理的性質が近くなり、補強構造体1全体の強度を高めることができる。これらの樹脂成分としては、例えば、エポキシ系樹脂、及びアクリル系樹脂などを用いることが可能である。
【0038】
また、本実施形態では、導電性保護材9がストリンガー3に適用された後に(ステップS2の後に)、ストリンガー3がスキン2上に配置される。但し、導電性保護材9は、ストリンガー3がスキン2上に配置された後に、ストリンガー3に適用されてもよい。この場合であっても、スキン2と導電性保護材9とを同一工程で硬化させることが可能である。
【0039】
(第2の実施形態)
続いて、第2の実施形態について説明する。本実施形態では、第1の実施形態と比較し、導電性保護材9の適用位置が変更されている。その他の点については、第1の実施形態と同様の構成を採用することができるので、詳細な説明は省略する。
【0040】
本実施形態では、ステップS2において、
図8に示されるように、導電性保護材9が、端面6の全体を覆うように適用される。すなわち、導電性保護材9は、接着面5の一部にも適用される。その後、接着面5に接着剤10が適用され、スキン2上にストリンガー3が配置される(ステップS3)。その後、スキン2及び導電性保護材9が硬化させられる(ステップS4)。
【0041】
本実施形態によれば、繊維露出面(端面6)が導電性保護材9により完全に覆われるため、より確実にエッジグローを防止することが可能になる。
【0042】
尚、本実施形態では、スキン2と板部分4との間の一部に、導電性保護材9が混入することになる。スキン2と板部分4との間に、ガラス繊維などの絶縁材料が混入した場合には、補強構造体1の強度が低下する場合がある。しかしながら、導電性保護材9として、炭素繊維強化プラスチック材などの高強度材料を用いれば、スキン2と板部分4との間に導電性保護材9が混入したとしても、補強構造体1の強度は低下しない。
【0043】
以上、本発明について、第1乃至第3の実施形態を用いて説明した。尚、これらの実施形態は互いに独立するものではなく、矛盾のない範囲内で組み合わせて用いることも可能である。
【符号の説明】
【0044】
1 補強構造体
2(2−1、2−2) スキン
3 ストリンガー
4 板部分
5 接着面
6 端面
7 シール部材
8 保護層
9 導電性保護材
10 接着剤
12−1 被覆領域
12−2 露出領域
13 樹脂成分
14 繊維成分
15 燃料タンク
16 スパー
20 主翼部材