特許第6204130号(P6204130)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 学校法人慶應義塾の特許一覧

特許6204130ペプチド、樹状細胞、細胞傷害性T細胞、白血病ワクチン、及び白血病受動免疫療法剤
<>
  • 特許6204130-ペプチド、樹状細胞、細胞傷害性T細胞、白血病ワクチン、及び白血病受動免疫療法剤 図000003
  • 特許6204130-ペプチド、樹状細胞、細胞傷害性T細胞、白血病ワクチン、及び白血病受動免疫療法剤 図000004
  • 特許6204130-ペプチド、樹状細胞、細胞傷害性T細胞、白血病ワクチン、及び白血病受動免疫療法剤 図000005
  • 特許6204130-ペプチド、樹状細胞、細胞傷害性T細胞、白血病ワクチン、及び白血病受動免疫療法剤 図000006
  • 特許6204130-ペプチド、樹状細胞、細胞傷害性T細胞、白血病ワクチン、及び白血病受動免疫療法剤 図000007
  • 特許6204130-ペプチド、樹状細胞、細胞傷害性T細胞、白血病ワクチン、及び白血病受動免疫療法剤 図000008
  • 特許6204130-ペプチド、樹状細胞、細胞傷害性T細胞、白血病ワクチン、及び白血病受動免疫療法剤 図000009
  • 特許6204130-ペプチド、樹状細胞、細胞傷害性T細胞、白血病ワクチン、及び白血病受動免疫療法剤 図000010
  • 特許6204130-ペプチド、樹状細胞、細胞傷害性T細胞、白血病ワクチン、及び白血病受動免疫療法剤 図000011
  • 特許6204130-ペプチド、樹状細胞、細胞傷害性T細胞、白血病ワクチン、及び白血病受動免疫療法剤 図000012
  • 特許6204130-ペプチド、樹状細胞、細胞傷害性T細胞、白血病ワクチン、及び白血病受動免疫療法剤 図000013
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6204130
(24)【登録日】2017年9月8日
(45)【発行日】2017年9月27日
(54)【発明の名称】ペプチド、樹状細胞、細胞傷害性T細胞、白血病ワクチン、及び白血病受動免疫療法剤
(51)【国際特許分類】
   C07K 7/06 20060101AFI20170914BHJP
   C12N 5/0784 20100101ALI20170914BHJP
   C12N 5/0783 20100101ALI20170914BHJP
   C12N 15/09 20060101ALI20170914BHJP
   A61K 39/00 20060101ALI20170914BHJP
   A61P 35/02 20060101ALI20170914BHJP
   A61K 39/39 20060101ALI20170914BHJP
【FI】
   C07K7/06ZNA
   C12N5/0784
   C12N5/0783
   C12N15/00 A
   A61K39/00 H
   A61P35/02
   A61K39/39
【請求項の数】7
【全頁数】18
(21)【出願番号】特願2013-194119(P2013-194119)
(22)【出願日】2013年9月19日
(65)【公開番号】特開2015-71543(P2015-71543A)
(43)【公開日】2015年4月16日
【審査請求日】2016年8月9日
(31)【優先権主張番号】特願2013-185727(P2013-185727)
(32)【優先日】2013年9月6日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】899000079
【氏名又は名称】学校法人慶應義塾
(74)【代理人】
【識別番号】100106002
【弁理士】
【氏名又は名称】正林 真之
(74)【代理人】
【識別番号】100120891
【弁理士】
【氏名又は名称】林 一好
(72)【発明者】
【氏名】松下 麻衣子
(72)【発明者】
【氏名】河上 裕
(72)【発明者】
【氏名】服部 豊
【審査官】 福間 信子
(56)【参考文献】
【文献】 大塚洋平 他,新規がん抗原PEPP2を用いたペプチドワクチン療法の開発,日本薬学会第133年会,2013年3月,30pmC-383
【文献】 NCBI, RHXF2_HUMAN, ACCESSION No.Q9BQY4, 24-JUL-2013,[retrieved on 2017.06.21],URL,https://www.ncbi.nlm.nih.gov/protein/37537987?sat=17&satkey=37414760
【文献】 Oncology Report, 2011, vol.25, p.469-476
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 15/00−90
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(i)配列番号1のアミノ酸配列、もしくは(ii)配列番号1の2番目アミノ酸がY、W、Mのいずれかに置換され且つ/又は9番目のアミノ酸がF、L、Wのいずれかに置換されたアミノ酸配列、からなる単離されたペプチド。
【請求項2】
求項1記載のペプチドでパルスされた樹状細胞。
【請求項3】
請求項1記載のペプチド又は請求項2記載の樹状細胞を有効成分として含む白血病ワクチン。
【請求項4】
請求項1記載のペプチド又は請求項2記載の樹状細胞に反応する、単離された細胞傷害性T細胞。
【請求項5】
請求項4記載の細胞傷害性T細胞を有効成分として含む白血病受動免疫療法剤。
【請求項6】
脱DNAメチル化剤と併用される、請求項3記載の白血病ワクチン又は請求項5記載の白血病受動免疫療法剤。
【請求項7】
放射線療法又は化学療法後の白血病患者に投与される、請求項3記載の白血病ワクチン又は請求項5記載の白血病受動免疫療法剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ペプチド、樹状細胞、細胞傷害性T細胞、白血病ワクチン、及び白血病受動免疫療法剤に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、がん治療においては分子標的薬を含む薬物療法や、手術療法・放射線治療により予後の改善がなされているが、これらの治療をもってしても再発を来し死に至る症例が存在する。そこで、正常組織には発現していないが癌細胞に高発現している分子を標的として免疫細胞により癌細胞を排除するという免疫療法が、既存の治療法にならぶ第4の治療法として注目を浴びている。
【0003】
免疫療法の標的として、これまでに多くのヒトがん抗原が発見されてきたが、その中にがん精巣抗原(Cancer testis antigen)がある。がん精巣抗原とは、がん細胞と正常組織においては精巣にのみ発現している抗原群であり、MAGE(melanoma antigen)や、NY−ESO−1(New York esophageal squamous cell carcinoma−1)などが知られている(非特許文献1,2)。精巣では抗原をT細胞に提示するHLA(human leukocyte antigen)が存在していないため、T細胞が精巣細胞を攻撃することはない。一方でがん細胞、がん組織においては、産生されたがん抗原蛋白質が、細胞質中でプロテアソームにより分解され、9〜10merのアミノ酸からなるペプチド断片として、HLA classI分子とともに細胞表面に提示される。それらをT細胞が認識し、がん細胞を殺傷する免疫反応が起こる。
【0004】
これにより、がん精巣抗原は、がん細胞特異的な免疫反応を引き起こすことができる。このようにがん精巣抗原を用いてCTLを誘導する治療法は、がん細胞特異的という点から、副作用の少ない理想的な治療法であると考えられており、皮膚悪性黒色腫や非小細胞肺がんなど固形癌患者を対象にした臨床試験が行われている(非特許文献3,4)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】Science. 1991;254:1643−1647.
【非特許文献2】Proc. Natl. Acad. Sci. U.S.A. 1997; 94:1914−1918.
【非特許文献3】Proc. Natl. Acad. Sci. U.S.A. 1997; 97:12198−203
【非特許文献4】Clinical Lung Cancer. 2009; 10: 371−74.
【非特許文献5】Gene. 2002; 301:1−11
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
がん精巣抗原を用いた免疫療法は、白血病を初めとする造血器腫瘍においても有効であると考えられている。しかしながら、白血病細胞に発現する癌精巣抗原は、その一部に限られており、このことが、がん精巣抗原を用いた免疫療法の白血病治療への適用の広がりの制約になっている。
【0007】
ところで、PEPP2遺伝子は、2002年にWayneらにより、マウスのホメオボックス遺伝子であるPem遺伝子のホモログとして報告され、X染色体上に存在する(非特許文献5)。PEPP2は転写因子と推察されるものの、ヒトでの機能の詳細は不明である。また、PEPP2は、正常細胞においては精巣に発現し、また前立腺癌細胞株などにおいても発現していることも報告されている(非特許文献5)。
【0008】
しかし、これらは癌細胞株を用いた検討に基づく報告であって、白血病など癌患者の検体でPEPP2が高発現しているという報告は、ない。また、PEPP2タンパク質において、T細胞に認識されるエピトープも、全く見つかっていない。
【0009】
本発明は、以上の実情に鑑みてなされたものであり、免疫療法の白血病治療への適用に寄与し得る新規な手段及びそのスクリーニング方法の提供を第1の目的とする。また、本発明の第2の目的は、被験者の白血病の病勢を試験する簡便な方法の提供である。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、PEPP2が白血病など癌患者の検体で選択的に高発現し、また、HLAに結合して細胞傷害性T細胞に認識されるエピトープを有することを見出し、本発明を完成するに至った。具体的に、本発明は以下を提供する。
【0011】
(1) (i)配列番号1のアミノ酸配列、もしくは(ii)配列番号1の2番目アミノ酸がY、W、Mのいずれかに置換され且つ/又は9番目のアミノ酸がF、L、Wのいずれかに置換されたアミノ酸配列、からなる単離されたペプチド。
【0012】
(2) (i)(1)記載のペプチド、又は(ii)配列番号2と90%以上の相同性を有するアミノ酸配列からなるタンパク質、でパルスされた樹状細胞。
【0013】
(3) (1)記載のペプチド又は(2)記載の樹状細胞を有効成分として含む白血病ワクチン。
【0014】
(4) (1)記載のペプチド又は(2)記載の樹状細胞に反応する、単離された細胞傷害性T細胞。
【0015】
(5) (4)記載の細胞傷害性T細胞を有効成分として含む白血病受動免疫療法剤。
【0016】
(6) 脱DNAメチル化剤と併用される、(3)記載の白血病ワクチン又は請求項5記載の白血病受動免疫療法剤。
【0017】
(7) 放射線療法又は化学療法後の白血病患者に投与される、(3)記載の白血病ワクチン又は(5)記載の白血病受動免疫療法剤。
【0018】
(8) 配列番号2と90%以上の相同性を有するアミノ酸配列から、HLAとの結合性に基づき、HLAに対するエピトープ配列を選抜する工程を有する、前記エピトープ配列からなる白血病治療のための候補物質のスクリーニング方法。
【0019】
(9) 被験者から採取した血液における、配列番号2と90%以上の相同性を有するアミノ酸配列からなるタンパク質の含有量、又は前記アミノ酸配列をコードする核酸の含有量を測定し、その測定値を、白血病の罹患が疑われる基準としての前記タンパク質又は前記核酸の量と比較することで、前記被験者の白血病の病勢を試験する方法。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、免疫療法の白血病治療への適用に寄与し得る新規な手段及びそのスクリーニング方法が提供される。また、本発明によれば、被験者の白血病の病勢を試験する簡便な方法も提供される。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1】正常な各組織及び各種がん細胞株におけるPEPP2の発現を示す図である。
図2】正常な各組織、急性前骨髄球性白血病(APL)細胞および慢性骨髄性白血病(CML)細胞におけるPEPP2の発現を示す図である。
図3】健常人血液細胞、急性前骨髄球性白血病(APL)患者および慢性骨髄性白血病(CML)患者骨髄におけるPEPP2の発現を示す図である。
図4】白血病幹細胞(CD34+CD38−分画)とそれ以外の細胞(CD34−分画)におけるPEPP2の発現を示す図である。
図5】脱DNAメチル化剤を併用したときの白血病細胞におけるPEPP2の発現変化を示す図である。
図6】脱DNAメチル化剤を併用したときの正常細胞におけるPEPP2の発現変化を示す図である。
図7】PEPP2の各ペプチド断片のHLA−A24:02との結合性を示す図である。
図8図7で選抜された候補物質による細胞傷害活性の誘発効果を示す図である。
図9図8で選抜された候補物質による細胞傷害活性の誘発効果を示す図である。
図10図8で選抜された候補物質の使用量に伴う細胞傷害活性の誘発効果の変化を示す図である。
図11図8で選抜された候補物質の細胞傷害活性を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明の実施形態を説明するが、これが本発明を限定するものではない。
【0023】
本発明は、(i)配列番号1のアミノ酸配列、もしくは(ii)配列番号1の2番目アミノ酸がY、W、Mのいずれかに置換され且つ/又は9番目のアミノ酸がF、L、Wのいずれかに置換されたアミノ酸配列、からなる単離されたペプチドを包含する。
【0024】
後述のとおり、PEPP2は、正常組織では精巣(HLAを有しないので、免疫細胞の攻撃を受けない)で選択的に高発現される一方、白血病細胞株でも高発現することが分かった。しかも、PEPP2は白血病幹細胞でも高発現することが分かり、白血病の再発防止の観点でも、好ましい標的であることが期待される。
【0025】
配列番号1は、このようなPEPP2のヒトタンパク質のアミノ酸配列(配列番号2)中の9アミノ酸配列である。配列番号1のアミノ酸配列からなる単離されたペプチドは、後述のとおり、HLA−A24:02に結合し、細胞傷害性T細胞の標的になるエピトープであることが確認されている。そして、エピトープにおける2番目アミノ酸がチロシン、フェニルアラニン、トリプトファン又はメチオニン、9番目アミノ酸がフェニルアラニン、ロイシン、イソロイシン又はトリプトファンであることが、HLA−A24との結合に重要であることは、一般的に知られている(The Journal of Immunology, 1995, 155: 4307−4312.)。このため、上記各ペプチドは、いずれも、HLA−A24:02に結合し、細胞傷害性T細胞の標的になり得るものである。
【0026】
かかるペプチドは、必要に応じて適宜修飾を含んでもよい。また、ペプチドは、従来のペプチド合成方法に従い、製造されてよい。例えば、固相ペプチド合成法等の有機化学的合成法、あるいは、ペプチドをコードする核酸を調製し、組換えDNA技術を用いて調製することも可能である。また、市販の化学合成装置(例えば、アプライドバイオシステムズ社のペプチド合成装置)による合成も可能である。
【0027】
かかるペプチドは、それ自体が白血病ワクチンの有効成分として用いられ、あるいは、樹状細胞のパルスに用いることもできる。
【0028】
従って、本発明は、上記いずれかのペプチドを有効成分として含む白血病ワクチンも包含する。白血病ワクチンは、経口又は非経口で投与され、その剤型に応じて、上記ペプチドの他、生理学的に許容される担体、賦形剤、あるいは希釈剤等、適宜の任意成分を含んでもよい。また、ワクチンの調製方法は、常法に従えばよい。
【0029】
本発明は、上記のペプチド、又は配列番号2と90%以上の相同性を有するアミノ酸配列からなるタンパク質、でパルスされた樹状細胞も包含する。このような樹状細胞は、患者体内のHLA−A24:02及び配列番号1のペプチド(エピトープ)の複合体に対し反応するT細胞を産生するため、白血病細胞を攻撃することができる。
【0030】
パルスされた樹状細胞の調製は、常法に従えばよい。また、パルスされた樹状細胞は、白血病ワクチンの有効成分として使用される。
【0031】
従って、本発明は、上記のパルスされた樹状細胞を有効成分として含む白血病ワクチンも包含する。白血病ワクチンは、上記樹状細胞の他、適宜の任意成分を含んでもよい。
【0032】
また、本発明は、上記のペプチド又は樹状細胞に反応する、単離された細胞傷害性T細胞も包含する。このような細胞傷害性T細胞は、患者体内のHLA−A24:02及び配列番号1のペプチド(エピトープ)の複合体に対し結合し得るため、白血病細胞を攻撃することができる。
【0033】
細胞傷害性T細胞の調製方法は、常法に従えばよく、例えば、上記のペプチド又は樹状細胞により末梢血リンパ球を刺激して得てもよく、患者体内のHLA−A24:02及び配列番号1のペプチド(エピトープ)に結合するT細胞受容体を遺伝子導入することで得てもよい。
【0034】
細胞傷害性T細胞は、白血病受動免疫療法剤の有効成分として使用される。
【0035】
従って、本発明は、上記の細胞傷害性T細胞を有効成分として含む白血病受動免疫療法剤も包含する。白血病受動免疫療法剤は、経口又は非経口で投与され、その剤型に応じて、上記細胞傷害性T細胞の他、生理学的に許容される担体、賦形剤、あるいは希釈剤等、適宜の任意成分を含んでもよい。
【0036】
上記の白血病ワクチン及び白血病受動免疫療法剤は、広く種々の白血病の治療又は予防に使用することができる。中でも、PEPP2の発現率が高く、本発明の白血病ワクチン及び白血病受動免疫療法剤による治療効果が高確率で期待できる点で、急性骨髄性白血病(特に、急性前骨髄球性白血病)、慢性骨髄性白血病の治療又は予防に好適に使用される。
【0037】
白血病細胞は、PEPP2を基本的に高発現するものであるが、ある確率で、発現が弱い又は発現していない場合がある。そこで、より多くの白血病細胞を標的とする観点で、本発明の白血病ワクチン及び白血病受動免疫療法剤は、脱DNAメチル化剤と併用することが好ましい。後述のとおり、PEPP2の発現が、脱DNAメチル化剤を与えられた白血病細胞では亢進する一方、通常細胞では亢進しないことを本発明者らが発見した。このような脱DNAメチル化剤としては、特に限定されないが、5−アザ−2’−デオキシシチジンが挙げられる。
【0038】
なお、本明細書における併用とは、治療手段として組み合わせて使用されることを指し、同時に投与されること、同経路で投与されることに限定されない。
【0039】
また、PEPP2が白血病幹細胞において特に強い発現を示す場合があることから、本発明の白血病ワクチン及び白血病受動免疫療法剤は、がん幹細胞特異的抗原を標的とした免疫療法に使用することができる。がん幹細胞は、微小残存病変からの白血病の再発原因、転移先での新たな腫瘍形成の原因であり、このような問題を本発明の白血病ワクチン及び白血病受動免疫療法剤は解決することができる。
【0040】
また、化学療法や放射線療法はがん幹細胞から発生した細胞を攻撃できる一方、がん幹細胞は化学療法や放射線療法に抵抗性であるため、本発明の白血病ワクチン及び白血病受動免疫療法剤は化学療法や放射線療法後の白血病患者に投与されることが好ましい。ただし、本発明の白血病ワクチン及び白血病受動免疫療法剤は、がん幹細胞から発生した細胞も攻撃し得るため、化学療法や放射線療法と組み合わせなくてもよい。
【0041】
なお、本発明のペプチドは、少なくともHLA−A24:02に結合することが確認されている。このため、本発明の白血病ワクチン及び白血病受動免疫療法剤は、HLA−A24:02の発現が予め確認された患者に投与されることが好ましい。また、上記患者はPEPP2の発現を予め確認されていることも好ましい。なお、HLA−A24:02は、日本人の約60%が発現するHLA class Iである。ただし、本発明のペプチドはそれ以外のHLAにも結合し得、幅広い患者に投与されてよい。
【0042】
本発明は、白血病治療のための、エピトープ配列からなる候補物質のスクリーニングも包含する。この方法は、配列番号2(ヒトPEPP2のアミノ酸配列)と90%以上の相同性を有するアミノ酸配列(相同性は好ましくは95%以上、より好ましくは100%。あるいはPEPP2の他動物種におけるホモログのアミノ酸配列)から、HLAとの結合性に基づき、HLAに対するエピトープ配列を選抜する工程を有する。前述のとおり、PEPP2が正常組織では精巣で特異的に高発現し、かつ白血病細胞で高発現することから、HLAに結合するエピトープ配列を有するペプチドは、細胞傷害性T細胞の標的になり得る。
【0043】
配列番号1のアミノ酸配列は、HLA−A24:02に結合することに基づき選抜されたエピトープ配列の一つであるが、PEPP2内には、他にも同様の機能を有するアミノ酸配列が存在し得る。また、HLA−A24:02以外のHLA(HLA−A、HLA−B、HLA−C、HLA−DR、HLR−DQ、HLR−DP)に結合することに基づき選抜することも可能である。一般的には、当該候補物質の投与が想定される対象において高確率で発現するHLAを用いることが好ましい。
【0044】
また、この方法は、上記工程で選抜された物質について、上記用いたHLAとの複合体を提示した細胞に対する細胞傷害性T細胞の反応を生じることに基づき、更に選抜する工程を有してもよい。これにより、白血病治療物質としての有用性をより高い確率で保証することができる。同じ観点で、この方法は、候補物質について、他の白血病治療効果又はそれに相関する効果を評価する工程を更に有してもよい。
【0045】
本発明は、被験者の白血病の病勢を試験する方法も包含する。この方法は、被験者から採取した血液における、配列番号2と90%以上の相同性を有するアミノ酸配列からなるタンパク質の含有量、又はこのアミノ酸配列をコードする核酸の含有量を測定し、その測定値を、白血病の罹患が疑われる基準としての前記タンパク質又は核酸の量と比較する工程を有する。前述のとおり、PEPP2は正常血液細胞では発現が小さい又はない(即ち、これが基準になるタンパク質又は核酸の含有量である)ため、この基準に比べて血液中のタンパク質又は核酸の量が有意に高ければ、被験者の白血病への罹患のおそれが疑われる(なお、本発明の試験方法は、診断工程を含むものではない)。
【0046】
また、本発明は、上記試験方法の工程に加え、さらに白血病マーカーを測定し評価する工程を有する診断方法も包含する。
【実施例】
【0047】
(試験例)
本発明者らは、ヒト癌細胞株およびヒト正常組織のパネルを用いてジーンチップ解析により、がんに高発現する遺伝子を網羅的に解析した結果、PEPP2遺伝子が、正常組織の精巣と、急性前骨髄球性白血病(APL)および慢性骨髄性白血病(CML)で高発現していることを見出した(図示せず)。
【0048】
この結果を踏まえ、種々の正常組織、固形腫瘍、造血器腫瘍細胞について、RT−PCR法により、PEPP2遺伝子の発現量を評価することにした。手順は次の通りである。
図1に示される正常な各組織及び各種がん細胞株からIsogen(ニッポンジーン,東京,日本)を用いてRNAを抽出した。具体的には、5.0×10個の細胞を、PBSを用いて250G、5分間の条件で遠心分離し洗浄した。その後、上清を取り除いた沈殿物にIsogen 1mLを加え5分間室温に静置した。次に、クロロホルムを0.2m 加え15秒間撹拌し、室温で3分間静置した。その後、12000G,15分,4℃で遠心し、水相を分離した後、イソプロパノールを0.5mL加え10分間室温に静置し、12000Gで10分間、4℃で遠心した。上清を取り除いた沈殿物に70%エタノールを1mL加えて撹拌し、7500G,5分間,4℃で遠心し、エタノールを捨て沈殿物を風乾した。風乾後、TE bufferを10μL加えて混和して溶解し、トータルRNAストックとした。これを使用するまで、ストックは−80℃で保存した。
【0049】
なお、図1に示される各がん細胞株のうち、ヒト多発性骨髄腫KMS11、KMS21は川崎医科大学衛生学 大槻剛巳教授より供与を受けた。HL60、U937は慶應義塾大学薬学部病態生理学講座 服部豊教授より供与を受けた。ヒト慢性骨髄性白血病細胞株K562,KU812及びヒト急性骨髄性白血病細胞株THP−1、PL21は、HS研究資源バンク(泉南市, 大阪)から購入した。HLA−A24:02遺伝子をHygromycin遺伝子と共に導入したC1RA−24は慶應義塾大学医学部先端医科学研究所細胞情報部門 河上裕教授より供与を受けた。また、急性前骨髄球性白血病細胞株NB4は、慶應義塾大学医学部血液内科 中島秀明准教授より供与を受けた。
【0050】
上記のトータルRNA 2μgを用いてRT−PCR法を行い、cDNAを作成した。この際、用いたプライマーの配列は、下のとおりである。
【0051】
遺伝子:GAPDHの逆転写に用いたプライマー
F−primer:5’−TGAACGGGAAGCTCACTGG−3’
R−primer:5’−TCCACCACCCTGTTGCTGTA−3’
【0052】
遺伝子:PEPP2
F−primer:5’−GGCAAGAAGCATGAATGTGA−3’
R−primer:5’−GGCTGTGGTCCCAGAAGTAA−3’
【0053】
逆転写反応は、下記の組成、条件で行った。トータルRNA 2μgに、DEPC水とランダムプライマーを1μL加えて全量5μLとし、70℃で5分間,その後4℃で5分間置き、ランダムプライマーを加えた。DEPC水 6.5μL, GoScript 5 ×reaction buffer 4μL, MgCl(25mM) 2μL, PCR Nucleotide mix 1μL, RNasin(40U/μL)0.5μL, GoScriptReverse Transcriptase(Promega,Wisconsin,USA)1μLを加え、25℃で5分間(アニーリング)、42℃で60分間(伸長反応)、70℃で15分間(逆転写酵素の失活)の順に、逆転写反応を行い、4℃でcDNA検体を保存した。その後、cDNA1μLをテンプレートとして、PCR反応を行った。
【0054】
作成したcDNAについて、PEPP2、及び内因性コントロールとしてハウスキーピング遺伝子のGAPDHの発現を、PCR法で確認した。具体的には、上記cDNAを2.5mMのdNTPs, 10μMのプライマー及び0.625UのTakara Taq polymerase (Takara Bio,滋賀,日本)を含む25μLのPCR反応液を用い、PEPP2遺伝子については94℃で1分間、60℃で1分間、72℃で1分間を1サイクルとして35サイクルのPCRを行い、GAPDH遺伝子については、94℃で1分間,58℃で2分間,72℃で2分間を1サイクルとし、25サイクルのPCRを行った。このPCR反応により、PEPP2遺伝子においてはエクソン3及びエクソン4を含む191bpの断片が増幅され、GAPDH遺伝子においては、エクソン8及びエクソン9を含む304bpの断片が増幅された。この結果を図1に示す。
【0055】
図1に示されるように、PEPP2は、正常組織では精巣のみに強発現、脳組織にごくわずかな発現があり、一方、癌細胞株では急性前骨髄球性白血病(APL)および慢性骨髄性白血病(CML)に強発現を認めた。なお、脳腫瘍、膀胱癌細胞株に弱い発現は認められた。
【0056】
次に、図1で強発現が確認されたK562(CML)及びNB4株(APL)、並びに対照として健常人2名の血液細胞を用い、4×10/mLの細胞液を、CYTOSPIN4(Thermo Fisher Scientific, Massachusetts, USA )を用いて350rpm,5分間でスライドガラスに固定した。4%パラホルムアルデヒドで20分間固定し、リン酸緩衝生理食塩水に10% Goat Serum(Invitrogen)を1/10希釈で作成したもので5分間洗浄した。0.5% triton X−100(商標) (SIGMA Life Science )で20分間細胞膜を破壊し、上記同様の洗浄をした。10% Goat Serum で30分間ブロッキングした後、1/300希釈したMono Anti−PEPP2 antibody produced in mouse (SIGMA ALDRICH)を4℃で一晩反応させた。洗浄した後、10% Goat SerumにAlexa Fluor Goat−Anti−mouse IgG 1/1000希釈し、室温で2時間処理し、洗浄した。消光防止剤(1mM p−フェニレンジアミン,10mM NaHPO, 90% グリセリン)を滴下し、カバーガラスで封入した。HSオールインワン蛍光顕微鏡BZ−9000(KEYENCE Japan, 大阪、日本)で観察した。この結果を図2に示す。
【0057】
図2に示されるように、健常人の血液細胞では、いずれにもPEPP2タンパク質の発現が確認されなかった一方、K562及びNB4では、いずれも、PEPP2タンパク質の発現が確認された。なお、DAPIにより示される細胞核でPEPP2タンパク質の蛍光が確認され、このことは、従来知られる転写因子としてのPEPP2の機能とも整合する。
【0058】
次に、複数のAPL患者及びCML患者から骨髄血を採取するとともに、HLA−A24:02陽性の健常人から末梢血及び骨髄を採取し、PEPP2の発現量を定量的RT−PCR法で検出した。なお、これらの検体は、書面によるインフォームドコンセントを得て、使用したものである。
【0059】
手順としては、前述の要領でcDNAを作成し、PEPP2、及び内因性コントロールとしてハウスキーピング遺伝子のGAPDHの発現をCFX 96/384 リアルタイムPCRシステム(BIO RAD, Hercules, CA, USA)を使い、確認した。プライマー、プローブは、Primer Express 3.0(Informer Technologies , Incorporated)を使用して設計し、次の配列を有するものである。
【0060】
遺伝子:GAPDH
F−primer:5’−GACCTGACCTGCCGTCTAGAAA −3’
R−primer:5’−CCTGCTTCACCACCTTCTTGA −3’
Probe :6 ACCTGCCAAATATGATGAC BHQ−2
※ 6 ⇒シークエンスコード 6 − FAM
【0061】
遺伝子:PEPP2
F−primer:5’− GCAGTGCAGATTTGGTTTGAGA −3’
R−primer:5’− TGCCATTAATGCCCTCTGATG −3’
Probe : 6 TAGAAGAGCCAAATGGAGG BHQ−2
【0062】
定量的RT−PCR反応は、上記cDNAをSsoFast probes supermix(BIO−RAD)10μM、プライマー及び Taqman probe(SIGMA)を含む20μLのPCR反応液を用いて、GAPDH遺伝子については、95℃で5秒間,57℃で10秒間を1サイクル、PEPP2遺伝子については95℃で5秒間、55.1℃で10秒間、を1サイクルとして、共に40サイクルのPCRを行った。
この反応により、GAPDH遺伝子においてはエクソン8を含む断片が増幅され、PEPP2遺伝子においてはエクソン3及びとエクソン4を含む断片が増幅された。この結果を図3に示す。
【0063】
図3に示されるように、PEPP2の発現は、健常人の末梢血及び骨髄では弱い又はなかったのに対し、APL及びCML患者の骨髄では、それぞれ89%、70%という高割合で発現が確認された。このことは、PEPP2が白血病治療の標的として有用であることを示唆する。
【0064】
次に、白血病細胞群を、フローサイトメトリーによるCD38及びCD34の陽陰性に基づき、白血病幹細胞(CD34+CD38−)とそれ以外の細胞(CD34−)とに分画し、それぞれの画分におけるPEPP2の発現量を定量的RT−PCR法で測定した。この結果を図4に示す。なお、図4の縦軸は、検量線の作成に用いたK562細胞の発現を1としたときの相対値である。
【0065】
このフローサイトメトリーは、次の手順で行った。つまり、PBSと0.5%FBSで作製した溶液をFACS溶液として細胞を懸濁させ、1×10cells/mLに調製した。この細胞浮遊液に抗ヒトCD34抗体および抗ヒトCD38抗体(Miltenyl Biotec, California, USA)を加え、4℃で30分反応させた。PBSを加えて4℃、1300rpmで10分間遠心後、上清を吸引した後、FACS溶液に再懸濁させた。細胞懸濁液をフィルターに通し、セルソーター(MoFlo, Beckman Coulter, California, USA)により細胞を分取した。
【0066】
図4に示されるように、PEPP2は、白血病幹細胞及びそれ以外の白血病細胞の双方で発現していたが、特に白血病幹細胞において強発現していた。これにより、PEPP2を標的とする免疫療法は、白血病幹細胞を効果的に攻撃することができるため、放射線療法又は化学療法後の白血病患者に実施されると好ましいことが示唆された。
【0067】
図3のとおり、PEPP2の発現は、APL及びCML患者の骨髄では高割合で確認されたが、中には、強くない場合もあった。そこで、脱DNAメチル化剤として知られる5−アザ−2’−デオキシシチジンを白血病細胞に与えることで、PEPP2の発現が亢進されるか否か、確認を行った。具体的には、HL60(APL)を5.0×10cells/well、健常人末梢血単核球を3.0×10cells/wellとなるように調整し、6穴プレートにまいた。5−アザ−2’−デオキシシチジン(SIGMA−Aldrich, Missouri, USA)は、がん細胞株においてはRPMI−1640 medium (SIGMA−Aldrich, Missouri, USA)を用いて、健常人末梢血単核球はAIM−V medium (GIBCO,California,USA)で濃度を200nMに調整し、24時間ごとに3日間連続で添加した。その後、細胞を回収し、前記した要領で発現量解析(HL60について図5A〜B、健常人細胞について図6)及び、蛍光免疫染色(図5C〜D)を行った。なお、図5Dは、撮像機器により検出された各細胞の輝度を定量化した平均値を示すグラフである。また、図5Dの縦軸は、1細胞あたりの平均輝度(Arvitary unit intensity)である。図5B図6の縦軸は、GAPDH遺伝子発現量で補正したPEPP2遺伝子の相対的な発現量である。
【0068】
図5に示されるように、5−アザ−2’−デオキシシチジンの使用により、非使用時に比べ、APL細胞におけるPEPP2の発現量が著明に増加し、タンパク質量も増加することが分かった。他方、図6に示されるように、健常人の細胞におけるPEPP2の発現量は、5−アザ−2’−デオキシシチジンの使用にかかわらず、変化しないことが分かった。これにより、脱DNAメチル化剤を併用すると、白血病のPEPP2の発現量が増すため、PEPP2エピトープを標的とする免疫療法が、一層効果的になることが示唆された。
【0069】
<実施例> エピトープ配列の選抜
PEPP2の全アミノ酸配列から、BIMAS(http://www-bimas.cit.nih.gov/molbio/hla_bind)及びSYFPATHI(http://syfpeithi.bmi-heidelberg.com)の2つのコンピュータアルゴリズムを用いて、HLA−A24:02に結合すると予測されるペプチドを24種類抽出した(表1)。
【0070】
【表1】
【0071】
C1RA−24細胞をAIM−V medium (GIBCO,California,USA)で洗浄し、最終濃度1.0×10cells/20mLとして24時間培養した。Peptide1〜24(Sigma−Aldrich, Missouri, USA)を50mg/mLになるようにDimethyl Sulfoxide(Sigma−Aldrich, Missouri, USA)で調整し、C1RA−24細胞を洗浄後24穴プレートに1.0×10cells/mLでまき、さらにβ2ミクログロブリン(Sigma−Aldrich, Missouri, USA)1を5μL、Peptide1〜24、EBV Peptide(Sigma−Aldrich, Missouri, USA)を1μL添加し24時間培養した。PBS50mLあたり1gのBovine Serum Albumin(Amersham International,Amersham UK)を混合し、PBS中2%BSAとした。細胞をPBS中2%BSAで洗浄し、Isotype Control抗体(Beckman coulter ,California ,USA)またはAnti−HLAA−24抗体(MBL, Nagoya, Japan)を2μL添加し、30分間氷上で反応させた。再び洗浄し、PBS中2%BSAでとき、FACSCalibur cytometer(BD Biosciences ,California, USA)を用いて解析を行った。ペプチドとして、表1に示す24ペプチドを用いた。この結果を図7(A)に示す。なお、図7の縦軸は、平均蛍光強度(Mean Fluorescence Intensity)であり、ここでは抗HLA−A24抗体を標識しているFITC色素の強度を示す。
【0072】
C1RA−24細胞をAIM−Vmedium(GIBCO,California,USA)で洗浄し、最終濃度1.0×10cells/20mLとして24時間培養した。Peptide1〜24(Sigma−Aldrich, Missouri, USA)を50mg/mLになるようにDimethyl Sulfoxide(Sigma−Aldrich, Missouri, USA)で調整し、C1RA−24細胞を洗浄後24穴プレートに1.0×10cells/mLでまき、さらにβ2ミクログロブリン(Sigma−Aldrich, Missouri, USA)を5μL、Peptide1〜24、EBV Peptide(Sigma−Aldrich, Missouri, USA)を1μL添加し、24時間培養した。PBS中2%BSAで洗浄し、Brefeldin A(Sigma−Aldrich, Missouri, USA)を5μL添加し、4時間培養した。4時間後、PBS中2%BSAで洗浄し、Isotype Control抗体(Beckman coulter ,California ,USA)またはAnti−HLAA−24抗体(MBL, Nagoya, Japan)を2μL添加し、30分氷上で反応させた。再び洗浄し、PBS中2%BSAでとき、FACSCalibur cytometer(BD Biosciences, California, USA)を用いて解析を行った。この結果を図7(B)に示す。
【0073】
図7(A)〜(B)より、Pep6、Pep8、Pep23の3つのペプチドが、HLA−A24:02との結合性に優れることが分かった。そこで、これら3つのペプチドを候補物質として、更なる評価を行うこととした。
【0074】
ペプチド刺激を行ったCTLの標的細胞に対する反応性を評価するため、ELISPOT法を行いIFN−γ産生細胞数を評価した。具体的な手順は次の通りである。
【0075】
プレートのコーティング
Day1 に96wellのMultiScreen HTSプレート (MILIPORE, Massachusetts, USA)上に35%エタノールを15μL/wellで加え、1分間インキュベート後、超純水200μL/wellで5回洗浄した。その後、Coating antibody「Monoclonal antibody 1−D1K」(MABTECH, Nacka, Sweden)とPBSとを150μL:11mLの比で混合した溶液を100μL/wellで加え、4℃で遮光し一晩静置した。
【0076】
標的細胞の調製
Day2に標的細胞をPBSで2回遠心洗浄後、必要細胞数を血球計算盤で計測した。AIM−V medium 1mL中で、コントロールとしてのDMSO 1μLまたは、ペプチド(5μg/mL)を1μL加え、37℃、2時間で反応させた。その後、PBSで遠心洗浄し、AIM−V mediumで調節した。
【0077】
プレートのブロッキング
Day2にコーティングしたプレートをPBS 200μL/wellで5回洗浄し、AIM−V mediumを100μL/well加えた後、遮光して1時間後室温に放置した。
【0078】
CTLの調製
次にCTLをPBSで遠心洗浄し、必要細胞数に調節した。その後、上記プレートにCTLを100μL/wellでまき、その上に上記の方法で調製した標的細胞を100μL/wellで加えて、5% COインキュベーター中で24時間培養した。
【0079】
発色
Day3にプレートから細胞を取り除き、PBSで5回洗浄し、PBSで1000倍に希釈したDetection antibody「Biotinylated monoclonal antibody 7−B6−1」(MABTECH, Nacka, Sweden)を100μL/wellで加え、室温で遮光し2時間反応させた。
その後、PBS 200μL/wellでプレートを5回洗浄し、PBSで1000倍に希釈したStreptavidin−Alkaline Phosphatase (MABTECH, Nacka, Sweden)を100μL/wellで加え、室温で遮光し1時間反応させた後、PBS 200μL/wellで5回洗浄し、AP Conjugate Subtrate Kit(BIO RAD Hercules, CA, USA)を用いて作成した溶液0.45μmのフィルターにかけ、100μL/wellで加え発色させた。発色後、超純水200μL/wellを加えて、遮光して乾燥させた後、スポットを測定した。
【0080】
測定解析
スポットの解析には、Immunospot version 5(Cellular Technology Limited, Ohio, USA)を使用した。スポット数の統計解析では、Student t検定を行い、統計学的有意差をP<0.05とした。この結果を図8に示す。
【0081】
図8A〜Cに示されるように、3種のペプチドのうちPep6(PEPP2−A24−271)のみが、DMSOや、ネガティコントロールであるHIVペプチドと比較し、有意にT細胞によるIFN−γ産生を誘導することが分かった。これにより、Pep6を最も有望な候補物質であると判断し、更なる評価試験を行うことにした。
【0082】
CTLの細胞傷害活性を51Cr細胞傷害性試験にて評価した。標的細胞を30%のFBS(Hyclone, Utah, USA)を含むIMDM medium (SIGMA−Aldrich, Missouri, USA)中で100μCiの51Crにて37℃で1時間標識した。細胞を2%のFBSを含むIMDM medium、1500rpm、5分間の条件で洗浄後、10%のAB血清(LONZA, Basel, Switzerland)を含むIMDM mediumに浮遊させた96穴プレート上に、細胞2.5×10cells/50μLでまき、10μg/mLのペプチド液を50μg/wellでまき、室温にて1時間反応させた。その後、PEPP2特異的細胞傷害性T細胞(CTL)を種々の割合で加え、37℃インキュベーター内で4時間共培養し、上清を回収した後、Naシンチレーションカウンターでβ線を測定した。標的細胞及びCTLの比は、Effector/Target比=1,3,10,30,100で求めた。つまり、測定したβ線から以下の式を用いて細胞傷害活性を算出した。この結果を図9に示す。
<細胞傷害活性の算出式>
%Cytotoxicity=[experimental 51Cr release(cpm)−spontaneous 51Cr release (cpm)]/maximum 51Cr release(cpm)−spontaneous 51Cr release(cpm) ×100(%)
【0083】
図9に示されるように、CTLについて、Pep6(PEPP2−A24−271)でパルスしたCIR−A24細胞を、DMSOや、ネガティコントロールであるHIVペプチドでパルスしたCIR−A24細胞と比較し、有意に高い細胞傷害活性を示すことが分かった。
【0084】
次に、Pep6(PEPP2−A24−271)の濃度を、0.005μg、0.05μg、0.5μg、5μg、50μg/μLに設定し、それぞれの場合における細胞傷害活性を算出した。この結果を図10に示す。
【0085】
図10に示されるように、細胞傷害活性は、Pep6(PEPP2−A24−271)の量に依存的に変化した。また、図10の量/%Cytotoxicityの推移は、従来のがん抗原ペプチドと同等であったことから、白血病治療におけるPep6の用量も、従来のがん抗原ペプチド薬と同等の用量になることが推察された。
【0086】
次に、HLA−A24:02及びPEPP2のそれぞれが陽性又は陰性である各種がん細胞株、及び健常人の単核球を用意し、図9の要領で、Pep6(PEPP2−A24−271)で誘導したCTLによる細胞傷害活性を算出した。この結果を図11に示す。
【0087】
図11に示されるように、Pep6(PEPP2−A24−271)で誘導したCTLは、HLA−A24:02及びPEPP2の双方が陽性であるKMS21に対してのみ、細胞傷害活性を呈し、健常人単核球、及びHLA−A24:02又はPEPP2が陰性であるがん細胞株に対しては、強い細胞傷害活性を呈しなかった。これにより、Pep6は、HLA−A24:02及びPEPP2の双方が陽性である白血病細胞に特異的に細胞障害活性を誘発することができ、副作用が小さいことが示唆された。なお、用いた健常人単核球は、PEPP2陽性ではあったものの、その発現が極めて弱かったため、Pep6に基づく細胞傷害活性が呈されなかったと推測される。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
【配列表】
[この文献には参照ファイルがあります.J-PlatPatにて入手可能です(IP Forceでは現在のところ参照ファイルは掲載していません)]