【実施例】
【0053】
以下、本発明について、実施例を挙げて詳細に説明する。尚、本発明は、以下に示す実施例に何ら限定されるものではない。
【0054】
<試験例1>
[硫化鉄によるシアン濃度測定への正負の影響の検証]
本発明の測定方法における検定用化合物の吸光度の測定では、油脂類、残留塩素等の酸化性物質や硫化物イオン等の還元性物質により検定用化合物の発色が妨害される場合があることが知られている。実施時に測定対象水となるシアン汚染地下水には、多くの場合、これらの測定妨害物質が含まれている。中でも硫化鉄(II)は、様々な地盤に含まれていることが多い。よって、測定妨害物質として、硫化鉄に着目し、一般的な迅速測定方法であるピクリン酸カリウム試薬を用いた簡易的なシアン濃度測定方法に対する硫化鉄の正負の影響を検証するための試験を行った。
【0055】
この試験では、共立理化学製の全シアン検定器(WA−CN)を用いて、シアン濃度の測定を行った。又、測定は「マスキング剤を添加する工程」を行わない点以外は、上記において説明した本発明のシアン濃度測定方法にしたがって行った。
試料水:測定対象とする試料水については、フェロシアンカリウムK
4[Fe(CN)
6]溶液500mlに、測定妨害物質として、粉砕した硫化鉄を各所定量添加し、振とう機で24時間200rpm振とうし、更に、0.45μmメンブランフィルターでろ過した溶液を試験例の試料水とした。この試験例の試料水は、硫化鉄(II)濃度を段階的(0、30、60、120、150、200、400、600mg/L)に設定し、いずれもフェロシアン化カリウム濃度が1.5mg/Lとなるように、調整した。
検定試薬:遊離シアンを捕捉するためのアルカリ剤として、ピクリン酸カリウム((NO
2)3C
6H
2OK)0.4gを捕捉用の試験管内に予め投入しておいた。
上記各試料水を15分間蒸留し、捕捉された遊離シアンをピクリン酸カリウムとの接触により発色させ、共立理化学製のデジタルパックテストマルチによって吸光度を測定し、シアン濃度を算出した。結果を
図2に示す。
【0056】
図2に示す通り、試料水中の硫化鉄(II)の濃度が60mg/Lまでの範囲にある場合には、シアン濃度測定への正負の影響は見られなかったが、120mg/L以上になると全シアン濃度の測定値の低下が見られ、硫化鉄(II)の濃度が上がるにつれ、マイナス側にシアン濃度が大きく低下するようになった。このように、硫化鉄(II)はシアンの迅速分析によるシアン濃度測定に対し、負の影響を及ぼすことが確認された。
【0057】
<試験例2>
以下に詳細を示す試料水について、本発明のシアン濃度の測定方法、及び公定分析方法により、それぞれシアン濃度の測定を行った。公定分析方法としては、ピリジン−ピラゾロン吸光光度法(JIS K 0102:2009 38.2)を採用した。試料水については、建設現場等で一般に行われるシアンの酸化分解処理が施されている状況を想定し、下記の通り、それぞれ酸化剤を添加した。それらの酸化剤を含有する試料水について、それぞれ、以下に示す実施条件の下で、各実施例、比較例毎にマスキング剤種類を変えて、各酸化剤濃度におけるシアン濃度の測定を行い、妨害物質のシアン濃度測定値への正負の影響を検証した。
【0058】
試験例2おいては、上記試験例1と同じ全シアン検定器を用いて、シアン濃度の測定を行った。この測定は、各試料水の蒸留前に「マスキング剤を添加する工程」を行う点以外の実施条件については上記試験例1と同一とし、上記において説明した本発明のシアン濃度測定方法にしたがって行った。
試料水:各実施例、比較例毎に、下記の通り、いずれもシアン濃度が1.5mg/Lとなるように調整した試料水1、試料水2、試料水3、試料水0を、それぞれ50ml使用した。
試料水1:濃度1.5mg/Lのフェロシアンカリウム(K
4[Fe(CN)
6])溶液500mlに、測定妨害物質として、粉砕して2mmの非金属ふるいにかけた硫化鉄75mgと、過硫酸ナトリウム(酸化剤)、酢酸ナトリウム(pH緩衝剤)、銀触媒を添加した。過硫酸ナトリウムの添加量は、各試料水中の酸化剤濃度がそれぞれ表1及び表2の酸化剤濃度となるように段階的に調整した。酢酸ナトリウムは10(g)、銀触媒溶液は15〜1500mg添加した。これを、振とう機で24時間200rpmで振とうし、更に、0.45μmメンブランフィルターでろ過した溶液を試料水1とした。
試料水2:濃度1.5mg/Lのフェロシアンカリウム(K
4[Fe(CN)
6])溶液500mlに、測定妨害物質として、硫化鉄(II)2gと64%硫酸10mlより発生させた硫化水素をフェロシアン化カリウム溶液中に直接送り込み、過硫酸ナトリウム(酸化剤)を添加した。過硫酸ナトリウムの添加量は、各試料水中の酸化剤濃度がそれぞれ表1及び表2の酸化剤濃度となるように段階的に調整した。酢酸ナトリウムと銀触媒の添加量は、試料水1と同量とした。これを、振とう機を用いて、24時間200rpm振とうし、更に、0.45μmメンブランフィルターでろ過した溶液を試料水2とした。
試料水3:上記銀触媒溶液を添加せずに、それに代えて同量の硝酸ナトリウム溶液(濃度17mg/L)を添加した他は上記試料水1と同組成とした溶液を試料水3とした。
試料水0:測定妨害物質を添加しなかったこと以外は上記と同組成の溶液を試料水0とした。
マスキング剤:各実施例、比較例毎に、下記のマスキング剤1〜4をそれぞれ使用した。実施例1においては、上記試料水1及び2に、マスキング剤1を5ml添加した。比較例1においては、上記試料水1及び2に、マスキング剤2−1及び2−2を各2.5mlずつ添加した。比較例2においては、上記試料水1及び2に、マスキング剤3を5ml添加した。比較例3においては、上記試料水1及び2に、マスキング剤4を5ml添加した。比較例4においては、上記試料水1及び2にはマスキング剤を添加しなかった。
マスキング剤1:L−アスコルビン酸20g、純水100mlの混合水溶液。
マスキング剤2−1:硫酸銅(CuSO
4(II))0.2g、濃度1mol/Lの塩酸2.5ml、純水100mlの混合水溶液。
マスキング剤2−2:塩化スズ(SnCl
2(II))0.2g、濃度1mol/Lの塩酸2.5ml、純水100mlの混合水溶液。
マスキング剤3:塩化ヒドロキシルアンモニウム10g、純水100mlの混合溶液。
マスキング剤4:メタ亜ヒ酸ナトリウム20g、純水100mlの混合溶液。
検定試薬:上記試験例1と同様、同量のピクリン酸カリウムを同様に用いた。
【0059】
上記マスキング剤を添加混淆後(比較例4はマスキング剤未添加)の各試料水を15分間蒸留し、アルカリ剤によって捕捉された遊離シアンをピクリン酸カリウムとの接触により発色させ、共立理化学製のデジタルパックテストマルチによって吸光度を測定し、シアン濃度を算出した。結果を表1、表2、及び
図3〜5に示す。表1及び表2は、実施例、比較例の酸化剤濃度毎、対象試料水毎の測定値を公定分析値との比較ができる形で記載したものである。尚、
図3〜5は実施例、比較例1及び4のそれぞれ試料水0についての酸化剤濃度毎のシアン濃度測定値の、同条件における公定分析方法による測定値からの乖離の程度を検証するために各測定値をグラフ化したものである。
【0060】
【表1】
【0061】
【表2】
【0062】
実施例の結果より、L−アスコルビン酸を含有する本発明に係るマスキング剤(マスキング剤1)を添加した場合には、測定妨害物質の有無、酸化防止剤の濃度にかかわらず、公定分析方法(参考例)による測定値との乖離が極めて小さい良好な測定値を得ることができた。
【0063】
比較例1〜4の結果より、マスキング剤を添加しない場合、或いは、本願に係るマスキング剤以外のマスキング剤を添加した場合においては、いずれも、酸化剤濃度が0.2%〜0.5%以上の範囲となった場合に、公定分析方法による測定値から大きく乖離している。これは試験例1の結果からも分かる通り、妨害物質としての硫化鉄や硫化水素、及び酸化剤のシアン濃度測定への正負の影響の結果であると考えられる。
【0064】
表1、表2、及び
図3〜5より、本発明のシアン濃度測定方法は、特に建設現場等で、広く採用されているピクリン酸試薬を用いた簡易的なシアン測定方法について、公定方法に対するコスト低減のメリットを維持したまま、試料水中に含有される酸化剤の測定への影響を排除し、より精度の高い測定値を得ることができる、シアン濃度測定方法であることが確認された。