(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記ポリアミド(A)における前記構成単位(I)の割合が50〜99.9重量%であり、前記構成単位(II)の割合が0.1〜50重量%である、請求項3に記載の処理剤。
窒素原子を含む変性基を持つ変性シリコーン(B)をさらに含有し、前記ポリアミド(A)と前記変性シリコーン(B)の重量比(A/B)が99.9/0.1〜50/50である、請求項1〜5のいずれかに記載の処理剤。
炭素繊維製造用アクリル繊維の原料アクリル繊維に、請求項1〜7のいずれかに記載の処理剤を付着させて製糸する製糸工程と、200〜300℃の酸化性雰囲気中で耐炎化繊維に転換する耐炎化処理工程と、前記耐炎化繊維をさらに300〜2000℃の不活性雰囲気中で炭化させる炭素化処理工程とを含む、炭素繊維の製造方法。
【発明を実施するための形態】
【0024】
本発明のアクリル繊維処理剤は、炭素繊維製造に用いられるアクリル繊維(炭素繊維のプレカーサー)に付与することを目的とした処理剤であり、特定のポリアミド(A)を含有するものである。以下、詳細に説明する。
【0025】
[ポリアミド(A)]
本発明のアクリル繊維処理剤に用いられるポリアミド(A)は、上記一般式(1)で示される構成単位(I)を有するものである。このように、構成単位中に(ポリ)アルキレングリコール鎖を有するポリアミド(A)を用いることにより、炭素繊維製造における繊維間の融着紡止と安定した操業性とを両立させることができる。さらに、ポリアミド(A)は自己乳化性を有するため、乳化剤を用いずに又は少量でポリアミド(A)を水に乳化させることができる。その結果、乳化剤成分がプレカーサー分子内部まで浸透し、炭素繊維製造における焼成工程において、繊維のグラファイト構造形成における欠点となり、得られた炭素繊維が十分な強度を発現できないという乳化剤多用による弊害を防ぐことができる。
【0026】
一般式(1)中、R
1及びR
2は、それぞれ独立して、二価の有機基であり、かつR
1及びR
2のうち少なくとも一方が上記一般式(2)で示される基である必要がある。従って構成単位(I)としては、R
1が上記一般式(2)で示される基でありR
2がそれ以外の二価の有機基である場合、R
2が上記一般式(2)で示される基でありR
1がそれ以外の二価の有機基である場合、R
1及びR
2がともに下記一般式(2)で示される基である場合となる。R
1及びR
2がともに上記一般式(2)で示される基である場合、一般式(2)で示される範囲内で、R
1及びR
2は同一でもよく、異なっていてもよい。
【0027】
二価の有機基としては、直鎖でも分岐構造を有していてもよく、また脂肪族炭化水素基、脂環族炭化水素基及び芳香族炭化水素基のいずれでもよい。二価の有機基としては、例えば、アルキレン基、シクロアルキレン基、アルケニレン基、アルキニレン基、アリーレン基等が挙げられる。これらの中でも、集束性を付与でき、繊維間の融着を防止できる点から、脂肪族炭化水素基が好ましく、アルキレン基がさらに好ましい。
【0028】
アルキレン基の炭素数としては、1〜20が好ましく、2〜15がより好ましく、3〜10がさらに好ましい。アルキレン基としては、例えば、メチレン基、エチレン基、n−プロピレン基、iso−プロピレン基、n−ブチレン基、1,2−ジメチルエチレン基、n−ペンチレン基、n−ヘキシレン基、ネオペンチレン基、オクチレン基、2−エチルヘキシレン基、セバシレン基等が挙げられる。
シクロアルキレン基の炭素数としては、3〜15が好ましく、4〜10がより好ましく、5〜8がさらに好ましい。シクロアルキレン基としては、例えばシクロプロピレン基、シクロブチレン基、シクロペンチレン基、シクロヘキシレン基等が挙げられる。
【0029】
アルケニレン基の炭素数としては、2〜20が好ましく、3〜15がより好ましく、4〜10がさらに好ましい。アルケニレン基としては、例えば、エチレニレン基、n−プロピニレン基、iso−プロピニレン基、n−ブチレニレン基、1,2−ジメチルエチレニレン基等が挙げられる。
アルキニレン基の炭素数としては、2〜20が好ましく、3〜15がより好ましく、4〜10がさらに好ましい。アルキニレン基としては、例えば、アセチレン構造由来のアルキニレン基などが挙げられる。
【0030】
アリーレン基の炭素数としては、6〜30が好ましく、6〜20がより好ましく、6〜15がさらに好ましい。アリーレン基としては、例えば、1,4−フェニレン基、1,3−フェニレン基、1,2−フェニレン基、メチルフェニレン基、ジメチルフェニレン基、トリメチルフェニレン基、エチレンフェニレン基、ジエチレンフェニレン基、トリエチレンフェニレン基、プロピレンフェニレン基、ブチレンフェニレン基、トリレン基、キシリレン基、ジュリレン基、ビフェニレン基、ナフチレン基、メチルナフチレン基、ジメチルナフチレン基、トリメチルナフチレン基、ビニルナフチレン基、エテニルナフチレン基、アンスリレン基、メチルアンスリレン基、エチルアンスリレン基などが挙げられる。
【0031】
一般式(2)中、R
3及びR
4は、それぞれ独立して、炭素数1〜8のアルキレン基又はアルケニレン基である。R
3及びR
4の炭素数は、1〜5が好ましく、2〜4がさらに好ましい。
AOは炭素数2〜4のオキシアルキレン基である、AOの炭素数は2〜3が好ましく、2がさらに好ましい。(AO)
nを構成するAOは、1種でもよく、2種以上であってもよい。2種以上の場合、ブロック付加体、交互付加体又はランダム付加体のいずれでもよい。AOは、オキシエチレン基を必須に含有することが好ましい。オキシアルキレン基全体に占めるオキシエチレン基の割合は、40モル%以上が好ましく、50モル%がより好ましく、60モル%以上がさらに好ましく、80モル%以上が特に好ましい。
nは1〜500の整数である。nは、4〜200が好ましく、6〜100がより好ましく、8〜70がさらに好ましい。
【0032】
前記ポリアミド(A)における前記構成単位(I)の割合は50重量%以上であることが好ましく、60重量%以上がより好ましく、80重量%以上がさらに好ましい。該割合が50重量%未満の場合、繊維−繊維間摩擦が高くなり過ぎることがある。
【0033】
ポリアミド(A)は、耐熱性を向上させる点から、上記一般式(3)で示される構成単位(II)をさらに有することが好ましい。
ポリアミド(A)が構成単位(II)を含む場合、ポリアミド(A)における前記構成単位(I)の割合は50〜99.9重量%が好ましく、60〜99.5重量%がより好ましく、70〜99重量%がさらに好ましい。同様に、前記構成単位(II)の割合は0.1〜50重量%が好ましく、0.5〜40重量%がより好ましく、1〜30重量%がさらに好ましい。
また、ポリアミド(A)における構成単位(I)と構成単位(II)の合計の割合は、80重量%以上が好ましく、90重量%以上がより好ましく、99重量%以上がさらに好ましい。
【0034】
ポリアミド(A)は、本発明の効果を阻害しない範囲で、他の構造単位を含有してもよい。他の構造単位としては、例えば、−[NH(CH
2)
6NHCO(CH
2)
4CO]−、−[NH(CH
2)
6NHCO(CH
2)
8CO]、−[NH(CH
2)
10CO]−、−[NH(CH
2)
11CO]−等を挙げることができる。
【0035】
ポリアミド(A)の重量平均分子量は、500〜100000が好ましく、800〜75000がより好ましく、1000〜50000がさらに好ましい。該分子量が500未満の場合、良好な耐熱性が得られないことがある。一方、該分子量が100000超の場合、繊維−繊維間摩擦が高くなったり、繊維間の融着を引き起こしたりする場合がある。
【0036】
なお、本発明でいう重量平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフ(GPC)測定方法により、下記の測定条件で測定してポリスチレン換算した値をいう。
(GPC測定条件)
装置:装置名「HPLC LC−6A SYSTEM」(SHIMAZU社製)
カラム:「KF−800P(10mm×4.6mmφ)」、「KF−804(300mm×8mmφ)」、「KF−802.5(300mm×8mmφ)」、「KF−801(300mm×8mmφ)」(以上、SHODEX社製)
移動相:テトラヒドロフラン(THF)
流速:1.0ml/mim
サンプル量:100μl(100倍希釈)
カラム温度:50℃
検量線作成標準物質:ポリスチレン(PSt)
【0037】
ポリアミド(A)の製造方法としては、特に限定は無く、公知の手法を採用できる。例えば、1)(ポリ)アルキレングリコール鎖を有するジアミンとジカルボン酸とを重縮合反応させて得る方法、2)(ポリ)アルキレングルコール鎖を有するジカルボン酸とジアミンとを重縮合反応させて得る方法、3)ポリ)アルキレングルコール鎖を有するジアミンと(ポリ)アルキレングルコール鎖を有するジカルボン酸とを重縮合反応させて得る方法、4)1)〜3)の方法において、ジアミンとジカルボン酸を重縮合反応させる際に、ε−カプロラクタムや前述の他の構成単位を構成する成分等を加えて共重合させて得る方法、等を挙げることができる。
【0038】
(ポリ)アルキレングルコール鎖を有するジアミンとしては、例えば、下記一般式(4)で示される化合物を挙げることができる。
【0039】
【化4】
式(4)中、R
3及びR
4は、それぞれ独立して、炭素数1〜8のアルキレン基又はアルケニレン基である。AOは炭素数2〜4のオキシアルキレン基である。nは1〜500の整数である。R
3、R
4、AO及びnの詳細は、上記一般式(2)で説明したものと同様である。
【0040】
ジカルボン酸としては、例えば、下記一般式(5)で示される化合物を挙げることができる。
【0041】
【化5】
式(5)中、R
5は、二価の有機基を示す。二価の有機基としては、R
1及びR
2で説明したものと同様である。
【0042】
(ポリ)アルキレングルコール鎖を有するジカルボン酸としては、例えば、下記一般式(6)で示される化合物を挙げることができる。
【0043】
【化6】
式(6)中、R
3及びR
4は、それぞれ独立して、炭素数1〜8のアルキレン基又はアルケニレン基である。AOは炭素数2〜4のオキシアルキレン基である。nは1〜500の整数である。R
3、R
4、AO及びnの詳細は、上記一般式(2)で説明したものと同様である。
【0044】
ジアミンとしては、例えば、下記一般式(7)で示される化合物を挙げることができる。
【0045】
【化7】
式(7)中、R
6は、二価の有機基を示す。二価の有機基としては、R
1及びR
2で説明したものと同様である。
【0046】
[窒素原子を含む変性基を持つ変性シリコーン(B)]
本発明のアクリル繊維処理剤は、窒素原子を含む変性基を持つ変性シリコーン(B)をさらに含有することができる。本発明のアクリル繊維処理剤は、前述のポリアミド(A)を含有することから、繊維−繊維間摩擦を高めることができ、焼成工程において繊維束幅の拡がりを防ぐことで繊維束の干渉による毛羽の発生を効果的に下げることができる。つまり、ポリアミド(A)を含有する本発明のアクリル繊維処理剤は、変性シリコーン(B)による不具合を抑制でき、変性シリコーン(B)を併用することが可能となる。
【0047】
このような効果をより発揮させるためには、変性シリコーン(B)を単に併用するだけではなく、上記ポリアミド(A)と変性シリコーン(B)とを特定の割合で併用することが好ましい。ポリアミド(A)と変性シリコーン(B)との重量比(A/B)は、99.9/0.1〜50/50が好ましく、95/5〜60/40がより好ましく、90/12〜70/30がさらに好ましい。該重量割合が50/50未満の場合、繊維−繊維間摩擦が低くなることにより、集束性不足が発生し、焼成時操業性が悪化することがある。
【0048】
変性シリコーン(B)は窒素原子を含む変性基であれば変性基の種類は特に限定されない。窒素原子を含む変性基としては、アミノ結合やイミノ結合を含有する変性基(即ち、アミノ基)や、アミド結合を含有する変性基(即ち、アミド基)などが挙げられ、アミノ結合とアミド結合など異なる結合が複数存在する変性基でもよい。窒素原子を含む変性基は、主鎖であるシリコーンの側鎖と結合していてもよいし、末端と結合していてもよいし、また両方と結合していてもよい。また、分子中にポリオキシアルキレン基(例えば、ポリオキシエチレン基、ポリオキシプロピレン基、ポリオキシブチレン基等)を有していてもよい。
【0049】
窒素原子を含む変性基を持つ変性シリコーン(B)としては、例えば、アミノ変性シリコーン、アミノポリエーテル変性シリコーン、アマイド変性シリコーン、アマイドポリエーテル変性シリコーンなどが挙げられ、一種類の変性シリコーンを用いてもよいし、複数の変性シリコーンを併用してもよい。
【0050】
また、変性シリコーン(B)における窒素原子の含有量は、0.35〜3.2重量%が好ましく、0.37〜2.2重量%がより好ましく、0.40〜1.3重量%がさらに好ましい。窒素原子の含有量が0.35重量%より低い場合、水系乳化した際にエマルジョンの乳化安定性が悪くなることがある。一方、窒素原子の含有量が3.2重量%より高い場合、熱架橋により変性シリコーン(B)の粘着性が高くなり、ガムアップの原因となる。
【0051】
水系乳化した際のエマルジョンの乳化安定性に優れ、またポリアミド(A)との併用による効果が優れる点から、これら変性シリコーン(B)の中でも、アミノ変性シリコーンが好ましい。
【0052】
変性シリコーン(B)がアミノ変性シリコーンである場合、そのアミノ変性シリコーンの構造は特に限定されるものではない。即ち、変性基であるアミノ基は、主鎖であるシリコーンの側鎖と結合していてもよいし、末端と結合していてもよいし、また両方と結合していてもよい。また、そのアミノ基は、モノアミン型であってもポリアミン型であってもよく、1分子中に両者が併存していてもよい。
【0053】
アミノ変性シリコーンにおけるアミノ基(NH
2)の含有量(以下、「アミノ重量%」という)は、0.4〜3.7重量%が好ましく、0.42〜2.5重量%がより好ましく、0.46〜1.5重量%が更に好ましい。アミノ重量%が0.4重量%より低いと、水系乳化した際にエマルジョンの乳化安定性が悪くなることがある。一方、3.7重量%より高い場合、熱架橋によりアミノ変性シリコーンの粘着性が高くなり、ガムアップの原因となる。
【0054】
アミノ変性シリコーンの25℃における粘度については、特に限定はないが、低粘度過ぎると、処理剤が飛散しやすくなり、また水系乳化した際にエマルジョンの乳化安定性が悪くなり、処理剤を繊維へ均一に付与することが出来なくなる。その結果、繊維の融着を防止できないことがある。また逆に高粘度すぎると、粘着性に起因するガムアップが問題となることがある。これらの問題を防止する観点から、アミノ変性シリコーンの25℃での粘度は、100〜15,000mm
2/sが好ましく、500〜10,000mm
2/sがより好ましく、1,000〜5,000mm
2/sがさらに好ましい。
【0055】
[界面活性剤]
本発明のアクリル繊維処理剤は、本発明の効果を阻害しない範囲で、界面活性剤を含有してもよい。界面活性剤は、乳化剤、制電剤等として使用される。界面活性剤としては、特に限定されず、非イオン性界面活性剤、アニオン性界面活性剤、カチオン性界面活性剤及び両性界面活性剤から、公知のものを適宜選択して使用することができる。界面活性剤は、1種又は2種以上を併用してもよい。
【0056】
非イオン性界面活性剤としては、例えば、ポリオキシエチレンヘキシルエーテル、ポリオキシエチレンオクチルエーテル、ポリオキシエチレンデシルエーテル、ポリオキシエチレンラウリルエーテル、ポリオキシエチレンセチルエーテル等のポリオキシアルキレン直鎖アルキルエーテル;ポリオキシエチレン2−エチルヘキシルエーテル、ポリオキシエチレンイソセチルエーテル、ポリオキシエチレンイソステアリルエーテル等のポリオキシアルキレン分岐第一級アルキルエーテル;ポリオキシエチレン1−ヘキシルヘキシルエーテル、ポリオキシエチレン1−オクチルヘキシルエーテル、ポリオキシエチレン1−ヘキシルオクチルエーテル、ポリオキシエチレン1−ペンチルへプチルエーテル、ポリオキシエチレン1−へプチルペンチルエーテル等のポリオキシアルキレン分岐第二級アルキルエーテル;ポリオキシエチレンオレイルエーテル等のポリオキシアルキレンアルケニルエーテル;ポリオキシエチレンオクチルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンノニルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンドデシルフェニルエーテル等のポリオキシアルキレンアルキルフェニルエーテル;ポリオキシエチレントリスチリルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンジスチリルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンスチリルフェニルエーテル、ポリオキシエチレントリベンジルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンジベンジルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンベンジルフェニルエーテル等のポリオキシアルキレンアルキルアリールフェニルエーテル;ポリオキシエチレンモノラウレート、ポリオキシエチレンモノオレート、ポリオキシエチレンモノステアレート、ポリオキシエチレンモノミリスチレート、ポリオキシエチレンジラウレート、ポリオキシエチレンジオレート、ポリオキシエチレンジミリスチレート、ポリオキシエチレンジステアレート等のポリオキシアルキレン脂肪酸エステル;ソルビタンモノパルミテート、ソルビタンモノオレート等のソルビタンエステル;ポリオキシエチレンソルビタンモノステアレート、ポリオキシエチレンソルビタンモノオレート等のポリオキシアルキレンソルビタン脂肪酸エステル;グリセリンモノステアレート、グリセリンモノラウレート、グリセリンモノパルミテート等のグリセリン脂肪酸エステル;ポリオキシアルキレンソルビトール脂肪酸エステル;ショ糖脂肪酸エステル;ポリオキシエチレンひまし油エーテル等のポリオキシアルキレンひまし油エーテル;ポリオキシエチレン硬化ひまし油エーテル等のポリオキシアルキレン硬化ひまし油エーテル;ポリオキシエチレンラウリルアミノエーテル、ポリオキシエチレンステアリルアミノエーテル等のポリオキシアルキレンアルキルアミノエーテル;オキシエチレン−オキシプロピレンブロックまたはランダム共重合体;オキシエチレン−オキシプロピレンブロックまたはランダム共重合体の末端アルキルエーテル化物;オキシエチレン−オキシプロピレンブロックまたはランダム共重合体の末端ショ糖エーテル化物;等を挙げることができる。
【0057】
これら非イオン性界面活性剤の中でも、エステル及びシリコーン化合物の水系乳化力に特に優れるという理由で、ポリオキシアルキレン分岐第一級アルキルエーテル、ポリオキシアルキレン分岐第二級アルキルエーテル、ポリオキシアルキレンアルケニルエーテル、ポリオキシアルキレンアルキルフェニルエーテル、ポリオキシアルキレン脂肪酸エステル、オキシエチレン−オキシプロピレンブロック共重合体、オキシエチレン−オキシプロピレンブロック共重合体の末端アルキルエーテル化物が好ましく、更に焼成工程で、繊維上でタール化して繊維に損傷を与え難いという理由で、オキシエチレン−オキシプロピレンブロックまたはランダム共重合体、オキシエチレン−オキシプロピレンブロック共重合体の末端アルキルエーテル化物がより好ましい。
【0058】
アニオン性界面活性剤としては、例えば、オレイン酸、パルミチン酸、オレイン酸ナトリウム塩、パルミチン酸カリウム塩、オレイン酸トリエタノールアミン塩等の脂肪酸(塩);ヒドロキシ酢酸、ヒドロキシ酢酸カリウム塩、乳酸、乳酸カリウム塩等のヒドロキシル基含有カルボン酸(塩);ポリオキシエチレントリデシルエーテル酢酸(ナトリウム塩)等のポリオキシアルキレンアルキルエーテル酢酸(塩);トリメリット酸カリウム、ピロメリット酸カリウム等のカルボキシル基多置換芳香族化合物の塩;ドデシルベンゼンスルホン酸(ナトリウム塩)等のアルキルベンゼンスルホン酸(塩);ポリオキシエチレン2−エチルヘキシルエーテルスルホン酸(カリウム塩)等のポリオキシアルキレンアルキルエーテルスルホン酸(塩);ステアロイルメチルタウリン(ナトリウム)、ラウロイルメチルタウリン(ナトリウム)、ミリストイルメチルタウリンN(ナトリウム)、パルミトイルメチルタウリン(ナトリウム)等の高級脂肪酸アミドスルホン酸(塩);ラウロイルサルコシン酸(ナトリウム)等のN−アシルサルコシン酸(塩);オクチルホスホネート(カリウム塩)等のアルキルホスホン酸(塩);フェニルホスホネート(カリウム塩)等の芳香族ホスホン酸(塩);2−エチルヘキシルホスホネートモノ2−エチルヘキシルエステル(カリウム塩)等のアルキルホスホン酸アルキルリン酸エステル(塩);アミノエチルホスホン酸(ジエタノールアミン塩)等の含窒素アルキルホスホン酸(塩);2−エチルヘキシルサルフェート(ナトリウム塩)等のアルキル硫酸エステル(塩);ポリオキシエチレン2−エチルヘキシルエーテルサルフェート(ナトリウム塩)等のポリオキシアルキレン硫酸エステル(塩);ジ−2−エチルヘキシルスルホコハク酸ナトリウム、ジオクチルスルホコハク酸ナトリウム等の長鎖スルホコハク酸塩、N−ラウロイルグルタミン酸ナトリウムモノナトリウム、N−ステアロイル−L−グルタミン酸ジナトリウム等の長鎖N−アシルグルタミン酸塩;等を挙げる事ができる。
【0059】
カチオン性界面活性剤としては、例えば、ラウリルトリメチルアンモニウムクロライド、ミリスチルトリメチルアンモニウムクロライド、パルミチルトリメチルアンモニウムクロライド、ステアリルトリメチルアンモニウムクロライド、オレイルトリメチルアンモニウムクロライド、セチルトリメチルアンモニウムクロライド、ベヘニルトリメチルアンモニウムクロライド、ヤシ油アルキルトリメチルアンモニウムクロライド、牛脂アルキルトリメチルアンモニウムクロライド、ステアリルトリメチルアンモニウムブロマイド、ヤシ油アルキルトリメチルアンモニウムブロマイド、セチルトリメチルアンモニウムメトサルフェート、オレイルジメチルエチルアンモニウムエトサルフェート、ジオクチルジメチルアンモニウムクロライド、ジラウリルジメチルアンモニウムクロライド、ジステアリルジメチルアンモニウムクロライド、オクタデシルジエチルメチルアンモニウムサルフェート、等のアルキル第四級アンモニウム塩;(ポリオキシエチレン)ラウリルアミノエーテル乳酸塩、ステアリルアミノエーテル乳酸塩、ジ(ポリオキシエチレン)ラウリルメチルアミノエーテルジメチルホスフェート、ジ(ポリオキシエチレン)ラウリルエチルアンモニウムエトサルフェート、ジ(ポリオキシエチレン)硬化牛脂アルキルエチルアミンエトサルフェート、ジ(ポリオキシエチレン)ラウリルメチルアンモニウムジメチルホスフェート、ジ(ポリオキシエチレン)ステアリルアミン乳酸塩等の(ポリオキシアルキレン)アルキルアミノエーテル塩;N−(2−ヒドロキシエチル)−N,N-ジメチル−N−ステアロイルアミドプロピルアンモニウムナイトレート、ラノリン脂肪酸アミドプロピルエチルジメチルアンモニウムエトサルフェート、ラウロイルアミドエチルメチルジエチルアンモニウムメトサルフェート等のアシルアミドアルキル第四級アンモニウム塩;ジパルミチルポリエテノキシエチルアンモニウムクロライド、ジステアリルポリエテノキシメチルアンモニウムクロライド等のアルキルエテノキシ第四級アンモニウム塩;ラウリルイソキノリニウムクロライド等のアルキルイソキノリニウム塩;ラウリルジメチルベンジルアンモニウムクロライド、ステアリルジメチルベンジルアンモニウムクロライド等のベンザルコニウム塩;ベンジルジメチル{2−[2−(p−1,1,3,3−テトラメチルブチルフェノオキシ)エトオキシ]エチル}アンモニウムクロライド等のベンゼトニウム塩;セチルピリジニウムクロライド等のピリジニウム塩;オレイルヒドロキシエチルイミダゾリニウムエトサルフェート、ラウリルヒドロキシエチルイミダゾリニウムエトサルフェート等のイミダゾリニウム塩;N−ココイルアルギニンエチルエステルピロリドンカルボン酸塩、N−ラウロイルリジンエチルエチルエステルクロライド等のアシル塩基性アミノ酸アルキルエステル塩;ラウリルアミンクロライド、ステアリルアミンブロマイド、硬化牛脂アルキルアミンクロライド、ロジンアミン酢酸塩等の第一級アミン塩;セチルメチルアミンサルフェート、ラウリルメチルアミンクロライド、ジラウリルアミン酢酸塩、ステアリルエチルアミンブロマイド、ラウリルプロピルアミン酢酸塩、ジオクチルアミンクロライド、オクタデシルエチルアミンハイドロオキサイド等の第二級アミン塩;ジラウリルメチルアミンサルフェート、ラウリルジエチルアミンクロライド、ラウリルエチルメチルアミンブロマイド、ジエタノールステアリルアミドエチルアミントリヒドロキシエチルホスフェート塩、ステアリルアミドエチルエタノールアミン尿素重縮合物酢酸塩等の第三級アミン塩;脂肪酸アミドグアニジニウム塩;ラウリルトリエチレングリコールアンモニウムハイドロオキサイド等のアルキルトリアルキレングリコールアンモニウム塩等を挙げることができる。
【0060】
両性界面活性剤としては、例えば、2−ウンデシル−N,N−(ヒドロキシエチルカルボキシメチル)−2−イミダゾリンナトリウム、2−ココイル−2−イミダゾリニウムヒドロキサイド−1−カルボキシエチロキシ2ナトリウム塩等のイミダゾリン系両性界面活性剤;2−ヘプタデシル−N−カルボキシメチル−N−ヒドロキシエチルイミダゾリウムベタイン、ラウリルジメチルアミノ酢酸ベタイン、アルキルベタイン、アミドベタイン、スルホベタイン等のベタイン系両性界面活性剤;N−ラウリルグリシン、N−ラウリルβ−アラニン、N−ステアリルβ−アラニン等のアミノ酸型両性界面活性剤等が挙げられる。
【0061】
これらの界面活性剤のなかでも、経時安定性に優れ、乳化力にも優れるという理由から、非イオン性界面活性剤が好ましい。イオン性界面活性剤は、非イオン性界面活性剤と比較し、静電気発生による繊維束のバラケを抑制することができる制電性に優れるという利点があるため、非イオン界面活性剤と併用することが好ましい。イオン性界面活性剤としては、上記のアニオン性界面活性剤、カチオン性界面活性剤、両性界面活性剤を挙げることができるが、これの中でもカチオン性界面活性剤が好ましく、カチオン界面活性剤の中でも、アルキル第四級アンモニウム塩、(ポリオキシアルキレン)アルキルアミノエーテル塩、アシルアミノアルキル第四級アンモニウム塩、アルキルエテノキシ第四級アンモニウム塩、第一級アミン塩、第二級アミン塩、第三級アミン塩等がさらに好ましい。
【0062】
[その他成分]
本発明のアクリル繊維処理剤は、本発明の効果を阻害しない範囲で、上記した成分以外の他の成分を含有してもよい。他の成分としては、酸性リン酸エステル、フェノール系、アミン系、硫黄系、リン系、キノン系等の酸化防止剤;高級アルコール・高級アルコールエーテルの硫酸エステル塩、スルホン酸塩、高級アルコール・高級アルコールエーテルのリン酸エステル塩、第4級アンモニウム塩型カチオン系界面活性剤、アミン塩型カチオン系界面活性剤等の制電剤;高級アルコールのアルキルエステル、高級アルコールエーテル、ワックス類等の平滑剤;抗菌剤;防腐剤;防錆剤;および吸湿剤等が挙げられる。
【0063】
酸化防止剤は、耐炎化処理工程における加熱によってアクリル繊維処理剤の熱分解を効果的に抑制し、繊維−繊維間の融着防止効果を高める成分である。
酸化防止剤としては、特に限定はないが、焼成炉汚染防止の観点から、有機酸化防止剤が好ましい。有機酸化防止剤としては、たとえば、4,4’−ブチリデンビス(3−メチル−6−t−ブチルフェノール、トリオクタデシルフォスファイト、N,N’−ジフェニル−p−フェニレンジアミン、トリエチレングリコールビス[3−(3−t−ブチル−4−ヒドロキシ−5−メチルフェニル)プロピオネート]、ジオレイル−チオジプロピオネート等を挙げることができる。これらの有機酸化防止剤は1種または2種以上を併用してもよい。
【0064】
また、本発明のアクリル繊維処理剤は、本発明の効果を阻害しない範囲で、窒素原子を含む変性基を持つ変性シリコーン(B)以外のシリコーン成分を含んでいてもよい。具体的には、ジメチルシリコーン、エポキシ変性シリコーン、アルキレンオキサイド変性シリコーン(ポリエーテル変性シリコーン)、エポキシポリエーテル変性シリコーン(例えば、特許4616934号参照)、カルボキシ変性シリコーン、カルビノール変性シリコーン、アルキル変性シリコーン、フェノール変性シリコーン、メタクリレート変性シリコーン、アルコキシ変性シリコーン、フッ素変性シリコーン等が挙げられる。
【0065】
また、本発明のアクリル繊維処理剤は、本発明の効果を阻害しない範囲で、エステル化合物を含有してもよい。エステル化合物としては、例えば、再公表WO2007/066517号公報に記載されている、分子内に3個以上のエステル基を有するエステル化合物や、国際出願PCT/JP2013/75081に記載されている含硫黄エステル化合物等を挙げることができる。
【0066】
[アクリル繊維処理剤]
本発明のアクリル繊維処理剤は、前述のポリアミド(A)を必須に含有するものである。処理剤の不揮発分に占めるポリアミド(A)の重量割合は、1〜100重量%であることが好ましく、50〜100重量%がより好ましく、70〜100重量%がさらに好ましく、80〜100重量%が特に好ましい。なお、本発明における不揮発分とは、処理剤を105℃で熱処理して溶媒等を除去し、恒量に達した時の絶乾成分をいう。
【0067】
本発明のアクリル繊維処理剤が変性シリコーン(B)を含有する場合、処理剤の不揮発分に占める変性シリコーン(B)の重量割合は、5〜40重量%がより好ましく、10〜30重量%がさらに好ましく、15〜25重量%が特に好ましい。また、変性シリコーン(B)を含有する場合の処理剤の不揮発分に占めるポリアミド(A)の重量割合は、6〜94.5重量%がより好ましく、67〜89重量%がさらに好ましく、83.5〜72.5重量%が特に好ましい。
【0068】
本発明のアクリル繊維処理剤が変性シリコーン(B)を含有する場合、処理剤の不揮発分に占める界面活性剤の重量割合は、1〜40重量%が好ましく、5〜30重量%がより好ましく、8〜25重量%がさらに好ましい。該重量割合が1重量%未満となると、良好な乳化安定性が得られにくくなることがある。また、該重量割合が40重量%を超えると、処理剤の耐熱性が低下し、焼成工程における炭素繊維の融着を抑制できない場合がある。
【0069】
本発明のアクリル繊維処理剤は、ポリアミド(A)、必要に応じて変性シリコーン(B)が水に溶解、可溶化、乳化又は分散された状態であることが好ましい。
アクリル繊維処理剤全体に占める水の重量割合、不揮発分の重量割合については、特に限定はない。例えば、本発明のアクリル繊維処理剤を輸送する際の輸送コストや、エマルジョン粘度に因るところの取扱い性等を考慮して適宜決定すればよい。アクリル繊維処理剤全体に占める水の重量割合は、0.1〜99.9重量%が好ましく、10〜99.5重量%がさらに好ましく、50〜99重量%が特に好ましい。アクリル繊維処理剤全体に占める不揮発分の重量割合(濃度)は、0.01〜99.9重量%が好ましく、0.5〜90重量%がさらに好ましく、1〜50重量%が特に好ましい。
【0070】
耐炎化処理工程における耐熱性および繊維−繊維間の融着防止効果の点から、本発明のアクリル繊維処理剤における空気中250℃にて1時間加熱処理後の重量減少率については、40重量%未満であると好ましく、30重量%未満がより好ましく、25%未満がさらに好ましい。重量減少率が40%以上の場合、耐炎化処理工程において繊維上に残存する処理剤皮膜が少なくなり、繊維−繊維間の融着防止効果が十分に得られないことがある。
【0071】
本発明のアクリル繊維処理剤は、上記で説明した成分を混合することによって製造することができる。上記で説明した成分を乳化・分散させる方法については特に限定されず、公知の手法が採用できる。このような方法としては、たとえば、アクリル繊維処理剤を構成する各成分を攪拌下の温水中に投入して乳化分散する方法や、アクリル繊維処理剤を構成する各成分を混合し、ホモジナイザー、ホモミキサー、ボールミル等を用いて機械せん断力を加えつつ、水を徐々に投入して転相乳化する方法等が挙げられる。
【0072】
本発明のアクリル繊維処理剤は、炭素繊維製造用アクリル繊維(プレカーサー)の処理剤(プレカーサー処理剤)として好適に使用できる。プレカーサー以外のアクリル繊維の紡糸油剤として使用してもよい。
【0073】
[炭素繊維製造用アクリル繊維とその製造方法及び炭素繊維の製造方法]
本発明の炭素繊維製造用アクリル繊維(プレカーサー)は、プレカーサーの原料アクリル繊維に上記のアクリル繊維処理剤を付着させて製糸したものである。本発明のプレカーサーの製造方法は、プレカーサーの原料アクリル繊維に上記のアクリル繊維処理剤を付着させて製糸する製糸工程を含むものである。
本発明の炭素繊維の製造方法は、プレカーサーの原料アクリル繊維に上記のアクリル繊維処理剤を付着させて、プレカーサーを製糸する製糸工程と、その製糸工程で製造されたプレカーサーを200〜300℃の酸化性雰囲気中で耐炎化繊維に転換する耐炎化処理工程と、前記耐炎化繊維をさらに300〜2000℃の不活性雰囲気中で炭化させる炭素化処理工程とを含むものである。
【0074】
製糸工程は、プレカーサーの原料アクリル繊維にアクリル繊維処理剤を付着させてプレカーサーを製糸する工程であり、付着処理工程と延伸工程とを含む。
付着処理工程は、プレカーサーの原料アクリル繊維を紡糸した後、アクリル繊維処理剤を付着させる工程である。つまり、付着処理工程でプレカーサーの原料アクリル繊維にアクリル繊維処理剤を付着させる。またこのプレカーサーの原料アクリル繊維は紡糸直後から延伸されるが、付着処理工程後の高倍率延伸を特に「延伸工程」と呼ぶ。延伸工程は高温水蒸気をもちいた湿熱延伸法でもよいし、熱ローラーをもちいた乾熱延伸法でもよい。
【0075】
プレカーサーは、少なくとも95モル%以上のアクリロニトリルと、5モル%以下の耐炎化促進成分とを共重合させて得られるポリアクリロニトリルを主成分とするアクリル繊維から構成される。耐炎化促進成分としては、アクリロニトリルに対して共重合性を有するビニル基含有化合物が好適に使用できる。プレカーサーの単繊維繊度については、特に限定はないが、性能と製造コストのバランスから、好ましくは0.1〜2.0dTexである。また、プレカーサーの繊維束を構成する単繊維の本数についても特に限定はないが、性能と製造コストのバランスから、好ましくは1,000〜96,000本である。
【0076】
アクリル繊維処理剤は、製糸工程のどの段階でプレカーサーの原料アクリル繊維に付着させてもよいが、延伸工程前に一度付着させておくことが好ましい。延伸工程前の段階であればどの段階でも、例えば紡糸直後に付着させてもよい。さらに延伸工程後のどの段階で再度付着させてもよく、例えば、延伸工程直後に再度付着させてもよいし、巻取り段階で再度付着させてもよいし、耐炎化処理工程の直前に再度付着させてもよい。その付着方法に関しては、ローラー等を使用して付着してもよいし、浸漬法、スプレー法等で付着してもよい。
【0077】
付着処理工程において、アクリル繊維処理剤の付与率は、繊維−繊維間の膠着防止効果や融着防止効果を得ることと、炭素化処理工程において処理剤のタール化物によって炭素繊維の品質低下を防止することとのバランスからは、プレカーサーの重量に対して好ましくは0.1〜2重量%であり、さらに好ましくは0.3〜1.5重量%である。アクリル繊維処理剤の付与率が0.1重量%未満であると、単繊維間の膠着、融着を十分に防止できず、得られる炭素繊維の強度が低下することがある。一方、アクリル繊維処理剤の付与率が2重量%超であると、アクリル繊維処理剤が単繊維間を必要以上に覆うため、耐炎化処理工程において繊維への酸素の供給が妨げられ、得られる炭素繊維の強度が低下することがある。なお、ここでいうアクリル繊維処理剤の付与率とは、プレカーサー重量に対するアクリル繊維処理剤の付着した不揮発分重量の百分率で定義される。
【0078】
耐炎化処理工程は、アクリル繊維処理剤が付着したプレカーサーを200〜300℃の酸化性雰囲気中で耐炎化繊維に転換する工程である。酸化性雰囲気とは、通常、空気雰囲気であればよい。酸化性雰囲気の温度は好ましくは230〜280℃である。耐炎化処理工程では、付着処理後のアクリル繊維に対して、延伸比0.90〜1.10(好ましくは0.95〜1.05)の張力をかけながら、20〜100分間(好ましくは30〜60分間)にわたって熱処理が行われる。この耐炎化処理では、分子内環化および環への酸素付加を経て、耐炎化構造を持つ耐炎化繊維が製造される。
【0079】
炭素化処理工程は、耐炎化繊維をさらに300〜2000℃の不活性雰囲気中で炭化させる工程である。炭素化処理工程では、まず、窒素、アルゴン等の不活性雰囲気中、300℃から800℃まで温度勾配を有する焼成炉で、耐炎化繊維に対して、延伸比0.95〜1.15の張力をかけながら、数分間熱処理して、予備炭素化処理工程(第一炭素化処理工程)を行うのが好ましい。その後、より炭素化を進行させ、且つグラファイト化を進行させるために、窒素、アルゴン等の不活性雰囲気中で、第一炭素化処理工程に対して延伸比0.95〜1.05の張力をかけながら、数分間熱処理して、第二炭素化処理工程を行い、耐炎化繊維が炭素化される。第二炭素化処理工程における熱処理温度の制御については、温度勾配をかけながら、最高温度を1000℃以上(好ましくは1000〜2000℃)とすることがよい。この最高温度は、所望する炭素繊維の要求特性(引張強度、弾性率等)に応じて適宜選択して決定される。
【0080】
本発明の炭素繊維の製造方法では、弾性率がさらに高い炭素繊維が所望される場合は、炭素化処理工程に引き続いて、黒鉛化処理工程を行うこともできる。黒鉛化処理工程は、通常、窒素、アルゴン等の不活性雰囲気中、炭素化処理工程で得られた繊維に対して張力をかけながら、2000〜3000℃の温度で行われる。
【0081】
このようにして得られた炭素繊維には、目的に応じて、複合材料とした時のマトリックス樹脂との接着強度を高めるための表面処理を行うことができる。表面処理方法としては、気相または液相処理を採用でき、生産性の観点からは、酸、アルカリなどの電解液による液相処理が好ましい。さらに、炭素繊維の加工性、取り扱い性を向上させるために、マトリックス樹脂に対して相溶性の優れる各種サイジング剤を付与することもできる。
【実施例】
【0082】
以下、実施例により本発明を具体的に説明するが、ここに記載した実施例に限定されるものではない。なお、以下の実施例に示されるパーセント(%)、部は特に限定しない限り、「重量%」、「重量部」を示す。各特性値の測定は以下に示す方法に基づいて行った。
【0083】
<処理剤の付与率>
アクリル繊維処理剤の付与率は、ソックスレー抽出器によるエタノール抽出法により算出した。但し、変性シリコーン(B)を含む実施例14〜18、比較例4〜7については、以下の方法で付与率を算出した。
処理剤付与後のプレカーサーを水酸化カリウム/ナトリウムブチラートでアルカリ溶融した後、水に溶解して塩酸でpH1に調整した。これを亜硫酸ナトリウムとモリブデン酸アンモニウムを加えて発色させ、ケイモリブデンブルーの比色定量(波長815mμ)を行い、ケイ素の含有量を求めた。ここで求めたケイ素含有量と予め同法で求めた処理剤中のケイ素含有量の値を用いて、アクリル繊維処理剤の付与率(重量%)を算出した。
【0084】
<繊維−繊維間の摩擦>
炭素繊維ストランドを
図1に示す繊維−繊維摩擦測定機にセッティングし、繊維表面温度を90℃にし、撚り存在下(撚り回数2回)荷重により50gの初期張力をかけて3cm/分の速度で引っ張った時の張力(g)を繊維−繊維摩擦力とした。
【0085】
<スティックスリップ(R値)>
上記繊維−繊維間の摩擦測定と同様の方法で、炭素繊維ストランドを
図1に示す繊維−繊維摩擦測定機にセッティングし、繊維表面温度を90℃にし、撚り存在下(撚り回数2回)荷重により50gの初期張力をかけて3cm/分の速度で引っ張った時に発生する応力の最大値と最小値の差をR値として、
図2に示すように求めた。
【0086】
<製糸操業性(ローラー汚れ)>
プレカーサー50kgに処理剤を付与した後の乾燥ローラーの汚染度合い(ガムアップ)を下記の評価基準で判定した。
◎ :ガムアップによるローラー汚染が無く、製糸操業性問題無し
○ :ガムアップによるローラー汚染が少なく、製糸操業性問題無し
△ :ガムアップによるローラー汚染があり、やや製糸操業性に劣る
× :ガムアップによるローラー汚染が著しく、製糸時に単糸取られ、捲き付きあり
【0087】
<焼成時操業性(集束性)>
プレカーサー焼成工程において、耐炎化炉通過直後の耐炎化繊維束の通過状態を下記の評価基準で判定した。
○:繊維束の集束性が良好で、隣の繊維束との干渉等なく、操業性良好
×:繊維束幅がやや拡がり、一部で隣の繊維束と干渉あり、毛羽が発生することがある。
【0088】
<融着防止性>
炭素繊維から無作為に20カ所を選び、そこから長さ10mmの短繊維を切り出し、その融着状態を観察し、下記の評価基準で判定した。
◎:融着無し
○:ほぼ融着無し
△:融着少ない
×:融着多い
【0089】
<炭素繊維強度>
JIS-R-7601に規定されているエポキシ樹脂含浸ストランド法に準じ測定し、測定回数10回の平均値を炭素繊維強度(GPa)とした。
【0090】
<処理剤耐熱性(重量減少率)>
直径φ60mmのアルミカップ上に各処理剤エマルジョンを、その不揮発分の重量が1gになるように採取し、温風乾燥機にて105℃×3時間処理して水分を除去した。得られた試料(1g)をギヤオーブンにて250℃×1時間熱処理した。熱処理前の処理剤重量に対する熱処理後に減少した重量の百分率を、重量減少率(%)と定義した。重量減少率の数値が低い程、耐熱性が高いことを示す。
【0091】
[ポリアミド(A)水溶液の調製]
(製造例A−1)
重合性成分として、数平均分子量400のポリオキシエチレンの両末端にアクリロニトリルを付加し、これを水素還元して得たα,ω−ジアミノポリオキシエチレン(以下、PEGジアミンと呼ぶことがある)のPEG400ジアミン440部とアジピン酸160部を仕込み、230℃に加温し、8時間溶融重合させて、ポリアミドa1を得た。その後、40℃まで冷却し、水1400部を加え、不揮発分30重量%のポリアミドa1の水溶液を得た。
【0092】
(製造例A−2〜A−13)
重合性成分として、表1に記載の成分及び重量部に変更する以外は、製造例A−1と同様にして、不揮発分30重量%のポリアミドa2〜a13の水溶液をそれぞれ得た。
なお、表1におけるPEG600ジアミン、PEG1000ジアミン、PEG4000ジアミンとは、PEG400ジアミンにおいて、数平均分子量400のポリオキシエチレンをそれぞれ数平均分子量600、1000、4000のポリオキシチレンに変更して得られたPEGジアミンをいう。また、PEG1000ジカルボン酸とは、数平均分子量1000のポリオキシエチレンの両末端にアクリロニトリルを付加し、これを加水分解して得たα,ω−ジカルボキシポリオキシエチレン(以下、PEGジカルボン酸と呼ぶことがある)をいう。
【0093】
【表1】
【0094】
[変性シリコーン(B)乳化物の調製]
下記変性シリコーンb1、b2、b3をそれぞれノニオン系界面活性剤(ポリオキシエチレン7mol付加アルキルエーテル(アルキル基の炭素数は12〜14)、ポリオキシエチレン12mol付加トリスチレン化フェニルエーテル及びエチレンオキサイド/プロピレンオキサイド(50/50)ブロック共重合体)により水系乳化して、不揮発分20重量%の変性シリコーンの乳化物を得た。
b1:アミノ変性シリコーン(25℃粘度:1300mm
2/s、アミノ当量:2000g/mol、変性タイプ:ジアミン)
b2:アミノ変性シリコーン(25℃粘度:4500mm
2/s、アミノ当量:1000g/mol、変性タイプ:ジアミン)
b3:アミノ変性シリコーン(25℃粘度:120mm
2/s、アミノ当量:5000g/mol、変性タイプ:モノアミン)
【0095】
[エステル系化合物(C)乳化物の調製]
下記エステル系化合物c1、c2、c3をそれぞれノニオン系界面活性剤(ポリオキシエチレン7mol付加アルキルエーテル(アルキル基の炭素数は12〜14)、ポリオキシエチレン12mol付加トリスチレン化フェニルエーテル及びエチレンオキサイド/プロピレンオキサイド(50/50)ブロック共重合体)により水系乳化して、不揮発分20重量%のエステル系化合物の乳化物を得た。
c1:ビスフェノールAのエチレンオキシド2モル付加物のジラウリルエステル
c2:チオジプロピオン酸ジ(n−オクチル)エステル
c3:トリメリット酸トリイソデシル
【0096】
[ポリアミド樹脂(D)水分散体の調製]
撹拌装置を備えたオートクレーブ中に、6/66/12共重合ナイロンd1(末端カルボキシル基と末端アミノ基の割合が87/13、末端カルボキシル基130ミリモル/kg)120部、水179.6部及び水酸化ナトリウム0.4部とを仕込み、窒素ガス環流、撹拌下で150℃まで昇温した。内温を150℃に保ちながら、さらに30分間撹拌した後、内容物を50℃まで冷却し、オートクレーブより取り出し、不揮発分40重量%のポリアミド樹脂d1の水分散体を得た。
【0097】
〔実施例1〜18、比較例1〜8〕
上記で調製したポリアミドa1〜a13の水溶液、変性シリコーンb1〜b3の水系乳化物、エステル系化合物c1〜c3の水系乳化物、ポリアミド樹脂d1の水分散体及び水を用いて、表2〜4に示す不揮発分組成になるよう混合撹拌し、処理剤に占める不揮発分の割合が20重量%であるアクリル繊維処理剤をそれぞれ調製した。なお、表の数値は、処理剤の不揮発分に占める各成分の重量割合を示す。例えば、表のa1〜a13の数値は、処理剤の不揮発分に占めるポリアミドa1〜a13の重量割合を示す。
次いで、調製した処理剤をさらに水で希釈し、不揮発分濃度が3.0重量%である処理液をそれぞれ得た。
各処理液をプレカーサー(単繊維繊度0.8dtex,24,000フィラメント)に付与率1.0重量%となるように付着させ、100〜140℃で乾燥して水分を除去した。処理液付着後のプレカーサーを250℃の耐炎化炉にて60分間耐炎化処理し、次いで窒素雰囲気下300〜1400℃の温度勾配を有する炭素化炉で焼成して炭素繊維に転換した。各特性値の評価結果を表2〜4に示す。
【0098】
【表2】
【0099】
【表3】
【0100】
【表4】
【0101】
表2〜4にあるように、実施例では、繊維−繊維間の摩擦力及びスティックスリップ(R値)が小さく、製糸操業性、焼成時操業性にも優れていることから、安定した操業性を有していることがわかる。また、実施例では、繊維間の融着防止にも優れており、繊維間の融着防止と安定した操業性とを両立できていることがわかる。
一方、比較例では、繊維間の融着防止と安定した操業性とを両立できていないことがわかる。特に、比較例1〜3では、繊維−繊維間の摩擦力及びスティックスリップ(R値)が大きいため、繊維の断糸や毛羽の発生が起こりやすくなり、操業性に劣っている。また、比較例4〜6では、製糸操業性及び焼成時操業性がともに劣っている。