(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
図1において、燃料Gは、燃料噴射器120から垂直方向(+z方向)に噴射されると、垂直方向(+z方向)に拡散しながら、空気Airの流れ方向(+x方向)にも拡散する。ここで、燃料Gが垂直方向(+z方向)に拡散する距離を、燃料Gの「貫通高さ」と定義する。燃料Gの貫通高さは、主として、空気Airの流れ方向(+x方向)の単位時間当たりの運動量(以下運動量)と噴射された燃料Gの垂直方向(+z方向)の運動量との比によって決定される。
【0008】
図2は、燃料Gにおける、貫通高さと空気Airに流される距離との関係を示すグラフである。縦軸は燃料Gの貫通高さ(+z方向;任意単位)を示し、横軸は燃料Gが空気Airに流される距離(+x方向;任意単位)を示している。横軸及び縦軸の基準(0)は、燃料噴射器120の位置である。破線は飛しょう体速度が遅い(空気Airの運動量が小さい)場合を示し、実線は飛しょう体速度が速い(空気Airの運動量が大きい)場合を示している。ただし、空気Airと燃料Gの質量流量比及び噴射される燃料Gの垂直方向(+z方向)の運動量は飛しょう体の速度によらず同一としている。
【0009】
図に示されるように、飛しょう速度が速い場合(実線:主に、巡航段階にあたる)、貫通高さは低くなる傾向にある。空気Airの流れ方向の運動量が高く、その流れの方向に燃料Gが流され易いためと考えられる。一方、飛しょう速度が遅い場合(破線:概ね加速段階にあたる)、貫通高さは高くなる傾向にある。空気Airの運動量が低く、その流れの方向に燃料Gが流され難いためと考えられる。
【0010】
図3A及び
図3Bは、飛しょう速度が速い場合での燃焼器の燃料噴射の様子を模式的に示す概略図である。ただし、
図3Aは燃料噴射器120の開口部付近の斜視図であり、
図3Bは
図3Aの断面C101における燃料Gの様子を示す図である。また、断面C101は、空気Air及び燃料Gの流路における、燃料噴射器120から流れ方向に所定距離だけ離れた位置での流路のyz断面である。いずれの図も
図1とは上下を逆にして描かれている。
【0011】
図3Aに示されるように、燃料Gは、燃焼器112の壁面121に設けられた複数の燃料噴出器120から垂直方向(+z方向)に供給される。その後、燃料Gは、インレット111から取り入れられた空気Airにより、その流れ方向(+x方向)へ流される。そのとき、
図3Bに示されるように、断面C101(yz断面)では、燃料Gが、保炎可能な領域(保炎可能領域)Bを通過しており、保炎困難な領域(保炎困難領域)Aを通過することはない。これは、飛しょう速度が速く、空気Airの運動量が大きいため、燃料Gの貫通高さが低いためである(
図2)。
【0012】
図4A及び
図4Bは、飛しょう速度が遅い場合での燃焼器の燃料噴射の様子を模式的に示す概略図である。たたし、
図4Aは燃料噴射器120の開口部付近の斜視図であり、
図4Bは
図4Aにおける断面C101における燃料Gの様子を示す図であり、いずれの図も
図1とは上下を逆にして描かれている。
【0013】
図3Aの場合と同様に、
図4Aに示されるように、燃料Gは、複数の燃料噴出器120から垂直方向(+z方向)に供給される。その後、燃料Gは、空気Airにより、その流れ方向(+x方向)へ流される。そのとき、
図3Bの場合と異なり、
図4Bに示されるように、断面C101(yz断面)では、燃料Gが、保炎困難領域Aを通過しており、保炎可能領域Bを通過できない。これは、飛しょう速度が遅く、空気Airの運動量が小さいため、燃料Gの貫通高さが高くなってしまうためである(
図2)。この場合、保炎することができず、ジェットエンジン102が作動不可となる問題がある。そのため、より低速でジェットエンジン102を用いることが困難であった。
【0014】
上記問題を解決するために、特開2012−202226号公報は、燃料噴射部が燃料を噴射する噴射口の角度を飛しょう速度に応じて可変とし、燃料を常に適切な貫通高さに拡散させる方法を提案している。しかし、この場合、噴射口の角度を可変とする機構には燃焼に伴う非常に大きな熱負荷が加わる問題が存在し、かつ、その可変機構の設置に伴い機体110が大型化する問題が存在する。
【0015】
したがって、本発明の目的は、機体を大きく改造することなく、より低速でも安定的に動作することが可能なジェットエンジン、飛しょう体及びジェットエンジンの動作方法を提供することにある。また、本発明の他の目的は、機体を大きく改造することなく、燃料が保炎困難な領域に到達することを抑制することが可能なジェットエンジン、飛しょう体及びジェットエンジンの動作方法を提供することにある。
【0016】
この発明のこれらの目的とそれ以外の目的と利益とは以下の説明と添付図面とによって容易に確認することができる。
【課題を解決するための手段】
【0017】
以下に、発明を実施するための形態で使用される番号・符号を用いて、課題を解決するための手段を説明する。これらの番号・符号は、特許請求の範囲の記載と発明を実施するための形態との対応関係の一例を示すために、参考として、括弧付きで付加されたものである。
【0018】
本発明の1つの観点において、ジェットエンジンは、空気を取り込むインレット(11)と、空気を用いて燃料を燃焼する燃焼器(12)とを具備している。燃焼器(12)は、噴射器(20)を備えている。噴射器(20)には、燃料を噴射する開口部(31、35)が形成される。噴射器(20)には、飛行中に経時的に消失する消失部(32、36)が設けられる。そして、消失部(32、36)の消失により、燃料の噴射方向が変更される
【0019】
上記のジェットエンジンにおいて、消失部(32、36)は、熱的又は空力的影響により形状が消失する材料を含んでいてもよい。その材料は、発火によらず消失してもよい。その材料は、アブレーション材を含んでいてもよい。
【0020】
上記のジェットエンジンにおいて、消失部(32)は、開口部(31)の一部を埋めるように設けられてもよい。
【0021】
上記のジェットエンジンにおいて、消失部(36)は、開口部(35)の少なくとも一部を覆うように設けられていてもよい。
【0022】
上記のジェットエンジンにおいて、消失部(32、36)は、空気の流れ方向(+x方向)とは逆の方向(−x方向)へ燃料の噴射方向を変更するように開口部(31)に設けられていてもよい。
【0023】
本発明の他の1つの観点において、飛しょう体は、ジェットエンジン(2)と、ロケットモータ(3)とを具備している。ジェットエンジン(2)は、上記段落のいずれかに記載されている。ロケットモータ(3)は、ジェットエンジン(2)に接続されている。
【0024】
本発明の更に他の1つの観点において、ジェットエンジンの動作方法は、以下のジェットエンジンを用いる。ジェットエンジンは、空気を取り込むインレット(11)と、空気を用いて燃料を燃焼する燃焼器(12)とを具備している。燃焼器(12)は、燃料を噴射する開口部(31、35)が形成された噴射器(20)を備えている。噴射器(20)には、飛行中に経時的に消失する消失部(32、36)が設けられる。そして、消失部(32、36)の消失により、燃料の噴射方向が変更される。ジェットエンジンの動作方法は、開口部(31、35)から燃料を噴射するステップと、消失部(32、36)が飛行中に経時的に消失した後に、開口部(31、35)から燃料を噴射するステップであって、消失部(32、36)の消失前における燃料の噴射方向と異なる方向に燃料を噴射するステップとを具備している。
【発明の効果】
【0025】
本発明により、機体を大きく改造することなく、より低速でも安定的に動作することが可能なジェットエンジン、飛しょう体及びジェットエンジンの動作方法を提供することができる。また、本発明により、機体を大きく改造することなく、燃料が保炎困難な領域に到達することを低減することが可能なジェットエンジン、飛しょう体及びジェットエンジンの動作方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【
図1】
図1は、ジェットエンジンの構成を模式的に示す概略断面図である。
【
図2】
図2は、燃料における貫通高さと空気に流される距離との関係を示すグラフである。
【
図3A】
図3Aは、飛しょう速度が速い場合での燃焼器の燃料噴射の様子を模式的に示す概略図である。
【
図3B】
図3Bは、飛しょう速度が速い場合での燃焼器の燃料噴射の様子を模式的に示す概略図である。
【
図4A】
図4Aは、飛しょう速度が遅い場合での燃焼器の燃料噴射の様子を模式的に示す概略図である。
【
図4B】
図4Bは、飛しょう速度が遅い場合での燃焼器の燃料噴射の様子を模式的に示す概略図である。
【
図5】
図5は、実施の形態に係る飛しょう体の構成例を示す斜視図である。
【
図6】
図6は、実施の形態に係るジェットエンジンの構成例を模式的に示す概略断面図である。
【
図7A】
図7Aは、第1の実施の形態に係る燃焼器において飛しょう速度が遅い場合での燃料噴射の様子を模式的に示す概略図である。
【
図7B】
図7Bは、第1の実施の形態に係る燃焼器において飛しょう速度が遅い場合での燃料噴射の様子を模式的に示す概略図である。
【
図7C】
図7Cは、第1の実施の形態に係る燃焼器において飛しょう速度が遅い場合での燃料噴射の様子を模式的に示す概略図である。
【
図8A】
図8Aは、第1の実施の形態に係る燃焼器において飛しょう速度が速い場合での燃料噴射の様子を模式的に示す概略図である。
【
図8B】
図8Bは、第1の実施の形態に係る燃焼器において飛しょう速度が速い場合での燃料噴射の様子を模式的に示す概略図である。
【
図8C】
図8Cは、第1の実施の形態に係る燃焼器において飛しょう速度が速い場合での燃料噴射の様子を模式的に示す概略図である。
【
図9】
図9は、実施の形態に係る燃料を噴射する原理を示すグラフである。
【
図10】
図10は、実施の形態に係るジェットエンジンの消失部材の例を示す表である。
【
図11】
図11は、様々な環境において要求される消失部材の形状消失速度を示している。
【
図12A】
図12Aは、第1の実施の形態に係る消失部材の取り付け方法の例を模式的に示す断面図である。
【
図12B】
図12Bは、第1の実施の形態に係る消失部材の取り付け方法の例を模式的に示す断面図である。
【
図13】
図13は、第1の実施の形態に係る燃焼器の構成の変形例を模式的に示す斜視図である。
【
図14】
図14は、第2の実施の形態に係る燃焼器において飛しょう速度が遅い場合での燃料噴射の様子を模式的に示す概略図である。
【
図15】
図15は、第2の実施の形態に係る燃焼器において飛しょう速度が速い場合での燃料噴射の様子を模式的に示す概略図である。
【
図16】
図16は、第2の実施の形態に係る消失部材の取り付け方法の例を模式的に示す断面図である。
【
図17】
図17は、第3の実施の形態に係る燃焼器において飛しょう速度が遅い場合での燃料噴射の様子を模式的に示す概略図である。
【
図18】
図18は、第3の実施の形態に係る燃焼器において飛しょう速度が速い場合での燃料噴射の様子を模式的に示す概略図である。
【
図19】
図19は、第4の実施の形態に係る燃焼器において飛しょう速度が遅い場合での燃料噴射の様子を模式的に示す概略図である。
【
図20】
図20は、第5の実施の形態に係る燃焼器において飛しょう速度が速い場合での燃料噴射の様子を模式的に示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下、本発明の実施の形態に係るジェットエンジン及びジェットエンジンの動作方法に関して、添付図面を参照して説明する。ここでは、ジェットエンジンを飛しょう体に適用した例について説明する。
【0028】
(第1の実施の形態)
本実施の形態に係る飛しょう体1の構成について説明する。
図5は、本実施の形態に係る飛しょう体1の構成例を示す斜視図である。飛しょう体1は、ジェットエンジン2と、ロケットモータ3とを具備している。ロケットモータ3は、飛しょう体1を発射装置から飛行させるとき、飛しょう体1を飛しょう開始時の速度から所望の速度まで加速する。ただし、飛しょう開始時の速度は、飛しょう体1が静止している発射装置から発射されるときは、速度ゼロであり、飛しょう体が移動中/飛行中の移動体/飛行体の発射装置から発射されるときは、その移動体/飛行体の移動速度/飛行速度である。ジェットエンジン2は、飛しょう体1がロケットモータ3を分離した後、飛しょう体1を更に加速して、目標へ向かって飛しょうさせる。ジェットエンジン2は、機体10とカウル40とを備えている。機体10とカウル40とは、後述されるように、ジェットエンジン2のインレット、燃焼器及びノズルを構成している。ジェットエンジン2は、インレットにて前方から空気を取り入れ、燃焼器にてその空気と燃料とを混合し、燃焼させ、ノズルにてその燃焼ガスを膨張させ、後方へ送出する。それにより、ジェットエンジン2は推進力を得る。
【0029】
次に、本実施の形態に係るジェットエンジンについて説明する。
図6は、本実施の形態に係るジェットエンジンの構成例を模式的に示す概略断面図である。ジェットエンジン2は、機体10と、機体10の下方に気体の流通可能な空間50を形成するように設けられたカウル40とを備えている。機体10の前方の下方部分とカウル40の前方部分とは、空間50へ空気を導入するインレット11を構成している。機体10の中間の下方部分とカウル40の中間部分とは、燃料と空気とを混合し燃焼させる燃焼器12を構成している。機体10の後方の下方部分とカウル40の後方部分とは、燃焼気体を膨張させて放出するノズル13を構成している。燃焼器12は、燃料噴射器20を備えている。
【0030】
燃料噴射器20は、機体10の下方部分における、燃焼器12に対応する部分の壁面21に設けられている。燃料噴射器20は、機体10に格納された燃料Gを概ね垂直方向(+z方向)の空間50へ向けて噴射する。噴射された燃料Gは、インレット11から取り入れた空気と混合されて燃焼する。初期にはイグナイタ(図示されず)等により空気と燃料の混合気(図示されず)に点火してもよい。燃料噴射器20は、機体10の下方部分に設けられた開口部を有し、その開口部の形状や数や配置は任意性がある。燃料噴射器20は、機体10のスパン方向に並んで設けられた複数の開口部に例示される。
【0031】
なお、燃焼器12は、更に、燃料噴射器20よりも後方の壁面21に保炎器を備えていてもよい(図示されず)。
【0032】
図7A〜
図7Cは、本実施の形態に係る燃焼器において飛しょう速度が遅い場合での燃料噴射の様子を模式的に示す概略図である。ただし、
図7Aは燃料噴射器20の開口部付近の斜視図である。
図7Bは燃料噴射器20の開口部付近の断面図である。
図7Cは
図7Aの断面C1における燃料Gの様子を示す図である。また、断面C1は、空気Air及び燃料Gの流路における、燃料噴射器20から流れ方向に所定距離だけ離れた位置でのyz断面である。
【0033】
図7Bに示すように、燃料噴射器20は、燃料供給管30を含んでいる。また、燃料噴射器20には、燃料噴射口31(開口部)が形成されている。燃料供給管30は、燃料タンク(図示されず)から燃料噴射口31へ燃料Gを供給する。燃料噴射口31は、供給された燃料Gを空間50へ噴射する。燃料噴射口31は、xy断面で見ると、燃料供給管30よりも、低速時に燃料Gを噴射する方向(この場合、+x方向)に広がった形状を有している。また、燃料噴射器20には、消失部材32が設けられている。
【0034】
本実施の形態では、消失部材32は、燃料噴射口31の一部を部分的に埋めるように設けられている。そして、消失部材32は、燃料Gの流路を部分的に塞いだり、燃料Gの流路を部分的に形成したりして、燃料噴射口31からの燃料Gの噴射方向を変更する。この場合、消失部材32は、燃料Gの流路を部分的に塞いで、燃料噴射口31からの燃料Gの噴射方向を、垂直方向(+z方向)から斜め方向(+z方向と+x方向との間の方向)へ変更している。
【0035】
消失部材32は、ジェットエンジン2で飛しょう中の低速から高速への加速時に、ある時間経過後に、熱的又は空力的な影響により消失する材料である。具体的には、消失部材32は、インレット11に取り込まれる空気や供給される燃料の熱、せん断力や圧力により、形状変更(溶けたり、気化したり、昇華したり、化学分解したり、燃えたり、剥がれたり、削れたり、又は、それらのいくつかの組み合わせ)する材料である。消失部材32の詳細は後述される。
【0036】
本実施の形態では、典型的には飛しょう体1の速度に依らず、燃料Gを概ね一定の質量流量で空間50へ向けて燃料噴射器20から噴射する。言い換えると、飛しょう体1の速度に依らず、燃料Gを概ね一定の運動量で空間50へ向けて燃料噴射器20から噴射する。このとき、
図7A及び
図7Bに示されるように、飛しょう体1の速度が低速の場合(主に加速時)、
図4A及び
図4Bの事態が発生しないように、垂直方向(+z方向)ではなく、斜め方向(+z方向と+x方向との間の方向)へ燃料Gを噴射する。すなわち、燃料Gの運動量の成分のうちの一部を+x方向へ振り向けることで、+z方向の運動量成分を減少させている。それにより、燃料Gの貫通高さを低くすることができる。その結果、
図7Cに示されるように、断面C1(yz断面)では、燃料Gが、保炎可能領域Bを通過しており、保炎困難領域Aを通過することはない。
【0037】
一方、
図8A〜
図8Cは、本実施の形態に係る燃焼器において飛しょう速度が速い場合での燃料噴射の様子を模式的に示す概略図である。ただし、
図8Aは燃料噴射器20の開口部付近の斜視図である。
図8Bは燃料噴射器20の開口部付近の断面図である。
図8Cは
図8Aの断面C1における燃料Gの様子を示す図である。
【0038】
図8Bに示すように、
図7Bの状態からある時間経過後に、燃焼器12では、消失部材32が消失する。消失部材32が消失することにより、燃料噴射器20の燃料噴射口31は、垂直方向(+z方向)へ燃料Gを噴射可能になる。
【0039】
このとき、
図8A及び
図8Bに示されるように、飛しょう体1の速度が高速の場合(主に巡航時)、垂直方向(+z方向)へ燃料Gが噴射される。その場合でも、
図8Cに示すように、断面C1(yz断面)では、燃料Gが、保炎可能領域Bを通過しており、保炎困難領域Aを通過することはない。これは、飛しょう速度が高速であり、空気Airの運動量が大きいため、燃料Gの貫通高さが低いためである(
図2)。
【0040】
次に、本実施の形態に係る燃料Gを噴射する原理について説明する。
図9は、本実施の形態に係る燃料Gを噴射する原理を示すグラフである。本実施の形態では、飛しょう体1の速度に依らず、燃料Gを概ね一定の運動量で空間50へ向けて噴射しながら、燃料Gを保炎可能な領域へ常に供給する。それは、以下の原理に基づいて行われる。飛しょう体1の速度が速い場合、運動量P
Hで垂直方向(+z方向)へ燃料Gを噴射する。このとき、空気Airの運動量が大きいため、燃料Gの貫通高さを低く抑えられる。それにより、燃料Gは、保炎可能領域Bへ拡散する。
【0041】
一方、飛しょう体1の速度が遅い場合、運動量P
Lで斜め方向(+z方向と+x方向との間の方向)へ燃料Gを噴射する。ただし、運動量一定の条件から、|P
H|=|P
L|である。このとき、運動量P
Lは、垂直方向の成分が|P
LZ|となり、運動量|P
H|(=|P
L|)よりも小さくなる。その結果、飛しょう体1の速度が遅く、空気Airの運動量が小さくても、燃料Gの貫通高さを低くすることができる。それにより、燃料Gは、保炎可能領域Bへ拡散する。なお、この場合、運動量P
Lの垂直方向の成分|P
LZ|が小さくなればよいので、燃料Gの噴射方向が他の斜め方向(例示:+z方向と−x方向との間の方向)であってもよいことは明らかである。
【0042】
次に、消失部材32について更に説明する。
消失部材32は、飛しょう体1が飛行中に、溶けたり、気化したり、昇華したり、化学分解したり、燃えたり、剥がれたり、削れたりする材料であるが、発火しない材料がより好ましい。燃料噴射口31の周辺構造へ加熱による負荷を与えないからである。そのような消失部材としては、例えば、アブレーション材が好ましい。アブレーション材は、消失する時の吸熱反応によって周囲の構造材を冷却して、熱負荷を軽減するからである。なお、アブレーション材は、相変化に伴う吸熱により耐熱性を向上させる材料であると定義される。
【0043】
ただし、消失部材32の消失については、燃料噴射口31が、垂直方向(+z方向)へ燃料Gを噴射可能になれば、消失部材32が完全に消失する必要はなく、部分的に残存していてもよい。言い換えると、消失部材32が消失するとは、燃料噴射口31が、概ね垂直方向(+z方向)へ燃料Gを噴射可能になるように消失部材32が減少することであり、必ずしも消失部材32が燃料噴射口31付近から完全に消失する必要はない。
【0044】
図10は、本実施の形態に係るジェットエンジンの消失部材32の例を示す表である。この表に記載された材料(スカイハロー、シリカ/フェノール)はアブレーション材である。この表は、これらの材料に加わる加熱量及びせん断力と、これらの材料の形状消失速度との関係を示している。ただし、スカイハロー(登録商標)は、日本特殊塗料株式会社製のエポキシ−ポリアミド系断熱塗料材である。シリカ/フェノールは、シリカ繊維を含むフェノール樹脂である。
【0045】
この図に示されるように、形状消失速度[単位:mm/秒]は、材料の種類、材料に加わる加熱量及びせん断力に依存して変わることが分かる。逆に言えば、燃料噴射口31付近に想定される加熱量及びせん断力に基づいて、材料を適宜選択することによって、形状消失速度を任意に調整することが可能である。すなわち、
図7A〜
図7C(低速時(主に加速時))の状態から
図8A〜
図8C(高速時(主に巡航時))の状態への遷移時間を任意に調整することが可能である。
【0046】
図11は、様々な環境において要求される消失部材32の形状消失速度を示している。ここでは、飛行速度が500m/s(約マッハ1.7)から1500m/s(約マッハ5)に増加する間に、形状を変更させる(消失部材32を消失させる)ことを考える。環境としては、機体平均加速度、及び必要な形状変更量が挙げられる。要求される形状消失速度は、環境に応じて変わるが、
図10に示されるように材料等を調整することにより、その要求を満たすことができることが分かる。
【0047】
図12A及び
図12Bは、本実施の形態に係る消失部材の取り付け方法の例を模式的に示す断面図である。
図12Aでは、消失部材32は、消失部材本体41とネジ部材42とを備えている。燃料噴射口31付近の機体10には、消失部材本体41の一部分を乗せられるように、壁面21側に落とし込み加工がされている。消失部材本体41は、例えば、その一部分をその落とし込み加工部分に乗せてネジ部材42でネジ留めされることで、機体10に結合される。ただし、ネジ部材42を用いず、消失部材本体41の側面に接着剤を塗布して、落とし込み加工部分に接着することで、機体10に結合させてもよい。
【0048】
図12Bでは、消失部材32は、消失部材本体43と突起部分44とを備えている。燃料噴射口31内の機体10には、突起部分44を嵌め込むことができるように、溝又は孔加工がされている。消失部材本体43は、例えば、その突起部分44をその溝又は孔加工部分に嵌め込むことで、機体10に結合される。ただし、突起部分44等に接着剤を塗布して、溝又は孔加工部分に接着することで、機体10に結合させてもよい。
【0049】
次に、本発明の実施の形態に係る飛しょう体1及びジェットエンジン2の動作方法について説明する。
【0050】
飛しょう体1は、設置位置から目標に向けて発射され、ロケットモータ3により飛行開始時の速度の状態から所望の速度、時間、距離、又は、高度まで加速する。その後、飛しょう体1は、ロケットモータ3を切り離し、ジェットエンジン2により、加速し、飛しょうする。
【0051】
ジェットエンジン2で加速を開始した当初の段階(加速時)では、飛しょう体1の速度は相対的に遅く、燃料噴射器20の燃料噴射口31には消失部材32が取り付けられている。それにより、燃料Gの燃料噴射方向は変更され、垂直方向(+z方向)ではなく、斜め方向(+z方向と+x方向との間の方向)となる。その結果、燃料Gは、その斜め方向へ噴射されるので、保炎困難領域Aに達することなく、保炎可能領域Bに供給される。よって、ジェットエンジン2は、保炎することができ、動作を継続することができる(
図7A〜
図7C)。
【0052】
その後、ジェットエンジン2の加速により、飛しょう体1の速度は増加していく。それと共に、燃料噴射口31の消失部材32が、インレット11から取り入れられる空気や供給される燃料の熱、せん断力や圧力により溶け(又は、気化し、昇華し、化学分解し、燃え、剥がれ、削れ、)経時的に減っていく。それにより、燃料Gの燃料噴射方向は、垂直方向(+z方向)に近づいていく。しかし、空気Airの速度が増加し、その運動量が増加しているので、燃料Gの貫通高さは不必要に高くなることは無い。そのため、燃料Gは、保炎困難領域Aに達することなく、保炎可能領域Bに供給される。よって、ジェットエンジン2は、保炎することができ、動作を継続することができる。
【0053】
そして、飛しょう体1の速度が相対的に十分に速くなった段階(主に、巡航時)では、消失部材32は消失する。それにより、燃料Gの燃料噴射方向は、垂直方向(+z方向)となる。しかし、空気Airの速度が更に増加し、その運動量が更に増加しているので、燃料Gの貫通高さは不必要に高くなることは無い。そのため、燃料Gは、保炎困難領域Aに達することなく、保炎可能領域Bに供給される。よって、ジェットエンジン2は、保炎することができ、動作を継続することができる(
図8A〜
図8C)。飛しょう体1は、概ね所定の速度で飛しょうする。
【0054】
以上のようにして、本発明の実施の形態に係る飛しょう体1及びジェットエンジン2は動作する。
【0055】
図13は、本実施の形態に係る燃焼器の構成の変形例を模式的に示す斜視図である。
図7A〜
図8Cの燃焼器はスパン方向に並んだ複数の燃料噴射器20−1を有しているが、
図13に示すように、更に、空気の流れ方向の後方に、複数の燃料噴射器20−2を備えていてもよいし、その後方に、更に、他の複数の燃料噴射器(図示されず)を備えていてもよい。また、
図7A〜
図8Cの燃焼器は保炎器を有していなかったが、
図13に示すように、保炎器40−1を備えていてもよいし、更に保炎器40−2を備えていてもよいし、更に、他の保炎器を備えていてもよい。
【0056】
本実施の形態では、燃料噴射器20の燃料噴射口31の一部に、熱的又は空力的影響により形状が消失する材料で形成された消失部材32が設けられている。それにより、消失部材32の有無で、燃料Gの噴射方向を変更可能な可変燃料噴射器を実現することができる。
【0057】
本実施の形態に係る飛しょう体1及びジェットエンジン2では、ジェットエンジン2で加速を開始した当初の低速時(加速時)には、燃料噴射器20の燃料噴射口31の一部に消失部材32が設けられている。そのため、燃料Gを斜め方向に噴射することができるので、貫通高さを低減することができる。その結果、低速時でも、燃料Gを保炎可能領域Bに供給し、拡散させることができる。それにより、ジェットエンジン2が動作しなくなる事態を防止することができる。
【0058】
更に、飛しょう体1の速度が上昇するに連れて、空気の運動量が徐々に上昇すると共に、消失部材32も徐々に消失する。それにより、燃料Gの噴射角度が徐々に垂直方向に近づき、燃料Gが空気の運動量に応じた垂直方向の燃料運動量となる。すなわち、燃料Gの貫通高さ及び燃料Gの拡散を適正に保つことができる。すなわち、高速時でも、燃料Gを保炎可能領域Bに供給し、拡散させることができる。それにより、ジェットエンジン2を継続的に動作させることができる。
【0059】
その結果、本実施の形態に係る飛しょう体1及びジェットエンジン2では、燃料噴射器などを改造することなく、従来のジェットエンジンと比較して、より低速域から高速域までの非常に広い速度域において使用可能な保炎器を実現することができる。すなわち、機体を大きく改造することなく、ジェットエンジン2の運用可能な速度域を増大させることができる。
【0060】
それに加えて、ジェットエンジン2を作動させる前にロケットモータ3を用いている飛しょう体1では、ジェットエンジン2の運用可能な速度域が増大されることにより、ロケットモータ3で到達すべき速度(加速すべき速度域)を小さくできる。そのため、ロケットモータ3の大きさ(重量)を大幅に低減することができる。それにより、飛しょう体1全体として小型軽量化を実現でき、更に加速性能を高めることができる。
【0061】
また、消失部材の材料や厚みや形状などを適宜選択することにより、消失部材の形状変更(溶ける、燃える、削れる、剥がれるなど)に要する時間を任意に調整することが出来る。それにより、燃料Gの貫通高さの変化を任意に調整できるので、ジェットエンジンの作動不良を発生させることなく、非常に低い低速域からでもジェットエンジンを用いることが可能となる。また、消失部材の材料によって、発熱を伴わない又は周囲構造からの吸熱が起こるように消失部材の形状変更(溶ける、燃える、削れる、剥がれるなど)を起こすことができ、周囲構造への熱負荷を軽減することができる。
【0062】
(第2の実施の形態)
本実施の形態では、消失部材の構成が第1の実施の形態と相違している。以下では、その相違点について主に詳細に説明する。
【0063】
図14は、本実施の形態に係る燃焼器において飛しょう速度が遅い場合での燃料噴射の様子を模式的に示す概略図である。ただし、
図14は燃料噴射器20の開口部付近の断面図である。
【0064】
図14に示すように、燃料噴射器20は、消失部材36を備えている。また、燃料噴射器20は、燃料供給管30と、燃料噴射口35(開口部)とを含んでいる。燃料供給管30は、燃料タンク(図示されず)から燃料噴射口35へ燃料Gを供給する。燃料噴射口35は、供給された燃料Gを消失部材36(主に低速時)へ、又は、空間50(主に高速時)へ噴射する。
【0065】
消失部材36は、壁面21上に燃料噴射口35の少なくとも一部を覆うように設けられ、燃料Gの流路を部分的に塞いだり、燃料Gの流路を部分的に形成したりして、燃料噴射口35からの燃料Gの噴射方向を変更する。この場合、消失部材36は、燃料Gの流路を部分的に塞いで、燃料噴射口35からの燃料Gを、自身の燃料噴射口37へ導くことにより、燃料Gの噴射方向を、垂直方向(+z方向)から斜め方向(+z方向と+x方向との間の方向)へ変更している。このとき、消失部材36は、壁面21上に突出しているので、燃料噴射口37周辺の空気Airの流れを乱す。そのため、燃料Gの流れを乱すことができ、燃料Gの拡散を補助することができる。
【0066】
一方、
図15は、本実施の形態に係る燃焼器において飛しょう速度が速い場合での燃料噴射の様子を模式的に示す概略図である。ただし、
図15は燃料噴射器20の開口部付近の断面図である。
【0067】
図15に示すように、
図14の状態からある時間経過後に、燃焼器12では、消失部材36が消失する。消失部材36が消失することにより、燃料噴射器20の燃料噴射口35は、垂直方向(+z方向)へ燃料Gを噴射可能になる。
【0068】
その他の構成及び動作については、第1の実施の形態と同様である。
【0069】
図16は、本実施の形態に係る消失部材の取り付け方法の例を模式的に示す断面図である。
消失部材36は、消失部材本体45と突起部分46とを備えている。機体10には、突起部分46を嵌め込むことができるように、溝又は孔加工がされている。消失部材本体45は、例えば、その突起部分46をその溝又は孔加工部分に嵌め込むことで、機体10に結合される。ただし、突起部分46等に接着剤を塗布して、溝又は孔加工部分に接着することで、機体10に結合させてもよい。
【0070】
本実施の形態についても、第1の実施の形態と同様の効果を得ることができる。
加えて、消失部材36は、壁面21上に突出しているので、空気Airの流れを乱して、燃料Gの流れを乱すことができ、燃料Gの拡散を補助することができる。
【0071】
(第3の実施の形態)
本実施の形態では、消失部材が残存しているときの燃料の噴射方向が第1の実施の形態と相違している。以下では、その相違点について主に詳細に説明する。
【0072】
図17は、本実施の形態に係る燃焼器において飛しょう速度が遅い場合での燃料噴射の様子を模式的に示す概略図である。ただし、
図17は燃料噴射器20の開口部付近の断面図である。
【0073】
図17に示すように、燃料噴射器20の燃料噴射口31(開口部)、及び、消失部材32は、第1の実施の形態の
図7Bの場合と比較して、逆の方向、すなわち空気の流れる方向と反対の方向(−x方向)に、燃料Gを噴射するように設けられている。この場合にも、
図7Bの場合と同様に、貫通高さを低くすることができる。また、
図7Bの場合と比較して、燃焼器12における燃料Gの移動距離が長くなり、かつ空気と燃料Gとのせん断力が大きくなることにより、拡散がより進みやすくなり、燃料Gがより均一に拡散すると考えられる。
【0074】
一方、
図18は、本実施の形態に係る燃焼器において飛しょう速度が速い場合での燃料噴射の様子を模式的に示す概略図である。ただし、
図18は燃料噴射器20の開口部付近の断面図である。
【0075】
図18に示すように、
図17の状態からある時間経過後に、燃焼器12では、消失部材32が消失する。消失部材32が消失することにより、燃料噴射器20の燃料噴射口31は、垂直方向(+z方向)へ燃料Gを噴射可能になる。
【0076】
その他の構成及び動作については、第1の実施の形態と同様である。
【0077】
本実施の形態についても、第1の実施の形態と同様の効果を得ることができる。
加えて、燃料噴射器20の燃料噴射口31(開口部)、及び、消失部材32は、第1の実施の形態の
図7Bの場合と比較して、逆の方向に、燃料Gを噴射するように設けられているので、拡散がより進みやすくなり、燃料Gがより均一に拡散すると考えられる。
【0078】
(第4の実施の形態)
本実施の形態では、消失部材が残存しているときの燃料の噴射方向が第2の実施の形態と相違している。以下では、その相違点について主に詳細に説明する。
【0079】
図19は、本実施の形態に係る燃焼器において飛しょう速度が遅い場合での燃料噴射の様子を模式的に示す概略図である。ただし、
図19は燃料噴射器20の開口部付近の断面図である。
【0080】
図19に示すように、消失部材36は、第2の実施の形態の
図14の場合と比較して、逆の方向、すなわち空気の流れる方向と反対の方向(−x方向)に、燃料Gを噴射するように設けられている。この場合にも、
図14の場合と同様に、貫通高さを低くすることができる。また、
図14の場合と比較して、燃焼器12における燃料Gの移動距離が長くなり、かつ空気と燃料Gとのせん断力が大きくなることにより、拡散がより進みやすくなり、燃料Gがより均一に拡散すると考えられる。
【0081】
一方、
図20は、本実施の形態に係る燃焼器において飛しょう速度が速い場合での燃料噴射の様子を模式的に示す概略図である。ただし、
図20は燃料噴射器20の開口部付近の断面図である。
【0082】
図20に示すように、
図19の状態からある時間経過後に、燃焼器12では、消失部材36が消失する。消失部材36が消失することにより、燃料噴射器20の燃料噴射口35は、垂直方向(+z方向)へ燃料Gを噴射可能になる。
【0083】
その他の構成及び動作については、第2の実施の形態と同様である。
【0084】
本実施の形態についても、第2の実施の形態と同様の効果を得ることができる。
加えて、消失部材36は、第2の実施の形態の
図14の場合と比較して、逆の方向に、燃料Gを噴射するように設けられているので、拡散がより進みやすくなり、燃料Gがより均一に拡散すると考えられる。
【0085】
本発明により、機体を大きく改造することなく、より低速でも安定的に動作することが可能なジェットエンジン、飛しょう体及びジェットエンジンの動作方法を提供することができる。また、本発明により、機体を大きく改造することなく、燃料が保炎困難な領域に到達することを抑制することが可能なジェットエンジン、飛しょう体及びジェットエンジンの動作方法を提供することができる。
【0086】
本実施の形態はジェットエンジンを飛しょう体に適用した例示ついて説明しているが、本発明は、その例に限定されるものではなく、ロケット及びジェットエンジンを備えた多段式打ち上げ機や航空機にも適用可能である。
【0087】
本発明は上記各実施の形態に限定されず、本発明の技術思想の範囲内において、各実施の形態は適宜変形又は変更され得ることは明らかである。また、各実施の形態で用いられる種々の技術は、技術的矛盾が生じない限り、他の実施の形態にも適用可能である。