特許第6204260号(P6204260)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6204260一酸化窒素還元触媒、一酸化窒素の還元方法、窒素の製造方法、排気ガス浄化触媒、及び排気ガスの浄化方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6204260
(24)【登録日】2017年9月8日
(45)【発行日】2017年9月27日
(54)【発明の名称】一酸化窒素還元触媒、一酸化窒素の還元方法、窒素の製造方法、排気ガス浄化触媒、及び排気ガスの浄化方法
(51)【国際特許分類】
   B01J 23/72 20060101AFI20170914BHJP
   B01J 37/34 20060101ALI20170914BHJP
   B01J 35/00 20060101ALI20170914BHJP
   B01D 53/86 20060101ALI20170914BHJP
   B01D 53/94 20060101ALI20170914BHJP
   F01N 3/10 20060101ALI20170914BHJP
   C01B 21/02 20060101ALI20170914BHJP
【FI】
   B01J23/72 AZAB
   B01J37/34
   B01J35/00
   B01D53/86 222
   B01D53/86 245
   B01D53/94 222
   B01D53/94 245
   F01N3/10 A
   C01B21/02 Z
【請求項の数】13
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2014-92546(P2014-92546)
(22)【出願日】2014年4月28日
(65)【公開番号】特開2015-42401(P2015-42401A)
(43)【公開日】2015年3月5日
【審査請求日】2016年4月4日
(31)【優先権主張番号】特願2013-154350(P2013-154350)
(32)【優先日】2013年7月25日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】598014814
【氏名又は名称】株式会社コンポン研究所
(74)【代理人】
【識別番号】100091096
【弁理士】
【氏名又は名称】平木 祐輔
(74)【代理人】
【識別番号】100118773
【弁理士】
【氏名又は名称】藤田 節
(74)【代理人】
【識別番号】100168893
【弁理士】
【氏名又は名称】岩崎 正路
(72)【発明者】
【氏名】平林 慎一
(72)【発明者】
【氏名】市橋 正彦
【審査官】 大城 公孝
(56)【参考文献】
【文献】 特開2012−166175(JP,A)
【文献】 特開2012−217970(JP,A)
【文献】 HIRABAYASHI, S. et al,CO oxidation by copper cluster anions,The European Physical Journal D,2013年 3月 6日,Vol.67, No.2 :35,p.1-6,DOI:10.1140/epjd/e2012-30493-5
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01J 21/00−38/74
B01D 53/86−53/90
B01D 53/94−53/96
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
負電荷を帯びた銅クラスターCu(式中、nは8、10、12、14又は16であり、mは1又は2である)を含む、一酸化窒素を窒素に還元するための触媒。
【請求項2】
mが2である、請求項1に記載の触媒。
【請求項3】
nが8、10又は12である、請求項2に記載の触媒。
【請求項4】
nが8である、請求項3に記載の触媒。
【請求項5】
負電荷を帯びた銅クラスターが担体に担持されている、請求項1〜のいずれかに記載の触媒。
【請求項6】
請求項1〜のいずれかに記載の触媒の存在下で、一酸化窒素を窒素に還元する工程を含む、一酸化窒素の還元方法。
【請求項7】
請求項1〜のいずれかに記載の触媒の存在下で、一酸化窒素を窒素に変換する工程を含む、窒素の製造方法。
【請求項8】
請求項1〜のいずれかに記載の触媒と一酸化窒素とを反応させて、酸化された触媒と窒素とを形成する第1工程;及び
第1工程において形成された酸化された触媒と一酸化炭素とを反応させて、還元された触媒と二酸化炭素とを形成する第2工程;
を含む、一酸化窒素及び一酸化炭素の処理方法。
【請求項9】
第2工程において形成された還元された触媒を第1工程で再利用する、請求項に記載の処理方法。
【請求項10】
一酸化窒素及び一酸化炭素が排気ガスに由来する、請求項又はに記載の処理方法。
【請求項11】
1工程及び第2工程においてmがn/2を超えない、請求項10のいずれかに記載の処理方法。
【請求項12】
一酸化窒素を還元して窒素を形成すると共に一酸化炭素を酸化して二酸化炭素を形成するための、請求項1〜のいずれかに記載の触媒。
【請求項13】
一酸化窒素及び一酸化炭素が排気ガスに由来する、請求項12に記載の触媒。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、負電荷を帯びた銅クラスターを含む一酸化窒素還元触媒、並びに前記触媒を使用する一酸化窒素の還元方法及び窒素の製造方法に関する。また、本発明は、負電荷を帯びた銅クラスターを含む、一酸化窒素を還元すると共に一酸化炭素を酸化するための触媒、及び前記触媒を使用する、一酸化窒素を還元すると共に一酸化炭素を酸化する方法に関する。更に、本発明は、負電荷を帯びた銅クラスターを含む排気ガス浄化触媒、及び前記触媒を使用する排気ガスの浄化方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、貴金属は様々な用途における触媒として使用されている。例えば、自動車等から排出される排気ガスには、窒素酸化物(NOx)、一酸化炭素(CO)、炭化水素(HC)等の有害な成分が含まれており、これらの成分を浄化するために、白金、パラジウム、ロジウム等の貴金属触媒が使用されている。
【0003】
これまでに、様々な金属を使用してNOxを還元し、又はCOを酸化する方法が報告されている。例えば、ロジウムクラスター(非特許文献1)、金及び銅を含むバイメタリッククラスター(特許文献1)、又はコバルトクラスター(特許文献2)を使用することにより、一酸化窒素(NO)を窒素(N)に還元できることが報告されている。
【0004】
また、負電荷を帯びた銅クラスタ−を使用することにより、一酸化炭素(CO)を二酸化炭素(CO)に酸化できることも報告されている(特許文献3、並びに非特許文献2及び3)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2012−217970号公報
【特許文献2】特開2009−90239号公報
【特許文献3】特開2012−166175号公報
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】The Journal of Physical Chemistry A 110,10992−11000(2006)
【非特許文献2】ナノ学会会報 10(1),41−44(2011)
【非特許文献3】The European Physical Journal D67,35(2013)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記の通り、NOを還元するために様々な金属を使用することが検討されているが、貴金属を使用することが未だに一般的となっている。しかし、貴金属は希少な資源であるため、コストの向上という問題を有している。また、COの酸化に関しても同様の問題が存在する。
【0008】
そのため、本発明は、貴金属に代わる安価な金属を使用してNOを還元する触媒を提供することを目的とする。また、本発明は、当該触媒を使用してNOを還元する方法、及び当該触媒を使用してNOからNを製造する方法を提供することを目的とする。更に、本発明は、NOの還元及びCOの酸化を同時に行う触媒を提供すること、並びに当該触媒を使用してNOの還元及びCOの酸化を同時に行う方法を提供することを目的とする。更に、本発明は、NO及びCOを含む排気ガスを浄化する触媒を提供すること、並びに当該触媒を使用して排気ガスを浄化する方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らが鋭意検討した結果、負電荷を帯びた銅クラスターを使用することにより、NOを還元できることを見出した。また、本発明者らは、負電荷を帯びた銅クラスターを使用することにより、NOの還元及びCOの酸化を同時に行うことができ、これによってNO及びCOを含む排気ガスを浄化できることを見出した。
【0010】
すなわち、本発明は以下を包含する。
[1]負電荷を帯びた銅クラスターを含む、一酸化窒素還元触媒。
[2]負電荷を帯びた銅クラスターが2×p個の銅原子からなり、pが4以上の整数である、[1]に記載の一酸化窒素還元触媒。
[3]pが4〜8の整数である、[2]に記載の一酸化窒素還元触媒。
[4]pが4〜6の整数である、[3]に記載の一酸化窒素還元触媒。
[5]負電荷を帯びた銅クラスターが部分的に酸化されている、[1]〜[4]のいずれかに記載の一酸化窒素還元触媒。
[6]負電荷を帯びた銅クラスターが1又は2個の酸素原子を有する、[5]に記載の一酸化窒素還元触媒。
[7]負電荷を帯びた銅クラスターが担体に担持されている、[1]〜[6]のいずれかに記載の一酸化窒素還元触媒。
[8][1]〜[7]のいずれかに記載の一酸化窒素還元触媒の存在下で、一酸化窒素を窒素に還元する工程を含む、一酸化窒素の還元方法。
[9][1]〜[7]のいずれかに記載の一酸化窒素還元触媒の存在下で、一酸化窒素を窒素に変換する工程を含む、窒素の製造方法。
【0011】
[10][1]〜[7]のいずれかに記載の一酸化窒素還元触媒と一酸化窒素とを反応させて、酸化された一酸化窒素還元触媒と窒素とを形成する第1工程;及び
第1工程において形成された酸化された一酸化窒素還元触媒と一酸化炭素とを反応させて、還元された一酸化窒素還元触媒と二酸化炭素とを形成する第2工程;
を含む、一酸化窒素及び一酸化炭素の処理方法。
[11]第2工程において形成された還元された一酸化窒素還元触媒を第1工程で再利用する、[10]に記載の処理方法。
[12]一酸化窒素及び一酸化炭素が排気ガスに由来する、[10]又は[11]に記載の処理方法。
[13]一酸化窒素還元触媒に含まれる銅クラスターが酸素原子を有し、
銅クラスターの銅原子の数をnとし、酸素原子の数をmとした場合に、第1工程及び第2工程においてmがn/2を超えない、[10]〜[12]のいずれかに記載の処理方法。
【0012】
[14]一酸化窒素を還元して窒素を形成すると共に一酸化炭素を酸化して二酸化炭素を形成するための、[1]〜[7]のいずれかに記載の一酸化窒素還元触媒。
[15]一酸化窒素及び一酸化炭素が排気ガスに由来する、[14]に記載の一酸化窒素還元触媒。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、安価な金属を使用してNOを還元することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】イオンスパッタリング及びタンデム質量分析を行うための銅クラスター衝突反応実験装置を示す。
図2】負電荷を帯びた銅(酸化物)クラスターのサイズと、NO吸着断面積との関係を示す。
図3】NOの圧力と、銅酸化物クラスターイオンの相対量との関係を示す。
図4】銅酸化物クラスターによる酸化還元反応の触媒サイクルの概念図を示す。
図5】COの圧力と、銅酸化物クラスターイオンの相対量との関係を示す。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明について詳細に説明する。
<一酸化窒素還元触媒>
本発明は、負電荷を帯びた銅クラスターを含む一酸化窒素還元触媒に関する。本発明に係る触媒は、安価な銅原子から構成されるクラスターを使用するため、低コストでNOを還元することが可能になる。
【0016】
本発明に係る触媒に含まれる銅クラスターは負の電荷を帯びている(銅クラスターアニオン)。なお、下記の通り、銅クラスターに含まれる一部の銅原子は酸化されていることが好ましい。NOがNに還元されるためには、少なくとも2個のNOが銅クラスターに吸着されている必要がある。ここで、銅クラスターが正の電荷を帯びていると、NOが吸着されにくくなり、その結果として、Nへの還元が起こりにくくなる。一方、銅クラスターが負の電荷を帯びていると、NOが吸着されやすくなり、その結果として、Nへの還元が起こりやすくなる。2個のNOの還元により生成した2個の酸素原子(O)はOとして銅クラスターから脱離してもよいし、銅クラスター上に留まっていてもよい。
【0017】
銅クラスターのアニオンの価数は特に限定されないが、例えば1〜3価であることが好ましく、1又は2価であることがより好ましく、1価であることが特に好ましい。このような価数のアニオンとすることにより、NOの還元性能を向上させることができる。
【0018】
銅クラスターは、複数個の銅原子が結合した銅原子集団である。銅クラスターを構成する銅原子の数はNOを還元する活性を有する限り特に限定されない。例えば6〜100個、好ましくは8〜50個、より好ましくは8〜20個、更に好ましくは8〜16個、特に好ましくは8〜12個の銅原子から構成される銅クラスターを使用することが好ましい。このような数の銅原子から構成される銅クラスターとすることにより、NOの還元性能を向上させることができる。また、少ない原子数から構成される銅クラスターを使用することにより、銅の使用量を低減させることができる。
【0019】
銅クラスターへのNOの吸着を更に促進させ、NOの還元性能も向上させる観点からは、銅クラスターを構成する銅原子の数を偶数とすることが好ましい。例えば2×p個[pは3以上の整数である(銅原子数:6以上の偶数)]、好ましくは2×p個[pは4以上の整数である(銅原子数:8以上の偶数)]、より好ましくは2×p個[pは4〜25の整数である(銅原子数:8〜50の偶数)]、更に好ましくは2×p個[pは4〜10の整数である(銅原子数:8〜20の偶数)]、より更に好ましくは2×p個[pは4〜8の整数である(銅原子数:8〜16の偶数)]、特に好ましくは2×p個[pは4〜6の整数である(銅原子数:8〜12の偶数)]、とりわけ好ましくは2×p個[pは4又は5の整数である(銅原子数:8又は10)]の銅原子から構成される銅クラスターとすることにより、NOの吸着を更に向上させることができる。これに伴い、NOの還元性能も向上させることができる。
【0020】
本発明に係る触媒は、特定の数の銅原子から構成された銅クラスターのみを含んでいてもよいし、様々な数の銅原子から構成された複数種の銅クラスターの組み合わせを含んでいてもよい。
【0021】
銅クラスターは、金属として銅のみを含んでいることが好ましいが、NOの還元性能に悪影響を与えない限度において、その他の金属を含んでいてもよい。ここで、銅クラスターに含まれる全金属を基準として、銅の含有量が90〜100原子%であることが好ましく、95〜100原子%であることがより好ましく、97〜100原子%であることが更に好ましく、99〜100原子%であることが特に好ましい。なお、コストの上昇を抑制するためには、銅クラスターが貴金属(金、銀、白金、パラジウム、ロジウム、イリジウム、ルテニウム、又はオスミウム)を含んでいないことが好ましい。
【0022】
銅クラスターへのNOの吸着を更に向上させる観点からは、銅クラスターに含まれる一部の銅原子の酸化数を正の方向にシフトさせておくことが好ましく、銅クラスターを部分的に酸化させ、銅酸化物クラスターとすることが好ましい。例えば1〜4個、好ましくは1〜3個、より好ましくは1又は2個、特に好ましくは2個の酸素原子を有するように銅クラスターを酸化させることにより、NOの吸着を更に向上させることができる。これに伴い、NOの還元性能も向上させることができる。
【0023】
銅クラスターは担体上に担持されていてもよい。銅クラスターを担体上に担持することにより、銅クラスターの凝集を防止して、安定に存在させることが可能となる。また、NO還元反応によって発生する反応熱を担体が素早く放熱することにより、銅クラスターが熱分解することを回避できる。
【0024】
担体は、銅クラスターが担持された場合に銅クラスターの負電荷が保持されるものであれば特に限定されない。つまり、負電荷を帯びた銅クラスターが担体に担持されることにより銅クラスターの負電荷が消失するような担体を使用することは好ましくない。従って、銅に対して電子を供与するような担体、電気陰性度が銅と同等又は銅よりも小さい担体等を使用することが好ましい。このような担体としては、例えば、酸化ケイ素、酸化アルミニウム、酸化セリウム等の金属酸化物、有機高分子、活性炭等を挙げることができる。
【0025】
また、担体表面の一部で原子が欠けている欠陥部分を有する金属酸化物も担体として挙げることができる。そのような欠陥部分には電子が溜まっているため、銅クラスターを欠陥部分に担持させることにより、銅クラスターに負電荷を帯びさせることができる(例えば、J.Phys.Chem.A 1999,103,9573−9578を参照されたい)。このような金属酸化物としては、例えば、酸化マグネシウム、酸化チタン等を挙げることができる。
【0026】
銅クラスターは、NOの還元性能に悪影響を与えない限度において、配位子を有していてもよい。配位子の種類は特に限定されず、一般的に知られているものを挙げることができるが、加熱等により容易に除去できるものが好ましい。
【0027】
<一酸化窒素の還元方法及び窒素の製造方法>
本発明は、上記の一酸化窒素還元触媒の存在下で、一酸化窒素を窒素に還元する工程を含む、一酸化窒素の還元方法にも関する。当該方法は、上記の一酸化窒素還元触媒の存在下で、一酸化窒素を窒素に変換する工程を含む、窒素の製造方法と表現することもできる。
【0028】
本発明に係る方法において銅酸化物クラスターを使用する場合には、予め酸化された銅クラスターにNOを供給してもよいし、銅クラスターにNOと共に酸素を供給してもよい。
【0029】
触媒量及びNO濃度は特に限定されず、適宜調節することができる。温度条件も特に限定されないが、温度を変化させるために必要となるエネルギーを低減する観点からは、室温が好ましい。
【0030】
本発明に係る方法は、バッチ式及び連続式の何れの方法で行うこともできる。
【0031】
<一酸化窒素還元触媒の製法及び評価>
本発明に係る一酸化窒素還元触媒に含まれる負電荷を帯びた銅クラスターは、液相中又は気相中で製造することができる。液相中においては一般的に知られている方法を用いることができる(例えば、Langmuir 2010,26(6),4473−4479を参照されたい)。また、気相中においては、イオンスパッタリング法、マグネトロンスパッタリング法、プラズマ放電法、レーザー蒸発法等を用いることができる。以下、本実施例で採用されているイオンスパッタリング法について図1を参照して説明する(特開2003−185632号公報も参照されたい)。
【0032】
クラスター生成室(図示せず)の内部には銅ターゲット2が収容されており、銅ターゲット2に対してイオン銃1からイオン(例えば、キセノンイオン)を照射することにより、様々なサイズ及び様々な電荷(正電荷及び負電荷)の銅クラスターが気相中に放出される。
【0033】
生成した銅クラスターのうちで負電荷を帯びたものをイオンレンズ3により選別し、冷却室4に輸送する。冷却室4では低温の希ガス(例えば、ヘリウム)が導入され、銅クラスターと希ガスとが衝突することにより、銅クラスターが冷却される。なお、冷却室4の周囲を冷却することにより、銅クラスター及び希ガスを冷却することも可能である。この冷却操作により、銅クラスターの崩壊を低減させ、次の工程における銅クラスターのサイズに基づく選別を効率的に行うことが可能となる。
【0034】
銅クラスターを酸化させる場合には、冷却室4に希ガスと共に酸素供給用気体(例えば、酸素、亜酸化窒素等)を導入する。
【0035】
冷却した銅クラスターは質量分析器5に輸送され、銅クラスターがサイズに基づいて選別される。質量分析器5としては、例えば四重極質量分析器を使用することができる。四重極質量分析器を使用することにより所定の元素、組成、及び総原子数を有する銅クラスターを選別することができる。四重極質量分析器の代わりに磁場偏向型質量分析器を使用することもできる。磁場偏向型質量分析器を使用することにより、質量数が4,000を超える銅クラスターについても精度よく選別することができる。
【0036】
選別された特定のサイズを有する銅クラスターは反応室6に輸送される。反応室6に反応物質(NO)が導入され、銅クラスターと衝突して反応が進行する。
【0037】
反応により生成した物質は質量分析器7に輸送され、質量スペクトルが得られる。この質量スペクトルに基づいて反応断面積を求める。これによって、質量分析器5において選別した銅クラスターについての反応断面積を調べることができる。質量分析器5において選別する銅クラスターの種類を変更することにより、様々な種類の銅クラスターについて個別に反応断面積を調べることができる。
【0038】
気相中で触媒を作成する場合、イオン照射等によって銅クラスターを発生させ、その中から負電荷を帯びた銅クラスターを選別して担体に担持させることにより、一定の量の触媒を製造することができる。
【0039】
クラスターの活性を気相で評価した場合と、担体に担持した固相で評価した場合とにおいて、同様の触媒活性が得られることが知られている(例えば、Nanocatalysis(NanoScience and Technology),springer,pp.117−118を参照されたい)。従って、本実施例では気相における銅クラスターの触媒活性を評価しているが、銅クラスターを担体に担持させた固相の場合においても同様の結果が得られると推定される。
【0040】
<排気ガス浄化触媒及び排気ガスの浄化方法>
上記の一酸化窒素還元触媒は、NOをNに還元すると同時にCOをCOに酸化することもできる。なお、本明細書中において「同時」とは、NOの還元反応及びCOの酸化反応が1つの触媒サイクル内で起こることを意味する。例えば、図4に示すように、銅酸化物クラスター(Cu)がNOと反応して、酸化された銅酸化物クラスター(Cu)とNとを形成し、次に、CuがCOと反応して、還元されて初期の状態に戻った銅酸化物クラスター(Cu)とCOとを形成し、触媒サイクルが完成する。
【0041】
即ち、本発明は、NOを還元してNを形成すると共にCOを酸化してCOを形成するための、上記の一酸化窒素還元触媒にも関する。また、本発明は、上記の一酸化窒素還元触媒とNOとを反応させて、酸化された一酸化窒素還元触媒とNとを形成する第1工程;及び第1工程において形成された酸化された一酸化窒素還元触媒とCOとを反応させて、還元された一酸化窒素還元触媒とCOとを形成する第2工程;を含む、NO及びCOの処理方法にも関する。第2工程において形成された還元された一酸化窒素還元触媒は、第1工程で使用される一酸化窒素還元触媒に相当するものであるから、第2工程の後に当該触媒を再利用して第1工程を再度行うことができる。これにより、第1工程及び第2工程からなる触媒サイクルが回転し、少量の触媒で多量のNO及びCOを処理することができる。
【0042】
一酸化窒素還元触媒の好ましい態様は上記の通りである。特に限定するものではないが、NOの還元及びCOの酸化の両方を目的とする場合には、とりわけ、銅(酸化物)クラスターを構成する銅原子の数が偶数であることが好ましい。具体的な銅原子の数は上記の通りである。また、NOの還元及びCOの酸化の両方を目的とする場合には、とりわけ、銅酸化物クラスターを使用することが好ましい。
【0043】
NOを還元する第1工程及びCOを酸化する第2工程のいずれの工程においても、銅酸化物クラスターが、酸化銅(CuO)の化学量論比(Cuの原子数:Oの原子数が2:1)を超えない酸素原子数を有していることが好ましい。即ち、銅酸化物クラスターの銅原子の数をnとし、酸素原子の数をmとした場合に、mがn/2を超えないことが好ましい。
【0044】
NO及びCOは排気ガスに含まれる有害成分である。そのため、上記の一酸化窒素還元触媒は、排気ガス浄化触媒として使用することができる。また、上記のNO及びCOの処理方法は、排気ガスの浄化方法として使用することができる。排気ガスの種類は特に限定されないが、例えばガソリンエンジン、ディーゼルエンジン等から排出される排気ガス等を挙げることができる。
【実施例】
【0045】
以下、実施例を用いて本発明をより詳細に説明するが、本発明の技術的範囲はこれに限定されるものではない。
【0046】
銅(酸化物)クラスターのNO還元活性は、様々なサイズ及び様々な電荷状態(負電荷及び正電荷)の銅(酸化物)クラスターと、NOとの衝突反応実験により評価した。また、銅酸化物クラスターのCO酸化活性は、銅酸化物クラスターと、COとの衝突反応実験により評価した。
【0047】
<銅(酸化物)クラスターの形成及び活性評価>
銅(酸化物)クラスターの形成及び活性評価は、図1に示す銅クラスター衝突反応実験装置を使用したイオンスパッタリング法及びタンデム質量分析法により行った。装置は、イオン銃1(Rokion Ionenstrahl−Technologie社、CORDIS Ar25/35c)、イオンレンズ3、冷却室4、四重極質量分析器5(Extrel社、162−8)、反応室6、及び四重極質量分析器7(Extrel社、162−8)を組み合わせることにより製造することができる。
【0048】
図1に示すように、銅ターゲット2に対してイオン銃1からキセノンイオンを8.5kVの加速電圧で照射することにより、様々なサイズ及び様々な電荷状態の銅クラスターを作成した。特定の電荷を帯びた銅クラスターのみをイオンレンズ3で選別し、冷却室4内で室温のヘリウム原子と多数回衝突させることにより銅クラスターの内部温度を熱平衡に達しさせた。必要に応じて、冷却室4に酸素を加え、銅酸化物クラスターを作成した。四重極質量分析器5を用いて特定のサイズの銅クラスターのみを選別し、反応室6において0.2eVの衝突エネルギーでNOと衝突させ、反応させた。反応により生成したイオンを四重極質量分析器7を用いて質量分析した。
銅(酸化物)クラスターにNOを一回又は多数回衝突させた条件における結果を以下に示す。
【0049】
<結果>
1.銅(酸化物)クラスターとNOとの一回衝突条件
一回衝突条件下における、正電荷を帯びた銅クラスター(Cu)、負電荷を帯びた銅クラスター(Cu)、正電荷を帯びた銅酸化物クラスター(Cu)、又は負電荷を帯びた銅酸化物クラスター(Cu)と、NOとの反応を調べた。
(1)Cu(n=3〜19)では、NOがほとんど吸着されなかった。
(2)Cu(n=3〜19)、特にCu(n=8〜16の偶数)では、NOが吸着された[Cu+NO→CuNO](図2)。
(3)Cu(n=4〜17、m=2)、特にCu(n=8〜16の偶数、m=2)では、NO吸着が劇的に向上した[Cu+NO→CuNO](図2)。更に、Cu(n=8、10、12)では、単純なNO吸着に加えて、以下の式:
Cu+NO→Cun−1NO+Cu
で表されるCu脱離を伴うNO吸着が観測された。これにより、NOが比較的強く吸着されていることが推定される。
(4)Cu(m=1)でも、NO吸着の向上が観測された。
(5)Cu(m≧3)又はCu(m≧3)と、NOとの反応では、特定のCuにおいて顕著なNO生成が観測された。しかし、NO吸着はほとんど観測されなかった。
【0050】
2.銅酸化物クラスターとNOとの多数回衝突条件
一回衝突条件下で効率良くNOを吸着したCu(n=8、10、12)について、多数回衝突条件下におけるNOとの反応を調べた。反応室に導入するNOの圧力を増加させていくと、一回衝突条件下で観測されたCuNO及びCun−1NOに加えて、Cun−2が観測された。Cun−2の強度がNOの圧力に対して2次で増加しているため(図3)、以下の式:
Cu+2NO→Cun−2+2Cu+N
で表されるNOの還元反応が起こっていると推定される。
【0051】
なお、還元反応における銅クラスターの銅原子数の減少は、反応熱による銅クラスターの熱分解に起因するものである。このような熱分解は、銅クラスターを担体に担持させ、担体が反応熱を素早く逃がすことにより、回避することができる。このような条件下では、以下の式:
Cu+2NO→Cu+N
で表されるNOの還元反応が起こると推定される。
【0052】
以上の結果より、負電荷を帯びた銅クラスター、特に、負電荷を帯び、部分的に酸化され、偶数個の銅原子からなる銅クラスターが、NOと効率良く反応してNを放出することが判明した。
【0053】
3.銅酸化物クラスターとCOとの一回又は多数回衝突条件
NO還元活性が最も高かったCuの反応生成物であるCuについて、一回又は多数回衝突条件下におけるCOとの反応を調べた。その結果、以下の式:
Cu+CO→Cu+CO
で表されるCOの酸化反応が観測された。
【0054】
反応室に導入するCOの圧力を増加させていくと、Cuが観測されるようになるため(図5)、以下の式:
Cu+2CO→Cu+2CO
で表されるCOの酸化反応が起こっていると推定される。
【0055】
以上の結果より、負電荷を帯びた銅クラスター、特に、負電荷を帯び、部分的に酸化され、偶数個の銅原子からなる銅クラスターは、可逆的な酸化還元性能を示し、NOと効率良く反応してNを放出した後、COと反応してCOを放出することが判明した。従って、前記銅クラスターは、NO及びCOを含む排気ガスを浄化するための触媒として利用することが可能である。
【符号の説明】
【0056】
1・・イオン銃、2・・銅ターゲット、3・・イオンレンズ、4・・冷却室、5・・質量分析器(四重極質量分析器)、6・・反応室、7・・質量分析器(四重極質量分析器)
図1
図2
図3
図4
図5