(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記第1の指標が第1の基準値よりも低く、且つ、前記第2の指標が第2の基準値よりも高い画素に対して、前記第3の指標を前記生体組織が悪性腫瘍である疑いが高いことを示す値に設定する、
請求項10に記載の電子内視鏡システム。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本発明の実施形態について図面を参照しながら説明する。なお、以下においては、本発明の一実施形態として電子内視鏡システムを例に取り説明する。
【0025】
以下に説明する本発明の実施形態に係る電子内視鏡システムは、波長域の異なる光で撮像した複数の画像(本実施形態では、1つのカラー画像を構成するR、G、Bの3原色の画像)に基づいて被写体の生体情報(例えば、酸素飽和度や血液量)を定量的に分析して、分析結果を画像化して表示する装置である。以下に説明する本実施形態の電子内視鏡システムを用いた酸素飽和度等の定量分析では、可視域における血液の分光特性(すなわち、ヘモグロビンの分光特性)が酸素飽和度に応じて連続的に変化する性質が利用される。
【0026】
[ヘモグロビンの分光特性及び酸素飽和度の計算原理]
本発明の実施形態に係る電子内視鏡システムの詳しい構成を説明する前に、可視域におけるヘモグロビンの分光特性と、本実施形態における酸素飽和度の計算原理について説明する。
【0027】
図1に、ヘモグロビンの透過スペクトルを示す。ヘモグロビンの分光スペクトルは、酸素飽和度(全ヘモグロビンのうち酸素化ヘモグロビンが占める割合)に応じて変化する。
図1における実線の波形は、酸素飽和度が100%の場合(すなわち、酸素化ヘモグロビンHbO
2)の透過スペクトルであり、長破線の波形は、酸素飽和度が0%の場合(すなわち、還元ヘモグロビンHb)の透過スペクトルである。また、短破線は、その中間の酸素飽和度(10、20、30、・・・90%)におけるヘモグロビン(酸素化ヘモグロビンと還元ヘモグロビンの混合物)の透過スペクトルである。
【0028】
なお、ヘモグロビンの吸収(吸光度)Aは、光透過率Tから以下の数式4により計算される。
【数4】
【0029】
図1に示されるヘモグロビンの透過スペクトルは、各成分(酸素化ヘモグロビン、還元ヘモグロビン)の濃度の和が一定となる2成分系の分光スペクトルであるため、各成分の濃度比(すなわち、酸素飽和度)によらず吸収A(すなわち透過率T)が一定となる等吸収点E1(424nm)、E2(452nm)、E3(502nm)、E4(528nm)、E5(546nm)、E6(570nm)及びE7(584nm)が現れる。本明細書では、等吸収点E1からE2までの波長領域を波長域W1、等吸収点E2からE3までの波長領域を波長域W2、等吸収点E3からE4までの波長領域を波長域W3、等吸収点E4からE5までの波長領域を波長域W4、等吸収点E5からE6までの波長領域を波長域W5、等吸収点E6からE7までの波長領域を波長域W6と定義する。
【0030】
隣接する等吸収点間では、酸素飽和度の増加に応じて吸収が単調に増加又は減少する。また、隣接する等吸収点間では、ヘモグロビンの吸収Aは、酸素飽和度に対してほぼ線形的に変化する。
図2は、波長域W2における血液の透過光量(縦軸)と酸素飽和度(横軸)との関係をプロットしたグラフである。なお、縦軸の透過光量は、波長域W2の全域で積分した値である。
図2のグラフより、波長域W2において、ヘモグロビンの吸収が酸素飽和度に対してほぼ線形的に減少することがわかる。なお、隣接する波長域W1においては、ヘモグロビンの吸収が酸素飽和度に対して線形的に増加する。具体的には、光透過率に関しては、正確にはランバート・ベールの法則(Beer-Lambert Law)に従う変化量であるが、20nm〜80nm程度のある程度の狭い波長領域においてはほぼ線形の変化と見なすことができる。
【0031】
また、等吸収点E4からE7までの波長領域(すなわち、波長域W4〜W6の連続した波長領域。本明細書では波長域W7と定義する。)に着目すると、波長域W4及びW6においては、酸素飽和度の増加に応じて血液の吸収が単調に増加するが、波長域W5においては、逆に酸素飽和度の増加に応じて血液の吸収が単調に減少する。しかしながら、本発明者は、波長域W5における血液の吸収の減少量が、波長域W4及びW6における血液の吸収の増加量の和と略等しく、波長域W7全体としては血液の吸収が酸素飽和度に依らず略一定となることを見出した。
【0032】
図3は、波長域W7における血液の透過光量(縦軸)と酸素飽和度(横軸)との関係をプロットしたグラフである。なお、縦軸の透過光量は、波長域W7の全域で積分した値である。透過光量の平均値は0.267(任意単位)、標準偏差は1.86×10
−5であった。
図3のグラフより、波長域W7全体では、血液の透過光量が酸素飽和度に依らず略一定となることがわかる。
【0033】
また、
図1に示されるように、概ね630nm以上(特に、650nm以上)の波長領域においては、ヘモグロビンの吸収が少なく、酸素飽和度が変化しても光透過率は殆ど変化しない。また、白色光源にキセノンランプを使用する場合、波長750nm以下(特に、720nm以下)の波長領域においては、白色光源の十分に大きな光量が得られる。従って、例えば650〜720nmの波長領域を、ヘモグロビンの吸収が無い透明領域として、透過光量の基準の波長領域として使用することができる。本明細書では、波長650nmから波長720nmまでの波長領域を波長域WRと定義する。
【0034】
上述したように、波長域W2におけるヘモグロビンの吸収A
W2は酸素飽和度の増加に対して線形的に減少することが知られている。波長域W7(波長域W4〜W6)におけるヘモグロビンの吸収A
W7は酸素飽和度に依らず一定値とみなせることから、吸収A
W7を基準とした吸収A
W2の値は酸素飽和度を反映した指標を与えることになる。具体的には次の数式5によって定義される指標Xにより酸素飽和度を表すことができる。
【数5】
【0035】
従って、予め実験的に又は計算により酸素飽和度と指標Xとの定量的な関係を取得すれば、指標Xの値から酸素飽和度を推定することができる。
【0036】
[電子内視鏡システム1全体の構成]
図4は、本実施形態の電子内視鏡システム1の構成を示すブロック図である。
図4に示されるように、電子内視鏡システム1は、電子スコープ100、プロセッサ200及びモニタ300を備えている。
【0037】
プロセッサ200は、システムコントローラ202、タイミングコントローラ204、画像処理回路220、ランプ208及び光学フィルタ装置260を備えている。システムコントローラ202は、メモリ212に記憶された各種プログラムを実行し、電子内視鏡システム1全体を統合的に制御する。また、システムコントローラ202は、操作パネル214に接続されている。システムコントローラ202は、操作パネル214より入力されるユーザからの指示に応じて、電子内視鏡システム1の各動作及び各動作のためのパラメータを変更する。タイミングコントローラ204は、各部の動作のタイミングを調整するクロックパルスを電子内視鏡システム1内の各回路に出力する。
【0038】
ランプ208は、ランプ電源イグナイタ206による始動後、照射光Lを射出する。ランプ208は、例えば、キセノンランプ、ハロゲンランプ、水銀ランプ、メタルハライドランプ等の高輝度ランプやLED(Light Emitting Diode)である。照射光Lは、主に可視光領域から不可視である赤外光領域に広がるスペクトルを持つ光(又は少なくとも可視光領域を含む白色光)である。
【0039】
ランプ208と集光レンズ210との間には、光学フィルタ装置260が配置されている。光学フィルタ装置260は、フィルタ駆動部264と、フィルタ駆動部264に装着された光学フィルタ262を備えている。フィルタ駆動部264は、光学フィルタ262を、照射光Lの光路上の位置(実線)と光路から退避した位置(破線)との間で、光路と直交する方向にスライド可能に構成されている。なお、フィルタ駆動部264の構成は、上述のものに限定されず、例えば回転フィルタ装置のように、光学フィルタ262の重心から外れた回動軸の周りに光学フィルタ262を回動させることにより、照射光Lの光路上に光学フィルタ262を挿抜する構成としてもよい。光学フィルタ262の詳細については後述する。
【0040】
本実施形態の電子内視鏡システム1は、ランプ208から放射された白色光をそのまま(或いは、赤外成分及び/又は紫外成分を除去して)照明光(通常光Ln)として使用して内視鏡観察を行う通常観察モードと、白色光を光学フィルタ262に通して(或いは、更に赤外成分及び/又は紫外成分を除去して)得たフィルタ光Lfを照明光として使用して内視鏡観察を行う特殊観察モードと、特殊観察モードで使用される補正値を取得するためのベースライン測定モードの3つの動作モードで動作可能に構成されている。光学フィルタ262は、通常観察モードでは光路から退避した位置に配置され、特殊観察モードでは光路上に配置される。
【0041】
光学フィルタ装置260を通過した照射光L(フィルタ光Lf又は通常光Ln)は、集光レンズ210によってLCB(Light Carrying Bundle)102の入射端面に集光されて、LCB102内に導入される。
【0042】
LCB102内に導入された照射光Lは、LCB102内を伝播して電子スコープ100の先端に配置されたLCB102の射出端面より射出され、配光レンズ104を介して被写体に照射される。照射光Lにより照射された被写体からの戻り光は、対物レンズ106を介して固体撮像素子108の受光面上で光学像を結ぶ。
【0043】
固体撮像素子108は、ベイヤ型画素配置を有する単板式カラーCCD(Charge Coupled Device)イメージセンサである。固体撮像素子108は、受光面上の各画素で結像した光学像を光量に応じた電荷として蓄積して画像信号(画像データ)を生成して出力する。固体撮像素子108は、赤色の光を透過させるRフィルタと、緑色の光を透過させるGフィルタと、青色の光を透過させるBフィルタとが固体撮像素子108の各受光素子上に直接形成された、いわゆるオンチップカラーフィルタを備えている。固体撮像素子108が生成する画像信号には、Rフィルタが装着された受光素子によって撮像された画像信号R、Gフィルタが装着された受光素子によって撮像された画像信号G及びBフィルタが装着された受光素子によって撮像された画像信号Bが含まれている。
【0044】
図5は、固体撮像素子108のRフィルタ、Gフィルタ及びBフィルタの透過スペクトルである。Rフィルタは、波長域WRを含む概ね600nm以上の波長領域の光を透過させるフィルタである。Gフィルタは、波長域W7を含む概ね510〜630nmの波長領域の光を透過させるフィルタである。また、Bフィルタは、波長域W1及びW2を含む概ね510nm以下の波長領域の光を透過させるフィルタである。後述するように、光学フィルタ262は、波長域WR、W7及びW2の3つの波長領域の光のみを選択的に透過させる光学特性を有している。光学フィルタ262を透過した波長域WR、W7及びW2の光の像は、固体撮像素子108のRフィルタ、Gフィルタ及びBフィルタが装着された受光素子によってそれぞれ撮像され、画像信号R、G及びBとしてそれぞれ出力される。
【0045】
なお、固体撮像素子108は、CCDイメージセンサに限らず、CMOS(Complementary Metal Oxide Semiconductor)イメージセンサやその他の種類の撮像装置に置き換えてもよい。
【0046】
図4に示されるように、電子スコープ100の接続部内には、ドライバ信号処理回路110が備えられている。ドライバ信号処理回路110には、画像信号がフィールド周期で固体撮像素子108より入力される。ドライバ信号処理回路110は、固体撮像素子108より入力される画像信号に対して所定の処理を施した後、プロセッサ200の画像処理回路220へ出力する。
【0047】
ドライバ信号処理回路110はまた、メモリ112にアクセスして電子スコープ100の固有情報を読み出す。メモリ112に記録される電子スコープ100の固有情報には、例えば、固体撮像素子108の画素数や感度、動作可能なフィールドレート、型番等が含まれる。ドライバ信号処理回路110は、メモリ112より読み出された固有情報をシステムコントローラ202に出力する。
【0048】
システムコントローラ202は、電子スコープ100の固有情報に基づいて各種演算を行い、制御信号を生成する。システムコントローラ202は、生成された制御信号を用いて、プロセッサ200に接続されている電子スコープに適した処理がなされるようにプロセッサ200内の各種回路の動作やタイミングを制御する。
【0049】
タイミングコントローラ204は、システムコントローラ202によるタイミング制御に従って、ドライバ信号処理回路110にクロックパルスを供給する。ドライバ信号処理回路110は、タイミングコントローラ204から供給されるクロックパルスに従って、固体撮像素子108をプロセッサ200側で処理される映像のフィールドレートに同期したタイミングで駆動制御する。
【0050】
画像処理回路220は、ドライバ信号処理回路110より1フィールド周期で入力される画像信号に対して色補完、マトリクス演算、Y/C分離等の所定の信号処理を施した後、モニタ表示用の画面データを生成し、生成されたモニタ表示用の画面データを所定のビデオフォーマット信号に変換する。変換されたビデオフォーマット信号は、モニタ300に出力される。これにより、被写体の画像がモニタ300の表示画面に表示される。
【0051】
また、画像処理回路220は、分析処理回路230を備えている。分析処理回路230は、特殊観察モードにおいて、取得した画像信号R(Red)、G(Green)、B(Blue)に基づいて分光学的な分析処理を行い、被写体である生体組織における酸素飽和度との相関を有する指標の値を計算し、計算結果を視覚的に表示するための画像データを生成する。
【0052】
上述のように、本実施形態の電子内視鏡システム1は、光学フィルタ262を使用せず、ランプ208から放射された白色光(通常光Ln)を照明光として使用してする通常観察モードと、白色光を光学フィルタ262に通して得られるフィルタ光Lfを照明光として使用して分光学的な分析を行う特殊観察モードと、特殊観察用の補正値を取得するためのベースライン測定モードの3つのモードで動作するように構成されている。各モードの切り替えは、電子スコープ100の操作部又はプロセッサ200の操作パネル214に対するユーザ操作によって行われる。
【0053】
通常観察モードでは、システムコントローラ202は、光学フィルタ装置260を制御して光学フィルタ262を光路上から退避させ、被写体に通常光Lnを照射して撮像を行う。そして、撮像素子108によって撮像された画像データを、必要に応じて画像処理を施した後に、ビデオ信号に変換して、モニタ300に表示させる。
【0054】
特殊観察モード及びベースライン測定モードでは、システムコントローラ202は、光学フィルタ装置260を制御して光学フィルタ262を光路上に配置し、被写体にフィルタ光Lfを照射して撮像を行う。そして、特殊観察モードでは、撮像素子108によって撮像された画像データに基づいて、後述する分析処理を行う。
【0055】
ベースライン測定モードは、実際の内視鏡観察を行う前に、無彩色の拡散板や標準反射板等の色基準板を被写体として、フィルタ光Lfによる照明下で撮像を行い、後述する特殊観察モードの規格化処理に使用するデータを取得するモードである。
【0056】
ベースライン測定モードにおいてフィルタ光Lfを用いて撮像した3原色の画像データR(x,y)、G(x,y)、B(x,y)は、それぞれベースライン画像データBL
R(x,y)、BL
G(x,y)、BL
B(x,y)として、分析処理回路230の内部メモリに記憶される。なお、R(x,y)、G(x,y)、B(x,y)及びBL
R(x,y)、BL
G(x,y)、BL
B(x,y)は、それぞれ画素(x,y)の画像データ及びベースライン画像データの値である。また、画素(x,y)は、水平方向の座標x及び垂直方向の座標yにより特定される。
【0057】
[光学フィルタの構成と特性]
図6は、光学フィルタ262の透過スペクトルである。光学フィルタ262は、少なくとも可視光線波長領域において、波長域W2、W7及びWRの3つの波長領域の光のみを選択的に透過させる光学特性を有する、所謂多峰性の誘電体多層膜フィルタである。光学フィルタ262は、各波長域W2、W7及びWRにおいて平坦な透過特性を有しているが、波長域W7における透過率は他の波長域W2及びWRよりも低く調整されている。これは、本実施形態で使用する白色光源の発光スペクトルが波長域W7内にピークを有しているため、波長域W7における透過率を下げることにより、光学フィルタ262を透過した後の各波長域W2、W7、WRの光量を略均一にして受光データのノイズレベルを一定に保つためである。このフィルタの透過率特性は実際に用いる光源の分光波長輝度特性、受光素子の感度特性に鑑みて決めることができる。なお、光学フィルタ262には、他の方式の光学フィルタ(例えば、吸収型の光学フィルタや誘電体多層膜を波長選択性の反射膜として用いたエタロンフィルタ等)を用いてもよい。
【0058】
[特殊観察モードにおける分析処理]
次に、特殊観察モードにおいて行われる分析処理について説明する。
【0059】
図7は、分析処理を説明するフローチャートである。分析処理では、先ず固体撮像素子108による被写体の撮像が行われ、分析処理回路230は、固体撮像素子108が生成した3原色の画像データR(x,y)、G(x,y)、B(x,y)を取得する(S1)。
【0060】
次に、分析処理回路230が、処理S1にて取得した画像データR(x,y)、G(x,y)及びB(x,y)を用いて、以下の分析処理(処理S3〜S6)の対象とする画素(x,y)を選別する画素選別処理S2を行う。
【0061】
血液を含んでいない箇所や、組織の色がヘモグロビン以外の物質により支配的な影響を受けている箇所については、画素の色情報から酸素飽和度や血液量を計算しても意味のある値は得られず、単なるノイズとなる。このようなノイズを算出して医師に提供すると、適切な診断の妨げとなるだけでなく、画像処理部500に無用な負荷を与えて処理速度を低下させるという弊害が生じる。そこで、本実施形態の画像生成処理は、分析処理に適した画素(すなわち、ヘモグロビンの分光学的特徴が記録された画素)を選別して、選別された画素に対してのみ分析処理を行うように構成されている。
【0062】
画素選別処理S2では、以下の数式6、数式7及び数式8の条件を全て充足する画素のみが分析処理の対象画素として選別される。
【数6】
【数7】
【数8】
ここで、a
1、a
2、a
3は正の定数である。
【0063】
上記の3つの条件式は、血液の透過スペクトルにおける、「G成分<B成分<R成分」の値の大小関係に基づいて設定されている。なお、上記の3つの条件式のうちの1つ又は2つのみを使用して(例えば、血液に特有の赤色に注目して数式7及び/又は数式8のみを使用して)画素選別処理S2を行っても良い。
【0064】
次に、分析処理回路230が、規格化処理S3を行う。本実施形態の規格化処理S3は、電子内視鏡システム1自体の光学的特性(例えば光学フィルタの透過率や撮像素子の受光感度)を補正して、定量的な分析を可能にするための処理である。
【0065】
規格化処理においては、分析処理回路230は、光学フィルタ262を透過したフィルタ光Lfを用いて取得した画像データR(x,y)及びベースライン画像データBL
R(x,y)から、次の数式9により、規格化画像データR
s(x,y)が計算される。
【数9】
【0066】
同様に、次の数式10及び数式11により、規格化画像データG
s(x,y)及びB
s(x,y)が計算される。
【数10】
【数11】
【0067】
なお、以下の説明では、規格化画像データR
s(x,y)、G
s(x,y)、B
s(x,y)を使用するが、規格化処理を行わずに、規格化画像データR
s(x,y)、G
s(x,y)、B
s(x,y)に替えて画像データR(x,y)、G(x,y)、B(x,y)を使用して指標の計算を行ってもよい。
【0068】
次に、分析処理回路230は、以下の数式12により、酸素飽和度との相関を有する第1指標Xを計算する(S4)。
【数12】
【0069】
画像データG(x,y)は、光学フィルタ262を透過した波長域W7の光によって形成された光学像を表すものである。また、画像データB(x,y)は、光学フィルタ262を透過した波長域W2の光によって形成された光学像を表すものである。上述のように、波長域W2の光に対する生体組織の反射率(すなわち、画像データBの値)は、酸素飽和度及び総ヘモグロビン量の両者に依存する。一方、波長域W7の光に対する生体組織の反射率(すなわち、画像データGの値)は、酸素飽和度には依存せず、総ヘモグロビン量に依存する。規格化反射率B
s(補正後の画像データBの値)を規格化反射率G
s(補正後の画像データGの値)で除算することにより、総ヘモグロビン量の寄与を相殺することができる。また、この除算により、生体組織の表面状態や生体組織への照明光IL(フィルタ光Lf)の入射角による生体組織の反射率への寄与も相殺され、酸素飽和度の寄与のみを抽出することができる。そのため、第1指標Xは、酸素飽和度の良い指標となる。
【0070】
次に、分析処理回路230は、以下の数式13により、生体組織中の血液量(総ヘモグロビン量)と相関を有する第2指標Yを計算する(S5)。
【数13】
【0071】
上述したように、規格化反射率G
sは、酸素飽和度には依存せず、総ヘモグロビン量に依存する値である。一方、規格化反射率R
s(補正後の画像データRの値)は、ヘモグロビンの吸収が殆ど無い波長域WRにおける生体組織の反射率であるため、酸素飽和度にも総ヘモグロビン量にも依存しない。規格化反射率G
sを規格化反射率R
sで除算することにより、生体組織の表面状態や生体組織への照明光ILの入射角による生体組織の反射率への寄与が相殺され、総ヘモグロビン量の寄与のみを抽出することができる。そのため、第2指標Yは、総ヘモグロビン量の良い指標となる。
【0072】
次に、分析処理回路230は、第1指標X及び第2指標Yに基づいて、悪性腫瘍の疑い度を表す第3指標Zを計算する。
【0073】
悪性腫瘍の組織では、血管新生により正常な組織よりも総ヘモグロビン量が多く、尚且つ、酸素の代謝が顕著であるため酸素飽和度は正常な組織よりも低いことが知られている。そこで、分析処理回路230は、数式12により計算した酸素飽和度を示す第1指標Xが所定の基準値(第1基準値)よりも小さく、且つ、数式13により計算した総ヘモグロビン量を示す第2指標Yが所定の基準値(第2基準値)よりも大きな画素を抽出して、これらの画素の第3指標Zの値を、悪性腫瘍の疑いがあることを示す「1」に設定し、その他の画素の第3指標Zの値を「0」に設定する。
【0074】
また、第1指標X、第2指標Y及び第3指標Zをそれぞれ2値の指標とし、第1指標Xと第2指標Yとの論理積又は論理和として第3指標Zを計算する構成としてもよい。この場合、例えば、数式5の右辺の値が所定値未満の場合にX=1(低酸素飽和度)、所定値以上の場合にX=0(正常値)とし、数式13の右辺の値が所定値以上の場合にY=1(血液量大)、所定値未満の場合にY=0(正常値)として、Z=X・Y(論理積)又はZ=X+Y(論理和)によりZを計算することもできる。
【0075】
上記は、第3指標Zを2値の指標とした場合の例であるが、第3指標Zを悪性腫瘍の疑いの度合を示す多値(あるいは実数等の連続値)の指標としてもよい。この場合、例えば、第1指標X(x,y)の第1基準値や平均値からの偏差と、第2指標Y(x,y)の第2基準値や平均値からの偏差に基づいて、悪性腫瘍の疑いの度合を示す第3指標Z(x,y)を計算する構成とすることができる。第3指標Z(x,y)は、例えば、第1指標X(x,y)の偏差と第2基準値の偏差との和や積として計算することができる。
【0076】
次に、分析処理回路230は、第1指標X(x,y)、第2指標Y(x,y)又は第3指標Z(x,y)のうち、予めユーザが指定したものを画素値(輝度)とする指標画像データを生成する(S7)。なお、処理S7において、第1指標X(x,y)、第2指標Y(x,y)又は第3指標Z(x,y)の全ての指標画像データを生成する構成としてもよい。
【0077】
次に、分析処理回路230は、画像データR(x,y)、G(x,y)、B(x,y)について色補正処理S8を行う。光学フィルタ262を通したフィルタ光Lfは、R(波長域WR)、G(波長域W7)、B(波長域W2)の3原色のスペクトル成分を含むため、フィルタ光Lfを使用してカラー画像を撮像することができる。しかしながら、フィルタ光Lfのスペクトルは帯域が限定されているため、フィルタ光Lfを使用して撮像した画像は、通常光Lnを使用して撮像した画像と比べて、やや不自然な色合いとなる。そこで、本実施形態では、フィルタ光Lfを使用して撮像した画像データR(x,y)、G(x,y)、B(x,y)に対して、通常光Lnを使用した場合に得られる画像に色合いを近づけるための色補正処理S8を行う。
【0078】
色補正処理S8は、例えば画像データR(x,y)、G(x,y)、B(x,y)に対して、予め取得した補正値C
R、C
G、C
Bを加算又は乗算することによって行われる。あるいは、通常光Ln用のカラーマトリックスMnとは別にフィルタ光Lf用のカラーマトリックスMfを用意し、カラーマトリックス演算により色補正を行う構成としてもよい。補正値C
R、C
G、C
BやカラーマトリックスMfは、例えばフィルタ光Lfで照明した色基準板を電子内視鏡システムによって撮像して得た画像データに基づいて予め設定され、分析処理回路230の内部メモリに記憶される。また、色補正処理S8を行わない設定とすることもできる。
【0079】
次に、分析処理回路230は、色補正処理S8を施した画像データや処理S7において生成した指標画像データ等に基づいて、モニタ300に表示するための画面データを生成する(S9)。画面データ生成処理S9では、例えば色補正後の内視鏡画像と一種類以上の指標画像とを1画面上に並べて表示する複数画面表示、色補正後の内視鏡画像のみを表示する内視鏡画像表示、ユーザが指定した一種類以上の指標画像のみを表示する指標画像表示等の各種の画面データを生成することができる。生成する画面データの種類は、電子スコープ100の操作部又はプロセッサ200の操作パネル214に対するユーザ操作によって選択される。また、プロセッサ200の操作パネル214等から入力された患者情報等の関連情報がスーパーインポーズにより各表示画面上に表示される。
【0080】
図8は、モニタ300に表示される画面の例である。
図8(a)が内視鏡画像であり、
図6(b)が第1指標X(x,y)の指標画像である。なお、
図8の画像は、中指の近位指節間関節付近を輪ゴムで圧迫した状態の右手を観察したものである。
図8(b)には、右中指の圧迫部よりも遠位側において、圧迫によって血流が阻害されたことにより、酸素飽和度が低くなっていることが示されている。また、圧迫部の近位側直近では、動脈血が滞留して、局所的に酸素飽和度が高くなっていることが読み取れる。
【0081】
特殊観察モードにおいて、内視鏡画像と指標画像とをモニタ300上に2画面表示させながら内視鏡観察を行うことにより、総ヘモグロビン量と酸素飽和度に特徴的変化がある悪性腫瘍をより確実に発見することが可能になる。また、悪性腫瘍が疑われる箇所を発見したときには、電子スコープ100の操作により、特殊観察モードから通常観察モードに迅速に切り替えて、より色再現性の高い通常観察画像を全画面表示させ、更に精密な診断を行うことができる。本実施形態の電子内視鏡システム1は、電子スコープ100の操作により、光学フィルタ262を光路上に自動的に挿抜して、画像処理の方法を変更するだけで、通常観察モードと特殊観察モードを容易且つ速やかに切り替えることができるように構成されている。
【0082】
また、本実施形態の電子内視鏡システム1では、3つの波長域W2、W7及びWRを分離する多峰性の光学フィルタ262が採用され、更に、3つの波長域W2、W7及びWRが固体撮像素子108のBフィルタ、Gフィルタ及びRフィルタをそれぞれ透過する構成が採用されている。これらの構成により、1フレーム(2フィールド)の撮像により1フレームの内視鏡画像と指標画像を生成することが可能となるため、実効的なフレームレートの高い映像が得られる。
【0083】
また、光学フィルタ262の3つの透過波長領域は、所望の精度の指標X、Yが得られるならば、ヘモグロビンの等吸収点によって定義される波長域W2、W7及びWRから多少ずれていてもよい。
図9は、波長域W2(452〜502nm)に対応する光学フィルタ262の透過波長域をずらした場合に生じる指標Xの誤差をシミュレーションした結果をプロットしたグラフである。
図9の横軸は酸素飽和度を示し、縦軸は指標Xの誤差を示す。
【0084】
図9におけるプロットAは、波長域W2から長波長側に2nmずらした454〜504nmの波長領域を透過する光学フィルタ262を使用した場合の誤差である。プロットBは、波長域W2から短波長側に6nmずらした446〜596nmの波長領域を透過する光学フィルタ262を使用した場合の誤差である。また、プロットCは、波長域W2から短波長側に12nmずらした440〜490nmの波長領域を透過する光学フィルタ262を使用した場合の誤差である。いずれのプロットも、誤差は8%未満となった。また、短波長側にずれた場合よりも、長波長側にずれた場合の方が、少し誤差が大きくなる傾向が見られる。
【0085】
正常な生体組織の酸素飽和度は大凡90%以上になるが、悪性腫瘍における酸素飽和度は大凡40%以下になるという報告等がある。従って、指標Xの誤差を大凡±5%以下に抑えることができれば、悪性腫瘍を判別する用途としては、十分に実用に耐えうると考えられる。
【0086】
従って、光学フィルタ262の波長域W2に対応する透過波長域のずれ量としては、±12nmの範囲(長波長側にずれた場合に誤差が大きくなることを考慮すると、−12nm〜+10nmの範囲)で十分に許容されると考えられる。少なくとも、
図9にプロットした条件(すなわち、波長のずれ量が−12nm〜+2nm)の範囲内であれば、指標Xの誤差を十分に実用的な範囲内に抑えることができる。
【0087】
また、
図9は、波長域W2に対応する透過波長域について、帯域幅を変えずに波長をシフトさせた場合のシミュレーション結果であるが、帯域幅の増減を伴う波長領域のずれに対しても、略同程度の許容差を与えることができると考えられる。すなわち、波長域W2に対応する透過波長域の短波長端及び長波長端の各波長について、±12nm(好ましくは−12nm〜+10nm、更に好ましくは−12nm〜+2nm)の範囲内の誤差を許容することができると考えられる。
【0088】
また、波長域W7及び波長域WRに対応する透過波長域についても、少なくとも同程度の許容差が認められると考えられる。
【0089】
以上の実施形態によれば、波長領域が極めて狭い等吸収点の替わりに波長領域全体の吸収が酸素飽和度に依存しない比較的に広い波長領域を使用するため、レーザ光等の極狭帯域かつ分光エネルギー密度の高い光を使用する必要がなくなり、バンドパスフィルタによって白色光から波長分離した光のような分光エネルギー密度が低い狭帯域光を使用しても、酸素飽和度の影響を受けずにヘモグロビン濃度(血液濃度)の情報を正確に推定することが可能になる。
【0090】
以上が本発明の例示的な実施形態の説明である。本発明の実施形態は、上記に説明したものに限定されず、本発明の技術的思想の範囲において様々な変形が可能である。例えば明細書中に例示的に明示される実施形態等又は自明な実施形態等を適宜組み合わせた内容も本願の実施形態に含まれる。
【0091】
上記の実施形態は、特殊観察モードで使用する青色の波長領域として波長域W2を使用した例であるが、波長域W2に替えて波長域W1を使用することもできる。波長域W1は、波長域W2よりも、酸素化ヘモグロビンと還元ヘモグロビンとの吸収の差が大きい。そのため、波長域W1を使用することにより、酸素飽和度の変化をより高感度で検出することが可能になる。一方、波長域W2は、波長域W1よりも、ヘモグロビンの吸収が小さく、また、ランプ208にキセノンランプを使用する場合にはランプ208の発光強度も高くなるため、大きな光量が得られる。そのため、波長域W2を使用することにより、酸素飽和度をより高精度(低ノイズ)に検出することが可能になる。
【0092】
上記の実施形態は、分光学的な分析結果をグレースケール又はモノクロの指標画像により表示する例であるが、分析結果の表示方法はこれに限定されない。例えば、指標値に応じて画像データR(x,y)、G(x,y)、B(x,y)に変更を加える構成としてもよい。例えば、指標値が基準値を超えた画素に対して、明度を高くする処理や、色相を変化させる処理(例えば、R成分を増加させて赤味を強くする処理や、色相を所定角度だけ回転させる処理)、画素を明滅させる(あるいは、周期的に色相を変化させる)処理を行うことができる。
【0093】
また、上記の実施形態の固体撮像素子108は、オンチップのカラーフィルタを備えたカラー画像撮像用の固体撮像素子であるとして説明したが、この構成に限定されるものではなく、例えば、白黒画像撮像用の固体撮像素子を用い、いわゆる面順次方式のカラーフィルタを備えた構成としてもよい。また、カラーフィルタは、ランプ208から固体撮像素子108までの光路上のいずれかの位置に配置することができる。
【0094】
また、上記の実施形態では、光学フィルタ装置260が光源側に設けられ、照射光ILに対してフィルタリングを行う構成が採用されているが、本発明はこの構成に限定されるものではなく、光学フィルタ装置260を撮像素子側(例えば、対物光学系106と撮像素子108との間)に設けて、被写体からの戻り光をフィルタリングする構成とすることもできる。
【0095】
また、上記の実施形態は、本発明をデジタルカメラの一形態である電子内視鏡システムに適用した例であるが、他の種類のデジタルカメラ(例えば、デジタル一眼レフカメラやデジタルビデオカメラ)を使用したシステムに本発明を適用することもできる。例えば、本発明をデジタルスチルカメラに適用すると、体表組織の観察や開頭手術時の脳組織の観察(例えば、脳血流量の迅速検査)を行うことができる。