(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の実施形態を
図1〜
図13を用いて説明する。以下の説明では、定着装置1を含む画像形成装置として、プリンター100を例に挙げて説明する。但し、各実施の形態に記載されている構成、配置等の各要素は発明の範囲を限定するものではなく単なる説明例にすぎない。
【0016】
(画像形成装置の概要)
まず、
図1を用いて、実施形態に係るプリンター100の概要を説明する。
図1は、実施形態に係るプリンター100の構造を示す図である。
【0017】
図1に示すように、本実施形態のプリンター100は、側方に取り付けられた操作パネル2を有する。また、プリンター100は、内部に、印刷部3として、給紙部3a、搬送部3b、画像形成部3c、定着装置1、両面搬送部3dを含む。
【0018】
まず、
図1に示すように、操作パネル2は、プリンター100の状態や各種メッセージや設定用画面を表示する表示部21を備える。表示部21はタッチパネル式である。操作パネル2は、印刷の設定を受け付ける。
【0019】
図1に示すように、給紙部3aは、プリンター100の内部下方に配される。給紙部3aは、複数枚の用紙を収容し、印刷のとき、用紙を送り出す。搬送部3bは、給紙部3aから供給された用紙を搬送する。画像形成部3cは、トナー像を形成し、搬送される用紙に形成したトナー像を転写する。定着装置1は、トナー像が転写された用紙を加熱・加圧して、用紙にトナー像を定着させる。定着装置1を通過した用紙は、排出ローラー対31によって排出トレイ32に排出される。
【0020】
(プリンター100のハードウェア構成)
次に、
図2に基づき、実施形態に係るプリンター100のハードウェア構成を説明する。
図2は、実施形態に係るプリンター100のハードウェア構成を示す図である。
【0021】
図2に示すように、本実施形態に係るプリンター100は、制御部4を含む。制御部4は、プリンター100の各部を制御する。制御部4は、CPU5(処理回路に相当)や、印刷に用いる画像データを生成する画像処理部40を含む。CPU5は、中央演算処理装置であり、記憶部50に格納される制御プログラムや制御用データに基づきプリンター100の各部の制御や演算を行う。記憶部50は、RAMのような揮発性の記憶装置と、ROM、フラッシュROM、HDDのような不揮発性の記憶装置を組み合わせである。
【0022】
そして、制御部4は、用紙搬送やトナー像の形成や、転写、定着により印刷を行う印刷部3(給紙部3a、搬送部3b、画像形成部3c、定着装置1、両面搬送部3d)を制御する。制御部4は、記憶部50の記憶内容に基づき、印刷部3に含まれる部分を制御するための演算や処理を行う。又、制御部4は、操作パネル2でなされた設定内容を認識しジョブの内容、設定を認識する。
【0023】
又、制御部4には、通信部41が接続される。通信部41は、パーソナルコンピューターやサーバーのようなコンピューター200と通信を行うためのインターフェイスである。通信は、ネットワーク、公衆回線及び接続ケーブルなどを介して行われる。通信部41は、コンピューター200から画像データや印刷設定を含む印刷用データを受信する。そして、制御部4は、受信した印刷用データに基づき印刷部3に印刷を行わせる。
【0024】
(定着装置1)
次に、
図1、
図3、
図4を用いて、実施形態に係る定着装置1を説明する。
図3は、実施形態に係る定着装置1の一例を示す図である。
図4は、実施形態に係るサーミスターの設置位置の一例を示す図である。
【0025】
図1に示すように、プリンター100は定着装置1を含む。
図1、
図3に示すように、定着装置1は、ヒーター12により熱せられる加熱ローラー11(加熱回転体に相当)と、これに圧接される加圧ローラー13を含む。加熱ローラー11は、用紙に転写されたトナー像を加熱する。加圧ローラー13は、トナー像を加圧して用紙に定着させる。加熱ローラー11と加圧ローラー13は軸線方向が平行となるように、回転可能に支持される。
【0026】
加熱ローラー11の周面は金属製(アルミや鉄製)であり、筒状やスリーブ状である。ヒーター12は、加熱ローラー11に内蔵される。本実施形態のプリンター100ではハロゲンヒーターが用いられる。しかし、IHヒーターのような他種の熱源をヒーター12として用いてもよい。一方、加圧ローラー13は、加熱ローラー11の形状に応じて変形する弾性層を周面に有するローラーである。弾性層は、シリコンスポンジのような樹脂製である。
【0027】
そして、加熱ローラー11と加圧ローラー13の圧接により、定着ニップNが生成される。トナー像の転写された用紙は、定着ニップNを通過する。これにより、用紙及び用紙に転写されたトナー像は、加熱・加圧される。その結果、トナー像が用紙に定着する。
【0028】
本実施形態のプリンター100では、用紙の主走査方向(搬送方向と垂直な方向)の中央と、加熱ローラー11の軸線の中央が一致するように、用紙が搬送される。印刷のとき、加熱ローラー11のうち、用紙と接する部分の温度が定着に適した温度(定着制御温度、例えば、170°C程度)で維持されるように、ヒーター12のON/OFFを行う必要がある。そのためには、加熱ローラー11のうち、用紙と接する部分の温度を検知する必要がある。また、印刷に用いる用紙のサイズによっては、加熱ローラー11の両端部分に用紙が接さず、両端部分の温度が上昇しすぎる場合がある。そのため、加熱ローラー11の端部分の温度も検知する必要がある。
【0029】
加熱ローラー11の温度を検知するためのサーミスターが複数設けられる。
図4に示すように、本実施形態の定着装置1では、少なくとも、加熱ローラー11の中央部分の温度を検知するためのサーミスター61と、加熱ローラー11の一方の端の部分の温度を検知するためのサーミスター62が設けられる。本実施形態の定着装置1は、少なくとも2つのサーミスターを含む。なお、
図4に示すように、加熱ローラー11の他方の端の部分の温度を検知するため、加熱ローラー11の他方の端の位置に、3つめのサーミスター63が設けられてもよい。
図3に示すように、用紙の進入位置の近傍にそれぞれのサーミスターを設置することができる。各サーミスターは、加熱ローラー11に接触する。それぞれのサーミスターは、加熱ローラー11のうち、サーミスターと接触している部分を検知対象とする。尚、非接触式のサーミスターを用いてもよい。
【0030】
(定着装置1の温度制御)
次に、
図3、
図5を用いて、定着装置1での温度制御を説明する。
図5は、実施形態に係る定着装置1での制御を説明するための図である。
【0031】
制御部4(CPU5)は、ヒーター12への通電(ヒーター12の出力)を制御する(
図5参照)。
【0032】
上述のように、本実施形態の定着装置1には、加熱ローラー11に対し、少なくとも2つのサーミスター61、62が設けられる(
図4参照)。制御部4(CPU5)は、サーミスター61、62の出力に基づき、加熱ローラー11の中央と端部分の温度を認識する(詳細は後述)。
【0033】
又、制御部4(CPU5)は、加熱ローラー11と加圧ローラー13を回転させる定着モーター14の動作を制御する。印刷時や起動時のようなヒーター12に通電して加熱ローラー11を熱するとき、制御部4は、定着モーター14を回転させる。これにより、加熱ローラー11と加圧ローラー13が回転する。圧接しているので、加圧ローラー13は、加熱ローラー11の回転に従動する。このように、定着装置1を制御するので、制御部4は、定着装置1の一部として機能する。
【0034】
プリンター100の主電源ONや、省電力モードから通常モードに復帰したとき、制御部4は、ヒーター12に通電を行い、冷めた加熱ローラー11の温度を、予め定められた定着制御温度にまで上昇させる定着ウォームアップ処理を行う。制御部4は、ヒーター12に通電を行い、サーミスター61、62の出力に基づき、加熱ローラー11の温度を認識しつつ、加熱ローラー11の中央と端部のいずれもが温度が定着制御温度を越えたかを認識する。
【0035】
印刷中や、省電力モードに移行する前の通常モードでは、制御部4は、加熱ローラー11の温度を定着制御温度で維持する温度維持制御を行う。温度維持制御の間、制御部4は、サーミスター61、62の出力に基づき、加熱ローラー11の中央と端部の何れか一方、又は、両方の温度が定着制御温度以下になるとヒーター12に通電を行い、定着制御温度を上回るとヒーター12への通電を停止させる。
【0036】
(温度検知)
次に、
図6〜
図10を用いて、実施形態に係る定着装置1での温度検知を説明する。
図6は、実施形態に係る定着装置1の温度検知を行う部分の一例を示す図である。
図7は、実施形態に係る信号回路部8の真理値表の一例を示す図である。
図8は、実施形態に係る定着装置1の温度検知に関する信号の変化の一例を示すタイミングチャートである。
図9は、検知対象の温度に対して、サーミスターとコンデンサー間の電圧が閾値V0に上昇するまでの時間の一例を示すグラフである。
図10は、各サーミスターの検知対象の温度検知に用いる温度検知用データD1の一例を示す図である。
【0037】
従来、画像形成装置では、
図14を用いて説明したように、検知対象に対して設けたサーミスター1000と抵抗2000の直列回路3000を設け、サーミスター1000と抵抗2000の間の電圧の大きさに基づき、検知対象の温度を検知している。これは、温度によってサーミスター1000の抵抗値が変化し、サーミスター1000と抵抗2000の分圧比が検知対象の温度によって変化することを利用したものである。
【0038】
この温度検知では、サーミスターと抵抗の直列回路に対して、1つのAD変換回路が必要である。サーミスターの設置個数に応じたAD変換回路を設ける必要があり、AD変換回路を減らすことができず、画像形成装置の製造コストを減らせない原因となっている。また、CPUに内蔵されるAD変換回路を用いて温度検知を行う場合には、CPUのAD変換ポートをサーミスターの設置個数分、占有することになる。そして、サーミスターの設置個数に応じたAD変換ポートを有するCPUを採用しなくてはならず、選択できるCPUが限られてしまう場合があった。
【0039】
そこで、本実施形態の定着装置1は、AD変換回路やCPUのAD変換ポートを用いず、汎用ポートのみでサーミスターの検知対象(少なくとも、加熱ローラー11の中央と一方の端部)の温度を検知する。
【0040】
まず、本実施形態の定着装置1は、センサー回路部7と、信号回路部8を含む。センサー回路部7は、温度センサーとして機能する部分である。具体的に、センサー回路部7は、加熱ローラー11の温度を検知するためのサーミスターとコンデンサーの直列回路を複数含む。
図6に示すように、センサー回路部7は、サーミスター61とコンデンサー71の直列回路91と、サーミスター62とコンデンサー72の直列回路92を含む。そして、それぞれの直列回路のコンデンサー71とコンデンサー72は、静電容量が異なる。静電容量の関係は、コンデンサー71<コンデンサー72となっている。また、サーミスター61とサーミスター62は、同じもの(同じ抵抗値の温度特性を有するもの、同じ仕様)である。尚、サーミスター61の抵抗値の温度特性とサーミスター62の抵抗値の温度特性は、異なっていてもよい。
【0041】
本実施形態の信号回路部8は、排他的論理和回路81(EXOR回路)を含む。信号回路部8は、2つの入力端子を有する。一方の入力端子Aには、直列回路91のサーミスター61とコンデンサー71の間の電圧であるセンサー出力電圧V1が入力される。また、他方の入力端子Bには、直列回路92のサーミスター62とコンデンサー72の間の電圧であるセンサー出力電圧V2が入力される。
【0042】
図7は、信号回路部8(排他的論理和回路81)の出力信号Xの真理値表である。信号回路部8は、入力端子Aに入力されるセンサー出力電圧V1の大きさが予め定められた閾値V0を超えている状態を、Highと認識する。一方、信号回路部8は、センサー出力電圧V1の大きさが予め定められた閾値V0以下の状態を、Lowと認識する。また、信号回路部8は、入力端子Bに入力されるセンサー出力電圧V2の大きさが予め定められた閾値V0を超えている状態を、Highと認識する。一方、信号回路部8は、センサー出力電圧V2の大きさが予め定められた閾値V0以下の状態を、Lowと認識する。
【0043】
これにより、信号回路部8は、センサー出力電圧V1とセンサー出力電圧V2が、予め定められた閾値V0を超えるたびに、出力信号XのHighとLowを切り替える(
図7参照)
【0044】
一方、CPU5は、電圧出力ポート51と入力ポート52を含む。電圧出力ポート51と入力ポート52は、汎用ポートである。そして、CPU5の電圧出力ポート51には、それぞれのサーミスター61、62の一端が接続される。言い換えると、それぞれの直列回路91、92が電圧出力ポート51に対して並列接続される。また、CPU5の入力ポート52には、信号回路部8の出力信号Xが入力される。CPU5は、出力信号Xの電圧値が予め定められた基準値を超えているとき、出力信号XがHighであると認識する。また、CPU5は、出力信号Xの電圧値が予め定められた基準値以下であるとき、出力信号XがLowであると認識する。このように、制御部4のCPU5も定着装置1の一部として機能する。
【0045】
ここで、
図8のタイミングチャートを用いて、加熱ローラー11の温度検知の流れの一例を説明する。
図8のうち、最上段のチャートは、CPU5の電圧出力ポート51の出力状態を示す。
図8は、CPU5が、A1の時点で各直列回路に対して同時に電圧の印加を開始したことを示している。
【0046】
図8の2段目のチャートは、信号回路部8(EXOR回路)の出力信号Xの状態変化を示す。
図8の3段目のチャートは、サーミスター61とコンデンサー71の間の電圧(センサー出力電圧V1)の変化の一例を示す。
図8の4段目のチャートは、サーミスター62とコンデンサー72の間の電圧(センサー出力電圧V2)の変化の一例を示す。また、
図8では、信号回路部8への入力の閾値V0のレベルを破線で図示している。
【0047】
コンデンサー71とコンデンサー72の静電容量は異なる。本実施形態の定着装置1では、コンデンサー72は、コンデンサー71よりも静電容量が大きい。同時に電圧印加を開始する場合、静電容量が大きいコンデンサー72を含む直列回路92のセンサー出力電圧V2の方が、閾値V0を超えるまでの時間が長くなる。加熱ローラー11という同一のものの温度を検知するので、閾値V0を超える順番は、基本的に、センサー出力電圧V1が最初であり、センサー出力電圧V2が2番目となる。
【0048】
そして、静電容量が小さい方のコンデンサー71と接続されたサーミスター61の検知対象(加熱ローラー11の中央位置)の温度を検知するため、CPU5は、それぞれの直列回路への電圧印加開始から信号回路部8の出力信号Xの立ち上がりまでの立ち上がり時間t1を測る。つまり、各直列回路への電圧印加開始から、センサー出力電圧V1が閾値V0を超えるまでの立ち上がり時間t1を測る。
【0049】
また、静電容量が大きい方のコンデンサー72と接続されたサーミスター62の検知対象(加熱ローラー11の端部)の温度を検知するため、CPU5は、それぞれの直列回路への電圧印加開始から信号回路部8の出力信号Xの立ち下がりまでの立ち下がり時間t2を測る。つまり、それぞれの直列回路への電圧印加開始から、センサー出力電圧V2が閾値V0を超えるまでの立ち下がりt2を測る。
【0050】
ここで、一般的に、抵抗とコンデンサーの直列回路でのコンデンサーに印加される電圧の変化(過渡現象)の一般解は、以下の式1で示される。
(式1)Vc=V{1−exp(−t/RC)}
但し、Vcはコンデンサーの両端に係る電圧の大きさ、Rは抵抗の抵抗値、Cはコンデンサーの静電容量、Vは直列回路に印加される電圧の大きさを示す。
【0051】
時定数のRが大きいほど(時定数が大きいほど)、exp(−t/RC)の値が大きくなり、Vcの立ち上がりが遅くなる(反応が遅くなる)。また、時定数のRが小さいほど(時定数が小さいほど)、exp(−t/RC)の値が小さくなり、Vcの立ち上がりが早くなる(反応が速くなる)。
【0052】
本実施形態のサーミスター61とサーミスター62は、温度によって抵抗値が変化する。
図9は、センサー出力電圧V1に関するグラフである。
図9は、検知対象の温度に応じ、立ち上がり時間t1が変化することを示している。
図9の例では、検知対象の温度が高いほど立ち上がり時間t1が短くなっているので、サーミスター61は、検知対象(接触しているもの)の温度が高いほど、抵抗値が小さくなるタイプのサーミスターといえる。また、
図9に示すグラフとは異なるが、センサー出力電圧V2(立ち下がり時間t2)についても、同様の傾向となる。言い換えると、検知対象の温度に応じ、立ち下がり時間t2が変化し、サーミスター62の検知対象の温度が高いほど立ち下がり時間t2が短くなる。
【0053】
このように、
図8の立ち上がり時間t1と立ち下がり時間t2は、検知対象の温度に応じて、変化する。つまり、CPU5は、一方の直列回路91(静電容量が最も小さい回路)への電圧印加開始から出力信号Xの立ち上がりまでの立ち上がり時間t1に基づき、サーミスター61の検知対象の温度を認識できる。また、CPU5は、他方の直列回路92(静電容量が最も大きい回路)への電圧印加開始から出力信号Xの立ち下がりまでの立ち下がり時間t2に基づき、サーミスター62の検知対象の温度を認識できる。
【0054】
具体的に、CPU5は、(式1)を変形して得られる演算式に基づき、各サーミスターの抵抗値を求め、サーミスターのデータシートに基づき、求めた抵抗値に対する検知対象の温度を求めることができる。このように検知対象の温度を求めるとき、演算式とデータシートが記憶部50に記憶される。そして、CPU5は、記憶された演算式とデータシートに基づき、各サーミスターの検知対象の温度を認識できる。
【0055】
本実施形態の定着装置1では、
図10に示すように、記憶部50は、立ち上がり時間t1に対応するサーミスター61の検知対象の温度と、立ち下がり時間t2に対応するサーミスター62の検知対象の温度を定めた温度検知用データD1を記憶する。予め実験を行うことにより、立ち上がり時間t1と立ち下がり時間t2に対する温度の値が定義される。
図10は、1°C刻みで、立ち上がり時間t1と立ち下がり時間t2に対応する温度が定められた温度検知用データD1を示している。
【0056】
CPU5は、立ち上がり時間t1を測り、温度検知用データD1を参照する。そして、CPU5は、温度検知用データD1で立ち上がり時間t1との対比用に定められた時間のうち、計測された立ち上がり時間t1に最も近い時間を判定し、最も近い時間に対応する温度が、サーミスター61の検知対象の温度と認識する。また、CPU5は、立ち下がり時間t2を測り、温度検知用データD1を参照する。そして、CPU5は、温度検知用データD1で立ち下がり時間t2との対比用に定められた時間のうち、計測された立ち下がり時間t2に最も近い時間を判定し、最も近い時間に対応する温度が、サーミスター62の検知対象の温度と認識する。つまり、CPU5は、温度検知用データD1に基づき、立ち上がり時間に対応するサーミスター61の検知対象の温度を認識するとともに、温度検知用データD1に基づき、立ち下がり時間に対応するサーミスター62の検知対象の温度を認識する。
【0057】
(変形例)
次に、
図11〜
図13を用いて、本実施形態の変形例を説明する。
図11は、定着装置1の温度検知を行う部分の一例を示す図である。
図12は、定着装置1の温度検知に関する信号の変化の一例を示すタイミングチャートである。
図13は、各サーミスターの検知対象の温度検知に用いる温度検知用データD1の一例を示す図である。
【0058】
上記の実施形態の説明では、サーミスターとコンデンサーの直列回路を2つ設け、信号回路部8に排他的論理和回路81を用い、CPU5は、立ち上がり時間t1に基づきコンデンサーの静電容量が小さい方の直列回路91のサーミスター61の検知対象の温度を認識し、立ち下がり時間t2に基づきコンデンサーの静電容量が大きい方の直列回路92のサーミスター62の検知対象の温度を認識する例を説明した。
【0059】
サーミスターとコンデンサーの直列回路を3つ設ける例を変形例として説明する。変形例でも、AD変換回路やCPUのAD変換ポートを用いず、汎用ポートのみでサーミスター61、62、63の検知対象(加熱ローラー11の中央と一方の端部)の温度を検知する。
【0060】
まず、変形例では、センサー回路部7は、加熱ローラー11の温度を検知するためのサーミスターとコンデンサーの直列回路を3つ含む。具体的に、
図11に示すように、本実施形態のセンサー回路部7は、サーミスター61とコンデンサー71の直列回路91と、サーミスター62とコンデンサー72の直列回路92と、サーミスター63とコンデンサー73の直列回路93を含む。つまり、変形例のセンサー回路部7は、実施形態のものに、直列回路93を追加したものである。
【0061】
そして、コンデンサー71、72、73の静電容量が異なる。具体的に、静電容量の関係は、コンデンサー71<コンデンサー72<コンデンサー73である。また、サーミスター61、62、及び、サーミスター63は、同じもの(同じ温度特性、同じ仕様)である。なお、サーミスター61は、加熱ローラー11の中央の温度を検知するためのものであり、サーミスター62は、加熱ローラー11の一方の端部の温度を検知するためのものであり、サーミスター63は、加熱ローラー11の他方の端部の温度を検知するためのものである(
図4参照)。
【0062】
本変形例では、信号回路部8は、複数の論理回路の組合せとされる。変形例の信号回路部8は、3つの入力端子を有する。入力端子Aには、直列回路91のサーミスター61とコンデンサー71の間の電圧であるセンサー出力電圧V1が入力される。また、入力端子Bには、直列回路92のサーミスター62とコンデンサー72の間の電圧であるセンサー出力電圧V2が入力される。入力端子Cには、直列回路93のサーミスター63とコンデンサー73の間の電圧であるセンサー出力電圧V3が入力される。
【0063】
論理回路を組み合わせるとき、EXOR以外の論理回路を用いてもよい。
図11では、
図6で示した信号回路部8を援用し、更に、排他的論理和回路82を追加した例を示している。
図11の例では、信号回路部8(排他的論理和回路81)の入力端子A、Bに対し、センサー出力電圧V1、V2を接続する点は
図6の例と同じである。また、
図11では、追加した排他的論理和回路82の一方の入力端子Cにセンサー出力電圧V3を入力し、他方の端子にグランドを接続した例を示している。
【0064】
信号回路部8の各排他的論理和回路81、82の出力の真理値表は、
図7と同様である。各排他的論理和回路81、82は、入力端子に入力される電圧の大きさが予め定められた閾値V0を超えると、Highが入力されたと認識する。一方、各排他的論理和回路81は、入力電圧の大きさが予め定められた閾値V0以下では、入力電圧がLowであると認識する。
【0065】
これにより、信号回路部8のうち、排他的論理和回路81は、センサー出力電圧V1が閾値V0を超えるとHighを出力し、センサー出力電圧V2が閾値V0を超えるとLowを出力する。また、排他的論理和回路82は、センサー出力電圧V3が閾値V0を超えるとHighを出力する。このように、信号回路部8は、各直列回路からのセンサー出力電圧が閾値V0を超えるたびに、出力信号XのHighとLowを切り替える(
図12参照)。言い換えると、信号回路部8は、複数の入力電圧のうち、最初に入力電圧が閾値V0を超えたときHighを出力し、その後、入力電圧が閾値V0を超えるごとに、HighとLowの出力を切り換える。つまり、信号回路部8は、センサー出力電圧V1が閾値V0を超えるとHighを出力し、センサー出力電圧V2が閾値V0を超えるとLowを出力し、センサー出力電圧V3が閾値V0を超えるとHighを出力する。
【0066】
そして、CPU5の電圧出力ポート51には、サーミスター61、62、63の一端が並列して接続される。言い換えると、CPU5に、それぞれの直列回路がポートに対して並列接続される。また、CPU5の入力ポート52には、信号回路部8の出力信号Xが入力される。CPU5は、出力信号Xの電圧値が予め定められた基準値を超えているとき、出力信号XがHighであると認識する。また、CPU5は、出力信号Xの電圧値が予め定められた基準値以下であるとき、出力信号XがLowであると認識する。
【0067】
次に、
図12のタイミングチャートを用いて、加熱ローラー11の温度検知の流れの一例を説明する。
図12のうち、最上段のチャートは、CPU5の電圧出力ポート51の出力状態を示す。
図12は、CPU5が、A1の時点で各直列回路に対して同時に電圧の印加を開始したことを示している。
【0068】
図12の上から2段目のチャートは、信号回路部8の出力信号Xの状態変化を示す。
図12の上から3段目のチャートは、サーミスター61とコンデンサー71の間の電圧(センサー出力電圧V1)の変化の一例を示す。
図12の上から4段目のチャートは、サーミスター62とコンデンサー72の間の電圧(センサー出力電圧V2)の変化の一例を示す。
図12の最下段のチャートは、サーミスター63とコンデンサー73の間の電圧(センサー出力電圧V3)の変化の一例を示す。また、
図12では、信号回路部8への入力A、入力B、入力Cの閾値V0のレベルを破線で図示している。
【0069】
コンデンサー71とコンデンサー72とコンデンサー73の静電容量は異なる(コンデンサー71<コンデンサー72<コンデンサー73)。従って、各センサー出力電圧が閾値V0を超える順番は、センサー出力電圧V1(コンデンサー71に対応)→センサー出力電圧V2(コンデンサー72に対応)→センサー出力電圧V3(コンデンサー73に対応)の順となる。加熱ローラー11という同一のものの温度を検知するので、閾値V0を超える順番は、基本的に固定される。
【0070】
そして、静電容量が最も小さいコンデンサー71と接続されたサーミスター61の検知対象(加熱ローラー11の中央位置)の温度を検知するため、CPU5は、それぞれの直列回路への電圧印加開始から信号回路部8の出力信号Xが最初に立ち上がるまでの立ち上がり時間(第1時間t3)を測る。CPU5は、立ち上がり時間として、各直列回路への電圧印加開始から、センサー出力電圧V1が閾値V0を超えるまでの第1時間t3を測る。
【0071】
また、静電容量が2番目に大きいコンデンサー72と接続されたサーミスター62の検知対象(加熱ローラー11の一方の端部)の温度を検知するため、CPU5は、それぞれの直列回路への電圧印加開始から出力信号Xが最初に立ち上がった後、出力信号Xが最初に立ち下がるまでの立ち下がり時間(第2時間t4)を測る。つまり、CPU5は、立ち下がり時間として、各直列回路への電圧印加開始から、センサー出力電圧V2が閾値V0を超えるまでの第2時間t4を測る。
【0072】
更に、静電容量が最も大きいコンデンサー73と接続されたサーミスター63の検知対象(加熱ローラー11の他方の端部)の温度を検知するため、CPU5は、それぞれの直列回路への電圧印加開始から信号回路部8の出力信号Xの2回目の立ち上がりまでの立ち上がり時間(第3時間t5)を測る。つまり、CPU5は、各直列回路への電圧印加開始から、センサー出力電圧V3が閾値V0を超えるまでの第3時間t5を測る。
【0073】
このように、CPU5は、それぞれの直列回路への電圧印加開始から、出力信号Xが最初に立ち上がるまでの第1時間t3と、出力信号Xが最初に立ち上がった後に出力信号Xが最初に立ち下がるまでの第2時間t4と、出力信号Xの2回目の立ち上がりまでの第3時間t5を測る。
【0074】
本変形例のサーミスター61、62、63は、何れも温度によって抵抗値が変化する。
図9で示したように、サーミスター61、62、63は、検知対象(接触しているもの)の温度が高いほど、抵抗値が小さくなるタイプのサーミスターである。
【0075】
図9を用いて説明したように、
図12の第1時間t3、第2時間t4、及び、第3時間t5は、検知対象の温度に応じて変化する。
【0076】
つまり、CPU5は、それぞれの直列回路への電圧印加開始から出力信号Xの最初の立ち上がりまでの第1時間t3に基づき静電容量が最も小さいコンデンサー71に接続されたサーミスター61の検知対象の温度を認識する。また、CPU5は、それぞれの直列回路への電圧印加開始から出力信号Xが最初に立ち上がった後、立ち下がるまでの第2時間t4に基づき静電容量が2番目に大きいコンデンサー72に接続されたサーミスター62の検知対象の温度を認識する。更に、CPU5は、それぞれの直列回路への電圧印加開始から出力信号Xの2回目の立ち上がりまでの第3時間t5に基づき静電容量が最も大きいコンデンサー73に接続されたサーミスター63の検知対象の温度を認識する
【0077】
CPU5は、(式1)を変形した演算式に基づき、各サーミスターの検知対象の温度を演算により求めることができる。しかし、変形例でも、
図13に示すように、記憶部50は、第1時間t3、第2時間t4、第3時間t5に対する、それぞれの直列回路のサーミスターの検知対象の温度を定めた温度検知用データD1を記憶する。予め実験を行うことにより、第1時間t3、第2時間t4、及び、第3時間t5に対する温度の値が定義される。
図13は、1°C刻みで、対応する第1時間t3、第2時間t4、及び、第3時間t5に対応する温度が定められた温度検知用データD1を示している。
【0078】
CPU5は、第1時間t3を測り、温度検知用データD1を参照する。そして、CPU5は、温度検知用データD1で第1時間t3との対比用に定められた時間のうち、計測された第1時間t3に最も近い時間を判定し、最も近い時間に対応する温度が、サーミスター61の検知対象の温度と認識する。また、CPU5は、第2時間t4を測り、温度検知用データD1を参照する。そして、CPU5は、温度検知用データD1で第2時間t4との対比用に定められた時間のうち、計測された第2時間t4に最も近い時間を判定し、最も近い時間に対応する温度が、サーミスター62の検知対象の温度と認識する。更に、そして、CPU5は、温度検知用データD1で第3時間t5との対比用に定められた時間のうち、計測された第3時間t5に最も近い時間を判定し、最も近い時間に対応する温度が、サーミスター62の検知対象の温度と認識する。
【0079】
このようにして、実施形態と変形例に係る定着装置1は、加熱回転体(加熱ローラー11)と、ヒーター12と、センサー回路部7と、信号回路部8と、処理回路(CPU5)を含む。加熱回転体(加熱ローラー11)は、用紙に転写されたトナー像を加熱する。ヒーター12は、加熱回転体を熱する。センサー回路部7は、加熱回転体の温度を検知するためのサーミスター(サーミスター61、62、変形例の場合は、サーミスター61、62、63)とコンデンサー(コンデンサー71、72、変形例の場合は、コンデンサー71、72、73)の直列回路(直列回路91、92、変形例の場合は、直列回路91、92、93)を複数含み、直列回路のそれぞれのコンデンサーの静電容量が異なる。信号回路部8は、それぞれの直列回路のサーミスターとコンデンサー間の電圧であるセンサー出力電圧V1、V2、3が入力され、予め定められた閾値V0を超えたセンサー出力電圧が増えるたびに、出力信号XのHighとLowを切り替える。処理回路は、それぞれの直列回路に電圧を印加するためのポートであって、それぞれの直列回路のサーミスターの一端に接続され、それぞれの直列回路が並列接続される電圧出力ポート51と、出力信号Xが入力される入力ポート52を含み、それぞれの直列回路への電圧印加開始から出力信号Xの立ち上がりまでの立ち上がり時間t1(変形例の場合は、第1時間t3、第3時間t5)と、それぞれの直列回路への電圧印加開始から出力信号Xの立ち下がりまでの立ち下がり時間(変形例の場合は、第2時間t4)を測り、立ち上がり時間と立ち下がり時間に基づき、各サーミスターの検知対象の温度を認識する。
【0080】
RC直列回路の過渡現象のため、それぞれの直列回路への電圧印加開始から、センサー出力電圧(各コンデンサーの端子間電圧)が閾値V0を超えるまでの時間は、それぞれの抵抗値(各サーミスターのそれぞれの検知対象の温度)に応じた長さとなる。従って、この時間に基づき、各サーミスターの検知対象の温度を検知することができる。
【0081】
また、各コンデンサーの静電容量は異なっている。そのため、各直列回路に電圧を印加してから、センサー出力電圧が閾値V0を超えるまでの時間は、各直列回路によって異なる。つまり、静電容量の少ないコンデンサー(コンデンサー71)に対応するセンサー出力電圧から順番に閾値V0を超えるので、出力信号Xのどのエッジが、どのサーミスターに対応しているかを見分けることができる。従って、各直列回路に電圧の印加を開始してから、出力信号Xの各エッジまでの時間に基づき、各サーミスターに対応するそれぞれの検知対象の温度を求めることができる。
【0082】
このように、本定着装置1では、AD変換回路や集積回路に備えられたAD変換ポートを用いずに、複数のサーミスターの検知対象の温度を検知、認識することができる。従って、1つのサーミスターごとにAD変換回路を設ける必要がない。また、多数のAD変換回路や多数のAD変換ポートを有する集積回路を採用しなくてもすむ。また、AD変換ポート(内蔵AD変換回路)の数が少ない集積回路(CPU5)を採用することが可能となり、定着装置1、画像形成装置に搭載する集積回路の選択肢を広げることができる。また、定着装置1の製造コストを減らすことができる。
【0083】
また、画像形成装置(プリンター100)は、立ち上がり時間t1(変形例の場合は、第1時間t3、第3時間t5)と立ち下がり時間t2(変形例の場合は、第2時間t4)に対する、それぞれのサーミスターの検知対象の温度を定めた温度検知用データD1を記憶する記憶部50を含む。そして、処理回路(CPU5)は、温度検知用データD1に基づき、立ち上がり時間に対応するサーミスター61(変形例の場合は、サーミスター61とサーミスター63)の検知対象の温度を認識するとともに、温度検知用データD1に基づき、立ち下がり時間に対応するサーミスター62の検知対象の温度を認識する。これにより、複雑な演算を行うことなく、容易にそれぞれのサーミスターの検知対象の温度を検知、認識することができる。
【0084】
具体的に、本実施形態の画像形成装置(プリンター100)には、直列回路は、2つ設けられる(直列回路91、92)。信号回路部8は、排他的論理和回路81である。処理回路(CPU5)は、立ち上がり時間に基づきコンデンサーの静電容量が小さい方の直列回路91のサーミスター61の検知対象の温度を認識し、立ち下がり時間に基づきコンデンサーの静電容量が大きい方の直列回路直列回路92のサーミスター62の検知対象の温度を認識する。
【0085】
このように、2つのサーミスター(サーミスター61、62)が設けられても、複数の検知対象の温度を検知するために必要な処理回路(CPU5)のポートは、それぞれの直列回路(直列回路91、92)に電圧を印加するためのポート1つと、信号回路部8の出力を受けるポート1つですむ。
【0086】
また、変形例の定着装置1には、それぞれのコンデンサー(コンデンサー71、72、73)の静電容量が異なるように、コンデンサーと抵抗の直列回路が、3つ設けられる(直列回路91、92、93)。信号回路部8は、複数の入力電圧のうち、最初に入力電圧が閾値V0を超えたときHighを出力し、その後、閾値V0を超える入力電圧が増えるごとに、HighとLowの出力を切り換える。処理回路(CPU5)は、立ち上がり時間として、それぞれの直列回路(直列回路91、92、93)への電圧印加開始から、出力信号Xの最初の立ち上がりまでの第1時間t3と、出力信号Xの2回目の立ち上がりまでの第3時間t5を測り、立ち下がり時間として、それぞれの直列回路への電圧印加開始から、出力信号Xの最初の立ち上がりの後に出力信号Xが最初に立ち下がるまでの第2時間t4を測る。処理回路は、第1時間に基づき静電容量が最も小さいコンデンサー71に接続されたサーミスター61の検知対象の温度を認識する。処理回路は、第2時間に基づき静電容量が2番目に大きいコンデンサー72に接続されたサーミスター62の検知対象の温度を認識する。処理回路は、第3時間に基づき静電容量が最も大きいコンデンサー73に接続されたサーミスター63の検知対象の温度を認識する。
【0087】
このように、3つのサーミスター(サーミスター61、62、63)が設けられても、複数の検知対象の温度を検知するために必要な処理回路(CPU5)のポートは、それぞれの直列回路(直列回路91、92)に電圧を印加するためのポート1つと、信号回路部8の出力を受けるポート1つですむ。
【0088】
また、本実施形態の画像形成装置(プリンター100)は、実施形態又は変形例に係る定着装置1を含む。これにより、定着装置1の製造コストが抑えられ、画像形成装置に搭載する集積回路の選択肢が広げられているので、高性能で低価格な画像形成装置を提供することができる。
【0089】
以上、本発明の実施形態につき説明したが、本発明の範囲はこれに限定されるものではなく、発明の主旨を逸脱しない範囲で種々の変更を加えて実施することができる。