(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記予め指定された範囲が、前記交流波形の波高値、前記交流波形において発生する前記歪みの大きさ、及び前記ゼロクロスの検出に使用される閾値に基づいて設定される請求項1記載の電力供給装置。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の一実施形態について、図面を参照しながらより詳細に説明する。以下では、デジタル複合機として本発明を具体化する。
【0018】
図1は本実施形態におけるデジタル複合機の全体構成の一例を示す概略構成図である。
図1に示すように、複合機100は画像読取部120及び画像形成部140を含む本体101と、本体101の上方に取り付けられたプラテンカバー102とを備える。複合機100の前面には、ユーザーが複合機100に複写開始やその他の指示を与えたり、複合機100の状態や設定を確認したりすることができる操作パネル171が設けられている。
【0019】
本体101の上部には、画像読取部120が設けられている。画像読取部120は、走査光学系121により原稿の画像を読み取りその画像のデジタルデータ(画像データ)を生成する。
【0020】
生成された画像データは、画像形成部140において被転写体である用紙に印刷することができる。また、生成された画像データは、図示しないネットワークを通じて他の機器へ送信することもできる。
【0021】
画像形成部140は、画像読取部120が生成した画像データや、ネットワークに接続された他の機器から受信した画像データを、被転写体である用紙に印刷する。画像形成部140は、手差しトレイ151、給紙カセット152、153、154等から、トナー像を転写する転写部155へ用紙を給紙する。転写部155においてトナー像が転写された用紙は定着器156に搬送される。定着器156は、ヒーターを内蔵した定着ローラー157及び加圧ローラー158を有しており、熱と押圧力によってトナー像を用紙に定着する。画像形成部140は、定着器156を通過した用紙を排紙トレイ149へ排紙する。
【0022】
図2は、複合機における制御系のハードウェア構成図である。本実施形態の複合機100は、CPU(Central Processing Unit)201、RAM(Random Access Memory)202、ROM(Read Only Memory)203、HDD(Hard Disk Drive)204及び画像読取部120、画像形成部140における各駆動部に対応するドライバー205が内部バス206を介して接続されている。ROM203やHDD204等はプログラムを格納しており、CPU201はその制御プログラムの指令にしたがって複合機100を制御する。例えば、CPU201はRAM202を作業領域として利用し、ドライバー205とデータや命令を授受することにより上記各駆動部の動作を制御する。また、HDD204は、画像読取部120により得られた画像データや、他の機器からネットワークを通じて受信した画像データの蓄積にも用いられる。
【0023】
内部バス206には、操作パネル171や各種のセンサー207も接続されている。操作パネル171は、ユーザーの操作を受け付け、その操作に基づく信号をCPU201に供給する。また、操作パネル171は、CPU201からの制御信号にしたがって自身が備えるディスプレイに操作画面を表示する。センサー207は、プラテンカバー102の開閉検知センサーや原稿台上の原稿検知センサー、定着器156の温度センサー、搬送される用紙又は原稿の検知センサーなど各種のセンサーを含む。
【0024】
図3は、本実施形態の複合機が備える電力供給部を示す機能ブロック図である。ここでは、商用の交流電源から供給される交流電力を、電力供給対象である、定着ローラー157のヒーターへ供給する部分のみを示している。なお、上述のCPU201等をはじめとする複合機100の各部で使用される直流電力は、交流電源から供給される交流電力を使用して図示しないAC−DCコンバータにより生成される。
【0025】
図3の例では、複合機100の電力供給部300は、複合機100が設置される建屋の屋内配線系統400に接続されている。屋内配線系統400では、交流電源401は屋内配線により電源コンセントに接続されており、電力供給部300が備えるコンセントプラグを電源コンセントに挿入することで、電源供給部300と交流電源401とが接続される。
【0026】
図3に示すように、電力供給部300は、スイッチ部301、ゼロクロス検知部302、供給電力制御部303、歪み抑制回路304、抑制回路接続部305、及び回路接続制御部306を備える。
【0027】
スイッチ部301は、交流電源401とヒーター500との間の電力供給線(電路)に設けられ、電力供給状態と電力遮断状態とを切り替える。特に限定されないが、本実施形態では、スイッチ部301は、トライアック311を備える。トライアック311の通電状態と遮断状態とを切り替えることで、交流電源401とヒーター500との間の電力供給状態と電力遮断状態とが切り替えられる。
【0028】
また、スイッチ部301は、フォトトライアックカプラ312を備える。フォトトライアックカプラ312は発光ダイオードとフォトトライアックとを備えており、当該発光ダイオードに通電してフォトトライアックに光を入射させたときに、トライアック311が通電状態になるようにトライアック311に接続されている。また、公知のように、トライアック311は、逆電圧が印加される又は自身を流れる電流がゼロになると遮断状態になる。
【0029】
フォトトライアックカプラ312の発光ダイオードのアノード側は、電流制限抵抗314を介して電圧源に接続されており、発光ダイオードのカソード側はトランジスタ313を介して接地されている。この構成では、トランジスタ313がオン状態になるとトライアック311が通電状態になり、交流電源401とヒーター500との間は電力供給状態になる。なお、トランジスタ313のオン状態とオフ状態とを切り替える制御信号は、供給電力制御部303からトランジスタ313に入力される。
【0030】
ゼロクロス検知部302は、交流電源401の交流波形と予め指定された閾値とを比較することにより交流波形のゼロクロスを検出し、ゼロクロス信号を出力する。
図4は、本実施形態におけるゼロクロス検知部302を示す回路図である。
【0031】
図4に示すように、ゼロクロス検知部302は、交流電源401の交流波形を全波整流するダイオードブリッジ回路321を備える。ダイオードブリッジ回路321には、電流制限抵抗322を介してフォトカプラ323の発光ダイオードのアノードが接続されている。フォトカプラ323のフォトトランジスタのコレクタ側は、抵抗324を介して電圧源に接続されており、エミッタ側は接地されている。また、フォトトランジスタのコレクタには、抵抗325、コンデンサ326、トランジスタ327及び抵抗328から構成されるインバータ回路(NOT回路)が接続されている。この構成では、フォトカプラ323のフォトトランジスタのコレクタの論理レベル(Highレベル又はLowレベル)の否定論理が出力端子329から出力される。
【0032】
図4に示すゼロクロス検知部302では、例えば、交流電源401の出力電圧の絶対値が小さくなると、フォトカプラ323の発光ダイオードの発光量が小さくなる。この場合、フォトカプラ323のフォトトランジスタの抵抗値が増大し、トランジスタ327のベースに入力される電位が大きくなる。そして、交流電源401の出力電圧が閾値電圧よりも小さくなると、トランジスタ327がオン状態となり、出力端子329の電位がLowレベルになる。
【0033】
また、交流電源401の出力電圧の絶対値が大きくなると、フォトカプラ323の発光ダイオードの発光量が大きくなる。この場合、フォトカプラ323のフォトトランジスタの抵抗値が減少し、トランジスタ327のベースに入力される電位が小さくなる。そして、交流電源401の出力電圧が閾値電圧よりも大きくなると、トランジスタ327がオフ状態となり、出力端子329の電位がHighレベルになる。
【0034】
したがって、ゼロクロス検知部302は、
図5(a)に例示するように、交流電源401の交流波形が正負の閾値Thの間の範囲にある間がLowレベルとなり、当該範囲外にある間がHighレベルとなるゼロクロス信号を出力することになる。当該ゼロクロス信号は、供給電力制御部303に入力される。
【0035】
供給電力制御部303は、ゼロクロス検知部302が出力したゼロクロス信号に基づいて、スイッチ部301を電力遮断状態から電力供給状態に切り替える交流波形の位相角を制御することにより、電力供給対象への電力供給割合を変化させる。上述のように、供給電力制御部303は、トランジスタ313のベースに入力するヒーター制御信号により、ヒーター500への供給電力量を制御する。供給電力制御部303は、ゼロクロス信号における特定のタイミングから所定時間経過後において(すなわち、特定の位相角において)、トランジスタ313がオン状態になるように制御するヒーター制御信号をトランジスタ313へ入力する。特に限定されないが、本実施形態では、供給電力制御部303は、ゼロクロス信号の立ち下がりのエッジを基準とし、当該エッジから所定時間経過後にLowレベルからHighレベルに切り替わる周期的な制御信号をヒーター制御信号として出力する。なお、経過時間の基準は、交流波形における特定のタイミングであればよく、ゼロクロス信号の立ち下がりのエッジに限らずゼロクロス信号の立ち上がりのエッジ等を使用することもできる。
【0036】
図5(a)、
図6(a)、
図7(a)は、ヒーター500への電力供給を説明する図である。
図5(a)は、ヒーター500に供給される電力が、交流波形の半波において後半の50%(位相角90度、電力割合50%)である事例に対応する。
図6(a)は、ヒーター500に供給される電力が、交流波形の半波において後半の25%(位相角135度、電力割合約9%)の事例に対応する。
図7(a)は、ヒーター500に供給される電力が、交流波形の半波において後半の75%(位相角45度、電力割合約91%)の事例に対応する。なお、
図5(a)、
図6(a)、
図7(a)において横軸は時間に対応する。また、各図では、上方から順に、交流波形、全波整流後の波形、ゼロクロス信号、ヒーター制御信号及びヒーター供給波形を示している。ここでは、交流波形、全波整流後の波形、ヒーター供給波形は電圧の波形である。また、供給電力制御部303は、各図において、ヒーター制御信号に示す時刻Tsからヒーター500の加熱制御を開始している。
【0037】
図5(a)に示すように、位相角が90度である場合、供給電力制御部303は、ゼロクロス信号の立ち下がりのエッジから時間T1が経過した時点でLowレベルからHighレベルに立ち上がり、ゼロクロス信号の立ち下がりと同時にHighレベルからLowレベルへ立ち下がるヒーター制御信号をトランジスタ313へ入力する。ここで、時間T1は、ゼロクロス信号の立ち下がりのエッジから、位相角が90度となる時点(交流波形が波高値になる時点)までの時間間隔である。
【0038】
また、
図6(a)に示すように、位相角が135度である場合、供給電力制御部303は、ゼロクロス信号の立ち下がりのエッジから時間T2が経過した時点でLowレベルからHighレベルに立ち上がり、ゼロクロス信号の立ち下がりと同時にHighレベルからLowレベルへ立ち下がるヒーター制御信号をトランジスタ313へ入力する。ここで、時間T2は、ゼロクロス信号の立ち下がりのエッジから、位相角が135度となる時点までの時間間隔である。
【0039】
また、
図7(a)に示すように、位相角が45度である場合、供給電力制御部303は、ゼロクロス信号の立ち下がりのエッジから時間T3が経過した時点でLowレベルからHighレベルに立ち上がり、ゼロクロス信号の立ち下がりと同時にHighレベルからLowレベルへ立ち下がるヒーター制御信号をトランジスタ313へ入力する。ここで、時間T3は、ゼロクロス信号の立ち下がりのエッジから、位相角が45度となる時点までの時間間隔である。
【0040】
歪み抑制回路304は、ヒーター500と交流電源401との間の電路に接続され、スイッチ部301が電力遮断状態から電力供給状態に切り替わることに起因して交流波形に発生する歪みを抑制する。交流波形に発生する歪みは、屋内配線系統400の屋内配線が有する抵抗402及びインダクタンス403と、電力供給部300の電力入力側でノイズ除去を目的として交流電源401に対して並列に接続されたバイパスコンデンサ307とに起因して発生する。
図3から理解できるように、抵抗402、インダクタンス403及びバイパスコンデンサ307はローパスフィルターを構成している。
【0041】
このようなローパスフィルターでは、カットオフ周波数において共振現象が発生する。上述したような、スイッチ部301が電力遮断状態から電力供給状態に周期的に切り替わる位相制御では、当該スイッチ部301の切り替えに起因して高調波成分が含まれるようになる。その結果、
図5(b)、
図6(b)、
図7(b)に示すように、スイッチ部301が電力遮断状態から電力供給状態に切り替わる際に、複合機100の動作状態によっては、交流波形にスパイク状の歪み(信号レベルの低下)が発生することがある。なお、当該歪みの大きさは、交流電源側から見た電力供給部300のインピーダンスや、スイッチ部301が電力遮断状態から電力供給状態に切り替わる際に流れる電流の大きさに応じて変化する。
【0042】
特に限定されないが、本実施形態では、歪み抑制回路304は、ダンピング抵抗341とコンデンサ342とが直列に接続された回路で構成されている。ここで、ダンピング抵抗341は共振のQ値を小さくする機能を有し、コンデンサ342は共振周波数をシフトさせる機能を有する。
図3に示すように、歪み抑制回路304は、ヒーター500に対して並列に接続される。
【0043】
ここで、交流波形にスパイク状の歪みが発生することに起因する不具合について説明する。以下で詳述するように、交流波形にスパイク状の歪みが発生すると、ゼロクロス信号に乱れが発生することがある。ゼロクロス信号に乱れが発生した場合、条件によっては、ゼロクロス信号の立ち下がりのエッジを基準として供給電力制御部303が生成するヒーター制御信号も所望の状態と異なる状態になる。すなわち、意図しないタイミングでヒーター500がオン状態になってしまう状況が発生する。
【0044】
図5(b)、
図6(b)、
図7(b)は、ヒーター500への電力供給において、交流波形に歪みが発生した場合の様子を説明する図である。
図5(b)は、意図した位相角が90度である事例に対応する。
図6(b)は、意図した位相角が135度である事例に対応する。
図7(b)は、意図した位相角が45度である事例に対応する。なお、
図5(b)、
図6(b)、
図7(b)において横軸は時間に対応する。また、各図では、上方から順に、交流波形、全波整流後の波形、ゼロクロス信号、ヒーター制御信号及びヒーター供給波形を示している。ここでは、交流波形、全波整流後の波形、ヒーター供給波形は電圧の波形である。また、供給電力制御部303は、各図において、ヒーター制御信号に示す時刻Tsからヒーター500の加熱制御を開始している。
【0045】
図5(b)に示すように、意図した位相角が90度である場合、
図5(a)に示す場合と同様に、供給電力制御部303は、ゼロクロス信号の立ち下がりのエッジから時間T1が経過した時点でLowレベルからHighレベルに立ち上がり、ゼロクロス信号の立ち下がりと同時にHighレベルからLowレベルへ立ち下がるヒーター制御信号をトランジスタ313へ入力する。
【0046】
この場合、交流波形には、ヒーター制御信号の立ち上がりエッジにおいて、スパイク状の歪み(電圧低下)が発生する。しかしながら、この例では、ヒーター制御信号の立ち上がりエッジは交流波形の波高値近傍に位置するため、歪みが発生した場合であっても、信号レベルは正負の閾値Thの間の範囲に入らない。そのため、ゼロクロス信号は、交流波形に歪みのない
図5(a)に示す事例と同一になる。したがって、ヒーター制御信号も交流波形に歪みのない
図5(a)に示す事例と同一になる。その結果、ヒーター500に対する電力供給(ヒーター500の動作)も
図5(a)に示す事例と同一になる。
【0047】
一方、
図6(b)に示すように、意図した位相角が135度である場合、
図6(a)に示す場合と同様に、供給電力制御部303は、ゼロクロス信号の立ち下がりのエッジから時間T2が経過した時点でLowレベルからHighレベルに立ち上がり、ゼロクロス信号の立ち下がりと同時にHighレベルからLowレベルへ立ち下がるヒーター制御信号をトランジスタ313へ入力する。
【0048】
この例では、ヒーター制御信号の立ち上がりエッジは交流波形が波高値になる位置から離れているため、ヒーター制御信号の立ち上がりエッジにおいてスパイク状の歪み(電圧低下)が発生すると、信号レベルが正負の閾値Thの間の範囲に入る。そのため、ゼロクロス信号は、
図6(b)に示すように、時刻Tsにおけるゼロクロス信号の立ち下がりのエッジから時間T2が経過したときに、歪みの発生に応じて一旦立ち下がった直後にHighレベルに立ち上がる。
【0049】
このようなゼロクロス信号が入力された供給電力制御部303が生成するヒーター制御信号は、時刻Tsにおけるゼロクロス信号の立ち下がりのエッジから時間T2が経過したときにLowレベルからHighレベルに立ち上がる。しかしながら、立ち上がった時点でゼロクロス信号は歪みに起因してLowレベルになっているため、ヒーター制御信号はすぐにLowレベルになる。また、供給電力制御部303は、歪みに起因するゼロクロス信号の立ち下がりのエッジをヒーター制御信号の次立ち上がり位置の基準とするため、ヒーター制御信号は、歪みに起因するゼロクロス信号の立ち下がりのエッジから時間T2が経過したときにLowレベルからHighレベルに立ち上がる。
【0050】
図6(b)の例では、歪みに起因するゼロクロス信号の立ち下がりのエッジから時間T2が経過したときのヒーター制御信号の立ち上がりエッジは交流波形が波高値の近傍に位置する。そのため、当該ヒーター制御信号の立ち上がりエッジにおいてスパイク状の歪みが発生した場合であっても、信号レベルは正負の閾値Thの間の範囲に入らない。したがって、ゼロクロス信号は、その後に交流波形が正負の閾値Thの間の範囲に入ったときに立ち下がる。
【0051】
以降、このような動作が繰り返されるため、ゼロクロス信号は、
図6(b)に示すように、位相角135度の位置で立ち上がる、オン時間が比較的短いパルスと、交流波形が波高値になる位置の近傍で立ち上がる、オン時間が比較的長いパルスとが交互に現れる波形になる。
【0052】
上述のように、トライアック311は、トランジスタ313がオン状態になったときに通電状態となり、その後、逆電圧が印加される又は自身を流れる電流がゼロになると遮断状態となる。したがって、以上のようなヒーター制御信号がトランジスタ313に入力されると、ヒーター供給波形は、位相角135度の位置での立ち上がりに対応した通電時間Taの電力供給部分と、交流波形が波高値になる位置の近傍での立ち上がりに対応した通電時間Tbの電力供給部分とが交互に現れる波形になる。
【0053】
図6(a)との比較から明らかなように、時間Taの電力供給部分は本来意図した時間であるが、時間Tbの電力供給部分は本来意図した時間Taよりも長い。したがって、ヒーター500のオン時間が周期的に乱れ、正常なヒーター制御ができなくなる。また、当該乱れの周期は交流波形の周期と一致していないため、このような周期的なヒーター制御異常がフリッカー発生の要因にもなり得る。
【0054】
さらに、
図7(b)に示すように、意図した位相角が45度である場合、
図7(a)に示す場合と同様に、供給電力制御部303は、ゼロクロス信号の立ち下がりのエッジから時間T3が経過した時点でLowレベルからHighレベルに立ち上がり、ゼロクロス信号の立ち下がりと同時にHighレベルからLowレベルへ立ち下がるヒーター制御信号をトランジスタ313へ入力する。
【0055】
この例では、ヒーター制御信号の立ち上がりエッジは交流波形が波高値になる位置から離れているため、ヒーター制御信号の立ち上がりエッジにおいてスパイク状の歪みが発生すると、信号レベルが正負の閾値Thの間の範囲に入る。そのため、ゼロクロス信号は、
図7(b)に示すように、時刻Tsにおけるゼロクロス信号の立ち下がりのエッジから時間T3が経過したときに、歪みの発生に応じて一旦立ち下がった直後にHighレベルに立ち上がる。
【0056】
このようなゼロクロス信号が入力された供給電力制御部303が生成するヒーター制御信号は、時刻Tsにおけるゼロクロス信号の立ち下がりのエッジから時間T3が経過したときにLowレベルからHighレベルに立ち上がる。しかしながら、立ち上がった時点でゼロクロス信号は歪みに起因してLowレベルになっているため、ヒーター制御信号はすぐにLowレベルになる。また、供給電力制御部303は、歪みに起因するゼロクロス信号の立ち下がりのエッジをヒーター制御信号の次立ち上がり位置の基準とするため、ヒーター制御信号は、歪みに起因するゼロクロス信号の立ち下がりのエッジから時間T3が経過したときにLowレベルからHighレベルに立ち上がる。
【0057】
図7(b)の例では、歪みに起因するゼロクロス信号の立ち下がりのエッジから時間T3が経過したときのヒーター制御信号の立ち上がりエッジは、直前の立ち上がりエッジに起因したトライアック311の同一通電期間に含まれている。すなわち、当該ヒーター制御信号の立ち上がりエッジによって、トライアック311が遮断状態から通電状態に切り替わることがない。そのため、当該ヒーター制御信号の立ち上がりエッジにおいてスパイク状の歪みは発生しない。ゼロクロス信号は、その後に交流波形が正負の閾値Thの間の範囲に入ったときに立ち下がる。以降、このような動作が繰り返されるため、ゼロクロス信号は、
図7(b)に示すように、位相角が45度の位置で立ち上がる、オン時間が比較的短いパルスと、その後、トライアック311における同一の通電期間内で立ち上がる、オン時間が比較的長いパルスとが交互に現れる波形になる。
【0058】
以上のようなヒーター制御信号がトランジスタ313に入力されると、トライアック311における同一の通電期間内のヒーター制御信号の乱れは、トライアック311の状態に何ら影響を与えない。そのため、ヒーター制御信号に周期的な乱れは発生するが、ヒーター500に対する電力供給(ヒーター500の動作)は
図7(a)に示す事例と同一になる。
【0059】
抑制回路接続部305は、歪み抑制回路304を、ヒーター500と交流電源401との間の電路に電気的に接続する状態と、当該電路から電気的に分離する状態とを切り替える。本実施形態では、抑制回路接続部305は、歪み抑制回路304に直列に接続されたトランジスタスイッチにより構成されている。当該トランジスタスイッチをオン状態とすることで、歪み抑制回路304はヒーター500と交流電源401との間の電路に電気的に接続される。また、トランジスタスイッチをオフ状態とすることで、歪み抑制回路304はヒーター500と交流電源401との間の電路から電気的に分離される。
【0060】
回路接続制御部306は、供給電力制御部303が使用する位相角が予め指定された範囲に属する場合、抑制回路接続部305を、歪み抑制回路304と上述の電路とが電気的に接続する状態とする。また、回路接続制御部306は、供給電力制御部303が使用する位相角が予め指定された範囲に属さない場合、抑制回路接続部305を、歪み抑制回路304と上述の電路とが電気的に分離する状態とする。
【0061】
上述のように、本実施形態では、抑制回路接続部305は、トランジスタスイッチにより構成されている。そのため、本実施形態では、回路接続制御部306は、当該トランジスタスイッチの制御端子に、抑制回路接続部305のオン状態とオフ状態とを切り替える制御信号を入力する構成になっている。
【0062】
なお、以上の構成において、供給電力制御部303や回路接続制御部306は、CPU201が、例えばROMやHDDに格納されたプログラムを、RAMを作業領域として実行することで実現することができる。
【0063】
図8は、複合機が備える電力供給部が実施する電力供給手順の一例を示すフロー図である。当該手順は、例えば、ヒーター500への電力供給指示が供給電力制御部303に入力されたことをトリガーとして開始する。このとき、供給電力制御部303は、入力された電力供給指示及びヒーター500の温度に基づいて、位相角を決定する。
【0064】
本手順が開始すると、回路接続制御部306は、供給電力制御部303から位相角を取得する(ステップS801)。そして、回路接続制御部306は、取得した位相角と予め指定されている角度範囲とを比較する(ステップS802)。当該角度範囲は、例えば、交流波形の波高値、交流波形において発生する歪みの大きさ、及びゼロクロスの検出に使用される閾値Thに基づいて設定することができる。より具体的には、角度範囲として、上述のようにヒーター制御信号に乱れが発生する可能性がある角度範囲、すなわち、波高値近傍の角度範囲及びゼロクロス検知部302がLowレベルを出力する角度範囲を除いた範囲を設定することができる。
【0065】
図9は、回路接続制御部306に指定される歪み抑制角度範囲の一例を、全波整流後の波形において示した図である。
図9は、ゼロクロス信号がLowレベルとなる位相角の範囲が、0度から20度、160度から200度、340度から360度であり、また、上述の波高値近傍の位相角の角度範囲が、位相角が70度から110度、250度から290度の範囲である事例である。この例では、20度以上かつ70度以下、110度以上かつ160度以下、200度以上かつ250度以下、290度以上かつ340度以下の各範囲が、ヒーター制御信号に乱れが発生する可能性がある角度範囲として回路接続制御部306に指定されている。なお、ここでは、ヒーター制御信号に乱れが発生する可能性がある範囲を上述の角度範囲として設定しているが、上述した位相角135度の場合のような、ヒーター制御信号には乱れが発生するが、ヒーター自体の制御には乱れが発生しない位相角の範囲を除いて、角度範囲を設定する構成であってもよい。
【0066】
回路接続制御部306は、取得した位相角が指定された角度範囲に属する場合、抑制回路接続部305をオン状態にする制御信号を抑制回路接続部305に入力することにより、歪み抑制回路304を、ヒーター500と交流電源401との間の電路に電気的に接続する(ステップS802Yes、S803)。一方、取得した位相角が指定された角度範囲に属さない場合、回路接続制御部306は、抑制回路接続部305をオフ状態にする制御信号を抑制回路接続部305に入力することにより、歪み抑制回路304を、ヒーター500と交流電源401との間の電路から電気的に分離する(ステップS802No、S806)。
【0067】
以上の処理は、供給電力制御部303に、ヒーター制御の終了指示が入力されるまで継続される(ステップS804No、S805No)。また、供給電力制御部303は、ヒーター制御に使用する位相角を変更した場合、その旨を回路接続制御部306に通知する。当該通知に応じて、回路接続制御部306は、供給電力制御部303から位相角を取得し、取得した位相角に基づいて上述の手順を再度実施する(ステップS804Yes、S801)。供給電力制御部303にヒーター制御の終了指示が入力された場合、手順が終了する(ステップS805Yes)。
【0068】
以上説明したように、この複合機100では、歪み抑制回路304を、電力供給対象であるヒーター500と交流電源401との間の電路に選択的に接続することで、電力遮断状態から電力供給状態に切り替わることに起因して交流波形に発生する歪みを抑制することができる。すなわち、供給電力制御部303が使用する位相角が予め指定された範囲に属する場合、歪み抑制回路304が、ヒーター500と交流電源401との間の電路に選択的に接続される。したがって、交流波形に発生する歪みを抑制する必要があるときのみ選択的に、歪み抑制回路304が接続されるため、従来と比較してより小さい電力損失で、交流電源401の波形歪みの発生を抑制することができる。
【0069】
また、交流波形の周期と異なる周期でヒーター500が異常駆動されることを防止できるため、当該異常駆動に起因するフリッカーの発生を抑制することもできる。
【0070】
なお、上述した各実施形態は本発明の技術的範囲を制限するものではなく、既に記載したもの以外でも、本発明の範囲内で種々の変形や応用が可能である。例えば、上記実施形態において示した、スイッチ部301、ゼロクロス検知部302、歪み抑制回路304の回路構成はあくまで例示であり、同様の作用効果を奏する任意の回路構成を採用することができる。また、歪み抑制回路304はダンピング抵抗341を含むことが好ましいが、スイッチ部301が電力遮断状態から電力供給状態に切り替わることに起因して交流波形に発生する歪みを抑制可能であれば、ダンピング抵抗を含まない構成であってもよい。
【0071】
加えて、上述の実施形態では、電力供給部を備えるデジタル複合機として本発明を具体化したが、デジタル複合機に限らず、ヒーターやモーター等の始動時に比較的大きな電流が流れる電力供給対象に電力を供給する任意の電力供給装置に本発明を適用することも可能である。