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(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記改変抗体Fc領域が、抗体Fc領域におけるEU238、EU250、EU252、EU254、EU255、EU256、EU258、EU286、EU307、EU308、EU309、EU311、EU315、EU428、EU433、EU434、およびEU436からなる群より選択される1つまたは複数の位置にアミノ酸置換をさらに含み、該置換がpH中性域またはpH酸性域におけるFcRn結合活性を増強する、請求項1または2記載の抗原結合分子。
pH7.4における抗原結合活性がpH5.8における抗原結合活性よりも2倍以上高い抗体可変領域、または、イオン化カルシウム濃度0.1μM〜30μMにおける抗原結合活性がイオン化カルシウム濃度100μM〜10 mMにおける抗原結合活性よりも低い抗体可変領域を含む、請求項1〜8のいずれか一項記載の抗原結合分子。
以下の工程を含む、中性pHまたは酸性pHにおけるFcRnに対する結合活性が増強されており、かつ中性pHにおけるリウマトイド因子に対する結合活性が増強されている抗体Fc領域を含む抗原結合分子の、リウマトイド因子に対する結合活性を低下させる方法:
a) 中性pHまたは酸性pHにおけるFcRnに対する結合活性が増強されており、かつ中性pHにおけるリウマトイド因子に対する結合活性が増強されている抗体Fc領域を有する抗原結合分子を提供する工程;および
b) EU438の位置のアミノ酸をアルギニンへ置換して、改変抗体Fc領域を有する抗原結合分子をもたらす工程。
工程b)が、さらに、EU440、EU436、EU433、EU426、EU424、EU422、およびEU387からなる群より選択される1つまたは複数の位置においてアミノ酸を置換することを含む、請求項10記載の方法。
以下の工程を含む、親抗体と比較して中性pHにおけるリウマトイド因子に対する改変抗体Fc領域の結合活性を有意に増強することなく、単一の抗原結合分子が結合できる抗原の総数を増加させる方法:
a) 親抗体Fc領域を含む抗原結合分子を提供する工程、
b) EU238、EU250、EU252、EU254、EU255、EU256、EU258、EU286、EU307、EU308、EU309、EU311、EU315、EU428、EU433、EU434、およびEU436からなる群より選択される1つまたは複数の位置において、親抗体Fc領域のアミノ酸配列中のアミノ酸を置換することにより、工程a)の親抗体Fc領域を改変する工程;ならびに
c) EU438の位置において、親抗体Fc領域のアミノ酸配列中のアミノ酸をアルギニンへ置換することにより、工程b)の改変抗体Fc領域を改変する工程。
工程c)が、さらに、EU440、EU436、EU433、EU426、EU424、EU422、およびEU387からなる群より選択される1つまたは複数の位置において、親抗体Fc領域のアミノ酸配列中のアミノ酸を置換することを含む、請求項13記載の方法。
以下の工程を含む、親抗体と比較して中性pHにおけるリウマトイド因子に対する改変抗体Fc領域の結合活性を有意に増強することなく、抗原と結合した状態で細胞内に取り込まれた抗原結合分子の、抗原と結合していない状態での細胞外への放出を促進する方法:
a) 親抗体Fc領域を含む抗原結合分子を提供する工程、
b) EU238、EU250、EU252、EU254、EU255、EU256、EU258、EU286、EU307、EU308、EU309、EU311、EU315、EU428、EU433、EU434、およびEU436、およびEU428からなる群より選択される1つまたは複数の位置において、親抗体Fc領域のアミノ酸配列中のアミノ酸を置換することにより、親抗体Fc領域を改変する工程;ならびに
c) EU438の位置において、親抗体Fc領域のアミノ酸配列中のアミノ酸をアルギニンへ置換することにより、工程b)の改変抗体Fc領域を改変する工程。
工程c)が、さらに、EU440、EU436、EU433、EU426、EU424、EU422、およびEU387からなる群より選択される1つまたは複数の位置において、親抗体Fc領域のアミノ酸配列中のアミノ酸を置換することを含む、請求項15記載の方法。
以下の工程を含む、親抗体と比較して中性pHにおけるリウマトイド因子に対する改変抗体Fc領域の結合活性を有意に増強することなく、抗原結合分子の血漿中抗原消失能を増強する方法:
a) 親抗体Fc領域を含む抗原結合分子を提供する工程、
b) EU238、EU250、EU252、EU254、EU255、EU256、EU258、EU286、EU307、EU308、EU309、EU311、EU315、EU428、EU433、EU434、およびEU436、およびEU428からなる群より選択される1つまたは複数の位置において、親抗体Fc領域のアミノ酸配列中のアミノ酸を置換することにより、親抗体Fc領域を改変する工程;ならびに
c) EU438の位置において、親抗体Fc領域のアミノ酸配列中のアミノ酸をアルギニンへ置換することにより、工程b)の改変抗体Fc領域を改変する工程。
工程c)が、さらに、EU440、EU436、EU433、EU426、EU424、EU422、およびEU387からなる群より選択される1つまたは複数の位置において、親抗体Fc領域のアミノ酸配列中のアミノ酸を置換することを含む、請求項17記載の方法。
以下の工程を含む、親抗体と比較して中性pHにおけるリウマトイド因子に対する改変抗体Fc領域の結合活性を有意に増強することなく、抗原結合分子の薬物動態を改善する方法:
a) 親抗体Fc領域を含む抗原結合分子を提供する工程、
b) EU238、EU250、EU252、EU254、EU255、EU256、EU258、EU286、EU307、EU308、EU309、EU311、EU315、EU428、EU433、EU434、およびEU436からなる群より選択される1つまたは複数の位置において、親抗体Fc領域のアミノ酸配列中のアミノ酸を置換することにより、親抗体Fc領域を改変する工程;ならびに
c) EU438の位置において、親抗体Fc領域のアミノ酸配列中のアミノ酸をアルギニンへ置換することにより、工程b)の改変抗体Fc領域を改変する工程。
工程c)が、さらに、EU440、EU436、EU433、EU426、EU424、EU422、およびEU387からなる群より選択される1つまたは複数の位置において、親抗体Fc領域のアミノ酸配列中のアミノ酸を置換することを含む、請求項19記載の方法。
以下の工程を含む、親抗体と比較して中性pHにおけるリウマトイド因子に対する改変抗体Fc領域の結合活性を有意に増強することなく、血漿中の総抗原濃度または遊離抗原濃度を低下させる方法:
a) 親抗体Fc領域を含む抗原結合分子であって、該抗原と結合し得る抗原結合ドメインを含む抗原結合分子を提供する工程、
b) EU238、EU250、EU252、EU254、EU255、EU256、EU258、EU286、EU307、EU308、EU309、EU311、EU315、EU428、EU433、EU434、およびEU436からなる群より選択される1つまたは複数の位置において、親抗体Fc領域のアミノ酸配列中のアミノ酸を置換することにより、親抗体Fc領域を改変する工程;ならびに
c) EU438の位置において、親抗体Fc領域のアミノ酸配列中のアミノ酸をアルギニンへ置換することにより、工程b)の改変抗体Fc領域を改変する工程。
工程c)が、さらに、EU440、EU436、EU433、EU426、EU424、EU422、およびEU387からなる群より選択される1つまたは複数の位置において、親抗体Fc領域のアミノ酸配列中のアミノ酸を置換することを含む、請求項21記載の方法。
以下の工程を含む、中性pHまたは酸性pHにおけるFcRnに対する結合活性が増強されており、かつ中性pHにおけるリウマトイド因子に対する結合活性が低下しているFcドメインを含む抗原結合分子を製造する方法:
(a) pH中性域またはpH酸性域におけるFcRnに対する結合活性、およびpH中性域におけるリウマトイド因子に対する結合活性が増強されているFcドメインを提供する工程、
(b) EU438の位置において、Fc領域のアミノ酸配列中のアミノ酸をアルギニンへ置換する工程、
(c) 次のいずれかの工程:
(i) pH7.4における抗体可変領域の抗原結合活性を決定する工程、pH5.8における抗体可変領域の抗原結合活性を決定する工程、および、pH7.4における抗原結合活性がpH5.8における抗原結合活性よりも2倍以上高い抗体可変領域を選択する工程を含む、pH依存的抗体可変領域を選択する工程、または
(ii) イオン化カルシウム濃度0.1μM〜30μMにおける抗体可変領域の抗原結合活性を決定する工程、イオン化カルシウム濃度100μM〜10 mMにおける抗体可変領域の抗原結合活性を決定する工程、および、イオン化カルシウム濃度0.1μM〜30μMにおける抗原結合活性がイオン化カルシウム濃度100μM〜10 mMにおける抗原結合活性よりも低い抗体可変領域を選択する工程を含む、カルシウムイオン依存的抗体可変領域を選択する工程、
(d) (b)において調製されたヒトFcドメインおよび(c)において調製された抗体可変領域が連結された抗原結合分子をコードする遺伝子を得る工程、ならびに
(e) (d)において調製された遺伝子を用いて抗原結合分子を製造する工程。
工程b)が、さらに、EU440、EU436、EU433、EU426、EU424、EU422、およびEU387からなる群より選択される1つまたは複数の位置において、Fc領域のアミノ酸配列中のアミノ酸を置換することを含む、請求項28記載の方法。
pH中性域またはpH酸性域におけるFcRnに対する結合活性ならびにpH中性域におけるリウマトイド因子に対する結合活性が増強されている前記Fcドメインが、EU238、EU250、EU252、EU254、EU255、EU256、EU258、EU286、EU307、EU308、EU309、EU311、EU315、EU428、EU433、EU434、およびEU436からなる群より選択される1つまたは複数の位置にアミノ酸の置換を含む、請求項28または29記載の方法。
工程a)が、さらに、EU440、EU436、EU433、EU426、EU424、EU422、およびEU387からなる群より選択される1つまたは複数の位置において、Fc領域のアミノ酸配列中のアミノ酸を置換することを含む、請求項31記載の方法。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明はこのような状況に鑑みて為されたものであり、その目的は、中性pHにおけるFcRnに対するアフィニティーが増強された改変FcRn結合ドメイン;該FcRn結合ドメインを含む抗原結合分子であって、免疫原性が低く、安定性が高く、かつわずかな凝集物しか形成しない抗原結合分子;中性pHにおける既存の抗医薬品抗体に対する結合活性が増強されることなく、中性pHまたは酸性pHにおけるFcRn結合活性が増強された改変抗原結合分子;抗原結合分子による抗原の細胞内への取り込みを改善するための抗原結合分子の使用;特定の抗原の血漿中濃度を低下させるための抗原結合分子の使用;単一の抗原結合分子がその分解前に結合できる抗原の総数を増加させるための改変FcRn結合ドメインの使用;抗原結合分子の薬物動態を改善するための改変FcRn結合ドメインの使用;および該抗原結合分子の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、中性pHにおけるFcRnに対するアフィニティーが増強された改変FcRn結合ドメインについて、および免疫原性が低く、安定性が高く、かつわずかな凝集物しか形成しない、該FcRn結合ドメインを含む抗原結合分子について鋭意研究を行った。その結果、本発明者らは、FcRn結合ドメインの特定の位置における置換によって、免疫原性が実質的に上昇することなく、安定性が実質的に低下することなく、かつ/または高分子量種の割合が実質的に上昇することなく、中性pHにおけるFcRnに対するアフィニティーを増強することを見出した。
さらに、本発明者らは、中性pHまたは酸性pHにおけるFcRnに対するアフィニティーが増強されたが、既存の抗医薬品抗体に対する結合活性が有意に増強されていない改変FcRn結合ドメインについて、およびこのようなFcRn結合ドメインを含む抗原結合分子について鋭意研究を行った。その結果、本発明者らは、FcRn結合ドメインの特定の位置における置換によって、FcRn結合活性が実質的に低下することなく、中性pHにおける既存の抗医薬品抗体に対するアフィニティーが低下することを見出した。
【0011】
具体的には、本発明は以下に関する:
[1]改変FcRn結合ドメインを含む抗原結合分子であって、該改変FcRn結合ドメインが、EU238、EU250、EU252、EU254、EU255、EU258、EU286、EU307、EU308、EU309、EU311、EU315、EU428、EU433、EU434、およびEU436からなる群より選択される1つまたは複数の位置にアミノ酸置換を含み、数字がEUナンバリングで表される置換の位置を示す、抗原結合分子。
[2]前記FcRn結合ドメインが、
a) EU252位およびEU434位におけるアミノ酸置換;ならびに
b) EU238、EU250、EU252、EU254、EU255、EU256、EU258、EU286、EU387、EU307、EU308、EU309、EU311、EU315、EU428、EU433、EU434、およびEU436からなる群より選択される1つまたは複数の位置におけるアミノ酸置換
を有する、[1]記載の抗原結合分子。
[3]前記改変FcRn結合ドメインが、
EU238位にアスパラギン酸、
EU250位にバリン、
EU252位にチロシン、
EU254位にスレオニン、
EU255位にロイシン、
EU256位にグルタミン酸、
EU258位にアスパラギン酸もしくはイソロイシン、
EU286位にグルタミン酸、
EU307位にグルタミン、
EU308位にプロリン、
EU309位にグルタミン酸、
EU311位にアラニンもしくはヒスチジン、
EU315位にアスパラギン酸、
EU428位にイソロイシン、
EU433位にアラニン、リジン、プロリン、アルギニン、もしくはセリン、
EU434位にチロシンもしくはトリプトファン、および/または
EU436位にイソロイシン、ロイシン、バリン、スレオニン、もしくはフェニルアラニン
を含む、[1]または[2]記載の抗原結合分子。
[4]前記FcRn結合ドメインが、
a) EU252、EU434、およびEU436;
b) EU252、EU307、EU311、およびEU434;
c) EU252、EU315、およびEU434;
d) EU252、EU308、およびEU434:
e) EU238、EU252、およびEU434;
f) EU252、EU434、EU307、EU311、およびEU436;ならびに
g) EU252、EU387、およびEU434
からなる群より選択される位置の組み合わせのうちの1つまたは複数にアミノ酸置換を含む、[2]記載の抗原結合分子。
[5]前記FcRn結合ドメインが、
a) EU252位にチロシン、EU315位にアスパラギン酸、およびEU434位にチロシン;または
b) EU252位にチロシン、EU434位にチロシン、およびEU436位にイソロイシン;または
c) EU252位にチロシン、EU434位にチロシン、およびEU436位にロイシン;または
d) EU252位にチロシン、EU434位にチロシン、およびEU436位にバリン;または
e) EU252位にチロシン、EU254位にスレオニン、EU434位にチロシン、およびEU436位にイソロイシン
を含む、[4]記載の抗原結合分子。
[6]前記FcRn結合ドメインが3つ以上の位置にアミノ酸置換を含み、該3つ以上の位置が、
a) EU252/EU434/EU307/EU311/EU286;
b) EU252/EU434/EU307/EU311/EU286/EU254;
c) EU252/EU434/EU307/EU311/EU436;
d) EU252/EU434/EU307/EU311/EU436/EU254;
e) EU252/EU434/EU307/EU311/EU436/EU250;
f) EU252/EU434/EU308/EU250;
g) EU252/EU434/EU308/EU250/EU436;および
h) EU252/EU434/EU308/EU250/EU307/EU311
からなる組み合わせ群のうちの1つである、[2]記載の抗原結合分子。
[7]前記FcRn結合ドメインが、
a) EU252位にチロシン、EU286位にグルタミン酸、EU307位にグルタミン、EU311位にアラニン、およびEU434位にチロシン;または
b) EU252位にチロシン、EU254位にスレオニン、EU286位にグルタミン酸、EU307位にグルタミン、EU311位にアラニン、およびEU434位にチロシン;または
c) EU252位にチロシン、EU307位にグルタミン、EU311位にアラニン、EU434位にチロシン、および436位にイソロイシン;または
d) EU252位にチロシン、EU254位にスレオニン、EU286位にグルタミン酸、EU307位にグルタミン、EU311位にアラニン、EU434位にチロシン、およびEU436位にイソロイシン;または
e) EU250位にバリン、EU252位にチロシン、EU254位にスレオニン、EU308位にプロリン、EU434位にチロシン、およびEU436位にバリン;または
f) EU250位にバリン、EU252位にチロシン、EU307位にグルタミン、EU311位にアラニン、EU434位にチロシン、およびEU436位にバリン;または
g) EU252位にチロシン、EU307位にグルタミン、EU311位にアラニン、EU434位にチロシン、およびEU436位にバリン;または
h) EU250位にバリン、EU252位にチロシン、EU308位にプロリン、およびEU434位にチロシン;または
i) EU250位にバリン、EU252位にチロシン、EU307位にグルタミン、EU308位にプロリン、EU311位にアラニン、およびEU434位にチロシン
を含む、[6]記載の抗原結合分子。
[8]前記FcRn結合ドメインが3つ以上の位置にアミノ酸置換を含み、該3つ以上の位置が、
a) EU252およびEU434およびEU307およびEU311およびEU436およびEU286;
b) EU252およびEU434およびEU307およびEU311およびEU436およびEU250およびEU308;
c) EU252およびEU434およびEU307およびEU311およびEU436およびEU250およびEU286およびEU308;
d) EU252およびEU434およびEU307およびEU311およびEU436およびEU250およびEU286およびEU308およびEU428
からなる組み合わせ群のうちの1つである、[2]記載の抗原結合分子。
[9]前記FcRn結合ドメインが、
a) EU252位にチロシン、EU286位にグルタミン酸、EU307位にグルタミン、EU311位にアラニン、EU434位にチロシン、およびEU436位にバリン;または
b) EU250位にバリン、EU252位にチロシン、EU307位にグルタミン、EU308位にプロリン、EU311位にアラニン、EU434位にチロシン、およびEU436位にバリン;または
c) EU250位にバリン、EU252位にチロシン、EU286位にグルタミン酸、EU307位にグルタミン、EU308位にプロリン、EU311位にアラニン、EU434位にチロシン、およびEU436位にバリン;または
d) EU250位にバリン、EU252位にチロシン、EU286位にグルタミン酸、EU307位にグルタミン、EU308位にプロリン、EU311位にアラニン、EU434位にチロシン、およびEU436位にバリン
を含む、[8]記載の抗原結合分子。
[10]前記FcRn結合ドメインが、
a) EU434およびEU307およびEU311;
b) EU434およびEU307およびEU309およびEU311;または
c) EU434およびEU250およびEU252およびEU436
からなる組み合わせ群のうちの1つである3つ以上の位置においてアミノ酸置換を含む、[2]記載の抗原結合分子。
[11]前記FcRn結合ドメインが、
a) EU307位にグルタミン、EU311位にヒスチジン、およびEU434位にチロシン;または
b) EU307位にグルタミン、EU309位にグルタミン酸、EU311位にアラニン、およびEU434位にチロシン;または
c) EU307位にグルタミン、EU309位にグルタミン酸、EU311位にヒスチジン、およびEU434位にチロシン;または
d) EU250位にバリン、EU252位にチロシン、EU434位にチロシン、およびEU436位にバリン
を含む、[10]記載の抗原結合分子。
[12]高分子量種の割合が2%未満である、[1]〜[11]のいずれか一つに記載の抗原結合分子。
[13]a) 抗原に対する結合活性が、pH 7〜8よりもpH 5.5〜6.5において低いか、または
b) 抗原に対する「カルシウム濃度依存的結合」活性を有する
抗原結合ドメインを含む、[1]〜[12]のいずれか一つに記載の抗原結合分子。
[14]pH 7におけるFcRnに対する前記結合分子の結合活性が50〜150 nMであり、Tmが63.0℃よりも高く、かつEpibaseスコアが250未満である、[1]〜[5]のいずれか一つに記載の抗原結合分子。
[15]pH 7におけるFcRnに対する前記結合分子の結合活性が15〜50 nMであり、Tmが60℃よりも高く、かつEpibaseスコアが500未満である、[1]〜[3]および[6]〜[7]のいずれか一つに記載の抗原結合分子。
[16]pH 7におけるFcRnに対する前記結合分子の結合活性が15nMよりも強く、Tmが57.5℃よりも高く、かつEpibaseスコアが500未満である、[1]〜[3]および[8]〜[9]のいずれか一つに記載の抗原結合分子。
[17]前記FcRn結合ドメインが、
a) EU238位、EU255位、および/またはEU258位、ならびに
b) 表4〜7に記載された組み合わせのうちの1つである3つ以上の位置
においてアミノ酸置換を含む、[1]〜[3]のいずれか一つに記載の抗原結合分子。
[18]a) 前記FcRn結合ドメインのEU257位のアミノ酸が、アラニン、バリン、イソロイシン、ロイシン、およびスレオニンからなる群より選択されるアミノ酸ではなく、かつ/または
b) 前記FcRn結合ドメインのEU252位のアミノ酸がトリプトファンではない、
[1]〜[17]のいずれか一つに記載の抗原結合分子。
[19]既存の抗医薬品抗体に対する結合活性が、インタクトなFcRn結合ドメインを含む対照抗体の結合アフィニティーと比較して有意に増強されていない、[1]〜[18]のいずれか一つに記載の抗原結合分子。
[20]前記FcRn結合ドメインが、EU387、EU422、EU424、EU426、EU433、EU436、EU438、およびEU440からなる群より選択される1つまたは複数の位置にアミノ酸置換をさらに含む、[19]記載の抗原結合分子。
[21]前記FcRn結合ドメインが、
EU387位におけるアルギニン、
EU422位におけるグルタミン酸、アルギニン、またはセリン、アスパラギン酸、リジン、スレオニン、またはグルタミン;
EU424位におけるグルタミン酸、またはアルギニン、リジン、またはアスパラギン;
EU426位におけるアスパラギン酸、グルタミン、アラニン、またはチロシン;
EU433位におけるアスパラギン酸;
EU436位におけるスレオニン;
EU438位におけるグルタミン酸、アルギニン、セリン、またはリジン;および
EU440位におけるグルタミン酸、アスパラギン酸、またはグルタミン
からなる群より選択される1つまたは複数のアミノ酸置換を含む、[20]記載の抗原結合分子。
[22]前記改変FcRn結合ドメインが、表12〜13に記載された組み合わせのうちの1つである3つ以上の置換を含む、[1]〜[21]のいずれか一つに記載の抗原結合分子。
[23]前記改変FcRn結合ドメインが、表14〜15に記載された組み合わせのうちの1つである3つ以上の置換を含む、[1]〜[22]のいずれか一つに記載の抗原結合分子。
[24]前記FcRn結合ドメインが、
a) EU252位にチロシン、EU387位にアルギニン、EU434位にチロシン、およびEU436位にバリン;または
b) EU252位にチロシン、EU422位にグルタミン酸、EU434位にチロシン、およびEU436位にバリン;または
c) EU252位にチロシン、EU422位にアルギニン、EU434位にチロシン、およびEU436位にバリン;または
d) EU252位にチロシン、EU422位にセリン、EU434位にチロシン、およびEU436位にバリン;または
e) EU252位にチロシン、EU422位にグルタミン酸、EU434位にチロシン、およびEU436位にバリン;または
f) EU252位にチロシン、EU424位にアルギニン、EU434位にチロシン、およびEU436位にバリン;または
g) EU252位にチロシン、EU434位にチロシン、EU436位にバリン、およびEU438位にグルタミン酸;または
h) EU252位にチロシン、EU434位にチロシン、EU436位にバリン、およびEU438位にアルギニン;または
i) EU252位にチロシン、EU434位にチロシン、EU436位にバリン、およびEU438位にセリン;または
j) EU252位にチロシン、EU434位にチロシン、EU436位にバリン、およびEU440位にグルタミン酸
を含む、[20]〜[23]のいずれか一つに記載の抗原結合分子。
[25]抗体である、[1]〜[24]のいずれか一つに記載の抗原結合分子。
[26]抗原結合分子による抗原の細胞内への取り込みを改善するための、[1]〜[25]のいずれか一つに記載の抗原結合分子の使用。
[27]特定の抗原の血漿中濃度を低下させるための[1]〜[25]のいずれか一つに記載の抗原結合分子の使用であって、該抗原結合分子が該抗原に結合し得る抗原結合ドメインを含む、使用。
[28]EU238、EU250、EU252、EU254、EU255、EU258、EU286、EU307、EU308、EU309、EU311、EU315、EU428、EU433、EU434、およびEU436からなる群より選択される1つまたは複数の位置において、抗原結合分子のFcRn結合ドメインにアミノ酸置換を導入する工程を含む、抗原結合分子の薬物動態を改善する方法。
[29]EU238、EU250、EU252、EU254、EU255、EU258、EU286、EU307、EU308、EU309、EU311、EU315、EU428、EU433、EU434、およびEU436からなる群より選択される1つまたは複数の位置において、抗原結合分子のFcRn結合ドメインにアミノ酸置換を導入する工程を含む、対象における抗原結合分子の消失を遅らせる方法。
[30]EU238、EU250、EU252、EU254、EU255、EU258、EU286、EU307、EU308、EU309、EU311、EU315、EU428、EU433、EU434、およびEU436からなる群より選択される1つまたは複数の位置において、抗原結合分子のFcRn結合ドメインにアミノ酸置換を導入する工程を含む、抗原結合分子の血漿中滞留時間を長くする方法。
[31]EU238、EU250、EU252、EU254、EU255、EU258、EU286、EU307、EU308、EU309、EU311、EU315、EU428、EU433、EU434、およびEU436からなる群より選択される1つまたは複数の位置において、抗原結合分子のFcRn結合ドメインにアミノ酸置換を導入する工程を含む、抗原結合分子の血漿中抗原消失速度を増大させる方法。
[32]EU238、EU250、EU252、EU254、EU255、EU258、EU286、EU307、EU308、EU309、EU311、EU315、EU428、EU433、EU434、およびEU436からなる群より選択される1つまたは複数の位置において、抗原結合分子のFcRn結合ドメインにアミノ酸置換を導入する工程を含む、抗原結合分子の血漿中抗原消失能を増強する方法。
[33]前記FcRn結合ドメイン中のEU256位においてさらなるアミノ酸置換が導入される、[28]〜[32]のいずれか一つに記載の方法。
[34]EU387、EU422、EU424、EU426、EU433、EU436、EU438、およびEU440からなる群より選択される1つまたは複数の位置において前記FcRn結合ドメインにアミノ酸置換を導入する工程をさらに含む、[28]〜[33]のいずれか一つに記載の方法。
[35]以下の工程を含む、[1]〜[25]のいずれか一つに記載の抗原結合分子を製造する方法:
(a) 親FcRn結合ドメインを選択し、EU238、EU250、EU252、EU254、EU255、EU258、EU286、EU307、EU308、EU309、EU311、EU315、EU428、EU433、EU434、およびEU436からなる群より選択される1つまたは複数の位置にアミノ酸置換を導入することにより、親FcRnを改変する工程;
(b) pH依存的抗原結合ドメインまたはカルシウムイオン依存的抗原結合ドメインを得るために、抗原結合分子の抗原結合ドメインを選択し、該抗原結合ドメイン中の少なくとも1つのアミノ酸を改変する工程;
(c) (a)および(b)において調製されたヒトFcRn結合ドメインおよび抗原結合ドメインが連結された抗原結合分子をコードする遺伝子を得る工程、ならびに
(d) (c)において調製された遺伝子を用いて、抗原結合分子を製造する工程。
[36]工程a)において、前記FcRn結合ドメイン中のEU256位においてさらなるアミノ酸置換が導入される、[35]記載の方法。
[37]EU387、EU422、EU424、EU426、EU433、EU436、EU438、およびEU440からなる群より選択される1つまたは複数の位置において前記FcRn結合ドメインにアミノ酸置換を導入する工程をさらに含む、[35]または[36]記載の方法。
[38]改変FcRn結合ドメインを含む抗原結合分子であって、該改変FcRn結合ドメインが、EU387、EU422、EU424、EU426、EU433、EU436、EU438、およびEU440からなる群より選択される1つまたは複数の位置にアミノ酸置換を含み、中性pHにおける既存の抗医薬品抗体(ADA)に対する該抗原結合分子の結合アフィニティーが、インタクトなFcRn結合ドメインを含む抗原結合分子の結合アフィニティーと比較して有意に増強されていない、抗原結合分子。
[39]さらにpH中性域またはpH酸性域におけるFcRnに対する結合アフィニティーが増強されている、[38]記載の抗原結合分子。
[40]EU387、EU422、EU424、EU426、EU433、EU436、EU438、およびEU440からなる群より選択される1つまたは複数の位置を置換するアミノ酸が、
a) EU387位におけるアルギニン;
b) EU422位におけるグルタミン酸、アルギニン、セリン、アスパラギン酸、リジン、スレオニン、またはグルタミン;
c) EU424位におけるグルタミン酸、アルギニン、リジン、またはアスパラギン;
d) EU426位におけるアスパラギン酸、グルタミン、アラニン、またはチロシン;
e) EU433位におけるアスパラギン酸
f) EU436位におけるスレオニン
g) EU438位におけるグルタミン酸、アルギニン、セリン、またはリジン;および
h) EU440位におけるグルタミン酸、アスパラギン酸、またはグルタミン
からなる群より選択される、[38]または[39]記載の抗原結合分子。
[41]前記改変FcRn結合ドメインが、表10に記載された1つもしくは複数の位置または組み合わせのうちの1つにおいてアミノ酸置換を含む、[38]〜[40]のいずれか一つに記載の抗原結合分子。
[42]前記改変FcRn結合ドメインが、表11に記載されたアミノ酸の置換または置換の組み合わせのいずれか1つを含む、[38]〜[40]のいずれか一つに記載の抗原結合分子。
[43]前記改変FcRn結合ドメインが、FcRn結合ドメインにおけるEU238、EU250、EU252、EU254、EU255、EU256、EU258、EU286、EU307、EU308、EU309、EU311、EU315、EU428、EU434、およびEU436からなる群より選択される1つまたは複数の位置にアミノ酸置換をさらに含み、該置換がpH中性域またはpH酸性域におけるFcRn結合活性を増強する、[39]〜[42]のいずれか一つに記載の抗原結合分子。
[44]前記改変FcRn結合ドメインが、FcRn結合ドメインにおける位置
i) a) EU438/EU440 または b) EU424;および
ii) a) EU434、b) EU252/EU254/EU256、c) EU428/EU434、または d) EU250/EU428
にアミノ酸置換を含む、[39]〜[43]のいずれか一つに記載の抗原結合分子。
[45]前記改変FcRn結合ドメインが、アミノ酸置換
i) a) EU438R/EU440E または b) EU424N;および
ii) a) M434H、b) M252Y/S254T/T256E、c) M428L/N434S、または d) T250QおよびM428L(EUナンバリング)
を含む、[44]記載の抗原結合分子。
[46]前記改変FcRn結合ドメインが、表13および15に記載された組み合わせのうちの1つである3つ以上のアミノ酸置換を含む、[45]記載の抗原結合分子。
[47]前記改変FcRn結合ドメインが、
a) EU387、EU422、EU424、EU438、EU440、EU433からなる群より選択される1つもしくは複数の位置、またはEU422/EU424およびEU438/EU440からなる組み合わせ群のうちの1つである2つ以上の位置;ならびに
b) 表9に記載された組み合わせのうちの1つである2つ以上の位置
に置換を含む、[39]〜[42]のいずれか一つに記載の抗原結合分子。
[48]前記改変FcRn結合ドメインが、表12または14に記載された組み合わせのうちの1つである3つ以上のアミノ酸置換を含む、[47]記載の抗原結合分子。
[49]pH依存的抗原結合ドメインまたはカルシウムイオン依存的抗原結合ドメインを含む、[39]〜[48]のいずれか一つに記載の抗原結合分子。
[50]以下の工程を含む、中性pHまたは酸性pHにおけるFcRnに対する結合活性が増強されており、かつ中性pHにおける既存のADAに対する結合活性が増強されているFcRn結合ドメインを含む抗原結合分子の、既存のADAに対する結合活性を低下させる方法:
a) 中性pHまたは酸性pHにおけるFcRnに対する結合活性が増強されており、かつ中性pHにおける既存のADAに対する結合活性が増強されているFcRn結合ドメインを有する抗原結合分子を提供する工程;および
b) EU387、EU422、EU424、EU426、EU433、EU436、EU438、およびEU440からなる群より選択される1つまたは複数の位置において、FcRn結合ドメイン中のアミノ酸を置換して、改変FcRn結合ドメインを有する抗原結合分子をもたらす工程。
[51]工程b)が、表10に記載された組み合わせのうちの1つである3つ以上の位置においてアミノ酸を置換することを含む、[50]記載の方法。
[52]工程b)が、表11に記載された組み合わせのうちの1つである3つ以上のアミノ酸置換をFcRn結合ドメインに導入することを含む、[50]記載の方法。
[53]以下の工程を含む、親抗体と比較して中性pHにおける既存のADAに対する結合活性を有意に増強することなく、単一の抗原結合分子が結合できる抗原の総数を増加させる方法:
a) 親FcRn結合ドメインを含む抗原結合分子を提供する工程、
b) EU238、EU250、EU252、EU254、EU255、EU256、EU258、EU286、EU307、EU308、EU309、EU311、EU315、EU428、EU433、EU434、およびEU436からなる群より選択される1つまたは複数の位置において、親FcRn結合ドメインのアミノ酸配列中のアミノ酸を置換することにより、工程a)の親FcRn結合ドメインを改変する工程;ならびに
c) EU387、EU422、EU424、EU426、EU433、EU436、EU438、およびEU440からなる群より選択される1つまたは複数の位置において、親FcRn結合ドメインのアミノ酸配列中のアミノ酸を置換することにより、工程b)の改変FcRn結合ドメインを改変する工程。
[54]以下の工程を含む、親抗体と比較して中性pHにおける既存のADAに対する抗原結合分子の結合活性を有意に増強することなく、抗原と結合した状態で細胞内に取り込まれた抗原結合分子の、抗原と結合していない状態での細胞外への放出を促進する方法:
a) 親FcRn結合ドメインを含む抗原結合分子を提供する工程、
b) EU238、EU250、EU252、EU254、EU255、EU256、EU258、EU286、EU307、EU308、EU309、EU311、EU315、EU428、EU433、EU434、およびEU436、およびEU428からなる群より選択される1つまたは複数の位置において、親FcRn結合ドメインのアミノ酸配列中のアミノ酸を置換することにより、親FcRn結合ドメインを改変する工程;ならびに
c) EU387、EU422、EU424、EU426、EU433、EU436、EU438、およびEU440からなる群より選択される1つまたは複数の位置において、親FcRn結合ドメインのアミノ酸配列中のアミノ酸を置換することにより、工程b)の改変FcRn結合ドメインを改変する工程。
[55]以下の工程を含む、親抗体と比較して中性pHにおける既存のADAに対する結合活性を有意に増強することなく、抗原結合分子の血漿中抗原消失能を増強する方法:
a) 親FcRn結合ドメインを含む抗原結合分子を提供する工程、
b) EU238、EU250、EU252、EU254、EU255、EU256、EU258、EU286、EU307、EU308、EU309、EU311、EU315、EU428、EU433、EU434、およびEU436、およびEU428からなる群より選択される1つまたは複数の位置において、親FcRn結合ドメインのアミノ酸配列中のアミノ酸を置換することにより、親FcRn結合ドメインを改変する工程;ならびに
c) EU387、EU422、EU424、EU426、EU433、EU436、EU438、およびEU440からなる群より選択される1つまたは複数の位置において、親FcRn結合ドメインのアミノ酸配列中のアミノ酸を置換することにより、工程b)の改変FcRn結合ドメインを改変する工程。
[56]以下の工程を含む、親抗体と比較して中性pHにおける既存のADAに対する結合活性を有意に増強することなく、抗原結合分子の薬物動態を改善する方法:
a) 親FcRn結合ドメインを含む抗原結合分子を提供する工程、
b) EU238、EU250、EU252、EU254、EU255、EU256、EU258、EU286、EU307、EU308、EU309、EU311、EU315、EU428、EU433、EU434、およびEU436からなる群より選択される1つまたは複数の位置において、親FcRn結合ドメインのアミノ酸配列中のアミノ酸を置換することにより、親FcRn結合ドメインを改変する工程;ならびに
c) EU387、EU422、EU424、EU426、EU433、EU436、EU438、およびEU440からなる群より選択される1つまたは複数の位置において、親FcRn結合ドメインのアミノ酸配列中のアミノ酸を置換することにより、工程b)の改変FcRn結合ドメインを改変する工程。
[57]以下の工程を含む、親抗体と比較して中性pHにおける既存のADAに対する結合活性を有意に増強することなく、血漿中の総抗原濃度または遊離抗原濃度を低下させる方法:
a) 親FcRn結合ドメインを含む抗原結合分子であって、該抗原と結合し得る抗原結合ドメインを含む抗原結合分子を提供する工程、
b) EU238、EU250、EU252、EU254、EU255、EU256、EU258、EU286、EU307、EU308、EU309、EU311、EU315、EU428、EU433、EU434、およびEU436からなる群より選択される1つまたは複数の位置において、親FcRn結合ドメインのアミノ酸配列中のアミノ酸を置換することにより、親FcRn結合ドメインを改変する工程;ならびに
c) EU387、EU422、EU424、EU426、EU433、EU436、EU438、およびEU440からなる群より選択される1つまたは複数の位置において、親FcRn結合ドメインのアミノ酸配列中のアミノ酸を置換することにより、工程b)の改変FcRn結合ドメインを改変する工程。
[58]以下の工程を含む、中性pHまたは酸性pHにおけるFcRnに対する結合活性が増強されており、かつ中性pHにおける既存のADAに対する結合活性が低下しているFcRn結合ドメインを含む抗原結合分子を製造する方法:
(a) pH中性域またはpH酸性域におけるFcRnに対する結合活性、およびpH中性域における既存のADAに対する結合活性が増強されているFcRn結合ドメインを提供する工程、
(b) EU387、EU422、EU424、EU426、EU433、EU436、EU438、およびEU440からなる群より選択される1つまたは複数の位置において、アミノ酸を置換する工程、
(c) pH依存的抗原結合ドメインを得るために、抗原結合分子の抗原結合ドメインを選択して該抗原結合ドメイン中の少なくとも1つのアミノ酸を改変する工程、またはカルシウムイオン依存的抗原結合ドメインを選択する工程;
(d) (a)および(b)において調製されたヒトFcRn結合ドメインおよび抗原結合ドメインが連結された抗原結合分子をコードする遺伝子を得る工程、ならびに
(e) (c)において調製された遺伝子を用いて抗原結合分子を製造する工程であって、製造された該抗原結合分子が、インタクトなFcRn結合ドメインを有する親抗原結合ドメインと比較して、中性pHまたは酸性pHにおけるFcRnに対する結合活性が増強されており、かつ中性pHにおける内因性ADAに対する結合活性が低下している、工程。
[59]pH中性域またはpH酸性域におけるFcRnおよび既存のADAに対する結合活性ならびにpH中性域における既存のADAに対する結合活性が増強されている前記FcRn結合ドメインが、EU238、EU250、EU252、EU254、EU255、EU256、EU258、EU286、EU307、EU308、EU309、EU311、EU315、EU428、EU433、EU434、およびEU436からなる群より選択される1つまたは複数の位置にアミノ酸の置換を含む、[58]記載の方法。
[60]工程a)で導入されるアミノ酸置換が3つ以上の位置におけるものであり、該3つ以上の位置が、表4〜7に記載された組み合わせのうちの1つである、[53]〜[57]のいずれか一つに記載の方法。
[61]工程b)で導入されるアミノ酸置換が3つ以上の位置におけるものであり、該3つ以上の位置が、表10に記載された組み合わせのうちの1つである、[53]〜[60]のいずれか一つに記載の方法。
【発明を実施するための形態】
【0013】
発明の詳細な説明
本発明の材料および方法を説明する前に、これらの説明が単に例示にすぎず、限定を意図するものではないことが理解されるべきである。本明細書に記載される特定のサイズ、形状、寸法、材料、方法論、プロトコール等は慣行的な実験法および/または最適化に従って変更可能であるため、本発明がこれらに限定されないこともまた理解されるべきである。説明で用いられる用語は、特定の型または態様を説明するためのものにすぎず、添付の特許請求の範囲によってのみ限定される本発明の範囲を限定することは意図されない。特記されない限り、本明細書で用いられる技術的および科学的用語はすべて、本発明が属する技術分野の当業者によって一般的に理解されている意味と同じ意味を有する。矛盾する場合には、定義を含めて本明細書が優先する。
【0014】
本明細書において言及される各出版物、特許、または特許出願の開示は、その全体が参照により本明細書に明確に組み入れられる。しかしながら、本明細書中のいかなるものも、本発明が先行発明によりそのような開示に先行する権利を与えられないことを承認するものとしては解釈されるべきではない。
【0015】
本明細書で用いられる「1つの(a)」、「1つの(an)」、および「その」という単語は、他に具体的に指示がない限り「少なくとも1つの」を意味する。
【0016】
WO/2011/122011に記載されている研究により、pH 7.4におけるFcRnへの結合が増強された抗原結合分子(例えば、抗IL6受容体抗体)が血漿中から抗原を消失させて血漿中総抗原濃度を低下させることができること、およびひいては、抗原消失効率が、pH依存的抗原結合(pH 7.4の血漿中で抗原に結合し、pH 6.0の酸性エンドソーム内で抗原から解離する)によって、またはイオン化カルシウム濃度依存的抗原結合(イオン化カルシウム濃度が高い血漿中で抗原に結合し、イオン化カルシウム濃度が低いエンドソーム内で抗原から解離する)によって改善され得ることが示された(
図1Bを参照されたい)。中性pHにおけるFcRnに対する結合アフィニティーが従来の抗体と比較して改善されたpH依存的抗原結合抗体による血漿中からの抗原消失の機構を
図1Aに示す。
【0017】
本発明は、pH酸性域およびpH中性域における抗原結合分子のFcRn結合活性を増強する、FcRn結合ドメインにおける新規アミノ酸置換を提供し、この場合、pH中性域におけるFcRn結合活性は、インタクトなIgGまたはインタクトなFcRn結合ドメインを含む抗原結合分子の活性よりも強い(例えば、3200 nMよりも強い)。改変された抗原結合分子は、その投与後に、同じ抗原結合ドメインを含むがインタクトなヒトIgG FcRn結合ドメインを含む対照抗原結合分子よりも血漿中総抗原濃度を低下させることができる。
【0018】
Fc受容体は、ナチュラルキラー細胞、マクロファージ、好中球、および肥満細胞などの免疫細胞の表面上のタンパク質である。Fc受容体は、感染細胞または侵入病原体に付着した抗体のFc(結晶性フラグメント)領域に結合し、食細胞または細胞傷害性細胞を刺激して、抗体媒介性食作用または抗体依存性細胞介在性細胞傷害によって微生物または感染細胞を破壊する。
【0019】
いくつかの異なるタイプのFc受容体が存在し、それらが認識する抗体のタイプに基づいて分類される。本発明において、「FcRn」という用語は、IgGと結合し、MHCクラスIタンパク質と構造が類似しており、かつヒトではFCGRT遺伝子によってコードされる胎児性Fc受容体を意味する。
【0020】
本明細書で用いられる「FcRn結合ドメイン」という用語は、FcRnに直接または間接的に結合するタンパク質ドメインを意味する。好ましくはFcRnは哺乳動物FcRnであり、より好ましくはヒトFcRnである。FcRnに直接結合するFcRn結合ドメインは、抗体Fc領域である。一方、ヒトFcRn結合活性を有する、アルブミンまたはIgGなどのポリペプチドに結合し得る領域は、アルブミン、IgG等を介してヒトFcRnに間接的に結合することができる。したがって、このようなヒトFcRn結合領域は、ヒトFcRn結合活性を有するポリペプチドに結合する領域であってよい。
【0021】
本明細書で用いられる「Fc領域」または「抗原結合分子のFc領域」という用語は、FcRn、好ましくは哺乳動物FcRn、より好ましくはヒトFcRnに直接結合するFcRn結合ドメインを意味する。具体的には、Fc領域は抗体のFc領域である。好ましくは、Fc領域は哺乳動物Fc領域であり、より好ましくはヒトFc領域である。具体的には、本発明のFc領域は、ヒト免疫グロブリンの第2および第3定常ドメイン(CH2およびCH3)、より好ましくはヒンジ、CH2、およびCH3を含むFc領域である。好ましくは、免疫グロブリンはIgGである。好ましくは、Fc領域はヒトIgG1のFc領域である。
【0022】
本発明は、改変FcRn結合ドメインを有する抗原結合分子であって、インタクトなFcRn結合ドメインを有する抗原結合分子と比較して、pH中性域におけるFcRn結合活性が増強された抗原結合分子を提供する。
具体的には、本発明は、EU238、EU250、EU252、EU254、EU255、EU258、EU286、EU307、EU308、EU309、EU311、EU315、EU428、EU433、EU434、およびEU436からなる群より選択される1つまたは複数の位置においてFcRn結合ドメイン中にアミノ酸置換を有する改変FcRn結合ドメインを有する抗原結合分子を提供する。本発明の抗原結合分子はまた、さらなる位置に置換を含み得る。例えば、抗原結合分子は、上記の1つまたは複数の位置における置換に加えて、EU256位に置換を含み得る。好ましくは、EU256位のアミノ酸はグルタミン酸と置換される。
【0023】
「結合アフィニティー」または「結合活性」という用語は、他に明確に規定されない限り、2つの物質によって形成される複合体の解離定数(KD)によって測定される、2つの物質間の非共有的相互作用の強さを意味する。結合タンパク質(または「リガンド」)は、例えば、例えばFcRnといった特定の標的分子に対するKD が10
-5、10
-6、10
-7、または10
-8 M未満であり得る。結合リガンドが、第2のpH域における標的との結合と比較して、第1のpH域においてより高いアフィニティーで標的と結合することは、第2のpH域において標的と結合する場合のKD数値よりも、第1のpH域において標的と結合する場合のより小さなKD数値によって示され得る。結合アフィニティーの差は、少なくとも1.5倍、2倍、3倍、4倍、5倍、10倍、15倍、20倍、50倍、70倍、80倍、100倍、500倍、または1000倍であってよい。結合アフィニティーは、表面プラズモン共鳴、平衡透析、平衡結合、ゲル濾過、ELISA、または(例えば、蛍光アッセイを用いる)分光法を含む種々の方法によって決定することができる。
【0024】
あるpH域におけるFcRnに対するFcRn結合ドメインの結合アフィニティーの増強は、インタクトなFcRn結合ドメインについて測定されたFcRn結合アフィニティーと比較した、測定されたFcRn結合アフィニティーの増強に相当する。結合アフィニティーの差であるKD(インタクト)/KD(改変体)は、少なくとも1.5倍、2倍、3倍、4倍、5倍、10倍、15倍、20倍、50倍、70倍、80倍、100倍、500倍、または1000倍であってよい。FcRnに対するFcRn結合ドメインの結合アフィニティーの増強は、pH酸性域またはpH中性域におけるものであってよい。
【0025】
「インタクトなFcRn結合ドメインを含む抗原結合分子」という用語は、改変されていないFcRn結合ドメインを含む抗原結合分子を意味する。本明細書で用いられる「インタクトなIgG FcRn結合ドメイン」という用語は、ヒトIgGの改変されていないFcRn結合ドメインを意味する。具体的には、FcRn結合ドメインは、インタクトなヒトIgGのFcRn結合ドメインである。好ましくは、インタクトなFcRn結合ドメインはインタクトなFc領域である。「インタクトなFc領域を含む抗体」という用語は、改変されていないFc領域を含む抗体を意味する。改変されていないFc領域の由来元である抗体は、好ましくはIgGである。より好ましくは、それはヒトIgG1、IgG2、IgG3、またはIgG4であり、さらにより好ましくはヒトIgG1である。本発明の特に好ましい態様において、インタクトなFc領域を含む抗体は、改変されていないFc領域を含む抗体である。インタクトなFc領域を含む抗体は、インタクトなヒトIgGであってよい。
【0026】
本明細書で用いられる「インタクトなIgG」という用語は、改変されていないIgGを意味し、特定のクラスのIgGに限定されない。このことは、ヒトIgG1、IgG2、IgG3、IgG4、またはそれらのアロタイプ改変体が、pH酸性域においてヒトFcRnに結合し得る限り、「インタクトなヒトIgG」として用いられ得ることを意味する。好ましくは、「インタクトなIgG」はヒトIgG1である。好ましくは、インタクトなIgGは、野生型Fc領域を含むIgGである。
【0027】
本発明において、pH中性域における抗原結合分子の増強されたFcRn結合活性は、好ましくはKD 3.2μMよりも強い。好ましくは、pH中性域における増強されたFcRn結合活性は700ナノモル濃度よりも強く、より好ましくは500ナノモル濃度よりも強く、最も好ましくは150ナノモル濃度よりも強い。
【0028】
pH酸性域における本発明の抗原結合分子の増強されたFcRn結合活性は、通常、インタクトなIgGのFcRn結合活性よりも約2倍〜約100倍強い範囲のFcRn結合活性である。好ましくは、pH酸性域における抗原結合分子の増強されたFcRn結合活性は、インタクトなIgGのFcRn結合活性よりも少なくとも10倍強い。より好ましくは、pH酸性域における本発明の抗原結合分子の増強されたFcRn結合活性は、インタクトなIgGのFcRn結合活性よりも少なくとも20倍強い。
【0029】
本明細書において用いられる「pH中性域」および「中性pH」という用語は、典型的にはpH 6.7〜pH 10.0を意味し、好ましくはpH 7.0〜pH 8.0内の任意のpH値を意味し、この例にはpH 7.0、7.1、7.2、7.3、7.4、7.5、7.6、7.7、7.8、7.9、および8.0が含まれる。特に好ましい酸性pH値は、生体内の血漿中(血中)のpHに近いpH7.4である。
【0030】
本明細書において用いられる「pH酸性域」および「酸性pH」という用語は、典型的にはpH 4.0〜pH 6.5を意味し、好ましくはpH 5.5〜pH 6.5内の任意のpH値を意味し、この例にはpH 5.5、5.6、5.7、5.8、5.9、6.0、6.1、6.2、6.3、6.4、および6.5が含まれる。特に好ましいpH酸性域は、生体内の早期エンドソーム内のpHに近いpH 5.8〜pH 6.0の範囲である。
【0031】
例えば「EU387」または「387位」のように本出願において言及されるアミノ酸位置は、特記されない限り、EUナンバリングシステムと称されるスキーム(Kabat, E. A., T. T. Wu, H. M. Perry, K. S. Gottesman, C. Foeler. 1991. Sequences of Proteins of Immunological Interest. No. 91-3242 U. S. Public Health Services, National Institutes of Health, Bethesda)による数字で表され、FcRn結合ドメインにおける位置、具体的にはFc領域における位置を意味する。同様に、置換は例えば「EU387R」または「EU440E」と示され、「EU」の後に示される数字はEUナンバリングで表される置換の位置を示し、この数字の後にくる文字は一文字記号で示された置換されたアミノ酸である。置換はまた、(アミノ酸1)-位置-(アミノ酸2)と記載されてもよく、第1のアミノ酸は置換されたアミノ酸であり、第2のアミノ酸はその特定の位置における置換後のアミノ酸である。
【0032】
本明細書で用いられる「置換」および「アミノ酸の置換」という用語は、アミノ酸配列中のアミノ酸の別のアミノ酸との置き換えを意味し、後者は置き換えられたアミノ酸とは異なる。アミノ酸を置き換える方法は当業者に周知であり、これにはアミノ酸配列をコードするヌクレオチド配列の変異が含まれるが、これに限定されない。
より具体的には、FcRn結合ドメインにおけるアミノ酸の置換は、親FcRn結合ドメインのアミノ酸配列に関するアミノ酸の置き換えを意味する。望ましい置換を既に有する改変FcRn結合ドメインもまた、本発明のFcRn結合ドメインに含まれる。親FcRn結合ドメインは、EU238位にプロリン、EU250位にスレオニン、EU252位にメチオニン、EU254位にセリン、EU255位にアルギニン、EU256位にスレオニン、U258位にグルタミン酸、EU286位にアスパラギン、EU307位にスレオニン、EU308位にバリン、EU309位にロイシン、EU311位にグルタミン、EU315位にアスパラギン、EU387位にプロリン、EU422位にバリン、EU424位にセリン、EU426位にセリン、EU428位にメチオニン、EU433位にヒスチジン、EU434位にアスパラギン、EU436位にチロシン、EU438位にグルタミン、およびEU440位にセリンを有し、かつ中性pHにおけるFcRnに対するアフィニティーがないかまたは低い(3200 nMよりも弱い)FcRn結合ドメインである。親FcRn結合ドメインは、他の位置に置換を含んでもよいが、好ましくは親FcRn結合ドメインは改変されていない。好ましくは、親FcRn結合ドメインはFc領域(親Fc領域)である。好ましくは、親Fc領域は哺乳動物抗体に由来する;より好ましくは、親Fc領域はヒト抗体のFc領域である。ヒト抗体のFc領域は、本発明においてヒトFc領域と称される。
親Fc領域は好ましくはインタクトなFc領域であり、より好ましくはヒトのインタクトなFc領域である。好ましくは、親Fc領域はIgGのFc領域であり、より好ましくはヒトIgGのFc領域である。さらにより好ましくは、親Fc領域は、野生型ヒンジ、野生型CH2、および野生型CH3ドメインを含むヒトFc領域である。本発明において、親抗体という用語は、親Fc領域を含む抗体を意味する。
【0033】
親抗原結合分子には、受容体タンパク質(膜結合型受容体および可溶性受容体)、細胞表面マーカーなどの膜抗原を認識する抗体、およびサイトカインなどの可溶型抗原を認識する抗体が含まれるが、これらに限定されない。
【0034】
本発明で用いられる「親抗原結合分子」という用語は、親FcRn結合ドメインを有する抗原結合分子を意味する。「親抗原結合分子」の起源は限定されず、非ヒト動物の任意の生物またはヒトから得られ得る。好ましくは、当該生物は、マウス、ラット、モルモット、ハムスター、アレチネズミ、ネコ、ウサギ、イヌ、ヤギ、ヒツジ、ウシ、ウマ、ラクダ、および非ヒト霊長類からなる群より選択される。別の態様において、「親抗原結合分子」はまた、カニクイザル、マーモセット、アカゲザル、チンパンジー、またはヒトから得ることもできる。親IgGは、天然に存在するIgGであってもよく、または天然に存在するIgGの改変体もしくは操作された型であってもよい。親IgGとは、ポリペプチドそのもの、親IgGを含む組成物、または親IgGをコードするアミノ酸配列を意味し得る。「親IgG」には、以下に概説する組換えによって産生された公知の市販のIgGが含まれることに留意されたい。好ましくは、「親IgG」はヒトIgG1から得られるが、特定のサブクラスのIgGに限定されない。このことは、ヒトIgG1、IgG2、IgG3、またはIgG4を「親IgG」として適宜使用できることを意味する。同様に、本明細書において先に記載した任意の生物からの任意のサブクラスのIgGを、好ましくは「親IgG」として用いることもできる。天然に存在するIgGの改変体または操作された型の例は、Curr Opin Biotechnol. 2009 Dec; 20(6): 685-91、Curr Opin Immunol. 2008 Aug; 20(4): 460-70、Protein Eng Des Sel. 2010 Apr; 23(4): 195-202、WO 2009/086320、WO 2008/092117、WO 2007/041635、およびWO 2006/105338に記載されているが、これらに限定されない。
【0035】
本発明のFcRn結合ドメインまたはFc領域は、2つ以上の位置に置換を含んでもよく、これは本発明で置換の「組み合わせ」と称される。例えば、組み合わせ「EU424/EU434/EU436」によって規定されるFc領域は、EU424位、EU434位、およびEU436位に置換を含むFc領域である。
【0036】
置換後のアミノ酸(親FcRn結合ドメイン中のアミノ酸を置換するアミノ酸)は、本明細書において具体的に言及されない限り、アラニン(Ala、A)、アルギニン(arg、R)、アスパラギン(asn、N)、アスパラギン酸(asp、D)、システイン(cys、C)、グルタミン酸(glu、E)、グルタミン(gln、Q)、グリシン(gly、G)、ヒスチジン(his、H)、イソロイシン(ile、I)、ロイシン(leu、L)、リジン(lys、K)、メチオニン(met、M)、フェニルアラニン(phe、F)、プロリン(pro、P)、セリン(ser、S)、スレオニン(thr、T)、トリプトファン(trp、W)、チロシン(tyr、Y)、およびバリン(val、V)からなる群を含むがこれらに限定されない任意のアミノ酸であってよい。好ましくは、EU387位、EU422位、EU424位、EU426位、EU433位、EU436位、EU438位、およびEU440位のいずれか1つにおける置換後のアミノ酸は、アラニン(Ala、A)、アルギニン(arg、R)、グルタミン酸(glu、E)、グルタミン(gln、Q)、アスパラギン酸(asp、D)、セリン(ser、S)、スレオニン(thr、T)、チロシン(tyr、Y)、およびリジン(lys、K)からなる群より選択される。
【0037】
本発明の好ましい態様において、本発明の抗原結合分子は、
a) EU252位およびEU434位において、ならびに
b) EU238、EU250、EU252、EU254、EU255、EU256、EU258、EU286、EU307、EU308、EU309、EU311、EU315、EU428、EU433、EU434、およびEU436からなる群より選択される1つまたは複数の位置において、
置換されたアミノ酸とは異なるアミノ酸によるアミノ酸置換を含む改変FcRn結合ドメインを有する。
【0038】
置換後のアミノ酸は、本明細書において具体的に言及されない限り、任意のアミノ酸であってよい。EU238位、EU250位、EU252位、EU254位、EU255位、EU258位、EU286位、EU307位、EU308位、EU309位、EU311位、EU315位、EU428位、EU433位、EU434位、およびEU436位に対する好ましい置換後のアミノ酸を表1に示す。
【0039】
(表1)
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【0040】
好ましくは、本発明の改変FcRn結合ドメインは、表1に記載されたアミノ酸置換のうちの少なくとも1つを含む。FcRn結合ドメインが特定の位置において上記の所与のアミノ酸のうちの少なくとも1つを既に有し、かつ該FcRn結合ドメインがpH酸性域およびpH中性域においてヒトFcRn結合活性を有し、pH中性域におけるFcRn結合活性が増強されている限り、いかなる改変も含まないFcRn結合ドメインを用いることが可能である。
【0041】
好ましい態様において、本発明の改変抗原結合分子は、FcRn結合ドメイン中の3つ以上の位置に改変を含み、該3つ以上の位置は、表2、4〜7に記載された組み合わせのうちの1つである。
【0042】
(表2)
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【0043】
より好ましい態様において、本発明の抗原結合分子は、FcRn結合ドメイン中に3つ以上のアミノ酸置換を含み、該3つ以上の置換は、表3、12、14、および17〜20に記載された組み合わせのうちの1つである。
【0044】
(表3)
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【0045】
安定性、免疫原性、および凝集物形成
置換の導入によりFcRn結合ドメインを操作することで、抗原結合分子の安定性が低下する場合がある(WO/2007/092772)。安定性に乏しいタンパク質は貯蔵中に容易に凝集する傾向があるため、薬物タンパク質の安定性は医薬品の製造にとって極めて重要である。そのため、Fc領域における置換によって起こる安定性の低下のために、安定な製剤の開発が困難になる(WO2007/092772)。
【0046】
加えて、単量体種および高分子量種に関する薬物タンパク質の純度もまた、医薬品開発にとって重要である。プロテインA精製後の野生型IgG1は相当量の高分子量種を含まないが、置換の導入によってFcRn結合ドメインを操作すると、大量の高分子量種が生じ得る。このような場合、高分子量種は精製工程によって原薬物質から除去される必要があり、これは精製工程の開発において難しい可能性がある。
【0047】
さらに、抗医薬品抗体の存在により、体内からの薬物のクリアランスおよびひいては治療効果の低下が起こるため、ヒトにおけるタンパク質医薬品の免疫原性は重要である(IDrugs 2009; 12:233-7.)。野生型Fcドメイン(IgG1 Fcドメインなど)に置換が導入される場合、改変された配列は非ヒト配列になる。このような改変配列はMHCクラスIIによって提示され、ひいてはヒト患者において免疫原性となり得る。
【0048】
タンパク質は、安定性および純度が乏しいFc改変体を含む場合には薬物として開発されず、また免疫原性不良は臨床開発を邪魔する。したがって、本発明の目的は、
安定性を有意に失うことなく;
高分子量種の割合を上昇させることなく、かつ
免疫原性のリスク(抗医薬品抗体形成のリスク)を高めることなく、
pH 7.4におけるFcRn結合アフィニティーを改善することである。
【0049】
(グループ1)
したがって、本発明はまた、EU252位、EU434位、EU307位、およびEU311位においてFcRn結合ドメイン中にアミノ酸置換を含み、pH 7におけるFcRnに対する結合活性が15 nM超であり、融解温度Tmが57.5℃以上であり、HMWが2%未満であり、かつ免疫原性が低い(Epibase(Lonza)により決定したスコア500未満に相当する)抗原結合分子を提供する。
好ましくは、抗原結合分子は4つ以上の位置においてFcRn結合ドメイン中にアミノ酸置換を含み、該4つ以上の位置は、
a) EU252/EU434/EU307/EU311/EU436、ならびに
b) EU286、EU308、およびEU428からなる群より選択される1つまたは複数の位置と組み合わせたEU252/ EU434/EU307/EU311/EU436
からなる組み合わせ群のうちの1つである。
【0050】
好ましい組み合わせを表4に記載する。
【0051】
(表4)
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特に好ましいのは、表4の組み合わせa)、g)、h)、およびi)である。
【0052】
さらにより好ましい態様において、改変FcRn結合ドメインは、
a) EU252位にチロシン、EU286位にグルタミン酸、EU307位にグルタミン、EU311位にアラニン、EU434位にチロシン、およびEU436位にバリン;または
b) EU250位にバリン、EU252位にチロシン、EU307位にグルタミン、EU308位にプロリン、EU311位にアラニン、EU434位にチロシン、およびEU436位にバリン;または
c) EU250位にバリン、EU252位にチロシン、EU286位にグルタミン酸、EU307位にグルタミン、EU308位にプロリン、EU311位にアラニン、EU434位にチロシン、およびEU436位にバリン;または
d) EU250位にバリン、EU252位にチロシン、EU286位にグルタミン酸、EU307位にグルタミン、EU308位にプロリン、EU311位にアラニン、EU434位にチロシン、およびEU436位にバリン
を含む。
【0053】
(グループ2)
本発明はまた、3つ以上の位置においてFcRn結合ドメイン中にアミノ酸置換を含む抗原結合分子を提供し、該3つ以上の位置は、a) EU252/EU434/EU307/EU311;およびb) EU252/EU434/EU308からなる組み合わせ群のうちの1つであり;中性pHにおける該抗原結合分子のFcRn結合活性は15〜50 nMであり、Tmは60℃よりも高く、HMWは2%未満であり、かつ抗原結合分子の免疫原性は低く、Epibase(Lonza)により決定したスコアが500未満に相当する。
【0054】
好ましい態様において、アミノ酸置換は4つ以上の位置におけるものであり、該4つ以上の位置は、表5に記載された組み合わせのうちの1つである。
【0055】
(表5)
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【0056】
より好ましいのは、4つ以上のアミノ酸置換を含む抗原結合分子であり、該4つ以上の置換は、
a) EU252位のチロシン、EU286位のグルタミン酸、EU307位のグルタミン、EU311位のアラニン、およびEU434位のチロシン;
b) EU252位のチロシン、EU254位のスレオニン、EU286位のグルタミン酸、EU307位のグルタミン、EU311位のアラニン、およびEU434位のチロシン;
c) EU252位のチロシン、EU307位のグルタミン、EU311位のアラニン、EU434位のチロシン、および436位のイソロイシン;
d) EU252位のチロシン、EU254位のスレオニン、EU286位のグルタミン酸、EU307位のグルタミン、EU311位のアラニン、EU434位のチロシン、およびEU436位のイソロイシン;
e) EU250位のバリン、EU252位のチロシン、EU254位のスレオニン、EU308位のプロリン、EU434位のチロシン、およびEU436位のバリン;
f) EU250位のバリン、EU252位のチロシン、EU307位のグルタミン、EU311位のアラニン、EU434位のチロシン、およびEU436位のバリン;
g) EU252位のチロシン、EU307位のグルタミン、EU311位のアラニン、EU434位のチロシン、およびEU436位のバリン;
h) EU250位のバリン、EU252位のチロシン、EU308位のプロリン、およびEU434位のチロシン;ならびに
i) EU250位のバリン、EU252位のチロシン、EU307位のグルタミン、EU308位のプロリン、EU311位のアラニン、およびEU434位のチロシン
からなる組み合わせ群のうちの1つである。
【0057】
(グループ3)
本発明はまた、
a) EU252位/EU434位において;ならびに
b) EU436位および/またはEU254位および/またはEU315位において
FcRn結合ドメイン中にアミノ酸置換を含み、
かつpH 7におけるFcRn結合活性が50〜150 nMであり、Tmが63℃よりも高く、HMWが2%未満であり、かつEpibase(Lonza)により決定したスコアが250未満と定義される非常に低い免疫原性を有する抗原結合分子を提供する。
【0058】
好ましくは、アミノ酸置換は3つ以上の位置におけるものであり、該3つ以上の位置は、表6に記載された組み合わせのうちの1つである。
【0059】
(表6)
[この文献は図面を表示できません]
【0060】
より好ましい態様において、改変抗原結合分子は3つ以上のアミノ酸置換を含み、該3つ以上の置換は、
a) EU252位のチロシン、EU315位のアスパラギン酸、およびEU434位のチロシン;
b) EU252位のチロシン、EU434位のチロシン、およびEU436位のイソロイシン;
c) EU252位のチロシン、EU434位のチロシン、およびEU436位のロイシン;
d) EU252位のチロシン、EU434位のチロシン、およびEU436位のバリン;ならびに
e) EU252位のチロシン、EU254位のスレオニン、EU434位のチロシン、およびEU436位のイソロイシン
からなる組み合わせ群のうちの1つである。
【0061】
(グループ4)
本発明はさらに、3つ以上の位置においてFcRn結合ドメイン中にアミノ酸置換を含む抗原結合分子を提供し、該3つ以上の位置は、表7に記載された組み合わせのうちの1つである。該改変抗原結合分子は、pH 7におけるFcRnに対する結合活性が150〜700 nMであり、Tmが66.5℃よりも高く、HMWが2%未満であり、かつEpibase(Lonza)により決定したスコアが250未満と定義される非常に低い免疫原性を有する。
【0062】
(表7)
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【0063】
好ましくは、改変抗原結合分子は3つ以上の置換を含み、該3つ以上の置換は、
a) EU307位のグルタミン、EU311位のヒスチジン、およびEU434位のチロシン;
b) EU307位のグルタミン、EU309位のグルタミン酸、EU311位のアラニン、EU434位のチロシン;
c) EU307位のグルタミン、EU309位のグルタミン酸、EU311位のヒスチジン、EU434位のチロシン;または
d) EU250位のバリン、EU252位のチロシン、EU434位のチロシン、EU436位のバリン
からなる組み合わせ群のうちの1つである。
【0064】
既存の抗医薬品抗体
抗体におけるアミノ酸の置換は、例えば治療用抗体の免疫原性の上昇といった負の結果をもたらし得、次いでサイトカインストームおよび/または抗医薬品抗体(ADA)の産生を引き起こし得る。ADAは治療用抗体の効果および薬物動態に影響を及ぼし、時に重篤な副作用をもたらすことがあるため、臨床における治療用抗体の有用性と薬効は制限され得る。多くの要因が治療用抗体の免疫原性に影響を及ぼし、エフェクターT細胞エピトープの存在がその要因の1つである。同様に、治療用抗体に対する既存の抗体の存在もまた問題があると考えられる。そのような既存の抗体の例は、リウマトイド因子(RF)、抗体(すなわち、IgG)のFc部分に対する自己抗体(自己のタンパク質に対する抗体)である。リウマトイド因子は特に、全身性エリテマトーデス(SLE)患者または関節リウマチ患者において見られる。関節炎患者では、RFとIgGが連結して免疫複合体を形成し、これが疾患過程に寄与する。最近、Asn434His変異を有するヒト化抗CD4 IgG1抗体が顕著なリウマトイド因子結合を誘発することが報告された(Clin Pharmacol Ther. 2011 Feb;89(2):283-90(非特許文献9))。詳細な研究により、ヒトIgG1におけるAsn434His変異が、親ヒトIgG1と比較して、抗体のFc領域に対するリウマトイド因子の結合を増強することが確認された。
【0065】
RFはヒトIgGに対するポリクローナル自己抗体であり、ヒトIgGの配列中のRFのエピトープはクローンにより異なるが、RFエピトープは、CH2/CH3界面領域およびFcRn結合エピトープと重複し得るCH3ドメイン中に位置するようである。そのため、中性pHにおけるFcRnに対する結合アフィニティーを増強するための変異はまた、RFの特定クローンに対する結合アフィニティーを増強する可能性がある。
【0066】
したがって、中性pHの血漿中での既存の抗体に対する治療用抗体の結合アフィニティーを増強せずに、中性pHおよび/または酸性pHにおけるFcRn結合アフィニティーを増強することが好ましい。
【0067】
したがって、本発明はまた、改変FcRn結合ドメイン(好ましくは改変Fc領域)を含み、中性pHにおける既存のADAに対する結合活性が、野生型Fc領域を含む抗原結合分子の結合アフィニティーと比較して有意に増強されていない抗原結合分子を提供する。改変FcRn結合ドメイン(改変Fc領域)は好ましくは、EU387、EU422、EU424、EU426、EU433、EU436、EU438、およびEU440からなる群より選択される1つまたは複数の位置においてアミノ酸置換を含む。
【0068】
上記の置換は好ましくは、中性pHまたは酸性pHにおけるFcRnに対するアフィニティーが増強された抗原結合分子のFcRn結合ドメインまたはFc領域であって、中性pHにおける既存のADAに対する結合活性が増強された該改変FcRn結合ドメインまたはFc領域に導入される。置換の効果は、既存のADAに対する結合活性の低下である。そのため、好ましい態様において、本発明の改変FcRn結合ドメインまたは改変Fc領域は、中性pHまたは酸性pHにおけるFcRnに対する結合活性が増強され、かつpH中性域における既存の抗医薬品抗体に対する結合活性が増強されたFcRn結合ドメインまたはFc領域と比較して、既存のADAに対する結合活性が低下している。好ましくは、中性pHにおけるFcRnに対する結合活性および既存のADAに対する結合活性が増強された抗原結合分子は、上記のEU238、EU250、EU252、EU254、EU255、EU258、EU286、EU307、EU308、EU309、EU311、EU315、EU428、EU433、EU434、およびEU436からなる群より選択される1つまたは複数の位置にアミノ酸置換を含む抗原結合分子である。これはまた、上記の1つまたは複数の位置における置換に加えて、EU256位に置換を含み得る。好ましくは、EU256位のアミノ酸はグルタミン酸と置換されている。
【0069】
したがって、本発明はまた、中性pHまたは酸性pHにおけるFcRnに対するアフィニティーが増強された改変Fc領域を含み、中性pHにおける既存の抗医薬品抗体(ADA)に対するアフィニティーが、野生型Fc領域を含む抗原結合分子の結合アフィニティーと比較して有意に増強されていない抗原結合分子を提供する。好ましい態様において、本発明は、EU387、EU422、EU424、EU426、EU433、EU436、EU438、およびEU440からなる群より選択される1つまたは複数の位置においてアミノ酸置換を含む、中性pHまたは酸性pHにおけるFcRnに対するアフィニティーが増強された改変Fc領域を含む抗原結合分子を提供する。
【0070】
好ましくは、抗原結合分子は、中性pHまたは酸性pHにおけるFcRnに対するアフィニティーが増強された改変Fc領域を含み、中性pHにおける既存のADAに対する結合活性は対照抗原結合分子と比較して有意に増強されておらず、改変Fc領域は、表8に示された置換より選択される1つまたは複数の位置においてアミノ酸置換を含む。
【0071】
(表8)
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【0072】
本発明で用いられる「抗医薬品抗体」および「ADA」という用語は、治療用抗体上に位置するエピトープに対する結合アフィニティーを有し、よって該治療用抗体と結合し得る内因性抗体を意味する。本発明で用いられる「既存の抗医薬品抗体」および「既存のADA」という用語は、治療用抗体を患者に投与する前に患者の血中に存在し、検出され得る抗医薬品抗体を意味する。好ましくは、既存のADAはヒト抗体である。特に好ましい態様において、既存のADAは、リウマトイド因子、ヒトIgG抗体のFc領域に対するポリクローナルまたはモノクローナル自己抗体である。リウマトイド因子のエピトープは、CH2/CH3界面領域およびCH3ドメイン中に位置するが、クローンにより異なり得る。
【0073】
中性pHまたは酸性pHにおけるFcRnに対するアフィニティーおよび中性pHにおける既存の抗医薬品抗体に対するアフィニティーが増強されたFcRn結合ドメイン領域(またはFc領域)を含む抗原結合分子は、インタクトなFcRn結合ドメイン(またはインタクトなFc領域)を含む抗体と比較して、FcRnに対する抗原結合分子のFcRn結合ドメイン(またはFc領域)の結合アフィニティーが増強されるように改変されたFcRn結合ドメイン(またはFc領域)を含む抗原結合分子である。企図される改変には、抗原結合ドメインのFc部分のアミノ酸配列におけるアミノ酸の置換が含まれるが、これに限定されない。a) pH中性域における既存のADAに対する結合活性、および中性pH(中性pHにおけるFcRn結合活性が増強された目的の抗原結合分子の場合)または酸性pH(酸性pHにおけるFcRn結合活性が増強された目的の抗原結合分子の場合)におけるFcRnに対する結合活性が増強されたFcRn結合ドメインまたはFc領域を含む抗原結合分子は、本発明において「参照抗体」と称される。「参照抗体」は好ましくは、EU387、EU422、EU424、EU426、EU433、EU436、EU438、およびEU440からなる群より選択される1つまたは複数の位置においてアミノ酸を置換する前、より好ましくは表8に記載された置換のいずれか1つを導入する前の改変抗原結合分子である。「参照抗体」は、EU238、EU250、EU252、EU254、EU255、EU256、EU258、EU286、EU307、EU308、EU309、EU311、EU315、EU428、EU433、EU434、およびEU436からなる群より選択される1つまたは複数の位置においてFcRn結合ドメイン中にアミノ酸置換を含む抗原結合分子であってよい。
【0074】
pH中性域におけるFcRn結合活性が増強された「参照抗体」の例は、
a) EU252位およびEU434位;ならびに
b) EU238、EU250、EU254、EU255、EU256、EU258、EU286、EU307、EU308、EU309、EU311、EU315、EU428、EU433、およびEU436からなる群より選択される1つまたは複数の位置
においてFc領域中にアミノ酸置換を含む、pH中性域におけるFcRnに対するアフィニティーが増強され、かつ中性pHにおける既存のADAに対するアフィニティーが増強されたFc領域を含む抗原結合分子である。
より好ましくは、pH中性域におけるFcRnに対するアフィニティーが増強され、かつpH中性域における既存のADAに対するアフィニティーが増強されたFc領域を含む抗原結合分子は、表9に記載された組み合わせのうちの1つを含む。
【0075】
(表9)
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【0076】
pH酸性域におけるFcRn結合活性が増強された「参照抗体」の例は、好ましくは
i) EU434位に、または
ii) a) EU252/EU254/EU256;b) EU428/EU434;およびc) EU250/EU428からなる組み合わせ群のうちの1つである、2つ以上の位置に
置換を含む、pH酸性域におけるFcRnに対するアフィニティーが増強され、かつpH中性域における既存のADAに対するアフィニティーが増強されたFc領域を含む抗原結合分子である。
【0077】
好ましくは、pH酸性域におけるアフィニティーが増強され、かつ中性pHにおける既存のADAに対するアフィニティーが増強されたFc領域を含む抗原結合分子は、
i) 置換M434H;または
ii) a) M252Y/S254T/T256E;b) M428L/N434S;およびc) T250Q/M428L(EUナンバリング)からなる組み合わせ群のうちの1つ
を含む。
好ましくは、以下の置換または組み合わせ a) M252Y/S254T/T256E、b) M428L/N434S、またはc) T250QおよびM428L、またはd) M434H(EUナンバリング)のうちの1つを含むFc領域を含む抗原結合分子は、酸性pHにおけるFcRnに対する結合活性が増強されているが、pH中性域における結合活性は増強されていない。
【0078】
既存の抗医薬品抗体に対する抗原結合分子のFc領域の結合活性は、本出願において、中性pHにおける電気化学発光(ECL)反応として示される;しかしながら、当業者に公知である、既存のADAに対する結合活性を決定するための他の適切な方法も存在する。ECLアッセイは例えば、Moxness et al(Clin Chem, 2005, 51:1983-85)および本発明の実施例に記載されている。既存のADAに対する結合活性を決定するためのアッセイにおいて用いられる条件は、当業者によって適宜選択され得、したがって特に限定されない。
【0079】
既存のADAに対する増強されたまたはより高い結合アフィニティーとは、対照抗原結合分子の既存のADAに対する結合アフィニティーと比較して増強されたものである。
【0080】
本発明で用いられる「対照抗原結合分子」という用語は、インタクトなヒトFc領域を含む抗原結合分子、好ましくはインタクトなヒトFc領域を含む抗体または抗体誘導体を意味する。
【0081】
既存のADAに対する結合アフィニティーは、10℃〜50℃の任意の温度で評価することができる。好ましくは、ヒトFc領域とヒトの既存のADAとの間の結合アフィニティーを決定するために、15℃〜40℃の温度が使用される。より好ましくは、ヒトFc領域とヒトの既存のADAとの間の結合アフィニティーを決定するために、20℃、21℃、22℃、23℃、24℃、25℃、26℃、27℃、28℃、29℃、30℃、31℃、32℃、33℃、34℃、および35℃のうちのいずれか1つのような、20℃〜35℃の任意の温度が用いられる。当該温度は好ましくは20℃〜25℃であり、より好ましくは25℃である。好ましい態様において、ヒトの既存のADAとヒトFc領域との間の相互作用は、pH 7.4(またはpH 7.0)および25℃で測定される。
【0082】
本発明において、「既存のADAに対する結合アフィニティーが増強される」という用語は、既存のADAに対する本発明の抗原結合分子の測定された結合アフィニティー(すなわち、KD)が、既存のADAに対する対照抗原結合分子の測定された結合アフィニティーと比較して増強されることを意味する。既存のADAに対する結合アフィニティーのこのような増強は、個々の患者または患者群で観察され得る。
【0083】
本発明で用いられる「患者(patients)」および「患者(patient)」という用語は特に限定されず、これには、疾患に罹患しており、治療用抗原結合分子を投与する治療の過程にあるすべてのヒトが含まれる。好ましくは、患者は自己免疫疾患に罹患している人である。より好ましくは、患者は、関節炎疾患または全身性エリテマトーデス(SLE)に罹患している人である。関節炎疾患には、特に関節リウマチが含まれる。
【0084】
本発明において、個々の患者において既存のADAに対する結合活性が有意に増強されるとは、患者において測定された、改変Fc領域を含む治療用抗原結合分子(すなわち、治療用抗体)の既存のADAに対する結合活性が、対照抗原結合分子の既存のADAに対する結合アフィニティーと比較して、少なくとも10%、少なくとも20%、少なくとも30%、少なくとも40%、少なくとも50%、少なくとも60%増強されることに相当する。当該増強は、既存のADAに対する対照抗原結合分子の結合アフィニティーと比較して、改変Fc領域を含む抗原結合分子の結合活性が、好ましくは少なくとも20%、より好ましくは少なくとも30%、さらにより好ましくは少なくとも40%、最も好ましくは少なくとも50%増強されることである。あるいは、患者において既存のADAに対する抗原結合分子の結合活性が有意に増強されるとは、抗原結合分子に対するECL反応が、好ましくは250超、好ましくは少なくとも500、より好ましくは少なくとも1000、最も好ましくは少なくとも2000のことである。より好ましくは、当該増強は、500未満(好ましくは250未満)である対照抗原結合分子のECL反応と比較して増強されていることである。対照抗原結合分子の既存のADAに対する結合活性と、改変Fc領域を有する抗原結合分子のそのような結合活性との間の好ましい範囲は、具体的には、ECL反応が250未満〜少なくとも250、250未満〜少なくとも500、500未満〜500以上、500未満〜1000以上、および500未満〜少なくとも2000である。
【0085】
既存のADAに対する結合活性が増強されるとは、患者集団における、a) 中性pHまたは酸性pHにおけるFcRnに対する結合活性およびb) 中性pHにおける既存のADAに対する結合活性が増強された抗原結合分子についてのECL反応が少なくとも500(好ましくは少なくとも250)である患者の測定された割合が、中性pHにおける対照抗原結合分子についてのECL反応が少なくとも500(好ましくは少なくとも250)である患者の割合と比較して上昇することにも相当し得る。患者集団における当該患者の割合が「有意に」上昇するとは、好ましくは、中性pHにおける改変Fc領域を含む治療用抗原結合分子のリウマトイド因子に対するECL反応が500以下(好ましくは250以上)である患者が、対照抗原結合分子についてECL反応を有する患者の割合と比較して、少なくとも10%、少なくとも20%、少なくとも30%、少なくとも40%、少なくとも50%上昇することである。当該上昇は、好ましくは少なくとも20%、より好ましくは少なくとも30%、さらにより好ましくは少なくとも40%、最も好ましくは50%以上の上昇である。
【0086】
本発明において、既存のADAに対する結合アフィニティーが低下するとは、測定された結合活性(すなわち、KDまたはECL反応)が、参照抗体について測定された結合活性と比較して低下することを意味する。既存のADAに対する結合アフィニティーのこのような低下は、個々の患者または患者群で観察され得る。個々の患者において中性pHにおける既存のADAに対する治療用抗原結合分子のアフィニティーが低下するとは、該患者において、測定された中性pHにおける結合活性が、参照抗体について測定された中性pHにおける既存のADAに対する結合活性と比較して低下することを意味する。好ましくは、個々の患者における有意な低下は、測定された中性pHにおける既存のADAに対する改変抗原結合分子の結合活性が、中性pHにおける既存のADAに対する参照抗体の結合活性と比較して、少なくとも10%、少なくとも20%、少なくとも30%、少なくとも40%、少なくとも50%低下することである。当該低下は、参照抗体と比較して、より好ましくは少なくとも30%、さらにより好ましくは40%、最も好ましくは50%以上低下することである。
【0087】
あるいは、個々の患者において既存のADAに対する改変抗原結合分子の結合活性が有意に低下するとは、500以上(好ましくは1000以上、最も好ましくは2000以上)であった該抗原結合分子のECL反応が、参照抗体のECL反応と比較して、500未満、好ましくは250未満へと低下することとして測定され得る。好ましい低下は、ECL反応が、500以上から500未満へ、より好ましくは少なくとも250から250未満へ、さらにより好ましくは少なくとも500から250未満と低下することである。好ましい範囲は、具体的には、少なくとも250〜250未満、少なくとも500〜250未満、少なくとも1000〜250未満、少なくとも2000〜250未満、少なくとも500〜500未満、少なくとも1000〜500未満、および少なくとも2000〜500未満である。
【0088】
当該低下はまた、患者集団における、pH中性域における改変抗原結合分子に対する既存のADAの結合が増強された患者の割合が低下することであってもよい。言い換えると、当該低下は、参照抗体に対するECL反応と比較して、改変抗原結合分子に対する既存のADAのECL反応を有する人の割合が低下することとして測定され得る。好ましくは、低下は、患者集団における、治療用抗原結合分子の既存のADAに対する結合活性が増強されている患者の割合が、参照抗体の既存のADAに対する結合活性が増強されている患者の割合と比較して、少なくとも10%、少なくとも20%、少なくとも30%、少なくとも40%、少なくとも50%低下することであってもよく、当該結合の増強は、500以上、好ましくは250以上のECL反応として示される。当該低下は、好ましくは少なくとも20%、より好ましくは少なくとも30%、さらにより好ましくは40%、最も好ましくは50%以上の低下である。
【0089】
好ましい態様において、本発明の治療用抗原結合分子は、中性pHにおける既存のADAに対する結合活性が低い。具体的には、中性pHにおける既存のADAに対する本発明の改変抗原結合分子の結合活性は、好ましくは中性pHにおける既存のADAに対する参照抗体の結合活性と比較して有意に低下している。より好ましくは、中性pHにおける既存のADAに対する本発明の改変抗原結合分子の結合活性は、対照抗原結合分子の結合アフィニティーと比較して有意に増強されていない(既存のADAに対して、対照抗原結合分子とほぼ同じ結合活性を有する)。既存のADAに対する結合活性が低いまたはアフィニティーがベースラインであるとは、好ましくは個々の患者におけるECL反応が500未満のことである。好ましくは、ECL反応は250未満である。ある患者集団において、既存のADAに対する結合活性が低いとは、当該患者集団における90%の患者、より好ましくは95%の患者、最も好ましくは98%の患者において、ECL反応が500未満のことである。
【0090】
より好ましい態様において、抗原結合分子は、中性pHまたは酸性pHにおけるFcRnに対するアフィニティーが増強された改変FcRn結合ドメインを含み、中性pHにおける既存のADAに対する結合活性は対照抗原結合分子と比較して有意に増強されておらず、本発明の改変FcRn結合ドメインは、表10に記載された位置または組み合わせのうちの1つまたは複数において置換を含む。
【0091】
(表10)
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【0092】
より好ましい態様において、本発明の抗原結合分子は、表11に記載された置換または組み合わせのうちの1つまたは複数を有する改変FcRn結合ドメインを含む。
【0093】
(表11)
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【0094】
好ましい態様において、抗原結合分子は、a) 中性pHまたは酸性pHにおけるFcRnに対するアフィニティーが増強されており、b) 中性pHにおける既存のADAに対する結合アフィニティーが対照抗原結合分子と比較して有意に増強されていない、改変FcRn結合ドメインを含み、該抗原結合分子は、表12に記載された置換の組み合わせのいずれか1つを含む。
【0095】
また、好ましくは、pH中性域におけるFcRn結合活性が増強されており、かつ、中性pHにおける既存のADAに対する結合アフィニティーが野生型Fc領域を含む抗原結合分子と比較して有意に増強されていない、抗原結合分子は、a) EU387、EU422、EU424、EU438、EU440、EU433からなる群より選択される1つもしくは複数の位置において、または、b) 組み合わせEU422/EU424もしくはEU438/EU440である2つ以上の位置において、FcRn結合ドメイン中にアミノ酸置換を含む。より好ましくは、当該置換は、表11に記載された置換の中から選択される。
【0096】
さらにより好ましくは、pH中性域におけるFcRnに対する結合活性が増強されており、かつ、中性pHにおける既存のADAに対する結合アフィニティーが野生型Fc領域を含む抗原結合分子と比較して有意に増強されていない、抗原結合分子のFcRn結合ドメインは、表12に記載された置換の組み合わせのいずれか1つを含む。具体的には、pH中性域におけるFcRn結合活性が増強されており、中性pHにおける既存のADAに対する結合アフィニティーが有意に増強されていない、好ましい改変抗原結合分子は、FcRn結合ドメイン中に3つ以上の置換を含み、該3つ以上の置換は、表12に記載された組み合わせ番号(2)〜(26)および(28)〜(59)のいずれか1つである。
【0097】
(表12)
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【0098】
本発明はまた、
pH酸性域におけるFcRnに対する結合活性が増強されており、かつ、中性pHにおける既存のADAに対する結合アフィニティーが対照抗原結合分子と比較して有意に増強されておらず、a) EU424位または b) EU438位/EU440位にアミノ酸置換を含む、抗原結合分子を提供する。
より好ましくは、当該置換は、a) EU424NおよびEU438R/EU440Eの中から選択される。
【0099】
好ましくは、
pH酸性域におけるFcRnに対する結合活性が増強されており、かつ、中性pHにおける既存のADAに対する結合アフィニティーが対照抗原結合分子と比較して有意に増強されていない、抗原結合分子のFcRn結合ドメインは、表13に記載された置換の組み合わせのうちの1つを含む。より好ましくは、
pH酸性域におけるFcRn結合活性が増強されており、中性pHにおける既存のADAに対する結合アフィニティーが対照抗原結合分子と比較して有意に増強されていない抗原結合分子は、表13に記載された置換組み合わせ番号(13)〜(28)のいずれか1つを含む。
【0100】
(表13)
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【0101】
EU387位、EU422位、EU424位、EU426位、EU433位、EU436位、EU438位、およびEU440位のいずれか1つにおける置換に加えて、本発明のFc領域はまた、以下の位置:
EU248、EU249、EU250、EU251、EU252、EU253、EU254、EU255、EU256、EU257、EU305、EU306、EU307、EU308、EU309、EU310、EU311、EU312、EU313、EU314、EU342、EU343、EU344、EU345、EU346、EU347、EU348、EU349、EU350、EU351、EU352、EU380、EU381、EU382、EU383、EU384、EU385、EU386、EU388、EU414、EU415、EU416、EU417、EU418、EU419、EU420、EU421、EU423、EU425、EU427、EU428、EU429、EU430、EU431、EU432、EU433、EU434、EU435、EU436、EU437、EU441、EU442、EU443、およびEU444
のうちの1つまたは複数においてアミノ酸の置換をさらに含み得る。
【0102】
これらの位置のいずれか1つにおいてFc領域を置換することで、FcRnに対する結合アフィニティーに負の影響を及ぼすことなく、既存のADA、特にリウマトイド因子に対する結合アフィニティーを低下させることができる。
【0103】
さらに、本発明の方法は、以下の位置:
EU248、EU249、EU250、EU251、EU252、EU253、EU254、EU255、EU256、EU257、EU305、EU306、EU307、EU308、EU309、EU310、EU311、EU312、EU313、EU314、EU342、EU343、EU344、EU345、EU346、EU347、EU348、EU349、EU350、EU351、EU352、EU380、EU381、EU382、EU383、EU384、EU385、EU386、EU388、EU414、EU415、EU416、EU417、EU418、EU419、EU420、EU421、EU423、EU425、EU427、EU428、EU429、EU430、EU431、EU432、EU433、EU434、EU435、EU436、EU437、EU441、EU442、EU443、およびEU444
のうちの1つまたは複数において、上記の抗原結合分子のFc領域を置換する工程をさらに含み得る。
【0104】
エフェクター受容体または補体タンパク質に対する結合活性が弱いかまたは結合活性がない
Fcγ受容体または補体タンパク質への結合もまた、望ましくない影響(例えば、不適切な血小板活性化)を引き起こし得る。FcγRIIa受容体などのエフェクター受容体に結合しない改変抗原結合分子は、より安全であり、かつ/またはより有効である。したがって、好ましい態様において、本発明の改変抗原結合分子はさらに、エフェクター受容体に対する結合活性が弱いかまたはエフェクター受容体に結合しない。エフェクター受容体の例には、活性化Fcγ受容体、特にFcγ受容体I、Fcγ受容体II、およびFcγ受容体IIIが含まれるが、これらに限定されない。Fcγ受容体Iには、Fcγ受容体Ia、Fcγ受容体Ib、およびFcγ受容体Ic、ならびにこれらのサブタイプが含まれる。Fcγ受容体IIには、Fcγ受容体IIa(2つのアロタイプR131およびH131を有する)およびFcγ受容体IIbが含まれる。Fcγ受容体IIIには、Fcγ受容体IIIa(2つのアロタイプ:V158およびF158を有する)およびFcγ受容体IIIb(2つのアロタイプ:FcγIIIb-NA1およびFcγIIIb-NA2を有する)が含まれる。エフェクター受容体に対する結合活性が弱いかまたはそれらに結合しない抗体は、例えば、サイレントFc領域を含む抗体、またはFc領域を含まない抗体(例えば、Fab、F(ab)'2、scFv、sc(Fv)2、ダイアボディ)である。
【0105】
エフェクター受容体に対する結合活性が弱いかまたは該結合活性をもたないFc領域の例は、例えば、Strohl et al.(Current Opinion in Biotechnology (2009) 20(6), 685-691)に記載されている。具体的には、例えば、脱グリコシル化されたFc領域(N297A、N297Q)、およびエフェクター機能がサイレント化(または免疫抑制)されるよう操作されたFc領域であるサイレントFc領域の例(IgG1-L234A/L235A、IgG1-H268Q/A330S/P331S、IgG1-C226S/C229S、IgG1-C226S/C229S/E233P/L234V/L235A、IgG1-L234F/L235E/P331S、IgG2-V234A/G237A、IgG2-H268Q/V309L/A330S/A331S、IgG4-L235A/G237A/E318A、IgG4-L236E)が記載されている。WO2008/092117には、置換G236R/L328R、L235G/G236R、N325A/L328R、またはN325L/L328R(位置はEUナンバリングシステムによる)を含むサイレントFc領域を含む抗体が開示されている。さらに、WO 2000/042072には、EU233位、EU234位、EU235位、およびEU237位のうちの1つまたは複数において置換を含むサイレントFc領域を含む抗体が開示されている。WO 2009/011941には、EU231〜EU238の残基の欠失を含むサイレントFc領域を含む抗体が開示されている。Davis et al(Journal of Rheumatology (2007) 34(11): 2204-2210)には、置換C220S/C226S/C229S/P238Sを含むサイレントFc領域を含む抗体が開示されている。Shields et al(Journal of Biological Chemistry (2001) 276 (9), 6591-6604)には、置換D265Aを含むサイレントFc領域を含む抗体が開示されている。
【0106】
「エフェクター受容体に対する弱い結合」という用語は、エフェクター受容体に対するインタクトなIgG(またはインタクトなFc領域を含む抗体)の結合活性の95%以下、好ましくは90%以下、85%以下、80%以下、75%以下、より好ましくは70%以下、65%以下、60%以下、55%以下、50%以下、45%以下、40%以下、35%以下、30%以下、25%以下、20%以下、15%以下、10%以下、9%以下、8%以下、7%以下、6%以下、5%以下、4%以下、3%以下、2%以下、1%以下である結合活性を意味する。FcγRに対する結合活性は、好ましくは、エフェクター受容体に対するインタクトなIgG(またはインタクトなFc領域を含む抗体)の結合活性と比較して、少なくとも約10倍以上、約50倍以上、約100倍以上低下する。
【0107】
サイレントFc領域は、インタクトなFc領域と比較してエフェクター受容体への結合を低下させる1つまたは複数のアミノ酸置換、挿入、付加、および/または欠失を含む改変Fc領域である。エフェクター受容体に対する結合活性は大きく低下し得るため、Fc領域はもはやエフェクター受容体と結合しない。サイレントFc領域の例には、EU234、EU235、EU236、EU237、EU238、EU239、EU265、EU266、EU267、EU269、EU270、EU271、EU295、EU296、EU297、EU298、EU300、EU324、EU325、EU327、EU328、EU329、EU331、およびEU332からなる群より選択される1つまたは複数の位置においてアミノ酸置換を含むFc領域が含まれるが、これらに限定されない。
【0108】
具体的には、サイレントFc領域は、EU234、EU235、EU236、EU237、EU238、EU239、EU265、EU266、EU267、EU269、EU270、EU271、EU295、EU296、EU297、EU298、EU300、EU324、EU325、EU327、EU328、EU329、EU331、およびEU332からなる群より選択される1つまたは複数の位置に、以下のリストより選択されるアミノ酸との置換を有する。好ましくは、サイレントFc領域は、EU235、EU237、EU238、EU239、EU270、EU298、EU325、およびEU329からなる群より選択される1つまたは複数の位置に、以下のリストより選択されるアミノ酸との置換を有する。
EU234位のアミノ酸は、好ましくは、Ala、Arg、Asn、Asp、Gln、Glu、Gly、His、Lys、Met、Phe、Pro、Ser、およびThrからなる群より選択されるアミノ酸のうちの1つと置き換えられる。
EU235位のアミノ酸は、好ましくは、Ala、Asn、Asp、Gln、Glu、Gly、His、Ile、Lys、Met、Pro、Ser、Thr、Val、およびArgからなる群より選択されるアミノ酸のうちの1つと置き換えられる。
EU236位のアミノ酸は、好ましくは、Arg、Asn、Gln、His、Leu、Lys、Met、Phe、Pro、およびTyrからなる群より選択されるアミノ酸のうちの1つと置き換えられる。
EU237位のアミノ酸は、好ましくは、Ala、Asn、Asp、Gln、Glu、His、Ile、Leu、Lys、Met、Pro、Ser、Thr、Val、Tyr、およびArgからなる群より選択されるアミノ酸のうちの1つと置き換えられる。
EU238位のアミノ酸は、好ましくは、Ala、Asn、Gln、Glu、Gly、His、Ile、Lys、Thr、Trp、およびArgからなる群より選択されるアミノ酸のうちの1つと置き換えられる。
EU239位のアミノ酸は、好ましくは、Gln、His、Lys、Phe、Pro、Trp、Tyr、およびArgからなる群より選択されるアミノ酸のうちの1つと置き換えられる。
EU265位のアミノ酸は、好ましくは、Ala、Arg、Asn、Gln、Gly、His、Ile、Leu、Lys、Met、Phe、Ser、Thr、Trp、Tyr、およびValからなる群より選択されるアミノ酸のうちの1つと置き換えられる。
EU266位のアミノ酸は、好ましくは、Ala、Arg、Asn、Asp、Gln、Glu、Gly、His、Lys、Phe、Pro、Ser、Thr、Trp、およびTyrからなる群より選択されるアミノ酸のうちの1つと置き換えられる。
EU267位のアミノ酸は、好ましくは、Arg、His、Lys、Phe、Pro、Trp、およびTyrからなる群より選択されるアミノ酸のうちの1つと置き換えられる。
EU269位のアミノ酸は、好ましくは、Ala、Arg、Asn、Gln、Gly、His、Ile、Leu、Lys、Met、Phe、Pro、Ser、Thr、Trp、Tyr、およびValからなる群より選択されるアミノ酸のうちの1つと置き換えられる。
EU270位のアミノ酸は、好ましくは、Ala、Arg、Asn、Gln、Gly、His、Ile、Leu、Lys、Met、Phe、Pro、Ser、Thr、Trp、Tyr、およびValからなる群より選択されるアミノ酸のうちの1つと置き換えられる。
EU271位のアミノ酸は、好ましくは、Arg、His、Phe、Ser、Thr、Trp、およびTyrからなる群より選択されるアミノ酸のうちの1つと置き換えられる。
EU295位のアミノ酸は、好ましくは、Arg、Asn、Asp、Gly、His、Phe、Ser、Trp、およびTyrからなる群より選択されるアミノ酸のうちの1つと置き換えられる。
EU296位のアミノ酸は、好ましくは、Arg、Gly、Lys、およびProからなる群より選択されるアミノ酸のうちの1つと置き換えられる。
EU297位のアミノ酸は、好ましくはAlaと置き換えられる。
EU298位のアミノ酸は、好ましくは、Arg、Gly、Lys、Pro、Trp、およびTyrからなる群より選択されるアミノ酸のうちの1つと置き換えられる。
EU300位のアミノ酸は、好ましくは、Arg、Lys、およびProからなる群より選択されるアミノ酸のうちの1つと置き換えられる。
EU324位のアミノ酸は、好ましくはLysまたはProと置き換えられる。
EU325位のアミノ酸は、好ましくは、Ala、Arg、Gly、His、Ile、Lys、Phe、Pro、Thr、Trp、Tyr、およびValからなる群より選択されるアミノ酸のうちの1つと置き換えられる。
EU327位のアミノ酸は、好ましくは、Arg、Gln、His、Ile、Leu、Lys、Met、Phe、Pro、Ser、Thr、Trp、Tyr、およびValからなる群より選択されるアミノ酸のうちの1つと置き換えられる。
EU328位のアミノ酸は、好ましくは、Arg、Asn、Gly、His、Lys、およびProからなる群より選択されるアミノ酸のうちの1つと置き換えられる。
EU329位のアミノ酸は、好ましくは、Asn、Asp、Gln、Glu、Gly、His、Ile、Leu、Lys、Met、Phe、Ser、Thr、Trp、Tyr、Val、およびArgからなる群より選択されるアミノ酸のうちの1つと置き換えられる。
EU330位のアミノ酸は、好ましくはProまたはSerと置き換えられる。
EU331位のアミノ酸は、好ましくは、Arg、Gly、およびLysからなる群より選択されるアミノ酸のうちの1つと置き換えられる。
EU332位のアミノ酸は、好ましくは、Arg、Lys、およびProからなる群より選択されるアミノ酸のうちの1つと置き換えられる。
好ましくは、サイレントFc領域は、EU235位におけるLysもしくはArgとの置換、EU237位におけるLysもしくはArgとの置換、EU238位におけるLysもしくはArgとの置換、EU239位におけるLysもしくはArgとの置換、EU270位におけるPheとの置換、EU298位におけるGlyとの置換、EU325位におけるGlyとの置換、またはEU329位におけるLysもしくはArgとの置換を含む。より好ましくは、サイレントFc領域は、EU235位におけるアルギニンとの置換およびEU239位におけるリジンとの置換を含む。より好ましくは、サイレントFc領域は置換L235R/S239Kを含む。
【0109】
さらに、本発明の改変抗原結合分子は好ましくは脱グリコシル化されている。より好ましくは、本発明の改変抗原結合分子は、例えばWO2005/03175に記載されているような部位におけるグリコシル化を妨げるために、重鎖グリコシル化部位に変異を含む。したがって、本発明の好ましい態様において、グリコシル化されない改変抗原結合分子は、重鎖グリコシル化部位を改変し、すなわち置換N297QまたはN297A(位置はEUナンバリングシステムによる)を導入し、このタンパク質を適切な宿主細胞で発現させることによって調製される。置換を導入するには、実施例に記載された方法を用いることができる。
【0110】
本発明の特定の態様において、本発明の改変抗原結合分子は、補体タンパク質に対して結合活性が弱いかまたは補体タンパク質に結合しない。好ましくは、補体タンパク質はC1qである。補体タンパク質に対する弱い結合活性とは、好ましくは、インタクトなIgGまたはインタクトなFc領域を含む抗体の補体タンパク質に対する結合活性と比較して約10倍以上、約50倍以上、約100倍以上低下した、補体タンパク質に対する結合活性である。補体タンパク質に対するFc領域の結合活性は、アミノ酸置換、挿入、付加、および/または欠失などのアミノ酸配列の改変によって低下させることができる。
【0111】
本発明の好ましい態様において、抗原結合分子は、酸性pHまたは中性pHにおけるFcRn結合アフィニティーが増強されており、かつ、エフェクター受容体および/また補体タンパク質に対する結合活性が弱いかまたは当該結合活性をもたない。好ましくは、このような抗原結合分子は、
a) EU238、EU250、EU252、EU254、EU255、EU256、EU258、EU286、EU307、EU308、EU309、EU311、EU315、EU428、EU433、EU434、およびEU436からなる群より選択される1つまたは複数の位置、ならびに
b) EU234、EU235、EU236、EU237、EU238、EU239、EU265、EU266、EU267、EU269、EU270、EU271、EU295、EU296、EU297、EU298、EU300、EU324、EU325、EU327、EU328、EU329、EU331、およびEU332(EUナンバリングシステムによる)からなる群より選択される1つまたは複数の位置
において、FcRn結合ドメイン中に置換を含む。より好ましくは、エフェクター受容体および/または補体タンパク質に対する結合活性が低下した、または結合活性をもたない本発明の改変抗原結合分子は、EU235位におけるLysまたはArgとの置換、EU237位におけるLysまたはArgとの置換、EU238位におけるLysまたはArgとの置換、EU239位におけるLysまたはArgとの置換、EU270位におけるPheとの置換、EU298位におけるGlyとの置換、EU325位におけるGlyとの置換、およびEU329位におけるLysまたはArgとの置換からなる群より選択される、Fc領域における1つまたは複数の置換を含む。さらにより好ましくは、当該抗原結合分子は、Fc領域において、EU235位におけるArgとの置換、およびEU239位におけるLysとの置換を含む。さらにより好ましくは、当該抗原結合分子はFc領域において置換の組み合わせL235R/S239Kを含む。
【0112】
好ましくは、このような抗原結合分子はまた、既存のADAに対する結合活性が有意に増強されていない。そのため、エフェクター受容体および/または補体タンパク質に対する結合活性が低下した、または結合活性をもたない本発明の抗原結合分子は、c) EU387、EU422、EU424、EU426、EU433、EU436、EU438、およびEU440からなる群より選択される1つまたは複数の位置にアミノ酸置換をさらに含む。本発明のより好ましい態様において、改変抗原結合分子は、FcRn結合ドメイン中に3つ以上のアミノ酸置換を含み、該3つ以上の置換は、表14および15に記載された組み合わせのうちの1つである。
【0113】
(表14)
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【0114】
(表15)
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【0115】
さらなる改変
さらに、本発明の抗原結合分子は、上記の改変に加えて、FcRn結合ドメインのEU257位に、アラニン、バリン、イソロイシン、ロイシン、およびスレオニンからなる群より選択されるアミノ酸を含まず、
かつ/またはFcRn結合ドメインのEU252位にトリプトファンを含まない。言い換えると、本発明の好ましい抗原結合分子は、上記の改変のいずれかに加えて、EU257位にアラニン、バリン、イソロイシン、ロイシン、スレオニン、アルギニン、アスパラギン、アスパラギン酸、システイン、グルタミン酸、グルタミン、グリシン、ヒスチジン、リジン、メチオニン、フェニルアラニン、プロリン、セリン、トリプトファン、またはチロシンを含み、かつEU252位にアルギニン、アスパラギン、アスパラギン酸、システイン、グルタミン酸、グルタミン、グリシン、ヒスチジン、リジン、メチオニン、フェニルアラニン、プロリン、セリン、またはチロシンを含む。
【0116】
本明細書で言及する位置または位置の組み合わせのいずれか1つにおける置換に加えて、EU239位にリジンおよび/またはEU270位にフェニルアラニンを含む改変FcRn結合ドメインもまた好ましい。
【0117】
抗原結合分子
本発明の抗原結合分子は、対象とする抗原への特異的な結合活性を有する抗原結合ドメインおよび本発明のFcRn結合ドメインを含んでいれば、特に限定されない。抗原結合ドメインの好ましい例として、抗体の抗原結合領域を有しているドメインを挙げることができる。抗体の抗原結合領域の例として、CDRを挙げることができる。抗体の抗原結合領域は、全長抗体に含まれる6つのCDR全てを含んでいてもよいし、1つ若しくは2つ以上のCDRを含んでいてもよい。抗体の抗原結合領域は、アミノ酸の欠失、置換、付加及び/又は挿入を含み、又、CDRの一部分を含んでもよい。
【0118】
また、本発明の抗原結合分子は、アンタゴニスト活性を有する抗原結合分子(アンタゴニスト抗原結合分子)、アゴニスト活性を有する抗原結合分子(アゴニスト抗原結合分子)、および細胞傷害活性を有する分子を含む。好ましい態様として、抗原結合分子は、アンタゴニスト抗原結合分子であり、特に受容体やサイトカインなどの抗原を認識するアンタゴニスト抗原結合分子である。
【0119】
本発明の抗原結合分子は好ましくは抗体である。本発明の好ましい抗体には、例えばIgG抗体が含まれる。用いられる抗体がIgG抗体である場合、IgGのタイプは特に限定されず、したがってIgGはIgG1、IgG2、IgG3、またはIgG4などの任意のアイソタイプ(サブクラス)に属してよい。ヒトIgG1、IgG2、IgG3、またはIgG4定常領域については、遺伝子多型(アロタイプ)が「Sequences of proteins of immunological interest, NIH Publication No.91-3242」に記載されている。これらのアロタイプもまた、本出願における定常領域のために用いることができる。特にヒトIgG1については、アミノ酸Asp-Glu-Leu(DEL)およびGlu-Glu-Met(EEM)の両方が、EUナンバリングで示される356〜358の残基に用いられ得る。同様に、ヒト免疫グロブリンκ定常領域についても、遺伝子多型(アロタイプ)が「Sequences of proteins of immunological interest, NIH Publication No.91-3242」に記載されている。これらのアロタイプもまた、本出願における定常領域のために用いることができる。さらに、本発明の抗原結合分子は抗体定常領域を含んでもよく、定常領域にアミノ酸変異が導入されてもよい。導入されるアミノ酸変異には、例えば、Fcγ受容体への結合を増強するかまたは損なうもの(Proc Natl Acad Sci U S A. 2006 Mar 14;103(11):4005-10)が含まれるが、これらの例に限定されない。あるいは、IgG2などの適切な定常領域を選択することによって、pH依存的結合を変化させることも可能である(WO09125825)。
【0120】
本発明の抗原結合分子が抗体である場合、抗体はマウス、ヒト、ラット、ウサギ、ヤギ、またはラクダなどの任意の動物に由来し得る。好ましくは、抗体はヒト抗体である。さらに、抗体は、改変抗体、例えばキメラ抗体、特にヒト化抗体の配列中にアミノ酸置換を含む改変抗体等であってもよい。本発明によって企図される抗体のカテゴリーにはまた、二重特異性抗体、様々な分子と連結させた抗体改変産物、および抗体断片(特に免疫原性および/または免疫反応性抗体断片)を含むポリペプチドが含まれる。好ましい態様において、抗原結合分子はモノクローナル抗体である。
【0121】
「キメラ抗体」とは、異なる動物由来の配列を組み合わせて調製される抗体である。具体的には、キメラ抗体には、例えば、マウス抗体由来の重鎖および軽鎖可変(V)領域ならびにヒト抗体由来の重鎖および軽鎖定常(C)領域を有する抗体が含まれる。キメラ抗体を作製する方法は公知である。ヒト-マウスキメラ抗体の場合、例えば、抗体V領域をコードするDNAをヒト抗体C領域をコードするDNAに連結してよく;これを発現ベクターに挿入し、宿主に導入して、キメラ抗体を産生させることができる。
【0122】
「ヒト化抗体」とは、再構成(reshaped)ヒト抗体とも称される、ヒト以外の哺乳動物由来の抗体、例えばマウス抗体の相補性決定領域(CDR;complementarity determining region)をヒト抗体のCDRへ移植したものである。CDRを同定するための方法は公知である(Kabat et al., Sequence of Proteins of Immunological Interest (1987), National Institute of Health, Bethesda, Md.; Chothia et al., Nature (1989) 342: 877)。また、その一般的な遺伝子組換え手法も公知である(欧州特許出願公開番号EP 125023号公報、WO 96/02576 号公報参照)。ヒト化抗体は公知の方法により、例えば、マウス抗体のCDRを決定し、該CDRとヒト抗体のフレームワーク領域(framework region;FR)とが連結された抗体をコードするDNAを取得し、ヒト化抗体を通常の発現ベクターを用いた系により産生することができる。このようなDNAは、CDR及びFR両方の末端領域にオーバーラップする部分を有するように作製した数個のオリゴヌクレオチドをプライマーとして用いてPCR法により合成することができる(WO98/13388号公報に記載の方法を参照)。CDRを介して連結されるヒト抗体のFRは、CDRが良好な抗原結合部位を形成するように選択される。必要に応じ、再構成ヒト抗体のCDRが適切な抗原結合部位を形成するように、抗体の可変領域におけるFRのアミノ酸を改変してもよい(Sato et al., Cancer Res. (1993) 53: 10.01-6)。改変できるFR中のアミノ酸残基には、抗原に直接、非共有結合により結合する部分(Amit et al., Science (1986) 233: 747-53)、CDR構造に影響または作用する部分(Chothia et al., J. Mol. Biol. (1987) 196: 901-17)及びVH-VL相互作用に関連する部分(EP239400号特許公報)が含まれる。
【0123】
本発明における抗原結合分子がキメラ抗体またはヒト化抗体である場合には、これらの抗体の定常領域は、好ましくはヒト抗体由来のものが使用される。例えばH鎖では、Cγ1、Cγ2、Cγ3、Cγ4などを、L鎖ではCκ、Cλなどを使用することができる。また、Fcγ受容体への結合を増強あるいは低減するために、抗体の安定性または抗体の産生を改善するために、ヒト抗体C領域を必要に応じアミノ酸変異を導入してもよい。本発明におけるキメラ抗体は、好ましくはヒト以外の哺乳動物由来抗体の可変領域とヒト抗体由来の定常領域とからなる。一方、ヒト化抗体は、好ましくはヒト以外の哺乳動物由来抗体のCDRと、ヒト抗体由来のFRおよびC領域とからなる。ヒト抗体由来の定常領域は、ヒトFcRn結合領域を含んでいることが好ましく、そのような抗体の例として、IgG(IgG1、IgG2、IgG3、IgG4)を挙げることができる。本発明におけるヒト化抗体に用いられる定常領域は、どのアイソタイプに属する抗体の定常領域であってもよい。好ましくは、ヒトIgG1由来の定常領域が用いられるが、これに限定されるものではない。また、ヒト化抗体に利用されるヒト抗体由来のFRも特に限定されず、どのアイソタイプに属する抗体のものであってもよい。
【0124】
本発明において用いる「二重特異性抗体」という用語は、異なるエピトープを認識する可変領域を同一の抗体分子内に有する抗体をいう。二重特異性抗体は2種以上の異なる抗原を認識する抗体であってもよいし、同一抗原上の異なる2種以上のエピトープを認識する抗体であってもよい。
【0125】
さらに、抗体断片を含むポリペプチドは、例えば、scFv-Fc(WO 2005/037989)、dAb-Fc、およびFc融合タンパク質であってもよい。そのようなポリペプチドの抗原断片は、例えば、Fab断片、F(ab')2断片、scFv(Nat Biotechnol. 2005 Sep;23(9):1126-36.)、ドメイン抗体 (dAb)(WO2004/058821、WO2003/002609)であってもよい。Fc領域を含んでいる分子は、Fc領域をヒトFcRn結合ドメインとして用いることができる。また、これらの分子にヒトFcRn結合ドメインを融合させてもよい。
【0126】
さらに、本発明に適用可能な抗原結合分子は、抗体様分子であってもよいし、抗体様分子を含んでもよい(例えば、本発明のFc領域と抗体様分子との融合タンパク質)。抗体様分子(足場分子、ペプチド分子)とは、標的分子に結合することで機能を発揮するような分子であり(Current Opinion in Biotechnology 2006, 17:653-658、Current Opinion in Biotechnology 2007, 18:1-10、Current Opinion in Structural Biology 1997, 7:463-469、Protein Science 2006, 15:14-27)、例えば、DARPins(WO2002/020565)、アフィボディ(Affibody)(WO1995/001937)、アビマー(Avimer)(WO2004/044011, WO2005/040229)、アドネクチン(Adnectin)(WO2002/032925)等が挙げられる。これら抗体様分子であっても、標的分子に対してpH依存的もしくはカルシウム依存的に結合し、且つ/または、pH中性域においてヒトFcRn結合活性を有することが出来れば、抗原結合分子による抗原の細胞内への取り込みを促進させ、抗原結合分子の投与により血漿中の抗原濃度の低下を促進させ、抗原結合分子の薬物動態を改善し、1分子の抗原結合分子が結合できる抗原の数を増加させることが可能である。
【0127】
また抗原結合分子は、リガンドを含む標的に結合する受容体タンパク質に本発明のFcRn結合ドメインが融合されたタンパク質であってもよく、例えば、TNFR-Fc融合タンパク、IL1R-Fc融合タンパク、VEGFR-Fc融合タンパク、CTLA4-Fc融合タンパク等(Nat Med. 2003 Jan;9(1):47-52、BioDrugs. 2006;20(3):151-60.)が挙げられる。これら受容体-FcRn結合ドメイン融合タンパク質であっても、リガンドを含む標的分子に対してpH依存的もしくはカルシウム依存的に結合し、更に、pH中性域においてFcRn結合活性を有することが出来れば、抗原結合分子による抗原の細胞内への取り込みを促進させ、抗原結合分子の投与により血漿中の抗原濃度の低下を促進させ、抗原結合分子の薬物動態を改善し、1分子の抗原結合分子が結合できる抗原の数を増加させることが可能である。受容体タンパク質は、リガンドを含む標的に対する受容体タンパク質の結合ドメインを含めるように適宜設計および修飾される。本明細書において先に記載した例(すなわち、TNFR-Fc融合タンパク質、IL1R-Fc融合タンパク質、VEGFR-Fc融合タンパク質、およびCTLA4-Fc融合タンパク質)にあるように、リガンドを含む標的との結合に必要な受容体タンパク質の細胞外ドメインを含む可溶型受容体分子が、特に好ましい。そのような設計および修飾された受容体分子は、本発明において人工受容体と呼ばれる。人工受容体分子を構築するよう受容体分子を設計および修飾するための方法は、当技術分野において公知であり、実際に通常用いられている。
【0128】
さらに、本発明の抗体は、修飾された糖鎖を有してもよい。糖鎖が修飾された抗体の例としては、例えば、グリコシル化が修飾された抗体(WO99/54342など)、糖鎖に付加するフコースが欠損した抗体(WO00/61739、WO02/31140、WO2006/067847、WO2006/067913など)、バイセクティングGlcNAcを有する糖鎖を有する抗体(WO02/79255など)などを挙げることができる。
【0129】
the Journal of Immunology (2009) 182: 7663-7671によれば、pH酸性域(pH 6.0)におけるインタクトなヒトIgG1のヒトFcRn結合活性はKD 1.7μM(μM)であり、pH中性域ではその活性はほとんど検出不可能である。よって、好ましい態様において、本発明の抗原結合分子には、pH酸性域におけるヒトFcRn結合活性がKD 1.7μMよりも強く、かつpH中性域におけるヒトFcRn結合活性がインタクトなヒトIgGのものと等しいかまたはそれよりも強い、抗原結合分子が含まれる。より好ましい態様において、pH中性域における既存のADAに対するその結合活性は、インタクトなIgGと比較して有意に増強されていない。上記のKD値は、the Journal of Immunology (2009) 182: 7663-7671に記載された方法(抗原結合分子をチップ上に固定化し、アナライトとしてヒトFcRnを流すこと)によって決定される。
【0130】
ヒトFcRn結合活性の値としてKD(解離定数)を用いることが可能であるが、インタクトなヒトIgGのヒトFcRn結合活性はpH中性域(pH7.4)ではほとんど認められない、したがって、当該活性をKDとして算出することは困難な場合が多い。pH7.4でのヒトFcRn結合活性が、インタクトなヒトIgGよりも高いかどうかを判断する方法として、Biacoreにおける同じ濃度でアナライトを流した時の結合レスポンスの大小で判断する方法があげられる。すなわち、インタクトなヒトIgGを固定化したチップにヒトFcRnをpH7.4で流した時のレスポンスよりも、抗原結合分子を固定化したチップにヒトFcRnをpH7.4で流した時のレスポンスのほうが大きければ、その抗原結合分子のpH7.4でのヒトFcRn結合活性はインタクトなヒトIgGよりも高いと判断できる。
【0131】
本発明において、pH中性域としてpH 7.0を用いることができる。中性pHとしてpH 7.0を用いることで、ヒトFcRnとFcRn結合ドメインとの間の弱い相互作用を促進することができる。10℃〜50℃の任意の温度をアッセイ条件において使用する温度として結合アフィニティーを評価することができる。好ましくは、ヒトFcRn結合ドメインとヒトFcRnとの間の結合アフィニティーを決定するために、15℃〜40℃の温度を使用する。より好ましくは、ヒトFcRn結合ドメインとヒトFcRnとの間の結合アフィニティーを決定するために、20℃、21℃、22℃、23℃、24℃、25℃、26℃、27℃、28℃、29℃、30℃、31℃、32℃、33℃、34℃、および35℃のうちのいずれか1つのような、20℃〜35℃の任意の温度も同様に使用される。WO2011/122011の実施例5に記載された25℃という温度は、本発明の態様に関する一例である。好ましい態様において、ヒトFcRnとFcRn結合ドメインとの間の相互作用は、WO2011/122011の実施例5に記載されている通りpH 7.0および25℃で測定され得る。ヒトFcRnに対する抗原結合分子の結合アフィニティーは、WO2011/122011の実施例5に記載されている通りBiacoreによって測定され得る。
【0132】
好ましくは、pH中性域における結合アフィニティーは、生体内の血漿中(血中)のpHに近いpH 7.4で測定される。ヒトFcRn結合ドメインとヒトFcRnとの間の結合アフィニティーがpH 7.4では低いためにそのアフィニティーを評価することが難しい場合には、pH 7.4の代わりにpH7.0を用いることができる。好ましくは、pH酸性域における結合アフィニティーは、生体内の早期エンドソーム内のpHに近いpH 6.0で測定される。アッセイ条件において使用される温度として、ヒトFcRn結合ドメインとヒトFcRnとの間の結合アフィニティーを10℃〜50℃の任意の温度で評価することができる。好ましくは、ヒトFcRn結合ドメインとヒトFcRnとの間の結合アフィニティーを決定するために、15℃〜40℃の温度が使用される。より好ましくは、ヒトFcRn結合ドメインとヒトFcRnとの間の結合アフィニティーを決定するために、20℃、21℃、22℃、23℃、24℃、25℃、26℃、27℃、28℃、29℃、30℃、31℃、32℃、33℃、34℃、および35℃のうちのいずれか1つのような、20℃〜35℃の任意の温度も同様に使用される。25℃という温度は、例えばWO2011/122011の実施例5および本発明の実施例において記載されている。
【0133】
ヒトFcRn結合活性または生体内活性に関して抗原結合分子と比較するための参照インタクトヒトIgGとして、好ましくはインタクトなヒトIgG1、IgG2、IgG3、またはIgG4が用いられる。好ましくは、本発明が対象とする抗原結合分子と同じ抗原結合ドメインと、ヒトFcRn結合ドメインとしてのインタクトなヒトIgG Fc領域とを含む抗原結合分子が参照として用いられる。より好ましくは、そのヒトFcRn結合活性または生体内活性を本発明の抗原結合分子のヒトFcRn結合活性または生体内活性と比較するための参照インタクトヒトIgGとして、インタクトなヒトIgG1が用いられる。
【0134】
抗原やヒトFcRnへの結合活性を測定する際のpH以外の条件は当業者が適宜選択することが可能であり、特に限定されない。例えば、WO2009/125825に記載のようにMESバッファー、37℃の条件において測定することが可能である。別の態様では、WO2011/122011の実施例4または5に記載ように、25℃でリン酸ナトリウム緩衝液を用いて活性を測定することが可能である。又、抗原結合分子の抗原結合活性およびヒトFcRn結合活性の測定は当業者に公知の方法により行うことが可能であり、例えば、Biacore(GE Healthcare)などを用いて測定することが可能である。抗原結合分子と抗原の結合活性の測定は、抗原が可溶型抗原である場合は、抗原結合分子を固定化したチップへ、抗原をアナライトとして流すことで可溶型抗原への結合活性を評価することが可能であり、抗原が膜型抗原である場合は、抗原を固定化したチップへ、抗原結合分子をアナライトとして流すことで膜型抗原への結合活性を評価することが可能である。抗原結合分子とヒトFcRnの結合活性の測定は、抗原結合分子あるいはヒトFcRnを固定化したチップへ、それぞれヒトFcRnあるいは抗原結合分子をアナライトとして流すことで評価することが可能である。
【0135】
本発明は、抗原結合ドメインと、pH中性域におけるFcRn結合活性が増強されたヒトFc領域とを含む本発明の抗原結合分子を提供する。好ましくは、pH中性域における既存のADAに対する前記抗原結合分子の結合活性は有意に増強されていない。pH中性域におけるこのような抗原結合分子のFcRn結合活性は、好ましくはKD 3.2μMよりも強い。より好ましくは、pH中性域におけるFcRn結合活性は700ナノモル濃度よりも強く、さらにより好ましくは500ナノモル濃度よりも強く、最も好ましくは150ナノモル濃度よりも強い。好ましくは、抗原結合分子は、pH中性域におけるヒトFcRn結合活性が増強されており、かつ、抗原結合活性が、pH中性域よりもpH酸性域において低いか、または高カルシウム濃度条件よりも低カルシウム濃度において低い。好ましくは、pH中性域における既存のADAに対するこのような抗原結合分子の結合活性は有意に増強されていない。本発明はまた、抗原結合ドメインおよびヒトFcRn結合ドメインを含む本発明の抗原結合分子を提供し、そのヒトFcRn結合活性はpH中性域において増強されており、さらにpH中性域におけるヒトFcRn結合活性はインタクトなヒトIgGのものよりも28倍強く、より好ましくはpH中性域におけるヒトFcRn結合活性はインタクトなヒトIgGのものよりも38倍強い。好ましくは、pH中性域における既存のADAに対するこのような抗原結合分子の結合活性は有意に増強されていない。pH中性域におけるFcRn結合活性が増強されており、好ましくはpH中性域における既存のADAに対する結合活性が有意に増強されていない本発明の抗原結合分子は、好ましくは、pH 7.0および25℃におけるヒトFcRn結合活性が、インタクトなヒトIgGよりも28倍強く、好ましくは38倍強い。あるいは、pH 7.0および25℃におけるFcRn結合活性が増強された抗原結合分子のヒトFcRn結合活性は、好ましくはKD3.2μMよりも強い。より好ましくは、pH 7.0および25℃におけるFcRn結合活性は、700ナノモル濃度よりも強く、より好ましくは500ナノモル濃度よりも強く、最も好ましくは150ナノモル濃度よりも強い。
【0136】
本発明は、抗原結合ドメインと、pH酸性域におけるFcRn結合活性が増強されており、かつ、pH中性域における既存のADAに対する結合活性が有意に増強されていない本発明のヒトFc領域とを含む、本発明の抗原結合分子を提供する。本発明はまた、抗原結合ドメインと、pH酸性域におけるヒトFcRn結合活性が増強されており、かつ、pH中性域における既存のADAに対する結合活性がインタクトなIgGの既存のADAに対する結合活性と比較して有意に増強されていないヒトFcRn結合ドメインとを含む、本発明の抗原結合分子を提供し、ここで、pH酸性域におけるヒトFcRn結合活性は、インタクトなヒトIgGのヒトFcRn結合活性よりも約2倍〜約100倍強い範囲である。好ましくは、pH酸性域における本発明の抗原結合分子のヒトFcRn結合活性は、インタクトなヒトIgGのFcRn結合活性よりも少なくとも10倍強く、より好ましくは、pH酸性域におけるヒトFcRn結合活性は、インタクトなヒトIgGのものよりも少なくとも20倍強い。pH酸性域におけるFcRn結合活性が増強されており、pH中性域における既存のADAに対する結合活性が有意に増強されていない本発明の抗原結合分子は、pH 6.0および25℃におけるヒトFcRn結合活性が、インタクトなヒトIgGよりも10倍強く、好ましくは20倍強い。
【0137】
本発明の抗原結合分子は、pH中性域におけるFcRn結合活性が増強されていてもよく、かつ、pH酸性域における抗原結合活性がpH中性域における抗原結合活性よりも低くてもよく、または低カルシウム濃度における抗原結合活性が高カルシウム濃度条件における抗原結合活性よりも低くてもよい。このような抗原結合分子の具体例には、pH 7.4におけるヒトFcRnに対する結合活性がインタクトなIgよりも高く、抗原結合活性が、生体内の血漿中のpHであると推定されるpH 7.4よりも生体内の早期エンドソーム内のpHであると推定されるpH 5.8において低いものが含まれる。抗原結合活性がpH 7.4よりもpH 5.8において低い抗原結合分子はまた、抗原結合活性がpH 5.8よりもpH 7.4において強い抗原結合分子と称され得る。pH 5.8とpH 7.4における抗原に対する解離定数(KD)の比であるKD(pH 5.8)/KD(pH 7.4)の値は、1.5、2、3、4、5、10、15、20、50、70、80、100、500、1000、または10,000であり、好ましくは2以上であり、より好ましくは10以上であり、さらにより好ましくは40以上である。KD(pH 5.8)/KD(pH 7.4)値の上限は特に限定されず、当業者の技術を用いて製造が可能である限り、例えば400、1,000、または10,000といった任意の値であってよい。
pH酸性域におけるFcRn結合活性が増強されており、かつ、抗原結合活性がpH中性域よりもpH酸性域において低いか、または抗原結合活性が高カルシウム濃度よりも低カルシウム濃度において低い、本発明の抗原結合分子もまた好ましい。好ましくは、pH中性域における既存のADAに対するこのような抗原結合分子の結合活性は有意に増強されていない。このような抗原結合分子の具体例には、生体内の早期エンドソーム内のpHであると推定されるpH 5.8〜6.0においてヒトFcRnに対する結合活性がIgGよりも高く、抗原結合活性がpH 7.4よりもpH 5.8において低いものが含まれる。抗原結合活性がpH 7.4よりもpH 5.8において低い抗原結合分子はまた、抗原結合活性がpH 7.4よりもpH 5.8において弱い抗原結合分子と称され得る。好ましくは、pH酸性域におけるFcRnに対する結合活性が増強された抗原結合分子は、pH中性域におけるFcRn結合活性がインタクトなヒトIgGよりも強い。
【0138】
本発明の改変FcRn結合ドメインは、標的抗原のタイプにかかわらず、任意の抗原結合分子に適用可能である。
【0139】
本発明の抗原結合分子は他の特性を有していてもよい。例えば、本発明の抗原結合分子は、a)pH中性域におけるヒトFcRn結合活性が必要なだけ増強されているか、またはb) 酸性域におけるヒトFcRn結合活性が増強されており、かつ、既存のADAに対するその結合活性が有意に増強されていない限り、アゴニスト抗原結合分子であってもアンタゴニスト抗原結合分子であってもよい。好ましくは、このような抗原結合分子の抗原結合活性は、pH中性域よりもpH酸性域において低い。本発明の好ましい抗原結合分子には、例えばアンタゴニスト抗原結合分子が含まれる。このようなアンタゴニスト抗原結合分子は典型的には、リガンド(アゴニスト)と受容体との結合を阻止することによって受容体媒介性細胞内シグナル伝達を阻害する抗原結合分子である。
【0140】
一方、本発明の抗原結合分子は任意の抗原を認識してよい。本発明の抗原結合分子によって認識される具体的な抗原には、例えば、上記の受容体タンパク質(膜結合型受容体および可溶性受容体)、細胞表面マーカーなどの膜抗原、およびサイトカインなどの可溶型抗原が含まれる。このような抗原には、例えば以下に記載された抗原が含まれる。
【0141】
抗原結合ドメインを含む本発明の抗原結合分子は、血漿とエンドソームとで異なる、抗原に対する抗原結合分子の結合アフィニティー(血漿では強く結合し、エンドソームでは弱く結合する)を得るために、血漿とエンドソームとの環境の差としてpHの差を利用し得る。血漿とエンドソームの環境の差は、pHの差に限定されないことから、抗原に対する抗原結合分子の結合に及ぼすpH依存的結合特性は、例えばイオン化カルシウム濃度などの、血漿中とエンドソーム内で濃度が異なる他の要因を利用することによって置き換えることができる。このような要因を用いて、血漿中では抗原に結合するが、エンドソーム内では抗原を解離する抗体を作製することもできる。ゆえに、本発明には、ヒトFcRn結合活性がpH中性域において増強され、エンドソームにおける抗原結合活性が血漿と比較して低い、ヒトFcRn結合ドメインを含む抗原結合分子も含まれる。好ましくは、pH中性域における既存のADAに対するこれらの抗原結合分子の結合活性は有意に増強されていない。このような抗原結合分子のヒトFcRn結合活性は、血漿中でインタクトなヒトIgGのものよりも強く、さらにはこのような抗原結合分子の抗原結合ドメインは、抗原に対するアフィニティーが血漿中よりもエンドソーム内部で弱い。好ましくは、抗原結合ドメインは、pH酸性域における抗原結合活性がpH中性域における抗原結合活性よりも低い抗原結合ドメイン(pH依存的抗原結合ドメイン)、または抗原結合活性が高カルシウム濃度条件下よりも低カルシウム濃度で低い抗原結合ドメイン(カルシウム濃度依存的抗原結合ドメイン)である。本発明はまた、pH酸性域におけるヒトFcRn結合活性が増強されているヒトFcRn結合ドメインを有する抗原結合分子であって、抗原に対するアフィニティーが血漿中よりもエンドソーム内部で弱い抗原結合ドメインをさらに含み、その結果、エンドソームにおける抗原結合分子のヒトFcRn結合活性がインタクトなヒトIgGのものよりも強く、かつエンドソームにおける抗原結合分子の抗原結合活性が血漿中よりも強い、抗原結合分子を含む。好ましくは、pH中性域における既存のADAに対するこれらの抗原結合分子の結合活性は有意に増強されていない。好ましくは、抗原結合ドメインは、pH酸性域における抗原結合活性がpH中性域における抗原結合活性よりも低い抗原結合ドメイン(pH依存的抗原結合ドメイン)、または抗原結合活性が高カルシウム濃度条件下よりも低カルシウム濃度で低い抗原結合ドメイン(カルシウム濃度依存的抗原結合ドメイン)である。
【0142】
本発明の抗原結合分子は、特に本発明の抗原結合分子がpH依存的抗原結合ドメインまたはカルシウム濃度依存的抗原結合ドメインである抗原結合ドメインを含む場合に、細胞内への抗原の取り込みを促進する。抗原結合分子はエンドソーム内で抗原から容易に解離し、次にヒトFcRnに結合することによって細胞の外部に放出される。本発明の抗原結合分子は、血漿中で再度抗原に容易に結合すると推定される。よって、例えば、本発明の抗原結合分子が中和抗原結合分子である場合、この分子を投与することで血漿中抗原濃度の低下が促進され得る。
【0143】
抗原結合ドメイン
好ましくは、抗原結合分子の抗原結合ドメインは、酸性pHまたは低カルシウムイオン濃度において抗原に対するアフィニティーが低下する。より好ましくは、抗原結合ドメインは、本明細書に記載されたpH依存的抗原結合ドメインまたはイオン化カルシウム濃度依存的抗原結合ドメインである。
【0144】
A) pH依存的抗原結合ドメイン
さらに、本発明の抗原結合分子は、好ましくは、pH酸性域における抗原結合活性がpH中性域における抗原結合活性よりも低いpH依存的抗原結合ドメインを含む。該抗原結合分子は、好ましくは、抗原結合活性がpH中性域よりもpH酸性域において低い。抗原結合活性がpH中性域よりもpH酸性域において低い限り、結合活性の比は限定されない。好ましい態様において、本発明の抗原結合分子には、pH 7.4における抗原結合活性がpH 5.8における抗原結合活性よりも2倍以上、好ましくは10倍以上高い抗原結合分子が含まれる。さらにより好ましい態様において、本発明の抗原結合分子には、pH 7.4における抗原結合活性がpH 5.8における抗原結合活性よりも40倍以上高い抗原結合分子が含まれる。
【0145】
本発明の抗原結合分子の具体例には、WO 2009/125825に記載された態様が含まれる。好ましい態様において、pH依存的抗原結合ドメインを含む本発明の抗原結合分子は、pH 5.8における抗原結合活性がpH 7.4における抗原結合活性よりも低く、pH 5.8における抗原に対するKDとpH 7.4における抗原に対するKDの比であるKD(pH 5.8)/KD(pH 7.4)の値は、好ましくは2以上であり、より好ましくは10以上であり、さらにより好ましくは40以上である。KD(pH 5.8)/KD(pH 7.4)値の上限は特に限定されず、当業者の技術を用いて製造が可能である限り、例えば400、1,000、または10,000といった任意の値であってよい。
【0146】
別の好ましい態様において、pH 5.8における抗原結合活性がpH 7.4における抗原結合活性よりも低い本発明の抗原結合分子は、pH 5.8における抗原に対するKDとpH 7.4における抗原に対するKDの比であるKD(pH 5.8)/KD(pH 7.4)の値が2以上であり、より好ましくは5以上であり、さらにより好ましくは10以上であり、さらにより好ましくは30以上である。KD(pH 5.8)/KD(pH 7.4)値の上限は特に限定されず、当業者の技術を用いて製造が可能である限り、例えば50、100、または200といった任意の値であってよい。
【0147】
抗原結合活性、既存のADAに対する結合活性、およびヒトFcRn結合活性を測定する際のpH以外の条件は、当業者が適宜選択することができ、このような条件は特に限定されない;しかしながら測定は、例えば、実施例に記載されたようにMESバッファーおよび37℃の条件下で行うことができる。さらに、抗原結合分子の抗原結合活性は、例えば、実施例に記載されたようにBiacore T100(GE Healthcare)等を用いるなど、当業者に公知の方法によって決定することができる。
【0148】
pH酸性域における抗原結合分子の抗原結合活性をpH中性域における抗原結合活性よりも低下させる(弱くする)方法(pH依存的結合能を付与する方法)は、特に限定されず、適切な方法は当業者に公知である。例えばWO 2009/125825において、抗原結合ドメイン中のアミノ酸をヒスチジンに置換するか、または抗原結合ドメインにヒスチジンを挿入することにより、pH酸性域における抗原結合活性をpH中性域における抗原結合活性よりも低下させる(弱くする)方法が記載されている。抗体中のアミノ酸をヒスチジンに置換することにより、抗体がpH依存的抗原結合活性を付与され得ることがさらに知られている(FEBS Letter (1992) 309(1): 85-88)。他の適切な方法には、抗原結合ドメイン中のアミノ酸を非天然アミノ酸に置換するか、または抗原結合ドメインに非天然アミノ酸を挿入する方法が含まれる。非天然アミノ酸を用いることにより、pKaを人為的に調整できることが知られている(Angew. Chem. Int. Ed. 2005, 44, 34; Chem Soc Rev. 2004 Sep 10, 33 (7): 422-30; Amino Acids. (1999) 16(3-4): 345-79)。本発明において、任意の非天然アミノ酸を用いることができる。実際に、当業者に公知である非天然アミノ酸を用いることが可能である。
【0149】
好ましい態様において、pH酸性域での抗原結合活性がpH中性域での抗原結合活性よりも低い抗原結合ドメインを含む本発明の抗原結合分子として、抗原結合分子中のアミノ酸の少なくとも1つがヒスチジン又は非天然アミノ酸に置換されており且つ/又は少なくとも1つのヒスチジン又は非天然アミノ酸が挿入されている抗原結合分子を挙げることができる。ヒスチジン又は非天然アミノ酸変異が導入される位置は特に限定されず、置換前と比較して、結果として生じたpH酸性域における抗原結合活性がpH中性域における抗原結合活性より弱くなる(KD(pH酸性域)/KD(pH中性域)の値が大きくなる、又はk
d(pH酸性域)/k
d(pH中性域)の値が大きくなる)限り、当業者によって適切と考えられるいかなる部位でもよい。例えば、抗原結合分子が抗体の場合には、抗体の可変領域やCDRなどを挙げることができる。ヒスチジン又は非天然アミノ酸に置換されるアミノ酸の数、又は挿入されるアミノ酸の数は当業者が適宜決定することができ、1つのアミノ酸をヒスチジン又は非天然アミノ酸で置換してもよいし、1つのアミノ酸を挿入してもよいし、2つ以上の複数のアミノ酸をヒスチジン又は非天然アミノ酸で置換してもよいし、2つ以上のアミノ酸を挿入してもよい。又、ヒスチジン又は非天然アミノ酸への置換又はヒスチジン又は非天然アミノ酸の挿入以外に、他のアミノ酸の欠失、付加、挿入および/または置換などを同時に行ってもよい。ヒスチジン又は非天然アミノ酸への置換又はヒスチジン又は非天然アミノ酸の挿入は、当業者の公知のアラニンスキャニングのアラニンをヒスチジンに置き換えたヒスチジンスキャニングなどの方法によりランダムに行ってもよい。そしてヒスチジン又は非天然アミノ酸変異がランダムに導入された抗原結合分子の中から、変異前と比較してKD(pH5.8)/KD(pH7.4)又はk
d(pH5.8)/k
d(pH7.4)の値が大きくなった抗原結合分子を選択することができる。
【0150】
中性pH(すなわちpH7.4)での抗原結合ドメインの結合活性が維持されていることが好ましい。ヒスチジン又は非天然アミノ酸変異前の抗原結合分子の抗原結合活性を100%とした場合、ヒスチジン又は非天然アミノ酸変異後のpH7.4での抗原結合分子の抗原結合活性は、少なくとも10%以上、好ましくは50%以上、さらに好ましくは80%以上、より好ましくは90%以上である。ヒスチジン又は非天然アミノ酸変異後のpH7.4での抗原結合活性がヒスチジン又は非天然アミノ酸変異前のpH7.4での抗原結合活性より高くなってもよい。ヒスチジン又は非天然アミノ酸への置換又は挿入により抗原結合分子の抗原結合活性が低くなった場合には、抗原結合分子中の1又は複数のアミノ酸の置換、欠失、付加及び/又は挿入などにより抗原結合活性をヒスチジン置換又は挿入前の抗原結合活性と同等にしてもよい。
【0151】
本発明においてヒスチジン又は非天然アミノ酸に置換される箇所の例として、抗原結合分子が抗体の場合には、抗体のCDR配列やCDRの構造を決定する配列が改変箇所として考えられ、例えばWO2009/125825に記載の箇所を挙げることができる。
【0152】
さらに、本発明は、以下のうちの1箇所における少なくとも1つのアミノ酸がヒスチジン又は非天然アミノ酸に置換された抗原結合分子を提供する。
重鎖:H27、H31、H32、H33、H35、H50、H58、H59、H61、H62、H63、H64、H65、H99、H100b、およびH102
軽鎖:L24、L27、L28、L32、L53、L54、L56、L90、L92、およびL94
これらの改変箇所のうち、H32、H61、L53、L90、およびL94は普遍性の高い改変箇所と考えられる。アミノ酸位置はKabatナンバリング(Kabat et al., Sequences of Immunological Interest. 5th Ed. Public Health Service, National Institutes of Health, Bethesda, Md. (1991))で示している。Kabatナンバリングシステムは一般的に、可変ドメインの残基(およそ、軽鎖の1番目〜107番目の残基および重鎖の1番目〜113番目の残基)について言及する場合に用いられる(例えば、Kabat et al., Sequences of Immunological Interest. 5th Ed. Public Health Service, National Institutes of Health, Bethesda, Md. (1991))。複数の箇所を組み合わせてヒスチジン又は非天然アミノ酸に置換する場合の好ましい組み合わせの具体例としては、例えば、H27、H31、およびH35の組み合わせ、H27、H31、H32、H35、H58、H62、およびH102の組み合わせ、L32およびL53の組み合わせ、L28、L32、およびL53の組み合わせ等を挙げることができる。さらに、重鎖と軽鎖の置換箇所の好ましい組み合わせの例としては、H27、H31、L32、およびL53の組み合わせを挙げることができる。
【0153】
特に限定されないが、抗原がIL-6受容体(例えば、ヒトIL-6受容体)の場合の好ましい改変箇所として以下の箇所を挙げることができる。
重鎖:H27、H31、H32、H35、H50、H58、H61、H62、H63、H64、H65、H100b、およびH102
軽鎖:L24、L27、L28、L32、L53、L56、L90、L92、およびL94
複数の箇所を組み合わせてヒスチジン又は非天然アミノ酸に置換する場合の好ましい組み合わせの具体例としては、例えば、H27、H31、およびH35の組み合わせ、H27、H31、H32、H35、H58、H62、およびH102の組み合わせ、L32およびL53の組み合わせ、L28、L32、およびL53の組み合わせ等を挙げることができる。さらに、重鎖と軽鎖の置換箇所の好ましい組み合わせの例としては、H27、H31、L32、およびL53の組み合わせを挙げることができる。
【0154】
上記の位置のうちの1つまたは複数において、ヒスチジンまたは非天然アミノ酸に置換することができる。
【0155】
あるいは、本発明の抗原結合分子は、pH 5.8における抗原結合活性がpH 7.4における抗原結合活性よりも低くなるように改変された抗体定常領域を含み得る。抗原結合分子に含まれる抗体定常領域を改変する方法は公知であり、実際に当業者にとって慣習的である。改変後の抗体定常領域の具体例には、WO 2009/125825の実施例に記載された定常領域(配列番号:11、12、13、および14)が含まれる。
【0156】
また、抗体定常領域の改変方法としては、例えば、定常領域のアイソタイプ(IgG1、IgG2、IgG3、およびIgG4)を複数検討し、pH酸性域における抗原結合活性が低下する(pH酸性域における解離速度が速くなる)アイソタイプを選択する方法が知られており、挙げられる。さらに野生型アイソタイプのアミノ酸配列(野生型IgG1、IgG2、IgG3、またはIgG4アミノ酸配列)にアミノ酸置換を導入することで、pH酸性域における抗原結合活性を低下させる(pH酸性域における解離速度が速くする)方法が挙げられる。アイソタイプ(IgG1、IgG2、IgG3、およびIgG4)によって抗体定常領域のヒンジ領域の配列が大きく異なり、ヒンジ領域のアミノ酸配列の違いは抗原結合活性に大きく影響を与えるため、抗原やエピトープの種類によって適切なアイソタイプを選択することでpH酸性域における抗原結合活性が低下する(pH酸性域における解離速度が速くする)アイソタイプを選択することが可能である。また、ヒンジ領域のアミノ酸配列の違いは抗原結合活性に大きく影響を与えることから、野生型アイソタイプのアミノ酸配列のアミノ酸置換箇所としては、ヒンジ領域が望ましいと考えられる。
【0157】
pH酸性域における抗原結合活性がpH中性域における抗原結合活性より低下した(弱い)抗原結合分子(pH依存的結合を示す抗原結合分子)は、上述の方法を用いることでこのような性質を有さない抗原結合分子からアミノ酸置換や挿入によって作製することができるが、それ以外の方法として、このような性質を有する抗原結合分子を直接取得する方法が挙げられる。例えば、動物(マウス、ラット、ハムスター、ウサギ、ヒト免疫グロブリントランスジェニックマウス、ヒト免疫グロブリントランスジェニックラット、ヒト免疫グロブリントランスジェニックウサギ、ラマ、ラクダ等)へ抗原を免疫して得られた抗体を抗原へのpH依存的結合を指標にスクリーニングを行い、目的の性質を有する抗体を直接取得してもよい。抗体は、当業者公知の方法であるハイブリドーマ技術またはB細胞クローニング技術(Bernasconi et al, Science (2002) 298, 2199-2202; WO2008/081008)によって生成されうるが、これらに限定されない。または、目的の特性を有する抗体を、インビトロで抗原結合ドメインを提示するライブラリーからpH依存的抗原結合を指標として用いてスクリーニングすることによって直接選択してもよい。そのようなライブラリーには、当業者公知のライブラリー(Methods Mol Biol. 2002; 178: 87-100;J Immunol Methods. 2004 Jun; 289(1-2): 65-80;およびExpert Opin Biol Ther. 2007 May; 7(5): 763-79)である、ヒトナイーブライブラリー、非ヒト動物およびヒト由来の免疫ライブラリー、半合成ライブラリーならびに合成ライブラリーが含まれるが、これらに限定されない。しかし、方法はこれらの例に特に限定されない。
【0158】
B) イオン化カルシウム依存的抗原結合ドメイン
別の好ましい態様において、本発明の抗原結合分子はカルシウムイオン依存的抗原結合ドメインを含む。このような抗原結合分子の抗原結合活性はカルシウム濃度に依存し、低カルシウム濃度における抗原結合活性は、高カルシウム濃度における抗原結合活性よりも低い。
【0159】
好ましくは、抗原結合活性には、0.5〜10μMのイオン化カルシウム濃度における抗原結合活性が含まれる。より好ましいイオン化カルシウム濃度には、生体内の早期エンドソーム内のイオン化カルシウム濃度が含まれる。具体的には、抗原結合活性には、1〜5μMにおける活性が含まれる。一方、高カルシウム濃度における抗原結合分子の抗原結合活性は、100μM〜10 mMのイオン化カルシウム濃度における抗原結合活性である限り、特に限定されない。好ましくは、抗原結合活性には、200μM〜5 mMのイオン化カルシウム濃度における抗原結合活性が含まれる。好ましくは、低カルシウム濃度は0.1〜30μMのイオン化カルシウム濃度であり、高カルシウム濃度は100μM〜10 mMのイオン化カルシウム濃度である。
【0160】
好ましくは、低カルシウム濃度はエンドソーム内のイオン化カルシウム濃度であり、高カルシウム濃度は血漿中のイオン化カルシウム濃度である。より具体的には、該カルシウム依存的抗原結合ドメインを含む抗原結合分子には、生体内の早期エンドソーム内のイオン化カルシウム濃度(1〜5μMなどの低カルシウム濃度)における抗原結合活性が、生体内の血漿中のイオン化カルシウム濃度(0.5〜2.5 mMなどの高カルシウム濃度)における抗原結合活性よりも低い抗原結合分子が含まれる。
【0161】
低カルシウム濃度における抗原結合活性が高カルシウム濃度における抗原結合活性よりも低い抗原結合分子の抗原結合活性に関して、低カルシウム濃度における抗原結合活性が高カルシウム濃度における抗原結合活性よりも低い限り、この抗原結合活性の差は限定されない。抗原結合分子の抗原結合活性が、低カルシウム濃度条件下でわずかにより低いだけであることでさえ許容され得る。
【0162】
好ましい態様において、低カルシウム濃度(低Ca)における抗原結合活性が高カルシウム濃度(高Ca)における抗原結合活性よりも低い本発明の抗原結合分子について、低カルシウム濃度と高カルシウム濃度とのKD比であるKD(低Ca)/KD(高Ca)の値は2以上であり、好ましくはKD(低Ca)/KD(高Ca)の値は10以上であり、より好ましくはKD(低Ca)/KD(高Ca)の値は40以上である。KD(低Ca)/KD(高Ca)値の上限は特に限定されず、当業者に公知の技法により製造され得る限り、400、1,000、および10,000などの任意の値であってよい。
【0163】
別の好ましい態様において、低カルシウム濃度における抗原結合活性が高カルシウム濃度における抗原結合活性よりも低いカルシウム依存的抗原結合ドメインを含む抗原結合分子について、低カルシウム濃度条件およびpH 7.4における抗原に対するkdの比であるkd(低Ca)/kd(高Ca)の値は2以上であり、好ましくはkd(低Ca)/kd(高Ca)の値は5以上であり、より好ましくはkd(低Ca)/kd(高Ca)の値は10以上であり、さらにより好ましくはkd(低Ca)/kd(高Ca)の値は30以上である。kd(低Ca)/kd(高Ca)値の上限は特に限定されず、当業者に公知の技法により製造され得る限り、50、100、および200などの任意の値であってよい。
【0164】
抗原結合分子の抗原結合活性は当業者に公知の方法により測定することが可能であり、イオン化カルシウム濃度以外の条件については当業者が適宜決定することが可能である。抗原結合分子の抗原結合活性は、KD(解離定数)、見かけのKD(見かけの解離定数)、解離速度であるkd(解離速度)、又は見かけのkd(見かけの解離速度)等として評価することが可能である。これらは当業者公知の方法で測定することが可能であり、例えばBiacore (GE Healthcare)、スキャッチャードプロット、FACS等を用いることが可能である。
【0165】
本発明のスクリーニング法によってスクリーニングされる抗原結合分子は、任意の抗原結合分子であってよい。例えば、天然配列を有する抗原結合分子、またはアミノ酸配列が置換された抗原結合分子をスクリーニングすることが可能である。本発明のスクリーニング法によってスクリーニングされるカルシウムイオン依存的抗原結合ドメインを含む抗原結合分子は、任意の方法によって調製され得る。例えば、既存の抗体、既存のライブラリー(ファージライブラリー等)、ならびに免疫された動物のB細胞または動物を免疫することにより調製されたハイブリドーマから調製された抗体およびライブラリー、カルシウムをキレート化し得るアミノ酸(例えば、アスパラギン酸またはグルタミン酸)または非天然アミノ酸による変異をこのような抗体またはライブラリーに導入することによって得られた抗体またはライブラリー(非天然アミノ酸またはカルシウムをキレート化し得るアミノ酸(例えば、アスパラギン酸またはグルタミン酸)の含有率が高いライブラリー、特定の部位において非天然アミノ酸による変異またはカルシウムをキレート化し得るアミノ酸(例えば、アスパラギン酸またはグルタミン酸)による変異が導入されたライブラリー等)などを用いることが可能である。
【0166】
低カルシウム濃度条件下における抗原結合活性が高カルシウム濃度条件下における抗原結合活性よりも低い抗原結合分子は、当技術分野で慣習的な方法を用いて容易にスクリーニングし、同定し、かつ単離することができる(例えば、PCT出願第PCT/JP2011/077619号を参照されたい)。このようなスクリーニング法の例は、以下より選択される少なくとも1つの機能を有する抗原結合分子についてアッセイする工程を含む:
(i) 細胞内への抗原の取り込みを促進する機能;
(ii) 抗原に2回以上結合する機能;
(iii) 血漿中抗原濃度の低下を促進する機能;および
(iv) 優れた血漿中滞留性の機能。
【0167】
具体的には、本発明は、以下の工程を含む、カルシウムイオン依存的抗原結合ドメインを含む抗原結合分子をスクリーニングする方法を提供する:
(a) 低カルシウム濃度条件下における抗原結合分子の抗原結合活性を決定する工程;
(b) 高カルシウム濃度条件下における抗原結合分子の抗原結合活性を決定する工程;および
(c) 低カルシウム濃度条件下における抗原結合活性が高カルシウム濃度条件下における抗原結合活性よりも低い抗原結合分子を選択する工程。
【0168】
カルシウムイオン依存的抗原結合ドメインを有する抗原結合分子を製造する方法は、例えば、以下の工程を含む方法である:
(a) 低カルシウム濃度条件下における抗原結合分子の抗原結合活性を決定する工程;
(b) 高カルシウム濃度条件下における抗原結合分子の抗原結合活性を決定する工程;および
(c) 低カルシウム濃度条件下における抗原結合活性が高カルシウム濃度条件下における抗原結合活性よりも低い抗原結合分子を選択する工程。
【0169】
カルシウムイオン依存的抗原結合ドメインを有する抗原結合分子を製造する別の方法は、以下の工程を含む方法である:
(a) 高カルシウム濃度条件下で抗原を抗原結合分子または抗原結合分子のライブラリーと接触させる工程;
(b) 工程(a)で抗原に結合した抗原結合分子を得る工程;
(c) 工程(b)で得られた抗原結合分子を低カルシウム濃度条件下に置く工程;
(d) 工程(c)における抗原結合活性が工程(b)の選択に関する活性よりも低い抗原結合分子を得る工程;
(e) 工程(d)で得られた抗原結合分子をコードする遺伝子を得る工程;および
(f) 工程(e)で得られた遺伝子を用いて抗原結合分子を製造する工程。
工程(a)〜(e)は2回以上繰り返してもよい。したがって、本発明は、上記の方法において、工程(a)〜(e)を2回以上繰り返す工程をさらに含む方法を提供する。工程(a)〜(e)の反復回数は特に限定されないが、典型的には10回以下である。
【0170】
本発明の製造方法において用いられる抗原結合分子は、任意の従来法によって調製することができる。例えば、既存の抗体、既存のライブラリー(ファージライブラリー等)、動物を免疫することにより得られたハイブリドーマまたは免疫された動物のB細胞から調製された抗体およびライブラリー、ヒスチジンまたは非天然アミノ酸による変異を上記の抗体およびライブラリーに導入することによって調製された抗体およびライブラリー(ヒスチジンまたは非天然アミノ酸の含有率が高いライブラリー、特定の部位にヒスチジンまたは非天然アミノ酸が導入されたライブラリー等)などを用いることが可能である。
このようなカルシウムイオン依存的抗原結合分子またはカルシウムイオン依存的抗原結合ドメインをスクリーニングするさらなる方法は、PCT出願第PCT/JP2011/077619号に記載されている。
【0171】
抗原
本発明の抗体等の本発明の抗原結合分子が認識する抗原は特に限定されず、そのような本発明の抗原結合分子は、いかなる抗原を認識するものであってもよい。本発明の抗原結合分子が認識する抗原の具体的な例としては、17-IA、4-1 BB、4Dc、6-ケト-PGF1a、8-イソ-PGF2a、8-オキソ-dG、A1アデノシン受容体、A33、ACE、ACE-2、アクチビン、アクチビンA、アクチビンAB、アクチビンB、アクチビンC、アクチビンRIA、アクチビンRIA ALK-2、アクチビンRIB ALK-4、アクチビンRIIA、アクチビンRIIB、ADAM、ADAM10、ADAM12、ADAM15、ADAM17/TACE、ADAM8、ADAM9、ADAMTS、ADAMTS4、ADAMTS5、アドレシン(Addressins)、アディポネクチン、ADPリボシルシクラーゼ-1、aFGF、AGE、ALCAM、ALK、ALK-1、ALK-7、アレルゲン、α1-アンチキモトリプシン、α1-アンチトリプシン、α-シヌクレイン、α-V/β-1アンタゴニスト、アミニン(aminin)、アミリン、アミロイドβ、アミロイド免疫グロブリン重鎖可変領域、アミロイド免疫グロブリン軽鎖可変領域、アンドロゲン、ANG、アンジオテンシノーゲン、アンジオポエチンリガンド-2、抗Id、アンチトロンビンIII、炭疽、APAF-1、APE、APJ、アポA1、アポ血清アミロイドA、アポ-SAA、APP、APRIL、AR、ARC、ART、アルテミン(Artemin)、ASPARTIC、心房性ナトリウム利尿因子、心房性ナトリウム利尿ペプチド、心房性ナトリウム利尿ペプチドA、心房性ナトリウム利尿ペプチドB、心房性ナトリウム利尿ペプチドC、av/b3インテグリン、Axl、B7-1、B7-2、B7-H、BACE、BACE-1、バチルス・アントラシス(Bacillus anthracis)防御抗原、Bad、BAFF、BAFF-R、Bag-1、BAK、Bax、BCA-1、BCAM、Bcl、BCMA、BDNF、b-ECGF、β-2-ミクログロブリン、βラクタマーゼ、bFGF、BID、Bik、BIM、BLC、BL-CAM、BLK、Bリンパ球刺激因子(BIyS)、BMP、BMP-2 (BMP-2a)、BMP-3 (オステオゲニン(Osteogenin))、BMP-4 (BMP-2b)、BMP-5、BMP-6 (Vgr-1)、BMP-7 (OP-1)、BMP-8 (BMP-8a)、BMPR、BMPR-IA (ALK-3)、BMPR-IB (ALK-6)、BMPR-II (BRK-3)、BMP、BOK、ボンベシン、骨由来神経栄養因子(Bone-derived neurotrophic factor)、ウシ成長ホルモン、BPDE、BPDE-DNA、BRK-2、BTC、Bリンパ球細胞接着分子、C10、C1阻害因子、C1q、C3、C3a、C4、C5、C5a(補体5a)、CA125、CAD-8、カドヘリン-3、カルシトニン、cAMP、炭酸脱水酵素-IX、癌胎児抗原(CEA)、癌関連抗原(carcinoma-associated antigen)、カルジオトロフィン-1、カテプシンA、カテプシンB、カテプシンC/DPPI、カテプシンD、カテプシンE、カテプシンH、カテプシンL、カテプシンO、カテプシンS、カテプシンV、カテプシンX/Z/P、CBL、CCI、CCK2、CCL、CCL1/I-309、CCL11/エオタキシン、CCL12/MCP-5、CCL13/MCP-4、CCL14/HCC-1、CCL15/HCC-2、CCL16/HCC-4、CCL17/TARC、CCL18/PARC、CCL19/ELC、CCL2/MCP-1、CCL20/MIP-3-α、CCL21/SLC、CCL22/MDC、CCL23/MPIF-1、CCL24/エオタキシン-2、CCL25/TECK、CCL26/エオタキシン-3、CCL27/CTACK、CCL28/MEC、CCL3/M1P-1-α、CCL3Ll/LD-78-β、CCL4/MIP-l-β、CCL5/RANTES、CCL6/C10、CCL7/MCP-3、CCL8/MCP-2、CCL9/10/MTP-1-γ、CCR、CCR1、CCR10、CCR2、CCR3、CCR4、CCR5、CCR6、CCR7、CCR8、CCR9、CD1、CD10、CD105、CD11a、CD11b、CD11c、CD123、CD13、CD137、CD138、CD14、CD140a、CD146、CD147、CD148、CD15、CD152、CD16、CD164、CD18、CD19、CD2、CD20、CD21、CD22、CD23、CD25、CD26、CD27L、CD28、CD29、CD3、CD30、CD30L、CD32、CD33 (p67タンパク質)、CD34、CD37、CD38、CD3E、CD4、CD40、CD40L、CD44、CD45、CD46、CD49a、CD49b、CD5、CD51、CD52、CD54、CD55、CD56、CD6、CD61、CD64、CD66e、CD7、CD70、CD74、CD8、CD80 (B7-1)、CD89、CD95、CD105、CD158a、CEA、CEACAM5、CFTR、cGMP、CGRP受容体、CINC、CKb8-1、クローディン18、CLC、クロストリジウム・ボツリヌム(Clostridium botulinum)毒素、クロストリジウム・ディフィシレ(Clostridium difficile)毒素、クロストリジウム・パーフリンジェンス(Clostridium perfringens)毒素、c-Met、CMV、CMV UL、CNTF、CNTN-1、補体因子3 (C3)、補体因子D、コルチコステロイド結合グロブリン、コロニー刺激因子-1受容体、COX、C-Ret、CRG-2、CRTH2、CT-1、CTACK、CTGF、CTLA-4、CX3CL1/フラクタルカイン、CX3CR1、CXCL、CXCL1/Gro-α、CXCL10、CXCL11/I-TAC、CXCL12/SDF-l-α/β、CXCL13/BCA-1、CXCL14/BRAK、CXCL15/ラングカイン(Lungkine)、CXCL16、CXCL16、CXCL2/Gro-β CXCL3/Gro-γ、CXCL3、CXCL4/PF4、CXCL5/ENA-78、CXCL6/GCP-2、CXCL7/NAP-2、CXCL8/IL-8、CXCL9/Mig、CXCLlO/IP-10、CXCR、CXCR1、CXCR2、CXCR3、CXCR4、CXCR5、CXCR6、シスタチンC、サイトケラチン腫瘍関連抗原、DAN、DCC、DcR3、DC-SIGN、崩壊促進因子、デルタ様タンパク質(Delta-like protein)リガンド4、des(1-3)-IGF-1 (脳IGF-1)、Dhh、DHICAオキシダーゼ、Dickkopf-1、ジゴキシン、ジペプチジルペプチダーゼIV、DK1、DNAM-1、Dnase、Dpp、DPPIV/CD26、Dtk、ECAD、EDA、EDA-A1、EDA-A2、EDAR、EGF、EGFR (ErbB-1)、EGF様ドメイン含有タンパク質7(EGF like domain containing protein 7)、エラスターゼ、エラスチン、EMA、EMMPRIN、ENA、ENA-78、エンドシアリン(Endosialin)、エンドセリン受容体、エンドトキシン、エンケファリナーゼ、eNOS、Eot、エオタキシン、エオタキシン-2、エオタキシニ(eotaxini)、EpCAM、エフリンB2/EphB4、Epha2チロシンキナーゼ受容体、上皮増殖因子受容体 (EGFR)、ErbB2受容体、ErbB3チロシンキナーゼ受容体、ERCC、エリスロポエチン(EPO)、エリスロポエチン受容体、E-セレクチン、ET-1、エクソダス(Exodus)-2、RSVのFタンパク質、F10、F11、F12、F13、F5、F9、第Ia因子、第IX因子、第Xa因子、第VII因子、第VIII因子、第VIIIc因子、Fas、FcαR、FcイプシロンRI、FcγIIb、FcγRI、FcγRIIa、FcγRIIIa、FcγRIIIb、FcRn、FEN-1、フェリチン、FGF、FGF-19、FGF-2、FGF-2受容体、FGF-3、FGF-8、酸性FGF(FGF-acidic)、塩基性FGF(FGF-basic)、FGFR、FGFR-3、フィブリン、線維芽細胞活性化タンパク質(FAP)、線維芽細胞増殖因子、線維芽細胞増殖因子-10、フィブロネクチン、FL、FLIP、Flt-3、FLT3リガンド、葉酸受容体、卵胞刺激ホルモン(FSH)、フラクタルカイン(CX3C)、遊離型重鎖、遊離型軽鎖、FZD1、FZD10、FZD2、FZD3、FZD4、FZD5、FZD6、FZD7、FZD8、FZD9、G250、Gas 6、GCP-2、GCSF、G-CSF、G-CSF受容体、GD2、GD3、GDF、GDF-1、GDF-15 (MIC-1)、GDF-3 (Vgr-2)、GDF-5 (BMP-14/CDMP-1)、GDF-6 (BMP-13/CDMP-2)、GDF-7 (BMP-12/CDMP-3)、GDF-8 (ミオスタチン)、GDF-9、GDNF、ゲルゾリン、GFAP、GF-CSF、GFR-α1、GFR-α2、GFR-α3、GF-β1、gH外被糖タンパク質、GITR、グルカゴン、グルカゴン受容体、グルカゴン様ペプチド1受容体、Glut 4、グルタミン酸カルボキシペプチダーゼII、糖タンパク質ホルモン受容体、糖タンパク質IIb/IIIa (GP IIb/IIIa)、グリピカン-3、GM-CSF、GM-CSF受容体、gp130、gp140、gp72、顆粒球-CSF (G-CSF)、GRO/MGSA、成長ホルモン放出因子、GRO-β、GRO-γ、ピロリ菌(H. pylori)、ハプテン(NP-capまたはNIP-cap)、HB-EGF、HCC、HCC 1、HCMV gB外被糖タンパク質、HCMV UL、造血増殖因子(Hemopoietic growth factor) (HGF)、Hep B gp120、ヘパラナーゼ、ヘパリン補因子II、肝細胞増殖因子(hepatic growth factor)、バチルス・アントラシス防御抗原、C型肝炎ウイルスE2糖タンパク質、E型肝炎、ヘプシジン、Her1、Her2/neu (ErbB-2)、Her3 (ErbB-3)、Her4 (ErbB-4)、単純ヘルペスウイルス(HSV) gB糖タンパク質、HGF、HGFA、高分子量メラノーマ関連抗原(High molecular weight melanoma-associated antigen) (HMW-MAA)、GP120等のHIV外被タンパク質、HIV MIB gp 120 V3ループ、HLA、HLA-DR、HM1.24、HMFG PEM、HMGB-1、HRG、Hrk、HSP47、Hsp90、HSV gD糖タンパク質、ヒト心筋ミオシン、ヒトサイトメガロウイルス(HCMV)、ヒト成長ホルモン(hGH)、ヒト血清アルブミン、ヒト組織型プラスミノーゲン活性化因子(t-PA)、ハンチンチン、HVEM、IAP、ICAM、ICAM-1、ICAM-3、ICE、ICOS、IFN-α、IFN-β、IFN-γ、IgA、IgA受容体、IgE、IGF、IGF結合タンパク質、IGF-1、IGF-1 R、IGF-2、IGFBP、IGFR、IL、IL-1、IL-10、IL-10受容体、IL-11、IL-11受容体、IL-12、IL-12受容体、IL-13、IL-13受容体、IL-15、IL-15受容体、IL-16、IL-16受容体、IL-17、IL-17受容体、IL-18 (IGIF)、IL-18受容体、IL-1α、IL-1β、IL-1受容体、IL-2、IL-2受容体、IL-20、IL-20受容体、IL-21、IL-21受容体、IL-23、IL-23受容体、IL-2受容体、IL-3、IL-3受容体、IL-31、IL-31受容体、IL-3受容体、IL-4、IL-4受容体、IL-5、IL-5受容体、IL-6、IL-6受容体、IL-7、IL-7受容体、IL-8、IL-8受容体、IL-9、IL-9受容体、免疫グロブリン免疫複合体、免疫グロブリン、INF-α、INF-α受容体、INF-β、INF-β受容体、INF-γ、INF-γ受容体、I型IFN、I型IFN受容体、インフルエンザ、インヒビン、インヒビンα、インヒビンβ、iNOS、インスリン、インスリンA鎖、インスリンB鎖、インスリン様増殖因子1、インスリン様増殖因子2、インスリン様増殖因子結合タンパク質、インテグリン、インテグリンα2、インテグリンα3、インテグリンα4、インテグリンα4/β1、インテグリンα-V/β-3、インテグリンα-V/β-6、インテグリンα4/β7、インテグリンα5/β1、インテグリンα5/β3、インテグリンα5/β6、インテグリンα-δ (αV)、インテグリンα-θ、インテグリンβ1、インテグリンβ2、インテグリンβ3(GPIIb-IIIa)、IP-10、I-TAC、JE、カリクレイン、カリクレイン11、カリクレイン12、カリクレイン14、カリクレイン15、カリクレイン2、カリクレイン5、カリクレイン6、カリクレインL1、カリクレインL2、カリクレインL3、カリクレインL4、カリスタチン、KC、KDR、ケラチノサイト増殖因子(KGF)、ケラチノサイト増殖因子-2 (KGF-2)、KGF、キラー免疫グロブリン様受容体、kitリガンド (KL)、Kitチロシンキナーゼ、ラミニン5、LAMP、LAPP (アミリン、膵島アミロイドポリペプチド)、LAP (TGF-1)、潜伏期関連ペプチド、潜在型TGF-1、潜在型TGF-1 bp1、LBP、LDGF、LDL、LDL受容体、LECT2、レフティー、レプチン、黄体形成ホルモン(leutinizing hormone)(LH)、Lewis-Y抗原、Lewis-Y関連抗原、LFA-1、LFA-3、LFA-3受容体、Lfo、LIF、LIGHT、リポタンパク質、LIX、LKN、Lptn、L-セレクチン、LT-a、LT-b、LTB4、LTBP-1、肺サーファクタント、黄体形成ホルモン、リンホタクチン、リンホトキシンβ受容体、リゾスフィンゴ脂質受容体、Mac-1、マクロファージ-CSF (M-CSF)、MAdCAM、MAG、MAP2、MARC、マスピン、MCAM、MCK-2、MCP、MCP-1、MCP-2、MCP-3、MCP-4、MCP-I (MCAF)、M-CSF、MDC、MDC (67 a.a.)、MDC (69 a.a.)、メグシン(megsin)、Mer、METチロシンキナーゼ受容体ファミリー、メタロプロテアーゼ、膜糖タンパク質OX2、メソテリン、MGDF受容体、MGMT、MHC (HLA-DR)、微生物タンパク質(microbial protein)、MIF、MIG、MIP、MIP-1 α、MIP-1 β、MIP-3 α、MIP-3 β、MIP-4、MK、MMAC1、MMP、MMP-1、MMP-10、MMP-11、MMP-12、MMP-13、MMP-14、MMP-15、MMP-2、MMP-24、MMP-3、MMP-7、MMP-8、MMP-9、単球誘引タンパク質(monocyte attractant protein)、単球コロニー阻害因子(monocyte colony inhibitory factor)、マウスゴナドトロピン関連(gonadotropin-associated)ペプチド、MPIF、Mpo、MSK、MSP、MUC-16、MUC18、ムチン(Mud)、ミュラー管抑制因子、Mug、MuSK、ミエリン関連糖タンパク質、骨髄前駆細胞阻害因子-1 (MPIF-I)、NAIP、ナノボディ(Nanobody)、NAP、NAP-2、NCA 90、NCAD、N-カドヘリン、NCAM、ネプリライシン、神経細胞接着分子、ニューロセルピン(neroserpin)、神経成長因子(NGF)、ニューロトロフィン-3、ニューロトロフィン-4、ニューロトロフィン-6、ニューロピリン1、ニュールツリン、NGF-β、NGFR、NKG20、N-メチオニルヒト成長ホルモン、nNOS、NO、Nogo-A、Nogo受容体、C型肝炎ウイルス由来の非構造タンパク質3型 (NS3)、NOS、Npn、NRG-3、NT、NT-3、NT-4、NTN、OB、OGG1、オンコスタチンM、OP-2、OPG、OPN、OSM、OSM受容体、骨誘導因子(osteoinductive factor)、オステオポンチン、OX40L、OX40R、酸化型LDL、p150、p95、PADPr、副甲状腺ホルモン
、PARC、PARP、PBR、PBSF、PCAD、P-カドヘリン、PCNA、PCSK9、PDGF、PDGF受容体、PDGF-AA、PDGF-AB、PDGF-BB、PDGF-D、PDK-1、PECAM、PEDF、PEM、PF-4、PGE、PGF、PGI2、PGJ2、PIGF、PIN、PLA2、胎盤増殖因子、胎盤アルカリホスファターゼ(PLAP)、胎盤ラクトゲン、プラスミノーゲン活性化因子阻害因子-1、血小板増殖因子(platelet-growth factor)、plgR、PLP、異なるサイズのポリグリコール鎖(poly glycol chain)(例えば、PEG-20、PEG-30、PEG40)、PP14、プレカリクレイン、プリオンタンパク質、プロカルシトニン、プログラム細胞死タンパク質1、プロインスリン、プロラクチン、プロタンパク質転換酵素PC9、プロリラキシン(prorelaxin)、前立腺特異的膜抗原(PSMA)、プロテインA、プロテインC、プロテインD、プロテインS、プロテインZ、PS、PSA、PSCA、PsmAr、PTEN、PTHrp、Ptk、PTN、P-セレクチン糖タンパク質リガンド-1、R51、RAGE、RANK、RANKL、RANTES、リラキシン、リラキシンA鎖、リラキシンB鎖、レニン、呼吸器多核体ウイルス(RSV) F、Ret、レチキュロン(reticulon)4、リウマチ因子、RLI P76、RPA2、RPK-1、RSK、RSV Fgp、S100、RON-8、SCF/KL、SCGF、スクレロスチン(Sclerostin)、SDF-1、SDF1 α、SDF1 β、セリン(SERINE)、血清アミロイドP、血清アルブミン、sFRP-3、Shh、志賀様毒素II、SIGIRR、SK-1、SLAM、SLPI、SMAC、SMDF、SMOH、SOD、SPARC、スフィンゴシン一リン酸受容体1、ブドウ球菌のリポテイコ酸、Stat、STEAP、STEAP-II、幹細胞因子(SCF)、ストレプトキナーゼ、スーパーオキシドジスムターゼ、シンデカン-1、TACE、TACI、TAG-72 (腫瘍関連糖タンパク質-72)、TARC、TB、TCA-3、T細胞受容体α/β、TdT、TECK、TEM1、TEM5、TEM7、TEM8、テネイシン、TERT、精巣PLAP様アルカリホスファターゼ、TfR、TGF、TGF-α、TGF-β、TGF-β汎特異的(TGF-β Pan Specific)、TGF-β RII、TGF-β RIIb、TGF-β RIII、TGF-β Rl (ALK-5)、TGF-β1、TGF-β2、TGF-β3、TGF-β4、TGF-β5、TGF-I、トロンビン、トロンボポエチン(TPO)、胸腺間質性リンホプロテイン(Thymic stromal lymphoprotein)受容体、胸腺Ck-1、甲状腺刺激ホルモン(TSH)、チロキシン、チロキシン結合グロブリン、Tie、TIMP、TIQ、組織因子、組織因子プロテアーゼインヒビター、組織因子タンパク質、TMEFF2、Tmpo、TMPRSS2、TNF受容体I、TNF受容体II、TNF-α、TNF-β、TNF-β2、TNFc、TNF-RI、TNF-RII、TNFRSF10A (TRAIL R1 Apo-2/DR4)、TNFRSF10B (TRAIL R2 DR5/KILLER/TRICK-2A/TRICK-B)、TNFRSF10C (TRAIL R3 DcR1/LIT/TRID)、TNFRSF10D (TRAIL R4 DcR2/TRUNDD)、TNFRSF11A (RANK ODF R/TRANCE R)、TNFRSF11B (OPG OCIF/TR1)、TNFRSF12 (TWEAK R FN14)、TNFRSF12A、TNFRSF13B (TACI)、TNFRSF13C (BAFF R)、TNFRSF14 (HVEM ATAR/HveA/LIGHT R/TR2)、TNFRSF16 (NGFR p75NTR)、TNFRSF17 (BCMA)、TNFRSF18 (GITR AITR)、TNFRSF19 (TROY TAJ/TRADE)、TNFRSF19L (RELT)、TNFRSF1A (TNF Rl CD120a/p55-60)、TNFRSF1B (TNF RII CD120b/p75-80)、TNFRSF21 (DR6)、TNFRSF22 (DcTRAIL R2 TNFRH2)、TNFRSF25 (DR3 Apo-3/LARD/TR-3/TRAMP/WSL-1)、TNFRSF26 (TNFRH3)、TNFRSF3 (LTbR TNF RIII/TNFC R)、TNFRSF4 (OX40 ACT35/TXGP1 R)、TNFRSF5 (CD40 p50)、TNFRSF6 (Fas Apo-1/APT1/CD95)、TNFRSF6B (DcR3 M68/TR6)、TNFRSF7 (CD27)、TNFRSF8 (CD30)、TNFRSF9 (4-1 BB CD137/ILA)、TNFRST23 (DcTRAIL R1 TNFRH1)、TNFSF10 (TRAIL Apo-2リガンド/TL2)、TNFSF11 (TRANCE/RANKリガンドODF/OPGリガンド)、TNFSF12 (TWEAK Apo-3リガンド/DR3リガンド)、TNFSF13 (APRIL TALL2)、TNFSF13B (BAFF BLYS/TALL1/THANK/TNFSF20)、TNFSF14 (LIGHT HVEMリガンド/LTg)、TNFSF15 (TL1A/VEGI)、TNFSF18 (GITRリガンド AITRリガンド/TL6)、TNFSF1A (TNF-a コネクチン(Conectin)/DIF/TNFSF2)、TNFSF1B (TNF-b LTa/TNFSF1)、TNFSF3 (LTb TNFC/p33)、TNFSF4 (OX40リガンドgp34/TXGP1)、TNFSF5 (CD40リガンドCD154/gp39/HIGM1/IMD3/TRAP)、TNFSF6 (Fasリガンド Apo-1リガンド/APT1リガンド)、TNFSF7 (CD27リガンドCD70)、TNFSF8 (CD30リガンドCD153)、TNFSF9 (4-1 BBリガンド CD137リガンド)、TNF-α、TNF-β、TNIL-I、毒性代謝産物(toxic metabolite)、TP-1、t-PA、Tpo、TRAIL、TRAIL R、TRAIL-R1、TRAIL-R2、TRANCE、トランスフェリン受容体、TGF-αおよびTGF-β等のトランスフォーミング増殖因子(TGF)、膜貫通型糖タンパク質NMB、トランスサイレチン、TRF、Trk、TROP-2、トロホブラスト糖タンパク質、TSG、TSLP、腫瘍壊死因子(TNF)、腫瘍関連抗原CA 125、Lewis Y関連糖を示す腫瘍関連抗原、TWEAK、TXB2、Ung、uPAR、uPAR-1、ウロキナーゼ、VAP-1、血管内皮増殖因子(VEGF)、バスピン(vaspin)、VCAM、VCAM-1、VECAD、VE-カドヘリン、VE-カドヘリン-2、VEFGR-1 (flt-1)、VEFGR-2、VEGF受容体 (VEGFR)、VEGFR-3 (flt-4)、VEGI、VIM、ウイルス抗原、ビタミンB12受容体、ビトロネクチン受容体、VLA、VLA-1、VLA-4、VNRインテグリン、フォン・ヴィルブランド因子(vWF)、WIF-1、WNT1、WNT10A、WNT10B、WNT11、WNT16、WNT2、WNT2B/13、WNT3、WNT3A、WNT4、WNT5A、WNT5B、WNT6、WNT7A、WNT7B、WNT8A、WNT8B、WNT9A、WNT9B、XCL1、XCL2/SCM-l-β、XCLl/リンホタクチン、XCR1、XEDAR、XIAP、XPD、HMGB1、IgA、Aa、CD81、CD97、CD98、DDR1、DKK1、EREG、Hsp90、IL-17/IL-17R、IL-20/IL-20R、酸化LDL、PCSK9、プレカリクレイン、RON、TMEM16F、SOD1、クロモグラニンA、クロモグラニンB、タウ、VAP1、高分子キニノーゲン、IL-31、IL-31R、Nav1.1、Nav1.2、Nav1.3、Nav1.4、Nav1.5、Nav1.6、Nav1.7、Nav1.8、Nav1.9、EPCR、C1、C1q、C1r、C1s、C2、C2a、C2b、C3、C3a、C3b、C4、C4a、C4b、C5、C5a、C5b、C6、C7、C8、C9、factor B、第D因子、第H因子、プロパージン、スクレロスチン、フェブリノゲン、フィブリン、プロトロンビン、トロンビン、組織因子、第V因子、第Va因子、第VII因子、第VIIa因子、第VIII因子、第VIIIa因子、第IX因子、第IXa因子、第X因子、第Xa因子、第XI因子、第XIa因子、第XII因子、第XIIa因子、第XIII因子、第XIIIa因子、TFPI、アンチトロンビンIII、EPCR、トロンボモデュリン、TAPI、tPA、プラスミノーゲン、プラスミン、PAI-1、PAI-2、GPC3、シンデカン-1、シンデカン-2、シンデカン-3、シンデカン-4、LPA、S1Pなどを挙げることができるが、これらに限定されない。
【0172】
本明細書に記載の抗原結合分子は、上記の抗原の血漿中総抗原濃度を低下させることができる。本発明に記載の抗原結合分子はまた、ウイルス、細菌および真菌の構造成分に結合することによって、血漿からウイルス、細菌、および真菌を消失させることができる。特に、RSVのFタンパク質、ブドウ球菌のリポテイコ酸、クロストリジウム・ディフィシレ毒素、志賀菌様毒素II、バチルス・アントラシス防御抗原、およびC型肝炎ウイルスE2糖タンパク質を、ウイルス、細菌、および真菌の構造成分として用いることができる。
【0173】
使用
本発明はまた、上記の本発明の抗原結合分子の多くの使用を提供する。
【0174】
したがって、本発明は、抗原結合分子による抗原の細胞内への取り込みを改善するための本発明の改変抗原結合分子の使用を提供する。さらに、本発明はまた、親FcRn結合ドメイン中の、EU238、EU250、EU252、EU254、EU255、EU258、EU286、EU307、EU308、EU309、EU311、EU315、EU428、EU433、EU434、およびEU436からなる群より選択される1つまたは複数の位置のアミノ酸を置換し、それによって、インタクトなFcRn結合ドメインを有する抗原結合分子と比較して中性pHにおけるFcRn結合活性を増強することにより、親FcRn結合ドメインを含む抗原結合分子を改変する工程を含む、抗原結合分子による抗原の細胞内への取り込みを改善する方法を提供する。
【0175】
本発明において、抗原結合分子による「抗原の細胞内への取り込み」という用語は、抗原がエンドサイトーシスによって細胞内に取り込まれることを意味する。また本発明において「細胞内への取り込みを促進する」という用語は、血漿中において抗原と結合した抗原結合分子が細胞内に取り込まれる速度が促進され、および/または、取り込まれた抗原が血漿中にリサイクルされる量が低下することを意味し、FcRn結合ドメインの改変前、したがって抗原結合分子のpH中性域におけるヒトFcRnへの結合活性を増強させる前、あるいは、当該ヒトFcRnへの結合活性の増強に加えて抗原結合分子のpH酸性域における抗原結合活性(結合能)をpH中性域における抗原結合活性より低下させる前の抗原結合分子と比較して、細胞内への取り込み速度が促進されていればよく、インタクトなIgGより促進されていることが好ましく、特にインタクトなヒトIgGよりも促進されていることが好ましい。したがって、本発明において、抗原結合分子による抗原の細胞内への取り込みが促進されたかどうかは、抗原の細胞内への取り込み速度が増大したかどうかで判断することが可能である。抗原の細胞内への取り込み速度は、例えば、ヒトFcRn発現細胞を含む培養液に抗原結合分子と抗原を添加し、抗原の培養液中濃度の低下を経時的に測定すること、あるいは、ヒトFcRn発現細胞内に取り込まれた抗原の量を経時的に測定すること、により算出することができる。本発明の抗原結合分子の抗原の細胞内への取り込み速度を促進させる方法を利用することによって、例えば本発明の抗原結合分子を投与することによって、血漿中の抗原の消失速度を促進させることができる。したがって、抗原結合分子による抗原の細胞内への取り込みが促進されたかどうかは、例えば、血漿中に存在する抗原の消失速度が加速されているかどうか、あるいは、本発明の抗原結合分子の投与によって血漿中の総抗原濃度が低減されているかどうか、を測定することによっても確認することができる。
【0176】
本発明において、「血漿中総抗原濃度」という用語は、抗原結合分子結合抗原濃度と非結合抗原濃度または抗原結合分子非結合抗原濃度である「血漿中遊離抗原濃度」とを合計した濃度を意味する。「血漿中総抗原濃度」および「血漿中遊離抗原濃度」を測定するための様々な方法が、本明細書において以下に記載するように当技術分野において周知である。
【0177】
本発明はまた、単一の抗原結合分子がその分解前に結合できる抗原の総数を増加させるための本発明の抗原結合分子の使用を提供する。本発明はまた、本発明の抗原結合分子を用いることにより、単一の抗原結合分子が結合できる抗原の数を増加させる方法を提供する。具体的には、本発明は、抗原結合分子の親FcRn結合ドメイン中の、EU238、EU250、EU252、EU254、EU255、EU258、EU286、EU307、EU308、EU309、EU311、EU315、EU428、EU433、EU434、およびEU436からなる群より選択される1つまたは複数の位置のアミノ酸を置換し、それによって、インタクトなFcRn結合ドメインを有する抗原結合分子と比較して中性pHにおけるFcRn結合活性を増強することにより、単一の抗原結合分子が結合できる抗原の総数を増加させる方法を提供する。
【0178】
「従来の抗体」は通常、エンドソーム内で分解される前に1つまたは2つの抗原としか結合することができない。本発明の抗原結合分子は、抗原結合分子が分解されるまでに達成されるサイクル数を増加させることができ、各サイクルは、血漿中で抗原が抗原結合分子に結合し、抗原に結合している抗原結合分子が細胞内に取り込まれ、エンドソーム内で抗原から解離され、その後、抗原結合分子が血漿中に戻ることからなる。このことは、FcRn結合ドメインを改変する前の抗原結合分子であって、pH中性域もしくは酸性域における抗原結合分子のヒトFcRn結合活性を増強する前、またはヒトFcRn結合活性を増強し、かつpH酸性域における抗原結合分子の抗原結合活性(結合能)をpH中性域におけるその抗原結合活性よりも低下させる前の抗原結合分子と比較して、サイクル数が増加することを意味する。したがって、サイクル数が増加するかどうかは、上記の「細胞内取り込みが促進される」かどうか、または下記の「薬物動態が改善される」かどうかを試験することにより、評価することができる。
【0179】
本発明はまた、哺乳動物、すなわちヒトにおいて血液からの抗原除去を改善するための本発明の抗原結合分子の使用を提供する。具体的には、本発明は、特定の抗原の血漿中濃度を低下させるための本発明の抗原結合分子の使用を提供し、ここで、抗原結合分子は該抗原と結合し得る抗原結合ドメインを含む。本発明はまた、親FcRn結合ドメイン中の、EU238、EU250、EU252、EU254、EU255、EU258、EU286、EU307、EU308、EU309、EU311、EU315、EU428、EU433、EU434、およびEU436からなる群より選択される1つまたは複数の位置のアミノ酸を置換し、それによって、インタクトなFcRn結合ドメインを有する抗原結合分子と比較して中性pHにおけるFcRn結合活性を増強することにより、特定の抗原の血漿中濃度を低下させる方法を提供し、ここで、抗原結合分子は該抗原と結合し得る抗原結合ドメインを含む。
【0180】
本発明はまた、抗原と結合した状態で細胞内に取り込まれた抗原結合分子の、抗原と結合していない状態での細胞外への放出を促進するための本発明の抗原結合分子の使用を提供する。より具体的には、本発明は、親FcRn結合ドメイン中の、EU238、EU250、EU252、EU254、EU255、EU258、EU286、EU307、EU308、EU309、EU311、EU315、EU428、EU433、EU434、およびEU436からなる群より選択される1つまたは複数の位置のアミノ酸を置換し、それによって、インタクトなFcRn結合ドメインを有する抗原結合分子と比較して中性pHにおけるFcRn結合活性を増強することにより、親抗体と比較して中性pHにおける既存のADAに対する結合活性を有意に増強することなく、抗原と結合した状態で細胞内に取り込まれた抗原結合分子の、抗原と結合していない状態での細胞外への放出を促進する方法を提供する。
【0181】
本発明において、「抗原と結合した状態で細胞内に取り込まれた抗原結合分子の、抗原と結合していない状態での細胞外への放出」とは、抗原と結合した状態で細胞内に取り込まれた抗原結合分子全てが抗原と結合していない状態で細胞外に放出される必要はなく、FcRn結合ドメインを改変する前であって、抗原結合分子のpH酸性域における抗原結合活性をpH中性域における抗原結合活性より低くし、pH中性域におけるヒトFcRn結合活性を高くする前と比較して、抗原と結合していない状態で細胞外に放出される抗原結合分子の割合が高くなっていればよい。細胞外に放出された抗原結合分子は、抗原結合活性を維持していることが好ましい。
【0182】
また、本発明は、抗原結合分子の血漿中抗原消失能を増強するための本発明のFcRn結合ドメインの使用を提供する。本発明において、「血漿中抗原消失能を増強する方法」とは、「抗原を血漿中から消失させる抗原結合分子の能力を増強する方法」と同義である。より具体的には、本発明は、親FcRn結合ドメイン中の、EU238、EU250、EU252、EU254、EU255、EU258、EU286、EU307、EU308、EU309、EU311、EU315、EU428、EU433、EU434、およびEU436からなる群より選択される1つまたは複数の位置のアミノ酸を置換し、それによって、インタクトなFcRn結合ドメインを有する抗原結合分子と比較して中性pHおよび/または酸性pHにおけるFcRn結合活性を増強することにより、抗原結合分子の血漿中抗原消失能を増強する方法を提供する。
【0183】
本発明において、「血漿中抗原消失能」という用語は、抗原結合分子が生体内に投与された、あるいは、抗原結合分子が生体内で分泌された際に、抗原を血漿中から消失させる能力のことをいう。従って、本発明において、「抗原結合分子の血漿中抗原消失能が増強される」とは、抗原結合分子を投与した際に、FcRn結合ドメインを改変する前であって、pH中性域における抗原結合分子のヒトFcRn結合活性を増強する前、またはヒトFcRn結合活性を増強すると同時にpH酸性域におけるその抗原結合活性をpH中性域における抗原結合活性より低下させる前と比較して、血漿中から抗原が消失する速さが速くなることを意味する。抗原結合分子が血漿中から抗原を消失させる活性の増強は、例えば、可溶型抗原および抗原結合分子を生体内に投与し、投与後の可溶型抗原の血漿中濃度を測定することにより評価することが可能である。可溶型抗原および改変抗原結合分子の投与後の血漿中の可溶型抗原の濃度が低下している場合には、抗原結合分子の血漿中抗原消失能が増強されたと判断することができる。可溶型抗原は、抗原結合分子が結合している抗原であっても、または抗原結合分子が結合していない抗原であってもよく、その濃度はそれぞれ「血漿中抗原結合分子結合抗原濃度」および「血漿中抗原結合分子非結合抗原濃度」として決定することができる。後者は「血漿中遊離抗原濃度」と同義である。「血漿中総抗原濃度」とは、抗原結合分子結合抗原濃度と、抗原結合分子非結合抗原濃度または抗原結合分子非結合抗原濃度である「血漿中遊離抗原濃度」とを合計した濃度を意味することから、可溶型抗原濃度は「血漿中総抗原濃度」として決定することができる。「血漿中総抗原濃度」または「血漿中遊離抗原濃度」を測定するための様々な方法が、本明細書において以下に記載するように当技術分野において周知である。
【0184】
本発明はまた、抗原結合分子の薬物動態を改善するための本発明のFcRn結合ドメインの使用を提供する。より具体的には、本発明は、親FcRn結合ドメイン中の、EU238、EU250、EU252、EU254、EU255、EU258、EU286、EU307、EU308、EU309、EU311、EU315、EU428、EU433、EU434、およびEU436からなる群より選択される1つまたは複数の位置のアミノ酸を置換し、それによって、インタクトなFcRn結合ドメインを有する抗原結合分子と比較して中性pHおよび/または酸性pHにおけるFcRn結合活性を増強することにより、抗原結合分子の薬物動態を改善する方法を提供する。
【0185】
本発明において、「薬物動態の向上」、「薬物動態の改善」、および「優れた薬物動態」という用語は、「血漿中(血中)滞留性の向上」、「血漿中(血中)滞留性の改善」、「優れた血漿中(血中)滞留性」、および「血漿中(血中)滞留性を長くする」と言い換えることが可能であり、これらの用語は、本発明において同じ意味で使用される。
薬物動態を改善するとは、具体的には以下を包含する:
(1) 消失の遅延:抗原結合分子が投与されてから血漿中から消失するまでの時間を、対照抗原結合分子(例えば、インタクトなFcRn結合ドメインを有する抗原結合分子)と比較して長くすること;および/または
(2) 好ましくは抗体もしくは抗体誘導体がその抗原に結合できる形態をした抗原結合分子の、抗原結合分子投与後の血漿中滞留時間を、対照抗原結合分子(例えば、インタクトなFcRn結合ドメインを有する抗原結合分子)の血漿中滞留時間と比較して長くすること;および/または
(3) 抗原結合分子の投与から消失までの、抗原と結合していない(抗原が体内で抗原結合分子に結合していない)期間を、対照抗原結合分子と比較して短くすること(投与から消失までの、抗原結合分子が対象の体内でその抗原に結合している期間を、対照抗原結合分子(例えば、インタクトなFcRn結合ドメインを有する抗原結合分子)と比較して長くすること);および/または
(4)抗体が分解される前の、体内の全抗原に対する、抗原結合分子に結合している抗原の割合を、対照抗原結合分子(例えば、インタクトなFcRn結合ドメインを有する抗原結合分子)に結合している抗原の割合と比較して増加させること(抗体もしくは抗体誘導体の投与から分解までの抗原結合分子とその抗原との結合事象の数を、投与から分解までの対照抗原結合分子の結合事象の数と比較して増加させること)。
(5) 抗原結合分子の投与後の血漿中総抗原濃度もしくは遊離抗原濃度を、対照抗原結合分子(例えば、インタクトなFcRn結合ドメインを有する抗原結合分子)の投与後の血漿中総抗原濃度もしくは遊離抗原濃度と比較して低下させること。
【0186】
本発明はまた、EU238、EU250、EU252、EU254、EU255、EU258、EU286、EU307、EU308、EU309、EU311、EU315、EU428、EU433、EU434、およびEU436からなる群より選択される1つまたは複数の位置において、抗原結合分子のFcRn結合ドメインに改変を導入する工程を含む、対象における抗原結合分子の消失を遅らせる方法を提供する。
【0187】
本発明で用いられる「薬物動態の改善」という用語は、抗原結合分子が対象(ヒト、またはマウス、ラット、サル、ウサギ、およびイヌなどの非ヒト動物)に投与されてから、血漿中から消失するまで(例えば、細胞内で分解される等して抗原結合分子が血漿中に戻ることが不可能な状態になるまで)の時間が長くなることのみならず、抗原結合分子が投与されてから分解されるまでの間に抗原に結合可能な状態(例えば、抗原結合分子が抗原と結合していない状態))で血漿中に滞留する時間を長くなることも指す。
したがって、本発明はまた、EU238、EU250、EU252、EU254、EU255、EU258、EU286、EU307、EU308、EU309、EU311、EU315、EU428、EU433、EU434、およびEU436からなる群より選択される1つまたは複数の位置において、抗原結合分子のFcRn結合ドメインに改変を導入する工程を含む、抗原結合分子の血漿中滞留時間を長くする方法を提供する。インタクトなヒトIgGは、非ヒト動物由来のFcRnに結合することができる。例えば、インタクトなヒトIgGはヒトFcRnよりもマウスFcRnに強く結合することができることから(Int Immunol. 2001 Dec; 13(12): 1551-9)、本発明の抗原結合分子の特性を確認する目的で、好ましくはマウスを用いて投与を行うことができる。別の例として、本来のFcRn遺伝子が破壊されており、ヒトFcRn遺伝子に関するトランスジーンを有して発現するマウス(Methods Mol Biol. 2010; 602: 93-104)もまた、以下に記載する本発明の抗原結合分子の特性を確認する目的で、投与を行うために好ましく用いることができる。
具体的には、「薬物動態の改善」とはまた、具体的には、「薬物動態が改善する」とはまた、抗原に結合していない抗原結合分子(抗原非結合型抗原結合分子)が投与されてから分解されるまでの、時間が長くなることを含む。抗原結合分子が血漿中に存在していても、その抗原結合分子にすでに抗原が結合している場合は、その抗原結合分子は新たな抗原に結合できない。そのため抗原結合分子が抗原に結合していない時間が長くなれば、新たな抗原に結合できる時間が長くなる(別の抗原に結合する機会が多くなる)。言い換えると、より短い時間により多くの抗原が結合する。したがって、改変抗原結合分子の投与により血漿中からの抗原の消失を加速することができれば、抗原非結合型抗原結合分子の血漿中濃度は上昇し、また、抗原が抗原結合分子に結合している時間が長くなる。
【0188】
具体的には、本発明における「抗原結合分子の薬物動態の改善」とは、抗原非結合型抗原結合分子のいずれかの薬物動態パラメーターの改善(血漿中半減期の増加、平均血漿中滞留時間の増加、血漿中クリアランスの低下のいずれか)、あるいは、改変された抗原結合分子の投与後に抗原が抗原結合分子に結合している時間の延長、あるいは、抗原結合分子による血漿中からの抗原の消失が加速されること、を含む。
【0189】
抗原結合分子の薬物動態の改善は、抗原結合分子あるいは抗原非結合型抗原結合分子の血漿中半減期、平均血漿中滞留時間、血漿中クリアランス等のいずれかのパラメーター(ファーマコキネティクス 演習による理解(南山堂))を測定することにより判断することが可能である。例えば、抗原結合分子をマウス、ラット、サル、ウサギ、イヌ、ヒトなどに投与した場合、抗原結合分子あるいは抗原非結合型抗原結合分子の血漿中濃度を測定し、各パラメーターを算出し、血漿中半減期が長くなった又は平均血漿中滞留時間が長くなった場合等には、抗原結合分子の薬物動態が改善したと言える。これらのパラメーターは当業者に公知の方法により測定することが可能であり、例えば、薬物動態解析ソフトWinNonlin(Pharsight)を用いて、付属の手順書に従いノンコンパートメント(Noncompartmental)解析することによって適宜評価することができる。抗原に結合していない抗原結合分子の血漿中濃度の測定は当業者公知の方法で実施することが可能であり、例えば、Clin Pharmacol. 2008 Apr;48(4):406-17において測定されている方法を用いることができる。
【0190】
本発明において「薬物動態の改善」という用語は、抗原結合分子投与後に抗原が抗原結合分子に結合している時間が長くなったことも含む。抗原結合分子投与後に抗原が抗原結合分子に結合している時間が長くなったか否かは、遊離抗原の血漿中濃度を測定し、遊離抗原の血漿中濃度、あるいは、総抗原濃度に対する遊離抗原濃度の割合が上昇してくるまでの時間により判断することが可能である。
【0191】
本発明はまた、特定の抗原の血漿中総抗原濃度または遊離抗原濃度を低下させるための本発明の抗原結合分子の使用を提供し、ここで抗原結合分子は該抗原と結合し得る抗原結合ドメインを含む。より具体的には、本発明は、以下の工程を含む、血漿中総抗原濃度または遊離抗原濃度を低下させる方法を提供する:
a) 親FcRn結合ドメインを含む抗原結合分子であって、前記抗原と結合し得る抗原結合ドメインを含む抗原結合分子を提供する工程、
b) 親FcRn結合ドメイン中の、EU238、EU250、EU252、EU254、EU255、EU258、EU286、EU307、EU308、EU309、EU311、EU315、EU428、EU433、EU434、およびEU436からなる群より選択される1つまたは複数の位置のアミノ酸を置換し、それによってインタクトなFcRn結合ドメインを有する抗原結合分子と比較して中性pHにおけるFcRn結合活性を増強する工程。
【0192】
さらに、本発明は、EU238、EU250、EU252、EU254、EU255、EU258、EU286、EU307、EU308、EU309、EU311、EU315、EU428、EU433、EU434、およびEU436からなる群より選択される1つまたは複数の位置において、抗原結合分子のFcRn結合ドメインに改変を導入する工程を含むことを提供する。本発明で用いられる「抗原消失速度」という用語は、抗体または抗体誘導体の投与から消失(すなわち、分解)までの間に抗原結合分子が血漿中から除去し得る抗原の数を意味する。
【0193】
抗原結合分子に結合していない遊離抗原の血漿中濃度、あるいは、総抗原濃度に対する遊離抗原濃度の割合は当業者公知の方法で実施することが可能であり、例えば、Pharm Res. 2006 Jan;23(1):95-103において測定されている方法を用いることができる。また、抗原が何らかの機能を生体内で示す場合、抗原が抗原の機能を中和する抗原結合分子(アンタゴニスト分子)と結合しているかどうかは、その抗原の機能が中和されているかどうかで評価することも可能である。抗原の機能が中和されているかどうかは、抗原の機能を反映する何らかの生体内におけるマーカーを測定することで評価することが可能である。抗原が抗原の機能を活性化する抗原結合分子(アゴニスト分子)と結合しているかどうかは、抗原の機能を反映する何らかの生体内におけるマーカーを測定することで評価することが可能である。
【0194】
遊離抗原の血漿中濃度の測定、血漿中の総抗原量に対する血漿中の遊離抗原量の割合の測定、生体内におけるマーカーの測定などの測定は特に限定されないが、抗原結合分子が投与されてから一定時間が経過した後に行われることが好ましい。本発明において抗原結合分子が投与されてから一定時間が経過した後とは、特に限定されず、投与された抗原結合分子の性質等により当業者が適時決定することが可能であり、例えば抗原結合分子を投与してから1日経過後、抗原結合分子を投与してから3日経過後、抗原結合分子を投与してから7日経過後、抗原結合分子を投与してから14日経過後、抗原結合分子を投与してから28日経過後などを挙げることができる。本発明において、「血漿中抗原濃度」という用語は、抗原結合分子結合抗原と抗原結合分子非結合抗原とを合計した濃度である「血漿中総抗原濃度」、または抗原結合分子非結合抗原濃度である「血漿中遊離抗原濃度」のいずれかを意味する。
【0195】
血漿中総抗原濃度は、ヒトFcRn結合ドメインとしてインタクトヒトIgG Fc領域を含む対照抗原結合分子を投与した場合と比較して、または本発明の抗原結合ドメイン分子を投与しない場合と比較して、本発明の抗原結合分子の投与により、2倍、5倍、10倍、20倍、50倍、100倍、200倍、500倍、1,000倍またはそれ以上低減しうる。
【0196】
抗原/抗原結合分子モル比は、以下に示す通りに算出することができる:
A値:各時点での抗原のモル濃度
B値:各時点での抗原結合分子のモル濃度
C値:各時点での抗原結合分子のモル濃度あたりの抗原のモル濃度(抗原/抗原結合分子モル比)
C=A/B。
【0197】
C値がより小さいことは、抗原結合分子あたりの抗原消失効率がより高いことを示し、C値がより大きいことは、抗原結合分子あたりの抗原消失効率がより低いことを示す。
【0198】
抗原/抗原結合分子モル比は、ヒトFcRn結合ドメインとしてインタクトヒトIgG Fc領域を含む対照抗原結合分子を投与した場合と比較して、本発明の抗原結合分子の投与により2倍、5倍、10倍、20倍、50倍、100倍、200倍、500倍、1,000倍またはそれ以上低減しうる。
【0199】
本発明において、インタクトなヒトIgG1、IgG2、IgG3、またはIgG4は、好ましくはヒトFcRn結合活性または生体内活性に関して抗原結合分子と比較する対照インタクトヒトIgG用途のための、インタクトなヒトIgGとして用いられる。好ましくは、目的の抗原結合分子と同一の抗原結合ドメインおよびヒトFcRn結合ドメインとしてインタクトヒトIgG Fc領域を含む対照抗原結合分子を適宜用いることができる。より好ましくは、インタクトなヒトIgG1は、ヒトFcRn結合活性または生体内活性に関して抗原結合分子と比較する対照インタクトヒトIgG用途に用いられる。
【0200】
血漿中総抗原濃度または抗原/抗体モル比の低下は、WO2011/122011の実施例6、8および13に記載の通りに評価することができる。より具体的には、本発明において対象となる抗原結合分子がマウスカウンターパート抗原と交差反応しない場合は、ヒトFcRnトランスジェニックマウス系統32または系統276(Jackson Laboratories, Methods Mol Biol.(2010) 602: 93-104)を用い、抗原抗体同時注射モデルまたは定常状態抗原注入モデルのいずれかによって評価することができる。抗原結合分子がマウスカウンターパートと交差反応する場合は、ヒトFcRnトランスジェニックマウス系統32または系統276(Jackson Laboratories)に抗原結合分子を単に注射することによって評価することができる。同時注射モデルでは、抗原結合分子と抗原の混合物をマウスに投与する。定常状態抗原注入モデルでは、一定の血漿中抗原濃度を達成するためにマウスに抗原溶液を充填した注入ポンプを埋め込んで、次に抗原結合分子をマウスに注射する。全ての試験抗原結合分子を同じ用量で投与する。血漿中総抗原濃度、血漿中遊離抗原濃度、および血漿中抗原結合分子濃度を、当業者公知の方法を用いて適切な時点で測定する。
【0201】
投与2日後、4日後、7日後、14日後、28日後、56日後、または84日後に血漿中の総抗原濃度または遊離抗原濃度および抗原/抗原結合分子モル比を測定して、本発明の長期効果を評価することができる。言い換えれば、本発明の抗原結合分子の特性を評価する目的で、長期間の血漿中抗原濃度が、抗原結合分子の投与2日後、4日後、7日後、14日後、28日後、56日後、または84日後に血漿中の総抗原濃度または遊離抗原濃度および抗原/抗原結合分子モル比を測定することによって決定される。本発明に記載の抗原結合分子によって血漿中抗原濃度または抗原/抗原結合分子モル比の低下が達成されるか否かは、先に記載した任意の1つまたは複数の時点でその低下を評価することにより決定されうる。
【0202】
投与15分後、1時間後、2時間後、4時間後、8時間後、12時間後、または24時間後に、血漿中の総抗原濃度または遊離抗原濃度および抗原/抗原結合分子モル比を測定して、本発明の短期効果を評価することができる。言い換えれば、本発明の抗原結合分子の特性を評価する目的で、短期間の血漿中抗原濃度が、抗原結合分子の投与15分後、1時間後、2時間後、4時間後、8時間後、12時間後、または24時間後に血漿中の総抗原濃度または遊離抗原濃度および抗原/抗原結合分子モル比を測定することによって決定される。
【0203】
より具体的には、血漿中抗原消失活性に長期的な効果を及ぼす本発明の抗原結合分子は、pH 7.0、25℃におけるヒトFcRn結合活性がインタクトなヒトIgG1よりも28倍〜440倍強い範囲内であるか、または、KDが3.0μM〜0.2μMの範囲内である。KDは、好ましくは700ナノモル濃度〜0.2ナノモル濃度の範囲内であり、より好ましくは500ナノモル濃度〜3.5ナノモル濃度の範囲内であり、より好ましくは150ナノモル濃度〜3.5ナノモル濃度の範囲内である。本発明の抗原結合分子が血漿中抗原消失活性に及ぼす長期的効果を評価する目的で、抗原結合分子の投与から2日後、4日後、7日後、14日後、28日後、56日後、または84日後に血漿中の総抗原濃度または遊離抗原濃度および抗原/抗原結合分子モル比を測定することによって、長期間の血漿中抗原濃度を決定する。血漿中抗原濃度または抗原/抗原結合分子モル比の低下が本発明の抗原結合分子によって達成されるかどうかは、当該低下を上記のいずれか1つまたは複数の時点で評価することによって決定することができる。
【0204】
さらにより具体的には、血漿中抗原消失に短期的な効果を及ぼす本発明の抗原結合分子は、pH 7.0、25℃におけるヒトFcRn結合活性がインタクトなヒトIgGよりも440倍強いか、またはKDが0.2μMよりも強く、好ましくは700ナノモル濃度よりも強く、より好ましくは500ナノモル濃度よりも強く、最も好ましくは150ナノモル濃度よりも強い。本発明の抗原結合分子が血漿中抗原消失活性に及ぼす短期的効果を評価する目的で、抗原結合分子を投与してから15分後、1時間後、2時間後、4時間後、8時間後、12時間後、または24時間後に血漿中の総抗原濃度または遊離抗原濃度および抗原/抗原結合分子モル比を測定することによって、短期間の血漿中抗原濃度を決定することができる。
【0205】
本発明の抗原結合分子の投与経路は、皮内注射、静脈内注射、硝子体内注射、皮下注射、腹腔内注射、非経口注射、および筋肉内注射から選択することができる。
【0206】
本発明においては、ヒトにおける薬物動態が改善することが好ましい。ヒトでの血漿中滞留性を測定することが困難である場合には、マウス(例えば、正常マウス、ヒト抗原発現トランスジェニックマウス、ヒトFcRn発現トランスジェニックマウス、等)またはサル(例えば、カニクイザルなど)での血漿中滞留性をもとに、ヒトでの血漿中滞留性を予測することができる。
【0207】
本発明において、「抗原結合分子のpH酸性域における抗原結合活性をpH中性域における抗原結合活性より低下させる」という用語は、抗原結合分子のpH4.0〜pH6.5での抗原結合活性をpH6.7〜pH10.0での抗原結合活性より弱くすることを意味する。好ましくは、抗原結合分子のpH5.5〜pH6.5での抗原結合活性をpH7.0〜pH8.0での抗原結合活性より弱くすることを意味し、特に好ましくは、生体内において早期エンドソーム内のpHにおける抗原結合活性を血漿中のpHにおける抗原結合活性より弱くする、具体的には、抗原結合分子のpH5.8〜pH6.0での抗原結合活性をpH7.4での抗原結合活性より弱くすることを意味する。
本発明において、「抗原結合分子のpH中性域における抗原結合活性をpH酸性域における抗原結合活性より低下させる」という用語は、抗原結合分子のpH6.7〜pH10.0での抗原結合活性をpH4.0〜pH6.5での抗原結合活性より弱くすることを意味する。好ましくは、抗原結合分子のpH7.0〜pH8.0での抗原結合活性をpH5.5〜pH6.5での抗原結合活性より弱くすることを意味し、特に好ましくは、生体内において生体内の血漿中のpHにおける抗原結合活性を早期エンドソーム内のpHにおける抗原結合活性より弱くする、具体的には、抗原結合分子のpH7.4での抗原結合活性をpH5.8〜pH6.0での抗原結合活性より弱くすることを意味する。
【0208】
さらに本発明において、「抗原結合分子のpH酸性域における抗原結合活性をpH中性域における抗原結合活性より低下させる」という表現は、「抗原結合分子のpH中性域における抗原結合活性をpH酸性域における抗原結合活性よりも高くする」と表現することもできる。つまり、本発明においては、抗原結合分子のpH酸性域における抗原結合活性とpH中性域における抗原結合活性の比を大きくすればよい。例えば、後述のように、KD(pH5.8)/KD(pH7.4)の値を大きくするという態様が挙げられる。抗原結合分子のpH酸性域における抗原結合活性とpH中性域における抗原結合活性の比を大きくするためには、例えば、pH酸性域における抗原結合活性を低くしてもよいし、pH中性域における抗原結合活性を高くしてもよいし、又は、その両方でもよい。
「抗原結合分子のpH中性域における抗原結合活性をpH酸性域における抗原結合活性より低下させる」という表現は、「抗原結合分子のpH酸性域における抗原結合活性をpH中性域における抗原結合活性よりも高くする」と表現することもできる。つまり、本発明においては、抗原結合分子のpH酸性域における抗原結合活性とpH中性域における抗原結合活性の比を大きくすればよい。例えば、後述のように、KD(pH7.4)/KD(pH5.8)の値を大きくするという態様が挙げられる。抗原結合分子のpH中性域における抗原結合活性とpH酸性域における抗原結合活性の比を大きくするためには、例えば、pH酸性域における抗原結合活性を低くしてもよいし、pH中性域における抗原結合活性を高くしてもよいし、又は、その両方でもよい。
【0209】
本発明で用いる「低カルシウムイオン濃度における抗原結合活性(結合能)を高カルシウムイオン濃度における抗原結合活性よりも低下させる」という用語は、低カルシウムイオン濃度における抗原結合ドメインの抗原に対する結合アフィニティーを、高カルシウムイオン濃度における該抗原結合ドメインの抗原に対する結合アフィニティーと比較して低下させることを意味する。低カルシウム濃度は、好ましくはイオン化カルシウム0.5〜10μM、より好ましくは0.1〜30μMであり、高カルシウム濃度は、イオン化カルシウム100μM〜10 mM、より好ましくは200μM〜5 mMである。
【0210】
本発明において、「pH酸性域における抗原結合活性をpH中性域における抗原結合活性より低下させる」を「pH酸性域における抗原結合能をpH中性域における抗原結合能よりも弱くする」と記載する場合もある。
【0211】
本発明において、pH酸性域におけるヒトFcRnに対する結合活性とは、pH4.0〜pH6.5でのヒトFcRn結合活性を意味する。好ましくはpH5.5〜pH6.5でのヒトFcRn結合活性を意味し、特に好ましくは、生体内の早期エンドソーム内のpHに近いpH5.8〜pH6.0でのヒトFcRn結合活性を意味する。また、本発明において、pH中性域におけるヒトFcRnに対する結合活性とは、pH6.7〜pH10.0でのヒトFcRn結合活性を意味する。好ましくは、pH7.0〜pH8.0でのヒトFcRn結合活性を意味し、特に好ましくは、生体内の血漿中のpHに近いpH7.4でのヒトFcRn結合活性を意味する。
【0212】
本発明の抗原結合分子および使用は特定の理論により限定されるものではないが、例えば、抗原結合分子のpH酸性域における抗原結合能をpH中性域における抗原結合能よりも低く(弱く)し、かつ/あるいは、pH中性域におけるヒトFcRn結合能を増強する(高くする)ことと、抗原結合分子の細胞への取り込みが促進され1分子の抗原結合分子が結合できる抗原の数が増加すること、および、血漿中抗原濃度の消失促進との関連は以下のように説明することが可能である。
【0213】
例えば、抗原結合分子が膜抗原に結合する抗体の場合、生体内に投与した抗体は抗原に結合して、その後、抗体は抗原に結合したまま抗原と一緒にインターナライゼーションによって細胞内のエンドソームに取り込まれる。その後、抗体は抗原に結合したままライソソームへ移行し抗体は抗原と一緒にライソソームにより分解される。インターナライゼーションを介した血漿中からの消失は抗原依存的な消失と呼ばれており、多くの抗体分子で報告されている(Drug Discov Today. 2006 Jan;11(1-2):81-8)。1分子のIgG抗体が2価で抗原に結合した場合、1分子の抗体が2分子の抗原に結合した状態でインターナライズされ、そのままライソソームで分解される。従って、通常の抗体の場合、1分子のIgG抗体が3分子以上の抗原に結合することは出来ない。例えば、中和活性を有する1分子のIgG抗体の場合、3分子以上の抗原を中和することはできない。
【0214】
IgG分子の血漿中滞留性が比較的長い(消失が遅い)のは、IgG分子のサルベージ受容体として知られているヒトFcRnが機能しているためである。ピノサイトーシスによってエンドソームに取り込まれたIgG分子は、エンドソーム内の酸性条件下においてエンドソーム内に発現しているヒトFcRnに結合する。ヒトFcRnに結合できなかったIgG分子はライソソームへと進み、そこで分解されるが、ヒトFcRnへ結合したIgG分子は細胞表面へ移行し血漿中の中性条件下においてヒトFcRnから解離することで再び血漿中に戻る。
【0215】
また、抗原結合分子が可溶型抗原に結合する抗体の場合、生体内に投与した抗体は抗原に結合し、その後、抗体は抗原に結合したまま細胞内に取り込まれる。細胞内に取り込まれた抗体の多くはFcRnにより細胞外に放出されるが、抗原に結合したまま細胞外に放出される為、再度、抗原に結合することはできない。従って、膜抗原に結合する抗体と同様、通常の抗体の場合、1分子のIgG抗体が3分子以上の抗原に結合することはできない。
【0216】
抗原に対して血漿中の中性条件下においては強く結合し、エンドソーム内の酸性条件下において抗原から解離するpH依存的抗原結合抗体(すなわち、中性条件下で結合し、酸性条件下で解離する抗体)はエンドソーム内で抗原から解離することが可能である。pH依存的抗原結合抗体は、抗原を解離した後に抗体がFcRnによって血漿中にリサイクルされると再び抗原に結合することが可能であるため、1つの抗体で複数の抗原に繰り返し結合することが可能となる。また、抗原結合分子に結合した抗原がエンドソーム内で解離することで血漿中にリサイクルされないため、抗原結合分子による抗原の細胞内への取り込みを促進し、抗原結合分子の投与により抗原の消失を促進し、血漿中の抗原濃度を低下させることが可能となる。
【0217】
血漿中の高カルシウム濃度条件下で抗原に強く結合し、エンドソーム内の低カルシウム濃度条件下で抗原から解離するカルシウム濃度依存的抗原結合抗体は、エンドソーム内で抗原から解離し得る。カルシウム濃度依存的抗原結合抗体は、抗原解離後にFcRnによって血漿中にリサイクルされた場合、再度抗原に結合することができる。そのため、このような単一の抗体が複数の抗原に繰り返し結合することができる。一方、抗原結合分子に結合した抗原は、エンドソーム内で解離するために血漿中にリサイクルされず、このようにして抗原結合分子は細胞内への抗原の取り込みを促進する。抗原結合分子を投与することで、抗原の消失が促進され、これによって血漿中の抗原濃度の低下が可能になる。
【0218】
抗原に対する結合にpH依存性(中性条件下で結合し、酸性条件下で解離する)を有する抗体において、中性条件下(pH7.4)におけるヒトFcRnに対する結合を付与することで、さらに抗原結合分子による抗原の細胞内への取り込みを促進し、抗原結合分子の投与により抗原の消失を促進し、血漿中の抗原濃度を低下させることができる。通常、抗体および抗体−抗原複合体は、非特異的なエンドサイトーシスによって細胞に取り込まれ、エンドソーム内の酸性条件下でFcRnに結合することで細胞表面に輸送され、細胞表面の中性条件下でFcRnから解離することで血漿中にリサイクルされる。そのため、抗原に対する結合に十分なpH依存性(中性条件下で結合し、酸性条件下で解離する)を有する抗体が血漿中で抗原に結合し、エンドソーム内において結合している抗原を解離した場合、抗原の消失速度は非特異的なエンドサイトーシスによる細胞への取り込み速度と等しくなると推定される。pH依存性が不十分な場合は、エンドソーム内において解離しない抗原が血漿中にリサイクルされてしまうが、pH依存性が十分な場合は、抗原の消失速度は非特異的なエンドサイトーシスによる細胞への取り込みが律速となる。FcRnは抗体をエンドソーム内から細胞表面に輸送するため、FcRnの一部は細胞表面にも存在していると推定される。
【0219】
本発明者らは、通常、抗原結合分子の一つであるIgG型免疫グロブリンはpH中性域におけるFcRnへの結合能をほとんど有さないが、pH中性域においてFcRnへの結合能を有するIgG型免疫グロブリンは、細胞表面に存在するFcRnに結合することが可能であり、細胞表面に存在するFcRnに結合することでFcRn依存的に細胞に取り込まれると推定した。FcRnを介した細胞への取り込み速度は、非特異的なエンドサイトーシスによる細胞への取り込み速度よりも早い。そのため、pH中性域においてFcRnへの結合能を付与することで、抗原の消失速度をさらに速めることが可能である。すなわち、pH中性域においてFcRnに対する結合能を有する抗原結合分子は、通常の(インタクトなヒト)IgG型免疫グロブリンよりも速やかに抗原を細胞内に送り込み、エンドソーム内で抗原を解離し、再び細胞表面ないしは血漿中にリサイクルされ、そこで再び抗原に結合し、またFcRnを介して細胞内に取り込まれる。pH中性域においてFcRnに対する結合能を高くすることで、このサイクルの回転速度を速くすることが可能となり、それにより、血漿中から抗原を消失させる速度が速くなる。更に抗原結合分子のpH酸性域における抗原結合活性をpH中性域における抗原結合活性より低下させることによって、更にその効率を高めることが可能である。また1分子の抗原結合分子によるこの回転数が多くなることによって、1分子の抗原結合分子によって結合できる抗原の数も多くなると推定される。本発明の抗原結合分子は、抗原結合ドメインとFcRn結合ドメインからなり、FcRn結合ドメインは抗原に対する結合に影響を与えることはないため、また、上述のメカニズムから考えても、抗原の種類に依存することがなく、抗原結合分子のpH酸性域における抗原結合活性(結合能)をpH中性域における抗原結合活性より低下させ、且つ、あるいは、または、血漿中でのpHにおけるFcRnへの結合活性を増強させることにより、抗原結合分子による抗原の細胞内への取り込みを促進させ、抗原の消失速度を速くすることが可能であると考えられる。
【0220】
前述のすべての使用において、本発明の抗原結合分子は、言及した1つまたは複数の位置における置換に加えて、EU256位にも置換を含み得る。好ましくは、EU256位のアミノ酸はグルタミン酸と置換される。さらに、前述のすべての使用方法は、EU238、EU250、EU252、EU254、EU255、EU258、EU286、EU307、EU308、EU309、EU311、EU315、EU428、EU433、EU434、およびEU436からなる群より選択される1つまたは複数の位置における置換に加えて、EU256位にも置換を含んでもよく、EU256位のアミノ酸は好ましくはグルタミン酸と置換される。
【0221】
前述のすべての使用および方法の好ましい態様において、FcRn結合領域はFc領域であり、より好ましくはヒトFc領域である。
【0222】
さらに、中性pHまたは酸性pHにおけるFcRn結合活性を増強するための親FcRn結合ドメインのアミノ酸配列における置換は、好ましくはEU252位およびEU434位、ならびにEU238、EU250、EU254、EU255、EU256、EU258、EU286、EU307、EU308、EU309、EU311、EU315、EU428、EU433、およびEU436からなる群より選択される1つまたは複数の位置における置換である。より好ましくは、当該置換は3つ以上の位置における置換であり、該3つ以上の位置は、表2および4〜7に記載された組み合わせのうちの1つである。さらにより好ましくは、当該置換は表3に記載された組み合わせのうちの1つである。
【0223】
さらに、前述の使用方法は、EU387、EU422、EU424、EU426、EU433、EU436、EU438、およびEU440からなる群より選択される1つまたは複数の位置にアミノ酸置換を導入し、それによって既存のADAに対する増強された結合活性を低下させる工程をさらに含み得る。好ましくは、当該置換は表11より選択される組み合わせである。
【0224】
加えて、前述の使用方法はまた、EU234、EU235、EU236、EU237、EU238、EU239、EU265、EU266、EU267、EU269、EU270、EU271、EU295、EU296、EU297、EU298、EU300、EU324、EU325、EU327、EU328、EU329、EU331、およびEU332(EUナンバリングシステムによる)からなる群より選択される1つまたは複数の位置において、FcRn結合ドメインにアミノ酸置換を導入する付加的な工程を含み得る。好ましくは、置換L235R/S239Kが導入される。好ましくは、当該置換は表14より選択される組み合わせである。
【0225】
前述のすべての使用および使用方法の抗原結合分子は、pH依存的抗原結合ドメインまたはカルシウムイオン依存的抗原結合ドメインを含み得る。本発明の抗原結合分子によって媒介される抗原の細胞内への取り込みは、上記の抗原結合分子のpH酸性域における抗原結合活性(結合能)をpH中性域におけるその抗原結合活性よりも低下させることによってさらに改善される。例えば抗原結合分子の抗原結合ドメインをイオン化カルシウム濃度依存的抗原結合ドメインと置き換えることによって、低カルシウムイオン濃度(すなわち、0.5〜10μM)における本発明の抗原結合分子の抗原結合活性(結合能)を高カルシウムイオン濃度(すなわち、100μM〜10 mM)におけるその抗原結合活性よりも低下させることにより、抗原の細胞内への取り込みをさらに改善することもまた好ましい。あるいは、親抗原結合分子はイオン化カルシウム濃度依存的抗原結合ドメインを既に含んでいる。上記抗原結合分子の抗原結合ドメイン中の少なくとも1つのアミノ酸を改変することによりpH酸性域における抗原結合活性(結合能)を低下させる方法は、上記されている。好ましくは、抗原結合ドメインは、抗原の細胞内への取り込みを促進する上記抗原結合分子の抗原結合ドメイン中の少なくとも1つのアミノ酸をヒスチジンに置換するか、または該抗原結合ドメインに少なくとも1つのヒスチジンを挿入することによって改変される。
【0226】
中性pHまたは酸性pHにおけるFcRn結合活性が増強された改変抗原結合分子のクリアランスは、これらの改変によって既存のADA(例えばリウマトイド因子)に対する抗原結合分子のアフィニティーが増強される場合に低下し得る。このことは、このような抗体をさらに改変して既存のADAに対するアフィニティーを低下させることにより、既存のADAに対するアフィニティーを低下させる第2の改変より前の抗原結合分子と比較して、サイクル数が増加し得ることを意味する。
既存の抗医薬品抗体に対するアフィニティーが、中性pHにおいて野生型Fc領域と比較して有意に増強されていない本発明の抗原結合分子、特に、EU387、EU422、EU424、EU426、EU433、EU436、EU438、およびEU440からなる群より選択される1つまたは複数の位置においてFcRn結合ドメイン中にアミノ酸置換を含む本発明の抗原結合分子は、自己免疫疾患、移植拒絶反応(移植片対宿主病)、他の炎症性疾患およびアレルギー疾患に罹患しているヒト患者を治療するための治療用抗体として特に有用である。
【0227】
自己免疫疾患とは、体組織が自己の免疫系によって攻撃される場合に起こる疾病である。本発明において企図される自己免疫疾患の例には、全身性エリテマトーデス、ループス腎炎、類天疱瘡、天疱瘡、皮膚筋炎、自己免疫性肝炎、シェーグレン症候群、橋本甲状腺炎、関節リウマチ、若年性(1型)糖尿病、多発性筋炎、強皮症、アジソン病、セリアック病、ギラン・バレー症候群、拡張型心筋症、混合性結合組織病、ウェゲナー肉芽腫症、抗リン脂質抗体症候群、白斑症、悪性貧血、糸球体腎炎、および肺線維症が含まれる。重症筋無力症、グレーブス病、特発性血小板減少性紫斑病、溶血性貧血、糖尿病、炎症性腸疾患、クローン病、潰瘍性大腸炎、多発性硬化症、乾癬、および薬物誘導性自己免疫疾患、例えば薬物誘発性ループス。好ましくは、自己免疫疾患は全身性エリテマトーデスまたはループス腎炎である。移植片対宿主病を含む移植拒絶反応とは、移植レシピエントの免疫系が移植された臓器または組織を攻撃するプロセスである。他の炎症性疾患およびアレルギー疾患には、アテローム性動脈硬化症および花粉症が含まれる。
【0228】
既存のADAに対する結合アフィニティーが増強されると、臨床における治療用抗体の有用性と薬効は低下し得る。このように、既存のADAは治療用抗体の効果および薬物動態(例えば、分解速度)に影響し得るため、治療用抗体の有用性はこれらのADAによって制限され得る。場合によっては、この結合は重篤な副作用を招き得る。さらに、本発明は、中性pHまたは酸性pHにおけるFcRnに対する結合活性が増強されかつ中性pHにおける既存のADAに対する結合活性が増強されたFc領域を含む抗原結合ドメインの、中性pHにおける既存のADAに対する結合活性を低下させる方法を提供する。
本発明はまた、中性pHまたは酸性pHにおけるFcRnに対するアフィニティーが増強されておりかつ既存のADAに対する結合活性が増強された抗原結合分子の、中性pHにおける既存のADAに対する結合活性を低下させるための、改変FcRn結合ドメインを含む本発明の抗原結合分子の使用を提供する。
【0229】
具体的には、本発明は、以下の工程を含む、中性pHまたは酸性pHにおけるFcRnに対する結合活性が増強された抗原結合分子のFc領域の、中性pHにおける既存のADAに対する結合活性を低下させる方法を提供する:
a) 中性pHまたは酸性pHにおけるFcRnに対する結合活性および中性pHにおける既存のADAに対する結合活性が増強されたFc領域を提供する工程、ならびに
b) EU387、EU422、EU424、EU426、EU433、EU436、EU438、およびEU440からなる群より選択される1つまたは複数の位置においてアミノ酸を置換する工程。
工程a)における好ましいFc領域はヒトFc領域である。好ましくは、pH中性域またはpH酸性域におけるFcRnに対する結合活性およびpH中性域における既存のADAに対する結合活性が増強されたFc領域は、EU238、EU250、EU252、EU254、EU255、EU256、EU258、EU286、EU307、EU308、EU309、EU311、EU315、EU428、EU433、EU434、およびEU436からなる群より選択される1つまたは複数の位置にアミノ酸の置換を含み、より好ましくは表2および4〜7より選択される位置の組み合わせのいずれか1つに置換を含み、さらにより好ましくは表3および17〜20のいずれか1つに記載された置換または置換の組み合わせのいずれか1つを含む。
【0230】
好ましくは、工程b)は、表8中の位置のいずれか1つにおいてアミノ酸を置換する工程を含む。より好ましくは、工程b)は、表11より選択される置換または組み合わせのうちの1つを導入する工程を含む。
【0231】
同様に好ましくは、抗原結合分子は、pH依存的抗原結合ドメインまたはカルシウムイオン依存的抗原結合ドメインをさらに含む。
【0232】
さらに、本発明は、以下の工程を含む、中性pHにおけるFcRnに対する結合活性が増強されたFc領域を含む抗原結合分子の、既存のADAに対する結合活性を低下させる方法を提供する:
a) 酸性pHにおけるFcRnに対する結合活性および中性pHにおける既存のADAに対する結合活性が増強されたFc領域を含む抗原結合分子を提供する工程、ならびに
b) EU387、EU422、EU424、EU426、EU433、EU436、EU438、およびEU440からなる群より選択される1つまたは複数の位置において、Fc領域中のアミノ酸を置換する工程。
【0233】
工程a)における好ましいFc領域はヒトFc領域である。好ましくは、pH中性域におけるFcRnに対する結合活性およびpH中性域における既存のADAに対する結合活性が増強されたFc領域は、EU238、EU250、EU252、EU254、EU255、EU258、EU286、EU307、EU308、EU309、EU311、EU315、EU428、EU433、EU434、およびEU436からなる群より選択される1つまたは複数の位置にアミノ酸の置換を含む。前記Fc領域は、上記の1つまたは複数の位置における置換に加えて、EU256位にも置換を含んでもよく、EU256位のアミノ酸は好ましくはグルタミン酸と置換される。より好ましくは、前記Fc領域は表2および4〜7より選択される位置の組み合わせのいずれか1つに置換を含む。さらにより好ましくは、前記Fc領域は表3および17〜20のいずれか1つより選択される置換または置換の組み合わせのいずれか1つを含む。
【0234】
好ましくは、工程b)は、表10中の位置のいずれか1つにおいてアミノ酸を置換する工程を含む。より好ましくは、当該位置は、a) EU387、b) EU422、c) EU424、d) EU438、e) EU440、f) EU422/EU424、およびg) EU438/EU440からなる群より選択される。さらにより好ましくは、工程b)は、表11より選択される置換または組み合わせのうちの1つを導入する工程を含む。
【0235】
さらに、本発明は、以下の工程を含む、酸性pHにおけるFcRnに対する結合活性が増強されたFc領域を含む抗原結合分子の、既存のADAに対する結合活性を低下させる方法を提供する:
a) 酸性pHにおけるFcRnに対する結合活性および中性pHにおける既存のADAに対する結合活性が増強されたFc領域を含む抗原結合分子を提供する工程、ならびに
b) EU387、EU422、EU424、EU426、EU433、EU436、EU438、およびEU440からなる群より選択される1つまたは複数の位置において、Fc領域中のアミノ酸を置換する工程。
工程a)における好ましいFc領域はヒトFc領域である。好ましくは、酸性pHにおけるFcRnに対する結合活性およびpH中性域における既存のADAに対する結合活性が増強されたFc領域は、
i) EU434位、または
ii) a) EU252/EU254/EU256;b) EU428/EU434;およびc) EU250/EU428からなる組み合わせ群のうちの1つである、2つ以上の位置
にアミノ酸置換を含む。好ましくは、Fc領域は以下を含む:i) 置換M434H;またはii) a) M252Y/S254T/T256E;b) M428L/N434S;およびc) T250Q/M428L(EUナンバリング)からなる組み合わせ群のうちの1つ。
好ましい態様において、工程b)では、アミノ酸は、a) EU424位またはb) EU438位/EU440位において置換される。より好ましくは、当該置換はa) EU424Nまたはb) 組み合わせEU438R/EU440Eである。
【0236】
さらに好ましい態様において、既存のADAに対する結合活性を低下させる方法は、c) 改変Fcドメインを有する前記抗原結合分子の内因性ADAに対する結合活性が、インタクトなFcドメインを含む工程a)に記載された元の抗原結合分子の結合活性と比較して低下していることを確認する工程をさらに含む。
【0237】
同様に好ましくは、抗原結合分子は、pH依存的抗原結合ドメインまたはカルシウムイオン依存的抗原結合ドメインをさらに含む。
【0238】
本発明は、哺乳動物、好ましくは自己免疫疾患に罹患しているヒト患者の血中からの抗原除去を増強するための本発明の抗原結合分子の使用を提供する。
【0239】
本発明はさらに、以下の工程を含む、中性pHにおける既存のADAに対する結合活性を親抗体と比較して有意に増強することなく、単一の抗原結合分子が結合できる抗原の総数を増加させる方法を提供する:
a) 親FcRn結合ドメインを含む抗原結合分子を提供する工程、
b) EU238、EU250、EU252、EU254、EU255、EU256、EU258、EU286、EU307、EU308、EU309、EU311、EU315、EU428、EU433、EU434、およびEU436からなる群より選択される1つまたは複数の位置において、親FcRn結合ドメインのアミノ酸配列中のアミノ酸を置換することにより、工程a)の親FcRn結合ドメインを改変する工程;ならびに
c) EU387、EU422、EU424、EU426、EU433、EU436、EU438、およびEU440からなる群より選択される1つまたは複数の位置において、親FcRn結合ドメインのアミノ酸配列中のアミノ酸を置換することにより、工程b)の改変FcRn結合ドメインを改変する工程。
【0240】
本発明はさらに、以下の工程を含む、中性pHにおける既存のADAに対する抗原結合分子の結合活性を親抗体と比較して有意に増強することなく、抗原と結合した状態で細胞内に取り込まれた抗原結合分子の、抗原と結合していない状態での細胞外への放出を促進する方法を提供する:
a) 親FcRn結合ドメインを含む抗原結合分子を提供する工程、
b) EU238、EU250、EU252、EU254、EU255、EU256、EU258、EU286、EU307、EU308、EU309、EU311、EU315、EU428、EU433、EU434、およびEU436、およびEU428からなる群より選択される1つまたは複数の位置において、親FcRn結合ドメインのアミノ酸配列中のアミノ酸を置換することにより、親FcRn結合ドメインを改変する工程;ならびに
c) EU387、EU422、EU424、EU426、EU433、EU436、EU438、およびEU440からなる群より選択される1つまたは複数の位置において、親FcRn結合ドメインのアミノ酸配列中のアミノ酸を置換することにより、工程b)の改変FcRn結合ドメインを改変する工程。
【0241】
本発明はさらに、以下の工程を含む、中性pHにおける既存のADAに対する結合活性を親抗体と比較して有意に増強することなく、抗原結合分子の血漿中抗原消失能を増強する方法を提供する:
a) 親FcRn結合ドメインを含む抗原結合分子を提供する工程、
b) EU238、EU250、EU252、EU254、EU255、EU256、EU258、EU286、EU307、EU308、EU309、EU311、EU315、EU428、EU433、EU434、およびEU436、およびEU428からなる群より選択される1つまたは複数の位置において、親FcRn結合ドメインのアミノ酸配列中のアミノ酸を置換することにより、親FcRn結合ドメインを改変する工程;ならびに
c) EU387、EU422、EU424、EU426、EU433、EU436、EU438、およびEU440からなる群より選択される1つまたは複数の位置において、親FcRn結合ドメインのアミノ酸配列中のアミノ酸を置換することにより、工程b)の改変FcRn結合ドメインを改変する工程。
【0242】
本発明はさらに、以下の工程を含む、中性pHにおける既存のADAに対する結合活性を親抗体と比較して有意に増強することなく、抗原結合分子の薬物動態を改善する方法を提供する:
a) 親FcRn結合ドメインを含む抗原結合分子を提供する工程、
b) EU238、EU250、EU252、EU254、EU255、EU256、EU258、EU286、EU307、EU308、EU309、EU311、EU315、EU428、EU433、EU434、およびEU436からなる群より選択される1つまたは複数の位置において、親FcRn結合ドメインのアミノ酸配列中のアミノ酸を置換することにより、親FcRn結合ドメインを改変する工程;ならびに
c) EU387、EU422、EU424、EU426、EU433、EU436、EU438、およびEU440からなる群より選択される1つまたは複数の位置において、親FcRn結合ドメインのアミノ酸配列中のアミノ酸を置換することにより、工程b)の改変FcRn結合ドメインを改変する工程。
【0243】
本発明はさらに、以下の工程を含む、中性pHにおける既存のADAに対する結合活性を親抗体と比較して有意に増強することなく、血漿中の総抗原濃度または遊離抗原濃度を低下させる方法を提供する:
a) 親FcRn結合ドメインを含む抗原結合分子であって、該抗原と結合し得る抗原結合ドメインを含む抗原結合分子を提供する工程、
b) EU238、EU250、EU252、EU254、EU255、EU256、EU258、EU286、EU307、EU308、EU309、EU311、EU315、EU428、EU433、EU434、およびEU436からなる群より選択される1つまたは複数の位置において、親FcRn結合ドメインのアミノ酸配列中のアミノ酸を置換することにより、親FcRn結合ドメインを改変する工程;ならびに
c) EU387、EU422、EU424、EU426、EU433、EU436、EU438、およびEU440からなる群より選択される1つまたは複数の位置において、親FcRn結合ドメインのアミノ酸配列中のアミノ酸を置換することにより、工程b)の改変FcRn結合ドメインを改変する工程。
【0244】
前述の使用方法の工程a)における好ましいFc領域は、ヒトFc領域である。好ましい態様において、工程b)における1つまたは複数の位置におけるアミノ酸置換は、EU238、EU250、EU252、EU254、EU255、EU258、EU286、EU307、EU308、EU309、EU311、EU315、EU428、EU433、EU434、およびEU436からなる群より選択される1つまたは複数の位置における置換であり、工程b)のFc領域は、pH中性域におけるFcRnに対する結合活性および既存のADAに対する結合活性が増強されている。当該Fc領域はまた、上記の1つまたは複数の位置における置換に加えて、EU256位に置換を含んでもよく、EU256位のアミノ酸は好ましくはグルタミン酸と置換される。より好ましくは、当該Fc領域は、表2および4〜7より選択される位置の組み合わせのいずれか1つに置換を含む。さらにより好ましくは、当該Fc領域は、表3および17〜20のいずれか1つより選択される置換または置換の組み合わせのいずれか1つを含む。
【0245】
好ましくは、工程c)は、表10中の位置のいずれか1つにおいてアミノ酸を置換する工程を含む。より好ましくは、当該位置は、a) EU387、b) EU422、c) EU424、d) EU438、e) EU440、f) EU422/EU424、およびg) EU438/EU440からなる群より選択される。さらにより好ましくは、工程c)は、表11より選択される置換または組み合わせのうちの1つを導入する工程を含む。
【0246】
別の好ましい態様において、工程b)における1つまたは複数の位置におけるアミノ酸置換は、
i) EU434位における、または
ii) a) EU252/EU254/EU256;b) EU428/EU434;およびc) EU250/EU428からなる組み合わせ群のうちの1つである、2つ以上の位置における
置換であり、工程b)のFc領域は、酸性域におけるFcRn結合活性が増強されており、かつpH中性域における既存のADAに対する結合活性が増強されている。好ましくは、当該Fc領域は以下を含む:i) 置換M434H;またはii) a) M252Y/S254T/T256E;b) M428L/N434S;およびc) T250Q/M428L(EUナンバリング)からなる組み合わせ群のうちの1つ。好ましい態様において、工程c)では、アミノ酸は、a) EU424位またはb) EU438位/EU440位において置換される。より好ましくは、当該置換は、a) EU424Nまたはb) 組み合わせEU438R/EU440Eである。
【0247】
医薬組成物
また本発明は、本発明の抗原結合分子、または本発明の製造方法により製造された抗原結合分子を含む医薬組成物に関する。本発明の抗原結合分子または本発明の製造方法により製造された抗原結合分子はその投与により通常の抗原結合分子と比較して血漿中の抗原濃度を低下させる作用が高いことから医薬組成物として有用である。本発明の医薬組成物は薬学的に許容される担体を含むことができる。本発明において医薬組成物とは、通常、疾患の治療もしくは予防、あるいは検査・診断のための薬剤を言う。
【0248】
本発明の医薬組成物は、当業者に公知の方法で製剤化することが可能である。例えば、水もしくはそれ以外の薬学的に許容される液との無菌性溶液、又は懸濁液剤の注射剤の形で非経口的に使用できる。例えば、薬学的に許容される担体もしくは媒体、具体的には、滅菌水や生理食塩水、植物油、乳化剤、懸濁剤、界面活性剤、安定剤、香味剤、賦形剤、ベヒクル、防腐剤、結合剤などと適宜組み合わせて、一般に認められた製薬実施に要求される単位用量形態で混和することによって製剤化することが考えられる。これら製剤における有効成分量は、指示された範囲の適当な容量が得られるように、容易かつ慣例的に設定することができる。
【0249】
注射のための無菌組成物は注射用蒸留水のようなベヒクルを用いて通常の製剤実施に従って処方することができる。注射用の水溶液としては、例えば生理食塩水、ブドウ糖やその他の補助薬(例えばD-ソルビトール、D-マンノース、D-マンニトール、塩化ナトリウム)を含む等張液が挙げられる。適当な溶解補助剤、例えばアルコール(エタノール等)、ポリアルコール(プロピレングリコール、ポリエチレングリコール等)、非イオン性界面活性剤(ポリソルベート80(商標)、HCO-50等)を併用してもよい。
【0250】
油性液としてはゴマ油、大豆油があげられ、溶解補助剤として安息香酸ベンジル及び/またはベンジルアルコールを併用してもよい。また、緩衝剤(例えば、リン酸塩緩衝液及び酢酸ナトリウム緩衝液)、無痛化剤(例えば、塩酸プロカイン)、安定剤(例えば、ベンジルアルコール及びフェノール)、酸化防止剤と配合してもよい。調製された注射液は通常、適当なアンプルに充填する。
【0251】
本発明の医薬組成物は、好ましくは非経口投与により投与される。例えば、注射剤型、経鼻投与剤型、経肺投与剤型、経皮投与型の組成物とすることができる。そのような組成物は、静脈内注射、筋肉内注射、腹腔内注射、皮下注射などにより全身または局部的に投与することができる。
【0252】
投与方法は、患者の年齢、症状により適宜選択することができる。抗原結合分子含有する医薬組成物の投与量は、例えば、一回につき体重1 kgあたり0.0001 mgから1000 mgの範囲に設定することが可能である。または、例えば、患者あたり0.001〜100000 mgの投与量とすることもできるが、本発明はこれらの数値に必ずしも制限されるものではない。投与量及び投与方法は、患者の体重、年齢、症状などにより変動するが、当業者であればそれらの条件を考慮し適当な投与量及び投与方法を設定することが可能である。
【0253】
なお、本発明で記載されているアミノ酸配列に含まれるアミノ酸は翻訳後に修飾(例えば、N末端のグルタミンのピログルタミル化によるピログルタミン酸への修飾は当業者によく知られた修飾である)を受ける場合もあるが、そのようにアミノ酸が翻訳後修飾された場合であっても当然のことながら本発明で記載されているアミノ酸配列に含まれる。
【0254】
製造方法
本発明は、本発明の抗原結合分子を製造する方法を提供する。具体的には、本発明は、FcRn結合ドメインの中性pHにおけるFcRnに対する結合活性が、野生型Fc領域を含む抗原結合分子と比較して増強された、抗原結合分子を製造する方法を提供する。
本発明は、以下の工程を含む、抗原結合分子を製造する方法を提供する:
(a) 親FcRn結合ドメインを選択し、該親FcRnドメインを、EU252、EU434、EU436、EU315、EU311、EU308、EU307、EU286、EU254、EU250、EU238、EU387、EU422、EU424、EU428、EU438、およびEU440からなる群より選択される1つまたは複数の位置において、アミノ酸配列中のアミノ酸を別のアミノ酸と置換することにより改変する工程;
(b) pH依存的抗原結合ドメインまたはカルシウムイオン依存的抗原結合ドメインを得るために、抗原結合分子の抗原結合ドメインを選択し、該抗原結合ドメイン中の少なくとも1つのアミノ酸を改変する工程;
(c) (a)および(b)において調製されたヒトFcRn結合ドメインおよび抗原結合ドメインが連結された抗原結合分子をコードする遺伝子を得る工程;ならびに
(d) (c)において調製された遺伝子を用いて、抗原結合分子を製造する工程。
【0255】
好ましくは、選択された抗原結合分子は、pH 7〜8よりもpH 5.5〜6.5において低い抗原結合活性を有するか、またはカルシウム依存的抗原結合活性を有する抗原結合ドメインを含む。好ましくは、工程a)のFcRn結合ドメインは本発明のFcRn結合ドメインである。より好ましくは、FcRn結合ドメインは3つ以上の位置にアミノ酸置換を含み、該3つ以上の位置は、表2および4〜7に記載された組み合わせのうちの1つである。さらにより好ましくは、FcRn結合ドメインは3つ以上の置換を含み、該3つ以上の置換は、表3、17〜20に記載された組み合わせのうちの1つである。
工程(a)は、EU238、EU250、EU252、EU254、EU255、EU258、EU286、EU307、EU308、EU309、EU311、EU315、EU428、EU433、EU434、およびEU436からなる群より選択される1つまたは複数の位置においてアミノ酸を置換し、pH中性域におけるヒトFcRn結合活性がKD 3.2μMよりも強いFcRn結合ドメインを選択する工程を含み得る。
工程(b)は、pH依存的抗原結合ドメインを得るために、抗原結合ドメインを選択し、該抗原結合ドメイン中の少なくとも1つのアミノ酸を改変する工程、またはカルシウムイオン依存的抗原結合ドメインを選択する工程を含み得る。アミノ酸を改変する工程は、好ましくは、少なくとも1つのアミノ酸をヒスチジンに置換するか、または少なくとも1つのヒスチジンを挿入する工程である。一方、少なくとも1つのヒスチジン変異を導入する部位は特に限定されず、よって、ヒスチジン変異により、pH酸性域における抗原結合活性がpH中性域における抗原結合活性より低くなる限り、任意の位置にヒスチジン変異を導入することができる。このようなヒスチジン変異は、単一の部位または2以上の部位に導入することができる。工程a)およびb)は、2回以上繰り返してもよい。工程(a)および(b)を繰り返す回数は特に限定されないが、典型的には10回以下である。
【0256】
リンカーは、(a)および(b)において調製されたFcRn結合ドメインと抗原結合ドメインとを機能的に連結するが、いかなる形態にも限定されない。ヒトFcRn結合ドメインおよび抗原結合ドメインは、共有結合力または非共有結合力によって連結されうる。特に、リンカーは、ペプチドリンカーもしくは化学リンカー、またはビオチンとストレプトアビジンの組み合わせのような結合対でありうる。ヒトFcRn結合ドメインと抗原結合ドメインとを含むポリペプチドの修飾は当技術分野において公知である。別の態様において、本発明のヒトFcRn結合ドメインと抗原結合ドメインとを、ヒトFcRn結合ドメインと抗原結合ドメインの融合タンパク質を形成することによって連結することができる。ヒトFcRn結合ドメインと抗原結合ドメインの融合タンパク質を構築するために、ヒトFcRn結合ドメインおよび抗原結合ドメインをコードする遺伝子を、インフレームで融合ポリペプチドを形成するように機能的に連結させることができる。いくつかのアミノ酸からなるペプチドを含むリンカーを、ヒトFcRn結合ドメインと抗原結合ドメインのあいだに適宜挿入することができる。配列が(GGGGS)n(配列番号:11)からなるリンカーのような様々なフレキシブルリンカーが当技術分野において公知である。
【0257】
本発明はさらに、野生型Fc領域を含む抗原結合分子と比較して、中性pHにおける既存のADAに対する結合活性が有意に増強されることなく、中性pHまたは酸性pHにおけるFcRnに対する結合活性が増強されたFcRn結合ドメインを含む抗原結合分子を製造する方法を提供する。
好ましくは、中性pHまたは酸性pHにおけるFcRnに対する結合活性が増強されかつ中性pHにおける既存のADAに対する結合活性が低下したFc領域を含む抗原結合分子を製造する方法は、以下の工程を含む:
(a) pH中性域またはpH酸性域におけるFcRnに対する結合活性が増強されかつpH中性域における既存のADAに対する結合活性が増強されたFc領域を提供する工程、
b) EU387、EU422、EU424、EU426、EU433、EU436、EU438、およびEU440からなる群より選択される1つまたは複数の位置において、Fc領域のアミノ酸配列中のアミノ酸を置換する工程、
(c) 抗原結合分子の抗原結合ドメイン中の少なくとも1つのアミノ酸を改変し、抗原結合活性がpH酸性域よりもpH中性域において強い抗原結合分子を選択する工程;
(d) (b)において調製されたヒトFcRn結合ドメインと(c)において調製された抗原結合ドメインが連結された抗原結合分子をコードする遺伝子を得る工程、ならびに
(e) (d)において調製された遺伝子を用いて、抗原結合分子を製造する工程。
【0258】
工程a)における好ましいFc領域はヒトFc領域である。好ましくは、pH中性域またはpH酸性域におけるFcRnに対する結合活性および既存のADAに対する結合活性ならびにpH中性域における既存のADAに対する結合活性が増強されたFc領域は、EU238、EU250、EU252、EU254、EU255、EU258、EU286、EU307、EU308、EU309、EU311、EU315、EU428、EU433、EU434、およびEU436からなる群より選択される1つまたは複数の位置にアミノ酸の置換を含む。より好ましくは、当該Fc領域は、表2および4〜7より選択される位置の組み合わせのいずれか1つに置換を含む。さらにより好ましくは、当該Fc領域は、表3および17〜20のいずれか1つに記載された置換または置換の組み合わせのいずれか1つを含む。好ましくは、工程a)は、pH中性域またはpH酸性域におけるFcRnに対する結合活性および既存のADAに対する結合活性が増強されたFc領域をコードするヌクレオチド配列を提供する工程を含む。
好ましくは、工程b)における置換は、表10に記載された1つもしくは複数の位置または位置の組み合わせにおけるアミノ酸置換である。より好ましくは、工程b)の置換は、表11に記載された置換の組み合わせのうちの1つである。工程b)において、EU387、EU422、EU424、EU426、EU433、EU436、EU438、およびEU440からなる群より選択される1つまたは複数の位置におけるアミノ酸は、好ましくは、ヌクレオチド配列中の1つまたは複数のヌクレオチドを置き換えることによって置換される。
工程(b)と(c)はいずれの順序で行ってもよい。さらに、工程c)は、pH依存的抗原結合ドメインを得るために、上記の抗原結合ドメイン中の少なくとも1つのアミノ酸を改変する工程、またはカルシウムイオン依存的抗原結合ドメインを選択する工程を含み得る。工程(c)において、アミノ酸を改変する工程は、好ましくは、少なくとも1つのアミノ酸をヒスチジンに置換するか、または少なくとも1つのヒスチジンを挿入する工程である。一方、少なくとも1つのヒスチジン変異を導入する部位は特に限定されず、よって、ヒスチジン変異により、pH酸性域における抗原結合活性がpH中性域における抗原結合活性より低くなる限り、任意の位置にヒスチジン変異を導入することができる。このようなヒスチジン変異は、単一の部位または2以上の部位に導入することができる。工程b)およびc)は、2回以上繰り返してもよい。工程(b)および(c)を繰り返す回数は特に限定されないが、典型的には10回以下である。
【0259】
リンカーは、(b)および(c)において調製されたFcRn結合ドメインと抗原結合ドメインとを機能的に連結するが、いかなる形態にも限定されない。ヒトFcRn結合ドメインおよび抗原結合ドメインは、共有結合力または非共有結合力によって連結されうる。特に、リンカーは、ペプチドリンカーもしくは化学リンカー、またはビオチンとストレプトアビジンの組み合わせのような結合対でありうる。ヒトFcRn結合ドメインと抗原結合ドメインとを含むポリペプチドの修飾は当技術分野において公知である。別の態様において、本発明のヒトFcRn結合ドメインと抗原結合ドメインとを、ヒトFcRn結合ドメインと抗原結合ドメインの融合タンパク質を形成することによって連結することができる。ヒトFcRn結合ドメインと抗原結合ドメインの融合タンパク質を構築するために、ヒトFcRn結合ドメインおよび抗原結合ドメインをコードする遺伝子を、インフレームで融合ポリペプチドを形成するように機能的に連結させることができる。いくつかのアミノ酸からなるペプチドを含むリンカーを、ヒトFcRn結合ドメインと抗原結合ドメインのあいだに適宜挿入することができる。配列が(GGGGS)n(配列番号:11)からなるリンカーのような様々なフレキシブルリンカーが当技術分野において公知である。
【0260】
従って、本発明の製造方法においては、上記のアミノ酸改変工程およびヒスチジンの置換又は挿入工程をさらに含んでもよい。なお、本発明の製造方法においてはヒスチジンの代わりに非天然アミノ酸を用いてもよい。従って、上述のヒスチジンを非天然アミノ酸と置き換えて本発明を理解することも可能である。
【0261】
本発明の製造方法の工程a)はまた、上記の1つまたは複数の位置における置換に加えて、EU256位に置換を含んでもよく、EU256位のアミノ酸は好ましくはグルタミン酸と置換される。
さらに、本発明の製造方法は、EU234、EU235、EU236、EU237、EU238、EU239、EU265、EU266、EU267、EU269、EU270、EU271、EU295、EU296、EU297、EU298、EU300、EU324、EU325、EU327、EU328、EU329、EU331、およびEU332(EUナンバリングシステムによる)からなる群より選択される1つまたは複数の位置において、Fc領域のアミノ酸配列中のアミノ酸を置換する工程をさらに含み得る。好ましくは、置換L235R/S239Kが導入される。
【0262】
本発明の製造方法で用いられる親FcRn結合ドメインおよびそれを含む抗原結合分子はどのように調製されてもよく、例えば、あらかじめ存在している抗体、あらかじめ存在しているライブラリー(ファージライブラリー等)、動物への免疫から得られたハイブリドーマや免疫動物からのB細胞から作製された抗体又はライブラリー、これらの抗体やライブラリーにランダムにアミノ酸を改変した抗体又はライブラリー、ヒスチジンや非天然アミノ酸変異を導入した抗体又はライブラリー(ヒスチジン又は非天然アミノ酸の含有率を高くしたライブラリーや特定箇所にヒスチジン又は非天然アミノ酸変異を導入したライブラリー等)などを用いることが可能である。
【0263】
抗原結合分子の抗原結合活性とヒトFcRn結合活性は当業者に公知の方法により測定することが可能であり、pH以外の条件については当業者が適宜決定することが可能である。
【0264】
上述の製造方法において抗原と抗原結合分子の結合、ヒトFcRnと抗原結合分子の結合はいかなる状態で行われてもよく、特に限定されない。例えば、固定化された抗原結合分子に抗原やヒトFcRnを接触させることにより抗原結合分子と結合させてもよいし、固定化された抗原やヒトFcRnに抗原結合分子を接触させることにより抗原結合分子を結合させてもよい。又、溶液中で抗原結合分子と抗原やヒトFcRnを接触させることにより抗原結合分子と結合させてもよい。
【0265】
上記の方法によって製造される抗原結合分子は、本発明の任意の抗原結合分子であってよく、好ましい抗原結合分子には、例えば、イオン化カルシウム濃度依存的抗原結合ドメインである抗原結合ドメイン、またはアミノ酸のヒスチジン置換もしくは少なくとも1つのヒスチジンの挿入を有する抗原結合ドメインを有する抗原結合分子であって、EU238、EU250、EU252、EU254、EU255、EU258、EU286、EU307、EU308、EU309、EU311、EU315、EU428、EU433、EU434、およびEU436(EUナンバリング)からなる群より選択される1つまたは複数の位置にアミノ酸置換を含むヒトFcRn結合ドメインをさらに含む抗原結合分子が含まれる。本発明の抗原結合分子はまた、上記の1つまたは複数の位置における置換に加えて、EU256位に置換を含み得る。好ましくは、EU256位のアミノ酸はグルタミン酸と置換される。より好ましくは、FcRn結合ドメインは3つ以上の位置にアミノ酸置換を含み、該3つ以上の位置は、表2および4〜7に記載された組み合わせのうちの1つである。さらにより好ましくは、FcRn結合ドメインは3つ以上の置換を含み、該3つ以上の置換は、表3、17〜20に記載された組み合わせのうちの1つである。
【0266】
さらに好ましい抗原結合分子には、例えば、イオン化カルシウム濃度依存的抗原結合ドメインである抗原結合ドメイン、またはアミノ酸のヒスチジン置換もしくは少なくとも1つのヒスチジンの挿入を有する抗原結合ドメインを有する抗原結合分子であって、EU387、EU422、EU424、EU426、EU433、EU436、EU438、およびEU440からなる群より選択される1つまたは複数の位置においてアミノ酸の置換を有するヒトFc領域をさらに含む抗原結合分子が含まれる。より好ましくは、FcRn結合ドメインは、3つ以上の位置においてヒトFcRn結合ドメイン中にアミノ酸の置換を含み、該3つ以上の位置は、表9および10に記載された組み合わせのうちの1つである。
【0267】
より好ましい抗原結合分子には、イオン化カルシウム濃度依存的抗原結合ドメインである抗原結合ドメイン、またはアミノ酸のヒスチジン置換もしくは少なくとも1つのヒスチジンの挿入を有する抗原結合ドメインを有する抗原結合分子であって、
a) EU238、EU250、EU252、EU254、EU255、EU256、EU258、EU286、EU307、EU308、EU309、EU311、EU315、EU428、EU433、EU434、およびEU436からなる群より選択される1つまたは複数の位置、ならびに
b) EU387、EU422、EU424、EU426、EU433、EU436、EU438、およびEU440(EUナンバリング)からなる群より選択される1つまたは複数の位置
においてアミノ酸の置換を有するヒトFc領域をさらに含む抗原結合分子が含まれる。
好ましくは、EU256位のアミノ酸はグルタミン酸と置換される。
より好ましくは、抗原結合分子は、表11〜13に記載された置換の組み合わせを含む。
【0268】
以下に示す抗体ライブラリーやハイブリドーマから得られる複数の抗体の中から、所望の活性を有する抗体をスクリーニングによって選択してもよい。
【0269】
抗原結合分子中のアミノ酸を改変する場合、改変前の抗原結合分子のアミノ酸配列は既知の配列を用いることも可能であり、又、当業者に公知の方法で新しく取得した抗原結合分子のアミノ酸配列を用いることも可能である。例えば、抗体であれば、抗体ライブラリーから取得することも可能であるし、モノクローナル抗体を産生するハイブリドーマから抗体をコードする遺伝子をクローニングして取得することも可能である。
【0270】
抗体ライブラリーについては既に多くの抗体ライブラリーが公知になっており、又、抗体ライブラリーの作製方法も公知であるので、当業者は適宜抗体ライブラリーを入手することが可能である。例えば、ファージライブラリーについては、Clackson et al., Nature 1991, 352: 624-8、Marks et al., J. Mol. Biol. 1991, 222: 581-97、Waterhouses et al., Nucleic Acids Res. 1993, 21: 2265-6、Griffiths et al., EMBO J. 1994, 13: 324.0-60、Vaughan et al., Nature Biotechnology 1996, 14: 309-14、及び特表平20−504970号公報(外国語による国際公開に対応する日本国内段階における公報(未審査))等の文献を参照することができる。その他、真核細胞をライブラリーとする方法(WO95/15393号パンフレット)やリボソーム提示法等の公知の方法を用いることが可能である。さらに、ヒト抗体ライブラリーを用いて、パンニングによりヒト抗体を取得する技術も知られている。例えば、ヒト抗体の可変領域を一本鎖抗体(scFv)としてファージディスプレイ法によりファージの表面に発現させ、抗原に結合するファージを選択することができる。選択されたファージの遺伝子を解析すれば、抗原に結合するヒト抗体の可変領域をコードするDNA配列を決定することができる。抗原に結合するscFvのDNA配列が明らかになれば、当該配列を元に適当な発現ベクターを作製し、ヒト抗体を取得することができる。これらの方法は既に周知であり、WO92/01047、WO92/20791、WO93/06213、WO93/11236、WO93/19172、WO95/01438、WO95/15388を参考にすることができる。
【0271】
ハイブリドーマから抗体をコードする遺伝子を取得する方法は、基本的には公知技術を使用し、所望の抗原または所望の抗原を発現する細胞を感作抗原として使用して、これを通常の免疫方法にしたがって免疫し、得られる免疫細胞を通常の細胞融合法によって公知の親細胞と融合させ、通常のスクリーニング法により、モノクローナルな抗体産生細胞(ハイブリドーマ)をスクリーニングし、得られたハイブリドーマのmRNAから逆転写酵素を用いて抗体の可変領域(V領域)のcDNAを合成し、これを所望の抗体定常領域(C領域)をコードするDNAと連結することにより得ることができる。
【0272】
より具体的には、特に以下の例示に限定されないが、例えば、上記のH鎖及びL鎖をコードする抗原結合分子遺伝子を得るための感作抗原は、免疫原性を有する完全抗原と、免疫原性を示さないハプテン等を含む不完全抗原の両方を含むことができる。例えば、目的タンパク質の全長タンパク質、又は部分ペプチドなどを用いることができる。その他、多糖類、核酸、脂質等から構成される物質が抗原となり得ることが知られており、本発明の抗原結合分子の抗原は特に限定されるものではない。抗原の調製は、当業者に公知の方法により行うことができ、例えば、バキュロウィルスを用いた方法(例えば、WO98/46777など)などに準じて行うことができる。ハイブリドーマの作製は、例えば、ミルステインらの方法(G. Kohler and C. Milstein, Methods Enzymol. 1981, 73: 3-46)等に準じて行うことができる。抗原の免疫原性が低い場合には、アルブミン等の免疫原性を有する巨大分子と結合させ、免疫を行えばよい。また、必要に応じ抗原を他の分子と結合させることにより可溶型抗原とすることもできる。膜抗原(例えば、受容体など)のような膜貫通分子を抗原として用いる場合、膜抗原の細胞外領域部分を断片として用いたり、膜貫通分子を細胞表面上に発現する細胞を免疫原として使用することも可能である。
【0273】
抗原結合分子産生細胞は、上述の適当な感作抗原を用いて動物を免疫化することにより得ることができる。または、抗原結合分子を産生し得るリンパ球をインビトロで免疫化して抗原結合分子産生細胞とすることもできる。免疫化する動物としては、各種哺乳動物を使用できるが、ゲッ歯目、ウサギ目、霊長目の動物が一般的に用いられる。マウス、ラット、ハムスター等のゲッ歯目、ウサギ等のウサギ目、カニクイザル、アカゲザル、マントヒヒ、チンパンジー等のサル等の霊長目の動物を例示することができる。その他、ヒト抗体遺伝子のレパートリーを有するトランスジェニック動物も知られており、このような動物を使用することによりヒト抗体を得ることもできる(WO96/34096; Mendez et al., Nat. Genet. 1997, 15: 146-56参照)。このようなトランスジェニック動物の使用に代えて、例えば、ヒトリンパ球をインビトロで所望の抗原または所望の抗原を発現する細胞で感作し、感作リンパ球をヒトミエローマ細胞、例えばU266と融合させることにより、抗原への結合活性を有する所望のヒト抗体を得ることもできる(特公平1-59878号公報参照)。また、ヒト抗体遺伝子の全てのレパートリーを有するトランスジェニック動物を所望の抗原で免疫することで所望のヒト抗体を取得することができる(WO93/12227、WO92/03918、WO94/02602、WO96/34096、WO96/33735参照)。
【0274】
動物の免疫化は、例えば、感作抗原をリン酸緩衝食塩水(Phosphate-Buffered Saline)(PBS)または生理食塩水等で適宜希釈、懸濁し、必要に応じてアジュバントを混合して乳化した後、動物の腹腔内または皮下に注射することにより行われる。その後、好ましくは、フロイント不完全アジュバントに混合した感作抗原を4〜21日毎に数回投与する。抗体の産生の確認は、動物の血清中の目的とする抗体力価を常法により測定することにより行われ得る。
【0275】
ハイブリドーマは、所望の抗原で免疫化した動物またはリンパ球より得られた抗原結合分子産生細胞を、慣用の融合剤(例えば、ポリエチレングリコール)を使用してミエローマ細胞と融合して作成することができる(Goding, Monoclonal Antibodies: Principles and Practice, Academic Press, 1986, 59-103)。必要に応じハイブリドーマ細胞を培養・増殖し、免疫沈降、放射免疫分析(RIA)、酵素結合免疫吸着分析(ELISA)等の公知の分析法により該ハイブリドーマより産生される抗原結合分子の結合特異性を測定する。その後、必要に応じ、目的とする特異性、アフィニティーまたは活性が測定された抗原結合分子を産生するハイブリドーマを限界希釈法等の手法によりサブクローニングすることもできる。
【0276】
続いて、選択された抗原結合分子をコードする遺伝子をハイブリドーマまたは抗原結合分子産生細胞(感作リンパ球等)から、抗原結合分子に特異的に結合し得るプローブ(例えば、抗体定常領域をコードする配列に相補的なオリゴヌクレオチド等)を用いてクローニングすることができる。また、mRNAからRT-PCRによりクローニングすることも可能である。免疫グロブリンは、IgA、IgD、IgE、IgG及びIgMの5つの異なるクラスに分類される。さらに、これらのクラスは幾つかのサブクラス(アイソタイプ)(例えば、IgG-1、IgG-2、IgG-3、及びIgG-4;IgA-1及びIgA-2等)に分けられる。本発明において抗原結合分子の製造に使用するH鎖及びL鎖は、これらいずれのクラス及びサブクラスに属する抗体に由来するものであってもよく、特に限定されないが、IgGは特に好ましい。
【0277】
ここで、H鎖及びL鎖をコードする遺伝子を遺伝子工学的手法により改変することも可能である。例えば、マウス抗体、ラット抗体、ウサギ抗体、ハムスター抗体、ヒツジ抗体、ラクダ抗体等の抗体について、ヒトに対する異種免疫原性を低下させること等を目的として、人為的に改変した遺伝子組換え型抗体、例えば、キメラ抗体、ヒト化抗体等を適宜作製することができる。キメラ抗体は、ヒト以外の哺乳動物、例えば、マウス抗体のH鎖、L鎖の可変領域とヒト抗体のH鎖、L鎖の定常領域からなる抗体であり、マウス抗体の可変領域をコードするDNAをヒト抗体の定常領域をコードするDNAと連結し、これを発現ベクターに組み込んで宿主に導入し産生させることにより得ることができる。ヒト化抗体は、再構成(reshaped)ヒト抗体とも称され、ヒト以外の哺乳動物、例えばマウス抗体の相補性決定領域(CDR; complementary determining region)を連結するように設計したDNA配列を、末端部にオーバーラップする部分を有するように作製した数個のオリゴヌクレオチドからPCR法により合成する。得られたDNAをヒト抗体定常領域をコードするDNAと連結し、次いで発現ベクターに組み込んで、これを宿主に導入し産生させることにより得られる(EP239400; WO96/02576参照)。CDRを介して連結されるヒト抗体のFRは、相補性決定領域が良好な抗原結合部位を形成するものが選択される。必要に応じ、再構成ヒト抗体の相補性決定領域が適切な抗原結合部位を形成するように抗体の可変領域のフレームワーク領域のアミノ酸を置換してもよい(K. Sato et al., Cancer Res. 1993, 53: 10.01-10.06)。
【0278】
上述のヒト化以外に、例えば、抗原との結合性等の抗体の生物学的特性を改善するために改変を行うことも考えられる。本発明における改変は、部位特異的突然変異(例えば、Kunkel (1910.0) Proc. Natl. Acad. Sci. USA 82: 488参照)、PCR変異、カセット変異等の方法により行うことができる。一般に、生物学的特性の改善された抗体変異体は70%以上、より好ましくは80%以上、さらに好ましくは90%以上(例えば、95%以上、97%、98%、99%等)のアミノ酸配列相同性及び/または類似性を、元となった抗体の可変領域のアミノ酸配列に対して有する。本発明において、配列の相同性及び/または類似性は、配列相同性が最大の値を取るように必要に応じ配列を整列化、及びギャップ導入した後、元となった抗体残基と相同(同じ残基)または類似(一般的なアミノ酸の側鎖の特性に基づき同じグループに分類されるアミノ酸残基)するアミノ酸残基の割合として定義される。通常、天然のアミノ酸残基は、その側鎖の性質に基づいて
(1)疎水性:アラニン、イソロイシン、バリン、メチオニン及びロイシン;
(2)中性親水性:アスパラギン、グルタミン、システイン、スレオニン及びセリン;
(3)酸性:アスパラギン酸及びグルタミン酸;
(4)塩基性:アルギニン、ヒスチジン及びリジン;
(5)鎖の配向に影響する残基:グリシンおよびプロリン;ならびに
(6)芳香族性:チロシン、トリプトファン及びフェニルアラニン
のグループに分類される。
【0279】
さらに、本発明は本発明のFcRn結合ドメインおよび本発明の抗原結合分子をコードする遺伝子を提供する。本発明の抗原結合分子をコードする遺伝子はいかなる遺伝子でもよく、DNA、RNA、その他核酸類似体などでもよい。
【0280】
さらに本発明は、上記遺伝子を有する宿主細胞を提供する。該宿主細胞は、特に制限されず、例えば、大腸菌や種々の動物細胞などを挙げることができる。宿主細胞は、例えば、本発明の抗体の製造や発現のための産生系として使用することができる。ポリペプチド製造のための産生系には、インビトロおよび生体内の産生系がある。インビトロの産生系としては、真核細胞を使用する産生系及び原核細胞を使用する産生系が挙げられる。
【0281】
宿主細胞として使用できる真核細胞として、例えば、動物細胞、植物細胞、真菌細胞が挙げられる。動物細胞としては、哺乳類細胞、例えば、CHO(チャイニーズハムスター卵巣細胞株)、COS(サル腎臓細胞株)、ミエローマ(Sp2/O、NS0等)、BHK(ベビーハムスター腎臓細胞株)、HeLa、Vero、HEK293(剪断されたアデノウイルス(Ad)5 DNAを有するヒト胎児由来腎臓細胞株)、PER.C6細胞(アデノウイルス5型(Ad5)E1AおよびE1B遺伝子で形質転換されたヒト胚網膜芽細胞株)、293等(Current Protocols in Protein Science (May, 2001, Unit 5.9, Table 5.9.1)を参照)、両生類細胞、例えばアフリカツメガエル卵母細胞(Valle et al., Nature (1981) 291: 338-340)、及び昆虫細胞、例えば、Sf9、Sf21、Tn5が例示される。本発明の抗体の発現においては、CHO-DG44、CHO-DX11B、COS7細胞、HEK293細胞、BHK細胞が好適に用いられる。動物細胞において、大量発現を目的とする場合には特にCHO細胞が好ましい。宿主細胞へのベクターの導入は、例えば、リン酸カルシウム法、DEAEデキストラン法、カチオニックリボソームDOTAP(Boehringer Mannheim製)を用いた方法、エレクトロポレーション法、リポフェクションなどの方法で行うことが可能である。
【0282】
植物細胞としては、例えば、ニコチアナ・タバカム(Nicotiana tabacum)由来の細胞およびウキクサ(Lemna minor)がタンパク質生産系として知られており、この細胞をカルス培養する方法により本発明の抗原結合分子を産生させることができる。真菌細胞としては、酵母、例えば、サッカロミセス(Saccharomyces)属の細胞(サッカロミセス・セレビシエ(Saccharomyces cerevisiae)、サッカロミセス・ポンベ(Saccharomyces pombe)等)、及び糸状菌、例えば、アスペルギルス(Aspergillus)属の細胞(アスペルギルス・ニガー(Aspergillus niger)等)を用いたタンパク質発現系が公知であり、本発明の抗原結合分子産生の宿主として利用できる。
【0283】
原核細胞を使用する場合、細菌細胞を用いる産生系がある。細菌細胞としては、上述の大腸菌(E. coli)に加えて、枯草菌を用いた産生系が知られており、本発明の抗原結合分子産生に利用できる。
【0284】
本発明の製造方法において得られた遺伝子は、通常、適当なベクターへ担持(挿入)され、宿主細胞へ導入される。該ベクターとしては、挿入した核酸を安定に保持するものであれば特に制限されず、例えば宿主に大腸菌を用いるのであれば、クローニング用ベクターとしてはpBluescriptベクター(Stratagene社製)などが好ましいが、市販の種々のベクターを利用することができる。本発明の抗原結合分子を生産する目的においてベクターを用いる場合には、特に発現ベクターが有用である。発現ベクターとしては、試験管内、大腸菌内、培養細胞内、生物個体内で抗原結合分子を発現するベクターであれば特に制限されないが、例えば、試験管内発現であればpBESTベクター(プロメガ社製)、大腸菌であればpETベクター(Invitrogen社製)、培養細胞であればpME18S-FL3ベクター(GenBankアクセッション番号AB009864)、生物個体であればpME18Sベクター(Mol Cell Biol. 8:466-472(1988))などが好ましい。さらに、本発明の対象となる遺伝子のコピー数を増やすために、EBNA1タンパク質を共発現させてもよい。この場合、複製開始部位としてOriPを含むベクターを使用する(Biotechnol Bioeng. 2001 Oct 20;75(2):197-203, Biotechnol Bioeng. 2005 Sep 20;91(6):670-7)。ベクターへの本発明のDNAの挿入は、常法により、例えば、制限酵素サイトを用いたリガーゼ反応により行うことができる(Current protocols in Molecular Biology edit. Ausubel et al. (1987) Publish. John Wiley & Sons.Section 11.4-11.11)。
【0285】
上記宿主細胞としては特に制限はなく、目的に応じて種々の宿主細胞が用いられる。抗原結合分子を発現させるための細胞としては、例えば、細菌細胞(例:ストレプトコッカス、スタフィロコッカス、大腸菌、ストレプトミセス、枯草菌)、真菌細胞(例:酵母、アスペルギルス)、昆虫細胞(例:ドロソフィラS2、スポドプテラSF9)、動物細胞(例:CHO、COS、HeLa、C127、3T3、BHK、HEK293、Bowes メラノーマ細胞)および植物細胞を例示することができる。宿主細胞へのベクター導入は、例えば、リン酸カルシウム沈殿法、電気パルス穿孔法(Current protocols in Molecular Biology edit. Ausubel et al. (1987) Publish. John Wiley & Sons.Section 9.1-9.9)、リポフェクション法、マイクロインジェクション法などの公知の方法で行うことが可能である。
【0286】
宿主細胞の培養は、公知の方法に従って行うことができる。例えば、動物細胞を宿主とした場合、培養液として、例えば、DMEM、MEM、RPMI1640、IMDMを使用することができる。その際、FBS、牛胎児血清(FCS)等の血清補液を併用しても、無血清培養により細胞を培養してもよい。培養時のpHは、約6〜8とするのが好ましい。培養は、通常30〜40℃で約15〜200時間行い、必要に応じて培地の交換、通気、攪拌を加える。
【0287】
宿主細胞において発現した抗原結合分子を小胞体の内腔に、細胞周辺腔に、または細胞外の環境に分泌させるために、適当な分泌シグナルを目的のポリペプチドに組み込むことができる。これらのシグナルは目的の抗原結合分子に対して内因性であっても、異種シグナルであってもよい。
【0288】
一方、生体内でポリペプチドを産生させる系としては、例えば、動物を使用する産生系や植物を使用する産生系が挙げられる。これらの動物又は植物に目的とするポリヌクレオチドを導入し、動物又は植物の体内でポリペプチドを産生させ、回収する。本発明における「宿主」とは、これらの動物、植物を包含する。
【0289】
動物を使用する場合、哺乳類動物、昆虫を用いる産生系がある。哺乳類動物としては、ヤギ、ブタ、ヒツジ、マウス、ウシ等を用いることができる(Vicki Glaser, SPECTRUM Biotechnology Applications (1993))。また、哺乳類動物を用いる場合、トランスジェニック動物を用いることができる。
【0290】
例えば、本発明の抗原結合分子をコードするポリヌクレオチドを、ヤギβカゼインのような乳汁中に固有に産生されるポリペプチドをコードする遺伝子との融合遺伝子として調製する。次いで、この融合遺伝子を含むポリヌクレオチド断片をヤギの胚へ注入し、この胚を雌のヤギへ移植する。胚を受容したヤギから生まれるトランスジェニックヤギ又はその子孫が産生する乳汁から、目的の抗原結合分子を得ることができる。トランスジェニックヤギから産生される抗原結合分子を含む乳汁量を増加させるために、適宜ホルモンをトランスジェニックヤギに投与してもよい(Ebert et al., Bio/Technology (1994) 12: 699-702)。
【0291】
また、本発明の抗原結合分子を産生させる昆虫としては、例えばカイコを用いることができる。カイコを用いる場合、目的の抗原結合分子をコードするポリヌクレオチドを挿入したバキュロウィルスをカイコに感染させることにより、このカイコの体液から目的の抗原結合分子を得ることができる。
【0292】
さらに、植物を本発明の抗原結合分子産生に使用する場合、例えばタバコを用いることができる。タバコを用いる場合、目的とする抗原結合分子をコードするポリヌクレオチドを植物発現用ベクター、例えばpMON 530に挿入し、このベクターをアグロバクテリウム・ツメファシエンス(Agrobacterium tumefaciens)のようなバクテリアに導入する。このバクテリアをタバコ、例えば、ニコチアナ・タバカム(Nicotiana tabacum)に感染させ、本タバコの葉より所望の抗原結合分子を得ることができる(Ma et al., Eur. J. Immunol. (1994) 24: 131-8)。また、同様のバクテリアをウキクサ(Lemna minor)に感染させ、クローン化した後にウキクサの細胞より所望の抗原結合分子を得ることができる(Cox KM et al. Nat. Biotechnol. 2006 Dec;24(12):1591-1597)。
【0293】
このようにして得られた抗原結合分子は、宿主細胞内または細胞外(培地、乳汁など)から単離し、実質的に純粋で均一な抗原結合分子として精製することができる。抗原結合分子の分離、精製は、通常のポリペプチドの精製で使用されている分離、精製方法を使用すればよく、何ら限定されるものではない。例えば、クロマトグラフィーカラム、フィルター、限外濾過、塩析、溶媒沈殿、溶媒抽出、蒸留、免疫沈降、SDS-ポリアクリルアミドゲル電気泳動、等電点電気泳動法、透析、再結晶等を適宜選択、組み合わせて抗原結合分子を分離、精製することができる。
【0294】
クロマトグラフィー技術の例としては、アフィニティクロマトグラフィー、イオン交換クロマトグラフィー、疎水性クロマトグラフィー、ゲル濾過、逆相クロマトグラフィー、吸着クロマトグラフィー等が非限定的に挙げられる(Strategies for Protein Purification and Characterization: A Laboratory Course Manual. Ed Daniel R. Marshak et al.(1996) Cold Spring Harbor Laboratory Press)。これらのクロマトグラフィーは、液相クロマトグラフィー、例えばHPLC、FPLC等の液相クロマトグラフィーを用いて行うことができる。アフィニティクロマトグラフィーに用いるカラムとしては、プロテインAカラム、プロテインGカラムが挙げられる。例えば、プロテインAを用いたカラムとして、Hyper D, POROS, Sepharose F. F. (Pharmacia製)等が挙げられる。
【0295】
必要に応じ、抗原結合分子の精製前又は精製後に適当なタンパク質修飾酵素を作用させることにより、任意に修飾を加えたり、部分的にペプチドを除去することもできる。タンパク質修飾酵素としては、例えば、トリプシン、キモトリプシン、リシルエンドペプチダーゼ、プロテインキナーゼ、グルコシダーゼなどが用いられる。
【実施例】
【0296】
本明細書において、本発明をその特定の態様に関して詳細に説明するが、前記説明は本質的に例示的かつ説明的なものであって、本発明およびその好ましい態様を説明することを意図していることが理解されるべきである。慣例的な実験を通して、当業者は、その境界が添付の特許請求の範囲によって規定される本発明の精神および範囲から逸脱することなく、様々な変更および修正がその中でなされ得ることを容易に認識するであろう。
【0297】
[実施例1] 中性pHにおけるFcRn結合アフィニティーが改善された新規Fc改変体の構築
血漿中からの抗原消失を増強する目的で、FcRnと相互作用する抗原結合分子(抗体)のFc領域(Nat Rev Immunol. 2007 Sep; 7(9):715-25)を、中性pHにおけるFcRnに対する結合アフィニティーが改善されるように操作した。従来の抗体と比較して中性pHにおけるFcRnに対する結合アフィニティーが改善されたpH依存的抗原結合抗体による血漿中からの抗原消失の機構を
図1Aに示す。
【0298】
WO2011/122011の実施例1〜17は、中性pHにおけるFcRnに対する結合アフィニティーを改善する変異(アミノ酸置換)を開示しており、抗体の中性pHにおけるFcRnに対する結合アフィニティーを改善することに焦点を合わせて作製されたFc改変体F1〜F599(表16)を記載している。しかしながら、このようなFc改変体を含む抗体医薬の開発に関しては、それらの薬理学的特性(すなわち、FcRn結合の改善)のみならず、安定性、純度、および免疫原性も考慮すべきである。不安定かつ低純度の抗体は薬物として適しておらず、また免疫原性不良はそれらの臨床開発の妨げとなる。
【0299】
1-1. 中性pHにおけるhFcRnに対する結合アフィニティーが改善されたFc改変体の設計および作製
高い安定性、高い純度、および低い免疫原性リスクを維持しつつ、中性pHにおけるhFcRnに対する結合アフィニティーが改善された様々なFc改変体を設計した。野生型IgG1のFc領域に導入した変異(アミノ酸置換)を、各Fc改変体について表16に示す(IgG1-F1〜F1434)。WO2011/122011の参考実施例1に記載の当業者公知の方法によって、アミノ酸置換をVH3-IgG1(配列番号:1)に導入してFc改変体を作製した。
【0300】
(表16)
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【0301】
上記のように調製された重鎖とL(WT)-CK(配列番号:2)とを各々含む改変体(IgG1-F600〜F1434)を、WO2011/122011の参考実施例2に記載の当業者公知の方法によって発現させて精製した。
【0302】
1-2. Biacoreを用いたFc改変体のFcRn結合アフィニティーの評価
実施例1で調製された新規Fc改変体(F600〜F1434)、およびWO2011/122011の実施例1で調製された既存のFc改変体(F1〜F599)のhFcRn結合アフィニティーを、Biacore T100(GE Healthcare)を用いて評価した。このために、参考実施例A2に記載された通りにヒトFcRnを調製した。適量のプロテインL(ACTIGEN)をアミノカップリング法によりセンサーチップCM4(GE Healthcare)上に固定化し、このチップに目的の抗体を捕捉させた。次に、FcRn希釈液およびランニングバッファー(対照溶液として)を注入し、ヒトFcRnが、センサーチップ上に捕捉された抗体と相互作用できるようにした。50 mmol/lリン酸ナトリウム、150 mmol/l NaCl、および0.05%(w/v) Tween20(pH7.0)を含むランニングバッファー使用した。各バッファーを用いてFcRnを希釈した。チップは、10 mmol/lグリシン-HCl(pH 1.5)を用いて再生した。アッセイはもっぱら25℃で行った。アッセイで得られたセンサーグラムに基づき、いずれもカイネティクスパラメーターである結合速度定数ka(1/Ms)および解離速度定数k
d(1/s)を算出し、これらの値からヒトFcRnに対する各抗体のKD(M)を決定した。各パラメーターは、Biacore T100 Evaluation Software(GE Healthcare)を用いて算出した。全Fc改変体の結合アフィニティーを表16に示す。
【0303】
1-3. 示差走査蛍光定量法(DSF)を用いたFc改変体の安定性の評価
実施例1で調製された新規Fc改変体(F600〜F1434)、およびWO2011/122011の実施例1で調製された既存のFc改変体(F1〜F599)の安定性を、示差走査蛍光定量法(DSF)を用いて評価した。この方法は、温度を徐々に上昇させながら極性感受性プローブの蛍光強度を測定し、タンパク質の疎水性領域が露出する遷移温度を得ることからなる。DSFを用いて得られた遷移温度は、示差走査熱量測定法を用いて得られた融解温度と良好な相関を示すことが既に報告されている(Journal of Pharmaceutical Science 2010; 4: 1707-1720)。SYPRO orange色素(Molecular Probes)をPBS(Sigma)により希釈し、タンパク質溶液に添加した。各試料は染色した溶液20μLとして用いた。470 nmの固定励起波長を用いて、蛍光放射を555 nmで収集した。DSF実験中は、温度を30℃から99℃まで0.4℃ずつ上昇させ、各温度で6秒間の平衡時間を設けてから測定した。データは、Rotor-Gene Q Series Software(QIAGEN)を用いて解析した。蛍光遷移の温度を融解温度(Tm)と定義する。Fc改変体F1〜F1434のTm値を表16に示す。
【0304】
1-4. サイズ排除クロマトグラフィー(SEC)を用いたFc改変体の純度の評価
実施例1で調製された新規Fc改変体(F600〜F1434)、およびWO2011/122011の実施例1で調製された既存のFc改変体(F1〜F599)の高分子量種の割合(HMW(%))を、サイズ排除クロマトグラフィー(SEC)を用いて評価した。SECはACQUITY UPLC H-Classシステム(waters)で実施した。抗体をBEH200 SECカラム(1.7μm、4.6×150 mm、waters)上に注入した。0.05 Mリン酸ナトリウム、0.3 M塩化ナトリウム(pH 7.0、Isekyu)を移動相とし、流速0.3 mL/分にて均一濃度で流した。溶出されたタンパク質を、215 nmのUV吸光度で検出した。データはEmpower2(waters)を用いて解析した。抗体単量体のピークよりも早く溶出するピークを、HMW成分パーセンタイルとして記録した。全Fc改変体(F1〜F1434)のHMW(%)を表16に示す。
【0305】
1-5. in silico免疫原性予測ツールEpibaseを用いたFc改変体の免疫原性リスクの評価
抗医薬品抗体(ADA)は治療用抗体の効果および薬物動態に影響を及ぼし、時に重篤な副作用をもたらすことがあるため、臨床における治療用抗体の有用性と薬効はADAの産生によって制限され得る。多くの要因が治療用抗体の免疫原性に影響を及ぼすが、治療用タンパク質中に存在するエフェクターT細胞エピトープの重要性が多数報告されている。
【0306】
T細胞エピトープを予測するためのin silicoツールとしては、Epibase(Lonza)、iTope/TCED(Antitope)、およびEpiMatrix(EpiVax)等が開発されている。これらのin silicoツールを用いることで、各アミノ酸配列中のT細胞エピトープの存在を予測することができ(Expert Opin Biol Ther. 2007 Mar;7(3):405-18.)、Fc改変体の潜在的免疫原性の評価が可能になる。Epibase Light(Lonza)を用いて、Fc改変体の潜在的免疫原性を評価した。
【0307】
Epibase Light(Lonza)は、FASTERアルゴリズム(Expert Opin Biol Ther. 2007 Mar;7(3):405-18.)を用いて、9-merペプチドとmajor DRB1アレルとの結合アフィニティーを計算するin silicoツールである。Epibase Light(Lonza)は、MHCクラスIIに対する強い結合および中程度の結合となるT細胞エピトープを同定する。各Fc改変体のin silico免疫原性スコアは、Epibase Light(Lonza)システムに組み入れられる以下の式を用いて算出した。免疫原性スコア = Sum ((each DRB1 allotype population frequency) × (number of critical epitopes))。
【0308】
式にはDRB1アロタイプの存在比(DRB1 allotype population frequency)が用いられ、これには以下に示すCaucasian集団に基づくDRB1アロタイプの存在比を使用した。
DRB1*0701(25.3%)、DRB1*1501(23.1%)、DRB1*0301(21.7%)、DRB1*0101(15.3%)、DRB1*0401(13.8%)、DRB1*1101(11.8%)、DRB1*1302(8.0%)、DRB1*1401(4.9%)、DRB1*0403(2.3%)、DRB1*0901(1.8%)
【0309】
改変体の定常領域(CH1-ヒンジ-CH2-CH3)中に含まれる強い結合と中程度の結合の全てのエピトープの数をFASTERアルゴリズムにより求め、式中のcritical epitopeの数(number of critical epitopes)として用いた。ヒト抗体ジャームライン配列や可変領域と定常領域との境界領域をエピトープから除外し、除外されなかったエピトープのみが免疫原性スコア計算に用いられる(critical epitopeとしてカウントされる)。
【0310】
実施例1に記載された新規Fc改変体(F600〜F1434)、およびWO2011/122011の実施例1に記載された既存のFc改変体(F1〜F599)のアミノ酸配列の免疫原性スコアを、上記のEpibase Light(Lonza)システムを用いて算出した。全Fc改変体(F1〜F1434)の免疫原性スコアを表16に示す。
【0311】
[実施例2] 安定性が高く、高分子量種が少なく、かつ免疫原性リスクが低い、FcRn結合が改善されたFc改変体の同定
2-1. hFcRn結合アフィニティーに対してTm、HMW(%)、および免疫原性スコアをプロットすることによる、既存のFc改変体および新規Fc改変体の解析
WO2011/122011の実施例1に記載された既存のFc改変体(F1〜F599)、および
実施例1で作製され評価された新規Fc改変体(F600〜F1052)のhFcRn結合アフィニティーおよびTmをプロットし、
図2に示す。既存のFc改変体および新規Fc改変体のhFcRn結合アフィニティーおよびHMW(%)をプロットし、
図3に示す。Fc改変体F1〜F599および新規Fc改変体(F600〜F1052)のhFcRn結合アフィニティーおよび免疫原性スコアをプロットし、
図4に示す。
【0312】
Ser239Lys変異またはAsp270Phe変異を有する新規Fc改変体(F600〜F1052)および既存のFc改変体(F1〜F599)改変体は、プロットから除いた。Ser239Lys変異およびAsp270Phe変異は、安定性(Tm)を改善したが、FcRn結合アフィニティーを改善せず、すべてのヒトFcγ受容体に対する結合アフィニティーを低下させたため、グループ1〜4の以下の詳細な解析において、Fc改変体の安定性は、Ser239Lys変異もAsp270Phe変異も持たない改変体について比較すべきである。
【0313】
加えて、Pro257Xxx変異(XxxはAla、Val、Ile、LeuもしくはThrである)またはMet252Trp変異を有する新規Fc改変体(F600〜F1052)および既存のFc改変体(F1〜F599)は、FcRn結合アフィニティーを改善するが、プロットから除いた。Pro257Xxx変異およびMet252Trp変異は、Tmの有意な低下を示さず、Pro257Xxx変異およびMet252Trp変異を有する改変体は高い安定性を有することが示唆された。それにもかかわらず、Pro257Xxx変異またはMet252Trp変異を有するこれらの改変体は、加速安定性試験中または冷却貯蔵した場合に有意な凝集および沈殿を示した。このように安定性に問題があるため、Pro257Xxx変異およびMet252Trp変異を有するFc改変体は医薬品開発において許容されるものではなく、よってグループ1〜4の以下の詳細な解析において、このようなFc改変体はプロットから除かれるべきである。
【0314】
2-2. グループ1(hFcRnに対する結合アフィニティーが15 nMよりも強い)の詳細な解析
hFcRnに対する結合アフィニティーが15 nMよりも強い(以後、グループ1と記載する)、実施例1で作製され評価された新規Fc改変体(F600〜F1052)、およびWO2011/122011の実施例1に記載された既存のFc改変体(F1〜F599)を、X軸にhFcRn結合アフィニティーをプロットし、Y軸にTm、HMW(%)、および免疫原性スコアをプロットすることにより詳細に解析した。
X軸にhFcRn結合アフィニティー(15 nMよりも強いKD)をプロットし、Y軸にTm、HMW(%)、および免疫原性スコアをプロットすることによるグループ1の詳細な解析を、それぞれ
図5、6、および7に示す。
【0315】
グループ1のFc改変体の開発可能性基準に関して、Tmの基準は57.5℃よりも高いと設定し、HMW(%)の基準は2%未満と設定し、免疫原性スコアは500未満と設定した。
【0316】
開発可能性基準(Tmが57.5℃より高く、HMW(%)が2%未満であり、かつ免疫原性スコア500未満である)をすべて満たすグループ1のFc改変体を表17に示す。
【0317】
(表17)
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【0318】
既存のFc改変体(F1〜F599)はいずれもアフィニティーが15 nMよりも強くなかったのに対して、実施例1で作製された新規Fc改変体のうちのいくつかは15 nMよりも強く、開発可能性基準をすべて満たした。表17に記載されたこのようなグループ1の新規Fc改変体は、特にpH依存的抗原結合ドメインと組み合わせて用いる場合に、非常に迅速かつ大規模な血漿中からの抗原消失を可能にするFcドメインとして極めて有用である。
【0319】
2-3. グループ2(hFcRnに対する結合アフィニティーが15 nM〜50 nMである)の詳細な解析
hFcRnに対する結合アフィニティーが15 nM〜50 nMである(以後「グループ2」と称する)、実施例1で作製され評価された新規Fc改変体(F600〜F1052)、およびWO2011/122011の実施例1に記載された既存のFc改変体(F1〜F599)を、X軸にhFcRn結合アフィニティーをプロットし、Y軸にTm、HMW(%)、および免疫原性スコアをプロットすることにより詳細に解析した。
【0320】
x軸にhFcRn結合アフィニティー(15 nM〜50 nMのKD)をプロットし、Y軸にTm、HMW(%)、または免疫原性スコアをプロットすることによるグループ2の詳細な解析を、それぞれ
図8、9、および10に示す。
【0321】
グループ2のFc改変体の開発可能性基準に関して、Tmの基準は60℃よりも高いと設定し、HMW(%)の基準は2%未満と設定し、免疫原性スコアは500未満と設定した。
【0322】
開発可能性基準(Tmが60℃より高く、HMW(%)が2%未満であり、かつ免疫原性スコア500未満である)をすべて満たすグループ2のFc改変体を表18に示す。
【0323】
(表18)
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【0324】
既存のFc改変体(F1〜F599)には、すべての開発可能性基準を満たしたものはなかったが、実施例1で作製された新規Fc改変体のうちのいくつかはすべてを満たした。開発可能性基準を満たすグループ2のこのようなFc改変体は、特にpH依存的抗原結合ドメインと組み合わせて用いる場合に、迅速かつ大規模な血漿中からの抗原消失を可能にするのに極めて有用である。
【0325】
2-4. グループ3(hFcRnに対する結合アフィニティーが50 nM〜150 nMである)の詳細な解析
hFcRnに対する結合アフィニティーが50 nM〜150 nMである(以後「グループ3」と称する)、実施例1で作製され評価された新規Fc改変体(F600〜F1052)、およびWO2011/122011の実施例1に記載された既存のFc改変体(F1〜F599)を、X軸にhFcRn結合アフィニティーをプロットし、Y軸にTm、HMW(%)、および免疫原性スコアをプロットすることにより詳細に解析した。
【0326】
X軸にhFcRn結合アフィニティー(50 nM〜150 nMのKD)をプロットし、Y軸にTm、HMW(%)、または免疫原性スコアをプロットすることによるグループ3の詳細な解析を、それぞれ
図11、12、および13に示す。
【0327】
グループ3のFc改変体の開発可能性基準に関して、Tmの基準は63.0℃よりも高いと設定し、HMW(%)の基準は2%未満と設定し、免疫原性スコアは250未満と設定した。
【0328】
開発可能性基準(Tmが63.0℃より高く、HMW(%)が2%未満であり、かつ免疫原性スコアが250未満である)をすべて満たすグループ3のFc改変体を表19に示す。
【0329】
(表19)
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【0330】
既存のFc改変体(F1〜F599)には、すべての開発可能性基準を満たしたものはなかったが、実施例1で作製された新規Fc改変体のうちのいくつかはすべてを満たした。開発可能性基準をすべて満たすグループ3のこのような新規Fc改変体は、特にpH依存的抗原結合ドメインと組み合わせて用いる場合に、血漿中からの中程度かつ持続的な抗原消失を可能にするのに極めて有用である。
【0331】
2-5. グループ4(hFcRnに対する結合アフィニティーが150 nM〜700 nMである)の詳細な解析
hFcRnに対する結合アフィニティーが150 nM〜700 nMである(以後「グループ4」と称する)、実施例1で作製され評価された新規Fc改変体(F600〜F1052)、およびWO2011/122011の実施例1に記載された既存のFc改変体(F1〜F599)を、X軸にhFcRn結合アフィニティーをプロットし、Y軸にTm、HMW(%)、および免疫原性スコアをプロットすることにより詳細に解析した。
【0332】
X軸にhFcRn結合アフィニティー(150 nM〜700 nMのKD)をプロットし、Y軸にTm、HMW(%)、または免疫原性スコアをプロットすることによるグループ4の詳細な解析を、それぞれ
図14、15、および16に示す。
【0333】
グループ4のFc改変体の開発可能性基準に関して、Tmの基準は66.5℃より高いと設定し、HMW(%)の基準は2%未満と設定し、免疫原性スコアは250未満と設定した。
【0334】
開発可能性基準(Tmが66.5℃よりも高く、HMW(%)が2%未満であり、かつ免疫原性スコアが250未満である)をすべて満たすグループ4のFc改変体を表20に示す。
【0335】
(表20)
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【0336】
既存のFc改変体(F1〜F599)には、すべての開発可能性基準を満たしたものはなかったが、実施例1で作製された新規Fc改変体のうちのいくつかはそれらすべてを満たした。開発可能性基準をすべて満たすグループ4のこのような新規Fc改変体は、特にpH依存的抗原結合ドメインと組み合わせて用いる場合に、血漿中からの中程度かつ持続的な抗原消失を可能にするのに極めて有用である。
【0337】
要約すると、表17〜20に記載された新規Fc改変体は、血漿中から抗原を除去し得る抗原結合分子の医薬品開発に適した高いTm、低いHMW(%)、および低い免疫原性スコアを有する。
【0338】
[実施例3] ヒトFcRnトランスジェニックを用いたヒトIL-6受容体定常状態注入モデルにおける新規Fc改変体のインビボ抗原消失試験
3-1. インビボ試験用の抗体の調製
pH依存的抗ヒトIL6受容体IgG1抗体である、VH3-IgG1(配列番号:1)およびVL3-CK(配列番号:3)を含むFv4-IgG1、既存のFc改変体である、VH3-F11(配列番号:4)およびVL3-CK(配列番号:3)を含むFv4-F11、ならびに、新規Fc改変体である、VH3-F652(配列番号:5)およびVL3-CK(配列番号:3)を含むFv4-F652、VH3-F890(配列番号:6)およびVL3-CK(配列番号:3)を含むFv4-F890、VH3-F946(配列番号:7)およびVL3-CK(配列番号:3)を含むFv4-F946を、WO2011/122011の参考実施例2に記載の当業者公知の方法によって発現させて精製した。
【0339】
Fv4-IgG1、Fv4-F11、Fv4-F652、Fv4-F890、およびFv4-F946のインビボ抗原消失試験を、ヒトFcRnトランスジェニックを用いたヒトIL-6受容体定常状態注入モデルで行った。
【0340】
3-2. ヒトFcRnトランスジェニックマウス系統32を用いた定常状態注入モデルによる抗体のインビボ試験
ヒトFcRnトランスジェニックマウス系統32を用いた定常状態注入モデルによりインビボ試験を行った。ヒトFcRnトランスジェニックマウス系統32(B6.mFcRn-/-.hFcRn Tg 系統32 +/+マウス(B6.mFcRn-/- hFCRN Tg32 B6.Cg-Fcgrt<tm1Dcr> Tg(FCGRT)32Dcr)、Jackson Laboratories; Methods Mol Biol. (2010) 602: 93-104)の背部皮下に、可溶型ヒトIL-6受容体を充填した注入ポンプ(MINI-OSMOTIC PUMP MODEL 2004;alzet)を埋め込むことで、血漿中可溶型ヒトIL-6受容体濃度が一定に維持されるモデル動物を作製した。モデル動物に抗ヒトIL-6受容体抗体を投与し、投与後の可溶型ヒトIL-6受容体の体内動態を評価した。可溶型ヒトIL-6受容体に対する中和抗体の産生を抑制するために、注入ポンプを埋め込む前と、抗体を尾静脈に投与した7日後および17日後に、モノクローナル抗マウスCD4抗体(自社製)を20 mg/kgで投与した。次に、92.8μg/mlの可溶型ヒトIL-6受容体を充填した注入ポンプをマウスの背部皮下に埋め込んだ。注入ポンプ埋め込み3日後に、抗ヒトIL-6受容体抗体を尾静脈に単回投与した。試験1では、約1g/kgのサングロポール(CSLベーリング)と共に、Fv4-IgG1、Fv4-F652、Fv4-F890およびFv4-F946を1mg/kgの用量で投与し、試験2では、Fv4-IgG1、Fv4-F11およびFv4-F652を1mg/kgの用量で投与した。両試験において、対照群(抗体注入なし)には抗体を投与しなかった。抗ヒトIL-6受容体抗体の投与後、適切な時点で血液を採取した。採取した血液は直ちに4℃、15,000 rpmで15分間遠心分離し、血漿を得た。分離した血漿は、測定を実施するまで-20℃以下に設定された冷凍庫に保存した。
【0341】
3-3. 血漿中抗ヒトIL-6受容体抗体濃度のELISA法による測定
マウス血漿中の抗ヒトIL-6受容体抗体濃度はELISA法にて測定した。まず抗ヒトIgG(γ鎖特異的)F(ab')2抗体断片(Sigma) をNunc-ImmunoPlate, MaxiSorp (Nalge Nunc International)に分注し、4℃で一晩静置し抗ヒトIgG固相化プレートを調製した。血漿中濃度として0.8、0.4、0.2、0.1、0.05、0.025、0.0125μg/mLの検量線試料と100倍以上希釈したマウス血漿測定試料を調製し、これら検量線試料および血漿測定試料100μLに20 ng/mLのhsIL-6Rを200μL加え、室温で1時間静置した。その後抗ヒトIgG固相化プレートに分注しさらに室温で1時間静置した。その後ビオチン化抗ヒトIL-6 R抗体(R&D)を室温で1時間反応させ、さらにStreptavidin-PolyHRP80 (Stereospecific Detection Technologies)を室温で1時間反応させ、TMB One Component HRP Microwell Substrate (BioFX Laboratories)を基質として用い発色反応を行い、1N硫酸(昭和化学)で反応停止後、マイクロプレートリーダーにて450 nmの吸光度を測定した。マウス血漿中濃度は検量線の吸光度から解析ソフトウェアSOFTmax PRO(Molecular Devices)を用いて算出した。
【0342】
3-4. 電気化学発光法による血漿中hsIL-6R濃度測定
マウスの血漿中hsIL-6R濃度は電気化学発光法にて測定した。2000、1000、500、250、125、62.5、および31.25 pg/mLの濃度に調整したhsIL-6R検量線試料ならびに50倍以上希釈したマウス血漿測定試料を調製した。試料を、SULFO-TAG NHS Ester(Meso Scale Discovery)でルテニウム化したモノクローナル抗ヒトIL-6R抗体(R&D)、ビオチン化抗ヒトIL-6 R抗体(R&D, Systems Inc., USA)、およびトシリズマブ(中外製薬株式会社)の溶液と混合し、37℃で一晩反応させた。その際の抗ヒトIL-6受容体抗体として、トシリズマブの終濃度は試料に含まれる抗ヒトIL-6受容体抗体濃度より過剰の333μg/mLであり、試料中のほぼ全てのhsIL-6Rをトシリズマブと結合した状態にすることを目的とした。その後、MA400 PR Streptavidin Plate(Meso Scale Discovery)に分注した。さらに室温で1時間反応させ洗浄後、Read Buffer T(×4)(Meso Scale Discovery)を分注し、ただちにSECTOR PR 400 reader(Meso Scale Discovery)で測定を行った。hsIL-6R濃度は検量線のレスポンスから解析ソフトウェアSOFTmax PRO(Molecular Devices)を用いて算出した。
【0343】
3-5. 試験1の結果:新規Fc改変体のインビボ抗原消失効果
図17は、Fv4-IgG1、Fv4-F652、Fv4-F890、およびFv4-F946の注射後の血漿中hsIL-6R濃度の時間プロファイルを示し、
図18は、Fv4-IgG1、Fv4-F652、Fv4-F890、およびFv4-F946の注射後の血漿中抗体濃度の時間プロファイルを示す。Fv4-IgG1および対照(抗体の注射なし)と比較して、中性pHにおけるFcRnに対する結合が改善された新規Fc改変体を有するFv4-F652、Fv4-F890、およびFv4-F946は、血漿中hsIL-6R濃度の有意な低下を示し、中性pHにおけるFcRnに対する結合が改善されたpH依存的抗原結合抗体のインビボ抗原消失効果が示された。Fv4-F652およびFv4-F890は、それぞれFv4-IgG1と比較して30倍および10倍の抗原消失効果を7日目に示したが、それらの血漿中抗体濃度時間プロファイルはFv4-IgG1と同程度であった。
【0344】
よって、本試験から、Fv4-F652およびFv4-F890は、Fv4-IgG1と同程度の抗体薬物動態を維持しつつ、血漿中から可溶型抗原を選択的に消失させることができることが示された。Fv4-F890はグループ3に属し、本試験から、グループ3のFc改変体が、IgG1と同程度の抗体薬物動態を維持しつつ、血漿中抗原濃度をおよそ10倍低下させ得ることが示された。このことは、pH依存的抗原結合IgG1抗体にグループ3のFc改変体を適用することで、抗体投与量を10倍低減できることを意味する。グループ3のFc改変体による抗体投与量のこのような低下は、抗体投与量を低下させる必要があり、同時に低頻度の投薬を必要とする場合に特に意味がある。
【0345】
一方、Fv4-F946では、血漿中hsIL-6R濃度がFv4-IgG1と比較して100倍低下し、Fv4-F946の抗体クリアランスはFv4-IgG1よりも大きかった。Fv4-F946はグループ2に属し、本試験から、グループ2のFc改変体は、抗体クリアランスはIgG1よりも大きいものの、血漿中抗原濃度をおよそ100倍低下させ得ることが示された。このことは、pH依存的抗原結合IgG1抗体にグループ2のFc改変体を適用することで、血漿中総抗原濃度をおよそ100倍低下させることができることを意味する。血漿中の標的抗原濃度が高すぎて、現実的な抗体投与量(すなわち、100 mg/kg)では中和が不可能な場合、グループ2のFc改変体によって、抗原クリアランスが増大するにも関わらず総抗原濃度が100倍低下することは、現実的な抗体投与量である10 mg/kg未満で標的抗原が中和され得ることを意味する。
【0346】
Fv4-F652およびFv4-F890のhFcRn結合アフィニティーを複数回測定し、hFcRnに対するアフィニティーは、F652については2.4E-07 M(n=7)であり、F890については1.1E-07 M(n=12)であった。WO2011/122011の実施例1に記載された以前の試験により、抗原消失および抗体クリアランスの程度が、中性pHにおけるFcRnに対する結合アフィニティーと相関することが明らかにされた。
図17に示されるように、Fv4-F652は、抗体薬物動態はFv4-F890と同程度でありながら、Fv4-F890と比較して程度の大きな抗原消失を示した。よって、F652における特定の変異が抗原除去効果の増強に寄与することが示唆された。
【0347】
どの残基がF652の抗原除去効果の増強に寄与したのかを同定するために、F11(Met252Tyr、Asn434Tyr二重変異)およびF652(Pro238Asp、Met252Tyr、Asn434Tyr三重変異)を用いて試験2を行った。F11のhFcRnに対するアフィニティーは3.1E-07 M(n=12)であり、F652について測定されたアフィニティーと同程度であった。
【0348】
3-6. 試験2の結果:Pro238Asp変異のインビボ抗原消失効果
図19は、Fv4-IgG1、Fv4-F11、およびFv4-F652の注射後の血漿中hsIL-6R濃度の時間プロファイルを示し、
図20は、Fv4-IgG1、Fv4-F11、およびFv4-F652の注射後の血漿中抗体濃度の時間プロファイルを示す。Fv4-F11は血漿中hsIL-6R濃度の低下を示したが、Fv4-F652は血漿中hsIL-6R濃度のより大きな低下を示した。Fv4-F11とFv4-F652は同程度の血漿中抗体濃度時間プロファイルを示した。
【0349】
よって、本試験から、Pro238Asp変異が、Fv4-IgG1と同程度の抗体薬物動態を維持しつつ、血漿中からの抗原消失を増強し得ることが示された。よって、Pro238Asp変異は、pH依存的抗原結合抗体による抗原消失を増大させるのに極めて有用である。
【0350】
[実施例4] 部位特異的突然変異誘発による、FcRn結合改善Fc改変体に対するリウマトイド因子結合の消失
抗医薬品抗体(ADA)は治療用抗体の効果および薬物動態に影響を及ぼし、時に重篤な副作用をもたらすことがあるため、臨床における治療用抗体の有用性と薬効はADAの産生によって制限され得る。多くの要因が治療用抗体の免疫原性に影響を及ぼし、エフェクターT細胞エピトープの存在がその要因の1つである。加えて、治療用抗体に対する既存の抗体の存在もまた、ADAの観点から問題があると考えられる。特に、関節リウマチなどの自己免疫疾患の患者に対する治療用抗体の場合、ヒトIgGに対する自己抗体であるリウマトイド因子が既存の抗体の問題となり得る。最近、Asn434His変異を有するヒト化抗CD4 IgG1抗体が顕著なリウマトイド因子結合を誘発することが報告された(Clin Pharmacol Ther. 2011 Feb;89(2):283-90)。詳細な研究により、ヒトIgG1におけるAsn434His変異が、親ヒトIgG1と比較して抗体のFc領域に対するリウマトイド因子の結合を増強することが確認された。
【0351】
リウマトイド因子はヒトIgGに対するポリクローナル自己抗体であり、ヒトIgG中のそれらのエピトープはクローンにより異なるが、それらのエピトープは、CH2/CH3界面領域中、およびFcRn結合エピトープと重複し得るCH3ドメイン中に位置するようである。そのため、FcRnに対する結合アフィニティーを増強する変異は、リウマトイド因子の特定クローンに対する結合アフィニティーも増強する可能性がある。
【0352】
以前の研究から、酸性pHにおけるFcRnに対する結合アフィニティーを増強するためのFc操作が、エンドソームリサイクル効率を改善し、抗体の薬物動態を長くすることが示された。例えば、M252Y/S254T/T256E(YTE)改変体(J Biol Chem 2006 281:23514-23524.)、M428L/N434S(LS)改変体(Nat Biotechnol, 2010 28:157-159.)、およびN434H改変体(Clinical Pharmacology & Therapeutics (2011) 89(2):283-290.)は、天然IgG1に対する半減期の改善を示した。
【0353】
血漿中からの抗原消失を達成するために、FcRnと相互作用する抗原結合分子(抗体)のFc領域(Nat Rev Immunol. 2007 Sep;7(9):715-25)を、中性pHにおけるFcRnに対する結合アフィニティーが改善されるように操作した。このように操作されたFc改変体には、F11改変体、F68改変体、F890改変体、およびF947改変体が含まれる。従来の抗体と比較して中性pHにおけるFcRnに対する結合アフィニティーが改善されたpH依存的抗原結合抗体による血漿中からの抗原消失の機構を
図1に示す。
【0354】
FcRn結合(pH 6.0および/または中性pHにおける)が改善されたこのようなFc改変体は、以前に報告されたAsn434His変異の場合のように、リウマトイド因子に対する結合増強を示す可能性がある。そこで、本発明者らは、これらのFcRn結合改善Fc改変体が、リウマトイド因子に対する結合増強を示すかどうかを試験した。以下の試験で用いた改変体抗体は、Fv4-hIgG1、Fv4-YTE、Fv4-LS、Fv4-N434H、Fv4-F11、Fv4-F68、Fv4-890、およびFv4-F947であった。
【0355】
4-1. FcRn結合改善Fc改変体のリウマトイド因子結合試験
リウマトイド因子に対する結合アッセイは、15名または30名の個々のRA患者の血清(Proteogenex)を用いて、pH 7.4における電気化学発光(ECL)により行った。50倍希釈した血清試料、ビオチン標識した試験抗体(1μg/mL)、およびSULFO-TAG NHS Ester(Meso Scale Discovery)標識した試験抗体(1μg/mL)を混合し、室温で3時間インキュベートした。その後、混合物をStreptavidinでコーティングされたMULTI-ARRAY 96ウェルプレート(Meso Scale Discovery)に加え、プレートを室温で2時間インキュベートし、洗浄した。Read Buffer T(×4)(Meso Scale Discovery)を各ウェルに加えた後、直ちにプレートをSECTOR imager 2400 Reader(Meso Scale Discovery)にセットし、化学発光を測定した。
【0356】
この試験の結果を
図21および22に示す。
図21および22は、15名または30名の個々のRA患者に由来する血清のECL反応である。天然ヒトIgG1を有するFv4-hIgG1(
図21-1および22-1)は、弱いリウマトイド因子結合しか示さなかったのに対して、FcRn結合改善Fc改変体(Fv4-YTE(
図21-2)、Fv4-LS(
図21-3)、Fv4-N434H(
図22-2)、Fv4-F11(
図22-3)、Fv4-F68(
図22-4)、Fv4-890(
図22-5)、およびFv4-F947(
図22-6))はすべて、3名以上のドナーにおいてリウマトイド因子結合を有意に増強した。本試験により、関節リウマチなどの自己免疫疾患について、FcRnに対する結合アフィニティーが改善された治療用抗体の臨床開発を考慮する場合に、既存のリウマトイド因子に関連する免疫原性が問題となり得ることが明らかに示される。
図23は、15名のRA患者の血液を用いた場合の、上記抗体改変体の血清のECL反応の平均値、幾何平均値、および中央値を示す。
【0357】
そこで、次の試験において、本発明者らは、FcRn結合能を維持しつつ、ポリクローナルリウマトイド因子結合を潜在的に低下させ得る一連の改変体を作製した。
【0358】
4-2. Fc領域に変異を導入することによる、FcRn結合改善Fc改変体のリウマトイド因子結合の低下
FcRn結合能を維持しつつ、ポリクローナルリウマトイド因子結合が低下した改変体を作製するために、ヒトFcRn/ヒトIgG相互作用を妨げないと推定されるCH2/CH3界面近傍の表面残基に変異を合理的に導入した。
【0359】
親Fc改変体としてFv4-F890を選択し、単一の変異およびFc改変体の単一の変異の組み合わせをFv4-F890に導入した。表21に記載された新規Fc改変体F1058〜F1073、F1107〜F1114、F1104〜F1106、およびF1230〜F1232を作製した。加えて、親Fc改変体としてFv4-F947を選択し、同様の単一の変異および変異の組み合わせを導入した。表21に記載された新規Fc改変体F1119〜F1124を作製した。これらの改変体について、まず、pH 7.0におけるヒトFcRnに対する結合アフィニティーを評価した。結果もまた表21に示す。親Fv4-F890または親Fv4-F947のいずれかと比較して、これらの改変体は、ヒトFcRnに対する結合アフィニティーの有意な低下を示さず、これらの変異がヒトFcRn結合に影響しないことが示された。
【0360】
(表21)
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【0361】
次に本発明者らは、表21中の改変体について、pH 7においてリウマトイド因子結合試験を行った。この試験の結果を
図24〜29に示す。これらの図は、以下の抗体改変体に関する、15名の個々のRA患者由来の血清のECL反応を示す:Fv4-IgG1、Fv4-F890、Fv4-F1058〜Fv4-1073(
図24)、Fv4-F1104〜Fv4-F1106(
図26)、Fv4-F1107〜Fv4-F1114(
図27)、Fv4-F1230〜Fv4-F1232(
図28)、Fv4-947およびFv4-F1119〜Fv4-F1124(
図29)。
図25-1、25-2、および25-3は、改変体Fv4-IgG1、Fv4-F890、およびFv4-F1058〜Fv4-1073に関する、15名のRA患者に由来する血清のECL反応の平均値、幾何平均値、および中央値である。
驚いたことに、強いリウマトイド因子結合を示したF890と比較して、F1062、F1064〜F1072、およびF1107〜F1114などの、F890に対して単一の変異を有する新規Fc改変体は、リウマトイド因子結合の有意な低下を示した。特に、F1062、F1064、F1068、F1070、F1072、F1107〜F1109、およびF1111〜F1113は、天然IgG1と同程度のリウマトイド因子結合を示した。このことによって、ヒトFcRn結合に影響することなくリウマトイド因子結合を低下させるさらなる単一の変異を導入することにより、F890改変体の高まった免疫原性リスクが完全に消失することが示された。患者におけるリウマトイド因子は、Fc領域中の複数のエピトープに結合するポリクローナル抗体であるため、Fc領域に対するリウマトイド因子の結合が単一の変異によって有意に消失したことは驚くべきことであった。
【0362】
さらに、単一変異FcであるF1070(Q438R)またはF1072(S440E)と比較して、二重変異FcであるF1106(Q438R/S440E)もリウマトイド因子結合の有意な低下を示した。同様に、二重変異FcであるF1230(Q438R/S440D)、F1231(Q438K/S440E)、およびF1232(Q438K/S440D)もまた、変異の組み合わせによりリウマトイド因子結合のさらなる低下を示した。その一方で、F1104(V422E/S424R)またはF1105(V422S/S424R)は、いかなる組み合わせ効果も示さなかった。
【0363】
加えて、親Fc改変体としてFv4-F939を選択して、FcRn結合を増強するための他の変異(S254TまたはT256E)およびリウマトイド因子結合を低下させるための他の変異(H433D)を評価した。表22に記載された新規Fc改変体(F1291、F1268、F1269、F1243、F1245、F1321、F1340、およびF1323)を作製した。これらの改変体について、まず、pH 7.0におけるヒトFcRnに対する結合アフィニティーを評価した。結果もまた表22に示す。
【0364】
(表22)
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【0365】
次に本発明者らは、これらの改変体についてのリウマトイド因子結合試験を上記の通りに行った。この試験の結果を
図30に示す。驚いたことに、F939と比較して、F1291(F939に対する単一の変異H433D)は、何名かのドナーにおいてリウマトイド因子結合の有意な低下を示した。同様に、F1321と比較して、F1323(F1321に対する単一の変異H433D)も、何名かのドナーにおいてリウマトイド因子結合の有意な低下を示した。さらに、Q438R/S440E変異、Q438K/S440D変異、およびQ438K/S440E変異は、FcRn結合を増強するための他の変異(S254TまたはT256E)を有する改変体で、リウマトイド因子結合の有意な低下を示した。
【0366】
4-3. Fc領域に付加的なN-グリコシル化を導入することによる、FcRn結合改善Fc改変体のリウマトイド因子結合の低下
リウマトイド因子結合エピトープの近傍に付加的なN-グリコシル化を導入することによっても、かさ高いN-グリコシル化による立体障害によってリウマトイド因子結合が抑制され得る。FcRn結合を維持しつつNグリコシル化配列(Asn-Xxx-Ser/Thr)を導入する変異という点から変異を選択することができる。Fc領域に付加的なN-グリコシル化配列を導入するために、単一変異または二重変異をFv4-F11に導入した。表23に記載された新規Fc改変体(F1077〜F1083、F1094〜F1097)を作製した。これらの改変体について、pH 7.0におけるヒトFcRnに対する結合アフィニティーを評価し、また付加的なグリコシル化の存在をSDS-Pageにより評価した。結果を表23に記載する。F1077(K248N)、F1080(S424N)、F1081(Y436N/Q438T)、および F1082(Q438N)は付加的なグリコシル化を有することが見出され、特にF1080(S424N)はヒトFcRnに対する結合アフィニティーを維持していた。
【0367】
(表23)
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【0368】
そこで、次の試験では、S424N変異をFv4-F890に導入して、表24に記載されたFv4-F1115を作製し、pH 7.0におけるヒトFcRnに対する結合アフィニティーを評価した。結果もまた表24に示す。
【0369】
(表24)
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【0370】
次に本発明者らは、これらの改変体についてのリウマトイド因子結合試験を上記の通りに行った。この試験の結果を
図31に示す。驚いたことに、単一のS424N変異体であるFv4-F1115は、リウマトイド因子結合の有意な低下を示した。この結果から、付加的なN-グリコシル化の導入は、リウマトイド因子結合を抑制するのに効果的なアプローチであることが示唆される。
【0371】
4-4. YTE改変体、N434H改変体、およびLS改変体のリウマトイド因子結合の低下
酸性pHにおけるFcRn結合を改善し、抗体薬物動態を長くするFv4-YTE改変体、Fv4-N434H改変体、およびFv4-LS改変体のリウマトイド因子結合を低下させるため、これらの改変体にQ438R/S440E変異またはS424N変異を導入した。表25に記載された新規Fc改変体(F1166、F1167、F1172、F1173、F1170、およびF1171)を作製した。これらの改変体について、まず、pH 6.0におけるヒトFcRnに対する結合アフィニティーを評価した。結果もまた表25に示す。
【0372】
(表25)
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【0373】
次に本発明者らは、これらの改変体(Fv4-F1166、F1167、F1172、F1173、F1170、およびF1171)についてのリウマトイド因子結合試験を上記の通りに行った。この試験の結果を
図32に示す。YTEが2名のドナー(90216Sおよび90214S)において強いリウマトイド因子結合を示したのと比較して、F1166(Q438R/S440E)およびF1167(S424N)は、リウマトイド因子結合の有意な低下を示した。さらに、F1173およびF1171は、S424N変異がN434H改変体およびLS改変体のリウマトイド因子結合も抑制し得ることを示している。しかしながら、Q438R/S440E変異は、N434H改変体およびLS改変体のリウマトイド因子結合を完全に抑制することはできず、ドナー1名または2名においてリウマトイド因子結合が認められた。
【0374】
4-5. LS改変体のリウマトイド因子結合を低下させるための別の変異
新たな単一変異をFv4-LSに導入し、表26に記載されたFc改変体(Fv4-F1380〜Fv4-F1392)を作製した。
【0375】
(表26)
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【0376】
次に本発明者らは、pH 6.0におけるFcRn結合を維持する改変体(Fv4-F1380、F1384〜F1386、F1388、およびF1389)について、リウマトイド因子結合試験を行った。この試験の結果を
図33に示す。これらの改変体は、何名かのドナーにおいてリウマトイド因子結合の有意な低下を示した。特に、Fv4-F1389は、天然IgG1と同程度のリウマトイド因子結合を示した。
【0377】
したがって、Pro387Arg、Val422Glu、Val422Arg、Val422Ser、Val422Asp、Val422Lys、Val422Thr、Val422Gln、Ser424Glu、Ser424Arg、Ser424Lys、Ser424Asn、Ser426Asp、Ser426Ala、Ser426Gln、Ser426Tyr、His433Asp、Tyr436Thr、Gln438Glu、Gln438Arg、Gln438Ser、Gln438Lys、Ser440Glu、Ser440Asp、Ser440Gln(位置はEUナンバリングで示す)などの変異は、血漿中から抗原を消失させ得る、中性pHにおけるFcRnに対する結合アフィニティーが改善されたpH依存的抗原結合抗体、および抗体薬物動態を改善し得る、酸性pHにおけるFcRnに対する結合アフィニティーが改善された抗体などの、FcRn結合が増強されたFc領域を含む抗原結合分子(例えば、F1〜F1434)の免疫原性を低下させるのに極めて有用である。
【0378】
ヒトFcRn結合に影響を及ぼさずにリウマトイド因子の結合を低下させるための、EU387、EU422、EU424、EU426、EU433、EU436、EU438、およびEU440以外の変異部位は、EUナンバリングで示される248〜257、305〜314、342〜352、380〜386、388、414-421、423、425〜437、439、および441〜444より選択され得る。
【0379】
[実施例5] 中性pHにおけるヒトFcRnに対する結合が改善された新規Fc改変体のリウマトイド因子結合の
低下
表27に記載された新規Fc改変体(F939、F1378、F1379、F1262、F1138、F1344、F1349、F1350、F1351、F1261、F1263、F1305、F1306、F1268、F1269、F1413、F1416、F1419、F1420、F1370、F1371、F1599、F1600、F1566、F1448、F1601〜F1603、F1531、F1604、F1605、F1586、F1592、F1610〜F1615、F1567、F1572、F1576、F1578、F1579、F1641〜F1655、F1329、F1331)を作製した。これらの改変体について、まず、pH 7.0におけるヒトFcRnに対する結合アフィニティーを評価した。結果もまた表27に示す。
【0380】
(表27)
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【0381】
次に本発明者らは、表27中の改変体について、pH 7.4においてリウマトイド因子結合試験を行った。この試験の結果を
図34〜94に示す。
リウマトイド因子結合を低下させる二重変異(Q438R/S440E、Q438R/S440D、Q438K/S440E、およびQ438K/S440D)は、中性pHにおけるFcRn結合を増強するための他の変異に対するリウマトイド因子結合の有意な低下を示した。
【0382】
5-1. 酸性pHにおけるヒトFcRnに対する結合が改善された新規Fc改変体のリウマトイド因子結合の低下
表28に記載された新規Fc改変体(F1718〜F1721、F1671、F1670、F1711〜F1713、F1722〜F1725、F1675、F1714〜F1717、F1683、F1756〜F1759、F1681、F1749〜F1751、F1760〜F1763、F1752〜F1755、F1685)を作製した。これらの改変体について、まず、pH 6.0におけるヒトFcRnに対する結合アフィニティーを評価した。結果もまた表28に示す。
【0383】
(表28)
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【0384】
次に本発明者らは、表28中の改変体について、pH 7.4においてリウマトイド因子結合試験を行った。この試験の結果を
図95〜130に示す。
リウマトイド因子結合を低下させる二重変異(Q438R/S440E、Q438R/S440D、Q438K/S440E、およびQ438K/S440D)は、酸性pHにおけるFcRn結合を増強するための他の変異に対して、リウマトイド因子結合の有意な低下を示した。
【0385】
[実施例6] ヒトFcRnトランスジェニックマウスを用いたヒトIL-6受容体定常状態注入モデルにおける新規Fc改変体のインビボ抗原消失試験
6-1. インビボ試験用の抗体の調製
pH依存的抗ヒトIL6受容体IgG1抗体である、VH3-IgG1(配列番号:1)およびVL3-CK(配列番号:3)を含むFv4-IgG1、ならびに、新規Fc改変体である、VH3-F1243(配列番号:8)およびVL3-CK(配列番号:3)を含むFv4-F1243、VH3-F1245(配列番号:9)およびVL3-CK(配列番号:3)を含むFv4-F1245を、WO2011/122011の実施例2に記載の当業者公知の方法によって発現させて精製した。
【0386】
実施例4に記載されたように、Fv4-F1243およびFv4-F1245は、中性pHにおけるヒトFcRnに対する結合アフィニティーが改善されているが、リウマトイド因子に対する結合が有意に低下している新規Fc領域を有する。これらの改変体の抗原消失効果を評価するために、Fv4-IgG1、Fv4-F1243、およびFv4-F1245のインビボ試験を、ヒトFcRnトランスジェニックマウスを用いたヒトIL-6受容体定常状態注入モデルで行った。
【0387】
6-2. ヒトFcRnトランスジェニックマウス系統32を用いた定常状態注入モデルによる抗体のインビボ試験
WO2011/122011の実施例13に記載されたものと同じ方法によって、ヒトFcRnトランスジェニックマウス系統32を用いた定常状態注入モデルによりインビボ試験を行った。
【0388】
6-3. 試験の結果:新規Fc改変体のインビボ抗原消失効果
図131は、Fv4-IgG1、Fv4-F1243、およびFv4-F1245の注射後の血漿中hsIL-6R濃度の時間プロファイルを示し、
図132は、Fv4-IgG1、Fv4-F1243、およびFv4-F1245の注射後の血漿中抗体濃度の時間プロファイルを示す。Fv4-IgG1および対照(抗体の注射なし)と比較して、中性pHにおけるFcRnに対する結合が改善された新規Fc改変体を有するFv4-F1243およびFv4-F1245は、血漿中hsIL-6R濃度の有意な低下を示し、中性pHにおけるFcRnに対する結合が改善されたpH依存的抗原結合抗体のインビボ抗原消失が示された。Fv4-F1243およびFv4-F1245はそれぞれ21日目または7日目にFv4-IgG1と比較して10倍の抗原消失効果を示したが、Fv4-F1243およびFv4-F1245の血漿中抗体濃度時間プロファイルはFv4-IgG1と同程度であった。
【0389】
[実施例7] ヒトFcRnトランスジェニックマウスを用いた新規Fc改変体のインビボPK試験
7-1. インビボ試験用の抗体の調製
pH依存的抗ヒトIL6受容体IgG1抗体である、VH3-IgG1(配列番号:1)およびVL3-CK(配列番号:3)を含むFv4-IgG1、新規Fc改変体である、VH3-F1389(配列番号:10)およびVL3-CK(配列番号:3)を含むFv4-F1389を、WO2011/122011の参考実施例2に記載の当業者公知の方法によって発現させて精製した。
【0390】
実施例4および5に記載されたように、Fv4-F1389は、酸性pHにおけるヒトFcRnに対する結合アフィニティーが改善されているが、リウマトイド因子に対する結合が有意に低下している新規Fc領域を有する。この改変体の薬物動態を評価するために、Fv4-IgG1およびFv4-F1389のインビボ試験を、ヒトFcRnトランスジェニックマウスを用いて行った。
【0391】
7-2. ヒトFcRnトランスジェニックマウス系統32を用いることによる抗体のインビボ試験
WO2011/122011の実施例13に記載されたものと同じ方法により、ヒトFcRnトランスジェニックマウス系統32を用いてインビボ試験を行った。
【0392】
7-3. 新規Fc改変体のインビボPK試験の結果
図133は、Fv4-IgG1およびFv4-F1389の注射後の血漿中抗体濃度の時間プロファイルを示す。Fv4-IgG1と比較して、酸性pHにおけるFcRnに対する結合が改善され、かつリウマトイド因子に対する結合が低下した新規Fc改変体を有するFv4-F1389は、薬物動態の改善を示した。表28に記載された新規Fc改変体は、pH 6.0におけるFcRnに対する結合アフィニティーが、F1389と同レベルまで増強されている。よって、これらの改変体もまた、リウマトイド因子に対する結合を低下させながら、ヒトFcRnトランスジェニックマウス系統32を用いた薬物動態の改善を示すと予測される。
【0393】
[実施例8] カルシウム依存的にヒトIgAに結合する抗体の調製
8-1. ヒトIgA(hIgA)の調製
抗原であるヒトIgA(以下hIgAとも呼ばれる)は以下のような組換え技術を用いて調製された。H (WT)-IgA1(配列番号:12)とL (WT)(配列番号:13)を含む組み組換えベクターを含む宿主細胞を培養することによって発現されたhIgA(可変領域は抗ヒトIL-6受容体抗体に由来する)が、当業者公知の方法によってイオン交換クロマトグラフィーおよびゲルろ過クロマトグラフィーを用いて精製された。
【0394】
8-2. hIgAに結合する抗体の発現と精製
GA2-IgG1(重鎖配列番号:14、軽鎖配列番号:15)はhIgAに結合する抗体である。GA2-IgG1の重鎖(配列番号:14)およびGA2-IgG1の軽鎖(配列番号:15)をコードするDNA配列を、動物細胞発現用プラスミドに当業者公知の方法で組み込んだ。抗体の発現は以下の方法を用いて行った。ヒト胎児腎細胞由来FreeStyle 293-F株(Invitrogen)をFreeStyle 293 Expression Medium培地(Invitrogen)に懸濁させた細胞懸濁液を、1.33 x 10
6個/mLの細胞密度で6 well plateの各ウェルへ3 mLずつ播種した。次に、リポフェクション法により調製したプラスミドを細胞に導入した。当該細胞をCO
2インキュベーター(37℃、8% CO
2, 90 rpm)で4日間培養し、単離したその培養上清から、rProtein A Sepharose
TM Fast Flow(Amersham Biosciences)を用いて当業者公知の方法で抗体を精製した。精製した抗体溶液の吸光度(波長:280nm)は、分光光度計を用いて測定した。得られた測定値からPACE法によって算出した吸光係数を用いて抗体濃度を算出した(Protein Science (1995) 4, 2411-2423)。
【0395】
8-3. 取得された抗体のhIgAに対するカルシウム依存的結合能の評価
Biacore T200(GE Healthcare)を用いて、8-2で単離された抗体のhIgA結合活性(解離定数K
D (M))を評価した。ランニングバッファーとして3μMまたは1.2 mM CaCl
2を含有する0.05% tween20、20 mmol/L ACES、150 mmol/L NaCl(pH7.4またはpH5.8)を用いて測定を行った。
アミノカップリング法で適切な量の組換え型プロテインA/G(Thermo Scientific)が適当量固定化されたSensor chip CM5(GE Healthcare)に、抗体を結合させた。次に、アナライトとして適切な濃度のhIgA(8−1に記載)をインジェクトすることによって、hIgAとセンサーチップ上の抗体を相互作用させた。測定は37℃で行われた。測定後、10 mmol/L Glycine-HCl、 pH1.5をインジェクトすることによって、センサーチップを再生した。Biacore T200 Evaluation Software(GE Healthcare)を用いて、カーブフィッティングによる解析および平衡値解析により、測定結果から解離定数K
D(M)を算出した。その結果を表29に示した。また、得られたセンサーグラムを
図134に示した。GA2-IgG1はCa
2+濃度が1.2 mMにおいてはhIgAに強く結合するが、Ca
2+濃度が3μMにおいてはhIgAに弱く結合することが示された。また、GA2-IgG1はCa
2+濃度が1.2 mMの条件下で、pH7.4においてはヒトIgAに強く結合するが、pH5.8においてはヒトIgAに弱く結合することが示された。すなわち、GA2-IgG1は、ヒトIgAに対して、pH依存的、および、カルシウム依存的に結合することが明らかとなった。
【0396】
(表29)
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【0397】
[実施例9] カルシウム依存的にhIgAに結合する改変Fc領域を有する抗体の調製
次に、FcRn結合が血漿中からの抗原(hIgA)消失に及ぼす効果を評価する目的で、FcγRへの結合を消失させるためにアミノ酸置換L235RおよびS239KをGA2-IgG1に導入することにより、GA2-F760(重鎖配列番号:16;軽鎖配列番号:15)を構築した。さらに、アミノ酸置換G236R、M252Y、S254T、T256E、N434Y、Y436V、Q438R、およびS440EをGA2-F760に導入することにより、pH 7.4においてGA2-F760よりも強くFcRnに結合するGA2-F1331(重鎖配列番号:17;軽鎖配列番号:15)を構築した。GA2-F1331(重鎖配列番号:17;軽鎖配列番号:15)およびGA2-F760(重鎖配列番号:16;軽鎖配列番号:15)をコードするDNA配列を当業者に公知の方法によって挿入した動物発現プラスミドを用いて、上記の方法により改変抗体を発現させた。精製後に抗体濃度を決定した。GA2-F760について、様々なマウスFcγR(mFcγRI、mFcγRII、mFcγRIII、およびmFcγRIV)に対する結合を評価した。その結果、GA2-F760は上記受容体のいずれにも結合しないことが示された。
【0398】
[実施例10] ヒトFcRnトランスジェニックマウスを用いたCa依存性hIgA結合抗体の抗原の血漿中滞留性への影響評価
10-1. ヒトFcRnトランスジェニックマウスを用いたインビボ試験
ヒトFcRnトランスジェニックマウス(B6.mFcRn-/-.hFcRn Tg line 32 +/+ mouse, Jackson Laboratories; Methods Mol Biol. (2010) 602: 93-104)に対して、hIgA(ヒトIgA:実施例8にて作製)を、単独で、または抗hIgA抗体と組み合わせて投与した後の、hIgAおよび抗hIgA抗体の薬物動態を評価した。hIgAと抗hIgA抗体の混合溶液を尾静脈に10 mL/kgの用量で単回投与した。抗hIgA抗体として、上述のGA2-F760およびGA2-F1331を使用した。
【0399】
混合溶液中のhIgA濃度は全て80μg/mLであるが、抗hIgA抗体濃度は2.69 mg/mLであった。このとき、hIgAに対して抗hIgA抗体は十分量過剰に存在することから、hIgAは大部分が抗体に結合していると考えられる。投与後15分間、1時間、2時間、7時間、1日間、3日間、7日間および14日間でマウスから採血を行った。採取した血液を直ちに4℃、12,000 rpmで15分間遠心分離することによって、血漿を得た。分離した血漿は、測定を実施するまで-20℃以下に設定した冷凍庫にて保存した。
【0400】
10-2. ELISA法によるヒトFcRnトランスジェニックマウス血漿中の抗hIgA抗体濃度測定
マウス血漿中の抗hIgA抗体濃度をELISA法にて測定した。まずAnti-Human IgG(γ-chain specific) F(ab')2 Fragment Antibody (SIGMA) を各ウェルに分注したNunc-Immuno Plate, MaxiSorp(Nalge nunc International)を4℃で1晩静置することによってAnti-Human IgG固相化プレートを作成した。血漿中濃度の標準液として0.5、0.25、0.125、0.0625、0.03125、0.01563、0.07813μg/mLに調製した抗hIgA抗体の検量線試料と、100倍以上希釈したマウス血漿測定試料とを、前記のAnti-Human IgG固相化プレートに分注した後、当該プレートを25℃で1時間インキュベーションした。その後、Goat Anti-Human IgG (γ chain specific) Biotin (BIOT) Conjugate(Southern Biotechnology Associates Inc.)を前記プレートの各ウェルに分注した後、当該プレートを25℃で1時間反応させた。さらに、Streptavidin-PolyHRP80(Stereospecific Detection Technologies)を前記プレートの各ウェルに分注した後、当該プレートを25℃で1時間反応させた。TMB One Component HRP Microwell Substrate(BioFX Laboratories)を基質として用いた発色反応を、1N硫酸(昭和化学)を用いて停止した後、マイクロプレートリーダーを用いて各ウェルの反応液の450 nmの吸光度を測定した。マウス血漿中の抗hIgA抗体濃度は、検量線の吸光度から解析ソフトウェアSOFTmax PRO(Molecular Devices)を用いて算出した。この方法で測定した静脈内投与後のヒトFcRnトランスジェニックマウスにおけるGA2-F1331およびGA2-F760の血漿中抗体濃度推移を
図135に示した。
【0401】
10-3. ELISA法による血漿中hIgA濃度測定
マウスの血漿中hIgA濃度をELISA法にて測定した。まずGoat anti-Human IgA Antibody(BETHYL)を各ウェルに分注したNunc-Immuno Plate, MaxiSorp(Nalge nunc International)を4℃で1晩静置することによってAnti-Human IgA固相化プレートを作成した。血漿中濃度0.4、0.2、0.1、0.05、0.025、0.0125、0.00625μg/mLの標準液としてhIgAの検量線試料を調製し、マウス血漿測定試料を100倍以上希釈することによりアッセイ用試料を調製した。各試料(100μL)を200μLのhsIL-6R(500 ng/mL)と室温で1時間混合し、続いて、Anti-Human IgA固相化プレートに分注した。次に、Biotinylated Anti-human IL-6 R Antibody(R&D)を前記プレートの各ウェルに分注した後、当該プレートを室温で1時間反応させた。更にStreptavidin-PolyHRP80(Stereospecific Detection Technologies)を前記プレートの各ウェルに分注した後、当該プレートを室温で1時間反応させた。TMB One Component HRP Microwell Substrate(BioFX Laboratories)を基質として用いた発色反応を、1N硫酸(昭和化学)を用いて停止させた後、マイクロプレートリーダーを用いて各ウェルの反応液の450 nmの吸光度を測定した。マウス血漿中濃度を検量線の吸光度から解析ソフトウェアSOFTmax PRO(Molecular Devices)を用いて算出した。この方法で測定した静脈内投与後のヒトFcRnトランスジェニックマウスにおける血漿中hIgA濃度推移を
図136に示した。
【0402】
その結果、ヒトFcRnとの親和性が非常に弱い抗体であるGA2-F760との組み合わせでhIgAを投与した場合と比べて、強いヒトFcRn結合を示す抗体であるGA2-F1331との組み合わせでhIgAを投与した場合に、hIgA単独の消失が顕著に加速された。
【0403】
[実施例11] pH依存的抗IgE抗体の取得
11-1. 抗ヒトIgE抗体の取得
pH依存的抗ヒトIgE抗体を取得するために、抗原であるヒトIgE(重鎖配列番号:18、軽鎖配列番号:19)(可変領域は抗ヒトGlypican3抗体からなる)をFreeStyle293(Life Technologies)を用いて発現させた。発現したヒトIgEは、当業者公知の一般的なカラムクロマトグラフィー法により精製、調製した。
【0404】
取得した多数の抗体の中から、ヒトIgEにpH依存的に結合する抗体を選抜した。選抜した抗ヒトIgE抗体をヒトIgG1重鎖定常領域、および、ヒト軽鎖定常領域を用いて発現、精製した。作製した抗体をクローン278(重鎖配列番号:20、軽鎖配列番号:21)と命名した。
【0405】
11-2. 抗ヒトIgE抗体の結合活性およびpH依存的結合活性の評価
エンドソーム内で抗原を解離することができる抗体は、抗原に対してpH依存的に結合するだけでなく、Ca依存的に結合する抗原に結合することによっても創製することが可能である。そこで、クローン278およびコントロールとなるpH/Ca依存的IgE結合能を有さないXolair (omalizumab, Novartis)の、ヒトIgE(hIgE)に対するpH依存的結合能およびpH/Ca依存的結合能を評価した。
【0406】
より具体的には、Biacore T200(GE Healthcare)を用いて、クローン278およびXolairのhIgEに対する結合活性(解離定数K
D (M))を評価した。ランニングバッファーとして以下3種を用いて測定を行った。
1.2 mmol/l CaCl
2 /0.05% tween20, 20 mmol/l ACES, 150 mmol/l NaCl, pH7.4
1.2 mmol/l CaCl
2 /0.05% tween20, 20 mmol/l ACES, 150 mmol/l NaCl, pH5.8
3 μmol/l CaCl
2 /0.05% tween20, 20 mmol/l ACES, 150 mmol/l NaCl, pH5.8
【0407】
適当量添加された化学合成されたヒトグリピカン3タンパク質由来配列(配列番号:22)のC末端に存在するLysにビオチンが付加されたペプチド(以下「ビオチン化GPC3ペプチド」と記載する)を、ストレプトアビジンとビオチンの親和性を利用してSensor chip SA(GE Healthcare)上に固定した。適切な濃度のヒトIgEをインジェクトして、ビオチン化GPC3ペプチドに捕捉させることで、ヒトIgEがチップ上に固定した。アナライトとして適切な濃度のクローン278をインジェクトして、センサーチップ上のヒトIgEと相互作用させた。その後、10 mmol/L Glycine-HCl, pH1.5をインジェクトして、センサーチップを再生した。相互作用は全て37℃で測定した。Biacore T200 Evaluation Software(GE Healthcare)を用いた、カーブフィッティングによる測定結果の解析により、結合速度定数ka (1/Ms)及び解離速度定数kd (1/s)を算出した。これらの定数を元に解離定数K
D (M)を算出した。さらに、pH5.8, 1.2 mM Ca条件とpH7.4, 1.2 mM Ca条件の下での各抗体のKD比を算出してpH依存性結合を評価し、pH5.8, 3μM Ca条件とpH7.4, 1.2 mM Ca条件の下での各抗体のKD比を算出してpH/Ca依存性結合を評価した。その結果を表30に示した。
【0408】
(表30)
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【0409】
[実施例12] インビボ試験用の、ヒトIgEに結合する改変Fc領域を有する抗体の調製
次に、FcRn結合が血漿中からの抗原(ヒトIgE)消失に及ぼす効果を評価する目的で、FcγRへの結合を消失させるために278-F760(重鎖配列番号:23;軽鎖配列番号:21)を構築した。さらに、アミノ酸置換G236R、M252Y、S254T、T256E、N434Y、Y436V、Q438R、およびS440Eを278-F760に導入することにより、pH 7.4において278-F760よりも強くFcRnに結合する278-F1331(重鎖配列番号:24;軽鎖配列番号:21)を構築した。278-F1331(重鎖配列番号:24;軽鎖配列番号:21)および278-F760(重鎖配列番号:23;軽鎖配列番号:21)をコードするDNA配列を当業者に公知の方法によって挿入した動物発現プラスミドを用いて、上記の方法により改変抗体を発現させた。精製後に抗体濃度を決定した。
【0410】
[実施例13] クローン278のインビボ評価
13-1. インビボ評価用のヒトIgE(hIgE(Asp6))の調製
重鎖(配列番号:25)および軽鎖(配列番号:19)からなるインビボ評価用のヒトIgEであるhIgE (Asp6)(可変領域は抗ヒトGlypican3抗体)を、実施例11と同様の方法で調製した。hIgE(Asp6)は、ヒトIgEのN型糖鎖のヘテロジェニティーが抗原であるヒトIgEの血漿中濃度推移の影響を受けないようにするために、ヒトIgEの6か所のN型糖鎖結合サイトのアスパラギンをアスパラギン酸に改変された分子である。
【0411】
13-2. ヒトFcRnトランスジェニックマウスを用いた、ヒトIgE消失を加速する効果に関するクローン278の評価
hIgE(Asp6)を抗hIgE抗体(278-F760および278-F1331)ならびに サングロポール(ヒト正常免疫グロブリン、CSLベーリング)と組み合わせてヒトFcRnトランスジェニックマウス(B6.mFcRn-/-.hFcRn Tg系統32 +/+マウス、Jackson Laboratories;Methods Mol Biol. (2010) 602: 93-104)に投与した後に、hIgE(Asp6)および抗ヒトIgE抗体の薬物動態を評価した。hIgE(Asp6)、抗ヒトIgE抗体、およびサングロポールの混合物(濃度を表31に示す)を、尾静脈より10 mL/kgの用量で単回投与した。上記の条件下では、各抗体はhIgE(Asp6)に対して十分に過剰に存在するため、hIgE(Asp6)はほぼ完全に抗体に結合していると予測される。投与から5分後、2時間後、7時間後、1日後、2日後、4日後または5日後、7日後、14日後、21日後、および28日後に、当該マウスから採血した。採取した血液を直ちに15,000 rpm、4℃で5分間遠心分離して、血漿を得た。分離した血漿は、測定を実施するまで-20℃以下に設定された冷凍庫にて保存した。
【0412】
(表31)
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【0413】
13-3. ヒトFcRnトランスジェニックマウスにおける血漿中抗ヒトIgE抗体濃度の決定
マウス血漿中の抗hIgE抗体濃度は、電気化学発光(ECL)アッセイによって決定した。32、16、8、4、2、1、0.5、および0.25μg/mLの血漿中濃度で、検量線試料を調製した。hIgE(Asp6)を固定化したECLプレートに、検量線試料およびマウス血漿アッセイ試料を分注した。プレートを4℃で一晩置いた。その後、SULFO-TAG標識抗ウサギ抗体(ヤギ)(Meso Scale Discovery)を室温で1時間反応させた。Read Buffer T(×4)(Meso Scale Discovery)を分注してから直ちに、Sector Imager 2400 Reader(Meso Scale Discovery)により測定を行った。解析ソフトウェアSOFTmax PRO(Molecular Devices)を用いて、検量線の応答からマウス血漿中の濃度を算出した。上記の方法によって決定された静脈内投与後の血漿中抗体濃度の経時変化を
図137に示す。
【0414】
13-4. ヒトFcRnトランスジェニックマウスの血漿中hIgE(Asp6)濃度の測定
マウス血漿中hIgE(Asp6)濃度をELISA法にて測定した。血漿中濃度として192、96、48、24、12、6、3 ng/mLの検量線試料を調製した。hIgE(Asp6)と抗hIgE抗体の免疫複合体を均一にするため、検量線およびマウス血漿測定試料には、10μg/mLとなるようにXolair(Novartis)を添加し、室温で30分静置させた。静置後の検量線およびマウス血漿測定試料を抗ヒトIgEが固相化されたイムノプレート(MABTECH)もしくは、抗ヒトIgE(clone 107、MABTECH)が固相化されたイムノプレート(Nunc F96 MicroWell Plate(Nalge nunc International))に分注し、室温で2時間静置もしくは4℃で一晩静置させた。その後、ヒトGPC3コアタンパク質(配列番号:26)、NHS-PEG4-ビオチン(Thermo Fisher Scientific)でビオチン化された抗GPC3抗体(中外製薬株式会社にて調製)、ストレプトアビジン-ポリHRP80(Stereospecific Detection Technologies)をそれぞれ1時間順次反応させた。TMB One Component HRP Microwell Substrate(BioFX Laboratories)を基質として用いた発色反応を1N硫酸(昭和化学)で反応停止後、当該発色をマイクロプレートリーダーにて450nmの吸光度を測定する方法、もしくはSuperSignal(r) ELISA Pico Chemiluminescent Substrate(Thermo Fisher Scientific)を基質として発光反応を行い、マイクロプレートリーダーにて発光強度を測定する方法によってマウス血漿中濃度を測定した。マウス血漿中濃度は検量線の吸光度もしくは発光強度から解析ソフトウェアSOFTmax PRO(Molecular Devices)を用いて算出した。この方法で測定された静脈内投与後の血漿中hIgE(Asp6)濃度推移を
図138に示した。
【0415】
その結果、ヒトIgEを、278-F760よりもはるかに強くヒトFcRnに結合する278-F1331と組み合わせて投与した場合に、ヒトIgEの消失が有意に加速されることが示された。特に、IL6RおよびIgAの場合のみならず、IgEの場合にも、FcRnに対する結合活性が増強されたpH依存的抗原結合抗体によって、血漿中からの抗原クリアランスが加速され、血漿中の抗原濃度が低下し得ることが示された。
【0416】
[参考例A1] 可溶型ヒトIL-6受容体(hsIL-6R)の調製
抗原として組み換えヒトIL-6受容体を以下のように調製した。J. Immunol. 152, 4958-4968 (1994)で報告されているN末端側1番目から357番目のアミノ酸配列からなる可溶型ヒトIL-6受容体(以下、hsIL-6R)を恒常的に発現する細胞株を当業者公知の方法で樹立し、培養し、hsIL-6Rを発現させた。得られた培養上清から、Blue Sepharose 6 FFカラムクロマトグラフィーおよびゲルろ過クロマトグラフィーの2工程によりhsIL-6Rを精製した。最終工程においてメインピークとして溶出した画分を最終精製品として用いた。
【0417】
[参考例A2] ヒトFcRnの調製
FcRnは、FcRnのα鎖とβ2-ミクログロブリンとのヘテロ二量体である。公表されているヒトFcRn遺伝子配列に基づいてオリゴDNAプライマーを調製した(J Exp Med. 1994 Dec 1; 180(6): 2377-81)。遺伝子全体をコードするDNA断片は、調製したプライマーおよび鋳型としてヒトcDNA(Human Placenta Marathon-Ready cDNA, Clontech)を用いてPCRによって調製した。得られたDNA断片を鋳型として用い、シグナル領域(Met1〜Leu290)を含有する細胞外ドメインをコードするDNA断片をPCRによって増幅し、哺乳動物細胞発現ベクターに挿入した。同様に、公表されているヒトβ2-ミクログロブリン遺伝子配列(Proc. Natl. Acad. Sci. U.S.A. 99 (26): 16899-16903 (2002))に基づいてオリゴDNAプライマーを調製した。遺伝子全体をコードするDNA断片は、調製したプライマーおよび鋳型としてヒトcDNA(Human Placenta Marathon-Ready cDNA, Clontech)を用いてPCRによって調製した。得られたDNA断片を鋳型として用い、シグナル領域(Met1〜Met119)を含有するタンパク質全体をコードするDNA断片をPCRによって増幅し、哺乳動物細胞発現ベクターに挿入した。
【0418】
可溶型ヒトFcRnを以下の手順により発現させた。ヒトFcRnα鎖(配列番号:27)およびβ2-ミクログロブリン(配列番号:28)を発現させるために構築したプラスミドを、PEI(Polyscience)を用いたリポフェクション法によって、ヒト胎児腎癌由来細胞株HEK293H(Invitrogen)の細胞に導入した。得られた培養上清を回収して、IgG Sepharose 6 Fast Flow(Amersham Biosciences)を用いて精製した後にHiTrap Q HP(GE Healthcare)(J Immunol. 2002 Nov 1; 169(9): 5171-80)を用いることによってFcRnをさらに精製した。
【0419】
[参考例A3] ヒトIgA(hIgA)の調製
H(WT)-IgA1(配列番号:12)とL(WT)(配列番号:13)とを含むhIgAを発現させて、当業者公知の方法によってrProtein L-agarose(ACITgen)の後にゲルろ過クロマトグラフィーを用いて精製した。
【0420】
[参考例A4] 可溶型ヒトプレキシンA1(hsプレキシンA1)の調製
抗原として組換え型可溶型ヒトプレキシンA1(以下、hsプレキシンA1)を以下のように調製した。NCBI参照配列(NP_115618)を参照してhsプレキシンA1を構築した。特に、hsプレキシンA1は、上記のNCBI参照由来の27番目から1243番目のアミノ酸配列からなり、そのC末端にFLAGタグ(DYKDDDDK、配列番号:29)が接続された。hsプレキシンA1を、FreeStyle293(Invitrogen)を用いて一過性に発現させ、培養上清から、抗FLAGカラムクロマトグラフィーおよびゲルろ過クロマトグラフィーの2工程により精製した。最終工程においてメインピークとして溶出した分画を最終精製品として用いた。