特許第6204377号(P6204377)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6204377
(24)【登録日】2017年9月8日
(45)【発行日】2017年9月27日
(54)【発明の名称】記録用紙
(51)【国際特許分類】
   C08J 7/04 20060101AFI20170914BHJP
   B32B 27/32 20060101ALI20170914BHJP
   G03G 7/00 20060101ALI20170914BHJP
【FI】
   C08J7/04 H
   B32B27/32 101
   G03G7/00 B
【請求項の数】6
【全頁数】28
(21)【出願番号】特願2014-552078(P2014-552078)
(86)(22)【出願日】2013年12月12日
(86)【国際出願番号】JP2013083289
(87)【国際公開番号】WO2014092142
(87)【国際公開日】20140619
【審査請求日】2016年8月25日
(31)【優先権主張番号】特願2012-273862(P2012-273862)
(32)【優先日】2012年12月14日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000122313
【氏名又は名称】株式会社ユポ・コーポレーション
(74)【代理人】
【識別番号】110000109
【氏名又は名称】特許業務法人特許事務所サイクス
(72)【発明者】
【氏名】五十嵐 卓哉
(72)【発明者】
【氏名】諸岡 槙
(72)【発明者】
【氏名】足利 光洋
【審査官】 福井 弘子
(56)【参考文献】
【文献】 特開2002−113959(JP,A)
【文献】 特表2001−520408(JP,A)
【文献】 特開平09−179329(JP,A)
【文献】 特表2004−503805(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08J 7/04−7/06
B32B 1/00−43/00
G03G 7/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱可塑性樹脂フィルムからなる支持体と、前記支持体の少なくとも一方の表面上に設けた表面処理層を有する記録用紙であって、
前記表面処理層が、オレフィン系共重合体エマルジョン(A)およびエポキシ系シランカップリング剤(B)を含む塗工液を前記支持体上に塗工し乾燥することにより形成されたものであり、
前記塗工液に含まれるオレフィン系共重合体エマルジョン(A)の固形分100質量部に対して、前記塗工液に含まれるシランカップリング剤(B)の固形分が2〜14質量部であり、
前記表面処理層の固形分量が0.1〜5g/m2であることを特徴とする記録用紙。
【請求項2】
前記塗工液が、更にエチレンイミン系重合体(C)を含むことを特徴とする請求項1に記載の記録用紙。
【請求項3】
前記オレフィン系共重合体エマルジョン(A)が、非イオン性界面活性剤、非イオン性水溶性高分子、カチオン性界面活性剤およびカチオン性水溶性高分子からなる群から選ばれる少なくとも一種を分散剤(b)として用いて、不飽和カルボン酸モノマーまたはその無水物に由来する構成単位を含むオレフィン共重合体(a)を水中に分散させた水性分散液であって、前記オレフィン系共重合体(a)と前記分散剤(b)との固形分量での質量比率(a)/(b)が100/1〜100/40であることを特徴とする請求項1または2に記載の記録用紙。
【請求項4】
前記オレフィン系共重合体エマルジョン(A)における、オレフィン系共重合体の体積平均粒径が0.2〜3μmであることを特徴とする請求項1〜の何れか一項に記載の記録用紙。
【請求項5】
前記塗工液が、更にポリマー型帯電防止剤(D)を含むことを特徴とする請求項1〜の何れか一項に記載の記録用紙。
【請求項6】
前記熱可塑性樹脂フィルムが、ポリオレフィン系樹脂またはポリエステル系樹脂を含むことを特徴とする請求項1〜の何れか一項に記載の記録用紙。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱可塑性樹脂フィルムを支持体として含む記録用紙に関する。具体的には、天然紙と比較して耐水性、耐候性、及び耐久性に優れることから、屋内外で用いるポスター用紙、屋内外で用いるステッカー用紙、冷凍食品用容器のラベル用紙や工業製品のネーマー(使用方法や注意書きを記したラベル)等の用紙として好適な記録用紙に関する。本発明は特に、液体トナーを用いた電子写真印刷方式の記録用紙として、液体トナーとの密着性に優れた記録用紙に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、耐水性、耐候性、及び耐久性が必要な用途に供する各種印刷用紙、各種ポスター用紙、各種ラベル用紙、インクジェット記録紙、感熱記録紙、熱転写受容紙、感圧転写記録紙、電子写真記録紙等の記録用紙として、ポリオレフィン樹脂やポリエステル樹脂等の熱可塑性樹脂に無機微細粉末や有機フィラーを配合して延伸したフィルム法合成紙や、上記熱可塑性樹脂を主原料とする透明な延伸フィルムなどを支持体とし、各種の塗工設備を用いて塗工液を表面に塗工したものが提案されている(例えば、特許文献1〜4参照)。
【0003】
特許文献5には、熱転写型プリントにおいて高温・高湿環境下におけるインクの転写性、密着性および耐水密着性に優れ、鮮明な画像が得られる熱転写フィルム、特に溶融熱転写フィルムであり、かつ種々の印刷方式においてインクの転移性、密着性及び耐水密着性に優れた熱可塑性樹脂フィルムが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平4−219277号公報
【特許文献2】特開平5−305780号公報
【特許文献3】特開平10−119428号公報
【特許文献4】特開平7−290654号公報
【特許文献5】特開2002−113959号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献5に記載されているような記録用紙を近年普及している液体トナーを用いた電子写真記録印刷の記録用紙として用いた場合には、得られた印刷物の表面処理層とトナーとの密着性、特に耐水密着性が十分でないために、印刷物をラミネート加工するとラミネートフィルムごと印刷が容易に剥がれてしまうという問題があった。
この問題を解決しようとして、特許文献5に記載の記録用紙において架橋剤の量を増やし、熱可塑性樹脂からなる支持体との密着性を改善することを試みると、トナーの表面処理層への転移性が低下するために印刷適性を著しく低下させてしまう。このため、従来の技術では、液体トナーを用いた電子写真記録印刷に適用した場合であっても実用性のある記録用紙を提供することが困難であった。
そこで本発明は、支持体層と表面処理層との密着性が高く、オフセット印刷やフレキソ印刷を始めとする各種印刷が可能であり、特に液体トナーを用いた電子写真記録印刷方式に用いた場合であっても表面処理層とトナーとの密着性が十分でトナーが脱落しにくい記録用紙を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は、これらの課題を解決するために鋭意検討を進めた結果、記録用紙の表面処理層をオレフィン系共重合体エマルジョンとシランカップリング剤を含む塗工液を用いて形成することによって、支持体を構成する熱可塑性樹脂と表面処理層を構成するオレフィン系共重合体との間や、オレフィン系共重合体同士を架橋させることが可能となり、印刷適性を維持したまま耐水性を著しく改善して上記課題を解決できることを見出した。本発明は、このような知見に基づいて完成したものであり、下記の通りの構成を有する記録用紙に関するものである。
【0007】
[1] 熱可塑性樹脂フィルムからなる支持体と、前記支持体の少なくとも一方の表面上に設けた表面処理層を有する記録用紙であって、
前記表面処理層が、オレフィン系共重合体エマルジョン(A)およびシランカップリング剤(B)を含む塗工液を前記支持体上に塗工し乾燥することにより形成されたものであり、
前記塗工液に含まれるオレフィン系共重合体エマルジョン(A)の固形分100質量部に対して、前記塗工液に含まれるシランカップリング剤(B)の固形分が2〜14質量部であり、
前記表面処理層の固形分量が0.1〜5g/m2であることを特徴とする記録用紙。
[2] 前記塗工液が、更にエチレンイミン系重合体(C)を含むことを特徴とする[1]に記載の記録用紙。
[3] 前記シランカップリング剤(B)が、前記オレフィン系共重合体エマルジョン(A)を構成するオレフィン系共重合体と反応する基を有することを特徴とする[1]または[2]に記載の記録用紙。
[4] 前記シランカップリング剤(B)が、アルコキシシリル基またはシラノール基を有するとともに、エポキシ基、ビニル基、(メタ)アクリル基、アミノ基、ウレイド基、メルカプト基およびイソシアネート基からなる群より選択される少なくとも1種の官能基を有することを特徴とする[1]〜[3]の何れか一項に記載の記録用紙。
[5] 前記オレフィン系共重合体エマルジョン(A)が、非イオン性界面活性剤、非イオン性水溶性高分子、カチオン性界面活性剤およびカチオン性水溶性高分子からなる群から選ばれる少なくとも一種を分散剤(b)として用いて、不飽和カルボン酸モノマーまたはその無水物に由来する構成単位を含むオレフィン共重合体(a)を水中に分散させた水性分散液であって、前記オレフィン系共重合体(a)と前記分散剤(b)との固形分量での質量比率(a)/(b)が100/1〜100/40であることを特徴とする[1]〜[4]の何れか一項に記載の記録用紙。
[6] 前記オレフィン系共重合体エマルジョン(A)における、オレフィン系共重合体の体積平均粒径が0.2〜3μmであることを特徴とする[1]〜[5]の何れか一項に記載の記録用紙。
[7] 前記シランカップリング剤(B)が、エポキシ系シランカップリング剤であることを特徴とする[1]〜[6]の何れか一項に記載の記録用紙。
[8] 前記塗工液が、更にポリマー型帯電防止剤(D)を含むことを特徴とする[1]〜[7]の何れか一項に記載の記録用紙。
[9] 前記熱可塑性樹脂フィルムが、ポリオレフィン系樹脂またはポリエステル系樹脂を含むことを特徴とする[1]〜[8]の何れか一項に記載の記録用紙。
【発明の効果】
【0008】
本発明の記録用紙は、これを構成する支持体層と表面処理層との密着性が高く、かつ液体トナーを用いた電子写真記録印刷方式に用いた場合に、表面処理層とトナーとの密着性が十分であり、耐水性が高くてトナーが脱落しにくい印刷物を提供することができる。また本発明の記録用紙は、オフセット印刷やフレキソ印刷を始めとする各種印刷においても印刷物の耐水性が高いという顕著な効果を奏するものである。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下に、本発明の記録用紙について詳細に説明する。以下に記載する構成要件の説明は、本発明の代表的な実施態様に基づいてなされることがあるが、本発明はそのような実施態様に限定されるものではない。なお、本明細書において「〜」を用いて表される数値範囲は、「〜」の前後に記載される数値を下限値および上限値として含む範囲を意味する。また、本明細書において「(メタ)アクリル」という表記は、アクリルとメタクリルの両方を包含する意味で用いられている。
【0010】
本発明の記録用紙は、熱可塑性樹脂フィルムからなる支持体と、前記支持体の少なくとも一方の表面上に設けられた表面処理層を有する記録用紙であって、前記表面処理層が、オレフィン系共重合体エマルジョン(A)およびシランカップリング剤(B)を含む塗工液を前記支持体上に塗工し乾燥することにより形成されたものであり、前記塗工液に含まれるオレフィン系共重合体エマルジョン(A)の固形分100質量部に対して、前記塗工液に含まれるシランカップリング剤(B)の固形分が2〜14質量部であり、前記表面処理層の固形分量が0.1〜5g/m2であることを特徴とする。
以下において、本発明の記録用紙を構成する支持体と表面処理層について詳細に説明し、さらに記録用紙の用途について説明する。
【0011】
[1]表面処理層
記録用紙における表面処理層は、熱可塑性樹脂フィルムからなる支持体の少なくとも一方の表面上に設けられている。表面処理層は、支持体の一方の表面にのみ設けられていてもよいし、支持体の両方の面に設けられていてもよい。この表面処理層は、オレフィン系共重合体エマルジョン(A)およびシランカップリング剤(B)を含む塗工液を前記支持体上に塗工し乾燥することにより形成されたものであり、支持体層との密着性が高く、また液体トナーを用いた電子写真記録印刷方式に用いた場合に、トナーとの密着性も十分に高いという特徴を有する。このことから本発明の記録用紙を用いれば、耐水性が高くトナーが脱落しにくい印刷物を提供することができる。また同表面処理層は、オフセット印刷やフレキソ印刷を始めとする各種印刷にも適性を有しており、それぞれ耐水性が高い印刷物を提供することができる。
【0012】
[1−1]表面処理層を形成するための塗工液の組成
記録用紙における表面処理層は、オレフィン系共重合体エマルジョン(A)およびシランカップリング剤(B)を含む塗工液から形成されることを特徴とする。また表面処理層を形成するための塗工液における夫々の量比が、オレフィン系共重合体エマルジョン(A)の固形分100質量部に対してシランカップリング剤(B)の固形分が2〜14質量部であることを特徴とする。
【0013】
[オレフィン系共重合体エマルジョン(A)]
本発明において「オレフィン系共重合体エマルジョン(A)」とは、水性分散媒中に、オレフィン系共重合体が微粒子として分散され、乳化してなるものである。オレフィン系共重合体エマルジョン(A)に含まれるオレフィン系共重合体は、記録用紙を液体トナーを用いた電子写真記録印刷方式に用いた場合に、熱により表面処理層中で軟化し、更に液体トナーと融着することによって、液体トナーや支持体に対する強固な密着性や耐水性といった優れた効果をもたらすものと考えられる。
【0014】
オレフィン系共重合体エマルジョン(A)に用いうるオレフィン系共重合体としては、乳化性が良好な、カルボキシル基を含む構成単位またはその塩を共重合成分として含有するオレフィン系共重合体を用いることが好ましい。このような共重合体の代表例としては、オレフィン系単量体と、不飽和カルボン酸又はその無水物とが共重合したもの、及びその塩が例示できる。
このような共重合体の具体例としては、エチレン−(メタ)アクリル酸共重合体、エチレン−(メタ)アクリル酸エステル共重合体、エチレン−(メタ)アクリル酸共重合体のアルカリ(土類)金属塩、エチレン−(メタ)アクリル酸エステル−無水マレイン酸共重合体、(メタ)アクリル酸グラフトポリエチレン、エチレン−酢酸ビニル共重合体、無水マレイン酸グラフトポリエチレン、無水マレイン酸グラフトエチレン−酢酸ビニル共重合体、無水マレイン酸グラフト(メタ)アクリル酸エステル−エチレン共重合体、無水マレイン酸グラフトポリプロピレン、無水マレイン酸グラフトエチレン−プロピレン共重合体、無水マレイン酸グラフトエチレン−プロピレン−ブテン共重合体、無水マレイン酸グラフトエチレン−ブテン共重合体、無水マレイン酸グラフトプロピレン−ブテン共重合体などを例示できる。
これらの中でも、融点または軟化点が130℃以下のエチレン−(メタ)アクリル酸共重合体、エチレン−(メタ)アクリル酸エステル共重合体、エチレン−(メタ)アクリル酸エステル−無水マレイン酸共重合体、エチレン−酢酸ビニル共重合体、無水マレイン酸グラフトエチレン−酢酸ビニル共重合体、無水マレイン酸グラフト(メタ)アクリル酸エステル−エチレン共重合体、無水マレイン酸グラフトエチレン−プロピレン−ブテン共重合体、無水マレイン酸グラフトエチレン−ブテン共重合体、無水マレイン酸グラフトプロピレン−ブテン共重合体がトナーの受理性の点から特に好ましい。
これらのオレフィン系共重合体は、1種類を単独で用いてもよいし、2種類以上を組み合わせて用いてもよい。
【0015】
オレフィン系共重合体エマルジョン(A)は、前記オレフィン系共重合体を水中に分散させてオレフィン系共重合体エマルジョン(A)とするための分散剤を含むことが好ましい。分散剤として、非イオン性界面活性剤、非イオン性水溶性高分子、カチオン性界面活性剤、カチオン性水溶性高分子からなる群から選ばれる少なくとも一種が用いることができる。
非イオン性界面活性剤としては、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルアリルエーテル、ポリオキシエチレンオキシプロピレンブロックポリマー、ポリエチレングリコール脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステルなどを例示できる。非イオン性水溶性高分子としては、完全ケン化ポリビニルアルコール若しくは部分ケン化ポリビニルアルコールまたはこれらの変性物を例示できる。非イオン性水溶性高分子の他の例としては、ヒドロキシエチルセルローズを例示できる。カチオン性界面活性剤としては、ステアリルアミン塩酸塩、ラウリルトリメチルアンモニウムクロリド、トリメチルオクタデシルアンモニウムクロリドなどを例示できる。
【0016】
カチオン性水溶性高分子としては、四級アンモニウム塩構造またはホスホニウム塩構造を有するポリマー、窒素含有(メタ)アクリルポリマー、四級アンモニウム塩構造の窒素を有する(メタ)アクリル系ポリマーなどを例示できる。カチオン性水溶性高分子として、好ましくは、窒素含有(メタ)アクリルポリマー、あるいは、四級アンモニウム塩構造の窒素を有する(メタ)アクリル系ポリマーが用いられる。これにより、熱可塑性樹脂フィルムへの密着性をさらに向上させることができる。
これらの分散剤は、単独で用いてもよいし、2種類以上を組み合わせて用いてもよい。
前記オレフィン系共重合体を前記分散剤を用いて水中に分散させる場合、オレフィン系共重合体を水中に分散させやすくなる傾向があることから、オレフィン系共重合体の固形分100質量部に対して、分散剤の固形分あたりの質量を1質量部以上にすることが好ましく、3質量部以上にすることがより好ましく、5質量部以上にすることがさらに好ましい。一方、高温高湿環境下においてもインキ密着性の改善効果が得られやすくなる傾向があることから、オレフィン系共重合体の固形分100質量部に対して、分散剤の固形分あたりの質量を40質量部以下にすることが好ましく、35質量部以下にすることがより好ましく、30質量部以下にすることがさらに好ましい。
【0017】
(オレフィン系共重合体エマルジョン(A)の体積平均粒径)
本発明において「エマルジョン粒子の体積平均粒径」とは、レーザー回折型粒度分布測定装置((株)島津製作所製:SALD−2200)を用いて測定される体積平均粒径のことをいう。
オレフィン系共重合体エマルジョン(A)の分散粒子の体積平均粒径は、製造時のエネルギー効率や、エマルジョン製造時の乳化剤添加量の抑制の観点から、0.2μm以上が好ましく、0.3μm以上がさらに好ましい。一方、分散粒子自体の静置安定性が良く、これを含む表面処理層の熱可塑性樹脂フィルムへの密着性が一段と良くなる傾向があることから、体積平均粒径は、3μm以下が好ましく、1μm未満がより好ましく、0.72μm以下がさらに好ましく、0.6μm以下が特に好ましい。
分散剤を用いてオレフィン系共重合体を水中に分散させてエマルジョンとするための方法は、特に限定されるものではなく、芳香族炭化水素系溶剤に該オレフィン系共重合体を加熱溶解し、分散剤を混合攪拌し、引き続き水を添加しながら相転換せしめた後に、芳香族炭化水素系溶剤を溜去して水性分散液を得る方法が用いられてもよく、特公昭62−29447号公報に開示されているように、オレフィン系共重合体を二軸押出機のホッパーに供給し、加熱溶融させた状態に分散剤の水溶液を添加して溶融混練し、引き続き水を添加して相転換させて分散液を得る方法が用いられてもよい。特に、分散剤がカチオン性水溶性高分子である場合には、特公昭62−29447号公報に開示されているような方法を用いることで、水性分散液中の樹脂粒子の平均粒子径を容易に調製することができる。
【0018】
オレフィン系共重合体エマルジョン(A)におけるオレフィン系共重合体の含有量は、適度な容量で十分なオレフィン系共重合体を含むことから、30質量%以上であることが好ましく、35質量%以上であることがより好ましく、40質量%以上であることがさらに好ましい。一方、所望の体積平均粒径を有するオレフィン系共重合体エマルジョンが容易に得られる点から、オレフィン系共重合体エマルジョン(A)におけるオレフィン系共重合体の含有量は、65質量%以下であることが好ましく、60質量%以下であることがより好ましく、55質量%以下であることがさらに好ましい。
このようなオレフィン系共重合体エマルジョン(A)としては、中央理化工業株式会社製のアクアテックスAC−3100、EC−1200、MC−3800、MC−4400(商品名);三井化学株式会社製のケミパールS100、S200、S300、SA100(商品名)などが市販されており、利用することができる。
【0019】
[シランカップリング剤(B)]
本発明を構成する表面処理層中のシランカップリング剤(B)は、熱可塑性樹脂フィルムからなる支持体と、表面処理層とを強固に結びつける作用効果を供するものである。
シランカップリング剤(B)は特に、支持体の熱可塑性樹脂とオレフィン系共重合体エマルジョン(A)を、及びオレフィン系共重合体エマルジョン(A)同士を、架橋反応により結びつけて網目構造を形成することで、強固な表面処理層を形成し、記録用紙として好適な表面を形成しているものと推定している。またシランカップリング剤(B)は、後述するエチレンイミン系重合体(C)やポリマー型帯電防止剤(D)とも架橋反応により結びつくことが可能であり、これらの親水性成分(極性樹脂成分)をより高分子量化させることによって耐水性を向上させているものと推定している。
【0020】
元来、オレフィン系共重合体エマルジョン(A)や、後述するエチレンイミン系重合体(C)やポリマー型帯電防止剤(D)は分子構造内に極性基を有するものであり、それにより表面処理層はインクとの強い親和性を得られるが、反面、水分に対する親和性も高いために、これを熱可塑性樹脂フィルム上に設けた記録用紙は耐水性の観点で充分とは言えなかった。
これらを用いた表面処理層は、乾燥後は樹脂の凝集力によって塗膜としてある程度強くなるものの、熱可塑性樹脂フィルムのような支持体とは強固な力で結びついていないために、一旦、支持体と塗膜の間に水分が浸入してしまうと、支持体と塗膜が容易に剥離してしまい、結果的に印刷物からインキやトナーが簡単に剥がれてしまうといった問題を内包していた。
【0021】
そのため本発明者らは、支持体と表面処理層を仲介するものを鋭意検討した結果、表面処理層にシランカップリング剤(B)を用いて、同問題を解決することの着想に至った。
シランカップリング剤(B)は、オレフィン系共重合体エマルジョン(A)を構成するオレフィン系共重合体と反応する基を有するものであることが好ましい。ここで、本発明において「オレフィン系共重合体と反応する基」とは、オレフィン系共重合体が有する原子又は原子団と反応して結合を形成する基のことをいう。反応によって形成される結合の種類は特に限定されず、共有結合、イオン結合、水素結合等のいずれであってもよい。オレフィン系共重合体と反応する基としては、例えばシラノール基や各種官能基等を挙げることができる。
例えば、シランカップリング剤(B)として、その分子内にアルコキシシリル基またはこれが加水分解したシラノール基を有し、またその分子内にエポキシ基、ビニル基、(メタ)アクリル基、アミノ基、ウレイド基、メルカプト基、イソシアネート基などの官能基の少なくとも一種を有しているものを好ましく用いることができる。
本発明の系において、シランカップリング剤(B)は、シラノール基が支持体の熱可塑性樹脂と縮合反応し、一方、官能基がオレフィン系共重合体エマルジョン(A)における(メタ)アクリル酸残基や無水マレイン酸残基と、またエチレンイミン系重合体(C)におけるアミン基と、縮合反応して、架橋反応を行うものと推定される。
或いはシランカップリング剤(B)は、シラノール基がオレフィン系共重合体エマルジョン(A)における(メタ)アクリル酸残基や無水マレイン酸残基と、またエチレンイミン系重合体(C)におけるアミン基と縮合反応し、一方、官能基が支持体の熱可塑性樹脂と高い親和性で結びつくことで、架橋反応を行うものと推定される。
結果として記録用紙は支持体層と表面処理層との密着性が高く、かつ表面処理層と印刷インクとの密着性も良好であることから、各種印刷が可能であり、印刷インキやトナーとの密着性が十分であり、これらの脱落のない記録用紙を得ることに成功した。
シランカップリング剤(B)におけるアルコキシシリル基またはこれが加水分解したシラノール基の含有率は、支持体と表面処理層とを強固に密着させ、且つ表面処理層と印刷インキやトナーとを強固に密着させる点から、25〜75%であることが好ましく、50〜75%であることがより好ましい。一方、シランカップリング剤(B)におけるアルコキシシリル基またはこれが加水分解したシラノール基以外の反応性官能基の含有率は、25〜75%であることが好ましく、25〜50%であることがより好ましい。
【0022】
このような作用効果を奏するシランカップリング剤(B)としては、エポキシ系シランカップリング剤、ビニル系シランカップリング剤、(メタ)アクリル系シランカップリング剤、アミノ系シランカップリング剤、ウレイド系シランカップリング剤、メルカプト系シランカップリング剤、イソシアネート系シランカップリング剤などを挙げることができる。
エポキシ系シランカップリング剤の具体例としては、3−グリシドキシプロピルメチルジメトキシシラン、3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、3−グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン、3−グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、2−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシランなどを挙げることができる。
ビニル系シランカップリング剤の具体例としては、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシランなどを挙げることができる。
(メタ)アクリル系シランカップリング剤の具体例としては、3−メタクリロキシプロピルメチルジメトキシシラン、3−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、3−メタクリロキシプロピルメチルジエトキシシラン、3−メタクリロキシプロピルトリエトキシシラン、3−アクリロキシプロピルトリメトキシシランなどを挙げることができる。
【0023】
アミノ系シランカップリング剤の具体例としては、N−2−(アミノエチル)−3−アミノプロピルメチルジメトキシシラン、N−2−(アミノエチル)−3−アミノプロピルトリメトキシシラン、3−アミノプロピルトリメトキシシラン、3−アミノプロピルトリエトキシシラン、3−トリエトキシシリル−N−(1,3−ジメチル−ブチリデン)プロピルアミン、N−フェニル−3−アミノプロピルトリメトキシシラン、N−(ビニルベンジル)−2−アミノエチル−3−アミノプロピルトリメトキシシランなどを挙げることができる。
ウレイド系シランカップリング剤の具体例としては、3−ウレイドプロピルトリエトキシシランなどを挙げることができる。
メルカプト系シランカップリング剤の具体例としては、3−メルカプトプロピルメチルジメトキシシラン、3−メルカプトプロピルトリメトキシシランなどを挙げることができる。
イソシアネート系シランカップリング剤の具体例としては、3−イソシアネートプロピルトリエトキシシランなどを挙げることができる。
これらのシランカップリング剤(B)は単独で、または2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0024】
また、このようなシランカップリング剤(B)としては、信越化学工業株式会社社製のKBM−303、KBM−402、KBM−403、KBE−402、KBE−403、KBM−1003、KBE−1003、KBM−502、KBM−503、KBE−502、KBE−503、KBM−5103、KBM−602、KBM−603、KBM−903、KBE−903、KBE−9103、KBM−573、KBM−575、KBE−585、KBM−802、KBM−803、KBE−9007(いずれも商品名);東レ・ダウコーニング株式会社社製のZ−6043、Z−6040、Z−6519、Z−6300、Z−6030、Z−6011、Z−6094、Z−6062(いずれも商品名)などが市販されており、利用することができる。
【0025】
これらの中でも、印刷インキやトナーとの密着性の観点から、エポキシ系シランカップリング剤、アミノ系シランカップリング剤、メルカプト系シランカップリング剤、イソシアネート系シランカップリング剤を用いることが好ましく、エポキシ系シランカップリング剤を用いることがより好ましい。
また、オレフィン系共重合体エマルジョン(A)や後述するエチレンイミン系重合体(C)に含まれる1〜3級アミノ基との架橋反応のし易さの観点からは、エポキシ系シランカップリング剤、ウレイド系シランカップリング剤、イソシアネート系シランカップリング剤を用いることが好ましく、エポキシ系シランカップリング剤を用いることがより好ましい。
また、熱可塑性樹脂フィルムへの適応性の観点からは、熱可塑性樹脂にポリオレフィン系樹脂を用いる場合には、ビニル系シランカップリング剤、(メタ)アクリル系シランカップリング剤を用いることが好ましく、熱可塑性樹脂にポリエステル系樹脂を用いる場合には、エポキシ系シランカップリング剤、アミノ系シランカップリング剤を用いることが好ましい。
また、支持体表面に金属酸化物粒子が存在する場合、該粒子に吸着して強固な結合を作る観点から、アミノ系シランカップリング剤、ウレイド系シランカップリング剤、メルカプト系シランカップリング剤を用いることが好ましい。
【0026】
本発明において表面処理層は、オレフィン系共重合体エマルジョン(A)及びシランカップリング剤(B)を、好ましくは更に後述するエチレンイミン系重合体(C)やポリマー型帯電防止剤(D)を水性媒体中に溶解させた塗工液を調製して、これを支持体上に塗工し、乾燥させて形成することが、工程として簡便であり好ましい。
なお、シランカップリング剤は、アルコキシシリル基の種類によって加水分解速度を制御できることが知られており、この性質を利用して、シランカップリング剤の自己縮合に基づく塗工液の劣化を抑制し、経時安定性を高めることができる。
そのため、シランカップリング剤(B)としては上記の諸性能に優れ、特に塗工液として取扱う際に水への溶解性が高く、かつ経時安定性が高いエポキシ系シランカップリング剤を用いることが更に好ましい。これらの中でも3−グリシドキシプロピルトリメトキシシランを用いることが最も好ましい。
【0027】
また、上記塗工液において、シランカップリング剤(B)分子内のアルコキシシラン基は、加水分解によりシラノール基に変化しており、同シラノール基が表面酸化処理を施した熱可塑性樹脂フィルム上の官能基(例えば水酸基、カルボキシル基など)と水素結合または化学結合することにより、支持体と表面処理層との密着性が向上していると推定している。
また、シラノール基同士が縮合反応することで、表面処理層自体の凝集力も向上し、表面処理層自体の物理的強度も向上していると推定している。
【0028】
[エチレンイミン系重合体(C)]
エチレンイミン系重合体(C)は、各種の印刷インキ、特に紫外線硬化型インキとの親和性が強いことから、記録用紙における表面処理層においてこれらのインクとの密着性を向上させることを目的に用いることが好ましい。
このような化合物としては、ポリエチレンイミン、ポリ(エチレンイミン−尿素)、若しくはポリアミンポリアミドのエチレンイミン付加物、またはこれらのアルキル変性体、シクロアルキル変性体、アリール(aryl)変性体、アリル(allyl)変性体、アラルキル変性体、ベンジル変性体、シクロペンチル変性体、環状脂肪族炭化水素変性体、グリシドール変性体若しくは水酸化物を例示できる。これらは、単独で用いてもよく、複数の種類の重合体を組み合わせて用いてもよい。変性体を得るための変性剤としては、塩化メチル、臭化メチル、塩化n−ブチル、塩化ラウリル、ヨウ化ステアリル、塩化オレイル、塩化シクロヘキシル、塩化ベンジル、塩化アリル、塩化シクロペンチルなどを例示できる。
【0029】
これらの中でも、下記化学式(I)で表されるエチレンイミン系重合体(C)を用いることが、印刷インキ、特に紫外線硬化型インキとの転移性、密着性の向上の観点から好ましい。
【化1】
【0030】
上記式(I)中、R1とR2はそれぞれ独立して水素原子;炭素数1〜12の直鎖または分岐状のアルキル基;炭素数6〜12の脂環式構造を有するアルキル基またはアリール基を表す。R3は水素原子;水酸基を含んでいてもよい炭素数1〜18の範囲のアルキル基またはアリル基;水酸基を含んでいてもよい炭素数6〜12の脂環式構造を有するアルキル基またはアリール基を表す。mは2〜6の整数を表し、nは20〜3000の整数を表す。
これらのエチレンイミン系重合体(C)は単独で、または2種以上を組み合わせて使用することができる。
また、このようなエチレンイミン系重合体(C)としては、株式会社日本触媒製のエポミン(商品名);BASF社製のポリミンSK(商品名);三菱化学株式会社製のサフトマーAC−72、AC−2000(商品名)などが市販されており、利用することができる。
【0031】
[ポリマー型帯電防止剤(D)]
記録用紙における表面処理層には、冬場の静電気による埃の付着や印刷時の帯電による印刷機上での走行トラブルを軽減することが出来、記録用紙としての取扱い性(帯電防止性)を向上させることを目的に、帯電防止剤(D)を加えることが好ましい。
帯電防止剤の中でも、ブリードアウトによる表面の汚染や表面の経時変化を抑制するため、ポリマー型帯電防止剤を選択することが好ましい。
ポリマー型帯電防止剤(D)としては、特に限定されるものではなく、カチオン型、アニオン型、両性型またはノニオン型の帯電防止剤を用いることができる。
【0032】
カチオン型の帯電防止剤としては、アンモニウム塩構造、ホスホニウム塩構造などを有する帯電防止剤を例示できる。アニオン型の帯電防止剤としては、スルホン酸、リン酸、カルボン酸などのアルカリ金属塩(リチウム塩、ナトリウム塩、カリウム塩などを例示できる。)の構造を有する帯電防止剤を例示できる。アニオン型の帯電防止剤は、分子構造中に、アクリル酸、メタクリル酸、(無水)マレイン酸などのアルカリ金属塩の構造を有する帯電防止剤であってよい。
両性型の帯電防止剤としては、同一分子中に、カチオン型の帯電防止剤及びアニオン型の帯電防止剤の両方の構造を含有する帯電防止剤を例示できる。両性型の帯電防止剤としては、ベタイン型の帯電防止剤が例示できる。ノニオン型の帯電防止剤としては、アルキレンオキシド構造を有するエチレンオキシド重合体、エチレンオキシド重合成分を分子鎖中に有する重合体などを例示できる。その他の帯電防止剤としては、分子構造中にホウ素を有するポリマー型帯電防止剤が例示できる。
【0033】
ポリマー型帯電防止剤(D)として、好ましくは窒素含有ポリマー型帯電防止剤が用いられ、より好ましくは第三級窒素または第四級窒素含有アクリル系樹脂が用いられる。
これらのポリマー型帯電防止剤は単独で、または2種以上を組み合わせて使用することができる。
このようなポリマー型帯電防止剤(D)としては、三菱化学株式会社製のサフトマーST−1000、ST−1100、ST−3200(商品名)などが市販されており、利用することができる。
尚、記録用紙における表面処理層には、必要に応じてpH調整剤、消泡剤、その他の助剤等を、本発明の趣旨を損なわない範囲で添加しても良い。
【0034】
[量比]
本発明において、表面処理層を形成するための塗工液における各成分の量は、全てオレフィン系共重合体エマルジョン(A)の固形分100質量部に対する各成分の固形分の量比(質量比率)で表す。
液体トナーを用いた電子写真記録印刷方式に記録用紙を用いた場合に、トナーとの密着性が十分であり、耐水性が高くトナーが脱落しにくい印刷物を提供する観点から、該塗工液におけるシランカップリング剤(B)の量は、オレフィン系共重合体エマルジョン(A)の固形分100質量部に対して2〜14質量部とすることを特徴とする。シランカップリング剤(B)の量は、2.5質量部以上であることが好ましく、5質量部以上であることがより好ましい。また、シランカップリング剤(B)の量は、12質量部以下であることが好ましく、10質量部以下であることがより好ましい。
また、表面処理層を形成するための塗工液に、更にエチレンイミン系重合体(C)を添加する場合、オレフィン系共重合体エマルジョン(A)の固形分100質量部に対してエチレンイミン系重合体(C)の添加量を0.01質量部以上にすることが好ましく、1質量部以上にすることがより好ましく、2質量部以上にすることがさらに好ましく、また、エチレンイミン系重合体(C)の添加量を25質量部以下にすることが好ましく、15質量部以下にすることがより好ましく、10質量部以下にすることがさらに好ましく、5質量部以下にすることが特に好ましい。
また、表面処理層を形成するための塗工液にポリマー型帯電防止剤(D)を添加する場合、オレフィン系共重合体エマルジョン(A)の固形分100質量部に対してポリマー型帯電防止剤(D)の添加量を0.01質量部以上にすることが好ましく、1質量部以上にすることがより好ましく、2質量部以上にすることがさらに好ましく、また、ポリマー型帯電防止剤(D)の添加量を25質量部以下にすることが好ましく、15質量部以下にすることがより好ましく、10質量部以下にすることがさらに好ましく、5質量部以下にすることが特に好ましい。
【0035】
[1−2]表面処理層の形成方法
表面処理層の形成方法は、特に限定されるものではないが、表面処理層を構成する上記の成分を、上記の量比で溶媒に溶解させて塗工液を調製する段階と、調製された塗工液を、支持体の少なくとも一方の面に塗工する段階と、塗工された塗工液を乾燥固化させる段階とを有する方法によって、表面処理層を形成することが好ましい。これにより、記録用紙をロール・ツゥ・ロールで製造することもでき、生産性を向上させることができる。さらに、表面処理層の厚さを比較的容易に調製することができるので、印刷適性を維持しながら表面処理層の厚さを薄くするなど、希望する特徴を有する記録用紙を製造することができる。
【0036】
[塗工液]
表面処理層を構成する上記の各成分は、溶媒に溶解させて塗工液を調製することができる。
溶媒は、水であってもよく、メチルアルコール、エチルアルコール、イソプロピルアルコール、アセトン、メチルエチルケトン、酢酸エチル、トルエン、キシレンなどの有機溶媒であってもよく、水及び有機溶媒の混合溶媒であってもよい。溶媒は、水又は水を主成分とする溶媒であることが好ましい。これにより、工程管理が容易になり、安全上の観点からも好ましい。塗工液中の固形分は、塗工液全体に対して0.5質量%以上であることが好ましく、10質量%以上であることがより好ましく、また、塗工液中の固形分は、40質量%以下であることが好ましく、25質量%以下であることがより好ましい。
【0037】
[塗工]
塗工工程は、熱可塑性樹脂フィルムの成形ライン中においてフィルム成形と併せて実施されてもよく、熱可塑性樹脂フィルムの成形ラインとは別のライン中において、成形されたフィルムに対して実施されてもよい。支持体への塗工液の塗工は、ロールコーター、ブレードコーター、バーコーター、エアーナイフコーター、サイズプレスコーター、グラビアコーター、ダイコーター、リップコーター、スプレーコーターなどの塗工装置を用いて実施することができる。
【0038】
[塗工量]
表面処理層は、前記オレフィン系共重合体エマルジョン(A)および前記シランカップリング剤(B)を含む塗工液を、前記支持体上に塗工し、乾燥させて設ける。オフセット印刷インキ等の各種印刷インキとの密着性や、液体トナーを用いた電子写真記録印刷方式におけるトナーとの密着性が十分得られる傾向にあることから、片面当たりの乾燥後の表面処理層の固形分量は、0.1g/m2以上であり、0.25g/m2以上であることが好ましく、0.3g/m2以上であることがより好ましく、また、塗装工程の調整が比較的容易であり、印刷媒体の生産性を向上させたり、塗工ムラを防止したりすることができることから、片面当たりの乾燥後の表面処理層の固形分量は、5g/m2以下であり、3g/m2以下であることが好ましく、1.5g/m2以下であることがより好ましい。
【0039】
[表面処理層の厚さ]
表面処理層の厚さは、0.1μm以上であることが好ましく、0.25μm以上であることがより好ましく、0.3μm以上であることがさらに好ましい。また、表面処理層の厚さは、5μm以下であることが好ましく、3μm以下であることがより好ましく、1.5μm以下であることがさらに好ましい。表面処理層の厚さを0.1〜5μmにすれば、各種印刷への適性をはじめとする所期の性能を有していて、既存の印刷用紙に似た風合いの記録用紙が製造しやすくなる傾向がある。
【0040】
[2]支持体
記録用紙における支持体は、記録用紙に、印刷適性に重要なコシ等の機械強度や、耐水性、耐薬品性、必要に応じて不透明性等を付与するものである。本発明では特に記録用紙や印刷物に耐水性を付与する目的から、熱可塑性樹脂フィルムを支持体として用いる。
以下、記録用紙に用いられる熱可塑性樹脂フィルムの組成、構成、製造方法について詳細に説明する。
【0041】
[2−1]熱可塑性樹脂フィルムの組成
[熱可塑性樹脂]
前記熱可塑性樹脂フィルムに用いられる熱可塑性樹脂としては、記録用紙に適した薄膜状に成形でき、適切な機械強度やコシ、耐水性、耐薬品性等を具備しているものであれば特に限定されない。このような熱可塑性樹脂の具体例として、ポリプロピレン系樹脂、高密度ポリエチレン、中密度ポリエチレン、直鎖線状低密度ポリエチレン、エチレン−酢酸ビニル共重合体、エチレン−アクリル酸共重合体、エチレン−メタクリル酸共重合体、エチレン−メタクリル酸共重合体の金属塩(アイオノマー)、エチレン−アクリル酸アルキルエステル共重合体、エチレン−メタクリル酸アルキルエステル共重合体(アルキル基の炭素数は1〜8であることが好ましい)、ポリ−4−メチル−1−ペンテン、エチレン−環状オレフィン共重合体等のポリオレフィン系樹脂;ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリブチレンサクシネート、ポリ乳酸等のポリエステル樹脂;ナイロン−6、ナイロン−6,6、ナイロン−6,10、ナイロン−6,12等のポリアミド系樹脂;シンジオタクティックポリスチレン、アタクティックポリスチレン、アクリロニトリル−スチレン共重合体、アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン共重合体等のポリスチレン系樹脂;ポリ塩化ビニル樹脂、ポリカーボネート等の熱可塑性樹脂が挙げられる。これらの中でも上記特性や生産コスト等の観点から、プロピレン系樹脂、高密度ポリエチレン等のポリオレフィン系樹脂、およびポリエチレンテレフタレート等のポリエステル系樹脂等を用いることが好ましい。これらの樹脂は2種以上混合して用いることもできる。
【0042】
これらの熱可塑性樹脂の中でも、フィルムの成形性の観点からポリプロピレン系樹脂を用いることがより好ましい。
前記ポリプロピレン系樹脂の好適な例としては、プロピレンを単独重合させたアイソタクティックホモポリプロピレンまたはシンジオタクティックホモポリプロピレンを挙げることができる。またプロピレンを主体とし、エチレン、1−ブテン、1−ヘキセン、1−ヘプテン、1−オクテン、4−メチル−1−ペンテン等のα−オレフィン等を共重合させた様々な立体規則性を有するプロピレン系共重合体を挙げることができる。プロピレン系共重合体は2元系でも3元系以上の多元系でもよく、またランダム共重合体でもブロック共重合体でもよい。
【0043】
[無機微細粉末および有機フィラー]
本発明において熱可塑性樹脂フィルムは、熱可塑性樹脂以外の成分を含むものであってもよい。例えば熱可塑性樹脂フィルムは無機微細粉末および有機フィラーの少なくとも一方を含むものであってもよい。熱可塑性樹脂フィルムが無機微細粉末等を含みこれを延伸したものは、無機微細粉末等を核とした微細な空孔を熱可塑性樹脂フィルム内部に多数形成することができ、更なる白色化、不透明化、軽量化を与えることができる。その結果、印刷の視認性を高めることができ、記録用紙として好適なものとすることができる。
【0044】
前記熱可塑性樹脂フィルムに用いられる無機微細粉末としては、熱可塑性樹脂フィルムを白色化、不透明化させることができるものであれば、その種類は特に限定されない。無機微細粉末の具体例としては、重質炭酸カルシウム、軽質炭酸カルシウム、焼成クレイ、タルク、珪藻土、硫酸バリウム、酸化マグネシウム、酸化亜鉛、二酸化チタン、二酸化珪素などが挙げられる。またこれらを脂肪酸、高分子界面活性剤、帯電防止剤等で表面処理したものも挙げられる。なかでも重質炭酸カルシウム、軽質炭酸カルシウム、焼成クレイ、タルクが、空孔成形性が良く、安価なために好ましい。また、白色度、不透明度を向上させるため、二酸化チタン、酸化亜鉛、硫酸バリウムを用いることも好ましい。
【0045】
本発明において、前記熱可塑性樹脂フィルムは、無機微細粉末と同様の目的から有機フィラーを含むものであってもよい。
前記熱可塑性樹脂フィルムに用い得る有機フィラーもまた、その種類は特に限定されない。これらの有機フィラーは前記熱可塑性樹脂とは非相溶であり、融点ないしはガラス転移温度が前記熱可塑性樹脂よりも高く、前記熱可塑性樹脂の溶融混練条件下で微分散するものが好ましい。例えば、前記熱可塑性樹脂がポリオレフィン系樹脂である場合は、有機フィラーとしては、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリスチレン、ポリアミド、ポリカーボネート、ポリエチレンスルフィド、ポリフェニレンスルフィド、ポリイミド、ポリエーテルケトン、ポリエーテルエーテルケトン、ポリメチルメタクリレート、ポリ−4−メチル−1−ペンテン、環状オレフィンの単独重合体、環状オレフィンとエチレンとの共重合体等が挙げられる。またはメラミン樹脂のような熱硬化性樹脂の微粉末を用いてもよい。更に熱可塑性樹脂を架橋して不熔化することもまた好ましい。
【0046】
前記無機微細粉末および前記有機フィラーは、これらの中から1種を選択して単独で使用してもよいし、2種以上を組み合わせて使用してもよい。2種以上を組合せる場合は無機微細粉末と有機フィラーの組合せであってもよい。
【0047】
前記無機微細粉末の平均粒子径および前記有機フィラーの平均分散粒子径は、好ましくは0.01μm以上であり、より好ましくは0.1μm以上であり、更に好ましくは0.5μm以上である。熱可塑性樹脂との混合の容易さから、本発明に使用できる無機微細粉末の平均粒子径および有機フィラーの平均分散粒子径は、0.01μm以上であることが好ましい。また、延伸により内部に空孔を発生させて不透明性や印刷性を向上させる場合に、延伸時のシート切れや表面層の強度低下等のトラブルを発生させにくくする観点から、無機微細粉末の平均粒子径および有機フィラーの平均分散粒子径は、好ましくは30μm以下であり、より好ましくは20μm以下であり、更に好ましくは15μm以下である。
【0048】
本発明に使用できる無機微細粉末の平均粒子径は、一例として粒子計測装置、例えば、レーザー回折式粒子計測装置「マイクロトラック」(株式会社日機装製、商品名)により測定した累積で50%にあたる粒子径(累積50%粒径)により測定することができる。また、溶融混練と分散により熱可塑性樹脂中に分散した有機フィラーの粒子径は、前記熱可塑性樹脂フィルムの切断面の電子顕微鏡観察により粒子の少なくとも10個の最大径を測定しその平均値を粒子径として求めることも可能である。
【0049】
本発明において、前記熱可塑性樹脂フィルムが、無機微細粉末および有機フィラーの少なくとも一方を含む場合、無機微細粉末および有機フィラーの含有量が1%以上であれば、得られる熱可塑性樹脂フィルムへの不透明性の付与など、熱可塑性樹脂フィルムへ無機微細粉末や有機フィラーを配合する趣旨に沿いやすいことから、前記熱可塑性樹脂フィルムにおける無機微細粉末および有機フィラーの含有量は、好ましくは1質量%以上であり、より好ましくは3質量%以上であり、特に好ましくは5質量%以上である。
一方、無機微細粉末および有機フィラーの含有量が45質量%以下であれば、得られる熱可塑性樹脂フィルムに適度な強度を持たせて記録用紙が取扱いやすくなることから、前記熱可塑性樹脂フィルムにおける無機微細粉末および有機フィラーの含有量は、好ましくは45質量%以下であり、より好ましくは40質量%以下であり、特に好ましくは35質量%以下である。
【0050】
[任意成分]
本発明において、熱可塑性樹脂フィルムには、必要に応じて公知の添加剤を任意に添加することができる。該添加剤としては、酸化防止剤、光安定剤、紫外線吸収剤、無機微細粉末の分散剤、脂肪酸アミドなどのスリップ剤、アンチブロッキング剤、染料、顔料、可塑剤、結晶核剤、離型剤、難燃剤等として公知のものが挙げられる。特に、記録用紙を屋外で用いるポスター用紙のように耐久性が求められる場合には酸化防止剤や光安定剤等を添加するのが好ましい。
酸化防止剤を添加する場合、立体障害フェノール系酸化防止剤、リン系酸化防止剤、アミン系酸化防止剤などを0.001〜1質量%の範囲内で使用することが好ましい。光安定剤を使用する場合、立体障害アミン系光安定剤やベンゾトリアゾール系光安定剤、ベンゾフェノン系光安定剤のなどを0.001〜1質量%の範囲内で使用することが好ましい。これらは熱可塑性樹脂フィルムと後述する表面処理層との密着を阻害しない範囲で添加することが好ましい。
【0051】
2−2]支持体の構成
[熱可塑性樹脂フィルムの層構成]
記録用紙の支持体となりうる熱可塑性樹脂フィルムは、熱可塑性樹脂を製膜し、所望の熱可塑性樹脂フィルムとすることで得られる。また熱可塑性樹脂フィルムは、熱可塑性樹脂に無機微細粉末、有機フィラーおよび公知の添加剤等を任意に配合したものを製膜したものであってもよい。
熱可塑性樹脂フィルムは、単層構造であっても多層構造であってもよい。
本発明における支持体としての熱可塑性樹脂フィルムの好ましい様態は、多層構造であって、各層に特有の性質を付与したものである。例えば熱可塑性樹脂フィルムが表層(i)/基層/表層(ii)の3層構造とし、基層にて記録用紙に好適な剛度、不透明性、軽量性などを付与することができる。また、表層(i)と表層(ii)とは、同質の表面構造であってもよく、異質の表面構造であってもよい。例えば、一方の表層を後述する表面処理層を設けるに適した表面構造とし、他方の表層は粘着剤層を設けるに適した表面構造とすることで、ラベル用紙として好適な記録用紙を得ることができる。また、一方の表層と他方の表層の組成や厚さ等を適宜設計することで、前記支持体は言うに及ばず、記録用紙やラベル用紙の様態となってもカールを特定範囲内に制御することが可能となる。また、前記熱可塑性樹脂フィルムを多層構造とし、これに最表面層以外の層間にベタ印刷層を設けたり、最表面層以外の層内に顔料含有層を設けたりして、熱可塑性樹脂フィルムに隠蔽層を含有させることにより、ポスター用紙などに用いた場合に片面の印刷が背面から透けて見えることもなく、更に両面に設けた印刷の視認性を向上させることもできる。
【0052】
[厚さ]
熱可塑性樹脂フィルムの厚さは、大型のポスター等として屋外掲示する際にも十分な機械的強度が得られやすい傾向があることから、30μm以上であることが好ましく、50μm以上であることがより好ましい。また、記録用紙が重くなりすぎず取り扱いやすい傾向があることから、前記熱可塑性樹脂フィルムの厚さは、500μm以下であることが好ましく、300μm以下であることがより好ましい。
【0053】
[空孔率]
熱可塑性樹脂フィルムが内部に空孔を有する場合、熱可塑性樹脂フィルムに不透明性や軽量性を付与することができる。フィルム中に占める空孔の割合は空孔率で表すことができる。
熱可塑性樹脂フィルムの空孔率は、不透明性を得る観点から、10%以上であることが好ましく、12%以上であることがより好ましく、15%以上であることが更に好ましく、20%以上であることが特に好ましい。一方、熱可塑性樹脂フィルムの空孔率は、機械的強度を維持する観点から、45%以下であることが好ましく、44%以下であることがより好ましく、42%以下であることが更に好ましく、40%以下であることが特に好ましい。
【0054】
熱可塑性樹脂フィルムにおける空孔率の測定方法は、熱可塑性樹脂フィルムの断面を電子顕微鏡で観察し、観察領域において空孔が占める面積の比率より求めることができる。具体的には、樹脂フィルム試料より任意の一部を切り取り、エポキシ樹脂で包埋して固化させた後、ミクロトームを用いてフィルムの面方向に垂直な切断面を作製し、切断面が観察面となるように観察試料台に貼り付け、その観察面に金ないしは金−パラジウム等を蒸着し、電子顕微鏡にて観察しやすい任意の倍率(例えば、500倍〜3000倍の拡大倍率)における表面の空孔を観察し、さらに観察した領域を画像データとして取り込み、その画像を画像解析装置にて画像処理を行い、空孔部分の面積率を求めて、空孔率とすることができる。この場合、任意の10箇所以上の観察における測定値を平均して空孔率とすることが可能である。
【0055】
2−3]支持体の製造
[熱可塑性樹脂フィルムの成形]
熱可塑性樹脂フィルムは、公知の種々の方法を単独でもしくは組み合わせて製造することができ、その成形方法は特に限定されない。如何なる方法により製造された熱可塑性樹脂フィルムであっても、本発明の趣旨を逸脱するものでない限り本発明の範囲内に含まれる。
熱可塑性樹脂フィルムは、例えば、スクリュー型押出機に接続された単層または多層のTダイ、Iダイなどにより溶融樹脂をシート状に押し出すキャスト成形、カレンダー成形、圧延成形、インフレーション成形などを用いて、熱可塑性樹脂を含むフィルム層として成形することができる。熱可塑性樹脂と、有機溶媒またはオイルとの混合物をキャスト成形またはカレンダー成形した後、溶媒またはオイルを除去する方法を用いて、熱可塑性樹脂を含むフィルム層を成形してもよい。
【0056】
[熱可塑性樹脂フィルムの多層化]
熱可塑性樹脂フィルムは、2層構造、3層以上の多層構造のものであってもよい。熱可塑性樹脂フィルムを多層構造にする場合は公知の種々の方法が使用できるが、具体例としては、フィードブロック、マルチマニホールドを使用した多層ダイス方式と、複数のダイスを使用する押出しラミネーション方式等が挙げられる。又、多層ダイスと押出しラミネーションを組み合わせて使用することも可能である。
【0057】
[熱可塑性樹脂フィルムの延伸]
熱可塑性樹脂フィルムは、延伸されていないフィルムであってもよく、延伸されたフィルムであってもよい。フィルムを延伸する場合もまた従来公知の種々の方法を使用することができ、その方法は特に限定されない。
例えば前述の熱可塑性樹脂を、スクリュー型押出機を用いて溶融混練し、この押出機に接続されたTダイやIダイを用いて溶融樹脂を押し出してシート状に成形した後、該シートを延伸して樹脂フィルムを得る方法としては、ロール群の周速差を利用したロール間縦延伸法、テンターオーブンを利用した横延伸法、これらを組み合わせた逐次二軸延伸法などが使用できる。また、圧延法、テンターオーブンとパンタグラフの組み合わせによる同時二軸延伸法、テンターオーブンとリニアモーターの組み合わせによる同時二軸延伸法などが使用できる。更には、スクリュー型押出機に接続された円形ダイを使用して溶融樹脂をチューブ状に押し出し成形した後、これに空気を吹き込む同時二軸延伸(インフレーション成形)法などが使用できる。
また、熱可塑性樹脂フィルムが複数の層から構成される場合は、少なくともその一層が延伸されていることが好ましい。複数層を延伸する場合は、各層を積層する前に個別に延伸しておいてもよいし、積層した後にまとめて延伸してもよい。また、延伸した層を積層後に再び延伸しても差し支えない。
【0058】
熱可塑性樹脂フィルムの延伸は、同フィルムに含まれる熱可塑性樹脂に好適な温度範囲内で実施することが好ましい。熱可塑性樹脂フィルムの延伸温度は、同フィルムに用いられる熱可塑性樹脂が非結晶性樹脂の場合には、当該熱可塑性樹脂のガラス転移点温度以上の範囲であることが好ましい。また、同フィルムに用いられる熱可塑性樹脂が結晶性樹脂の場合には、当該熱可塑性樹脂の非結晶部分のガラス転移点以上であって、かつ当該熱可塑性樹脂の結晶部分の融点以下の範囲内であることが好ましい。具体的には、フィルム層の延伸温度は、フィルム層に用いられる熱可塑性樹脂の融点よりも2〜60℃低い温度が好ましい。
【0059】
熱可塑性樹脂フィルムを延伸する場合の延伸速度は、特に限定されるものではないが、熱可塑性樹脂フィルムの安定した延伸成形のために20〜350m/分の範囲内であることが好ましい。熱可塑性樹脂フィルムを延伸する場合の延伸倍率は特に限定されず、同フィルムに用いられる熱可塑性樹脂の特性などを考慮して適宜決定される。
例えば、熱可塑性樹脂としてプロピレンの単独重合体またはその共重合体を含むフィルムを一方向に延伸する場合、その延伸倍率は、通常約1.2倍以上、好ましくは2倍以上であり、また、その延伸倍率は、通常12倍以下、好ましくは10倍以下である。一方、同フィルムを二軸延伸する場合の延伸倍率は、面積延伸倍率で通常1.5倍以上、好ましくは10倍以上であり、また、その延伸倍率は、通常60倍以下、好ましくは50倍以下である。
また、熱可塑性樹脂としてポリエステル系樹脂を含むフィルムを一方向に延伸する場合、その延伸倍率は、通常1.2倍以上、好ましくは2倍以上であり、また、その延伸倍率は、通常10倍以下、好ましくは5倍以下である。一方、同フィルムを二軸延伸する場合の延伸倍率は、面積延伸倍率で通常1.5倍以上、好ましくは4倍以上であり、また、その延伸倍率は、通常20倍以下、好ましくは12倍以下である。
上記延伸倍率の範囲内であれば所望の空孔が得られて不透明性が向上しやすく、熱可塑性樹脂フィルムの破断が起きにくく安定した延伸成形ができる傾向がある。
【0060】
[熱可塑性樹脂フィルムの表面処理]
熱可塑性樹脂フィルムは、後述する表面処理層を設けて記録用紙とする前に、その表面に表面酸化処理を施すことが好ましい。表面酸化処理を施すことによって、熱可塑性樹脂フィルムと表面処理層との密着性がより向上する。
前記表面酸化処理としては、コロナ放電処理、フレーム処理、プラズマ処理、グロー放電処理若しくはオゾン処理などより選ばれた処理方法が挙げられ、またはこれらの組み合わせを挙げることができる。
表面酸化処理を実施する場合、コロナ放電処理またはフレーム処理を実施することが好ましい。コロナ放電処理を実施する場合、その処理量は、好ましくは600J/m2(10W・分/m2)以上であり、より好ましくは1,200J/m2(20W・分/m2)以上であり、また、その処理量は、好ましくは12, 000J/m2(200W・分/m2)以下であり、より好ましくは10,800J/m2(180W・分/m2)以下である。フレーム処理を実施する場合、その処理量は、好ましくは8,000J/m2以上であり、より好ましくは20,000J/m2以上であり、また、その処理量は、好ましくは200,000J/m2以下であり、より好ましくは100,000J/m2以下である。
【0061】
[3]記録用紙の用途
本発明の記録用紙は、オフセット印刷、レタープレス印刷、グラビア印刷、フレキソ印刷、スクリーン印刷を含む種々の方法の印刷が可能であり、得られた印刷物のインキの密着性に優れ、かつ耐水性、耐候性、及び耐久性に優れることから、屋内外で用いるポスター、屋内外で用いるステッカー、冷凍食品用容器のラベルや工業製品のネーマー(使用方法、注意書きを記したラベル)等の用紙として好適である。
本発明の記録用紙は特に、液体トナーを用いた電子写真印刷方式において得られた印刷物のトナーの密着性にも優れており、小ロット印刷や可変情報印刷が行われる用途にも好適である。また本発明の記録用紙は印刷物の耐水性や、印刷物をラミネート加工したものの耐水性が優れていることから、屋内外で用いるメニュー、フォトブック、ポスター、ステッカー等の用紙として好適である。
【実施例】
【0062】
以下に製造例、実施例及び比較例を挙げて本発明の特徴をさらに具体的に説明する。
以下の製造例、実施例に示す材料、使用量、割合、処理内容、処理手順等は、本発明の趣旨を逸脱しない限り適宜変更することができる。したがって、本発明の範囲は以下に示す具体例により限定的に解釈されるべきものではない。
なお、以下の実施例19〜25および32は、参考例19〜25および32と読み替えるものとする。
【0063】
[支持体の製造]
(支持体の製造例1)
プロピレン単独重合体(商品名:ノバテックPP MA−8、融点:164℃、日本ポリプロ(株)製)67質量%、高密度ポリエチレン(商品名:ノバテックHD HJ580、融点:134℃、日本ポリエチレン(株)製)10質量%、および平均粒径1.5μmの炭酸カルシウム粉末23質量%よりなる樹脂組成物(a)を、押出機を用いて260℃で溶融混練し、ダイよりフィルム状に押し出し、50℃までフィルムを冷却した。このフィルムを140℃に再度加熱したのち、ロール群の周速差を利用して縦方向に5倍延伸して、基層となる一軸延伸フィルムを得た。
一方、プロピレン単独重合体(商品名:ノバテックPP MA−3、日本ポリプロ(株)製)51.5質量%、高密度ポリエチレン(商品名:ノバテックHD HJ580、日本ポリエチレン(株)製)3.5質量%、平均粒径1.5μmの炭酸カルシウム粉末42質量%、および平均粒径0.8μmの酸化チタン粉末3質量%よりなる樹脂組成物(b)を別の2台の押出機を用いて250℃で溶融混練し、これを上記一軸延伸フィルムの両面にそれぞれダイよりフィルム状に押し出し、積層して、表層/基層/表層の三層構造の積層体(b/a/b)を得た。
この三層構造の積層体をテンターオーブンに導き、155℃に加熱した後、テンターを用いて横方向に8倍延伸し、次いで164℃で熱セット(アニーリング)して、さらに55℃迄冷却し耳部をスリットして、厚さ80μmの熱可塑性樹脂フィルムを得てこれを支持体とした。同支持体の空孔率は34%であった。
【0064】
(支持体の製造例2)
支持体の製造例1において、熱可塑性樹脂フィルムの両面に表層を積層せずに、樹脂組成物(a)の基層のみの単層構造として、支持体1と同様に縦方向に5倍、横方向に8倍延伸して得た2軸延伸フィルムを、同様に164℃で熱セットし、さらに55℃迄冷却し耳部をスリットして、厚さ80μmの熱可塑性樹脂フィルムを得てこれを支持体とした。同支持体の空孔率は40%であった。
【0065】
(支持体の製造例3)
支持体の製造例2において、樹脂組成物(a)を、プロピレン単独重合体(商品名:ノバテックPP MA−8、融点164℃、日本ポリプロ(株)製)87質量%、高密度ポリエチレン(商品名:ノバテックHD HJ580、融点134℃、日本ポリエチレン(株)製)13質量%よりなる樹脂組成物に変更した以外は、同様に製造して厚さ80μmの熱可塑性樹脂フィルムを得て、これを支持体とした。同支持体の空孔率は0%であった。
【0066】
(支持体の製造例4)
肉厚100μmのポリエチレンテレフタレートフィルム(商品名:ルミラーS10 #100、東レ(株)製)を支持体とした。同支持体の空孔率は0%であった。
【0067】
[表面処理層の製造]
(オレフィン系共重合体エマルジョン(A)の製造例1)
還流冷却器、窒素導入管、攪拌機、温度計、滴下ロートおよび加熱用のジャケットを装備した内容積が150Lの反応器に、イソプロパノール(商品名:トクソーIPA、(株)トクヤマ製)40kgを仕込み、続いて攪拌しながら、N,N−ジメチルアミノエチルメタクリレート(商品名:メタクリレートDMA、三洋化成工業(株)製)12.6kg、ブチルメタクリレート(商品名:アクリエステルB、三菱レイヨン(株)製)12.6kg、及び高級アルコールメタクリル酸エステル(商品名:アクリエステルSL、ラウリルメタクリレートとトリデシルメタクリレートの混合物、三菱レイヨン(株)製)2.8kgを仕込んだ。続いて系内の窒素置換を行い、内温を80℃まで上昇させた後、系内に重合開始剤として2,2'−アゾビスイソブチロニトリル(商品名:V−60(AIBN)、和光純薬工業(株)製)0.3kgを添加して重合を開始した。
次いで、反応温度を80℃に保ち4時間重合を行い、得られた共重合体を、氷酢酸(和光純薬工業(株)製)4.3kgを用いて中和した。
次いで、反応器からイソプロパノールを留去しながらイオン交換水48.3kgを添加して系内を置換し、メタクリル系共重合体からなるカチオン性高分子(重量平均分子量40,000)の粘調な水溶液(固形分濃度35質量%)を得て、これをオレフィン系共重合体エマルジョンの分散剤として用いた。
【0068】
続いて、二軸押出機(装置名:TEX30HSS、(株)日本製鋼所製)を使用して、原料樹脂の溶融混練と乳化を以下の手順で行い、オレフィン系共重合体エマルジョン(A)を製造した。
具体的には、オレフィン系共重合体としてペレット状のエチレン−メタクリル酸−アクリル酸エステル共重合体(商品名:ニュクレルN035C、三井・デュポン・ポリケミカル(株)製)を用い、これをホッパーから押出機に供給し、スクリュー回転数230rpm、シリンダー温度160℃〜250℃の条件で溶融、混練した。
次いで、上記例で製造した分散剤を、押出機のシリンダー中間部の注入口から、オレフィン系共重合体100質量部に対して5質量部(固形分換算)となるように連続的に供給してオレフィン系共重合体の乳化・分散処理を行い、押出機出口から押出して、乳白色の水性分散液を得た。
この水性分散液にイオン交換水を加えて固形分が45質量%となるように調整し、オレフィン系共重合体エマルジョン(A1)を得た。このオレフィン系共重合体エマルジョン(A1)の体積平均粒径をレーザー回折型粒度分布測定装置(機器名:SALD−2200、(株)島津製作所社製)で測定したところ、1.0μmであった。
【0069】
(オレフィン系共重合体エマルジョン(A)の製造例2)
オレフィン系共重合体エマルジョン(A)の製造例1において、押出機のスクリュー回転数を300rpmに変更した以外は、同製造例と同様にしてオレフィン系共重合体の乳化・分散処理を行い、オレフィン系共重合体エマルジョン(A2)を得た。このオレフィン系共重合体エマルジョン(A2)の体積平均粒径は0.7μmであった。
【0070】
(オレフィン系共重合体エマルジョン(A)の製造例3)
オレフィン系共重合体エマルジョン(A)の製造例1において、押出機のスクリュー回転数を270rpmに変更し、分散剤の供給量をオレフィン系共重合体100質量部に対して20質量部(固形分換算)となるように変更した以外は、同製造例と同様にしてオレフィン系共重合体の乳化・分散処理を行い、オレフィン系共重合体エマルジョン(A3)を得た。このオレフィン系共重合体エマルジョン(A3)の体積平均粒径は0.5μmであった。
【0071】
(オレフィン系共重合体エマルジョン(A)の製造例4)
市販のエチレン−酢酸ビニル共重合体樹脂水性分散液(商品名:アクアテックスEC−1200、平均粒子径:1.4μm、中央理化工業(株)製)を得て、これをオレフィン系共重合体エマルジョン(A4)として用いた。
【0072】
(オレフィン系共重合体エマルジョン(A)の製造例5)
市販のエチレン−酢酸ビニル共重合体樹脂水性分散液(商品名:アクアテックスMC−3800、平均粒子径:0.9μm、中央理化工業(株)製)を得て、これをオレフィン系共重合体エマルジョン(A5)として用いた。
【0073】
(アクリル系共重合体エマルジョンの製造例)
市販のアクリル系樹脂水性分散液(商品名:ボンコートVO−8、DIC(株)製)を得て、これをアクリル系共重合体エマルジョン(A6)として用いた。
【0074】
(ウレタン系共重合体エマルジョンの製造例)
市販のウレタン系樹脂水性分散液(商品名:ハイドランCP−7610、DIC(株)製)を得て、これをウレタン系共重合体エマルジョン(A7)として用いた。
【0075】
(シランカップリング剤(B)の製造例)
市販のシランカップリング剤である3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン(商品名:KBM−403)、3−グリシドキシプロピルメチルジメトキシシラン(商品名:KBM−402)、3−グリシドキシプロピルトリエトキシシラン(商品名:KBE−403)、3−グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン(商品名:KBE−402)、3−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン(商品名:KBM−503)、3−アクリロキシプロピルトリメトキシシラン(商品名:KBM−5103)、3−アミノプロピルトリメトキシシラン(商品名:KBM−903)、3−ウレイドプロピルトリエトキシシラン(商品名:KBE−585)、3−メルカプトプロピルトリメトキシシラン(商品名:KBM−803)、3−イソシアネートプロピルトリエトキシシラン(商品名:KBE−9007)、ビニルトリメトキシシラン(商品名:KBM−1003)(いずれも信越化学工業(株)社製)を得て、これをシランカップリング剤(B1)〜(B11)として用いた。
【0076】
(エチレンイミン系重合体(C)の製造例1)
撹拌装置、還流冷却器、温度計、および窒素ガス導入管を取り付けた四つ口フラスコ内に、ポリエチレンイミン水溶液(商品名:エポミンP−1000、重合度:1600、(株)日本触媒社製)の100質量部、塩化n−ブチル10質量部、およびプロピレングリコールモノメチルエーテル10質量部を添加し、系内を窒素置換後、窒素気流下で80℃の温度で25時間変性反応を行い、固形分20質量%のブチル変性ポリエチレンイミン水溶液を得て、これをエチレンイミン系重合体(C1)として用いた。
【0077】
(エチレンイミン系重合体(C)の製造例2)
撹拌装置、還流冷却器、温度計、および窒素ガス導入管を取り付けた四つ口フラスコ内に、ポリエチレンイミン水溶液(商品名:エポミンP−1000、重合度:1600、(株)日本触媒社製)の100質量部、グリシドール10質量部、およびプロピレングリコールモノメチルエーテル10質量部を添加し、系内を窒素置換後、窒素気流下で80℃の温度で16時間変性反応を行い、固形分20質量%のグリシドール変性ポリエチレンイミン水溶液を得て、これをエチレンイミン系重合体(C2)として用いた。
【0078】
(エチレンイミン系重合体(C)の製造例3)
市販の変性ポリエチレンイミン水溶液(商品名:ポリミンSK、BASFジャパン(株)製)を得て、これをエチレンイミン系重合体(C3)として用いた。
【0079】
(ポリマー型帯電防止剤(D)の製造例1)
撹拌装置、還流冷却器、温度計、および窒素ガス導入管を取り付けた四つ口フラスコ内に、ジメチルアミノエチルメタクリレート35質量部、エチルメタクリレート20質量部、シクロヘキシルメタクリレート20質量部、ステアリルメタクリレート25質量部、エチルアルコール150質量部と、アゾビスイソブチロニトリル1質量部を添加し、系内を窒素置換後、窒素気流下で80℃の温度で6時間重合反応を行った。
次いで、3−クロロ−2−ヒドロキシプロピルアンモニウムクロリドの60質量%エチルアルコール溶液70質量部を加え、更に80℃の温度で15時間反応させた後、水を滴下しながらエチルアルコールを留去し、最終的に固形分30%の第四級アンモニウム塩含有アクリル系樹脂水溶液を得て、これをポリマー型帯電防止剤(D1)として用いた。
【0080】
(ポリマー型帯電防止剤(D)の製造例2)
撹拌装置、還流冷却器、温度計、および窒素ガス導入管を取り付けた四つ口フラスコ内に、ジメチルアミノエチルメタクリレート40質量部、メチルメタクリレート50質量部、2−ヒドロキシエチルメタアクリレート10質量部、イソプロピルアルコール100質量部と、アゾビスイソブチロニトリル1質量部を添加し、系内を窒素置換後、窒素気流下で80℃の温度で3時間重合反応を行った。
次いで、モノクロル酢酸ナトリウム18.5質量部を水20質量部に溶解した溶液を加え、更に80℃の温度で3時間反応させた後、水を滴下しながらイソプロピルアルコールを留去し、最終的に固形分20%の第四級アンモニウム塩含有アクリル系樹脂水溶液を得て、これをポリマー型帯電防止剤(D2)として用いた。
【0081】
[実施例1]
上記の製造例で得た平均粒子径1.0μmのオレフィン系共重合体エマルジョン(A1)固形分100質量部に対し、3−グリシドキシプロピルトリメトキシシランの固形分5質量部を含む水溶液を調製し、これを塗工液とした。
支持体の製造例1で得た支持体の両面に、30W・分/m2の強度でコロナ放電処理を施し、次いで同支持体の両面に、片面当たり乾燥後の固形分が0.36g/m2となるように上記塗布剤をロールコーターにて塗工し、60℃のオーブンを介して乾燥させて表面処理層を設けて、実施例1の記録用紙を得た。
【0082】
[実施例2〜6、10、11、14〜28、比較例1〜3、5〜8]
実施例1において、塗工液を表1記載の原料を用いて表2記載の配合割合のものに変更して表面処理層を設けた以外は、実施例1と同様にして実施例2〜6、10、11、14〜28、比較例1〜3、および5〜8の記録用紙を得た。
【0083】
[実施例7〜9]
実施例3において、表面処理層の片面当たり乾燥後の固形分を表2記載の量に変更した以外は、実施例3と同様にして実施例7〜9の記録用紙を得た。
【0084】
[実施例12、13、比較例4]
実施例11において、表面処理層の片面当たり乾燥後の固形分を表2記載の量に変更した以外は、実施例11と同様にして実施例12、13、および比較例4の記録用紙を得た。
【0085】
[実施例29〜31]
実施例3において、支持体を表2に記載のものに変更した以外は、実施例3と同様にして実施例29〜31の記録用紙を得た。
【0086】
[実施例32]
実施例21において、支持体を表2に記載のものに変更した以外は、実施例21と同様にして実施例32の記録用紙を得た。
【0087】
【表1】
【0088】
【表2】
【0089】
[評価例]
[液体トナーを用いた電子写真印刷への適性]
液体トナーを用いた電子写真印刷機(機器名:Indigo5600、日本ヒューレット・パッカード(株)社製)を用いて、上記実施例1〜32及び比較例1〜8で得られた記録用紙の印刷適性について、以下の評価を行った。
【0090】
(トナー転移性)
上記印刷機を用いて、各実施例、比較例の記録用紙の片面に濃度100%の墨ベタ及び濃度30%の墨の網点絵柄を印刷した。印刷された記録用紙から印画の状態をルーペで拡大して目視にて確認し、トナー転移性を評価した。トナー転移性の評価基準は下記の通りであり、評価の結果を表3にまとめて示す。
○:良好(鮮明な画像が得られる)
×:不可(画像や文字にかすれが生じる)
【0091】
(トナーの耐水密着性)
上記の手順で印刷された記録用紙を、23℃の水中に24時間漬け込んだ。水中から取り出した記録用紙の表面の水分をウエスで軽く拭き取り、5分後に記録用紙の印刷面にセロファンテープ(商品名:セロテープ(登録商標)CT−18、ニチバン株式会社社製)を貼り付けて充分密着させた後、セロファンテープを手でゆっくり剥離した。テープ剥離後の印刷面の状態を目視観察することで、トナーの耐水密着性を評価した。トナー密着性の評価基準は下記の通りであり、評価の結果を表3にまとめて示す。
A:良好(トナーの剥離は認められない)
B:良好(トナーが若干剥離する)
C:可 (セロファンテープ剥離部分の3割近くのトナーの剥離が認められるが、実用レベル)
D:不可(セロファンテープ剥離部分の半分程度でトナーが剥離する)
E:不可(セロファンテープ剥離部分のほぼ全てのトナーが剥離する)
【0092】
(ラミネーション時のトナーの耐水密着性)
上記の手順で印刷された記録用紙の印刷面上に、コールドラミネーションの手法を用いてPETフィルムをラミネーション加工した。ここで用いたPETフィルムは片面に粘着剤が形成されているものであり(商品名プロシールド コールドUV−HG50、ジェットグラフ株式会社製)、ラミネーション加工は23℃にてPETフィルムの粘着面を記録用紙の印刷面上に重ね合わせて圧着することにより行った。次いでこれらを23℃の水中に24時間漬け込んだ。水中から取り出した記録用紙の表面の水分をウエスで軽く拭き取り、5分後にPETフィルムを手でゆっくり剥離した。ラミネーションフィルム剥離後の印刷面の状態を目視観察することで、ラミネーション時のトナーの耐水密着性を評価した。ラミネーション時のトナー密着性の評価基準は下記の通りであり、評価の結果を表3にまとめて示す。
A:良好(トナーの剥離は認められない)
B:良好(僅かな部分のトナーがラミフィルム側に取られる)
C:可 (ラミネーションフィルム剥離部分の3割近くのトナーがラミフィルム側に取られるが、実用レベル)
D:不可(ラミネーションフィルム剥離部分の半分程度でトナーがラミフィルム側に取られる)
E:不可(ラミネーションフィルム剥離部分のほぼ全てのトナーがラミフィルム側に取られる)
【0093】
(耐水擦過性)
上記の手順で印刷された記録用紙をラベルの形状に打抜き、該印刷物を学振形染色摩擦堅ろう度試験機(機器名:摩擦試験機II形、スガ試験器社製)に取り付け、白綿布を水に湿らせ、荷重500gで100回摩擦試験し、トナーの剥離の有無を目視で評価して以下の基準で判定した。判定の結果を表3にまとめて示す。
A:良好(トナーの剥離は認められない)
B:良好(僅かな部分のトナーが剥離した)
C:可 (摩擦試験部分の3割近くのトナーの剥離が認められるが、実用レベル)
D:不可(摩擦試験部分の半分程度でトナーが剥離する)
E:不可(摩擦試験部分のほぼ全てのトナーが剥離する)
【0094】
[紫外線硬化型印刷インキおよび油性印刷インキへの適性]
印刷試験機(機器名:RI- III型印刷適性試験機、(株)明製作所社製)を用いて、紫外線硬化型フレキソインキ(商品名:UVフレキソCF藍、(株)T&K TOKA社製)または油性オフセットインキ(商品名:ベストキュアー161藍、(株)T&K TOKA社製)を、上記実施例1〜32及び比較例1〜8で得られた記録用紙の片面にインキ量が1.5g/m2となるように100%ベタを印刷した。 次いで、紫外線硬化型フレキソインキについては印刷面に紫外線を照射して、インキを乾燥固化させた。紫外線の照射は、紫外線ランプ(メタルハライド灯、出力80W/cm、アイグラフィックス株式会社社製)1灯を用いて実施した。紫外線ランプと印刷用紙との距離は10cmであった。印刷用紙は、紫外線ランプの下を10m/分の速度で1回通過させた。油性インキについては印刷された記録用紙を23℃の温度および50%の相対湿度の室内に3日間吊るして、インキを乾燥固化させた。
印刷された記録用紙から、これら印刷物のインキの転移性、インキの耐水密着性、ラミネーション時のインキの耐水密着性、耐水擦過性のそれぞれの印刷適性について、上記と同様の手法で評価を行った。評価の結果を表3にまとめて示す。
【0095】
【表3】
【0096】
表3から明らかなように、実施例1〜32の記録用紙に液体トナーを用いた電子写真印刷を行った印刷物は、トナー転移性、トナーの耐水密着性、ラミネーション時のトナーの耐水密着性、および耐水擦過性の何れも良好または可であった。よって、実施例1〜32の記録用紙は、同印刷手法に対し液体トナーとの転移性、密着性に優れており、これらの耐水性が良好であることがわかる。
同様に実施例1〜32の記録用紙は、従来からの印刷手法に用いられている紫外線硬化型印刷インキおよび油性印刷インキに対しても転移性、密着性に優れており、これらの耐水性が良好であることがわかる。
一方、比較例1〜8の記録用紙に液体トナーを用いた電子写真印刷を行った印刷物は、トナー転移性、トナーの耐水密着性、ラミネーション時のトナーの耐水密着性、および耐水擦過性の何れかが劣っていた。よって、実施例1〜32の記録用紙は比較例1〜8の記録用紙よりも優れていることがわかる。
【0097】
さらに、比較例3にて、シランカップリング剤の添加量を15質量部以上に増やした記録用紙も製造して試験を行った。その結果、シランカップリング剤の添加量を15質量部以上にした記録用紙よりも、同添加量が14質量部以下の実施例2〜5の記録用紙の方が、液体トナー、紫外線硬化型印刷インキおよび油性印刷インキのそれぞれについて、転移性とラミネーション時の耐水密着性がより優れていることが確認された。
また、比較例4にて、オレフィン系エマルジョン(A1)を用いた表面処理層の固形分量を0.1g/m2未満にした記録用紙も製造して試験を行った。その結果、表面処理層の固形分量を0.1g/m2未満にした記録用紙よりも実施例11〜13の記録用紙の方が、液体トナーを用いた印刷物の耐水密着性とラミネーション時の耐水密着性がより優れていることが確認された。