特許第6204412号(P6204412)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6204412
(24)【登録日】2017年9月8日
(45)【発行日】2017年9月27日
(54)【発明の名称】ワイヤーハーネス
(51)【国際特許分類】
   H01B 7/00 20060101AFI20170914BHJP
   H01B 7/18 20060101ALI20170914BHJP
   B60R 16/02 20060101ALI20170914BHJP
【FI】
   H01B7/00 301
   H01B7/18 D
   B60R16/02 620Z
【請求項の数】5
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2015-119640(P2015-119640)
(22)【出願日】2015年6月12日
(65)【公開番号】特開2017-4861(P2017-4861A)
(43)【公開日】2017年1月5日
【審査請求日】2016年9月16日
(73)【特許権者】
【識別番号】000006895
【氏名又は名称】矢崎総業株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001771
【氏名又は名称】特許業務法人虎ノ門知的財産事務所
(72)【発明者】
【氏名】山口 康弘
(72)【発明者】
【氏名】大久保 公貴
(72)【発明者】
【氏名】加藤 元
(72)【発明者】
【氏名】相原 浩
【審査官】 北嶋 賢二
(56)【参考文献】
【文献】 特開2006−269201(JP,A)
【文献】 実開昭59−109019(JP,U)
【文献】 特開2013−093144(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01B 7/00
B60R 16/02
H01B 7/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
それぞれが導体部と前記導体部の外周を被覆する絶縁部とを有する3本以上の電線を同一方向に纏めた電線部と、
シールド部材と、
を備え、
前記シールド部材は、金属細線を網目状に編み込んで成る編組線であり、前記電線部の外周側を被覆する筒状であり、
前記電線部の前記3本以上の電線と前記シールド部材とは、前記電線部の中心軸線に沿った軸方向から視たワイヤーハーネスの断面において、前記中心軸線周りの周方向に沿って隣接する前記電線部の2本の電線間にて、前記2本の電線の前記導体部同士を結ぶ外周側接線より前記中心軸線側に前記シールド部材が進入するように配置される
ことを特徴とするワイヤーハーネス。
【請求項2】
前記シールド部材は、接地されている、
請求項に記載のワイヤーハーネス。
【請求項3】
前記電線部の前記電線は、前記断面において円形状であり、前記周方向に沿って均等に配置され、
前記シールド部材は、前記断面において、前記電線部の外周側を一括して包囲し、かつ、前記周方向に隣接する前記電線部の2本の電線の間にて、前記2本の電線の重心点同士を結んだ線分より前記中心軸線側に進入するよう形成される、
請求項1または2に記載のワイヤーハーネス。
【請求項4】
前記シールド部材は、前記断面において、前記2本の電線の間から前記中心軸線まで進入し、前記電線部の前記電線のそれぞれの外周側を包囲するよう形成される、
請求項に記載のワイヤーハーネス。
【請求項5】
前記電線部の前記電線は、前記断面において矩形状であり、前記矩形状の長辺が前記中心軸線から外方向に延在するよう配置されると共に、前記周方向に沿って均等に配置され、
前記シールド部材は、前記断面において、前記電線部の外周側を一括して包囲し、かつ、前記電線の前記矩形状の2つの短辺のうち前記外方向側の短辺と、前記矩形状の2つの長辺とに沿って形成される、
請求項1または2に記載のワイヤーハーネス。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ワイヤーハーネスに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ハイブリッド自動車や電気自動車等の車両では、インバータとモータとの間を三相の電線で繋ぎ、インバータからモータへの電力供給が行われる。この三相電線において、1本の編組により外周部を纏めて覆うことでノイズを抑制させる構造、所謂一括シールド構造が知られている(例えば特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2012−249506号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、インバータからモータへの電力供給において、インバータからの出力には立ち上がりの急峻な電圧が含まれる。このような立ち上がりの急峻な電圧は、インピーダンス不整合によってインバータとモータとの間で何度も反射を繰り返す。この結果、モータに過大なサージ電圧がかかる場合がある。特許文献1などに記載されている従来の一括シールド構造では、サージ電圧を抑制させる点でさらなる改善の余地があった。
【0005】
本発明は、上記に鑑みてなされたものであって、サージ電圧を好適に抑制できるワイヤーハーネスを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記の課題を解決するため、本発明に係るワイヤーハーネスは、それぞれが導体部と前記導体部の外周を被覆する絶縁部とを有する3本以上の電線を同一方向に纏めた電線部と、シールド部材と、を備え、前記シールド部材は、金属細線を網目状に編み込んで成る編組線であり、前記電線部の外周側を被覆する筒状であり、前記電線部の前記3本以上の電線と前記シールド部材とは、前記電線部の中心軸線に沿った軸方向から視たワイヤーハーネスの断面において、前記中心軸線周りの周方向に沿って隣接する前記電線部の2本の電線間にて、前記2本の電線の前記導体部同士を結ぶ外周側接線より前記中心軸線側に前記シールド部材が進入するように配置されることを特徴とする。
【0008】
また、上記のワイヤーハーネスにおいて、前記シールド部材は、接地されていることが好ましい。
【0009】
また、上記のワイヤーハーネスにおいて、前記電線部の前記電線は、前記断面において円形状であり、前記周方向に沿って均等に配置され、前記シールド部材は、前記断面において、前記電線部の外周側を一括して包囲し、かつ、前記周方向に隣接する前記電線部の2本の電線の間にて、前記2本の電線の重心点同士を結んだ線分より前記中心軸線側に進入するよう形成されることが好ましい。
【0010】
また、上記のワイヤーハーネスにおいて、前記シールド部材は、前記断面において、前記2本の電線の間から前記中心軸線まで進入し、前記電線部の前記電線のそれぞれの外周側を包囲するよう形成されることが好ましい。
【0011】
また、上記のワイヤーハーネスにおいて、前記電線部の前記電線は、前記断面において矩形状であり、前記矩形状の長辺が前記中心軸線から外方向に延在するよう配置されると共に、前記周方向に沿って均等に配置され、前記シールド部材は、前記断面において、前記電線部の外周側を一括して包囲し、かつ、前記電線の前記矩形状の2つの短辺のうち前記外方向側の短辺と、前記矩形状の2つの長辺とに沿って形成されることが好ましい。
【発明の効果】
【0012】
本発明に係るワイヤーハーネスは、電線部の電線のうち周方向に隣接する2本の電線の間にはシールド部材を介在させることで、これらの電線同士が相互に直面する部分の少なくとも一部をシールド部材により遮蔽できるので、電線部の放射ノイズを充分に低減することが可能となり、この結果、サージ電圧を好適に抑制できるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1図1は、本発明の第一実施形態に係るワイヤーハーネスによりモータとインバータとを接続する構成を示す模式図である。
図2図2は、第一実施形態に係るワイヤーハーネスの斜視図である。
図3図3は、図2中のIII−III断面図であり、第一実施形態に係るワイヤーハーネスの軸方向断面図である。
図4図4は、第二実施形態に係るワイヤーハーネスの軸方向断面図である。
図5図5は、従来のワイヤーハーネスの一括シールド構造を説明するためのワイヤーハーネスの軸方向断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下に、本発明に係るワイヤーハーネスの実施形態を図面に基づいて説明する。なお、以下の図面において、同一または相当する部分には同一の参照番号を付し、その説明は繰り返さない。
【0015】
[第一実施形態]
図1〜3を参照して第一実施形態について説明する。図1は、本発明の第一実施形態に係るワイヤーハーネスによりモータとインバータとを接続する構成を示す模式図である。図2は、第一実施形態に係るワイヤーハーネスの斜視図である。図3は、図2中のIII−III断面図であり、第一実施形態に係るワイヤーハーネスの軸方向断面図である。
【0016】
図1に示すインバータ20(図1中の「INV」)及びモータ30(図1中の「MG1」及び「MG2」)は、ハイブリッド自動車や電気自動車等の車両に搭載されている。インバータ20は、車両に搭載された電源(図示せず)からの直流出力を三相交流出力に変換する装置である。インバータ20は、PWM波形を出力するものでもよいが、正弦波形を出力するものでもよい。モータ30は、インバータ20から出力された三相交流出力により駆動する装置であり、例えばY字結線の三相モータである。
【0017】
本実施形態に係るワイヤーハーネス1は、上記の三相交流型のインバータ20とモータ30とを接続する電力供給線として用いられる。ワイヤーハーネス1は、三相交流電力を3本の電線3a,3b,3c(図2,3参照)を用いて供給する三相3線方式の電線群から成る三相電線である。
【0018】
図2,3に示すように、ワイヤーハーネス1は、3本の電線3a,3b,3cを同一方向に纏めた電線部2の両端末に、インバータ20及びモータ30とそれぞれ連結するためのインバータ側コネクタ8及びモータ側コネクタ9が接続されると共に、電線部2の外周側を筒状の編組線6(シールド部材)及びコルゲートチューブ7により被覆されて構成されている。
【0019】
電線部2の3本の電線3a,3b,3cは、所定の中心軸線X1に沿って延在し、かつ、中心軸線X1周りの周方向に沿って均等に配置される。3本の電線3a,3b,3cのそれぞれは、ノンシールドタイプの電線であり、断面円形状の導体部4a,4b,4cと、この導体部4a,4b,4cの外周を被覆して形成される絶縁部5a,5b,5cと、を有する。つまり、電線3a,3b,3cの形状は、図3に示す中心軸線X1に沿った軸方向から視たワイヤーハーネス1の断面(軸方向断面)において略円形状である。電線3a,3b,3cの導体部4a,4b,4cは、例えば、金属製(アルミニウム合金や銅合金など)の複数の素線をらせん状に撚り合わせた撚り線、または棒状の単芯線などから成る。電線3a,3b,3cの絶縁部5a,5b,5cは、例えば合成樹脂により形成される。
【0020】
電線部2の各電線3a,3b,3cは、図3に示す軸方向断面において、それぞれの中心軸(重心点)Ya,Yb,Ycが略正三角形をなす配置、所謂、俵積み状の配置となっている。また、3本の電線3a,3b,3cは、中心軸線X1周りの周方向に隣接する2本の電線同士が接触せず間隙をとるよう配置されている。電線部2は、各電線3a,3b,3cの導体部4a,4b,4c及び絶縁部5a,5b,5cが共に可塑性を有しているので、曲げ変形可能となっている。
【0021】
編組線6は、金属製(例えば銅金属製)の素線を網目状に編み込んで形成され、全体として筒状をなしている。編組線6は、電線部2の外周側を一括して包囲することでノイズを抑制するシールド部材として機能するものである。編組線6は、素線の有する可塑性により伸縮可能となっており、電線部2と共に自在に曲げ変形することができる。また、編組線6は接地されている。
【0022】
コルゲートチューブ7は、合成樹脂製であって、例えば蛇腹状に形成される。これにより、自在に弾性変形可能であると共に、弾性復元力によって円筒形状を良好に保持可能とされている。コルゲートチューブ7は、編組線6に被覆された電線部2を円筒形状の内部に収容できるように形成されており、これにより、電線部2の外周側を被覆して電線を保護できるよう構成されている。
【0023】
そして、特に本実施形態では、図3に示すように、電線部2の3本の電線3a,3b,3cに対する編組線6の被覆形状に特徴がある。本実施形態のワイヤーハーネス1では、電線部2の3本の電線3a,3b,3cと編組線6とが、電線部2の中心軸線X1周りの周方向に沿って交互に配置されるよう構成されている。言い換えると、中心軸線X1周りの周方向に沿って均等配置される3本の電線3a,3b,3cにおいて、周方向に隣接する2本の電線の間に編組線6が介在している。つまり、電線部2の3本の電線3a,3b,3cのうち周方向に隣接する2本の電線の間には、編組線6が挟み込まれている。
【0024】
より詳細には、図3に示すように、中心軸線X1に沿った軸方向から視たワイヤーハーネス1の断面において、(1)電線部2の外周側を一括して包囲し、かつ、(2)電線部2の3本の電線3a,3b,3cと編組線6とは、電線部2の中心軸線X1周りの周方向に沿って隣接する電線部2の2本の電線間にて、これらの2本の電線の導体部同士を結ぶ外周側接線より中心軸線X1側に編組線6が介在するように配置される。上記(2)について具体的に説明すると、編組線6は、周方向に隣接する電線部2の電線3aと電線3bとの間にて、電線3aの導体部4aと電線3bの導体部4bと共に外周側から接する外周側接線A1より中心軸線X1側に進入している。同様に、編組線6は、周方向に隣接する電線部2の電線3bと電線3cとの間にて、電線3bの導体部4bと電線3cの導体部4cと共に外周側から接する外周側接線A2より中心軸線X1側に進入している。同様に、編組線6は、周方向に隣接する電線部2の電線3cと電線3aとの間にて、電線3cの導体部4cと電線3aの導体部4aと共に外周側から接する外周側接線A3より中心軸線X1側に進入している。
【0025】
さらに言えば、編組線6は、図3に示すワイヤーハーネス1の断面において、(1)電線部2の外周側を一括して包囲し、かつ、(3)周方向に隣接する電線部2の2本の電線の間にて、2本の電線の重心点同士を結んだ線分より中心軸線X1側に進入するよう形成される。上記(3)について具体的に説明すると、編組線6は、周方向に隣接する電線3aと電線3bとの間にて、電線3aの重心点Yaと電線3bの重心点Ybとを結んだ線分B1より中心軸線X1側に進入している。同様に、編組線6は、周方向に隣接する電線3bと電線3cとの間にて、電線3bの重心点Ybと電線3cの重心点Ycとを結んだ線分B2より中心軸線X1側に進入している。同様に、編組線6は、周方向に隣接する電線3cと電線3aとの間にて、電線3cの重心点Ycと電線3aの重心点Yaとを結んだ線分B3より中心軸線X1側に進入している。
【0026】
さらに言えば、編組線6は、図3に示すワイヤーハーネス1の断面において、周方向に隣接する電線部2の2本の電線の間から中心軸線X1まで進入し、電線部2の電線3a,3b,3cのそれぞれの外周側を包囲するよう形成される。
【0027】
次に、第一実施形態に係るワイヤーハーネス1の効果について説明する。
【0028】
ここで、図5を参照して、比較例としての従来のワイヤーハーネス101の一括シールド構造について説明する。図5は、従来のワイヤーハーネスの一括シールド構造を説明するためのワイヤーハーネスの軸方向断面図である。
【0029】
図5に示すように、従来のワイヤーハーネス101は、本実施形態のワイヤーハーネス1と同様に、電線部102と、編組線106と、コルゲートチューブ7とを備える。
【0030】
電線部102は、本実施形態のワイヤーハーネス1の電線部2と同様の3本の電線3a,3b,3cを有している。電線3a,3b,3cは、図5に示す軸方向断面において俵積み状の配置となっている。また、電線3a,3b,3cは、中心軸線X1周りの周方向に隣接する2本の電線同士が接触可能とされている。電線3a,3b,3cを構成する導体部4a,4b,4c及び絶縁部5a,5b,5cの材質や性状などは本実施形態のワイヤーハーネス1のものと同様である。
【0031】
編組線106は、本実施形態のワイヤーハーネス1の編組線6と同様の材質及び性状で筒状に形成されたものであり、編組線6と同様に電線部102の外周側を一括して包囲している。その一方で、編組線106は、図5に示すように、電線部102の隣接する2本の電線間に進入されていない点で、本実施形態のワイヤーハーネス1の編組線6と異なる。
【0032】
このようなワイヤーハーネス101をインバータ20とモータ30との間に接続して電力供給を行った場合(図1参照)、電線部102の各電線3a,3b,3c同士の電線間距離が小さいため、各電線3a,3b,3c間の静電容量cが大きくなり、各電線3a,3b,3cにノイズが発生しやすくなる。また、各電線3a,3b,3cの電線間距離が近いために、各電線3a,3b,3cのそれぞれは、隣接する他の電線に発生するノイズの影響を受けやすい。このため、各電線3a,3b,3cにノイズが発生した場合には、電線部102の放射ノイズが増大する傾向があり、この結果、過大なサージ電圧が発生する場合があった。
【0033】
これに対して、第一実施形態に係るワイヤーハーネス1は、それぞれが導体部4a,4b,4cとこれらの導体部4a,4b,4cの外周を被覆する絶縁部5a,5b,5cとを有する3本の電線3a,3b,3cを同一方向に纏めた電線部2と、編組線6とを備え、図3の軸方向断面に示すように、電線部2の3本の電線3a,3b,3cと編組線6とは、電線部2の中心軸線X1に沿った軸方向から視たワイヤーハーネス1の断面において、電線部2の中心軸線X1周りの周方向に沿って隣接する電線部2の2本の電線間にて、これらの2本の電線の導体部4a,4b,4c同士を結ぶ外周側接線A1,A2,A3より中心軸線X1側に編組線6が介在するように配置されている。
【0034】
この構成(上記(2)の構成)により、電線部2の電線3a,3b,3cのうち周方向に隣接する2本の電線の間には必ず編組線6を介在させることで、これらの電線同士が相互に直面する部分の少なくとも一部を編組線6により遮蔽できるので、電線部2の各電線3a,3b,3c間の静電容量cを低減でき、各電線3a,3b,3cのノイズ発生を抑制できると共に、隣接する他の電線に発生するノイズの影響を低減できる。また、各電線3a,3b,3cの間に編組線6を挟み込む構成のために周方向に隣接する電線間に間隙を設ける必要があるため、従来のワイヤーハーネス101と比較して電線間距離が大きくなる。このため、隣接する他の電線に発生するノイズの影響をさらに低減できる。従って、本実施形態のワイヤーハーネス1は、電線部2の放射ノイズを充分に低減することが可能となり、この結果、サージ電圧の発生を好適に抑制できる。
【0035】
また、第一実施形態に係るワイヤーハーネス1では、編組線6は、図3に示すワイヤーハーネス1の断面において、電線部2の外周側を一括して包囲し、かつ、電線部2の各電線3a,3b,3cのうち周方向に隣接する2本の電線の間にて、これらの2本の電線の重心点同士を結んだ線分B1,B2,B3より中心軸線X1側に進入するよう形成される。
【0036】
これらの構成(上記(1)及び(3)の構成)により、電線部2の電線3a,3b,3cのうち、周方向に隣接する2本の電線同士が相互に直面する部分の半分以上を編組線6により遮蔽できるので、電線部2の各電線3a,3b,3c間の静電容量cをほぼ0まで低減でき、各電線3a,3b,3cのノイズ発生を確実に抑制できると共に、隣接電線のノイズの影響を確実に低減できる。これにより、電線部2の放射ノイズを確実に低減でき、この結果、サージ電圧の発生をより一層確実に抑制できる。
【0037】
また、第一実施形態に係るワイヤーハーネス1では、編組線6は、図3に示すワイヤーハーネス1の断面において、周方向に隣接する電線部2の2本の電線の間から中心軸線X1まで進入し、電線部2の電線3a,3b,3cのそれぞれの外周側を包囲するよう形成される。この構成により、電線部2の各電線3a,3b,3cが編組線6により個別に被覆された状態となるので、電線部2の各電線3a,3b,3c間の静電容量cを0にできる。これにより、各電線3a,3b,3cのノイズ発生をより一層確実に抑制できると共に、隣接電線のノイズの影響を遮蔽でき、この結果、サージ電圧の発生をより一層確実に抑制できる。
【0038】
また、第一実施形態に係るワイヤーハーネス1では、金属細線を網目状に編み込んで成る編組線6をシールド部材として用いる。この構成によれば、編組線6は細線の網目形状によって伸縮自在であるので、電線部2への被覆を容易にできると共に、ワイヤーハーネス1の曲げやすさを維持できる。
【0039】
ここで、第一実施形態に係るワイヤーハーネス1では、電線部2の各電線3a,3b,3cの間に編組線6が挟み込まれる構成であり、周方向に沿って電線3a,3b,3cと編組線6とが対向配置される。このため、電線3a,3b,3cと編組線6との距離が短くなり、電線3a,3b,3cと編組線6との間でノイズが発生しやすくなる。これに対して、本実施形態に係るワイヤーハーネス1では、編組線6が接地されているため、接地されている編組線6からノイズを逃がすことが可能となる。また、電線3a,3b,3cと編組線6との間の帯電面積が増加するため、電線3a,3b,3cと編組線6との間の静電容量cが増加し、電線3a,3b,3cと編組線6との間でノイズが通りやすくなる。つまり、電線3a,3b,3cと編組線6との間で発生したノイズを、編組線6で吸収することが促進できる。これにより、電線部2の放射ノイズをさらに低減でき、サージ電圧の発生をより一層抑制できる。
【0040】
[第二実施形態]
図4を参照して第二実施形態について説明する。図4は、第二実施形態に係るワイヤーハーネスの軸方向断面図である。
【0041】
図4に示すように、第二実施形態のワイヤーハーネス11は、電線部12の各電線13a,13b,13cの断面形状と、編組線16の電線部12を被覆する構成において、第一実施形態のワイヤーハーネス1と異なるものである。
【0042】
図4に示すように、電線部12の3本の電線13a,13b,13cのそれぞれは、ノンシールドタイプの電線であり、断面が矩形状の導体部14a,14b,14cと、導体部14a,14b,14cの外周を被覆して形成される絶縁部15a,15b,15cと、を有する。つまり、電線13a,13b,13cは、図4に示す中心軸線X1に沿った軸方向から視たワイヤーハーネス11の断面(軸方向断面)において略矩形状である。各電線13a,13b,13cは、矩形状の長辺が中心軸線X1から外方向に延在する放射状に配置されると共に、中心軸線X1周りの周方向に沿って均等に配置されている。なお、導体部14a,14b,14c及び絶縁部15a,15b,15cの材質や性状などは第一実施形態の導体部4a,4b,4c及び絶縁部5a,5b,5cと同様である。編組線16は、その材質や性状などが第一実施形態の編組線6と同様である。
【0043】
第二実施形態のワイヤーハーネス11では、図4の軸方向断面に示すように、第一実施形態のワイヤーハーネス1と同様に、電線部12の3本の電線13a,13b,13cと編組線16とが、電線部12の中心軸線X1に沿った軸方向から視たワイヤーハーネス11の断面において、電線部12の中心軸線X1周りの周方向に沿って交互に配置される構成をとる。
【0044】
つまり、電線部12の3本の電線13a,13b,13cと編組線16とは、電線部12の中心軸線X1に沿った軸方向から視たワイヤーハーネス11の断面において、電線部12の中心軸線X1周りの周方向に沿って隣接する電線部2の2本の電線間にて、これらの2本の電線の導体部14a,14b,14c同士を結ぶ外周側接線C1,C2,C3より中心軸線X1側に編組線16が介在するように配置される。具体的に説明すると、編組線16は、周方向に隣接する電線部12の電線13aと電線13bとの間にて、電線13aの導体部14aと電線13bの導体部14bと共に外周側から接する外周側接線C1より中心軸線X1側に進入している。同様に、編組線16は、周方向に隣接する電線部12の電線13bと電線13cとの間にて、電線13bの導体部14bと電線13cの導体部14cと共に外周側から接する外周側接線C2より中心軸線X1側に進入している。同様に、編組線16は、周方向に隣接する電線部12の電線13cと電線13aとの間にて、電線13cの導体部14cと電線13aの導体部14a共に外周側から接する外周側接線C3より中心軸線X1側に進入している。
【0045】
従って、第二実施形態のワイヤーハーネス11も、第一実施形態のワイヤーハーネス1と同様に、電線部12の放射ノイズを充分に低減することが可能となり、この結果、サージ電圧の発生を好適に抑制できる。
【0046】
また、第二実施形態のワイヤーハーネス11では、編組線16は、図4に示すワイヤーハーネス11の断面において、(1)´電線部12の外周側を一括して包囲し、かつ、(4)電線13a,13b,13cの矩形状の2つの短辺のうち外方向側の短辺と、前記矩形状の2つの長辺とに沿って形成される。
【0047】
上記(1)´及び(4)の構成により、電線部12の電線13a,13b,13cのうち周方向に隣接する2本の電線同士が相互に直面する部分のほぼ全域である矩形状の長辺部分を編組線16により遮蔽できるので、各電線13a,13b,13cのノイズ発生の抑制と、隣接電線のノイズの影響の低減と、をより効果的に行うことができる。これにより、電線部12の放射ノイズをさらに低減でき、この結果、サージ電圧の発生をより一層抑制できる。
【0048】
また、第二実施形態のワイヤーハーネス11では、第一実施形態のワイヤーハーネス1と同様に、編組線16がシールド部材として用いられ、また、編組線16が接地されている。ここで、電線部12の各電線13a,13b,13cは、図4に示すように、軸方向断面が矩形状であり、矩形状の長辺が中心軸線X1から外方向に延在する放射状に配置されると共に、周方向に沿って均等に配置されている。このような電線13a,13b,13cの構成によって、電線13a,13b,13cと編組線16との間の帯電面積をさらに増加させることができ、電線13a,13b,13cと編組線16との間でノイズをさらに通りやすくできるので、電線13a,13b,13cと編組線16との間で発生したノイズを、編組線16で吸収することをさらに促進できる。これにより、電線部12の放射ノイズをさらに低減でき、サージ電圧の発生をより一層抑制できる。
【0049】
さらに、第二実施形態のワイヤーハーネス11では、図4に示すように、電線部12の3本の電線13a,13b,13cが放射状に配置され、かつ、周方向に略均等に配置されることで、各電線13a,13b,13cの矩形状の2つの短辺のうち中心軸線X1側の短辺が互いに正対しない位置関係となっている。つまり、図4に点線で示すように、隣接する電線の短辺同士が相互に直面する領域の幅は、電線の短辺同士が正対する場合と比較して減少する。これにより、電線部12の隣接する電線間の帯電面積を減少させることができるので、電線部12の各電線13a,13b,13c間の静電容量cをさらに低減でき、各電線13a,13b,13cのノイズ発生をさらに抑制できる。
【0050】
以上、本発明の実施形態を説明したが、上記実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。上記実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。上記実施形態及びその変形は、発明の範囲や要旨に含まれると同様に、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれるものである。
【0051】
上記実施形態では、実施形態に係るワイヤーハーネス1,11が接続する2つの要素としてインバータ20及びモータ30を例示したが、2つの要素間でサージ電圧が発生しうるものであれば、他の要素間にワイヤーハーネス1,11を適用することもできる。
【0052】
また、上記実施形態では、実施形態に係るワイヤーハーネス1,11を、三相交流型のインバータ20とモータ30とを接続する電力供給線として用いる構成を例示したが、インバータ20とモータ30は三相交流型以外のものでもよい。つまり、実施形態に係るワイヤーハーネス1,11は、例えば四相配線など三相配線以外のものでもよく、電線部2,12が3本以上の電線を有する構成であればよい。
【0053】
また、上記実施形態では、ノイズを抑制するシールド部材の一例として編組線6,16を例示したが、例えば銅やアルミなどの金属テープや箔などをシールド部材として適用してもよいし、これらと編組線6,16との組み合わせでシールド部材を構成することもできる。
【0055】
また、電線部2,12の各電線は、同軸ケーブルでもよい。つまり、各電線の導体部の周り、導体部と被覆部との間に電線ごとに個別にシールド部材が設けられる構成でもよい。また、電線部2,12の各電線は、中心軸線X1に沿って同一方向に延在していればよく、上記実施形態のように中心軸線X1周りの周方向に沿って均等に配置されない構成でもよい。
【0056】
また、上記実施形態では、シールド部材としての編組線6,16が接地されている構成を例示したが、接地しない構成でもよい。
【符号の説明】
【0057】
1,11 ワイヤーハーネス
2,12 電線部
3a,3b,3c,13a,13b,13c 電線
4a,4b,4c,14a,14b,14c 導体部
5a,5b,5c,15a,15b,15c 絶縁部
6,16 編組線(シールド部材)
X1 中心軸線
Ya,Yb,Yc,Za,Zb,Zc 重心点
A1,A2,A3,C1,C2,C3 外周側接線
B1,B2,B3 線分
図1
図2
図3
図4
図5