特許第6204434号(P6204434)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ エルジー エレクトロニクス インコーポレイティドの特許一覧

特許6204434磁気特性が向上したMnBiを含む異方性複合焼結磁石及びその製造方法
<>
  • 特許6204434-磁気特性が向上したMnBiを含む異方性複合焼結磁石及びその製造方法 図000004
  • 特許6204434-磁気特性が向上したMnBiを含む異方性複合焼結磁石及びその製造方法 図000005
  • 特許6204434-磁気特性が向上したMnBiを含む異方性複合焼結磁石及びその製造方法 図000006
  • 特許6204434-磁気特性が向上したMnBiを含む異方性複合焼結磁石及びその製造方法 図000007
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6204434
(24)【登録日】2017年9月8日
(45)【発行日】2017年9月27日
(54)【発明の名称】磁気特性が向上したMnBiを含む異方性複合焼結磁石及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01F 41/02 20060101AFI20170914BHJP
   H01F 1/047 20060101ALI20170914BHJP
   H01F 1/059 20060101ALI20170914BHJP
   C22C 22/00 20060101ALI20170914BHJP
   C22C 12/00 20060101ALI20170914BHJP
   B22F 1/00 20060101ALI20170914BHJP
   C22C 1/04 20060101ALI20170914BHJP
   C22C 1/02 20060101ALI20170914BHJP
   B22F 3/02 20060101ALI20170914BHJP
【FI】
   H01F41/02 G
   H01F1/047
   H01F1/059 160
   C22C22/00
   C22C12/00
   B22F1/00 B
   C22C1/04 F
   C22C1/02 501E
   C22C1/02 503K
   C22C1/02 503N
   B22F1/00 J
   B22F3/02 R
【請求項の数】18
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2015-203896(P2015-203896)
(22)【出願日】2015年10月15日
(65)【公開番号】特開2016-115923(P2016-115923A)
(43)【公開日】2016年6月23日
【審査請求日】2015年10月15日
(31)【優先権主張番号】10-2014-0180552
(32)【優先日】2014年12月15日
(33)【優先権主張国】KR
(73)【特許権者】
【識別番号】502032105
【氏名又は名称】エルジー エレクトロニクス インコーポレイティド
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100092624
【弁理士】
【氏名又は名称】鶴田 準一
(74)【代理人】
【識別番号】100114018
【弁理士】
【氏名又は名称】南山 知広
(74)【代理人】
【識別番号】100165191
【弁理士】
【氏名又は名称】河合 章
(74)【代理人】
【識別番号】100151459
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 健一
(72)【発明者】
【氏名】キム チンベ
(72)【発明者】
【氏名】ビョン ヤンウ
(72)【発明者】
【氏名】チョ サンクン
【審査官】 池田 安希子
(56)【参考文献】
【文献】 特開2008−282959(JP,A)
【文献】 国際公開第2010/082492(WO,A1)
【文献】 特開2008−255436(JP,A)
【文献】 N. V. Rama Rao, A. M. Gabay, G. C. Hadjipanayis,Anisotropic MnBi/Sm2Fe17Nx Hybrid Magnets Fabricated by Hot Compaction,IEEE TRANSACTIONS ON MAGNETICS,米国,IEEE,2013年 7月15日,49巻7号,3255〜3257
【文献】 Y. B. Yang, J. Z. Wei, X. L. Peng, Y. H. Xia, X. G. Chen, R. Wu, H. L. Du, J. Z. Han, C. S. Wang, Y. C. Yang, J. B. Yang,Magnetic properties of the anisotropic MnBi/Sm2Fe17Nx hybrid magnet,Journal of Applied Physics,米国,AIP Publishing,2014年 2月12日,115巻17号,17A721−1〜17A721−3,URL,www.researchgate.net/publication/261016546_Magnetic_properties_of_the_anisotropic_MnBiSm2Fe17Nx_hybrid_magnet
【文献】 S. Cao, M. Yue, Y. X. Yang, D. T. Zhang, W. Q. Liu, J. X. Zhang, Z. H. Guo, W. Li,Magnetic properties and thermal stability of MnBi/NdFeB hybrid bonded magnets,Journal of Applied Physics,米国,American Institute of Physics,2011年 4月11日,109巻7号,07A740−1〜07A740−3
【文献】 K. W. Moon, K. W. Jeon, M. Kang, M. K. Kang, Y. Byun, J. B. Kim, H. Kim. J. Kim,Synthesis and Magnetic Properties of MnBi(LTP) Magnets With High-Energy Product,IEEE Transactions on Magnetics,米国,IEEE,2014年11月 2日,50巻11号,2103804−1〜2103804−4
【文献】 Y. B. Yang, X. G.Chen, S. Guo, A. R. Yan, Q. Z. Huang, M. M. Wu, D. F. Chen, Y. C. Yang, J. B. Yang,Temperature dependences of structure and coercivity for melt-spun MnBi compound,Journal of Magnetism and Magnetic Materials,Elsevier,2012年11月 5日,330号,106〜110,URL,www.researchgate.net/publication/257152396_Temperature_dependences_of_structure_and_coercivity_for_melt-spun_MnBi_compound
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B22F 1/00
B22F 3/02
C22C 1/02
C22C 1/04
C22C 12/00
C22C 22/00
H01F 1/00
1/032−1/04
1/055−1/057
1/06−1/117
1/40
H01F 41/02
JSTPlus(JDreamIII)
JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)急速凝固工程で結晶粒の大きさが50〜100nmである非磁性相のMnBi系リボンを製造する段階と、
(b)前記非磁性相のMnBi系リボンを磁性相のMnBi系リボンに転移させるために熱処理する段階と、
(c)前記磁性相のMnBi系リボンを粉砕してMnBi硬磁性相の粉末を形成する段階と、
(d)前記MnBi硬磁性相の粉末と希土類硬磁性相の粉末とを混合する段階と、
(e)外部磁場を印加して前記段階(d)で得られた混合物を磁場成形して成形物を形成する段階と、
(f)前記成形物を焼結する段階と、を含み、
150℃の温度での最大磁気エネルギー積(BHmax)が6.7〜11.4MGOeである、MnBiを含む異方性複合焼結磁石の製造方法。
【請求項2】
前記急速凝固工程におけるMnBi系リボンの製造は、冷却ホイールを用いて行われ、前記冷却ホイールは、円周速度が10〜300m/sである、請求項1に記載のMnBiを含む異方性複合焼結磁石の製造方法。
【請求項3】
前記冷却ホイールは、円周速度が30〜100m/sである、請求項2に記載のMnBiを含む異方性複合焼結磁石の製造方法。
【請求項4】
前記冷却ホイールは、円周速度が60〜70m/sである、請求項2に記載のMnBiを含む異方性複合焼結磁石の製造方法。
【請求項5】
前記段階(a)で製造されたMnBi系リボンの組成は、MnBiをMnxBi100-xと表すとXが50〜55である、請求項1〜4のいずれか一項に記載のMnBiを含む異方性複合焼結磁石の製造方法。
【請求項6】
前記段階(b)における熱処理は、280〜340℃の温度で行われる、請求項1〜5のいずれか一項に記載のMnBiを含む異方性複合焼結磁石の製造方法。
【請求項7】
前記MnBi硬磁性相の粉末の大きさは0.5〜5μmであり、前記希土類硬磁性相の粉末の大きさは1〜5μmである、請求項1〜6のいずれか一項に記載のMnBiを含む異方性複合焼結磁石の製造方法。
【請求項8】
前記希土類硬磁性相は、R−CO又はR−Fe−Bで表され、Rは、Sc、Y、La、Ce、Pr、Nd、Pm、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、Yb及びLuからなる群から選択される希土類元素である、請求項7に記載のMnBiを含む異方性複合焼結磁石の製造方法。
【請求項9】
前記希土類硬磁性相は、SmFeN、NdFeB又はSmCoである、請求項7に記載のMnBiを含む異方性複合焼結磁石の製造方法。
【請求項10】
前記段階(c)における磁性相のMnBi系リボンの粉砕中に分散剤が添加され、前記分散剤は、オレイン酸(C18H34O2)、オレイルアミン(C18H37N)、ポリビニルピロリドン及びポリソルベートからなる群から選択される、請求項7〜9のいずれか一項に記載のMnBiを含む異方性複合焼結磁石の製造方法。
【請求項11】
前記段階(d)における混合中に潤滑剤が添加され、前記潤滑剤は、エチルブチレート、メチルカプリレート、メチルラウレート及びステアレートからなる群から選択される、請求項1〜10のいずれか一項に記載のMnBiを含む異方性複合焼結磁石の製造方法。
【請求項12】
前記段階(c)における磁性相のMnBi系リボンの粉砕は、3〜8時間行われる、請求項7〜10のいずれか一項に記載のMnBiを含む異方性複合焼結磁石の製造方法。
【請求項13】
前記段階(d)における混合は、粉末の粉砕を防止するために1分〜1時間以内に行われる、請求項11に記載のMnBiを含む異方性複合焼結磁石の製造方法。
【請求項14】
前記段階(f)の焼結は、ホットプレス焼結、ホットアイソタクチックプレス、放電プラズマ焼結、炉焼結及びマイクロ波焼結からなる群から選択される工程により行われる、請求項1〜13のいずれか一項に記載のMnBiを含む異方性複合焼結磁石の製造方法。
【請求項15】
前記磁場成形は、0.1〜5.0Tの磁場下で行われる、請求項1〜14のいずれか一項に記載のMnBiを含む異方性複合焼結磁石の製造方法。
【請求項16】
MnBi55〜99重量%及び希土類硬磁性相1〜45重量%を含む異方性複合焼結磁石であって、
150℃の温度での最大磁気エネルギー積(BHmax)が6.7〜11.4MGOeであることを特徴とする異方性複合焼結磁石。
【請求項17】
前記異方性複合焼結磁石は、150℃の温度での最大磁気エネルギー積(BHmax)が8〜15MGOeである、請求項16に記載の異方性複合焼結磁石。
【請求項18】
請求項16に記載の異方性複合焼結磁石を含む製品であって、
前記製品は、冷蔵庫やエアコンのコンプレッサモータ、洗濯機の駆動モータ、モバイルハンドセットの振動モータ、スピーカ、ボイスコイルモータ、リニアモータ、カメラのズーム、絞り、シャッタ、微細加工機のアクチュエータ、デュアルクラッチトランスミッション、アンチロックブレーキシステム、電動パワーステアリングモータ及び燃料ポンプからなる群から選択されるものである製品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、磁気特性が向上したMnBiを含む異方性複合焼結磁石及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ネオジム磁石は、ネオジム(Nd)、酸化鉄(Fe)、ホウ素(B)を主成分とする成形焼結品であって、非常に優れた磁気特性を有する。このような高特性のネオジム(Nd)系バルク磁石の需要が急増しているが、希土類元素資源の需給不均衡の問題は、次世代産業に必要な高性能モータを供給する上で大きな障害要因となっている。
【0003】
フェライト磁石は、磁気特性が安定しており、強力な磁力の磁石を必要としない場合に用いられる安価な磁石であり、通常黒色を帯びる。フェライト磁石は、DCモータ、コンパス、電話機、タコメータ、スピーカ、スピードメータ、テレビ、リードスイッチ、時計ムーブメントなど様々な用途に用いられており、軽量かつ安価であるという利点があるが、高価なネオジム(Nd)系バルク磁石を代替できる程度に優れた磁気特性は有していないという問題がある。よって、希土類系磁石を代替できる高特性の新規な磁性素材の開発の必要性が高まっている。
【0004】
MnBiは、脱希土類素材の永久磁石であって、−123〜277℃の温度区間で保磁力が正の温度係数を有するので、150℃以上の温度ではNd2Fe14B永久磁石より保磁力が大きいという特性を有する。よって、MnBiは、高温(100〜200℃)で駆動されるモータへの適用に適した素材である。磁気性能指数を示す(BH)max値で比較してみると、MnBiは、従来のフェライト永久磁石よりは性能面で優れ、希土類Nd2Fe14Bボンド磁石と同等以上の性能を実現することができるので、これらの磁石を代替できる素材である。
【0005】
本明細書全体にわたって多数の文献が参照され、その引用が示されている。引用された文献の開示内容はその全体が参照として本明細書に組み込まれ、本発明の属する技術分野の水準及び本発明の内容がより明確に説明される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】国際公開第1995/028718号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
従来のMnBi永久磁石の問題点は、希土類永久磁石に比べて飽和磁化値が相対的に低い(理論的には〜80emu/g)ということにある。このため、MnBi及びSmFeNやNdFeBなどの希土類硬磁性相を含んで複合焼結磁石を製造することにより、低い飽和磁化値を改善することができる。また、保磁力に関連して、正の温度係数を有するMnBiと負の温度係数を有する希土類硬磁性相との複合化により、温度安定性を確保することができる。なお、SmFeNなどの希土類硬磁性相の場合は、高温(〜600℃以上)で相が分解する問題により、焼結磁石としては用いることができないという欠点がある。
【0008】
本発明者らは、MnBi及び希土類硬磁性相を含む複合磁石を製造する上で、急速凝固工程(Rapid Solidification Process; RSP)によりMnBi系リボンを製造してMnBi微細結晶相を形成した場合、一般に300℃以下では焼結しにくい希土類硬磁性相を共に焼結できるため、MnBi硬磁性相の粉末と希土類硬磁性相の粉末との複合化により異方性焼結磁石を製造できること及び、その結果非常に優れた磁気特性を有するものになることを見い出し、本発明を完成するに至った。
【0009】
本発明の目的は、急速凝固工程(RSP)でMnBi系リボンを製造する段階を含むことを特徴とするMnBiを含む異方性複合焼結磁石の製造方法を提供することにある。
【0010】
本発明の他の目的は、前記急速凝固工程(RSP)を含む異方性複合焼結磁石の製造方法により製造された異方性複合焼結磁石を提供することにある。
【0011】
本発明のさらに他の目的は、前記製造された異方性複合焼結磁石を含む最終製品を提供することにある。
【0012】
本発明のさらに他の目的及び利点は下記の発明の詳細な説明、請求の範囲及び図面によりさらに明らかになる。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明の一態様においては、(a)急速凝固工程(RSP)で非磁性相のMnBi系リボンを製造する段階と、(b)前記非磁性相のMnBi系リボンを磁性相のMnBi系リボンに転移させるために熱処理する段階と、(c)前記磁性相のMnBi系リボンを粉砕してMnBi硬磁性相の粉末を形成する段階と、(d)前記MnBi硬磁性相の粉末と希土類硬磁性相の粉末とを混合する段階と、(e)外部磁場を印加して前記段階(d)で得られた混合物を磁場成形して成形物を形成する段階と、(f)前記成形物を焼結する段階とを含むことを特徴とするMnBiを含む異方性複合焼結磁石の製造方法を提供する。
【0014】
本発明の他の態様においては、MnBi及び希土類硬磁性相を含む、前述した本発明の方法により製造された異方性複合焼結磁石であって、前記段階(a)で製造されたMnBi系リボンは、結晶粒の大きさが50〜100nmであることを特徴とする異方性複合焼結磁石を提供する。
【0015】
本発明によるMnBiを含む異方性複合焼結磁石は、希土類硬磁性相の含有量を制御することができ、MnBiを含む異方性複合焼結磁石において保磁力及び磁化値を調整できるという効果がある。
【0016】
特に、本発明によるMnBiを含む異方性複合焼結磁石は、一軸磁場成形及び焼結工程により一軸異方性を有する高特性の磁石を製造するのに有利である。
【0017】
一実現例においては、本発明による異方性複合焼結磁石は、脱希土類硬磁性相としてMnBiを55〜99重量%含み、希土類硬磁性相を1〜45重量%含むようにしてもよい。希土類硬磁性相の含有量が45重量%を超えると焼結しにくいという欠点がある。
【0018】
好ましい実現例においては、希土類硬磁性相としてSmFeNを用いる場合、その含有量が5〜35重量%であることがよい。
【0019】
本発明によるMnBiを含む異方性複合焼結磁石は、非常に優れた磁気特性を有し、25℃〜150℃の温度で最大磁気エネルギー積(BHmax)が5〜15MGOeであることを特徴とする。
【0020】
このような本発明によるMnBiを含む異方性複合焼結磁石は、優れた磁気特性により、冷蔵庫やエアコンのコンプレッサモータ、洗濯機の駆動モータ、モバイルハンドセットの振動モータ、スピーカ、ボイスコイルモータ、リニアモータ(コンピュータ用ハードディスクヘッドの位置決め)、カメラのズーム、絞り、シャッタ、微細加工機のアクチュエータ、デュアルクラッチトランスミッション(Dual Clutch Transmission; DCT)、アンチロックブレーキシステム(Anti-lock Brake System; ABS)、電動パワーステアリング(Electric Power Steering; EPS)モータ及び燃料ポンプなどの自動車電装部品などに広く用いることができる。
【発明の効果】
【0021】
本発明によるMnBiを含む異方性複合焼結磁石は、MnBiの低い飽和磁化値が改善され、高い温度安定性を有するだけでなく、非常に優れた磁気特性を実現することができるので、従来の希土類ボンド磁石を代替することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
図1】異方性複合焼結磁石の製造工程を示す概要図である。
図2】MnBi/SmFeN(20重量%)複合焼結磁石におけるMnBiとSmFeNの分布を示す走査型電子顕微鏡(Scanning Electron Microscope; SEM)写真である。
図3】MnBi及びMnBi/SmFeN(15、20、35重量%)焼結磁石の磁気特性(25℃)を示すグラフである。
図4】MnBi及びMnBi/SmFeN(15、20、35重量%)焼結磁石の磁気特性(150℃)を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、実施例により本発明をさらに詳細に説明するが、実施例は本発明をより具体的に説明するためのものであり、本発明の範囲は実施例に限定されるものではない。
【0024】
(a)急速凝固工程(RSP)で非磁性相のMnBi系リボンを製造する段階
急速凝固工程(RSP)は、1984年頃から広く用いられている工程であって、高温の液体状態から常温又は周辺温度の固体状態への転移期間における過熱及び潜熱を含む熱エネルギーの急速な抽出により、固体化したマイクロ構造(微細構造)を形成する過程を意味する。各種の急速凝固工程が開発されて用いられているが、真空誘導溶解法(Vacuum Induction Melting)、高圧鋳造法(squeeze casting)、スプラット急冷法(splat quenching)、溶融紡糸法(melt spinning)、プラナーフローキャスティング法(planar flow casting)、レーザ又は電子ビーム凝固法(laser or electron beam solidification)などが広く活用されており、これらの全てが熱の急速な抽出により固体化したマイクロ構造を形成することを特徴とする。
【0025】
凝固を開始するにあたって、熱の急速な抽出は100℃又はそれ以上の高い温度で過冷却を起こすが、これは1秒当たり1℃以下の温度変化を伴う通常のキャスト法と比較される点である。冷却速度は、5〜10K/s以上、10〜102K/s以上、103〜104K/s以上、又は104〜105K/s以上であってもよく、このような急速凝固工程により、固体化したマイクロ構造が形成される。
【0026】
MnBi合金組成の材料を加熱して溶融し、その溶湯をノズルから射出してノズルに対して回転している冷却ホイールに接触させることで急冷凝固することにより、MnBi系リボンを連続的に製造する。
【0027】
本発明の方法において、MnBi硬磁性相と希土類硬磁性相の混成構造を利用して焼結体磁石を製造する際に、300℃以下では焼結しにくい希土類硬磁性相を共に焼結するためには、急速凝固工程(RSP)でMnBi系リボンを製造し、MnBi系リボンの微細結晶相の特性を確保することが非常に重要である。一実現例においては、本発明による急速凝固工程(RSP)で製造されたMnBi系リボンの結晶粒の大きさが50〜100nmの場合、磁性相を形成すると高い磁気特性が得られる。
【0028】
急速凝固工程(RSP)において冷却ホイールを用いて急冷過程を行う場合、ホイール速度は急冷させた合金の性質に影響を及ぼすが、一般に、冷却ホイールを用いる急速凝固工程(RSP)におけるホイールの円周速度が速くなるほどホイールに接触する物質の冷却効果がより大きくなる。一実現例によれば、本発明による急速凝固工程(RSP)におけるホイールの円周速度は、10〜300m/s又は30〜100m/sであるが、60〜70m/sであることが好ましい。
【0029】
本発明による急速凝固工程(RSP)で製造された非磁性相のMnBi系リボンの組成は、MnBiをMnxBi100-xと表すと、Xが45〜55であればよいが、MnBiの組成は、Xが50〜55、即ち、Mn50Bi50、Mn51Bi49、Mn52Bi48、Mn53Bi47、Mn54Bi46、又はMn55Bi45であることが好ましい。
【0030】
(b)非磁性相のMnBi系リボンを磁性相のMnBi系リボンに転移させるために熱処理する段階
次の段階は、製造された非磁性相のMnBi系リボンに磁性を付与する段階である。一実現例によれば、磁性付与のために低温熱処理を行うが、例えば、280〜340℃の温度、真空及び不活性ガス雰囲気の条件で低温熱処理を行い、3時間及び24時間熱処理を行うことにより、前記非磁性相のMnBi系リボンに含まれるMnの拡散を誘導して磁性相のMnBi系リボンを形成し、それによりMnBi系磁性体を製造することができる。MnBi低温相(Low Temperature Phase; LTP)を形成するための熱処理により、磁性相を90%以上、より好ましくは95%以上含むことができる。MnBi低温相が約90%以上含まれれば、MnBi系磁性体は優れた磁気特性を有することになる。
【0031】
(c)MnBi硬磁性相の粉末を形成する段階
次の段階として、MnBi低温相のMnBi系リボンを粉砕してMnBi硬磁性相の粉末を形成する。
【0032】
MnBi硬磁性相の粉末の粉砕工程では、分散剤を用いることが、粉砕効率を向上させて分散性を改善することができるので好ましい。分散剤としては、オレイン酸(C18342)、オレイルアミン(C1837N)、ポリビニルピロリドン及びポリソルベートからなる群から選択される分散剤を用いることができるが、必ずしもこれらに限定されるものではない。例えば、オレイン酸を粉末に対して1〜10重量%含むようにしてもよい。
【0033】
MnBi硬磁性相の粉末の粉砕工程では、ボールミリングを用いてもよいが、この場合、磁性相の粉末、ボール、溶媒及び分散剤の割合を約1:20:6:0.12(質量比)にし、ボールをΦ3〜Φ5のものにしてボールミリングを行ってもよい。
【0034】
一実現例によれば、分散剤を用いたMnBi硬磁性相の粉末の粉砕工程は3〜8時間行うことが好ましく、このようにしてLTP熱処理及び粉砕工程が終わったMnBi硬磁性相の粉末の大きさは直径0.5〜5μmであり得る。5μmを超えると保磁力が低下することがある。
【0035】
一方、前記MnBi硬磁性相の粉末を形成する過程とは別途に、希土類硬磁性相の粉末を別に形成しておく。
【0036】
一実現例において、前記希土類硬磁性相は、R−CO又はR−Fe−B(ここで、Rは、Sc、Y、La、Ce、Pr、Nd、Pm、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、Yb及びLuからなる群から選択される希土類元素)で表されるものであってもよく、SmFeN、NdFeB又はSmCoであることが好ましい。
【0037】
粉砕工程が終わった希土類硬磁性相の粉末の大きさは1〜5μmであり得る。5μmを超えると保磁力が大きく低下することがある。
【0038】
(d)MnBi硬磁性相の粉末と希土類硬磁性相の粉末とを混合する段階
MnBi硬磁性相と希土類硬磁性相との混合では潤滑剤を用いて磁場成形体を製造することができる。潤滑剤としては、エチルブチレート(ethyl butyrate)、メチルカプリレート(methyl caprylate)、メチルラウレート(methyl laurate)又はステアレートを用いることができるが、エチルブチレート、メチルカプリレート、メチルラウレート、ジンクステアレートなどを用いることが好ましい。特に、メチルカプリレートを粉末に対して1〜10重量%、3〜7重量%又は5重量%含むようにすることがより好ましい。
【0039】
一実現例によれば、MnBi硬磁性相と希土類硬磁性相との混合工程は、粉末の粉砕を防止するために1分〜1時間以内に迅速に行うことが好ましく、できるだけ粉砕されないように混合することが重要である。
【0040】
(e)外部磁場を印加して磁場成形する段階
本段階においては、合金粉末に対して磁場成形工程を行うことにより、磁場の方向と粉末のC軸方向とを平行に配向させて異方性を確保する。このように磁場成形により一軸方向に異方性を確保した異方性磁石は、等方性磁石と比較して優れた磁気特性を有する。
【0041】
磁場成形は、磁場射出成形機、磁場成形プレスなどを用いて行ってもよく、ADP(Axial Die Pressing)やTDP(Transverse Die Pressing)などの方法で行ってもよいが、必ずしもこれらに限定されるものではない。
【0042】
前記磁場成形する段階は、0.1〜5.0T、0.5〜3.0T又は1.0〜2.0Tの磁場下で行うようにしてもよい。
【0043】
(f)成形物を焼結する段階
緻密な磁石を製造する際には、粒子の成長及び酸化の抑制のために、低温での選択的熱処理として、ホットプレス焼結(hot press sintering)、ホットアイソタクチックプレス(hot isotactic pressing)、放電プラズマ焼結(spark plasma sintering)、炉焼結(furnace sintering)、マイクロ波焼結(microwave sintering)などを用いることができるが、必ずしもこれらに限定されるものではない。
【実施例】
【0044】
MnBiを含む異方性複合焼結磁石の製造
図1の概要図に示すように異方性複合焼結磁石を製造したが、具体的には、まず、MnBi系リボンを製造する急速凝固工程(RSP)でホイール速度を60〜70m/sにすることにより、MnBi、Bi相の結晶の大きさが50〜100nmとなるようにMnBi系リボンを製造した。
【0045】
次の段階として、製造された非磁性相のMnBi系リボンに磁性を付与するために、280〜340℃の温度、真空及び不活性ガス雰囲気の条件で低温熱処理を行い、3時間及び24時間熱処理を行うことにより、前記非磁性相のMnBi系リボンに含まれるMnの拡散を誘導して磁性相のMnBi系リボンを形成し、それによりMnBi系磁性体を製造した。
【0046】
次に、ボールミリングを用いた複合化工程を行った。粉砕工程は約5時間行ったが、前記磁性相の粉末、ボール、溶媒及び分散剤の割合を約1:20:6:0.12(質量比)にし、ボールをΦ3〜Φ5のものにした。
【0047】
次に、ボールミリングで製造された磁性粉末(85、80又は65重量%)にSmFeN硬磁性体粉末(15、20、又は35重量%)をできるだけ粉砕されないように混合し、それを約1.6Tの磁場下で成形し、その後、真空及び不活性ガス雰囲気状態のホットプレスを用いて約250〜320℃で1〜10分間急速焼結を行うことにより、焼結磁石を製造した。
【0048】
このようにして製造された焼結磁石のうち、MnBi/SmFeNの重量比が80:20である複合焼結磁石の断面状態を走査型電子顕微鏡(SEM)で観察し、それを図2に示した。図2から、脱希土類のMnBi硬磁性相と希土類のSmFeN硬磁性相が均一に分布することが確認された。
【0049】
25℃での異方性複合焼結磁石の磁気特性
MnBi及びMnBi/SmFeN(15、20、35重量%)焼結磁石における残留磁束密度(Br)、誘導保磁力(HCB)及び最大磁気エネルギー積[(BH)max]を、VSM(Vibrating Sample Magnetometer)(Lake Shore #7300 USA、最大25kOe)を用いて常温(25℃)で測定し、B−H曲線を図3に示し、その値を下記表1に示した。
【表1】
【0050】
上記表1と図3を参照すると、本発明によるMnBi/SmFeN(35重量%)異方性複合焼結磁石は、常温(25℃)での最大エネルギー積が15.4MGOeであり、単一相のMnBi焼結磁石に比べて、残留磁束密度(Br)、誘導保磁力(HCB)及び最大磁気エネルギー積[(BH)max]において優れた磁気特性を実現することを確認することができた。
【0051】
150℃での異方性複合焼結磁石の磁気特性
MnBi及びMnBi/SmFeN(15、20、35重量%)焼結磁石における残留磁束密度(Br)、誘導保磁力(HCB)及び最大磁気エネルギー積[(BH)max]を、VSM(Lake Shore #7300 USA、最大25kOe)を用いて高温(150℃)で測定し、B−H曲線を図4に示し、その値を下記表2に示した。
【表2】
【0052】
上記表2と図4を参照すると、本発明によるMnBi/SmFeN(35重量%)異方性複合焼結磁石は、高温(150℃)での最大エネルギー積が11.4MGOeであり、単一相のMnBi焼結磁石に比べて、誘導保磁力(HCB)は減少するが、SmFeNの複合化により残留磁束密度(Br)が増加するので、最大磁気エネルギー積[(BH)max]において優れた磁気特性を実現することを確認することができた。MnBi/SmFeN(35重量%)焼結磁石は、高温(150℃)で残留磁束密度(Br)が増加する特性を有する。
図1
図2
図3
図4