(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0015】
<1.車両制御システムの概要構成>
図1は、本発明に係る実施の形態としての車両制御装置を備えた車両1の構成概要を示した図である。なお、
図1では、車両1の構成のうち主に本発明に係る要部の構成のみを抽出して示している。
本実施の形態の車両1は、エンジン10、自動変速機30及び自動変速機30のコントロールバルブ38を備えると共に、エンジン制御部2、変速機制御部3、操作子類4、センサ類5、及びバス6を備えている。
【0016】
エンジン10は、例えば水平対向型の4気筒ガソリンエンジンとされている。なお本発明において、エンジン10としてはV型ガソリンエンジン、或いはガソリンエンジンでなくディーゼルエンジンとする等、他の形式を採用することもできる。
エンジン10は、クランクシャフト10aと出力軸11とを有する。出力軸11にはクランクシャフト10aの回転が伝達される。
【0017】
エンジン10の後段には、クラッチ機能とトルク増幅機能を持つトルクコンバータ20を有した自動変速機30が設けられている。本例の場合、自動変速機30は無段変速機(連続可変トランスミッション:Continuously Variable Transmission=CVT)として構成されている。本例ではチェーン式のCVTを採用しているが、ベルト式等の他の形式のCVTを採用してもよい。また本発明において、自動変速機30は有段変速機とされてもよい。
【0018】
自動変速機30において、トルクコンバータ20は、主としてポンプインペラ21、タービンランナ22、及びステータ23を有して構成されている。出力軸11に接続されたポンプインペラ21がオイルの流れを生み出し、ポンプインペラ21に対向して配置されたタービンランナ22がオイルを介してエンジン10の動力を受けて出力軸を駆動する。両者の間に位置するステータ23は、タービンランナ22からの排出流(戻り)を整流し、ポンプインペラ21に還元することでトルク増幅作用を発生させる。
【0019】
また、トルクコンバータ20は、入力と出力とを直結状態にするロックアップクラッチ24を有している。ロックアップクラッチ24は、ポンプインペラ21とタービンランナ22とを連結可能とされたクラッチとして構成されている。
ロックアップクラッチ24による連結時には、ポンプインペラ21とタービンランナ22は一体に回転し、エンジン10からの出力はタービンランナ22から後段の機構(後述するリダクションギヤ31や無段変速機構33)に伝達される。
【0020】
なお、本明細書において、ロックアップクラッチ24を作動させて(ロックアップ圧を最大として)、トルクコンバータ20における入力側回転部材(ポンプインペラ21)と出力側回転部材(タービンランナ22)とが同一の回転速度で一体に回転する状態を「締結状態」或いは「ロックアップ状態」と表記する。一方、ロックアップクラッチ24を作動させず、トルクコンバータ20における入力側回転部材と出力側回転部材との連結を完全に断った状態を「解放状態」と表記する。
【0021】
トルクコンバータ20は、ロックアップクラッチ24が解放状態であるときはエンジン10の駆動力をトルク増幅して、当該トルクコンバータ20の出力軸25を介してリダクションギヤ31側に伝達する。一方、ロックアップクラッチ24が締結状態であるときはエンジン10の駆動力を出力軸25を介してリダクションギヤ31側に直接伝達する。
【0022】
無段変速機構33は、プライマリ軸33、プライマリプーリ34、セカンダリプーリ35、チェーン36、及びセカンダリ軸37を有している。
プライマリ軸33は、リダクションギヤ31を介してトルクコンバータ20の出力軸25と接続されている。セカンダリ軸37は、プライマリ軸33と平行に配設されている。
【0023】
プライマリプーリ34は、プライマリ軸33に接合された固定プーリ34aと、固定プーリ34aに対向して、プライマリ軸33の軸方向に摺動自在に装着された可動プーリ34bとを有し、それぞれのプーリ34a,34bのコーン面間隔、すなわちプーリ溝幅を変更できるように構成されている。一方、セカンダリプーリ35は、セカンダリ軸37に接合された固定プーリ35aと、固定プーリ35aに対向して、セカンダリ軸37の軸方向に摺動自在に装着された可動プーリ35bとを有し、プーリ溝幅を変更できるように構成されている。
プライマリプーリ34とセカンダリプーリ35との間には駆動力を伝達するチェーン36が掛け渡されている。プライマリプーリ34及びセカンダリプーリ35の溝幅を変化させて、各プーリ34,35に対するチェーン36の巻き付け径の比率(プーリ比)を変化させることにより、変速比が無段階に変化する。ここで、チェーン36のプライマリプーリ34に対する巻き付け径をRpとし、セカンダリプーリ35に対する巻き付け径をRsとすると、変速比iは「i=Rs/Rp」で表される。
【0024】
ここで、プライマリプーリ34(可動プーリ34b)には油圧室34cが形成され、セカンダリプーリ35(可動プーリ35b)には油圧室35cが形成されている。プライマリプーリ34、セカンダリプーリ35それぞれの溝幅は、プライマリプーリ34の油圧室34cに導入されるプライマリ油圧と、セカンダリプーリ35の油圧室35cに導入されるセカンダリ油圧とを調節することにより制御される。
【0025】
自動変速機30を変速させるための油圧、すなわち、上述したプライマリ油圧及びセカンダリ油圧は、コントロールバルブ部38によってコントロールされる。図示は省略するが、コントロールバルブ部38は、スプールバルブと該スプールバルブを動かすソレノイドバルブ(電磁弁)を用いてバルブボディ内に形成された油路を開閉することで、オイルポンプから吐出された油圧を調整して、プライマリプーリ34の油圧室34c及びセカンダリプーリ35の油圧室35cに供給する。
また、コントロールバルブ部38は、ロックアップクラッチ24のロックアップ圧制御のための油圧コントロールも行う。
【0026】
なお、セカンダリプーリ35側に伝達された動力は、自動変速機30における後段の所定機構を介して最終的に駆動輪に伝達される。
【0027】
操作子類4は、車両に設けられた各種の操作子を包括的に表している。操作子類4に属する操作子としては、例えばシフトレバー4aやパドルスイッチ4bを挙げることができる。シフトレバー4aは、車両のフロア(センターコンソール)等に設けられ、運転者による自動変速モード(「D」レンジ)と手動変速モード(「M」レンジ)とを択一的に切り換える操作が可能とされた操作子である。シフトレバー4aには、シフトレバー4aと連動して動くように接続され、該シフトレバー4aの選択位置を検出するレンジスイッチが取り付けられている。該レンジスイッチにより、検出されたシフトレバー4aの選択位置が変速機制御部3に読み込まれる。なお、シフトレバー4aでは、「D」レンジ、「M」レンジの他、パーキング「P」レンジ、リバース「R」レンジ、ニュートラル「N」レンジを選択的に切り換えることができる。
【0028】
パドルスイッチ4bは、ステアリングホイール53に設けられ、運転者による変速操作(変速要求)が可能とされた操作子である。パドルスイッチ4bによっては、運転者は変速比をハイ側にシフトさせる要求(アップシフト要求)とロー側にシフトさせる要求(ダウンシフト要求)が可能とされている。
【0029】
操作子類4で得られる操作子ごとの操作入力信号はエンジン制御部2や変速機制御部3等の必要各部に供給される。
【0030】
センサ類5は、車両に設けられた各種のセンサを包括的に表している。特に本実施形態の場合、センサ類5には、クランクシャフト10aの回転位置の変化からエンジン回転数を検出するエンジン回転センサ5aと、アクセルペダルの踏み込み量を表すアクセル開度を検出するアクセル開度センサ5bと、車両1の走行速度である車速を検出する車速センサ5cと、プライマリプーリ34の回転数を検出するプライマリ回転センサ5bと、タービンランナ22の回転数を検出するタービン回転センサ5eと、自車走行路の勾配を検出する勾配センサ5fとが含まれる。
各センサによる検出信号はエンジン制御部2や変速機制御部3等の必要各部に供給される。
【0031】
エンジン制御部2及び変速機制御部3は、例えばCPU(Central Processing Unit)、ROM(Read Only Memory)、RAM(Random Access Memory)等を備えたマイクロコンピュータを備えて構成され、CAN(Controller Area Network)等の所定の車載ネットワーク通信規格に対応したバス6を介して相互にデータ通信可能に接続されている。
エンジン制御部2は、エンジン10についての燃料噴射制御、点火制御、吸入空気量調節制御などの各種運転制御を行う。具体的には、エンジン10に設けられた各種のアクチュエータ(例えばスロットル弁を駆動するスロットルアクチュエータや燃料噴射を行うインジェクタ等)を制御することでエンジン10についての各種運転制御を行う。
エンジン制御部2は変速機制御部3と通信を行っており、必要に応じてエンジン10の運転状態に関するデータを変速機制御部3に出力する。また、必要に応じ、変速機制御部3からの各種信号に基づいてエンジン10を運転制御を行う。
【0032】
変速機制御部3は、上述したコントロールバルブ部38を構成するソレノイドバルブ(電磁弁)の駆動を制御することにより、自動変速機30における動作を制御する。具体的には、プライマリプーリ34の油圧室34c及びセカンダリプーリ35の油圧室35cに供給する油圧を調節して、自動変速機30の変速比を変更する。また、ロックアップクラッチ24のロックアップ圧コントロールのための油圧を調整してロックアップクラッチ24の締結/解放等の制御を行う。
【0033】
また、変速機制御部3は、自動変速モードが選択されているときには、変速マップに従い、車両の運転状態(例えばアクセル開度及び車速等)に応じて変速比を無段階に変速する。なお、自動変速モードに対応する変速マップは変速機制御部3が備えるROMに格納されている。一方、変速機制御部3は、手動変速モードが選択されているときには、パドルスイッチ4a,4bにより受け付けられた変速操作に基づいて、変速比を制御する。
【0034】
さらに変速機制御部3は、アクセル操作に基づく運転者によるキックダウン要求があった場合に、自動変速機30の変速比をロー側に変化させてエンジン回転数を上昇させるキックダウン制御を行う。また変速機制御部3は、キックダウン時に対応してロックアップクラッチ24のロックアップ圧を制御する(詳細は後述する)。
【0035】
<2.キックダウン制御について>
図2を参照し、変速機制御部3が行うキックダウン制御について説明する。なお、以下「キックダウン」については「KD」と略称することがある。
先ず、KD制御にあたっては、アクセル操作に基づく運転者からのKD要求の有無を判定する(KD判定処理)。KD判定処理は、例えば、アクセル開度やアクセル開速度(アクセル開度の上昇率)が所定値以上となったか否かを判別することで行う。
ここで、運転者によるKD要求は、KD制御を実行中においても為される場合がある(例えば開始されたKD制御では十分な加速感が得られていないと判断した場合等)。このため本実施形態では、KD制御の実行中においてもKD判定処理を行う。以下、キックダウン制御を非実行中において行うKD判定処理、すなわちキックダウン制御を開始するか否かの判定として行うKD判定処理のことを「通常KD判定処理」と称し、KD制御中に行うKD判定のことを「再KD判定処理」と称する。
本例では、通常KD判定処理及び再KD判定処理としては、車速や勾配も考慮した判定を行う。具体的には、車速と勾配とに応じた上記所定値を定めたKD判定用マップが記憶され、該KD判定用マップに基づき上記所定値を取得し、アクセル開度やアクセル開速度が該所定値以上か否かを判定する。
なお、再KD判定処理としては、KD制御中におけるアクセル開度の増加量に基づいて行うものとしてもよい。例えば、後述する通常KD制御における第二KDステップ開始時のアクセル開度からのアクセル開度増加量が所定の増加量以上となったか否かを判定する手法等を挙げることができる。
【0036】
以下、通常KD判定処理により判定された運転者のKD要求を「通常KD要求」、再KD判定処理により判定された運転者のKD要求を「再KD要求」と表記する。
【0037】
通常KD要求があったと判定した場合、変速機制御部3はKD制御を開始する。本例におけるKD制御は、通常KD要求に応じて開始する第一KDステップと、第一KDステップに続けて行われる第二KDステップとの2ステップによる制御とされている。
【0038】
図2を参照して、これら第一KDステップと第二KDステップとを含む本例のKD制御について説明する。なお
図2では、下段に運転者による通常KD要求及び再KD要求を含むアクセル操作(時間軸上でのアクセル開度の変化)の例を、上段には下段に示したアクセル操作に対して本例のKD制御で設定される目標PRI回転数(短破線)、目標PRI回転数上限値(長破線)、及び実PRI回転数(実線)の時間軸上での変化を示している。
なお、「PRI回転数」はプライマリプーリ34の回転数を略称したものである。
【0039】
先ず、本例におけるKD制御としては、通常KD要求に応じて行われる通常KD制御と、再KD要求が行われた場合に対応して実行される再KD制御とがある。さらに、これら通常KD制御、再KD制御として行われる制御には、第一KDステップとしての制御と第二KDステップとしての制御とが含まれる。
通常KD制御、再KD制御それぞれにおける第一KDステップ、第二KDステップでは、それぞれ目標PRI回転数上限値、目標PRI回転数を算出し、目標PRI回転数に基づいてプライマリプーリ34の回転数(実PRI回転数)を制御する。具体的には、実PRI回転数が目標PRI回転数に収束するようにコントロールバルブ部38の制御を行う。
【0040】
通常KD制御、再KD制御それぞれにおける第一KDステップ、第二KDステップの詳細は下記の通りである。
[1]通常KD制御における第一KDステップ
・通常KD要求に応じて開始する。
・目標PRI回転数上限値:アクセル開度と車速とに基づく値を取得(当該第一KDステップ用のマップを使用)。該目標PRI回転数上限値は、所定周期で都度その時点でのアクセル開度と車速とに応じた値を取得する。当該第一KDステップにおける目標PRI回転数上限値のマップは、各車速からアクセル開度別の加速をした際に適切なダウンシフト量となるように作成されている。
・目標PRI回転数:目標PRI回転数上限値に当該第一KDステップ用の変化量制限を課して求めたもの。目標PRI回転数上限値が新たに取得されるごとに都度算出する。具体的に、目標PRI回転数は、目標PRI回転数の直前の算出タイミングから今回の算出タイミングにかけての目標PRI回転数の変化量(上昇率)が所定の変化量を超えない範囲で目標PRI回転数上限値に追従させるように算出する。このとき、上記「所定の変化量」としても、例えばアクセル開度と車速とで決まる値を対応するマップから都度取得する。
図中「第一KDステップ(通常KD時)」における目標PRI回転数上限値と目標PRI回転数とを対比すると、通常KD制御時の第一KDステップでは、目標PRI回転数上限値と目標PRI回転数とがほぼ一致しており、目標PRI回転数上限値に対する変化量制限は緩めに設定されていることが分かる。
・当該第一KDステップは、実PRI回転数が目標PRI回転数に達する(換言すれば目標のダウンシフト先へのダウンシフトが達成された)、又はKD制御終了条件(本例ではアクセル開度が所定値以下になるとの条件)の成立の何れかにより終了する。
【0041】
[2]通常KD制御における第二KDステップ
・上記[1]の第一KDステップの終了に応じて開始する。
・目標PRI回転数上限値:アクセル開度と車速とに基づく値を取得(当該第二KDステップ用のマップを使用)。該目標PRI回転数上限値としても、所定周期で都度その時点でのアクセル開度と車速とに応じた値を取得する。
・目標PRI回転数:目標PRI回転数上限値に当該第二KDステップ用の変化量制限を課して求めたもの。目標PRI回転数上限値が新たに取得されるごとに都度算出する。
先の「第一KDステップ(通常KD時)」と図中「第二KDステップ(通常KD時)」との間で目標PRI回転数上限値と目標PRI回転数との関係と対比すると、通常KD制御時の第二KDステップでは、目標PRI回転数上限値と目標PRI回転数との乖離が大きく、目標PRI回転数上限値に対する変化量制限が大きめに設定されていることが分かる。
・当該第二KDステップは、実PRI回転数が目標PRI回転数上限値に達する、又はKD制御終了条件の成立の何れかにより終了する。
なお、当該第二KDステップは、実PRI回転数をアクセル開度と車速とで決まる傾きで上昇させる制御と換言することができるものである。
【0042】
[3]再KD制御における第一KDステップ
・再KD要求に応じて開始する。
・目標PRI回転数:再KD判定時(再KD要求があったと判定された時点)の目標PRI回転数(図中「X」で表す)にアクセル開度とエンジン回転数とで決まるダウンシフト量(マップを使用)を加えて算出する。この場合の目標PRI回転数は、所定周期で都度その時点でのアクセル開度とエンジン回転数とに応じたダウンシフト量を取得し、再KD判定時の目標PRI回転数に該取得したダウンシフト量を加算することで都度算出する。
なお、ダウンシフト量は、エンジン回転数に代えて実PRI回転数等のエンジン回転数に相関する他の指標値を用いて求まるようにすることもできる。
・当該第一KDステップは、実PRI回転数が目標PRI回転数に達する、又はKD制御終了条件の成立の何れかにより終了する。
【0043】
[4]再KD制御における第二KDステップ
・上記[3]の第一KDステップの終了に応じて開始する点以外は、上記[2]の第二KDステップと同様となる。つまり、再KD制御における第二KDステップとしても、実PRI回転数をアクセル開度と車速とで決まる傾きで上昇させる制御となる。
【0044】
なお、上記で例示したKD制御はあくまで一例であり、本発明で前提とするKD制御としては、KD要求に応じて自動変速機の変速比をロー側に変化させてエンジン回転数を上昇させるものであり、且つ再KDに応じたKD制御を含むものであればよい。
【0045】
<3.実施の形態としてのロックアップ制御>
ここで、ロックアップクラッチ24が締結状態にあるときは、アクセル操作に対してエンジン10の回転数の上昇が比較的遅くなる。これは、プライマリ軸33上のイナーシャにエンジントルクがとられるためである。従って、KD時にロックアップクラッチ24が締結状態のままであると、アクセル操作に対する駆動力や音(エンジン回転数の上昇感)のレスポンスを十分に高めることができない。
【0046】
そこで、本実施形態では、KD時に対応してロックアップクラッチ24を一時的に解放する制御を行う。つまり、通常KD時と再KD時の双方において、所定の解放条件の成立に応じてロックアップクラッチ24を一時的に解放する制御を行う。
【0047】
但し、再KD要求は、運転者が直前のKD要求に対して十分な加速が得られていないと感じる場合や、キックダウンによる加速中に追い越しや合流等のためさらなる加速を要する場合に行われるものであり、再KD要求に対して十分な加速感を与えられない場合には、運転者に大きな違和感を与え兼ねない。このため、本実施形態では、通常KD時に対応したロックアップクラッチ24の解放条件に対して、再KD時に対応した同解放条件を緩和して、再KD時にロックアップクラッチ24がより解放され易くする。
【0048】
具体的に、本実施形態では、通常KD要求に応じては、解放条件として、
「通常KD時のアクセル開速度≧第一解放開速度閾値THa1」
「第一KDステップ(上記した[1]の第一KDステップ)開始時の目標PRI回転数と現在の実PRI回転数との差≧第一差分閾値THd1」
の両条件を満たすか否かを判定し、満たす場合にはロックアップクラッチ24を解放状態とし、満たさなければロックアップクラッチ24を解放状態としないようにする。
ここで、上記「通常KD時のアクセル開速度≧第一解放開速度閾値THa1」は、KD要求時のアクセルの操作態様を表す指標値と換言できる。
また、上記「第一KDステップ開始時の目標PRI回転数と現在の実PRI回転数との差」は、KD時のアクセル開度に応じて求まる目標ダウンシフト量に相関した指標値と換言できる(本例では「第一KDステップ開始時の目標PRI回転数」は上述のようにアクセル開度と車速とに基づいて算出されるものであるため)。
前者のアクセル操作態様に係る条件(アクセル操作条件)のみでなく、後者の目標ダウンシフト量に係る条件(ダウンシフト量条件)を解放条件に組み入れているのは、目標ダウンシフト量が少ない場合、ロックアップ開放をしてもエンジン回転数上昇量が少ないため大幅な加速感向上が望めない点を考慮したものである。すなわち、上記のようなダウンシフト量条件に基づくロックアップ解放を行うことで、ロックアップ解放がアクセル操作態様のみに基づいて無闇に行われてしまうことの防止を図ることができ、ロックアップクラッチ24のスリップによる燃費の悪化やロックアップクラッチ24の寿命低下の抑制を図ることができるものである。
【0049】
これに対し、再KD要求に応じては、解放条件として、
「再KD時のアクセル開速度≧第二解放開速度閾値THa2」
「第一KDステップ(上記した[3]の第一KDステップ)開始時の目標PRI回転数と現在の実PRI回転数との差≧第二差分閾値THd2」
の両条件を課すものとし、これらの条件で用いる「第二解放開速度閾値THa2」「第二差分閾値THd2」の各閾値を通常KD要求に対する解放条件の場合よりも緩和する。具体的には、「THa1>THa2」「THd1>THd2」とすることで、解放条件を緩和する。
【0050】
上記のように再KD要求に対する解放条件を緩和する、すなわち再KD要求時にロックアップがより解放され易くすることで、運転者が加速不足を感じやすいと推定される場合に対応して、ロックアップがより解放され易くなり、運転者の意図を適切に反映したキックダウン時のロックアップ制御を実現できる。
【0051】
図3は、KD要求に応じたロックアップ解放の効果を説明するための図として、先の
図2の下段に示したものと同様のアクセル操作に対するEG(エンジン)回転数の変化を実線により、実PRI回転数を
短破線で表している。なお
図3では比較として、
長破線によりロックアップ解放をしない場合の実PRI回転数(=EG回転数)の変化(
図2の上段で示した実PRI回転数の変化)を併せて示している。
これら実線と破線との対比より、KD要求に応じたロックアップ解放を行うことで、プライマリプーリ34の回転数(エンジン10の回転数)の上昇が速まることが分かる。つまり、加速レスポンスの向上やKD感の明確化が図られるものである。
【0052】
本実施形態では、KD要求に応じてロックアップ解放速度をより速める、すなわち加速レスポンスの向上やKD感の明確化がより図られるように、KD要求の前段階でロックアップクラッチ24のロックアップ圧を締結状態から僅かに減圧しておく制御を行う。
このようなKD要求の前段階における減圧制御は、減圧条件の成立に応じて行うもので、通常KD要求、再KD要求の双方について行う。
【0053】
具体的に、通常KD要求の前段階における減圧制御として、先ず、
「アクセル開度≧車速と勾配とで決まる第一減圧開度閾値THb1(マップ使用)」
「アクセル開速度≧第一減圧開速度閾値THe1」
の何れかを満たすとの減圧条件の成立有無を判定する(以下「第一プレ判定処理」と表記)。第一プレ判定処理は、直前のKD制御終了から通常KD要求が行われるまでの期間を対象として行う。第一プレ判定処理により上記の減圧条件が成立したと判定した場合、ロックアップクラッチ24のロックアップ圧を減圧する。この際の減圧度合いは、少なくともロックアップクラッチ24が解放状態とならない範囲内の任意の度合いとする。例えば、エンジン回転数とタービン回転数(タービン回転センサ5eにより検出)との差が所定値以内に収まるように減圧度合いを定める。
【0054】
上記のような第一プレ判定処理で用いる第一減圧開度閾値THb1、第一減圧開速度閾値THe1については、先に説明した通常KD判定処理で用いるアクセル開度やアクセル開速度についての「所定値」に対して相対的に小さい値が用いられるようにする。すなわち、第一減圧開度閾値THb1については、同じ車速及び勾配の条件下で「所定値」よりも小さいアクセル開度が第一減圧開度閾値THb1以上となり得るように車速と勾配との組合せに対して対応づける値が設定される。また、第一減圧開速度閾値THe1については、「所定値」よりも小さいアクセル開度が第一減圧開速度閾値THe1以上となり得るように設定される。これにより、通常KD要求の前にロックアップ圧を減圧することが可能となるようにされる。
【0055】
また、再KD要求の前段階における減圧制御としては、
「アクセル開度≧車速と勾配とで決まる第二減圧開度閾値THb2(マップ使用)」
「アクセル開速度≧第二減圧開速度閾値THe2」
の何れかを満たすとの減圧条件の成立有無を判定する(以下「第二プレ判定処理」と表記)。この第二プレ判定処理は、通常KD要求が行われた後、該通常KD要求に応じて開始されたKD制御終了までの期間を対象として行う。第二プレ判定処理により上記の減圧条件が成立したと判定した場合、ロックアップクラッチ24のロックアップ圧を減圧する。この場合の減圧度合いは、上記した通常KD要求の前段階における減圧制御の場合と同様である。或いは、この場合のロックアップ圧は、通常KD要求の前段階における減圧制御の場合のロックアップ圧よりも減圧されたものとすることも考えられる(再KD要求に対するロックアップ解放速度をより速める意図)。
【0056】
第二プレ判定処理で用いる第二減圧開度閾値THb2、第二減圧開速度閾値THe2については、再KD要求の前にロックアップ圧を減圧することが可能となるように、再KD判定処理で用いるアクセル開度やアクセル開速度についての「所定値」に対して相対的に小さい値が用いられるようにする。つまり、第二減圧開度閾値THb2については、同じ車速及び勾配の条件下で「所定値」よりも小さいアクセル開度が第二減圧開度閾値THb2以上となり得るように車速と勾配との組合せに対して対応づける値が設定され、また、第二減圧開速度閾値THe2については、「所定値」よりも小さいアクセル開度が第二減圧開速度閾値THe2以上となり得るように設定される。
【0057】
ここで、上記した通常KD、再KDの双方の減圧制御では、減圧条件が満たされロックアップ圧の減圧を行ったとき、該減圧のタイミングから所定時間内に通常KD要求がなければ、ロックアップ圧を復帰させる。すなわち、ロックアップクラッチ24を締結状態に戻す。これにより、KD要求に応じたロックアップクラッチ24の解放速度を速めることによる加速レスポンスの向上と、ロックアップクラッチ24のスリップによる燃費の悪化やロックアップクラッチ24の寿命低下の抑制との両立が図られる。
【0058】
本例では、上記のような減圧制御についても、制御の開始条件が、通常KD時よりも再KD時の方で緩和されるようにする。すなわち、再KD時に対応した第二プレ判定処理で用いる減圧条件の方が、通常KD時に対応した第一プレ判定処理で用いる減圧条件よりも緩和されるようにする。
具体的には、「第一減圧開度閾値THb1>第二減圧開度閾値THb2」「第一減圧開速度閾値THe1>第二減圧開速度閾値THe2」とすることで、再KD時に対応した減圧条件の方が緩和されるようにする。
【0059】
本実施形態のロックアップ解放制御では、再KD時の解放条件が緩和されていることで、通常KD時よりもロックアップ解放がされ易くなっているが、この状況において再KD時の減圧条件が通常KD時と同等とされていると、再KD時にはロックアップ圧の減圧を経ずにロックアップ解放が行われる可能性が高まり、レスポンス低下を招き易くなる虞がある。このため、上記のように再KD時にはロックアップ圧の減圧もされ易くすることで、再KD時にロックアップ圧の減圧を経ずにロックアップ解放されることの防止を図っている。これにより、再KD時におけるレスポンス低下の防止を図ることができる。
【0060】
<4.処理手順>
図4及び
図5のフローチャートを参照して、上記した実施の形態としてのロックアップ制御を実現するために実行されるべき具体的な処理の手順を説明する。
なお、
図4及び
図5に示す処理は、
図1に示した変速機制御部3(CPU)が例えば内蔵するROM等の所定の記憶装置に格納されたプログラムに従って実行するものである。変速機制御部3は、
図4及び
図5に示す処理を所定の周期で繰り返し実行する。
【0061】
図4において、変速機制御部3はステップS101で、「アクセル開度≧第一減圧開度閾値THb1」であるか否かを判定する。前述のように第一減圧開度閾値THb1は車速と勾配とで決まる値であり、本例ではマップを使用して第一減圧開度閾値THb1を取得する。「アクセル開度≧第一減圧開度閾値THb1」でなければ、変速機制御部3はステップS102に進み、「アクセル開速度≧第一減圧開速度閾値THe1」であるか否かを判定する。これらステップS101及びS102の判定処理は、前述した通常KD要求の前段階における減圧制御の減圧条件成立有無を判定する処理(第一プレ判定処理)に相当する。
ステップS102において、「アクセル開速度≧第一減圧開速度閾値THe1」でなければ、変速機制御部3は
図4及び
図5に示す処理を終える。すなわち、減圧条件が成立しなければロックアップ圧の減圧は行われない。
【0062】
ステップS101で「アクセル開度≧第一減圧開度閾値THb1」であると判定した場合、又はステップS102で「アクセル開速度≧第一減圧開速度閾値THe1」であると判定した場合、変速機制御部3はステップS103に進み、ロックアップ圧を減圧するための処理を行う。すなわち、コントロールバルブ部38によってロックアップクラッチ24のロックアップ圧を締結状態時の圧から減圧させる。
【0063】
続くステップS104で変速機制御部3は、ロックアップ圧の減圧処理を行ってから所定時間が経過したか否かを判定する。所定時間が経過していれば、変速機制御部3はステップS105に進み、ロックアップ圧復帰処理としてコントロールバルブ部38によってロックアップクラッチ24のロックアップ圧を締結状態時の圧に戻させる処理を行い、
図4及び
図5に示す処理を終える。
【0064】
一方、ステップS104で所定時間が経過していなければ、変速機制御部3はステップS106に進んで通常KD要求が行われたか否かを判定し(前述した通常KD判定処理)、通常KD要求が行われていなければステップS104に戻る。すなわち、ステップS104及びS106の処理によっては、ロックアップ圧の減圧からの所定時間の経過、又は通常KD要求の何れかを待機するループ処理が形成されている。
【0065】
通常KD要求が行われたと判定した場合、変速機制御部3はステップS107に進む。ステップS107及びS108の処理によっては、通常KD要求時に対応した解放条件の成立有無が判定される。すなわち、ステップS107で変速機制御部3は、「通常KD時のアクセル開速度≧第一解放開速度閾値THa1」か否かを判定する。「通常KD時のアクセル開速度≧第一解放開速度閾値THa1」でなければ、解放条件は成立していないため、変速機制御部3はステップS109に進んでロックアップ圧復帰処理を行う。すなわち、通常KD要求があっても解放条件が成立せずロックアップ解放を行わない場合は、ロックアップクラッチ24が締結状態に戻される。
一方、ステップS107で「通常KD時のアクセル開速度≧第一解放開速度閾値THa1」であれば、変速機制御部3はステップS108で「第一KDステップ開始時の目標PRI回転数と現在の実PRI回転数との差≧第一差分閾値THd1」か否かを判定する。なお、先の説明からも理解されるように、ここでの「第一KDステップ」とは前述した[1]の第一KDステップを意味する。「第一KDステップ開始時の目標PRI回転数と現在の実PRI回転数との差≧第一差分閾値THd1」でなければ、解放条件は成立していないため、変速機制御部3はステップS109に進んでロックアップ圧復帰処理を行う。
【0066】
これに対し、「第一KDステップ開始時の目標PRI回転数と現在の実PRI回転数との差≧第一差分閾値THd1」である、すなわちステップS107及びS108の両条件を満たす場合、変速機制御部3はステップS111に進み、ロックアップ解放処理として、コントロールバルブ部38によってロックアップクラッチ24を解放状態とさせる処理を行う。
【0067】
ステップS111のロックアップ解放処理を行ったことに応じ、変速機制御部3はステップS112でKD制御が終了したか否かを判定する。前述のようにKD制御の終了条件は、本例ではアクセル開度が所定値以下になるとの条件とされている。
KD制御が終了していれば、変速機制御部3はステップS113に進み、ロックアップ締結処理として、コントロールバルブ部38によってロックアップクラッチ24を締結状態とさせる処理を行った上で、
図4及び
図5に示す処理を終える。
【0068】
一方、KD制御が終了していなければ、変速機制御部3はステップS114に進み、ロックアップ締結条件の成立有無を判定する。該ロックアップ締結条件は、KD制御中においてロックアップクラッチ24を解放状態から締結状態にする制御の開始条件として予め定められた条件である。ロックアップ締結条件が成立していなければ、変速機制御部3はステップS112に戻ってKD制御が終了したか否かを再び判定する。つまり、ステップS112及びS114の処理により、ロックアップ解放後においてKD制御終了又はロックアップ締結条件の成立の何れかを待機するループ処理が形成されている。
【0069】
ステップS114でロックアップ締結条件が成立したと判定した場合、変速機制御部3はステップS115に進んでロックアップ締結処理を実行し、
図5に示すステップS116に処理を進める。
図5に示す処理は、再KDに対応した処理となる。
【0070】
なお、先のステップS109でロックアップ圧復帰処理を行った場合、すなわち第一プレ判定処理によりロックアップ圧の減圧を行った後に通常KD要求が行われてKD制御が開始されたが、解放条件が成立しないためロックアップ解放を行わずにロックアップクラッチ24を減圧状態から締結状態に戻した場合には、変速機制御部3は、ステップS110でKD制御が終了したか否かを判定し、KD制御が終了していれば
図4及び
図5に示す処理を終える一方で、KD制御が終了していなければ
図5に示すステップS116に処理を進める。この点から理解されるように、本例では、通常KD要求があっても解放条件が成立しなければロックアップ解放は行われず、またそのようにロックアップ解放が行われなかった場合であっても、
図5に示す再KDに対応した処理、すなわち前述した再KD時に対応するロックアップクラッチ24の減圧やその後の解放制御が行われ得るものである。
【0071】
図5において、ステップS116及びS117の判定処理は、前述した再KD要求の前段階における減圧制御の減圧条件成立有無を判定する処理(第二プレ判定処理)に相当する。具体的に、変速機制御部3はステップS116で、「アクセル開度≧第二減圧開度閾値THb2」であるか否かを判定する。先の第一減圧開度閾値THb1と同様に、第二減圧開度閾値THb2は車速と勾配とで決まる値であり、本例ではマップを使用して該閾値THb2を取得する。
「アクセル開度≧第二減圧開度閾値THb2」でなければ、変速機制御部3はステップS117に進み、「アクセル開速度≧第二減圧開速度閾値THe2」であるか否かを判定する。「アクセル開速度≧第二減圧開速度閾値THe2」でなければ、変速機制御部3はステップS118でKD制御が終了したか否かを判定し、KD制御が終了していなければステップS116に戻り(つまり減圧条件の成立有無を再度判定し)、KD制御が終了していれば
図4及び
図5に示す処理を終える。
【0072】
ステップS116で「アクセル開度≧第二減圧開度閾値THb2」であると判定した場合、又はステップS117で「アクセル開速度≧第二減圧開速度閾値THe2」であると判定した場合、変速機制御部3はステップS119に進みロックアップ圧を減圧するための処理を行う。これにより、減圧条件の成立に応じて再KD要求の前段階におけるロックアップクラッチ24の減圧が実現される。
【0073】
続くステップS120で変速機制御部3は、ロックアップ圧の減圧処理を行ってから所定時間が経過したか否かを判定し、所定時間が経過している場合は、ステップS124に進んでロックアップ圧復帰処理を行った上で、ステップS125でKD制御が終了したか否かを判定し、KD制御が終了していなければステップS116に戻り(つまり第二プレ判定処理を再度行い)、KD制御が終了していれば
図4及び
図5に示す処理を終える。
【0074】
一方、ステップS120で所定時間が経過していなければ、変速機制御部3はステップS121で再KD要求が行われたか否かを判定し(前述した再KD判定処理)、再KD要求が行われていなければステップS120に戻る。つまり、ステップS120及びS121の処理によって、ロックアップ圧の減圧からの所定時間の経過、又は再KD要求の何れかを待機するようにされている。
【0075】
再KD要求が行われたと判定した場合、変速機制御部3はステップS122及びステップS123による再KD要求時に対応した解放条件の成立有無判定のための処理を行う。すなわち、ステップS123で変速機制御部3は、「再KD時のアクセル開速度≧第二解放開速度閾値THa2」か否かを判定し、「再KD時のアクセル開速度≧第二解放開速度閾値THa2」でなければ、解放条件は成立していないため、ステップS124に進んでロックアップ圧復帰処理を行う。すなわち、再KD要求があっても解放条件が成立せずロックアップ解放を行わない場合は、ロックアップクラッチ24が締結状態に戻され、その後第二プレ判定処理が再度行われるか、或いはKD制御の終了に応じて
図4及び
図5に示す処理が終了となる。
【0076】
一方、ステップS122で「再KD時のアクセル開速度≧第二解放開速度閾値THa2」であれば、変速機制御部3はステップS123で「第一KDステップ開始時の目標PRI回転数と現在の実PRI回転数との差≧第二差分閾値THd2」か否かを判定する。先の説明からも理解されるように、ここでの「第一KDステップ」は前述した[3]の第一KDステップを意味する。「第一KDステップ開始時の目標PRI回転数と現在の実PRI回転数との差≧第二差分閾値THd2」でなければ、解放条件は成立していないため、変速機制御部3はステップS124に進んでロックアップ圧復帰処理を行う(ロックアップ解放は行わない)。
【0077】
また、ステップS123で「第一KDステップ開始時の目標PRI回転数と現在の実PRI回転数との差≧第二差分閾値THd2」であると判定した場合、すなわちステップS122及びS123の両条件が満たされる場合、変速機制御部3はステップS126に進み、ロックアップ解放処理を行う。
【0078】
ステップS126のロックアップ解放処理を行ったことに応じ、変速機制御部3はステップS127でKD制御が終了したか否かを判定し、KD制御が終了していなければ、
図4に示したステップS114に進み、ロックアップ締結条件の成立有無を判定する。これにより、再KDに対応したロックアップ解放後は、ロックアップ締結条件の成立に応じてロックアップ締結処理が行われ、その後に再度の再KDに対応する処理(第二プレ判定処理やロックアップ解放条件の成立有無判定等)が行われ得る。
一方、ステップS127でKD制御が終了していれば、変速機制御部3はステップS128に進んでロックアップ締結処理を行った上で、
図4及び
図5に示す処理を終える。
【0079】
なお、上記では、通常KD/再KDに対応した解放条件や減圧条件について、判定項目を同一とした上で判定で用いる閾値を異ならせることにより条件を緩和する例を挙げたが、解放条件や減圧条件の緩和は、課す条件の数を減らす、つまり条件成立有無の判定項目数を減らす等により実現することもできる。
【0080】
また、解放条件の緩和度合いは、自車走行路の勾配に応じて可変とすることもできる。その場合、変速機制御部3は、勾配センサ5fで検出される勾配に応じて、再KD要求に対して用いる解放条件の通常KD要求に対して用いる解放条件に対する緩和度合いを可変とする。
これにより、上り勾配がきつければロックアップクラッチ24がより解放され易くする等、再KD要求時に対応したロックアップ解放を勾配に応じて適切に行うことができる。
【0081】
<5.実施の形態のまとめ>
上記のように実施の形態の車両制御装置(変速機制御部3)は、ロックアップクラッチが設けられたトルクコンバータを有する自動変速機を備えた車両における車両制御装置であって、アクセル操作に基づくキックダウン要求に基づき、変速比をロー側に変化させてエンジン回転数を上昇させるように制御するキックダウン制御を実行するキックダウン制御部を備える。
また、キックダウン要求に基づき、ロックアップクラッチを解放条件の成立に応じて解放状態とするロックアップ解放制御を行うロックアップ制御部とを備える。
その上で、キックダウン制御を非実行中におけるキックダウン要求を通常キックダウン要求、キックダウン制御を実行中におけるキックダウン要求を再キックダウン要求としたとき、ロックアップ制御部は、通常キックダウン要求に対して用いる解放条件よりも緩和された解放条件に基づいて再キックダウン要求に応じたロックアップ解放制御を行うものである。
【0082】
これにより、再キックダウン要求時にロックアップがより解放され易くなる。すなわち、運転者が加速不足を感じやすいと推定される場合に対応して、ロックアップがより解放され易くなる。
従って、運転者の意図を適切に反映したキックダウン時のロックアップ制御を実現でき、運転者が抱く違和感の緩和を図ることができる。
【0083】
また、実施の形態の車両制御装置においては、ロックアップ制御部は、通常及び再キックダウン要求に応じたロックアップ解放制御を、キックダウン要求時のアクセルの操作態様を表す指標値(上記例ではアクセル開速度)と第一閾値(THa1又はTHa2)との大小関係として定義されたアクセル操作条件と、キックダウン要求時のアクセル開度に応じて求まる目標ダウンシフト量に相関した指標値(上記例では第一KDステップ開始時の目標PRI回転数と現在の実PRI回転数との差)と第二閾値(THd1又はTHd2)との大小関係として定義されたダウンシフト量条件とを含む解放条件に基づいて行っている。
目標ダウンシフト量が少ない場合、ロックアップ開放をしてもエンジン回転数上昇量が少ないため大幅な加速感向上は望めない。このため、上記のようなダウンシフト量条件に基づくロックアップ解放を行うことで、ロックアップ解放がアクセル操作態様のみに基づいて無闇に行われてしまうことの防止を図ることができ、ロックアップクラッチのスリップによる燃費の悪化やロックアップクラッチの寿命低下の抑制を図ることができる。
【0084】
さらに、実施の形態の車両制御装置においては、ロックアップ制御部は、通常キックダウン要求と再キックダウン要求とで第一及び第二閾値として用いる値を変化させることで解放条件を緩和させている。
これにより、解放条件を満たすか否かを判定する上での判定項目の種類や数を通常/再キックダウン時ごとに変える必要がなくなり、ロックアップ制御に係る処理の複雑化の防止を図ることができる。
【0085】
さらにまた、実施の形態の車両制御装置においては、自車走行路の勾配を検出する勾配検出部(勾配センサ5f)を備え、ロックアップ制御部は、再キックダウン要求に対して用いる解放条件の通常キックダウン要求に対して用いる解放条件に対する緩和度合いを勾配に応じて可変としている。
これにより、上り勾配がきつければロックアップクラッチがより解放され易くする等、再キックダウン要求時に対応したロックアップ解放を勾配に応じて適切に行うことができる。
【0086】
また、実施の形態の車両制御装置においては、ロックアップ制御部は、通常キックダウン要求の前段階、及び再キックダウン要求の前段階のそれぞれにおいて、ロックアップクラッチのロックアップ圧を減圧条件の成立に応じて減圧させる減圧制御を行っている。
これにより、通常キックダウン、再キックダウンの双方について、解放条件の成立からロックアップ解放されるまでの時間を短縮化でき、運転者のアクセル操作に対するレスポンス向上を図ることができる。
【0087】
さらに、実施の形態の車両制御装置においては、ロックアップ制御部は、通常キックダウン要求の前段階における減圧制御で用いる減圧条件よりも緩和された減圧条件に基づいて再キックダウン要求の前段階における減圧制御を行っている。
これにより、再キックダウン時にはロックアップ圧の減圧もされ易くなり、再キックダウン時にロックアップ圧の減圧を経ずにロックアップ解放されることの防止が図られる。
従って、再キックダウン時におけるレスポンス低下の防止を図ることができる。