(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記アルミニウム合金部は、更に、0.01〜0.3質量%のCr、0.01〜0.3質量%のZr及び0.01〜0.3質量%のTiのうちの1種又は2種以上を含有することを特徴とする請求項1又は2いずれか1項記載の熱交換器用アルミニウム合金扁平管。
【発明の概要】
【0020】
本発明の熱交換器用アルミニウム合金扁平管の製造方法は、0.1〜0.7質量%のCuを含有し、残部アルミニウム及び不可避的不純物からなるアルミニウム合金の扁平管の平坦面に、5〜20g/m
2の亜鉛溶射層を設けた亜鉛溶射素管の平坦面同士を重ね合わせ、最高到達温度が430〜550℃で、下記式(1)に示す亜鉛の総拡散量ΣDtが0.8×10
−9〜4.6×10
−9m
2の範囲になるように加熱する予備拡散加熱処理を行うことを特徴する熱交換器用アルミニウム合金扁平管の製造方法である。
ΣDt=ΣD
0・exp(−Q/(R・Tn))・Δtn (1)
(式中、Tnは、予備拡散加熱を開始して温度が200℃に到達した時から予備拡散加熱を終了して温度が200℃に到達した時までの総加熱時間を、微小時間Δtn(秒)で区切ったときの各微小時間の温度(℃)であり、D
0は、1.77×10
−5(m
2/s)であり、Qは、117000(kJ/mol)であり、Rは、8.3145(J/mol・K)である。)
【0021】
本発明の熱交換器用アルミニウム合金扁平管の製造方法について、
図1〜
図9を参照して説明する。
図1は、亜鉛溶射層が形成される前のアルミニウム合金製の扁平多穴管の形態例を示す模式的な斜視図である。
図2は、
図1のアルミニウム合金製の扁平多穴管の断面図である。
図3は、亜鉛溶射素管の形態例を示す模式的な断面図である。
図4〜
図6は、亜鉛溶射素管の平坦面同士を重ね合わせる様子を示す模式図であり、
図4は、平坦面同士を重ね合わせる前の亜鉛溶射素管の斜視図であり、
図5は、平坦面同士を重ね合わせる前の亜鉛溶射素管を、
図3中の符号Bの方向から見た側面図であり、
図6は、平坦面同士を重ね合わせた後の亜鉛溶射素管を、
図3中の符号Bの方向から見た側面図である。
図7は、本発明の熱交換器用アルミニウム合金扁平管の形態例を示す模式的な斜視図である。
図8は、
図7の熱交換器用アルミニウム合金扁平管の断面図である。
図9は、ヒートパターンを示す模式的なグラフである。
【0022】
先ず、本発明の熱交換器用アルミニウム合金扁平管の製造方法に係る予備拡散加熱処理で、予備拡散加熱される亜鉛溶射素管について説明する。
【0023】
亜鉛溶射素管は、アルミニウム合金製の扁平管に、亜鉛を溶射することにより得られる。
図1及び
図2に示すアルミニウム合金製の扁平多穴管1は、亜鉛溶射層が形成される前のアルミニウム合金製の扁平多穴管である。このアルミニウム合金製の扁平多穴管1は、アルミニウム合金を、管軸方向(
図1中、符号Aで示す方向)に押出成形することにより得られる押出成形体である。そして、アルミニウム合金製の扁平多穴管1は、略平行な2面の平坦面2を有する。また、アルミニウム合金製の扁平多穴管1内には、管軸方向に、複数の孔4が形成されている。
【0024】
次いで、
図3に示すように、アルミニウム合金製の扁平多穴管1の平坦面2に、亜鉛を溶射することにより、亜鉛溶射層5を設けて、アルミニウム合金部3の表面に亜鉛溶射層5が設けられている亜鉛溶射素管6を得る。亜鉛溶射素管6に溶射されている亜鉛量は、5〜20g/m
2である。
【0025】
そして、予備拡散加熱処理では、
図4〜
図6に示すように、複数の亜鉛溶射素管6を、亜鉛溶射素管の平坦面7同士を重ね合わせて積層し、次いで、最高到達温度が430〜550℃で、式(1)に示す亜鉛の総拡散量ΣDtが0.8×10
−9〜4.6×10
−9m
2の範囲になるように加熱する。
【0026】
このように、予備拡散加熱処理を行うことにより、亜鉛溶射素管6の亜鉛溶射層5の亜鉛を、アルミニウム合金部3に拡散させて、
図7及び
図8に示すように、扁平多穴管の形状のアルミニウム合金部13の平坦面12側に、亜鉛拡散層15を有する熱交換器用アルミニウム合金扁平管11を得る。なお、作図の都合上、
図7及び
図8では、亜鉛拡散層15を黒色で示しているが、亜鉛拡散層15は、亜鉛溶射層より拡散してきた亜鉛を含有するアルミニウム合金である。
【0027】
本発明の熱交換器用アルミニウム合金扁平管の製造方法に係る予備拡散加熱処理において、予備拡散加熱される亜鉛溶射素管は、アルミニウム合金製の扁平管の略平行な2つの平坦面上に、亜鉛溶射層が設けられているアルミニウム合金扁平管である。つまり、亜鉛溶射素管は、扁平管の形状のアルミニウム合金部と、亜鉛溶射層と、からなる。
【0028】
亜鉛溶射素管のアルミニウム合金部を形成するアルミニウム合金(以下、アルミニウム合金Aとも記載する。)は、0.1〜0.7質量%のCuを含有し、残部アルミニウム及び不可避不純物からなる。
【0029】
アルミニウム合金AのCuの含有量は、0.1〜0.7質量%である。アルミニウム合金中のCuは、扁平管の強度を高くする。アルミニウム合金AのCuの含有量が、上記範囲未満だと、Cuによる強度の向上効果が不十分となり、また、上記範囲を超えると、扁平管の押出性が低下する。
【0030】
アルミニウム合金Aは、更に、0.1〜1.2質量%のSi及び0.1〜1.8質量%のMnのうちの1種又は2種を含有することができる。
【0031】
アルミニウム合金中のSiは、扁平管の強度を高くする。アルミニウム合金AのSiの含有量は、0.1〜1.2質量%である。アルミニウム合金A中のSiの含有量が、上記範囲未満だと、Siによる強度の向上効果が不十分となり、また、上記範囲を超えると、扁平管の融点が低下して、ろう付けが困難となる。
【0032】
アルミニウム合金中のMnは、扁平管の強度を高くする。アルミニウム合金AのMnの含有量は、0.1〜1.8質量%である。アルミニウム合金A中のMnの含有量が、上記範囲未満だと、Mnによる強度の向上効果が不十分となり、また、上記範囲を超えると、粗大化合物を生じるため、押出性が低下する。
【0033】
アルミニウム合金Aは、更に、0.01〜0.3質量%のCr、0.01〜0.3質量%のZr及び0.01〜0.3質量%のTiのうちの1種又は2種以上を含有することができる。
【0034】
アルミニウム合金中のCr、Zr、Tiは、ろう付け後の結晶粒径を粗大化し、ろう付け性を向上させる。アルミニウム合金AのCr、Zr、Tiの含有量が、上記範囲未満だと、Cr、Zr、Tiによる効果が不十分となり、また、上記範囲を超えると、粗大化合物が生じるため押出性が低下する。
【0035】
アルミニウム合金部、つまり、アルミニウム合金製の扁平管は、通常、アルミニウム合金を押出成形することにより得られる。また、アルミニウム合金部、つまり、アルミニウム合金製の扁平管は、通常、管軸方向に延びる孔を、複数有する多穴管である。アルミニウム合金部に形成されている孔の数は、特に制限されない。
【0036】
亜鉛溶射素管は、アルミニウム合金部、つまり、アルミニウム合金製の扁平管の2つの平坦面に、亜鉛を溶射して亜鉛溶射層を形成することにより得られるが、アルミニウム合
金製の扁平管に亜鉛を溶射する方法は、特に制限されず、従来より行われている亜鉛の溶射方法を適宜用いることができる。溶射に用いる素線としては、製造が容易であることから、純亜鉛線が、好ましく用いられる。
【0037】
亜鉛溶射素管に設けられている亜鉛溶射層の亜鉛量は、5〜20g/m
2、好ましくは13〜20g/m
2、特に好ましくは15〜20g/m
2である。亜鉛溶射素管に設けられている亜鉛溶射層の亜鉛量が上記範囲にあることにより、貫通腐食が発生し難くなり、熱交換器コアの耐食性が高くなる。一方、亜鉛溶射素管に設けられている亜鉛溶射層の亜鉛量が上記範囲未満であっても、あるいは、上記範囲を超えていても、熱交換器コアの耐食性が低くなる。
【0038】
そして、予備拡散加熱処理では、亜鉛溶射素管の平坦面同士を重ね合わせた状態で加熱する。亜鉛溶射素管の平坦面同士を重ね合わせた状態で加熱することで予備拡散熱処理時に亜鉛が蒸発し難くなる。亜鉛溶射素管の平坦面同士を重ね合わせる形態としては、
図4〜
図6に示すように、管軸が直線状(直管)の複数の亜鉛溶射管を用意し、それらの亜鉛溶射管の平坦面同士を重ね合わせて積層する形態に限定されず、亜鉛溶射管の平坦面同士が重ね合わさる形態であればよい。他の形態としては、1本の長い亜鉛溶射管を、平坦面同士が重なるように、コイル状に1列巻きあるいは整列巻き取りした形態が挙げられる。また、コイル状にランダムに巻き取りした形態も可能である。
【0039】
予備拡散加熱処理では、平坦面同士を重ね合わせた亜鉛溶射管を、430℃〜550℃で加熱する。つまり、最高到達温度430〜550℃で加熱する。そして、亜鉛溶射素管の平坦面同士を重ね合わせた状態で、430〜550℃の最高到達温度で熱処理することにより、亜鉛の蒸発を抑えつつ、効率的に亜鉛を拡散させることができるため、溶射された亜鉛量が効率的に扁平管の平坦面の表面から内部に拡散される。最高到達温度が、430℃未満だと、拡散に要する時間がかかりすぎて経済的でなく、また、550℃を超えると、亜鉛の蒸発量が多くなり過ぎて、亜鉛拡散層の形成が不十分となる。予備拡散熱処理での最高到達温度は、430以上470℃未満であることが、亜鉛の蒸発を更に抑えることができる点で、特に好ましい。
【0040】
予備拡散加熱処理において、亜鉛の残存量は、80質量%以上であることが好ましく、85質量%以上であることが特に好ましい。亜鉛の残存量が上記範囲未満だと、溶射した亜鉛の蒸発量が多くなるため、効率が低くなり易く、また、炉内壁に付着した亜鉛が振動などに起因して不用意に落下し、製品に付着して不具合の原因となる可能性があるため、炉内壁に付着した亜鉛を除去する作業頻度が多くなる。なお、本発明において、予備拡散加熱処理における亜鉛の残存量(質量%)とは、予備拡散加熱処理前の亜鉛溶射素管の亜鉛溶射層の亜鉛の質量(すなわち、亜鉛の溶射量)に対する予備拡散加熱処理後の熱交換器用アルミニウム合金扁平管中の亜鉛の質量割合(%)である。
【0041】
亜鉛溶射素管をお互いに離して予備拡散加熱処理すると、予備拡散加熱処理時に蒸発する亜鉛の量が多くなってしてしまう。予備拡散加熱処理での最高到達温度が比較的高いときは、亜鉛溶射素管の平坦面同士を重ね合わせない場合、亜鉛の蒸発が顕著に大きくなる。そのため、予備拡散加熱処理での最高到達温度が比較的高いときには、亜鉛の蒸発が非常に大きくなるという問題が生じる。また、予備拡散加熱処理での最高到達温度が比較的低いときは、亜鉛溶射素管の平坦面同士を重ね合わせなかった場合、亜鉛の蒸発量は、最高到達温度が比較的高いときほどではないものの、蒸発はする。そして、通常、予備拡散加熱処理は、多数の亜鉛溶射素管を、大きな1つの加熱装置の中で加熱することにより行われるため、加熱装置内での亜鉛溶射管の設置位置の違いにより、亜鉛の蒸発量に差が出てしまう。特に、亜鉛の溶射量が少ない場合には、多い場合と同じ量蒸発したとしても、残存量に対する蒸発割合が大きくなるため、亜鉛の溶射量が少ない場合には、蒸発割合の
バラツキが大きくなり、品質管理が困難となる。そのため、予備拡散加熱処理での最高到達温度が比較的低いときには、蒸発割合のバラツキが大きくなり、品質管理が困難となるという問題が生じる。これらのことから、亜鉛溶射素管の平坦面同士を重ね合わせない場合、亜鉛の蒸発に関して種々の問題が生じる。
【0042】
それに対して、予備拡散加熱処理において、亜鉛溶射素管の平坦面同士を重ね合わせた状態で加熱する場合は、予備拡散加熱処理の際に蒸発する亜鉛の量が、重ね合わせない場合に比べ、少なくすることができるので、亜鉛の蒸発に関する上記問題を防ぐことができる。
【0043】
また、亜鉛溶射素管の平坦面同士を重ね合わせないで、空気雰囲気中で加熱すると、溶射した亜鉛が酸化されてしまうため、亜鉛溶射素管の平坦面同士を重ね合わせない場合は、溶射した亜鉛の酸化を抑えるために、窒素などの不活性ガス雰囲気中で加熱処理を行う必要がある。しかし、この場合、不活性ガスを用意する必要がある上に、不活性ガスを使用するための炉は大気雰囲気で加熱する炉に比べて気密性を上げる必要があるため、構造が複雑となり、費用が増大する。
【0044】
それに対して、予備拡散加熱処理の際に、亜鉛溶射素管の平坦面同士を重ね合わせた状態で加熱する場合は、溶射した亜鉛が空気に触れないか又は触れ難くなるため、亜鉛が酸化され難くなる。そのため、本発明では、予備拡散加熱処理を、大気雰囲気中で行うことができる。つまり、本発明では、亜鉛溶射素管の平坦面同士を重ね合わせた状態で加熱することにより、大気雰囲気中で加熱しても、亜鉛が酸化され難くなるので、大気雰囲気中で、予備拡散加熱処理を行うことができる。そのため、構造の簡単な炉を用いることができ、費用を低減することが可能なる。
【0045】
予備拡散加熱処理では、下記式(1)に示す亜鉛の総拡散量ΣDtが0.8×10
−9〜4.6×10
−9m
2の範囲になるように、平坦面同士を重ね合わせた亜鉛溶射素管の加熱を行う。
ΣDt=ΣD
0・exp(−Q/(R・Tn))・Δtn (1)
(式中、Tnは、予備拡散加熱を開始して温度が200℃に到達した時から予備拡散加熱を終了して温度が200℃に到達した時までの総加熱時間を、微小時間Δtn(秒)で区切ったときの各微小時間の温度(℃)であり、D
0は、1.77×10
−5(m
2/s)であり、Qは、117000(kJ/mol)であり、Rは、8.3145(J/mol・K)である。)
【0046】
アルミニウム合金製の扁平管の表面に溶射された亜鉛は、加熱により扁平管の表面から内部に拡散する。アルミニウム中の亜鉛の拡散係数Dは、アレニウスの式に基づいて、加熱の際の温度により、下記式(3):
D=Do・exp(−Q/RT) (3)
で求められる。ここで、Do=1.77×10
−5(m
2/s)、Q=117000(kJ/mol)、R=8.3145(J/mol・K)である。そして、総拡散量ΣDtは、拡散係数に時間を乗じることにより求められる。
【0047】
実際の加熱のヒートパターンにおける拡散量については、加熱温度チャートから時間と温度を読み取り、総加熱時間を適当な微小時間Δtnに区切って、各微小時間tn及びそのときの温度Tnから、各微小時間のΔDtnを各々計算し、それらを総和して、総拡散量を求める。
図9を用いて更に具体的に説明する。
図9は、加熱のヒートパターンを示す模式的なグラフである。
図9中、点線で示す温度が、200℃(473K)である。先ず、加熱を開始して200℃に到達した時点(符号x)から、最高到達温度を経て、加熱を終了して200℃に到達する時点(符号y)までを、微小時間Δt1、Δt2・・・Δt
n・・・Δtfに区切る。次いで、各微小時間の温度T1、T2・・・Tn・・・Tfを読み取る。次いで、式(3)に、各微小時間の時間(秒)及び温度(K)を代入して、各微小時間の拡散量ΔDtn(m
2)を求める。次いで、それらを総和して、すなわち、ΣD
0・exp(−Q/(R・Tn))・Δtn=ΣDt(m
2)を求める。なお、各微小時間の間に、温度が変化している場合は、
図9に示すように、各微小時間の中央の時間の温度を、各微小時間の温度とする。
【0048】
微小時間の時間間隔は、1分以下が好ましい。なお、後述する実施例及び比較例では、微小時間の時間間隔を30秒で区切って、総拡散量を求めた。
【0049】
ろう付け接合されて熱交換器コアの状態で、良好な亜鉛拡散状態を得るためには、予備拡散熱処理での亜鉛の総拡散量(ΣDt)と、ろう付け加熱処理での亜鉛の総拡散量(ΣDt)の和を、2.0×10
−9〜5×10
−9m
2とすることが適当である。近年の一般的な自動車用熱交換器のろう付け加熱処理でのΣDtは、0.4×10
−9〜1.2×10
−9m
2程度であることが多いため、予備拡散加熱処理での加熱によるΣDtは、0.8×10
−9〜4.6×10
−9m
2が適当である。
【0050】
このようなことから、予備拡散加熱処理での総拡散量ΣDtは、0.8×10
−9〜4.6×10
−9m
2である。予備拡散加熱処理での総拡散量ΣDtが、上記範囲未満だと、亜鉛の拡散量が不足するため、犠牲陽極層としての厚さが薄くなり、犠牲陽極層の消耗時間が早くなり、耐食性が低くなる。また、予備拡散加熱処理での総拡散量ΣDtが、上記範囲を超えると、亜鉛拡散深さが深くなり、犠牲陽極層としての厚さが厚くなり過ぎるため、腐食により犠牲陽極層が消耗してしまった後に残存する扁平管の壁の厚みが薄くなり、冷媒の圧力に耐えられなくなり扁平管が破裂し易くなる。
【0051】
本発明の熱交換器用アルミニウム合金扁平管の製造方法により、以下に述べる本発明の熱交換器用アルミニウム合金扁平管を製造することができる。
【0052】
本発明の熱交換器用アルミニウム合金扁平管は、アルミニウム合金で形成されている扁平管であり、
アルミニウム合金部が、0.1〜0.7質量%のCuと、Znと、を含有し、残部アルミニウム及び不可避不純物からなるアルミニウム合金であり、
該アルミニウム合金部の外縁から深さ95〜250μmの位置まで、亜鉛が拡散されており、該アルミニウム合金部の平坦面の表面の亜鉛濃度が、1.5〜15%であること、を特徴とする熱交換器用アルミニウム合金扁平管である。なお、表面の亜鉛濃度とは、最表層(表面)における、全金属に対する亜鉛の質量割合(質量%)であり、例えば、EMPAによる表面の元素濃度分析による質量比換算で求められる。
【0053】
本発明の熱交換器用アルミニウム合金扁平管の製造に用いる亜鉛溶射素管は、扁平管の形状のアルミニウム合金部と、アルミニウム合金部の平坦面側に溶射されている亜鉛溶射層と、からなる。この亜鉛溶射素管を予備拡散加熱処理することにより、亜鉛溶射層の亜鉛がアルミニウム合金部の平坦面からアルミニウム合金部の深部に拡散し、亜鉛拡散層を形成する。亜鉛拡散層における亜鉛濃度分布は、アルミニウム合金部の外縁、すなわち平坦部表面が高く、深部にかけて低くなるように分布する。亜鉛の拡散深さは、亜鉛拡散層の厚さである。本発明では、亜鉛拡散層は、亜鉛濃度が0.2質量%以上の部分とし、例えば、断面のEPMA分析により、表層からの亜鉛濃度分布を測定し、亜鉛濃度が0.2質量%以上の部分を求めることにより、確認される。
【0054】
アルミニウム合金部は、0.1〜0.7質量%のCuと、Znと、を含有し、残部アルミニウム及び不可避不純物からなるアルミニウム合金である。
【0055】
アルミニウム合金部のCuの含有量は、0.1〜0.7質量%である。アルミニウム合金中のCuは、扁平管の強度を高くする。アルミニウム合金部のCuの含有量が、上記範囲未満だと、Cuによる強度の向上効果が不十分となるとともに、拡散した亜鉛濃度が同じであっても、犠牲陽極層の電位が卑になってしまうため、犠牲陽極層の消耗速度が大きくなる。また、上記範囲を超えると、扁平管の押出性が低下する。
【0056】
アルミニウム合金部は、更に、0.1〜1.2質量%のSi及び0.1〜1.8質量%のMnのうちの1種又は2種を含有することができる。
【0057】
アルミニウム合金中のSiは、扁平管の強度を高くする。アルミニウム合金部のSiの含有量は、0.1〜1.2質量%である。アルミニウム合金部中のSiの含有量が、上記範囲未満だと、Siによる強度の向上効果が不十分となり、また、上記範囲を超えると、扁平管の融点が低下して、ろう付けが困難となる。
【0058】
アルミニウム合金中のMnは、扁平管の強度を高くする。アルミニウム合金部のMnの含有量は、0.1〜1.8質量%である。アルミニウム合金部中のMnの含有量が、上記範囲未満だと、Mnによる強度の向上効果が不十分となり、また、上記範囲を超えると、粗大化合物を生じるため扁平管の押出性が低下する。
【0059】
アルミニウム合金部は、更に、0.01〜0.3質量%のCr、0.01〜0.3質量%のZr及び0.01〜0.3質量%のTiのうちの1種又は2種以上を含有することができる。
【0060】
アルミニウム合金中のCr、Zr、Tiは、ろう付け後の結晶粒径を粗大化し、ろう付け性を向上させる。アルミニウム合金部のCr、Zr、Tiの含有量が、上記範囲未満だと、Cr、Zr、Tiによる効果が不十分となり、また、上記範囲を超えると、粗大化合物が生じるため扁平管の押出性が低下する。
【0061】
本発明の熱交換器用アルミニウム合金扁平管の製造に用いる亜鉛溶射素管は、アルミニウム合金部の平坦面側に、5〜20g/m
2、好ましくは13〜20g/m
2、特に好ましくは15〜20g/m
2の量の亜鉛溶射層を有する。亜鉛溶射層の量が上記範囲にあることにより、亜鉛の総拡散量ΣDtが0.8×10
−9〜4.6×10
−9m
2の範囲になるように予備拡散熱処理を行い、前記予備拡散加熱処理における亜鉛の総拡散量と、該熱交換器コアのろう付け加熱における下記式(2)に示す亜鉛の総拡散量と、の合計が、2×10
−9〜5×10
−9m
2の範囲になるような温度と時間で加熱するろう付け加熱を行った後の扁平管において、扁平管の深部に対して表層部の犠牲陽極層の電位差を十分に卑にすることができるため、良好な耐食性を得ることができる。一方、亜鉛溶射層の量が、上記範囲未満だと、均一な亜鉛溶射層の形成が困難になるとともに、前記予備拡散熱処理および前記ろう付け加熱を行った後の扁平管において、扁平管の表層部の亜鉛濃度が低下するため十分な犠牲陽極作用を得ることができず、扁平管に貫通腐食が生じやすくなり、また、上記範囲を超えると、前記予備拡散熱処理および前記ろう付け加熱を行った後の扁平管において、扁平管の表層部の亜鉛濃度が高すぎるために、犠牲陽極層が早期に消耗してしまい、偏平管の強度が低下する。アルミニウム合金部の平坦面側の亜鉛溶射層の量は、蛍光X線分析により求められる。
【0062】
予備拡散加熱後のアルミニウム合金部のアルミニウム合金の部分の平坦面側には、亜鉛が拡散している。予備拡散加熱後は95〜250μmの位置まで、亜鉛が拡散されており、該アルミニウム合金部の平坦面の表面の亜鉛濃度が、1.5〜15%となっている。亜鉛の拡散深さ及び表面の亜鉛濃度が上記範囲にあることにより、ろう付け加熱時間が短く
ても、ろう付け後に、犠牲陽極層の量(厚み)が十分に確保でき、良好な耐食性を得ることができる。一方、亜鉛の拡散深さが、上記範囲未満だと、ろう付け加熱時間が短かい場合には、犠牲陽極層の量(厚み)が不足するとともに表面の亜鉛濃度が高くなり、腐食により比較的早期に犠牲陽極層が消耗してしまうため、扁平管の耐食性が不十分となる。また、亜鉛の拡散深さが、上記範囲未満だと、フィンとの接合部のフィレットの電位が卑となり、フィンの剥離が生じ易くなる。また、上記範囲を超えると、犠牲陽極層の量(厚み)が過剰に厚くなり、長期間の腐食により消耗する犠牲陽極層が多く、残存する扁平管の壁の厚さが薄くなることにより、強度が低下しやすくなる。また表面の亜鉛濃度が上記より低いと犠牲陽極の電位差が不十分となり耐食性が低下し、上記より高いと犠牲陽極層の消耗速度が速くなり耐食性が低下する。亜鉛の拡散深さには、試験片の断面を樹脂埋めして研磨した試料を作成し、EPMA等により亜鉛濃度を線分析することにより求められる。
【0063】
図10を参照して、亜鉛の拡散深さについて説明する。
図10は、アルミニウム合金部の一部を切り取った模式的な断面図であり、(A)は予備拡散加熱処理前の図であり、(B)は予備拡散加熱処理後の図である。
図10(A)に示すように、予備拡散加熱処理前の亜鉛溶射素管6は、アルミニウム合金部3の平坦面18側に、亜鉛溶射層5を有する。符号16で示す位置が、アルミニウム合金部3と、亜鉛溶射層5との境界、つまり、アルミニウム合金部3の外縁である。そして、亜鉛溶射素管6を予備拡散加熱処理することにより、亜鉛溶射層5の亜鉛がアルミニウム合金部3の平坦面18側からアルミニウム合金部3の内部に拡散し、
図10(B)に示すように、符号17で示す点線の位置まで、亜鉛が拡散して、亜鉛拡散層15を形成する。亜鉛拡散層15内における亜鉛濃度は、アルミニウム合金部13の外縁(符号16)、すなわち平坦部表面が高く、深部にかけて低くなるように分布している。なお、本発明において、亜鉛拡散層は、亜鉛濃度が0.2質量%以上の部分とする。すなわちアルミニウム合金部13の内部の符号17で示す点線の位置は、亜鉛濃度が0.2質量%となる位置を示すものである。よって、アルミニウム合金部13のうち、符号16から符号17までの部分が、亜鉛が拡散している部分である。そして、このときの符号16の位置から符号17の位置までの距離が、亜鉛の拡散深さである。
【0064】
本発明の熱交換器コアの製造方法は、本発明の熱交換器用アルミニウム合金扁平管の製造方法により熱交換器用アルミニウム合金扁平管を得、次いで、得られた熱交換器用アルミニウム合金扁平管と、Al−Mn系合金の両面にAl−Si系のろう材をクラッドしたアルミニウム合金製ブレージングフィン材と、を組み合わせた熱交換器コアを、前記予備拡散加熱処理における亜鉛の総拡散量と、該熱交換器コアのろう付け加熱における下記式(2)に示す亜鉛の総拡散量と、の合計が、2×10
−9〜5×10
−9m
2の範囲になるような温度と時間で加熱するろう付け加熱処理を行うことを特徴とする熱交換器コアの製造方法である。
ΣDt=ΣD
0・exp(−Q/(R・Tn))・Δtn (2)
(式中、Tnは、ろう付け加熱を開始して温度が200℃に到達した時からろう付け加熱を終了して温度が200℃に到達した時までの総加熱時間を、微小時間Δtn(秒)で区切ったときの各微小時間の温度(℃)であり、D
0は、1.77×10
−5(m
2/s)であり、Qは、117000(kJ/mol)であり、Rは、8.3145(J/mol・K)である。)
【0065】
例えば、先ず、本発明の熱交換器用アルミニウム合金扁平管の製造方法により得られた熱交換器用アルミニウム合金扁平管と、Al−Mn系合金の両面にAl−Si系のろう材をクラッドしたアルミニウム合金製ブレージングフィン材をコルゲート加工したフィンとを交互に積層し、扁平管の両端にヘッダを組み合わせて、熱交換器コアを組み付ける。次いで、フッ化物系のフラックスを粉末のまま熱交換器のコア部に塗布し、不活性ガス雰囲
気中で加熱してろう付け接合するろう付け加熱処理を行うことにより熱交換器コアを製造する。
【0066】
また、Al−Mn系合金の両面にAl−Si系のろう材をクラッドしたアルミニウム合金製ブレージングフィン材に替えて、Al−Mn系合金のベアフィンとコルゲート加工したフィンとを交互に積層し、扁平管とフィンの接する部分に置きろうを配置し、同様にろう付け加熱処理を行うことにより熱交換器コアを製造することもできる。置きろうはAl−Si合金ろう材線を扁平管とフィンの接合部の近くに置く方法や、Al−Si合金ろう材箔を扁平管とフィンの間に挟む方法や、Al−Si合金粉末あるいはSi粉末を扁平管とフィンの接合部の近くに塗装する方法がある。
【0067】
このように、本発明の熱交換器用アルミニウム合金扁平管は、ブレージングフィン及びベアフィンのいずれのフィンを用いる熱交換器コアの製造にも用いられる。
【0068】
そして、本発明の本発明の熱交換器コアの製造方法では、ろう付け加熱処理において、予備拡散加熱処理における亜鉛の総拡散量と、熱交換器コアのろう付け加熱における式(2)に示す亜鉛の総拡散量と、の合計が、2×10
−9〜5×10
−9m
2の範囲になるような温度と時間で加熱する。なお、亜鉛の総拡散量の算出方法は、予備拡散加熱処理における亜鉛の総拡散量の算出方法と同様である。
【0069】
予備拡散加熱処理での亜鉛の総拡散量とろう付け加熱における亜鉛の総拡散量との合計が、上記範囲未満だと、亜鉛の拡散量が不足するため、犠牲陽極層としての厚さが薄くなり、犠牲陽極層の消耗時間が早くなり、耐食性が低くなる。また、予備拡散加熱処理での亜鉛の総拡散量とろう付け加熱における亜鉛の総拡散量の合計が、上記範囲を超えると、亜鉛拡散深さが深くなり、犠牲陽極層としての厚さが厚くなり過ぎるため、腐食により犠牲陽極層が消耗してしまった後に残存する芯材の厚みが薄くなり、冷媒の圧力に耐えられなくなり扁平管が破裂し易くなる。
【0070】
ろう付け加熱処理での加熱温度は、予備拡散加熱処理における亜鉛の総拡散量と、熱交換器コアのろう付け加熱における式(2)に示す亜鉛の総拡散量と、の合計が、上記範囲となるように、加熱時間との関係で適宜選択されるが、好ましくは最高到達温度が580〜625℃、特に好ましくは590〜615℃である。
【0071】
ろう付け加熱処理での加熱時間は、予備拡散加熱処理における亜鉛の総拡散量と、熱交換器コアのろう付け加熱における式(2)に示す亜鉛の総拡散量と、の合計が、上記範囲となるように、加熱時間との関係で適宜選択されるが、好ましくは300〜1800秒、特に好ましくは300〜1200秒である。
【0072】
そして、ろう付け加熱処理を行うことにより、亜鉛の拡散深さが、140〜260μmとなり、アルミニウム合金部の平坦面の表面の亜鉛濃度が、1.0〜8%となる。
【0073】
本発明の熱交換器コアは、本発明の熱交換器コアの製造方法を行い得られることを特徴とする熱交換器コアである。
【実施例】
【0074】
(実施例及び比較例)
連続鋳造により表1及び表3に示す組成のφ80mmのアルミニウム合金のビレットを作製し、得られたビレットを600℃で6時間保持する均質化処理を行った。
次いで、このビレットを550℃で加熱し、熱間押出して、
図11に示す断面形状の肉厚0.4mmの押出扁平管211を作製した。押出直後に、扁平管の平坦部に所定量の純
亜鉛を溶射し、コイル状に整列巻取りした。その後、コイルを巻きほぐしながら、管軸が直線状の直管とし、所定寸法に切断した後、平坦面同士が重なるように整列させた状態で束ねた。
この束ねた直管の亜鉛溶射押出扁平管を、あるいは、コイル状に整列巻取りしたままのコイル状の亜鉛溶射押出扁平管を、空気雰囲気中で加熱し、亜鉛の予備拡散加熱処理を行った。この時の実体温度を測定し、ΣDtを計算した。
次いで、予備拡散加熱処理を行った後の亜鉛溶射押出扁平管を、窒素ガス雰囲気中で単独で最高到達温度600℃で5〜20分間のろう付け加熱を行った。ろう付け加熱時にも実体温度を測定し、同様にΣDtを計算した。
得られたろう付け後の単管について、CASS試験を1500時間実施し、貫通腐食の発生有無で耐食性を評価した。CASS試験結果を表2、表3、表5及び表6に示す。
【0075】
【表1】
【0076】
【表2】
1)直管整列:直管の平坦面同士を重ね合わせて多数積層した形態
コイル整列:純亜鉛を溶射した後のコイル状に整列巻取りした形態
2)Zn拡散深さ:断面のEPMA分析により、表層からのZn濃度分布を測定し、Zn濃度が0.2質量%となる深さを拡散深さとする。
3)平坦面のZn濃度:表面のEPMA分析により、表層のZnの質量濃度を測定した。4)亜鉛の残存率:(拡散Zn総質量/亜鉛溶射によるZn付着量)×100(%)で求めた。拡散Znは断面のZn濃度分布より計算した。
【0077】
【表3】
【0078】
【表4】
【0079】
【表5】
1)直管整列:直管の平坦面同士を重ね合わせて多数積層した形態
直管単独:直管の平坦面同士を重ね合わせずに、1本1本バラバラにした形態
2)Zn拡散深さ:断面のEPMA分析により、表層からのZn濃度分布を測定し、Zn濃度が0.2質量%となる深さを拡散深さとする。
3)平坦面のZn濃度:表面のEPMA分析により、表層のZnの質量濃度を測定した。4)亜鉛の残存率:(拡散Zn総質量/亜鉛溶射によるZn付着量)×100(%)で求めた。拡散Znは断面のZn濃度分布より計算した。
【0080】
【表6】