特許第6204482号(P6204482)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6204482
(24)【登録日】2017年9月8日
(45)【発行日】2017年9月27日
(54)【発明の名称】車両の走行制御装置
(51)【国際特許分類】
   B60W 30/16 20120101AFI20170914BHJP
   B60W 10/04 20060101ALI20170914BHJP
   B60W 10/18 20120101ALI20170914BHJP
   B60W 10/184 20120101ALI20170914BHJP
   B60W 30/02 20120101ALI20170914BHJP
【FI】
   B60W30/16
   B60W10/00 120
   B60W10/184
   B60W10/04
   B60W30/02
【請求項の数】9
【全頁数】19
(21)【出願番号】特願2015-538949(P2015-538949)
(86)(22)【出願日】2014年6月13日
(86)【国際出願番号】JP2014065674
(87)【国際公開番号】WO2015045502
(87)【国際公開日】20150402
【審査請求日】2016年3月2日
(31)【優先権主張番号】特願2013-202964(P2013-202964)
(32)【優先日】2013年9月30日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】509186579
【氏名又は名称】日立オートモティブシステムズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001829
【氏名又は名称】特許業務法人開知国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】長塚 敬一郎
(72)【発明者】
【氏名】山門 誠
(72)【発明者】
【氏名】佐々木 光秀
(72)【発明者】
【氏名】植山 幹夫
【審査官】 山村 和人
(56)【参考文献】
【文献】 特開2010−076584(JP,A)
【文献】 特開2012−126148(JP,A)
【文献】 国際公開第2012/153367(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60W 10/00 − 50/16
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両の前後加速度を制御する第一の制御指令値を算出する第一の制御指令値算出部と、
車両に作用する横加加速度に応じた前後加速度を制御する第二の制御指令値を算出する第二の制御指令値算出部と、
前記第一の制御指令値及び前記第二の制御指令値に基づいて補正の可否を判断する補正判断処理部と、
前記補正判断処理部にて補正有りと判断された場合、前記第一の制御指令値を前記第二の制御指令値に基づいて補正する補正処理部と、
を有する車両の走行制御装置であって、
前記第一の制御指令値算出部は、ドライバにより予め設定した車速で走行するための要求加速度を算出し、前記第一の制御指令値として出力する車両の走行制御装置。
【請求項2】
請求項記載の車両の走行制御装置において、
前記第一の制御指令値算出部は、先行車が検知された場合、自車及び前記先行車との車間距離をドライバにより予め設定された車間距離を維持して追従走行を行わせる要求加速度を算出する車両の走行制御装置。
【請求項3】
請求項1記載の車両の走行制御装置であって、
前記補正判断処理部は、前記第一の制御指令値が予め定めた第一の閾値以上の場合、且つ前記第二の制御指令値が予め定めた第二の閾値以下の場合、補正可能と判断する車両の走行制御装置。
【請求項4】
請求項1記載の車両の走行制御装置において、
前記補正処理部は、前記補正判断処理部にて補正有りと判断された場合、前記第一の制御指令値に前記第二の制御指令値を加算した値を出力する車両の走行制御装置。
【請求項5】
車両の前後加速度を制御する第一の制御指令値を算出する第一の制御指令値算出部と、
車両に作用する横加加速度に応じた前後加速度を制御する第二の制御指令値を算出する第二の制御指令値算出部と、
前記第一の制御指令値及び前記第二の制御指令値に基づいて補正の可否を判断する補正判断処理部と、
前記補正判断処理部にて補正有りと判断された場合、前記第一の制御指令値を前記第二の制御指令値に基づいて補正する補正処理部と、
を有する車両の走行制御装置であって、
前記第一の制御指令値算出部は、ドライバのアクセル操作に応じた制御指令値を算出する第一の算出処理と、ドライバにより予め設定した車速で走行する制御指令値を算出する第二の算出処理と、前記第一の算出処理の結果と前記第二の算出処理の結果に基づいて調停後の制御指令値を算出する第三の算出処理と、を有する車両の走行制御装置。
【請求項6】
請求項記載の車両の走行制御装置において、
前記第一の制御指令値算出部は、前記第一の算出処理で算出された制御指令値が加速指令値であって、且つ前記第二の算出処理で算出された制御指令値が加速指令値である場合、いずれか値が大きい制御指令値を前記調停後の制御指令値として出力する車両の走行制御装置。
【請求項7】
請求項記載の車両の走行制御装置において、
前記第一の制御指令値算出部は、前記第一の算出処理で算出された制御指令値が加速指令値であって、且つ前記第二の算出処理で算出された制御指令値が減速指令値である場合、前記第一の算出処理で算出された制御指令値を前記調停後の制御指令値として出力する車両の走行制御装置。
【請求項8】
請求項記載の車両の走行制御装置において、
前記先行車は、単眼カメラ、ステレオカメラ、ミリ波レーダー、レーザレーダの少なくとも1つの外界認識センサによって検知される車両の走行制御装置。
【請求項9】
請求項1記載の車両の走行制御装置において、
前記補正処理部にて補正が実行された場合、表示部によりドライバに報知する車両の走行制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両の前後加速度を制御する車両の走行制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
もっとも基本的な車両の前後加速度を制御する車両の走行制御装置としては、ドライバのアクセル操作に応じて車両の前後加速度(加速側)を制御し、ドライバのブレーキ操作に応じて車両の前後加速度(減速側)を制御する装置がある。
【0003】
このような装置に加えて、ドライバの運転負荷軽減や事故の未然防止のための機能を付加した次のような走行制御装置も一般に知られている。
【0004】
すなわち、走行制御装置および走行制御アルゴリズムの一つはCruise Control(以下、CC)であり、ドライバがアクセル操作をしなくても、予め設定した車速を維持するように前後加速度を制御する装置である。
また、走行制御装置および走行制御アルゴリズムの他の一つは、Adaptive Cruise Control(以下、ACC)であり、自車両の前方に走行する車両がない、または制御対象範囲にない場合には前述のCCと同等の機能として動作し、自車両前方を走行する車両が制御対象範囲にある場合には、この車両との距離をドライバにより予め設定された車間距離、または車間時間を維持するように前後加速度を制御する装置である。
【0005】
さらにこれらの他にも、ドライバ操作に起因して車両に発生する横加加速度に応じて前後加速度を制御することにより、スキルドライバのように車両を安全かつ快適に制御する走行制御装置があり、この種の制御装置が特許文献1に開示されている。この走行制御装置に組み込まれている走行制御アルゴリズムは一般に、G−Vectoring制御と呼ばれている。
【0006】
なお、基本的な走行制御アルゴリズムを複数組み合わせることにより、上記する複数の走行制御装置をまとめて一つのシステムとする技術も知られている。
【0007】
このような走行制御装置は、車両を安全に制御する装置であると同時に、ドライバの運転を補助して快適に制御する装置でもある。特に、快適制御のための装置という観点で言えば、ドライバに対して違和感を与えないように制御を実施することが重要となる。
【0008】
このようにドライバに対して違和感を与えないように制御を補正しながら、制御効果を得るための走行制御装置に関し、特許文献2には、自車両の加減速速度を制御する加減速制御装置であって、自車両の横加加速度に基づいて自車両の前後加速度を補正し、自車両の前後加減速度の補正を所定条件に基づいて許可または禁止する加減速制御装置が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2008−285066号公報
【特許文献2】特開2010−76584号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
特許文献2で開示される加減速制御装置によれば、自車両の挙動をより運転者の加減速意図に沿ったものとすることができ、加減速度の補正制御に起因した運転者の違和感を低減することができる。
【0011】
すなわち、この加減速制御装置は、ドライバのアクセル操作による「運転者の加減速意図」を考慮して制御の強弱を補正する技術である。しかしながら、補正量の設定によってはドライバのアクセル操作中にブレーキ制御がかかることによる違和感が残る。または、ドライバのアクセル操作によって、制御が利かなくなることにより効果を得られなくなるという点については十分に考慮されているとは言い難い。
本発明の目的は、車両に対する前後加速度要求の大きさを考慮して、ドライバの違和感を抑えつつ、快適に、車両が制御可能な車両の走行制御装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
前記目的を達成すべく、本発明の車両の走行制御装置は、車両の前後加速度を制御する第一の制御指令値を算出する第一の制御指令値算出部と、車両に作用する横加加速度に応じた前後加速度を制御する第二の制御指令値を算出する第二の制御指令値算出部と、第一の制御指令値及び第二の制御指令値に基づいて補正の可否を判断する補正判断処理部と、補正判断処理部にて補正有りと判断された場合、第一の制御指令値を第二の制御指令値に基づいて補正する補正処理部と、を有する車両の走行制御装置であって、前記第一の制御指令値算出部は、ドライバにより予め設定した車速で走行するための要求加速度を算出し、前記第一の制御指令値として出力する構成とする。

【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、車両に対する前後加速度要求の大きさを考慮して、ドライバの違和感を抑えつつ、快適に、車両が制御可能な車両の走行制御装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】本発明に係る車両の走行制御装置の一実施の形態を示すブロック図である。
図2】本発明の制御指令値演算部の一実施の形態を示すブロック図である。
図3】本発明の制御指令値演算部の処理フローの一例を示す図である。
図4】車両がカーブに進入して脱出する走行経路を模式的に示した図である。
図5】走行シナリオ1での従来技術1における制御指令の一例を説明した図である。
図6】走行シナリオ1での従来技術2における制御指令の一例を説明した図である。
図7】走行シナリオ1での本発明の車両の走行制御装置における制御指令の一例を説明した図である。
図8】走行シナリオ2での従来技術における制御指令の一例を説明した図である。
図9】走行シナリオ2での本発明の車両の走行制御装置における制御指令の一例を説明した図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、図面を参照して本発明の車両の走行制御装置の実施の形態を説明する。
<走行制御装置の構成>
図1は、本実施の形態に係る車両の走行制御装置のブロック図である。同図において、走行制御装置100は、ドライバ操作情報取得部111、車両運動情報取得部112、および制御指令値演算部113を備えている。
【0016】
走行制御装置100によって演算された制御指令値に応じて、制動部114では車両の制動が実行され、制駆動部115では車両の制動または駆動が実行される。
【0017】
外界認識情取得部116は、外界認識センサであって、図示しない自車両の周囲に存在する車両や人、および物などに対する距離、相対速度、および角度を検出し、その結果を制御指令値演算部113に送信する機能を備えている。具体的には、外界認識センサとして、ステレオカメラや単眼カメラ、ミリ波レーダやレーザレーダなどがある。
【0018】
表示部117は、図示しないドライバへの情報を表示するディスプレイやカーナビ上に制御状態などを要求に応じて表示する。特に、本発明の方法により不必要なブレーキ制御を抑制することで、エネルギーの利用効率がよくなっている状況をドライバに報知するために、ディスプレイを点灯または点滅させる機能を備えている。
【0019】
ドライバ操作情報取得部111は、アクセル操作量、ブレーキ操作量、シフト操作、ステア角度などのドライバの操作情報を収集し、制御指令値演算部113に伝達する機能を備えている。
【0020】
車両運動情報取得部112は、自車速度、ヨーレート、前後加速度、横加速度などの車両の挙動情報を収集し、制御指令値演算部113に伝達する機能を備えている。
【0021】
なお、ドライバ操作情報取得部111、車両運動情報取得部112、および外界認識情報取得部116から制御指令値演算部113に送信する情報としては、制御指令値演算部113に搭載する走行制御アルゴリズムに必要な情報を収集できればよく、その必要性に応じてセンサ等の構成を追加することも可能である。
【0022】
制御指令値演算部113は、走行制御アルゴリズムや予め実験などにより決定したパラメータを格納するための記憶部であるROM(Read Only Memory)や、各種演算処理を実行する処理部であるCPU(Central Processing Unit)、演算結果を格納する記憶部であるRAM(Random Access Memory)等から構成される。なお、制御指令値演算部113に搭載される走行制御アルゴリズムの構成は図2を参照して以下で説明する。
【0023】
制動部114は、制御指令値演算部113にて演算された車両に対する制御指令値(制動指令値)に応じて、車両を制動する機能を備えている。例えば、高圧のブレーキフルードを吐出するポンプと、そのブレーキフルードの圧力を調整しつつ各車輪のホイルシリンダに供給するための電磁バルブなどの機構が好適である。
【0024】
制駆動部115は、制御指令値演算部113にて演算された車両に対する制御指令値に応じて、車両を制駆動する機能を備えている。具体的には、駆動指令値に応じて車両の駆動力を変動可能なエンジンシステムや電動モータシステムなどが適当である。
【0025】
また、制駆動部115として電動モータシステムを用いた場合には、制動部114に求められる制動能力の一部を回生による制動と分担して実施することが可能である。
【0026】
なお、本実施の形態では、走行制御装置100と、制動部114および制駆動部115を別のブロックとして記載しているが、例えば車両の走行制御装置100と制動部114を組み合わせて一つのシステムとすることや、車両の走行制御装置100と制駆動部115を組み合わせて一つのシステムとすること、あるいは、車両の走行制御装置100と制動部114と制駆動部115をすべて組み合わせて一つのシステムとすることも可能である。
【0027】
また、本実施の形態では、制御指令値演算部113と、ドライバ操作情報取得部111、および車両運動情報取得部112の情報の伝達において、シリアル通信や物理量を電圧信号に変化させてADC(Analog Digital Converter)などで読み取るものである。しかし、必要な情報を図示しないその他の外部システムから車載用ネットワークとして一般に利用されているCAN(Controller Area Network)を利用して受信してもよい。
【0028】
また、制御指令値演算部113と制動部114および制駆動部115の情報の伝達には、CANを利用する。
<制御指令値演算部の内部構成>
次に、制御指令値演算部113に搭載される走行制御アルゴリズムの構成を説明する。
図2は、制御指令値演算部113のソフトブロック構成図である。
【0029】
同図において、制御指令値演算部113は、入力処理部113aと、第一の制御指令値演算部である制御指令値算出処理部113bと、第二の制御指令値演算部であるG-Vectoring制御による制御指令値の算出処理部113cを備えている。なお、制御指令値算出部113bにはドライバのアクセル操作やブレーキ操作に応じて制御指令値を算出する処理のほかに、ACCやCCなどの任意の走行制御アルゴリズムを組み合わせて構成して、制御指令値を算出することが可能である。本実施例での構成については、後述する。
【0030】
さらに、制御指令値算出処理部113bで算出された制御指令値に応じて最終的な制御指令値の補正を実施するかどうかを判断するための補正判断処理部113dと、前記補正判断結果に応じて制御指令値の補正を実施する補正処理部である制御指令値補正処理部113eを備えている。
【0031】
そして、フィルタ処理部113fでは、前回出力した値と、制御指令値補正処理部113eから出力された値でLPF(Low Pass Filter)処理した最終制御指令値が算出され、制駆動部115や制動部114に送信される。
<制御指令値演算部の処理フロー>
次に、本実施の形態に係る車両の走行制御装置100を構成する制御指令値演算部113における具体的な処理フローについて、図3を用いて説明する。同図は、制御指令値演算部113が実行するルーチンのフローチャートであり、図示するルーチンが所定時間間隔で繰り返されるものである。
【0032】
以下、制御指令値演算部113に搭載される走行制御アルゴリズムが、ドライバ操作に応じた制御指令値の算出処理と、ACC、およびG−Vectoring制御の場合について説明する。具体的な構成としては、制御指令値算出処理部113bにドライバ操作に応じた制御指令値の算出処理とACCを配し、G-Vectoring制御による制御指令値の算出処理部113cにはG-Vectoring制御を配した場合について説明する。
【0033】
ルーチンが起動されると、まずステップ200の入力処理が実行され、ドライバ操作情報取得部111、および車両運動情報取得部112で計測された情報を以後のステップで使用するデータ形式に変換する。また合わせて、外界認識情報取得部116から受信した先行車両の情報を以後のステップで使用するデータ形式に変換する。具体的には、入力された信号の物理単位変換処理や時間微分処理、既知の物理式による演算によって新たな物理量の算出などを行う。
【0034】
次に、ステップ201のドライバ操作に応じた制御指令値(Gx_Drv)(第一の制御指令値)の算出処理(第一の算出処理)が実行される。ドライバアクセル操作量に応じた加速側の制御指令値、またはドライバブレーキ操作量に応じた減速側の制御指令値が算出される。つまり、ドライバのアクセル操作に応じた要求加速度を算出し、制御指令値(Gx_Drv)を出力する。なお、ドライバがブレーキ操作とアクセル操作を同時にした場合には、安全を優先させるために、ドライバのブレーキ操作を優先として制御指令値を算出する。
【0035】
また、本ステップ以降で算出される各制御指令値の単位は、重力加速度「G」で表現した場合を例示しており、正値は加速指令値を表し、負値は減速指令値を表している。
【0036】
次に、ステップ202のACCによる制御指令値(Gx_ACC)(第一の制御指令値)の算出処理(第二の算出処理)が実行され、先行車を補足していない、または先行車を補足しているがACC制御範囲にいない場合には、ドライバにより予め設定した車速で走行するための要求加速度を算出し、制御指令値(Gx_ACC)として出力する。なお、このような場合には、CCやクルーズコントロールやオートクルーズと呼ばれる定速走行機能と同等の機能となっている。また、ACC制御範囲の先行車を補足している場合には、ドライバにより予め設定された車間距離(または車間時間)を維持して追従走行するための制御指令を算出する。
【0037】
次に、ステップ203の調停した制御指令値の算出処理により、前記ステップ201で算出された制御指令値(Gx_Drv)と、前記ステップ202で算出された制御指令値(Gx_ACC)に応じて、以下表1に示すような処理を実行し、調停後の制御指令値(Gx_Arb)(第一の制御指令値)を算出する。以上のように、第一の制御指令値は、車両の前後加速度を制御する指令値であり、制御指令値(Gx_Drv)、制御指令値(Gx_ACC)、制御指令値(Gx_Arb)のいずれか1つであるとする。
【0038】
同表で定義する処理内容は、優先順位欄に記載された順序に従い、それぞれの入力データが記載された条件を満たすかどうかを判定し、全ての条件を満たす場合には出力データに対して記載された処理を実行するものである。また、成立する条件が見つかった場合には、それ以降の条件判断は実行しない。なお、表中の「−」に記載の箇所は条件の判断に用いないことを表している。
【0039】
【表1】
ここで、Gx_Drv:ドライバ操作に応じた制御指令値[G]、Gx_ACC:ACCによる制御指令値[G]、Gx_Arb:調停後の制御指令値[G]、である。
【0040】
なお、表1に記載されたセレクトハイ処理とは、ステップ201のドライバ操作に応じた制御指令値(Gx_Drv)の算出処理で算出された制御指令値が加速指令(≧0)の場合で、且つ、ステップ202のACCによる制御指令値(Gx_ACC)の算出処理で算出された(加速側の)制御指令値が加速指令(≧0)の場合、いずれか大きい値を選択する処理となる。
【0041】
また、ドライバ操作優先処理とは、ステップ201のドライバ操作に応じた制御指令値(Gx_Drv)の算出処理で算出された制御指令値(Gx_Drv)が加速指令(≧0)の場合で、且つ、ステップ202のACCによる制御指令値(Gx_ACC)の算出処理で算出された(加速側の)制御指令値が減速指令(<0)の場合、ドライバ操作に応じた制御指令値(Gx_Drv)を調停後の制御指令値(Gx_Arb)として出力する処理となる。
【0042】
なお、それ以外の場合、つまり、一般的にドライバがブレーキ操作した場合(減速指令)には、ACCは予め設定した車速や車間距離(または車間時間)の設定がキャンセルされ、ACCによる制御指令値(Gx_ACC)は算出されず、ゼロとなるため、結果的にドライバ操作が優先される処理となる。
【0043】
次に、ステップ204のG-Vectoring制御による制御指令値の算出処理が実行され、以下数式1によってGVC制御指令値(Gx_GVC)(第二の制御指令値)が算出される。
【0044】
【数1】
ここで、Gx_GVC:GVC制御指令値[G]、Gy:車両の横加速度[G]、Gy_dot:車両の横加加速度[G/s]、Cxy:制御ゲイン、T:一時遅れ時定数、s:ラプラス演算子である。
【0045】
第二の制御指令値であるGVC制御指令値(Gx_GVC)は、車両に作用する横加加速度に応じた前後加速度を制御するものであり、第二の制御指令値演算部であるG-Vectoring制御による制御指令値の算出処理部113cにて算出される。
【0046】
なお、本実施の形態において、数式1で用いられる車両の横加速度と車両の横加加速度としては、車両運動情報取得部112から入力される情報を用いるが、ステア角度と自車速度から公知の車両モデルによって推定されたものを用いてもよい。
【0047】
次に、ステップ205の制御指令値に応じた補正判断処理が実行され、以下表2で示す処理により、調停後の制御指令値(Gx_Arb)とGVC制御指令値(Gx_GVC)に基づいて、補正判断ステータス(T_status)を算出する。以下表2を用いて定義した処理内容については、既述の通りである。
【0048】
【表2】
ここで、T_status:補正判断ステータス、T_NotCorr:補正無しを表す値、T_Corr:補正有りを表す値、Gx_Arb:調停後の制御指令値[G]、Gx_GVC:GVC制御指令値[G]、m_GVC_TH:補正に十分な制御指令が出力されていると判断する閾値[G]、m_GVC_DEC_TH:GVC制御指令値を補正により実施すると判断する閾値[G]、である。
【0049】
表2で記したように、ステップ203で算出された調停後の制御指令値(Gx_Arb)が、補正に十分な制御指令が出力されていると判断する閾値(m_GVC_TH)以上の場合で、且つ、ステップ205で算出されたGVC制御指令値(Gx_GVC)が、GVC制御指令値を補正により実施すると判断する閾値(m_GVC_DEC_TH)以下の場合、補正判断ステータス(T_status)は、補正有り(T_Corr)と判断される。
【0050】
また、それ以外の場合は、補正判断ステータス(T_status)は、補正無し(T_NotCorr)と判断される。
【0051】
ここで、補正に十分な制御指令が出力されていると判断する閾値(m_GVC_TH)は、GVC制御指令値の範囲において適切な値を設定することが重要となり、0〜0.3[G]の範囲で設定することを想定している。
【0052】
なお、補正に十分な制御指令が出力されていると判断する閾値(m_GVC_TH)は、車両に搭載される制駆動部115に用いるシステムを考慮して決定する必要がある。すなわち、電動モータシステムのように加速の制御指令値と減速の制御指令値を連続的に制御できる場合には、その値をより小さい値、または負の値とすることが可能である。一方、エンジンシステムを用いた場合には、主に加速の制御指令値を制御可能となるため、ある程度の大きさの正値とすることが望ましい。電動モータとエンジンシステムを組合せたシステムの場合には、電動モータのみを用いるモードやエンジンのみを用いるモード、および電動モータとエンジンの組合せなどのそれぞれの駆動モード毎に閾値を変更することが望ましい。
【0053】
また、本実施例では、第一の制御指令値として、調停後の制御指令値(Gx_Arb)を用いて説明したが、ドライバ操作に応じた制御指令値(Gx_Drv)や、ACCによる制御指令値(Gx_ACC)を用いても良い。その際は、表1を用いない。
【0054】
次に、ステップ206の制御指令値補正処理が実行され、ステップ205で算出された補正判断ステータス(T_status)に応じて、以下表3で示すように、補正後制駆動制御指令値(Gx_Accel)と補正後の制動制御指令値(Gx_Decel)を決定するような処理を行う。同表を用いて定義した処理内容については、既述の通りである。
【0055】
【表3】
ここで、T_status:補正判断ステータス、Gx_Accel:補正後制駆動制御指令値[G]、Gx_Decel:補正後制動制御指令値[G]、T_Corr:補正有りを表す値、Gx_GVC:GVC制御指令値[G]、Gx_Arb:調停後の制御指令値[G]である。
【0056】
補正判断ステータス(T_status)が補正有り(T_Corr)の場合、第一の制御指令値である調停後の制御指令値(Gx_Arb)を第二の制御指令値であるGVC制御指令値(Gx_GVC)に基づいて補正される。具体的には、補正後制駆動指令値(Gx_Accel)は、調停後の制御指令値(Gx_Arb)GVC制御指令値(Gx_GVC)を加算した値を出力する。また、補正後制動制御指令値(Gx_Decel)は、ゼロとする。
【0057】
補正判断ステータス(T_status)が補正有り(T_Corr)以外の場合、補正後制駆動指令値(Gx_Accel)は、ステップ203の調停した制御指令値の算出処理で算出された制御指令値(Gx_Arb)と、ステップ204のG-Vectoring制御による制御指令値の算出処理で算出された制御指令値(Gx_GVC)から、加速側の制御指令値、すなわち、制御指令値が正値のものの中のいずれか大きい値を選択する処理(セレクトハイ処理)となる。
【0058】
また、補正後制動制御指令値(Gx_Decel)は、ステップ203の調停した制御指令値の算出処理で算出された制御指令値(Gx_Arb)と、ステップ204のG-Vectoring制御による制御指令値の算出処理で算出された制御指令値(Gx_GVC)から、減速側の制御指令値すなわち、制御指令値が負値のものの中のいずれか小さい値を選択する処理(セレクトロー処理)となる。
【0059】
なお、ステップ205からステップ206については、これらの処理をまとめてひとつの論理表として処理することも可能であり、この場合でも本発明の効果は同等である。
【0060】
次に、ステップ207の制駆動指令フィルタ処理が実行され、以下数式2にて、制駆動制御指令出力値前回値(Gx_Accel_Out_Z1)と補正後制駆動制御指令値(Gx_Accel)から、制駆動制御指令出力値(Gx_Accel_Out)が算出される。
【0061】
【数2】
ここで、Gx_Accel_Out:制駆動制御指令出力値[G]、Gx_Accel:補正後制駆動制御指令値[G]、Gx_Accel_Out_Z1:制駆動制御指令出力値前回値[G]、T0:サンプリング時間[sec]、Ta:制駆動出力フィルタ時定数[sec]、である。
【0062】
また、制御指令値補正処理部113eにて、上記のように補正が実行された場合、表示部117を用いてドライバに報知することも出来る。
【0063】
次に、ステップ208の制動指令フィルタ処理が実行され、以下数式3にて、制動制御指令出力値前回値(Gx_Decel_Out_Z1)と補正後制動制御指令値(Gx_Decel)から、制動制御指令出力値(Gx_Decel_Out)が算出される。
【0064】
【数3】
ここで、Gx_Decel_Out:制動制御指令出力値[G]、Gx_Decel:補正後制動制御指令値[G]、Gx_Decel_Out_Z1:制動制御指令出力値前回値[G]、T0:サンプリング時間[sec]、Tb:制動出力フィルタ時定数[sec]、である。
【0065】
なお、本実施例ではフィルタ処理として1次IIR(Infinite Impulse Response)フィルタによるローパスフィルタ処理を用いたが、補正後制御指令値切替り時に制御指令値出力値が急変することを防ぐ目的であり、その他のフィルタ処理を用いても本発明の本質的な効果は変わらない。
<具体的な走行シーンの例>
図4は、本実施の形態に係る車両の走行制御装置を搭載した自車両がカーブに進入してから脱出するまでの走行経路を模式的に示した図である。同図における走行経路は、直線区間(N1〜N2)、緩和曲線からなる過渡区間(N2〜N3)、定常旋回区間(N3〜N4)、緩和曲線からなる過渡区間(N4〜N5)、および直線区間(N5〜N6)から成る。
【0066】
以下、まずドライバは、直線区間(N1〜N2)でブレーキ操作により、ドライバの主観に応じて、十分と感じるまで自車を減速させる(ドライバブレーキ期間a)。そのあとで、アクセル操作により徐々に自車を加速させつつ、過渡区間(N2〜N3)に進入する。その後、アクセル操作はおおよそ一定のままで、定常旋回区間(N3〜N4)を通過し、過渡区間(N4〜N5)に入ると徐々にアクセルを踏み増し、直線区間(N5〜N6)ではさらにアクセルを踏込み、目標とする速度まで加速させるという走行シナリオ1を前提として説明する。
【0067】
始めに、図5を用いて、従来技術1による車両の走行制御装置により、既述する走行シナリオ1で走行した際の自車両の動作を説明する。同図中には上から順に、ドライバアクセル操作に応じた制御指令値、ドライバブレーキ操作に応じた制御指令値、ACC制御指令値、GVC制御指令値、制駆動制御指令値、および制動制御指令値の時系列波形を示している。
[区間(N1〜N2〜N3)]
はじめの直線区間(N1〜N2)では、前述のシナリオの通り、ドライバはまずブレーキ操作により、自車両を減速させ、そのあとで徐々にアクセル操作により車両を加速させながら、過渡区間へ進入していく。また、このときドライバは自車両を直進させるためにステア角を一定に保つ。このため、自車両に作用する横加速度はゼロ付近で一定となるため、GVC指令値はゼロとなる。
【0068】
このとき、ブレーキ操作に応じて算出された減速の制御指令が制動部へ送信され、自車両は減速する。次に、アクセル操作に応じて算出された加速の制御指令が制駆動部へ送信され、自車両は加速する。
【0069】
次に、自車両が過渡区間(N2〜N3)に進入すると、ドライバは引き続き一定のアクセル操作を継続しながら走行する。また、このときドライバはステア操作を徐々に開始してステアの切り増しを始める。このドライバのステア操作に応じて、自車両に作用する横加速度も徐々に増加する。すると横加加速度も増加するため、GVC制御指令値による減速の制御指令値が算出される。
【0070】
このとき、アクセル操作に応じて算出された加速の制御指令が制駆動部へ送信され、自車両は加速または一定速を維持しつつ走行する。また同時にGVCによる減速の指令指令が制動部へ送信され、自車両が減速される。つまり、この区間では車両には制駆動部による加速と、制動部による減速が同時に作用する。
【0071】
このように従来技術1では、車両に作用する横加加速度に応じて算出した前後の制御指令値を加えることにより、車両を安定化することは可能となるが、ドライバのアクセル操作中にもかかわらずブレーキ制御がかかることによる強い違和感が発生する。
【0072】
また、図6を用いて、図5の従来技術1とは異なる従来技術2による車両の走行制御装置により、既述する走行シナリオ1で走行した際の自車両の動作を説明する。この従来技術2のように、減速の制御指令がある場合には、加速の制御指令を一定まで抑制し、制動を優先とする方法がある。しかし、この場合にはドライバはアクセルを踏んでいるにも関わらず、減速のみ実施されるため、強い違和感が発生する。
【0073】
そこで、ドライバのアクセル操作時は、制御指令値に応じて制御指令値を補正してドライバに違和感を与えない手法が望まれる。
[区間(N3〜N4)]
続いて、自車両が定常区間(N3〜N4)に進入すると、ドライバは引き続き一定のアクセル操作を継続しながら走行する。またドライバはステアの切り増しを止めてステア角を一定に保つ。このとき、自車両に作用する横加速度は一定となり、横加加速度もゼロとなるため、GVC制御指令値はゼロとなる。
【0074】
よって、自車両はアクセル操作に応じて算出された加速の制御指令が制駆動部へ送信され、加速または一定速を維持しつつ走行する。
[区間(N4〜N5〜N6)]
続いて、自車両が過渡区間(N4〜N5)に進入すると、さらにアクセル操作により車両を加速させながら、直線区間へ進入していく。またドライバはステアの切り戻しを始める。このドライバ操作に応じて、自車両に作用する横加速度は徐々に減少する。このように横加加速度が減少するため、GVC制御指令値としては加速の制御指令値が算出される。
【0075】
このとき、ドライバのアクセル操作に応じて算出された加速の制御指令値とGVCによる加速の制御指令値の大きい値が選択された後、制駆動部へ送信され、加速または一定速を維持しつつ走行する。
【0076】
この後、自車両が直線区間(N5〜N6)に進入すると、アクセル操作によりドライバの任意の速度へと加速していく。またドライバはステア操作を止め、車両の直進を保つためにステア角を一定に保つ。よって、自車両に作用する横加速度は一定となるため、GVC制御指令値は再びゼロに戻る。
【0077】
次に、図7を用いて本実施の形態に係る車両の走行制御装置により、既述する走行シナリオ1で走行した際の動作について説明する。なお、N3以降の走行経路については既述の通り従来技術においても課題とならないため、説明を省略する。
【0078】
同図中には上から順に、ドライバアクセル操作に応じた制御指令値、ドライバブレーキ操作に応じた制御指令値、ACC制御指令値、GVC制御指令値、制駆動制御指令値、および制動制御指令値の時系列波形を示している。
[区間(N1〜N2〜N3)]
既述の通り、はじめの直線区間(N1〜N2)では、GVC指令値はゼロとなるため、前述の従来技術と同様にドライバのアクセル操作、およびブレーキ操作に応じて車両は加速、および減速制御される。
【0079】
次に、自車両が過渡区間(N2〜N3)に進入すると、ドライバは引き続き一定のアクセル操作を継続しながら走行する。また、このときドライバはステア操作を徐々に開始してステアの切り増しを始める。このドライバのステア操作に応じて、自車両に作用する横加速度も徐々に増加する。すると横加加速度も増加するため、GVC制御指令値による減速の制御指令値が算出される。
【0080】
このとき前述の通り、従来の技術では、ドライバのアクセル操作中にもかかわらずブレーキ制御がかかることによる強い違和感が発生する。
【0081】
そこで本発明の実施の形態では、ステップ200からステップ208により、制御指令値(Gx_Arb)が一定以上の場合には、図7に示すように加速の制御指令値(Gx_Arb)GVCによる減速の制御指令値(Gx_GVC)を加算した補正後制御指令値(Gx_Corr)を車両に印加することにより、アクセル操作中にブレーキがかかることによるドライバへの違和感を低減(または解消)しつつ、ブレーキによる絶対的な減速ではなく、相対的な減速により車両を安定させる効果を出すことが可能となる。
【0082】
次に、図8を用いて、従来技術の車両の走行制御装置により、図5のような走行経路を既述の走行シナリオ1とは違う走行シナリオ2で走行した場合について説明する。
【0083】
走行シナリオ2として、ドライバはACCにより予め設定した車速で走行する場合について説明する。なおこのとき、ドライバはアクセル操作およびブレーキ操作は実施しない。
【0084】
同図中には上から順に、ドライバアクセル操作に応じた制御指令値、ドライバブレーキ操作に応じた制御指令値、ACC制御指令値、GVC制御指令値、制駆動制御指令値、および制動制御指令値の時系列波形を示している。
[区間(N1〜N2〜N3)]
はじめの直線区間(N1〜N2)では、ACCにより一定速を維持するための制御指令値が算出される。また、このときドライバは自車両を直進させるためにステア角を一定に保つ。このため、自車両に作用する横加速度はゼロ付近で一定となるため、GVC指令値はゼロとなる。
【0085】
よってこのとき、ACCにより算出された加速の制御指令値が制駆動部へ送信され、自車両は一定速で走行する。
【0086】
次に、自車両が過渡区間(N2〜N3)に進入すると、走行抵抗などにより徐々に自車速が低下するため、ACCにより設定車速となるように加速の制御指令値が算出される。また、このときドライバはステア操作を徐々に開始してステアの切り増しを始める。このドライバのステア操作に応じて、自車両に作用する横加速度も徐々に増加する。すると横加加速度も増加するため、GVC制御指令値による減速の制御指令値が算出される。
【0087】
このとき、ACCにより算出された加速の制御指令が制駆動部へ送信され、自車両は加速して一定速を維持しつつ走行しようとする。また同時にGVCによる減速の指令値が制動部へ送信され、自車両が減速される。つまり、この区間では車両には制駆動部115による加速と、制動部114による減速が同時に作用する。
【0088】
このように従来技術では、車両に作用する横加加速度に応じて算出した前後の制御指令値を加えることにより、車両を安定化することは可能となるが、ACCによる加速の制御中にもかかわらずブレーキ制御がかかることによる強い違和感が発生する。
【0089】
そこで、車両に対する加速の制御指令がある場合には、制御指令値に応じて制御指令値を補正してドライバに違和感を与えない手法が望まれる。
[区間(N3〜N4)]
続いて、自車両が定常区間(N3〜N4)に進入するが、ACCは低下した車速を設定車速に戻すような制御指令を算出する。このとき、自車両に作用する横加速度は一定となり、横加加速度もゼロとなるため、GVC制御指令値はゼロとなる。
【0090】
よって、自車両はACCにより算出された加速の制御指令が制駆動部へ送信され、加速し設定車速に戻るように制御され走行する。
[区間(N4〜N5〜N6)]
続いて、自車両が過渡区間(N4〜N5)に進入すると、同様に低下した車速を設定車速に戻すような制御指令を算出する。またドライバはステアの切り戻しを始める。このドライバ操作に応じて、自車両に作用する横加速度は徐々に減少する。このように横加加速度が減少するため、GVC制御指令値としては加速の制御指令値が算出される。
【0091】
このとき、ドライバのアクセル操作に応じて算出された加速の制御指令値とGVCによる加速の制御指令値の大きい値が選択された後、制駆動部へ送信され、加速し設定車速に戻るように制御され走行する。
【0092】
この後、自車両が直線区間(N5〜N6)に進入すると、同様に低下した車速を設定車速に戻すような制御指令を算出する。またドライバはステア操作を止め、車両の直進を保つためにステア角を一定に保つ。よって、自車両に作用する横加速度は一定となるため、GVC制御指令値は再びゼロに戻る。
【0093】
次に、図9を用いて本実施の形態に係る車両の走行制御装置により、既述する走行シナリオ2で走行した際の動作について説明する。なお、N3以降の走行経路については既述の通り従来技術においても課題とならないため、説明を省略する。
【0094】
同図中には上から順に、ドライバアクセル操作に応じた制御指令値、ドライバブレーキ操作に応じた制御指令値、ACC制御指令値、GVC制御指令値、制駆動制御指令値、および制動制御指令値の時系列波形を示している。
[区間(N1〜N2〜N3)]
既述の通り、はじめの直線区間(N1〜N2)では、GVC指令値はゼロとなるため、前述の従来技術と同様にACCに応じて車両は制御される。
【0095】
つぎに、自車両が過渡区間(N2〜N3)に進入すると、走行抵抗などにより徐々に自車速が低下するため、ACCにより設定車速となるように加速の制御指令値が算出される。また、このときドライバはステア操作を徐々に開始してステアの切り増しを始める。このドライバのステア操作に応じて、自車両に作用する横加速度も徐々に増加する。すると横加加速度も増加するため、GVC制御指令値による減速の制御指令値が算出される。
【0096】
このとき前述の通り、従来の技術では、ACCによる加速の制御中にもかかわらずブレーキ制御がかかることによる強い違和感が発生する。
【0097】
そこで本発明の実施の形態では、ステップ200からステップ208により、制御指令値(Gx_Arb)が一定以上の場合には、図9に示すように加速の制御指令値(Gx_Arb)GVCによる減速の制御指令値(Gx_GVC)を加算した補正後制御指令値(Gx_Corr)を車両に印加することにより、加速制御にブレーキがかかることによるドライバへの違和感を低減(または解消)しつつ、ブレーキによる絶対的な減速ではなく、相対的な減速により車両を安定させる効果を出すことが可能となる。

【0098】
以上説明したように本発明の実施形態では、車両に対する前後加速度要求の大きさを考慮しながら、車両に作用する横加加速度に応じた前後加速度を車両に加えることにより、ドライバの違和感を抑えつつ、快適に、車両を制御することのできる車両の走行制御装置を提供することが可能となる。
【0099】
これまで、制御指令値演算部113に搭載される走行制御アルゴリズムが、ドライバ操作に応じた制御指令値の算出処理と、ACC、およびG−Vectoring制御の場合について記述したが、その他の前後加速度を制御指令とする走行制御アルゴリズムを制御指令値算出処理部113bに追加したり、あるいは置換えをした場合であっても同様の効果を得ることが可能である。
【0100】
以上、本発明の実施の形態を、図面を用いて詳述してきたが、具体的な構成は上記した実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲における設計変更等があっても、それらは本発明に含まれるものである。例えば、上記した実施の形態は本発明を分かり易く説明するために詳細に説明したものであり、必ずしも説明した全ての構成を備えるものに限定されるものではない。また、ある実施の形態の構成の一部を他の実施の形態の構成に置き換えることが可能であり、また、ある実施の形態の構成に他の実施の形態の構成を加えることも可能である。また、各実施の形態の構成の一部について、他の構成の追加・削除・置換をすることが可能である。
【0101】
具体的には、図示する走行制御アルゴリズムとしてG−Vectoring制御を取り上げて説明しているが、走行制御アルゴリズムとしては、これ以外にも、Adaptive Cruise Control(ACC)やプリクラッシュ制御であってもよく、さらには、これらの2以上の制御を組み合わせた走行制御アルゴリズムであってもよい。
【0102】
また、上記の各構成、機能、処理部等は、それらの一部もしくは全部を、例えば集積回路で設計する等によってハードウェアで実現してもよい。また、上記の各構成、機能等は、プロセッサがそれぞれの機能を実現するプログラムを解釈し、実行することにより、ソフトウェアで実現してもよい。各機能を実現するプログラム、テーブル、ファイル等の情報は、メモリやハードディスク、SSD(Solid State Drive)等の記録装置、もしくはICカード、SDカード、DVD等の記録媒体に置くことができる。
【符号の説明】
【0103】
100 車両の走行制御装置
111 ドライバ操作情報取得部
112 車両運動情報取得部
113 制御指令値演算部
114 制動部
115 制駆動部
116 外界認識情報取得部
117 表示部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9