(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6204489
(24)【登録日】2017年9月8日
(45)【発行日】2017年9月27日
(54)【発明の名称】エンジンの過給機
(51)【国際特許分類】
F02B 33/40 20060101AFI20170914BHJP
F02B 67/04 20060101ALI20170914BHJP
F02B 67/06 20060101ALI20170914BHJP
F02B 39/04 20060101ALI20170914BHJP
F02B 39/00 20060101ALI20170914BHJP
F02B 39/14 20060101ALI20170914BHJP
F01M 1/06 20060101ALI20170914BHJP
F01M 9/10 20060101ALI20170914BHJP
【FI】
F02B33/40
F02B67/04 F
F02B67/04 J
F02B67/04 A
F02B67/06
F02B67/04 H
F02B39/04
F02B39/00 T
F02B39/14 B
F02B39/14 F
F01M1/06 K
F01M1/06 Z
F01M9/10 Z
【請求項の数】9
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2015-547370(P2015-547370)
(86)(22)【出願日】2013年11月18日
(86)【国際出願番号】JP2013081039
(87)【国際公開番号】WO2015072035
(87)【国際公開日】20150521
【審査請求日】2016年5月6日
(73)【特許権者】
【識別番号】000000974
【氏名又は名称】川崎重工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100087941
【弁理士】
【氏名又は名称】杉本 修司
(74)【代理人】
【識別番号】100086793
【弁理士】
【氏名又は名称】野田 雅士
(74)【代理人】
【識別番号】100112829
【弁理士】
【氏名又は名称】堤 健郎
(74)【代理人】
【識別番号】100154771
【弁理士】
【氏名又は名称】中田 健一
(74)【代理人】
【識別番号】100155963
【弁理士】
【氏名又は名称】金子 大輔
(72)【発明者】
【氏名】成岡 翔平
(72)【発明者】
【氏名】松田 吉晴
【審査官】
齊藤 公志郎
(56)【参考文献】
【文献】
特開平02−291424(JP,A)
【文献】
実開平03−010041(JP,U)
【文献】
特開2012−002139(JP,A)
【文献】
特開2008−175138(JP,A)
【文献】
特開平03−047425(JP,A)
【文献】
実開平02−061134(JP,U)
【文献】
特開2010−127073(JP,A)
【文献】
米国特許出願公開第2004/0168441(US,A1)
【文献】
実開昭61−138839(JP,U)
【文献】
特開2011−144813(JP,A)
【文献】
特開2008−267454(JP,A)
【文献】
特開2006−097614(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F02B 39/00 − 39/16
F01M 1/00 − 9/12
F16H 7/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
エンジンのクランク軸の回転力が無端帯状の動力伝達部材により伝達されることで駆動される過給機であって、
過給機に潤滑油を導く過給機潤滑油通路と、
前記動力伝達部材のたるみを抑制する油圧式の付勢力発生装置と、
前記付勢力発生装置が取り付けられる付勢力発生装置取付部と、を備え、
前記過給機潤滑油通路に導入される潤滑油の一部が分岐路を通って前記付勢力発生装置に油圧源として供給され、
前記付勢力発生装置取付部に、前記分岐路が形成されているエンジンの過給機。
【請求項2】
請求項1に記載のエンジンの過給機において、さらに、過給機回転軸を支持してエンジンケースに着脱自在に取り付けられる過給機ホルダを備え、
前記付勢力発生装置が、前記過給機ホルダに着脱自在に取り付けられているエンジンの過給機。
【請求項3】
請求項2に記載のエンジンの過給機において、前記エンジンは、エンジンケース内に潤滑油ポンプを搭載し、
前記過給機潤滑油通路は前記過給機ホルダに形成され、前記過給機潤滑油通路に前記潤滑油ポンプから供給される潤滑油が導入され、
前記過給機潤滑油通路は、前記過給機ホルダと前記エンジンケースとの合わせ面に開口しているエンジンの過給機。
【請求項4】
請求項3に記載のエンジンの過給機において、前記潤滑油ポンプは、前記エンジンの被潤滑部または被冷却部に潤滑油を導くものであるエンジンの過給機。
【請求項5】
請求項3または4に記載のエンジンの過給機において、前記潤滑油ポンプは、前記クランク軸から直接的または間接的に駆動力が伝達されているエンジンの過給機。
【請求項6】
エンジンのクランク軸の回転力が無端帯状の動力伝達部材により伝達されることで駆動される過給機であって、
過給機に潤滑油を導く過給機潤滑油通路と、
前記動力伝達部材のたるみを抑制する油圧式の付勢力発生装置と、
過給機回転軸を支持してエンジンケースに着脱自在に取り付けられる過給機ホルダと、を備え、
前記過給機潤滑油通路に導入される潤滑油の一部が分岐路を通って前記付勢力発生装置に油圧源として供給され、
前記付勢力発生装置が、前記過給機ホルダに着脱自在に取り付けられ、
前記付勢力発生装置は、ピボット軸を中心に回動して前記動力伝達部材に押圧力を与える押圧部材を有し、
前記ピボット軸が前記エンジンケースに支持されているエンジンの過給機。
【請求項7】
請求項1から6のいずれか一項に記載のエンジンの過給機において、前記過給機の軸受部に供給される前の潤滑油の一部を分岐して前記付勢力発生装置に供給しているエンジンの過給機。
【請求項8】
請求項1に記載のエンジンの過給機において、前記付勢力発生装置は、ピボット軸を中心に回動して前記動力伝達部材に押圧力を与える押圧部材を有し、
前記ピボット軸がエンジンケースに支持されているエンジンの過給機。
【請求項9】
請求項1に記載のエンジンの過給機において、さらに、過給機回転軸を支持してエンジンケースに着脱自在に取り付けられる過給機ホルダを備え、
前記付勢力発生装置が、前記過給機ホルダに設けられ、
前記付勢力発生装置が設けられる側が従動側となるように、前記動力伝達部材が駆動されるエンジンの過給機。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エンジンのクランク軸の回転力が無端帯状の動力伝達部材により伝達されることで駆動される過給機に関するものである。
【背景技術】
【0002】
過給機を備えたエンジンにおいて、クランク軸の回転力をチェーンのような無端帯状の動力伝達部材により伝達して、過給機を駆動するものがある(例えば、特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】国際公開WO2011/046098号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、エンジンのクランク軸から大きな回転力が伝達される場合、チェーンに生じる回転変動が大きい。具体的には、エンジンの爆発、吸入等の工程により回転変動が生じたり、加減速操作によるエンジン回転数の変化によって回転変動が生じたりする。このような回転変動が生じると、チェーンの耐久性が低下することがある。
【0005】
本発明は、前記課題に鑑みてなされたもので、簡単な構造でありながら、動力伝達部材に回転変動が生じる場合でも動力伝達部材の耐久性を向上させることができるエンジンの過給機を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するために、本発明のエンジンの過給機は、エンジンのクランク軸の回転力が無端帯状の動力伝達部材により伝達されることで駆動される過給機であって、過給機に潤滑油を導く過給機潤滑油通路と、前記動力伝達部材のたるみを抑制する油圧式の付勢力発生装置とを備え、前記過給機潤滑油通路に導入される潤滑油の一部が分岐路を通って前記付勢力発生装置に油圧源として供給されている。
【0007】
この構成によれば、油圧により大きな押圧力を付加できるので、クランク軸から回転変動が伝達された場合でも、動力伝達部材のたるみを抑制できる。その結果、動力伝達部材の耐久性が向上する。また、過給機の回転部分を潤滑するために過給機に導入された潤滑油の一部を付勢力発生装置に利用しているので、簡単な構造で油圧による押圧力を得ることができる。
【0008】
本発明において、さらに、前記付勢力発生装置が取り付けられる付勢力発生装置取付部を備え、この付勢力発生装置取付部に、前記分岐路が形成されていることが好ましい。この構成によれば、付勢力発生装置の取付部に付勢力発生装置用の分岐路が形成されているので、油圧源からの配管を別途設ける必要がない。また、付勢力発生装置を取付部に取り付けるだけで、潤滑油が供給されるので、作業性も向上する。
【0009】
本発明において、さらに、過給機回転軸を支持してエンジンケースに着脱自在に取り付けられる過給機ホルダを備え、前記付勢力発生装置が、前記過給機ホルダに着脱自在に取り付けられていることが好ましい。この構成によれば、過給機を付勢力発生装置を含む過給機ユニットとして独立して扱うことができる。これにより、過給機搭載型のエンジンと過給機なしのエンジンとの切り替えを容易に行うことができる。
【0010】
過給機ホルダを備える場合、前記エンジンは、エンジンケース内に潤滑油ポンプを搭載し、前記過給機ホルダと前記エンジンケースとの合わせ面を貫通して前記過給機潤滑油通路が形成されていることが好ましい。その場合、好ましくは、前記潤滑油ポンプは、前記エンジンの被潤滑部または被冷却部に潤滑油を導くものである。この構成によれば、過給機ホルダをエンジンケースに取り付けるだけで、付勢力発生装置に潤滑油が供給される。これにより作業性が一層向上する。
【0011】
エンジンが潤滑油ポンプを搭載する場合、前記潤滑油ポンプは、前記クランク軸から直接的または間接的に駆動力が伝達されていることが好ましい。この構成によれば、エンジン回転速度に応じて潤滑油ポンプの吐出圧力が変わるので、エンジンの回転速度の上昇に応じて大きくなる動力伝達装置の変動を、付勢力発生装置によって効果的に抑制できる。
【0012】
過給機ホルダを備える場合、前記付勢力発生装置は、ピボット軸を中心に回動して前記動力伝達部材に押圧力を与える押圧部材を有し、前記ピボット軸が前記エンジンケースに支持されていることが好ましい。この構成によれば、ピボット軸がエンジンケースに支持されているので、過給機ホルダの強度を低くできる。
【0013】
本発明において、前記過給機に供給される前の潤滑油の一部を分岐して前記過給機の油圧シリンダに供給するのが好ましい。この構成によれば、分岐路は、過給機潤滑油通路における被潤滑部の上流側で分岐されているので、過給機潤滑油通路内の潤滑油圧力が低下するのを抑制できる。
【0014】
請求の範囲および/または明細書および/または図面に開示された少なくとも2つの構成のどのような組合せも、本発明に含まれる。特に、請求の範囲の各請求項の2つ以上のどのような組合せも、本発明に含まれる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
本発明は、添付の図面を参考にした以下の好適な実施形態の説明からより明瞭に理解されるであろう。しかしながら、実施形態および図面は単なる図示および説明のためのものであり、本発明の範囲を定めるために利用されるべきものではない。本発明の範囲は添付の請求の範囲によって定まる。添付図面において、複数の図面における同一の部品番号は、同一または相当部分を示す。
【
図1】本発明の第1実施形態に係るエンジンの過給機を備えた自動二輪車を示す側面図である。
【
図2】同エンジンを後方斜め上方から見た斜視図である。
【
図5】同エンジンの過給機を取り外した状態を後方斜め上方からみた斜視図である。
【
図6】同過給機の過給機ホルダを示す水平断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の好ましい実施形態について図面を参照しながら説明する。本明細書において、「左側」および「右側」は、車両に乗車した運転者から見た左右側をいう。
【0017】
図1は本発明の第1実施形態に係るエンジンの過給機を搭載した自動二輪車の左側面図である。この自動二輪車の車体フレームFRは、前半部を形成するメインフレーム1と、後半部を形成するリヤフレーム2とを有している。メインフレーム1の前端にヘッドパイプ4が設けられ、このヘッドパイプ4にステアリングシャフト(図示せず)を介してフロントフォーク8が回動自在に軸支されている。フロントフォーク8の下端部に前輪10が取り付けられ、フロントフォーク8の上端部に操向用のハンドル6が固定されている。
【0018】
一方、車体フレームFRの中央下部であるメインフレーム1の後端部に、スイングアームブラケット9が設けられている。このスイングアームブラケット9に取り付けたピボット軸16の回りに、スイングアーム12が上下揺動自在に軸支されている。このスイングアーム12の後端部に、後輪14が回転自在に支持されている。車体フレームFRの中央下部でスイングアームブラケット9の前側に、エンジンEが取り付けられている。エンジンEがドライブチェーン11を介して後輪14を駆動する。
【0019】
エンジンEは、左右方向(車幅方向)に延びる回転軸を有するクランク軸26と、クランク軸26を支持するクランクケース28と、クランクケース28の前方上面から上方に突出したシリンダブロック30と、その上方のシリンダヘッド32と、クランクケース28の下方に設けられたオイルパン34とを有している。本実施形態では、クランクケース28とシリンダブロック30とが型成形により一体に形成されている。これらクランクケース28、シリンダブロック30およびシリンダヘッド32によりエンジンケースECを構成している。
【0020】
エンジンEのクランクケース28内に潤滑油ポンプ29が設けられている。潤滑油ポンプ29の回転軸29aには、クランク軸26の回転力が歯車伝達され、潤滑油ポンプ29がエンジンEにより駆動される。潤滑油ポンプ29は、エンジンケースEC内に形成されたエンジン潤滑油通路(図示せず)を介して、エンジンEの被潤滑部または被冷却部に潤滑油を供給している。潤滑油ポンプ29は、さらに、後述の過給機42にも潤滑油を供給している。
【0021】
シリンダヘッド32の前面に、4本の排気管36が接続されている。これら4本の排気管36が、エンジンEの下方で集合され、後輪14の右側に配置された排気マフラー38に接続されている。
【0022】
メインフレーム1の上部に燃料タンク15が配置され、リヤフレーム2に操縦者用シート18および同乗車用シート20が支持されている。また、車体前部に、樹脂製のカウリング22が装着されている。カウリング22は、前記ヘッドパイプ4の前方を覆っている。カウリング22には、空気取入口24が形成されている。空気取入口24は、カウリング22の前端に位置し、外部からエンジンEへの吸気を取り入れる。
【0023】
車体フレームFRの左側に、吸気ダクト50が配置されている。吸気ダクト50は、前端開口50aをカウリング22の空気取入口24に臨ませた配置でヘッドパイプ4に支持されている。吸気ダクト50の前端開口50aから導入された空気は、ラム効果により昇圧される。
【0024】
シリンダブロック30の後方でクランクケース28の上面に、外気を浄化するエアクリーナ40および過給機42が車幅方向に並んで配置されている。吸気ダクト50は、エンジンEの前方からシリンダブロック30およびシリンダヘッド32の左外側方を通過して、エアクリーナ40に走行風Aを吸気Iとして導いている。過給機42は、エアクリーナ40からの清浄空気を加圧してエンジンEに供給する。
【0025】
過給機42の吐出口48とエンジンEの吸気ポート54との間に、吸気チャンバ52が配置され、過給機42の吐出口48と吸気チャンバ52とが直接接続されている。吸気チャンバ52は、過給機42の吐出口48から供給された高圧の吸気Iを貯留する。吸気チャンバ52と吸気ポート54との間には、スロットルボディ44が配置されている。吸気チャンバ52は、過給機42およびスロットルボディ44の上方に配置されている。吸気チャンバ52およびスロットルボディ44の上方に、前記燃料タンク15が配置されている。
【0026】
図2に示すように、過給機42は、エアクリーナ40の右側に隣接して配置され、ボルト43によりクランクケース28の上面に固定されている。過給機42の吸込口46はクランクケース28の上方でエンジンEの幅方向の中央部やや左寄りに位置し、過給機42の吐出口48はエンジンEの車幅方向の中央部に位置している。
【0027】
過給機42は、吸気を加圧する遠心式の羽根車60と、羽根車60を覆う羽根車ケーシング62と、エンジンEの動力を羽根車60に伝達する変速機構64と、過給機回転軸44を回転自在に支持する過給機ホルダ66とを有している。過給機ホルダ66は、変速機構64も覆っている。羽根車ケーシング62を挟んで車幅方向の右側に過給機ホルダ66が、左側にエアクリーナ40が、それぞれ配置されている。変速機構64はなくてもよい。
【0028】
過給機42はエンジンEの動力によって駆動される。具体的には、エンジンの右側面図である
図3に示すように、クランク軸26の回転力が、無端帯状の動力伝達部材の一種であるチェーン74を介して、過給機回転軸44(
図2)に連結された入力軸65に伝達されている。より詳細には、クランク軸26にギヤ連結された過給機駆動軸70の右側端部に出力側スプロケット71が設けられ、入力軸65の右側端部に入力側スプロケット76が設けられ、これらのスプロケット71,76間にチェーン74が掛け渡されている。
【0029】
過給機ホルダ66に、チェーン74のたるみを抑制する油圧式の付勢力発生装置の一種である油圧テンショナ75が設けられている。詳細には、
図2に示すように、過給機ホルダ66の前側上部に突出したテンショナ取付部72が一体に形成されており、このテンショナ取付部72に、油圧テンショナ75の駆動体である油圧シリンダ77が、そのフランジ81のうえにカバー83を被せて、ボルトのような締結部材79により着脱自在に取り付けられている。油圧テンショナ75の詳細は後述する。
【0030】
図4に示すように、前記入力軸65は中空軸からなり、軸受78を介して過給機ホルダ66に回転自在に支持されている。入力軸65における右側端部65bの外周面にスプライン歯67が形成されおり、この外周面にスプライン嵌合されたワンウェイクラッチ80を介して、前記入力側スプロケット76が入力軸65に連結されている。
【0031】
入力軸65の右側端部65bの内周面に雌ねじ部が形成されており、ワンウェイクラッチ80が、この雌ねじ部に螺合されたボルト82の頭部により、ワッシャ84を介して、右側端部65bに装着されている。入力軸65は変速機構64の入力側回転軸である。
【0032】
過給機42の過給機回転軸44の左側端部44aに前記羽根車60が固定され、入力軸65の左側端部65aに、変速機構64を介して過給機回転軸44の左側部44bが連結されている。つまり、変速機構64は、入力軸65と過給機回転軸44との間に配置され、過給機ホルダ66に支持されている。本実施形態では、変速機構64として遊星歯車装置が用いられており、入力軸65の回転を増速して過給機回転軸44に伝達している。
【0033】
過給機回転軸44は、軸受69を介して過給機ホルダ66に回転自在に支持されている。過給機ホルダ66は、入力軸65、入力側スプロケット76およびワンウェイクラッチ80を収納する入力ケース部66Rと、変速機構54を収納するギヤケース部66Lとからなり、これら入力ケース部66Rとギヤケース部66Lとが、ボルト88を用いて連結されている。さらに、インペラハウジング62が、ボルト90を用いて過給機ホルダ66のギヤケース部66Lに連結されている。
【0034】
過給機ホルダ66に、過給機42の外部の油圧ポンプ29から供給される潤滑油OLを導入して、軸受69および変速機構64まで潤滑油OLを導く過給機潤滑油通路92が形成されている。詳細には、
図5に示すように、前記潤滑油ポンプ29(
図1)からの潤滑油を過給機42へ導入する過給機潤滑油導入路94の出口94aが、クランクケース28における過給機ホルダ66との合わせ面96に形成されている。出口94aを出た潤滑油OLは軸受69に供給されるとともに、図示しない通路により、変速機構64にも供給される。
【0035】
詳細には、過給機42に導入された潤滑油は、軸受69に加えて、変速機構(遊星歯車装置)64の軸支持部分、歯の噛合い部分、入力側スプロケット76、チェーン74等に供給されている。また、過給機回転軸44と過給機ホルダ66との間にオイルフィルムダンパが介在されている場合、このオイルフィルムダンパにも過給機潤滑油通路92を介して潤滑油を供給してもよい。これらの各部位へ、エンジンEの油圧ポンプ29から潤滑油が供給される。
【0036】
図6に示すように、過給機潤滑油導入路94は、出口94aから過給機ホルダ66の過給機潤滑油通路92に直接接続され、軸受69に潤滑油を供給している。具体的には、過給機潤滑油通路92は、入力ケース部66Rから左側に延び、ギヤケース部66Lの内部で径方向内側に延びて、過給機回転軸44の軸受69に潤滑油を供給している。このように、過給機ホルダ66をエンジンケースECに取り付けることで、潤滑油ポンプ29(
図1)から過給機潤滑油通路92に潤滑油OLが供給される。
【0037】
入力ケース部66Rに、過給機潤滑油通路92から分岐したテンショナ潤滑油通路98(
図8)が形成されている。テンショナ潤滑油通路98は、過給機潤滑油通路92から分岐している。詳細には、出口94aから上方に流れた潤滑油が、分岐点Bで、左側に向かう過給機潤滑油通路92と上側に向かうテンショナ潤滑油通路98とに分岐する。
図3に示すように、テンショナ潤滑油通路98は、過給機ホルダ66のテンショナ取付部72内を延び、油圧テンショナ75の油圧シリンダ77に接続されている。つまり、テンショナ潤滑油通路98は、過給機潤滑油通路92における軸受69(被潤滑部)および変速機構64(被潤滑部)よりも上流側で分岐されている。
【0038】
図6に示すように、潤滑油OLは、過給機潤滑油導入路94の出口94aを介して入力ケース部66Lから過給機42の内部に導入され、軸受69と油圧シリンダ75に供給されている。このように、導入部をチェーン74および油圧テンショナ75に近い入力ケース部66Lに設けることで、テンショナ潤滑油通路98を短くできる。特に、軸受69とチェーン74との間に、導入部を設けることで、過給機潤滑油通路92とテンショナ潤滑油通路98の両方を短くできる。また、両通路92,98は外部配管でないので、液漏れしたとしても、潤滑油がエンジンの外に漏出することがない。
【0039】
図7に示すように、油圧テンショナ75は、テンショナピボット軸100を中心に回動してチェーン74に押圧力を与える押圧部材102と、押圧部材102に押圧力を与えるテンショナロッド103とを有している。テンショナピボット軸100は、エンジンケースECに支持されている。
【0040】
テンショナロッド103は、油圧シリンダ77からの動力によりテンショナ軸心方向Dに進退して、押圧部材102に与える押圧力を調整する。押圧部材102は、テンショナロッド103から与えられる押圧力に応じて、テンショナピボット軸100を中心に回動してチェーン74に押圧力を与え、チェーン74のたるみを調整する。油圧シリンダ77からの押圧力は、例えば、速度、加速度等に基づいてエンジン・コントロール・ユニット(図示せず)からの指令により決定される。
【0041】
チェーン74は矢印Xの方向に走行し、油圧テンショナ75が配置される緩み側LSとは反対側の緊張側TSに、チェーン74を案内するガイド部材104が設けられている。ガイド部材104は、ボルト106によりエンジンケースECに支持されている。ガイド部材104を設けることで、チェーン74の走行が安定する。
【0042】
チェーン74の緩み側LS、すなわち出力側スプロケット71からチェーン74が導き出される側が上方に位置するように、チェーン74の回転方向が設定されている。これにより、油圧テンショナ75をクランクケース28の上方に配置できる。その結果、クランクケース28内の機器、部材との干渉を防ぐことができるから、チェーン74の下方に油圧テンショナを配置する場合に比べて、油圧テンショナ75の配置が容易になる。また、油圧テンショナをチェーン74の上方に配置することで、駆動源である潤滑油が油圧テンショナ75から垂れた場合に、そのような潤滑油はチェーン74に向かって滴るので、潤滑液として有効に利用できる。
【0043】
入力側スプロケット76をクランクケース28の後部の上方に配置することで、シリンダブロック30と過給機42との間に空間を形成することができ、この空間に油圧テンショナ75を配置できる。
【0044】
入出力側スプロケット76,71の軸を結ぶ直線Lが、後方に向かって上方に傾斜している。これにより、油圧テンショナ75を前方に傾斜して配置できるので、油圧テンショナ75の油圧シリンダ77が過給機ホルダ66から突出する高さを抑えることができる。さらに、入力側スプロケット76をクランクケース28の後部の上方に配置することで、直線Lと水平面とのなす角度が小さくなる。これにより、油圧テンショナ75のテンショナ軸心方向D(押圧方向)が鉛直方向に近づくので、シリンダブロック30と油圧テンショナ75との干渉を避けることができる。
【0045】
上記構成において、油圧テンショナ75により大きな押圧力を付加できるので、クランク軸26から回転変動が伝達された場合でも、チェーン74のたるみやバタツキを抑制できる。その結果、チェーン74の耐久性が向上する。また、
図6の過給機42の軸受69を潤滑するための潤滑油OLの一部を、油圧シリンダ75に利用しているので、別途油圧配管を用意することなく、油圧による押圧力を得ることができる。
【0046】
過給機ホルダ66に一体形成された油圧テンショナ取付部72にテンショナ潤滑油通路98が形成されているので、油圧シリンダ77からの配管を別途設ける必要がない。また、油圧テンショナ75を取付部72に取り付けるだけで、油圧シリンダ77に潤滑油が供給されるので、作業性も向上する。
【0047】
また、過給機ホルダ66に過給機潤滑油通路92が形成され、油圧テンショナ75が過給機ホルダ66に着脱自在に取り付けられているので、過給機42を油圧テンショナ75を含む過給機ユニットとして独立して扱うことができる。これにより、過給機搭載型のエンジンと過給機なしのエンジンとの切り替えを容易に行うことができる。
【0048】
過給機ホルダ66をエンジンケースECに取り付けることで、エンジンEの潤滑油ポンプ29から過給機潤滑油通路92に潤滑油OLが供給されるので、作業性が一層向上する。
【0049】
図1の潤滑油ポンプ29の回転軸29aは、クランク軸26の回転力で駆動するので、エンジン回転速度に応じて潤滑油ポンプ29のポンプの吐出圧力も変わる。したがって、エンジンの回転速度の上昇に応じて大きくなる
図3のチェーン74の変動を、油圧テンショナ75によって効果的に抑制できる。
【0050】
図3のテンショナピボット軸100がエンジンケースECに支持されているので、過給機ホルダ66の強度を低くできる。
【0051】
図6に示すように、テンショナ潤滑油通路98は、過給機潤滑油通路92における軸受69の上流側で分岐されているので、過給機潤滑油通路92内の潤滑油圧力が低下するのを抑制できる。
【0052】
本発明は、油圧テンショナによって、チェーンのたるみが抑制されるので、脈動が生じやすい動力が駆動力として伝達される過給機に好適に用いられる。具体的には、内燃機関で発生した動力が過給機に伝達される場合に好適に用いられる。
【0053】
本発明は、以上の実施形態に限定されるものでなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内で、種々の追加、変更または削除が可能である。例えば、上記実施形態では、自動二輪車のエンジンに適用した例を説明したが、本発明の過給機は、自動二輪車以外の車両、船舶等のエンジンにも適用可能で、さらに、地上設置のエンジンにも適用できる。また、動力伝達部材としては、チェーン74に代えて、刃形ベルトを使用してもよい。したがって、そのようなものも本発明の範囲内に含まれる。
【符号の説明】
【0054】
26 クランク軸
29 ポンプ
29a ポンプの回転軸
37 エンジン潤滑油通路
42 過給機
44 過給機回転軸
66 過給機ホルダ
72 油圧テンショナ取付部(付勢力発生装置取付部)
74 チェーン(動力伝達部材)
75 油圧テンショナ(付勢力発生装置)
77 油圧シリンダ
92 過給機潤滑油通路
98 テンショナ潤滑油通路(分岐路)
100 テンショナピボット軸
102 押圧部材
E エンジン
EC エンジンケース
OL 潤滑油