特許第6204506号(P6204506)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ HOYA株式会社の特許一覧

特許6204506使用済み研磨スラリーの再生方法、磁気ディスク用ガラス基板の製造方法
<>
  • 特許6204506-使用済み研磨スラリーの再生方法、磁気ディスク用ガラス基板の製造方法 図000006
  • 特許6204506-使用済み研磨スラリーの再生方法、磁気ディスク用ガラス基板の製造方法 図000007
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6204506
(24)【登録日】2017年9月8日
(45)【発行日】2017年9月27日
(54)【発明の名称】使用済み研磨スラリーの再生方法、磁気ディスク用ガラス基板の製造方法
(51)【国際特許分類】
   B24B 57/02 20060101AFI20170914BHJP
   C02F 11/14 20060101ALI20170914BHJP
【FI】
   B24B57/02
   C02F11/14 D
【請求項の数】13
【全頁数】18
(21)【出願番号】特願2015-560071(P2015-560071)
(86)(22)【出願日】2015年2月2日
(86)【国際出願番号】JP2015052891
(87)【国際公開番号】WO2015115652
(87)【国際公開日】20150806
【審査請求日】2016年7月7日
(31)【優先権主張番号】特願2014-17105(P2014-17105)
(32)【優先日】2014年1月31日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000113263
【氏名又は名称】HOYA株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000165
【氏名又は名称】グローバル・アイピー東京特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】飯泉 京介
(72)【発明者】
【氏名】玉置 将徳
【審査官】 亀田 貴志
(56)【参考文献】
【文献】 特開2001−009723(JP,A)
【文献】 特開2007−098485(JP,A)
【文献】 特開2004−306210(JP,A)
【文献】 特開2011−011307(JP,A)
【文献】 特開2001−192645(JP,A)
【文献】 特表2008−546548(JP,A)
【文献】 欧州特許第01561557(EP,B1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B24B 57/00 − 57/02
B24B 37/00
B24B 55/12
C09K 3/14
G11B 5/84
B01D 37/00
C02F 11/14
DWPI(Thomson Innovation)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ガラス基板の研磨処理に使用された研磨砥粒を含む使用済み研磨スラリーの再生方法であって、
糖類を前記使用済み研磨スラリーに添加し、内部が乾燥した前記糖類の含水凝集物を含んだ混合物を形成するステップと、
前記混合物を遠心分離して前記混合物に含まれるガラス成分の少なくとも一部を除去するステップと、
前記遠心分離により得られる固形分を解砕するステップと、を備える使用済み研磨スラリーの再生方法。
【請求項2】
ガラス基板の研磨処理に使用された研磨砥粒を含む使用済み研磨スラリーの再生方法であって、
糖類を前記使用済み研磨スラリーに添加し、水と接触する外側部分と比べ吸水していない内側部分を有する前記糖類の含水凝集物を含んだ混合物を形成するステップと、
前記混合物を遠心分離して前記混合物に含まれるガラス成分の少なくとも一部を除去するステップと、
前記遠心分離により得られる固形分を解砕するステップと、を備える使用済み研磨スラリーの再生方法。
【請求項3】
前記解砕するステップでは、水を添加した後、前記固形分を解砕する、請求項1又は2に記載の使用済み研磨スラリーの再生方法。
【請求項4】
前記含水凝集物は、最大長さが1μm以上である、請求項1から3のいずれか1項に記載の使用済み研磨スラリーの再生方法。
【請求項5】
ガラス基板の研磨処理に使用された研磨砥粒を含む使用済み研磨スラリーの再生方法であって、
糖類を前記使用済み研磨スラリーに添加して混合物を形成するステップと、
前記混合物を遠心分離して前記混合物に含まれるガラス成分の少なくとも一部を除去するステップと、
前記遠心分離により得られる固形分を解砕するステップと、を備え、
前記解砕するステップでは、水を添加した後、前記固形分を解砕する、使用済み研磨スラリーの再生方法。
【請求項6】
前記糖類は、セルロース、ペクチン、プロトペクチン、カラギーナン、ガラクトース、キサンタンガム、ローカストビーンガム、グァーガム、サイリウムシードガム、タマリンドシードガム、タラガム、キチン、アガロースまたはこれらの組み合わせからなる群から選択される、請求項1から5のいずれか1項に記載の使用済み研磨スラリーの再生方法。
【請求項7】
前記糖類は、水に不溶である、請求項1からのいずれか1項に記載の使用済み研磨スラリーの再生方法。
【請求項8】
前記糖類の添加量は、前記研磨砥粒の重量に対し、0.1〜5質量%である、請求項1からのいずれか1項に記載の使用済み研磨スラリーの再生方法。
【請求項9】
前記混合物のpHが5.5〜13である、請求項1からのいずれか1項に記載の使用済み研磨スラリーの再生方法。
【請求項10】
ガラス基板の研磨処理に使用された研磨砥粒を含む使用済み研磨スラリーの再生方法であって、
糖類を前記使用済み研磨スラリーに添加して混合物を形成するステップと、
前記混合物を遠心分離して前記混合物に含まれるガラス成分の少なくとも一部を除去するステップと、
前記遠心分離により得られる固形分を解砕するステップと、を備え、
前記使用済み研磨スラリーは、請求項1からのいずれか1項に記載の使用済み研磨スラリーの再生方法により再生された使用済み研磨スラリーである、使用済み研磨スラリーの再生方法。
【請求項11】
ガラス基板の研磨処理に使用された研磨砥粒を含む使用済み研磨スラリーの再生方法であって、
前記使用済み研磨スラリーを含む処理液を用いて遠心分離を行う遠心分離処理を含み、
前記処理液は、水との接触により膨潤した表面部と、前記表面部に取り囲まれ、水の侵入が遮断された内部と、を有する塊状物を含むように調整されていることを特徴とする使用済み研磨スラリーの再生方法。
【請求項12】
前記研磨砥粒は、酸化セリウムまたは酸化ジルコニウムを主成分とする、請求項1から11のいずれか1項に記載の使用済み研磨スラリーの再生方法。
【請求項13】
請求項1から12のいずれか1項に記載の使用済み研磨スラリーの再生方法により再生された研磨砥粒を用いて、ガラス板の主表面を研磨する研磨処理、を備える磁気ディスク用ガラス基板の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、使用済み研磨スラリーの再生方法、および磁気ディスク用ガラス基板の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ガラス基板の研磨処理において、研磨砥粒として、例えば、酸化セリウムを主に含有するセリウム研磨剤が用いられる場合がある。セリウム研磨剤は高価であるため、研磨処理の後に使用済みのスラリーを回収し、使用済み研磨スラリー中のガラススラッジ(ガラス屑)等のガラス成分を除去する再生処理を行うことが知られている。遠心分離による固液分離を用いたセリウム研磨剤の再生処理では、使用済み研磨スラリーを遠心分離し、研磨砥粒を含む固形分は回収され、ガラス成分を含む液は廃棄される。
従来の使用済み研磨スラリーの再生処理において、研磨砥粒の回収を容易に行うために、固液分離を行う前に使用済み研磨スラリーにマグネシウム塩を添加することや、固液分離の前後において超音波照射を行うことが知られている(例えば、特許文献1および2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】国際公開第2012/101868号公報
【特許文献2】特開2001−9723号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従来の再生方法によって再生された使用済み研磨スラリーを用いて、ガラス基板の研磨処理を行ったところ、ガラス基板の主表面に傷が生じ易くなることが分かった。この点に関し、検討が進められた結果、再生された使用済み研磨スラリーに含まれる研磨砥粒の中に粒子サイズの粗大なものや、粒界が非常に硬いものが含まれているために、研磨処理においてガラス基板に傷が発生することが分かった。粒界が非常に硬い研磨砥粒は、粒子サイズが粗大でなくても、研磨処理の際に負荷を受けても小さく解砕されず、その結果、ガラス基板に傷を発生させるおそれがある。
本発明は、使用済み研磨スラリーの遠心分離によって生じる固形分を十分に解砕でき、これにより、研磨処理においてガラス基板に傷が生じることを抑制できる使用済み研磨スラリーの再生方法を提供することを目的とする。また、本発明は、研磨処理におけるガラス基板の傷の発生を抑制できる磁気ディスク用ガラス基板の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、下記(1)〜(24)を提供する。
(1)本発明の一態様は、ガラス基板の研磨処理に使用された研磨砥粒を含む使用済み研磨スラリーの再生方法であって、
糖類を前記使用済み研磨スラリーに添加し、内部が乾燥した前記糖類の含水凝集物を含んだ混合物を形成するステップと、
前記混合物を遠心分離して前記混合物に含まれるガラス成分の少なくとも一部を除去するステップと、
前記遠心分離により得られる固形分を解砕するステップと、を備える。
(2)本発明の別の一態様は、ガラス基板の研磨処理に使用された研磨砥粒を含む使用済み研磨スラリーの再生方法であって、
糖類を前記使用済み研磨スラリーに添加し、水と接触する外側部分と比べ吸水していない内側部分を有する前記糖類の含水凝集物を含んだ混合物を形成するステップと、
前記混合物を遠心分離して前記混合物に含まれるガラス成分の少なくとも一部を除去するステップと、
前記遠心分離により得られる固形分を解砕するステップと、を備える。
【0006】
)前記解砕するステップでは、水を添加した後、前記固形分を解砕する、前記(1)又は(2)に記載の使用済み研磨スラリーの再生方法。
(4)前記含水凝集物は、最大長さが1μm以上である、前記(1)から(3)のいずれか1項に記載の使用済み研磨スラリーの再生方法。
(5)本発明のさらに別の一態様は、ガラス基板の研磨処理に使用された研磨砥粒を含む使用済み研磨スラリーの再生方法であって、
糖類を前記使用済み研磨スラリーに添加して混合物を形成するステップと、
前記混合物を遠心分離して前記混合物に含まれるガラス成分の少なくとも一部を除去するステップと、
前記遠心分離により得られる固形分を解砕するステップと、を備え、
前記解砕するステップでは、水を添加した後、前記固形分を解砕する。
【0007】
)前記糖類は、セルロース、ペクチン、プロトペクチン、カラギーナン、ガラクトース、キサンタンガム、ローカストビーンガム、グァーガム、サイリウムシードガム、タマリンドシードガム、タラガム、キチン、アガロースまたはこれらの組み合わせからなる群から選択される、前記(1)から(5)のいずれか1項に記載の使用済み研磨スラリーの再生方法。
【0008】
)前記糖類は、水に不溶である、前記(1)から()のいずれか1つに記載の使用済み研磨スラリーの再生方法。
【0009】
)前記糖類の添加量は、前記研磨砥粒の重量に対し、0.1〜5質量%である、前記(1)〜()のいずれか1つに記載の使用済み研磨スラリーの再生方法。
【0010】
)前記混合物のpHが5.5〜13である、前記(1)〜()のいずれか1つに記載の使用済み研磨スラリーの再生方法。
【0011】
10)前記解砕するステップでは、周波数16〜120kHzの超音波を照射する、前記(1)〜()のいずれか1つに記載の使用済み研磨スラリーの再生方法。
【0012】
11)さらに、前記解砕した固形分を乾燥するステップを備える、前記(1)から(10)のいずれか1つに記載の使用済み研磨スラリーの再生方法。
【0013】
12)本発明のさらに別の一態様は、ガラス基板の研磨処理に使用された研磨砥粒を含む使用済み研磨スラリーの再生方法であって、
糖類を前記使用済み研磨スラリーに添加して混合物を形成するステップと、
前記混合物を遠心分離して前記混合物に含まれるガラス成分の少なくとも一部を除去するステップと、
前記遠心分離により得られる固形分を解砕するステップと、を備え、
前記使用済み研磨スラリーは、前記(1)から(11)のいずれか1つに記載の使用済み研磨スラリーの再生方法により再生された使用済み研磨スラリーである。
【0014】
13)本発明のさらに別の一態様は、ガラス基板の研磨処理に使用された研磨砥粒を含む使用済み研磨スラリーの再生方法であって、
前記使用済み研磨スラリーを含む処理液を用いて遠心分離を行う遠心分離処理を含み、
前記処理液は、水との接触により膨潤した表面部と、前記表面部に取り囲まれ、水の侵入が遮断された内部と、を有する塊状物を含むように調整されていることを特徴とする。
【0015】
14)さらに、前記遠心分離処理により得られる固形分を解砕する解砕処理を含み、
前記解砕処理では、水を添加した後、前記固形分を解砕する、前記(13)に記載の使用済み研磨スラリーの再生方法。
【0016】
15)前記解砕処理では、周波数16〜120kHzの超音波を照射する、前記(14)に記載の使用済み研磨スラリーの再生方法。
【0017】
16)さらに、前記解砕した固形分を乾燥する乾燥処理を備える、前記(14)または(15)に記載の使用済み研磨スラリーの再生方法。
【0018】
17)前記処理液は、セルロース、ペクチン、プロトペクチン、カラギーナン、ガラクトース、キサンタンガム、ローカストビーンガム、グァーガム、サイリウムシードガム、タマリンドシードガム、タラガム、キチン、アガロースまたはこれらの組み合わせからなる群から選択された糖類を用いて、前記塊状物を含むように調整されている、前記(13)から(16)のいずれか1つに記載の使用済み研磨スラリーの再生方法。
【0019】
18)前記糖類は、水に不溶である、前記(17)に記載の使用済み研磨スラリーの再生方法。
【0020】
19)前記糖類の添加量は、前記研磨砥粒の重量に対し、0.1〜5質量%である、前記(17)または(18)に記載の使用済み研磨スラリーの再生方法。
【0021】
20)前記処理液のpHが5.5〜13である、前記(13)〜(19)のいずれか1つに記載の使用済み研磨スラリーの再生方法。
【0022】
21)本発明のさらに別の一態様は、ガラス基板の研磨処理に使用された研磨砥粒を含む使用済み研磨スラリーの再生方法であって、
前記使用済み研磨スラリーを含む処理液を用いて遠心分離を行う遠心分離処理を含み、
前記処理液は、水との接触により膨潤した表面部と、前記表面部に取り囲まれ、水の侵入が遮断された内部と、を有する塊状物を含むように調整され、
前記使用済み研磨スラリーは、前記(13)から(20)のいずれか1つに記載の使用済み研磨スラリーの再生方法により再生された使用済み研磨スラリーである。
【0023】
22)前記研磨砥粒は、酸化セリウムまたは酸化ジルコニウムを主成分とする、前記(1)から(21)のいずれか1つに記載の使用済み研磨スラリーの再生方法。
【0024】
23)前記遠心分離を500〜3000Gで行う、前記(1)〜(22)のいずれか1つに記載の使用済み研磨スラリーの再生方法。
【0025】
24)本発明のさらに別の一態様は、磁気ディスク用ガラス基板の製造方法であって、
前記(1)〜(23)のいずれか1つに記載の使用済み研磨スラリーの再生方法により再生された研磨砥粒を用いて、ガラス板の主表面を研磨する研磨処理、を備える。
【発明の効果】
【0026】
本発明の使用済み研磨スラリーの再生方法によれば、使用済み研磨スラリーの遠心分離によって生じる固形分を十分に解砕でき、これにより、研磨処理においてガラス基板に傷が生じることを抑制できる。また、本発明の磁気ディスク用ガラス基板の製造方法によれば、研磨処理におけるガラス基板の傷の発生が抑制される。
【図面の簡単な説明】
【0027】
図1図1(a)は、使用済み研磨スラリー中の含水凝集物および研磨砥粒の様子を概念的に示す図である。図1(b)は、遠心分離によって生じる固形分を概念的に示す図である。
図2】含水凝集物に水が浸透した後の研磨砥粒の粒子間の様子を概念的に示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0028】
以下、本発明の使用済み研磨スラリーの再生方法、および磁気ディスク用ガラス基板の製造方法について詳細に説明する。
【0029】
(使用済み研磨スラリーの再生方法)
本実施形態に係る再生方法は、ガラス基板の研磨処理に使用された研磨砥粒(使用済みの研磨砥粒)を含む使用済み研磨スラリーの再生方法であり、糖類(例えば、後述する水に不溶な多糖類)を使用済み研磨スラリーに添加して混合物を形成するステップ(混合物を形成するステップ)と、前記混合物を遠心分離して前記混合物に含まれるガラス成分の少なくとも一部を除去するステップ(除去するステップ)と、前記遠心分離により得られる固形分を解砕するステップ(解砕するステップ)と、を備える。混合物を形成するステップは、混合物を用意あるいは調製するステップ、さらには、後述する処理液を調整するステップと言い換えることができる。
本実施形態では、研磨に用いた使用済み研磨スラリーを再生する場合を例に説明するが、本実施形態の再生方法は、研削に用いた使用済み研磨スラリー(ただし砥粒を含む)を再生する場合にも適用できる。
【0030】
研磨処理は、例えば、キャリアに保持させた基板の主表面を一対の研磨パッドで挟み、研磨パッドと基板の間に研磨スラリーを供給しながら遊星歯車運動によって基板と研磨パッドとを相対的に移動させて研磨することで行う。ガラス基板の研磨処理は、例えば、後述する両面研磨装置を用いて行われる。研磨処理の対象のガラス基板は、用途は特に限定されず、例えば、LCD装置等の各種ディスプレイ装置用のパネルや、マスクブランク、HDD装置用の磁気ディスクに用いられるガラス基板である。
使用済みの研磨砥粒とは、過去に少なくとも一回、ガラス基板の研磨処理に使用された研磨砥粒を意味する。研磨処理としては、例えば、後述する磁気ディスク用ガラス基板の製造方法において行われる、第1研磨、第2研磨が挙げられる。研磨砥粒は、特に限定されないが、例えば、酸化セリウムを主に含む研磨剤(以降、セリウム研磨剤ともいう)、酸化ジルコニウムを主に含む研磨剤が用いられる。セリウム研磨剤は、セリウムの他に、ランタン、プラセオジウム、ネオジム等の他の希土類元素の酸化物を含むものであってもよい。研磨剤は、主な研磨剤以外の他の研磨剤をさらに含んでいてもよい。研磨砥粒の平均粒径は、例えばD50(レーザー回折散乱式粒度分布測定法による累積粒径が微粒側から累積50%に相当する粒子径)で0.1〜3μmである。
スラリーは、水に研磨砥粒を分散させたものであり、研磨砥粒のほか、分散剤や後述する水に不溶な多糖類を適宜含んでいてもよい。スラリーに用いられる水は、RO水、脱イオン水、蒸留水等の純水のほか、水道水等、不純物を含むものであってもよい。分散剤は、特に限定されないが、例えばリン酸系分散剤が用いられる。なお、使用済み研磨スラリーには、本発明の使用済み研磨スラリーの再生方法によって再生されたものが用いられてもよい。この場合、使用済み研磨スラリーを繰り返し再生して使用することによる、研磨砥粒のコストを低減する効果が得られる。
【0031】
(a)混合物を形成するステップ
混合物を形成するステップでは、糖類(例えば、水に不溶な多糖類)を使用済み研磨スラリーに添加して混合物を形成する。糖類は、水との接触により膨潤する性質を有するものであることが好ましい。この性質を有していることで、水中で塊状物(いわゆるダマ)が形成されやすくなる。また、糖類は、室温(20℃)で中性の水(以降、単に水ともいう)に対する溶解度が低いことが好ましく、不溶であることがより好ましい。このような性質を有していることで、ダマが長期間安定して存在することが可能になる。以上の観点から、糖類の中でも、セルロース、キチン;ガラクトース、ローカストビーンガム、タラガム;プロトペクチン、カラギーナン、キサンタンガム、グァーガム、サイリウムシードガム、タマリンドシードガム、アガロースが好ましく、セルロース、キチン;ガラクトース、ローカストビーンガム、タラガムがより好ましく、セルロース、キチンが最も好ましい。糖類は、2種以上を組み合わせて用いることができる。なお、セルロースを用いる場合、結晶セルロースを用いるとより好ましい。
【0032】
ここで、水に不溶な糖類の例として、水に不溶な多糖類について説明する。なお、本明細書において、「水に不溶」または「不溶性」という場合、水に全く溶けないことのほか、一部が水に溶解することも含まれる。一部が水に溶解するとは、具体的には、水への溶解量が、添加量の30重量%以下、または20重量%以下、または10重量%以下であることをいう。したがって、以下説明する「水に不溶な多糖類」または「不溶性多糖類」は、添加量の一部の量(30重量%、または20重量%、または10重量%)以下が水に溶解する多糖類、と言い換えることができる。水に不溶な多糖類は、水に溶けずに水分を吸収して膨らむ性質を有し、使用済み研磨スラリー中で、水を含んだ凝集物(含水凝集物または塊状物ともいう)として存在するよう、吸水性、保水性を有するものが好ましく用いられる。そのような物質としては、例えば、セルロース、ペクチン、プロトペクチン、カラギーナンキサンタンガム、ローカストビーンガム、グァーガム、サイリウムシードガム、タマリンドシードガム、タラガム、キチン、アガロース等、またはこれらを組み合わせたものが挙げられる。中でも、セルロース、ペクチン、プロトペクチン、カラギーナンが好ましく用いられる。また、上記した、水中でダマが形成されやすく、ダマが長期間安定して存在できるようにする観点からは、セルロース、キチン;ローカストビーンガム、タラガム;プロトペクチン、カラギーナン、キサンタンガム、グァーガム、サイリウムシードガム、タマリンドシードガム、アガロースが好ましく、セルロース、キチン;ガラクトース、ローカストビーンガム、タラガムがより好ましく、セルロース、キチンが最も好ましい。なお、以降の説明では、糖類を代表して、水に不溶な多糖類(すなわち、添加量の一部の量以下が水に溶解する多糖類)に関して説明する。
このような水に不溶な多糖類が使用済み研磨スラリーに添加され、混合物中に含水凝集物が含まれていることで、後で行われる遠心分離によって生じる固形分の解砕が容易になる。なお、水に不溶な多糖類は、遠心分離によって生じる当該固形分(堆積物ともいう)が硬くなり過ぎるのを防止する作用を有する。
【0033】
不溶性多糖類の添加量は、研磨砥粒の重量(乾燥重量)に対し、0.1〜5質量%であることが好ましい。0.1質量%未満では、遠心分離後に得られる固形分の解砕に時間がかかる場合がある。また、5質量%より多く添加すると、研磨砥粒と被研磨基板との間に不溶性多糖類が入りやすくなり、再生後に研磨レートが低下する場合がある。
不溶性多糖類の種類および添加量は、遠心分離によって生じる固形分中に存在する不溶性多糖類がさらに水分を吸収できる状態、言い換えると、例えば、含水凝集物が、外側部分において水を保ち、内側部分において乾燥した状態(いわゆるダマ状の状態)となるよう適宜定められる。ここでいう乾燥した状態とは、遠心分離後にさらに吸水できる状態あるいは十分に吸水していない状態をいう。したがって、ダマ状の状態の含水凝集物は、外力を与えて砕いたときに、乾燥した状態の部分が表れる。以降の説明において、含水凝集物という場合、特に断った場合を除いて、外側部分において水を保ち、内側部分で乾燥した状態のもの、言い換えると、水との接触により膨潤した表面部(外側部分)と、表面部に取り囲まれ、水の侵入が遮断された内部(内側部分)と、を有する塊状物を意味する。
【0034】
不溶性多糖類は、予め含水凝集物とされた状態で、使用済み研磨スラリーに添加されることが好ましい。含水凝集物は、例えば、水に不溶性多糖類を添加して、適度に撹拌及び超音波照射を行うことで得られる。このとき、含水凝集物の内側部分は、十分に吸水していない状態であることが望ましい。含水凝集物のサイズは、特に制限されないが、最大長さが、例えば、1〜300μmである。含水凝集物は、研磨砥粒よりも大きい粒径を有していることが好ましい。
使用済み研磨スラリーは、不溶性多糖類を添加した後、適度に攪拌して、含水凝集物の表面に研磨砥粒の粒子を付着させることで、図1(a)に示される状態とすることができる。図1(a)は、使用済み研磨スラリー中の含水凝集物および研磨砥粒の様子を概念的に示す図である。図1(a)において、含水凝集物1の表面には、多数の研磨砥粒の粒子3が付着している。なお、図1において、含水凝集物1と粒子3の大きさは、分かりやすく説明するために、調整されている。
なお、含水凝集物(塊状物)を含む使用済み研磨スラリーは、言い換えると、後で説明する除去するステップの遠心分離処理において遠心分離にかけられる処理液である。研磨砥粒をまた、混合物を形成するステップは、遠心分離処理で用いられる処理液が塊状物を含むように調整すること、と言い換えることができる。
【0035】
不溶性多糖類を使用済み研磨スラリーに添加して得られる、不溶性多糖類と使用済み研磨スラリーの混合物のpHは、5.5以上に調整されることが好ましく、より好ましくは7以上、より一層好ましくは10以上である。pHが5.5未満であると、スラリー中に存在するガラス成分及び研磨砥粒に付着したガラス成分の除去効果が低下し、再生された使用済み研磨スラリーを用いてガラス基板の研磨処理を行う場合の研磨レートが十分回復できない場合がある。一方、pHが13を超える強アルカリ性下では、ガラス成分のアルカリ土類金属のイオン(例えば、Mg2+,Ca2+)やアルミニウムイオン(Al3+)が水酸化物を形成して析出し、遠心分離後の固形分に混入する場合があり、研磨レートの低下やガラス基板の傷の発生に繋がる場合がある。そのため、pHは13以下であることが好ましい。pHの調整は、例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等の強塩基と、硫酸やリン酸などの強酸を適宜用いて行われるが、特にこれらを用いた方法に限定されない。
【0036】
なお、使用済み研磨スラリーは、混合物を形成するステップの前に、フィルタリングによって異物である粗大粒子が除去されることが好ましい。粗大粒子は、例えば、研磨処理によって使用済み研磨スラリー中に混入した、研磨パッドの屑、乾燥して粗大化した研磨砥粒の粒子、ガラスチップ等のガラス片、等の固体成分である。このような異物を除去することにより、後で行われる「除去するステップ」により生じる固形分の中に研磨砥粒以外の固体成分が混じってしまうことを防止できる。ここでの粗大粒子は、最大長さ(直径)が15μm以上のサイズの粒子をいう。
【0037】
(b)除去するステップ
除去するステップでは、上記混合物(処理液)を遠心分離して当該混合物に含まれるガラス成分を少なくとも一部除去する(遠心分離処理ともいう)。遠心分離は、遠心分離機を用いて行われる。遠心分離は、好ましくは500〜3000Gで行われる。これにより、固形分とガラススラッジ成分を効果的に分離することができる。また、より好ましくは600〜1800Gの条件で行われる。遠心分離機の回転半径および回転数は、このような遠心力の範囲を満たすよう選択される。また、遠心分離の時間は、遠心分離の遠心力に応じて適宜調整され、例えば、15分〜1時間である。なお、遠心分離の遠心力、遠心分離処理の時間、脱水処理の時間、スクレーパー処理の時間等の条件は、遠心分離処理を行うスラリー濃度及びスラリー量、ガラス成分の除去量、固形分の重量や回収率等を考慮して適宜定められる。固形分の水分量は、ガラス成分の除去量や解砕性を悪化させない等の理由から、10〜40質量%であることが好ましい。水分量は、遠心分離処理を行うスラリー濃度及びスラリー量、ガラス成分の除去量、固形分の重量や回収率等を考慮して適宜調整される。遠心分離は、分離した液を遠心分離機に戻す循環供給をしながら行ってもよい。
【0038】
除去するステップにおいて、混合物は、研磨砥粒を含む固形分と液とに分離される(固液分離される)。また、固液分離後の液は、研磨砥粒の濃度が一定値以下になるまで再度、遠心分離を行い、固形分を回収してもよい。再度遠心分離を行う場合、不溶性多糖類を添加してもよい。なお、当該液は、最終的には破棄される。なお、液には、ガラススラッジ(ガラス屑)に由来するガラス成分(溶解しているものと微粒子の2種類)が存在するため、除去するステップにおいてガラス成分(溶解しているものと微粒子の2種類)が除去される。
【0039】
ここで、分離された固形分に含まれる不溶性多糖類の作用について説明する。
固形分は、図1(b)に示されるように、研磨砥粒の粒子3が、後述するように不溶性多糖類(不図示)を介在して互いに重なるように堆積している。図1(b)は、遠心分離によって生じる固形分を概念的に示す図である。なお、図1(b)において、研磨砥粒の粒子3の間の間隔は、分かりやすく説明するため、省略して示される。また、研磨砥粒のサイズは、説明の便宜のため、均一に示される。上記混合物を形成するステップにおいて使用済み研磨スラリー中に存在する含水凝集物は、遠心分離によって遠心力が作用することにより、表面に付着していた研磨砥粒の粒子がその内側に入り込み、これによって、研磨砥粒の粒子3同士が接近し、図2に示されるように、粒子3同士の間に不溶性多糖類5が介在した状態で堆積する。図2は、固形分に含まれる研磨砥粒の粒子と不溶性多糖類の様子を概念的に示す図であり、固形分の一部に注目して示す図である。なお、図1における研磨砥粒の粒子3の間隔と、図2に示す粒子3の間隔とは、分かりやすく説明するために、調整されている。また、図2において、粒子3と不溶性多糖類5の大きさは、分かりやすく説明するために、調整されている。
図2は、不溶性多糖類としてセルロースを用いた場合が示される。図2に示されるように、研磨砥粒の粒子3は、繊維状のセルロースに接触して、互いには接触していない状態で堆積している。含水凝集物は、上述したダマ状の形態から、遠心分離の過程で徐々に小さくなり、研磨砥粒の粒子3同士の間隔が縮まる際にクッションのような役割を果たすとともに、研磨砥粒の粒子3同士の接触を抑える作用を有している。このような不溶性多糖類の作用によって、遠心分離が行われても、後で解砕されやすい固形分が生じる。
【0040】
(c)解砕するステップ
解砕するステップでは、遠心分離により得られる固形分を解砕する(解砕処理ともいう)。固形分の解砕は、例えば、ホモジナイザーを用いて超音波のキャビテーションを発生させることにより好ましく行われるが、超音波槽を用いて行われてもよい。ホモジナイザーを用いる場合は、16kHz〜120kHzの超音波を発生させることが好ましい。この範囲の周波数の超音波によって解砕する時間は、例えば1〜60分である。これにより、研磨砥粒の粒度分布を、再度使用するのに適した良好なものとすることができる。
【0041】
固形分の解砕は、固形分に水を添加した後に行うことが好ましい。含水凝集物は、さらに水を吸収する余地があるため、水が添加されることで、乾燥した内側部分にまで水が浸透し、これにより、固形分の解砕がより容易に行われ、研磨砥粒の粒度分布がより良好なものとなる。水の添加量は、特に制限されないが、例えば、固形分の重量が1〜40重量%となるような量である。水の添加は、水分を有するものの添加によって行われてもよい。
【0042】
上記除去するステップと上記解砕するステップは、交互に行うことを、例えば1,2回繰り返してもよい。
【0043】
解砕するステップの後、異物の除去を、1回または複数回行ってもよい。異物の除去方法としては、例えばフィルタリングを用いることができる。ここで除去される異物は、例えば、十分に解砕されなかった研磨砥粒である。除去する異物のサイズは、例えば15μm以上である。また、複数回行う場合は、次の異物の除去を行う前に、粉砕等によって、研磨砥粒の粒子径の調整を行ってもよい。
【0044】
再生された使用済み研磨スラリーは、研磨砥粒のハンドリング性を良くするため、乾燥してもよい(乾燥するステップまたは乾燥処理)。乾燥は、例えば噴霧乾燥によって行われる。使用済み研磨スラリー中の研磨砥粒は、静置されると、容器の底に沈殿して凝集し、粗大粒子が生成するおそれがある。このような現象が発生するのを防止するために乾燥を行うことで、粗大粒子に起因する傷の発生を抑制できる。
【0045】
本実施形態の再生方法によれば、不溶性多糖類を、回収された使用済み研磨スラリーに添加することで、遠心分離によって固形分が硬くなるのを防止でき、解砕されやすい固形分を得ることができる。
スラリーに含まれる研磨砥粒のハードケーキ化を防止する目的で、不溶性多糖類をガラス基板の研磨処理の前にスラリーに添加することは知られているが、研磨処理の前に添加された不溶性多糖類は研磨処理においてスラリー中で、研磨処理の際に研磨パッドや、キャリア、ガラス基板等から受ける負荷によって充分に分散し、内部まで水和しているため、乾燥状態ではない。本実施形態の再生方法では、内部が乾燥した状態の不溶性多糖類(含水凝集物)が形成されるように、遠心分離を行う前に不溶性多糖類を使用済み研磨スラリーに添加し、好ましくは解砕するステップでその乾燥した部分に水分を吸収させ、そこにせん断応力を付加することで、固形分が容易に解砕される。このように、本実施形態の再生方法では、使用済み研磨スラリーを回収した後に、改めて不溶性多糖類を添加することで、固形分が硬くなるのを十分に防止できるようにしている。また、本実施形態の再生方法によれば、固形分が解砕されやすく、これにより、粒子サイズが粗大化した研磨砥粒や、粒界が非常に硬い研磨砥粒がスラリー中に残ることを抑制できるため、再生された使用済み研磨スラリーを用いて研磨処理を行った場合に、ガラス基板の主表面に傷が生じるのを抑制できる。
なお、本実施形態の使用済み研磨スラリーの再生方法は、研磨砥粒の少なくとも粒子径が調整される点で、スラリーの製造方法と言い換えることができる。また、本実施形態の再生方法は、研磨処理の対象のガラス基板が磁気ディスクに用いられるガラス基板である場合であって、かつ、研磨砥粒が酸化セリウム(セリア)を含むものである場合に、磁気ディスク用ガラス基板向けセリアスラリーの再生方法ということができる。
【0046】
(磁気ディスク用ガラス基板の製造方法)
次に、本実施形態の磁気ディスク用ガラス基板の製造方法について説明する。
本製造方法は、上記説明した使用済み研磨スラリーの再生方法により再生された研磨砥粒を用いて、ガラス板の主表面を研磨する研磨処理を備える。
本実施形態では、使用済み研磨スラリーの再生方法によって再生させた使用済み研磨スラリーを、研磨に用いる場合を例に説明するが、当該使用済み研磨スラリーは、研削に用いることもできる。
【0047】
本実施形態の製造方法の概略を説明すると、まず、一対の主表面を有する板状のガラスブランクを形成する成形処理が行われる。ガラスブランクは、磁気ディスク用ガラス基板の素材となる。次に、このガラスブランクに粗研削処理が施される。この後、ガラスブランクに形状加工処理が施されてガラス基板が形成され、さらに端面研磨処理が施される。この後、ガラス基板に固定砥粒を用いた精研削処理が施される。この後、第1研磨処理、および第2研磨処理がガラス基板に施される。なお、本実施形態では、上記流れで行うが、上記流れ、処理の種類に制限されず、また、上記処理は、必要に応じて適宜省略できる。以下、上記した各処理について、説明する。
【0048】
(a)ガラスブランクの成形処理
成形処理では、例えばプレス成形法を用いて成形を行う。プレス成形法により、円板状のガラスブランクを得ることができる。プレス法に代えて、ダウンドロー法、リドロー法、フュージョン法などの公知の成形方法を用いて、ガラスブランクを製造してもよい。これらの方法で作られた板状ガラスブランクに対し、後述する形状加工処理を適宜施すことによって、磁気ディスク用ガラス基板の元となる円板状のガラス基板が得られる。
【0049】
(b)粗研削処理
次に、粗研削処理が行われる。粗研削処理では、上記ガラスブランクを、両面研削装置のキャリア(不図示)に保持させながら、ガラスブランクの両側の主表面の研削を行う。具体的には、ガラスブランクを、キャリアに設けられた保持穴に保持させるとともに、上定盤と下定盤の間に挟持し、研削剤を含む研削液を供給しつつ、上定盤または下定盤のいずれか一方、または、双方を移動操作させることで、ガラス基板と各定盤とを相対的に移動させて、ガラス基板の両主表面を研削する。研削剤として、例えば遊離砥粒が用いられる。粗研削処理では、ガラスブランクが目標とする板厚寸法及び主表面の平坦度に略近づくように研削される。なお、粗研削処理は、成形されたガラスブランクの寸法精度あるいは表面粗さに応じて行われるが、適宜省略できる。
【0050】
(c)形状加工処理
次に、形状加工処理が行われる。形状加工処理では、ガラスブランクに、公知の加工方法を用いて円孔を形成することにより、円孔を有する円板状のガラス基板を得る。その後、ガラス基板の端面の面取りを行う。面取りは、ガラス基板の内周側および外周側の両方の端面に対して行われる。面取りが行われることで、ガラス基板の端面には、主表面と直交する側壁面と、側壁面と主表面を繋ぐ面取り面(介在面)とが形成される。
【0051】
(d)端面研磨処理
次に、ガラス基板の端面研磨処理が行われる。端面研磨処理では、研磨ブラシとガラス基板の端面との間に遊離砥粒を含む研磨液を供給して、研磨ブラシとガラス基板とをガラス基板の厚み方向に相対的に移動させることにより研磨を行う。端面研磨処理によって、ガラス基板の内周側及び外周側の端面が研磨され、鏡面状態にされる。
【0052】
(e)精研削処理
次に、ガラス基板の主表面に精研削処理が施される。精研削処理では、定盤に固定砥粒を貼り付けた両面研削装置を用いて、ガラス基板の主表面に対して研削を行うことが好ましい。具体的には、上記遊離砥粒の代わりに固定砥粒を用いて研削を行う点以外は、上記粗研削処理とほぼ同様にガラス基板の両主表面を研削する。ガラス基板は、上記実施形態のキャリアに保持されて、両面研削装置内で遊星歯車運動されながら研削される。精研削処理では、固定砥粒が貼り付けられた定盤の研削面とガラス基板の主表面とを接触させてガラス基板の主表面を研削するが、これに代えて、遊離砥粒を用いた研削を行ってもよい。
【0053】
(f)第1研磨処理
次に、ガラス基板の主表面に第1研磨処理が施される。第1研磨処理は、周知の両面研磨装置を用いて、ガラス基板を、キャリアに保持させてガラス基板の両側の主表面の研磨を行う。第1研磨処理を行うための両面研磨装置には、周知の装置を用いることできる。当該装置は、一対の上下の定盤と、上下の定盤の間に挟まれるインターナルギアと、下定盤に設けられたサンギアと、インターナルギアおよびサンギアと係合する複数のキャリアと、を備えている。各定盤には、研磨パッドが貼り付けられている。この装置では、上下の定盤の間にガラス基板を、キャリアの保持穴に保持させた状態で挟み、上下の定盤を回転させることで、ガラス基板を保持するキャリアが自転しながら公転し、遊星歯車運動を行う。これにより、ガラス基板と研磨パッドとが相対移動し、ガラス基板の主表面が研磨される。特に、第1研磨処理では、遊離砥粒を用いて、定盤に貼り付けられた研磨パッドをガラス基板の主表面と接触させて研磨を行う。第1研磨処理の間、遊離砥粒を含むスラリーが、両面研磨装置の供給タンク(不図示)から配管(不図示)を経由してガラス基板と研磨パッドとの間に供給される。スラリーは、ガラス基板と研磨パッドの間に供給された後、回収され、同じまたは異なるバッチの研磨処理を行う間に再度ガラス基板と研磨パッドとの間に供給する循環供給が行われてもよい。遊離砥粒を含むスラリーには、上記説明した再生方法によって再生された使用済み研磨スラリーが用いられる。遊離砥粒は、特に限定されないが、例えば、酸化セリウム砥粒(上記セリウム研磨剤)、ジルコニア砥粒、あるいはこれらを組み合わせたものなどが用いられる。
【0054】
第1研磨処理では、例えば前処理として固定砥粒による研削を行った場合に主表面に残留するクラックや歪みの除去、あるいは、主表面に生じた微小な表面凹凸(粗さやうねり)の除去をする。取代量を適宜調整することで、主表面の端部の形状が過度に落ち込んだり突出したりすることを防止しつつ、主表面の表面粗さ、例えば算術平均粗さRaを低減することができる。また、第1研磨処理で用いられる使用済み研磨スラリーに含まれる研磨砥粒は、上記説明した再生方法によって、良好な粒度分布を有しているため、ガラス基板の主表面に傷が発生することが抑制される。
【0055】
なお、第1研磨処理で回収されたスラリーは、さらに、上記説明した再生方法によって再生されてもよく、再生された回収スラリー(使用済み研磨スラリー)は、さらに、別のガラス基板の研磨処理に用いられてもよい。
【0056】
(g)第2研磨(鏡面研磨)処理
次に、第2研磨処理が施される。第2研磨処理は、主表面の鏡面研磨を目的とする。第2研磨処理は、第1研磨処理で用いたのと同様の両面研磨装置及び研磨方法を用いてよいが、第1研磨処理で用いた研磨砥粒よりも研磨砥粒のサイズを小さくすることが好ましい。これにより、主表面の端部の形状が過度に落ち込んだり突出したりすることを防止しつつ、主表面の粗さを低減することができる。第2研磨処理後、ガラス基板は、両面研磨装置から取り出され、洗浄される。
第2研磨処理の後、さらに、ガラス基板を洗浄(最終洗浄)した後、ガラス基板の品質を検査する検査工程が行われてもよい。
【0057】
(実施例)
本発明の効果を確認するために、下記の実験を行った。具体的には、遠心分離を行う際の使用済み研磨スラリーの条件を表1〜3に示すように種々異ならせて(サンプル1〜15)、下記手順に従って使用済み研磨スラリーを再生し、再生された各使用済み研磨スラリー中のガラス成分の除去量、研磨レートを測定するとともに、再生されたスラリー(再生スラリー)を用いてガラス基板を研磨したときに生じた傷の発生の程度を評価した。
【0058】
使用済み研磨スラリーは、下記の工程1〜7を順に行うことで再生させた。使用済み研磨スラリーには、未使用のセリウム研磨剤を含むスラリーを用いて、上記実施形態の第1研磨処理を1回行い、回収したスラリーを用いた。第1研磨処理は、両面研磨装置を用いて、後述する第1研磨処理と同じ研磨条件で行った。なお、第1研磨処理以外の処理は、上記実施形態の内容で実施した。
【0059】
工程1:異物除去工程
フィルタリングによって、ガラスチップ等の異物を除去した。除去する異物等のサイズは15μm以上とした。
【0060】
工程2:固液分離工程
使用済み研磨スラリーに、表1〜3にしたがって糖類を添加し、pH調整を行った後、遠心分離機を用いて固液分離を行い、液は廃棄し、固形分を回収した。遠心分離は、1000Gで60分行った。
なお、表1〜3の「添加する糖類の種類及び添加量」の欄には、糖類の種類と添加量が並べて示されている。また、糖類の添加量は、未使用の研磨砥粒の重量(乾燥重量)に対する質量比で表される。
【0061】
工程3:解砕工程
固形分の濃度が10〜30重量%となるように水を添加し、ホモジナイザーを用いて、周波数20kHzの超音波キャビテーションを発生させ、30分間固形分の解砕を行った。
工程4:異物除去工程
工程3によって得られたスラリーから、フィルタリングによって異物を除去した。除去する異物のサイズは15μm以上とした。
工程5:粒子径調整工程
分級機として湿式サイクロンを用いて、工程4で得られたスラリーに含まれるセリウム研磨剤の粒子径を調整した。なお、この工程は、粒径が小さすぎて研磨にほとんど寄与しない砥粒を取り除くために行なわれる。したがって、実施しなくても大きな影響はない。実施しない場合は研磨レートが僅かに低下する程度である。
工程6:異物除去工程
工程5で得られたスラリーから、フィルタリングによって、異物を除去した。除去する異物のサイズは15μm以上とした。
工程7:乾燥工程
スラリーを噴霧乾燥した。
【0062】
(ガラス成分の除去量の評価)
工程7によって得られた各サンプルのセリウム研磨剤に含まれるガラス成分の含有量を、蛍光X線分析によって分析した。ガラス成分の含有量は、セリウム研磨剤の重量に対するSiOの重量の比(SiO/セリウム研磨剤比)として評価した。SiO/セリウム研磨剤比は、ガラス成分の除去量を示すパラメータであり、再生された使用済み研磨スラリーに含まれるセリウム研磨剤の重量に対する、セリウム研磨剤に付着したSiOの重量である。SiO/研磨砥粒比の値が小さいほど、ガラス成分の除去効果が高いことを示す。SiOのセリウム研磨剤に対する重量比を、表2に示す。
【0063】
(研磨レート、傷の発生の程度の評価)
各サンプルのセリウム研磨剤を含むスラリー(使用済み研磨スラリー)を用いて、遊星歯車機構を備える両面研磨装置として、特開2012−133882号公報に記載の第1研磨処理に用いられた装置400を用い、下記研磨条件にて、ガラス基板に対し上記実施形態の第1研磨処理を行った。なお、上下の定盤の表面には発泡ポリウレタン製のスエードタイプの研磨パッドを貼り付けた。
・研磨砥粒濃度:10重量%
・上定盤と下定盤によるガラス基板への荷重:100g/cm
・研磨時間:60分
【0064】
ガラス基板には、公称2.5インチサイズの下記組成のアモルファスのアルミノシリケートガラスを用いた。すなわち、SiO2を58重量%以上68重量%以下、Al23を5重量%以上20重量%以下、Li2Oを0重量%以上10重量%以下、Na2Oを4重量%以上12重量%以下、K2Oを0重量%以上6重量%以下、ZrO2を1重量%以上10重量%以下、を主成分として含有するガラスを用いた。
【0065】
上記第1研磨処理を行った後、ガラス板を洗浄、乾燥後、研磨レートを、研磨前後のガラス基板の重量差から計算した。また、洗浄、乾燥後のガラス基板に対して、暗室中で集光ランプの光を当て、ガラス基板の主表面(両面)のスクラッチ及びピットの数を目視でカウントし、傷発生の程度が20個/片面未満の場合をレベルA、20以上100個/片面未満の場合をレベルB、100個/片面以上の場合をレベルCと評価した。レベルAおよびBであれば、傷の発生を抑制できており実用上問題ない。研磨レートはサンプル2を100%として相対値で示した。相対値が90%以上であると実用上好ましい。結果を表1、表3に示す。
【0066】
【表1】
【0067】
【表2】
【0068】
【表3】
【0069】
表1に示されるように、遠心分離の際に、使用済み研磨スラリーに糖類を添加した場合は、ガラス基板の傷の発生が抑えられていることが分かった。特に、使用済み研磨スラリーを、混合物を形成するステップにおいてpHを5.5以上に調整して作製した場合(サンプル2〜6、8,9)は、pHが5.5未満に調整した場合(サンプル11,12)と比べ、傷の発生がより抑えられていることが分かった。これは、pHが5.5以上に調整されたことによって、研磨砥粒の表面から研磨を阻害するガラス成分が十分に除去されて、研磨砥粒本来の表面になったためと考えられる。
表2に示されるように、遠心分離の際に、使用済み研磨スラリーを、混合物を形成するステップにおいてpHを5.5以上に調整して作製した場合は、さらに、再生された使用済み研磨スラリーの研磨砥粒からガラス成分が十分に除去されることが分かった。この場合は、高い研磨レートが得られる。
表3に示されるように、糖類の添加量が5.0質量%以下である場合は、研磨レートが高いことが分かった。
【0070】
上記した実験のほか、工程3において水の添加を行なわず、振動乾燥機を用いて解砕処理を行なった以外はサンプル2と同様にして、再生スラリーを得た(サンプル16)。このスラリーについて上記したのと同様の方法で傷の発生の程度を評価したところ、レベルBであった。その他の特性はサンプル2と同等であった。
また、工程5を行なわなかった以外はサンプル2と同様にして再生スラリーを得た(サンプル17)。このスラリーについて上記したのと同様の方法で研磨レートを計算したところ、サンプル2を100としたときの相対値で、96であった。その他の特性はサンプル2と同等であった。
【0071】
(歩留まりの評価)
使用済み研磨スラリーに添加する糖を表4に示すように種々異ならせて(サンプル18〜30)、上記工程1〜7を順に行うことで再生スラリーを作製し、作製した再生スラリーを用いて、上記と同様のサイズ、組成のガラス基板に、第1研磨処理を行なうとともに、第1研磨処理以外の処理を上記実施形態と同じ要領で最終洗浄まで実施した。この方法で、各サンプルにつき1000枚のガラス基板を作製した。レーザー式の表面欠陥検査装置を用いて、作製した各ガラス基板の歩留まり評価を行った。いずれのサンプルも、糖類の添加量を0.5重量%とし、遠心分離を行う際の使用済み研磨スラリーをpH=7に調整した。表4に歩留まりを示す。
この評価では、第1研磨処理によって形成されて第2研磨処理で除去しきれなかった、目視では見えない傷が表面に残存する基板を検出して排除することができ、各サンプルの傷の発生の程度の差異を比較的大きく表すことができる。すなわち、第1研磨処理で形成されたキズのうち、比較的深いキズの数が歩留まりに反映されていると考えられる。
【0072】
【表4】
【0073】
以上、本発明の使用済み研磨スラリーの再生方法、および磁気ディスク用ガラス基板の製造方法について詳細に説明したが、本発明は上記実施形態に限定されず、本発明の主旨を逸脱しない範囲において、種々の改良や変更をしてもよいのはもちろんである。
【符号の説明】
【0074】
1 含水凝集物(塊状物)
3 研磨砥粒の粒子
5 不溶性多糖類(添加量の一部の量以下が溶解する多糖類)
図1
図2