特許第6204565号(P6204565)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6204565
(24)【登録日】2017年9月8日
(45)【発行日】2017年9月27日
(54)【発明の名称】腐食防止ゾル−ゲル組成物
(51)【国際特許分類】
   C09D 183/04 20060101AFI20170914BHJP
   C09D 5/08 20060101ALI20170914BHJP
   C09D 5/00 20060101ALI20170914BHJP
   C09D 7/12 20060101ALI20170914BHJP
   C08K 3/26 20060101ALI20170914BHJP
   C08K 3/20 20060101ALI20170914BHJP
   C08L 101/12 20060101ALI20170914BHJP
   C08L 83/04 20060101ALI20170914BHJP
   C08L 85/00 20060101ALI20170914BHJP
   C23C 26/00 20060101ALI20170914BHJP
   C23C 22/66 20060101ALI20170914BHJP
   C23C 22/78 20060101ALI20170914BHJP
   B05D 7/14 20060101ALI20170914BHJP
   B05D 7/24 20060101ALI20170914BHJP
   B32B 15/08 20060101ALI20170914BHJP
   B32B 15/04 20060101ALI20170914BHJP
【FI】
   C09D183/04
   C09D5/08
   C09D5/00 D
   C09D7/12
   C08K3/26
   C08K3/20
   C08L101/12
   C08L83/04
   C08L85/00
   C23C26/00 A
   C23C22/66
   C23C22/78
   B05D7/14 Z
   B05D7/24 302Y
   B05D7/24 303B
   B32B15/08 A
   B32B15/04 B
【請求項の数】17
【全頁数】16
(21)【出願番号】特願2016-504312(P2016-504312)
(86)(22)【出願日】2014年3月13日
(65)【公表番号】特表2016-521294(P2016-521294A)
(43)【公表日】2016年7月21日
(86)【国際出願番号】US2014025936
(87)【国際公開番号】WO2014151533
(87)【国際公開日】20140925
【審査請求日】2015年10月30日
(31)【優先権主張番号】61/802,606
(32)【優先日】2013年3月16日
(33)【優先権主張国】US
(73)【特許権者】
【識別番号】502328466
【氏名又は名称】ピーアールシー−デソト インターナショナル,インコーポレイティド
(74)【代理人】
【識別番号】110000855
【氏名又は名称】特許業務法人浅村特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】モリス、エリック エル.
【審査官】 青鹿 喜芳
(56)【参考文献】
【文献】 米国特許出願公開第2004/0255819(US,A1)
【文献】 米国特許出願公開第2002/0197468(US,A1)
【文献】 特表2012−528942(JP,A)
【文献】 特表2009−529583(JP,A)
【文献】 特表2010−506041(JP,A)
【文献】 米国特許第06478886(US,B1)
【文献】 米国特許出願公開第2012/0059116(US,A1)
【文献】 米国特許出願公開第2012/0021232(US,A1)
【文献】 特表2016−513745(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09D 1/00−201/00
B05D 1/00−7/26
C08L 83/00−85/00
C08K 3/00
B32B 15/00
C23C 22/00
C23C 26/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ゾル−ゲルと、
リチウムイオン及び/又はアゾール化合物を含む腐食防止剤と
を含む、金属基体へ適用するための組成物であって、
前記腐食防止剤は、リチウムイオン、及び前記リチウムイオンと塩を形成可能な対イオンを含み、前記対イオンは、炭酸イオン及び/又は水酸化物イオンを含む、
前記組成物
【請求項2】
前記腐食防止剤が、リチウム以外のアルカリ金属イオンを更に含む、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
前記ゾル−ゲルが、有機シランベースのゾル−ゲルを含む、請求項1に記載の組成物
【請求項4】
前記有機シランベースのゾル−ゲルが、アリルトリメトキシシラン、n−(2−アミノエチル)−3−アミノプロピルトリメトキシシラン、p−アミノフェニルシラン、3−アミノプロピルトリエトキシシラン、3−アミノプロピルトリメトキシシラン;3−グリシドキシプロピルジイソプロピルエトキシシラン、3−グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン、及び3−グリシドキシプロピルトリメトキシシランを含むグリシジルオキシ−(C2〜C6アルキル)トリアルコキシシラン;3−メルカプトプロピルトリエトキシシラン、3−メルカプトプロピルトリメトキシシラン、3−メタクリルオキシプロピルメチルジエトキシシラン、3−メタクリルオキシプロピルメチルジメトキシシラン、3−メタクリルオキシプロピルトリメトキシシラン、n−フェニルアミノプロピルトリメトキシシラン、ビニルメチルジエトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、ビニルトリメトキシシラン、又はそれらの混合物を含む、請求項3に記載の組成物
【請求項5】
前記有機シランベースのゾル−ゲルが、グリシジルオキシ−(C2〜C6アルキル)トリアルコキシシランを含む、請求項3に記載の組成物
【請求項6】
前記有機シランベースのゾル−ゲルが、3−グリシドキシプロピルトリメトキシシランを含む、請求項3に記載の組成物
【請求項7】
前記ゾル−ゲルが、有機金属化合物を含む、請求項1に記載の組成物
【請求項8】
前記有機金属化合物が、ジルコニウムアルコキシド化合物を含む、請求項7に記載の組成物
【請求項9】
前記アゾール化合物が、2,5−ジメルカプト−1,3,4−チアジアゾールを含む、請求項1に記載の組成物
【請求項10】
リチウムイオン及び/又はアゾール化合物を含む腐食防止剤と、
シランと
を含む、金属基体へ適用するための組成物であって、
前記腐食防止剤は、前記リチウムイオンと塩を形成可能な対イオンを更に含み、
前記対イオンは、炭酸イオン及び/又は水酸化物イオンを含む、
前記組成物
【請求項11】
前記腐食防止剤が、リチウム以外の追加のアルカリ金属イオンを更に含む、請求項10に記載の組成物
【請求項12】
基体と、
前記基体の少なくとも一部分の上に請求項1に記載の組成物と
を含む、コーティングされた物品
【請求項13】
前記基体がアルミニウムを含む、請求項12に記載のコーティングされた物品
【請求項14】
前記組成物上にコーティングを更に含む、請求項12に記載のコーティングされた物品
【請求項15】
請求項1に記載の組成物を基体の少なくとも一部分の上に適用するステップと、
前記組成物を硬化してゾル−ゲルコーティングを形成するステップと
を含む、コーティングされた物品の製造方法
【請求項16】
前記組成物の適用前に、前記基体を前処理するステップを更に含む、請求項15に記載の方法
【請求項17】
前記ゾル−ゲルコーティングの少なくとも一部分の上にコーティングを適用するステップを更に含む、請求項15に記載の方法
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本出願は、参照としてその全内容が本明細書に組み込まれる、米国特許商標庁において2013年3月16日に出願された米国仮出願第61/802,606号の優先権及び利益を主張する。
【背景技術】
【0002】
アルミニウム及びその合金などの金属は、航空宇宙産業、商業、及び民間産業において数多く使用されている。しかしながら、これらの金属はその低い酸化還元電位のため、水分の存在下で急速に腐食する傾向を有し、これらの金属から作製した物品の使用可能な期間を顕著に短縮したり、及び/又は、メンテナンス費用を上昇させたりする。また、これらの金属は、物に形成されたときに、その金属表面が一般に非常に平滑なため、塗料との接着性に問題を生ずることがある。
【0003】
航空宇宙産業及び自動車産業、商業並びに民間産業において使用される金属の酸化及び分解は、深刻且つ費用のかかる問題である。金属の酸化及び分解を防ぐ、又は最小化するために、金属表面に耐腐食性コーティングを適用する。金属とその上層のコーティングとの間にゾル−ゲル膜を使用することで、接着性を改善できるコーティング方法も存在し得る。それにより、コーティングは金属基体に耐腐食性を付与する一方、所要の接着性を提供することが期待される。
【発明の概要】
【0004】
本発明の実施形態によれば、金属基体へ適用するための組成物は、ゾル−ゲル、並びにリチウムイオン及び/又はアゾール化合物を含む腐食防止剤を含む。
【0005】
いくつかの実施形態では、例えば、金属基体への適用用組成物は、リチウムイオン及び/又はアゾール化合物を含む腐食防止剤、並びにシランを含む。
【0006】
他の実施形態では、金属基体への適用用組成物は、ゾル−ゲル又はシランを含むコーティング組成物、並びにリチウムイオン及び/又はアゾール化合物を含む腐食防止剤を含む。
【発明を実施するための形態】
【0007】
本発明の実施形態によれば、金属表面(ここでは金属基体とも呼ばれる)をコーティングするための耐腐食性コーティング組成物は、ゾル−ゲル、又はその他のシランを含むコーティング組成物を含み、そして、リチウムイオン及び/又はアゾール化合物を含む。耐腐食性コーティング組成物は、追加のIA族金属イオンを更に含んでもよい。リチウムイオン及び/又はアゾール化合物を有する、ゾル−ゲルベースの組成物又はシランを含むコーティング組成物は、ここに説明するように、耐腐食性が低いことが知られているアルミニウム2024などの、特に高強度のアルミニウム合金に関して、既知のゾル−ゲル及びシランベースのコーティング組成物に関連する問題を最小化又は解決することができる。更に、本発明の実施形態に係るゾル−ゲル並びにシランベースのコーティング組成物は、引き続いて適用する塗料やプライマーと適切に接着することができる。
【0008】
本明細書で使用される以下の用語は、以下を意味する。
【0009】
本明細書で使用される「基体」という用語は、表面を有する材料のことを指す。化成コーティングの適用に関して、「基体」という用語は、アルミニウム、鉄、銅、亜鉛、ニッケル、マグネシウム、及び/又はこれらの金属のいずれかの合金であって、スチールを含むがそれに限定されない前記合金のような金属基体のことを指す。基体の例としては、アルミニウム及びアルミニウム合金が挙げられる。基体の例としては、更に高銅アルミニウム基体(すなわち、アルミニウム及び銅の両方を含有する合金を含む基体であって、合金中の銅の量が高く、例えば、合金中の銅の量が3〜4%である)が挙げられる。
【0010】
「コーティング」という用語及び類似の用語は、本明細書において動詞として用いる場合は、組成物を適用するというプロセス、すなわち基体を化成コーティング、プライマー及び/又はトップコートと接触させるような、基体を組成物と接触させるというプロセスをいう。「コーティング」という用語は、「適用/適用する」、「処理/処理する」、又は「前処理/前処理する」という用語と同じ意味で用いることができ、また、例えば基体がそのような適用手段により組成物と接触する場合、塗装、噴霧、及び浸漬のような様々な形態の適用又は処理を示すように用いることもできる。基体のすべて又は一部を接触させてもよい。すなわち、本発明の組成物は基体の少なくとも一部分に適用することができる。
【0011】
「化成コーティング」という用語は、ここでは「化成処理」又は「前処理」とも称するが、金属表面の化学的性質を別の表面化学的性質に変化させる金属基体用の処理のことを指す。「化成処理」及び「化成コーティング」という用語は、金属基体を、基体に含まれる金属とは異なる元素の金属を含む水溶液と接触させる、金属表面の塗布又は処理のことも指す。更に、「化成コーティング」及び「化成処理」という用語は、金属元素を含む水溶液を異なる元素の金属基体と接触させることを指し、この水溶液中では、基体の表面は水溶液に部分的に溶解し、金属基体上にコーティングを沈殿させる(金属基体にコーティングを堆積させるための外部推進力を任意に使用してもよい)。
【0012】
本明細書で使用される「IA族金属イオン」又は「第1族金属イオン」という用語は、周期表における第1列の元素(Hを除く)の1種又は複数種のイオンのことを指す。IA族又は第1族として特定される元素の集団(Hを除く)はアルカリ金属としても知られ、例えば、Li、Na、K、Rb、Cs、及びFrを含む。
【0013】
ここで使用される「ゾル−ゲル」という用語は、分離した粒子か、1次元、2次元、又は3次元の高分子化合物のマトリックスのネットワークのいずれかが集合してできるネットワーク(又はゲル)用の前駆体として機能するコロイド溶液(ゾル)を指す。典型的な前駆体は、金属アルコキシド及び金属塩を含み、それらは種々の形態の加水分解及び重縮合反応を受ける。例示的な化学種においては、金属化合物が溶液中で凝集(コロイド化)して、有機/無機高分子化合物の混成物を形成する。反応条件によって、高分子化合物は、コロイド状粒子に凝集するか、又は成長してネットワーク状のゲルを形成することができる。高分子化合物のマトリックスにおける有機物の無機物に対する比を制御することで、特定の適用に対する性能を調節することができる。
【0014】
本開示において用いられる「含む(comprise)」という用語及びこの用語の変化形、例えば「含む(comprising)」及び「含む(comprises)」という用語は、他の添加剤、成分、整数、構成要素、又はステップを排除することを意図していない。
【0015】
ここで開示される全ての量は、別段の指定がない限り、25℃、1気圧における組成物の全重量に対する重量パーセントで表される。
【0016】
本発明のいくつかの実施形態によれば、金属基体への適用用組成物は、ゾル−ゲル、並びにリチウムイオン及び/又はアゾール化合物を含む腐食防止剤を含む。腐食防止剤は、追加のIA族(つまり1族)金属イオンを更に含んでもよい。
【0017】
いくつかの実施形態では、ゾル−ゲルは、有機シランベースのゾル−ゲルであってよい。適切な有機シランベースのゾル−ゲルは、アリルトリメトキシシラン、n−(2−アミノエチル)−3−アミノプロピルトリメトキシシラン、p−アミノフェニルシラン、3−アミノプロピルトリエトキシシラン、3−アミノプロピルトリメトキシシラン;3−グリシドキシプロピルジイソプロピルエトキシシラン、3−グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン、及び3−グリシドキシプロピルトリメトキシシランを含むグリシジルオキシ−(C2〜C6アルキル)トリアルコキシシラン;3−メルカプトプロピルトリエトキシシラン、3−メルカプトプロピルトリメトキシシラン、3−メタクリルオキシプロピルメチルジエトキシシラン、3−メタクリルオキシプロピルメチルジメトキシシラン、3−メタクリルオキシプロピルトリメトキシシラン、n−フェニルアミノプロピルトリメトキシシラン、ビニルメチルジエトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、ビニルトリメトキシシランのような化合物、及びそれらの混合物を含んでよい。例えば、いくつかの実施形態において、ゾル−ゲルは、3−グリシドキシプロピルトリメトキシシランを含んでよい。また、有機金属化合物、例えば、ジルコニウムアルコキシドの塩も含んでよい。更に、適切なゾル−ゲルについての説明は、例えば、米国特許第6,579,472号(例えば、第2欄、第62行〜第7欄、第65行);第7,153,898号(例えば、第2欄、第28行〜第19欄、第17行);及び第7,141,306号(例えば、第3欄、第51行〜第8欄、第23行)に見出すことができる。これらの特許の引用した部分の内容は、参照として本明細書に組み込まれる。
【0018】
いくつかの実施形態では、有機シランは有機金属化合物、例えば、金属アルコキシド化合物を含むが、この金属アルコキシド化合物には、例えば、ジルコニウムアルコキシド化合物がある。適切なジルコニウム化合物の非限定的な例には、一般式Zr(OR)で表される化合物が含まれる。ここで、それぞれのRは独立に低級脂肪族炭素基、又は分枝脂肪族、脂環式、又はアリ−ル基である。ここで使用される「低級脂肪族炭素基」という用語は、炭素原子数が1〜6の脂肪族炭素基を指す。金属アルコキシド化合物を含む、適切な有機金属化合物のいくつかの非限定的な例は、アルミニウムトリエトキシド、アルミニウムイソプロポキシド、アルミニウムsec−ブトキシド、アルミニウムトリ−t−ブトキシド、マグネシウムトリフルオロアセチルアセトナート、マグネシウムメトキシド、マグネシウムエトキシド、チタンメトキシド、チタンエトキシド、チタンイソプロポキシド、チタンプロポキシド、チタンブトキシド、チタンエチルヘキサオキシド、チタン(トリエタノールアミナト)イソプロポキシド、チタンビス(エチルアセトアセタト)ジイソプロポキシド、チタンビス(2,4−ペンタンジオナート)ジイソプロポキシド、ジルコニウムエトキシド、ジルコニウムイソプロポキシド、ジルコニウムプロポキシド、ジルコニウムsec−ブトキシド、ジルコニウムt−ブトキシド、アルミニウムジ−s−ブトキシドエチルアセトナート、カルシウムメトキシエトキシド、カルシウムメトキシド、マグネシウムメトキシエトキシド、銅エトキシド、銅メトキシエトキシエトキシド、アンチモンブトキシド、ビスマスペンタオキシド、クロムイソプロポキシド、スズエトキシド、亜鉛メトキシエトキシド、チタンn−ノニルオキシド、バナジウムトリ−n−プロポキシドオキシド、バナジウムトリイソブトキシドオキシド、鉄エトキシド、タングステンエトキシド、サマリウムイソプロポキシド、ランタニウムメトキシエトキシド、及びそれらの組み合わせを含む。
【0019】
本発明の実施形態に係る適切なゾル−ゲルの非限定的な例は、ジルコニウムn−プロポキシドなどの、安定化したジルコニウムアルコキシドの有機金属塩、及び3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン(GTMS)などの有機シランカップリング剤を含む。市販のゾル−ゲルのいくつかの非限定的な例は、PRC−DeSoto International,Inc.of Sylmar,CAから入手できる、DesoGel(商標)の名称のもとに販売されているゾル−ゲルを含む。
【0020】
本発明の実施形態に係る組成物は、腐食防止剤を更に含んでもよい。腐食防止剤はリチウムイオン、及び/又はアゾール化合物を含む。いくつかの実施形態では、腐食防止剤は、Liイオンに加えて追加のIA族(つまり1族)金属イオン、例えば、Na、K、Rb、Cs、Fr、又はそれらの組み合わせを含んでよい。
【0021】
いくつかの実施形態では、ゾル−ゲルベースのコーティング組成物又は他のシラン含有コーティング組成物は、リチウムイオン及び対イオンを含んでよく、この対イオンは、リチウムと塩を形成することが知られている種々のイオンを含んでよい。リチウムと塩を形成するのに適切な対イオンの非限定的な例は、炭酸イオン、水酸化物イオン、並びにケイ酸イオン(例えば、オルトケイ酸イオン及びメタケイ酸イオン)を含む。いくつかの実施形態では、例えば、腐食防止剤は、リチウムの炭酸塩、リチウムの水酸化物塩、又はリチウムのケイ酸塩(例えば、リチウムのオルトケイ酸塩、又はリチウムのメタケイ酸塩)を含む。更に、対イオンは、その他のIA族(つまり1族)金属(例えば、Na、K、Rb、Cs及び/又はFr)と塩を形成することが知られている種々のイオンを含んでよい。アルカリ金属と塩を形成するのに適切な対イオンの非限定的な例は、炭酸イオン、水酸化物イオン、並びにケイ酸イオン(例えば、オルトケイ酸イオン及びメタケイ酸イオン)を含む。いくつかの実施形態では、例えば、腐食防止剤は、アルカリ金属の炭酸塩、アルカリ金属の水酸化物、及び/又はアルカリ金属のケイ酸塩(例えば、アルカリ金属のオルトケイ酸塩又はアルカリ金属のメタケイ酸塩)を含む。例えば、腐食防止剤へ含有させるのに適切な塩のいくつかの非限定的な例は、ナトリウム、カリウム、ルビジウム、セシウム、及びフランシウムの炭酸塩、水酸化物並びにケイ酸塩(例えば、オルトケイ酸塩又はメタケイ酸塩)を含む。
【0022】
いくつかの実施形態では、リチウムイオンは、組成物中に、ゾル−ゲル溶液1000グラム当たり0.02グラムから12グラムの量、例えば、ゾル−ゲル溶液1000グラム当たり1グラムから5グラムの量で存在する。
【0023】
本発明の実施形態に係るゾル−ゲル又はシランベースのコーティング組成物は、実質的にクロメートを含まないものでよい。ここで使用される「実質的に」という用語は、近似(approximation)を表す用語として使用され、程度(degree)を表す用語ではなく、当業者によって認識されるだろう測定値又は計算値における固有の偏差を説明することを意味する。また、「実質的にクロメートを含まない」という用語は、近似を表す用語として使用され、組成物中におけるクロメートの量が無視できることを示し、クロメートが仮に組成物中に存在したとしても、それは偶発的な不純物としてである。
【0024】
組成物は、炭酸塩、界面活性剤、キレート化剤、増粘剤、アラントイン、ポリビニルピロリドン、ハロゲン化物、及び/又は接着性促進剤などの、しかしそれらには限定されない、他の成分や添加剤を含んでもよい。
【0025】
本発明の実施形態によるゾル−ゲル又はシランベースのコーティング組成物は、水ベースの混合物としても、又は溶媒ベースの混合物(例えば、アルコールベースの混合物)としても、いずれでも製造することができる。以前の水ベースの系は、溶媒ベースの系(例えば、アルコールベースの系)に関連した可燃性、安全性、毒性、及び環境に対する懸念を軽減してきた。しかし、溶媒ベースの系(例えば、アルコールベースの系)は、ゾルの加水分解量をより良好に制御することを可能にする。
【0026】
いくつかの実施形態では、ゾル−ゲル又はシランベースのコーティング組成物のpHは10より大きくてよい。そして、組成物の温度範囲は、基体に適用する場合には、15℃から120℃でよい。例えば、リチウムベースのコーティング組成物は、室温で、例えば15℃から25℃で金属基体に適用してよい。
【0027】
いくつかの実施形態によれば、ゾル−ゲル又はシランベースの組成物中の腐食防止剤は、アゾール化合物を含んでよい。適したアゾール化合物の例としては環式化合物が挙げられ、ピロール類など1個の窒素原子を有するもの、ピラゾール類、イミダゾール類、トリアゾール類、テトラゾール類、及びペンタゾール類など2個以上の窒素原子を有するもの、オキサゾール類及びイソオキサゾール類など1個の窒素原子及び1個の酸素原子を有するもの、及びチアゾール類及びイソチアゾール類など1個の窒素原子及び1個の硫黄原子を有するものを含む。適したアゾール化合物の例としては、2,5−ジメルカプト−1,3,4−チアジアゾール(CAS:l072−71−5)、1H−ベンゾトリアゾール(CAS:95−14−7)、1H−1,2,3−トリアゾール(CAS:288−36−8)、5−アミノ−1,3,4−チアジアゾール−2−チオールとも命名される2−アミノ−5−メルカプト−1,3,4−チアジアゾール(CAS:2349−67−9)、2−アミノ−1,3,4−チアジアゾールCAS:4005−51−0)及びそれらの組み合わせが挙げられるが、これらに限定はされない。いくつかの実施形態では、例えば、アゾールは2,5−ジメルカプト−1,3,4−チアジアゾールであってもよい。いくつかの実施形態では、アゾールは、組成物中に、ゾル−ゲル組成物1リットル当たり0.01グラムから1グラムの濃度、例えば、ゾル−ゲル組成物1リットル当たり0.4グラムの濃度で存在してよい。いくつかの実施形態では、アゾール化合物は、ベンゾトリアゾール及び/又は2,5−ジメルカプト−1,3,4−チアジアゾールを含む。
【0028】
いくつかの実施形態では、例えば、ゾル−ゲル又はシランベースの組成物は、アゾール化合物とリチウムイオンの両者を含む、複数の腐食防止剤の組み合わせを含んでよい。また、これらのゾル−ゲル又はシランベースの組成物は、例えば、Na、K、Rb、Cs及び/又はFrなどの追加のIA族(つまり1族、すなわちアルカリ金属)金属イオンを、更に含んでよい。
【0029】
いくつかの実施形態では、組成物は、例えば、金属イオン、組成物のpHなどある化学種の存在を指示することからその名が付けられている指示化合物も含有してもよい。本明細書で使用される「指示薬」、「指示化合物」及びそれに類する用語は、金属イオンの存在など何らかの外部刺激、パラメータ、又は条件に応じて、又は特定のpH又はpHの範囲に応じてその色が変化する化合物を指す。
【0030】
本発明のある実施形態にしたがって使用される指示化合物は、種、所定のpHなどの存在を指示する、当該分野で公知のどのような指示薬であってもよい。例えば、適した指示薬は、所定の金属イオンと金属イオン錯体を形成して色が変化するものであってもよい。この金属イオン指示薬は、一般的に、高度に共役した有機化合物である。本明細書で使用される「共役化合物」とは、当業者に理解される通り、例えば1個の炭素−炭素単結合を挟んだ2個の炭素−炭素二重結合のように、1個の単結合によって隔てられた2個の二重結合を有する化合物のことを指す。どのような共役化合物も本発明にしたがって使用できる。
【0031】
同様に、指示化合物は、pHが変化した際に色が変わるものであってもよく、例えば、化合物は酸性又は中性pHではある色であって、アルカリ性pHでは色が変わってもよく、その逆であってもよい。このような指示薬は周知であり、広く市販されている。したがって、「アルカリ性pHにさらされると色が変わる」指示薬は、酸性又は中性pHにさらされた際は第1の色(又は無色)を有し、アルカリ性pHにさらされた際は第2の色に変化する(又は無色から有色に変化する)。同様に、「酸性pHにさらされると色が変わる」指示薬は、pHがアルカリ性/中性から酸性に変化すると、第1の色/無色から第2の色/有色になる。
【0032】
このような指示化合物の例としては、メチルオレンジ、キシレノールオレンジ、カテコールバイオレット、ブロモフェノールブルー、ブロモフェノールグリーン、ブロモフェノールパープル、エリオクロムブラックT、セレスチンブルー、ヘマトキシリン、カルマガイト、ガロシアニン、及びこれらの組み合わせが挙げられるが、これらに限定はされない。いくつかの実施形態によれば、指示化合物は、金属イオン指示薬である有機指示化合物を含む。指示化合物の例としては表Iのものが挙げられるが、これらに限定はされない。特定の条件下で発光する蛍光指示薬も、本発明にしたがって使用することができるが、特定の実施形態では蛍光指示薬の使用は明確に除外される。つまり、特定の実施形態では、蛍光を呈する共役化合物は明確に除外される。本明細書で使用される「蛍光指示薬」及びそれに類する用語は、紫外光又は可視光にさらされると蛍光を発する又は色を呈する化合物、分子、顔料、及び/又は色素のことを指す。「蛍光を発する」とは、光又はその他の電磁放射の吸収に続いて光を発することとして理解される。このような指示薬はしばしば「タグ」と称され、その例としては、アクリジン、アントラキノン、クマリン、ジフェニルメタン、ジフェニルナフチルメタン、キノリン、スチルベン、トリフェニルメタン、アントラセン及び/又はこれらの部分を含有する分子及び/又はローダミン類、フェナントリジン類、オキサジン類、フルオロン類、シアニン類及び/又はアクリジン類などのこれらのいずれかの誘導体が挙げられる。
【表1】
【0033】
1つの実施形態によれば、表Iに示すように、共役化合物はカテコールバイオレットを含む。カテコールバイオレット(CV)は、2モルのピロカテコールと1モルのo−スルホ安息香酸無水物との縮合によって作られるスルホンフタレイン色素である。CVは指示薬としての性質を有し、金属イオンを有する耐腐食組成物に含まれる場合、錯体を形成し、キロン試薬として有用であることが分かっている。CVを含有する組成物は金属イオンをキレートするため、一般的に青〜青紫色が観察される。
【0034】
他の実施形態によれば、表Iに示したキシレノールオレンジが本発明の実施形態にしたがった組成物に使用される。キシレノールオレンジは金属イオン指示薬としての性質を有し、金属イオンを有する耐腐食組成物に含まれる場合、錯体を形成し、キロン試薬として有用であることが分かっている。キシレノールオレンジを含有する組成物は金属イオンをキレートするため、キシレノールオレンジ溶液は赤色から一般的には青色に変化する。
【0035】
指示化合物は、組成物中に、溶液1000g当たり0.01g〜溶液1000g当たり3g、例えば溶液1000g当たり0.05g〜溶液1000g当たり0.3gの量で存在してもよい。
【0036】
本発明のいくつかの実施形態では、共役化合物は、特定の外部刺激に応じて色を変える場合には、基体が組成物で処理されたことの視覚的な指標として機能するという点で、本組成物を使用する際に利益をもたらす。例えば、基体中に存在する金属イオンにさらされると色が変わる指示薬を含む組成物は、その基体中の金属イオンを錯化すると色が変わり、これにより使用者は基体が組成物と接触したことを確かめることができる。同様の利益は、基体上にアルカリ性又は酸性の層を堆積させ、その基体をアルカリ性又は酸性pHにさらされると色が変わる本発明の組成物と接触させるによって実現できる。
【0037】
更に、本発明に係る特定の共役化合物の使用は後に適用されるコーティング層への改善された接着性を基体に提供する。これは共役化合物がヒドロキシ官能性を有する場合に特に当てはまる。したがって、本組成物のいくつかの実施形態によって、プライマー層を必要とすることなく、本発明にしたがって処理された基体上への後のコーティング層の堆積が可能になる。このようなコーティング層は、ウレタンコーティング及びエポキシコーティングを含んでもよい。
【0038】
本発明の他の実施形態によれば、基体は、上述の組成物のいずれかで、少なくとも部分的にコーティングした金属表面を含む。例えば、いくつかの実施形態では、基体は、リチウムイオンを含む腐食防止剤を含む、ゾル−ゲル又はシラン含有組成物でコーティングしたアルミニウム、又はアルミニウム合金表面を含む。腐食防止剤は、追加のIA族(つまり1族、すなわちアルカリ金属)金属イオン、及び/又はアゾール化合物を、更に含んでよい。
【0039】
本発明にしたがったゾル−ゲル又はシランベースの組成物は、金属基体に適用することができ、後続処理において、任意にプライマーコート及び/又はトップコートでコーティングすることができる。
【0040】
更に他の実施形態によれば、金属基体は、金属基体を上述のゾル−ゲル又はシランベースのコーティング組成物と接触させる前に、前処理してよい。本明細書で使用される、「前処理」という用語は、それに続く処理に先立つ基体の表面改質のことを指す。このような表面改質は、当該分野で公知であるように、洗浄(不純物及び/又は汚れを表面から除去すること)、脱酸素、及び/又は溶液若しくはコーティングの適用を含む各種の操作を含んでもよいが、これらに限定はされない。前処理は、より均一な開始時の金属表面の生成、前処理された基体上の後のコーティングに対する改善された接着性、及び/又はその後の化成コーティングの堆積を促進するように開始時の表面を改質することなど、1又は複数の利益を有してもよい。
【0041】
いくつかの実施形態によれば、金属基体は、金属基体をゾル−ゲル又はシラン含有コーティング組成物と接触させる前に、最初に金属基体を溶媒処理することによって準備してよい。本明細書で使用される「溶媒処理」という用語は、基体を、金属表面に存在する可能性のあるインク、オイルなどの除去を補助する溶媒でリンスし、ワイピングし、吹き付け、又は浸漬することを指す。又は、金属基体は、金属基体をゾル−ゲル又はシラン含有コーティング組成物と接触させる前に、従来の脱脂方法を使用して金属基体を脱脂することによって準備してよい。
【0042】
金属基体は、金属基体を溶媒処理することによって前処理してよい。その後、金属基体は、ゾル−ゲル又はシラン含有コーティング組成物の適用前に、金属基体をアルカリ性洗浄剤で洗浄することによって前処理してよい。適した前洗浄剤の一例としては、塩基性(アルカリ性)前処理洗浄剤が挙げられる。前洗浄剤は腐食防止剤も含んでもよく、この腐食防止剤うちいくつかは、腐食防止剤を用いた洗浄工程中の金属表面への攻撃を最小化するため、及び/又はその後の化成コーティングを促進するために、金属基体の表面を「シード」してもよい。その他の適した前洗浄剤は、脱脂剤及びTelford Industries、Kewdale、Western Australiaから入手可能なTurco 4215−NCLT、Henkel Technologies、Madison Heights、MIから入手可能なArnchern 7/17脱酸素剤、及びPRC−DeSoto International,Inc.、Sylmar、CAから入手可能なリン酸ベースの脱酸素剤などの脱酸素剤を含むが、これらに限定はされない。
【0043】
いくつかの実施形態では、金属基体は、ゾル−ゲル又はシラン含有コーティング組成物を金属基体に適用する前に、金属を機械的に脱酸素することによって前処理してよい。典型的な機械的脱酸素手法の例としては、スコッチブライトパッド又は同様の道具を使用した均一な粗面化が挙げられるが、これらに限定はされない
【0044】
いくつかの実施形態によれば、金属基体は、ゾル−ゲル又はシラン含有コーティング組成物を金属基体に適用する前に、金属を溶媒でワイピングすることによって前処理してよい。適した溶媒の例としてはメチルエチルケトン(MEK)、メチルプロピルケトン(MPK)、アセトンなどが挙げられるが、これらに限定はされない。
【0045】
金属基体を準備するための更なる任意のステップとしては、酸洗い液又は軽い酸エッチング、汚れ除去剤などの表面光沢剤の使用、及びアルカリ性溶液への浸漬が挙げられる。
【0046】
金属基体を、各前処理ステップの合間に、水道水、又は蒸留/脱イオン水のいずれかによってリンスすることも可能であり、ゾル−ゲル又はシラン含有コーティング組成物との接触後に、蒸留/脱イオン水及び/又はアルコールでよくリンスしてもよい。
【0047】
金属基体が適切に前処理された後、必要に応じて、ゾル−ゲル又はシラン含有コーティング組成物が金属基体の表面の少なくとも一部分と接触できるようにしてよい。金属基体は、ディップ浸漬、吹き付け、又はブラシ、ローラーなどを使用したスプレッディングなどの、従来技術のいずれかを用いてゾル−ゲル又はシラン含有コーティング組成物と接触させてよい。吹き付けによる適用に関して、従来の(自動又は手動)吹き付け技術及び圧縮空気噴霧に使用される装置を使用してもよい。他の実施形態では、コーティングは、電解コーティング系でよく、或いはコーティングはペースト、又はゲルの形態で適用してよい。ゾル−ゲル又はシラン含有コーティング組成物は、適用要件にしたがって、任意の適切な厚さで適用してよい。いくつかの実施形態では、ゾル−ゲル又はシラン含有コーティングは、タッチアップペンを使用して適用してよい。本発明の実施形態によるゾル−ゲル組成物に適用可能な、ゾル−ゲルを適用する技術は周知である。
【0048】
金属基体を浸漬によってコーティングする場合、必要とされるゾル−ゲル又はシラン含有コーティング組成物の性質及び厚さに基づき、浸漬時間を数秒から複数時間まで変えてよい。滞留時間は、数秒から複数時間の範囲である。いくつかの実施形態では、滞留時間は、30分未満、例えば、3分以下である。
【0049】
金属基体を吹き付け、又は手動スワッビングによる適用を用いてコーティングする場合、ゾル−ゲル又はシラン含有コーティング組成物の溶液は、従来の吹き付けによる適用方法を用いて、少なくとも基体の一部分と接触させられる。ゾル−ゲル又はシラン含有コーティング組成物の溶液が金属基体と接触している滞留時間は、必要とされる化成コーティングの性質及び厚さに基づき、変えてよい。滞留時間は、数秒から複数時間の範囲である。いくつかの実施形態では、滞留時間は、30分未満、例えば、3分以下である。
【0050】
金属基体にゾル−ゲル又はシラン含有コーティング組成物を接触させた後、コーティング金属基体を空気乾燥させてよい。リンスするステップは必要ない。
【0051】
いくつかの実施形態によれば、金属基体は、まず機械的研磨によって準備され、その後、ウェットワイピングすることで汚れを除去してもよい。基体は、その後、適用前に空気乾燥させてよい。次に、ゾル−ゲル又はシラン含有コーティング組成物を、金属基体に、1分から10分、例えば、7分、基体表面が常に濡れるようにコーティング組成物を再度供給しながら、基体端部を常に濡れるように保つ条件で、適用してよい。その後、ゾル−ゲルベースのコーティング組成物は、コーティング組成物の最終的な適用後、例えば、室温より高い熱がない状態で乾燥してよい。基体をリンスする必要はなく、その後、金属基体を、プライマー及び/又はトップコートで更にコーティングし、完成したコーティングを有する基体としてもよい。
【0052】
他の実施形態によれば、ゾル−ゲル又はシラン含有コーティング組成物に添加するための腐食防止剤混合物は、リチウムイオン及び/又はアゾール化合物、並びに担体を含む腐食防止剤を含む。ゾル−ゲル又はシラン含有組成物は、まず、DesoGel及びPreKote(登録商標)(Pantheon Enterprises,Inc.,Phoenix,AZ から入手可能な非クロマート金属前処理剤)などの市販品を用意することで、製造業者の説明によれば、調製することができる。ゾル−ゲル又はシラン含有組成物に、触媒作用を及ぼして、30分に亘って誘起し、その後、本明細書で説明される腐食防止剤を添加してよい。
【0053】
別の実施形態によれば、腐食を防止するゾル−ゲルを調製するキットは、ゾル−ゲル又はシラン含有組成物に添加するための混合物を含む。混合物は、リチウムイオン及び/又はアゾール化合物、並びに任意に担体を含む腐食防止剤を含む。腐食防止剤は、追加のIA族(つまり1族、すなわちアルカリ金属)金属イオンを、更に含んでよい。キットは、腐食を防止するゾル−ゲルを調製する仕様を、更に含んでよい。混合物は、担体と予め混合されていてもよいし、或いは、担体と混合する仕様を含んでもよい。担体は、例えば、水、又はアルコールでよい。その仕様は、腐食防止剤を市販のゾル−ゲルと混合して使用する指示を含んでよい。
【実施例】
【0054】
以下の実施例は、単に実例を示す目的で提示されるものであり、本発明の実施形態の範囲を限定するものではない。
(例1)ゾル−ゲルベースのコーティング組成物の調製
【0055】
以下の実施例と調合法は、本発明の実施形態に係るゾル−ゲル又はシラン含有コーティング組成物の調製、金属基体の準備、並びにコーティング組成物の金属基体への適用に関する一般的な手順を例示する。しかしながら、本開示を参照して当業者によって理解されるように、本発明の実施形態によって、以下の手順に対して、他の含有組成や変更が適用され得る。
A.組成物の配合
【0056】
一実施形態によれば、組成物は、ゾル−ゲル、及びリチウム塩又はDMTZ、を含む腐食防止剤、及び任意に指示薬化合物(例えば、カテコールバイオレット)を有するゾル−ゲルベースの組成物を含む。候補1−4に係るゾル−ゲルベースのコーティング組成物は、以下の表IIに示す含有量で調製した。候補4は、比較例であり、腐食防止剤を加えていない。腐食防止剤溶液は調製した上で、表IIに示すように予め混合したゾル−ゲルに加えた。ベースとなるゾル−ゲル混合物は、水、アルコール、及び酸混合物の内部で固体が十分に分散するまで、例えば、30分間かそれ以上に亘って撹拌する。ゾル−ゲル混合物を撹拌した後、腐食防止剤溶液を基礎液となるゾル−ゲルに添加し、その結果得られる混合物を撹拌した。防止剤化合物を有するゾル−ゲルベースの組成物を、1時間以内に金属基体に適用した。
【表2】

B.溶液とパネルの試験
【0057】
候補1−4の溶液を、色と安定性に関して観察した。その結果を、以下の表IIIに示す。表IIIからわかるように、全ての溶液が混合後8時間に亘って安定(すなわち、沈殿が観察されなかった)であった。
【表3】
【0058】
候補1−4の溶液を、3種類の異なった金属基体(すなわち、Bare Al 2014、Clad Al 2024、及びBare Al 7075)に適用することによって準備したパネルを、乾燥状態の接着性と湿潤状態の接着性の両方に関して分析した。乾燥状態の接着性を試験するために、硬化したコーティングに、45°の角度のクロスハッチパターンをベース金属に達するまで、突き刺した。テープ No.250(3M社より入手可能)を貼り付け、その後、1回の連続動作で剥がした。そして試験した領域を、コーティングの剥がれに関して調べた。コーティングした基体を目視で検査し、0から10までの尺度で等級をつけた。ここで、0は乾燥状態での不十分な接着性に、10は湿潤状態での良好な接着性に対応する。その結果を以下の表IVに示す。
【0059】
湿潤状態の接着性を試験するために、基体をまず硬化してから、室温で純水に24時間浸漬した。それから、コーティングに、45°の角度のクロスハッチパターンをベース金属に達するまで、突き刺した。テープ No.250(3M社より入手可能)を貼り付け、その後、1回の連続動作で剥がした。そして試験した領域を、コーティングの剥がれに関して調べた。コーティングした基体を目視で検査し、0から10までの尺度で等級をつけた。ここで、0は湿潤状態での不十分な接着性に、10は湿潤状態での良好な接着性に対応する。
【0060】
表IVにおいて、接着性試験の結果を、乾燥状態での接着性の平均値/湿潤状態での接着性の平均値(avg dry/wetと表示する)として報告する。表IVからわかるように、ゾル−ゲル中に腐食防止剤が存在しても、本システムの接着性能には影響しない。
【表4】
【0061】
候補1−4の溶液を、3種類の異なった金属基体(すなわち、Bare Al 2014、Clad Al 2024、及びBare Al 7075)に適用することによって準備したパネルを、ASTM B−117に記載の72時間の中性塩水噴霧試験にかけて耐腐食性を分析した。コーティング基体を目視で検査し、0から10までの尺度で等級をつけた。ここで、0は不十分な耐腐食性に、10は良好な耐腐食性に対応する。本試験の結果を以下の表Vに示す。
【表5】
【0062】
本開示の所定の実施形態について説明のために上述したが、添付の特許請求の範囲に定義された本発明及びその均等物から逸脱することなく、本開示の詳細に対しては非常に多くの変更が可能であることは、当業者に理解されるだろう。例えば、ここでの実施形態は「1種の」リチウムイオン、「1種の」アゾール化合物などと結びつけて説明したが、1種又は複数のこれらの成分又はその他言及されたいずれの成分も本開示に従って使用できる。
【0063】
本開示の各種の実施形態は「含む」という用語を用いて説明したが、「本質的に〜から成る」又は「〜から成る」実施形態も本開示の範囲内である。例えば、本開示では、ゾル−ゲル並びにリチウムイオン及び/又はアゾール化合物を含む腐食防止剤を含む組成物を説明しているが、ゾル−ゲル及び腐食防止剤から本質的に成る又はそれらから成る組成物及び/又は溶液も本開示の範囲内である。同様に、リチウムイオン及び/又はアゾール化合物を含む腐食防止剤が説明されているが、リチウムイオン及び/又はアゾール化合物から本質的に成る又はリチウムイオン及び/又はアゾール化合物から成る腐食防止剤も本開示の範囲内である。したがって、上述のように、組成物は本質的にゾル−ゲル及び腐食防止剤から成ってよい。並びに、腐食防止剤は本質的にリチウムイオン及び/又はアゾール化合物から成ってよい。この文脈において、「本質的に〜から成る」とは、組成物中又は腐食防止剤中の追加のいかなる成分も組成物でコーティングした金属基体の耐腐食性に大きな影響を与えないことを意味する。例えば、本質的にリチウムイオン及び/又はアゾール化合物から成る腐食防止剤は、他のIA族(つまり第1族、すなわち、アルカリ金属)金属イオンを含まない。
【0064】
別段の明示の指定がない限り、本明細書で使用される値、範囲、量又は割合などを表す全ての数は、明示されていなくても、「約」という語を付けたものとして読み替えられてもよい。更に、「約」という語の使用は、全て本開示が属する分野の当業者に理解されるように、測定、有効数字、及び互換性に伴う変動の周辺部を反映する。ここで言及したどの数値範囲も、それに含まれる全ての部分範囲(sub−range)を含むことを意図している。複数は単数を包含し、その逆も同様である。例えば、本開示では「1種の」アゾール化合物を説明しているが、このようなアゾール化合物の混合物を使用することができる。範囲が与えられた場合、これらの範囲のどのような終点及び/又はこれらの範囲内の数も本開示の範囲に組み込むことができる。「含む」及びそれに類する用語は、「含むがそれに限定されない」ことを意味する。同様に、本明細書で使用される、「〜(の上)に」、「〜(の上)に適用される」及び「〜(の上)に形成される」という用語は、〜(の上)に、〜(の上)に適用される、又は〜(の上)に形成されるということを意味するが、必ずしも表面と接触している必要はない。例えば、基体「〜(の上)に形成される」コーティング層は、形成されたコーティング層と基体の間に位置する同じ又は異なる組成物の1種又は複数の他のコーティング層の存在を除外しない。
【0065】
本明細書に記載された数値範囲及びパラメータが近似であってもよいとしても、特定の例において記載された数値は、実施可能である程度に正確に報告されている。しかし、どのような数値も、本質的に、各試験測定における標準偏差から必然的に導かれる若干の誤差を含む。本明細書及び特許請求の範囲で使用される「含む」という語及びその変化形は、どのような変更又は追加をも除外するように本開示を制限するものではない。