(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
作動油を給排することによって可動部材を作動させてクランクシャフトに対するカムシャフトの相対回転位相を制御する内燃機関のバルブタイミング制御装置に用いられる油圧制御弁であって、
前記油圧制御弁は、
前記カムシャフトの軸方向の一端部に前記可動部材を固定すると共に、周壁の径方向に作動油を通流させる給排ポートが貫通形成された内部中空状のカムボルトと、
該カムボルトの内部に軸方向へ摺動自在に設けられ、摺動位置に応じて前記給排ポートの開閉切り換えを行う筒状のスプール弁と、
前記カムボルトの外周面に軸方向に沿って配置固定され、周壁の径方向に貫通形成されて、前記給排ポートと連通する連通孔及び内周面の軸方向に形成されて前記給排ポートのいずれかに連通する連通路を有する内部中空状のスリーブと、
を備えたことを特徴とする油圧制御弁。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明に係る油圧制御弁を内燃機関のバルブタイミング制御装置に適用した実施形態を図面に基づいて説明する。
【0015】
前記バルブタイミング制御装置は、
図1及び
図2に示すように、機関のクランクシャフトにより図外のタイミングチェーンを介して回転駆動される駆動回転体であるスプロケット1と、機関前後方向に沿って配置されて、前記スプロケット1に対して相対回転可能に設けられた吸気側のカムシャフト2と、前記スプロケット1とカムシャフト2との間に配置されて、該両者1,2の相対回転位相を変換する位相変更機構3と、該位相変更機構3を最遅角位相位置でロックさせるロック機構4と、前記位相変更機構3とロック機構4をそれぞれ別個独立に作動させる油圧回路5と、を備えている。
【0016】
前記スプロケット1は、ほぼ肉厚円板状に形成されて、外周に前記タイミングチェーンが巻回された歯車部1aを有していると共に、後述するハウジングの後端開口を閉塞するリアカバーとして構成され、中央には前記カムシャフト2の一端部2aが回転自在に支持される支持孔1bが貫通形成されている。
【0017】
前記カムシャフト2は、シリンダヘッド01に複数のカム軸受02を介して回転自在に支持され、外周面には図外の機関弁である吸気弁を開作動させる複数の卵型の回転カムが軸方向の位置に一体的に固定されていると共に、一端部2aの内部軸心方向に後述するカムボルト50が螺着されるボルト孔6が形成されている。
【0018】
このボルト孔6は、一端部2aの先端側から内部軸線方向に沿って穿設されていると共に、開口された前端側から内底部に向かって段差縮径状に形成されて、先端側の均一径の雌ねじ部6aと、該雌ねじ部6aの後端から内方へ縮径テーパ状に形成された段差部6bと、から構成されて、前記雌ねじ部6aの軸方向内側に雌ねじが切られている。
【0019】
前記段差部6bは、内部に後述するオイルポンプ20から圧送される油圧導入室6cが形成されている。
【0020】
前記位相変更機構3は、
図1及び
図2に示すように、前記スプロケット1に軸方向から一体的に設けられたハウジング7と、前記カムシャフト2の一端部2aにカムボルトとなる後述のバルブボディ50を介して軸方向から固定され、前記ハウジング7内に回転自在に収容された従動回転体であるベーンロータ9と、前記ハウジング7の内部の作動室を、後述するハウジング本体7aの内周面に突設された4つのシュー10と前記ベーンロータ9とによって隔成された遅角作動室及び進角作動室であるそれぞれ4つの遅角油圧室11及び進角油圧室12と、を備えている。
【0021】
前記ハウジング7は、焼結金属によって一体に形成された円筒状のハウジング本体7aと、プレス成形によって形成され、前記ハウジング本体7aの前端開口を閉塞するフロントカバー13と、後端開口を閉塞するリアカバーである前記スプロケット1と、から構成されている。前記ハウジング本体7aとフロントカバー13及びスプロケット1とは、前記各シュー10の各ボルト挿通孔10aを貫通する4本のボルト14によって共締め固定されている。前記フロントカバー13は、中央に比較的大径な挿通孔13aが貫通形成されていると共に、該挿通孔13aの外周側内周面で各油圧室11,12内をシールするようになっている。
【0022】
前記ベーンロータ9は、金属材によって一体に形成され、前記カムシャフト2の一端部2aにバルブボディ50によって固定されたロータ部15と、該ロータ部15の外周面に円周方向のほぼ90°等間隔位置に放射状に突設された4つのベーン16a〜16dとから構成されている。
【0023】
前記ロータ部15は、比較的大径な円筒状に形成され、中央の内部軸方向に前記カムシャフト2の雌ねじ孔6cと連続するボルト挿通孔15aが貫通形成されていると共に、後端面のカムシャフト2の一端部2a先端面が当接している。
【0024】
一方、前記各ベーン16a〜16dは、その突出長さが比較的短く形成されて、それぞれが各シュー10の間に配置されていると共に、円周方向の巾がほぼ同一に設定されて厚肉なプレート状に形成されている。前記各ベーン16a〜16dの外周面と各シュー10の先端には、それぞれハウジング本体7aの内周面とロータ部15の外周面との間をシールするシール部材17a、17bがそれぞれ設けられている。
【0025】
また、前記ベーンロータ9は、
図2の一点鎖線で示すように、遅角側へ相対回転すると、第1ベーン16aの一側面が対向する前記一つのシュー10の対向側面に形成された突起面10bに当接して最大遅角側の回転位置が規制されるようになっている。また、
図2の二点鎖線で示すように、進角側へ相対回転すると、同じく第1ベーン16aの他側面が対向する他のシュー10の対向側面10cに当接して最大進角側の回転位置が規制されるようになっている。
【0026】
このとき、他のベーン16b〜16dは、両側面が円周方向から対向する各シュー10の対向面に当接せずに離間状態にある。したがって、ベーンロータ9とシュー10との当接精度が向上すると共に、後述する各油圧室11,12への油圧の供給速度が速くなってベーンロータ9の正逆回転応答性が高くなる。
【0027】
前記各ベーン16a〜16dの正逆回転方向の両側面と各シュー10の両側面との間に、前述した各遅角油圧室11と各進角油圧室12が隔成されており、各遅角油圧室11と各進角油圧室12とは、前記ロータ部15の内部にほぼ放射状に形成された遅角側連通路11aと進角側連通路12aを介して後述する油圧回路5にそれぞれに連通している。
【0028】
前記ロック機構4は、ハウジング7に対してベーンロータ9を最遅角側の回転位置(
図2の一点鎖線位置)に保持するものである。
【0029】
すなわち、このロック機構4は、
図1及び
図2に示すように、前記スプロケット1の内周側の所定位置に圧入固定されたロック穴構成部1c(
図1のみに記載)と、該ロック穴構成部1cに形成されたロック穴24と、前記ベーンロータ9の第1ベーン16aの内部軸方向に形成された摺動孔27に進退動自在に設けられ、小径な先端部25aが前記各ロック穴24にそれぞれ係脱するロックピン25と、該ロックピン25をロック穴24方向へ付勢するコイルスプリング26と、前記ロック穴24の内部に形成され、供給された油圧によって前記ロックピン25を前記コイルスプリング26のばね力に抗して前記各ロック穴24を後退移動させて係合を解除する図外の解除用受圧室と、該解除用受圧室に油圧を供給するロック通路と、から主として構成されている。
【0030】
前記ロック穴24は、ロックピン25の小径な先端部25aの外径よりも十分に大径な円形状に形成されていると共に、スプロケット1の内側面の前記ベーンロータ9の最遅角側の回転位置に対応した位置に形成されている。
【0031】
前記ロックピン25は、先端部25aの受圧面に前記解除用受圧室に供給された油圧を受けて後退移動してロック穴24から抜け出してロックが解除されると共に、後端側に設けられた前記コイルスプリング26のばね力によって先端部25aが前記ロック穴24の内部に係入してベーンロータ9をハウジング7に対してロックするようになっている。
【0032】
前記油圧回路5は、
図1及び
図2に示すように、前記各遅角油圧室11に対して遅角側連通路11aを介して油圧を給排する遅角通路18と、各進角油圧室12に対して進角側連通路12aを介して油圧を給排する進角通路19と、前記解除用受圧室に対して油圧を給排する前記ロック通路と、前記各遅角、進角通路18,19に作動油を選択的に供給するオイルポンプ20と、機関運転状態に応じて前記遅角通路18と進角通路19の流路を切り換える油圧制御弁である単一の電磁切換弁21と、を備えている。
【0033】
前記遅角通路18と進角通路19は、それぞれの一端部が前記電磁切換弁21の後述するスリーブ52の遅角、進角通路孔64a、64bに接続されている一方、他端側が前記遅角、進角側連通路11a、12aを介して前記各遅角油圧室11と各進角油圧室12にそれぞれ連通している。
【0034】
前記ロック通路は、前記遅角通路18に連通して、前記遅角油圧室11に給排される油圧が前記解除用受圧室に給排されるようになっている。
【0035】
前記オイルポンプ20は、機関のクランクシャフトによって回転駆動するトロコイドポンプなどの一般的なものであって、アウター、インナーロータの回転によってオイルパン23内から吸入通路20bを介して吸入された作動油が吐出通路20aを介して吐出されて、その一部がメインオイルギャラリーM/Gから内燃機関の各摺動部などに供給されると共に、他が前記電磁切換弁21側に供給されるようになっている。なお、吐出通路20aの下流側には、図外の濾過フィルタが設けられていると共に、該吐出通路20aから吐出された過剰な作動油を、ドレン通路22を介してオイルパン23に戻して適正な流量に制御する図外の流量制御弁が設けられている。
【0036】
前記電磁切換弁21は、
図1及び
図3などに示すように、3ポート3位置の比例型弁であって、円筒状のバルブボディ50と、該バルブボディ50の内部軸方向に摺動自在に設けられた円筒状のスプール弁51と、前記バルブボディ50の外周面に固定された円筒状のスリーブ52と、前記スプール弁51の先端部に一体に圧入固定されたドレンプラグ53と、該ドレンプラグ53と前記バルブボディ50の内部に形成された環状段差面との間に弾装されて、該スプール弁体51を
図1中右方向へ付勢する付勢部材であるバルブスプリング54と、前記バルブボディ50の外側一端部に設けられて、前記スプール弁51をバルブスプリング54のばね力に抗して図中左方向へ移動させるアクチュエータであるソレノイド部55と、から主として構成されている。
【0037】
前記バルブボディ50は、鉄系金属材によって形成されて、前述のようにカムボルトとして機能し、
図1、
図3及び
図4に示すように、前記ソレノイド部55側の頭部50aと、該頭部50aの付け根部から軸方向へ延出した円筒軸部50bと、該円筒軸部50bの先端側に形成されて、外周面に前記カムシャフト2の雌ねじ孔6bに螺着する雄ねじ部50dが形成された大径円筒部50cと、前記頭部50a先端面側から内部軸方向に形成された摺動用孔50eと、から主として構成されている。
【0038】
前記頭部50aは、外周にスパナ等の締め付け治具が嵌合可能な六角部が形成されていると共に、内部先端側に形成された大径溝部の内周面に前記スプール弁51のソレノイド部55側への最大摺動位置を規制する円環状のストッパ56が圧入固定されている。
【0039】
前記円筒軸部50bは、
図7A〜Cに示すように、周壁に前記雄ねじ部50d側から頭部50a側に向かって順次、導入ポート57と、前述の進角ポート19a、再導入ポート58及び遅角ポート18aがそれぞれ十字径方向に沿ってそれぞれ貫通形成されて、それぞれ4つずつ設けられている。なお、
図7では前記導入ポート57についての具体的な記載はないが、他のポートと同じく十字径方向に形成されている。
【0040】
また、円筒軸部50bは、
図3に示すように、前記遅角ポート18a近傍の外周面に、前記スリーブ52の位置決めを行う嵌合穴である位置決め用穴50fが径方向に沿って形成されている。
【0041】
前記大径円筒部50cは、内部に前記カムシャフト2の前記油圧導入室6cに軸方向から連通する導入通路59が形成されて、前記オイルポンプ20の吐出通路20aから圧送された油圧が油圧導入室6cを介して導入通路59に供給されるようになっており、この導入通路59は、段差径状に形成されて内部の小径部59a側に前記各導入ポート57が連通している。
【0042】
前記スプール弁51は、
図3にも示すように、内部軸方向にドレン通路60が貫通形成されていると共に、外周の前記小径部59a側の軸方向一端部側に円柱状の2つのランド部(弁部)である第1ランド部51a、第2ランド部51bが形成されている。また、該両ランド部51a、51bの間には、スプール弁51の摺動位置に応じて前記各遅角ポート18a及び前記各進角ポート19aや各再導入ポート58に適宜連通するグルーブ溝61が形成されていると共に、前記第2ランド部51bから前記ドレンプラグ53までの間の外周面には排出用通路62が軸方向に沿って形成されている。さらに、スプール弁51の両ランド部51a、52bと軸方向反対側の周壁には、前記排出用通路62とドレン通路60と連通するドレン孔63が径方向に沿って貫通形成されている。
【0043】
前記ドレンプラグ53は、
図1及び
図3に示すように、スプール弁51と同じ金属材によってほぼ有底円筒状に形成されて、スプール弁51の一端開口51cを被嵌するように軸方向から圧入固定されていると共に、スプール弁51側の一端部外周には、前記バルブスプリング54の一端部を弾持するフランジ部53aが一体に設けられている。また、ドレンプラグ53は、内部軸方向に前記ドレン通路60と軸方向から連通するドレン室66が形成されていると共に、先端部の周壁には、前記ドレン室66と外部を連通する一対の開口孔66aが径方向に沿って貫通形成されている。
【0044】
前記フランジ部53aは、前記ストッパ56の内周部に軸方向から当接して、スプール弁51の外方への最大移動位置を規制するようになっている。
【0045】
前記スリーブ52は、
図3〜
図5に示すように、合成樹脂材によって形成されていると共に、径方向から半割状に二分割形成されて、この該両分割部52a、52bを径方向から突き合わせて例えば溶着法によって接合されて円筒状一体に形成されていると共に、内周面がバルブボディ50の円筒軸部50bの外周面に外方から被嵌状態に固定されている。また、このスリーブ52は、一方側の分割部52aの周方向ほぼ中央位置に設けられた突起部52cが前記円筒軸部50bの位置決め用穴50fに嵌合してバルブボディ50に対して全体の回転方向と軸方向の位置決め固定されるようになっている。
【0046】
なお、前記両分割部52a、52bをスナップフィットなどによって接合させることも可能である。
【0047】
また、前記スリーブ52は、前記バルブボディ50の遅角ポート18aと進角ポート19aにそれぞれに対応した位置、つまりこれらに重合した位置に、連通孔である遅角通路孔64aと進角通路孔64bが貫通形成されていると共に、前記両分割部52a、52bの各内周面に前記4つの再導入ポート58にそれぞれ連通する4つの連通溝65が軸方向に沿って形成されている。
【0048】
この各連通溝65は、この内周面とバルブボディ50の円筒軸部50bの外周面との間に連通路を構成し、前記各分割部52a、52bのバルブボディ50の大径円筒部50c側の外端部65aから軸方向に沿って延びて、その内端部65bが、前記再導入ポート58に重ね合わさる位置まで延設されていると共に、前記外端部65aが前記導入ポート57に前記カムシャフト2のボルト孔6の雌ねじ部6a内周面の間の通路部を介して常時連通している。
【0049】
前記ソレノイド部55は、
図1に示すように、図外のチェーンカバーにブラケット70を介してボルトによって固定されたソレノイドケーシング71と、該ソレノイドケーシング71の内部に収容保持されて、機関のコントロールユニット(ECU)37から制御電流が出力されるコイル72と、該コイル72の内周側に固定された円筒状の固定ヨーク73と、該固定ヨーク73の内部に軸方向へ摺動自在に設けられた可動プランジャ74と、該可動プランジャ74の先端部に一体に形成されて、先端部75aが前記ドレンプラグ53の底壁に軸方向から当接して前記バルブスプリング54のばね力に抗して前記スプール弁51を
図1中、左方向へ押圧する駆動ロッド75と、から主として構成されている。
【0050】
前記ソレノイドケーシング71は、シールリング76によって前記チェーンカバーの保持孔内に保持されていると共に、後端側には、ECU37に電気的に接続される端子78を内部に有する合成樹脂製のコネクタ77が取り付けられている。
【0051】
前記ソレノイド部55は、
図9〜
図11に示すように、ECU37の制御電流と前記バルブスプリング54との相対的な圧力によって、前記スプール弁51を前後軸方向の3つのポジジョンに移動させて、スプール弁51の前記グルーブ溝61と排出用通路62と、これに径方向で対応する前記遅角ポート18a及び進角ポート19aに連通させるか、あるいは前記各ランド部51a、51bによって遅角ポート18a及び進角ポート19aの開口端を閉止して連通を遮断するようになっている。
【0052】
前記導入通路59と導入ポート57及び連通溝65、再導入ポート58は、前記スプール弁51のいずれの摺動位置においても常時連通されており、したがって、オイルポンプ20から吐出された油圧は、前記導入通路59から導入ポート57、連通溝65を通って再導入ポート58内に常時供給されるようになっている。
【0053】
前記ECU37は、内部のコンピュータが図外のクランク角センサ(機関回転数検出)やエアーフローメータ、機関水温センサ、機関温度センサ、スロットルバルブ開度センサおよびカムシャフト2の現在の回転位相を検出するカム角センサなどの各種センサ類からの情報信号を入力して現在の機関運転状態を検出すると共に、前述したように、前記電磁切換弁21のコイル72に制御電流を出力、または通電を遮断して前記スプール弁51の移動位置を制御し、前記各ポートを選択的に切換制御するようになっている。
〔本実施形態の作動〕
以下、本実施形態のバルブタイミング制御装置の具体的な作動を説明する。
【0054】
まず、例えば、イグニッションスイッチをオフ操作して機関を停止した場合には、ECU37からのソレノイド部55への通電も遮断されることから、スプール弁51は、
図9A,Bに示すように、バルブスプリング54のばね力によって最大右方向の位置に保持される(第1ポジジョン)。このとき、スプール弁51の第1ランド部51aによってバルブボディ50の各進角ポート19aが開成されて、スプール弁51のドレン通路60を連通させる。このため、前記各進角油圧室12内の作動油は、
図9Aの破線矢印に示すように、スリーブ52の各進角通路孔64b、バルブボディ50の各進角ポート19a、スプール弁51のドレン通路60を通って、ドレンキャップ53のドレン室66内に流入して各開口孔66aから外部に排出される。これによって、各進角油圧室12の内部が低圧になる。
【0055】
同時に、前記スプール弁51は、
図9A、Bに示すように、グルーブ溝61に対して各遅角ポート18aと各再導入ポート58を連通させる。したがって、この状態では、前記各再導入ポート58と各連通溝65、導入ポート57、導入通路59が連通することになる。
【0056】
この機関停止時は、前記オイルポンプ20の駆動も停止されることから、前記遅角、進角油圧室11,12には油圧が供給されることがないので、前記ベーンロータ9はカムシャフト2に作用する交番トルクの負のトルクによって、
図2の一点鎖線で示すように、スプロケット1に対して反時計方向(最遅角方向)へ相対回転する。よって、吸気弁は、バルブタイミングが最遅角の位相に制御される。
【0057】
なお、この時点においてベーンロータ9が最遅角位置に保持されると、ロックピン25がコイルスプリング26のばね力によって進出して、ロック穴24に係入してベーンロータ9はハウジング7にロックされた状態になる。
【0058】
次に、イグニッションスイッチをオン操作して機関を始動させると、これに伴いオイルポンプ20も駆動して、吐出通路20aに吐出された油圧は、
図9A、Bの矢印で示すように、前記導入通路59から導入ポート57を通って各連通溝65に流入し、ここから各再導入ポート58、グルーブ溝61、各遅角ポート18a、各遅角通路孔64aから遅角通路18を介して各遅角油圧室11に供給される。これによって、各遅角油圧室11内が高圧状態になる。したがって、前記ベーンロータ9は、最遅角の位置に相対回転した状態が維持されていることから、吸気弁のバルブタイミングが遅角側に制御された状態になり、よって、機関始動性が良好になる。
【0059】
また、この時点では、前記ロック通路を介して解除用受圧室に遅角油圧室11と同じ油圧が供給されるが、クランキング初期の時点では解除用受圧室内の油圧が上昇しないことから、ロックピン25はロック穴24内に係入してロックされた状態となる。したがって、前記交番トルクによるベーンロータ9のばたつきなどを抑制することできる。
【0060】
その後、ロック通路を介して解除用受圧室に供給された油圧が高くなると、前記ロックピン25をコイルスプリング26のばね力に抗して後退移動させロック穴24とのロック状態が解除され、これによって、ベーンロータ9はフリーな状態になる。
【0061】
なお、このとき、前記各進角油圧室12は、前述したように低圧状態が維持されている。
【0062】
次に、機関が例えばアイドリング運転から定常運転に移行すると、前記ECU37からソレノイド部55のコイル72に所定量の電流が供給される。これにより、スプール弁51は、駆動ロッド75の押圧力によって、
図10A,Bに示すように、バルブスプリング54のばね力に抗して図中左方向へ僅かに移動する(第2ポジション)。この状態では、第1,第2ランド部51a、51bによって遅角ポート18aと進角ポート19aが閉止されると共に、各再導入ポート58もグルーブ溝61に連通しているものの、前記各ランド部51a、51bによって閉止された状態になる。
【0063】
このため、前記各遅角油圧室11と進角油圧室12は、
図10Aに示すように、それぞれの内部からの作動油の排出がなくなると同時に、オイルポンプ20から圧送された作動油も、
図10Bに示すように、各油圧室11,12への供給が遮断される。
【0064】
これにより、ベーンロータ9は、
図2の実線で示すように、最遅角と最進角の間の中間位置に保持される。したがって、吸気弁は、バルブタイミングが最遅角と最進角の間の中間位相に制御され、定常運転時の機関回転の安定化と燃費の向上が図れる。
【0065】
次に、例えば、機関の定常運転から高回転高負荷域に移行した場合は、ECU37からソレノイド部55のコイル72にさらに大きな電流が供給されて、駆動ロッド75の押圧力によってスプール弁51が、
図11A,Bに示すように、バルブスプリング54のばね力に抗して最大左方向へ移動する(第3ポジション)。これによって、遅角ポート18aが、排出用通路62に連通すると共に、グルーブ溝61に対して各再導入ポート58と進角ポート19aがそれぞれ連通する。
【0066】
したがって、各遅角油圧室11内の油圧は、
図11Aの破線矢印で示すように、前記遅角通路孔64aと遅角ポート18aから排出用通路62を通って各ドレン孔63及びドレン通路60に流入してドレン室66内に連続的に入り込み、ここから各開口孔66aを介して外部に排出される。このため、各遅角油圧室11内が低圧になる。
【0067】
一方、各進角油圧室12には、オイルポンプ20から圧送された作動油が、
図11A、Bの矢印で示すように、前記グルーブ溝61から各進角ポート19a、各進角通路孔64b、進角通路19を介して各進角油圧室12に供給されて、該各進角油圧室12内が高圧になる。
【0068】
よって、ベーンロータ9は、
図2の二点鎖線で示すように、時計方向へ回転して最大進角側へ相対回転する。これによって、吸気弁のバルブタイミングが最進角位相になって排気弁のバルブオーバーラップが大きくなり、吸気充填効率が高くなって機関の出力トルクの向上が図れる。
【0069】
このように、機関の運転状態に応じて、ECU37が電磁切換弁21に所定の通電量で通電、あるいは通電を遮断して前記スプール弁51の軸方向の移動位置を制御する。これによって、前記位相変更機構3とロック機構4を制御してスプロケット1に対するカムシャフト2の最適な相対回転位置に制御することから、バルブタイミングの制御精度の向上が図れる。
【0070】
また、本実施形態では、前記バルブボディ50の内部にスプール弁51を摺動自在に設け、バルブボディ50の円筒軸部50bの外周面にスリーブ52を固定したため、電磁切換弁21の全体構造を簡素にすることができる。また、各通路孔や各ポートなどの油圧回路も単純化できることから、製造作業能率の向上が図れ、製造作業コストの低減化が図れる。
【0071】
また、前記スリーブ52は、従来のように、スリーブ52をバルブボディ50の内部に設けるのではなく、単にバルブボディ50の外周面に固定しただけであるから、スリーブ52に高い寸法精度が要求されることがなくなるので、この点でも製造作業コストの低減が図れる。
【0072】
しかも、前記スリーブ52は、前記高い寸法精度が要求されないことから、合成樹脂材によって形成することができるので、電磁切換弁21の軽量化が図れる。
【0073】
さらに、前述したように、作動油の選択的な切換制御は、前記バルブボディ50とスプール弁51とによりなされているため、前記スリーブ52の形成において作動油中に存在する異物の噛み込みを考慮する必要がない。つまり、前記バルブボディ50やスプール弁51よりも軟質な合成樹脂材のような材料で形成することが可能となる。
【0074】
また、前記スリーブ52を、2分割形成して、これらを溶着によって結合したことから、バルブボディ50への組み付け性が良好になる。
【0075】
さらに、前記ボルト孔6の軸方向の長さの短尺化と共に、縦断面形状の単純化によって、カムシャフト2の孔開け加工作業が容易になる。
【0076】
本実施形態では、前記遅角油圧室11や進角油圧室12への油圧制御用と解除用受圧室への油圧制御用の2つの機能を単一の電磁切換弁21によって行うようにしたため、機関本体へのレイアウトの自由度が向上すると共に、コストの低減化が図れる。
【0077】
さらに、電磁切換弁21のスプール弁51の摺動位置によって各通路孔を閉止してベーンロータ9を中間位相位置に保持することから、この保持性が向上する。
【0078】
本発明は、前記実施形態の構成に限定されるものではなく、前記油圧制御弁をバルブタイミング制御装置に適用した場合を示したが、バルブタイミング制御装置以外の例えば車両の自動変速機などの他の機器類に適用することも可能である。
【0079】
また、アクチュエータとしてソレノイド部55の電磁力以外に油圧力を用いることも可能である。
【0080】
さらに、バルブタイミング制御装置を吸気側ばかりか排気側に適用することも可能である。
【0081】
前記スリーブ52をアルミ合金材などの金属材による鋳造にて形成することも可能であり、また、単一な筒状部材によって形成することも可能である。前者は、高い寸法精度を必要とせずに製作可能であり、後者は部品点数の削減にもなる。