(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6204597
(24)【登録日】2017年9月8日
(45)【発行日】2017年9月27日
(54)【発明の名称】カスタマイズ化されたポリマー物品を調製する方法
(51)【国際特許分類】
B29C 39/24 20060101AFI20170914BHJP
G02C 7/02 20060101ALI20170914BHJP
G02C 13/00 20060101ALI20170914BHJP
B29L 11/00 20060101ALN20170914BHJP
【FI】
B29C39/24
G02C7/02
G02C13/00
B29L11:00
【請求項の数】19
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2016-539977(P2016-539977)
(86)(22)【出願日】2014年12月17日
(65)【公表番号】特表2017-501054(P2017-501054A)
(43)【公表日】2017年1月12日
(86)【国際出願番号】US2014070751
(87)【国際公開番号】WO2015095278
(87)【国際公開日】20150625
【審査請求日】2016年7月6日
(31)【優先権主張番号】61/917,065
(32)【優先日】2013年12月17日
(33)【優先権主張国】US
(31)【優先権主張番号】14/571,691
(32)【優先日】2014年12月16日
(33)【優先権主張国】US
(73)【特許権者】
【識別番号】399074983
【氏名又は名称】ピーピージー・インダストリーズ・オハイオ・インコーポレイテッド
【氏名又は名称原語表記】PPG Industries Ohio,Inc.
(74)【代理人】
【識別番号】100078282
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 秀策
(74)【代理人】
【識別番号】100113413
【弁理士】
【氏名又は名称】森下 夏樹
(72)【発明者】
【氏名】ヒッケンボス, チャールズ アール.
(72)【発明者】
【氏名】クライガー, マシュー ジェイ.
(72)【発明者】
【氏名】メンタ, フェデリコ
(72)【発明者】
【氏名】クロス, キース エム.
(72)【発明者】
【氏名】ラッシャー, デイビッド エル.
【審査官】
▲高▼橋 理絵
(56)【参考文献】
【文献】
特開2008−213289(JP,A)
【文献】
特開2009−196101(JP,A)
【文献】
特表平07−503192(JP,A)
【文献】
米国特許出願公開第2012/0225252(US,A1)
【文献】
国際公開第2011/055347(WO,A1)
【文献】
米国特許出願公開第2013/0122129(US,A1)
【文献】
特開平01−067313(JP,A)
【文献】
特開平09−159974(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B29C 39/00−39/44
B29C 33/00−33/76
B29D 11/00
G02C 1/00−13/00
G02B 1/00− 1/08
G02B 3/00− 3/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
カスタマイズされたポリマー物品を調製するための方法であって、
(a)2つの金型半区分を提供することであって、各半区分は、外面および内面を有する、ことと、
(b)前記2つの金型半区分の内面が、相互に対向し、それによって、それらの間に空洞を画定するように金型アセンブリを形成するために、前記2つの金型半区分を組み立てることと、
(c)(b)に先立って、またはそれに続いて、1つまたはそれを上回る磁性流体を少なくとも1つの金型半区分の前記内面に適用することと、
(d)流体ポリマー材料を(b)において形成された前記空洞中に挿入することと、
(e)(d)に先立って、またはそれに続いて、所定の具体的表面微細構成に従って、カスタマイズされた可逆的表面を形成するために、磁場を前記1つまたはそれを上回る磁性流体に制御可能に印加することと、
(f)前記流体ポリマー材料を含む金型アセンブリを、前記流体ポリマー材料の少なくとも部分的な重合または固化をもたらすために十分な条件に曝すことと、
(g)前記磁性流体の所定の具体的表面微細構成に対応する、少なくとも1つの表面を有するポリマー物品を提供するために、前記2つの金型半区分を分離させることと、
を含み、
前記カスタマイズされたポリマー物品は、レンズである、方法。
【請求項2】
前記磁場は、(e)において前記2つの金型半区分を分離させることに先立って、またはそれに続いて、除去される、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記磁性流体材料は、水性磁性流体である、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記磁性流体材料は、過ハロゲン化磁性流体である、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記磁性流体は、磁気粘性流体を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
前記磁性流体は、コバルト含有粒子、ニッケル含有粒子、および/または合金を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
前記金型アセンブリに磁場が印加されるとき、前記磁性流体材料は、前記流体ポリマー材料と不混和性である、請求項1に記載の方法。
【請求項8】
前記2つの金型半区分のうちの少なくとも1つは、ガラスを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項9】
前記所定の具体的表面微細構成は、個々のレンズ装着者に特有の所定の屈折力または形状を構成する、請求項1に記載の方法。
【請求項10】
前記レンズは、修正されない前部金型半区分に一致する微細構成を有する外面と、前記磁性流体の所定の具体的表面微細構成に一致する微細構成を有する後面とを有する、請求項1に記載の方法。
【請求項11】
前記レンズは、プラノレンズ、単一視レンズ、多焦点レンズ、または勾配屈折力レンズを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項12】
前記流体ポリマー材料は、光重合性材料、熱硬化性材料、および熱可塑性材料から成る群から選択される、請求項1に記載の方法。
【請求項13】
前記流体ポリマー材料は、ポリカーボネート、ビスアリルカーボネート、ポリウレタン、ポリウレアウレタン、ポリチオウレアウレタン、エポキシド、チオエポキシド、シクロオレフィン(コ)ポリマー、および(メタ)アクリレート系材料から成る群から選択される、請求項1に記載の方法。
【請求項14】
前記流体ポリマー材料は、(f)において部分的に重合される、熱硬化性ポリマー材料を含み、前記方法はさらに、(h)前記部分的に重合されたポリマー物品を、前記部分的に重合されたポリマー物品の重合を完了させるために十分な条件に曝すことを含む、請求項12に記載の方法。
【請求項15】
前記流体ポリマー材料は、(f)において部分的に固化される、熱可塑性ポリマー材料を含み、前記方法はさらに、(h)前記部分的に固化されたポリマー物品を、前記部分的に固化されたポリマー物品の固化を完了させるために十分な条件に曝すことを含む、請求項12に記載の方法。
【請求項16】
前記1つまたはそれを上回る磁性流体は、(b)に先立って、少なくとも1つの金型半区分の前記内面に適用される、請求項1に記載の方法。
【請求項17】
前記1つまたはそれを上回る磁性流体は、(b)に続いて、少なくとも1つの金型半区分の前記内面に適用される、請求項1に記載の方法。
【請求項18】
前記磁場は、(d)に先立って、所定の具体的表面微細構成に従って、カスタマイズされた可逆的表面を形成するために、前記1つまたはそれを上回る磁性流体に制御可能に印加される、請求項1に記載の方法。
【請求項19】
前記磁場は、(d)に続いて、所定の具体的表面微細構成に従って、カスタマイズされた可逆的表面を形成するために、前記1つまたはそれを上回る磁性流体に制御可能に印加される、請求項1に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
(関連出願への相互参照)
本出願は、2014年12月16日に出願された米国出願番号第14/571,691号、および2013年12月17日に出願された米国仮出願番号第61/917,065号に対する権利を与えられ、かつこれら出願からの優先権の利益を主張しており、これら出願の開示は、それらの全体が本明細書に参考として各事例において援用される。
【0002】
(発明の分野)
本発明は、磁性流体の使用を通して、カスタマイズされたポリマー物品を調製する方法を対象とする。
【背景技術】
【0003】
(発明の背景)
成形ポリマー物品市場は、これがカスタマイズ化および/またはパーソナリゼーションに向かう傾向にあるという点において、いくつかの他の市場と類似している。さらに、生産コストを削減し、容易にリサイクルまたは再使用され得る金型を提供する必要性がある。
【0004】
例えば、オプティックス市場は、レンズのパーソナリゼーションに向かう傾向にある。例えば、デジタルサーフェシング技術は、レンズを、各個人の解剖学的および検眼的パラメータ、ならびに他の高度に個別化された測定値にカスタマイズする潜在性を可能にする。これはまた、レンズが、フレーム位置決めを考慮することも可能にし、例えば、レンズ形状は、非標準搭載を可能にするように作成されることができる(https://www.bbgr.com/en−us/ensavoirplus/optique/Pages/LeSurfa%C3%A7ageDigital.aspx参照)。しかしながら、デジタルサーフェシングを介してレンズを作成することには、いくつかの不利点が存在する。例えば、本プロセスが、本プロセス中に形成される、レンズブランクからのレンズ材料の除去に基づくため、本プロセスは、無駄かつ非効率的である。典型的なレンズのブランクから完成レンズへのデジタルサーフェシングは、50%またはそれを上回るレンズ材料の切り落としをもたらすと計算されている。切り落とされた材料は、再使用またはリサイクルされることができず、したがって、大量の埋立廃棄物をもたらす。したがって、大量の廃棄物をもたらさない、高度にカスタマイズされたレンズを生産する新しい方法を作り出すことが、所望される。
【0005】
上記の要件を満たす、高度にカスタマイズされたポリマー物品を生産する一つの例は、高度にカスタマイズされた完成物品が金型から直接得られるように、金型表面をカスタマイズすることである。しかしながら、研磨されたガラス製金型は高価であるため、伝統的な様式で、可能性として考えられるカスタマイズされた構成毎に金型を作製することは、法外に高価となるであろう。
【0006】
ポリマー物品、例えば、レンズは、3次元プリンティングプロセスを使用して調製されていると報告されているが、積層造形プロセスは、使用され得るポリマー樹脂の選択において限定される。
【0007】
本発明の方法は、一般的に公知であり、産業的に許容可能なポリマー材料を使用して作製される、具体的カスタマイズ特徴を有する、ポリマー物品を生産するための能力を提供する。さらに、ここで、一方または両方の金型表面が、高度にカスタマイズ可能かつ再使用可能である、ポリマー物品キャスティングプロセスを使用する代替アプローチが、高い光学表面品質を伴う、高度にカスタマイズされた物品、例えば、レンズおよび他の透明物の生産を可能にしながら、金型も容易にリサイクルまたは再使用され得ることが、見出された。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0008】
(発明の要旨)
本発明は、
(a)2つの金型半区分を提供するステップであって、各半区分は、外面および内面を有する、ステップと、
(b)2つの金型半区分の内面が相互に対向し、それによって、その間に空洞を画定するように金型アセンブリを形成するために、2つの金型半区分を組み立てるステップと、
(c)(b)に先立って、またはそれに続いて、1つまたはそれを上回る磁性流体を、少なくとも1つの金型半区分の内面に適用するステップと、
(d)流体ポリマー材料を(b)において形成された空洞中に挿入するステップと、
(e)(d)に先立って、またはそれに続いて、所定の具体的表面微細構成に従って、カスタマイズされた可逆的表面を形成するために、磁場を1つまたはそれを上回る磁性流体に制御可能に印加するステップと、
(f)流体ポリマー材料を含む金型アセンブリを、流体ポリマー材料の少なくとも部分的な重合または固化をもたらすために十分な条件に曝すステップと、
(g)磁性流体の所定の具体的表面微細構成に対応する、少なくとも1つの表面を有するポリマー物品を提供するために、2つの金型半区分を分離させるステップと、
を含む、カスタマイズされたポリマー物品を調製するための方法を対象とする。
【0009】
前述される方法によって調製されるポリマー物品もまた、提供される。
本明細書は、例えば、以下の項目も提供する。
(項目1)
カスタマイズされたポリマー物品を調製するための方法であって、
(a)2つの金型半区分を提供するステップであって、各半区分は、外面および内面を有する、ステップと、
(b)前記2つの金型半区分の内面が、相互に対向し、それによって、それらの間に空洞を画定するように金型アセンブリを形成するために、前記2つの金型半区分を組み立てるステップと、
(c)(b)に先立って、またはそれに続いて、1つまたはそれを上回る磁性流体を前記少なくとも1つの金型半区分の内面に適用するステップと、
(d)流体ポリマー材料を(b)において形成された前記空洞中に挿入するステップと、
(e)(d)に先立って、またはそれに続いて、所定の具体的表面微細構成に従って、カスタマイズされた可逆的表面を形成するために、磁場を前記1つまたはそれを上回る磁性流体に制御可能に印加するステップと、
(f)前記流体ポリマー材料を含む金型アセンブリを、前記流体ポリマー材料の少なくとも部分的な重合または固化をもたらすために十分な条件に曝すステップと、
(g)前記磁性流体の所定の具体的表面微細構成に対応する、少なくとも1つの表面を有するポリマー物品を提供するために、前記2つの金型半区分を分離させるステップと、
を含む、方法。
(項目2)
前記磁場は、(e)において前記2つの金型半区分を分離させるステップに先立って、またはそれに続いて、除去される、項目1に記載の方法。
(項目3)
前記磁性流体材料は、水性磁性流体である、項目1に記載の方法。
(項目4)
前記磁性流体材料は、過ハロゲン化磁性流体である、項目1に記載の方法。
(項目5)
前記磁性流体は、磁気粘性流体を含む、項目1に記載の方法。
(項目6)
前記磁性流体は、コバルト含有粒子、ニッケル含有粒子、および/または合金を含む、項目1に記載の方法。
(項目7)
前記磁場が、前記金型アセンブリに印加されるとき、前記磁性流体材料は、前記流体ポリマー材料と不混和性である、項目1に記載の方法。
(項目8)
前記2つの金型半区分のうちの少なくとも1つは、ガラスを含む、項目1に記載の方法。
(項目9)
前記カスタマイズされたポリマー物品は、レンズである、項目1に記載の方法。
(項目10)
前記所定の具体的表面微細構成は、個々のレンズ装着者に特有の所定の屈折力または形状を構成する、項目9に記載の方法。
(項目11)
前記レンズは、修正されない前部金型半区分に一致する微細構成を有する外面と、前記磁性流体の所定の具体的表面微細構成に一致する微細構成を有する後面とを有する、項目9に記載の方法。
(項目12)
前記レンズは、プラノレンズ、単一視レンズ、多焦点レンズ、または勾配屈折力レンズを含む、項目9に記載の方法。
(項目13)
前記流体ポリマー材料は、光重合性材料、熱硬化性材料、および熱可塑性材料から成る群から選択される、項目1に記載の方法。
(項目14)
前記流体ポリマー材料は、ポリカーボネート、ビスアリルカーボネート、ポリウレタン、ポリウレアウレタン、ポリチオウレアウレタン、エポキシド、チオエポキシド、シクロオレフィン(コ)ポリマー、および(メタ)アクリレート系材料から成る群から選択される、項目1に記載の方法。
(項目15)
前記流体ポリマー材料は、(f)において部分的に重合される、熱硬化性ポリマー材料を含み、前記方法はさらに、(h)前記部分的に重合されたポリマー物品を、前記部分的に重合されたポリマー物品の重合を完了させるために十分な条件に曝すステップを含む、項目13に記載の方法。
(項目16)
前記流体ポリマー材料は、(f)において部分的に固化される、熱可塑性ポリマー材料から成り、前記方法はさらに、(h)前記部分的に固化されたポリマー物品を、前記部分的に固化されたポリマー物品の固化を完了させるために十分な条件に曝すステップを含む、項目13に記載の方法。
(項目17)
前記1つまたはそれを上回る磁性流体は、(b)に先立って、前記少なくとも1つの金型半区分の内面に適用される、項目1に記載の方法。
(項目18)
前記1つまたはそれを上回る磁性流体は、(b)に続いて、前記少なくとも1つの金型半区分の内面に適用される、項目1に記載の方法。
(項目19)
前記磁場は、(d)に先立って、所定の具体的表面微細構成に従って、カスタマイズされた可逆的表面を形成するために、前記1つまたはそれを上回る磁性流体に制御可能に印加される、項目1に記載の方法。
(項目20)
前記磁場は、(d)に続いて、所定の具体的表面微細構成に従って、カスタマイズされた可逆的表面を形成するために、前記1つまたはそれを上回る磁性流体に制御可能に印加される、項目1に記載の方法。
(項目21)
前記ポリマー物品は、ポリマーシートの形態である、項目1に記載の方法。
(項目22)
項目1に記載の方法によって調製される、ポリマー物品。
【発明を実施するための形態】
【0010】
(発明の詳細な説明)
前述されるように、本発明は、
(a)2つの金型半区分を提供するステップであって、各半区分は、外面および内面を有する、ステップと、
(b)2つの金型半区分の内面が相互に対向し、それによって、それらの間に空洞を画定するように金型アセンブリを形成するために、2つの金型半区分を組み立てるステップと、
(c)(b)に先立って、またはそれに続いて、1つまたはそれを上回る磁性流体を、少なくとも1つの金型半区分の内面に適用するステップと、
(d)流体ポリマー材料を(b)において形成された空洞中に挿入するステップと、
(e)(d)に先立って、またはそれに続いて、所定の具体的表面微細構成(または幾何学形状)に従って、カスタマイズされた可逆的表面を形成するために、磁場を1つまたはそれを上回る磁性流体に制御可能に印加するステップと、
(f)流体ポリマー材料を含む型アセンブリを、流体ポリマー材料の少なくとも部分的な重合または固化をもたらすために十分な条件に曝すステップと、
(g)磁性流体の所定の具体的表面微細構成に対応する、少なくとも1つの表面を有するポリマー物品を提供するために、2つの金型半区分を分離させるステップと、
を含む、カスタマイズされたポリマー物品を調製するための方法を対象とする。
【0011】
1つまたはそれを上回る磁性流体は、当分野で公知の任意の磁気を帯びやすい流体から選択されることができる。特定の実施形態では、1つまたはそれを上回る磁性流体は、磁性流体および磁気粘性(「MR」)流体から成る群から選択されることができる。磁性流体は、典型的には、強い磁場が磁性流体に印加されるときであっても、粒子の凝集を防止する界面活性剤を含有する、キャリア流体内に懸濁されるナノスケールのフェロ磁性またはフェリ磁性粒子の安定コロイド懸濁液である。界面活性剤は、キャリアのタイプに合致されなくてはならず、粒子間の誘引性ファンデルワールス力および磁力を克服しなければならない。概して、典型的な磁性流体は、5体積%の磁性個体と、10体積%の界面活性剤と、85体積%のキャリア流体とを含むことができる。界面活性剤の非限定的な例は、オレイン酸、リノール酸、ステアリン酸、またはイソステアリン酸等の脂肪酸、テトラメチルアンモニウムヒドロキシド、クエン酸、またはその塩等のヒドロキシド、アミン、アルコール、および/またはダイズレシチンを含むことができる。界面活性剤の選択肢は、採用される磁性流体の最終用途およびキャリア流体が水性または有機溶媒のいずれかであるかどうかに依存する。好適な極性キャリア流体は、例えば、水またはエチレングリコールを含むことができる。油系キャリア流体は、例えば、ポリ(アルファオレフィン)等の炭化水素、ポリオールエステル、シリコーン、過ハロゲン化(例えば、過フルオロ化)オイルおよび溶媒、ならびにハロシランを含むことができる。一実施形態では、磁性流体は、過ハロゲン化磁性流体である。磁性流体を調製する際には、概して、2つの主要ステップが、存在する。第1のステップは、コロイド懸濁液内で分散される磁性ナノ粒子(直径およそ100オングストローム、約10nm)を作製することである。本発明の方法において有用な磁性流体内の磁性粒子は、概して、マグネタイト(Fe
3O
4)であるが、マグヘマイトおよびヘマタイト等の他の磁性粒子、ならびにコバルトおよびニッケル含有粒子等の他の磁性粒子が、採用されてもよい。さらに想定されるものは、合金および他の磁性要素である。磁性流体を調製する第2のステップでは、磁性粒子は、前述されるようなコロイド懸濁液を作成するために、好適な界面活性剤を利用することによって、キャリア液体内で分散される。
【0012】
磁性流体とMR流体との間の差異は、粒子のサイズである。前述されるように、磁性流体内の粒子は、主として、ブラウン運動によって懸濁されるナノ粒子から成り、概して、通常条件下で沈降しない。それとは対照的に、MR流体粒子は、主として、ブラウン運動にとっては重すぎて懸濁を維持し得ないかもしれず、マイクロメートルスケールの粒子を含み、したがって、経時的に沈降し得る。また、MR流体は、磁場の存在下でゲル化または凝固し得る。MR流体は、同様に、キャリア流体を含み、随意に、磁性流体に関して前述されるものと類似する界面活性剤を含む。
【0013】
本発明の方法では、磁性流体は、典型的には、水性形態にある磁性流体である。好適な水性磁性流体は、例えば、EMG703およびEMG304を含むことができ、両方ともが、Ferrotec(USA)Corporationから市販され利用可能である。
【0014】
本発明において使用されるカスタマイズ可能金型表面の場合では、キャリア流体と界面活性剤は両方とも、重合に、または熱可塑性ポリマー材料の場合では、採用される流体ポリマー材料の固化に、または本方法によって形成されるポリマー物品の最終特性に悪影響を及ぼさないように選択されるべきである。
【0015】
磁性流体は、流体ポリマー材料と不混和性である。つまり、磁性流体および流体ポリマー材料は、2つの材料の任意の比率における均質混合物を形成することができない。これは、磁性流体と流体ポリマー材料との間の界面において、2つの材料のいかなる相互混合も存在しないことを確実にする。
【0016】
磁場は、固定磁石の使用または電磁場の印加のいずれかによって提供されることができる。磁場は、前述されるような(e)において2つの金型半区分を分離させるステップに先立って、またはそれに続いて、除去されてもよい。印加される磁場は、磁性流体がカスタマイズされた内側金型表面を形成するように、デジタル化された具体的微細構成/幾何学形状および形状情報に従って制御されることができる。いったんポリマー物品が脱型されると、磁性流体は、続くキャスティングプロセスにおいてリサイクルまたは再使用されることができる。
【0017】
本発明の方法は、例えば、ポリマーシート、窓;ディスプレイスクリーン、フェイスシールド、レンズ等のポリマー透明物;および航空宇宙用透明物を含む、無数の成形ポリマー物品のいずれかを調製するために使用されてもよい。
【0018】
当然ながら、金型半区分は、得られるべきポリマー物品の形状または幾何学形状に応じて、任意の形状もしくは幾何学形状に構成されることができる。さらに、2つの金型半区分は、同一または異なる材料から成ることができる。特にポリマーレンズの調製のために好適な一実施形態では、金型半区分のうちの少なくとも1つは、ガラスである。金型半区分のうちの1つは、事前形成されたレンズであり得る一方、対向する金型半区分の内面は、磁性流体の適用を受容することが想定される。加えて、磁性流体の適用を受容する金型半区分は、「カップ状」立体構造を保有することができ、磁性流体は、所定の具体的表面微細構成を形成するために、「カップ」内に適用され、そして磁場に曝される。
【0019】
本発明の特定の実施形態では、カスタマイズされたポリマー物品は、プラノ(度の入っていない)レンズおよび眼科用(度の入ったレンズ)等のレンズである。この場合では、所定の具体的表面微細構成は、個々のレンズ装着者に特有の所定の屈折力または形状を構成することができる。レンズは、修正されない前部金型半区分に一致する微細構成を有する外面と、磁性流体の所定の具体的表面微細構成に一致する微細構成を有する後面とを有することができる。本発明の方法によって生産されるレンズは、プラノレンズ、単一視レンズ、多焦点レンズ、または勾配屈折力レンズを含むことができる。
【0020】
流体ポリマー材料は、プラスチック成形分野で公知のポリマー材料組成のいずれかを含むことができる。例えば、ポリマー材料組成物の非限定的な例は、光重合性材料(例えば、(メタ)アクリレート系材料)、熱硬化性材料(例えば、ポリウレタン、アリル官能性カーボネート、およびエポキシド)、または熱可塑性材料(例えば、ポリカーボネートおよびポリ(シクロ)オレフィン)を含むことができる。流体ポリマー材料は、ポリカーボネート、ビスアリルカーボネート、ポリウレタン、ポリウレアウレタン、ポリチオウレアウレタン、エポキシド、チオエポキシド、シクロオレフィン(コ)ポリマー、および(メタ)アクリレート系材料から成る群から選択されることができる。本発明の目的のために、「(メタ)アクリレート」という用語は、アクリレート材料とメタアクリレート材料との両方を含むことが意図される。本発明の方法において利用されるレンズ材料のタイプは、本発明にとって重要ではない。
【0021】
いったん流体ポリマー材料が、2つの金型半区分間の空洞中に挿入されると、流体ポリマー材料を含有する金型アセンブリは、流体ポリマー材料の少なくとも部分的な重合(すなわち、光重合性または熱硬化性ポリマー材料の場合において)もしくは固化(すなわち、熱可塑性ポリマー材料の場合において)をもたらすために十分な条件に曝される。2つの金型半区分は、除去され、それによって、磁性流体の所定の具体的表面微細構成に対応する、少なくとも1つの表面を有するポリマー物品を提供する。
【0022】
ポリマー物品がレンズである場合、所定の表面微細構成は、個々の装着者に特有の所定の屈折力または形状を提供するために、硬化/固化中の収縮および/または硬化応力に起因するモノマー変形を考慮するように調節され得ることに留意されたい。
【0023】
重合または固化ステップは、このように形成される物品が、部分的にのみ重合/固化される(但し、微細構成および形状が維持される程度まで、重合/固化される)程度まで実行され得、残りの重合/固化は、物品が金型から除去された後に実行され得ることが想定される。
【0024】
流体ポリマー材料の重合または固化をもたらすために好適な条件は、当然ながら、採用されるポリマー材料組成物に応じた種々の方法によって、遂行されることができる。例えば、重合は、充填された金型アセンブリを、熱条件および化学線のうちの1つまたはそれを上回るものに、重合を完了させるために十分な時間にわたって曝すことによってもたらされることができ、そして熱可塑性材料の固化は、充填された金型アセンブリを、熱条件に、熱可塑性ポリマー材料を少なくとも部分的に固化させるために十分な時間にわたって曝すことによって遂行されることができる。
【0025】
例として、本発明の方法では、1つの金型半区分は、後部金型半区分に取り付けられる、事前形成された前部金型区分であり得、後部金型半区分の内面は、本発明の方法に従って、磁性流体を使用して「カスタマイズ」されている。後部金型半区分は、カスタマイズされたポリマー物品を形成するために使用される、流体ポリマー材料の挿入または注入のためのポートを含み得る。2つの金型半区分は、ガスケットおよびシーラントを含む、当分野で公知の任意の密封方法を使用して継合されることができる。前述されるように、磁場は、2つの金型半区分間の空洞中への流体ポリマー材料の挿入に先立って、またはそれに続いて、磁性流体に制御可能に印加されることができる。
【0026】
さらに、金型のサイズおよび形状は、いかなる後処理(縁取り)も、完成製品をエンドユーザのための眼鏡フレーム中に挿入するステップに先立って必要とされないであろうように設定され得る。
【0027】
本発明の特定の実施形態が、例証を目的として前述されているが、本発明の詳細の多数の変形例が、添付される請求項に定義されるような本発明の範囲から逸脱することなく、成され得ることが、当業者にとって明白である。