特許第6204624号(P6204624)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6204624過酸化物を用いた熱ラジカル重合開始剤及び熱硬化性樹脂組成物
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6204624
(24)【登録日】2017年9月8日
(45)【発行日】2017年9月27日
(54)【発明の名称】過酸化物を用いた熱ラジカル重合開始剤及び熱硬化性樹脂組成物
(51)【国際特許分類】
   C08F 4/34 20060101AFI20170914BHJP
   C08L 33/06 20060101ALI20170914BHJP
   C07D 303/28 20060101ALN20170914BHJP
【FI】
   C08F4/34
   C08L33/06
   !C07D303/28CSP
【請求項の数】9
【全頁数】24
(21)【出願番号】特願2017-77454(P2017-77454)
(22)【出願日】2017年4月10日
(62)【分割の表示】特願2013-145493(P2013-145493)の分割
【原出願日】2013年7月11日
(65)【公開番号】特開2017-132798(P2017-132798A)
(43)【公開日】2017年8月3日
【審査請求日】2017年4月10日
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000162434
【氏名又は名称】協立化学産業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001508
【氏名又は名称】特許業務法人 津国
(72)【発明者】
【氏名】臼井 大晃
(72)【発明者】
【氏名】小山 優
【審査官】 渡辺 陽子
(56)【参考文献】
【文献】 特開平03−088810(JP,A)
【文献】 特表平10−509456(JP,A)
【文献】 特開2011−246689(JP,A)
【文献】 特開昭59−227917(JP,A)
【文献】 LIU, Yu-Heng,et al.,Efficient Conversion of Eepoxides into β-Hydroperoxy Alcohols Catalyzed by Antimony Trichloride/SiO2,SYNTHESIS,2008年,No.20,PP.3314-3318
【文献】 LI, Yun,et al.,Facile Ring-Opening of Oxiranes by H2O2 Catalyzed by Phosphomolybdic Acid,ORGANIC LETTERS,2009年,VOL.11,NO.12,PP.2691-2694
【文献】 YAN, Xing,et al.,Tin(IV) Chloride Promoted Reaction of Oxiranes with Hydrogen Peroxide,SYNLETT,2013年 2月 6日,VOL.24,NO.4,PP.502-506
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08F4、C08G59、C07D
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(I)で表される過酸化物を用いた熱ラジカル重合開始剤。
【化1】

(式中、Rは、少なくとも1つのエポキシ基と、炭素数1〜6のアルキレン基、炭素数6〜10のアリーレン基、及び酸素原子を含み、必要に応じて、炭素数1〜6のアルキル基である置換基を含んで構成され、炭素数が40までであり、分子量が650までの有機基を表す。R及びRは、一方がヒドロキシ基であり他方がヒドロパーオキシ基であるか、RとRが、これらが結合する炭素原子と一緒になってパーオキシ結合を有する四員環構造を形成する。)
【請求項2】
前記一般式(I)で表される過酸化物が、下記一般式(II)で表されるアリルエーテル誘導体と過酸化物との反応生成物である、請求項1に記載の熱ラジカル重合開始剤。
【化2】

(式中、Rは、アリルオキシ基、炭素数1〜6のアルキレン基、炭素数6〜10のアリーレン基、及び酸素原子を含み、必要に応じて、炭素数1〜6のアルキル基である置換基を含んで構成され、炭素数が40までであり、分子量が650までの有機基を表す。)
【請求項3】
2以上のエポキシ基を有するエポキシ樹脂が有する1つのエポキシ基を、ヒドロパーオキシヒドロキシエチル基又はジオキセタニル基に置換した過酸化物を用いた熱ラジカル重合開始剤であって、
前記2以上のエポキシ基を有するエポキシ樹脂は、炭素数2〜10のアルキレングリコールジグリシジルエーテル、ポリアルキレングリコールジグリシジルエーテル、グリセリントリグリシジルエーテル、ペンタエリスリトールテトラグリシジルエーテル、ジペンタエリスリトールヘキサグリシジルエーテル、ビスフェノール型エポキシ樹脂、ビフェニルジグリシジルエーテル、ナフタレンジグリシジルエーテル、芳香族テトラグリシジルエーテル、フロログルシノールのポリグリシジルエーテル、ピロガロールのポリグリシジルエーテル、アルドースのポリグリシジルエーテル、ケトースのポリグリシジルエーテル、糖アルコールのポリグリシジルエーテル、又は、下記式:
【化3】

である、過酸化物を用いた熱ラジカル重合開始剤。
【請求項4】
下記式で表される、いずれか1つの過酸化物を用いた熱ラジカル重合開始剤。
【化4】

【化5】

【化6】

【化7】

【化8】

〔式中、Aは下記化学式:
【化9】

で示されるヒドロパーオキシヒドロキシプロピルオキシ基又は1,2−ジオキセタニルメチルオキシ基を表す。「*」は結合位置を示す。Xはグリシジルオキシ基を表す。Yはヒドロキシ基、フェニルオキシ基又は炭素数1〜10のアルコキシ基を表す。〕
【請求項5】
下記式で表されるいずれか1つの過酸化物を用いた熱ラジカル重合開始剤。
【化10】

【化11】

【化12】

〔式中、Aは下記化学式:
【化13】

で示されるヒドロパーオキシヒドロキシプロピルオキシ基又は1,2−ジオキセタニルメチルオキシ基を表す。「*」は結合位置を示す。〕
【請求項6】
下記一般式(II)で表されるアリルエーテル誘導体と、過酸化物とを接触させて、前記一般式(I)で表される過酸化物を得ることを含む、請求項1又は2に記載の熱ラジカル重合開始剤の製造方法。
【化14】

(式中、Rは、アリルオキシ基、炭素数1〜6のアルキレン基、炭素数6〜10のアリーレン基及び酸素原子を含み、必要に応じて、炭素数1〜6のアルキル基である置換基を含んで構成され、炭素数が40までであり、分子量が650までの有機基を表す。)
【請求項7】
請求項1〜5のいずれか一項に記載の熱ラジカル重合開始剤と、重合性化合物とを含む熱硬化性樹脂組成物。
【請求項8】
光重合開始剤を更に含む請求項に記載の熱硬化性樹脂組成物。
【請求項9】
液晶滴下シール剤用である請求項7又は8に記載の熱硬化性樹脂組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、過酸化物及び熱硬化性樹脂組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
液晶表示パネルの製造方法として液晶滴下工法が知られている。液晶滴下工法とは、光及び熱併用硬化型液晶シール剤を、電極パターン及び配向膜が形成された基板上へ塗布し、さらにその液晶シール剤が塗布された基板、又はこれと対となる基板に液晶を滴下した後、対向基板を貼り合わせて、第一段階として紫外線照射等により光硬化を行うことで基板の速やかな固定つまりセルギャップ形成を行い、第二段階として圧締治具フリーによる熱硬化によりシール剤を完全硬化させることで、液晶表示パネルを製造する手法である。このような液晶滴下工法では、未硬化の液晶シール剤と液晶とが接触した状態で光硬化ならびに熱硬化反応が進行するため、液晶シール剤には、硬化の工程中、すなわち、光硬化前後、熱硬化前後における液晶シール剤由来の液晶への汚染の低減が求められる。同様に、電子部品の気密シール剤等の封止剤にも、硬化の工程中における封止剤由来の電子部品への汚染の低減が求められる。
【0003】
上記に関連して、硬化性樹脂と熱硬化剤に、熱ラジカル重合開始剤と光ラジカル重合開始剤を併用する液晶シール剤が開示されている(例えば、特許文献1及び2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2009−8754号公報
【特許文献2】特開2013−25177号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1又は2に記載された熱ラジカル重合開始剤を含む液晶シール剤では、熱重合性が充分とは言い難い場合があった。
本発明は、熱ラジカル重合開始能を有する過酸化物及びそれらを含む熱硬化性樹脂組成物を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
<1> 下記一般式(I)で表される過酸化物である。
【0007】
【化1】
【0008】
(式中、Rは有機基を表す。R及びRは、一方がヒドロキシ基であり他方がヒドロパーオキシ基であるか、RとRが一緒になってパーオキシ基を表す)
【0009】
<2> 下記一般式(II)で表されるアリルエーテル誘導体を過酸化物と接触させて得られる<1>に記載の過酸化物である。
【化2】

(式中、Rは一般式(I)におけるRと同義である)
【0010】
<3> 一般式(I)におけるRが、水素原子、ハロゲン原子、炭素原子、酸素原子、窒素原子、ホウ素原子、リン原子、ケイ素原子及び硫黄原子からなる群より選択される2以上の原子から構成される有機基である<1>又は<2>に記載の過酸化物である。
<4> 一般式(I)におけるRが、エポキシ基を有する有機基である<1>〜<3>いずれか1つに記載の過酸化物である。
【0011】
<5> 下記一般式(II)で表されるアリルエーテル誘導体と過酸化物とを接触させることを含む<1>〜<4>のいずれか1つに記載の過酸化物の製造方法である。
【0012】
<6> <1>〜<4>のいずれか1項に記載の過酸化物と、重合性化合物とを含む熱硬化性樹脂組成物である。
<7> 光重合開始剤を更に含む<6>に記載の熱硬化性樹脂組成物である。
<8> 液晶滴下シール剤用である<6>又は<7>に記載の熱硬化性樹脂組成物である。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、熱ラジカル重合開始能を有する過酸化物及びそれらを含む熱硬化性樹脂組成物を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本明細書において「工程」との語は、独立した工程だけではなく、他の工程と明確に区別できない場合であってもその工程の所期の目的が達成されれば、本用語に含まれる。また本明細書において「〜」を用いて示された数値範囲は、「〜」の前後に記載される数値をそれぞれ最小値及び最大値として含む範囲を示す。さらに本明細書において組成物中の各成分の含有量は、組成物中に各成分に該当する物質が複数存在する場合、特に断らない限り、組成物中に存在する当該複数の物質の合計量を意味する。
「(メタ)アクリル」とは「アクリル」及び「メタクリル」の少なくとも一方を意味する。
【0015】
[過酸化物]
本発明の過酸化物は、下記一般式(I)で表される。式中、Rは有機基を表す。R及びRは、一方がヒドロキシ基であり他方がヒドロパーオキシ基であるか、RとRが一緒になってパーオキシ基を表す。すなわち本発明の化合物は、下記一般式(Ia)、(Ib)及び(Ic)のいずれかで表される。本発明の過酸化物は、特定の構造を有することで、優れた熱ラジカル重合活性を示す。
【0016】
【化3】
【0017】
また本発明の過酸化物は、下記一般式(II)で表されるアリルエーテル誘導体を過酸化物と接触させて得られる過酸化物であることが好ましい。一般式(II)におけるRは、一般式(I)におけるRと同義である。
【0018】
【化4】
【0019】
で表される有機基は、少なくとも1つの炭素原子を含む基であれば特に制限されない。Rで表される有機基を構成する原子としては、水素原子、ハロゲン原子、炭素原子、酸素原子、窒素原子、ホウ素原子、リン原子、ケイ素原子、硫黄原子等を挙げることができる。
は、水素原子、ハロゲン原子、炭素原子、酸素原子、窒素原子、ホウ素原子、リン原子、ケイ素原子及び硫黄原子からなる群より選択される2以上の原子から構成される有機基であることが好ましく、水素原子、ハロゲン原子、炭素原子、酸素原子及び硫黄原子からなる群より選択される2以上の原子から構成される有機基であることがより好ましく、水素原子、ハロゲン原子、炭素原子、酸素原子及び硫黄原子からなる群より選択される2以上の原子から構成され、炭素数が1〜500の有機基であることが更に好ましく、水素原子、ハロゲン原子、炭素原子、酸素原子及び硫黄原子からなる群より選択される2以上の原子から構成され、炭素数が1〜160であり、分子量が15〜4000の有機基であることが更に好ましく、水素原子、炭素原子、酸素原子及び硫黄原子からなる群より選択される2以上の原子から構成され、炭素数が3〜40であり、分子量が100〜650の有機基であることが特に好ましい。
なお、ハロゲン原子としては、フッ素原子、塩素原子、臭素原子及びヨウ素原子が挙げられる。
【0020】
また、Rで表される有機基は、少なくとも1つのエポキシ基を有する有機基であることもまた好ましい。Rで表される有機基がエポキシ基を有する場合、分子内のエポキシ基の総数は1〜30であることが好ましく、1〜10であることがより好ましい。
更に、Rで表される有機基は、一般式(I)におけるR以外の部分構造、すなわちヒドロパーオキシヒドロキシプロピルオキシ構造及び1,2−ジオキセタニル−3−メチルオキシ構造の少なくとも一方をRの部分構造として更に有していてもよい。
【0021】
で表される有機基を構成する部分構造としては、炭素数1〜10のアルキル基、炭素数1〜10のアルコキシ基、炭素数1〜10のハロアルキル基、炭素数2〜10のアルケニル基、炭素数6〜20のアリール基、炭素数7〜21のアラルキル基、総原子数5〜30のヘテロアリール基、ヒドロキシ基、エポキシ基、酸素原子、カルボニル基、スルホン基、パーオキシ基、ヒドロパーオキシ基、ヒドロパーオキシヒドロキシプロピルオキシ基、1,2−ジオキセタニルメチルオキシ基、これらの組合せ等を挙げることができる。
有機基を構成するアルキル基、アルケニル基、アルキレン基及びアルケニレン基は、直鎖状、分岐鎖状及び環状のいずれであってもよい。また有機基を構成する部分構造は置換基を有していてもよく、置換基としては上記部分構造を挙げることができる。
ハロアルキル基におけるハロゲン原子としては、フッ素原子、塩素原子、臭素原子等が挙げられ、置換数は1〜3である。
ヘテロアリール基は、炭素原子の他に、少なくとも酸素原子、硫黄原子及び窒素原子からなる群から選択される1以上のヘテロ原子を含む、総原子数5〜30の単環又は多環の複素環基であり、イミダゾリル基、キサンテニル基、チオキサンテニル基、チエニル基、ジベンゾフリル基、クロメニル基、イソチオクロメニル基、フェノキサチイニル基、ピロリル基、ピラゾリル基、ピラジニル基、ピリミジニル基、ピリダジニル基、インドリジニル基、イソインドリル基、インドリル基、インダゾリル基、プリニル基、キノリジニル基、イソキノリル基、キノリル基、フタラジニル基、ナフチリジニル基、キノキサリニル基、キナゾリニル基、シンノリニル基、プテリジニル基、カルバゾリル基、β−カルボリニル基、フェナントリジニル基、アクリジニル基、ペリミジニル基、フェナントロリニル基、フェナジニル基、イソチアゾリル基、フェノチアジニル基、イソオキサゾリル基及びフラザニル基等が挙げられる
【0022】
で表される有機基は、炭素数1〜10のアルキル基、炭素数1〜10のハロアルキル基、炭素数6〜20のアリール基、炭素数7〜11のアラルキル基からなる群より選択され、ヒドロキシ基、炭素数1〜10のアルキル基、フェニル基、ベンジル基、炭素数1〜10のアルコキシ基、グリシジルオキシ基、アリルオキシ基、ヒドロパーオキシヒドロキシプロピルオキシ基及び1,2−ジオキセタニルメチルオキシ基からなる群より選択される少なくとも1つの置換基を有していてもよい有機基;又は炭素数1〜10のアルキル基、炭素数1〜10のハロアルキル基、炭素数6〜20のアリール基、炭素数7〜11のアラルキル基、ヒドロキシ基、エポキシ基、ヒドロパーオキシ基及びジオキセタニルメチルオキシ基からなる群より選択される少なくとも1種の基と、炭素数1〜6のアルキレン基、炭素数6〜10のアリーレン基、酸素原子、パーオキシ基、カルボニル基及びスルホン基からなる群より選択される少なくとも1種の基から構成される有機基であることが好ましく;少なくとも1つのエポキシ基と、炭素数1〜6のアルキレン基、炭素数6〜10のアリーレン基、酸素原子、カルボニル基及びスルホン基からなる群より選択される少なくとも1種の基を含み、必要に応じて、炭素数1〜6のアルキル基、炭素数1〜10のハロアルキル基、炭素数6〜20のアリール基、炭素数7〜11のアラルキル基及びヒドロキシ基からなる群より選択される少なくとも1種の置換基を含んで構成される有機基であることがより好ましい。
【0023】
また一般式(I)で表される過酸化物は、2以上のエポキシ基を有するエポキシ樹脂が有する1つのエポキシ基を、ヒドロパーオキシヒドロキシエチル基又はジオキセタニル基に置換した化合物であることもまた好ましい。2以上のエポキシ基を有するエポキシ樹脂としては、炭素数2〜10のアルキレングリコールジグリシジルエーテル、ポリアルキレングリコールジグリシジルエーテル、グリセリントリグリシジルエーテル、ペンタエリスリトールテトラグリシジルエーテル、ジペンタエリスリトールヘキサグリシジルエーテル等の脂肪族エポキシ樹脂;ビスフェノール(例えば、A、F、AF、B、C、AP、BP、E、G、S、M、PH、Z、P等)型エポキシ樹脂、ビフェニルジグリシジルエーテル、ナフタレンジグリシジルエーテル、VG3101L(株式会社プリンテック製)、DM−BIPD−F(旭有機材工業社製)のテトラグリシジルエーテル、DM−BIOC−F(旭有機材工業社製)のテトラグリシジルエーテル等の芳香族エポキシ樹脂;フロログルシノール、ピロガロール、アルドース、ケトース、糖アルコール等のポリグリシジルエーテルなどを挙げることができる。
【0024】
また一般式(I)で表される過酸化物は、芳香族エポキシ樹脂のアルコール開環体をアリル化して得られるアリルエーテル誘導体を過酸化物と接触させて得られる過酸化物であることもまた好ましい。
【0025】
以下に、一般式(I)で表される過酸化物の具体例を示すが、本発明はこれらに限定されない。下記化学式中、Aは下記化学式で示されるヒドロパーオキシヒドロキシプロピルオキシ基又は1,2−ジオキセタニルメチルオキシ基を表す。「*」は結合位置を示す。Xは水素原子、ヒドロキシ基、炭素数1〜10のアルキル基、フェニル基、ベンジル基、炭素数1〜10のアルコキシ基、グリシジルオキシ基、アリルオキシ基、ヒドロパーオキシヒドロキシプロピルオキシ基、1,2−ジオキセタニルメチルオキシ基等を表す。Yはヒドロキシ基、フェニルオキシ基又は炭素数1〜10のアルコキシ基を表す。
【0026】
【化5】
【0027】
【化6】
【0028】
【化7】
【0029】
【化8】
【0030】
【化9】
【0031】
【化10】
【0032】
[過酸化物の製造方法]
一般式(I)で表される過酸化物(以下、「第一の過酸化物」ともいう)は、例えば、下記反応式に示すように、対応するアリルエーテル誘導体(好ましくは、一般式(II)で表されるアリルエーテル誘導体)と、一般式(I)で表される過酸化物以外の過酸化物(好ましくは、一般式(III)で表される過酸化物、以下、「第二の過酸化物」ともいう)とを接触させること(以下、「接触工程」ともいう)を含む製造方法で得ることができる。すなわち、一般式(I)で表される過酸化物は、アリルエーテル誘導体と、一般式(I)で表される過酸化物以外の過酸化物との反応生成物であることが好ましい。
【0033】
【化11】
【0034】
式中、R、R及びRは上記と同義である。Rはそれぞれ独立に、水素原子、アルキル基、アシル基、アルキルオキシカルボニル基、アリールオキシカルボニル基、スルホ基等を表す。一般式(III)で表される過酸化物は、アルカリ金属等と塩を構成していてもよい。Rにおけるアルキル基及びアリール基は置換基を有していてもよい。置換基としては、アルキル基、アリール基、ハロゲン原子、ヒドロパーオキシ基等を挙げることができる。
なお、一般式(II)で表されるアリルエーテル誘導体に一般式(III)で表される過酸化物を接触させると、一般式(Ia)〜(Ic)で表される過酸化物に加えて、以下に示すような一般式(Id)で表される化合物が得られることがある。
【0035】
【化12】
【0036】
第二の過酸化物としては、過酸化水素、t−ブチルハイドロパーオキサイド、クメンハイドロパーオキサイド、p−メンタンハイドロパーオキサイド、ジイソプロピルベンゼンパーオキサイド、ジクミルパーオキサイド、t−ブチルクミルパーオキサイド、ジ−t−ブチルパーオキサイド、メチルエチルケトンパーオキサイド、過酢酸、m−クロロ過安息香酸、t−ブチルパーオキシアセテート、過硫酸カリウム等を挙げることができる。中でも水又はアルコールに溶解可能な過酸化物であることが好ましく、水溶性の過酸化物であることがより好ましく、過酸化水素、t−ブチルハイドロパーオキサイド、過酢酸及び過硫酸カリウムからなる群より選択される少なくとも1種であることが更に好ましい。
ここで水又はアルコールに溶解可能とは、25℃において純水又はアルコール100gに1g以上溶解することを意味し、5g以上溶解することが好ましく、10g以上溶解することが更に好ましい。
【0037】
アリルエーテル誘導体と、第二の過酸化物とを接触させる接触工程は、第一の過酸化物が生成可能であれば特に制限されない。
接触工程においては、例えば、アリルエーテル誘導体に含まれるアリル基1モルに対して、第二の過酸化物を1モル〜100モル用いることが好ましく、1モル〜20モル用いることがより好ましく、4モル〜10モル用いることが更に好ましい。
接触工程における温度は、0〜60℃であることが好ましく、15〜50℃であることがより好ましく、20〜40℃であることが更に好ましい。
接触工程における接触時間は、3時間〜24時間であることが好ましく、3時間〜10時間であることがより好ましく、3時間〜6時間であることが更に好ましい。
【0038】
接触工程には、溶媒を用いてもよい。溶媒としては、メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノール、n−ブタノール等のアルコール溶剤、アセトニトリル、プロピオニトリル、ベンゾニトリル等のニトリル溶剤、水などを挙げることができる。これらの溶媒は1種単独でも2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0039】
接触工程に2種以上の溶媒を組み合わせて用いる場合、例えば、アルコール溶剤とニトリル溶剤を組み合わせて用いることが好ましい。この場合アルコール溶剤とニトリル溶剤の混合比(アルコール溶剤/ニトリル溶剤)は、1/99〜99/1であることが好ましく、10/90〜90/10であることがより好ましく、30/70〜70/30であることが更に好ましい。
【0040】
接触工程に溶媒を用いる場合、溶媒の使用量は例えば、アリルエーテル誘導体に含まれるアリル基1モルに対して、1モル〜100モル用いることが好ましく、1モル〜50モル用いることがより好ましく、4モル〜15モル用いることが更に好ましい。
【0041】
接触工程には、塩基を用いてもよい。塩基としては、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等の無機塩基を挙げることができる。これらの塩基は1種単独でも2種以上を組み合わせて用いてもよい。
接触工程に塩基を用いる場合、塩基の使用量は例えば、アリルエーテル誘導体に含まれるアリル基1モルに対して、0.01モル〜10モル用いることが好ましく、0.05モル〜5モル用いることがより好ましく、0.1モル〜1モル用いることが更に好ましい。
【0042】
過酸化物の製造方法は、接触工程に加えて、必要に応じてその他の工程を含んでいてもよい。その他の工程としては、精製工程、溶媒留去工程等を挙げることができる。過酸化物の製造方法は、接触工程と、接触工程後に行われる精製工程とを含むことが好ましい。
【0043】
精製工程は、接触工程で得られる反応混合物から、第一の過酸化物以外の化合物の少なくとも一部を除去する工程であれば、特に制限されない。精製工程は、接触工程で得られる反応混合物から、第二の過酸化物の少なくとも一部を除去する工程であることが好ましく、水を用いて反応混合物から第二の過酸化物の少なくとも一部を除去する水洗工程であることがより好ましい。
【0044】
また、過酸化物の製造方法は、接触工程後に、クエンチ剤との接触工程を含まないことが好ましい。クエンチ剤は、過酸化物を分解可能な化合物であれば特に制限されない。例えば、亜硫酸ナトリウム等の亜硫酸塩、チオ硫酸ナトリウム等のチオ硫酸塩などを挙げることができる。
【0045】
一般式(I)で表される過酸化物は、特徴的な構造を有することから、例えば、熱ラジカル重合開始剤として好適に用いることができる。
【0046】
一般式(I)で表される過酸化物を、熱ラジカル重合開始剤として用いる場合、その使用温度は45℃以上であることが好ましく、60℃以上であることがより好ましく、80℃〜200℃であることが更に好ましい。
【0047】
[熱硬化性樹脂組成物]
本発明の熱硬化性樹脂組成物は、一般式(I)で表される過酸化物と、重合性化合物とを含み、必要に応じてその他の成分を含んでいてもよい。一般式(I)で表される過酸化物を含むことで優れた熱硬化性を達成することができる。
【0048】
(過酸化物)
熱硬化性樹脂組成物は、一般式(I)で表される過酸化物の少なくとも1種を含む。一般式(I)で表される過酸化物の詳細は既述の通りである。熱硬化性樹脂組成物は、一般式(I)で表される過酸化物を1種単独でも2種以上を組み合わせて含んでいてもよい。
【0049】
熱硬化性樹脂組成物における一般式(I)で表される過酸化物の含有量は特に制限されず、熱硬化性樹脂組成物の目的、構成等に応じて適宜選択することができる。例えば、過酸化物の含有量は、熱硬化性の観点から、重合性化合物(好ましくは、ラジカル重合性化合物)の総量100質量部に対して、0.01〜100質量部であることが好ましく、0.01〜50質量部であることがより好ましく、0.01〜30質量部であることが更に好ましい。
【0050】
(重合性化合物)
熱硬化性樹脂組成物は、少なくとも1種の重合性化合物を含む。重合性化合物は、公知の材料が使用できる。重合性化合物は、ラジカル重合性化合物であることが好ましく、液晶への溶解による汚染性の観点から、(メタ)アクリル酸エステルモノマー及び/又はこれらのオリゴマー並びにビスフェノールA型エポキシ樹脂と(メタ)アクリル酸とを反応させて得られる部分(メタ)アクリル化エポキシ樹脂からなる群より選択される少なくとも1種であることがより好ましく、ビスフェノールA型エポキシ樹脂と(メタ)アクリル酸とを反応させて得られる部分(メタ)アクリル化エポキシ樹脂から選択される少なくとも1種が更に好ましい。
重合性化合物は1種単独でも2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0051】
(メタ)アクリル酸エステルモノマー及び/又はこれらのオリゴマーとしては、好ましくは、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、ジ、トリ及びテトラエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、エポキシ変性ジ(メタ)アクリレート並びにウレタン変性ジ(メタ)アクリレートからなる群より選択される少なくとも1種であり、より好ましくは、エポキシ変性ジ(メタ)アクリレート及びウレタン変性ジ(メタ)アクリレートからなる群より選択される少なくとも1種であり、更に好ましくは、エポキシ変性ジ(メタ)アクリレートである。
【0052】
ビスフェノールA型エポキシ樹脂と(メタ)アクリル酸とを反応して得られる部分(メタ)アクリル化エポキシ樹脂は次のようにして得られる。まずビスフェノールA型エポキシ樹脂と(メタ)アクリル酸とを塩基性触媒、好ましくは3価の有機リン化合物及び/又はアミン化合物の存在下で、エポキシ基1当量に対して(メタ)アクリル酸を10〜90当量%を反応させる。次いで、この反応生成物を濾過、遠心分離及び/又は水洗等の処理により塩基性触媒を除去して精製する。塩基性触媒としては、エポキシ樹脂と(メタ)アクリル酸との反応に用いられる公知の塩基性触媒を使用することができる。また塩基性触媒をポリスチレン等のポリマーに担持させた、ポリマー担持塩基性触媒を使用することもできる。ここで、3価の有機リン化合物及びアミン化合物としては、例えば、国際公開第2012/077720号の段落番号0031〜0032の記載を参照することができる。
【0053】
熱重合性樹脂組成物における重合性化合物の含有量は特に制限されない。熱重合性樹脂組成物の取扱い性、すなわち、脱泡性、塗布性、印刷性等の観点から、熱重合性樹脂組成物中における重合性化合物の含有量は、1〜99質量%であることが好ましく、10〜90質量%であることがより好ましく、50〜90質量%であることが更に好ましい。
【0054】
熱重合性樹脂組成物は、一般式(I)で表される過酸化物の調製時に生成することがある、一般式(Id)で表される化合物の少なくとも1種を更に含んでいてもよい。なお、一般式(Id)で表される化合物におけるRの好ましい態様は、一般式(I)におけるRと同様である。
熱重合性樹脂組成物が、一般式(Id)で表される化合物を含む場合、熱重合性樹脂組成物中の一般式(Id)で表される化合物の含有量は、一般式(I)で表される過酸化物に対して1〜10000質量%であることが好ましく、10〜5000質量%であることがより好ましく、100〜3000質量%であることが更に好ましい。また、熱重合性樹脂組成物は、一般式(Id)で表される化合物を1種単独でも2種以上を組み合わせて含むことができる。
【0055】
熱重合性樹脂組成物は、必要に応じて光重合開始剤の少なくとも1種を含んでいてもよい。熱重合性化合物が光重合開始剤を含むことで、光熱重合硬化性樹脂組成物を構成することができ、例えば、液晶シール剤として好適に用いることができる。
光重合開始剤は、特に限定されず、通常用いられる光重合開始剤から適宜選択して用いることができる。光重合開始剤の具体例としては、4−フェノキシジクロロアセトフェノン、4−t−ブチル−ジクロロアセトフェノン、4−t−ブチル−トリクロロアセトフェノン、ジエトキシアセトフェノン、2−ヒドロキシ−2−メチル−1−フェニルプロパン−1−オン、1−(4−イソプロピルフェニル)−2−ヒドロキシ−2−メチルプロパン−1−オン、1−(4−ドデシルフェニル)−2−ヒドロキシ−2−メチルプロパン−1−オン、4−(2−ヒドロキシエトキシフェニル)−2−ヒドロキシ−2−プロピルケトン、1−ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン、2−メチル−1−[4−(メチルチオ)フェニル]−2−モルホリノプロパン−1−オン等のアセトフェノン系化合物;ベンゾイン、ベンゾインメチルエーテル、ベンゾインエチルエーテル、ベンゾインイソプロピルエーテル、ベンゾインイソブチルエーテル、ベンジルジメチルケタール等のベンゾイン系化合物;ベンゾフェノン、ベンゾイル安息香酸、ベンゾイル安息香酸メチル、4−フェニルベンゾフェノン、ヒドロキシベンゾフェノン、アクリル化ベンゾフェノン、4−ベンゾイル−4’−メチルジフェニルサルファイド、3,3’−ジメチル−4−メトキシベンゾフェノン等のベンゾフェノン系化合物;チオキサントン、2−クロルチオキサントン、2−メチルチオキサントン、2,4−ジメチルチオキサントン、イソプロピルチオキサントン、2,4−ジクロロチオキサントン、2,4−ジエチルチオキサントン、2,4−ジイソプロピルチオキサントン等のチオキサントン系化合物;1−フェニル−1,2−プロパンジオン−2(O−エトキシカルボニル)オキシム、2,4,6−トリメチルベンゾイルジフェニルホスフィンオキサイド、メチルフェニルグリオキシレート、9,10−フェナントレンキノン、カンファーキノン、ジベンゾスベロン、2−エチルアントラキノン、4’,4”−ジエチルイソフタロフェノン、3,3’,4,4’−テトラ(t−ブチルパーオキシカルボニル)ベンゾフェノン、1−[4−(3−メルカプトプロピルチオ)フェニル]−2−メチル−2−モルホリン−4−イル−プロパン−1−オン、1−[4−(10−メルカプトデカニルチオ)フェニル]−2−メチル−2−モルホリン−4−イル−プロパン−1−オン、1−(4−{2−[2−(2−メルカプトエトキシ)エトキシ]エチルチオ}フェニル)−2−メチル−2−モルホリン−4−イル−プロパン−1−オン、1−[3−(メルカプトプロピルチオ)フェニル]−2−ジメチルアミノ−2−ベンジル−プロパン−1−オン、1−[4−(3−メルカプトプロピルアミノ)フェニル]−2−ジメチルアミノ−2−ベンジル−プロパン−1−オン、1−[4−(3−メルカプト−プロポキシ)フェニル]−2−メチル−2−モルホリン−4−イル−プロパン−1−オン、ビス(η−2,4−シクロペンタジエン−1−イル)ビス[2,6−ジフルオロ−3−(1H−ピロール−1−イル)フェニル]チタニウム、α−アリルベンゾイン、α−アリルベンゾインアリールエーテル、1−[4−(フェニルチオ)フェニル]オクタン−1,2−ジオン2−(O−ベンゾイルオキシム)、1‐[6‐(2‐メチルベンゾイル)‐9‐エチル‐9H‐カルバゾール‐3‐イル]エタノンO‐アセチルオキシム、ビス(2,4,6−トリメチルベンゾイル)−フェニルホスフィンオキサイド、1,3−ビス(p−ジメチルアミノベンジリデン)アセトンなどを例示することができる。光重合開始剤は1種単独でも2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0056】
熱重合性化合物が光重合開始剤を含む場合、光重合開始剤の含有量は、重合性化合物の総量を100質量部とした場合に、0.01〜10質量部であることが好ましく、0.01〜5質量部であることがより好ましい。
【0057】
熱硬化性樹脂組成物は、必要に応じて熱硬化剤の少なくとも1種を含んでいてもよい。熱重合性化合物が熱硬化剤を含むことで、例えば、液晶シール剤としてより好適に用いることができる。
熱硬化剤としては特に限定されず、通常用いられる熱硬化剤から適宜選択して用いることができる。熱硬化剤の具体例としては、ヒドラジド化合物、アミンアダクト化合物、イミダゾール化合物等が挙げられる。これらの化合物は、例えば、1種のヒドラジド化合物、1種のヒドラジド化合物と1種のイミダゾール化合物との組合せ、1種のヒドラジド化合物と2種以上のアミンアダクト化合物との組合せ、1種のヒドラジド化合物と2種以上のアミンアダクト化合物と2種以上のイミダゾール化合物との組合せ、及び2種以上のヒドラジド化合物と2種以上のアミンアダクト化合物との組合せのように、それぞれを単独で使用しても、複数の化合物を組み合わせて使用してもよい。熱硬化剤は、市販されている製品を用いることができる。
【0058】
ヒドラジド化合物としては、アジピン酸ジヒドラジド、1,3−ビス(ヒドラジノカルボノエチル)−5−イソプロピルヒダントイン、7,11−オクタデカジエン−1,18−ジカルボヒドラジド、1,3−ビス[ヒドラジノカルボノエチル−5−イソプロピルヒダントイン]等が挙げられる。
【0059】
アミンアダクト化合物としては、市販品として、味の素ファインテクノ社製、アミキュアPN−23、アミキュアPN−30、アミキュアMY−24、アミキュアMY−H等が挙げられる。
【0060】
イミダゾール化合物としては、2−メチルイミダゾール、2−フェニルイミダゾール、2−ウンデシルイミダゾール、2−ヘプタデシルイミダゾール、2−フェニル−4−メチルイミダゾール、1−ベンジル−2−フェニルイミダゾール、1−ベンジル−2−メチルイミダゾール、1−シアノエチル−2−メチルイミダゾール、1−シアノエチル−2−フェニルイミダゾール等が挙げられる。
【0061】
熱硬化性樹脂組成物が熱硬化剤を含む場合、熱硬化剤の含有量は、十分な熱反応性を有し、且つ、保存安定性を維持する観点から、重合性化合物100質量部に対して、5〜50質量部であることが好ましく、5〜30質量部であることがより好ましい。
【0062】
熱硬化性樹脂組成物は、フィラー粒子の少なくとも1種を含むことができる。フィラー粒子を含むことで、熱硬化性樹脂組成物の粘度制御、熱硬化性樹脂組成物を硬化させた硬化物の強度向上、または線膨張性が抑制されることによる熱硬化性樹脂組成物の接着信頼性の向上等の効果が得られる。フィラー粒子としては、無機粒子および/又は有機樹脂粒子が好ましく使用できる。線膨張係数が小さく、接着強度の発現のため硬化収縮率を低減させる観点から、無機粒子が好ましい。
フィラー粒子は1種単独でも2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0063】
無機粒子としては、シール剤に好適に用いられる粒子径が得られやすい観点から炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、硫酸バリウム、硫酸マグネシウム、珪酸アルミニウム、酸化チタン、アルミナ、酸化亜鉛、二酸化ケイ素、カオリン、タルク、ガラスビーズ、セリサイト、活性白土、ベントナイト、窒化アルミニウム及び窒化ケイ素からなる群から選ばれる少なくとも1種以上の無機粒子が好ましく、二酸化ケイ素、タルク、アルミナ及びベントナイトからなる群から選ばれる少なくとも1種以上の無機粒子がより好ましく、二酸化ケイ素及び/又はタルクが更に好ましく、二酸化ケイ素が更に好ましい。
【0064】
有機樹脂粒子としては、硬化時の応力緩和による接着強度としての添加効果を発現させる観点から、ポリメタクリル酸メチル粒子、ポリスチレン粒子、これらを構成するモノマーと他のモノマーとを共重合させて得られる共重合体粒子、ポリエステル粒子、ポリウレタン粒子、ゴム粒子、及び高いガラス転移温度を有する共重合体を含むシェルと低いガラス転移温度を有する共重合体のコアとから構成されるコアシェルタイプ粒子からなる群から選ばれる少なくとも1種の有機樹脂粒子が好ましく、ポリエステル粒子、ポリウレタン粒子、ゴム粒子、及び高いガラス転移温度を有する共重合体を含むシェルと低いガラス転移温度を有する共重合体のコアとから構成されるコアシェルタイプ粒子からなる群から選ばれる少なくとも1種の有機樹脂粒子がより好ましく、高いガラス転移温度を有する共重合体を含むシェルと低いガラス転移温度を有する共重合体のコアとから構成されるコアシェルタイプ粒子が更に好ましい。また、コアシェルタイプ粒子では、高いガラス転移温度を有する共重合体がポリメタクリル酸で、低いガラス転移温度を有する共重合体がブチルアクリレートであることが好ましい。
【0065】
フィラー粒子の粒子径は特に限定されず、目的等に応じて適宜選択することができる。例えば、体積平均粒子径として、0.1μm〜1.5μmであることが好ましく、0.5μm〜1.5μmであることがより好ましい。フィラー粒子の体積平均粒子径は、レーザー回折散乱法で測定することができる。
【0066】
熱硬化性樹脂組成物がフィラー粒子として無機粒子又は有機樹脂粒子を含む場合、無機粒子の含有量は、応力分散効果による接着性の改善、線膨張率の改善の観点から、重合性化合物100質量部に対して、2〜40質量部であることが好ましく、5〜30質量部であることが更に好ましい。また、有機樹脂粒子の含有量は、硬化時の応力緩和による接着強度としての添加効果を発現させる観点から、重合性化合物100質量部に対して、2〜40質量部であることが好ましく、5〜30質量部であることが更に好ましい。
【0067】
熱硬化性樹脂組成物は、カップリング剤の少なくとも1種を含むことができる。カップリング剤としてはシランカップリング剤等を挙げることができる。
シランカップリング剤として具体的には、γ−アミノプロピルトリメトキシシシラン、γ−メルカプトプロピルトリメトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、及びγ−イソシアネートプロピルトリメトキシシランからなる群から選ばれる1種以上の化合物が好ましく、γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシランがより好ましい。
【0068】
熱硬化性樹脂組成物がカップリング剤を含む場合、カップリング剤の含有量は、接着強度、特に耐湿強度の保持の観点から、重合性化合物100質量部に対して、0.1〜10質量部であることが好ましく、0.5〜2質量部であることがより好ましい。
【0069】
熱硬化性樹脂組成物は、必要に応じてエラストマー、連鎖移動剤、イオントラップ剤、イオン交換剤、レベリング剤、顔料、染料、可塑剤、消泡剤等の添加剤を更に含むことができる。
【0070】
本発明の熱硬化性樹脂組成物は、未硬化状態における成分の溶出が抑制される。したがって、熱硬化性樹脂組成物を液晶シール剤に適用した場合には、液晶の汚染を低減することができる。また電子部品の気密シール剤等の封止剤に適用した場合には、硬化の工程中における封止剤由来の電子部品の汚染を低減することができる。
【実施例】
【0071】
以下、本発明を実施例により具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0072】
[製造例1]
(BisA−ジグリシジルエーテルのエチレングリコールモノアリルエーテル開環体の製造)
攪拌機、温度計、還流冷却管を備えた2000mLガラス製三ツ口フラスコに、ビスフェノールA型エポキシ樹脂;エピクロンEXA850CRP〔DIC社製〕280g、エチレングリコールモノアリルエーテル〔TCI社製〕800g(4.75当量/エポキシ基)、クロロホルム〔関東化学社製〕560g、ホウフッ化錫水溶液〔森田化学社製〕1.6g(1.5ミリ当量/エポキシ基)を入れ、攪拌しながら60℃に昇温した。反応開始後、4時間攪拌を継続し、高速液体クロマトグラフィーによる確認により、反応がほぼ進行しなくなった時点で反応終了とした。上記反応液を3000mLガラス製ビーカーに移し、クロロホルム〔関東化学社製〕500g、水500gを入れ、しばらく攪拌後、静置させた。水層を分離、除去した後、同様の操作を繰り返した。水層のpHが7.0以上であることを確認し、有機層を減圧条件下(60mmHg以下、60℃)濃縮した。無色透明粘稠液体を365g得た。
【0073】
[製造例2]
(テトラアリルエーテル化合物の製造)
攪拌機、温度計、還流冷却管を備えた1000mLガラス製三ツ口フラスコに、製造例1で得られた化合物200g、塩化アリル〔TCI社製〕112g(2.0当量/水酸基)、塩化テトラブチルアンモニウム〔TCI社製〕2.36g(0.01当量/水酸基)、ジメチルスルホキシド〔関東化学社製〕100gを混合させた。室温条件下、48%水酸化ナトリウム水溶液〔関東化学社製〕122g(2.0当量/水酸基)を2時間かけて滴下した。滴下終了後、室温で12時間攪拌を継続し、高速液体クロマトグラフィーによる確認により、反応がほぼ進行しなくなった時点で反応終了とした。上記反応液を3000mLガラス製ビーカーに移し、クロロホルム〔関東化学社製〕500g、水500gを入れ、しばらく攪拌後、静置させた。水層を分離、除去した後、同様の操作を繰り返した。水層のpHが7.0以下であることを確認し、有機層を減圧条件下(60mmHg以下、60℃)濃縮した。無色透明液体として下記化学式で表わされるテトラアリルエーテル化合物を210g得た。
【0074】
【化13】
【0075】
[製造例3]
以下のようにして、部分エステル化エポキシ樹脂(部分メタアクリル化エポキシ樹脂)を製造した。
(ビスフェノールA型エポキシ樹脂の部分メタクリレート化エポキシ樹脂の合成)
ビスフェノールA型エポキシ樹脂(EXA850CRP、DIC株式会社製)320.2g、メタクリル酸(東京化成社製)90.4g、PS−PPh(ポリスチレン(PS)にトリフェニルホスフィン(PPh)を担持した塩基性触媒、バイオタージ社製)1.5g、及びBHT(ジブチルヒドロキシトルエン)100mgを混合し100℃で6時間撹拌した。反応終了後、濾過により触媒を除去し部分メタクリレート化エポキシ樹脂を得た。
【0076】
[実施例1]
(過酸化物を含有するエポキシ樹脂の製造)
攪拌機、温度計、還流冷却管を備えた1000mLガラス製三ツ口フラスコに、製造例2で得られた化合物50g、メタノール〔関東化学社製〕128g(12.5当量/アリル基)、アセトニトリル〔関東化学社製〕105g(8.0当量/アリル基)、炭酸カリウム〔関東化学社製〕17g(0.4当量/アリル基)を混合させた。反応系内が20〜40℃の温度範囲になるように調節しながら30〜35%の過酸化水素水〔関東化学社製〕217g(6.0当量/アリル基)を3時間かけて滴下した。滴下終了後、室温で3時間攪拌を継続し、高速液体クロマトグラフィーによる確認により、反応がほぼ進行しなくなった時点で反応終了とした。上記反応液を1000mLガラス製ビーカーに移し、クロロホルム〔関東化学社製〕250g、水250gを入れ、しばらく攪拌後、静置させた。水層を分離した後、同様の操作を繰り返した。水層のpHが7.0以下、および過酸化水素濃度が測定限界以下であることを確認し、有機層を減圧条件下(60mmHg以下、60℃)濃縮した。無色透明粘稠液体として、下記化学式群に示すような一般式(I)で表わされる過酸化物とエポキシ樹脂の混合物を44g得た。
【0077】
得られた混合物について、エポキシ当量、粘度、塩素濃度及び過酸化物濃度を以下のようにして測定した。
エポキシ当量を、過塩素酸法で測定したところ、エポキシ当量196g/eqであった。
粘度を、EHD型粘度計を用いて25℃で測定したところ、粘度9.775Pa・sであった。
塩素濃度を、蛍光X線法を用いて測定したところ、塩素濃度231ppmであった。
過酸化物濃度を、ヨウ素滴定法を用いて測定したところ、過酸化物濃度10.5質量%であった。
【0078】
【化14】
【0079】
[実施例2]
上記で得られた過酸化物を含有するエポキシ樹脂の10質量部と、重合性化合物として上記で得られた部分メタクリル化エポキシ樹脂の100質量部とを、スリーワンモータを用いて混合して、熱硬化性樹脂組成物を得た。なお、過酸化物を含有するエポキシ樹脂中の過酸化物濃度は10.5質量%である。
【0080】
(評価)
得られた熱硬化性樹脂組成物の硬化性を以下のようにして評価した。
熱硬化性樹脂組成物を25mm×25mm厚さ0.7mmのLCD用ガラスと、25mm×25mm厚さ0.1mmのPETフィルムにより、熱硬化性樹脂組成物の厚みが0.5mmになるようにはさみ、表1に示す条件で加熱処理又は紫外線照射処理して、硬化性評価用のサンプルとした。
サンプルのIRスペクトルをFT−IR(Spectrum One、パーキンエルマー社製)を用いて測定し、得られたIRスペクトルのメタクリル基のピーク面積よりメタクリル基の反応率(転化率、メタクリル反応率)を算出した。反応率の算出はメタクリル基の吸収1630cm−1(又は945cm−1)の面積の減少をベンゼン環の二重結合の吸収1500cm−1の面積を基準として計算した。
加熱処理は恒温層を用いて行った。また、紫外線照射処理は、紫外線照射装置(UVX−01224S1、ウシオ電機製)により、100mW/cmの紫外線照射照度で3000mJ/cmの光エネルギーで照射を行った。なお、加熱処理と紫外線照射処理の両方を行った場合は、紫外線照射処理後に加熱処理を行った。
【0081】
【表1】
【0082】
表1から、熱処理温度が80℃及び100℃では、ほとんど硬化が進行しなかった。熱処理温度が120℃において、熱処理時間が10分(min)ではほぼ反応していないが、20分では急激に反応が進み、30分で硬化物が得られた(反応率は93%)。
紫外線照射処理のみでの過酸化物の分解による樹脂組成物の硬化は確認されなかった。
紫外線照射処理後にも過酸化物は十分に残存しており、紫外線照射処理後の加熱処理で問題なく硬化物が得られた(反応率は95%)。
【0083】
[実施例3]
実施例2において、過酸化物を含有するエポキシ樹脂の配合量(質量部)を表2に示すように変更したこと以外は、実施例2と同様にして熱硬化性樹脂組成物を調製し、同様にして硬化性(反応率%)を評価した。
【0084】
【表2】
【0085】
[比較例1]
実施例3において、過酸化物を含有するエポキシ樹脂を配合しなかった場合は、いずれの加熱処理条件でも反応率は0%であった。
【0086】
[実施例4〜7、比較例2〜5]
部分メタクリル化エポキシ樹脂、実施例1で得られた過酸化物を含有するエポキシ樹脂、過酸化物非含有エポキシ樹脂、光重合開始剤(BASF社製IRGACURE 369(2−ベンジル−2−ジメチルアミノ−1−(4−モルホリノフェニル)−ブタノン−1))、及び熱硬化剤(味の素ファインテクノ社製アミキュアVDH(1,3−ビス(ヒドラジノカルボノエチル)−5−イソプロピルヒダントイン))を下記表3に示す配合量(質量部)で混合して、熱硬化性樹脂組成物を調製し、実施例2と同様にして評価した。
過酸化物非含有エポキシ樹脂は、特開2012−077202号公報の記載に準じて調製した下記エポキシ樹脂である。
【0087】
【化15】
【0088】
なお、エポキシ反応率は、IRスペクトルにおけるエポキシ基の吸収910cm−1の面積の減少をベンゼン環の二重結合の吸収1500cm−1の面積を基準として計算した。
【0089】
【表3】
【0090】
表3から、アリルエーテル化合物を酸化することによって得られるグリシジルエーテル化合物に含まれる過酸化物が、熱重合開始剤として良好に機能することが分かる。
【0091】
[溶出性試験]
液晶への溶出性の評価は液晶の相転移温度であるNI点(Nematic-Isotropic point)の変化により行った。液晶のNI点は液晶の各成分の混合組成により決定され、各配合で固有の値となる。一般的に、これら液晶に何らかの不純物(他成分)が混入することによりNI点は低下することが知られており、不純物混入具合をNI点より評価することが出来る。
【0092】
(測定用試料の作製)
アンプル瓶に、上記で得られた過酸化物を含有するエポキシ樹脂又は過酸化物非含有エポキシ樹脂を0.1g入れ、それぞれに液晶(MLC−11900−080、メルク社製)1gを加えた。このアンプル瓶を120℃オーブンに1時間投入し、その後室温で静置して室温(25℃)に戻ってから液晶部分を取り出し0.2μmフィルターによりろ過し、評価用の液晶サンプルとした。
【0093】
(NI点の測定)
NI点の測定には示差走査型熱量計(DSC、パーキンエルマー社製、Pyris6)を使用した。評価用の液晶サンプル10mgをアルミサンプルパンに封入し、昇温速度5℃/分の条件で測定を行った。
【0094】
過酸化物を含有するエポキシ樹脂から得られた評価用の液晶サンプルのNI点は91.64℃であり、ブランクからの変化量(ΔNI点)は−0.41℃であった。一方、過酸化物非含有エポキシ樹脂から得られた評価用の液晶サンプルのNI点は91.60℃であり、ブランクからの変化量(ΔNI点)は−0.43℃であった。
以上から、エポキシ樹脂における過酸化物構造の有無は、液晶汚染性に影響しないことが分かる。