特許第6204626号(P6204626)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ トヨタ自動車株式会社の特許一覧 ▶ 光精工株式会社の特許一覧

<>
  • 特許6204626-潤滑機構 図000002
  • 特許6204626-潤滑機構 図000003
  • 特許6204626-潤滑機構 図000004
  • 特許6204626-潤滑機構 図000005
  • 特許6204626-潤滑機構 図000006
  • 特許6204626-潤滑機構 図000007
  • 特許6204626-潤滑機構 図000008
  • 特許6204626-潤滑機構 図000009
  • 特許6204626-潤滑機構 図000010
  • 特許6204626-潤滑機構 図000011
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】6204626
(24)【登録日】2017年9月8日
(45)【発行日】2017年9月27日
(54)【発明の名称】潤滑機構
(51)【国際特許分類】
   F16D 25/12 20060101AFI20170914BHJP
【FI】
   F16D25/12 C
【請求項の数】4
【全頁数】17
(21)【出願番号】特願2017-104681(P2017-104681)
(22)【出願日】2017年5月26日
【審査請求日】2017年6月9日
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】593146017
【氏名又は名称】光精工株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002147
【氏名又は名称】特許業務法人酒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】岸本 直之
(72)【発明者】
【氏名】本多 敦
(72)【発明者】
【氏名】田淵 元樹
(72)【発明者】
【氏名】西村 憲一
(72)【発明者】
【氏名】山本 啓二
(72)【発明者】
【氏名】鯖戸 雅貴
【審査官】 尾形 元
(56)【参考文献】
【文献】 特開2001−165196(JP,A)
【文献】 国際公開第2012/108501(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16D 25/08
F16D 25/12
F16D 48/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
供給される油圧がリターンスプリング力に抗して作用して係合状態と解放状態とが切り換えられる摩擦係合要素と、
前記摩擦係合要素に供給される油圧が分岐されて供給され、前記摩擦係合要素へのオイルの供給と遮断とを切り換える潤滑切換手段と、
油圧を前記摩擦係合要素および前記潤滑切換手段に供給する油圧制御手段と、を備えた潤滑機構であって、
前記潤滑切換手段は、バルブと弾性部材とを内部に設けたハウジングを有し、
前記バルブは、前記油圧制御手段から供給される油圧によって前記ハウジング内を移動することで、前記摩擦係合要素へのオイルの供給と遮断とを切換可能に構成され、
前記弾性部材は、前記バルブへの油圧に抗する弾性力を前記バルブに作用させ、
前記潤滑切換手段は、前記弾性力に抗して前記バルブに作用される油圧が上昇する昇圧中において、油圧が高圧側設定値になった場合に前記オイルの供給を開始し、
前記潤滑切換手段は、前記バルブに作用される油圧が低下する降圧中において、油圧が低圧側設定値となった場合に前記オイルの供給を遮断し、
前記高圧側設定値は、前記摩擦係合要素のリターンスプリング力に対応した圧力以上であり、
前記低圧側設定値は、前記摩擦係合要素のリターンスプリング力に対応した圧力未満である
ことを特徴とする潤滑機構。
【請求項2】
前記バルブが、底部側において前記ハウジングにおける前記オイルが流入する流入口を閉塞可能、かつ前記オイルを内周側に流入可能な開口が形成された有底の凹形状を有し、
前記バルブの凹形状に対応して前記バルブの開口部側と嵌合する凸形状を有しつつ、前記ハウジングに対して固定されているとともに、前記バルブに形成された開口を通じて流入したオイルが流動して外部に吐出可能な油路を形成する筒形状を有するプラグと、
前記ハウジングと前記プラグとの間に、前記オイルによる油圧に前記バルブを介して抗するオイルを貯留可能な油室と、
を備えることを特徴とする請求項1に記載の潤滑機構。
【請求項3】
前記プラグに、前記油室と前記プラグにおける油路との間を連通させる連通孔が設けられていることを特徴とする請求項2に記載の潤滑機構。
【請求項4】
前記弾性部材が複数のバネから構成され、前記オイルの供給が遮断され、かつ前記バルブに作用する油圧が前記高圧側設定値未満の場合に、前記複数のバネのうちの一部のバネから前記バルブに弾性力が作用しない状態であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の潤滑機構。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、潤滑機構に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、変速機における摩擦係合要素を押圧するクラッチピストンにおいて、摩擦係合要素へのオイルの供給と遮断とを切り換え可能な潤滑切換バルブが開示されている。クラッチピストンは、潤滑用の油路が係合油圧を供給する油路と共通化されており、摩擦係合要素を押圧する際に係合油圧が上昇することによって潤滑切換バルブが開口し、摩擦係合要素にオイルが供給される。潤滑切換バルブは、吐出口が開口する第1設定値をコイルばねのスプリング力に対応する圧力以上に設定している。そのため、係合油圧が第1設定値以上に高まりコイルばねが押し込まれることで開口し、第1設定値よりも高い第2設定値まで昇圧しコイルばねがさらに押し込まれることで閉口する。また、第1設定値未満の際には閉口している。
【0003】
特許文献1において、摩擦係合要素が解放状態の場合、係合油圧は第1設定値未満であるため、潤滑切換バルブは閉口して遮断状態になり、オイルは摩擦係合要素に供給されないので、解放状態での摩擦係合要素の引きずり損失を低減できる。係合油圧が第1設定値に達すると、潤滑切換バルブが開口して流動状態になり、オイルが摩擦係合要素に供給されるため、解放状態から半係合状態に移行する係合動作によって発熱中の摩擦係合要素を冷却できる。さらに、係合油圧が第2設定値に達すると、潤滑切換バルブが閉口して遮断状態になり、オイルは摩擦係合要素に供給されず、係合状態でのオイルの供給が遮断される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2001−165196号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、上述した特許文献1に記載された摩擦係合要素が半係合状態から解放状態に移行した際には、係合状態の場合に比してオイルによる冷却効果が得やすいことから、摩擦係合要素にオイルを供給する時間を長くすることが望ましい。一方、解放状態から係合状態に移行させる際に、潤滑切換バルブを早い時点で開口して流動状態にすると、摩擦係合要素に供給される係合油圧が低下したり係合油圧の昇圧速度が低下したりする。そのため、摩擦係合要素が解放状態から係合状態に移行する場合において、係合状態を維持可能な係合油圧を確保するためには、係合動作中の早い段階で潤滑切換バルブを開口させるのは望ましくない。そこで、摩擦係合要素が解放状態から係合状態に移行する際の係合油圧を所定油圧に確保することを優先させて、第1設定値はリターンスプリング力に対応する圧力より高く設定される。この場合、摩擦係合要素が係合状態から解放状態に移行する場合にも、潤滑切換バルブは係合油圧に合わせて第1設定値で閉口して遮断状態になるため、解放状態における冷却効果が低下する可能性がある。
【0006】
本発明は、上記に鑑みてなされたものであって、その目的は、摩擦係合要素が係合状態から解放状態に移行する際にオイルを供給する時間を長くすることができ、摩擦係合要素に対する冷却効果を確保できる潤滑機構を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上述した課題を解決し、上記目的を達成するために、本発明に係る潤滑機構は、供給される油圧がリターンスプリング力に抗して作用して係合状態と解放状態とが切り換えられる摩擦係合要素と、前記摩擦係合要素に供給される油圧が分岐されて供給され、前記摩擦係合要素へのオイルの供給と遮断とを切り換える潤滑切換手段と、油圧を前記摩擦係合要素および前記潤滑切換手段に供給する油圧制御手段と、を備えた潤滑機構であって、前記潤滑切換手段は、バルブと弾性部材とを内部に設けたハウジングを有し、前記バルブは、前記油圧制御手段から供給される油圧によって前記ハウジング内を移動することで、前記摩擦係合要素へのオイルの供給と遮断とを切換可能に構成され、前記弾性部材は、前記バルブへの油圧に抗する弾性力を前記バルブに作用させ、前記潤滑切換手段は、前記弾性力に抗して前記バルブに作用される油圧が上昇する昇圧中において、油圧が高圧側設定値になった場合に前記オイルの供給を開始し、前記潤滑切換手段は、前記バルブに作用される油圧が低下する降圧中において、油圧が低圧側設定値となった場合に前記オイルの供給を遮断し、前記高圧側設定値は、前記摩擦係合要素のリターンスプリング力に対応した圧力以上であり、前記低圧側設定値は、前記摩擦係合要素のリターンスプリング力に対応した圧力未満であることを特徴とする。
【0008】
本発明の一態様に係る潤滑機構は、上記の発明において、前記バルブが、底部側において前記ハウジングにおける前記オイルが流入する流入口を閉塞可能、かつ前記オイルを内周側に流入可能な開口が形成された有底の凹形状を有し、前記バルブの凹形状に対応して前記バルブの開口部側と嵌合する凸形状を有しつつ、前記ハウジングに対して固定されているとともに、前記バルブに形成された開口を通じて流入したオイルが流動して外部に吐出可能な油路を形成する筒形状を有するプラグと、前記ハウジングと前記プラグとの間に、前記オイルによる油圧に前記バルブを介して抗するオイルを貯留可能な油室と、を備えることを特徴とする。
【0009】
この構成によれば、昇圧中においてオイルが供給状態から遮断状態に切り替えられる設定値の付近でバルブの移動速度を減衰させて、潤滑切換手段が遮断状態になるタイミングを遅延させることができる。
【0010】
本発明の一態様に係る潤滑機構は、この構成において、前記プラグに、前記油室と前記プラグにおける油路との間を連通させる連通孔が設けられていることを特徴とする。
【0011】
この構成によれば、昇圧中において、油室内の油圧による反力によってバルブの移動を抑制することができる一方、油室とプラグにおける油路との間を、連通孔を通じてオイルが移動できるため、降圧中においてオイルによる反力を作用させないことができるので、潤滑切換手段の油圧特性にヒステリシスを持たせることができる。
【0012】
本発明の一態様に係る潤滑機構は、上記の発明において、前記弾性部材が複数のバネから構成され、前記オイルの供給が遮断され、かつ前記バルブに作用する油圧が前記高圧側設定値未満の場合に、前記複数のバネのうちの一部のバネから前記バルブに弾性力が作用しない状態であることを特徴とする。
【0013】
この構成によれば、係合油圧の昇圧の開始時点において弾性力が作用するバネによってバルブに弾性力が作用し、係合油圧の昇圧時の途中から一部のバネによる弾性力がさらにバルブに作用されることになる。そのため、係合油圧が所定の油圧に増加するまでの間に、複数のバネの全てが連通状態を維持する向きにバルブを押圧することになり、開口状態を維持可能な係合油圧の上限と下限との油圧幅を確保することができるので、係合抽圧が急速に上昇した場合であっても、連通状態を維持しやすい。また、高圧側設定値は昇圧の開始時点において弾性力が作用するバネの弾性力に基づいて設定でき、昇圧中にオイルが供給状態から遮断状態に切り替えられる設定値は一部のバネの弾性力に基づいて設定できる。これにより、潤滑切換手段における高圧側設定値と、昇圧中にオイルが供給状態から遮断状態に切り替えられる設定値とを独立して設定でき、潤滑切換手段の設計自由度を向上できる。
【発明の効果】
【0014】
本発明に係る潤滑機構によれば、係合油圧の昇圧時に遮断から供給に切り換わる高圧側設定値を、摩擦係合要素のリターンスプリング力に対応した圧力以上にするとともに、係合油圧の降圧時に供給から遮断に切り換わる低圧側設定値を、摩擦係合要素のリターンスプリング力に対応した圧力未満とすることによって、係合油圧の降圧時において昇圧時に比して低い油圧でもバルブを開口させた状態にできるため、潤滑切換バルブを変速機における摩擦係合要素に対するオイルの供給に用いる場合に、摩擦係合要素の係合状態と解放状態との間においてオイルの供給におけるヒステリシスを設けることができるので、摩擦係合要素の解放状態において摩擦係合要素にオイルを供給する時間を、係合油圧の降圧時に供給から遮断に切り換わる設定値が摩擦係合要素のリターンスプリング力に対応した圧力より高い場合に比して長くでき、冷却性能を向上させることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1図1は、本発明の一実施形態による車両の構成を示すスケルトン図である。
図2図2は、図1に示す車両における自動変速機の一部を示す断面図である。
図3図3は、従来技術による潤滑切換バルブの流動状態と遮断状態とを切り換える設定値を説明するためのグラフである。
図4図4は、本発明の一実施形態による潤滑切換バルブの流動状態と遮断状態とを切り換える設定値を説明するためのグラフである。
図5図5は、本発明の一実施形態による潤滑切換バルブを示す断面図である。
図6図6は、本発明の一実施形態による潤滑切換バルブを示す断面図である。
図7図7は、本発明の一実施形態による潤滑切換バルブを示す断面図である。
図8図8は、本発明の一実施形態による潤滑切換バルブの動作に伴うオイルの流量の油圧依存性を示すグラフである。
図9図9は、係合油圧の昇圧時における第2設定値に基づく問題点を説明するための係合油圧の経時変化を示すグラフである。
図10図10は、本発明の一実施形態による潤滑切換バルブにおいて、係合油圧、および減衰効果の有無において流れるオイルの流量の経時変化を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の一実施形態について図面を参照しつつ説明する。なお、以下の一実施形態の全図においては、同一または対応する部分には同一の符号を付す。また、本発明は以下に説明する実施形態によって限定されるものではない。
【0017】
まず、本発明の一実施形態による潤滑切換バルブを備えた変速機を有する車両の構成について説明する。図1は、この一実施形態による車両Veの構成を示すスケルトン図である。図1に示すように、エンジン1は、燃料の燃焼によって発生した熱エネルギを、クランクシャフト11の回転運動に変換する構成である。エンジン1においては、クランクシャフト11と動力伝達可能なトルクコンバータ12が設けられている。トルクコンバータ12は、ポンプインペラ12aおよびタービンランナ12bを有し、ポンプインペラ12aは、フロントカバー12cを介在させてクランクシャフト11と動力伝達可能に連結されている。インプットシャフト13とフロントカバー12cとの間に、摩擦力によって動力伝達可能なロックアップクラッチ12dが設けられている。ポンプインペラ12aには、油圧を発生させる機械式のオイルポンプ15が連結されている。オイルポンプ15は、自動変速機2を変速制御したり、自動変速機2の動力伝達経路の各部にオイルを供給したりするためのポンプである。
【0018】
インプットシャフト13は、クランクシャフト11と同軸上に配置され、自動変速機2がクランクシャフト11から車輪(図示せず)に至る動力伝達経路に設けられている。自動変速機2は、中空のケーシング14の内部に設けられている。この一実施形態による自動変速機2は、第1変速部20および第2変速部22を有する。
【0019】
第1変速部20は、副変速部を構成し、ダブルピニオン型の第1遊星歯車機構21によって構成されている。第1遊星歯車機構21は、相互に差動回転可能に接続された3個の回転要素、すなわち第1サンギヤ21S、第1リングギヤ21R、およびキャリヤ21Cを有し、さらに、ピニオンギヤ21P1,21P2を有する。第1サンギヤ21Sは回転しない状態でケーシング14に固定されている。
【0020】
インプットシャフト13の外周側に配置された第2変速部22は、主変速部を構成し、複数組の第2遊星歯車機構23および第3遊星歯車機構25によって構成されている。第2遊星歯車機構23は、相互に差動回転可能に接続された3個の回転要素である、第2サンギヤ23S、第2リングギヤ23R、およびキャリヤ22Cを有し、さらにロングピニオンギヤ22Pを有する。また、第2リングギヤ23Rと一体回転する出力ギヤ24が設けられている。出力ギヤ24には、車輪が動力伝達可能に接続されている。第3遊星歯車機構25は、第3サンギヤ25S、ショートピニオンギヤ25P、およびキャリヤ22Cを有する。第2変速部22のキャリヤ22Cは、第2遊星歯車機構23および第3遊星歯車機構25において共用化されている。第2変速部22は、第2遊星歯車機構23および第3遊星歯車機構25により構成されたラビニョ型の遊星歯車機構である。
【0021】
上述した遊星歯車機構に含まれる回転要素同士を、相互に接続または解放する摩擦係合装置としてのクラッチCとしては、第1クラッチC1、第2クラッチC2、第3クラッチC3、および第4クラッチC4が設けられている。回転要素を停止させる摩擦係合装置としてのブレーキBとしては、第1ブレーキB1および第2ブレーキB2が設けられている。クラッチCおよびブレーキBは、油圧アクチュエータにより押圧される湿式多板型のクラッチやブレーキなどにより構成されている。このように構成されたクラッチCおよびブレーキBは、油圧制御回路4によって、それぞれのトルク容量(すなわち係合力)が変化させられて、係合と解放とが切り換えられる。
【0022】
油圧制御手段としての油圧制御回路4は、湿式の多板クラッチおよび湿式の多板ブレーキに作用する油圧を、それぞれ独立して制御するアクチュエータとして設けられている。油圧制御回路4は、油路、圧力制御弁、油路切換弁などを有する公知のものである。
【0023】
制御部としてのECU10には、ハーネスなどを介して各種センサ(いずれも図示せず)が接続されている。ECU10は、各センサから供給された信号、ROM(Read Only Memory)に記憶されたマップおよびプログラムに基づいて、車両Veが所望の状態となるように、エンジン1や自動変速機2などの機器類を制御する。自動変速機2は、入力回転数と出力回転数との間の比、すなわち変速比を、不連続で段階的に変更可能な有段変速機である。ECU10は、車両Veの走行において、例えば1〜8速のギヤ段(変速比)のうちのいずれかのギヤ段が形成されるように、自動変速機2を制御する。1〜8速のギヤ段のうちのいずれかのギヤ段が形成されることによって、自動変速機2は車輪に駆動力を伝達する。なお、ギヤ段は1〜8速であることに限定されない。
【0024】
図2は、図1に示す自動変速機2の一部の断面図である。自動変速機2は、非回転部材であるケーシング14内において、インプットシャフト13、第1遊星歯車機構21、第2遊星歯車機構23、出力ギヤ24、第3遊星歯車機構25、第1クラッチC1〜第4クラッチC4、第1ブレーキB1、および第2ブレーキB2を含んで構成されている。なお、図2においては、これらのうちの、インプットシャフト13、第2遊星歯車機構23、出力ギヤ24、第3遊星歯車機構25、第2クラッチC2、および第2ブレーキB2を図示している。また、それぞれの要素は、所定の軸方向である回転軸RCに対して略対称的に構成されているため、図2においては、回転軸RCから下半分を省略している。
【0025】
インプットシャフト13は、回転軸RCまわりに回転可能に配置されている。インプットシャフト13は、回転軸RC方向でトルクコンバータ12側(図2中、右側)に配置される第1回転軸(図示せず)と、第1回転軸にスプライン嵌合されて一体的に回転させられる第2回転軸13bとから構成されている。第1回転軸は、トルクコンバータ12のタービンランナ12bに動力伝達可能に連結されている。図2において、回転軸RC方向のトルクコンバータ12側から順に、出力ギヤ24、第2遊星歯車機構23、および第3遊星歯車機構25が配置されている。
【0026】
第2遊星歯車機構23の第2サンギヤ23Sは、連結ドラム81の円筒状に形成された小径部81aの端部にスプライン嵌合されている。第3遊星歯車機構25の第3サンギヤ25Sは、略円筒状に形成されており、回転軸RC方向のトルクコンバータ12側の端部が、クラッチドラム41の小径部41aにスプライン嵌合されている。
【0027】
第2遊星歯車機構23および第3遊星歯車機構25の共通のキャリヤ22Cの外周部に、第2クラッチC2の摩擦係合要素52および第2ブレーキB2の摩擦係合要素85が設けられている。なお、図2においては、第2クラッチC2の摩擦係合要素52の内周側に、キャリヤ22Cが記載されていないが、周方向の別の位相においてキャリヤ22Cが配置されている。第2遊星歯車機構23および第3遊星歯車機構25の共通の第2リングギヤ23Rは、円環状に形成されており、その内周部が変速機出力軸となる出力ギヤ24にスプライン嵌合されている。
【0028】
第3サンギヤ25Sの回転軸RC方向においてトルクコンバータ12側(図2中、右側)の外周面にスプライン歯91が形成されている。また、クラッチドラム41の径方向からみて第3サンギヤ25Sのスプライン歯91と重なる部位の内周面にスプライン歯92が形成されている。第3サンギヤ25Sのスプライン歯91とクラッチドラム41のスプライン歯92とが互いにスプライン嵌合されることで、第3サンギヤ25Sとクラッチドラム41とを、ガタ分の相対回転は生じつつも相対回転不能、かつ回転軸RC方向への相対移動可能に連結するスプライン嵌合部93が形成されている。スプライン嵌合部93を構成するスプライン歯91,92の噛合位置に対して回転軸RC方向で隣り合う位置(すなわちスプライン嵌合部93と異なる部位)であって、径方向から見て、第3サンギヤ25Sとクラッチドラム41とが重なる部位の間に、トレランスリング94が、これら第3サンギヤ25Sとクラッチドラム41との両方に接するようにして配置されている。クラッチドラム41の内周面には、環状溝95が形成されており、この環状溝95によって形成される環状空間に、トレランスリング94が配置されている。
【0029】
第2クラッチC2は、例えば湿式の多板クラッチである。多板クラッチは、インプットシャフト13の回転軸方向に沿って配置された複数の環状ディスクおよび複数の環状プレートを有する。環状ディスクおよび環状プレートの両端面にはそれぞれ、摩擦材が取り付けられている。多板クラッチの係合状態においては、環状ディスクおよび環状プレートにインプットシャフト13の回転軸方向に沿って押圧力が加えられ、摩擦力により動力伝達が行われる。また、湿式の多板クラッチにおいては、ケーシング14内に供給または封入されているオイルによって冷却および潤滑される。
【0030】
第2クラッチC2は、クラッチドラム51、摩擦係合要素52、ピストン53、スプリング54、および油圧室55を有して構成されている。摩擦係合要素52は、クラッチドラム51とキャリヤ22Cとの間に設けられている。ピストン53は、摩擦係合要素52を押圧するように構成されている。スプリング54は、ピストン53を回転軸RC方向で摩擦係合要素52から遠ざかる方向に付勢するように設けられている。油圧室55は、ピストン53とクラッチドラム51とによって囲まれて形成される油密な空間であり、油圧制御回路4からオイルが供給される。クラッチドラム51は、有底円筒状に形成された部材であり、回転軸RCまわりに回転可能に配置されている。摩擦係合要素52は、複数枚の摩擦プレートから構成され、クラッチドラム51の内周面とキャリヤ22Cの外周面(図示せず)との間に設けられている。ピストン53は、回転軸RC方向に沿った摩擦係合要素52と隣り合う位置に押圧部が設けられている。ピストン53が回転軸RC方向に沿って摩擦係合要素52側に移動することによって、摩擦係合要素52を押圧し、第2クラッチC2が係合状態または半係合状態になる。第2クラッチC2が係合状態になると、クラッチドラム51とキャリヤ22Cとが連結される。ピストン53は、油圧室55に供給される油圧によって制御される。
【0031】
摩擦係合装置としての第2ブレーキB2は、摩擦クラッチであって湿式の多板ブレーキを用いて構成されている。多板ブレーキは、インプットシャフト13の回転軸方向軸線に沿った方向に配置された複数の環状ディスクおよび複数の環状プレートを有する。多板ブレーキは、環状ディスクおよび環状プレートに軸線に沿った方向の押圧力を加えて、摩擦力によって制動力を発生するブレーキである。多板ブレーキは湿式であり、ケーシング14内に供給または封入されているオイルにより、多板ブレーキが冷却および潤滑される。
【0032】
第2ブレーキB2は、摩擦係合要素85、ピストン86、油圧室87、潤滑切換バルブ100、およびスプリング(図示せず)を有して構成されている。摩擦係合要素85は、キャリヤ22Cの外周面とケーシング14の内壁面との間に設けられている。押圧部材としてのピストン86は、摩擦係合要素85を押圧するように設けられている。スプリング(図示せず)は、ピストン86を回転軸RC方向に沿って摩擦係合要素85から遠ざかる側に、所定のリターンスプリング力によって付勢するように設けられている。油圧室87は、ピストン86とケーシング14とによって囲まれて形成される油密な空間であり、油圧制御回路4からオイルが供給される。
【0033】
摩擦係合要素85は、複数枚の摩擦プレートから構成され、キャリヤ22Cの外周面とケーシング14の内壁面との間に設けられている。ピストン86は、ピストン本体86aと押圧部材としてのエクステンション86bとから構成されている。エクステンション86bの回転軸RC方向に沿った摩擦係合要素85と隣り合う位置に押圧部が設けられている。ピストン86が回転軸RC方向に沿って摩擦係合要素85側に移動することによって、摩擦係合要素85を押圧し、第2ブレーキB2が係合状態または半係合状態になる。第2ブレーキB2が係合状態になると、キャリヤ22Cとケーシング14とが連結され、キャリヤ22Cが回転停止させられる。ピストン86は、油圧室87に供給される油圧によって制御される。
【0034】
この一実施形態による潤滑機構を構成する潤滑切換手段としての潤滑切換バルブ100は、ケーシング14の内壁、かつ第2ブレーキB2において摩擦係合要素85の外周側に設けられている。潤滑切換バルブ100は、油圧制御回路4から供給されるオイルの吐出による供給と遮断とを切換可能に構成されている。潤滑切換バルブ100におけるオイルの吐出側には、吐出ノズル110が連通して設けられている。吐出ノズル110は、例えば略U字状に形成され、油圧制御回路4から潤滑切換バルブ100を通じて供給されたオイルを、第2ブレーキB2の摩擦係合要素85に向けて噴射可能に構成されている。吐出ノズル110の吐出部110aは、例えば摩擦係合要素85を構成する摩擦プレートを介してピストン86に対向する位置、すなわち摩擦係合要素85を構成する摩擦プレートの面に対向する位置に配置されている。また、潤滑切換バルブ100には、油圧制御回路4から油圧室87に供給されるオイルが分岐されて供給され、油圧室87における油圧と略同じ油圧のオイルが供給される。潤滑切換バルブ100における流動と遮断とは、潤滑切換バルブ100に供給される係合油圧によって切り換えられる。
【0035】
ここで、この一実施形態による潤滑切換バルブ100について説明するにあたり、従来の潤滑切換バルブにおける問題点について説明する。図3は、従来の潤滑切換バルブの問題点を説明するための、潤滑切換バルブに供給される油圧に応じた流動および遮断を示すグラフである。
【0036】
図3に示すように、従来技術による潤滑切換バルブ(特許文献1参照)においては、係合油圧が第1設定値以上第2設定値未満の範囲内において流動状態になり、第1設定値未満または第2設定値以上の範囲において遮断状態になるように構成されている。ここで、係合油圧が第2ブレーキB2などの摩擦係合装置におけるスプリングのリターンスプリング力に対応する油圧未満の段階で、潤滑切換バルブを流動状態にすると、摩擦係合要素85の係合を維持するための係合保持油圧が低下したり係合油圧の昇圧速度が低下したりする可能性がある。係合保持油圧を摩擦係合要素85の係合状態を維持可能な所定油圧以上に維持するためには、摩擦係合要素85における係合動作の開始後の早い時点で潤滑切換バルブを流動状態にするのは好ましくない。そこで、係合保持油圧を所定油圧以上にすることを優先して、第1設定値は、リターンスプリング力に対応する油圧以上に設定される。これによって、摩擦係合要素85が、リターンスプリング力に抗して解放状態から半係合状態に移行した後に、潤滑切換バルブが遮断状態から流動状態に切り替わって、摩擦係合要素85にオイルが供給される。
【0037】
一方、摩擦係合要素85が係合状態から半係合状態を経て解放状態に移行する場合、潤滑切換バルブは、係合油圧がリターンスプリング力に対応する油圧よりも高い第1設定値において、遮断状態に切り替わる。そのため、摩擦係合要素85が係合状態から解放状態に移行する際に、係合油圧が降圧してリターンスプリング力に対応する油圧未満になり、半係合状態から解放状態に移行した時点において、すでに摩擦係合要素85へのオイルの供給が遮断された状態になる。摩擦係合要素85の冷却は、発熱を伴う半係合状態から解放状態に移行した時点で行うことが有効であるが、この時点でオイルが摩擦係合要素85に供給されないと冷却効果が低下してしまう。
【0038】
そこで、図4に示すように、係合油圧の降圧時において、潤滑切換バルブ100が流動状態から遮断状態に切り替わる油圧を、リターンスプリング力に対応する油圧未満の低圧側設定値としての第3設定値とする。これによって、係合油圧が降圧してリターンスプリング力未満になっても、潤滑切換バルブ100の流動状態を継続できるので、摩擦係合要素85が、リターンスプリング力によって半係合状態から解放状態に移行した後においても、摩擦係合要素85へのオイルの供給が継続される。なお、摩擦係合要素85が解放状態から係合状態に移行する係合油圧の昇圧時においては、潤滑切換バルブ100が遮断状態から流動状態に切り替わる高圧側設定値としての第1設定値は、従来と同様に、摩擦係合装置におけるリターンスプリング力に対応する係合油圧以上に設定される。すなわち、係合油圧の昇圧時と降圧時とにおいて、潤滑切換バルブ100の流動状態と遮断状態との切り換えにヒステリシスを設ける。
【0039】
また、摩擦係合要素85が係合状態に移行した後は、摩擦係合要素85を冷却する必要性が低くなることから、摩擦係合要素85へのオイルの供給は遮断しておくことが望ましい。そのため、図3および図4に示す第2設定値は、第1設定値より高圧であって、摩擦係合要素85の係合状態を維持可能な最低の係合油圧(最低係合保持油圧)より低圧に設定される。
【0040】
次に、以上の特性を有する本発明の一実施形態による潤滑切換バルブ100の具体例を説明する。図5図6、および図7は、この一実施形態による潤滑切換バルブ100の各種状態を示す断面図である。図5に示すように、潤滑切換バルブ100は、ハウジング101、プラグ102、開口104が設けられたバルブ103、外周バネ105、および内周バネ106を有して構成されている。なお、符号Oは、潤滑切換バルブ100の長手方向に沿った中心軸線を示す。
【0041】
ハウジング101は、中空円筒形状を有し、一方の端部には、長手方向に垂直な断面において内径Rhの開口101aが設けられている。外部からのオイルは、流入口としての開口101aを通じてハウジング101内に流入する。ハウジング101の他方の端部には、プラグ102を収納可能な開口端101bが設けられている。プラグ102は、小径部102aおよび大径部102bを有する凸形状に構成され、具体的には、円筒形状を有するとともに長手方向に沿った断面が略T字状の形状を有する。小径部102aは大径部102bに比して縮径されている。プラグ102において、大径部102b側の端部が、ハウジング101における開口端101b側に位置して、プラグ102の中空部分102cを除いて開口端101bを閉塞している。プラグ102の中空部分102cは吐出ノズル110と連通し、中空部分102c内を流動したオイルを吐出可能に構成されている。
【0042】
バルブ103は、凹形状、具合的には、一方の端部が底部であって他方の端部が開口部である有底円筒形状を有するとともに、小径部103aおよび大径部103bを有して構成されている。小径部103aは大径部103bに比して縮径されている。換言すると、大径部103bは、長手方向に垂直な断面における外径が小径部103aに比して大径に構成されている。複数の開口104は、バルブ103において、縮径された小径部103aの円筒形状の側部に設けられている。複数の開口104によって、バルブ103の内周側にオイルを流入可能に構成されている。バルブ103における小径部103a側は、開口104を除いて閉塞され、底部側において開口101aを閉塞可能に構成されている。開口101aを通じてハウジング101内に流入したオイルは、開口104を通じてバルブ103の内周側に流入する。プラグ102の凸形状は、バルブ103の小径部103aにおける凹形状に対応した形状である。バルブ103の小径部103aは、その内周側がプラグ102の小径部102aの端部において嵌合可能、かつ長手方向に沿って移動可能に構成されている。一方、バルブ103における大径部103b側は解放されている。これにより、開口104を通じてバルブ103の内周側に流入したオイルは、プラグ102の中空部分102c内を通じて、外部の吐出ノズル110に供給される。大径部103bの長手方向に垂直な断面における外径Rvは、開口101aの内径Rhより大径に構成されている(Rh<Rv)。
【0043】
弾性部材を構成する残部のバネとしての外周バネ105は、大径部103bの解放側の端部と、プラグ102の大径部102bにおけるバルブ103側の部分との間に設けられている。外周バネ105は、所定の弾性力を有する弾性部材であって、プラグ102の小径部102aの外周に巻き付けられるように設けられた、いわゆる押しバネからなる。外周バネ105は、大径部103bの端部に弾性力を作用させることによって、バルブ103を押す方向に力を作用させる。外周バネ105がバルブ103を押圧することによって、小径部103aの開口101a側の端面によって開口101aが閉塞される。
【0044】
弾性部材を構成する一部のバネとしての内周バネ106は、バルブ103における小径部103aと大径部103bとの段差部分と、プラグ102の大径部102bにおけるバルブ103側の部分との間に設けられている。内周バネ106は、所定の弾性力を有する弾性部材であって、外周バネ105の内周側において、プラグ102の小径部102aの外周に巻き付けられて設けられた、いわゆる押しバネからなる。内周バネ106は、バルブ103における小径部103aと大径部103bとの段差部分に弾性力を作用させることによって、バルブ103を押す方向に力を作用させる。なお、この一実施形態においては、図5に示すように、開口101aがバルブ103によって閉塞された状態において、内周バネ106は自然長になるように配置される。これにより、潤滑切換バルブ100の組み付け状態において、内周バネ106からバルブ103に弾性力が作用しないように構成されている。
【0045】
外部からの油圧によって開口101aが開放される油圧である第1設定値は、外周バネ105の弾性力によって設定できる。さらに、図7に示すように、バルブ103が油圧によって押し込まれる油圧である第2設定値は、外周バネ105および内周バネ106の弾性力によって設定できる。すなわち、第2設定値は、内周バネ106の弾性力によって設定することができる。これにより、第1設定値と第2設定値とを独立して設定できるため、第1設定値および第2設定値の設定における自由度を向上できる。
【0046】
ハウジング101の内周側面と、プラグ102における小径部102aの外周および大径部102bにおけるバルブ103側の部分と、バルブ103の大径部103bの内周側とに囲まれた部分によって、オイルを貯留可能な油室107が構成されている。プラグ102の縮径部分には、油室107と連通する連通孔102dが設けられている。油室107においては、連通孔102dを通じてオイルが流入したり流出したりする。なお、油室107には、ハウジング101とバルブ103との間、およびプラグ102とバルブ103との間を通じて、オイルが流れ込む。
【0047】
次に、以上のように構成された一実施形態による潤滑切換バルブ100の動作について説明する。図8は、潤滑切換バルブ100の動作に伴うオイルの流量の油圧依存性を示すグラフである。
【0048】
まず、図2に示す油圧制御回路4から摩擦係合要素85に供給される係合油圧のオイルが分岐され、分岐されたオイルが潤滑切換バルブ100に供給される。この係合油圧の大きさが所定の第1設定値未満の場合(状態a)、図5に示すように、外周バネ105の弾性力によってバルブ103が押圧されて、バルブ103の小径部103aによってハウジング101の開口101aが閉塞された状態が維持される。この際、開口101aによって露出しているバルブ103の部分に、係合油圧に対応する押圧力、すなわちバルブ103の端部の露出した部分の径(開口101aの内径Rh)に依存する受圧面積と係合油圧との積に等しい力が作用している。バルブ103に作用する係合油圧に対応する押圧力が外周バネ105の弾性力未満の状態は、係合油圧の大きさが所定の第1設定値未満の状態aとなる。図8に示すように、状態aにおいては、バルブ103によって開口101aが閉塞され、オイルがハウジング101内に流入しないため、潤滑切換バルブ100においてオイルの流動は遮断され、流量は0となる。
【0049】
次に、係合油圧が昇圧して第1設定値以上になった場合(状態b)、図6に示すように、バルブ103に作用する係合油圧に対応する押圧力の大きさは、外周バネ105の弾性力以上になる。この場合、係合油圧に対応する押圧力がバルブ103に作用することによって、ハウジング101内においてバルブ103が押し込まれる。オイルは、流路Aに示すように、開口101aを通じてバルブ103の小径部103aの周辺に流入し、開口104を通じてバルブ103の内周側にさらに流入する。バルブ103の内周側に流入したオイルは、油路である流路Bに示すように、プラグ102の中空部分102cを通じて流動し、外部の吐出ノズル110に供給される。すなわち、開口104を通じてバルブ103内およびプラグ102の中空部分102c内にオイルが流入している間は、潤滑切換バルブ100においてオイルが流動している。バルブ103が押し込まれている場合、係合油圧は小径部103aおよび大径部103bの小径部103a側端部に作用する。これにより、バルブ103には、バルブ103を長手方向に沿った小径部103a側から俯瞰した際の面積、すなわち大径部103bの外径Rvに依存した受圧面積と係合油圧との積に等しい押圧力が作用する。
【0050】
一方、バルブ103の押し込まれる深さに応じて、バルブ103には、外周バネ105による弾性力、または外周バネ105および内周バネ106の合計の弾性力が作用される。そのため、流動状態を維持可能な係合油圧の上限と下限との油圧幅を確保することができるので、係合抽圧が急速に上昇した場合であっても、連通状態を維持しやすい。さらに、油室107の存在によって、バルブ103には、外周バネ105や内周バネ106の弾性力と同じ向きに油室107内の油圧が作用する。これにより、係合油圧の昇圧時においては、減衰効果が生じて、開口104は、係合油圧が第2設定値よりやや高圧になった時点で閉塞状態になる。減衰効果によって、状態bから状態cに切り替わる際の油圧は第2設定値より若干高い所定の油圧となる。なお、油室107内のオイルのうちの油室107が圧縮された分のオイルは、流路Cに示すように、連通孔102dを通じて中空部分102c内に流入する。また、減衰効果の詳細については後述する。以上の動作から、図8の状態bの部分に示すように、係合油圧の増加および開口104とプラグ102の外周との重なり具合に対応して、潤滑切換バルブ100を流動するオイルの流量は、増加した後に低下するように変化する。
【0051】
係合油圧がさらに昇圧して第2設定値を若干超えた場合(状態c)、図7に示すように、バルブ103の開口104がプラグ102の小径部102aの外周面によって閉塞される。これにより、流路Aがプラグ102の小径部102aによって遮断される。この際、バルブ103に作用する係合油圧に対応する押圧力は、外周バネ105および内周バネ106の弾性力以上になっている。プラグ102の小径部102aによって流路Aが遮断されている間、ハウジング101内に流入したオイルはプラグ102の中空部分102c内に流入しない。そのため、図8に示すように、状態cにおいては、プラグ102によって開口104が閉塞され、オイルが中空部分102c内に流入しないため、潤滑切換バルブ100においてオイルの流動は遮断され、流量は0となる。
【0052】
次に、係合油圧が第2設定値より高い圧力から降圧して、第2設定値未満になった場合(状態d)、図6に示すように、バルブ103に作用する係合油圧に対応する押圧力の大きさは、外周バネ105および内周バネ106の弾性力の合計未満になる。この場合、バルブ103に作用する係合油圧に対応する押圧力が低下することによって、外周バネ105および内周バネ106の弾性力によって、バルブ103が押し戻される。これにより、開口104の小径部102aによる遮断が開放されて、流路Aに示すように、開口101aを通じてバルブ103の小径部103aの周辺に流入していたオイルが、さらに開口104を通じてバルブ103の内周側に流入する。バルブ103の内周側に流入したオイルは、流路Bに示すように、中空部分102cを通じて流動して外部の吐出ノズル110に供給され、潤滑切換バルブ100においてオイルが流動する。ここで、開口101aを通じて小径部103aの周辺にオイルが流入している間、係合油圧は、小径部103aおよび大径部103bの小径部103a側端部に、大径部103bの外径Rvに依存した面積と係合油圧との積に等しい押圧力として作用される。なお、上述した減衰効果によって、状態bから状態cに切り替わる際の油圧に対する流量の変化と、状態cから状態dに切り替わる際の油圧に対する流量の変化とは異なる。
【0053】
係合油圧がさらに降圧して、第1設定値未満の第3設定値に達した場合(状態e)、図5に示すように、外周バネ105の弾性力によってバルブ103が押し戻されて、小径部103aによってハウジング101の開口101aが閉塞される。開口101aが閉塞されるまでの間、バルブ103には、大径部103bの外径Rvに依存した面積と係合油圧との積に等しい押圧力が作用している。一方、上述したように、状態aにおいては、バルブ103における開口101aによって露出した部分に、開口101aの内径Rhに依存する受圧面積と係合油圧との積に等しい押圧力が作用する。ここで、バルブ103の大径部103bの外径Rvは、開口101aの内径Rhより大きい(Rh<Rv)。すなわち、係合油圧に対応する押圧力を受ける受圧面積は、開口101aの閉塞状態に比して、開放状態の方が大きくなる。さらに、バルブ103によって開口101aの閉塞状態と開放状態とを切り換えるために必要な押圧力は、外周バネ105の弾性力によって決定されるため、開口101aが閉塞状態に移行する直前の油圧である第3設定値は、開口101aを開放状態に移行させる直前の油圧である第1設定値に比して、低い値となる。図8に示すように、状態eにおいては、バルブ103によって開口101aが閉塞され、オイルがハウジング101内に流入しないため、潤滑切換バルブ100においてオイルの流動は遮断され、流量は0となる。
【0054】
上述したように、この一実施形態による潤滑切換バルブ100は、係合油圧の昇圧時と降圧時とにおいて、オイルの流動状態と遮断状態とを切り換える特性が変更される。具体的に、潤滑切換バルブ100は、係合油圧が昇圧している間においては、第1設定値以上第2設定値未満の場合に、オイルが流動する特性を有する。一方、潤滑切換バルブ100は、係合油圧が第2設定値以上の油圧から降圧している間においては、第3設定値以上第2設定値未満の場合に、オイルが流動する特性を有する。なお、第1設定値は、開口101aの内径Rh、および外周バネ105の弾性力を相互に調整することによって、設定できる。第2設定値は、内周バネ106の弾性力を適宜調整することによって、設定できる。第3設定値は、バルブ103の大径部103bの外径Rv、および外周バネ105の弾性力を相互に調整することによって設定できる。
【0055】
次に、潤滑切換バルブ100における油室107の存在による減衰効果について説明する。図9は、係合油圧の昇圧時における第2設定値に基づく問題点を説明するための係合油圧の経時変化を示すグラフである。図10は、本発明の一実施形態による潤滑切換バルブ100において、係合油圧、および減衰効果の有無において流れるオイルの流量の経時変化を示すグラフである。
【0056】
まず、摩擦係合要素85を係合状態に維持する係合保持油圧は、ECU10によって摩擦係合要素85の伝達トルクに応じて制御される。そのため、係合保持油圧は、伝達トルクに応じて、最低係合保持油圧から摩擦係合要素85の係合状態を維持する最高の係合油圧(最高係合保持油圧)までの間に適宜制御される。なお、上述したように、第2設定値は、伝達トルクが最小の場合において摩擦係合要素85の係合状態を維持可能な最低係合保持油圧より小さく設定される。そのため、図9に示すように、伝達トルクが大きい状況、具体的に例えば、伝達トルクが最大になって係合油圧を最高係合保持油圧まで昇圧させる場合には、係合油圧の昇圧速度が増加するため、変速の途中で摩擦係合要素85が発熱している間に第2設定値に到達してしまう。係合油圧が第2設定値に到達すると、潤滑切換バルブ100は遮断状態になるため、摩擦係合要素85が発熱している間に、摩擦係合要素85に対するオイルの供給が遮断される。また、図9中太矢印で示すように、係合油圧の昇圧が開始されてから第2設定値に到達するまでの時間が、係合油圧を最低係合保持油圧まで昇圧させる場合に比して短縮される。すなわち、摩擦係合要素85を冷却する時間が短縮されることになる。そのため、バルブ103を閉じるタイミングは可能な限り遅延させることが好ましい。
【0057】
そこで、この一実施形態においては、可能な限り発熱終了まで潤滑供給を継続させるために、昇圧時にバルブの動きを減衰させる減衰機構を有する。すなわち、図5図7に示すように、潤滑切換バルブ100において、油室107、および油室107と連通する連通孔102dによって減衰機構が構成されている。そして、係合油圧の昇圧時における第2設定値近傍において、減衰機構において油室107が圧縮されて内部の油圧が上昇する。そのため、供給される係合油圧に基づいてバルブ103に作用される押圧力に抗して、バルブ103には、外周バネ105および内周バネ106の弾性力と油室107内の油圧との合計の復元力が作用する。これにより、バルブ103の動きは、復元力が外周バネ105および内周バネ106の弾性力のみの場合に比して、減衰される。
【0058】
一方、係合油圧の降圧時においてバルブ103が開口101a側に押し戻される際には、油室107内が拡大した空間分だけオイルが流入してくるため、ハウジング101とバルブ103との間を通じたオイルの流入による抵抗力が発生する。しかしながら、オイルの流入による抵抗力は、係合油圧の昇圧時における油室107内の油圧に比して極めて小さいため、バルブ103を押し戻す復元力は、ほぼ外周バネ105および内周バネ106の弾性力のみとみなせる。以上により、油室107の存在によって、係合油圧の降圧時に比して係合油圧の昇圧時においては、第2設定値近傍においてバルブ103の動きを大きく減衰させることができる。また、連通孔102dの開口径を調整することによって、油室107内の圧力を調整し、減衰効果を調整できる。
【0059】
図10に示すように、潤滑切換バルブ100に減衰機構が設けられていない場合には、発熱を伴う変速の間T0〜T2に係合油圧が第2設定値になった時点T1で、潤滑切換バルブ100を流動するオイルの流量が0になる(図10中点線、減衰効果なし)。なお、発熱を伴う変速の間(時点T0〜T2)は、摩擦係合要素85が半係合状態から係合状態に移行する間である。これに対し、潤滑切換バルブ100に減衰機構を設けることにより、バルブ103が押し込まれる速度を低減できるので、油室107が存在せず減衰効果がない場合に比して長い時間、潤滑切換バルブ100内にオイルを流動させることができる(図10中実線、減衰効果あり)。これにより、摩擦係合要素85の解放状態から係合油圧が昇圧するなどの場合において、係合油圧が第2設定値を若干超えた油圧になるまで、潤滑切換バルブ100内にオイルが流動する。そのため、昇圧時における第2設定値の近傍において、潤滑切換バルブ100が遮断状態になるタイミングを遅延させることができる。
【0060】
以上説明した本発明の一実施形態によれば、摩擦係合装置が解放状態から係合状態に移行する係合油圧の昇圧時に、潤滑切換バルブ100が遮断状態から流動状態に切り替わる第1設定値を、摩擦係合装置におけるリターンスプリング力に対応する係合油圧以上に設定する一方、係合油圧の降圧時において、潤滑切換バルブ100が流動状態から遮断状態に切り替わる第3設定値を、リターンスプリング力に対応する油圧未満としている。これにより、係合油圧の昇圧時と降圧時とにおいて、潤滑切換バルブ100の流動状態と遮断状態との切り換えにヒステリシスを設けることができるので、係合油圧の降圧時に、係合油圧がリターンスプリング力未満になっても、潤滑切換バルブの流動状態を継続でき、摩擦係合装置が半係合状態から解放状態に移行した後でも、摩擦係合要素85へのオイルの供給を継続することが可能になる。
【0061】
以上、本発明の一実施形態について具体的に説明したが、本発明は、上述の一実施形態に限定されるものではなく、本発明の技術的思想に基づく各種の変形が可能である。例えば、上述の一実施形態において挙げた数値はあくまでも例に過ぎず、必要に応じてこれと異なる数値を用いてもよい。
【0062】
上述の一実施形態においては、外周バネ105および内周バネ106をそれぞれ、プラグ102に巻き付けてなる押しバネから構成しているが、外周バネ105および内周バネ106をそれぞれ、複数の押しバネを集合させて構成することも可能である。
【0063】
例えば、上述の一実施形態においては、摩擦係合装置として第2ブレーキB2を例に説明したが、摩擦係合装置として第1ブレーキB1や、第1クラッチC1〜第4クラッチC4を採用してもよい。
【符号の説明】
【0064】
4 油圧制御回路
10 ECU
100 潤滑切換バルブ
101 ハウジング
101a 開口
101b 開口端
102 プラグ
102a,103a 小径部
102b,103b 大径部
102c 中空部分
102d 連通孔
103 バルブ
104 開口
105 外周バネ
106 内周バネ
107 油室
110 吐出ノズル
110a 吐出部
【要約】
【課題】摩擦係合要素にオイルを供給する時間を長くすることができ、係合する摩擦係合要素に対する冷却効果を確保できること。
【解決手段】供給される油圧によって係合状態と解放状態とが切り換わる摩擦係合要素と、摩擦係合要素へのオイルの供給と遮断とを切り換える潤滑切換手段と、油圧を外部に供給する油圧制御手段とを備え、潤滑切換手段は、内部にバルブと弾性部材とが設けられたハウジングを有し、バルブは供給される油圧によって移動して、オイルの供給と遮断とを切換可能であり、弾性部材は油圧に抗する弾性力をバルブに作用させ、潤滑切換手段は、油圧の昇圧中において油圧が高圧側設定値になった場合にオイルの供給を開始し、油圧の降圧中において油圧が低圧側設定値となった場合にオイルの供給を遮断する。高圧側設定値はリターンスプリング力に対応した圧力以上、低圧側設定値はリターンスプリング力に対応した圧力未満とする。
【選択図】図4
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10