(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記髄内釘に於ける、前記貫通孔が形成された部分の、前記貫通孔の延在方向に直交する方向の幅は、その上下の部分よりも拡幅されていることを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項に記載の骨折内固定具。
前記軸部は流路を有する筒状をなし、前記先端部の表面には前記流路に連通する注入孔が形成されていることを特徴とする請求項1〜6のいずれか一項に記載の骨折内固定具。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、このような骨折内固定具101には、以下の問題があった。
【0005】
第1の問題は、髄内釘102の太さが大腿骨幹部5の髄腔の大きさによって制限されるため、髄内釘102の貫通孔104に挿通されるラグスクリュー103の直径が制限されていたことである。
【0006】
第2の問題は、ラグスクリュー103が、大腿骨頚部2の中心軸2aに挿入出来なかったためラグスクリュー103を太く出来なかったことである。理由は以下のごとくである。実際の手術では、髄内釘102の貫通孔104は、小転子7程度の高位に位置する。
図5に示すように、横断面でみると、大腿骨頚部の中心軸2aと髄内釘102の中心軸102aとの間には4mm程度のずれ105が生じる。これは同部の解剖学的特異性に由来する。その一方で、
図3に示すように、従来の髄内釘102のラグスクリュー103が挿通される貫通孔104は、髄内釘102の中心軸102aである縦軸と貫通孔104の中心軸104aとが交差するように、設けられている。ところで、
図6に示すように、従来技術では、まず、髄内釘102の貫通孔104を経由して、ガイドワイヤ106を、大腿骨頭4側に挿入し(
図6(A))、次に、ガイドワイヤ106をガイドにキャニュレイティッドドリル(図示せず)で骨孔をあけた後、ガイドワイヤ106を経由して、ラグスクリュー103をその骨孔に挿入する(
図6(B))。このため、ラグスクリュー103の中心軸103aは、大腿骨頚部2の中心軸2aからずれて挿入されることになる。例えば、ずれ105が4mmであれば、大腿骨頚部2の中心軸2aからラグスクリュー103の中心軸103aは4mmずれることになる。ラグスクリュー103の中心軸103aが大腿骨頚部2の中心軸102aに近いほどラグスクリュー103を太くできるが、このようなずれ105があるためその太さが制限される。
【0007】
第3の問題は、荷重バランスが悪かったことである。第2の問題で述べたように大腿骨頚部2の中心軸2aからラグスクリュー103の中心軸103aがずれていると、患者の歩行等によって骨折内固定具101に荷重がかかったとき、骨への負担がアンバランスになる。骨折面同士にかかる負荷に於いて、負荷の強いところと弱いところとが生じる。このことは、手術後早期に患者が歩行練習等をして早期荷重を受けることに対して不利となる。
【0008】
第4の問題は、髄内釘102の強度を確保するために、貫通孔104の内径を小さくしており、そのため、ラグスクリュー103の外径も小さくする必要があったことである。
【0009】
このような問題が存在することによって、ラグスクリュー103が望ましい太さよりも細くなり、大腿骨頭4側と、大腿骨幹部5側との間の固定力、引き抜き抵抗力を大きくできなかった。
【0010】
また、
図7に示すように、歩行時には大腿骨頭4に骨盤8から矢印の方向の荷重Fが働く。このとき、荷重Fはラグスクリュー103の先端側に強くかかる。ラグスクリュー103の先端側が細いことは、荷重Fを受けるのに不利である。このため、手術後早期に患者が歩行練習をすると、骨折部分3が不安定なため、痛みの原因になり、また、
図8に示すようにラグスクリュー103が大腿骨頭4を切り裂いて、骨折部分3がずれてしまうおそれがあった。
【0011】
このような問題を鑑み、本発明は、バランスよく荷重を受けることができ、かつ、少なくとも部分的に内固定部材(ラグスクリュー等)を太くすることにより、大腿骨との結合を強めるとともに、内固定部材が大腿骨頭を切り裂くリスクを低減できる大腿骨頚部骨折の治療用の骨折内固定具を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明の少なくともいくつかの実施形態に係る骨折内固定具(10,30,40,70)は、大腿骨頚部(2)骨折の治療用のものであって、大腿骨幹部(5)の髄腔に配置されるべき、上部に貫通孔(13,33,43,73)を備えた髄内釘(11,31,41,71)と、前記貫通孔
に嵌合して前記髄内釘に支持されるとともに前記大腿骨頚部に挿通されるべき軸部(17,34,45,74)
、及び大腿骨頭(4)に突入するべき先端部(18,35,46,75)を有する棒状の内固定部材(12,32,42,72)とを有し、前記先端部の延在方向の中心軸が、前記髄内釘の中心軸に対して前記大腿骨頚部の中心軸に近づく方向にオフセットしていることを特徴とする。
【0013】
この構成によれば、大腿骨頭に突入する先端部が大腿骨頚部の中心軸に近づくため、バランスよく骨盤からの荷重を支持できる。また、先端部を太くすることにより、大腿骨頭と先端部との間の固定力及び引き抜き抵抗力を高めることができるとともに、大腿骨頭が先端部に切り裂かれるリスクを低減することができる。
【0014】
本発明の少なくともいくつかの実施形態に係る骨折内固定具(10,40,70)は、上記構成に於いて、前記貫通孔(13,43,73)の中心が、前記髄内釘(11,41,71)の中心軸に対してオフセットしており、前記内固定部材(12,42,72)に於いて、前記先端部の中心軸は、前記軸部の中心軸に一致することを特徴とする。
【0015】
この構成によれば、貫通孔の中心軸が髄内釘の中心軸に対してオフセットしていることにより、内固定部材を直線状に延在させて、内固定部材の軸部及び先端部の双方を太くすることができる。そのため、内固定部材の軸部と大腿骨幹部側との間の固定力及び引き抜き抵抗力を高めることができる。また、先端部だけでなく軸部も大腿骨頚部の中心軸に近づくため、骨盤からの荷重を更にバランスよく支持することができる。
【0016】
本発明の少なくともいくつかの実施形態に係る骨折内固定具(30)は、上記構成に於いて前記先端部(35)は、前記軸部(34)と別体であり、前記先端部及び前記軸部は、互いを結合させる結合構造を有し、前記先端部の少なくとも一部の外径は、前記貫通孔(33)の内径よりも大きいことを特徴する。
【0017】
この構成によれば、先端部が軸部に対して別体であることにより、骨折内固定具を患者に取り付けるときに、先端部を髄内釘の貫通孔に通す必要がなくなるため、先端部の外径を貫通孔の内径よりも大きくすることができる。そのため、先端部が太くなり、大腿骨頭と先端部との間の固定力及び引き抜き抵抗力を高めることができるとともに、大腿骨頭が先端部に切り裂かれるリスクを低減することができる。
【0018】
本発明の少なくともいくつかの実施形態に係る骨折内固定具は、上記構成の何れかに於いて、前記髄内釘に於ける、前記貫通孔が形成された部分(14,44)の、前記貫通孔の延在方向に直交する方向の幅は、その上下の部分よりも拡幅されていることを特徴とする。
【0019】
この構成によれば、拡幅部分に貫通孔が形成されるため、貫通孔を大きくして内固定部材を太くでき、又は、貫通孔の中心軸の髄内釘の中心軸に対するオフセット量を大きくすることができる。
【0020】
本発明の少なくともいくつかの実施形態に係る骨折内固定具は、上記構成の何れかに於いて、前記軸部の後端側(51)は先細になっていることを特徴とする。
【0021】
この構成によれば、内固定部材を挿入するために大腿骨に形成した骨孔を早期に縮小させ、骨の強度の回復を早めることができる。
【0022】
本発明の少なくともいくつかの実施形態に係る骨折内固定具は、上記構成の何れかに於いて、前記髄内釘及び前記内固定部材の一方は、前記貫通孔の延在方向に沿った溝(56)を有し、前記髄内釘及び前記内固定部材の他方は、前記溝に係合する突起(61)を有することを特徴とする。
【0023】
この構成によれば、内固定部材の軸線回りの回旋が防止されるため、骨折部分を境にして、大腿骨頭側が大腿骨幹部側に対して回旋することを防止できる。
【0024】
本発明の少なくともいくつかの実施形態に係る骨折内固定具は、上記構成の何れかに於いて、前記軸部は流路(47)を有する筒状をなし、前記先端部の表面には前記流路に連通する注入孔(48)が形成されていることを特徴とする。
【0025】
この構成によれば、骨折内固定具を大腿骨に取り付けた後、流路及び注入孔を介して骨セメント、骨形成薬又は人工骨等の注入物を先端部と大腿骨頭との間に注入することができる。注入物が先端部の周囲に拡がり固化することにより、先端部の大腿骨頭4に対する固定を強固にするとともに、大腿骨頭から先端部への荷重分布を分散さて、荷重に対する先端部の支持力を高めることができ、大腿骨頭が先端部に切り裂かれるリスクを低減することができる。
【0026】
本発明の少なくともいくつかの実施形態に係る骨折内固定具は、上記構成の何れかに於いて、前記髄内釘は、該髄内釘の下部を横断する雌ねじ部(53)を有することを特徴とする。
【0027】
この構成によれば、横ねじを大腿骨幹部及び雌ねじ部に締結することにより、髄内釘の大腿骨幹部に対する固定を強固にすることができる。
【0028】
本発明の少なくともいくつかの実施形態に係る骨折内固定具は、上記構成の何れかに於いて、前記髄内釘の下部は、前記大腿骨幹部の髄腔の延在方向に対応する湾曲部(16)を有することを特徴とする。
【0029】
この構成によれば、髄内釘を、大腿骨幹部の髄腔内で偏らないように配置できる。
【発明の効果】
【0030】
本発明に係る大腿骨頚部骨折の治療用の骨折内固定具によれば、骨盤からの荷重をバランスよく受けることができる。また、少なくとも部分的に内固定部材(ラグスクリュー等)を太くすることにより、大腿骨との結合を強め、また、内固定部材が大腿骨頭を切り裂くリスクを低減できる。
【発明を実施するための形態】
【0032】
以下、図面を参照して、本発明の実施形態について説明する。
【0033】
<第1実施形態>
図9及び
図10は、第1実施形態に係る大腿骨頚部骨折の治療用の骨折内固定具10を示す。骨折内固定具10は、大腿骨幹部5の髄腔に配置されるべき髄内釘11と、大腿骨頭4及び大腿骨幹部5間をつなぐべき棒状の内固定部材12とを有する。
【0034】
髄内釘11は、
図11(A)に示すように、内固定部材12を挿通させる貫通孔13を有し、貫通孔13の中心軸13aは、髄内釘11の中心軸11aに対して幅方向にオフセットしている。貫通孔13は、髄内釘11に於ける拡幅部分14に形成されており、拡幅部分14は、貫通孔の13延在方向に直交する方向の幅が、その上下の部分よりも拡幅されている。
【0035】
図11(B)〜(E)は、髄内釘11の変形例を示す。
図11(B)の変形例では、拡幅部分14を設けずに、貫通孔13の中心軸13aを髄内釘11の中心軸21aに対して幅方向にオフセットさせている。
図11(C)の変形例では、拡幅部分14を設けることに代えて、髄内釘11の上部21の全体を湾曲させることにより、貫通孔13の中心軸13aを、髄内釘11の中心軸21a(大腿骨幹部5の髄腔に沿って直線状に延在する部分の中心の延長線)に対してオフセットさせている。
図11(D)の変形例では、拡幅部分14を設けることに代えて、髄内釘11の上部21を部分的に湾曲させることにより、すなわち、貫通孔13を設ける部分のみ湾曲させ、かつ、その上下の部分は髄内釘11の中心軸21a(大腿骨幹部5の髄腔に沿って直線状に延在する部分の中心の延長線)に沿って延在させることにより、貫通孔13の中心軸13aを、髄内釘11の中心軸21aに対してオフセットさせている。
図11(E)の変形例では、貫通孔13は、側周部の全体に壁を持つのではなく、一方の側に欠損部15が生じるように、貫通孔13の中心軸13aが髄内釘11の中心軸11aに対して幅方向にオフセットしている。
【0036】
なお、縦荷重に対し骨折内固定具10に支持力が出るように内固定部材12や髄内釘11の表面にハイドロキシアパタイトなどのコーティング20を設けてもよい。コーティング20に代えて、表面に凸凹構造やポーラス構造を設けてもよい。また、
図10に示すように、髄内釘11の下端側に大腿骨幹部5の前弯に応じた湾曲部16を設けることにより、髄内釘11は髄腔内で偏らないように配置できる。
【0037】
図9に示すように、内固定部材12は、貫通孔13及び大腿骨頚部2に挿通されるべき軸部17と、大腿骨頭4に突入するべき先端部18とを有する。内固定部材12は、直線状に延在する棒状部材であって、先端部18に雄ねじが形成されたラグスクリューからなる。先端部18が大腿骨頭4の内部に締結されることによって、内固定部材12は大腿骨頭4に固定される。また、軸部17の後端側は、密に又は緩く貫通孔13に嵌合することにより、大腿骨幹部5に固定された髄内釘11に支持される。なお、軸部17の後端側の外周面に雄ねじを設け、貫通孔13の内周面に雌ねじを設けて、両者を締結させてもよい。
【0038】
骨折内固定具10の取り付け手順について説明する。まず、髄内釘11を大腿骨幹部5の髄腔に挿入する。この時、貫通孔13の中心軸13aの髄内釘11の中心軸21aに対するオフセットの方向が、大腿骨頚部2の中心軸2aに向かうように髄内釘11を配置する。次に、ガイドワイヤ106(
図7参照)を、貫通孔を介して大腿骨頭4に挿入し、ガイドワイヤ106をガイドにして、キャニュレイティッドドリルで内固定部材12を挿入する部分に骨孔19を設ける。次に、内固定部材12を先端側から貫通孔13及び骨孔19に突入させる。この時、骨孔19にねじを切るように内固定部材12を軸線回りに回転させることによって、先端部18が大腿骨頭4に締結される。このように、骨折内固定具10を取り付けることにより、骨折部分3が骨接合される。
【0039】
第1実施形態に係る骨折内固定具10に於いては、貫通孔13の中心軸13aが髄内釘11の中心軸11aに対して幅方向にオフセットしていることにより、内固定部材12は、大腿骨頚部2の中心軸2aに近い位置に挿入でき、荷重バランスが良くなる。これにより、従来のものに比べ骨折部分3の痛みを軽減でき、また、早期荷重に有利であるためリハビリを従来よりも早く進められる。
【0040】
また、第1実施形態に係る骨折内固定具10では、貫通孔13の中心軸13aが髄内釘11の中心軸11aに対して幅方向にオフセットしていることにより、内固定部材12を従来よりも太くすることができる。例えば、大腿骨頚部2の髄腔幅(直径)が18mmであり、大腿骨頚部2の中心軸2aの髄内釘11の中心軸11aに対する偏位が4mmであるとき、皮質骨に接触しないように内固定部材12の外周面と大腿骨頚部2の外面との間の厚みを1mm以上確保するには、従来方法では、直径8mmのラグスクリュー(内固定部材)しか挿入出来なかった。しかし、第1実施形態に係る骨折内固定具10では、その偏位を0mmにすることもでき、その場合、理論上直径16mmの内固定部材12を使用することができる。このように、内固定部材12を太くすることにより、内固定部材12と、大腿骨頭4側及び大腿骨幹部5側との間の固定力や引き抜き抵抗力を、従来よりも格段に大きくでき、また、大腿骨頭4から先端部18への荷重分布を分散させることができ、大腿骨頭4が切り裂かれるリスクを低減することができる。
【0041】
<第2実施形態>
図12(A)は、第2実施形態に係る骨折内固定具30を示す。骨折内固定具30は、第1実施形態と同様に、大腿骨幹部5の髄腔に配置されるべき髄内釘31と、大腿骨頭4及び大腿骨幹部5間をつなぐべき棒状の内固定部材32とを有するが、特に、内固定部材32の構造が第1実施形態と異なる。第1実施形態と同様の構成については説明を省略する。
【0042】
髄内釘31は、従来のものと同様に構成されている。すなわち、貫通孔33の中心軸が、髄内釘31の中心軸に対してオフセットせずに交差している。
【0043】
内固定部材32は、直線状に延在する棒状の部材であり、貫通孔33及び大腿骨頚部2(
図1参照)に挿通されるべき軸部34と、大腿骨頭4(
図1参照)に突入するべき先端部35とを有するが、両者は別体として構成される。軸部34と先端部35とは、先端部35の後端側に設けられた非貫通孔36に軸部34の先端側が嵌合する挿入式、又はこの非貫通孔36と軸部34の先端側とに設けられたねじ(図示せず)を互いに締結するねじ込み式等により、互いに接合される。挿入式の場合、先端部35が軸部34に対して回転しないように、軸部34と先端部35との間には溝及び突起等の係合構造(図示せず)が設けられる。
【0044】
骨折内固定具30の取り付け手順について説明する。まず、先端部35を大腿骨頭4(
図1参照)に突入させ、次に、髄内釘31を配置し、その後に、軸部34を先端側から貫通孔33に挿入して、軸部34と先端部35とを接合する。
【0045】
先端部35を軸部34に対して別体とすることにより、骨折内固定具30の取り付け時に、貫通孔33に先端部35を通す必要がなくなる。そのため、先端部35の最大外径を、貫通孔33の内径よりも大きくすることができる。先端部35を太くすることにより、先端部35と大腿骨頭4(
図1参照)との間の固定力や引き抜き抵抗力大きくなり、また、大腿骨頭4(
図1参照)が切り裂かれるリスクを低減することができる。
【0046】
また、髄内釘31の径を大きくしなくても先端部35を太くできるため、髄内釘31を細くすることにより、髄内釘31の大腿骨幹部5(
図1参照)への挿入時に於ける大転子6(
図1参照)への侵襲を最小限にとどめることができる。
【0047】
なお、髄内釘31は、第1実施形態の髄内釘11と同様に、貫通孔33の中心軸が髄内釘31の中心軸に対してオフセットするように構成してもよい。また、
図12(B)に示すように、貫通孔33の中心軸を髄内釘31の中心軸に対してオフセットさせるのではなく、軸部34を湾曲させることにより、先端部35の中心軸を大腿骨頚部2(
図1参照)の中心軸に近づけてもよい。また、
図12(C)に示すように、軸部34を先端部35に接合するための非貫通孔36の中心軸を、先端部35の中心軸に対してずらすことにより、先端部35の中心軸を大腿骨頚部2(
図1参照)の中心軸に近づけてもよい。これらの構成により、荷重バランスが良くなり、骨折部分3の痛みを軽減でき、また、早期荷重に有利であるためリハビリを従来よりも早く進められる。
【0048】
<第3実施形態>
図13は、第3実施形態に係る骨折内固定具40を示す。骨折内固定具40は、第1及び第2実施形態と同様に、大腿骨幹部5の髄腔に配置されるべき髄内釘41と、大腿骨頭4及び大腿骨幹部5間をつなぐべき、直線状に延在する棒状の内固定部材42とを有する。第3実施形態に係る骨折内固定具40は、内固定部材42の全体が太く、また、内固定部材42が大腿骨頭4に結合する部位に、骨セメント、骨形成薬又は人工骨等を挿入可能となるように構成される。
【0049】
図14に示すように、髄内釘41は、内固定部材42を挿通させる貫通孔43を有し、貫通孔43は、髄内釘41に於ける拡幅部分44に形成されている。拡幅部分44は、貫通孔の43延在方向に直交する方向の幅が、その上下の部分よりも拡幅されている。図示した髄内釘41は、貫通孔43の中心軸が髄内釘41の中心軸に対して交差しているが、第1実施形態と同様に両中心軸が互いにオフセットしていてもよく、その場合、骨折内固定具40は、第1実施形態と同様の作用効果を発揮する。貫通孔43の内径は、髄内釘41に於ける拡幅部分44以外の部分の幅と同程度以上であることが好ましい。拡幅部分44を設けることにより、貫通孔43の内径を大きくして、内固定部材42を太くすることができる。内固定部材42が太いことにより、内固定部材42と、大腿骨頭4側及び大腿骨幹部5側との間の固定力や引き抜き抵抗力が大きくなるとともに、大腿骨頭4から先端部46への荷重の分布範囲を拡げることができる。
【0050】
図15に示すように、内固定部材42は、直線状に延在する棒状部材であって、貫通孔43及び大腿骨頚部2に挿通されるべき軸部45と、大腿骨頭4に突入するべき先端部46とを有する。先端部46の最大外径は軸部45の中間部分の外径に等しく、先端部46及び軸部45は貫通孔43を通過可能である。先端部46が大腿骨頭4に固定される構成や、軸部45が髄内釘41に支持される構成は第1実施形態と同様である。
【0051】
軸部45は、内部に流路47を有する中空構造であり、概ね円筒形状をなす。また、先端部46の表面には、流路47に連通する注入孔48が設けられている。第1実施形態と同様に骨折内固定具40を取り付けた後、骨セメント、骨形成薬又は人工骨等の注入物49を、流動可能な状態で軸部45の後端の開口50から、流路47及び注入孔48を介して、先端部46及び大腿骨頭4間に注入できる。注入物49は、先端部46の周囲に拡がり固化する。これにより、先端部46の大腿骨頭4に対する固定を強化するとともに、大腿骨頭4から先端部46への荷重の分布範囲を拡げて、荷重に対する先端部46の支持力を高めることができ、大腿骨頭4が先端部46切り裂かれるリスクを低減することができる。
【0052】
また、軸部45の後端側には後端に向かうにつれて細くなったテーパー部51が設けられている。内固定部材42を太くしたため、内固定部材が挿通される骨孔52の径が大きくなって、骨の強度が低下する。しかし、テーパー部51を設けたことにより、骨孔52が早期に縮小し、骨の強度の回復を早めることができる。
【0053】
髄内釘41はその下部を横断する雌ねじ部53を有し、横ねじ54が大腿骨幹部5及び髄内釘41の下部を横断するように雌ねじ部53に締結されることにより、髄内釘41が大腿骨幹部5に固定される。雌ねじ部53及び横ねじ54を複数設けてもよい。
【0054】
図16は、先端部46の変形例を示す。
図16(A)に示す変形例では、先端部46に雄ねじを形成せず、先端部46の表面を滑らかな面にしている。また、
図16(B)に示す他の変形例では、先端部46に雄ねじを形成せず、かつ、内固定部材42の回旋防止のために、表面に複数の突起55を設けている。
図16(A)又は(B)に示す変形例は、第1及び第2実施形態に適用してもよい。
【0055】
図17(A)及び(B)に示す第3実施形態の変形例は、内固定部材42が、髄内釘41に対して回旋することを防止するための構造が追加されたものである。内固定部材42の軸部45は、貫通孔43の延在方向、すなわち軸部の軸線方向に沿った溝56を有する。また、髄内釘41は、貫通孔43が形成された本体部57と、本体部57に固定されて、溝56に係合する突起部58とを有する。本体部57には、上端から下方に向かってねじ孔59が設けられており、ねじ孔59は貫通孔43に連通している。突起部58は、ねじ孔59に締結されるねじ部60と、ねじ部60から下方に突出して溝56に係合する突起61とを有する。
【0056】
骨折内固定具40に於いて、突起部58以外の部品は、第1実施形態と同様に大腿骨1(
図1参照)に取り付けられる。この時、溝56が上方を向くように内固定部材42は取り付けられる。その後、突起部58をねじ孔59に締結して、突起61を溝56に係合させることにより、内固定部材42の回旋を防止できる。
【0057】
この回旋防止構造は、第1及び第2実施形態にも適用できる。第1実施形態のように、内固定部材42の中心軸が髄内釘41の中心軸に対してオフセットしているときは、
図17(C)に示すように、突起部58に於いて、ねじ部60が形成された上部58aと突起61が形成されてねじが切られていない下部58bとを互いに別体として構成し、突起61を下部58bの中心軸からオフセットするように配置する。
【0058】
<第4実施形態>
図18は、第4実施形態に係る骨折内固定具70を示す。骨折内固定具70は、大腿骨幹部5(
図1参照)の髄腔に配置されるべき髄内釘71と、大腿骨頭4(
図1参照)及び大腿骨幹部5(
図1参照)間をつなぐべく直線状に延在する棒状の内固定部材72とを有する。髄内釘71は、貫通孔73を有し、内固定部材72は、軸部74の後端側に於いて貫通孔73に嵌合することにより髄内釘71に支持され、先端部75が大腿骨頭4(
図1参照)に突入している。第4実施形態は、内固定部材72の回旋を防止するための構造を有し、特に断らない限り、第1〜第3実施形態のいずれの構造にも適用できる。
【0059】
図18(A)に示すように、内固定部材72は、後端側に開口76が形成された中空部77を有する。先端部75の表面には、中空部77に連通する孔78が設けられており、第1実施形態と同様に骨折内固定具70を大腿骨1(
図1参照)に取り付けた後、開口76及び中空部77を介して、突起79を孔78から突出させる。突起79が大腿骨頭4(
図1参照)に係合することにより、内固定部材72の回旋が防止される。
【0060】
図18(B)及び(C)は、他の回旋防止手段を示す。
図18(B)及び(C)に示す骨折内固定具70は、内固定部材72と略平行に配置される補助スクリュー80を更に有する。補助スクリュー80の後端側が髄内釘71に設けられた第2貫通孔81に密に又は緩く嵌合することにより、補助スクリュー80は髄内釘71に支持される。補助スクリューの先端部82には、雄ねじが形成されており、大腿骨頭4(
図1参照)に締結される。補助スクリュー80は、
図18(B)に示すように内固定部材72の下方に設けられても、
図18(C)に示すように内固定部材72の上方に設けられてもよく、また、1つだけ設けられても、複数設けられてもよい。骨折部分3に対して大腿骨頭4側と、大腿骨幹部5側とが、内固定部材72及び補助スクリューによって互いに固定されるため、大腿骨頭4側の大腿骨幹部5側に対する回旋が防止される。
【0061】
以上で具体的実施形態の説明を終えるが、本発明は上記実施形態に限定されることなく幅広く変形実施することができる。例えば、第3実施形態の注入物を注入するための流路及び注入孔や、雌ねじ部及び横ねじを第1及び第2実施形態に適用してもよい。第3実施形態における溝と突起とによる回旋防止構造は、内固定部材に突起を設け、髄内釘の本体部に締結する部材に溝を設けてもよい。また、上記実施形態に示した構成要素は必ずしも全てが必須なものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない限りにおいて適宜取捨選択することが可能である。例えば、第3実施形態において、注入物を注入するための流路及び注入孔や、雌ねじ部及び横ねじを省略してもよい。
バランスよく荷重を受けることができ、かつ、少なくとも部分的に内固定部材を太くすることにより、大腿骨との結合を強めるとともに、内固定部材が大腿骨頭を切り裂くリスクを低減できる大腿骨頚部骨折の治療用の骨折内固定具を提供する。大腿骨頚部(2)の中心軸は、大腿骨幹部(5)の髄腔に配置される髄内釘(11)の中心軸に対してずれている。そこで、大腿骨頚部(2)を挿通するラグスクリュー等の内固定部材(12)を、大腿骨頚部(2)の中心軸に近づけるため、内固定部材(12)の後端側を嵌合する貫通孔(13)の中心軸を髄内釘(11)の中心軸に対してオフセットさせた。