(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6204714
(24)【登録日】2017年9月8日
(45)【発行日】2017年9月27日
(54)【発明の名称】濃度計及び濃度測定方法
(51)【国際特許分類】
G01N 1/00 20060101AFI20170914BHJP
G01N 1/22 20060101ALI20170914BHJP
【FI】
G01N1/00 C
G01N1/22 N
【請求項の数】4
【全頁数】9
(21)【出願番号】特願2013-130718(P2013-130718)
(22)【出願日】2013年6月21日
(65)【公開番号】特開2014-211424(P2014-211424A)
(43)【公開日】2014年11月13日
【審査請求日】2016年5月13日
(31)【優先権主張番号】特願2013-77010(P2013-77010)
(32)【優先日】2013年4月2日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000161932
【氏名又は名称】京都電子工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100083172
【弁理士】
【氏名又は名称】福井 豊明
(72)【発明者】
【氏名】松岡 武志
(72)【発明者】
【氏名】松木 崇
【審査官】
高田 亜希
(56)【参考文献】
【文献】
特開平01−006854(JP,A)
【文献】
特開平06−003354(JP,A)
【文献】
特開平06−258269(JP,A)
【文献】
特開平03−293550(JP,A)
【文献】
特開平05−045263(JP,A)
【文献】
W.Eugster,et al,Performance of a low-cost methane sensor for ambient concentration measurements in preliminary studies,atmospheric Measurement Techniques,2012年,Tech,5,P1925-1934
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 1/00
G01N 1/22
G01N 27/12
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
測定対象物質を含む試料液を充填する容器と、
前記容器上端の開口部を封止する蓋体と、
前記蓋体から前記容器内に突出した恒温ブロックと、
前記蓋体と恒温ブロックを貫通して設けられ、前記試料液にキャリアガスをバブリングするための通気孔と、
前記蓋体を貫通して前記容器内部と外部を連通した測定孔に設けられ、前記バブリングされた前記キャリアガス中に含まれる測定対象物質のガス濃度を検出するガスセンサと、
前記容器に充填された試料液の温度を測定する温度センサと、
前記試料液中の測定対象物質の特定の濃度における温度とガス濃度との関係から、前記温度センサにより得られる試料液の温度での前記ガスセンサより得られるガス濃度を目標温度におけるガス濃度に変換する温度補正手段と、
前記目標温度におけるガス濃度より、測定対象物質の試料液中の濃度を算出する演算手段と、
を備えたことを特徴とする濃度計。
【請求項2】
更に、前記試料液の温度とキャリアガスの温度を前記目標温度付近に保持するために前記ブロック温度を前記目標温度付近に制御する温度制御手段を備えた請求項1に記載の濃度計。
【請求項3】
請求項1に記載の温度計を用いて、
容器に充填された測定対象物質を含む試料液の温度を測定するとともに、当該試料液にバブリングされた前記キャリアガスが含まれる測定対象物質のガス濃度を検出するステップと、
前記試料液中の測定対象物質の特定の濃度における温度とガス濃度との関係から、前記試料液の温度での検出ガス濃度を目標温度におけるガス濃度に変換するステップと、
前記目標温度におけるガス濃度より、測定対象物質の試料液中の濃度を算出するステップと、
を備えたことを特徴とする濃度測定方法。
【請求項4】
測定対象物質を含む試料液の温度と、当該試料液にバブリングあるいは接触されたキャリアガス中に含まれる測定対象物質のガス濃度を検出するステップと、
前記試料液中の測定対象物質の特定の濃度での温度とガス濃度との関係から、前記試料液の温度での測定対象物質のキャリアガス中のガス濃度を目標温度におけるガス濃度に変換するステップと、
前記目標温度におけるガス濃度から試料液中の測定対象物質の濃度を求めるステップと、
を備えたことを特徴とする濃度測定方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は濃度計とそれを用いた濃度測定方法に関し、特に、温度補正ができる濃度計と濃度測定方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
揮発性の測定対象物質(例えばアルコール)の試料液中の濃度は、特定の気体を所定温度(測定温度)下でバブリングしたときの当該気体中の測定対象物質のガス濃度、前記測定温度から計算で求めることができる。
【0003】
そこで、従来は厳密に管理された一定温度下でキャリアガス中に所定のガス濃度を得て、当該ガス濃度に基づいて濃度を算出するようにしている。
【0004】
すなわち、
図6に示すように恒温槽(図示しない)よりの水をガス管110を包む恒温容器100内に循環させ、当該恒温容器100内に配管120を介して試料液を流し、当該試料液の温度を前記水の温度と一致させてから、前記ガス管110に供給するようにしている。
【0005】
上記構成において、試料液を前記ガス管110に、図面上、上側から管壁に沿って流下させながら、ガス管110の下側からキャリアガスを流すようにしているので、キャリアガスに、試料液に含まれるアルコールが、現在の温度(測定温度)での平衡状態で含まれることになる、このアルコールのガス濃度をガスセンサ130の電圧として検出する。このように検出された電圧に基づいて試料液中のアルコールの濃度が計算されることになる。
【0006】
ここで試料液の温度としては、例えばガスセンサが最も感度がよい温度が選択され、このように温度が固定された状態でのキャリアガスのアルコールのガス濃度と試料液中の濃度との関係を予め求めておくと、ガス濃度を求めると試料液中のアルコールの濃度が求められることになる。
【0007】
尚、
図6において試料液の他の要素を測定する必要上、配管120は分岐されている。
【0008】
また、特開平05-045263号公報にバブリングのよるアルコール濃度測定装置が開示されているが、以下で問題となる試料の現在の温度(測定温度)と恒温槽で設定されている温度との関係については一切触れられていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開平05−045263号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
上記構成によるアルコールの濃度の測定は、恒温槽によって厳格に所定の温度に管理された水および、当該水と同じ温度に保持されたキャリアガスを必要とし、装置が大掛かりになり、コストも大きくならざるを得ない。また、試料液の温度が、恒温槽からの水で所定温度に維持されていること、およびキャリアガスの温度もそれと同じに保たれていることを前提に測定作業をするので、万一なんらかの原因で恒温槽の水温と試料液の温度、あるいはキャリアガスの温度が異なった場合、測定誤差が発生することになる。
【0011】
一方で、キャリアガス中のアルコールのガス濃度は僅かな温度の違いで大きく異なり、結果として測定中の温度管理が厳格に維持されていない場合は、上記の測定誤差は極めて大きいものとなる。
【0012】
尚、測定温度とガス濃度および濃度の3次元の関係を式あるいはテーブルとして記憶手段に記憶しておき、測定温度から得られるガス濃度から直接濃度を導き出すする構成とすれば、恒温槽での温度管理は不要になり、簡単に目的とする濃度が得られるという理論も机上論としては成立するが、データが膨大になり、コストデメリットが大きく実用に適さないことになる。
【0013】
本発明は、上記従来の事情に鑑みて提案されたものであって、試料液の温度およびキャリアガスの温度を厳格に管理しなくても精度よく対象物質のガス濃度を測定することができ、結果として対象物質の試料液中の濃度を測定することができるガス濃度測定装置とガス濃度測定方法を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記目的を達成するために、本発明は以下の手段を採用している。
【0015】
まず、測定対象物質を含む試料液の温度と、当該試料液にバブリング
あるいは接触されたキャリアガス中に含まれる測定対象物質のガス濃度を検出する。
前記試料液中の測定対象物質の特定の濃度での温度とガス濃度との関係から、前記試料液の温度での測定対象物質のキャリアガス中のガス濃度を目標温度におけるガス濃度に変換する。次いで、前記目標温度におけるガス濃度から試料液中の測定対象物質の濃度を求めるようにする。
【0016】
上記の方法は以下の装置によって実現される。
【0017】
測定対象物質を含む試料液を充填する容器と、該容器上端の開口部を封止する蓋体とを備え、恒温ブロックを前記蓋体から前記容器内に突出させておく。通気孔が前記蓋体と恒温ブロックを貫通して設けられ、前記試料液にキャリアガスを前記通気孔を解してバブリングされるようにする。測定孔を前記蓋体を貫通して容器内部と外部を連通し、前記バブリングされたキャリアガスを外部に排出する。ガスセンサが、前記蓋体を貫通して前記容器内部と外部を連通した
測定孔に設けられ、前記バブリングされた
前記キャリアガス中に含まれる測定対象物質のガス濃度を検出する。また、温度センサによって、前記容器に充填された試料液の温度が測定される。温度補正手段では、
前記試料液中の測定対象物質の特定の濃度における温度とガス濃度との関係から、
前記温度センサにより得られる試料液の温度での
前記ガスセンサより得られるガス濃度を目標温度におけるガス濃度に変換(補正)し、更に、演算手段で、前記目標温度におけるガス濃度より、測定対象物質の試料液中の濃度を算出するようになっている。
【0018】
ここで、前記恒温ブロックには温度制御手段を設け、試料液は前記恒温ブロックによって恒温され、また恒温ブロック貫通された前記通気孔を介してキャリアガスが試料液にバブリングされるので、試料液とキャリアガスは目標温度に近い同じ温度に保持されることになる。
【発明の効果】
【0019】
前記温度センサで得られた試料液の温度でのガス濃度を、目標温度におけるガス濃度に補正し、当該目標温度でのガス濃度から対応濃度を求めるようになっている。目標温度でのガス濃度から対応濃度への変換は、既に知られている関係式あるいはテーブルを使用するか、専用の式を作成しそれ用いる。したがって、試料液の温度が目標温度と異なっても、常に目標温度に補正されたガス濃度に基づいた濃度を算出することになるので、比較的精度よく、しかも迅速な計測が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図2】
図2は特定の濃度における温度とガス濃度の関係を示すグラフ。
【
図3】
図3は本発明の濃度計を用いてアルコール濃度を測定した例。
【
図4】
図4は本発明の濃度計を用いてアルコール濃度を測定した例。
【
図5】
図5は本発明の濃度計を用いてアルコール濃度を測定した例。
【発明を実施するための形態】
【0021】
図1は本発明の実施の形態を示す図である。試料液中の濃度測定の対象物質がアルコールである場合を例に説明する
試料液(例えばビール)をいれる容器10の上端の開口部が蓋体11によって封止されるようになっている。前記蓋体11の下面から前記容器10内に金属等熱伝導率の高い物質の恒温ブロック12を突出させ、前記蓋体11と当該恒温ブロック12とにキャリアガスを導入するための通気孔13が貫通され、容器内部と外部が連通される。
【0022】
また、容器10に導入されたキャリアガスは前記蓋体11を介して容器10の内部と外部を貫通する測定孔15から外部に排出されるようになっており、当該測定孔15の途中にガスセンサ16が設けられ、試料液に含まれるアルコールのガス濃度が電圧として検出される。
【0023】
容器10に測定対象物質(アルコール)を含む試料液が入れられたときに、その温度を検出するための温度センサ21が備えられる。更に、前記恒温ブロック12にも温度センサ22が備えられ、当該恒温ブロック12の温度は、恒温ブロックに埋め込まれた熱素子(加熱あるいは冷却手段、例えばヒータ)23を介して、目標温度(後述)あるいはそれに近い温度に温度制御手段20で制御される。これとともに、恒温ブロック12に漬かっている試料液の温度と前記通気孔13から導入されたキャリアガスも目標温度(後述)あるいはそれに近い温度に保たれる構成になっている。
【0024】
更に、上記ガスセンサ16の出力を用いて試料のアルコール濃度を算出する演算装置30が備えられ、前記試料液温度センサ21と、ガスセンサ16の出力を受けて作動するが、その動作については、以下の測定手順とともに説明する。
【0025】
まず、測定対象のビール等の試料液を容器10に充填し、通気孔13からキャリアガスである空気を所定の速度で注入する。これによってキャリアガスは試料液中にバブリングされて測定孔15から外部に放出されることになる。キャリアガスは試料液中を通過するときに試料液の濃度と温度に応じたアルコールガスの濃度に平衡し、当該ガス濃度は測定孔15に設けたガスセンサ16で測定され、電圧として検出される。
【0026】
この時点で、恒温ブロック12の温度が温度計22で検出され、上記したように、当該温度が目標温度あるいは目標温度に近い値になるように熱素子23が温度制御手段20で制御される。これによって、試料液の温度と、前記通気孔13を通過するキャリアガスの温度も目標温度あるいは目標温度に近い値に制御されることになる。
【0027】
上記の構成で、現在の温度(測定温度)におけるアルコール蒸気の平衡したキャリアガスが得られ、測定孔15を通過するので、ガスセンサ16からは、当該ガス濃度Ptsに対応する電圧が得られることになる。この値は、演算装置30の温度補正手段31に入力される。また、前記試料液温度を測定する温度センサ21の出力(測定温度Ts)も温度補正手段31に入力される。
【0028】
温度補正手段31に内蔵する記憶手段には、
図2に示すような、特定濃度のアルコール液の温度とガス濃度の関係が、式あるいはテーブルとして記憶されている。ここで、特定濃度として、求めるべきアルコール濃度に近い濃度(例えばビールであれば5vol%)が選択される。
【0029】
演算装置30の温度補正手段31は上記のように入力された測定温度Tsにおけるガス濃度Ptsと、目標温度Toにおけるガス濃度Ptoの比Pts/Pto=Rsを前記式あるいはテーブルから求める。ここで、目標温度Toとしてガスセンサ16の感度が最もよい温度(例えば35℃付近)が選択される。
【0030】
この比は「求めるべきアルコール濃度における測定温度Tsでのガス濃度と目標温度Toでのガス濃度の比」とほとんど変わらないと考えてよいので、前記測定温度Tsでのガスセンサ16の出力Vsは目標温度Toでの出力Voに下記式で変換される。
【0031】
(数1)
Vo=Vs/Rs=Vs/(Pts/Pto)・・・・(1)
上記(1)式の演算によって、試料液が目標温度にならなくても、目標温度での試料液のアルコールガス濃度に対応する電圧Voを得ることができることになる。
【0032】
上記のように求められた電圧Voは濃度演算手段32に入力される。濃度演算手段32に内蔵する記憶手段いは目標温度Toでのガス濃度と試料液中のアルコール濃度との関係を式あるいはテーブルとして記憶しており、前記電圧Voが入力されると対応する濃度が得られるようになっている。
【0033】
図3〜
図5は本発明の濃度測定装置を用いて6vol%のアルコール濃度の試料液を測定した結果である。図中(a)が試料液温度のカーブ(右目盛り)、(b)が温度補正をしないで得られた濃度、(c) が本発明により得られた濃度である。
【0034】
上記
図3に示すように、試料液温度を大きく変化させた場合であって温度補正をしない場合(曲線(b))は、温度変化に伴って得られる濃度も大きく変化しているが、本発明での測定結果(曲線(c))は、温度の変化の影響を反映しないで、しかも試料液温度と目標温度(35℃)の差が比較的大きい段階でも本来の濃度に近い値を示している。
【0035】
上記
図3での現象は、
図4、に示すように、試料液温度をゆっくり変化させながら目標温度に近づけた場合、あるいは
図5に示すように、試料液温度を強制的に目標温度に近づけた場合でも同様である。すなわち、本発明(曲線(c))では測定温度が目標温度との差があっても、本来の濃度が得られているが、温度補正をしない場合(曲線(b))は、目標温度との差が濃度の誤差として顕著に現れることになる。
【0036】
以上、
図1に示す濃度計についてのみ説明したが、本発明は、
図6に示す従来のアルコール濃度計についても適用できる。すなわち、
図1のガスセンサ16の出力が、
図6に示すガスセンサ130の出力と等価であり、当該ガスセンサ130の出力を
図1の演算装置30の温度補正手段31に入力することによって、恒温槽の温度が目標温度に厳密に一致していなくても、温度補正ができ、濃度演算手段32で精度の高い濃度が得られることになる。
【0037】
上記はアルコールを例に説明したが、対象物質としては揮発性物質であれば種類を問わず適用することができることはもちろんである。
【産業上の利用可能性】
【0038】
本発明は上記のように測定温度が正確に目標温度になっていなくても、精度よく揮発性物質の濃度を測定することができ、しかも構成が極めて簡単であるので産業上の利用可能性が極めて高い。
【符号の説明】
【0039】
10 容器
11 蓋体
12 恒温ブロック
13 通気孔
15 測定孔
16 ガスセンサ
20 温度制御手段
21 温度センサ
22 温度計
30 演算装置
31 温度補正手段
32 濃度演算手段