【実施例】
【0087】
以下、実施例及び比較例を示し、本発明を具体的に説明するが、本発明は下記の実施例に限定されるものではない。
なお、特段の記載がない限り、前記一般式(1)で表される化合物(プローブ化合物)としてアセトンを用いた場合の、多孔性金属錯体へのアセトンの吸着及びIR吸収スペクトルの測定、並びにクラッキング反応は、以下のようにして行った。
【0088】
[アセトン吸着]
アセトンの吸着は、
図2に概略を示した装置を用いて行った。
乾燥させた少量の多孔性金属錯体(C)を入れたサンプル瓶(2)を、フタをせずにシュレンク管(1)に入れて、切り替えバルブ(3)の第一の口(3a)から当該シュレンク管内の気体を排出し、100℃2時間、真空乾燥した。当該シュレンク管内を真空状態としたまま、液状のアセトンをシリンジ(4)から注入した。この際、サンプル瓶内にアセトンが入らないようにした。注入されたアセトンは揮発し、シュレンク管内がアセトン蒸気で満たされた。この状態で1時間維持し、サンプル瓶内の多孔性金属錯体にアセトンを吸着させた。その後、切り替えバルブ(3)の第二の口(3b)から窒素ガスを導入し、当該シュレンク管内を大気圧にした。
【0089】
[IR吸収スペクトルの測定]
アセトンを吸着させた多孔性金属錯体を測定試料とし、フーリエ変換赤外分光分析装置Nicolet6700(サーモフィッシャーサイエンティフィック社製)を用いて、ATR法にてアセトンのカルボニル基の吸収を測定した。
アセトンのみで測定したところ、カルボニル基の吸収スペクトルの頂点の波数は1715cm
−1であった。
【0090】
[クラッキング反応]
クラッキング反応は、試料導入部に熱分解装置(5)を設置したガスクロマトグラフ質量分析装置(6)を用いて行った。具体的には、熱分解装置マルチショット・パイロライザーEGA/PY−3030D(フロンティア・ラボ社製)に、ガスクロマトグラフ質量分析計GCMS−QP2010(島津製作所社製)を連結した装置を用いた。
図3に、用いた装置の概略を示した。
【0091】
熱分解装置(5)の内部には、予め、多孔性金属錯体(C)を充填しておき、クラッキングの原料となる炭化水素(S)を導入し、所定の温度に加熱して熱分解を行った。熱分解によって得られた炭化水素混合物を、液体窒素を用いて冷却し、ガスクロマトグラフ(GC)によって各炭化水素を分離し、質量分析装置(MS)によって分析した。詳細な分析条件を下記に示す。
【0092】
<分析条件>
カラム:Rxi−1ms(RESTEK社製)
カラムサイズ:内径0.32mm、長さ60m、膜厚1.0μm
充填剤:Crossbond 100%ジメチルポリシロキサン
温度:300℃
キャリアガス:ヘリウム
質量分析法:電子衝撃法
【0093】
[調製例1]
MIL−101(Cr)−SO
3Hを、Akiyamaらの方法(Advanced Materials,2011年,第23巻,p.3294〜3297)を参考にして調製した。
得られた多孔性金属錯体に対して、X線回折(XRD)による結晶相の確認と、FT−IR測定による配位結合形成の確認を行った。なお、XRDは、2次元検出器搭載X線回折装置D8 DISCOVER with GADDS(ブルカーエイエックスエス社製)を用いて行った。また、FT−IR測定は、フーリエ変換赤外分光分析装置Nicolet6700(サーモフィッシャーサイエンティフィック社製)を用いて行った。
【0094】
[実施例1]
調製例1で得られたMIL−101(Cr)−SO
3Hを、アセトン吸着−赤外分光法に供したところ、アセトンのカルボニル基由来の吸収スペクトルの頂点の波数は1705cm
−1であった。つまり、MIL−101(Cr)−SO
3Hと結合したアセトンのカルボニル基由来の吸収スペクトルの頂点は、アセトンのみの1715cm
−1より、10cm
−1短波数側にシフトしていた。
【0095】
調製例1で得られたMIL−101(Cr)−SO
3Hをクラッキング触媒として用いて、1−ヘキサデセン(以下、C16Eと呼称することがある。)のクラッキングを行った。具体的には、1.0μLのC16Eを、
図3に示す熱分解GC/MS装置に導入し、1.0mgの前記クラッキング触媒存在下300℃にて熱分解を行った。得られた炭化水素混合物の炭素数15以下の炭化水素の組成を表2に示す。
【0096】
【表2】
【0097】
表2に示すように、クラッキング生成物中のオレフィン選択率は94.3%であり、パラフィン選択率は5.7%であった。また、低級オレフィン選択率(C2〜C7)は73.6%であり、低級パラフィン選択率(C1〜C7)は5.7%であった。
【0098】
[調製例2]
MIL−101(Cr)を、Khanらの方法(Chemical Engineering Journal,2011年,第166巻,p.1152〜1157)を参考にして調製した。得られた多孔性金属錯体に対して、調製例1と同様にして、XRDによる結晶相の確認と、FT−IR測定による配位結合形成の確認を行った。
【0099】
[実施例2]
(参考例)
調製例2で得られたMIL−101(Cr)を、アセトン吸着−赤外分光法に供したところ、アセトンのカルボニル基由来の吸収スペクトルの頂点の波数は1710cm
−1であった。つまり、MIL−101(Cr)と結合したアセトンのカルボニル基由来の吸収スペクトルの頂点は、アセトンのみの1715cm
−1より、5cm
−1短波数側にシフトしていた。
【0100】
調製例2で得られたMIL−101(Cr)を用いた以外は、実施例1と同様の手順でC16Eのクラッキングを行った。得られた炭化水素混合物の炭素数15以下の炭化水素の組成を表3に示す。
【0101】
【表3】
【0102】
表3に示すように、クラッキング生成物中のオレフィン選択率は53.0%であり、パラフィン選択率は47.0%であった。また、低級オレフィン選択率(C2〜C7)は5.4%であり、低級パラフィン選択率(C1〜C7)は4.3%であった。
【0103】
[調製例3]
H
3PW
12O
40/MIL−101(Cr)を、Khanらの方法(Chemical Engineering Journal,2011年,第166巻,p.1152〜1157)及びJuan−Alcanizらの方法(Journal of Catalysis,2010年,第269巻,p.229〜241)を参考にして調製した。まず、CrCl
3・6水和物(和光純薬工業社製、2.96g)、テレフタル酸(ナカライテスク社製、1.85g)、H
3PW
12O
40(ナカライテスク社製、1.53g)、及び蒸留水(50mL)をテフロン(登録商標)製反応容器に加え、210℃で6時間、オートクレーブ処理を行った。反応終了後、得られた多孔性金属錯体をろ過法により回収し、DMFを用いて超音波洗浄(60℃)を2回行い、その後160℃の下、真空乾燥を行った。得られた多孔性金属錯体に対して、調製例1と同様にして、XRDによる結晶相の確認と、FT−IR測定による配位結合形成の確認を行った。
【0104】
[実施例3]
(参考例)
調製例3で得られたH
3PW
12O
40/MIL−101(Cr)を、アセトン吸着−赤外分光法に供したところ、アセトンのカルボニル基由来の吸収スペクトルの頂点の波数は1709cm
−1であった。つまり、H
3PW
12O
40/MIL−101(Cr)と結合したアセトンのカルボニル基由来の吸収スペクトルの頂点は、アセトンのみの1715cm
−1より、6cm
−1短波数側にシフトしていた。
【0105】
調製例3で得られたH
3PW
12O
40/MIL−101(Cr)を用いた以外は、実施例1と同様の手順でC16Eのクラッキングを行った。得られた炭化水素混合物の炭素数15以下の炭化水素の組成を表4に示す。
【0106】
【表4】
【0107】
表4に示すように、クラッキング生成物中のオレフィン選択率は74.0%であり、パラフィン選択率は26.0%であった。また、低級オレフィン選択率(C2〜C7)は37.2%であり、低級パラフィン選択率(C1〜C7)は22.2%であった。
【0108】
[調製例4]
MOF−74(Ni)を、Gloverらの方法(Chemical Engineering Science,2011年,第66巻,p.163〜170)を参考にして調製した。得られた多孔性金属錯体に対して、調製例1と同様にして、XRDによる結晶相の確認と、FT−IR測定による配位結合形成の確認を行った。
【0109】
[実施例4]
調製例4で得られたMOF−74(Ni)を、アセトン吸着−赤外分光法に供したところ、アセトンのカルボニル基由来の吸収スペクトルの頂点の波数は1695cm
−1であった。つまり、MOF−74(Ni)と結合したアセトンのカルボニル基由来の吸収スペクトルの頂点は、アセトンのみの1715cm
−1より、20cm
−1短波数側にシフトしていた。
【0110】
調製例4で得られたMOF−74(Ni)を用いた以外は、実施例1と同様の手順でC16Eのクラッキングを行った。得られた炭化水素混合物の炭素数15以下の炭化水素の組成を表5に示す。
【0111】
【表5】
【0112】
表5に示すように、クラッキング生成物中のオレフィン選択率は99.6%であり、パラフィン選択率は0.4%であった。また、低級オレフィン選択率(C2〜C7)は44.2%であり、低級パラフィン選択率(C1〜C7)は0.1%であった。
【0113】
[調製例5]
MOF−76(Yb)を、Jiangらの方法(Inorganic chemistry,2010年,第49巻,p.10001〜10006)を参考にして調製した。得られた多孔性金属錯体に対して、調製例1と同様にして、XRDによる結晶相の確認と、FT−IR測定による配位結合形成の確認を行った。
【0114】
[実施例5]
調製例5で得られたMOF−76(Yb)を、アセトン吸着−赤外分光法に供したところ、アセトンのカルボニル基由来の吸収スペクトルの頂点の波数は1704cm
−1であった。つまり、MOF−76(Yb)と結合したアセトンのカルボニル基由来の吸収スペクトルの頂点は、アセトンのみの1715cm
−1より、11cm
−1短波数側にシフトしていた。
【0115】
調製例5で得られたMOF−76(Yb)を用いた以外は、実施例1と同様の手順でC16Eのクラッキングを行った。得られた炭化水素混合物の炭素数15以下の炭化水素の組成を表6に示す。
【0116】
【表6】
【0117】
表6に示すように、クラッキング生成物中のオレフィン選択率は97.2%であり、パラフィン選択率は2.8%であった。また、低級オレフィン選択率(C2〜C7)は64.5%であり、低級パラフィン選択率(C1〜C7)は0.0%であった。
【0118】
[調製例6]
MOF−76(Tb)を、Jiangらの方法(Inorganic chemistry,2010年,第49巻,p.10001〜10006)を参考にして調製した。得られた多孔性金属錯体に対して、調製例1と同様にして、XRDによる結晶相の確認と、FT−IR測定による配位結合形成の確認を行った。
【0119】
[実施例6]
調製例6で得られたMOF−76(Tb)を、アセトン吸着−赤外分光法に供したところ、アセトンのカルボニル基由来の吸収スペクトルの頂点の波数は1705cm
−1であった。つまり、MOF−76(Tb)と結合したアセトンのカルボニル基由来の吸収スペクトルの頂点は、アセトンのみの1715cm
−1より、10cm
−1短波数側にシフトしていた。
【0120】
調製例6で得られたMOF−76(Tb)を用いた以外は、実施例1と同様の手順でC16Eのクラッキングを行った。得られた炭化水素混合物の炭素数15以下の炭化水素の組成を表7に示す。
【0121】
【表7】
【0122】
表7に示すように、クラッキング生成物中のオレフィン選択率は85.6%であり、パラフィン選択率は14.4%であった。また、低級オレフィン選択率(C2〜C7)は59.2%であり、低級パラフィン選択率(C1〜C7)は12.6%であった。
【0123】
実施例1〜6の結果を表8にまとめた。この結果から、多孔性金属錯体を用いることにより、C16Eをクラッキングできることが明らかとなった。特に、酸強度の高い多孔性金属錯体を用いることによって、高い選択性でオレフィン、中でもプロピレンを得られることが確認できた。
【0124】
【表8】
【0125】
[実施例7]
調製例1で得られたMIL−101(Cr)−SO
3Hを多孔性金属錯体として用い、1−ヘキサデカン(以下、C16Aと呼称することがある。)のクラッキングを行った。具体的には、1.0μLのC16Aを、
図3に示す熱分解GC/MS装置に導入し、1.0mgの前記クラッキング触媒存在下300℃にて熱分解を行った。得られた炭化水素混合物の炭素数15以下の炭化水素の組成を表9に示す。
【0126】
【表9】
【0127】
表9に示すように、クラッキング生成物中のオレフィン選択率は87.0%であり、パラフィン選択率は13.0%であった。また、低級オレフィン選択率(C2〜C7)は85.9%であり、低級パラフィン選択率(C1〜C7)は13.0%であった。
【0128】
[比較例1]
ゼオライトZSM−5(100)(水澤化学工業社製)を、アセトン吸着−赤外分光法に供したところ、アセトンのカルボニル基由来の吸収スペクトルの頂点の波数は1708cm
−1であった。つまり、ゼオライトZSM−5(100)と結合したアセトンのカルボニル基由来の吸収スペクトルの頂点は、アセトンのみの1715cm
−1より、7cm
−1短波数側にシフトしていた。
【0129】
触媒としてゼオライトZSM−5(100)(水澤化学工業社製)を用いた以外は、実施例7と同様の手順でC16Aのクラッキングを行った。得られた炭化水素混合物の炭素数15以下の炭化水素の組成を表10に示す。
【0130】
【表10】
【0131】
表10に示すように、クラッキング生成物中のオレフィン選択率は32.4%であり、パラフィン選択率は67.6%であった。また、低級オレフィン選択率(C2〜C7)は32.4%であり、低級パラフィン選択率(C1〜C7)は53.4%であった。
【0132】
実施例7及び比較例1の結果を表11にまとめた。この結果から、C16Aのような高級パラフィン類を原料とした場合であっても、多孔性金属錯体を用いてクラッキングすることにより、高い選択性でオレフィンを得られることが確認できた。
【0133】
【表11】
【0134】
[実施例8]
(参考例)
調製例2で得られたMIL−101(Cr)をクラッキング触媒として用いて、1−ヘキセン(以下、C6Eと呼称することがある。)のクラッキングを行った。クラッキング反応は、
図4に示すGC(ガスクロマトグラフ)装置(7)を用いて行った。GC装置(7)に導入されたクラッキングの原料となる炭化水素(S)は、クラッキング触媒を詰めたガラスインサート(9a)を通過することによりクラッキングされる。クラッキング後の反応物は、キャリアガス(ヘリウムガス)と共に触媒が充填されていないガラスインサート(9b)に導入され、その後、キャピラリカラム(10)又はパックドカラム(11)により分離され、水素炎イオン化型検出器(12a、12b)により検出される。GC装置(7)においては、装置に導入される炭化水素(S)の量や注入速度等は、ストップ弁(13a、13b)、圧力計(P)、及び圧力制御弁(14)によって調節され、炭化水素(S)やキャリアガス等の流路(サンプリングのタイミング)は六方バルブ(8)によって調節される。
【0135】
<キャピラリカラム(10)>
カラム:ZB−1(Phenomenex社製)、
カラムサイズ:内径0.32mm、長さ60m、膜厚3μm、
液相:100%ジメチルポリシロキサン、
温度:45〜230℃、
キャリアガス:ヘリウム、
検出器:FID(水素炎イオン化型検出器)。
【0136】
<パックドカラム(11)>
充填剤:Porapak−Q+KOH/Alumina、
温度:45〜230℃、
キャリアガス:ヘリウム、
検出器:FID(水素炎イオン化型検出器)。
【0137】
具体的には、0.5μLのC6Eを、
図4に示すGC装置(7)に導入し、35mgの前記クラッキング触媒存在下400℃にて2分間反応させた。得られた炭化水素混合物の炭素数5以下の炭化水素の組成を表12に示す。クラッキング生成物中のオレフィン選択率は61.6%であり、パラフィン選択率は38.4%であった。また、ブテン選択率は53.5%であった。
【0138】
【表12】
【0139】
[実施例9]
調製例5で得られたMOF−76(Yb)を用いた以外は、実施例8と同様の手順でC6Eのクラッキングを行った。得られた炭化水素混合物の炭素数5以下の炭化水素の組成を表13に示す。クラッキング生成物中のオレフィン選択率は78.3%であり、パラフィン選択率は21.7%であった。また、ブテン選択率は40.5%であった。
【0140】
【表13】
【0141】
[比較例2]
比較例1で用いたものと同じゼオライトZSM−5(100)を用いた以外は、実施例8と同様の手順でC6Eのクラッキングを行った。得られた炭化水素混合物の炭素数5以下の炭化水素の組成を表14に示す。クラッキング生成物中のオレフィン選択率は15.2%であり、パラフィン選択率は84.8%であった。また、ブテン選択率は5.2%であった。
【0142】
【表14】
【0143】
実施例8、実施例9、及び比較例2の結果を表15にまとめた。この結果から、C6Eを、400℃でMIL−101(Cr)又はMOF−76(Yb)でクラッキングすることにより、高い選択性でブテンを得られることが確認できた。特にMIL−101(Cr)を用いた場合、より高い選択性でブテンを得られることが確認できた。
【0144】
【表15】
【0145】
[実施例10]
<多孔性金属錯体 Ni−Al−BTBの合成>
三座配位子である1,3,5−トリス(4−カルボキシフェニル)ベンゼンのDMF溶液(100mM(mmol/L))10mLを、硝酸アルミニウム(III)と硝酸ニッケル(II)の9:1(モル比)混合物のDMF溶液(硝酸アルミニウム(III):90mM、硝酸ニッケル(II):10mM)10mLと共にマイクロ波反応装置用のガラス容器に入れ、専用のフタを用いて密封した。マイクロ波を照射して200℃で1時間加熱攪拌した後、室温まで冷却させ、反応液中に生じた白色沈殿を濾取することにより、多孔性金属錯体(Ni−Al−BTB)を得た。
得られたNi−Al−BTBについてXRDの測定を行った。
【0146】
2θ(°): 6.9,8.1,11.0,13.2,17.0,19.4,20.7,26.2,27.9。
【0147】
得られたNi−Al−BTBについて、差動型示差熱天秤Thermo plus EVOII TG8120(リガク社製)を用いてTG−DTA分析(窒素中5K/分で昇温)を行った。この結果、100〜250℃で、吸着したDMFが主成分と思われる重量減少が観察された。
【0148】
[実施例11]
<多孔性金属錯体 Mg−Al−BTBの合成>
三座配位子である1,3,5−トリス(4−カルボキシフェニル)ベンゼンのDMF溶液(100mM)10mLを、硝酸アルミニウム(III)と硝酸マグネシウム(II)の9:1(モル比)混合物のDMF溶液(硝酸アルミニウム(III):90mM、硝酸マグネシウム(II):10mM)10mLと共にマイクロ波反応装置用のガラス容器に入れ、専用のフタを用いて密封した。マイクロ波を照射して200℃で1時間加熱攪拌した後、室温まで冷却させ、反応液中に生じた白色沈殿を濾取することにより、多孔性金属錯体(Mg−Al−BTB)を得た。
得られたMg−Al−BTBについてXRDの測定を行った。
【0149】
2θ(°): 6.9,8.1,11.0,13.2,17.0,19.4,20.7,26.2,27.9。
【0150】
得られたMg−Al−BTBについて、差動型示差熱天秤Thermo plus EVOII TG8120(リガク社製)を用いてTG−DTA分析(窒素中5K/分で昇温)を行った。この結果、100〜250℃で、吸着したDMFが主成分と思われる重量減少が観察された。
【0151】
[実施例12]
実施例10で得られたNi−Al−BTBを、アセトン吸着−赤外分光法に供したところ、アセトンのカルボニル基由来の吸収スペクトルの頂点の波数は1704cm
−1であった。つまり、Ni−Al−BTBと結合したアセトンのカルボニル基由来の吸収スペクトルの頂点は、アセトンのみの1715cm
−1より、11cm
−1短波数側にシフトしていた。
実施例10で得られたNi−Al−BTBをクラッキング触媒として用いて、実施例1の場合と同様に、C16Eのクラッキングを行うと、クラッキングが進行する。Ni−Al−BTBによるクラッキングは、低級オレフィンの選択性が高い。
【0152】
[実施例13]
実施例11で得られたMg−Al−BTBを、アセトン吸着−赤外分光法に供したところ、アセトンのカルボニル基由来の吸収スペクトルの頂点の波数は1701cm
−1であった。つまり、Mg−Al−BTBと結合したアセトンのカルボニル基由来の吸収スペクトルの頂点は、アセトンのみの1715cm
−1より、14cm
−1短波数側にシフトしていた。
実施例11で得られたMg−Al−BTBをクラッキング触媒として用いて、実施例1の場合と同様に、C16Eのクラッキングを行うと、クラッキングが進行する。Mg−Al−BTBによるクラッキングは、低級オレフィンの選択性が高い。
【0153】
[合成例1]
(芳香族化合物(a)の合成)
芳香族化合物(a)を以下の反応式に従って合成した。
【0154】
【化8】
【0155】
反応容器内の気体を窒素ガス雰囲気下とした後、反応容器内において1,3−ジブロモベンゼン1.77g(7.50mmol)、4−カルボキシフェニルボロン酸5.61g(33.8mmol)、炭酸カリウム7.00g(50.7mmol)及びテトラキストリフェニルホスフィンパラジウム436mg(0.38mmol)と、300mLのDMF/水(DMF:水=3:1(体積比))の混合物を調製し、その混合物を100℃で12時間攪拌した。当該混合物を室温まで冷却した後、不溶物を濾過によって除去し、次いでクロロホルムを用いて分液操作を行った。得られた水層部分に、塩酸をpHが1になるまで加え、白色沈殿を得た。この白色沈殿を濾取し、水で洗浄し、DMSO/エタノールより再結晶を行うことによって、芳香族化合物(a)を得た(1.48g、4.66mmol、収率:62%)。
【0156】
1H−NMR(DMSO−d
6, 500MHz,δ/ppm):7.61(t,
3J
HH=7.5Hz,1H),7.76(dd,
3J
HH=7.5Hz,
4J
HH=1.5Hz,2H),7.90(d,
3J
HH=8.5Hz,4H),8.02(t,
4J
HH=1.5Hz,1H),8.04(d,
3J
HH=8.5Hz,4H),−COOH not observed.
13C−NMR(DMSO−d
6,100MHz,δ/ppm):125.78(CH),127.09(CH),127.29(CH),129.96(C),130.05(CH),130.15(CH),140.04(C),144.23(C),167.37(C).
HRMS−ESI(m/z):[M−H]
−calcd for C
20H
13O
4,317.0819;found 317.0828.
【0157】
[実施例14]
<多孔性金属錯体 Al−BTB−BBB(5−H)の合成>
三座配位子である1,3,5−トリス(4−カルボキシフェニル)ベンゼン395mg(0.90mmol)と二座配位子である芳香族化合物(a)32mg(0.10mmol)を、硝酸アルミニウム(III)のDMF溶液(50mM)20mLと共にマイクロ波反応装置用のガラス容器に入れ、専用のフタを用いて密封した。マイクロ波を照射して220℃で15分間加熱攪拌した後、室温まで冷却させ、反応液中に生じた白色沈殿を濾取することにより、多孔性金属錯体(Al−BTB−BBB(5−H))を得た。
得られたAl−BTB−BBB(5−H)についてXRDの測定を行った。測定結果を
図5に示す。
【0158】
2θ(°):6.2,10.8,13.9,16.4。
【0159】
得られたAl−BTB−BBB(5−H)について、差動型示差熱天秤Thermo plus EVOII TG8120(リガク社製)を用いてTG−DTA分析(窒素中5K/分で昇温)を行った。この結果、100〜250℃で、吸着したDMFが主成分と思われる重量減少が観察された(
図6)。
【0160】
[合成例2]
(芳香族化合物(b)の合成)
芳香族化合物(b)を以下の反応式に従って合成した。
【0161】
【化9】
【0162】
反応容器内の気体を窒素ガス雰囲気下とした後、反応容器内において1,3−ジブロモ−5−クロロベンゼン2.03g(7.52mmol)、4−カルボキシフェニルボロン酸5.60g(33.8mmol)、炭酸カリウム7.00g(50.7mmol)及びテトラキストリフェニルホスフィンパラジウム435mg(0.38mmol)と、300mLのDMF/水(DMF:水=3:1(体積比))の混合物を調製し、その混合物を100℃で12時間攪拌した。当該混合物を室温まで冷却した後、不溶物を濾過によって除去し、次いでクロロホルムを用いて分液操作を行った。得られた水層部分に、塩酸をpHが1になるまで加え、白色沈殿を得た。この白色沈殿を濾取し、水で洗浄し、DMSO/エタノール/水より再沈殿を行うことによって、芳香族化合物(b)を得た(1.16g、3.29mmol、収率:44%)。
【0163】
1H−NMR(DMSO−d
6, 500MHz,δ/ppm):7.84(d,
4J
HH=1.5Hz,2H),7.96(d,
3J
HH=8.5Hz,4H),8.01(t,
4J
HH=1.5Hz,1H),8.04(d,
3J
HH=8.5Hz,4H),13.1(br s,2H).
13C−NMR(DMSO−d
6,150MHz,δ/ppm):124.47(CH),126.45(CH),127.40(CH),129.97(CH),130.42(C),134.69(C),141.84(C),142.54(C),167.08(C).
HRMS−ESI(m/z):[M−H]
−calcd for C
20H
12ClO
4,351.0430;found 351.0441.
【0164】
[実施例15]
<多孔性金属錯体 Al−BTB−BBB(5−Cl)の合成>
三座配位子である1,3,5−トリス(4−カルボキシフェニル)ベンゼン395mg(0.90mmol)と二座配位子である芳香族化合物(b)35mg(0.10mmol)を、硝酸アルミニウム(III)のDMF溶液(50mM)20mLと共にマイクロ波反応装置用のガラス容器に入れ、専用のフタを用いて密封した。マイクロ波を照射して220℃で15分間加熱攪拌した後、室温まで冷却させ、反応液中に生じた白色沈殿を濾取することにより、多孔性金属錯体(Al−BTB−BBB(5−Cl))を得た。
得られたAl−BTB−BBB(5−Cl)についてXRDの測定を行った。測定結果を
図7に示す。
【0165】
2θ(°):6.3,10.8,12.4,13.9,16.5。
【0166】
得られたAl−BTB−BBB(5−Cl)について、差動型示差熱天秤Thermo plus EVOII TG8120(リガク社製)を用いてTG−DTA分析(窒素中5K/分で昇温)を行った。この結果、100〜250℃で、吸着したDMFが主成分と思われる重量減少が観察された(
図8)。
【0167】
[調製例7]
<多孔性金属錯体 Al−BTBの合成>
三座配位子である1,3,5−トリス(4−カルボキシフェニル)ベンゼンのDMF溶液(100mM)10mLを、硝酸アルミニウム(III)のDMF溶液(100mM)10mLと共にマイクロ波反応装置用のガラス容器に入れ、専用のフタを用いて密封した。マイクロ波を照射して220℃で15分間加熱攪拌した後、室温まで冷却させ、反応液中に生じた白色沈殿を濾取することにより、多孔性金属錯体(Al−BTB)を得た。
得られたAl−BTBについてXRDの測定を行った。測定結果を
図9に示す。
【0168】
2θ(°):6.3,10.8,12.5,13.9,16.5。
【0169】
得られたAl−BTBについて、差動型示差熱天秤Thermo plus EVOII TG8120(リガク社製)を用いてTG−DTA分析(窒素中5K/分で昇温)を行った。この結果、100〜250℃で、吸着したDMFが主成分と思われる重量減少が観察された。
【0170】
[実施例16]
実施例14で得られたAl−BTB−BBB(5−H)をクラッキング触媒として用いて、C6Eのクラッキングを行った。具体的には、0.2gの前記クラッキング触媒を導入した流通系の反応装置において、400℃にて窒素3mL/minで希釈したC6E0.225mL/minを流通させ、一定時間後にサンプリングしGC分析を行った。得られた炭化水素混合物の収率を表16に示す。
【0171】
【表16】
【0172】
炭素数5以下の炭化水素が合成されていたことから、Al−BTB−BBB(5−H)は、クラッキング能を有することが確認された。また、C6E以外の炭素数6の炭化水素も得られたことから、Al−BTB−BBB(5−H)は、異性化能をも備えていることがわかった。
【0173】
[実施例17]
実施例15で得られたAl−BTB−BBB(5−Cl)をクラッキング触媒として用いた以外は、実施例16と同様の手順でC6Eのクラッキングを行った。得られた炭化水素混合物の収率を表17に示す。
【0174】
【表17】
【0175】
炭素数5以下の炭化水素が合成されていたことから、Al−BTB−BBB(5−Cl)は、クラッキング能を有することが確認された。また、C6E以外の炭素数6の炭化水素も得られたことから、Al−BTB−BBB(5−Cl)は、異性化能をも備えていることがわかった。
【0176】
[合成例3]
(芳香族化合物(c)の合成)
芳香族化合物(c)を以下の反応式に従って合成した。
【0177】
【化10】
【0178】
反応容器内の気体を窒素ガス雰囲気下とした後、反応容器内においてトリブロモベンゼン315mg(1.00mmol)、5−カルボキシチオフェン−2−ボロン酸1.72g(10.0mmol)、炭酸カリウム2.00g(14.5mmol)及びテトラキストリフェニルホスフィンパラジウム115mg(0.10mmol)と、40mLのDMF/水(DMF:水=3:1(体積比))の混合物を調製し、その混合物を100℃で8時間攪拌した。当該混合物を室温まで冷却した後、不溶物を濾過によって除去し、次いでクロロホルムを用いて分液操作を行った。得られた水層部分に、塩酸をpHが1になるまで加え、白色沈殿を得た。この白色沈殿を濾取し、水、エタノール及びクロロホルムで洗浄し、乾燥させることによって、芳香族化合物(c)を得た。
【0179】
1H−NMR(DMSO−d6,300MHz,δ/ppm): 7.79(d,3H,ArH), 7.88(d,3H,ArH), 8.03(s,3H,ArH), 13.26(s,3H,CO
2H)
【0180】
[調製例8]
(多孔性金属錯体(La−BTTc)の合成)
芳香族化合物(c)137mg(300μmol)を、硝酸ランタン(III)六水和物130mg(300μmol)及びDMF7.5mLと共にポリテトラフルオロエチレン製のるつぼに入れ、当該るつぼをステンレスジャケットで密封した。ステンレスジャケットを、120℃に温度調整したオイルバスで48時間加熱攪拌した後、室温まで冷却させ、反応液中に生じた白色沈殿を濾取することにより、多孔性金属錯体(La−BTTc)を得た。
得られたLa−BTTcについてXRDの測定を行った。
【0181】
2θ(°): 6.9,8.1,11.0,13.2,17.0,19.4,20.7,26.2,27.9。
【0182】
得られたLa−BTTcについて、差動型示差熱天秤Thermo plus EVOII TG8120(リガク社製)を用いてTG−DTA分析(窒素中5K/分で昇温)を行った。この結果、100〜250℃で、吸着したDMFが主成分と思われる重量減少が観察された(
図10)。
【0183】
[実施例18]
調製例8で得られたLa−BTTcをエタノールに1日間浸漬したのち、濾過によってエタノールを除去して、少量のエタノールで洗浄した。これを3回繰り返した後、回収したLa−BTTcを室温で真空乾燥した。
【0184】
真空乾燥したLa−BTTcについて、調製例8と同様にしてTG−DTA分析を行った。この結果、調製例7で得られたLa−BTTcとは異なり、100〜250℃では重量減少が観察されなかった(
図11)。エタノールによる洗浄処理によって、La−BTTcに吸着していたDMFが除去されたためと推察された。
【0185】
真空乾燥したLa−BTTcを、アセトン吸着−赤外分光法に供したところ、アセトンのカルボニル基由来の吸収スペクトルの頂点の波数は1686cm
−1であった。つまり、真空乾燥したLa−BTTcと結合したアセトンのカルボニル基由来の吸収スペクトルの頂点は、アセトンのみの1715cm
−1より、29cm
−1短波数側にシフトしていた。
【0186】
調製例8で得られたLa−BTTc(エタノール洗浄前のLa−BTTc)を、アセトン吸着−赤外分光法に供したところ、アセトンのカルボニル基由来の吸収スペクトルの頂点の波数は1686cm
−1よりも高波数側にあった。つまり、多孔性金属錯体をエタノール洗浄することにより、酸強度が向上したことがわかった。
【0187】
[調製例9]
(多孔性金属錯体(La−BTTc)の合成)
芳香族化合物(c)457mg(1.0mmol)を、硝酸ランタン(III)六水和物433mg(1.0mmol)及びDMF50mLと共にポリテトラフルオロエチレン製のるつぼに入れ、当該るつぼをステンレスジャケットで密封した。ステンレスジャケットを、120℃に温度調整したオイルバスで48時間加熱攪拌した後、室温まで冷却させ、反応液中に生じた白色沈殿を濾取することにより、多孔性金属錯体(La−BTTc)を得た。
【0188】
[実施例19]
調製例9で得られたLa−BTTcを、シアノシリル化反応における酸触媒として用いた。
具体的には、調製例9で得られたLa−BTTc0.05mmolを、200℃で2時間真空乾燥した。室温まで冷却した後、窒素雰囲気下でベンズアルデヒド(PhCHO)0.5mmolとトリメチルシリルシアニド[(CH
3)
3SiCN]1.0mmolを加えて反応混合物を得た。当該反応混合物を室温で1時間攪拌した後、濾過した。液体(濾液)の一部を採取し、重クロロホルムに溶解して
1H−NMRを測定することにより、反応の進行度合いを評価した。収率は定量的(>99%)であった。
【0189】
【化11】
【0190】
[実施例20]
調製例9で得られたLa−BTTcを、シアノシリル化反応における酸触媒として用いた。
具体的には、調製例9で得られたLa−BTTc0.04mmolを、200℃で2時間真空乾燥した。室温まで冷却した後、窒素雰囲気下でベンズアルデヒド(PhCHO)4.0mmolとトリメチルシリルシアニド[(CH
3)
3SiCN]4.0mmolを加えて反応混合物を得た。当該反応混合物を室温で0.5時間攪拌した後、濾過した。液体(濾液)の一部を採取し、重クロロホルムに溶解して
1H−NMRを測定することにより、反応の進行度合いを評価した。収率は68%であった。