特許第6204737号(P6204737)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6204737炭化水素の製造方法及びクラッキング触媒
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6204737
(24)【登録日】2017年9月8日
(45)【発行日】2017年9月27日
(54)【発明の名称】炭化水素の製造方法及びクラッキング触媒
(51)【国際特許分類】
   C10G 11/02 20060101AFI20170914BHJP
   B01J 31/22 20060101ALI20170914BHJP
【FI】
   C10G11/02
   B01J31/22 Z
【請求項の数】11
【全頁数】38
(21)【出願番号】特願2013-151102(P2013-151102)
(22)【出願日】2013年7月19日
(65)【公開番号】特開2014-43435(P2014-43435A)
(43)【公開日】2014年3月13日
【審査請求日】2016年7月12日
(31)【優先権主張番号】特願2012-170349(P2012-170349)
(32)【優先日】2012年7月31日
(33)【優先権主張国】JP
(31)【優先権主張番号】特願2012-170350(P2012-170350)
(32)【優先日】2012年7月31日
(33)【優先権主張国】JP
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)国等の委託研究の成果に係る特許出願(平成23年度独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構「グリーン・サステイナブルケミカルプロセス基盤技術開発」「化学品原料の転換・多様性を可能とする革新グリーン技術の開発」「気体原料の高効率利用技術の開発」に係る委託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願)
(73)【特許権者】
【識別番号】000186762
【氏名又は名称】昭栄化学工業株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】504132272
【氏名又は名称】国立大学法人京都大学
(74)【代理人】
【識別番号】100106909
【弁理士】
【氏名又は名称】棚井 澄雄
(74)【代理人】
【識別番号】100163496
【弁理士】
【氏名又は名称】荒 則彦
(74)【代理人】
【識別番号】100153763
【弁理士】
【氏名又は名称】加藤 広之
(74)【代理人】
【識別番号】100126882
【弁理士】
【氏名又は名称】五十嵐 光永
(74)【代理人】
【識別番号】100148884
【弁理士】
【氏名又は名称】▲廣▼保 直純
(72)【発明者】
【氏名】北川 進
(72)【発明者】
【氏名】樋口 雅一
(72)【発明者】
【氏名】梶原 隆史
(72)【発明者】
【氏名】東村 秀之
(72)【発明者】
【氏名】望月 勝紀
(72)【発明者】
【氏名】永島 和郎
(72)【発明者】
【氏名】清長 友和
【審査官】 森 健一
(56)【参考文献】
【文献】 特表2010−527890(JP,A)
【文献】 特表2008−518781(JP,A)
【文献】 国際公開第2010/099143(WO,A1)
【文献】 特開2004−285315(JP,A)
【文献】 特表2005−528204(JP,A)
【文献】 特開2014−028350(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01J 21/00−38/74
C10G 11/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
アセトンを吸着させた場合に、赤外分光法におけるアセトン中のカルボニル基由来の吸収の頂点が7cm−1以上低波数側にシフトさせる多孔性金属錯体を用いて、炭素数4以上の炭化水素をクラッキングする、炭化水素の製造方法。
【請求項2】
前記炭化水素が、炭素数6以上である、請求項1に記載の炭化水素の製造方法。
【請求項3】
前記多孔性金属錯体が、亜鉛、銅、マグネシウム、アルミニウム、マンガン、鉄、コバルト、ニッケル、クロム、ガリウム、チタン、ジルコニウム、イットリウム、ランタン、セリウム、プラセオジム、ネオジム、サマリウム、ユウロピウム、ガドリニウム、テルビウム、ジスプロシウム、ホルミウム、エルビウム、ツリウム、イッテルビウム、及びルテチウムからなる群より選択される少なくとも1種の金属を有する、請求項1又は2に記載の炭化水素の製造方法。
【請求項4】
前記多孔性金属錯体が、CrO(OH)(benzene−1,4−dicarboxylate)及びYb(benzene−1,3,5−tricarboxylate)からなる群より選択される1種以上であり、クラッキングの反応温度が350〜500℃である、請求項1〜のいずれか一項に記載の炭化水素の製造方法。
【請求項5】
前記炭素数4以上の炭化水素における、炭素−炭素単結合、炭素−炭素二重結合、炭素−炭素三重結合、及び炭素−水素単結合からなる群より選択される少なくとも1種の共有結合をクラッキングする、請求項1〜のいずれか一項に記載の炭化水素の製造方法。
【請求項6】
前記多孔性金属錯体を用いた炭素数4以上の炭化水素のクラッキングを、ヘテロポリ酸の存在下で行う、請求項1〜のいずれか一項に記載の炭化水素の製造方法。
【請求項7】
炭素数2〜7のオレフィンを製造する、請求項1〜のいずれか一項に記載の炭化水素の製造方法。
【請求項8】
アセトンを吸着させた場合に、赤外分光法におけるアセトン中のカルボニル基由来の吸収の頂点が7cm−1以上低波数側にシフトさせる多孔性金属錯体からなるクラッキング触媒。
【請求項9】
前記多孔性金属錯体が、亜鉛、銅、マグネシウム、アルミニウム、マンガン、鉄、コバルト、ニッケル、クロム、ガリウム、チタン、ジルコニウム、イットリウム、ランタン、セリウム、プラセオジム、ネオジム、サマリウム、ユウロピウム、ガドリニウム、テルビウム、ジスプロシウム、ホルミウム、エルビウム、ツリウム、イッテルビウム、及びルテチウムからなる群より選択される少なくとも1種の金属を有する、請求項に記載のクラッキング触媒。
【請求項10】
前記多孔性金属錯体が、亜鉛、銅、マグネシウム、アルミニウム、マンガン、鉄、コバルト、ニッケル、クロム、ガリウム、チタン、ジルコニウム、イットリウム、ランタン、セリウム、プラセオジム、ネオジム、サマリウム、ユウロピウム、ガドリニウム、テルビウム、ジスプロシウム、ホルミウム、エルビウム、ツリウム、イッテルビウム、及びルテチウムからなる群より選択され、かつ互いに価数が異なる2種以上の金属を有する、請求項8に記載のクラッキング触媒
【請求項11】
前記多孔性金属錯体が、亜鉛、銅、マグネシウム、アルミニウム、マンガン、鉄、コバルト、ニッケル、クロム、ガリウム、チタン、ジルコニウム、イットリウム、ランタン、セリウム、プラセオジム、ネオジム、サマリウム、ユウロピウム、ガドリニウム、テルビウム、ジスプロシウム、ホルミウム、エルビウム、ツリウム、イッテルビウム、及びルテチウムからなる群より選択される1種の金属を有し、
下記一般式(L1)で表される第1の配位子と、下記一般式(L2)で表される第2の配位子とを有する、請求項8に記載のクラッキング触媒
【化1】
[式(L1)及び(L2)中、Pは、1個の3員〜8員環、2個以上の3員〜8員環が単結合で連結された構造、2個以上の3員〜8員環の縮合環、又は2個以上の3員〜8員環の架橋環であり、式(L1)中のP及び(L2)中のPは同一の環状構造を表す。また、式(L2)中のnは1又は2であり、式(L1)中のmは、m=n+1を満たす整数である。式(L1)及び(L2)中、Xは、
【化2】
のいずれかの基を表し、式(L2)中、Xは、水素原子、ハロゲン原子、炭素数1〜4のアルキル基、又は炭素数1〜3のアルコキシ基を表す。]
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、多孔性金属錯体を用いて炭化水素を製造する方法、多孔性金属錯体からなるクラッキング触媒、当該触媒をはじめとする触媒を活性化する方法、及び当該触媒をはじめとする物質の酸強度を測定する方法に関する。より詳細には、多孔性金属錯体のクラッキング能を利用して、炭素数4以上の炭化水素から、より炭素数が小さい又はより不飽和度の高い炭化水素を製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
エチレン、プロピレン、ブテン、ペンテン、ヘキセンなどの低級(炭素数の少ない)オレフィンは、化学産業において、原料化合物として幅広く用いられている。特にプロピレンは、例えばポリプロピレン製造のための出発物質として役立つ、重要な有用化合物である。これらの低級オレフィンは、一般的に、石油などから得られる高級(炭素数の多い)炭化水素中の共有結合を分解すること(クラッキング)で得られる。
【0003】
炭化水素のクラッキング触媒としては、ゼオライト、モレキュラーシーブなどが工業的に用いられている(例えば、特許文献1及び2参照。)。しかし、これらのクラッキング触媒を用いた反応では、低級パラフィンが比較的多く副生してしまうという問題があった。目的の低級オレフィンと副生した低級パラフィンを分離することは、工業的な負荷が大きく好ましくない。そこで、低級オレフィンの選択性の高いクラッキング触媒の開発が望まれていた。
【0004】
多孔性金属錯体の酸強度を測定する方法としては、13C−NMRを用いる方法などが用いられてきた(例えば、非特許文献1参照。)。しかしながら13C−NMRでは多孔性金属錯体中に常磁性の金属イオンが含まれる場合、酸強度を測定することが非常に困難であった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特表2011−504466号公報
【特許文献2】特開2008−247884号公報
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】Wangら、「Journal of the American Chemical Society」、2003年、第125号、p.10375〜10383。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、上記従来技術の有する課題に鑑みてなされたものであり、炭素数4以上の炭化水素をクラッキングすることによって、オレフィン、特に炭素数2〜7の低級オレフィンを高い選択性で製造することができる方法、多孔性金属錯体からなり充分な酸強度を有するクラッキング触媒、及び当該触媒をはじめとする物質の酸強度を測定する方法を提供することを目的とする。
また、多孔性金属錯体の酸強度を簡便に高めることができれば、多孔性金属錯体のクラッキング触媒としての機能はより高まり、利用価値が向上すると期待できる。そこで、本発明は、多孔性金属錯体からなるクラッキング触媒をはじめとする触媒の活性化方法を提供することも目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、前記課題を解決すべく鋭意検討した結果、クラッキング触媒として多孔性金属錯体を用いることにより、炭素数4以上の炭化水素から低級オレフィンを高い選択性で製造し得ること、また、アセトンを吸着させた場合に、赤外分光法におけるアセトン中のカルボニル基由来の吸収の頂点が7cm−1以上低波数側にシフトさせる多孔性金属錯体からなるクラッキング触媒を用いることにより、炭化水素から低級オレフィンを高い選択性で製造し得ることを見出し、本発明を完成させた。さらに、アセトン等のカルボニル基を有する化合物をプローブとして用い、赤外分光(IR)法を利用することにより、多孔性金属錯体をはじめとする物質の酸強度を測定し得ること、適当な溶媒を用いて洗浄することにより、多孔性金属錯体からなるクラッキング触媒をはじめとする触媒を活性化し得ることを見出し、本発明を完成させた。
【0009】
すなわち、本発明は、以下の[1]〜[]の炭化水素の製造方法、及び]〜[11]の触媒提供するものである。
[1] アセトンを吸着させた場合に、赤外分光法におけるアセトン中のカルボニル基由来の吸収の頂点が7cm−1以上低波数側にシフトさせる多孔性金属錯体を用いて、炭素数4以上の炭化水素をクラッキングする、炭化水素の製造方法。
[2] 前記炭化水素が、炭素数6以上である、前記[1]の炭化水素の製造方法。
] 前記多孔性金属錯体が、亜鉛、銅、マグネシウム、アルミニウム、マンガン、鉄、コバルト、ニッケル、クロム、ガリウム、チタン、ジルコニウム、イットリウム、ランタン、セリウム、プラセオジム、ネオジム、サマリウム、ユウロピウム、ガドリニウム、テルビウム、ジスプロシウム、ホルミウム、エルビウム、ツリウム、イッテルビウム、及びルテチウムからなる群より選択される少なくとも1種の金属を有する、前記[1]又は[2]の炭化水素の製造方法。
] 前記多孔性金属錯体が、CrO(OH)(benzene−1,4−dicarboxylate)及びYb(benzene−1,3,5−tricarboxylate)からなる群より選択される1種以上であり、クラッキングの反応温度が350〜500℃である、前記[1]〜[]のいずれかの炭化水素の製造方法。
] 前記炭素数4以上の炭化水素における炭素−炭素単結合、炭素−炭素ニ重結合、炭素−炭素三重結合、及び炭素−水素単結合からなる群より選択される少なくとも1種の共有結合をクラッキングする、前記[1]〜[]のいずれかの炭化水素の製造方法。
] 前記多孔性金属錯体を用いた炭素数4以上の炭化水素のクラッキングを、ヘテロポリ酸の存在下で行う、前記[1]〜[]のいずれかの炭化水素の製造方法。
] 炭素数2〜7のオレフィンを製造する、前記[1]〜[]のいずれかの炭化水素の製造方法。
] アセトンを吸着させた場合に、赤外分光法におけるアセトン中のカルボニル基由来の吸収の頂点が7cm−1以上低波数側にシフトさせる多孔性金属錯体からなるクラッキング触媒。
] 前記多孔性金属錯体が、亜鉛、銅、マグネシウム、アルミニウム、マンガン、鉄、コバルト、ニッケル、クロム、ガリウム、チタン、ジルコニウム、イットリウム、ランタン、セリウム、プラセオジム、ネオジム、サマリウム、ユウロピウム、ガドリニウム、テルビウム、ジスプロシウム、ホルミウム、エルビウム、ツリウム、イッテルビウム、及びルテチウムからなる群より選択される少なくとも1種の金属を有する、前記[]のクラッキング触媒。
10前記多孔性金属錯体が、亜鉛、銅、マグネシウム、アルミニウム、マンガン、鉄、コバルト、ニッケル、クロム、ガリウム、チタン、ジルコニウム、イットリウム、ランタン、セリウム、プラセオジム、ネオジム、サマリウム、ユウロピウム、ガドリニウム、テルビウム、ジスプロシウム、ホルミウム、エルビウム、ツリウム、イッテルビウム、及びルテチウムからなる群より選択され、かつ互いに価数が異なる2種以上の金属を有する、前記[8]のクラッキング触媒
11前記多孔性金属錯体が、亜鉛、銅、マグネシウム、アルミニウム、マンガン、鉄、コバルト、ニッケル、クロム、ガリウム、チタン、ジルコニウム、イットリウム、ランタン、セリウム、プラセオジム、ネオジム、サマリウム、ユウロピウム、ガドリニウム、テルビウム、ジスプロシウム、ホルミウム、エルビウム、ツリウム、イッテルビウム、及びルテチウムからなる群より選択される1種の金属を有し、
下記一般式(L1)で表される第1の配位子と、下記一般式(L2)で表される第2の配位子とを有する、前記[8]のクラッキング触媒
【0010】
【化1】
【0011】
(式(L1)及び(L2)中、Pは、1個の3員〜8員環、2個以上の3員〜8員環が単結合で連結された構造、2個以上の3員〜8員環の縮合環、又は2個以上の3員〜8員環の架橋環であり、式(L1)中のP及び(L2)中のPは同一の環状構造を表す。また、式(L2)中のnは1又は2であり、式(L1)中のmは、m=n+1を満たす整数である。式(L1)及び(L2)中、Xは、
【0012】
【化2】
【0013】
のいずれかの基を表し、式(L2)中、Xは、水素原子、ハロゲン原子、炭素数1〜4のアルキル基、又は炭素数1〜3のアルコキシ基を表す。
【発明の効果】
【0016】
本発明に係る炭化水素の製造方法により、炭素数4以上の炭化水素から、オレフィン、特に炭素数2〜7の低級オレフィンを、高い選択性で製造することができる。つまり、本発明に係る炭化水素の製造方法により、低級パラフィンの混入量がより少ない低級オレフィンを製造することができる。
また、本発明に係るにより、酸強度が高い多孔性金属錯体からなるクラッキング触媒を提供することができる。本発明に係るクラッキング触媒は、オレフィン選択性の高いクラッキング能を有しているため、炭化水素等の有機化合物に対するクラッキング触媒として特に好適である。
さらに、本発明により、酸触媒として有用な多孔性金属錯体、多孔性金属錯体を活性化する方法、及び物質の酸強度を簡便かつ正確に測定できる方法も提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】ルイス酸又はブレンステッド酸へアセトンが配位する様子を模式的に示した図である。
図2】実施例において用いた多孔性金属錯体にアセトンを吸着させる装置の概略を模式的に示した図である。
図3】実施例においてクラッキング反応に用いた装置を模式的に示した図である。
図4】実施例においてクラッキング反応に用いた装置を模式的に示した図である。
図5】実施例14において得られたAl−BTB−BBB(5−H)のXRDの測定結果を示した図である。
図6】実施例14において得られたAl−BTB−BBB(5−H)のTG−DTA分析の結果を示した図である。
図7】実施例15において得られたAl−BTB−BBB(5−Cl)のXRDの測定結果を示した図である。
図8】実施例15において得られたAl−BTB−BBB(5−Cl)のTG−DTA分析の結果を示した図である。
図9】調製例7において得られたAl−BTBのXRDの測定結果を示した図である。
図10】調製例8において得られたLa−BTTcのTG−DTA分析の結果を示した図である。
図11】実施例18において得られたLa−BTTcのTG−DTA分析の結果を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
<多孔性金属錯体>
まず、本発明に係る炭化水素の製造方法においてクラッキング触媒としても用いられ得る多孔性金属錯体について説明する。多孔性金属錯体は、オレフィン選択性が高く、このため、これをクラッキング触媒として用いることにより、オレフィン、特に低級オレフィンを効率よく製造することができる。
多孔性金属錯体は、有機金属錯体骨格が集積することによって細孔構造が形成された構造を有する。当該有機金属錯体骨格は、1又は2以上の金属原子に1又は2以上の有機分子が配位子として配位して形成される。
【0019】
当該多孔性金属錯体としては、有機金属錯体骨格の中心原子として、配位子が配位可能な部位を2つ以上有する金属を有することが好ましい。中でも、亜鉛(Zn)、銅(Cu)、マグネシウム(Mg)、アルミニウム(Al)、マンガン(Mn)、鉄(Fe)、コバルト(Co)、ニッケル(Ni)、クロム(Cr)、チタン(Ti)、ガリウム(Ga)、ジルコニウム(Zr)、イットリウム(Y)、及びランタノイド元素(例えば、ランタン(La)、セリウム(Ce)、プラセオジム(Pr)、ネオジム(Nd)、サマリウム(Sm)、ユウロピウム(Eu)、ガドリニウム(Gd)、テルビウム(Tb)、ジスプロシウム(Dy)、ホルミウム(Ho)、エルビウム(Er)、ツリウム(Tm)、イッテルビウム(Yb)、及びルテチウム(Lu))からなる群より選択される少なくとも1種の金属を中心原子として有する多孔性金属錯体が好ましい。これらの金属元素を有機金属錯体骨格の中心原子として有することにより、配位結合及びイオン結合によって良好な多孔質構造体を形成することができる。中でも、本発明において用いられる多孔性金属錯体としては、亜鉛、マグネシウム、アルミニウム、コバルト、ニッケル、クロム、チタン、ガリウム、ジルコニウム、イットリウム、イッテルビウム、及びテルビウムからなる群より選択される少なくとも1種を中心原子として有するものが好ましい。
【0020】
当該多孔性金属錯体を構成する配位子としては、多孔性金属錯体の熱安定性、水蒸気安定性が確保できるものであれば特に限定されるものではない。当該配位子としては、例えば、ベンゼントリカルボキシラートアニオン、ベンゼンジカルボキシラートアニオン、ジオキシドベンゼンジカルボキシラートアニオン、メチルイミダゾラートアニオン、ホルマートアニオン、イミダゾラート−2−カルボキシアルデヒドアニオン、ナフタレンジカルボキシラートアニオン、ビフェニルジカルボキシラートアニオン等が挙げられ、多孔性金属錯体の合成及び安定性の観点から、ベンゼントリカルボキシラートアニオン、ベンゼンジカルボキシラートアニオン、ナフタレンジカルボキシラートアニオンが好ましく、ベンゼン−1,3,5−トリカルボキシラートアニオン、ベンゼン−1,4−ジカルボキシラートアニオン、ナフタレン−1,4−ジカルボキシラートアニオンがより好ましい。
【0021】
当該多孔性金属錯体としては、例えば、ZIF−8、Al−PhBTB、Al−BTB、MIL−53(Al)、MOF−76(Yb)、MOF−76(Y)、MOF−76(Tb)、MOF−74(Co)、MOF−74(Zn)、MOF−74(Mg)、MOF−74(Ni)、MIL−101(Cr)、MIL−103(Tb)、UiO−67、UiO−66、UiO−66−1,4−Naph、MIL−125、MIL−68(Ga)、及びAl−bpdc等が挙げられ、酸強度の観点から、MOF−76(Yb)、MOF−76(Tb)が好ましい。なお、上記略号はそれぞれ以下の意味を有する。
【0022】
【表1】
【0023】
本発明において用いられる多孔性金属錯体としては、文献1(Lowら、「Journal of the American Chemical Society」、2009年、131号、p.15834−15842)や文献2(Schroderら、「Journal of the American Chemical Society」、2008年、130号、p.6119−6130)に記載されているように、4%水蒸気存在下で、300℃にて構造崩壊を起こさないものを選択して用いることが、接触分解時に生じる水蒸気への耐久性が高いことから、好ましい。4%の水蒸気存在下で、300℃にて構造崩壊を起こさない多孔性金属錯体としては、例えば、ZIF−8、Al−PhBTB、Al−BTB、MIL−53(Al)、MOF−76(Yb)、MOF−76(Y)、MOF−76(Tb)、MOF−74(Co)、MOF−74(Zn)、MOF−74(Mg)、MOF−74(Ni)、MIL−101(Cr)、及びAl−bpdc等が挙げられ、ZIF−8、MOF−74(Co)、MOF−74(Zn)、MOF−74(Mg)、MOF−74(Ni)、MIL−101(Cr)が好ましい。
【0024】
本発明に係る多孔性金属錯体において、2種類以上の金属を用いる場合には、価数が同じ金属を用いてもよく、価数が互いに異なる2種類以上の金属を用いてもよい。一種類の金属と一種類の配位子から構成される多孔性金属錯体は、全体が均一に規則正しい多孔構造になっている。これに対して、多孔性金属錯体が、価数が互いに異なる2種類以上の金属から構成されている場合には、多孔質構造の一部に、異種金属同士の価数の差による欠損を含む構造となる。このように、多孔質構造の一部に欠損を含む構造からなる多孔性金属錯体を、特に、欠損型多孔性金属錯体という。
【0025】
欠損型多孔性金属錯体としては、亜鉛、銅、マグネシウム、アルミニウム、マンガン、鉄、コバルト、ニッケル、クロム、ガリウム、チタン、ジルコニウム、イットリウム、ランタン、セリウム、プラセオジム、ネオジム、サマリウム、ユウロピウム、ガドリニウム、テルビウム、ジスプロシウム、ホルミウム、エルビウム、ツリウム、イッテルビウム、及びルテチウムからなる群より選択され、かつ互いに価数が異なる2種以上の金属を有することが好ましい。
【0026】
例えば、2種類の金属を用いる場合、価数の大きい金属をM1、価数の小さい金属をM2とした場合、規則的な多孔質構造に適度な欠損を導入し得ることから、M1とM2の価数の差は1であることが好ましい。
【0027】
また、欠損型多孔性金属錯体中における金属M1及びM2の含有量(モル)比は、多孔性金属錯体の構造を規則正しく形成する観点と、M1とM2の価数の差による欠陥を導入する効果を確保する観点から、99:1〜20:80であることが好ましく、95:5〜15:85であることがより好ましい。
【0028】
欠損型多孔性金属錯体は、特定の構造関係にある複数の配位子を用いることによっても得られる。具体的には、1種類の金属と、下記一般式(L1)で表される第1の配位子と、下記一般式(L2)で表される第2の配位子とを用いることにより、欠損型多孔性金属錯体が製造できる。なお、当該欠損型多孔性金属錯体中の金属としては、前記と同様のものを用いることができる。
【0029】
【化4】
【0030】
一般式(L1)及び(L2)中、Pは、比較的かさ高い環状構造であり、かつ置換基として、それぞれm個のX及びn個のXを有する。また、一般式(L1)中のPと一般式(L2)中のPは同一の構造を表す。ここで、Xは、金属に配位する部分であり、かつmはn+1となる整数である。つまり、一般式(L1)で表される第1の配位子と一般式(L2)で表される第2の配位子は、いずれも、ある程度の大きさを有する環状化合物から、配位子として機能する腕が延びている構造であって、第1の配位子(L1)のほうが第2の配位子(L2)よりも、金属と配位する部分(腕)が必ず1つ多い。このように、金属と配位する部分の数(配位数)以外の構造が同一であって、配位数の差が1である複数の配位子を用いることにより、規則的な多孔質構造に適度な欠損が導入された欠損型多孔性金属錯体が得られる。
【0031】
具体的には、一般式(L1)及び(L2)中、Pは、1個の3員〜8員環、2個以上の3員〜8員環が単結合で連結された構造、2個以上の3員〜8員環の縮合環、又は2個以上の3員〜8員環の架橋環であり、かつ置換基として、m個のX〔一般式(L1)〕又はn個のX〔一般式(L2)〕を有する環状構造を表す。式(L2)中のnは1又は2であり、式(L1)中のmは、m=n+1を満たす整数である。
【0032】
Pを構成する環構造は、脂環式炭化水素であってもよく、芳香族炭化水素であってもよく、酸素原子や窒素原子、硫黄原子を含むヘテロ環であってもよい。Pを構成する環構造としては、具体的には、シクロプロパン、シクロブタン、シクロペンタン、シクロヘキサン、シクロヘプタン、シクロオクタン、ベンゼン等の炭化水素環;ピロリジン、ピペリジン、テトラヒドロフラン、テトラヒドロピラン、テトラヒドロチオフェン、テトラヒドロチオピラン、ピロール、ピリジン、フラン、チオフェン、イミダゾール、ピラゾール、オキサゾール、チアゾール、イミダゾリン、ピラジン、モルホリン、チアジン等のヘテロ環;ビシクロプロパン、ビシクロブタン、ビシクロペンタン、ビシクロヘキサン、ビシクロヘプタン、ビシクロオクタン等の2以上の環構造が単結合で連結したもの;ナフタレン、アントラセン、インドール、イソインドール、ベンゾイミダゾール、プリン、キノリン、イソキノリン、ベンゾピラン、アクリジン、キサンテン、カルバゾール等の縮合環;及び、ボルナン、ノルボルナン、ビシクロオクタン、アダマンタン等の架橋環が挙げられる。本発明に係る欠損型多孔性金属錯体としては、ベンゼン、ナフタレン、アントラセン等が好ましく、ベンゼンがより好ましい。
【0033】
Pを構成する環構造は、X以外の置換基をさらに有していてもよい。当該置換基としては、例えば、炭素数1〜6のアルキル基、炭素数1〜6のアルキレン基、ケトン基、アセチル基等が挙げられる。
【0034】
は、下記の群(以下、「X−A群」という。)のいずれかの基を表す。規則正しい多孔性金属錯体構造を構築しやすい観点から、mは好ましくは3であり、nは好ましくは2である。
【0035】
【化5】
【0036】
一般式(L2)中、Xは、水素原子、ハロゲン原子、炭素数1〜4のアルキル基、又は炭素数1〜3のアルコキシ基を表す。Xとしては、水素原子、フッ素原子、又は塩素原子であることが好ましい。
【0037】
欠損型多孔性金属錯体中における第1の配位子(L1)と第2の配位子(L2)の含有量(モル)比は、多孔性金属錯体の構造を規則正しく形成する観点と、第1の配位子(L1)と第2の配位子(L2)の配位数の差による欠陥を導入する効果を確保する観点から、99:1〜20:80であることが好ましく、95:5〜15:85であることがより好ましい。
【0038】
このような多孔性金属錯体(以下、特に記載がない限り、「多孔性金属錯体」には欠損型多孔性金属錯体も含む。)は、従来公知の製造方法に準じて製造することができる。具体的には、後記調製例において示すように、例えば、Akiyamaらの方法(Advanced Materials,2011年,第23巻,p.3294〜3297)、Khanらの方法(Chemical Engineering Journal,2011年,第166巻,p.1152〜1157)、Juan−Alcanizらの方法(Journal of Catalysis,2010年,第269巻,p.229〜241)、Gloverらの方法(Chemical Engineering Science,2011年,第66巻,p.163〜170)、Jiangらの方法(Inorganic chemistry,2010年,第49巻,p.10001〜10006)、Cavkaらの方法(Journal of the American Chemical Society,2008年,第130巻,p.13850〜13851)等に準じて製造することができる。
【0039】
本発明において用いられる多孔性金属錯体としては、酸強度が高いものが好ましい。酸強度が高いほど、効率よくクラッキング反応を触媒することができ、オレフィン選択性も高められる。例えば、後述する赤外分光(IR)法を利用した酸強度測定方法では、測定プローブとしてアセトンをはじめとする特定の構造を有するカルボニル基含有化合物を用い、酸強度を測定する対象物質(被検物質)に測定プローブを吸着させ、IR法における測定プローブ中のカルボニル基由来の吸収スペクトルの頂点が、当該被検物質に吸着させていない場合よりもどれだけ低波数側にシフトするかによって、酸強度を測定する。当該被検物質の酸強度が強いほど、低波数側へのシフトが大きくなる。本発明において用いられる多孔性金属錯体としては、アセトンを吸着させた場合に、赤外分光法におけるアセトン中のカルボニル基由来の吸収の頂点が低波数側に5cm−1以上シフトさせることができるものが好ましく、7cm−1以上シフトさせることができるものがより好ましく、9cm−1以上シフトさせることができるものがさらに好ましい。
【0040】
これらの多孔性金属錯体は、クラッキング反応以外にも、固体酸として用いることもできる。具体的には、前記多孔性金属錯体は、一般的な酸触媒反応、例えば下記のようなシアノシリル化反応に好ましく適用することができる。
【0041】
【化6】
【0042】
<多孔性金属錯体の活性化>
多孔性金属錯体の酸強度は、23℃、1気圧において液体である溶媒を用いて洗浄することによって高めることができる。なお、本願明細書において、酸触媒の酸強度を高めることを、「酸触媒の活性化」という。洗浄処理によって多孔性金属錯体が活性化される理由は、多孔性金属錯体中の酸点(活性点)及びその近傍に張り付いている物質が除去されるためと推察される。当該物質としては、多孔性金属錯体の製造時に用いられた反応溶媒や水等が挙げられる。当該反応溶媒としては、例えば、N,N−ジメチルホルムアミド(DMF)、N,N−ジエチルホルムアミド(DEF)等が挙げられる。
【0043】
洗浄処理に用いられる洗浄用溶媒としては、23℃、1気圧において液体である溶媒であって、洗浄対象である多孔性金属錯体の構造や触媒活性を損なわないものであればよい。当該洗浄用溶媒としては、分子が小さい(分子量が小さい)溶媒が好ましい。分子が小さい溶媒であれば、多孔性金属錯体の細孔内に入り込むことができ、より高い活性化効果が得られる。洗浄用溶媒の分子量としては、例えば、150以下であることが好ましく、120以下であることがより好ましい。また、分子量が小さく、かつ沸点が低い溶媒であることがより好ましい。沸点が低い溶媒であれば、洗浄処理後に多孔性金属錯体から除去しやすい。洗浄用溶媒の1気圧における沸点としては、23℃以上180℃以下であることが好ましく、30℃〜160℃であることがより好ましく、30℃〜100℃であることが更に好ましく、30℃〜85℃であることが特に好ましい。
【0044】
配位能力の高い洗浄用溶媒は、多孔性金属錯体の金属原子と配位子の間に配位結合して入り込んでしまうおそれがある。このため、洗浄処理に用いられる洗浄用溶媒としては、多孔性金属錯体を構成する金属原子に対して配位し難いものや、当該金属原子と結合し難いものが好ましい。具体的には、塩基性が低い、又は極性が小さすぎない溶媒が洗浄用溶媒として好ましい。
【0045】
その他、洗浄用溶媒としては、多孔性金属錯体の製造時に用いられた反応溶媒や水との混和性の高い溶媒であることも好ましい。多孔性金属錯体の酸点から、これらの溶媒を効率よく除去できるためである。
【0046】
洗浄用溶媒としては、具体的には、ジエチルエーテル、ジクロロメタン、クロロホルム、酢酸エチル、メタノール、エタノール、イソプロパノール、アセトニトリル、アセトン、酢酸エチル、ジオキサン、テトロヒドロフラン、水、及びこれらの溶媒の混合溶媒などが挙げられる。これらの溶媒は、1気圧における沸点が23℃以上120℃以下であり、かつ分子量が150以下である。中でも、塩基性が低い又は極性が小さすぎないために多くの多孔性金属錯体に対する活性化効果が高い点から、洗浄用溶媒としては、ジエチルエーテル、ジクロロメタン、クロロホルム、酢酸エチル、メタノール、エタノール、イソプロパノール、又はこれらの溶媒の混合溶媒が好ましい。但し、多孔性金属錯体中の配位子と金属の結合が十分強固で安定であれば、アセトニトリル、アセトン、酢酸エチル、ジオキサン、テトロヒドロフラン、水等のような金属原子に対する配位能力が比較的高い溶媒であっても、洗浄用溶媒として用いることができる。特に、多孔性金属錯体の製造を、反応溶媒としてDMFやDEFを用い、かつ水が含まれている反応系で行った場合には、これらの反応溶媒と水の両方に対する混和性が高いメタノールやエタノールが、洗浄用溶媒として好ましい。
【0047】
洗浄処理は、多孔性金属錯体を洗浄用溶媒に接触させることにより行う。多孔性金属錯体と洗浄用溶媒の接触方法は、通常、多孔質材料を溶媒で洗浄する際に用いられる公知の洗浄方法を用いることができる。例えば、洗浄用溶媒に多孔性金属錯体中を通過させてもよく、洗浄用溶媒中に一定時間、多孔性金属錯体を浸漬させてもよい。洗浄効率の点から、多孔性金属錯体を洗浄用溶媒中に一定時間浸漬させる方法が好ましい。浸漬時間は、総時間として、1時間〜7日間が好ましく、活性化効果と作業効率を確保する観点から、1〜5日間がより好ましい。なお、「総時間」とは、浸漬回数が1回の場合にはその浸漬時間を、浸漬回数が複数回の場合には、各回数における浸漬時間の積算時間を意味する。
【0048】
洗浄回数は、1回のみであってもよいが、複数回繰り返したほうが、活性化効果が高い。例えば、1回の浸漬時間を12〜24時間とし、これを3〜5回繰り返すことにより、多孔性金属錯体を効率よく洗浄することができる。
【0049】
1回の洗浄に用いる洗浄用溶媒の量は、特に限定されるものではなく、多孔性金属錯体のかさ密度や洗浄方法、洗浄回数等を考慮して適宜決定される。例えば、多孔性金属錯体1g当たり、10〜100mLの洗浄用溶媒を1回の洗浄に用いることができる。
【0050】
洗浄処理の際の温度や圧力は、洗浄対象である多孔性金属錯体の構造や触媒活性を損なわない範囲であれば特に限定されるものではなく、多孔性金属錯体の種類や洗浄用溶媒の種類等を考慮して適宜決定することができる。洗浄処理の操作の簡便性の点から、一般的には、室温・大気圧で行われる。
【0051】
洗浄処理後の多孔性金属錯体は、溶媒を除去するために乾燥させることが好ましい。乾燥方法は、多孔性金属錯体の構造や触媒活性を損なわない方法であれば特に限定されるものではなく、冷風や熱風をあてて乾燥させてもよく、加熱乾燥させてもよく、真空乾燥させてもよい。乾燥温度は、100℃以下であることが好ましい。
【0052】
活性化された多孔性金属錯体は、酸強度が高いため、本発明に係る炭化水素の製造方法において用いられるクラッキング触媒として非常に好適である。また、炭化水素以外の有機化合物をクラッキングする触媒としても好適である。その他、酸触媒として一般的な有機化学反応にも使用可能である。
【0053】
<炭化水素の製造方法>
本発明に係る炭化水素の製造方法は、多孔性金属錯体を用いて、炭素数4以上の炭化水素をクラッキングする。多孔性金属錯体としては、前記<多孔性金属錯体>で説明したものを用いる。
【0054】
具体的には、炭素数4以上の炭化水素を、多孔性金属錯体に接触させることによって、当該炭化水素における少なくとも一方の原子が炭素原子である共有結合をクラッキングする。クラッキングされる共有結合は、共有結合を形成する2つの原子のうち、少なくとも一方が炭素原子である結合であればよい。すなわち、本発明に係る炭化水素の製造方法においては、炭素−炭素単結合、炭素−炭素二重結合、炭素−炭素三重結合、及び炭素−水素単結合からなる群より選択される少なくとも1種の共有結合をクラッキングする。なお、前記多孔性金属錯体は、共有結合を形成する2つの原子のうち、少なくとも一方が炭素原子である結合であればクラッキングすることができ、例えば、炭素−酸素結合をクラッキングすることもできる。
【0055】
クラッキングされる炭化水素は、炭素数4以上のものであればよい。クラッキングによって炭素数2〜7の低級オレフィンをより効率よく製造し得ることから、クラッキングに供される炭化水素としては、炭素数4〜25の炭化水素が好ましく、炭素数4〜20の炭化水素がより好ましく、炭素数4〜16の炭化水素がさらに好ましい。特に、ブテンの製造量を多くしたい場合には、炭素数6以上の炭化水素が好ましく、炭素数6〜25の炭化水素がより好ましく、炭素数6〜20の炭化水素がさらに好ましく、炭素数6〜16の炭化水素がよりさらに好ましい。また、当該炭化水素は、オレフィンであってもよく、パラフィンであってもよい。前記多孔性金属錯体は、オレフィンの選択性が高いため、パラフィンをクラッキングした場合でも、オレフィン含有率の高い炭化水素混合物を得ることができる。つまり、化学的に変換しづらいことから石油化学分野において利用価値が低かったパラフィンの利用価値を、本発明に係る炭化水素の製造方法により高めることができる。
【0056】
クラッキングされる炭化水素は、1種類の炭化水素のみであってもよく、複数種類の炭化水素を含むものであってもよく、炭化水素以外の物質を含む混合物であってもよい。例えば、ガソリンの沸点以上で沸騰する炭化水素油(炭化水素混合物)を、前記多孔性金属錯体に接触させることにより、オレフィン含有率の高い炭化水素混合物を得ることができる。
【0057】
ガソリン沸点範囲以上で沸騰する炭化水素油としては、原油の常圧又は減圧蒸留で得られる軽油留分や、常圧蒸留残渣油及び減圧蒸留残渣油等が挙げられる。当該炭化水素油には、コーカー軽油、溶剤脱瀝油、溶剤脱瀝アスファルト、タールサンド油、シェールオイル油、石炭液化油、GTL(Gas to Liquids)油、植物油、廃潤滑油、廃食油も包括される 更に、これらの原料炭化水素油を、当業者に周知の水素化処理したもの、例えばNi−Mo系触媒、Co−Mo系触媒、Ni−Co−Mo系触媒、Ni−W系触媒などの水素化処理触媒の存在下において、高温・高圧下で水素化脱硫した水素化処理油も、本発明に係る炭化水素の製造方法におけるクラッキングの原料として使用できる。
【0058】
クラッキング反応条件としては、反応温度を200〜500℃、好ましくは250〜400℃、反応圧力を常圧〜5kg/cm、好ましくは常圧〜3kg/cm、原料炭化水素油/多孔性金属錯体の質量比を0.30〜0.0001、好ましくは0.20〜0.0002とすることが適当である。反応温度を200℃以上とすることにより、炭化水素油のクラッキング反応が好適に進行し、クラッキング生成物をより得やすい。また、反応温度を500℃以下とすることにより、用いている多孔性金属錯体自体の分解反応が進行する懸念が少なくなる。圧力を5kg/cm以下とすることにより、モル数が増加する反応であるクラッキング反応の進行が阻害されにくい。また、原料炭化水素油/多孔性金属錯体の質量比を3000以下とすることにより、クラッキング反応器内の多孔性金属錯体濃度を適度に保つことができ、原料炭化水素油のクラッキングがより好適に進行する。また、原料炭化水素油/多孔性金属錯体の質量比を100以上とすることにより、多孔性金属錯体濃度依存的にクラッキング反応効率を高めることができる。
【0059】
反応時間が長くなるほど、クラッキングがより進行する。このため、反応時間は、クラッキング生成物の炭化水素組成が所望の範囲となるように、原料の炭化水素の種類等を考慮して適宜決定することができる。例えば、クラッキングの原料として炭素数が比較的大きい炭化水素を用いる場合には、反応時間を長くすることによって、低級オレフィンを効率よく得ることができる。
【0060】
前記多孔性金属錯体群のうち、MIL−101(Cr) 及びMOF−76(Yb)からなる群からなる群より選択される1種以上を用いて、クラッキングの反応温度を350℃〜500℃とした場合には、ブテンを選択的に製造することができる。多孔性金属錯体としては、MIL−101(Cr)がより好ましく、反応温度としては360℃〜450℃がより好ましく、380〜420℃がさらに好ましい。
【0061】
本発明に係る炭化水素の製造方法においては、クラッキングを、多孔性金属錯体の他に共存成分が存在する環境下で行ってもよい。当該共存成分としては、活性炭、チタニア、アルミナ、ジルコニア、シリカ、ゼオライト、ヘテロポリ酸などの無機化合物を用いることができる。これらの無機化合物のうちいずれか1種のみを用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。共存成分と多孔性金属錯体の総量に対する共存成分の配合割合は、50質量%以下であることが好ましく、反応性を確保しやすいことから30質量%以下であることがより好ましい。
【0062】
中でも、酸強度が高いことから、共存成分としてヘテロポリ酸を用いることが好ましい。ヘテロポリ酸は、2種又はそれ以上のオキソ酸が縮合した多核構造のポリ酸である。ヘテロポリ酸としては特に限定されるものではなく、公知の化合物を使用することができる。好適に使用しうる代表的なヘテロポリ酸としては、12−モリブドリン酸、12−モリブドケイ酸、12−タングストリン酸、12−タングストケイ酸等のKeggin型のヘテロポリ酸;混合配位ヘテロポリ酸;Dawson型モリブドリン酸;11−モリブドリン酸等の欠損Keggin型ヘテロポリ酸等を挙げることができる。
【0063】
前記共存成分は、多孔性金属錯体とは別個にクラッキングの反応系に添加してもよく、予め多孔性金属錯体と混合した後、得られた混合物をクラッキングの反応系に添加してもよい。多孔性金属錯体に共存成分を混合する方法としては、例えば、(A)多孔性金属錯体と、共存成分とを物理混合する方法や、(B)共存成分を溶媒中に分散させた後、多孔性金属錯体を溶媒中で生成させる方法が挙げられる。以下、方法(A)、(B)をそれぞれ説明する。
【0064】
(方法(A))
方法(A)では、多孔性金属錯体と、共存成分とを物理混合することにより、組成物を調製する。物理混合する方法は特に限定されるものではなく、乳鉢による混合、ボールミルによる混合等、常法により行うことができる。
【0065】
(方法(B))
方法(B)では、共存成分を溶媒中に分散させた後、多孔性金属錯体を構成する金属イオンと配位子を加え、多孔性金属錯体を形成させる。続いてろ過することにより、多孔性金属錯体と共存成分の混合物を得ることができる。
【0066】
前記多孔性金属錯体はオレフィン選択性が高いため、本発明に係る炭化水素の製造方法により、オレフィン含有量が高く、パラフィン含有量が小さい炭化水素混合物を得ることができる。つまり、本発明に係る炭化水素の製造方法により、副生パラフィンの量が少ないために低級パラフィンからの分離精製の負荷を低減しつつ、低級オレフィンを製造することができる。
【0067】
<酸強度測定方法>
従来、多孔性金属錯体の酸強度を測定する方法として、13C−NMRを用いる方法などが用いられてきた(例えばWangら、「Journal of the American Chemical Society」、2003年、第125号、p.10375〜10383)。しかしながら、13C−NMRでは多孔性金属錯体中に常磁性の金属イオンが含まれる場合、酸強度を測定することが非常に困難であった。
【0068】
そこで、本発明者らは、カルボニル基を有する化合物が酸に吸着した場合に、IR法における、当該化合物のカルボニル基由来の吸収スペクトルの頂点(ピーク)の位置が低波数側にシフトすることを利用した測定方法を開発した。当該化合物のカルボニル基由来の吸収スペクトルの頂点の位置が、酸と吸着することによってどれくらい低波数側にシフトしたかに基づいて、当該酸の酸強度を評価する。より具体的には、酸強度を測定する対象物質(被検物質)に、アセトンをはじめとするカルボニル基を有する化合物を吸着させ、IR法における前記化合物中のカルボニル基由来の吸収スペクトルの頂点が、当該被検物質に吸着させていない場合よりもどれだけ低波数側にシフトするかによって、酸強度を測定する。つまり、当該酸強度測定方法によって、被検物質の酸強度は、前記化合物のカルボニル基由来の吸収スペクトルの低波数側へのシフト値(波数:cm−1)として得られる。
【0069】
図1に、ルイス酸又はブレンステッド酸へアセトンが配位する様子を模式的に示す。図1中、LAはルイス酸、BAはブレンステッド酸を意味する。図1に示すように、アセトン等のカルボニル基を有する化合物のカルボニル酸素が酸に配位することにより、C=O結合が伸びる。この結果、当該化合物のカルボニル基由来の吸収スペクトルの頂点が、低波数側へシフトする。酸の酸強度が強いほど、前記化合物のカルボニル基由来の吸収スペクトルの頂点は、より低波数側に大きくシフトする。
【0070】
当該酸強度測定方法において測定プローブとして用いるカルボニル基を有する化合物は、下記一般式(1)で表される化合物である。一般式(1)中、Yは水素原子、炭素数1〜4の炭化水素基、又は炭素数1〜4の炭化水素オキシ基を表し、Zは炭素数1〜6の炭化水素基を表す。
【0071】
【化7】
【0072】
一般式(1)中のYが炭素数1〜4の炭化水素基の場合、当該Yは、Zと同じ基であってもよく、異なる基であってもよい。また、当該炭化水素基は、直鎖状であってもよく、分岐鎖状であってもよいが、直鎖状の炭化水素基が好ましい。さらに、飽和結合のみからなるアルキル基であってもよく、不飽和結合を有するアルキレン基であってもよい。当該炭化水素基としては、具体的には、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、tert−ブチル基、ビニル基(エテニル基)、アリル基(2−プロペニル基)、1−プロペニル基、イソプロペニル基、ブテニル基が挙げられる。中でも、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、又はtert−ブチル基が好ましく、メチル基がより好ましい。
【0073】
一般式(1)中のYが炭素数1〜4の炭化水素オキシ基の場合、当該炭化水素オキシ基は、直鎖状であってもよく、分岐鎖状であってもよいが、直鎖状の炭化水素オキシ基がより好ましい。当該炭化水素オキシ基としては、具体的には、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、イソプロポキシ基、ブトキシ基、イソブトキシ基、tert−ブトキシ基、ビニルオキシ基(エテニルオキシ基)、アリルオキシ基(2−プロペニルオキシ基)、1−プロペニルオキシ基、イソプロペニルオキシ基、ブテニルオキシ基が挙げられる。中でも、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、イソプロポキシ基、ブトキシ基、イソブトキシ基、又はtert−ブトキシ基が好ましく、メトキシ基がより好ましい。
【0074】
一般式(1)中のZは、炭素数1〜6の炭化水素基である。当該炭化水素基は、直鎖状であってもよく、分岐鎖状であってもよいが、直鎖状の炭化水素基がより好ましい。また、飽和結合のみからなるアルキル基であってもよく、不飽和結合を有するアルキレン基であってもよい。当該炭化水素基としては、具体的には、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、tert−ブチル基、ペンチル基、ネオペンチル基、ヘキシル基、ビニル基(エテニル基)、アリル基(2−プロペニル基)、1−プロペニル基、イソプロペニル基、ブテニル基、ペンテニル基、へキセニル基が挙げられる。中でも、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、又はtert−ブチル基が好ましく、メチル基がより好ましい。
【0075】
一般式(1)で表される化合物としては、Yが炭素数1〜4の炭化水素基であり、Zが炭素数1〜6の炭化水素基である化合物が好ましく、YとZがそれぞれ独立して炭素数1〜4のアルキル基である化合物がより好ましく、アセトンがもっとも好ましい。アセトンは、測定後に被検物質である酸から容易に除去することができ、かつ構造が単純であるためにIRにおける吸収スペクトルのピークのシフトを観測しやすい。
【0076】
当該酸強度測定方法は、具体的には、以下のようにして行う。
まず、吸着工程として、被検物質に、前記一般式(1)で表される化合物(プローブ化合物)を吸着させる。プローブ化合物は、液体状態で吸着させてもよく、気体状態で吸着させてもよいが、気体状態で吸着させるほうが好ましい。具体的には、プローブ化合物の蒸気を被検物質に接触させることが好ましい。
【0077】
測定系内に過剰のプローブ化合物が存在すると、プローブ化合物のカルボニル基のIR吸収が小さく見積もられてしまうおそれがある。このため、被検物質の酸性部分1モルに対して、プローブ化合物の吸着量が1モル以下となることが好ましく、0.5モル以下となることがより好ましい。一方で、プローブ化合物の吸着量があまりにも少なすぎるとIRでの検出下限を下回るおそれがある。このため、被検物質の酸性部分1モルに対して、プローブ化合物の吸着量が0.001モル以上となることが好ましく、0.005モル以上となることがより好ましい。
【0078】
被検物質へのプローブ化合物の吸着は、常圧で行うこともできるが、減圧環境下で行うことが好ましく、真空状態又はそれに近い低圧環境下で行うことがより好ましい。例えば、100kPa以下で行うことが好ましく、1kPa以下で行うことがより好ましく、1Pa以下で行うことがさらに好ましく、1〜0.01Paで行うことがよりさらに好ましい。また、空気にプローブ化合物の蒸気を添加した気体を被検物質に接触させてもよいが、水分の吸着を抑制することができるため、乾燥空気や窒素などの雰囲気下で、プローブ化合物の蒸気を被検物質に接触させることが好ましい。また、被検物質へのプローブ化合物の吸着は、流通系内で行ってもよいが、一度被検物質に吸着したプローブ化合物が脱離しにくいため、密閉系内で行ことが好ましい。
【0079】
被検物質にプローブ化合物を吸着させる温度は、特に限定されるものではなく、プローブ化合物の蒸気を被検物質に接触させる場合には、反応系内においてプローブ化合物の沸点以上であればよい。例えば、室温で、つまり、特に温度制御していない環境下で行うことができる。
【0080】
被検物質にプローブ化合物を吸着させる時間は、反応系内に投入した被検物質とプローブ化合物の量や反応温度等を考慮して適宜決定することができる。例えば、吸着時間は、30分間〜12時間、好ましくは30分間〜2時間とすることができる。
【0081】
減圧環境下で吸着工程を行った場合には、吸着反応後に、乾燥空気や、窒素などの不活性ガス等を反応系(反応容器)に注入することによって、大気圧に戻すことが好ましい。これにより、IR測定までの間に、被検物質に吸着したプローブ化合物が、水分子等の反応性の高い分子と置き換わってしまうことを抑制することができる。
【0082】
次いで、測定工程として、前記吸着工程においてプローブ化合物を吸着させた被検物質を測定試料として、プローブ化合物中のカルボニル基由来の吸収スペクトルを測定する。IR吸収スペクトルの測定は、公知の赤外分光測定装置を用いて常法により行うことができる。
【0083】
多孔性金属錯体を被検物質とし、吸着工程をプローブ化合物の蒸気を被検物質に接触させて行う場合、測定工程までは、例えば具体的には以下の通りの実験操作により行うことができる。まず、乾燥させた少量の多孔性金属錯体を入れたサンプル瓶を、フタをせずにそのままシュレンク管に入れ、真空乾燥する。次いで、当該シュレンク管に、真空状態のまま、液体状態のプローブ化合物をシリンジで注入する。この際、サンプル瓶内にプローブ化合物が入らないようにすることが好ましい。注入されたプローブ化合物が揮発する結果、シュレンク管内がプローブ化合物の蒸気で満たされる。この状態で適当な時間経過させることによって、被検物質にプローブ化合物を吸着させた後、当該シュレンク管内に空気又は不活性ガスを導入して大気圧にする。こうしてプローブ化合物を吸着させた被検物質を測定試料とし、赤外分光測定装置でプローブ化合物のカルボニル基の吸収を測定する。
【0084】
その後、シフト値算出工程として、前記測定工程において得られた吸収スペクトルの頂点が、単独で存在している前記プローブ化合物中のカルボニル基由来の吸収スペクトルの頂点よりも低波数側にシフトした波数値(cm−1)を算出する。具体的には、単独で存在しているプローブ化合物中のカルボニル基由来の吸収スペクトルの頂点の位置(波数値)から、被検物質に吸着したプローブ化合物中のカルボニル基由来の吸収スペクトルの頂点の位置(波数値)を引くことによって、シフト値(波数値)を算出する。被検物質の酸強度が強いほど、得られたシフト値が大きくなる。
【0085】
例えば、「有機化合物のスペクトルによる同定法第5版」(東京化学同人発行)の第141ページに記載されているアセトンのIRスペクトルデータによると、アセトンのカルボニル基由来の吸収スペクトルの頂点の波数は1715cm−1である。つまり、アセトンをプローブ化合物とした場合には、1715cm−1から前記測定工程において得られた吸収スペクトルの頂点の波数(cm−1)を差し引くことによって、シフト値(波数値)を算出することができる。
【0086】
当該酸強度測定方法により、多孔性金属錯体をはじめとする固体酸の酸強度を、少量のサンプルで常温にて簡便に測定可能である。また、酸強度が、IR法における前記一般式(1)で表される化合物のカルボニル基由来の吸収スペクトルの頂点の位置のシフト値(波数:cm−1)で得られるため、正確に酸強度が算出でき、かつ複数の固体酸の酸強度を、定量的に比較評価することができる。
【実施例】
【0087】
以下、実施例及び比較例を示し、本発明を具体的に説明するが、本発明は下記の実施例に限定されるものではない。
なお、特段の記載がない限り、前記一般式(1)で表される化合物(プローブ化合物)としてアセトンを用いた場合の、多孔性金属錯体へのアセトンの吸着及びIR吸収スペクトルの測定、並びにクラッキング反応は、以下のようにして行った。
【0088】
[アセトン吸着]
アセトンの吸着は、図2に概略を示した装置を用いて行った。
乾燥させた少量の多孔性金属錯体(C)を入れたサンプル瓶(2)を、フタをせずにシュレンク管(1)に入れて、切り替えバルブ(3)の第一の口(3a)から当該シュレンク管内の気体を排出し、100℃2時間、真空乾燥した。当該シュレンク管内を真空状態としたまま、液状のアセトンをシリンジ(4)から注入した。この際、サンプル瓶内にアセトンが入らないようにした。注入されたアセトンは揮発し、シュレンク管内がアセトン蒸気で満たされた。この状態で1時間維持し、サンプル瓶内の多孔性金属錯体にアセトンを吸着させた。その後、切り替えバルブ(3)の第二の口(3b)から窒素ガスを導入し、当該シュレンク管内を大気圧にした。
【0089】
[IR吸収スペクトルの測定]
アセトンを吸着させた多孔性金属錯体を測定試料とし、フーリエ変換赤外分光分析装置Nicolet6700(サーモフィッシャーサイエンティフィック社製)を用いて、ATR法にてアセトンのカルボニル基の吸収を測定した。
アセトンのみで測定したところ、カルボニル基の吸収スペクトルの頂点の波数は1715cm−1であった。
【0090】
[クラッキング反応]
クラッキング反応は、試料導入部に熱分解装置(5)を設置したガスクロマトグラフ質量分析装置(6)を用いて行った。具体的には、熱分解装置マルチショット・パイロライザーEGA/PY−3030D(フロンティア・ラボ社製)に、ガスクロマトグラフ質量分析計GCMS−QP2010(島津製作所社製)を連結した装置を用いた。図3に、用いた装置の概略を示した。
【0091】
熱分解装置(5)の内部には、予め、多孔性金属錯体(C)を充填しておき、クラッキングの原料となる炭化水素(S)を導入し、所定の温度に加熱して熱分解を行った。熱分解によって得られた炭化水素混合物を、液体窒素を用いて冷却し、ガスクロマトグラフ(GC)によって各炭化水素を分離し、質量分析装置(MS)によって分析した。詳細な分析条件を下記に示す。
【0092】
<分析条件>
カラム:Rxi−1ms(RESTEK社製)
カラムサイズ:内径0.32mm、長さ60m、膜厚1.0μm
充填剤:Crossbond 100%ジメチルポリシロキサン
温度:300℃
キャリアガス:ヘリウム
質量分析法:電子衝撃法
【0093】
[調製例1]
MIL−101(Cr)−SOHを、Akiyamaらの方法(Advanced Materials,2011年,第23巻,p.3294〜3297)を参考にして調製した。
得られた多孔性金属錯体に対して、X線回折(XRD)による結晶相の確認と、FT−IR測定による配位結合形成の確認を行った。なお、XRDは、2次元検出器搭載X線回折装置D8 DISCOVER with GADDS(ブルカーエイエックスエス社製)を用いて行った。また、FT−IR測定は、フーリエ変換赤外分光分析装置Nicolet6700(サーモフィッシャーサイエンティフィック社製)を用いて行った。
【0094】
[実施例1]
調製例1で得られたMIL−101(Cr)−SOHを、アセトン吸着−赤外分光法に供したところ、アセトンのカルボニル基由来の吸収スペクトルの頂点の波数は1705cm−1であった。つまり、MIL−101(Cr)−SOHと結合したアセトンのカルボニル基由来の吸収スペクトルの頂点は、アセトンのみの1715cm−1より、10cm−1短波数側にシフトしていた。
【0095】
調製例1で得られたMIL−101(Cr)−SOHをクラッキング触媒として用いて、1−ヘキサデセン(以下、C16Eと呼称することがある。)のクラッキングを行った。具体的には、1.0μLのC16Eを、図3に示す熱分解GC/MS装置に導入し、1.0mgの前記クラッキング触媒存在下300℃にて熱分解を行った。得られた炭化水素混合物の炭素数15以下の炭化水素の組成を表2に示す。
【0096】
【表2】
【0097】
表2に示すように、クラッキング生成物中のオレフィン選択率は94.3%であり、パラフィン選択率は5.7%であった。また、低級オレフィン選択率(C2〜C7)は73.6%であり、低級パラフィン選択率(C1〜C7)は5.7%であった。
【0098】
[調製例2]
MIL−101(Cr)を、Khanらの方法(Chemical Engineering Journal,2011年,第166巻,p.1152〜1157)を参考にして調製した。得られた多孔性金属錯体に対して、調製例1と同様にして、XRDによる結晶相の確認と、FT−IR測定による配位結合形成の確認を行った。
【0099】
[実施例2](参考例)
調製例2で得られたMIL−101(Cr)を、アセトン吸着−赤外分光法に供したところ、アセトンのカルボニル基由来の吸収スペクトルの頂点の波数は1710cm−1であった。つまり、MIL−101(Cr)と結合したアセトンのカルボニル基由来の吸収スペクトルの頂点は、アセトンのみの1715cm−1より、5cm−1短波数側にシフトしていた。
【0100】
調製例2で得られたMIL−101(Cr)を用いた以外は、実施例1と同様の手順でC16Eのクラッキングを行った。得られた炭化水素混合物の炭素数15以下の炭化水素の組成を表3に示す。
【0101】
【表3】
【0102】
表3に示すように、クラッキング生成物中のオレフィン選択率は53.0%であり、パラフィン選択率は47.0%であった。また、低級オレフィン選択率(C2〜C7)は5.4%であり、低級パラフィン選択率(C1〜C7)は4.3%であった。
【0103】
[調製例3]
PW1240/MIL−101(Cr)を、Khanらの方法(Chemical Engineering Journal,2011年,第166巻,p.1152〜1157)及びJuan−Alcanizらの方法(Journal of Catalysis,2010年,第269巻,p.229〜241)を参考にして調製した。まず、CrCl・6水和物(和光純薬工業社製、2.96g)、テレフタル酸(ナカライテスク社製、1.85g)、HPW1240(ナカライテスク社製、1.53g)、及び蒸留水(50mL)をテフロン(登録商標)製反応容器に加え、210℃で6時間、オートクレーブ処理を行った。反応終了後、得られた多孔性金属錯体をろ過法により回収し、DMFを用いて超音波洗浄(60℃)を2回行い、その後160℃の下、真空乾燥を行った。得られた多孔性金属錯体に対して、調製例1と同様にして、XRDによる結晶相の確認と、FT−IR測定による配位結合形成の確認を行った。
【0104】
[実施例3](参考例)
調製例3で得られたHPW1240/MIL−101(Cr)を、アセトン吸着−赤外分光法に供したところ、アセトンのカルボニル基由来の吸収スペクトルの頂点の波数は1709cm−1であった。つまり、HPW1240/MIL−101(Cr)と結合したアセトンのカルボニル基由来の吸収スペクトルの頂点は、アセトンのみの1715cm−1より、6cm−1短波数側にシフトしていた。
【0105】
調製例3で得られたHPW1240/MIL−101(Cr)を用いた以外は、実施例1と同様の手順でC16Eのクラッキングを行った。得られた炭化水素混合物の炭素数15以下の炭化水素の組成を表4に示す。
【0106】
【表4】
【0107】
表4に示すように、クラッキング生成物中のオレフィン選択率は74.0%であり、パラフィン選択率は26.0%であった。また、低級オレフィン選択率(C2〜C7)は37.2%であり、低級パラフィン選択率(C1〜C7)は22.2%であった。
【0108】
[調製例4]
MOF−74(Ni)を、Gloverらの方法(Chemical Engineering Science,2011年,第66巻,p.163〜170)を参考にして調製した。得られた多孔性金属錯体に対して、調製例1と同様にして、XRDによる結晶相の確認と、FT−IR測定による配位結合形成の確認を行った。
【0109】
[実施例4]
調製例4で得られたMOF−74(Ni)を、アセトン吸着−赤外分光法に供したところ、アセトンのカルボニル基由来の吸収スペクトルの頂点の波数は1695cm−1であった。つまり、MOF−74(Ni)と結合したアセトンのカルボニル基由来の吸収スペクトルの頂点は、アセトンのみの1715cm−1より、20cm−1短波数側にシフトしていた。
【0110】
調製例4で得られたMOF−74(Ni)を用いた以外は、実施例1と同様の手順でC16Eのクラッキングを行った。得られた炭化水素混合物の炭素数15以下の炭化水素の組成を表5に示す。
【0111】
【表5】
【0112】
表5に示すように、クラッキング生成物中のオレフィン選択率は99.6%であり、パラフィン選択率は0.4%であった。また、低級オレフィン選択率(C2〜C7)は44.2%であり、低級パラフィン選択率(C1〜C7)は0.1%であった。
【0113】
[調製例5]
MOF−76(Yb)を、Jiangらの方法(Inorganic chemistry,2010年,第49巻,p.10001〜10006)を参考にして調製した。得られた多孔性金属錯体に対して、調製例1と同様にして、XRDによる結晶相の確認と、FT−IR測定による配位結合形成の確認を行った。
【0114】
[実施例5]
調製例5で得られたMOF−76(Yb)を、アセトン吸着−赤外分光法に供したところ、アセトンのカルボニル基由来の吸収スペクトルの頂点の波数は1704cm−1であった。つまり、MOF−76(Yb)と結合したアセトンのカルボニル基由来の吸収スペクトルの頂点は、アセトンのみの1715cm−1より、11cm−1短波数側にシフトしていた。
【0115】
調製例5で得られたMOF−76(Yb)を用いた以外は、実施例1と同様の手順でC16Eのクラッキングを行った。得られた炭化水素混合物の炭素数15以下の炭化水素の組成を表6に示す。
【0116】
【表6】
【0117】
表6に示すように、クラッキング生成物中のオレフィン選択率は97.2%であり、パラフィン選択率は2.8%であった。また、低級オレフィン選択率(C2〜C7)は64.5%であり、低級パラフィン選択率(C1〜C7)は0.0%であった。
【0118】
[調製例6]
MOF−76(Tb)を、Jiangらの方法(Inorganic chemistry,2010年,第49巻,p.10001〜10006)を参考にして調製した。得られた多孔性金属錯体に対して、調製例1と同様にして、XRDによる結晶相の確認と、FT−IR測定による配位結合形成の確認を行った。
【0119】
[実施例6]
調製例6で得られたMOF−76(Tb)を、アセトン吸着−赤外分光法に供したところ、アセトンのカルボニル基由来の吸収スペクトルの頂点の波数は1705cm−1であった。つまり、MOF−76(Tb)と結合したアセトンのカルボニル基由来の吸収スペクトルの頂点は、アセトンのみの1715cm−1より、10cm−1短波数側にシフトしていた。
【0120】
調製例6で得られたMOF−76(Tb)を用いた以外は、実施例1と同様の手順でC16Eのクラッキングを行った。得られた炭化水素混合物の炭素数15以下の炭化水素の組成を表7に示す。
【0121】
【表7】
【0122】
表7に示すように、クラッキング生成物中のオレフィン選択率は85.6%であり、パラフィン選択率は14.4%であった。また、低級オレフィン選択率(C2〜C7)は59.2%であり、低級パラフィン選択率(C1〜C7)は12.6%であった。
【0123】
実施例1〜6の結果を表8にまとめた。この結果から、多孔性金属錯体を用いることにより、C16Eをクラッキングできることが明らかとなった。特に、酸強度の高い多孔性金属錯体を用いることによって、高い選択性でオレフィン、中でもプロピレンを得られることが確認できた。
【0124】
【表8】
【0125】
[実施例7]
調製例1で得られたMIL−101(Cr)−SOHを多孔性金属錯体として用い、1−ヘキサデカン(以下、C16Aと呼称することがある。)のクラッキングを行った。具体的には、1.0μLのC16Aを、図3に示す熱分解GC/MS装置に導入し、1.0mgの前記クラッキング触媒存在下300℃にて熱分解を行った。得られた炭化水素混合物の炭素数15以下の炭化水素の組成を表9に示す。
【0126】
【表9】
【0127】
表9に示すように、クラッキング生成物中のオレフィン選択率は87.0%であり、パラフィン選択率は13.0%であった。また、低級オレフィン選択率(C2〜C7)は85.9%であり、低級パラフィン選択率(C1〜C7)は13.0%であった。
【0128】
[比較例1]
ゼオライトZSM−5(100)(水澤化学工業社製)を、アセトン吸着−赤外分光法に供したところ、アセトンのカルボニル基由来の吸収スペクトルの頂点の波数は1708cm−1であった。つまり、ゼオライトZSM−5(100)と結合したアセトンのカルボニル基由来の吸収スペクトルの頂点は、アセトンのみの1715cm−1より、7cm−1短波数側にシフトしていた。
【0129】
触媒としてゼオライトZSM−5(100)(水澤化学工業社製)を用いた以外は、実施例7と同様の手順でC16Aのクラッキングを行った。得られた炭化水素混合物の炭素数15以下の炭化水素の組成を表10に示す。
【0130】
【表10】
【0131】
表10に示すように、クラッキング生成物中のオレフィン選択率は32.4%であり、パラフィン選択率は67.6%であった。また、低級オレフィン選択率(C2〜C7)は32.4%であり、低級パラフィン選択率(C1〜C7)は53.4%であった。
【0132】
実施例7及び比較例1の結果を表11にまとめた。この結果から、C16Aのような高級パラフィン類を原料とした場合であっても、多孔性金属錯体を用いてクラッキングすることにより、高い選択性でオレフィンを得られることが確認できた。
【0133】
【表11】
【0134】
[実施例8](参考例)
調製例2で得られたMIL−101(Cr)をクラッキング触媒として用いて、1−ヘキセン(以下、C6Eと呼称することがある。)のクラッキングを行った。クラッキング反応は、図4に示すGC(ガスクロマトグラフ)装置(7)を用いて行った。GC装置(7)に導入されたクラッキングの原料となる炭化水素(S)は、クラッキング触媒を詰めたガラスインサート(9a)を通過することによりクラッキングされる。クラッキング後の反応物は、キャリアガス(ヘリウムガス)と共に触媒が充填されていないガラスインサート(9b)に導入され、その後、キャピラリカラム(10)又はパックドカラム(11)により分離され、水素炎イオン化型検出器(12a、12b)により検出される。GC装置(7)においては、装置に導入される炭化水素(S)の量や注入速度等は、ストップ弁(13a、13b)、圧力計(P)、及び圧力制御弁(14)によって調節され、炭化水素(S)やキャリアガス等の流路(サンプリングのタイミング)は六方バルブ(8)によって調節される。
【0135】
<キャピラリカラム(10)>
カラム:ZB−1(Phenomenex社製)、
カラムサイズ:内径0.32mm、長さ60m、膜厚3μm、
液相:100%ジメチルポリシロキサン、
温度:45〜230℃、
キャリアガス:ヘリウム、
検出器:FID(水素炎イオン化型検出器)。
【0136】
<パックドカラム(11)>
充填剤:Porapak−Q+KOH/Alumina、
温度:45〜230℃、
キャリアガス:ヘリウム、
検出器:FID(水素炎イオン化型検出器)。
【0137】
具体的には、0.5μLのC6Eを、図4に示すGC装置(7)に導入し、35mgの前記クラッキング触媒存在下400℃にて2分間反応させた。得られた炭化水素混合物の炭素数5以下の炭化水素の組成を表12に示す。クラッキング生成物中のオレフィン選択率は61.6%であり、パラフィン選択率は38.4%であった。また、ブテン選択率は53.5%であった。
【0138】
【表12】
【0139】
[実施例9]
調製例5で得られたMOF−76(Yb)を用いた以外は、実施例8と同様の手順でC6Eのクラッキングを行った。得られた炭化水素混合物の炭素数5以下の炭化水素の組成を表13に示す。クラッキング生成物中のオレフィン選択率は78.3%であり、パラフィン選択率は21.7%であった。また、ブテン選択率は40.5%であった。
【0140】
【表13】
【0141】
[比較例2]
比較例1で用いたものと同じゼオライトZSM−5(100)を用いた以外は、実施例8と同様の手順でC6Eのクラッキングを行った。得られた炭化水素混合物の炭素数5以下の炭化水素の組成を表14に示す。クラッキング生成物中のオレフィン選択率は15.2%であり、パラフィン選択率は84.8%であった。また、ブテン選択率は5.2%であった。
【0142】
【表14】
【0143】
実施例8、実施例9、及び比較例2の結果を表15にまとめた。この結果から、C6Eを、400℃でMIL−101(Cr)又はMOF−76(Yb)でクラッキングすることにより、高い選択性でブテンを得られることが確認できた。特にMIL−101(Cr)を用いた場合、より高い選択性でブテンを得られることが確認できた。
【0144】
【表15】
【0145】
[実施例10]
<多孔性金属錯体 Ni−Al−BTBの合成>
三座配位子である1,3,5−トリス(4−カルボキシフェニル)ベンゼンのDMF溶液(100mM(mmol/L))10mLを、硝酸アルミニウム(III)と硝酸ニッケル(II)の9:1(モル比)混合物のDMF溶液(硝酸アルミニウム(III):90mM、硝酸ニッケル(II):10mM)10mLと共にマイクロ波反応装置用のガラス容器に入れ、専用のフタを用いて密封した。マイクロ波を照射して200℃で1時間加熱攪拌した後、室温まで冷却させ、反応液中に生じた白色沈殿を濾取することにより、多孔性金属錯体(Ni−Al−BTB)を得た。
得られたNi−Al−BTBについてXRDの測定を行った。
【0146】
2θ(°): 6.9,8.1,11.0,13.2,17.0,19.4,20.7,26.2,27.9。
【0147】
得られたNi−Al−BTBについて、差動型示差熱天秤Thermo plus EVOII TG8120(リガク社製)を用いてTG−DTA分析(窒素中5K/分で昇温)を行った。この結果、100〜250℃で、吸着したDMFが主成分と思われる重量減少が観察された。
【0148】
[実施例11]
<多孔性金属錯体 Mg−Al−BTBの合成>
三座配位子である1,3,5−トリス(4−カルボキシフェニル)ベンゼンのDMF溶液(100mM)10mLを、硝酸アルミニウム(III)と硝酸マグネシウム(II)の9:1(モル比)混合物のDMF溶液(硝酸アルミニウム(III):90mM、硝酸マグネシウム(II):10mM)10mLと共にマイクロ波反応装置用のガラス容器に入れ、専用のフタを用いて密封した。マイクロ波を照射して200℃で1時間加熱攪拌した後、室温まで冷却させ、反応液中に生じた白色沈殿を濾取することにより、多孔性金属錯体(Mg−Al−BTB)を得た。
得られたMg−Al−BTBについてXRDの測定を行った。
【0149】
2θ(°): 6.9,8.1,11.0,13.2,17.0,19.4,20.7,26.2,27.9。
【0150】
得られたMg−Al−BTBについて、差動型示差熱天秤Thermo plus EVOII TG8120(リガク社製)を用いてTG−DTA分析(窒素中5K/分で昇温)を行った。この結果、100〜250℃で、吸着したDMFが主成分と思われる重量減少が観察された。
【0151】
[実施例12]
実施例10で得られたNi−Al−BTBを、アセトン吸着−赤外分光法に供したところ、アセトンのカルボニル基由来の吸収スペクトルの頂点の波数は1704cm−1であった。つまり、Ni−Al−BTBと結合したアセトンのカルボニル基由来の吸収スペクトルの頂点は、アセトンのみの1715cm−1より、11cm−1短波数側にシフトしていた。
実施例10で得られたNi−Al−BTBをクラッキング触媒として用いて、実施例1の場合と同様に、C16Eのクラッキングを行うと、クラッキングが進行する。Ni−Al−BTBによるクラッキングは、低級オレフィンの選択性が高い。
【0152】
[実施例13]
実施例11で得られたMg−Al−BTBを、アセトン吸着−赤外分光法に供したところ、アセトンのカルボニル基由来の吸収スペクトルの頂点の波数は1701cm−1であった。つまり、Mg−Al−BTBと結合したアセトンのカルボニル基由来の吸収スペクトルの頂点は、アセトンのみの1715cm−1より、14cm−1短波数側にシフトしていた。
実施例11で得られたMg−Al−BTBをクラッキング触媒として用いて、実施例1の場合と同様に、C16Eのクラッキングを行うと、クラッキングが進行する。Mg−Al−BTBによるクラッキングは、低級オレフィンの選択性が高い。
【0153】
[合成例1]
(芳香族化合物(a)の合成)
芳香族化合物(a)を以下の反応式に従って合成した。
【0154】
【化8】
【0155】
反応容器内の気体を窒素ガス雰囲気下とした後、反応容器内において1,3−ジブロモベンゼン1.77g(7.50mmol)、4−カルボキシフェニルボロン酸5.61g(33.8mmol)、炭酸カリウム7.00g(50.7mmol)及びテトラキストリフェニルホスフィンパラジウム436mg(0.38mmol)と、300mLのDMF/水(DMF:水=3:1(体積比))の混合物を調製し、その混合物を100℃で12時間攪拌した。当該混合物を室温まで冷却した後、不溶物を濾過によって除去し、次いでクロロホルムを用いて分液操作を行った。得られた水層部分に、塩酸をpHが1になるまで加え、白色沈殿を得た。この白色沈殿を濾取し、水で洗浄し、DMSO/エタノールより再結晶を行うことによって、芳香族化合物(a)を得た(1.48g、4.66mmol、収率:62%)。
【0156】
H−NMR(DMSO−d, 500MHz,δ/ppm):7.61(t,HH=7.5Hz,1H),7.76(dd,HH=7.5Hz,HH=1.5Hz,2H),7.90(d,HH=8.5Hz,4H),8.02(t,HH=1.5Hz,1H),8.04(d,HH=8.5Hz,4H),−COOH not observed.
13C−NMR(DMSO−d,100MHz,δ/ppm):125.78(CH),127.09(CH),127.29(CH),129.96(C),130.05(CH),130.15(CH),140.04(C),144.23(C),167.37(C).
HRMS−ESI(m/z):[M−H]calcd for C2013,317.0819;found 317.0828.
【0157】
[実施例14]
<多孔性金属錯体 Al−BTB−BBB(5−H)の合成>
三座配位子である1,3,5−トリス(4−カルボキシフェニル)ベンゼン395mg(0.90mmol)と二座配位子である芳香族化合物(a)32mg(0.10mmol)を、硝酸アルミニウム(III)のDMF溶液(50mM)20mLと共にマイクロ波反応装置用のガラス容器に入れ、専用のフタを用いて密封した。マイクロ波を照射して220℃で15分間加熱攪拌した後、室温まで冷却させ、反応液中に生じた白色沈殿を濾取することにより、多孔性金属錯体(Al−BTB−BBB(5−H))を得た。
得られたAl−BTB−BBB(5−H)についてXRDの測定を行った。測定結果を図5に示す。
【0158】
2θ(°):6.2,10.8,13.9,16.4。
【0159】
得られたAl−BTB−BBB(5−H)について、差動型示差熱天秤Thermo plus EVOII TG8120(リガク社製)を用いてTG−DTA分析(窒素中5K/分で昇温)を行った。この結果、100〜250℃で、吸着したDMFが主成分と思われる重量減少が観察された(図6)。
【0160】
[合成例2]
(芳香族化合物(b)の合成)
芳香族化合物(b)を以下の反応式に従って合成した。
【0161】
【化9】
【0162】
反応容器内の気体を窒素ガス雰囲気下とした後、反応容器内において1,3−ジブロモ−5−クロロベンゼン2.03g(7.52mmol)、4−カルボキシフェニルボロン酸5.60g(33.8mmol)、炭酸カリウム7.00g(50.7mmol)及びテトラキストリフェニルホスフィンパラジウム435mg(0.38mmol)と、300mLのDMF/水(DMF:水=3:1(体積比))の混合物を調製し、その混合物を100℃で12時間攪拌した。当該混合物を室温まで冷却した後、不溶物を濾過によって除去し、次いでクロロホルムを用いて分液操作を行った。得られた水層部分に、塩酸をpHが1になるまで加え、白色沈殿を得た。この白色沈殿を濾取し、水で洗浄し、DMSO/エタノール/水より再沈殿を行うことによって、芳香族化合物(b)を得た(1.16g、3.29mmol、収率:44%)。
【0163】
H−NMR(DMSO−d, 500MHz,δ/ppm):7.84(d,HH=1.5Hz,2H),7.96(d,HH=8.5Hz,4H),8.01(t,HH=1.5Hz,1H),8.04(d,HH=8.5Hz,4H),13.1(br s,2H).
13C−NMR(DMSO−d,150MHz,δ/ppm):124.47(CH),126.45(CH),127.40(CH),129.97(CH),130.42(C),134.69(C),141.84(C),142.54(C),167.08(C).
HRMS−ESI(m/z):[M−H]calcd for C2012ClO,351.0430;found 351.0441.
【0164】
[実施例15]
<多孔性金属錯体 Al−BTB−BBB(5−Cl)の合成>
三座配位子である1,3,5−トリス(4−カルボキシフェニル)ベンゼン395mg(0.90mmol)と二座配位子である芳香族化合物(b)35mg(0.10mmol)を、硝酸アルミニウム(III)のDMF溶液(50mM)20mLと共にマイクロ波反応装置用のガラス容器に入れ、専用のフタを用いて密封した。マイクロ波を照射して220℃で15分間加熱攪拌した後、室温まで冷却させ、反応液中に生じた白色沈殿を濾取することにより、多孔性金属錯体(Al−BTB−BBB(5−Cl))を得た。
得られたAl−BTB−BBB(5−Cl)についてXRDの測定を行った。測定結果を図7に示す。
【0165】
2θ(°):6.3,10.8,12.4,13.9,16.5。
【0166】
得られたAl−BTB−BBB(5−Cl)について、差動型示差熱天秤Thermo plus EVOII TG8120(リガク社製)を用いてTG−DTA分析(窒素中5K/分で昇温)を行った。この結果、100〜250℃で、吸着したDMFが主成分と思われる重量減少が観察された(図8)。
【0167】
[調製例7]
<多孔性金属錯体 Al−BTBの合成>
三座配位子である1,3,5−トリス(4−カルボキシフェニル)ベンゼンのDMF溶液(100mM)10mLを、硝酸アルミニウム(III)のDMF溶液(100mM)10mLと共にマイクロ波反応装置用のガラス容器に入れ、専用のフタを用いて密封した。マイクロ波を照射して220℃で15分間加熱攪拌した後、室温まで冷却させ、反応液中に生じた白色沈殿を濾取することにより、多孔性金属錯体(Al−BTB)を得た。
得られたAl−BTBについてXRDの測定を行った。測定結果を図9に示す。
【0168】
2θ(°):6.3,10.8,12.5,13.9,16.5。
【0169】
得られたAl−BTBについて、差動型示差熱天秤Thermo plus EVOII TG8120(リガク社製)を用いてTG−DTA分析(窒素中5K/分で昇温)を行った。この結果、100〜250℃で、吸着したDMFが主成分と思われる重量減少が観察された。
【0170】
[実施例16]
実施例14で得られたAl−BTB−BBB(5−H)をクラッキング触媒として用いて、C6Eのクラッキングを行った。具体的には、0.2gの前記クラッキング触媒を導入した流通系の反応装置において、400℃にて窒素3mL/minで希釈したC6E0.225mL/minを流通させ、一定時間後にサンプリングしGC分析を行った。得られた炭化水素混合物の収率を表16に示す。
【0171】
【表16】
【0172】
炭素数5以下の炭化水素が合成されていたことから、Al−BTB−BBB(5−H)は、クラッキング能を有することが確認された。また、C6E以外の炭素数6の炭化水素も得られたことから、Al−BTB−BBB(5−H)は、異性化能をも備えていることがわかった。
【0173】
[実施例17]
実施例15で得られたAl−BTB−BBB(5−Cl)をクラッキング触媒として用いた以外は、実施例16と同様の手順でC6Eのクラッキングを行った。得られた炭化水素混合物の収率を表17に示す。
【0174】
【表17】
【0175】
炭素数5以下の炭化水素が合成されていたことから、Al−BTB−BBB(5−Cl)は、クラッキング能を有することが確認された。また、C6E以外の炭素数6の炭化水素も得られたことから、Al−BTB−BBB(5−Cl)は、異性化能をも備えていることがわかった。
【0176】
[合成例3]
(芳香族化合物(c)の合成)
芳香族化合物(c)を以下の反応式に従って合成した。
【0177】
【化10】
【0178】
反応容器内の気体を窒素ガス雰囲気下とした後、反応容器内においてトリブロモベンゼン315mg(1.00mmol)、5−カルボキシチオフェン−2−ボロン酸1.72g(10.0mmol)、炭酸カリウム2.00g(14.5mmol)及びテトラキストリフェニルホスフィンパラジウム115mg(0.10mmol)と、40mLのDMF/水(DMF:水=3:1(体積比))の混合物を調製し、その混合物を100℃で8時間攪拌した。当該混合物を室温まで冷却した後、不溶物を濾過によって除去し、次いでクロロホルムを用いて分液操作を行った。得られた水層部分に、塩酸をpHが1になるまで加え、白色沈殿を得た。この白色沈殿を濾取し、水、エタノール及びクロロホルムで洗浄し、乾燥させることによって、芳香族化合物(c)を得た。
【0179】
H−NMR(DMSO−d6,300MHz,δ/ppm): 7.79(d,3H,ArH), 7.88(d,3H,ArH), 8.03(s,3H,ArH), 13.26(s,3H,COH)
【0180】
[調製例8]
(多孔性金属錯体(La−BTTc)の合成)
芳香族化合物(c)137mg(300μmol)を、硝酸ランタン(III)六水和物130mg(300μmol)及びDMF7.5mLと共にポリテトラフルオロエチレン製のるつぼに入れ、当該るつぼをステンレスジャケットで密封した。ステンレスジャケットを、120℃に温度調整したオイルバスで48時間加熱攪拌した後、室温まで冷却させ、反応液中に生じた白色沈殿を濾取することにより、多孔性金属錯体(La−BTTc)を得た。
得られたLa−BTTcについてXRDの測定を行った。
【0181】
2θ(°): 6.9,8.1,11.0,13.2,17.0,19.4,20.7,26.2,27.9。
【0182】
得られたLa−BTTcについて、差動型示差熱天秤Thermo plus EVOII TG8120(リガク社製)を用いてTG−DTA分析(窒素中5K/分で昇温)を行った。この結果、100〜250℃で、吸着したDMFが主成分と思われる重量減少が観察された(図10)。
【0183】
[実施例18]
調製例8で得られたLa−BTTcをエタノールに1日間浸漬したのち、濾過によってエタノールを除去して、少量のエタノールで洗浄した。これを3回繰り返した後、回収したLa−BTTcを室温で真空乾燥した。
【0184】
真空乾燥したLa−BTTcについて、調製例8と同様にしてTG−DTA分析を行った。この結果、調製例7で得られたLa−BTTcとは異なり、100〜250℃では重量減少が観察されなかった(図11)。エタノールによる洗浄処理によって、La−BTTcに吸着していたDMFが除去されたためと推察された。
【0185】
真空乾燥したLa−BTTcを、アセトン吸着−赤外分光法に供したところ、アセトンのカルボニル基由来の吸収スペクトルの頂点の波数は1686cm−1であった。つまり、真空乾燥したLa−BTTcと結合したアセトンのカルボニル基由来の吸収スペクトルの頂点は、アセトンのみの1715cm−1より、29cm−1短波数側にシフトしていた。
【0186】
調製例8で得られたLa−BTTc(エタノール洗浄前のLa−BTTc)を、アセトン吸着−赤外分光法に供したところ、アセトンのカルボニル基由来の吸収スペクトルの頂点の波数は1686cm−1よりも高波数側にあった。つまり、多孔性金属錯体をエタノール洗浄することにより、酸強度が向上したことがわかった。
【0187】
[調製例9]
(多孔性金属錯体(La−BTTc)の合成)
芳香族化合物(c)457mg(1.0mmol)を、硝酸ランタン(III)六水和物433mg(1.0mmol)及びDMF50mLと共にポリテトラフルオロエチレン製のるつぼに入れ、当該るつぼをステンレスジャケットで密封した。ステンレスジャケットを、120℃に温度調整したオイルバスで48時間加熱攪拌した後、室温まで冷却させ、反応液中に生じた白色沈殿を濾取することにより、多孔性金属錯体(La−BTTc)を得た。
【0188】
[実施例19]
調製例9で得られたLa−BTTcを、シアノシリル化反応における酸触媒として用いた。
具体的には、調製例9で得られたLa−BTTc0.05mmolを、200℃で2時間真空乾燥した。室温まで冷却した後、窒素雰囲気下でベンズアルデヒド(PhCHO)0.5mmolとトリメチルシリルシアニド[(CHSiCN]1.0mmolを加えて反応混合物を得た。当該反応混合物を室温で1時間攪拌した後、濾過した。液体(濾液)の一部を採取し、重クロロホルムに溶解してH−NMRを測定することにより、反応の進行度合いを評価した。収率は定量的(>99%)であった。
【0189】
【化11】
【0190】
[実施例20]
調製例9で得られたLa−BTTcを、シアノシリル化反応における酸触媒として用いた。
具体的には、調製例9で得られたLa−BTTc0.04mmolを、200℃で2時間真空乾燥した。室温まで冷却した後、窒素雰囲気下でベンズアルデヒド(PhCHO)4.0mmolとトリメチルシリルシアニド[(CHSiCN]4.0mmolを加えて反応混合物を得た。当該反応混合物を室温で0.5時間攪拌した後、濾過した。液体(濾液)の一部を採取し、重クロロホルムに溶解してH−NMRを測定することにより、反応の進行度合いを評価した。収率は68%であった。
【産業上の利用可能性】
【0191】
本発明に係る炭化水素の製造方法は、クラッキングによりオレフィン、特に低級オレフィンを効率よく製造し得るため、主に石油化学分野において利用可能である。中でも、低級オレフィン、特にプロピレンやブテンを低コストで製造可能であるため、本発明に係る炭化水素の製造方法は、年々高まる低級オレフィン、特にプロピレンやブテンのニーズに応えることができ、社会の発展に寄与すること大である。
また、本発明によれば、酸強度の高い多孔性金属錯体からなるクラッキング触媒を提供でき、さらに、酸強度を簡便かつ正確に測定することができる。これにより、多孔性金属錯体の酸強度を正確に見積もることができ、また、酸強度をさらに向上させることができるため、触媒としての応用範囲を広げることが可能になる。
【符号の説明】
【0192】
1…シュレンク管、2…サンプル瓶、3…切り替えバルブ、4…シリンジ、5…熱分解装置、6…GC/MS装置、7…GC装置、8…六方バルブ、9a…クラッキング触媒を詰めたガラスインサート、9b…触媒が充填されていないガラスインサート、10…キャピラリカラム、11…パックドカラム、12a、12b…水素炎イオン化型検出器、13a、13b…ストップ弁、14…圧力制御弁、P…圧力計。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11