特許第6204762号(P6204762)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6204762繊維複合材料の製造方法及び製造システム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6204762
(24)【登録日】2017年9月8日
(45)【発行日】2017年9月27日
(54)【発明の名称】繊維複合材料の製造方法及び製造システム
(51)【国際特許分類】
   B29C 70/54 20060101AFI20170914BHJP
   B29C 43/18 20060101ALI20170914BHJP
   B29C 35/02 20060101ALI20170914BHJP
   B29K 101/12 20060101ALN20170914BHJP
【FI】
   B29C70/54
   B29C43/18
   B29C35/02
   B29K101:12
【請求項の数】1
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2013-182001(P2013-182001)
(22)【出願日】2013年9月3日
(65)【公開番号】特開2015-47807(P2015-47807A)
(43)【公開日】2015年3月16日
【審査請求日】2016年8月3日
(73)【特許権者】
【識別番号】000110158
【氏名又は名称】トクデン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100121441
【弁理士】
【氏名又は名称】西村 竜平
(74)【代理人】
【識別番号】100154704
【弁理士】
【氏名又は名称】齊藤 真大
(72)【発明者】
【氏名】北野 嘉秀
【審査官】 ▲高▼橋 理絵
(56)【参考文献】
【文献】 特表2008−501555(JP,A)
【文献】 特開2012−148568(JP,A)
【文献】 国際公開第2008/062818(WO,A1)
【文献】 特開昭51−103170(JP,A)
【文献】 特開平05−321114(JP,A)
【文献】 特開平07−016936(JP,A)
【文献】 特開2003−080519(JP,A)
【文献】 特開昭56−038248(JP,A)
【文献】 特開2012−153133(JP,A)
【文献】 特開2013−063524(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B29C 70/00−70/88
B29C 43/00−43/58
B29C 35/00−35/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
シート状又は粉体状をなす熱可塑性樹脂と繊維集合体とを積層して構成される積層体から繊維複合材料を製造する繊維複合材料製造システムであって、
前記積層体に過熱水蒸気を吹き付けて前記熱可塑性樹脂を軟化又は溶融させる過熱蒸気噴射装置を備え、
前記過熱蒸気噴射装置が、内部に流路が形成された導電性材料からなる流路形成体と、前記流路形成体に設けられた1又は複数の流体噴出部と、前記流路形成体をその内部抵抗により通電加熱又は誘導加熱して、前記流路を流れる水蒸気を加熱して過熱水蒸気を生成する加熱機構とを有する繊維複合材料製造システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば炭素繊維等の繊維及び熱可塑性樹脂の複合材料を製造するための製造方法及びその製造方法に用いられる製造装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
炭素繊維と樹脂との複合材(CFRP)は、高い強度及び軽量という特徴によって、例えば航空機のボディー材料として用いられているが、近年では、航空機のボディー材料以外の用途、例えば自動車用部品として採用すべく開発が進められている。
【0003】
ここで、航空機のボディー材料に用いられるCFRPは、炭素繊維シートと熱硬化性樹脂とから形成されており、熱硬化性樹脂の硬化時間は、数時間と非常に長い。
【0004】
一方で、自動車用部品等に用いられるCFRPとして、上記の航空機のボディー材料に用いられるCFRPを用いた場合には、硬化(成型)時間が非常に長いことが製造上のネックとなり、熱可塑性樹脂を用いたCFRPの採用が検討されている。
【0005】
しかしながら、熱可塑性樹脂は、粘度が非常に高く、炭素繊維シートに含侵させることが困難であり、炭素繊維シートの平面方向において均一に熱可塑性樹脂を含侵させることが難しい。ここで、炭素繊維シートの少なくとも一方の面に均一に熱可塑性樹脂を配置した後に、その熱可塑性樹脂を加熱して炭素繊維シートに熱可塑性樹脂を含侵させることが考えられる。
【0006】
ここで、熱可塑性樹脂を軟化又は溶融させて炭素繊維シートに含侵させる方法としては、特許文献1に示すように、加熱ローラ装置又は加熱ベルト装置を用いて、熱可塑性樹脂に熱を加えながら加圧して含侵させることが考えられている。
【0007】
しかしながら、この方法では、熱可塑性樹脂及び炭素繊維シートからなる積層体の内部まで十分に加熱することができず、積層体内部における熱可塑性樹脂の含侵が不十分になってしまうという問題がある。また、軟化又は溶融した熱可塑性樹脂が加熱ローラ装置又は加熱ベルト装置に付着してしまい、炭素繊維シートに含侵する熱可塑性樹脂が不均一になってしまうという問題がある。さらに、加熱ローラ装置又は加熱ベルト装置に付着した熱可塑性樹脂を取り除く必要もあり、メンテナンスが煩雑になってしまうという問題もある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開平6−256534号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
そこで本発明は、上記問題点を解決するためになされたものであって、熱可塑性樹脂を繊維集合体に容易且つ確実に含侵させることをその主たる所期課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
すなわち本発明に係る繊維複合材料製造方法は、シート状又は粉体状をなす熱可塑性樹脂と繊維集合体とを積層して構成される積層体に過熱蒸気を吹き付けて、前記熱可塑性樹脂を軟化又は溶融させることにより、前記熱可塑性樹脂を前記繊維集合体に含侵させることを特徴とする。
【0011】
このようなものであれば、積層体に過熱蒸気を吹き付けているので、過熱蒸気の高い熱浸透性により、積層体の外面だけでなく、積層体の内部にも熱を与えることができ、効率良く熱可塑性樹脂を軟化又は溶融させることができる。これにより、熱可塑性樹脂を繊維集合体に容易且つ確実に含侵させることができる。また、過熱蒸気を積層体に吹き付けて熱可塑性樹脂を非接触で加熱するので、軟化又は溶融した熱可塑性樹脂が、従来の加熱ロールプレス装置や加熱ベルトプレス装置に付着することを防ぐことができる。これにより、熱可塑性樹脂が加熱ロールプレス装置や加熱ベルトプレス装置に付着して生じる熱可塑性樹脂の不均一を解消することができ、加熱ロールプレス装置や加熱ベルトプレス装置のメンテナンスを不要にすることができる。
【0012】
特にシート状の熱可塑性樹脂と繊維集合体とを積層したものでは、繊維複合材料における熱可塑性樹脂の樹脂密度を均一化させることができる。
【0013】
また、本発明に係る繊維複合材料製造方法は、シート状又は粉体状をなす熱可塑性樹脂と繊維集合体とを積層して構成される積層体を、過熱蒸気雰囲気下に配置して、前記熱可塑性樹脂を軟化又は溶融させることにより、前記熱可塑性樹脂を前記繊維集合体に含侵させることを特徴とする。
【0014】
このようなものであれば、積層体を、過熱蒸気雰囲気下に配置しているので、過熱蒸気の高い熱浸透性により、積層体の外面だけでなく、積層体の内部にも熱を与えることができ、効率良く熱可塑性樹脂を軟化又は溶融させることができる。これにより、熱可塑性樹脂を繊維集合体に容易且つ確実に含侵させることができる。また、積層体を、過熱蒸気雰囲気下に配置して熱可塑性樹脂を非接触で加熱するので、軟化又は溶融した熱可塑性樹脂が、従来の加熱ロールプレス装置や加熱ベルトプレス装置に付着することを防ぐことができる。これにより、熱可塑性樹脂が加熱ロールプレス装置や加熱ベルトプレス装置に付着して生じる熱可塑性樹脂の不均一を解消することができ、加熱ロールプレス装置や加熱ベルトプレス装置のメンテナンスを不要にすることができる。
【0015】
前記積層体が、前記熱可塑性樹脂と前記繊維集合体とを交互に積層した多層構造をなすものであることが望ましい。このように積層体が多層構造をなすものの場合に本発明の効果を顕著にすることができる。
【0016】
前記繊維集合体が炭素繊維からなるものであることが望ましい。また、前記繊維集合体が、繊維シートであることが望ましい。
【0017】
前記熱可塑性樹脂が軟化又は溶融した状態で、常温又は前記熱可塑性樹脂の温度よりも低く温度設定された加圧ロール装置又は加圧ベルト装置により、前記積層体を加圧することが望ましい。
【0018】
また本発明に係る繊維複合材料製造システムは、シート状又は粉体状をなす熱可塑性樹脂と繊維集合体とを積層して構成される積層体から繊維複合材料を製造する繊維複合材料製造システムであって、前記積層体に過熱蒸気を吹き付けて前記熱可塑性樹脂を軟化又は溶融させる過熱蒸気噴射装置を備え、前記過熱蒸気噴射装置が、内部に流路が形成された導電性材料からなる流路形成体と、前記流路形成体に設けられた1又は複数の流体噴出部と、前記流路形成体を通電加熱又は誘導加熱して、前記流路を流れる水蒸気を加熱して過熱水蒸気を生成する加熱機構とを有することを特徴とする。
【0019】
このようなものであれば、上記の繊維複合材料製造方法による効果に加えて、流路形成体を通電加熱又は誘導加熱により加熱しているので、過熱蒸気の生成効率を向上させることができる。
【発明の効果】
【0020】
このように構成した本発明によれば、シート状又は粉体状をなす熱可塑性樹脂と繊維集合体とを積層して構成される積層体に含まれる熱可塑性樹脂を過熱蒸気を用いて軟化又は溶融させているので、熱可塑性樹脂を繊維集合体に容易且つ確実に含侵させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1】積層体を示す模式図。
図2】本実施形態に係る繊維複合材料製造システムの構成を模式的に示す図。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下に本発明に係る繊維複合材料製造システムの一実施形態について図面を参照して説明する。
【0023】
本実施形態に係る繊維複合材料製造システム1は、繊維集合体である炭素繊維シート及び熱可塑性樹脂を有する積層体Wを加熱して繊維複合材料である炭素繊維強化樹脂(CFRP)のプリグレグを製造するものである。
【0024】
積層体Wとしては、図1に示すように、炭素繊維束を例えばクロス状に織られてシート状に加工して形成された炭素繊維シートW1と、熱可塑性樹脂をシート状に加工して形成された熱可塑性樹脂シートW2とを交互に積層した多層のものである。なお、図1においては、最上層及び最下層が炭素繊維シートW1であるが、熱可塑性樹脂シートW2であっても構わない。また、繊維集合体としては、炭素繊維束を織ることでシート状に加工されたものの他、糸条の炭素繊維束又は繊維を平面状に規則的又は不規則に並べて形成されたものであっても良い。
【0025】
具体的に繊維複合材料製造システム1は、図2に示すように、積層体Wに過熱蒸気(過熱水蒸気)を吹き付けて熱可塑性樹脂W2を軟化又は溶融させる過熱蒸気噴射装置2と、過熱水蒸気が吹き付けられた積層体Wを常温又は熱可塑性樹脂シートW2(積層体W)の温度よりも低く温度設定されたローラを有する加圧ローラ装置又は常温又は熱可塑性樹脂シートW2(積層体W)の温度よりも低く温度設定されたベルトを有する加圧ベルト装置(不図示)とを備えている。なお、加圧ローラ装置又は加圧ベルト装置は必ずしも必要ではないが、軟化又は溶融した熱可塑性樹脂の含侵をより確実にするために設けることが好ましい。なお、加圧ロール装置又は加圧ベルト装置は、熱可塑性樹脂を加熱及び加圧して軟化又は溶融させるものではないので、従来のように熱可塑性樹脂がロール又はベルトに付着する心配はない。
【0026】
過熱蒸気噴射装置2は、積層体Wの表面及び裏面の両面に過熱水蒸気を吹き付けるものであり、内部に流路が形成された導電性材料からなる流路形成体21と、当該流路形成体21に設けられた1又は複数の流体噴出部22と、流路形成体21を通電加熱して、流路を流れる水蒸気(飽和水蒸気)を加熱して過熱水蒸気を生成する加熱機構23とを有する。流路形成体21は、例えばステンレス製の配管により構成されている。また、流体噴出部22は、積層体Wの表面又は裏面に対向して開口している。加熱機構23は、三相交流電源を有しており、当該三相交流電源から流路形成体21に三相交流電圧を印加して直接通電し、流路形成体21の内部抵抗により発生するジュール熱によって流路形成体21を加熱することにより、当該流路形成体21の流路を流れる水蒸気を加熱するものである。このように構成された過熱蒸気噴射装置2により、過熱蒸気が積層体Wの表面及び裏面の両面に過熱水蒸気が直接吹き付けられる。
【0027】
次に、このように構成した繊維複合材料製造システム1を用いた繊維複合材料製造方法について説明する。
【0028】
まず、炭素繊維シートW1及び熱可塑性樹脂シートW2を交互に積層して積層体Wを形成する。このように構成された積層体Wを過熱蒸気噴射装置2が設けられた処理室R内に収容し、過熱蒸気噴射装置2により過熱水蒸気を吹き付ける。このように積層体Wに吹き付けられた過熱水蒸気は、積層体Wの外面を加熱するだけでなく、その優れた熱浸透性により、積層体Wの内部に熱授与して、積層体Wに含まれる熱可塑性樹脂シートW2を軟化又は溶融させることができ、その結果、熱可塑性樹脂を炭素繊維シートW1に含侵させることができる。このとき、過熱水蒸気を積層体Wに吹き付けているので、軟化又は溶融した熱可塑性樹脂は、吹き付けられた過熱水蒸気から受ける力により、炭素繊維シートに含侵し易い。その後、必要に応じて、加圧ローラ装置又は加圧ベルト装置により加圧して軟化又は溶融した熱可塑性樹脂を炭素繊維シートに含侵させる。
【0029】
このように構成した本実施形態に係る繊維強化樹脂成型システム1によれば、積層体に過熱水蒸気を吹き付けているので、過熱水蒸気の高い熱浸透性により、積層体Wの外面だけでなく、積層体Wの内部にも熱を与えることができ、効率良く熱可塑性樹脂を軟化又は溶融させることができる。これにより、熱可塑性樹脂を炭素繊維シートW1に容易且つ確実に含侵させることができる。また、過熱水蒸気を積層体Wに吹き付けて、熱可塑性樹脂を非接触で加熱するので、軟化又は溶融した熱可塑性樹脂が、従来の加熱ロールプレス装置や加熱ベルトプレス装置に付着することを防ぐことができる。これにより、熱可塑性樹脂が加熱ロールプレス装置や加熱ベルトプレス装置に付着して生じる熱可塑性樹脂の不均一を解消することができ、加熱ロールプレス装置や加熱ベルトプレス装置のメンテナンスを不要にすることができる。さらに、熱可塑性樹脂シートW2を用いて積層体Wを構成しているので、繊維複合材料における熱可塑性樹脂の樹脂密度を均一化させることができる。
【0030】
なお、本発明は前記各実施形態に限られるものではない。
例えば、前記実施形態では、熱可塑性樹脂シートW2を用いて積層体Wを構成しているのが、粉体状の熱可塑性樹脂を用いて積層体Wを構成したものであっても良い。繊維集合体は、炭素繊維に限られず、アラミド繊維やガラス繊維等の強化繊維プラスチックに用いられる繊維を用いることができる。
【0031】
また、前記実施形態の過熱蒸気噴射装置2では、流路形成体を通電加熱するものであったが、流路形成体21を誘導加熱するものであっても良い。
【0032】
さらに、前記実施形態では、積層体Wの両面に過熱水蒸気を吹き付けるものであったが、積層体Wの一方の面(片面)のみに過熱水蒸気を吹き付けるものであっても良い。この場合であっても、処理室R内は、過熱水蒸気で充満するため、過熱水蒸気が吹き付けられない他方の面も過熱水蒸気に曝されるため、熱可塑性樹脂の軟化又は溶融を容易且つ確実に行うことができる。
【0033】
その上、前記実施形態では、積層体Wに過熱水蒸気を吹き付けるものであったが、積層体Wを過熱蒸気雰囲気下に配置することにより、熱可塑性樹脂を軟化又は溶融させるようにしても良い。具体的には、前記実施形態の処理室Rに積層体Wを収容した後に、当該処理室R内に過熱水蒸気を供給して処理室R内を過熱水蒸気で充満させることが考えられる。
【0034】
さらに加えて、前記実施形態の過熱蒸気噴射装置2において、流体噴出部22にノズルを設けても良い。このようにノズルを設けることによって、過熱水蒸気をノズルにより定められる所定の噴射範囲に噴出することができる。そして、複数のノズルの噴射範囲を組み合わせる(例えば隣接するノズルの噴射範囲をオーバラップさせる等)ことにより、過熱水蒸気を均一に積層体Wに吹き付けることができ、積層体Wの熱可塑性樹脂を均一に加熱して軟化又は溶融させることができる。
【0035】
その他、本発明は前記実施形態に限られず、その趣旨を逸脱しない範囲で種々の変形が可能であるのは言うまでもない。
【符号の説明】
【0036】
1・・・繊維複合材料製造システム
2・・・過熱蒸気噴射装置
21・・・流路形成体
22・・・流体噴出口
23・・・加熱機構
図1
図2