【実施例1】
【0010】
図1に本発明の増幅回路の構成を、
図2に蛍光表示管でのノイズが発生する理由を説明するための図を、
図3にアノードの電圧の成分と増幅回路の出力の成分のイメージを示す。増幅回路10は、蛍光表示管110、制御部120、差動増幅部130を備える。蛍光表示管110は、両端が固定されたフィラメント111、複数組のグリッド112A,112Bとアノード113A,113Bを有する。フィラメント111は、保持具118である程度の張力を保つように保持されている。例えば、保持具118は、一端は固定し、他端は弾性体で引っ張る構造である。また、フィラメント111には電源109が接続される。なお、
図1には、フィラメント111は1本しか示していないが、複数本のフィラメント111を有してもよい。
【0011】
図1では、第1組がグリッド112Aとアノード113Aであり、第2組がグリッド112Bとアノード113Bとする。第1組のアノード113Aには抵抗102Aを介して電源101を接続し、第2組のアノード113Bには抵抗102Bを介して電源101を接続すればよい。なお、
図1には2組のグリッドとアノードを示しているが、3組以上のグリッドとアノードを有してもよい。
【0012】
制御部120は、信号源140からの電圧の信号を入力とし(以下、「入力信号」という。)、所定のバイアス電圧が付加された入力信号と同位相の信号(以下、「バイアス同位相信号」という。)と入力信号と逆位相の信号(以下、「バイアス逆位相信号」という。)を出力する。「バイアス電圧」は、蛍光表示管110のダイナミックレンジが広くなるように適宜設定すればよい。
【0013】
制御部120は、
図1に示すように、例えば、電圧反転部121、コンデンサ122A,122B、バイアス電源123、抵抗124A,124Bで構成すればよい。この構成の場合、入力信号は、2つに分割され、一方はコンデンサ122Aで入力信号の交流成分のみが抽出され、バイアス電源123と抵抗124Aによってバイアス電圧が付加されてバイアス同位相信号として出力される。分割された入力信号の他方は、電圧反転部121で位相が逆なり、コンデンサ122Bで交流成分のみが抽出され、バイアス電源123と抵抗124Bによってバイアス電圧が付加されてバイアス同位相信号として出力される。バイアス同位相信号は、複数組あるグリッドとアノードの組の第1組のグリッド112Aに印加される。バイアス逆位相信号は、第1組以外の組である第2組のグリッド112Bに印加される。フィラメントで発生した熱電子は、グリッド112A,112Bに印加される電圧でコントロールされるので、アノード113Aの電圧V
Aの入力信号成分が
図3(A)のようになるとき、アノード113Bの電圧V
Bの入力信号成分は
図3(C)のようになる。つまり逆位相になる。
【0014】
次に、蛍光表示管110で生じるノイズについて説明する。フィラメント111は、張力が与えられていることで弦のような振る舞いをする。したがって、
図2に示すような振動が生じやすい。そして、この振動はフィラメント111とアノード113A,113Bとの距離を変化させるので、アノード113A,113Bの電圧には振動によるノイズが含まれることになる。また、フィラメント111とアノード113Aとの距離が近くなるときは、フィラメント111とアノード113Bとの距離も近くなる。したがって、アノード113Aの電圧V
Aのノイズ成分が
図3(B)のようになるとき、アノード113Bの電圧V
Bのノイズ成分は
図3(D)のようになる。つまり同位相になる。
【0015】
差動増幅部130は、第1組のアノード113Aの電圧V
Aと第2組のアノード113Bの電圧V
Bとの差を増幅する。したがって、逆位相となっているアノード113Aの電圧V
Aの入力信号成分とアノード113Bの電圧V
Bの入力信号成分は強めあい、同位相となっているアノード113Aの電圧V
Aのノイズ成分とアノード113Bの電圧V
Bのノイズ成分は弱めあう。したがって、出力電圧V
outの入力信号成分は
図3(E)のようになり、出力電圧V
outのノイズ成分は
図3(F)のようになる。よって、蛍光表示管110が有する増幅器には適していない特徴から生じるノイズを低減できる。
【0016】
なお、ノイズ成分はこのようにフィラメント111の振動によって生じ、差動増幅部130で弱めあうので、振動の振幅が同じになる位置に第1組のグリッド112Aとアノード113Aと、第2組のグリッド112Bとアノード113Bとを配置すれば、ノイズ成分同士を同程度にでき、より低減できる。例えば、第1組のグリッド112Aとアノード113Aと、第2組のグリッド112Bとアノード113Bとを、フィラメント111の垂直二等分線115について互いに対称な位置に配置すればよい。「フィラメントの垂直二等分線」とは、フィラメントが弦として振動する部分(線分)の垂直二等分線、もしくは振動の腹の位置での垂線を意味している。
【0017】
本発明の増幅回路10によれば、差動増幅部130へ入力される2つの電圧V
A,V
Bの入力信号成分同士を逆位相にし、蛍光表示管110で生じるノイズ成分同士を同位相にできるので、ノイズ成分を小さくできる。したがって、安価で入手しやすい蛍光表示管を用いて真空管の特性(ソフトディストーション)を有する増幅回路が実現できる。