特許第6204771号(P6204771)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6204771
(24)【登録日】2017年9月8日
(45)【発行日】2017年9月27日
(54)【発明の名称】増幅回路
(51)【国際特許分類】
   H03F 1/28 20060101AFI20170914BHJP
   H03F 3/45 20060101ALI20170914BHJP
   H03F 3/68 20060101ALI20170914BHJP
【FI】
   H03F1/28
   H03F3/45
   H03F3/68 B
【請求項の数】1
【全頁数】5
(21)【出願番号】特願2013-195101(P2013-195101)
(22)【出願日】2013年9月20日
(65)【公開番号】特開2015-61257(P2015-61257A)
(43)【公開日】2015年3月30日
【審査請求日】2016年8月3日
(73)【特許権者】
【識別番号】000130329
【氏名又は名称】株式会社コルグ
(74)【代理人】
【識別番号】100121706
【弁理士】
【氏名又は名称】中尾 直樹
(74)【代理人】
【識別番号】100128705
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 幸雄
(74)【代理人】
【識別番号】100147773
【弁理士】
【氏名又は名称】義村 宗洋
(72)【発明者】
【氏名】三枝 文夫
【審査官】 石田 昌敏
(56)【参考文献】
【文献】 特開平10−224163(JP,A)
【文献】 特開平03−011534(JP,A)
【文献】 特開平03−225721(JP,A)
【文献】 特開2013−017107(JP,A)
【文献】 特開昭60−002988(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H03F 1/00− 3/72
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
フィラメントと、複数組のグリッドとアノードを有する蛍光表示管と、
前記複数組の中の組である第1組のグリッドに入力信号と同じ位相の電圧を印加し、前記第1組以外の前記複数組の中の組である第2組のグリッドに入力信号と逆の位相の電圧を印加する制御部と、
前記第1組のアノードの電圧と前記第2組のアノードの電圧との差を増幅する差動増幅部と、
を備え
前記第1組と前記第2組とは、前記フィラメントの垂直二等分線について互いに対称な位置にある
ことを特徴とする増幅回路。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、蛍光表示管を用いた増幅回路に関する。
【背景技術】
【0002】
真空管や半導体素子を用いた増幅回路は従来技術として知られている。そして、今でも音楽業界では、真空管を用いた増幅回路が持つ飽和レベルに対する漸近的な特性(ソフトディストーション)を好む人たちがいる。また、真空管の一種であるが、表示用の素子である蛍光表示管は普及しており、特許文献1に示すような駆動回路の技術が公知である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2007−72323号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、増幅回路用の真空管は製造量が減っており、価格の上昇や入手が困難という課題がある。一方、真空管の一種である蛍光表示管は、普及しているので安価かつ入手が容易であるが、表示用なので音響信号の増幅回路に用いるとノイズが多いという課題がある。
【0005】
本発明の目的は、安価で入手しやすい蛍光表示管を用いた増幅回路を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の増幅回路は、蛍光表示管と制御部と差動増幅部とを備える。蛍光表示管は、フィラメントと、複数組のグリッドとアノードを有する。制御部は、複数組の中の組である第1組のグリッドに入力信号と同じ位相の電圧を印加し、第1組以外の組である第2組のグリッドに入力信号と逆の位相の電圧を印加する。差動増幅部は、第1組のアノードの電圧と第2組のアノードの電圧との差を増幅する。
【発明の効果】
【0007】
本発明の増幅回路によれば、差動増幅部へ入力される2つの電圧の入力信号成分同士は逆位相にし、蛍光表示管で生じるノイズ成分同士は同位相にできるので、ノイズ成分を小さくできる。したがって、安価で入手しやすい蛍光表示管を用いて真空管の特性(ソフトディストーション)を有する増幅回路が実現できる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】本発明の増幅回路の構成を示す図。
図2】蛍光表示管でのノイズが発生する理由を説明するための図。
図3】アノードの電圧の成分と増幅回路の出力の成分のイメージを示す図。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明の実施の形態について、詳細に説明する。なお、同じ機能を有する構成部には同じ番号を付し、重複説明を省略する。
【実施例1】
【0010】
図1に本発明の増幅回路の構成を、図2に蛍光表示管でのノイズが発生する理由を説明するための図を、図3にアノードの電圧の成分と増幅回路の出力の成分のイメージを示す。増幅回路10は、蛍光表示管110、制御部120、差動増幅部130を備える。蛍光表示管110は、両端が固定されたフィラメント111、複数組のグリッド112A,112Bとアノード113A,113Bを有する。フィラメント111は、保持具118である程度の張力を保つように保持されている。例えば、保持具118は、一端は固定し、他端は弾性体で引っ張る構造である。また、フィラメント111には電源109が接続される。なお、図1には、フィラメント111は1本しか示していないが、複数本のフィラメント111を有してもよい。
【0011】
図1では、第1組がグリッド112Aとアノード113Aであり、第2組がグリッド112Bとアノード113Bとする。第1組のアノード113Aには抵抗102Aを介して電源101を接続し、第2組のアノード113Bには抵抗102Bを介して電源101を接続すればよい。なお、図1には2組のグリッドとアノードを示しているが、3組以上のグリッドとアノードを有してもよい。
【0012】
制御部120は、信号源140からの電圧の信号を入力とし(以下、「入力信号」という。)、所定のバイアス電圧が付加された入力信号と同位相の信号(以下、「バイアス同位相信号」という。)と入力信号と逆位相の信号(以下、「バイアス逆位相信号」という。)を出力する。「バイアス電圧」は、蛍光表示管110のダイナミックレンジが広くなるように適宜設定すればよい。
【0013】
制御部120は、図1に示すように、例えば、電圧反転部121、コンデンサ122A,122B、バイアス電源123、抵抗124A,124Bで構成すればよい。この構成の場合、入力信号は、2つに分割され、一方はコンデンサ122Aで入力信号の交流成分のみが抽出され、バイアス電源123と抵抗124Aによってバイアス電圧が付加されてバイアス同位相信号として出力される。分割された入力信号の他方は、電圧反転部121で位相が逆なり、コンデンサ122Bで交流成分のみが抽出され、バイアス電源123と抵抗124Bによってバイアス電圧が付加されてバイアス同位相信号として出力される。バイアス同位相信号は、複数組あるグリッドとアノードの組の第1組のグリッド112Aに印加される。バイアス逆位相信号は、第1組以外の組である第2組のグリッド112Bに印加される。フィラメントで発生した熱電子は、グリッド112A,112Bに印加される電圧でコントロールされるので、アノード113Aの電圧Vの入力信号成分が図3(A)のようになるとき、アノード113Bの電圧Vの入力信号成分は図3(C)のようになる。つまり逆位相になる。
【0014】
次に、蛍光表示管110で生じるノイズについて説明する。フィラメント111は、張力が与えられていることで弦のような振る舞いをする。したがって、図2に示すような振動が生じやすい。そして、この振動はフィラメント111とアノード113A,113Bとの距離を変化させるので、アノード113A,113Bの電圧には振動によるノイズが含まれることになる。また、フィラメント111とアノード113Aとの距離が近くなるときは、フィラメント111とアノード113Bとの距離も近くなる。したがって、アノード113Aの電圧Vのノイズ成分が図3(B)のようになるとき、アノード113Bの電圧Vのノイズ成分は図3(D)のようになる。つまり同位相になる。
【0015】
差動増幅部130は、第1組のアノード113Aの電圧Vと第2組のアノード113Bの電圧Vとの差を増幅する。したがって、逆位相となっているアノード113Aの電圧Vの入力信号成分とアノード113Bの電圧Vの入力信号成分は強めあい、同位相となっているアノード113Aの電圧Vのノイズ成分とアノード113Bの電圧Vのノイズ成分は弱めあう。したがって、出力電圧Voutの入力信号成分は図3(E)のようになり、出力電圧Voutのノイズ成分は図3(F)のようになる。よって、蛍光表示管110が有する増幅器には適していない特徴から生じるノイズを低減できる。
【0016】
なお、ノイズ成分はこのようにフィラメント111の振動によって生じ、差動増幅部130で弱めあうので、振動の振幅が同じになる位置に第1組のグリッド112Aとアノード113Aと、第2組のグリッド112Bとアノード113Bとを配置すれば、ノイズ成分同士を同程度にでき、より低減できる。例えば、第1組のグリッド112Aとアノード113Aと、第2組のグリッド112Bとアノード113Bとを、フィラメント111の垂直二等分線115について互いに対称な位置に配置すればよい。「フィラメントの垂直二等分線」とは、フィラメントが弦として振動する部分(線分)の垂直二等分線、もしくは振動の腹の位置での垂線を意味している。
【0017】
本発明の増幅回路10によれば、差動増幅部130へ入力される2つの電圧V,Vの入力信号成分同士を逆位相にし、蛍光表示管110で生じるノイズ成分同士を同位相にできるので、ノイズ成分を小さくできる。したがって、安価で入手しやすい蛍光表示管を用いて真空管の特性(ソフトディストーション)を有する増幅回路が実現できる。
【符号の説明】
【0018】
10 増幅回路
101、109 電源
102,124 抵抗
110 蛍光表示管
111 フィラメント
112 グリッド
113 アノード
118 保持具
120 制御部
121 電圧反転部
122 コンデンサ
123 バイアス電源
130 差動増幅部
140 信号源
図1
図2
図3