(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
従来、歯科用金属として金銀パラジウム合金等が使用されてきたが、貴金属価格の高騰、審美性、金属アレルギーの観点から、代替材料の開発が求められている。レジン系の材料は、対合歯への摩損性が低く、口腔内での修復が容易などの理由から、近年その用途が拡大しているが、機械的強度の観点からは、金属代替できるまでに至っていない。
【0003】
レジン系材料でガラス繊維による機械的強度の向上が試みられている。
【0004】
例えば特許文献1では、以下の技術が開示されている。
【0005】
多官能性ウレタン系(メタ)アクリレートを少なくとも1種以上含有する(メタ)アクリレート単量体組成物(A)100重量部に対して、重合開始剤(B)0.01〜5重量部及び無機粉末(c)10〜100重量部を含有してなる重合性単量体組成物(A)を含浸した繊維(B)からなる歯科用材料であって、該重合性単量体組成物(A)が25度で17mm〜37mmの稠度を有していることを特徴とする歯科用材料。
【0006】
しかし、上記特許文献1の方法では多官能ウレタン系(メタアクリレート)をベースとした重合性単量体組成物を使用しているため、歯科用補綴物作製用フレーム材を作製するにあたって重合硬化を行う必要があり、これによって架橋ネットワークが形成され、付形性が全く失われてしまう。歯科医師や歯科技工士といった術者が歯科用補綴物作製用フレーム材として適当な補強形状に本発明の歯科材料を付形するためには、重合硬化前の状態で操作を行わなければならず、繊維強化樹脂複合シートのべたつきが大きい点が問題であった。
具体的には、該繊維強化樹脂複合シートが触れた部分(石膏模型、ピンセット等)は全て重合性単量体で汚染されることになり、なおかつ該繊維強化樹脂複合シート自体もゴミやホコリを付着することによって汚染されやすい。無機粉末の添加によって一定の解決は試みられているものの、根本的な解決には至っていなかった。また、該繊維強化樹脂複合シートが一度折れ曲がって互いが付着(フォールディング)してしまうと、これを元の状態に戻すことは至難の業であった。よって、該樹脂含浸ガラス繊維複合体はこのようなリスクを低減するために最小限の大きさに裁断されて使用せざるを得なくなり、結果として補強されうる部位が限定されてしまい、十分な強度が得られないという問題があった。
【0007】
例えば、特許文献2では、以下の技術が開示されている。
【0008】
(a1)トリシクロデカン骨格、(a2)芳香族環骨格および(a3)ポリカーボネート骨格よりなる群から選ばれる少なくとも一つの骨格を有する多官能(メタ)アクリレート化合物(A)を少なくとも一種類含む重合性単量体と、該重合体単量体の合計100重量部に対して、(B1)無機短繊維および/または(B2)粒子状充填材を1〜900重量部と、(C)重合開始剤を0.01〜10重量部とを含有することを特徴とする歯科修復材組成物。
【0009】
このような歯科修復材組成物は他の一般的な歯科用修復材ペースト組成物と同様に使用することができることから操作性は良好である。しかし、上記のような短繊維による補強では強度向上効果が十分ではなく、特にブリッジにも対応できるほどの強度や剛性を確保することができなかった。
【0010】
このように、歯科用途で用いられる繊維補強レジンはガラス繊維にメタクリレートモノマー等の硬化性単量体の樹脂を含浸させ、適当な形状に付形した後に光重合等で硬化することで用いられるものがほとんどである。このような例は、他の特許文献でも見られる(特開平02-038402、特開2005-350421、特開2009-541568、特開平09-507238)が、上記いずれかの問題点を抱えている。
【0011】
一方、熱可塑性樹脂をガラス繊維に含浸させて補強材として用いる方法も提案されている。
【0012】
例えば、特許文献3では、以下の技術が開示されている。
【0013】
矯正用リテーナー、ブリッジ、空間維持装置、副子等として使用される受動的歯科装置において、その構造部材が重合体マトリックスと該マトリックス中に埋め込まれた強化繊維とよりなる有効な繊維強化複合材料より形成されており、強化繊維は複合材料の少なくとも20wt%をなし、前記重合体マトリックスに実質的に完全に密着しており、前記複合材料は実質的に空隙を含まず、0.5x10
5psi以上の弾性係数を有することを特徴とする受動的歯科装置。
【0014】
この特許では、繊維強化複合材は高分子マトリックスとそのマトリクスに埋め込まれた繊維から成り、高分子マトリックスとしてはポリアミド、ポリエステル、ポリオレフィン、ポリイミド、ポリアクリレート、ポリウレタン、スチレン、スチレンアクリロニトリル、ABS、ポリスルホン、ポリアセタール、ポリカーボネート、ポリフェニレンスルフィド、ビニルエステル、またはエポキシベースの材料から選んでよく、繊維には、ガラス繊維、炭素繊維、またはポリアミドおよびポリエチレンのような高分子繊維ならびにその他の天然繊維および合成繊維を含めても良い、とある。また、繊維は好ましくは長い連続フィラメントの形態をとるが、フィラメントは3から4mmの長さでもよく、均一または不均一の長さの短い繊維を用いても良いとある。
【0015】
しかしながら、同公報の方法で得られる樹脂繊維複合体は、弾性係数が最大でも2×10
6psi程度であり、矯正用リテーナーとしては有効かもしれないが、ブリッジ用フレーム材としてその機械的強度は未だ不十分なものであった。また、具体的な製造方法に関してはなんら記載がなかった。
【発明を実施するための形態】
【0030】
本発明の歯科用補綴物作製用フレーム材は、複数の無機繊維束よりなる連続無機繊維基材(A)及び水素結合部位を有する結晶性熱可塑性樹脂(B)を含む繊維強化樹脂複合シートからなることを特徴とする。
【0031】
本発明の歯科用補綴物作製用フレーム材(以下、本発明のフレーム材とも略す)の原料となるのが複数の無機繊維束よりなる連続無機繊維基材(A)と水素結合部位を有する結晶性熱可塑性樹脂(B)であり、連続無機繊維基材(A)に結晶性熱可塑性樹脂を含浸、あるいは、連続無機繊維基材(A)に、重合することにより結晶性熱可塑性樹脂を生成しうる重合性単量体を含浸、重合させることで有機無機複合体が形成される。これをシート状に成形したものが繊維強化樹脂複合シートであり、必要に応じて、このシートを加熱で軟化させ応力を付加することで特定のフレーム形状を成形する。これが歯科用補綴物作製用フレーム材となる。このフレーム材に、肉付けや審美性の改善を目的として被覆材や築盛材を盛り付け、接着することで歯科用補綴物が作製される。
【0032】
本発明における歯科用補綴物とは、歯や歯に関連する組織の欠損によって生じる顎口腔系の機能障害、審美性を回復することを目的として用いられる人工物である。具体的には、インレー、アンレー、クラウン、ブリッジ、義歯(全床、部分床)、人工歯、インプラント上部構造体、インプラントアバットメントを指す。本発明は特に高い機械的強度が必要とされるブリッジに好適である。
【0033】
本発明における歯科用補綴物作製用フレーム材とは、歯科用補綴物に使用される材料であって、機械的強度や耐久性を補強することを目的として補綴物構造体の一部を構成する強化部材を表す。補綴物全体の強度を補強するために、補綴物全体にわたって占められることが好ましく、補綴物全体の20%〜80%の体積を占める事が好ましい。特に好ましい範囲は、30〜50%の体積範囲である。本発明のフレーム材単体で補綴物を作製することは、作業効率や外観上の観点から好ましくなく、積層材や被覆材等のその他の材料と組み合わせて使用されることが好ましい。積層材や被覆材を具体的に例示すれば、常温重合レジン、表面光沢材、コンポジットレジン、硬質レジン、ハイブリッド型硬質レジン、ガラスセラミックス、ポリアミドやポリカーボネート等の熱可塑性樹脂、エポキシ樹脂などの熱硬化性樹脂、ジルコニアやアルミナなどの酸化物セラミックス等が挙げられるが、接着性が良好で弾性係数が近似していることから、コンポジットレジン、硬質レジン、ハイブリッド型硬質レジンが好ましい。また、これら積層材や被覆材をフレーム材に接着させる場合は適当な接着性組成物を使用することが好ましく、公知の歯科用接着性組成物が使用できる。フレーム材は良好な外観を得るために、またガラス繊維の補綴物表面での毛羽立ちによる外観低下や皮膚などへの刺激を抑制するために、表層に表れないように使用されるのが好ましい。支台側への露出は接着材によって被覆されるため問題ない。
【0034】
本発明における繊維強化樹脂複合シートとは、本発明の複数の無機繊維束よりなる連続無機繊維基材(A)及び水素結合部位を有する結晶性熱可塑性樹脂(B)からなる複合材料がシート状に成形されたものである。これをプリプレグ(中間材料)として使用し、歯科用補綴物作製用フレーム材が作製される。あらかじめシート状に成型しておくことによって、その後のフレーム材の作製が容易になる。本発明の繊維強化樹脂複合シートの形状は特に制限されないが、技工操作の作業性の観点から、幅が2〜300mm、長さが15〜300mm、厚みが0.1〜1.0mmの範囲から選択されるのが好ましい。また、本発明の繊維強化樹脂複合シートは、水素結合部位含有熱可塑性樹脂(B)を含浸させた複数の無機繊維束よりなる連続無機繊維基材(A)のシートが複数枚積層されて成形されたものを用いてもよい。シートを積層することによって厚みを調整し、所望の強度や操作性を得ることができる。
[(A)連続無機繊維基材]
本発明で用いる(A)連続無機繊維基材は複数の無機繊維束よりなることを特徴とする。ここで、連続とは、無機繊維束が基材の一端から他端まで切れ目なく存在することである。すなわち、短繊維や長繊維とは異なり、繊維強化樹脂複合シート中の無機繊維束の長さが、幅方向には該シートの幅と、長さ方向には該シートの長さと実質的に同じ長さであることを意味している。よって、繊維強化樹脂複合シート中に無機繊維基材が破断されて生じる切縁部を実質有していない。したがって、本発明の無機繊維束の長さは繊維強化樹脂複合シートの大きさによって決定し、前述した繊維強化樹脂複合シートの好ましい形状を勘案すれば、幅方向には2〜300mm、長さ方向には15〜300mmであることが好ましい。繊維の長さが長いほど高い補強硬化を得る事ができる。
【0035】
本発明に用いる無機繊維の材質としては特に制限はなく、シリカ繊維、ガラス繊維、アルミナ繊維、ジルコニア繊維、等が使用可能である。後述するシランカップリング処理が容易であることから、シリカ繊維、ガラス繊維であることが好ましい。ガラスの組成としてはアルミノシリケートガラスが一般的に用いられる。例えば、シリカ、アルミナ、酸化ホウ素、カルシア、マグネシア、酸化亜鉛、酸化バリウム、酸化リチウム、酸化ナトリウム、酸化ナトリウム、チタニア、ジルコニア、酸化鉄、フッ素等の配合割合を適宜調整して作製すればよい。代表的なガラス繊維の組成としては、Eガラス、Cガラス、Sガラス、Rガラス、Dガラス、ARガラス、Tガラス、NCRガラス、NEガラス、S2ガラス等が知られている。シリカの割合が60重量%以上であるガラスを用いるのが機械的強度の向上の観点から好ましく、アルカリ金属酸化物の割合が5重量%以下であるガラスを用いるのが口腔内における耐水性の観点から好ましい。特に好ましいガラス組成はSガラス、Tガラスである。
【0036】
本発明の連続無機繊維基材に用いられる無機繊維は、熱可塑性樹脂とのなじみを改善したり強度を向上させたりするために表面処理を行うのが好ましい。熱可塑性樹脂とのなじみが良くなると、繊維強化樹脂複合シート中の気泡が少なくなるほか、熱可塑性樹脂の連続無機繊維基材への含浸速度が上がることによって生産性が向上するなどのメリットがある。また、連続無機繊維基材と熱可塑性樹脂の密着性が増し水などの低分子化合物の侵入を抑制することができるため長期耐久性の向上に貢献する。表面処理は、フィラメント状の無機繊維に対して、それらが結束された無機繊維束に対して、複数の無機繊維束よりなる連続無機繊維基材に対して、いずれの工程で行ってもよい。表面処理方法としては、コーティング処理、エッチング処理、コンディショニング処理、コロナ処理、プラズマ処理、加熱処理、サンドブラスト等の機械的処理、プライマー処理、カップリング処理等が適用でき、これらを組み合わせてもよい。使用する表面処理剤は、無機繊維及び熱可塑性樹脂の相性の観点から適宜選択すればよい。無機繊維束がシリカ繊維、ガラス繊維の場合はシランカップリング剤による表面処理が好ましい。本発明の水素結合部位を有する結晶性熱可塑性樹脂と良好な反応性を有するシランカップリング剤を選択することで、無機繊維と熱可塑性樹脂との間に化学結合による高い密着性を得る事ができ、高い機械的強度と耐久性を得る事が出来る。このようなシランカップリング剤としては、アミノ基、イソシアネート基、グリシジル基、メルカプト基、ハロゲン化アルキル基、カルバミド基を含有するシランカップリング剤を使用することが好ましい。具体的に例示すれば、3−アミノプロピルトリメトキシシラン、3−アミノプロピルトリエトキシシラン、3−アミノプロピルトリス(メトキシエトキシエトキシ)シラン、N−メチルアミノプロピルトリメトキシシラン、N−メチルアミノプロピルトリエトキシシラン、3−イソシアナトプロピルトリエトキシシラン、3−イソシアナトプロピルトリメトキシシラン、3−メルカプトプロピルトリメトキシシラン、3−メルカプトプロピルトリエトキシシラン、N,N‘−ビス[(3−トリメトキシシリル)プロピル]エチレンジアミン、N,N‘−ビス[(3−トリエトキシシリル)プロピル]エチレンジアミン、トリメトキシ−シリルプロピルモディファイドポリエチレンイミン、アミノプロピルシスセルキオキサン、[(クロロメチル)フェニルエチル]トリメトキシシラン、[(クロロメチル)フェニルエチル]トリエトキシシラン、N−(2−アミノエチル)−3−アミノプロピルトリメトキシシラン、N−(2−アミノエチル)−3−アミノプロピルトリエトキシシラン、ウレイドプロピルトリメトキシシラン、ウレイドプロピルトリエトキシシラン、(3−グリシドキシプロピル)トリメトキシシラン、(3−グリシドキシプロピル)トリエトキシシラン等が挙げられる。
【0037】
表面処理剤は単体で使用してもよいし、2種類以上を組み合わせて使用してもよい。
【0038】
無機繊維に対する表面処理剤の量は、無機繊維の比表面積や物性の予備試験等の結果から適宜決定すればよいが、一般には無機繊維100質量部に対して0.1〜20質量部、好ましくは0.5〜10質量部の範囲から選択される。表面処理の方法も、無機繊維に表面処理剤の水溶液やアルコール溶液を噴霧し撹拌後加熱乾燥する方法(乾式処理法)、水やアルコール等に無機繊維を浸漬したものに表面処理剤を添加し所定時間後に無機繊維を回収して加熱乾燥する方法(湿式処理法)、インテグラルブレンド法等の、公知の方法を制限なく使用することができる。
【0039】
本発明に用いる連続無機繊維基材は複数の無機繊維束よりなる。無機繊維束は、フィラメントと呼ばれる無機繊維の糸を数十から数十万本単位で束状に結束したものである。フィラメントの直径は、1〜100ミクロンが好ましく、4〜25ミクロンがより好ましい。フィラメント径が小さいほどフィラメントを密に充填することができるため、繊維密度を高めて強度を高くする事が出来るが、樹脂の含浸性が難しくなるほか、無機繊維の製造が困難となりコストが上がる。フィラメント径が大きいほど、樹脂の含浸は容易だが得られる複合シートがたわみにくく成形が難しくなるほか、強度が低くなる傾向にある。また、無機繊維の繊度(tex/1000mあたりのグラム数)は20〜400texであることが好ましく、30〜300texであることが好ましい。繊度が400よりも太い繊維の場合、成形時に屈曲させる事が難しく補綴物の適合性が低くなる虞があり、強引に屈曲させると繊維自体が破断したり毛羽だってしまったりする可能性がでてくる。逆に繊度が20tex未満の場合、組織が緻密になるため空隙部分が少なくなり十分な樹脂の流動が難しくなる傾向にある。
【0040】
本発明に用いる連続無機繊維基材は複数の無機繊維束よりなる。これら複数の無機繊維束の配列方向は一方向に整列していてもよく(
図1)、一方向に整列した一連の無機繊維束が異なる二方向に交差するように積層されていてもよく(
図2)、更にそれらが織りこまれた織り構造を有していてもよい(
図3)。特に、歯科用補綴物作製用フレーム材に成形加工する際に、所望の形態に制御しやすい事から、織り構造を有してなることが好ましい。織り構造とは二方向の一連の無機繊維あるいは無機繊維束を交差させることで形成される構造の事である。一方向シート(
図1)は連続繊維の配列する方向と垂直の荷重がかかった場合には非常に良好な耐久性を示すが、平行にかかった荷重には弱いという欠点がある。この欠点を克服するためには、一方向シートを多層構造とし、配列方向を変えて積層する事が好ましい(
図2)。最も好ましい組み合わせは、二つの一方向シートが互いに垂直方向になるように積層した多層シートとすることが好ましい。それらが更に多層構造を形成していてもよい。一方向の連続無機繊維に保持を目的とした横糸を縫いこんだ一方向シートとしてもよい(
図4)。
【0041】
無機繊維の横糸と縦糸を織りこむことで製造する網目状の織り構造とすることが好ましい。この場合、横糸と縦糸が機械的なインターロッキングによって保持され、加熱溶融してもほどけにくい。また、強度についても荷重方向の影響を受けにくいというメリットがある。このような織り構造の代表例は、平織り、綾織り、サテン織り、バスケット織り、からみ織り、レノ織り、モックレノ織り等が挙げられるが、強度及び成形性の観点から綾織りが最も好ましい。綾織りには縦糸と横糸の交差頻度により2/2、2/1、3/1等の種類があるが、荷重方向の影響を受けにくいことから2/2が好ましい。無機繊維の繊維束の幅は、縦糸及び横糸それぞれ0.3〜1.2mmの範囲であることが、力を分散する効果が高く解けにくいことから好ましい。
【0042】
本発明の連続無機繊維基材の製造方法は、公知の方法が制限なく使用できる。
[(B)熱可塑性樹脂]
本発明に用いる熱可塑性樹脂(B)は、水素結合部位を有する結晶性熱可塑性樹脂であることを特徴とする。一般的にガラス繊維補強型樹脂(FRP)に使用される樹脂は、エポキシ樹脂、ビニルエステル樹脂、ポリエステル樹脂などの熱硬化性樹脂である。歯科用補綴物としてはビニルエステル樹脂が最も一般的に用いられている。これら、ビニルエステル樹脂に代表される熱硬化性樹脂ベースのFRPは脆性的な性質を持っており、衝撃や変形に弱くチッピングを起こしやすいのに対して、本発明ではFRP用の樹脂として特定の熱可塑性樹脂を用いることによって、衝撃耐久性が高く、粘り強く、破壊までにより大きなエネルギーを要する。このことによって、本発明の歯科用補綴物作製用フレーム材を用いた歯科用補綴物を口腔内で使用した際に、噛みしめによる衝撃を吸収するため破切しにくく、咬合咀嚼による繰り返し荷重を分散するため高い耐久性を示し、その耐薬品性や化学的安定性の高さから、口腔内における酸、アルコール、その他の化学物質による劣化が少ないといった利点を有する。
また、熱可塑性樹脂をベースとしたFRPを用いる事の他のメリットは、生産性の高さである。通常、熱硬化性樹脂は熱や光触媒や化学触媒による重合反応により硬化し、成形体を得るが、作製時間は重合時間に依存し最終重合まで到達させるためには非常に長い時間を要するのが一般的である。特に熱による重合反応の場合は、FRP全体を硬化させるために2時間〜24時間要する。一方、本発明の熱可塑性樹脂ベースのFRPは加熱時間と冷却時間に依存するが、およそ1分〜30分ほどのサイクルで成形が可能であるため生産性が高い。射出成型機等を用いることによって成形プロセスを自動化し、大量生産することも可能である。また、熱硬化性樹脂ベースのFRPプリプレグはべたつきが大きいため取り扱い性が非常に悪く、樹脂が人体や周囲に付着して汚したり、FRPプリプレグ自体が埃やゴミを付着して汚染され機械的物性に悪影響が起こったりするが、本発明の熱可塑性樹脂ベースのFRPとすることで、これらの問題は解決する。さらに、熱硬化性樹脂ベースのFRPでは反応性があるため保存安定性が悪く、歯科医院や歯科技工所での長期保管が難しかったが、本発明の熱可塑性樹脂ベースのFRPではこの問題が解決され、長期保存が容易になっている。
さらに、熱可塑性ベースのFRPを用いることによる効果は、プリプレグである繊維強化樹脂複合シートを所望のサイズ、所望の形状に容易に切断して用いる事ができることである。これによって、シートをより高い補強硬化を有するように最適な形状に加工することが可能となった。なおかつ、シートはべたつきがないため熱可塑性樹脂ベースのFRPで問題だったシートが折りたたまれて付着してしまう現象(フォールディング)が起こらず、より大きい範囲の補強が可能となるほか、特定の形状を有する歯科用補綴物作製用フレームを簡単に作ることができる。
【0043】
本発明で使用する熱可塑性樹脂は、水素結合部位を有する結晶性熱可塑性樹脂を用いることによって、機械的強度の高い歯科用補綴物作製用フレーム材とすることができる。このように、水素結合部位を有する結晶性熱可塑性樹脂を無機繊維と組み合わせた場合に特に高い補強硬化が得られる原因は明確ではないが、結晶性熱可塑性樹脂の結晶構造が無機繊維に沿って配位するため、あるいは結晶層が無機繊維で分断されることでミクロ分散化し、応力をより分散しやすくなるためではないかと考えられる。また、水素結合部位を有することで、樹脂の分子間での相互作用が大きくなることで樹脂鎖一つ一つの滑り性が小さくなり、応力がかかったときに複合材料全体で応力を分散する効果があるためではないかと考えられる。その他の結晶性熱可塑性樹脂としては、ポリプロピレン等の炭化水素系熱可塑性樹脂やポリフェニレンスルフィド等の芳香族系熱可塑性樹脂なども結晶性熱可塑性樹脂として知られており、一定の強度は示すものの、補強硬化が十分ではない。結晶性の有無は示差走査熱量測定で融点での吸熱ピークが観察されるかどうかによって判定することができる。
【0044】
本発明で用いる水素結合部位を有する結晶性熱可塑性樹脂としては、ポリアミド(ナイロン6、ナイロン11、ナイロン12、ナイロン66、ナイロン610等)、ポリアミドイミド、熱可塑性ポリウレタン、アイオノマー樹脂などが挙げられる。また、アミド基、ウレタン基、ウレア基、ビウレット基、アロファネート基、アミノ基、カルボニル、ヒドロキシル基、カルバミン酸基、カルボジイミド基、ウレトンイミン基、ウレトジオン基またはイソシアヌレート基等の水素結合部位を含有する他の結晶性熱可塑性樹脂であってもよい。機械的強度が高く加工温度が適当であることから、ポリアミド樹脂または熱可塑性ポリウレタン樹脂がより好ましく、耐水性に優れていることから熱可塑性ポリウレタン樹脂が特に好ましい。
【0045】
本発明の水素結合部位を有する結晶性熱可塑性樹脂は、室温〜口腔内では固体であり加熱すると溶融する性質をもつものが好ましいため、40度よりも高い融点を有する。好ましい融点の範囲は50〜300度であり、より好ましい融点は120〜260度である。融点が高いほど成形するためにオーブン温度を高く設定する必要があるため作業性が低下する。融点が低いと、口腔内の温度変化の影響を受けやすく耐久性に悪影響を及ぼす虞がある。融点は示差走査熱量測定の吸熱ピークから求める。
本発明の水素結合部位を有する結晶性熱可塑性樹脂は、口腔内での長期耐久性を得られやすい事からガラス転移点が70度以上であることが好ましく、100度以上であることがより好ましい。ガラス転移点が高いほど、高温の飲食物の摂食等による機械的物性低下の影響を受けにくい。
【0046】
本発明の水素結合部位を有する結晶性熱可塑性樹脂の分子量について特に制限はなく、本発明の効果が得られるような分子量の熱可塑性樹脂を適宜選択して使用すればよいが、口腔内における高い耐久性を得るために、重量平均分子量が10000以上であることが好ましく、100000以上であることがより好ましい。なお、熱可塑性樹脂の分子量の測定にはゲル浸透クロマトグラフィーが用いられる。測定条件は、対象となる熱可塑性樹脂の性質によりカラム、溶媒、温度等を適宜選択すればよいが、例えばヘキサフルオロイフソプロパノールを溶媒として用い、ポリメチルメタクリレートを分子量標準物質として相当する重量平均分子量を算出する方法が使用できる。本発明で用いる樹脂は室温で粘性液体を示すような分子量が数百〜数千程度のモノマー、オリゴマーとは異なる。
【0047】
本発明に用いる熱可塑性樹脂の製造方法は公知の方法が制限なく使用できる。
【0048】
以下に、熱可塑性ポリウレタン樹脂を具体例として詳細について述べる。本発明で用いる熱可塑性ポリウレタン樹脂は、主鎖に複数のウレタン結合を有するポリマーの総称であり、通常、分子中に複数のイソシアネート基を有する化合物とポリオールとの反応によって得られる。また、分子中には上記ウレタン結合の他に、ウレア、カルバミン酸、アミン、アミド、アロファネート、ビウレット、カルボジイミド、ウレトンイミン、ウレトジオンまたはイソシアヌレートなどの構造を有していても良い。本発明における水素結合部位を有する結晶性熱可塑性樹脂としての熱可塑性ポリウレタン樹脂は、工業界で一般的に使用されている熱可塑性ポリウレタンエラストマー樹脂を必ずしも意味するものではなく、本発明の効果が得られるよう選択されたものが使われるのが好ましい。
【0049】
熱可塑性ポリウレタン樹脂の原料として好適に使用できるイソシアネート基を有する化合物を例示すると、トリレンジイソシアネート、4,4−ジフェニルメタンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート、1,5−ナフタレンジイソシアネート、トルイジンジイソシアネート、フェニレンジイソシアネート、4,4−ジフェニルジイソシアネート、ジアニシジンジイソシアネート、4,4−ジフェニルエーテルジイソシアネート、トリフェニルメタントリイソシアネート、トリス(イソシアネートフェニール)チオホスフェート、テトラメチルキシレンジイソシアネートなどの芳香族イソシアネート化合物;トリメチルヘキサメチレンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、水添4,4−ジフェニルメタンジイソシアネート、水添キシレンジイソシアネート、リジンジイソシアネート、リジンエステルトリイソシアネート、1,6,11−ウンデカントリイソシアネート、1,8−ジイソシアネート−4−イソシナネートメチルオクタン、1,3,6−ヘキサメチレントリイソシアネート、ビシクロヘプタントリイイソシアネートなどの脂肪族イソシアネート化合物;これら芳香族イソシアネート化合物および/または肪族イソシアネート化合物と活性水素を有する化合物とをイソシアネート基が残るような仕込み比で種々の方法で結合させたポリイソシアネート化合物またはポリイソシアネートオリゴマー化合物などが挙げられる。これらのポリイソシアネート化合物は、分子中にイオウ原子またはハロゲン原子等を1または2以上含むものであっても良く、さらには上記ポリイソシアネートの変性体、ビュウレット、イソシアヌレート、アロファネート、カルボジイミドなどであっても良い。
【0050】
また、熱可塑性ポリウレタン樹脂の原料として好適に使用できる上記ポリオールとしては、低分子量ポリオールであっても良いが、イソシアネート基との反応速度を考えると、特に高分子ポリオールが好ましい。ここで、高分子ポリオールとは、重量平均分子量が500以上、より好適には500〜3000のものが該当する。また、ポリオールが有する水酸基の数は、2〜6が好ましく、2〜4が特に好ましい。また、上記ポリオールの他に、水酸基と同様に活性水素基である、アミノ基、メルカプト基を有する化合物も、上記イソシアネート基を有する化合物と反応させるポリウレタン樹脂の原料として、一部使用しても良い。
【0051】
高分子ポリオールとしては、たとえば、ポリエステルポリオール、ポリエーテルポリオール、ポリエーテルエステルポリオール、ポリエステルアミドポリオール、アクリルポリオール、ポリカーボネートポリオール、ポリヒドロキシアルカン、ポリウレタンポリオールまたはそれらの混合物、あるいはシリコーンポリオールなどが挙げられる。
【0052】
ポリエステルポリオールの具体例としては、たとえばテレフタル酸、イソフタル酸、アジピン酸、アゼライン酸、セバチン酸などの二塩基酸もしくはそれらのジアルキルエステルまたはそれらの混合物と、たとえばエチレングリコール、プロピレングリコール、ジエチレングリコール、ブチレングリコール、ネオペンチルグリコール、1,6−ヘキサングリコール、3−メチル−1,5−ペンタンジオール、3,3’−ジメチロールヘプタン、ポリオキシエチレングリコール、ポリオキシプロピレングリコール、ポリテトラメチレンエーテルグリコールなどのグリコール類もしくはそれらの混合物を反応させて得られるポリエステルポリオール、たとえばポリカプロラクトン、ポリバレロラクトン、ポリ(β−メチル−γ−バレロラクトン)などのラクトン類を開環重合して得られるポリエステルポリオールなどが挙げられる。
【0053】
ポリエーテルポリオールの具体例としては、たとえば水、エチレングリコール、プロピレングリコール、トリメチロールプロパン、グリセリンなどの低分子量ポリオールを開始剤として用いて、たとえばエチレンオキシド、プロピレンオキシド、ブチレンオキシド、テトラヒドロフランなどのオキシラン化合物を重合させることにより得られるポリエーテルポリオールなどが挙げられる。
【0054】
ポリエーテルエステルポリオールの具体例としては、たとえばテレフタル酸、イソフタル酸、アジピン酸、アゼライン酸、セバチン酸などの二塩基酸もしくはそれらのジアルキルエステルまたはそれらの混合物と、上記ポリエーテルポリオールとを反応させて得られるポリエーテルエステルポリオールなどが挙げられる。
【0055】
ポリエステルアミドポリオールの具体例としては、上記ポリエステル化反応に際し、たとえばエチレンジアミン、プロピレンジアミン、ヘキサメチレンジアミンなどのアミノ基を有する脂肪族ジアミンを原料として前記ポリエステル化反応物の原料に追加して反応させることによって得られるものなどが挙げられる。
【0056】
アクリルポリオールの具体例としては、1分子中に1個以上のヒドロキシル基を有する重合性モノマー、たとえばアクリル酸ヒドロキシエチル、アクリル酸ヒドロキシプロピル、アクリル酸ヒドロキシブチルなどあるいはこれらの対応するメタクリル酸誘導体などと、たとえばアクリル酸、メタクリル酸またはそのエステルとを共重合させることによって得られるものなどが挙げられる。
【0057】
ポリカーボネートポリオールの具体例としては、たとえばエチレングリコール、プロピレングリコール、1,3−プロパンジオール、1,4−ブタンジオール、1,5−ペンタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、3−メチル−1,5−ペンタンジオール、1,9−ノナンジオール、1,8−ノナンジオール、ネオペンチルグリコール、ジエチレングリコール、ジプロピレングリコール、1,4−シクロヘキサンジオール、1,4−シクロヘキサンジメタノール、ビスフェノール−Aおよび水添ビスフェノール−Aからなる群から選ばれた1種または2種以上のグリコールとジメチルカーボネート、ジフェニルカーボネート、エチレンカーボネート、ホスゲンなどとを反応させることにより得られるものなどが挙げられる。
【0058】
ポリヒドロキシアルカンの具体例としては、イソプレン、ブタジエン、またはブタジエンとアクリルアミドなどとを共重合させて得られる液状ゴムなどが挙げられる。
【0059】
ポリウレタンポリオールの具体例としては、たとえば1分子中にウレタン結合を有するポリオールが挙げられる。
【0060】
さらに上記高分子ポリオール以外に、低分子量ポリオールを混合しても良い。これら低分子量ポリオールの具体例としては、たとえばエチレングリコール、プロピレングリコール、1,3−プロパンジオール、1,4−ブタンジオール、1,5−ペンタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、1,9−ノナンジオール、1,8−オクタンナンジオール、ネオペンチルグリコール、ジエチレングリコール、ジプロピレングリコール、1,4−シクロヘキサンジオール、1,4−シクロヘキサンジメタノールなどのポリエステルポリオールの製造に使用されるグリコール類や、グリセリン、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトールなどが挙げられる。さらに、メタノール、エタノール、プロパノール類、ブタノール類、2−エチルヘキサノール、ラウリルアルコール、ステアリルアルコールなどのモノオールも併用することができる。
【0061】
本実施の形態における熱可塑性ポリウレタン樹脂は、ウレタン結合を含んで構成された結晶性の凝集性成分であるハードセグメントと上述の高分子ポリオールからなる非晶性成分であるソフトセグメントとから構成されている。こうした熱可塑性ポリウレタンは、ハードセグメントとソフトセグメントとのセグメント化のバランスにより諸物性を変化させることができるが、本発明における熱可塑性ポリウレタン樹脂は、室温〜口腔内の温度(0〜40度)において熱可塑性樹脂が結晶性を示すよう設計されてなる。
【0062】
また、本実施の形態において、熱可塑性ポリウレタン樹脂を構成するソフトセグメントは、ポリカーボネートポリオール骨格由来であることがより好ましい。このような熱可塑性ポリウレタン樹脂を採用した場合、耐水性が高く口腔内での長期耐久性が期待できる。
【0063】
[繊維強化樹脂複合シート]
本発明の歯科用補綴物作製用フレーム材は、上記連続無機繊維基材(A)及び熱可塑性樹脂(B)から作製される繊維強化樹脂複合シートを、そのまま、あるいは必要に応じて加熱によって軟化し、適当な形状へ圧縮力等を負荷して加工することによって得られる。あらかじめシート状に成形されているため、歯科用補綴物作製用フレーム材への加工が容易である。また、この繊維強化樹脂複合シートはべたつきがなく、適度なかたさとしなやかさを有するため、操作性が良好である。本発明の繊維強化樹脂複合シートは加工工程において加熱し溶融状態となった場合も伸縮性や形態保持性に優れるため、精度が良く加工しやすい。
【0064】
本発明の繊維強化樹脂複合シートにおける熱可塑性樹脂と連続無機繊維の配合比は、繊維強化樹脂複合シート全体を100%とした場合に、熱可塑性樹脂が30〜70体積%であることが好ましく、40〜60体積%であることがより好ましい。熱可塑性樹脂の配合割合が少なすぎると、無機繊維の隙間への樹脂の含浸が不十分となり内部にボイドが発生したり加工時に十分な形態保持性や適合精度が得られなくなったりする恐れがあり、熱可塑性樹脂の配合割合が多すぎると、十分な補強効果が得られず機械的強度が低くなる可能性がある。
本発明の繊維強化樹脂複合シートには、使用目的に応じてその他の成分を適宜添加することができる。たとえば、熱安定剤、安定化助剤、可塑剤、酸化防止剤、光安定剤、紫外線吸収剤、造核剤、重金属不活性化剤、難燃剤、滑剤、帯電防止剤、X線像影剤、顔料、蛍光剤、光輝顔料、充填剤等を使用目的に応じた添加量で添加することができる。
【0065】
[繊維強化樹脂複合シートの製造方法]
本発明の繊維強化樹脂複合シートの製造方法については特に制限されず、公知の方法が使用可能である。前記の熱可塑性樹脂を加熱溶融状態で連続無機繊維基材へ含浸させる工程を経て製造されてもよいし、熱可塑性樹脂の原料となる液状の化合物(重合性単量体や前記したイソシアネート化合物、ポリオール化合物等)と、必要に応じて重合触媒を連続無機繊維基材へ含浸させた後に重合硬化することで繊維強化樹脂複合シートを作製してもよい。含浸させる方法は特に制限がないが、具体的には、圧縮(プレス)成形、金型搬送冷却成形、ダイレクト成形、ダブルベルトプレス成形、ロール成形、樹脂フィルム含浸法、混織法、真空成形、積層成形、シートモールディングコンパウンド成形やこれらを組み合わせた方法が例として挙げられる。加熱溶融した熱可塑性樹脂や液状の熱可塑性樹脂原料の含浸方法としては、加圧、減圧いずれの方法を用いてもよい。
【0066】
例えば、プレス成形法で熱可塑性樹脂を含浸させる方法では、金型を熱可塑性樹脂の融点よりも高い温度に加熱し、この金型に連続無機繊維基材とシート、粉末またはペレット状の熱可塑性樹脂を配置し、加熱及び加圧により溶融含浸させる。次いで加圧を保持しながら金型を空冷あるいは冷媒により冷却し熱可塑性樹脂を固化させて繊維強化樹脂複合シートを得る。
【0067】
例えば、ダブルベルト成形法で熱可塑性樹脂を含浸させる方法では、ダブルベルトプレス用の成形機を用いる。シートあるいはフィルム状の連続無機繊維基材とシートあるいはフィルム状の熱可塑性樹脂をこれに配置し、二枚のベルトの間に挟み込み、熱可塑性樹脂を加熱溶融しながら加圧することで熱可塑性樹脂を連続無機繊維へ溶融含浸させ、ベルトで移送しながら連続的に冷却固化することで繊維強化樹脂複合シートを得ることができる。連続式なので生産効率が高い。
【0068】
また、これらの製造方法によって成形された繊維強化樹脂複合シートを2枚以上積層することによって厚みを任意に調整した積層型繊維強化樹脂複合シートとしてもよい。この場合も前記と同様な製造方法が適用でき、例えば繊維強化樹脂複合シートを2枚以上重ね合わせ、熱可塑性樹脂成分が加熱溶融する温度まで加熱した後にプレス加工することで製造することができる。
【0069】
本発明の繊維強化樹脂複合シートは、適当な大きさに裁断された状態で、あるいは適当な立体的形状に成形された状態で、歯科技工士や歯科医師に提供され使用に供される。
【0070】
[歯科用補綴物フレーム材の製造方法]
本発明の繊維強化樹脂複合シートは、補綴物を補強するのに過不足ない大きさに裁断し、必要に応じて加熱軟化した状態で力を加えることで適当な形状に成形したものを、歯科用補綴物フレーム材として使用することができる。裁断方法としては、カッター、ハサミ、ニッパ、裁断機等の公知の方法から適宜選択すればよい。適当な形状に加工する方法としては、加熱と成形を同一装置で行ってもよいし、別途オーブンなどで繊維強化樹脂複合シートを加熱した後に加工装置に素早く移設して成形加工を行ってもよい。代表的な加熱装置としては、IRヒーター、コンタクトヒーター、オーブン等が挙げられる。立体的な構造に変形させる方法としては、圧縮(プレス)成形、スタンピング成形、マッチドダイ成形、ダイヤフラム成形、フロー成形、ドレープ成形、ロールフォーミング成形、ハイブリッド成形などが挙げられる。
【0071】
歯科用補綴物フレーム材の形状は、歯科用補綴物の形状や目的に応じて任意の形状に加工して使用することができる。最も単純な構造は本発明の繊維強化樹脂複合シートを裁断したものを板状のフレーム材としてそのまま使用するものである。裁断後の形状は、正方形、長方形でもよいし、平面T状、平面H状などのより複雑な形状でもよい。プレスした際に変形しやすいよう適宜切り込みを入れておいてもよい。裁断した繊維強化樹脂複合シートを複数枚重ねて加熱溶融後加圧プレスすることによってフレーム材の厚みを大きくし、補強効果を強くすることもできる。特に応力が集中する部分に、複数枚の裁断した繊維強化樹脂複合シートを同方向あるいは垂直方向等の異方向に部分的に重ね合わせ、加熱溶融後加圧プレスすることによって補強するような構造とすることもできる。
【0072】
また、裁断された繊維強化樹脂複合シートを加工した後に、歯科用補綴物フレーム材が特定の立体構造を示すように成形することによって、更に高い強度を得る事が出来る。本発明の繊維強化樹脂複合シートは熱可塑性樹脂をベースにしたシート状構造であるため、従来の技術では困難であった立体構造を容易に形成することができ、これによる機械的強度の向上を簡単に達成できる点が大きな特徴である。例えば、裁断された板状の繊維強化樹脂複合シートを長さ方向に円弧状(
図5)や矩形状(
図6)に変形させて使用してもよい。歯科用補綴物は咬合力が負荷された場合に引っ張り方向の応力がかかる部位が破切の起点となる場合が多く、当該部分を補強するように、シートを変形させて歯科用補綴物フレーム材とするのは歯科用補綴物の強度を高める上で好ましい。また、裁断された板状の繊維強化樹脂複合シートの辺縁を一部折り曲げる事により、羽状構造を有する事によって側面を補強するような構造にしてもよい。羽状構造としては、L字状に成形された立体構造(
図7)、コの字状に成形された立体構造(
図8)、更には側面全てが囲まれた箱状に成形された立体構造(
図9)等が挙げられる。機械的強度の向上の観点から、羽状構造がコの字状あるいは箱状に成形された構造が好ましく、特に箱状が好ましい。更に、山型、谷型、凸型、凹型、山谷構造の繰り返し構造、凹凸構造の繰り返し構造やこれらの一方向、縦横方向の組み合わせによる立体構造パターン、例えばベローズ構造、ダイヤカット構造(吉村パターン、PCCPシェル構造)、ディンプル構造等が例として挙げられる。このようなパターンを繊維強化樹脂複合シート表面に付与する方法としては、金型表面形状を所望のパターンとなるように加工しておく方法が好適である。
【0073】
[歯科用補綴物の作製方法]
本発明の歯科用補綴物作製用フレーム材はその他の歯科用補綴物作製用材料と組み合わせて使用することで歯科用補綴物とすることが好ましい。その他の歯科材料としては、公知のものを目的に応じて使用することができる。例えば、歯科用硬化性組成物、歯科用修復材組成物として公知の組成物(コンポジットレジン、硬質レジン、常温重合レジン等)、歯科用ミルブランク、歯科用切削加工用レジン組成物を所望の形状に切削加工したもの、熱可塑性樹脂をベースとした人工歯、義歯床、義歯用の係留部材用の材料と組みわせて使用できる。
【0074】
具体的な例を挙げれば、歯科用硬化性組成物としては、一般的に重合性単量体、充填材(フィラー)、重合開始剤から構成され、これらを混合練和し脱泡したものを歯科用硬化性組成物として供する。これを本発明の歯科用補綴物フレーム上に築盛し、光重合や化学重合などによって適宜重合硬化し、歯科用補綴物を作製することができる。このとき、歯科用補綴物フレーム材と歯科用硬化性組成物が強固に接着するように、コーティング処理、エッチング処理、コンディショニング処理、コロナ処理、プラズマ処理、加熱処理、サンドブラスト等の機械的処理などの前処理を行ったり、プライマーや接着剤を使用したりしてもよい。プライマーや接着剤としては公知の歯科用接着性組成物が使用できる。
【0075】
歯科用ミルブランクや歯科用切削加工用レジン組成物の場合、一般的に組成自体は前記した歯科用硬化性組成物と同様、重合性単量体や充填材等から構成されるが、あらかじめブロック状やディスク状に硬化形成されているのが特徴である。この成形体を、CNCやCADCAM装置等を用いて歯科用補綴物フレーム上に適合するようにコンピューター上でデザインされた形状に切削加工し、接着剤やセメントを用いて、歯科用補綴物フレームと切削加工物を接着、合着することで歯科用補綴物を作製することができる。プライマー、接着剤、セメントとしては公知の歯科用接着性組成物が使用できる。またこのとき、前記した前処理を行ってもよい。
【0076】
熱可塑性樹脂をベースとした人工歯、義歯床、義歯用の係留部材用の材料の場合、熱可塑性樹脂としては、ポリメチルメタクリレート等のアクリル樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリアミド樹脂、ポリサルホン樹脂、ポリエーテルサルホン樹脂、ポリアリールエーテルケトン樹脂等が挙げられる。これら熱可塑性樹脂には、ガラス短繊維、ウィスカ、無機フィラー、天然鉱物、顔料等があらかじめ充填されていてもよい。これらは通常あらかじめ所望の形状に成形されているか、ペレット、パウダー、フィルム、シート等の形態として入手することが可能であり、これを原料として、圧縮成形、射出成形、真空成形等の方法によって所望の形状に加工成形することができる。このとき本発明の歯科用補綴物フレームとの一体化方法としては、成形用の金型にあらかじめ配置されてインサート成形を行う方法や、シートやフィルムを歯科用補綴物フレーム上から被せて圧縮成形を行う方法や、溶融した熱可塑性樹脂を歯科用補綴物フレームの設置された金型内に流しこんで圧縮成形する方法等が挙げられる。
【0077】
本発明の歯科用補綴物フレーム材の歯科用補綴物における配置箇所は、目的に応じて適宜決定すればよいが、前記した例のように、歯科用補綴物で最も応力が集中する場所が補強されるように配置してなる事が好ましい。例えば、歯列に咬合力がかかるような補綴物の場合、歯列の近心遠心方向に歯科用補綴物フレーム材の長さ方向が一致するように、また咬合面に対して歯科用補綴物フレーム材平面が垂直方向となるように配置されるのが好ましい。また、歯科用補綴物のある個所で圧縮応力、別の場所で引っ張り応力が負荷されるような場合、引っ張り応力が付加される場所に歯科用補綴物フレーム材が配置されるのが好ましい。例えば、歯科用補綴物のブリッジに咬合力によって曲げ応力が負荷された場合、中心のポンティック部分に応力が集中し、特に引っ張り応力のかかるポンティック下部から連結部にかけて破切しやすいため、ポンティックの下部を通すようにフレーム材が配置されるほうが高い耐久性が得られやすい。
【0078】
例えば、以下の方法で歯科用補綴物を作製するのが好ましい。
【0079】
欠損部位のある口腔内において定法に従って支台形成を施し、印象材を用いて印象採得を行い、これをもとに石膏模型を作製する。この石膏模型上に歯科用補綴物フレーム材のスペースを確保するため必要に応じて配置したい箇所にワックスアップを行う。シリコーンパテ等を用いて石膏模型上に配置されたワックスの上から印象採得を行い、シリコーンが硬化した後にこれを外し、シリコーンパテの過剰なバリやアンダーカットとなる部分をカッターナイフなどで除去する。これをシリコーンモールドとする。ワックスを外し、歯科用補綴物フレーム材と同等の大きさと形状となるように裁断した繊維強化樹脂複合シートを石膏模型上に載せ、ずれを防止するため少量の瞬間接着剤等で一部を固定する。その後、石膏模型と繊維強化樹脂複合シートをオーブンに入れ樹脂が溶融軟化するまで数分〜十数分待ってから、軟化した繊維強化樹脂複合シートの上からシリコーンモールドを強く圧接し、そのままオーブンから取り出して加圧をそのまま数十秒から数分保持する。石膏模型が室温近くまで冷えたところでシリコーンモールドを外し、石膏模型から成形加工された繊維強化樹脂複合シートを外す。マージン部分のトリミングを行って、これを歯科用補綴物フレーム材とする。次いで得られたフレーム材に対し、弱圧でサンドブラスト処理とスチーマー処理を行った後、光硬化性重合性単量体組成物からなる接着剤を塗布し、光重合によって接着剤の被膜を形成し、その上から充填材と重合性単量体と重合触媒を含んでなる歯科用硬化組成物を築盛し、重合硬化を繰り返すことで積層し、歯冠形態を回復する。これによって、歯科用補綴物が作製される。
【0080】
本発明の様態では、繊維強化樹脂複合シート、あるいはそれがあらかじめ適当な大きさに裁断されたり適当な形状に予備加工されたりした中間体、あるいはそれらを成形加工した歯科用補綴物作製用フレーム材が、歯科医師や歯科技工士に提供され、この歯科用補綴物フレーム材を用いて歯科用補綴物が作製され、患者の口腔内に接着、合着される。
【実施例】
【0081】
以下、本発明を実施例により更に詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。実施例において用いられる材料、試験方法等を以下に示す。
【0082】
実施例1
平均直径10ミクロンのEガラス製フィラメントガラス繊維束(200tex)を綾織り(2/2)に織りこんだガラス繊維クロスからなる連続無機繊維基材の表面を、アミノプロピルトリメトキシシランを用いてシランカップリング処理を行い、これに水素結合部位を有する結晶性熱可塑性樹脂である熱可塑性ポリウレタン樹脂(融点182度、ガラス転移点81度)シートを重ねて200度の加熱温度下でプレス成形することで、熱可塑性樹脂含浸ガラス繊維シートを作製した。これを垂直方向に2枚重ね合わせ加熱プレス加工する事によって繊維強化樹脂複合シートを作製した。この繊維強化樹脂複合シートにボイドは観察されず、密度は1.82、面積重量は290g/m
2、熱可塑性樹脂含有量は55体積%、シート厚みは0.5mmであった。この繊維強化樹脂複合シートについて、島津試験機製万能試験機を用いて、支点間距離20mm、クロスヘッドスピード1mm/minの条件下で三点曲げ試験を行うことによって曲げ強さを測定した。
【0083】
実施例2
平均直径10ミクロンのEガラス製フィラメントガラス繊維束(200tex)を綾織り(2/2)に織りこんだガラス繊維クロスからなる連続無機繊維基材の表面を、アミノプロピルトリメトキシシランを用いてシランカップリング処理を行い、これに水素結合部位を有する結晶性熱可塑性樹脂であるナイロン6(融点220度、ガラス転移点60度)シートを重ねて230度の加熱温度下でプレス成形することで、熱可塑性樹脂含浸ガラス繊維シートを作製した。これを垂直方向に2枚重ね合わせ加熱プレス加工する事によって繊維強化樹脂複合シートを作製した。この繊維強化樹脂複合シートにボイドは観察されず、密度は1.82、面積重量は290g/m
2、熱可塑性樹脂含有量は55体積%、シート厚みは0.5mmであった。この繊維強化樹脂複合シートについて、実施例1と同様の方法で曲げ強さを測定した。
【0084】
実施例3
平均直径24ミクロンのEガラス製ロービングガラス繊維束(1200tex)を綾織り(2/2)に織りこんだガラス繊維クロスからなる連続無機繊維基材の表面を、アミノプロピルトリメトキシシランを用いてシランカップリング処理を行い、これに水素結合部位を有する結晶性熱可塑性樹脂であるナイロン6(融点220度、ガラス転移点60度)シートを重ねて230度の加熱温度下でプレス成形することで繊維強化樹脂複合シートを作製した。この繊維強化樹脂複合シートにボイドは観察されず、密度は1.82、面積重量は600g/m
2、熱可塑性樹脂含有量は53体積%、シート厚みは0.5mmであった。この繊維強化樹脂複合シートについて、実施例1と同様の方法で曲げ強さを測定した。
【0085】
比較例1
平均直径10ミクロン、平均長さ150ミクロンのEガラス製短繊維の表面をアミノプロピルトリメトキシシランでシランカップリング処理を行い、表面処理短繊維ガラスを得た。これと水素結合部位を有する結晶性熱可塑性樹脂であるナイロン6(融点220度、ガラス転移点60度)ペレットとを東洋精機製ラボプラストミルにて230度で溶融混合し、取り出した混合物を230度の加熱温度下でプレス成形することで繊維強化樹脂複合シートを作製した。この繊維強化樹脂複合シートにボイドは観察されず、密度は1.82、面積重量は600g/m
2、熱可塑性樹脂含有量は53体積%、シート厚みは0.5mmであった。この繊維強化樹脂複合シートについて、実施例1と同様の方法で曲げ強さを測定した。
【0086】
比較例2
平均直径10ミクロンのEガラス製フィラメントガラス繊維束(200tex)を綾織り(2/2)に織りこんだガラス繊維クロスからなる連続無機繊維基材の表面を、メタクリロキシプロピルトリメトキシシランを用いてシランカップリング処理を行い、これに水素結合をもたない結晶性熱可塑性樹脂であるポリプロピレン(融点163度、ガラス転移点0度)シートを重ねて170度の加熱温度下でプレス成形することで、熱可塑性樹脂含浸ガラス繊維シートを作製した。これを垂直方向に2枚重ね合わせ加熱プレス加工する事によって繊維強化樹脂複合シートを作製した。この繊維強化樹脂複合シートにボイドは観察されず、密度は1.68、面積重量は290g/m
2、熱可塑性樹脂含有量は55体積%、シート厚みは0.5mmであった。この繊維強化樹脂複合シートについて、実施例1と同様の方法で曲げ強さを測定した。
【0087】
比較例3
平均直径10ミクロンのEガラス製フィラメントガラス繊維束(200tex)を綾織り(2/2)に織りこんだガラス繊維クロスからなる連続無機繊維基材の表面を、メタクリロキシプロピルトリメトキシシランを用いてシランカップリング処理を行い、これに結晶性でない熱可塑性樹脂であるポリカーボネート(ガラス転移点145度)シートを重ねて260度の加熱温度下でプレス成形することで、熱可塑性樹脂含浸ガラス繊維シートを作製した。これを垂直方向に2枚重ね合わせ加熱プレス加工する事によって繊維強化樹脂複合シートを作製した。この繊維強化樹脂複合シートにボイドは観察されず、密度は1.68、面積重量は600g/m
2、熱可塑性樹脂含有量は55体積%、シート厚みは0.5mmであった。この繊維強化樹脂複合シートについて、実施例1と同様の方法で曲げ強さを測定した。
【0088】
比較例4
平均直径10ミクロンのEガラス製フィラメントガラス繊維束(200tex)を綾織り(2/2)に織りこんだガラス繊維クロスからなる連続無機繊維基材の表面を、メタクリロキシプロピルトリメトキシシランを用いてシランカップリング処理を行った。重合性単量体組成物として2,2,4−トリメチルヘキサメチレンビス(2−カルバモイルオキシエチル)ジメタクリレート70質量部、トリエチレングリコールジメタクリレート30質量部、カンファーキノン0.2質量部、4−N,N’−ジメチルアミノ安息香酸エチル0.1質量部を混合溶解して調整した。金型にガラス繊維を並べてその上から上記の重合性単量体組成物を添加し、70度の真空乾燥機内に24時間入れて加熱と減圧を行い、ガラス繊維に該重合性単量体を含浸させて繊維強化樹脂複合シートを作製した。この繊維強化樹脂複合シートにボイドは観察されず、密度は1.82、面積重量は290g/m
2、樹脂含有量は55体積%、シート厚みは0.5mmであった。この繊維強化樹脂複合シートを歯科用光照射装置パールキュアライト(トクヤマデンタル)を用いて2分間光照射を行うことで重合硬化させ、実施例1と同様の方法で曲げ強さを測定した。
【0089】
比較例5
平均直径10ミクロン、平均長さ150ミクロンのEガラス製短繊維の表面をメタクリロロキシプロピルトリメトキシシランでシランカップリング処理を行い、表面処理短繊維ガラスを得た。重合性単量体組成物として2,2,4−トリメチルヘキサメチレンビス(2−カルバモイルオキシエチル)ジメタクリレート70質量部、トリエチレングリコールジメタクリレート30質量部、カンファーキノン0.2質量部、4−N,N’−ジメチルアミノ安息香酸エチル0.1質量部を混合溶解して調整した。金型にガラス繊維を並べてその上から上記の重合性単量体組成物を添加し、70度の真空乾燥機内に24時間入れて加熱と減圧を行い、ガラス繊維に該重合性単量体を含浸させて繊維強化樹脂複合シートを作製した。この繊維強化樹脂複合シートにボイドは観察されず、密度は1.82、面積重量は600g/m
2、樹脂含有量は55体積%、シート厚みは0.5mmであった。この繊維強化樹脂複合シートを歯科用光照射装置パールキュアライト(トクヤマデンタル)を用いて2分間光照射を行うことで重合硬化させ、実施例1と同様の方法で曲げ強さを測定した。
【0090】
【表1】
【0091】
実施例4
実施例1で用いた繊維強化樹脂複合シートを2枚積層し、220度に加熱しながら圧縮成形することで厚み1.0mmの繊維強化樹脂複合シートを得た。この繊維強化樹脂複合シートからなるフレーム材について、実施例1と同様の方法で曲げ強さを測定した。
【0092】
実施例5
実施例1で用いた繊維強化樹脂複合シートを幅13mm、長さ25mmに裁断し、幅7mm、長さ27mmのSUS製模擬支台上で、220度に加熱しながら圧縮成形することで、左右に3mmの羽状構造が付与されたコの字型立体構造を成形した。この繊維強化樹脂複合シートからなるフレーム材について、実施例1と同様の方法で曲げ強さを測定した。
【0093】
実施例6
実施例1用いた繊維強化樹脂複合シートを幅11mm、長さ33mmに裁断し、幅7mm、長さ27mmのSUS製模擬支台上で、220度に加熱しながら圧縮成形し、余剰部分をハサミでトリミングすることで、前後左右に2mmの羽状構造が付与された箱型立体構造を成形した。この繊維強化樹脂複合シートからなるフレーム材について、実施例1と同様の方法で曲げ強さを測定した。
【0094】
【表2】
【0095】
実施例7
実施例1で用いた繊維強化樹脂複合シートを幅4mm、長さ25mmに裁断し、幅7mm、長さ27mmのSUS製模擬支台上で、220度に加熱しながら圧縮成形した。これを弱圧でアルミナサンドブラストした後にスチーマーで洗浄した面を被着面とし、4mm×25mm×2mmの空隙を持つSUS製金型の下部に被着面を上にして配置し、トクヤマデンタル製パールエステリキッドを一層塗布して技工用光照射機αライトで30秒間光照射を行い、その上にトクヤマデンタル製パールエステCD3を築盛、歯科用光照射装置パールキュアライト(トクヤマデンタル)で2分間光照射し、更に加熱重合機トクヤマデンタル製パールキュアヒートで110度15分間重合することで試験片を得た。この試験片について、実施例1と同様の方法で曲げ強さを測定した。
【0096】
実施例8
実施例6と同様の方法で箱形フレームを作製した。この内面を弱圧でアルミナサンドブラスト処理し、スチーマーで洗浄した後に実施例7と同様な方法で、パールエステCD3を築盛、重合硬化し、試験片を得た。この試験片について、実施例1と同様の方法で曲げ強さを測定した。
【0097】
比較例6
2×2×25mmの空隙を有するSUS製モールドにパールエステCD3を充填し、上下をポリエステルフィルムで圧接して、歯科用光照射装置パールキュアライト(トクヤマデンタル)で2分間光照射し、更に加熱重合機トクヤマデンタル製パールキュアヒートで110度15分間重合することで試験片を得た。この試験片について、実施例1と同様の方法で曲げ強さを測定した。
【0098】
【表3】