【実施例】
【0065】
以下、実施例により、本実施形態を具体的に説明するが、本実施形態は以下の実施例により何ら限定されるものではない。
【0066】
以下の実施例、比較例及び試験例中の各物性は、以下の方法によって測定した。
(1)PPEの数平均分子量
ゲルパーミエーションクロマトグラフィ分析(GPC)を用い、分子量既知の標準ポリスチレンの溶出時間との比較で数平均分子量を求めた。
測定装置にはHLC−8220GPC(東ソー株式会社製)を用い、カラム:Shodex LF−804×2(昭和電工株式会社製)、溶離液:50℃のクロロホルム、検出器:RI、の条件で測定を行った。
【0067】
(2)PPEの溶剤保持量
PPE(S203A、旭化成ケミカルズ製、数平均分子量10,000)及び(S202A、旭化成ケミカルズ製、数平均分子量18,000)、(S203A、旭化成ケミカルズ製、数平均分子量10,000:粒径250μm以下に粉砕)各5gを下記の各化合物80gに添加し、スターラーにて2時間撹拌後、23℃にて1日静置した。混合液が上澄み液と沈降物に分離したものは、上澄み液を除去し、沈降物の質量を測定し、各溶剤に対するPPEの溶剤保持量を測定した。溶剤として用いた化合物は、トルエン、キシレン、シクロヘキサノン、シクロペンタノン、シクロヘキセン、メチルエチルケトン、メタノールであった。
【0068】
(3)混合液の粘度
B型粘度計、ローターNo.3を用い、23℃、30rpm、30秒の条件で粘度を測定した。
(4)混合液の分散安定性
ガラス製の50mlサンプル管に混合液35gを入れ、23℃の恒温室に3日間静置した。PPEの沈降等による分離がなく、また、流動性を保持したものを「〇」とした。また、PPEの沈降等による分離が生じたものを「×」、流動性がないものを「ゲル化」と評した。
【0069】
(5)プリプレグの成膜性(ひび割れ)
プリプレグの外観を目視で確認し、樹脂組成物の層にひび割れ等が無いものを「〇」、ひび割れがあるものを「×」と評した。
(6)プリプレグの成膜性(粉落ち)
プリプレグを180°に折り曲げた際に、樹脂粉落ち、あるいは樹脂剥離が生じるかを調べ、評価した。まず、プリプレグを200mm×300mmの大きさにカッター刃を用いて切り出した。次いで、長方形の長辺側2辺が重なるようにプリプレグを180°に折り曲げた後、元に戻した。次いで、長方形の短辺側2辺が重なるようにプリプレグを180°に折り曲げた後、元に戻した。上述の一連のプリプレグの取り扱いにおいて、樹脂粉落ちに問題がなかったものは「〇」、取扱いに大きな問題ではないものの、樹脂粉落ちが若干確認されたものは「△」と評した。一方、粉落ちが激しかったものは「×」と評した。
【0070】
(7)積層板の誘電率、誘電正接
積層板の1GHzにおける誘電率及び誘電正接を、インピーダンスアナライザーを用いて測定した。
測定装置としてインピーダンスアナライザー(4291B op.002 with 16453A,16454A、AgilentTechnologies社製)を用い、試験片厚さ:約2mm、電圧:100mV、周波数:1mmHz〜1.8GHzの条件で測定し、掃引回数100回の平均値として求めた。
(8)積層板の吸水率
積層板を吸水加速試験に供し、増加した質量から吸水率を求めた。
積層板を50mm角に切り出し試験片を作製した。該試験片を130℃で30分乾燥した後、質量を測定し、加速試験前の質量(g)とした。次いで、温度:121℃、圧力:2atm、時間:4時間、の条件で加速試験を行った後の質量を測定し、加速試験後の質量(g)とした。
加速試験前の質量(g)と加速試験後の質量(g)とを用い、下記式:
吸水率(質量%)=(加速試験前の質量―加速試験後質量)/加速試験前の質量×100
により吸水率を算出し、試験片4枚の測定値の平均値を求めた。
【0071】
(9)積層板の吸水試験後のはんだ耐熱性
上記(8)に記載の吸水率の測定後の積層板を用い、288℃でのはんだ耐熱試験を行った。吸水加速試験後の積層板を、288℃のはんだ浴に20秒間浸漬し、目視による観察を行った。はんだ浴へ浸漬しても、膨れ、剥離及び白化の何れも確認されなかった積層板については「〇」と評価した。また、はんだ浴への浸漬により、膨れ、剥離及び白化の何れか1つ以上が発生した積層板は「×」と評価した。
(10)積層板の銅箔剥離強度(剥離強度N/mm)
銅張積層板の銅箔を一定速度で引き剥がす際の応力を測定した。後述の方法で作製した、35μm銅箔(GTS−MP箔、古川電気工業株式会社製)を用いた銅張積層板を、幅15mm×長さ150mmのサイズに切り出し、オートグラフ(AG−5000D、株式会社島津製作所製)を用い、銅箔を除去面に対し90℃の角度で50mm/分の速度で引き剥がした際の荷重の平均値を測定し、5回の測定の平均値を求めた。
【0072】
(11)プリプレグの残留溶剤
プリプレグ中に残留する溶剤量をガスクロマトグラフィーにより測定した。分取したプリプレグ6gをクロロホルム50mlに加え、マグネチックスターラーで2時間撹拌した。その後、1日静置し、クロロホルムで洗浄しながら、桐山漏斗にて不溶分をろ過し、200mlのサンプル抽出液を得た。該サンプル抽出液を、ガスクロマトグラフ(GC−1700、株式会社島津製作所製)を用いて、内部標準試料にヘキサデカンを、検出器に水素炎イオン化型検出器を、固定相にポリジメチルシロキサンを、キャリアガスにヘリウムを使用し、残留溶剤量を測定した。
【0073】
<製造例1>
90℃に加温されたオイルバスに10Lのフラスコを設置し、フラスコ内部に毎分30mlで窒素ガスを導入した。以降、操作は常に窒素ガス気流下で行った。ここに、PPE(S202A、旭化成ケミカルズ製、数平均分子量18,000)1000g、及びトルエン3000gを入れ、攪拌溶解させた。更に80gのビスフェノールAをメタノール350gに溶かした溶液を上記フラスコに攪拌しながら加えた。5分間攪拌を続けた後、6質量%ナフテン酸コバルトミネラルスピリット溶液3mlを注射器で加え、5分間攪拌を続けた。次いで、ベンゾイルパーオキサイド溶液375gにトルエン1125gを加えて、ベンゾイルパーオキサイド濃度が10質量%になるように希釈した溶液を滴下ロートに入れ、上記フラスコに2時間かけて滴下していった。滴下終了後、更に2時間加熱及び攪拌を続け、低分子量化PPEを含む反応液を得た。
【0074】
次に、水3000gを加えて、5分間撹拌した後、該反応液を静置し、2層分離させた後、下槽を除去した。更に水1000gを加え、撹拌した後静置し、再び2槽に分離させた後、下槽を除去した。次いで、メタノール200gを加え、同様に撹拌、静置し、2層に分離させた後、上層を除去した。更にメタノール100gを加え、同様に撹拌、静置し、2層に分離させた後、下層を回収し、これに多量のメタノールを加え、低分子量PPEを沈殿させ、ろ別後、乾燥させて低分子量PPEを得た。得られた低分子量PPEの数平均分子量は2800であった。
【0075】
<試験例1>
以下の実施例及び、比較例で溶剤を構成する各化合物について、各PPEの溶剤保持量を測定し、結果を表1に記載した。
【0076】
<実施例1>
トルエン50質量部をSUS製容器に入れ、スチレン系エラストマー(SEBS、旭化成ケミカルズ製、H1041グレード)4.5質量部を加え、溶解させた。この溶液に対して、シクロヘキサノンを50質量部、トリアリルイソシアヌレート(日本化成製)17.2質量部、α,α’−ビス(t−ブチルパーオキシ−m−イソプロピル)ベンゼン(パーブチルP、日油製)1.0質量部を加え、均一に撹拌した後、デカブロモジフェニルエタン(SAYTEX8010、アルベマールジャパン製)12.2質量部、シリカフィラー(球状シリカ、龍森製)33質量部を加え、均一に撹拌した後、75mm径十字パドル翼で1.0m/minの先端速度で撹拌を行いながら、予め粉砕することで粒度を、その粒径が250μm以下になるよう調整しておいたPPE(S203A、旭化成ケミカルズ製、数平均分子量10,000)32質量部を加え、全体が均一になるように3時間撹拌を行い、粘度が1232mPa・sであり、上述の方法にて確認した分散安定性が「〇」の混合液を得た。この混合液を塗工用ワニスとして用いた。
【0077】
ついで塗工用ワニスを、厚さ0.1mmのEガラス製ガラスクロス(2116スタイル、旭シェエーベル製)に含浸させ、スリットで余分なワニスを掻き落とした後、150℃で2分間乾燥して、樹脂含有量55質量%のプリプレグを得た。
【0078】
<実施例2>
シクロヘキサノンをシクロペンタノンに変更する以外、実施例1と同じ方法にて、粘度が1255mPa・sであり、分散安定性が「〇」の塗工用ワニスを得た。
ついで、乾燥温度130℃に変更する以外、実施例1と同じ方法にて、樹脂含有量54質量%のプリプレグを得た。
【0079】
<実施例3>
シクロヘキサノンをシクロヘキセンに変更する以外、実施例1と同じ方法にて、粘度が1260mPa・sであり、分散安定性が「〇」の塗工用ワニスを得た。
ついで、乾燥温度105℃に変更する以外、実施例1と同じ方法にて、樹脂含有量52質量%のプリプレグを得た。
【0080】
<実施例4>
トルエンをキシレンに変更する以外、実施例1と同じ方法にて、粘度が1210mPa・sであり、分散安定性が「〇」の塗工用ワニスを得た。
また、実施例1と同じ方法にて、樹脂含有量55質量%のプリプレグを得た。
【0081】
<実施例5>
PPEを(S202A、旭化成ケミカルズ製、数平均分子量18,000)に変更する以外、実施例1と同じ方法にて、粘度が1356mPa・sであり、分散安定性が「〇」の塗工用ワニスを得た。
また、実施例1と同じ方法にて、樹脂含有量56質量%のプリプレグを得た。
【0082】
<実施例6>
シクロヘキサノンをシクロペンタノンに変更し、トルエンの使用量を10質量部、シクロペンタノンの使用量を90質量部に変更する以外、実施例1と同じ方法にて、粘度が870mPa・sであり、分散安定性が「〇」の塗工用ワニスを得た。
ついで、乾燥温度130℃に変更する以外、実施例1と同じ方法にて、樹脂含有量52質量%のプリプレグを得た。
【0083】
<実施例7>
トルエンの使用量を30質量部、シクロペンタノンの使用量を70質量部に変更する以外、実施例6と同じ方法にて、粘度が978mPa・sであり、分散安定性が「〇」の塗工用ワニスを得た。
また、実施例6と同じ方法で、樹脂含有量53質量%のプリプレグを得た。
【0084】
<実施例8>
トルエンの使用量を70質量部、シクロペンタノンの使用量を30質量部に変更する以外、実施例6と同じ方法にて、粘度が1415mPa・sであり、分散安定性が「〇」の塗工用ワニスを得た。
また、実施例6と同じ方法で、樹脂含有量54質量%のプリプレグを得た。
【0085】
<実施例9>
トルエンの使用量を90質量部、シクロペンタノンの使用量を10質量部に変更する以外、実施例6と同じ方法にて、粘度が1921mPa・sであり、分散安定性が「〇」の塗工用ワニスを得た。
また、実施例6と同じ方法で、樹脂含有量55質量%のプリプレグを得た。
【0086】
<実施例10>
トルエンの使用量を95質量部、シクロペンタノンの使用量を5質量部に変更する以外、実施例6と同じ方法にて、粘度が2313mPa・sであり、分散安定性が「〇」の塗工用ワニスを得た。
また、実施例6と同じ方法で、樹脂含有量55質量%のプリプレグを得た。
【0087】
<実施例11>
トルエンの使用量を5質量部、シクロペンタノンの使用量を95質量部に変更する以外、実施例6と同じ方法にて、粘度が578mPa・sであり、分散安定性が「〇」の塗工用ワニスを得た。
また、実施例6と同じ方法で、樹脂含有量51質量%のプリプレグを得た。
【0088】
<比較例1>
シクロヘキサノンを使用せず、トルエンの使用量を100質量部使用することに変更する以外、実施例1と同じ方法にて、ワニスを調合したが、PPE添加後、撹拌中、経時で大きく増粘し、流動性を失い、「ゲル化」してしまったため、塗工に使用することのできるワニスを得られなかった。
【0089】
<比較例2>
トルエンを使用せず、シクロヘキサノンをシクロペンタノンに変更し、その使用量を100質量部使用することに変更する以外、実施例1と同じ方法にて、粘度が340mPa・sであり、分散安定性が「×」のワニスを調合した。分散安定性が悪かったためと推測されるが、プリプレグ作製中、ワニスバス内で固形分の沈殿や含浸ロールへの固形分の堆積が発生し、後の評価に使用できる品質のプリプレグを得ることができなかった。
【0090】
<比較例3>
シクロヘキサノンをメチルエチルケトンに変更する以外、実施例1と同じ方法にて、粘度が450mPa・sであり、分散安定性が「×」のワニスを調合した。分散安定性が悪かったためと推測されるが、プリプレグ作製中、ワニスバス内で固形分の沈殿や含浸ロールへの固形分の堆積が発生し、後の評価に使用できる品質のプリプレグを得ることができなかった。
【0091】
<比較例4>
トルエンの使用量を95質量部に変更し、シクロヘキサノンをメタノールに変更し、その使用量を5質量部に変更する以外、実施例1と同じ方法にて、粘度が1818mPa・sであり、分散安定性が「〇」の塗工用ワニスを得た。乾燥温度を105℃に変更する以外、実施例1と同じ方法で樹脂含有量58質量%のプリプレグを得たが、得られたプリプレグを観察すると、樹脂層に多数のひび割れが確認された。
【0092】
<比較例5>
PPEを低分子量PPE(数平均分子量2800)に変更し、シクロヘキサノンをシクロペンタノンに変更する以外、実施例1と同じ方法にて、粘度が2215mPa・sであり、分散安定性が「〇」の塗工用ワニスを得た。乾燥温度を130℃に変更する以外、実施例1と同じ方法で樹脂含有量56質量%のプリプレグを得た。
【0093】
<試験例2>
実施例1から実施例11、比較例4、比較例5から得られたプリプレグを用いて、成膜性(ひび割れ、粉落ち)の評価を行った。実施例1から実施例10、比較例5は、全ての評価で「〇」であったが、実施例11では、ひび割れの評価で「〇」であるものの、粉落ちの評価が「△」であることが確認された。一方で比較例4は、ひび割れの評価が「×」、粉落ちの評価が「〇」であった。
ただし、比較例5では、後述する残留溶剤に起因すると考えられるタック性が発生しており、保管時の取扱い性が良好ではない状態であった。
【0094】
<試験例3>
実施例1から実施例11、比較例4、比較例5から得られたプリプレグを用いて、残留溶剤量を測定した(測定結果は表2に記載)。実施例1から実施例11までは、溶剤の残留量が低く抑えられている一方、比較例5は、大量の溶剤が残留していることが確認された。
【0095】
<試験例4>
実施例1〜11で得られたプリプレグを用いて基板試料を作製し、電気特性(誘電率、誘電正接)、吸水率、吸水試験後のはんだ耐熱、銅箔剥離強度を比較評価した。
【0096】
吸水率、及び吸水試験後のはんだ耐熱性を評価するための試料は次の方法で作製した。実施例又は比較例で得たプリプレグを2枚重ね、その上下に厚み12μmの銅箔(GTS−MP箔、古川電気工業株式会社製)を重ね合わせたものを、室温から昇温速度3℃/分で加熱しながら圧力5kg/cm
2の条件で真空プレスを行い、130℃まで達したら昇温速度3℃/分で加熱しながら圧力30kg/cm
2の条件で真空プレスを行い、200℃まで達したら温度を200℃に保ったまま圧力30kg/cm
2、時間60分間の条件で真空プレスを行うことによって両面銅張積層板を得た。次いで、該銅張積層板を100mm角に切り出し、銅箔をエッチングにて除去し、吸水率、及び吸水試験後のはんだ耐熱性を評価するための試料を得た。
【0097】
また、銅箔剥離強度測定用の試料は次の方法で作製した。実施例又は比較例で得たプリプレグを2枚重ね、その上下に厚み35μmの銅箔(GTS−MP箔、古川電気工業株式会社製)を重ね合わせたものを、室温から昇温速度3℃/分で加熱しながら圧力5kg/cm
2の条件で真空プレスを行い、130℃まで達したら昇温速度3℃/分で加熱しながら圧力30kg/cm
2の条件で真空プレスを行い、200℃まで達したら温度を200℃に保ったまま圧力30kg/cm
2、時間60分間の条件で真空プレスを行うことによって両面銅張積層板を作製した。この両面銅張積層板を銅箔剥離強度測定用の試料として用いた。
【0098】
また、誘電率及び誘電正接の測定用試料は次の方法で作製した。実施例又は比較例で得たプリプレグを16枚重ね、室温から昇温速度3℃/分で加熱しながら圧力5kg/cm
2の条件で真空プレスを行い、130℃まで達したら昇温速度3℃/分で加熱しながら圧力30kg/cm
2の条件で真空プレスを行い、200℃まで達したら温度を200℃に保ったまま圧力30kg/cm
2、時間60分間の条件で真空プレスを行うことによって積層板を作製した。該積層板を、100mm角に切り出し、誘電率及び誘電正接の測定用試料とした。
【0099】
上記のように、プリプレグ、両面銅張積層板(銅箔:12μm及び35μmの2種)、又は積層板を用い、銅箔剥離強度、誘電率、誘電正接、吸水率、及び吸水後のはんだ耐熱性を測定した。結果を以下の表2に示す。
【0100】
【表1】
【0101】
【表2】