(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6204838
(24)【登録日】2017年9月8日
(45)【発行日】2017年9月27日
(54)【発明の名称】不整地走行用の自動二輪車用タイヤ
(51)【国際特許分類】
B60C 11/11 20060101AFI20170914BHJP
B60C 11/03 20060101ALI20170914BHJP
【FI】
B60C11/11 A
B60C11/03 E
【請求項の数】6
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2014-7179(P2014-7179)
(22)【出願日】2014年1月17日
(65)【公開番号】特開2015-134578(P2015-134578A)
(43)【公開日】2015年7月27日
【審査請求日】2016年12月15日
(73)【特許権者】
【識別番号】000183233
【氏名又は名称】住友ゴム工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100104134
【弁理士】
【氏名又は名称】住友 慎太郎
(72)【発明者】
【氏名】一柳 豊
【審査官】
鏡 宣宏
(56)【参考文献】
【文献】
特開2008−120351(JP,A)
【文献】
特開2012−30615(JP,A)
【文献】
特開昭54−140302(JP,A)
【文献】
実開平3−5604(JP,U)
【文献】
実開昭54−156302(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60C 11/00−11/24
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
トレッド部に、複数個のブロックが設けられたブロックパターンを有する不整地走行用の自動二輪車用タイヤであって、
前記ブロックは、ブロックの踏面の一部がステップ状に凹んだ凹部を有する凹部付ブロックを少なくとも一つ含み、
前記凹部付ブロックは、タイヤ軸方向に沿った側面を含み、
前記凹部は、前記ブロックの踏面と、前記側面とに跨って、前記側面の両端を除く中央部に形成されており、
前記凹部付ブロックの平面視において、前記凹部の前記側面に沿った開口長さは、前記側面から離れるに従って漸減していることを特徴とする不整地走行用の自動二輪車用タイヤ。
【請求項2】
前記凹部付ブロックの平面視において、前記凹部は、略半円状、三角形状又は台形状である請求項1記載の不整地走行用の自動二輪車用タイヤ。
【請求項3】
前記凹部付ブロックは、タイヤ赤道上に設けられたセンターブロックを含む請求項1又は2に記載の不整地走行用の自動二輪車用タイヤ。
【請求項4】
前記凹部の深さは、前記ブロックの高さの5%〜20%である請求項1乃至3のいずれかに記載の不整地走行用の自動二輪車用タイヤ。
【請求項5】
前記凹部付ブロックの平面視において、前記凹部の前記開口長さは、前記側面の長さの30%〜70%である請求項1乃至4のいずれかに記載の不整地走行用の自動二輪車用タイヤ。
【請求項6】
前記凹部付ブロックの平面視において、前記凹部の前記開口長さと直交する奥行き方向の長さは、前記凹部付ブロックの前記奥行き方向の長さの10%〜30%である請求項1乃至5のいずれかに記載の不整地走行用の自動二輪車用タイヤ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、優れたグリップ性能を発揮し、かつ、走行中のグリップ性能の低下を抑制しうる不整地走行用の自動二輪車用タイヤに関する。
【背景技術】
【0002】
下記特許文献1には、トレッド部に複数のブロックを具えた不整地走行用の自動二輪車用タイヤが提案されている。このようなタイヤは、不整地走行時、ブロックのエッジが路面を引っ掻くことにより、大きな摩擦力を得る。
【0003】
しかしながら、上記ブロックのエッジが早期に摩耗すると、前記摩擦力が低下し易い。従って、特許文献1のタイヤは、走行中にグリップ性能が低下する傾向があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2012−30615号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、以上のような実状に鑑み案出されたもので、ブロックの踏面に設けられた凹部の形状等を改善することを基本として、優れたグリップ性能を発揮し、かつ、走行中のグリップ性能の低下を抑制しうる不整地走行用の自動二輪車用タイヤを提供することを主たる目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、トレッド部に、複数個のブロックが設けられたブロックパターンを有する不整地走行用の自動二輪車用タイヤであって、前記ブロックは、ブロックの踏面の一部がステップ状に凹んだ凹部を有する凹部付ブロックを少なくとも一つ含み、前記凹部は、前記ブロックの踏面と、前記ブロックの側面とに跨って形成されており、前記凹部付ブロックの平面視において、前記凹部の前記側面に沿った開口長さは、前記側面から離れるに従って漸減していることを特徴としている。
【0007】
本発明の不整地走行用の自動二輪車用タイヤは、前記凹部付ブロックの平面視において、前記凹部は、略半円状、三角形状又は台形状であるのが望ましい。
【0008】
本発明の不整地走行用の自動二輪車用タイヤは、前記凹部付ブロックは、前記凹部を複数個有しているのが望ましい。
【0009】
本発明の不整地走行用の自動二輪車用タイヤは、前記凹部の深さは、前記ブロックの高さの5%〜20%であるのが望ましい。
【0010】
本発明の不整地走行用の自動二輪車用タイヤは、前記凹部付ブロックの平面視において、前記凹部の前記開口長さは、前記側面の長さの30%〜70%であるのが望ましい。
【0011】
本発明の不整地走行用の自動二輪車用タイヤは、前記凹部付ブロックの平面視において、前記凹部の前記開口長さと直交する奥行き方向の長さは、前記凹部付ブロックの前記奥行き方向の長さの10%〜30%であるのが望ましい。
【発明の効果】
【0012】
本発明の不整地走行用の自動二輪車用タイヤは、トレッド部に、複数個のブロックが設けられたブロックパターンを有する。ブロックは、ブロックの踏面の一部がステップ状に凹んだ凹部を有する凹部付ブロックを含んでいる。これにより、不整地走行時、凹部内で泥を押し固められた泥がせん断されるときの反力が得られ、優れたグリップ性能が発揮される。しかも、泥がせん断されるときの反力は、ブロックのエッジが丸く摩耗した場合でも、ほとんど低下しない。従って、グリップ性能の低下が効果的に抑制される。
【0013】
凹部は、ブロックの踏面と、ブロックの側面とに跨って形成されている。凹部付ブロックの平面視において、凹部の前記側面に沿った開口長さは、前記側面から離れるに従って漸減している。これにより、凹部内に入る泥は、凹部の壁面によって効果的に押し固められる。従って、泥がせん断されるときの反力が高められ、優れたグリップ性能が得られる。
【0014】
従って、本発明の不整地走行用の自動二輪車用タイヤは、優れたグリップ性能を発揮し、走行中のグリップ性能の低下を効果的に抑制する。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】本実施形態の空気入りタイヤのトレッド部の展開図である。
【
図4】(a)は、
図3のブロックの踏面の拡大平面図であり、(b)は、(a)のB−B断面図である。
【
図5】他の実施形態の凹部付ブロックの拡大斜視図である。
【
図6】他の実施形態の凹部付ブロックの拡大斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の実施の一形態が図面に基づき説明される。
図1には、本実施形態の不整地走行用の自動二輪車用タイヤ(以下、単に「タイヤ」ということがある)1のトレッド部2が示されている。本実施形態のタイヤ1は、例えば、モトクロス競技用のタイヤとして示されている。
【0017】
図2には、
図1のトレッド部2のA−A断面図が示されている。
図2は、タイヤ1の正規状態での断面図である。「正規状態」は、タイヤを正規リム(図示省略)にリム組みし、かつ、正規内圧を充填した無負荷の状態である。以下、特に言及しない場合、タイヤの各部の寸法等は、この正規状態で測定された値である。
【0018】
前記「正規リム」は、タイヤが基づいている規格を含む規格体系において、当該規格がタイヤ毎に定めるリムであり、例えばJATMAであれば "標準リム" 、TRAであれば "Design Rim" 、ETRTOであれば "Measuring Rim" である。
【0019】
前記「正規内圧」は、タイヤが基づいている規格を含む規格体系において、各規格がタイヤ毎に定めている空気圧であり、JATMAであれば "最高空気圧" 、TRAであれば表 "TIRE LOAD LIMITS AT VARIOUS COLD INFLATION PRESSURES" に記載の最大値、ETRTOであれば "INFLATION PRESSURE" である。
【0020】
図2に示されるように、トレッド部2は、その外面がタイヤ半径方向外側に凸で湾曲している。
【0021】
トレッド部2には、複数個のブロック10が設けられている。各ブロック10は、トレッド部2の溝底面8から隆起している。ブロック10は、路面に接地する踏面12と、踏面12から溝底面8に向かってのびる側面13とを有している。
【0022】
図1に示されるように、ブロック10は、凹部20を有する凹部付ブロック11を含んでいる。
【0023】
図3には、凹部付ブロック11の一実施形態の拡大斜視図が示されている。
図3は、
図1の2点鎖線で囲まれた領域7の拡大斜視図である。
図3に示されるように、凹部20は、ブロックの踏面12の一部がステップ状に凹んだ部分である。不整地走行時、路面上の泥は、凹部20内で押し固められ、せん断される。このときの反力により、優れたグリップ性能が発揮される。しかも、泥がせん断されるときの反力は、ブロックのエッジが丸く摩耗した場合でも、ほとんど低下しない。従って、グリップ性能の低下が効果的に抑制される。
【0024】
凹部20は、ブロックの踏面12に沿ってのびる底面21と、底面21からブロックの踏面12にのびる壁面22とを有している。凹部20は、ブロックの踏面12と、ブロックの側面13とに跨って形成されている。これにより、路面上の泥が効果的に凹部20内に入り込み、大きな前記反力が得られる。
【0025】
図4(a)には、凹部付ブロック11の踏面12の拡大平面図が示されている。
図4(a)に示されるように、凹部付ブロック11の平面視において、凹部20の側面13に沿った開口長さL1は、側面13から離れるに従って漸減している。これにより、凹部20内に入る泥は、凹部20の壁面22によって効果的に押し固められる。従って、泥がせん断されるときの反力が高められ、優れたグリップ性能が得られる。
【0026】
凹部20の縁20eは、例えば、凹部20が設けられている側面13からブロックの中心に向かって滑らかに凸となっているのが望ましい。凹部20の縁20eは、好ましくは略半円状である。本実施形態の凹部20の縁20eは、単一の曲率半径で形成された略半円状である。これにより、ブロックの歪みが集中せず、凹部20を起点としたブロックの割れが効果的に抑制される。
【0027】
凹部20の開口長さL1は、好ましくは側面13の長さL2の30%以上、より好ましくは45%以上であり、好ましくは70%以下、より好ましくは60%以下である。このような凹部20は、ブロックの剛性を維持しつつ、グリップ性能の低下を効果的に抑制する。
【0028】
同様の観点から、凹部20の開口長さL1と直交する奥行き方向の長さL3は、好ましくは凹部付ブロック11の前記奥行き方向の長さL4の10%以上、より好ましくは15%以上であり、好ましくは30%以下、より好ましくは25%以下である。
【0029】
図4(b)には、
図4(a)の凹部付ブロック11のB−B断面図が示されている。
図4(b)に示されるように、凹部20の深さd1は、好ましくはブロックの高さh1の5%以上、より好ましくは10%以上であり、好ましくは20%以下、より好ましくは15%以下である。これにより、グリップ性能の低下が抑制されつつ、優れた操縦安定性が発揮される。
【0030】
図2に示されるように、ブロックを効果的に路面に突き刺すために、凹部付ブロック11のブロックの高さh1は、例えば、15〜25mmである。凹部付ブロック11のタイヤ軸方向の幅W1は、例えば、トレッド展開幅TWeの5〜15%である。
【0031】
トレッド展開幅TWeとは、トレッド部2の外面に沿ったトレッド端Te、Te間のトレッド幅方向の距離である。トレッド端Teは、トレッド部2に配されたブロック10の内、最もタイヤ軸方向外側に位置するブロック10のタイヤ軸方向外側の縁10eである。
【0032】
図1に示されるように、凹部付ブロック11は、複数個の凹部20を有しているのが望ましい。このような凹部付ブロック11は、上述の効果をさらに高める。
【0033】
タイヤ赤道C上に設けられたセンターブロック30には、例えば、タイヤ軸方向に沿った側面で開口する凹部20aが設けられているのが望ましい。本実施形態のセンターブロック30には、タイヤ周方向の両側の側面に凹部20aが設けられている。これにより、トラクション性能及びブレーキ性能が効果的に高められる。
【0034】
最もトレッド端Te側に設けられたショルダーブロック33、及び、センターブロック30とショルダーブロック33との間のミドルブロック32には、例えば、タイヤ軸方向に沿った側面で開口する凹部20aと、タイヤ周方向に沿った側面で開口する凹部20bとが設けられているのが望ましい。凹部20bは、タイヤ軸方向内側の側面に設けられているのが望ましい。これにより、車体を倒し込むとき、タイヤ軸方向に大きな前記反力が発揮される。このため、優れた旋回性能が得られる。
【0035】
図5には、本発明の他の実施形態の凹部付ブロック11の拡大斜視図が示されている。
図5に示されるように、凹部付ブロック11の平面視において、凹部20は、三角形状で構成されている。このような凹部20も、その内部で路面上の泥を効果的に押し固め、泥がせん断されるときの反力をさらに高める。
【0036】
この実施形態の凹部20は、例えば、ブロックの踏面12内の頂点20tの角度が鈍角であるのが望ましい。しかも、凹部20は、例えば、頂点20tの両側の辺が互いに等しい二等辺三角形であるのが望ましい。これにより、凹部20を起点としたブロックの損傷が抑制される。
【0037】
図6には、さらに、本発明の他の実施形態の凹部付ブロック11の拡大斜視図が示されている。
図6に示されているように、凹部20は、例えば、略矩形状でも良い。
図6の実施形態の凹部20は、その縁20eの一部が側面13に沿ってのびる台形状である。これにより、凹部20内への泥詰まりが効果的に抑制される。
【0038】
以上、本発明の特に好ましい実施形態について詳述したが、本発明は図示の実施形態に限定されることなく、種々の態様に変形して実施しうる。
【実施例】
【0039】
図1のトレッドパターンを有する不整地走行用の自動二輪車用の空気入りタイヤが、表1の仕様に基づいて試作された。比較例1として、ブロックに凹部が設けられていないタイヤが試作された。これらのテストタイヤがテスト車両の後輪に装着され、性能がテストされた。各テストタイヤの共通仕様やテスト方法は、以下の通りである。
使用車両:排気量450cc 自動二輪車
タイヤサイズ:120/80−19
リムサイズ:2.15×19
内圧:80kPa
【0040】
<初期のグリップ性能>
上記条件にて、不整地路面のテストコースを実車走行したときの初期のグリップ性能が、運転者の官能によりテストされた。結果は、比較例1を100とする評点であり、数値が大きい程良好であることを示す。
【0041】
<一定時間走行後のグリップ性能>
上記条件にて、不整地路面のテストコースを30分間継続して実車走行した後のグリップ性能が、運転者の官能によりテストされた。結果は、比較例1の初期のグリップ性能を100とする評点であり、数値が大きい程良好であることを示す。
【0042】
<ブロック耐久性>
不整地路面のテストコースを一定時間測定後、凹部を起点とした割れ等の損傷が発生していないブロックの数が測定された。結果は、比較例1を100とする指数であり、数値が大きい程、ブロック耐久性が優れていることを示す。
テストの結果を表1に示す。
【0043】
【表1】
【0044】
テストの結果、実施例のタイヤは、優れたグリップ性能を発揮し、かつ、走行中のグリップ性能の低下を抑制していることが確認できた。
【符号の説明】
【0045】
2 トレッド部に、
10 ブロック
11 凹部付ブロック
12 踏面
13 側面
20 凹部
L1 開口長さ