(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の実施の一形態が図面に基づき説明される。
本実施形態のタイヤの操縦安定性能を近似的に調べるための方法(以下、単に「評価方法」ということがある)は、タイヤの操縦安定性を、静的試験により近似的に調べるための方法である。静的試験とは、タイヤを転動させることなく、タイヤの性能を評価する試験をいう。
【0016】
図1に示されるように、本実施形態の評価方法で用いられるタイヤ1としては、乗用車用空気入りタイヤである場合が例示される。タイヤ1のトレッド部2には、タイヤ周方向に連続してのびる複数本の縦溝3と、該縦溝3に交わる向きにのびる複数本の横溝4とが設けられている。これにより、トレッド部2には、縦溝3と横溝4とで区分され、かつタイヤ周方向に並ぶ複数個のブロック5が形成される。
【0017】
本実施形態の縦溝3は、タイヤ赤道Cの両側をタイヤ周方向に連続してのびる1対のクラウン縦溝3A、3A、及び1対のクラウン縦溝3A、3Aのタイヤ軸方向外側でタイヤ周方向にのびる一対のショルダー縦溝3B、3Bを含んでいる。また、横溝4は、一対のクラウン縦溝3A、3A間を継ぐ複数本のクラウン横溝4A、ショルダー縦溝3Bとトレッド部2の接地端2tとを継ぐ複数本のショルダー横溝4B、及びクラウン縦溝3Aとショルダー縦溝3Bとを継ぐ複数本のミドル横溝4Cを含んでいる。
【0018】
本明細書において、「接地端2t」とは、正規リムにリム組みしかつ正規内圧を充填した状態のタイヤ1に、正規荷重を負荷してキャンバー角0度にて平坦面に接地させたときのトレッド接地面のタイヤ軸方向の最外端とする。
【0019】
「正規リム」とは、タイヤが基づいている規格を含む規格体系において、当該規格がタイヤ毎に定めるリムであり、例えばJATMAであれば "標準リム" 、TRAであれば "Design Rim" 、ETRTOであれば "Measuring Rim" とする。
【0020】
また、「正規内圧」とは、タイヤが基づいている規格を含む規格体系において、各規格がタイヤ毎に定めている空気圧であり、JATMAであれば "最高空気圧" 、TRAであれば表 "TIRE LOAD LIMITS AT VARIOUS COLD INFLATION PRESSURES" に記載の最大値、ETRTOであれば "INFLATION PRESSURE" とするが、タイヤが乗用車用である場合には180kPaとする。
【0021】
さらに、「正規荷重」とは、前記規格がタイヤ毎に定めている荷重であり、JATMAであれば最大負荷能力、TRAであれば表 "TIRE LOAD LIMITS AT VARIOUS COLD INFLATION PRESSURES" に記載の最大値、ETRTOであれば "LOAD CAPACITY" である。
【0022】
本実施形態のブロック5は、クラウンブロック5A、ショルダーブロック5B及びミドルブロック5Cを含んでいる。クラウンブロック5Aは、クラウン縦溝3Aとクラウン横溝4Aとで区分され、かつトレッド部2の中央側に配置されている。また、ショルダーブロック5Bは、ショルダー縦溝3Bと接地端2tとショルダー横溝4Bとで区分され、かつ接地端2t側に配置されている。さらに、ミドルブロック5Cは、クラウン縦溝3Aとショルダー縦溝3Bとミドル横溝4Cとで区分され、かつクラウンブロック5Aとショルダーブロック5Bとの間に配置されている。これらのブロック5A、5B、5Cは、スリップ角が与えられる旋回時に大きな歪が与えられ、それらのねじり剛性によりコーナリングフォースを発生させることができる。
【0023】
図2には、本実施形態の評価方法で用いられる試験装置11の断面図が示される。試験装置11は、車両12に装着された評価対象のタイヤ1を接地させる試験路面13を含んでいる。本実施形態の試験路面13は、例えば、アスファルトやセメント等で形成され、かつ車両12を支持しうる路面14に配置されている。また、試験路面13の下面側には、空隙15が設けられている。
【0024】
本実施形態の試験路面13は、例えば、平面視略矩形の板状に形成されている。さらに、試験路面13は、平面視において、1辺の長さL1が400〜800mm程度に設定されている。このような試験路面13は、車両12が停車した状態において、1本のタイヤ1のみを接地させることができる。
【0025】
さらに、試験路面13には、下面側からタイヤ1を透視しうる透明材が用いられている。このような試験路面13は、
図3に示されるように、その上面に現れるタイヤ1の接地形状19を、試験路面13を通して、下面側から観察することができる。
【0026】
図2に示されるように、透明材には、車両12の荷重に十分耐えうる強度を有するものが採用される。本実施形態では、50〜80mm程度の厚さW1を有するガラス板が採用されるが、これに限定されるわけではない。例えば、アクリル板、プラスチック、又は、氷等が採用されてもよい。
【0027】
さらに、本実施形態の試験路面13には、その上面側に、不透明の水膜16が形成されている。このような水膜16は、
図3に示されるように、試験路面13の下面側において、例えば、縦溝3及び横溝4を含むタイヤ1の非接地部分17を覆って、接地面18のみを透視させることができる。
図2に示されるように、水膜16の厚さW2は、0.3〜0.7mm程度が望ましい。
【0028】
不透明の水膜16には、例えば、ガッシュや、ポスターカラー等の不透明水彩絵具を、水で希釈したものを採用することができる。また、不透明水彩絵具の色は、タイヤ1とは異なる色が望ましい。例えば、タイヤ1が黒色である場合は、白色や黄色等の高明度色を好適に採用しうる。
【0029】
図2に示されるように、不透明の水膜16は、例えば、水溶性シリコンを主成分とする親水性コーティング剤27を介して、試験路面13の上面に形成されるのが望ましい。このような親水性コーティング剤は、不透明の水膜16の表面張力の影響を抑えて、該水膜16を薄く広範囲に拡散させることができる。
【0030】
また、本実施形態の試験装置11には、試験路面13の下面側の空隙15に、タイヤ1の接地形状19(
図3に示す)を撮影する撮影手段20が設けられている。この撮影手段20としては、例えば、静止画や動画を撮影することができるカメラ又はビデオカメラを採用することができる。なお、撮影の際には、例えば、照明装置24によって、試験路面13の下面が照明されるのが望ましい。
【0031】
また、撮影された接地形状19(
図3に示す)の画像データは、例えば、コンピュータなどの画像処理手段を具えたコンピュータ(図示省略)で処理されるのが望ましい。このようなコンピュータは、接地面形状、接地面積及び接地長さ等のデータを正確に計算することができるため、正確な評価を行うのに役立つ。
【0032】
次に、上記試験装置11を用いた本実施形態の評価方法について説明する。
図4には、本実施形態の評価方法の具体的な処理手順が示されている。
【0033】
この評価方法では、先ず、タイヤ1の各ブロック5が、試験路面13に接地される(接地工程S1)。
図5には、本実施形態の接地工程S1の具体的な処理手順が示されている。
【0034】
接地工程S1では、先ず、
図2に示されるように、評価対象のタイヤ1が車両12に装着される(工程S11)。評価対象のタイヤ1は、正規リムにリム組みされ、かつ正規内圧が充填される。そして、評価対象のタイヤ1が、少なくとも1本、本実施形態では1本のみが、車両12に装着される。また、他の3本のタイヤには、任意の既成品のタイヤが装着される。
【0035】
次に、車両12に装着された評価対象のタイヤ1が、試験路面13の上に接地される(工程S12)。本実施形態では、先ず、ドライバーが、試験路面13の上にタイヤ1を接地させて、車両12を停車させる。これにより、タイヤ1は、
図3に示されるように、トレッド部2の各ブロック5を、試験路面13に非転動の静的状態で接地させることができる。
【0036】
図2に示されるように、タイヤ1には、車両12の荷重が負荷されている。このため、タイヤ1は、試験路面13の上で、縦荷重21が与えられ、トレッド部2の各ブロック5(
図3に示す)が、試験路面13に押し付けられる。なお、縦荷重21の大きさとしては、適宜設定することができるが、例えば、正規荷重に設定されるのが望ましい。また、試験路面13の上面には、タイヤ1を接地させるに先立ち、親水性コーティング剤(図示省略)、及び不透明の水膜16が形成されるのが望ましい。
【0037】
次に、タイヤ1が第1の向きに操舵される(第1操舵工程S2)。この第1操舵工程S2では、
図2及び
図6に示されるように、タイヤ1を試験路面13上に静的に接地させた状態で、ドライバーが、車両進行方向Rに対して第1の向きT1(試験路面13の下面側において、左向き)に第1の角度α1で操舵する。これにより、ブロック5には、試験路面13との摩擦によって捻りが与えられ、大きな歪が作用する。この操舵前後のブロック5の形状は、撮影手段20によって撮影され、コンピュータ(図示省略)に記憶される。
【0038】
次に、第1の向きT1に操舵されたタイヤ1を、第1の向きT1とは逆の第2の向きT2に操舵する(第2操舵工程S3)。この第2操舵工程S3では、
図2及び
図7に示されるように、ドライバーが、第1の向きT1とは逆の第2の向きT2(試験路面13の下面側において、右向き)に、第1の角度α1よりも小さい第2の角度α2で操舵する。これにより、ブロック5の捻りが少し戻されて、各ブロック5に作用する歪を最も大きくすることができる。ブロック5の形状は、撮影手段20によって撮影され、コンピュータ(図示省略)に記憶される。
【0039】
ところで、
図8(a)に示されるように、転動中のタイヤ1は、第1の向きT1に操舵されると、ブロック5に捻りが与えられ(
図6に示す)、コーナリングフォースF1を発生させる。このコーナリングフォースF1は、車両12に垂直軸心周りのモーメントM1を発生させ、
図8(b)に示されるように、該車両12を第1の向きT1に向き変えさせる。この車両12の向き変えにより、タイヤ1のブロック5(
図7に示す)は、第2の向きT2に操舵したのと同様に、その捻りが少し戻される。従って、本実施形態では、第1操舵工程S2及び第2操舵工程S3を経ることにより、各ブロック5に作用する歪を最も大きくするとともに、旋回初期時のブロック5の変形状態に近似させることができる。
【0040】
このような作用を効果的発揮させるために、第1操舵工程S2の第1の角度α1は、15〜30°であるのが望ましい。なお、第1の角度α1が15°未満であると、ブロック5に作用する歪を十分に大きくすることができないおそれがある。逆に、第1の角度α1が30°を超えても、通常旋回時に操舵する角度を超えるため、旋回時のブロック5の変形状態を再現できないおそれがある。このような観点より、第1の角度α1は、より好ましくは15°以上であり、また、より好ましくは20°以下である。
【0041】
また、第2操舵工程S3の第2の角度α2は、2〜10°であるのが望ましい。なお、第2の角度α2が2°未満であると、ブロック5に作用する歪を十分に大きくすることができないおそれがある。逆に、第2の角度α2が10°を超えても、通常旋回時の車両12の向き変えに近似させることができないおそれがある。このような観点より、第2の角度α2は、より好ましくは4°以上であり、また、より好ましくは7°以下である。
【0042】
次に、第2操舵工程S3を経たブロック5の変形状態に基づいて、タイヤ1の操縦安定性能を評価する(評価工程S4)。
図9には、本実施形態の評価工程S4の具体的な処理手順が示されている。
【0043】
評価工程S4では、先ずクラウンブロック5A及びショルダーブロック5Bそれぞれについて、第1操舵工程S2時の各ブロック5A、5Bのねじれ角度θ1と、第2操舵工程S3時のブロック5A、5Bのねじれ角度θ2との角度差θ1−θ2が求められる(工程S41)。本実施形態では、撮影手段20によって撮影されたクラウンブロック5A及びショルダーブロック5Bの画像データに基づいて、各ねじれ角度θ1、θ2を測定している。
【0044】
クラウンブロック5Aにおいて、第1操舵工程S2時のねじれ角度θ1a(
図6に示す)、及び第2操舵工程S3時のねじれ角度θ2a(
図7に示す)は、クラウンブロック5Aのクラウン縦溝3A側のブロック縁22のタイヤ周方向に対する角度、又はクラウン横溝4A側のブロック縁23のタイヤ軸方向に対する角度として定義することができる。しかしながら、クラウン縦溝3A側のブロック縁22は、クラウン横溝4A側のブロック縁23に比べて、操舵前後の変形が大きくなり、操縦安定性能への寄与が大きい。このため、クラウンブロック5Aの各ねじれ角度θ1a、θ2aは、クラウン縦溝3A側のブロック縁22のタイヤ周方向に対する角度として定義されるのが望ましい。
【0045】
なお、前記タイヤ周方向に対する角度とは、工程S2及び工程S3で操舵される前のタイヤ1(
図3に示す)でのタイヤ周方向に対する角度を意味している。同様に、前記タイヤ軸方向に対する角度とは、操舵前のタイヤ1(
図3に示す)でのタイヤ軸方向に対する角度を意味している。また、操舵前の各ブロック縁22、23が、タイヤ周方向又はタイヤ軸方向に対して傾斜している場合、各ねじれ角度θ1a、θ2aは、操舵前の各ブロック縁22、23に対する角度として定義されるのが望ましい。なお、後述するショルダーブロック5Bの各ねじれ角度θ1b、θ2bについても同様である。
【0046】
さらに、クラウンブロック5Aの各ねじれ角度θ1a、θ2aは、クラウン縦溝3A側の一対のブロック縁22a、22bのうち、変形が相対的に大きくなる第1の向きT1側のブロック縁22aにおいて測定されるのが望ましい。
【0047】
図10は、第1操舵工程を経たタイヤの接地形状の一例を示す画像データである。
図11は、第2操舵工程を経たタイヤの接地形状の一例を示す画像データである。なお、
図10及び
図11では、第1の向きT1及び第2の向きT2が、
図6及び
図7と逆向きである。
図10及び
図11に示されるように、クラウンブロック5Aがタイヤ軸方向に複数個配置される(例えば、タイヤ赤道Cの両側に配置される一対のクラウンブロック)場合は、最も第1の向きT1側に配置されるクラウンブロック5Aにおいて、第1の向きT1側のブロック縁で測定されるのが望ましい。
【0048】
図6、
図7、
図10及び
図11に示されるように、ショルダーブロック5Bにおいて、第1操舵工程S2時のねじれ角度θ1b(
図6に示す)、及び第2操舵工程S3時のねじれ角度θ2b(
図7に示す)も、ショルダー縦溝3B側のブロック縁25又は接地端2tのタイヤ周方向に対する角度や、ショルダー横溝4B側のブロック縁26のタイヤ軸方向に対する角度として定義することができる。しかしながら、ショルダーブロック5Bの各ねじれ角度θ1b、θ2bは、クラウンブロック5Aと同様の観点より、接地端2tのタイヤ周方向に対する角度として定義されるのが望ましい。
【0049】
なお、クラウンブロック5Aの各ねじれ角度θ1a、θ2a、及びショルダーブロック5Bの各ねじれ角度θ1b、θ2bは、各ねじれ角度が測定されるクラウンブロック5Aのブロック縁22、又は、ショルダーブロック5Bの接地端2tにおいて、それらのタイヤ周方向の両端間の平均値でそれぞれ求められるものとする。
【0050】
また、クラウンブロック5Aの各ねじれ角度θ1a、θ2a、及びショルダーブロック5Bの各ねじれ角度θ1b、θ2bは、
図3に示されるように、接地面18のタイヤ周方向の中心18cを通り、かつタイヤ軸方向にのびる軸方向線28上に配置されるクラウンブロック5A及びショルダーブロック5Bにおいて求められるのが望ましい。このようなタイヤ周方向の中央に配置されるクラウンブロック5A及びショルダーブロック5Bは、他のクラウンブロック5A及びショルダーブロック5Bに比べて接地圧が大であり、かつタイヤ1の操縦安定性能に最も寄与するためである。
【0051】
そして、工程S41では、クラウンブロック5Aの各ねじれ角度θ1a、θ2a、及びショルダーブロック5Bの各ねじれ角度θ1b、θ2bに基づいて、クラウンブロック5Aの角度差θ1a−θ2a、及びショルダーブロック5Bの角度差θ1b−θ2bが求められる。このような各角度差θ1a−θ2a、θ1b−θ2bは、第1操舵工程S2から、歪が最も大きくなる第2操舵工程S3までにおいて、クラウンブロック5A及びショルダーブロック5Bの歪の変化量(ブロックの動き)をそれぞれ表すことができる。
【0052】
次に、クラウンブロック5Aの角度差θ1a−θ2aと、ショルダーブロック5Bの角度差θ1b−θ2bとの比Rを計算する(工程S42)。比Rは、クラウンブロック5Aの角度差θ1a−θ2aを、ショルダーブロック5Bの角度差θ1b−θ2bで除することにより計算される。このような比Rは、クラウンブロック5Aの歪の変化量と、ショルダーブロック5Bの歪の変化量との関係を示すことができる。
【0053】
次に、比Rに基づいて、操縦安定性能が評価される(工程S43)。比Rは、その値が1.0に近づくほど、クラウンブロック5Aの歪の変化量と、ショルダーブロック5Bの歪の変化量とが近似する。このような場合、クラウンブロック5A及びショルダーブロック5Bは、旋回初期時において、コーナリングフォースを同時に発揮して、旋回初期時の応答遅れを抑制でき、タイヤ1の操縦安定性能が優れると評価できる。
【0054】
一方、比Rは、その値が1.0よりも小さくなるほど、ショルダーブロック5Bの歪の変化量が、クラウンブロック5Aの歪の変化量よりも大きくなる。また、比Rは、その値が1.0よりも大きくなるほど、クラウンブロック5Aの歪の変化量が、ショルダーブロック5Bの歪の変化量よりも大きくなる。このような場合、クラウンブロック5A及びショルダーブロック5Bは、コーナリングフォースを同時に発揮することができず、操縦安定性能が劣ると評価できる。
【0055】
従って、本実施形態の工程S43では、比Rの値が、1.0を含む許容範囲内である場合、タイヤ1の操縦安定性能が優れると評価される。従って、本実施形態の評価方法では、タイヤ1の構造に基づいて、タイヤが製品化される(工程S5)。なお、許容範囲は、タイヤ1の構造に合わせて適宜設定することができるが、0.6〜1.2が望ましい。
【0056】
一方、比Rの値が許容範囲内でない場合には、タイヤ1の操縦安定性能が劣ると評価される。このため、本実施形態では、タイヤ1が設計変更された後に(工程S6)、工程S1〜S3が再度実施される。従って、本実施形態の評価方法は、操縦安定性能に優れるタイヤ1を効率よく設計するのに役立つ。
【0057】
このように、評価工程S4では、ブロック5に最も大きな歪を作用させた状態で評価が行われるため、タイヤ1の操縦安定性能を定量的に評価することができる。従って、評価工程S4では、複数のタイヤ1を比較して、操縦安定性能を正確に評価することができる。
【0058】
また、本実施形態の評価工程S4では、第1操舵工程S2から第2操舵工程S3までのクラウンブロック5A及びショルダーブロック5Bの歪の変化量に基づいて評価されるため、旋回初期時の応答遅れを正確に評価することができる。
【0059】
さらに、評価工程S4では、ブロック5の変形状態に基づいて、タイヤ1の操縦安定性能が近似的に評価されるため、従来のように、評価者に、高度な運転技術、十分な経験及び繊細なフィーリング等が求められることがない。従って、評価工程S4では、タイヤ1の操縦安定性能を、容易かつ正確に評価することができる。
【0060】
また、本実施形態の試験装置11は、タイヤ1を転動させない(実車走行しない)静的試験に用いられるため、室内試験機として構成することができる。従って、評価方法は、天候に左右されることなく、タイヤ1の操縦安定性能を評価することができる。さらに、本発明では、1本の評価対象のタイヤ1のみを試作するだけで十分であるため、テストのためにタイヤ1を試作する工数を削減できる。
【0061】
以上、本発明の特に好ましい実施形態について詳述したが、本発明は図示の実施形態に限定されることなく、種々の態様に変形して実施しうる。
【実施例】
【0062】
図1に示した基本構造を有し、かつクラウンブロック及びショルダーブロックがそれぞれ異なるタイヤA〜Cが製造された。そして、
図4に示した手順に従って、タイヤA〜Cの操縦安定性能が評価された(実施例1〜3)。
【0063】
また、比較のために、第1操舵工程のみを経たブロックの変形状態に基づいて、タイヤA〜Cの操縦安定性能が評価された(比較例1)。さらに、第1操舵工程の第1の角度と、第2操舵工程の第2の角度とを同一にして、タイヤA〜Cの操縦安定性能が評価された(比較例2)。
【0064】
さらに、タイヤA〜Cを下記リムにリム組みし、下記内圧を充填して排気量1800ccの国産FF車の全輪に装着して、ドライアスファルト路面のテストコースをそれぞれ走行させた。そして、プロドライバーによる官能評価により、ハンドル応答性、剛性感、及びトラクション等に関する特性が10点法で評価された。数値が大きいほど良好である。
【0065】
そして、実施例及び比較例の各評価方法で評価されたタイヤA〜Cの操縦安定性能と、プロテストドライバーによる官能評価により評価されたタイヤA〜C操縦安定性能との決定係数(寄与率)が求められた。決定係数が1に近づくほど、操縦安定性能を精度良く評価できることを示している。なお、共通仕様は、以下のとおりであり、テストの結果を表1に示す。
タイヤサイズ:195/65R15
リムサイズ:15×6.0J
内圧:230kPa
試験路面(ガラス板):
厚さW1:100mm
1辺の長さL1:1500mm
不透明の水膜:
色:白色(ポスターカラー)
厚さW2:20mm
比R(角度差θ1a−θ2a/角度差θ1b−θ2b):
許容範囲:0.6〜1.0
【0066】
【表1】
【0067】
テストの結果、実施例の評価方法は、プロテストドライバーによる官能評価との相関が高い(決定係数が大)ため、タイヤの操縦安定性能を、実車走行させることなく室内等で近似的に評価できることが確認できた。一方、比較例1及び比較例2では、プロテストドライバーによる官能評価との相関がないため、タイヤの操縦安定性能を正確に評価できなかった。