(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記方法で得られた触媒では圧壊強度は改良されるが、目的とする不飽和アルデヒドの収率はまだ十分ではなく、より強い圧壊強度を有し、且つ、高収率で目的生成物を得ることができる触媒及びその製造方法の開発が望まれている。
【0006】
また、ビスモリ系(Bi−Mo)触媒と呼ばれるように、BiはMoと共に活性種の形成のための必須元素であるため、活性の観点から多く含まれていることが有利である。しかし、Biは他金属に比べ融点が低いため、Bi含有量を多くすると成型触媒の圧壊強度が弱くなるという問題がある。
【0007】
本発明は、上記問題点に鑑みてなされたものであり、オレフィン及び/又はアルコールから不飽和アルデヒドを長時間高収率で製造でき、且つ、圧壊強度の高い成型触媒及びその製造方法、並びに不飽和アルデヒドの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討した結果、所定の工程を有する成型触媒の製造方法であれば、上記課題を解決できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0009】
即ち、本発明は以下のとおりである。
〔1〕
オレフィン及び/又はアルコールから不飽和アルデヒドを製造する際に用いる成型触媒の製造方法であって、
粘度が10〜100cpsである原料スラリーを調製する調製工程と、
前記原料スラリーを乾燥して乾燥体を得る乾燥工程と、
前記乾燥体を仮焼成して、嵩密度が0.60〜0.85kg/Lである仮焼成体を得る仮焼成工程と、
前記仮焼成体を成型して成型体を得る成型工程と、
前記成型体を本焼成して前記成型触媒を得る本焼成工程と、を有する、
成型触媒の製造方法。
〔2〕
前記乾燥工程において、前記原料スラリーを噴霧乾燥して乾燥体を得る、前項〔1〕に記載の成型触媒の製造方法。
〔3〕
前記原料スラリーが、モリブデン、ビスマス、鉄、イオン半径が0.96Åよりも大きな元素、及びコバルトを含む、前項〔1〕又は〔2〕に記載の成型触媒の製造方法。
〔4〕
前記成型触媒の圧壊強度が、6.5〜9.5kgfである、前項〔1〕〜〔3〕のいずれか1項に記載の成型触媒の製造方法。
〔5〕
前記仮焼成工程において、前記乾燥体を100℃から200℃まで徐々に昇温する、前項〔1〕〜〔4〕のいずれか1項に記載の成型触媒の製造方法。
〔6〕
前記成型工程において、打錠成型法により、前記仮焼成体を成型して前記成型体を得る、前項〔1〕〜〔5〕のいずれか1項に記載の成型触媒の製造方法。
〔7〕
前記成型触媒が、下記組成式(1)で表される組成を有する、前項〔1〕〜〔6〕のいずれか1項に記載の成型触媒の製造方法。
Mo
12Bi
aFe
bA
cCo
dB
eC
fO
g (1)
(式中、Moはモリブデンであり、Biはビスマスであり、Feは鉄であり、元素Aはイオン半径が0.96Åよりも大きな元素(ただし、カリウム、セシウム及びルビジウムを除く)であり、Coはコバルトであり、元素Bはマグネシウム、亜鉛、銅、ニッケル、マンガン、クロム、及び錫からなる群より選ばれる少なくとも1種の元素であり、元素Cはカリウム、セシウム、及びルビジウムからなる群より選ばれる少なくとも1種の元素であり、a〜gは、Mo12原子に対する各元素の原子比であり、Biの原子比aは1.0≦a≦5.0であり、Feの原子比bは1.5≦b≦6.0であり、元素Aの原子比cは1.0≦c≦5.0であり、Coの原子比dは1.0≦d≦8.0であり、元素Bの原子比eは0≦e<3.0であり、元素Cの原子比fは0≦f≦2.0であり、Fe/Coの比は0.80≦b/dであり、gは酸素以外の構成元素の原子価によって決まる酸素の原子数である。)
〔8〕
下記組成式(1)で表される組成を有し、
圧壊強度が6.5〜9.5kgfである、成型触媒。
Mo
12Bi
aFe
bA
cCo
dB
eC
fO
g (1)
(式中、Moはモリブデンであり、Biはビスマスであり、Feは鉄であり、元素Aはイオン半径が0.96Åよりも大きな元素(ただし、カリウム、セシウム及びルビジウムを除く)であり、Coはコバルトであり、元素Bはマグネシウム、亜鉛、銅、ニッケル、マンガン、クロム、及び錫からなる群より選ばれる少なくとも1種の元素であり、元素Cはカリウム、セシウム、及びルビジウムからなる群より選ばれる少なくとも1種の元素であり、a〜gは、Mo12原子に対する各元素の原子比であり、Biの原子比aは1≦a≦5であり、Feの原子比bは1.5≦b≦6であり、元素Aの原子比cは1≦c≦5であり、Coの原子比dは1≦d≦8であり、元素Bの原子比eは0≦e<3であり、元素Cの原子比fは0≦f≦2であり、Fe/Coの比は0.8≦b/dであり、gは酸素以外の構成元素の原子価によって決まる酸素の原子数である。)
〔9〕
前項〔1〕〜〔7〕のいずれか1項に記載の成型触媒の製造方法によって製造された成型触媒、又は、前項〔8〕に記載の成型触媒を用いて、オレフィン及び/又はアルコールを酸化して不飽和アルデヒドを製造する酸化工程を有する、不飽和アルデヒドの製造方法。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、オレフィン及び/又はアルコールから不飽和アルデヒドを長時間高収率で製造でき、且つ、圧壊強度の高い成型触媒及びその製造方法、並びに不飽和アルデヒドの製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の実施の形態(以下、「本実施形態」という。)について詳細に説明するが、本発明はこれに限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で様々な変形が可能である。
【0012】
〔成型触媒の製造方法〕
本実施形態の成型触媒の製造方法は、オレフィン及び/又はアルコールから不飽和アルデヒドを製造する際に用いる成型触媒の製造方法であって、粘度が10〜100cpsである原料スラリーを調製する調製工程と、前記原料スラリーを乾燥して乾燥体を得る乾燥工程と、前記乾燥体を仮焼成して、嵩密度が0.60〜0.85kg/Lである仮焼成体を得る仮焼成工程と、前記仮焼成体を成型して成型体を得る成型工程と、前記成型体を本焼成して前記成型触媒を得る本焼成工程と、を有する。以下、各工程について説明する。
【0013】
スラリー粘度を制御し、仮焼成体の嵩密度を一定範囲にすることで、成型触媒の圧壊強度を向上することができる。
【0014】
一般的に原料であるアンモニウム塩と硝酸塩を混合すると沈殿を生じ、原料スラリーとなる。この原料スラリーの粘度が低いと噴霧乾燥後の粉体が粒子径の小さいものになったり、あるいは中空の多い粒子となり、割れや欠けの多い乾燥体になる。その乾燥体を仮焼成し、成型すると圧壊強度の弱い成型触媒となる傾向がある。本発明者らはこの課題を解決すべく試行錯誤を重ねた結果、驚くべきことに、原料スラリーの粘度を制御することにより、仮焼成体の嵩密度が向上し、ひいては目的の成型触媒の圧壊強度が満たされることを見出した。
【0015】
〔調製工程〕
調製工程は、原料スラリーを調製する工程である。原料スラリーの粘度は、10〜100cpsであり、好ましくは20〜80cpsであり、より好ましくは25〜50cpsである。粘度が10cps以上であることにより、乾燥後の粉体の粒子径が増大し、中空粒子が減少し、その結果、得られる成形触媒の圧壊強度がより向上する。また、粘度が100cps以下であることにより、嵩密度が減少し、その結果、得られる成型触媒の圧壊強度がより向上する。一方で、粘度が10cps未満であると、乾燥後の粉体の粒子径が減少し、中空粒子が増大し、得られる乾燥体の割れや欠けが多くなる。また、このような乾燥体を仮焼成すると、得られる仮焼成体の嵩密度が減少し、結果として成型触媒の圧壊強度が低下する。粘度は、実施例に記載の方法により測定することができる。
【0016】
原料スラリーの粘度を上記範囲内に調整する方法としては、ホモジナイザー等を使用して原料スラリー中の固形分粒子を所定のメジアン径まで粉砕する方法、固形分濃度を調整する方法が挙げられる。固形分粒子を粉砕するためには、原料スラリーに強力なせん断力を印加することが好ましい。そのため、調製工程において原料スラリーを混合する際には、高圧ホモジナイザーを用いることが好ましい。
【0017】
原料スラリー中の固形分粒子のメジアン径は、好ましくは0.10〜10μmであり、より好ましくは1.0〜7.0μmであり、さらに好ましくは1.0〜5.0μmである。原料スラリー中の固形分粒子のメジアン径が0.10μm以上であることにより、粘度が低下する傾向にある。また、原料スラリーから乾燥機へのラインが詰まることを抑制できる傾向にある。また、原料スラリー中の固形分粒子のメジアン径が10μm以下であることにより、粘度が向上し、中空粒子が減少する傾向にある。このように、原料スラリー中の固形分粒子と、粘度と、をともに調整することにより、成型触媒の圧壊強度を、6.5〜9.5kgfの範囲により容易に調整することができる。原料スラリー中の固形分粒子のメジアン径は、実施例に記載の方法により測定することができる。
【0018】
原料スラリーは、成型触媒を構成する各金属元素の触媒原料を含むことが好ましい。具体的には、モリブデン、ビスマス、セリウム、鉄、コバルト、カリウム、セリウム、ルビジウム、セシウム、ニッケル、マンガン、銅、亜鉛、マグネシウム、カルシウム、ストロンチウム、バリウム、錫、鉛、ランタン、プラセオジウム、ネオジム、ユウロピウムを含むことが好ましく、モリブデン、ビスマス、鉄、イオン半径が0.96Åよりも大きな元素、及びコバルトを含むことがより好ましい。
【0019】
これら金属元素の触媒原料としては、特に限定されないが、例えば、水又は硝酸に可溶な、これら金属元素のアンモニウム塩、硝酸塩、塩酸塩、有機酸塩、酸化物、水酸化物、又は炭酸塩が挙げられる。
【0020】
原料スラリー中の金属元素の含有量は、好ましくは1〜50質量%であり、より好ましくは10〜40質量%であり、さらに好ましくは20〜40質量%である。金属元素の含有量が上記範囲内であることにより、原料スラリーの均一性と酸化物触媒の生産量がともにより向上する傾向にある。
【0021】
原料スラリーは、水溶性ポリマー及び/又は有機酸を含んでもよい。水溶性ポリマー及び/又は有機酸を含むことにより、原料スラリーをより均一に分散化させることができる。水溶性ポリマーとしては、特に限定されないが、例えば、ポリエチレングリコール、メチルセルロース、ポリビニルアルコール、ポリアクリル酸、ポリアクリルアミド等が挙げられる。また、有機酸としては、特に限定されないが、例えば、アミン類、アミノカルボン酸類、しゅう酸、マロン酸、コハク酸などの多価カルボン酸、グリコール酸、りんご酸、酒石酸、クエン酸等が挙げられる。
【0022】
水溶性ポリマー又は有機酸の含有量は、得られる整形触媒に対して、好ましくは0〜30質量%であり、より好ましくは1.0〜20質量%であり、さらに好ましくは2.0〜10質量%である。水溶性ポリマー又は有機酸の含有量が上記範囲内であることにより、原料スラリーの均一性と酸化物触媒の生産量がともにより向上する傾向にある。
【0023】
原料スラリーの調製方法としては、通常用いられる方法であれば特に限定されず、例えば、モリブデンのアンモニウム塩を温水に溶解させた溶液と、ビスマス、セリウム、鉄、コバルト、アルカリ金属を硝酸塩として水又は硝酸水溶液に溶解させた溶液を混合することにより調製する方法が挙げられる。
【0024】
〔乾燥工程〕
乾燥工程は、原料スラリーを乾燥して乾燥体を得る工程である。乾燥方法としては、特に限定されないが、例えば、噴霧乾燥法、蒸発乾涸法、減圧乾燥法などが挙げられる。このなかでも、乾燥体の粒径、仮焼成体の嵩密度、成型触媒の圧壊強度をより容易に調整する観点から噴霧乾燥が好ましい。
【0025】
噴霧乾燥法は、通常工業的に実施される遠心方式、二流体ノズル方式、又は高圧ノズル方式等によって行うことができる。乾燥熱源としては、スチーム又は電気ヒーター等によって加熱された空気を用いることが好ましい。また、噴霧乾燥装置の乾燥機入口の温度は、好ましくは150〜400℃であり、より好ましくは200〜300℃であり、さらに好ましくは230〜260℃である。
【0026】
乾燥体のメジアン径は、好ましくは35〜65μmであり、より好ましくは40〜60μmであり、さらに好ましくは45〜55μmである。乾燥体のメジアン径が35μm以上であることにより、乾燥体粒子同士の凝集を抑制でき、仮焼成体の嵩密度が適度に増大し、得られる成型触媒の圧壊強度がより向上する傾向にある。また、乾燥体のメジアン径が65μm以下であることにより、仮焼成体の嵩密度が適度に低下し、成型触媒の活性及び成型触媒の圧壊強度がより向上する傾向にある。このように、原料スラリー中の固形分粒子と、粘度と、乾燥体のメジアン径と、をともに調整することにより、成型触媒の圧壊強度を、6.5〜9.5kgfの範囲により容易に調整することができる。なお、乾燥体のメジアン径は、原料スラリー中の固形分粒子と、粘度と、を調整することにより、調整することができる。また、乾燥体のメジアン径は、実施例に記載の方法により測定することができる。
【0027】
〔仮焼成工程〕
仮焼成工程は、乾燥体を仮焼成して、嵩密度が0.60〜0.85kg/Lである仮焼成体を得る工程である。仮焼成は、回転炉、管状炉、トンネル炉、マッフル炉、流動焼成炉等の焼成炉を用いて行うことができる。工業触媒としての生産性の観点から回転炉を用いることが好ましい。
【0028】
乾燥体の仮焼成方法は、用いる原料によっても異なるが、原料スラリーが硝酸イオンを含む場合には、第1仮焼成工程と第2仮焼成工程とを行うことが好ましい。
【0029】
(第1仮焼成工程)
第1仮焼成工程は、乾燥体を100から200℃まで徐々に昇温する工程である。本明細書中、「徐々に昇温」とは、昇温時間にして0.5h〜10hかけて設定温度まで昇温することをいう。昇温レートは常に一定である必要はない。第1仮焼成工程の昇温時間は、好ましくは0.5h〜10hであり、より好ましくは1h〜5hであり、さらに好ましくは1h〜3hである。昇温時間が0.5h以上であることにより、粒子が割れて、粒子が小さくなることを抑制できる傾向にある。これにより、成型触媒の圧壊強度の低下を抑制できる傾向にある。
【0030】
(第2仮焼成工程)
第2仮焼成工程は、第1仮焼成工程後の乾燥体を200℃〜250℃の温度範囲まで徐々に昇温して仮焼成体を得る工程である。第2仮焼成工程の焼成時間は、好ましくは0.5h〜10hであり、より好ましくは1h〜6hであり、さらに好ましくは1h〜3hである。第2仮焼成工程を行うことにより、乾燥体中に残存している硝酸を徐々に燃焼させることができる。徐々に昇温することにより、硝酸が一気に乾燥体から蒸発することを抑制できるため、空隙の生成や形状の歪の発生を抑制できる傾向にある。これにより、成型収率の低下を抑制できる傾向にある。
【0031】
仮焼成体の嵩密度は、0.60〜0.85kg/Lであり、好ましくは0.65〜0.85kg/Lであり、より好ましくは0.70〜0.80kg/Lである。仮焼成体の嵩密度が0.60kg/L以上であることにより、粒子径の小さい仮焼成体が少なくなり、成型触媒の圧壊強度がより向上する。一方、仮焼成体の嵩密度が0.85kg/L以下であることにより、得られる成型触媒の細孔がつぶれることをより抑制できるため、不飽和アルデヒドの収率の高い成型触媒を得ることができる。なお、嵩密度は、乾燥体のメジアン径、乾燥条件、仮焼成条件を調整することにより制御することができる。
【0032】
〔成型工程〕
成型工程は、仮焼成体を成型して成型体を得る工程である。成型方法としては、特に限定されないが、例えば、公知の打錠成型法、押出成型法、転動造粒法等が挙げられる。このなかでも、成型触媒の生産性の観点から、打錠成型法又は押出成型法により、仮焼成体を成型して成型体を得ることが好ましい。成型形状は、特に限定されないが、例えば、球状、円柱状、リング(円筒状)、星型状等の形状が挙げられる。このなかでも、成型触媒の圧壊強度の高い円柱状、リング状が好ましい。
【0033】
成型の際、仮焼成体に成型助剤を加えてもよい。成型助剤としては、特に限定されないが、例えば、ポリビニルアルコール、カルボキシメチルセルロースなどのセルロース誘導体、グラファイト、タルク、無機ケイ酸、炭素繊維などの無機ファイバー等が挙げられる。
【0034】
〔本焼成工程〕
本焼成工程は、成型体を本焼成して成型触媒を得る工程である。本焼成を行うことにより、仮焼成で得られた結晶が成長する。本焼成は、回転炉、固定炉、管状炉、トンネル炉、マッフル炉、流動焼成炉等の焼成炉を用いて行うことができる。このなかでも、成型体を崩さないようにする観点から固定炉を用いることが好ましい。
【0035】
結晶構造は焼成温度と焼成時間との積の影響を受けるため、焼成温度と焼成時間とを適切に設定することが好ましい。本焼成温度は、好ましくは450℃〜700℃であり、より好ましくは500〜600℃であり、さらに好ましくは520〜560℃である。また、本焼成時間は、好ましくは3〜48時間であり、より好ましくは3〜24時間であり、さらに好ましくは3〜10時間である。また、本焼成温度を600℃以上とする場合、表面積が小さくなりすぎて触媒の活性が下がってしまうのを防ぐ観点から、本焼成時間を1時間以下とすることが好ましい。
【0036】
〔成型触媒〕
本実施形態の成型触媒、すなわち成型触媒の製造方法において得られる成型触媒は、下記組成式(1)で表される組成を有し、圧壊強度が6.5〜9.5kgfである。
Mo
12Bi
aFe
bA
cCo
dB
eC
fO
g (1)
(式中、Moはモリブデンであり、Biはビスマスであり、Feは鉄であり、元素Aはイオン半径が0.96Åよりも大きな元素(ただし、カリウム、セシウム及びルビジウムを除く)であり、Coはコバルトであり、元素Bはマグネシウム、亜鉛、銅、ニッケル、マンガン、クロム、及び錫からなる群より選ばれる少なくとも1種の元素であり、元素Cはカリウム、セシウム、及びルビジウムからなる群より選ばれる少なくとも1種の元素であり、a〜gは、Mo12原子に対する各元素の原子比であり、Biの原子比aは1.0≦a≦5.0であり、Feの原子比bは1.5≦b≦6.0であり、元素Aの原子比cは1.0≦c≦5.0であり、Coの原子比dは1.0≦d≦8.0であり、元素Bの原子比eは0≦e<3.0であり、元素Cの原子比fは0≦f≦2.0であり、Fe/Coの比は0.80≦b/dであり、gは酸素以外の構成元素の原子価によって決まる酸素の原子数である。)
【0037】
成型触媒の製造方法において得られる成型触媒の圧壊強度は、6.5〜9.5kgfであり、好ましくは7.0〜9.0kgfであり、より好ましくは7.0〜8.0kgfである。成型触媒の圧壊強度が6.5kgf以上であることにより、固定床反応器への充填時や運転中に割れや欠けが発生することを抑制できる。また、成型触媒の圧壊強度が9.5kgf以下であることにより、不飽和アルデヒドの反応初期の収率(初期収率)がより向上する。
【0038】
〔不飽和アルデヒドの製造方法〕
本実施形態の不飽和アルデヒドの製造方法は、本実施形態の成型触媒の製造方法によって製造された成型触媒、又は、本実施形態の成型触媒を用いて、オレフィン及び/又はアルコールを酸化して不飽和アルデヒドを製造する酸化工程を有する。以下、その具体例について説明するが、本実施形態の製造方法は、以下の具体例に限定されるものではない。
【0039】
オレフィンとしては、特に限定されないが、例えば、プロピレン及びイソブチレンが挙げられる。また、アルコールとしては、特に限定されないが、例えば、t−ブチルアルコール及びイソブタノールが挙げられる。
【0040】
酸化方法としては、特に限定されないが、例えば、気相接触酸化反応を用いることができる。気相接触酸化反応は、所定の反応温度下、固定床反応器内の触媒層に、オレフィン及び/又はアルコールと、分子状酸素含有ガスと、希釈ガスと、を添加した混合ガスを導入することにより進行する。
【0041】
オレフィン及び/又はアルコールは、混合ガス100体積%に対して、好ましくは1.0〜10体積%であり、より好ましくは6.0〜10体積%であり、さらに好ましくは7.0〜9.0体積%である。
【0042】
分子状酸素含有ガスとしては、特に限定されないが、例えば、純酸素ガス、及びN
2O、空気等の酸素を含むガスが挙げられ、工業的観点から空気が好ましい。また、分子状酸素濃度は、混合ガス100体積%に対して、好ましくは1〜20体積%である。
【0043】
希釈ガスとしては、特に限定されないが、例えば、窒素、二酸化炭素、水蒸気及びこれらの混合ガスが挙げられる。水蒸気は、成型触媒へのコーキングを防ぐ観点からは含まれることが好ましいが、アクリル酸、メタクリル酸、酢酸等のカルボン酸の副生を抑制するために、できるだけ混合ガス中の水蒸気濃度は低いことが好ましく、混合ガス100体積%に対して、好ましくは0〜30体積%であり、より好ましくは2〜20体積%であり、さらに好ましくは3〜10体積%である。
【0044】
分子状酸素含有ガスと希釈ガスとの混合比は、体積比で0.01<分子状酸素/(分子状酸素含有ガス+希釈ガス)<0.3の条件を満足することが好ましい。
【0045】
反応温度は、好ましくは300〜480℃であり、より好ましくは350℃〜450℃であり、さらに好ましくは400℃〜450℃である。圧力は、好ましくは常圧〜5気圧である。原料ガスを導入する空間速度は、好ましくは400〜4000/hr[Normal temperature pressure (NTP)条件下]である。
【0046】
酸素と、オレフィン及び/又はアルコールと、のモル比は、不飽和アルデヒドの収率を向上させるために反応器の出口酸素濃度を制御する観点から、好ましくは1.0〜2.0であり、より好ましくは1.1〜1.8であり、さらに好ましくは1.2〜1.8である。
【実施例】
【0047】
以下に実施例を示して、本実施形態をより詳細に説明するが、本実施形態は以下に記載の実施例によって限定されるものではない。なお、酸化物触媒における酸素原子の原子比は、他の元素の原子価条件により決定されるものであり、実施例及び比較例においては、触媒の組成を表す式中、酸素原子の原子比は省略する。また、成型触媒における各元素の組成比は、仕込みの組成比から算出した。
【0048】
〔転化率、選択率、及び収率〕
実施例及び比較例において、反応成績を示すために用いた転化率、選択率、及び収率はそれぞれ次式で定義される。
転化率=(反応した原料のモル数/供給した原料のモル数)×100
選択率=(生成した化合物のモル数/反応した原料のモル数)×100
収率=(生成した化合物のモル数/供給した原料のモル数)×100
【0049】
〔原料スラリー及び乾燥体のメジアン径(平均粒子径)〕
原料スラリー及び乾燥体のメジアン径は、レーザー回折散乱粒度分布測定装置(Beckman Coulter社製、商品名「LS230」)により粒子径分布を測定し、その体積平均(メジアン径)として求めた。
【0050】
〔粘度〕
原料スラリーの粘度は、通常のB型粘度計(東機産業株式会社製のTV−10型粘度計)を用いて測定した。
【0051】
〔高圧ホモジナイザー〕
高圧ホモジナイザーは、NIRO SOAVI社製 PANDA 2K型を用いた。
【0052】
〔嵩密度〕
仮焼成体を磁性るつぼ(B−4型 容積150mL)に100mL採取した。重量のわかっている容積25mLのメスシリンダー(内径約20mm×約84mm)を、スタンドに固定した漏斗(上部内径102mm、下部内径9.5mm×104mm)の真下に設置した。メスシリンダー上端から、漏斗の下端までは19mmとした。成型触媒がメスシリンダーを完全に満たして、外に溢れるまで成型触媒をるつぼから一定の速度で約30秒かけて漏斗に注いだ。次にメスシリンダーに振動を加えずに、メスシリンダー上部の成型触媒をステンレス製スパチュラで擦りきった。刷毛を用いてメスシリンダー外側に付着した成型触媒を除去し、その重量測定値から求めた成型触媒重量(2回の測定値の平均値)、およびメスシリンダーの容積から仮焼成体の見かけ嵩密度を算出した。
【0053】
〔圧壊強度〕
成型触媒の圧壊強度は微小圧縮試験機((株)島津製作所製、MCTM−200)で測定し、10回測定の平均値とした。
【0054】
[実施例1]
約90℃の温水201.3gにヘプタモリブデン酸アンモニウム67.1gを溶解させた(A液)。また、硝酸ビスマス46.0g、硝酸セリウム17.7g、硝酸鉄43.3g、硝酸セシウム0.55g、及び硝酸コバルト34.2gを18質量%の硝酸水溶液41.1gに溶解させ、約90℃の温水202.9gを添加した(B液)。
【0055】
A液とB液の両液を混合し、約55℃で約3時間程度撹拌混合し、500barで高圧ホモジナイザーを使用して処理し、原料スラリーを得た。この原料スラリーを噴霧乾燥器に送り、入り口温度245℃、出口温度約135℃、アトマイザー回転数11250rpmで噴霧乾燥し、噴霧乾燥体を得た。得られた噴霧乾燥体を、空気中で100℃から200℃まで2hかけて昇温した後、250℃まで1時間かけて昇温し、3時間保持して仮焼成体を得た。得られた仮焼成体を直径5mm高さ4mm、内径2mmのリング状に打錠成型し、空気中で、550℃で6時間本焼成し、成型触媒を得た。得られた成型触媒の組成はMo
12Bi
3.0Fe
3.4Ce
1.3Co
3.7Cs
0.09であった。スラリーメジアン径、スラリー粘度、噴霧乾燥体のメジアン径、仮焼成体の嵩密度、成型触媒の圧壊強度の測定結果を表1に示す。
【0056】
成型触媒の反応評価として、成型触媒4.2gを直径14mmのジャケット付SUS製反応管に充填し、反応温度430℃でイソブチレン8体積%、酸素12.8体積%、水蒸気3.0体積%及び窒素容量76.2%からなる混合ガスを120mL/min(NTP)の流量で通気し、メタクロレイン合成反応を行った。反応評価結果を表1に示す。
【0057】
[実施例2]
高圧ホモジナイザーの条件を750barに変更した以外は実施例1と同じ条件で成型触媒を得た。成型触媒の反応評価として、成型触媒4.7gを反応管に充填し、実施例1と同じ条件で、メタクロレイン合成反応を行った。反応評価結果を表1に示す。
【0058】
[実施例3]
高圧ホモジナイザーの条件を1000barに変更した以外は実施例1と同じ条件で成型触媒を得た。成型触媒の反応評価として、成型触媒4.5gを反応管に充填し、実施例1と同じ条件で、メタクロレイン合成反応を行った。反応評価結果を表1に示す。
【0059】
[実施例4]
噴霧乾燥器のアトマイザーの回転数を11800rpmにした以外は実施例3と同じ条件で成型触媒を得た。成型触媒の反応評価として、成型触媒4.9gを反応管に充填し、実施例1と同じ条件で、メタクロレイン合成反応を行った。反応評価結果を表1に示す。
【0060】
[実施例5]
噴霧乾燥体を空気中で100℃から200℃まで2hかけて昇温する代わりに、室温から250℃まで30分で昇温し、3時間保持した以外は実施例3と同じ条件で成型触媒を得た。成型触媒の反応評価として、成型触媒4.5gを反応管に充填し、実施例1と同じ条件で、メタクロレイン合成反応を行った。反応評価結果を表1に示す。
[実施例6]
高圧ホモジナイザーの条件を1100barに変更した以外は実施例3と同じ条件で成型触媒を得た。成型触媒の反応評価として、成型触媒4.5gを反応管に充填し、実施例1と同じ条件で、メタクロレイン合成反応を行った。反応評価結果を表1に示す。
【0061】
[実施例7]
高圧ホモジナイザーの条件を1250barに変更した以外は実施例3と同じ条件で成型触媒を得た。成型触媒の反応評価として、成型触媒4.5gを反応管に充填し、実施例1と同じ条件で、メタクロレイン合成反応を行った。反応評価結果を表1に示す。
【0062】
[比較例1]
高圧ホモジナイザーを使用しない以外は実施例3と同じ条件で成型触媒を得た。成型触媒の反応評価として、成型触媒4.5gを反応管に充填し、実施例1と同じ条件で、メタクロレイン合成反応を行った。反応評価結果を表1に示す。
【0063】
[比較例2]
噴霧乾燥器のアトマイザーの回転数を9500rpmにした以外は実施例3と同じ条件で成型触媒を得た。成型触媒の反応評価として、成型触媒4.9gを反応管に充填し、実施例1と同じ条件で、メタクロレイン合成反応を行った。反応評価結果を表1に示す。
【0064】
[比較例3]
噴霧乾燥器のアトマイザーの回転数を12500rpmにした以外は実施例3と同じ条件で成型触媒を得た。成型触媒の反応評価として、成型触媒4.4gを反応管に充填し、実施例1と同じ条件で、メタクロレイン合成反応を行った。反応評価結果を表1に示す。
【0065】
[比較例4]
高圧ホモジナイザーの条件を1500barに変更した以外は実施例3と同じ条件で成型触媒を得た。成型触媒の反応評価として、成型触媒4.5gを反応管に充填し、実施例1と同じ条件で、メタクロレイン合成反応を行った。反応評価結果を表1に示す。
【0066】
【表1】