特許第6204866号(P6204866)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6204866
(24)【登録日】2017年9月8日
(45)【発行日】2017年9月27日
(54)【発明の名称】ハイブリッド建設機械
(51)【国際特許分類】
   B60W 10/08 20060101AFI20170914BHJP
   E02F 9/20 20060101ALI20170914BHJP
   F02D 29/00 20060101ALI20170914BHJP
   F02D 29/04 20060101ALI20170914BHJP
   B60L 11/14 20060101ALI20170914BHJP
   B60L 15/20 20060101ALI20170914BHJP
   H02P 9/04 20060101ALI20170914BHJP
   B60W 10/06 20060101ALI20170914BHJP
   B60K 6/485 20071001ALI20170914BHJP
   B60W 10/26 20060101ALI20170914BHJP
   B60W 20/15 20160101ALI20170914BHJP
【FI】
   B60W10/08 900
   E02F9/20 ZZHV
   F02D29/00 B
   F02D29/04 H
   B60L11/14
   B60L15/20 J
   H02P9/04 J
   B60W10/06 900
   B60K6/485
   B60W10/26 900
   B60W20/15
【請求項の数】7
【全頁数】22
(21)【出願番号】特願2014-72886(P2014-72886)
(22)【出願日】2014年3月31日
(65)【公開番号】特開2015-193336(P2015-193336A)
(43)【公開日】2015年11月5日
【審査請求日】2016年6月30日
(73)【特許権者】
【識別番号】000005522
【氏名又は名称】日立建機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000442
【氏名又は名称】特許業務法人 武和国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】石原 新士
(72)【発明者】
【氏名】星野 雅俊
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 真也
(72)【発明者】
【氏名】石川 広二
【審査官】 塩澤 正和
(56)【参考文献】
【文献】 特開2004−150307(JP,A)
【文献】 特開2005−210874(JP,A)
【文献】 特開2009−92054(JP,A)
【文献】 特開2007−177783(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60K 6/20 − 6/547
B60W 10/00 − 10/30
B60W 20/00 − 20/50
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
エンジンと、前記エンジンによって駆動される油圧ポンプと、前記油圧ポンプから吐出される圧油によって駆動される油圧作業部と、前記エンジンとの間で出力の伝達を行う電動・発電機と、前記電動・発電機に電力を供給する蓄電装置と、前記エンジンを、負荷と回転数との関係が、負荷の増加に従って回転数が減少するような所定の傾きを持ったガバナ特性で制御するコントローラと、を備え、
前記コントローラは、
前記エンジンの目標出力を算出する目標エンジン出力演算部と、
前記電動・発電機の目標回転数指令を設定する目標回転数設定部と、
回転数−トルク特性線図上にて、前記目標エンジン出力演算部で算出された前記エンジンの目標出力の値をとる一定出力線と、前記電動・発電機の目標回転指令をとる一定回転数線の交点を求め、この回転数−トルク特性線図上の交点を通るように前記エンジンのガバナ特性を決定する目標ドループ演算部と、
前記目標ドループ演算部で求めたガバナ特性に従って、前記エンジンのガバナ特性を変更するガバナ特性変更部と、
前記目標回転数設定部により設定された目標回転数指令値に従って前記電動・発電機を制御する電動・発電機制御部と、を含むことを特徴とするハイブリッド建設機械。
【請求項2】
請求項1において、
前記目標エンジン出力演算部は、第1の目標エンジン出力を演算すると共に、前記第1の目標エンジン出力が所定の切替え基準以下のときには前記第1の目標エンジン出力を前記エンジンの目標出力として出力する一方、前記第1の目標エンジン出力が前記所定の切替え基準を超えたときには、前記第1の目標エンジン出力に対して目標出力の増加速度に制限を加えた第2の目標エンジン出力を演算し、前記第2の目標エンジン出力を前記エンジンの目標出力として出力することを特徴とするハイブリッド建設機械。
【請求項3】
請求項1または2において、
前記コントローラは、前記エンジンの軸上の負荷を演算する負荷演算部と、前記蓄電装置の残量を演算する蓄電残量演算部と、前記蓄電残量演算部の出力に基づいて前記蓄電装置の電力を適切な範囲に保つために必要な充電/放電要求を演算する充放電要求演算部と、さらに含み、
前記目標エンジン出力演算部は、前記充放電要求演算部による演算結果と前記負荷演算部による演算結果とに基づいて前記エンジンの目標出力を算出することを特徴とするハイブリッド建設機械。
【請求項4】
請求項2において、
前記目標エンジン出力演算部は、前記第2の目標エンジン出力を演算する際の目標出力の増加速度を前記エンジンの運転状態に応じて逐次変更することを特徴とするハイブリッド建設機械。
【請求項5】
請求項2において、
前記エンジンは、ターボチャージャ式の過給機および前記エンジンの過給圧を測定する過給圧センサを備え、
前記目標エンジン出力演算部は、前記第2の目標エンジン出力を演算する際の目標出力の増加速度を、前記過給圧センサからの出力値の増減に応じて増減することを特徴とするハイブリッド建設機械。
【請求項6】
請求項2において、
前記エンジンは、ターボチャージャ式の過給機を備え、
自然吸気状態で出力可能なエンジン出力の値を前記所定の切替え基準として設定したことを特徴とするハイブリッド建設機械。
【請求項7】
請求項2において、
前記所定の切替え基準を前記エンジンの動作回転数に応じて変化させることを特徴とするハイブリッド建設機械。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エンジンと、エンジンに機械的に連結されてエンジンの動力アシストを行う電動・発電機と、を備えたハイブリッド建設機械に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、建設機械はターボチャージャ型の過給機を備えたターボ式エンジンを搭載している。ターボ式エンジンを備えた従来の建設機械においては、油圧ポンプによる急峻な負荷変動が発生すると、エンジン回転数が一時的に落ち込むラグダウンという現象が発生していた。ラグダウンが発生すると、エンジン回転数の低下に対し、ガバナは燃料噴射量を増やすことで、実際の回転数を目標回転数に復帰させようとすることから、急激な燃料噴射による黒煙発生や燃費の悪化を招くことがある。
【0003】
上記の現象は、ターボ式エンジンにおいて、過給圧が上がるまでに時間がかかるためにエンジン出力の立ち上がりが遅れ、急増した油圧負荷がエンジン出力を上回ってしまうことで起こるものである。このような状況においては、油圧ポンプに供給すべき動力が不足するため、建設機械の動作が緩慢になり、操作者に違和感を与えるおそれがある。
【0004】
なお、ターボチャージャは、過給を開始してから十分に機能果たすまでに時間遅れが発生することが一般に知られており、この応答遅れのことをターボラグという。ターボラグの発生は、ターボチャージャの機構そのものに起因するため解消することは困難である。
【0005】
そこで、エンジン出力の不足を補うために、エンジンに加えて電動・発電機を動力源として備えたハイブリッドシステムを利用した技術が公知である。例えば、特許文献1には、「コントローラ9において、設定回転数N0の最適トルクに対応したエンジン回転数Nrを目標回転数として求め、エンジン1の負荷トルクが大きくエンジン回転数Nが目標回転数Nrよりも低いときは、偏差ΔNrに応じて電動・発電機6を電動機として作動させトルクアシストを行い、エンジン1の負荷トルクが小さくエンジン回転数Nが目標回転数Nrよりも高いときは、偏差ΔNrに応じて電動・発電機6を発電機として作動させ、発電させてバッテリ7に蓄電を行うことにより、エンジン1を最適運転状態に近づくように制御する。」という技術が開示されている(要約参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2003−28071号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1に係る従来技術(以下、単に「従来技術」と言う)において、エンジンは、負荷の増加によりエンジン回転数が減少するような所定の傾きを持ったガバナ特性(以下、この特性を適宜、「ドループ特性」という)で制御されている。そして、従来技術では、エンジンのドループ特性が固定され、エンジンの目標トルクが変化すると、エンジンの回転数がドループ特性に従って変化する構成となっている。即ち、従来技術は、エンジンのドループ特性は固定、モータの回転数指令が可変となるよう制御されている。
【0008】
そして、無負荷時における最大エンジン回転数はドループ特性で決まってしまうから、従来技術では、エンジンの最大回転数を低く抑えることが難しい。その結果、例えば、エンジンで駆動される油圧ポンプの引きずり等による損失が発生してしまうという課題がある。
【0009】
この課題について、図18図20を用いて詳しく説明する。図18は、従来技術におけるエンジンのドループ特性と目標回転数と目標エンジントルクとの関係を示す回転数−トルク特性線図である。図18(a)に示すように、従来技術では、まず、無負荷回転数Dに対応するドループ特性線を回転数−トルク特性線図上に引く。次に、目標エンジントルクAが与えられたとすると、回転数−トルク特性線図上において、目標エンジントルクAの等トルク線(横線)を引く。すると、図18(b)に示した通り2つの直線の交点が交点ADの一点で決定される。最後に、図18(c)に示したように、交点ADから回転数軸へ垂線を引くことで目標回転数NAを一意に決定することができる。
【0010】
次に、従来技術において目標エンジントルクが変化する場合のエンジンの動作について、図19を用いて説明する。図19は、目標エンジントルクが変化した場合の目標回転数の変化を示す回転数−トルク特性線図である。図19に示すように、無負荷回転数Dと目標エンジントルクA、B、Cが決定されると、それぞれのエンジントルクの目標値に対応する等トルク線と無負荷回転数Dに対応するドループ特性線Dとの交点AD、BD、CDから回転数軸へ垂線を引くことで目標回転数NA、NB、NCが一意に決定される。
【0011】
図20に、図19の目標エンジントルクA、B、Cと無負荷回転数の関係を時系列で示す。図20に示すように、従来技術では、無負荷回転数Dに対するドループ特性が定められると、エンジンの回転数は、そのドループ特性に従って変化するため、無負荷回転数Dの値は常に同じとなる。その結果、無負荷時のエンジン回転数はDより低くなることはない。そのため、従来技術では、例えば、油圧ポンプの引きずり等による損失が発生する、エンジンの騒音を低減できない、エンジン回転数が目標トルクに応じて変化するため油圧ポンプの流量制御が複雑になる、などの改善すべき課題がまだ残されている。
【0012】
本発明は、上記した課題を解決するためになされたもので、その目的は、ドループ特性でエンジンを制御する形式のハイブリッド建設機械において、無負荷時のエンジンの最大回転数を低く抑えることにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記目的を達成するため、本発明に係るハイブリッド建設機械は、エンジンと、前記エンジンによって駆動される油圧ポンプと、前記油圧ポンプから吐出される圧油によって駆動される油圧作業部と、前記エンジンとの間で出力の伝達を行う電動・発電機と、前記電動・発電機に電力を供給する蓄電装置と、前記エンジンを、負荷と回転数との関係が、負荷の増加に従って回転数が減少するような所定の傾きを持ったガバナ特性で制御するコントローラと、を備え、前記コントローラは、前記エンジンの目標出力を算出する目標エンジン出力演算部と、前記電動・発電機の目標回転数指令を設定する目標回転数設定部と、回転数−トルク特性線図上にて、前記目標エンジン出力演算部で算出された前記エンジンの目標出力の値をとる一定出力線と、前記電動・発電機の目標回転指令をとる一定回転数線の交点を求め、この回転数−トルク特性線図上の交点を通るように前記エンジンのガバナ特性を決定する目標ドループ演算部と、前記目標ドループ演算部で求めたガバナ特性に従って、前記エンジンのガバナ特性を変更するガバナ特性変更部と、前記目標回転数設定部により設定された目標回転数指令値に従って前記電動・発電機を制御する電動・発電機制御部と、を含むことを特徴としている。
【0014】
本発明は、回転数−トルク特性線図上において、エンジンの目標出力の値をとる一定出力線と、電動・発電機の目標回転指令をとる一定回転数線の交点を通るエンジンのガバナ特性(ドループ特性)に変更する構成としたので、無負荷時におけるエンジンの最大回転数を低く抑えることができる。
【0015】
より詳しく説明すると、従来技術のようにドループ特性が固定されている場合、無負荷時の最大エンジン回転数は予め決められた値を取る(図19参照)が、本発明によれば、エンジンの目標出力が小さくなれば、それに応じてドループ特性を変更することにより、エンジンの目標出力が大きい場合と比べて、無負荷時の最大エンジン回転数を低く抑えることができる(図9参照)。
【0016】
そのため、本発明によれば、油圧ポンプの引きずり等による損失を防止することができ、低燃費化を図ることができる。また、エンジンの回転数を低く抑えることができるため、エンジンの低騒音化を図ることができる。
【0017】
また、本発明では、電動・発電機は目標回転数指令値に従って回転しており、ドループ特性はエンジンの目標出力に応じて変更されるため、エンジンを任意の目標動作点(目標回転数、目標出力)で保つことが可能になる。これは、エンジンを定常状態に近い適正な運転状態で動作させることになるということを意味する。そのため、本発明によれば、エンジンは定常状態において燃焼が安定するため、省エネルギ化と、環境負荷を有する排気ガスの抑制が実現される。さらに、エンジンの目標出力が変化しても、電動・発電機は目標回転数指令値に従って回転するよう制御されているため、油圧ポンプの流量制御も簡単である。
【0018】
そして、本発明では、エンジンを任意の目標動作点に保つことができることから、エンジンの動作点を等燃費マップの最高燃費点に固定することにより、省エネルギ化の効果を更に高めることが出来る。同様に、環境負荷を有する排気ガスの抑制可能な動作点でエンジンを運転すれば、環境負荷を有する排気ガスの排出を効果的に抑制することが出来る。
【0019】
また、本発明は、上記構成において、前記目標エンジン出力演算部は、第1の目標エンジン出力を演算すると共に、前記第1の目標エンジン出力が所定の切替え基準以下のときには前記第1の目標エンジン出力を前記エンジンの目標出力として出力する一方、前記第1の目標エンジン出力が前記所定の切替え基準を超えたときには、前記第1の目標エンジン出力に対して目標出力の増加速度に制限を加えた第2の目標エンジン出力を演算し、前記第2の目標エンジン出力を前記エンジンの目標出力として出力することを特徴としている。
【0020】
本発明によれば、第1の目標エンジン出力が所定の切替え基準を超えた場合において、エンジンの目標出力を第1の目標エンジン出力から、第1の目標エンジン出力に対して目標出力の増加速度に制限を加えた第2の目標エンジン出力へと変更できるから、エンジン出力の急激な上昇を抑えることができる。これにより、エンジン出力を急激に上げるために消費される燃料を抑えることが出来る。また、エンジン出力の増加速度を抑制することは、エンジンを定常状態に近い適正な運転状態で動作させることになる。そのため、更なる省エネルギ化と、環境負荷を有する排気ガスの抑制とに貢献できる。また、エンジンを重負荷状態で使う頻度を抑えることで、エンジンのオーバーヒート防止にもつながる。
【0021】
また、本発明は、上記構成において、前記コントローラは、前記エンジンの軸上の負荷を演算する負荷演算部と、前記蓄電装置の残量を演算する蓄電残量演算部と、前記蓄電残量演算部の出力に基づいて前記蓄電装置の電力を適切な範囲に保つために必要な充電/放電要求を演算する充放電要求演算部と、さらに含み、前記目標エンジン出力演算部は、前記充放電要求演算部による演算結果と前記負荷演算部による演算結果とに基づいて前記エンジンの目標出力を算出することを特徴としている。
【0022】
本発明によれば、エンジン軸上の負荷および蓄電装置の充電/放電要求に基づいてエンジンの目標出力を演算できるから、目標エンジン出力を負荷に対して低く設定し続けることを回避できる。よって、電動・発電機による力行頻度を抑制し、蓄電装置の電力消費を抑えることができる。これは、蓄電残量不足に陥ってアシスト不能になって、エンストするような事態を回避することにつながる。また、本発明は、目標エンジン出力を負荷に対して、高く設定し続けることも回避できるので、電動・発電機による回生頻度を抑制し、蓄電装置への過充電も抑えることができる。
【0023】
また、本発明は、上記構成において、前記目標エンジン出力演算部は、前記第2の目標エンジン出力を演算する際の目標出力の増加速度を前記エンジンの運転状態に応じて逐次変更することを特徴としている。
【0024】
本発明によれば、各時刻でエンジンの状況に応じた目標エンジン出力を生成することが可能になる。よって、更なる省エネルギ化と、環境負荷を有する排気ガスの抑制とに貢献できる。
【0025】
また、本発明は、上記構成において、前記エンジンは、ターボチャージャ式の過給機および前記エンジンの過給圧を測定する過給圧センサを備え、前記目標エンジン出力演算部は、前記第2の目標エンジン出力を演算する際の目標出力の増加速度を、前記過給圧センサからの出力値の増減に応じて増減することを特徴としている。
【0026】
本発明によれば、油圧負荷が急増して、ターボラグが生じ得る状況下では、エンジン目標出力は低く演算され、電動・発電機によるトルクアシストが増大するように制御が可能である。よって、エンジンで急激な燃料噴射をしなければならない状況を回避できるため、ターボラグが発生時の空気濃度が低い条件での不完全燃焼を防止し、黒煙の発生を抑制することが出来る。
【0027】
また、本発明は、上記構成において、前記エンジンは、ターボチャージャ式の過給機を備え、自然吸気状態で出力可能なエンジン出力の値を前記所定の切替え基準として設定したことを特徴としている。
【0028】
本発明によれば、エンジン出力の立ち上がりが早い自然吸気の領域では、目標エンジンエンジンを素早く立ち上げることになる。これにより、電動・発電機のアシスト量を減らすことができ、蓄電装置からの電力消費量を抑制することが可能になる。
【0029】
また、本発明は、上記構成において、前記所定の切替え基準を前記エンジンの動作回転数に応じて変化させることを特徴としている。
【0030】
本発明によれば、目標エンジン出力演算部における所定の出力を、エンジンの動作回転数に応じて変化させるため、エンジンの最大出力線、電動・発電機の最大出力線を考慮して、目標エンジン出力を設計することが可能になる。
【発明の効果】
【0031】
本発明によれば、ドループ特性でエンジンを制御する形式のハイブリッド建設機械において、無負荷時のエンジンの最大回転数を低く抑えることができる。その結果、本発明は、例えば、油圧ポンプの引きずり等による損失を抑えることができ、低燃費化を図ることができる。なお、上記した以外の課題、構成および効果は、以下の実施形態の説明により明らかにされる。
【図面の簡単な説明】
【0032】
図1】本発明の第1実施形態に係るハイブリッドショベルの側面図である。
図2図1に示すハイブリッドショベルの油圧駆動装置を示す図である。
図3図2に示すコントローラの制御ブロック図である。
図4図3に示す負荷トルク演算部の制御ブロック図である。
図5図4に示す負荷トルク演算部の異なる構成例を示す制御ブロック図である。
図6図3に示す目標エンジントルク演算部において、各エンジン回転数の自然吸気状態におけるエンジントルクを計測したマップを利用して切替え基準トルクを設定する例を説明するための図である。
図7図3に示す目標トルク決定部の出力を時系列で示した図である。
図8】本発明の第1実施形態においてドループ特性を決定する手順を説明するための図である。
図9】目標エンジントルクが変化する場合のドループ特性の変化を示す回転数−トルク特性線図である。
図10図9の目標エンジントルクA、B、Cと各ドループ特性Aa、Ba、Caの無負荷回転数Aa、Ba、Caの関係を時系列で示した図である。
図11】一定値の目標エンジントルクAに対して、目標回転数Na、Nb、Ncが与えられた場合のドループ特性の変化を示す回転数−トルク特性線図である。
図12】本発明の第2実施形態に係るハイブリッドショベルのコントローラの制御ブロック図である。
図13図12の目標エンジントルク演算部による第2の目標エンジントルクの演算内容を説明するための図である。
図14】本発明の第2実施形態で用いられるコントローラの演算手順を示すアクティビティ図である。
図15】本発明の第2実施形態に係るコントローラが動力で制御を実施する場合の制御ブロック図である。
図16】本発明の第2実施形態において目標エンジン動力が与えられた場合のドループ特性を決定する手順を説明するための図である。
図17】(a)はドループ特性をもつエンジン単体の動作、(b)はドループ特性をもつエンジンと目標回転数指令に従って制御される電動・発電機とを組み合わせた場合のエンジンの動作をそれぞれ説明するための回転数−トルク特性線図である。
図18】従来技術におけるエンジンのドループ特性と目標回転数と目標エンジントルクとの関係を示す回転数−トルク特性線図である。
図19】従来技術において目標エンジントルクが変化した場合の目標回転数の変化を示す回転数−トルク特性線図である。
図20図19の目標エンジントルクA、B、Cと無負荷回転数の関係を時系列で示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0033】
「第1実施形態」
本発明の実施の形態を図面に基づいて説明する。図1は本発明の一実施形態であるハイブリッドショベルの全体構成を示す側面図である。図1に示すように、本発明の第1実施形態に係るハイブリッドショベル(ハイブリッド建設機械)は、走行体16−1および旋回体16−2を有する。走行体16−1は、左右の油圧モータ16−10、16−11によりハイブリッドショベルを走行させる機能を備える。なお、図示しない走行用油圧モータ16−11は車体右側に搭載されている。
【0034】
旋回体16−2は、旋回機構16−13により走行体16−1に対して回転し、旋回体16−2の前部他方の片側(たとえば前方を向いて右側)には、掘削作業を行うブーム16−3、アーム16−4、およびバケット16−5を備える。これらブーム16−3、アーム16−4、およびバケット16−5でフロント作業機が構成される。ブーム16−3、アーム16−4、およびバケット16−5は、それぞれ油圧シリンダ16−9、油圧シリンダ16−8、および油圧シリンダ16−7により駆動される。また、旋回体16−2はキャブ16−6を備え、操作者は、キャブ16−6に搭乗し、ハイブリッドショベルを操作する。
【0035】
次に、本実施形態に係るハイブリッドショベルの油圧駆動装置について説明する。図2は、本実施形態に係るハイブリッドショベルの油圧駆動装置の全体構成を示す図である。図2に示すように、本実施形態にて用いられる油圧駆動装置は、ハイブリッドショベルの油圧作業部であるフロント作業機(16−3,4,5)、旋回体16−2、および走行体16−1の駆動に用いられるものであり、エンジン1−1と、エンジン回転数を検出する回転数センサ1−6と、エンジン1−1の燃料噴射量を調整するガバナ1−7と、エンジン1−1により駆動される可変容量型油圧ポンプ(以下、単に「油圧ポンプ」という)1−3と、エンジン駆動軸上に配置された電動・発電機1−2と、蓄電装置1−20と、電動・発電機1−2を制御して必要に応じて蓄電装置1−20と電力の授受を行う電動・発電機制御部2−9(図3参照)としてのインバータ1−9と、ガバナ1−7を制御し、燃料噴射量を調整してエンジン回転数を制御するとともに、インバータ1−9を介して電動・発電機1−2を制御するコントローラ1−8とを備えている。
【0036】
エンジン1−1はターボチャージャ式の過給機1−18を備えており、過給機1−18には過給圧を計測する過給圧センサ1−19が取り付けられている。
【0037】
油圧ポンプ1−3から吐出された圧油はバルブ装置1−4を介し、油圧アクチュエータ1−5(油圧シリンダ16−7,8,9など)に供給される。この油圧アクチュエータ1−5によってハイブリッドショベルの各種の油圧作業部が駆動される。また、油圧ポンプ1−3には吐出された圧油の圧力を計測する吐出圧センサ1−16、流量を計測する流量センサ1−17、ポンプ傾転を計測する傾転角センサ1−21などの各種センサを備えており、このセンサ値をもとにコントローラ1−8でポンプ負荷の演算を実施することが可能である。この構成は本発明の「負荷演算部」に利用することが出来る。
【0038】
レギュレータ1−14および電磁比例弁1−15は、油圧ポンプ1−3の容量(押しのけ容積)を調整するためのものである。レギュレータ1−14は、油圧ポンプ1−3の斜板の傾転角を操作することにより、油圧ポンプ1−3の吸収動力を制御する。電磁比例弁1−15は、コントローラ1−8にて演算された駆動信号によってレギュレータ1−14の作動量を制御する。
【0039】
蓄電装置1−20は、バッテリやキャパシタから成る蓄電器1−10と、この蓄電器1−10に付設された電流センサ1−11、電圧センサ1−12、温度センサ1−13などから構成されており、これらセンサによって検出された電流、電圧、温度等の情報からコントローラ1−8にて、蓄電量の管理を行う。以上の構成は、本発明における「蓄電残量演算部」および「充放電要求演算部」で利用される。
【0040】
本実施形態に係るエンジン1−1は負荷トルクの増加に従って回転数が減少するような所定の傾きを持ったガバナ特性(即ち、ドループ特性)で制御され、また、本実施形態に係る電動・発電機1−2は目標回転数指令に従って制御されるものである。
【0041】
ここで、ドループ特性で制御されるエンジン1−1と、目標回転数指令に従って制御される電動・発電機1−2を組み合せることで、エンジン1−1の回転数とトルクを自在に制御できることについて説明する。
【0042】
まず、ドループ特性をもつエンジン単体での動作を図17(a)に従って説明する。図17(a)では、ドループ特性は無負荷時に回転数N0、最大動力時に回転数N1で与えられるものとしている。ドループ特性を持つエンジン1−1のトルクはこの直線上で決定されるため、負荷トルクが高くなるほど回転数が低くなる特徴がある。例えば、エンジン1−1に対する負荷が負荷トルクAの時にはエンジン回転数はNe1になり、エンジン1−1に対する負荷が負荷トルクBの時にはエンジン回転数はNe2になるように調速される。
【0043】
次に、目標回転数指令に従って制御される電動・発電機1−2を組み合せた場合のドループ特性で制御されるエンジン1−1の動作を図17(b)で説明する。電動・発電機1−2への目標回転数をN*で与えると、電動・発電機1−2と機械的に接続されたエンジン1−1は電動・発電機1−2と同じ回転数のN*で動作することになる。すると、エンジン1−1はドループ特性に従って、回転数N*に対応するトルクT*を出力する。この時、実際の負荷トルクとエンジントルクとのトルク差は電動・発電機1−2の回転数制御によって、自動的に解消されている。
【0044】
また、図17(b)の状況から油圧ポンプ1−3の負荷トルクが急峻に変動した場合でも、電動・発電機1−2はエンジン1−1よりも出力応答が速いため、負荷変動によって僅かに生じる回転数偏差を電動・発電機1−2が即座に解消するため、エンジントルクはT*に固定されたままになる。
【0045】
これによって、油圧負荷の急峻な増加が発生しても、エンジン1−1と電動・発電機1−2の合計で負荷トルクを即座に確保できるため、ラグダウンを回避することが出来る。さらに、油圧ポンプ1−3やエンジン補機などの負荷トルクを正確に知ることが出来ない場合であっても、電動・発電機1−2には目標回転数N*を指令していれば、エンジン動力をT*に固定し続けられるため、エンジン1−1のトルクをロバストに制御することできる。
【0046】
以上より、本実施形態の構成において、電動・発電機1−2の目標回転数N*を制御することで、実際のエンジントルクを任意のエンジントルクT*で動作させることが可能なことが分かる。
【0047】
次に、本実施形態に係るコントローラ1−8について説明する。図3は、コントローラ1−8の制御ブロック図である。なお、エンジン1−1、油圧系、各種電装品なども、コントローラ1−8にて何らかの制御が実施されているが、本発明とは直接の関連がないため、図3中において図示は省略している。
【0048】
コントローラ1−8は、負荷トルク演算部(負荷演算部)2−1、蓄電残量演算部2−2、充放電要求演算部2−3、目標エンジントルク演算部(目標エンジン出力演算部)2−4、目標ドループ演算部2−8、ガバナ特性変更部2−10、目標回転数設定部2−7、および電動・発電機制御部2−9、を備える。蓄電残量演算部2−2は、蓄電残量の演算結果を充放電要求演算部2−3に出力する。目標エンジントルク演算部2−4は、負荷トルク演算部2−1および充放電要求演算部2−3による演算結果を入力としてエンジン1−1の目標トルクを演算し、その演算結果を目標ドループ演算部2−8に出力する。
【0049】
目標ドループ演算部2−8は、目標エンジントルク演算部2−4からの演算結果および目標回転数設定部2−7からの目標回転数を入力としてガバナ1−7の特性変更指令(目標ドループ特性)を演算する。ガバナ特性変更部2−10は、目標ドループ演算部2−8からの演算結果を入力としてドループ特性を変更する。また、電動・発電機制御部2−9は、目標回転数設定部2−7からの目標回転数指令を入力として電動・発電機1−2の回転数を制御する。
【0050】
以下、各演算部による制御の詳細について説明する。図4は、負荷トルク演算部2−1の制御ブロック図である。図4に示すように、負荷トルク演算部2−1は、エンジン1−1と電動・発電機1−2のトルクの和から負荷トルクの算出を行う構成となっている。この構成をとると、エンジン1−1の軸トルクを計算に含めているため、補機類(例えばエアコンなど)の負荷を含めて負荷トルクを求めることが出来る。また、エンジン1−1の加減速による慣性体(主にフライホイール)からのエネルギ授受も考慮することが可能になる。これらは、油圧ポンプ1−3に設けられたセンサ群から負荷トルクを算出する場合は、計算することが難しい値である。
【0051】
エンジントルク検出部3−1はエンジン1−1にトルクメータをつけて直接的にトルクを計測しても良いし、燃料噴射量などから間接的に演算しても良い。同様に、電動発電機トルク検出部3−2もトルクメータを使っても良いが、電動・発電機1−2もしくはインバータ1−9の電流値から間接的に演算する方法をとっても良い。
【0052】
また、負荷トルク演算部2−1は図4と異なる構成を採用することも可能である。図5は、負荷トルク演算部2−1の異なる構成例を示す制御ブロック図である。図5に示す負荷トルク演算部2−1は、図4の負荷トルク算出方法に加えて、ポンプ圧力検出部4−1とポンプ容積検出部4−2を使って油圧ポンプ1−3の出力を求めることで負荷トルクの計算を行う。
【0053】
ポンプ容積検出部4−2は、傾転角センサ1−21を使って油圧ポンプ1−3の傾転角を直接検出して容積換算しても良いし、レバー操作量やポンプ指令圧などの制御指令値から油圧ポンプ1−3の傾転角を推定して、ポンプ容積を間接的に計算する構成としても良い。トルク変換4−3で算出される油圧ポンプ1−3が吐出するポンプトルクに対して、ポンプ効率4−4で除算することで油圧ポンプ1−3の吸収トルクを算出する。これによって、エンジン軸上の負荷トルクを算出することが出来る。
【0054】
図5では、油圧ポンプ1−3のセンサを基にして求まる第1の負荷トルクと、エンジン1−1と電動・発電機1−2のトルクの和から求まる第2の負荷トルクの内、大きい方を最終的な出力とする方法をとっている。この方法をとることによって、負荷を常に多めに見積もるため、トルク不足によるエンストや操作感の悪化を回避することが出来る。
【0055】
蓄電残量演算部2−2は、蓄電器1−10に付設された電流センサ1−11、電圧センサ1−12、温度センサ1−13の値を利用して蓄電装置1−20の蓄電残量を算出する。充放電要求演算部2−3は、蓄電器1−10の電力を適切な範囲に保つために電動・発電機1−2に対する力行/回生要求を演算する。具体的には、蓄電残量演算部2−2で演算された蓄電残量を、充放電要求演算部2−3が内部で演算している目標蓄電残量に追従させるように力行/回生要求を算出する。これは、例えば、蓄電残量が目標蓄電残量よりも高ければ力行要求を、一方、蓄電残量が目標蓄電残量よりも低ければ回生要求を出すことで実現できる。
【0056】
また、充放電要求演算部2−3は、エンジン1−1に機械的に接続された電動・発電機1−2以外にも電動・発電機(例えば、旋回装置用の電動・発電機)を備えたハイブリッド建設機械においては、このエンジン1−1に接続されていない電動・発電機の力行/回生動作に応じて、エンジン1−1に機械的に接続された電動・発電機1−2に対する力行/回生要求を算出する機能も有している。
【0057】
目標エンジントルク演算部2−4は、エンジン1−1に出力させたいトルクの目標値を算出する機能を果たす。図3に示す目標エンジントルク演算部2−4は、負荷トルク演算部2−1および充放電要求演算部2−3の出力に応じて、目標エンジントルクを算出する。以下、目標エンジントルク演算部2−4における演算内容を順に説明する。
【0058】
まず、目標エンジントルク演算部2−4は、負荷トルク演算部2−1で算出されたエンジン軸上の負荷に充放電要求演算部2−3で算出された電動・発電機1−2への力行/回生要求を合算することで、第1の目標エンジントルクを計算する。つまり、第1の目標エンジントルクは「目標エンジントルク=負荷トルク−電動・発電機トルク(力行を正値、回生を負値とする)」という計算式に従って算出される。
【0059】
例えば、負荷トルク演算部2−1にて負荷動力が300Nmと算出され、蓄電残量が高いために、充放電要求演算部2−3で算出された電動・発電機1−2への力行要求が100Nmであったのならば、第1の目標エンジントルクは200Nmになる。また、負荷トルクが同じでも、蓄電残量が低く、充放電要求演算部2−3で電動・発電機1−2への回生要求が100Nm(上式では−100Nmになる)と算出されたならば、第1の目標エンジン動力は400Nmになる。このように、第1の目標エンジントルクは、負荷トルクと蓄電残量に応じて決定される。
【0060】
次に、エンジントルク演算部2−6で第2の目標エンジントルクの演算が行われる。図3では、エンジントルク演算部2−6の入力として、第1の目標エンジントルクを利用する例を示している。第2の目標エンジントルクは、所定の増加速度以下で目標トルクが増加することを特徴としているので、例えば、第1の目標エンジントルクに対してレートリミッタを施した信号を第2の目標エンジントルクとして利用する方法がある。
【0061】
なお、上記のレートリミッタの増加速度(Nm/s)は一定値に限られるものでは無く、増加速度を逐次変更する可変式のレートリミッタを採用しても良い。また、同様の方法として、第1の目標エンジントルクにローパスフィルタをかけた信号を利用しても良いし、第1の目標エンジントルクの移動平均値を利用しても良い。
【0062】
目標トルク決定部2−5では、上述の方法で演算された第1の目標エンジントルクと第2の目標エンジントルクから、目標エンジントルク演算部2−4の最終的な出力値の決定を行う。ここで、第1、2の目標エンジントルクのどちらを選択するかは、第1の目標エンジントルクが所定のトルクを超えたことを切替えの判断基準とする。
【0063】
この切替え判断のための所定のトルクには、例えば「定格エンジントルクの50%とする」といったように一定値を利用しても良いし、「各回転数における最大エンジントルクの50%とする」といったようにエンジン回転数に応じて変化させても良い。また、図6に示すように、各エンジン回転数における自然吸気状態におけるエンジントルクを計測したマップ5−2を利用して切替えのための所定トルクを設定しても良い。
【0064】
この構成を採ることで、第1の目標エンジントルクが自然吸気状態におけるエンジントルクを超える、つまり、過給が必要になると判断された同時に、エンジン1−1の目標トルクの増加速度を抑制できる。よって、ターボラグが発生時にエンジン1−1が過大なトルクと発生しないように燃料噴射量を抑えられ、ひいては、環境負荷のある排気ガスの排出量を抑制することが可能になる。また、エンジン回転数に応じてエンジントルクを計測したマップ5−2を利用することにより、エンジンの目標トルクをより適した設定とすることができる。
【0065】
さらに、上記の所定のトルクを「0」とした場合は第2の目標エンジントルクが常に選択されるようになる。この制御を実施した場合は、エンジントルクはいつも徐変するため、燃焼状態が安定し、環境負荷のある排気ガスの排出量を抑制することができる。ただし、本制御を実施すると、エンジントルクが低い状態が続き、電動・発電機1−2によるトルクアシストの時間が増える。このため、所定のトルクを「0」とする構成は、蓄電器1−10の蓄電残量が十分にある場合にのみ利用するのが好ましい。
【0066】
図7は目標トルク決定部2−5の出力を時系列で示した一例である。なお、図7(a)は第2の目標エンジントルクの増加速度が一定の場合、同図(b)は第2の目標エンジントルクの増加速度が逐次変更される場合の例を示している。
【0067】
図7(a)に示すように、時刻t1から第1の目標エンジントルクが負荷トルクの増加に応じて立ち上がる。その後、時刻t2になると、第1の目標エンジントルクが切替え基準トルクに到達する。時刻t2以降は、目標トルク決定部2−5の出力は、増加速度が制限された第2の目標エンジントルクへと切り替わる。このため、目標トルク決定部2−5の出力は図7(a)中の太線のように、トルクの増加速度が途中で切りかわる波形になる。第2の目標エンジントルクは第1の目標エンジントルクの増加速度を制限して生成しているため、定常状態になる時刻t3以降は目標トルク値が一致する。
【0068】
また、図7(b)に示すように、第2の目標エンジントルクにおける目標トルクの増加速度を時間の経過に伴って逐次変更するようにしても良い。この場合、目標トルクの増加速度の変化を事前に規定したテーブルを利用しても良いし、後述するようにエンジン1−1の運転状態(動力、回転数、過給圧など)に応じて増加速度をコントローラ1−8の計算周期に合わせて更新しても良い。
【0069】
目標回転数設定部2−7は、電動・発電機1−2の目標回転数を設定するものであり、コントローラ1−8は、ここで定まった設定値を電動・発電機制御部2−9へと指令する。目標回転数の設定値はエンジンコントロールダイヤルの目盛に合わせて一定値を取り続けるものでも良いし、各時刻で設定値が変化するものであっても良い。各時刻で目標回転数を変更する場合は、たとえば、エンジン1−1の等燃費マップを参照して、目標トルク決定部2−5で求まった目標エンジントルクの等トルク線線上で最も燃費が良くなる回転数を設定値にすると更なる燃費改善が期待できる。
【0070】
次に、目標ドループ演算部2−8の動作について説明する。目標ドループ演算部2−8は目標トルク決定部2−5で求まった目標エンジントルクと、目標回転数設定部2−7から与えられる目標回転数指令値に基づいて、エンジン1−1の制御に利用されるドループ特性の決定を行う。
【0071】
目標ドループ演算部2−8の演算内容を、目標回転数Naが与えられた場合を例にとって、図8を用いて説明する。図8はドループ特性を決定する手順を説明するための図である。まず、図8(a)に示した通り、回転数−トルク特性線図上に、目標回転数Naの等回転数線(一定回転数線、縦線)を引く。次に、目標トルク決定部2−5で目標エンジントルクAが与えられたとすると、回転数−トルク特性線図上に、目標エンジントルクAの等トルク線(一定出力線、横線)を引く。すると、図8(b)に示した通り2つの直線の交点が交点Aaの一点で決定される。最後に、図8(c)に示したように、交点Aaを通るドループ特性Aaが一本決定される。
【0072】
上記の処理を実装するに当たっては、目標トルクと目標回転数の2入力をもつマップを参照する形にしても良いし、等トルク線と等回転数線の交点を通過するドループ線を代数的に計算しても良い。代数的に計算する場合は、2つの直線の交点の座標と、無負荷回転数の座標の2点を通る直線y=ax+bを計算すれば良い。
【0073】
次に、目標エンジントルクが変化する場合の目標ドループ演算部2−8の演算内容について説明する。図9は、目標エンジントルクが変化する場合のドループ特性の変化を示す回転数−トルク特性線図である。先の図8で説明した通りの処理を行えば、目標回転数Naと目標エンジントルクA、B、Cが決定されると、それぞれの目標値に対応する等トルク線と等回転数線との交点Aa、Ba、Caを通るドループ特性Aa、Ba、Caが一意に定まる。
【0074】
このように、本実施形態では、エンジン1−1の実回転数は常に目標回転数Na上にあるが、エンジントルクは目標トルクに応じて変化するため、エンジン1−1はあたかもアイソクロナス制御で動作しているように見える。
【0075】
しかし、現実にアイソクロナス制御が実施されているエンジンでは、エンジントルクは実際の負荷トルクに応じて変化するものである。よって、エンジン1−1を負荷トルクの大きさに依らず任意の目標トルクで動作させることは困難である。この点が、本実施形態に係るエンジンの動作とアイソクロナス制御がなされたエンジンの動作との大きな差異となる。
【0076】
図10に、図9の目標エンジントルクA、B、Cと各ドループ特性Aa、Ba、Caの無負荷回転数Aa、Ba、Caの関係を時系列で示した。図10では、時刻t1から目標エンジントルクCから徐々に増加し、時刻t2で目標エンジントルクAに到達し、時刻t3から目標エンジントルクが減少するパターンとなっている。なお、無負荷回転数Aaの値は、従来技術における無負荷回転数Dに相当する(図20(b)参照)。この図から、本実施形態では、無負荷時の最大エンジン回転数を、時間t1〜t2、時間t3〜t4の間、従来技術と比べて小さくすることができることが分かる。このことから、本実施形態では、油圧ポンプ1−3の引きずり等による損失を防止することができる。また、エンジンの回転数を抑えることができるため、エンジンの低騒音化を図ることができる。また、目標エンジントルクが変化しても、モータの目標回転数を一定に制御しているため、油圧ポンプ1−3の流量制御も簡単である。
【0077】
なお、図9は図を簡易化するため、目標エンジントルクをA、B、Cと離散的に表示しているが、実際にコントローラに実装するにあたっては、図10に示した通り、目標エンジントルクの変化に応じてドループ特性(図10の無負荷回転数)を連続的に変化するように制御を実施することが好ましい。
【0078】
図8、9では、目標回転数設定部2−7から与えられる目標回転数指令値が一定値Naの場合の例を示した。しかし、本発明の目標回転数は、上述の通り一定値に限られるものではないので、目標回転数が逐次変更された場合の制御例を、図11を用いて説明する。図11は、一定値の目標エンジントルクAに対して、目標回転数Na、Nb、Ncで与えられた場合のドループ特性の変化を示す回転数−トルク特性線図である。
【0079】
図11に示す通り、目標ドループ演算部2−8は、目標回転数Na、Nb、Ncと目標エンジントルクAが決定されると、それぞれの目標値に対応する等トルク線と等回転数線との交点Aa、Ab、Acを通るドループ特性Aa、Ab、Acを一意に定めることができる。よって、電動・発電機1−2の目標回転数を一定にして、エンジン1−1の目標エンジントルクを可変にした図9と、電動・発電機1−2の目標回転数を可変にして、エンジン1−1の目標エンジントルクを一定にした図11とを組み合せると、回転数−トルク特性線図上でエンジン1−1の動作点(回転数とトルクの組)を任意の場所に制御することが可能になる。
【0080】
エンジン1−1の動作点は燃費や、環境負荷を有する排出ガスの排出特性に大きな影響があるため、本実施形態にようにエンジン1−1の動作点を制御することで、更なる燃費向上や、排ガス抑制が実現できるようになる。
【0081】
「第2実施形態」
次に、本発明の第2実施形態に係るハイブリッドショベルについて図12を用いて説明する。なお、第2実施形態は第1実施形態とコントローラ1−8の内部構成の一部が異なる以外は互いに同じ構成である。よって、以下において、第1実施形態と共通する構成についての説明は省略する。
【0082】
図12は、本発明の第2実施形態に係るハイブリッドショベルのコントローラの制御ブロック図である。図12に示すように、第2実施形態では、過給圧検出部11−1の構成が追加されている。この過給圧検出部11−1は、過給圧センサ1−19(図2参照)から送られてくる過給圧の測定データをエンジントルク演算部2−6に出力する機能を有する。エンジントルク演算部2−6は、過給圧検出部11−1の出力に応じて第2の目標エンジントルクを演算する。この演算内容の概要を図13に示す。
【0083】
図13(a)は過給圧の立ち上がり方を示している。まず、時刻t1から自然吸気の吸気圧に一致する時刻t2まで、過給圧は素早く立ち上がる。時刻t2より過給機1−18が動作を始め、時刻t3まで過給圧は徐々に増加する。この時刻t2−t3間の過給圧の立ち上がりの応答遅れがターボラグである。時刻t3以降は、過給圧が定常状態に落ち着く。
【0084】
以上の過給圧の応答に基づいて、エンジントルク演算部2−6は、過給圧の応答波形に沿うように第2の目標エジントルクを図13(b)のように算出する。図13(b)に示す第2の目標エンジントルクは、第1の目標エンジントルクに対して増加速度を過給圧に応じて逐次変更したレートリミッタを通して計算することもできるし、過給圧と目標エンジントルクの対応を記録したテーブルを参照することでも計算可能である。
【0085】
このように第2の目標エンジントルクを計算した上で、目標トルク決定部2−5における第1の目標エンジントルクと第2の目標トルクの切り替えの基準トルクを自然吸気状態におけるエンジントルク(図13(b)のN/Aトルク)とすれば、ターボラグが起きている最中にエンジン1−1が出し得るトルク以上の目標値を取らなくなる。この制御を実施することによって、エンジン1−1の過大な燃料噴射を抑制できるため、更なる省エネルギ化を実現できる。
【0086】
なお、ターボラグが発生している状況で燃料を過剰に噴射すると、空気量が不足しているために不完全燃焼を起こし黒煙が発生することが知られているが、第2実施形態によれば、ターボラグが発生している間の目標エンジントルクを過給圧に応じた第2のエンジン目標トルクに設定しているため、過剰な燃料噴射が抑制されるため、黒煙の発生も抑制可能になる。また、この基準トルクをエンジン1−1の動作回転数に応じて変化させるようにすることもできる。この場合、より一層過剰な燃料噴射や黒煙の発生が抑制される。
【0087】
次に、第2実施形態に係るコントローラ1−8の演算手順の詳細について、図14を用いて説明する。図14は、コントローラ1−8の演算手順を示すアクティビティ図である。図14に示すように、コントローラ1−8は、まず、負荷トルク演算13−1、蓄電残量演算13−2、充放電要求演算13−3、過給圧検出13−4の各処理を行う。ここで、負荷トルク演算部2−1の演算内容が負荷トルク演算13−1に該当し、蓄電残量演算部2−2と充放電要求演算部2−3の演算内容がそれぞれ蓄電残量演算13−2、充放電要求演算13−3に該当し、過給圧検出部11−1による過給圧センサ1−19からのセンサデータの検出が過給圧検出13−4に該当する。
【0088】
以上の演算結果に基づいて、コントローラ1−8は、目標エンジントルク演算部2−4を利用して、エンジン1−1の目標トルクを算出する。これが図14中の目標エンジントルク演算に該当する。この演算では、第1の目標エンジントルク演算13−5と第2の目標エンジントルク演算13−6とが並行して行われた後に、目標トルク決定13−7で最終的な目標エンジントルクが決定される。
【0089】
続いて、上記の演算結果に基づいて、目標ドループ演算13−8にてエンジン1−1に指令するドループ特性が演算される。この演算には、前述の目標ドループ演算部2−8が利用されている。そして、目標ドループ演算13−8の演算結果に従って、ガバナ特性変更13−9にてエンジン1−1の制御内容の変更が実施される。
【0090】
また、電動・発電機1−2に関する処理として、目標回転数設定部2−7で設定された目標回転数指令を電動・発電機制御部2−9に出力する処理が行われる。この処理は、図14中の目標回転数設定13−10、電動・発電機制御13−11である。以上の演算がコントローラ1−8の演算周期ごと(例えば10ミリ秒ごと)に実行される。
【0091】
なお、図14において過給圧検出13−4を削除すると、第1実施形態に係るコントローラ1−8の演出手順を示すアクティビティ図となることは言うまでもない。
【0092】
ここまでは、エンジン1−1の目標出力として「目標トルク」を用いた実施形態の例を説明したが、本発明は目標トルクの替わりに「目標動力(トルクと回転数の積)」を用いて実施しても良い。この場合、電力の単位はW(ワット)で決まるため、トルク(Nm)で制御量を決定するよりも、動力(W)で制御を実施した方が、蓄電装置への充放電量の管理が容易であるというメリットがある。
【0093】
動力で制御を実施する場合のコントローラ1−8の一例を図15に示す。図15は、トルクで制御を行う図12の構成において、トルクを動力に変換したものである。この変換は「動力=トルク×回転数」の関係で容易に変更が出来る。そして、目標動力決定部14−4で目標エンジン動力が決定された後の目標ドループ演算部2−8における演算内容が図8から図16のように変更される。
【0094】
目標回転数がNaで与えられた時の、演算内容を図16に従って説明する。まず、図16(a)に示した通り、回転数−トルク特性線図上において、目標回転数Naの等回転数線(縦線)を引く。次に、目標動力決定部14−4で目標エンジン動力がAと決まったとすると、回転数−トルク特性線図上において、目標エンジン動力Aの等動力線(曲線)を引く。すると、図16(b)に示した通り2つの直線の交点がAaの一点で決定される。最後に、図16(c)に示したように、交点Aaを通るドループ特性Aaが一本決定される。以降の演算はトルクの単位を使った場合と同様である。
【0095】
以上説明したように、上記の各実施形態によれば、発電・電動機1−2の目標回転数とエンジン1−1の目標トルクが与えられると、回転数−トルク特性線図上において、エンジン1−1の目標トルクの値をとる等トルク線(一定出力線)と、電動・発電機1−2の目標回転指令をとる等回転数線(一定回転数線)の交点を通るドループ特性を決定し、その決定に係るドループ特性でエンジン1−1を制御することができるから、エンジンの目標トルクの値に応じた無負荷時の最大エンジン回転数とすることができる。即ち、エンジンの目標トルクが小さいにもかかわらず、無負荷時の最大エンジン回転数を大きい状態となることを防止できる。これにより、油圧ポンプ1−3の引きずり等による損失を防止できる。さらに、各実施形態によれば、上記したように、エンジンの低騒音化、省エネ化、低燃費化、排気ガスの抑制など、様々な優れた効果を発揮する。
【0096】
なお、上述の実施形態は、本発明を実施するために好適なものであるが、その実施形式はこれらに限定されるものでなく、本発明の要旨を変更しない範囲内において種々変形することが可能である。例えば、本発明に係るハイブリッド建設機械を、ホイールローダなどの油圧ショベル以外の建設機械に対して適用しても良い。
【符号の説明】
【0097】
1−1 エンジン
1−2 電動・発電機
1−3 油圧ポンプ
1−8 コントローラ
1−18 過給機
1−19 過給圧センサ
1−20 蓄電装置
2−1 負荷トルク演算部(負荷演算部)
2−2 蓄電残量演算部
2−3 充放電要求演算部
2−4 目標エンジントルク演算部(目標エンジン出力演算部)
2−7 目標回転数設定部
2−8 目標ドループ演算部
2−9 電動・発電機制御部
2−10 ガバナ特性変更部
16−3 ブーム(油圧作業部)
16−4 アーム(油圧作業部)
16−5 バケット(油圧作業部)
Aa、Ab,Ac,Ba,Ca 交点
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18
図19
図20